説明

発現ベクターおよびその方法

本発明は、組換え可溶性タンパク質の発現のためのベクターおよび化合物に関する。特に、本発明は、組換え可溶性腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−ヒトIgG Fc融合タンパク質の発現のための核酸分子、発現ベクター、および宿主細胞に関する。本発明はさらに、この発現ベクターでトランスフェクトされた宿主細胞を用いて組換え可溶性腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−ヒトIgG Fc融合タンパク質を調製するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え可溶性タンパク質の発現のためのベクターおよび化合物に関する。特に、本発明は、組換え可溶性腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−ヒトIgG Fc融合タンパク質の発現のための核酸分子、発現ベクター、および宿主細胞に関する。本発明はさらに、この発現ベクターでトランスフェクトされた宿主細胞を用いて組換え可溶性腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−ヒトIgG Fc融合タンパク質を調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1986年、米国FDAは、哺乳動物細胞由来のヒト組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA;Genentech,CA,USA)タンパク質を治療目的で使用することを承認した。細胞培養と組換えDNA技術の進歩により、遺伝子改変細胞を用いて治療的価値または他の経済的価値のある種々の同様のタンパク質を発現させることが容易になった。現在、規制当局による治療使用の承認が得られたモノクローナル抗体が数個あり、様々な開発および承認段階にあるものが数百個ある。tPAと同様、これらのタンパク質の大半は、不死化チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞で発現されるが、マウス骨髄腫(NS0)、ベビーハムスター腎臓(BHK)、ヒト胎児腎臓(HEK−293)などの、他の細胞株も組換えタンパク質産生が承認されている。
【0003】
高等真核生物供給源から得られる、多くの生物活性治療薬の発現には、下等な真核生物細胞または原核生物細胞では天然に生じない翻訳後修飾が必要とされることが多く、そのため、高等真核生物供給源から得られる細胞を使用することが余儀なくされる。したがって、必要とされる翻訳後修飾が細胞株で同様にうまく行なわれるので、通常、哺乳動物発現系が、大半の治療的タンパク質の製造に好ましい。現在、種々の哺乳動物細胞発現系が、タンパク質の発現に利用可能である。通常、発現ベクターでは、組換え遺伝子の発現を促進するための強力なウイルスまたは細胞プロモーター/エンハンサーが使用される。しかしながら、哺乳動物細胞でこれらの発現ベクター/発現系から得られる組換えタンパク質の発現レベルは、商業的に実現可能なものでない。治療薬の生産中の、対処される必要がある重要な問題が2つあり、それは、(a)この物質を提供するのにかかる時間と、(b)特に、発展途上国または開発途上国の大衆が利用できるように、この物質の価格を下げることである。それゆえ、バイオテクノロジー産業は、スケジュールとコストを減らす新しい技術やプロセス開発戦略を検討し続けている。
【0004】
TNFR:Fc融合タンパク質としても知られる、ENBREL(エタネルセプト)は、ヒト腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリー、メンバー1B(p75)の細胞外ドメインとヒトIgG1のFcドメインとを含む組換え融合タンパク質である。ENBRELは、関節リウマチ治療のための重大な科学的進歩であり、これは、多くの患者において、関節リウマチ、多関節型若年性関節リウマチ、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、および乾癬の兆候や症状を低下させることが示されているほどである。腫瘍壊死因子(TNF)は、正常な炎症応答や免疫応答に関与する天然のサイトカインである。TNFは、関節リウマチ(RA)、多関節型若年性関節リウマチ(JRA)、および結果として生じる関節病変の炎症過程において重要な役割を果たす。TNFレベルの上昇は、RA患者の滑液で見られる。
【0005】
組換え遺伝子の遺伝的安定性が低いことおよび/または組換え遺伝子がサイレンシングされることが理由で、哺乳動物細胞内でのTNFR:Fcなどの組換えタンパク質の産生は難しいことがある。遺伝子サイレンシングを引き起こし得るいくつかの分子メカニズムが報告されており、それには、ほんの一例を挙げれば、DNAメチル化、負の位置効果、組込み依存的な抑制などが含まれる。
【0006】
したがって、当該技術分野には、組換え融合タンパク質の大規模産生時の遺伝的安定性がより高い発現系を提供することによって、このようなタンパク質の既知の産生方法の欠陥を克服する必要性がある。細胞培養物からの大量のTNFR:Fcの産生を容易にするために、新規の発現ベクターを開発した。この発現ベクターを使用することにより、治療的タンパク質の発現が増加することが示された。TNFR:Fcのクローニング、発現、および精製を本出願で記載する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、付随する特許請求の範囲に記述された特徴および/または単独でもしくは任意の組合せで特許性のある主題を含み得る以下の特徴の1つ以上を含む。
【0008】
本発明は、哺乳動物細胞や他の真核生物細胞での組換えタンパク質の発現収量を増加させ、安定化するために使用し得る、新規のスキャフォールド/マトリックス結合領域(S/MAR)配列の発見に基づくものである。S/MAR配列は、すぐ近くの転写カセットの遺伝的安定性を増加させ、DNAメチル化などのメカニズムを妨害することによって遺伝子サイレンシングを阻害する。さらに、S/MAR配列の存在は、位置効果を減少させることによってクローン間の変動を減少させると考えられる。
【0009】
したがって、一実施形態では、本発明は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、および配列番号6、それらの変異体および機能断片、ならびにそれらと少なくとも70%相同な配列、または単離された核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からなる群から選択される1つ以上のヌクレオチド配列を有する単離された核酸に関する。
【0010】
