説明

発芽玄米の製造方法

【課題】 本発明による発芽玄米の製造方法では、栄養分を逃がさないように空気中で発芽させ、さらに低温乾燥により胴割れを防止することを課題とする。
【解決手段】 本発明による発芽玄米の製造方法では、乾燥状態にある籾米を摂氏20乃至25度の水に20乃至30時間浸漬した後水切りし、摂氏25乃至30度の空気循環保湿雰囲気中に20乃至30時間保持することにより発芽させることを特徴とする。前記空気循環保湿雰囲気の相対湿度は、60乃至70%であることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胴割れしない高栄養価の発芽玄米の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ギャバ(GABA、γ−アミノ酪酸)は血圧上昇抑制作用、精神安定作用、腎・肝機能活性化作用、抗ガン作用、アルコール代謝促進作用、消臭効果、肥満防止作用など多くの作用があることが知られている。玄米はこのギャバを多く含み、特に発芽玄米はもとの玄米の3乃至5倍のギャバが含まれているといわれている。このように、玄米、特に発芽玄米は健康食品の一つとして注目されている。
【0003】
従来の発芽玄米の製造方法は、特許文献1(特開2003−325117号公報)や特許文献2(特許第3467742号公報)等に示されるように、温水に浸漬して発芽させるのが一般的であった。しかし、上述のギャバは水溶性であるため、このような技術では玄米の発芽によって生成されたギャバが失われてしまうという問題があった。
【0004】
このような温水に浸漬する方法とは別の発芽方法も提案されている。たとえば、特許文献3(特公平3−58261号公報)には、「籾米を凡そ3,4日間流水中に浸漬した後摂氏約38度の密閉容器内に2日乃至3日間保温し、軽く発芽状態ならしめ」る方法が開示されている。この公報においては、冠水2日以下のものは上記の条件では発芽しないことが記載されている。しかしながら、この技術では常温よりも高い温度の密閉容器内に籾米を保存するため、大量に行う場合には内部が蒸れてしまうという問題点がある。
【0005】
また、特許文献4(特開2004−205号公報)には、籾または玄米を網袋に収容し温水入りの発芽槽に48時間から64時間浸漬した後、湿度が95%以上の高湿度状態で72時間保温することにより発芽させる方法が開示されている。この方法の場合は、発芽は空気中で行うが、湿度が95%以上であるため水中とほとんど変わりなく、部分的には結露するおそれがあるため、やはりギャバの逸失が懸念される。また、この技術の場合、発芽後の乾燥は摂氏40〜50度において水分15%程度まで行うため、せっかく発芽した玄米に胴割れが発生する確率が高い。
【0006】
【特許文献1】特開2003−325117号公報
【特許文献2】特許第3467742号公報
【特許文献3】特公平3−58261号公報
【特許文献4】特開2004−205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の問題点に鑑みて本発明による発芽玄米の製造方法では、栄養分を逃がさないように空気中で発芽させ、さらに低温乾燥により胴割れを防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明による発芽玄米の製造方法では、乾燥状態にある籾米を摂氏20乃至25度の水に20乃至30時間浸漬した後水切りし、摂氏25乃至30度の空気循環保湿雰囲気中に20乃至30時間保持することにより発芽させることを特徴とする。乾燥籾米を用いるのは、収穫直後の非乾燥状態の籾では保存期間が短く、通常は保存するために水分15%程度まで乾燥させるためである。乾燥方法としては、天日乾燥でも人工乾燥でもよい。籾米を最初に浸漬する水の温度は、籾米が大量であっても均一に吸水させて処理的に適当な時間である20乃至30時間で発芽を促すためには、摂氏20乃至25度が好適である。また、均一な発芽を行うためには、発芽雰囲気はあまり低すぎも高過ぎもしない摂氏25乃至35度の空気中において、さらに蒸れを防止するため空気が循環する環境を整えることが重要である。発芽室などの温度管理が容易な場所に籾米を収容し、温度が安定している場合は換気口などにより自然換気することも可能である。また、外部温度と発芽室内温度に差があり、換気では温度管理が困難な場合は、密閉状態として内部で空気を強制循環することも可能である。特に、雰囲気が乾燥する傾向のある場合は、加湿を行って湿度を調整することもできる。
【0009】
前記空気循環保湿雰囲気の相対湿度は、60乃至70%であることが望ましい。湿度が60%を下回ると籾が乾燥してしまい、発芽にむらができてしまう。また、逆に湿度が70%を超えると籾の水分が多くなりすぎて、大量に処理する場合には蒸れたりする危険が出てしまう。
【0010】
また、本発明による発芽玄米の製造方法の請求項3においては、発芽させた籾米を摂氏15乃至25度の空気循環雰囲気中に20乃至25時間保持し予備乾燥させることを特徴とする。この予備乾燥は、急激な乾燥を避けるために行うものである。発芽した籾米が急激に乾燥すると、胴割れを起こして商品価値が損なわれるためである。従って、温度としては摂氏15乃至25度の常温が好ましく、送風のみ行う。加温はしないことが望ましい。
【0011】
前記予備乾燥を終えた発芽籾米はさらに、摂氏25乃至35度の空気循環雰囲気中に保持し、籾米中の水分量が14乃至16%になるまで本乾燥させることが好適である。本乾燥においても、急激な籾米の乾燥を避けるため温度が摂氏25乃至35度の低温乾燥とする。本乾燥は、乾燥時間を短縮させるため、予備乾燥よりは若干高めであることが望ましい。本乾燥により、籾米を長期保存できる水分量である約15%程度まで乾燥させる。本乾燥においては、できれば温風を循環させる乾燥装置が好ましい。
【0012】