別の実施形態では、本発明は、スキャフォールド/マトリックス結合領域(S/MAR)配列およびその任意の組合せを運ぶ発現ベクターに関する。S/MAR配列は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、および配列番号6、それらの相補体、変異体、および機能断片、ならびにBLAST(基本局所アラインメント検索ツール)アルゴリズムのようなマッチング法を用いるペアワイズDNA配列アラインメントによって決定されるようなそれらと少なくとも70%相同な配列からなる群から選択されてもよい。
【0011】
別の実施形態では、本発明は、スキャフォールド/マトリックス結合領域(S/MAR)配列またはその任意の組合せと、1つ以上の発現制御エレメントに機能的に連結された腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−IgG Fc融合タンパク質をコードする配列とを運ぶ発現ベクターに関する。
【0012】
S/MAR配列は、発現ベクター内の転写プロモーターの上流または下流にあってもよい。さらに、S/MAR配列は、腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−ヒトIgG Fc融合タンパク質をコードする配列から0〜10kb離れたところにあってもよい。
【0013】
さらなる実施形態では、本発明は、スキャフォールド/マトリックス結合領域(S/MAR)配列またはその任意の組合せを運ぶ発現ベクターの構築方法に関する。
【0014】
別の実施形態では、本発明は、スキャフォールド/マトリックス結合領域(S/MAR)配列またはその任意の組合せを運ぶ発現ベクターを含む宿主細胞に関する。
【0015】
さらに別の実施形態では、本発明は、スキャフォールド/マトリックス結合領域(S/MAR)配列またはその任意の組合せを運ぶ発現ベクターを用いて組換え発現によって腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−IgG Fc融合タンパク質を産生するための方法に関する。
【0016】
またさらなる実施形態では、本発明は、スキャフォールド/マトリックス結合領域(S/MAR)配列またはその任意の組合せを運ぶ発現ベクターによって発現される腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−IgG Fc融合タンパク質に関する。
【0017】
さらに別の実施形態では、本発明は、腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−IgG Fc融合タンパク質をコードする遺伝子を運ぶ発現構築物で哺乳動物細胞をトランスフェクトし、スキャフォールド/マトリックス結合領域(S/MAR)配列またはその任意の組合せを運ぶプラスミドを用いて同じ哺乳動物細胞をコトランスフェクトすることによって、腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−IgG Fc融合タンパク質を産生するための方法に関する。
【0018】
またさらなる実施形態では、本発明は、スキャフォールド/マトリックス結合領域(S/MAR)配列の生物学的活性に影響を与えるエピジェネティック因子および遺伝的因子に関する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明を、以下の図面を参照してさらに説明する。
【図1】プラスミドベクターpCDNA3.1/TNFR:Fcの構築物を示す。
【図2】プラスミドベクターpCDNA3.1/MAR1/TNFR:Fcの構築物を示す。
【図3】プラスミドベクターpCDNA3.1/MAR2/TNFR:Fcの構築物を示す。
【図4】プラスミドベクターpCDNA3.1/MAR3/TNFR:Fcの構築物を示す。
【図5】プラスミドベクターpCDNA3.1/MAR4/TNFR:Fcの構築物を示す。
【図6】プラスミドベクターpCDNA3.1/MAR5/TNFR:Fcの構築物を示す。
【図7】プラスミドベクターpCDNA3.1/MAR6/TNFR:Fcの構築物を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で使用される「スキャフォールド/マトリックス結合領域(S/MAR)」という用語は、細胞核のタンパク質スキャフォールドまたはマトリックスへの周期的な結合によって、真核生物ゲノムの核DNAを約60,000個のクロマチンドメインに編成する、長さ数百塩基対(bp)の非コンセンサス様ATリッチDNAエレメントを指す。それらは、通常、フランキング領域、クロマチン境界領域、およびイントロンなどの非コード領域に見出される。
【0021】
「少なくとも70%の相同性」により、ヌクレオチド配列が、BLAST(基本局所アラインメント検索ツール)アルゴリズムのようなマッチング法を用いるペアワイズDNA配列アラインメントによって測定された規定の配列と少なくとも70%相同であるDNAを意味する。
【0022】
本明細書で使用される「配列番号1、2、3、4、5、および6の機能断片」という用語は、発現収量に対する望ましい効果を有するほど大きなサイズの前記配列の断片を意味する。
【0023】
本明細書で使用される「フランキング」という用語は、問題になっている配列が、発現ベクターに直接的に接続されているか、またはそのような連結配列がこれらの配列の望ましい効果を妨害しない限り、長さが最大10kbもしくはそれより長いものであり得る連結DNA配列によって接続されているかのいずれかであることを意味する。発現ベクターは、最低でも、目的の遺伝子とそれに機能的に連結された発現制御エレメントとを含む。
【0024】
発現制御エレメントは、転写プロモーター、転写エンハンサー、転写リプレッサー、RNAポリメラーゼ結合部位、ポリアデニル化部位、翻訳開始シグナル、および翻訳終結シグナルなどの通常の調節エレメントを含み、これは、当業者によって容易に達成され得る。
【0025】
「相補体」という用語は、参照ヌクレオチド配列と比較したときに、相補的ヌクレオチド配列と逆方向性とを有する核酸配列を指す。例えば、配列5’ATGCACGGG 3’は、5’CCCGTGCAT 3’に相補的である。
【0026】
本明細書で使用するとき、「変異体」という用語は、1つ以上のヌクレオチドまたはアミノ酸残基が欠失しているか、置換されているか、または付加されている、特異的に同定された配列とは異なるポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列を指す。変異体は、天然に生じるアレル変異体であっても、天然には生じない変異体であってもよい。変異体は、同じ種に由来するものであっても、他の種に由来するものであってもよく、ホモログ、パラログ、およびオルソログを包含してもよい。特定の実施形態では、変異体は、問題になっている配列の生物活性と同等または同様の生物活性を有する。
【0027】
変異体ポリヌクレオチド配列は、好ましくは、本発明の配列との少なくとも50%、より好ましくは少なくとも51%、より好ましくは少なくとも52%、より好ましくは少なくとも53%、より好ましくは少なくとも54%、より好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも56%、より好ましくは少なくとも57%、より好ましくは少なくとも58%、より好ましくは少なくとも59%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも61%、より好ましくは少なくとも62%、より好ましくは少なくとも63%、より好ましくは少なくとも64%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも66%、より好ましくは少なくとも67%、より好ましくは少なくとも68%、より好ましくは少なくとも69%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも71%、より好ましくは少なくとも72%、より好ましくは少なくとも73%、より好ましくは少なくとも74%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも76%、より好ましくは少なくとも77%、より好ましくは少なくとも78%、より好ましくは少なくとも79%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも81%、より好ましくは少なくとも82%、より好ましくは少なくとも83%、より好ましくは少なくとも84%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも86%、より好ましくは少なくとも87%、より好ましくは少なくとも88%、より好ましくは少なくとも89%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも93%、より好ましくは少なくとも94%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、および最も好ましくは少なくとも99%の同一性を示す。
【0028】
本明細書で使用される「配列モチーフ」という用語は、より大きいオリゴヌクレオチド配列中に含まれる少なくとも2ヌクレオチドの特定のヌクレオチド配列を指す。配列モチーフは、オリゴヌクレオチド配列中に1回現れ得るか、またはそれは何回も現れ得る。例えば、オリゴヌクレオチド5’−AUCAUCAUG−3’は、3回現れる5’−AU−3’という配列モチーフと、2回現れる5’−UC−3’および5’−CA−3’という配列モチーフと、1回現れる5’−UG−3’という配列モチーフとを含む。
【0029】
本明細書で使用される「エピジェネティック因子」という用語は、操作上、1つの遺伝子または1組の遺伝子の発現に影響を及ぼす任意の外部過程または外部因子を指し、タンパク質、核酸などのような内部因子を含む任意の内部過程または内部因子を指す「遺伝的因子」とは対照的なものを表す。
【0030】
本明細書で使用するとき、「TNFR:Fc受容体タンパク質」または「TNFR:Fc」という用語は、ヒトTNFRII(p75)タンパク質の細胞外ドメインに類似したアミノ酸配列を有するタンパク質であって、そのネイティブなリガンドであるTNF−アルファに結合することができ、それによりTNF−アルファが細胞膜結合型のTNFRIまたはTNFRIIに結合するのを阻害するタンパク質を指す。存在することが知られているTNFRの2つの異なる形態のうち、本発明の好ましいTNFRは、TNFRII(p75)である。可溶性TNFR構築物は、細胞外への分泌を容易にするために、膜貫通領域を欠いている。細胞外ドメインであるTNFRIIの可溶性部分は、ヒトIgG1のFc領域にインフレームで融合されている。本発明の融合タンパク質は生物活性がある、すなわち、それは溶液中でTNFに結合することができる。
【0031】
本明細書で使用される「生体分子」という用語は、生体環境と関連した物質、化合物、または成分を指し、それには、糖、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、有機分子、ハプテン、エピトープ、生体細胞、生体細胞の一部、ビタミン、ホルモンなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0032】
「発現系」という用語は、ポリヌクレオチドによってコードされる1つ以上のタンパク質を産生するために使用される任意のインビボまたはインビトロ生体系を指す。
【0033】
本明細書で使用される「組換え」という用語は、タンパク質が組換え発現系に由来することを意味し、この組換え発現系は、本明細書では、哺乳動物細胞に基づく発現系である。
【0034】
本明細書で使用される「単離されたDNA配列」という用語は、独立した断片の形態のまたはより大きいDNA構築物の一部としてのDNAポリマーを指す。このような配列であれば、発現ベクターにクローニングし、DNA断片の同定、操作、および回収のために、この配列を大量に単離することができるであろう。このような配列は、非翻訳DNA領域によるまたはイントロンによる中断が全くないオープンリーディングフレームで提供される。
【0035】
本明細書で使用するとき、「ヌクレオチド配列」という用語は、デオキシリボヌクレオチドのヘテロポリマーを指す。本発明により提供されるタンパク質をコードするDNA配列を、cDNA断片と短いオリゴヌクレオチドリンカーとから、または一連のオリゴヌクレオチドから組み合わせて、組換え転写単位で発現させることが可能な合成遺伝子を提供することができる。
【0036】
「染色体」とは、細胞の内部に見出されるDNAとタンパク質の組織化された構造物のことである。
【0037】
「クロマチン」とは、真核生物細胞の核の内部に見出されるDNAとタンパク質の複合体のことであり、これによって染色体が構成されている。
【0038】
「DNA」または「デオキシリボ核酸」は遺伝情報を含む。それは、様々なヌクレオチドA、G、T、またはCで構成されている。
【0039】
本明細書で使用される「遺伝子」は、所与の成熟タンパク質をコードするデオキシリボヌクレオチド(DNA)配列を指す。それは、RNA転写開始シグナル、ポリアデニル化付加部位、プロモーター、またはエンハンサーなどの、非翻訳フランキング領域を含まない。
【0040】
本明細書で使用するとき、「転写プロモーター」という用語は、コード配列または機能性RNAの発現を制御する核酸配列を指す。プロモーターは、ネイティブな遺伝子に由来していてもよく、または天然に見出される様々なプロモーターに由来する様々なエレメントから構成されていてもよい。プロモーターは、宿主細胞内で転写活性を示す任意の核酸配列であってもよく、宿主細胞にとって同種または異種のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子に由来していてもよい。好適なプロモーターの例は、SV40プロモーター、MT−1(メタロチオネイン遺伝子)プロモーター、ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーターなどである。
【0041】
「転写エンハンサー」は、遺伝子の位置または方向性とは無関係に、遺伝子の転写を開始するよう働く遺伝子の配列を指す。
【0042】