本乾燥の時間としては、十分に乾燥させ、しかも産業的に採算のとれる時間であることが必要であるため、20乃至25時間が好適である。
【0013】
本乾燥を終えた籾米は、適切な時期に胚芽を残したまま精米して発芽玄米とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明による発芽玄米の製造方法を用いれば、水中でなく空気中で、しかも空気を循環させながら籾米を発芽させるため、ギャバが水に溶け出てしまうのを防止できるばかりか、発芽中の蒸れを防止でき、多量の籾米でも均一に発芽させることが可能となる。
【0015】
また、本発明では、本乾燥の前に予備乾燥を行うことにより、発芽籾米の急激な乾燥を抑制するため、商品価値を損なうような胴割れの発生を防止することができる。
【0016】
さらに、予備乾燥後に本乾燥を行うことにより、籾米中の水分量を通常の乾燥籾米と同程度まで下げるので、その後の長期保存にも耐えうる状態となる。
【0017】
上述のような本発明独自の工程を経ることにより、最終的に胚芽を残して玄米に精米することにより、ギャバ等の栄養分豊富で新鮮な発芽玄米を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【0018】
以下、好適な実施例に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。籾は、収穫直後は20乃至25%の水分を含んでおり、自動乾燥機などにより通常の乾燥を行うと、水分量が約15%程度になることが知られている。本実施例では、この乾燥済みの籾米を用いた。この籾米をまず、摂氏20乃至25度の微温水に1昼夜、すなわち24時間程度浸漬し、十分に吸水させる。この処理により、籾米の水分量は約35%に上昇する。この温度範囲の微温水を使用するのは、20度より低いと籾が発芽準備状態にならず、また25度を超えると籾によっては発芽が開始されてギャバが水に溶出してしまうおそれがあるためである。
【0019】
次に、微温水に浸漬した籾米を取り出して十分に水切りし、温度摂氏30度、湿度65%の空気循環保湿雰囲気中に入れる。ここでは、恒温恒湿槽を用いた。籾米の量が少ない場合は、網棚等の上に薄く延ばした状態で載置する。この場合は、内部の空気循環量は風が動く程度で十分である。籾米の量が多い場合はメッシュの容器などに入れて保管するが、この場合は強制循環で送風量を増やさないと集積された内部の籾米が蒸れてしまう。湿度を65%としたのは、集積された内部の籾米が蒸れるのを防止し、かつ表面の籾米が乾燥してしまうのも防ぐためである。この空気循環保湿雰囲気には籾米を24時間保持したが、すべての籾米を均等に発芽させるためには、摂氏25乃至35度の温度で1昼夜程度保存することが最も効果的である。温度を高くすると発芽時間は早くなるが、発芽状態にむらができてしまう。また、湿度を一定に保つことも均一な発芽には重要である。
【0020】
上記空気循環保湿雰囲気中に24時間保存してから取り出すと、籾米は0.5乃至1mm程度の発芽状態となっている。続いて、この発芽籾米を予備乾燥槽に入れる。温度はかけず、送風のみ行って30時間予備乾燥した。周囲温度が低すぎたり、或いは高すぎたりする場合は、温度調節機構付きの乾燥槽を用いる。これは、温度が低すぎると乾燥が不十分になりより長い時間が必要になるためであり、また温度が高すぎると発芽が進行して所望する発芽状態と異なってしまうか、乾燥が急激なために胴割れを発生するためである。この予備乾燥によって、籾米の水分量は約25%程度まで減少する。
【0021】
次に、予備乾燥を終えた籾米を摂氏30度に保温した送風乾燥機に入れる。22時間程度で籾米の水分量が長期保存にも耐えうる15%程度になる。
【0022】
発芽玄米として食する場合は、上記の籾米を胚芽を残す程度に精米する。ただし、精米すると保存期間が短くなるので、精米はなるべく使用する直前に行うことが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明にかかる発芽玄米の製造方法を用いることにより、ギャバ等の栄養分の流出を防止し胴割れのない高品質の発芽玄米を提供することができ、健康食品産業に大いに貢献できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥状態にある籾米を摂氏20乃至25度の水に20乃至30時間浸漬した後水切りし、摂氏25乃至30度の空気循環保湿雰囲気中に20乃至30時間保持することにより発芽させることを特徴とする発芽玄米の製造方法。
【請求項2】
前記空気循環保湿雰囲気の相対湿度が60乃至70%であることを特徴とする請求項1記載の発芽玄米の製造方法。
【請求項3】
発芽させた籾米を摂氏15乃至25度の空気循環雰囲気中に20乃至25時間保持し予備乾燥させることを特徴とする請求項1または2に記載の発芽玄米の製造方法。
【請求項4】
前記予備乾燥を終えた発芽籾米をさらに、摂氏25乃至35度の空気循環雰囲気中に保持し、籾米中の水分量が14乃至16%になるまで本乾燥させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の発芽玄米の製造方法。
【請求項5】
前記本乾燥の時間が20ないし25時間であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の発芽玄米の製造方法。
【請求項6】
本乾燥を終えた籾米の胚芽を残したまま精米して玄米とすることを特徴とする発芽玄米の製造方法。

【公開番号】特開2006−304795(P2006−304795A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112697(P2006−112697)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(506057258)
【Fターム(参考)】