「転写リプレッサー」は、遺伝子の位置または方向性とは無関係に、遺伝子の転写を阻害するよう働く遺伝子の配列を指す。
【0043】
「シグナルペプチド」という用語は、分泌される成熟タンパク質の前にあるアミノ末端ポリペプチドを指す。シグナルペプチドは切断されるので、成熟タンパク質中には存在しない。
【0044】
本明細書で使用するとき、「タンパク質」という用語は、あるアミノ酸(またはアミノ酸残基)のα−炭素に結合しているカルボン酸基のカルボキシル炭素原子が、隣接するアミノ酸のα−炭素に結合しているアミノ基のアミノ窒素原子と共有結合するようになるときに生じるような、ペプチド結合を介して連結された2つ以上の個々のアミノ酸の任意のポリマー(天然に存在するかどうかを問わない)を指す。これらのペプチド結合連結、ならびにそれらを構成する原子(すなわち、α−炭素原子とカルボキシル炭素原子(およびその置換酸素原子)とアミノ窒素原子(およびその置換水素原子))は、タンパク質の「ポリペプチド骨格」を形成する。さらに、本明細書で使用するとき、「タンパク質」という用語は、「ポリペプチド」および「ペプチド」という用語(これらは、時に、本明細書で互換的に使用され得る)を含むことが理解される。
【0045】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、それに連結された別の核酸を運ぶことができる核酸分子を指す。ベクターは、通常、プラスミドから得られるが、これは、DNA断片を宿主細胞内に運搬する「分子キャリア」のように機能する。
【0046】
ベクターは、組換えDNA手順に好都合に供し得る任意のベクターであってもよく、ベクターの選択は、それが導入されることになる宿主細胞によって決まることが多い。したがって、ベクターは、自律複製ベクター、すなわち、その複製が染色体の複製から独立している、染色体外実体として存在するベクター、例えば、プラスミドであってもよい。あるいは、ベクターは、宿主細胞内に導入されたときに、宿主細胞ゲノムに組み込まれ、それが組み込まれた染色体と一緒に複製されるものであってもよい。ベクターは、好ましくは、コードDNA配列がDNAの転写に必要とされる追加の部分に機能的に連結されている発現ベクターである。一般に、発現ベクターは、プラスミドもしくはウイルスDNAから得られるか、またはその両方のエレメントを含み得る。「機能的に連結される」という用語は、これらの部分が、その意図された目的のために、例えば、転写がプロモーターの中で開始され、ポリペプチドをコードするDNA配列の中を進むために、協調して働くように配置されていることを示す。
【0047】
本明細書で使用される「プラスミド」という用語は、細菌やいくつかの他の生物に見出されるDNAの小環状二本鎖ポリヌクレオチド構造物を指す。プラスミドは、宿主細胞染色体とは無関係に複製することができる。
【0048】
「複製」という用語は、その鋳型DNA鎖からのDNAの合成を指す。
【0049】
「転写」という用語は、DNA鋳型からのRNAの合成を指す。
【0050】
「翻訳」という用語は、メッセンジャーRNAからのポリペプチドの合成を指す。
【0051】
「シス」という用語は、連結された2つ以上のDNAエレメントの同じプラスミド上での配置を指す。
【0052】
「トランス」という用語は、2つ以上のエレメントの2つ以上の異なるプラスミド上での配置を指す。
【0053】
「方向性」という用語は、DNA配列中のヌクレオチドの順序を指す。
【0054】
本明細書で使用するとき、「単離された核酸断片」という用語は、一本鎖または二本鎖であるDNAまたはRNAのポリマーを指す。DNAのポリマーの形態の単離された核酸断片は、cDNA、ゲノムDNA、または合成DNAの1つ以上の部分から構成されていてもよい。
【0055】
本明細書で使用される「遺伝子増幅」という用語は、他の遺伝子のコピー数を比例的に増加させることなく、特定の遺伝子(単数または複数)を選択的に、繰り返し複製することを指す。遺伝子増幅は、多くの生物における広く普及した重要な発生および進化上の過程である。遺伝子増幅は、(i)ツメガエル(Xenopus)の卵母細胞で見られるような発生的に調節された遺伝子発現と(ii)大腸菌(Escherichia coli)で報告されたlac領域の増幅のような自然に起こる遺伝子発現の2つのカテゴリーに分類することができる。哺乳動物細胞で最もよく知られている遺伝子増幅は、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)である。
【0056】
「形質転換」という用語は、遺伝的に安定な遺伝形質をもたらす、宿主生物のゲノム中への核酸断片の転移を指す。形質転換された核酸断片を含む宿主生物は、「形質転換された」生物と呼ばれる。
【0057】
「真核生物細胞」という用語は、その細胞が内膜や細胞骨格によって複雑な構造に編成されている真核生物に由来する任意の細胞を指す。遺伝子/タンパク質操作に使用することができ、かつ細胞培養条件下で維持し、後でトランスフェクトすることもできる任意の真核生物細胞であれば、本発明に含まれる。特に好ましい細胞型には、幹細胞、胚性幹細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、COS、BHK21、NIH3T3、HeLa、C2C12、HEK、MDCK、癌細胞、および初代分化細胞または初代未分化細胞が含まれる。哺乳動物細胞には、CHO細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、COS細胞、HEK293細胞、または他の不死化細胞株が含まれ得る。
【0058】
本明細書で使用するとき、「トランスフェクション」という用語は、任意の転移手段によるDNAのような外来物質の真核生物細胞への導入を指す。様々なトランスフェクション方法には、リン酸カルシウムトランスフェクション、エレクトロポレーション、リポフェクトアミントランスフェクション、およびDEAE−デキストラントランスフェクションが含まれるが、これらに限定されない。
【0059】
「トランスフェクトされた細胞」という用語は、外来DNAが真核生物細胞に導入された真核生物細胞を指す。このDNAは、宿主染色体の一部であることができるし、または染色体外エレメントとして複製することができる。
【0060】
「コトランスフェクション」という用語は、真核生物細胞を、細胞にとって異種となる2つ以上の外因性遺伝子で同時にトランスフェクトする方法を指す。
【0061】
「一過性遺伝子発現」という用語は、少量のタンパク質の迅速な産生のための好都合な方法を指す。COS細胞は、通常、一過性発現の特徴解析に使用される。
【0062】
「安定な遺伝子発現」という用語は、宿主染色体中へのプラスミドの安定な組込みによって目的の遺伝子を恒久的に発現する安定細胞株の調製を指す。
【0063】
腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−ヒトIgG Fc融合タンパク質活性をコードするDNAを含み、かつ適当な細胞株にトランスフェクトされたときに、TNFR:Fc活性の発現を促進する、新規の真核生物発現ベクターが構築されている。この新規の発現ベクターを用いて、可溶性TNFR:Fcを産生することができる。組換えにより産生されるTNFR:Fc活性は、関節リウマチ、多関節型若年性関節リウマチ、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、および乾癬をはじめとする、様々な障害の治療や予防に有用である。
【0064】
本発明は、増加した量で可溶性TNFR:Fcを産生するために使用される新規の真核生物発現ベクターに関する。
【0065】
原核生物発現系は、分子生物学における研究ツールの初期のレパートリーの一部であった。原核生物系における組換え真核生物タンパク質のデノボ合成は、真核生物遺伝子産物にいくつかの問題を引き起こした。それらの中で最も重要な2つは、不適切なタンパク質フォールディングおよびアセンブリと、翻訳後修飾、主に、グリコシル化およびリン酸化の欠如であった。原核生物系は、真核生物の構造タンパク質および/または触媒機能タンパク質を産生するための適切なタンパク質合成メカニズムを全て有しているわけではない。それゆえ、必要とされる翻訳後修飾がその細胞系によってその場で対処されるという単純な理由で、通常、哺乳動物発現系が治療的タンパク質の製造に好ましい。現在、種々の哺乳動物発現系が、組換え遺伝子の一過性発現または安定発現のいずれかに利用可能である。通常、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞安定発現系(CHO SES)が使用される。さらに、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、ヒト胎児腎臓(HEK)293細胞、マウスL−細胞、ならびにJ558LおよびSp2/0のような骨髄腫細胞株なども、安定なトランスフェクタントの樹立のための宿主として利用される。
【0066】
しかしながら、外来DNAの宿主細胞ゲノム中への組込みは、予測不可能な過程である。トランス遺伝子発現が細胞株によって大きく変動することや、組込みが表現型の予期せぬ変化を引き起こし得ることが十分に立証されている。クローン発現レベルの大きな変動の背後にある理由としては、プラスミドコピー数が異なることや、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)において斑入り位置効果として当初記載された、位置効果として知られる現象が挙げられる。組込みの位置は、少なくとも3つのメカニズム、すなわち、局所的な調節エレメントの活性と、局所的なクロマチン構造と、局所的なDNAメチル化状態とによって、トランス遺伝子発現に影響を与えることができる。2つの一般的なアプローチを用いて、負の位置効果または組込み依存的な抑制からDNAを保護することができる。1つのアプローチは、部位特異的組換え法を用いて、転写活性のある所定の部位にトランス遺伝子を直接組み込むことを含む。もう1つの方法は、組込み部位にかかわらず、遺伝子が周囲のクロマチンの影響から保護されるように、クロマチン境界領域に見出されるDNA配列エレメントを発現ベクターに組み込むことである。組換えタンパク質発現に関して、クロマチン境界として振る舞い、トランスフェクトされた遺伝子を周囲のクロマチンの影響から保護する配列としては、インスレーター配列およびスキャフォールド/マトリックス結合領域(S/MAR)が挙げられる。
【0067】
S/MARは、単離された核スキャフォールドまたは核マトリックスにインビトロで高い親和性で結合するDNA配列である。発現研究により、トランス遺伝子の両側にインスレーターを置くと、位置効果が低下し、そのため、クローン発現変動が抑制されることが示唆されている。S/MARは、クロマチンループを核マトリックスにつなぎとめる比較的短い(100〜1000bp長)配列である。S/MARは、様々な転写単位を包含するドメインの末端の両側にあることが観察されている。核マトリックスの表面と同じ位置を占める染色体領域中で転写が開始されるように、S/MARが転写活性のあるクロマチン領域を1つにまとめることも示されている。
【0068】
同様に、周囲を取り囲むシス調節エレメントのみによってドメイン内の遺伝子の発現が制御されるように、S/MARは、独立したクロマチンドメインの境界を規定し得る。S/MARについて、いくつかの考えられる機能が以前に論じられており、それには、クロマチンドメインの境界を形成すること、クロマチン立体構造を変化させること、DNA複製の開始に関与すること、および染色体のクロマチン構造を編成することが含まれる。S/MARは、セントロメア関連DNAやテロメア配列によく見られ、有糸分裂での染色体集合や中期における染色体形状の維持に重要であると思われる。したがって、S/MARは、細胞周期の様々な段階の複数の独立した過程に関与している。
【0069】
実験的に同定されたS/MARの解析により、典型的なエレメントが300塩基対(bp)程度で、最大数キロ塩基(kb)長であることが明らかとなった。これらのS/MARは、ATリッチなヌクレオチドモチーフ(>70%A−T)をはじめとする、いくつかの配列モチーフを含み得る。ほとんどのMARは、200bp以内の2つの個々の配列AATAAYAAおよびAWWRTAANNWWGNNNCからなる二成分配列である、「MAR認識シグネチャー」と呼ばれるMAR特異的配列を含むように思われる。MAR配列を示すものであると提案されている、他の配列は、DNA巻き戻しモチーフ(AATATATTAATATT)、複製開始タンパク質部位(ATTAおよびATTTA)、ホモオリゴヌクレオチド反復(例えば、A−ボックスAATAAAYAAAおよびT−ボックスTTWTWTTWTT)、DNアーゼI超感受性部位、潜在的ヌクレオソーム非存在領域、ポリプリン−ポリピリミジンの連続、ならびに負の超らせんの条件下で非B型のDNA立体構造または三重らせん立体構造をとり得る配列である。
【0070】
S/MARは、それぞれ、ユークロマチンドメインおよびヘテロクロマチンドメインと呼ばれる、遺伝子発現が許容される構造または遺伝子発現が許容されない構造に独立に編成される染色体ドメイン間の遺伝子境界を形成することができると推測された。それゆえ、S/MARエレメントが両側にあるトランス遺伝子は、その発現が隣接した染色体環境とは無関係であり続ける自律的クロマチンドメインを構成し得る。最近、S/MARは、染色体環境中に一緒に挿入されたときに、隣接トランス遺伝子の発現を増加させることが示された。あるいは、S/MARは、その染色体組込み部位付近のクロマチンを活発に再構成し、それにより、例えば、ヒストンの修飾または核内での局在変化を仲介することによって、トランス遺伝子サイレンシングを妨げ得る。
【0071】
ニワトリリゾチーム(cLys)遺伝子座の5’末端に接するよく特徴付けられた3kbのMARエレメント、ショウジョウバエScs境界エレメント、hspSAP MAR、マウスT細胞受容体TCRa、およびラットLAP遺伝子座制御領域は全て、種々の系において、許容されるクロマチン構造をもたらすことが報告されている。これらのエレメントを発現ベクターに導入し、得られたトランス遺伝子発現を、CHO細胞の安定的なトランスフェクションによりアッセイした。これらのエレメントの大半は、CHO細胞プールでのトランス遺伝子の発現レベルに対する適度の効果を示した。対照的に、cLysMARは、これらのエレメントの中で2番目に良いものよりも6倍効果的であった。その上、2つのcLysMARエレメントが発現カセットの両側にあるときには、さらに4倍の発現レベルの増加が見られた。
【0072】
複数コピーのcLysMARは巨大(6kb)であり、そのため、発現ベクターのサイズを考慮すれば、このようなクロマチンエレメントの一般的使用は制限される。MARの多用途性を改善する1つのアプローチは、トランス遺伝子発現カセットと、別のプラスミド上でトランスにある様々な量のcLysMARとをコトランスフェクトすることからなる。これは、1つのcLysMARエレメントしか持たないプラスミドで得られるレベルよりも高いレベルにまで発現を上昇させることが示された。したがって、MARを持つプラスミドを、コトランスフェクションの時に、現在の発現ベクターに加えるだけで、発現レベルを著しく増加させることができる。もう1つのアプローチでは、cLysMARの短い機能エレメントを欠失突然変異導入により規定した。多量体化されたときの、MARのこれらの部分は、サイズがずっと小さいにもかかわらず、全長エレメントと同じ活性があることが分かった(P.−A.Girod and N.Mermod,未発表データ)。
【0073】
多量体タンパク質の産生は1つの大きな問題に直面する。すなわち、効率的な産生を得るために、全てのサブユニットを協調的に化学量論的レベルで合成する必要がある。それゆえ、プロモーターや3/−領域などの、同一の発現シグナルを異なる発現カセットで使用した。重鎖および軽鎖の発現カセットをコードし、かつ様々な種類の隣接クロマチンエレメントを有する2つの線状化プラスミドを、MARエレメントの存在下または非存在下で、CRO細胞に同時にトランスフェクトした。再度、cLysMARエレメントを加えると、単離されたCRO細胞クローンの平均生産性と最大生産性が5〜10倍増加した。
【0074】
最適設定のうちの1つは、MARエレメントを、重鎖および軽鎖発現ベクター上に、シスに、およびトランスフェクション混合液に追加のMAR含有プラスミドをさらに添加することによって、トランスに、追加することからなっていた。シスおよびトランスのcLysMARのコトランスフェクションにより、安定にコトランスフェクトされた細胞のプールでの平均発現レベルが増加した。さらに、それは、異なるクローンでの発現変動を低下させ、したがって、高い分泌レベルを示すクローンをより高い頻度で単離することが可能になった。
【0075】
ニワトリリゾチーム5’MARは、様々なクロマチン構造調節エレメントのトランス遺伝子発現に対する影響を比較する研究において最も活性のある配列の1つとして同定された。それは、様々な哺乳動物細胞株での調節されたまたは構成的なトランス遺伝子発現のレベルを増加させることも示された。cLysMAR配列を含めると、CHO細胞株にトランスフェクトしたときに、トランス遺伝子の全体的な発現が増加した。
【0076】
前述の通り、治療的タンパク質は翻訳後修飾を必要とするので、通常、哺乳動物発現系がその製造に好ましい。現在、種々の哺乳動物細胞発現系が、タンパク質の発現に利用可能である。しかしながら、哺乳動物細胞でこれらの発現ベクター/発現系から得られる組換えタンパク質の発現レベルは、商業的に実現可能なものでない。
【0077】
ENBRELは、ヒトIgG1のFc部分に連結されたヒト75キロダルトン(p75)腫瘍壊死因子受容体(TNFR)の細胞外リガンド結合部分からなる二量体融合タンパク質である。EnbrelのFc成分は、IgG1のCH2ドメイン、CH3ドメイン、およびヒンジ領域を含むが、CH1ドメインを含まない。ENBRELは、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)哺乳動物細胞発現系で組換えDNA技術によって産生される。それは934アミノ酸からなり、約150キロダルトンの見かけの分子量を有する。
【0078】
ENBRELは、関節リウマチ、多関節型若年性関節リウマチ、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、および乾癬の兆候および症状を低下させることが示されている重大な科学的進歩である。
【0079】
TNFは、正常な炎症応答や免疫応答に関与する天然のサイトカインである。TNFは、関節リウマチ(RA)、多関節型若年性関節リウマチ(JRA)、および結果として生じる関節病変の炎症過程において重要な役割を果たす。TNFレベルの上昇は、RA患者の滑液で見られる。TNF(TNFR)の2つの異なる受容体である55キロダルトンタンパク質(p55)と75キロダルトンタンパク質(p75)はもともと、細胞表面に、および可溶性形態で、単量体分子として存在している。
【0080】
TNFの生物活性は、どちらかの細胞表面TNF受容体への結合に依存する。ENBRELのようなタンパク質であれば、競合阻害によってTNFの作用を阻害し、ひいては、TNFのその細胞受容体への結合を妨げることによってTNFを生物学的に不活性にするであろう。
【0081】
TNFRの細胞外ドメインをヒトIgG1のFc部分に融合すれば、血清滞留時間を増加させることによりタンパク質の最適な薬物動態をもたらす、分子の二量体化が可能になるであろう。融合タンパク質の両方のドメインはヒト起源であるので、このキメラタンパク質であれば、理想としては、免疫応答を誘導せず、そのため、ヒト使用に好適な分子となるであろう。
【0082】
本発明は、Enbrelをより大量に産生するために上述のS/MARを用いる新規の発現ベクターに関する。培養培地から単離されたとき、このDNA配列の発現産物は、TNFR:Fcの生物活性を示す。ベクターの開発、クローニング、およびサブクローニング、トランスフェクション、発酵、ならびに精製の戦略が開示されている。
【0083】
方法
発現ベクターのクローニングおよび構築
pCDNA3.1ベクターにおいて、目的の遺伝子は、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター/エンハンサーによって調節される。ヒトサイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター/エンハンサーは、組換えタンパク質の効率的な、高レベル発現を可能にする。目的の遺伝子であるTNFR:Fcを、方向TOPO発現キットを用いて、pCDNA3.1ベクターにクローニングした。最初にコロニーPCRで、その後、適当な制限酵素を用いて、陽性の形質転換体を確認した。予想されるパターンを与えるBamHIとXhoIを用いて、この形質転換体を二重消化した。この形質転換体を、制限酵素のApaIとSacIIを用いることによっても確認し、これにより、予想されたパターンがはっきりと示された。その後、このインサートの配列を確認した。
【0084】
単離されたスキャフォールド/マトリックス結合領域(S/MAR)(ここでは、S/MAR配列と示す)を、最初にPCRでpGEMTeasyベクターにクローニングし、適当な制限酵素解析とシークエンシングにより確認した。その後、クローニングしたS/MARを、制限部位を用いて、pCDNA3.1ベクター中のCMVプロモーターの上流に挿入した。このインサートを制限解析により確認した。
【0085】
組換えTNFRの発現
組換え発現ベクター(今回の場合は、pCDNA3.1)を用いて、TNFR:Fc融合タンパク質をコードする遺伝子を発現させた。組換え発現ベクターは、目的のタンパク質をコードするDNAがその発現を促進する特定の遺伝子エレメントに連結されている複製可能なDNA構築物である。このような転写単位の集合体は、通常、転写プロモーターまたはエンハンサー、適当な転写および翻訳の開始および終結部位、目的のタンパク質をコードするコード配列、ならびにトランスフェクトされた哺乳動物細胞株クローンとトランスフェクトされていない哺乳動物細胞株クローンの区別を助けることができる選択マーカーから構成される。
【0086】
哺乳動物細胞での組換えタンパク質の発現が本発明の一部として特に好ましいが、それは、このようなタンパク質が、正しく折り畳まれ、それにより、完全に機能的な立体構造となることが知られているからである。組換え遺伝子発現に使用される細胞株はCHO−K1細胞株であり、これは、均一な細胞集団となるものである。組換えタンパク質をコードする安定に組み込まれた転写単位を含むCHO−K1のトランスフェクトされたコロニーは、単一培養物である、すなわち、この細胞は、1個の祖先形質転換体の子孫である。
【0087】
形質転換された宿主細胞は、完全な転写単位を含む発現ベクターでトランスフェクトされる。発現したTNFR:Fc融合タンパク質は、培地上清中に分泌される。発現産物のレベルの増強は、抗生物質(ネオマイシン)耐性をコードする遺伝子などの選択マーカーを用いて細胞株を選択することにより達成される。
【0088】
上記の説明を考慮すれば、本発明の多くのバリエーションが当業者の心に浮かぶであろう。そのような明白なバリエーションは、添付の特許請求の範囲の完全に意図された範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、および配列番号6、それらの相補体、変異体、および機能断片、ならびにそれらと少なくとも70%相同な配列からなる群から選択される1つ以上の配列を含む単離された核酸。
【請求項2】
前記1つ以上の配列がS/MAR配列を含む、請求項1に記載の単離された核酸。
【請求項3】
前記1つ以上のS/MAR配列が、前記配列が発現系で使用されたときに、生体分子の発現を増加させる、請求項2に記載の単離された核酸。
【請求項4】
前記1つ以上のS/MAR配列が、前記発現系における前記配列の方向性に関係なく、前記生体分子の発現を増加させる、請求項3に記載の単離された核酸。
【請求項5】
前記生体分子がタンパク質である、請求項3に記載の単離された核酸。
【請求項6】
前記生体分子が融合タンパク質である、請求項3に記載の単離された核酸。
【請求項7】
前記融合タンパク質が、組換え可溶性腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−ヒトIgG Fc融合タンパク質である、請求項6に記載の単離された核酸。
【請求項8】
前記1つ以上のS/MAR配列が、1つ以上のヌクレオチド配列モチーフを含む、請求項2に記載の単離された核酸。
【請求項9】
前記1つ以上のヌクレオチド配列モチーフが、少なくとも1つのATリッチなヌクレオチドモチーフを含む、請求項8に記載の単離された核酸。
【請求項10】
増加した発現効率を有する発現ベクターを構築する方法であって、請求項1に記載の単離された核酸を発現ベクターに挿入することを含む、方法。
【請求項11】
前記発現ベクターが哺乳動物発現ベクターである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載の単離された核酸を含むベクター。
【請求項13】
前記ベクターが、細菌プラスミド、バクテリオファージベクター、酵母エピソームベクター、人工染色体ベクター、またはウイルスベクターである、請求項12に記載のベクター。
【請求項14】
前記ベクターが哺乳動物発現ベクターである、請求項12に記載のベクター。
【請求項15】
組換え宿主細胞を産生する方法であって、請求項1に記載の単離された核酸または請求項12に記載の発現ベクターを宿主細胞に導入することを含む方法。
【請求項16】
前記単離された核酸または前記発現ベクターがトランスフェクションによって導入される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記単離された核酸が、トランスフェクションによって、前記組換え宿主細胞のゲノムと一体化するようになる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項15に記載の方法によって産生された宿主細胞。
【請求項19】
請求項12に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項20】
前記宿主細胞が真核生物細胞である、請求項18または19に記載の宿主細胞。
【請求項21】
前記宿主細胞が哺乳動物細胞である、請求項18または19に記載の宿主細胞。
【請求項22】
(a)1つ以上の発現制御エレメントに機能的に連結されたタンパク質をコードする配列と、(b)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、および配列番号6、それらの相補体、変異体、および機能断片、ならびにそれらと少なくとも70%相同な配列からなる群から選択される1つ以上のS/MAR配列とを含む核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項23】
前記タンパク質が融合タンパク質である、請求項22に記載の発現ベクター。
【請求項24】
前記タンパク質が組換え可溶性腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−ヒトIgG Fc融合タンパク質である、請求項22に記載の発現ベクター。
【請求項25】
請求項22に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項26】
前記宿主細胞が真核生物細胞である、請求項25に記載の宿主細胞。
【請求項27】
前記宿主細胞が哺乳動物細胞である、請求項25に記載の宿主細胞。
【請求項28】
(a)1つ以上の発現制御エレメントに機能的に連結された腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−ヒトIgG Fc融合タンパク質をコードする配列と、(b)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、および配列番号6、それらの相補体、変異体、および機能断片、ならびにそれらと少なくとも70%相同な配列からなる群から選択される1つ以上のS/MAR配列とを含む核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項29】
請求項28に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項30】
前記宿主細胞が真核生物細胞である、請求項29に記載の宿主細胞。
【請求項31】
前記宿主細胞が哺乳動物細胞である、請求項29に記載の宿主細胞。
【請求項32】
前記1つ以上の発現制御エレメントが、転写プロモーター、転写エンハンサー、転写リプレッサー、ポリアデニル化部位、複製部位の起点、翻訳開始シグナル、および翻訳終結シグナルのうちの少なくとも1つを含む、請求項28に記載の発現ベクター。
【請求項33】
前記1つ以上のS/MAR配列が前記転写プロモーターの上流にある、請求項32に記載の発現ベクター。
【請求項34】
前記1つ以上のS/MAR配列が前記転写プロモーターの下流にある、請求項32に記載の発現ベクター。
【請求項35】
前記1つ以上のS/MAR配列が前記翻訳終結シグナルの下流にある、請求項32に記載の発現ベクター。
【請求項36】
前記1つ以上のS/MAR配列が、前記転写プロモーターの上流かつ前記翻訳終結シグナルの下流にある、請求項32に記載の発現ベクター。
【請求項37】
前記1つ以上のS/MAR配列が、前記転写プロモーターの下流かつ前記翻訳終結シグナルの下流にある、請求項32に記載の発現ベクター。
【請求項38】
前記1つ以上のS/MAR配列が腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−ヒトIgG Fc融合タンパク質をコードする配列から0〜10KB離れたところにある、請求項28に記載の発現ベクター。
【請求項39】
前記1つ以上のS/MAR配列が複製部位の起点から0〜10KB離れたところにある、請求項28に記載の発現ベクター。
【請求項40】
前記発現ベクターが腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−ヒトIgG Fc融合タンパク質の組換え発現に使用される、請求項28に記載の発現ベクター。
【請求項41】
タンパク質を産生するための方法であって、(a)哺乳動物細胞を(I)タンパク質をコードする配列と(II)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、および配列番号6、それらの相補体、変異体、および機能断片、ならびにそれらと少なくとも70%相同な配列からなる群から選択される1つ以上のS/MAR配列とを含む発現ベクターでトランスフェクトする工程と、(b)トランスフェクトされた哺乳動物細胞をタンパク質の発現に好適な条件下で培養する工程と、(c)発現したタンパク質を単離する工程とを含む方法。
【請求項42】
前記タンパク質が融合タンパク質である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記タンパク質が組換え可溶性腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−ヒトIgG Fc融合タンパク質である、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−ヒトIgG Fc融合タンパク質を産生するための方法であって、(a)哺乳動物細胞を(I)腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−ヒトIgG Fc融合タンパク質をコードする配列と(II)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、および配列番号6、それらの相補体、変異体、および機能断片、ならびにそれらと少なくとも70%相同な配列からなる群から選択される1つ以上のS/MAR配列とを含む発現ベクターでトランスフェクトする工程と、(b)トランスフェクトされた哺乳動物細胞を前記融合タンパク質の発現に好適な条件下で培養する工程と、(c)発現した融合タンパク質を単離する工程とを含む方法。
【請求項45】
前記単離された融合タンパク質を精製する工程をさらに含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
請求項44に記載の方法によって産生される腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−ヒトIgG Fc融合タンパク質。
【請求項47】
腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−ヒトIgG Fc融合タンパク質を産生するための方法であって、(a)哺乳動物細胞を、腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−ヒトIgG Fc融合タンパク質をコードする配列を含む発現ベクターでトランスフェクトする工程と、(b)前記哺乳動物細胞を、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、および配列番号6、それらの相補体、変異体、および機能断片、ならびにそれらと少なくとも70%相同な配列からなる群から選択される1つ以上のS/MAR配列を含むプラスミドとコトランスフェクトする工程と、(c)トランスフェクトされた哺乳動物細胞を前記融合タンパク質の発現に好適な条件下で培養する工程と、(d)発現した融合タンパク質を単離する工程とを含む方法。
【請求項48】
前記単離された融合タンパク質を精製する工程をさらに含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
請求項47に記載の方法によって産生された腫瘍壊死因子アルファ受容体(TNFR)−ヒトIgG Fc融合タンパク質。
【請求項50】
前記1つ以上のS/MAR配列が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、および配列番号6、それらの相補体、変異体、および機能断片、ならびにそれらと少なくとも70%相同な配列からなる群から選択される1つ以上の配列を含む、1つ以上のS/MAR配列の活性に影響を与える因子。
【請求項51】
前記因子が遺伝的因子、またはエピジェネティック因子のうちの少なくとも1つである、請求項48に記載の因子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−506694(P2012−506694A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522562(P2011−522562)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【国際出願番号】PCT/IB2009/006517
【国際公開番号】WO2010/018444
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(511013500)アヴェストハゲン リミテッド (4)
【Fターム(参考)】