説明

発酵乳及びその製造方法

【課題】離水が少ない組織が安定した発酵乳を得ること、しかも、当該発酵乳を、特別な原料や設備を使用することなく製造する。
【解決手段】発酵乳の製造に用いる原料を、脂肪分を含む原料と、脂肪分を含まない原料に分け、脂肪分を含む原料のみ均質化処理を行い、脂肪分を含まない原料は均質化処理を行わないことを特徴とする発酵乳の製造方法。
【効果】低脂肪タイプの発酵乳において、特別な原料や設備を使用することなく、発酵後の発酵乳の離水を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵乳及びその製造方法に関する。更に詳しくは、離水が少なく、組織が安定し、しかも特別な原料や設備を使用しない乳酸菌発酵による低脂肪タイプの発酵乳とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵乳は、牛乳等の獣乳を原料とし、乳酸菌あるいは酵母またはその両者により発酵させたものである。近年、消費者の低脂肪志向から発酵乳においても低脂肪化製品の需要が高まっている。しかし、低脂肪の発酵乳は、組織が不安定で保存中に離水を起こしやすい。そのため、低脂肪の発酵乳では、離水を抑制するために安定剤等の添加物を使用するのが一般的であった。
【0003】
また、特許文献1では、原料ミックス中の蛋白質含有量を高めることが行われている。具体的には、透析濾過膜(Dia Filtration)や限外濾過膜(Ultra Filtration)による膜処理で分離濃縮した乳タンパク質濃縮物と、この膜処理の透過液(パーミエート)から乳糖を除去して得られる脱乳糖パーミエートを原料ミックスに混合している。
また、特許文献2では、原料ミックスを超高圧のホモゲナイザーをかけることにより、脂肪球を微細化することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3755855号公報
【特許文献2】特許第3155242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の方法では、乳たんぱく濃縮物とパーミエートを得るために膜処理が必要なため、コスト高を招く問題があった。また、風味や食感の点でも好ましくなかった。また、特許文献2の方法では、超高圧ホモゲナイザーを使用するため多大な設備投資を必要とするといった問題があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、離水が少ない組織が安定した発酵乳を得ること、しかも、当該発酵乳を、特別な原料や設備を使用することなく製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、発酵乳の製造に用いる原料を、脂肪分を含む原料と、脂肪分を含まない原料に分け、脂肪分を含む原料のみ均質化処理を行い、脂肪分を含まない原料は均質化処理を行わないことで、低脂肪タイプの発酵乳において、発酵後の発酵乳の離水を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の構成を採用した。
【0007】
[1]脂肪分を含む原料(A)と脂肪分を含まない原料(B)とを混合して混合原料(C)を得る混合工程と、混合工程に先立ち、原料(A)のみを均質化する均質化工程と、混合工程の後に、混合原料(C)を殺菌する後殺菌工程と、後殺菌工程の後に、混合原料(C)にスターター(D)を添加して脂肪含量が0.3質量%以上2.0質量%以下である発酵原料(E)を得て、これを発酵させる発酵工程を備え、発酵原料(E)に含有される蛋白質量に占める、原料(A)由来の蛋白質量の割合が、50質量%以下であることを特徴とする発酵乳の製造方法。
【0008】
[2]脂肪分を含む原料(A)と脂肪分を含まない原料(B)とを混合して混合原料(C)を得る混合工程と、混合工程に先立ち、原料(A)のみを均質化する均質化工程と、混合工程に先立ち、均質化工程後の原料(A)と、原料(B)を、各々殺菌する前殺菌工程と、混合工程後に、混合原料(C)にスターター(D)を添加して脂肪含量が0.3質量%以上2.0質量%以下である発酵原料(E)を得て、これを発酵させる発酵工程を備え、発酵原料(E)に含有される蛋白質量に占める、原料(A)由来の蛋白質量の割合が、50質量%以下であることを特徴とする発酵乳の製造方法。
【0009】
[3]発酵乳が静置型発酵乳である請求項1または2に記載の発酵乳の製造方法。
[4]スターター(D)として乳酸菌スターターを用いる[1]〜[3]の何れか一項に記載の発酵乳の製造方法。
[5][1]〜[4]の何れか一項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする発酵乳。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、脂肪含量が少なくても、離水が少なく、組織が安定した発酵乳が得られる。しかも、離水が少なく、組織が安定した発酵乳を、特別な原料や設備を使用することなく製造できるので、工業的生産に適している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示(質量%)である。
【0012】
[発酵乳]
本発明における発酵乳は、静置型の発酵乳、撹拌型の発酵乳の何れでもよいが、離水の抑制が特に求められる点で、静置型の発酵乳であることが好ましい。
静置型発酵乳(後発酵タイプの発酵乳、セットヨーグルトとも呼ばれる。)とは、飲食用の容器(小売り容器)に発酵原料を充填して発酵させた凝固状の発酵乳(ヨーグルト)である。すなわち、飲食用の容器に発酵原料を充填してから発酵し、その後撹拌することなく市販に供する発酵乳(ヨーグルト)である。
静置型の発酵乳の品種としては、少なくとも甘味料や香料が添加されていないプレーンヨーグルト、甘味料、香料、及び寒天、ゼラチン、ペクチン等の安定剤が添加されていないプレーンヨーグルト、並びに寒天、ゼラチン、ペクチン等の安定剤が添加されたハードヨーグルト等が挙げられる。
撹拌型の発酵乳(前発酵タイプの発酵乳とも呼ばれる。)とは、発酵原料をタンク中で予め発酵させ、その後飲食用の容器(小売り容器)に充填して市販に供する発酵乳(ヨーグルト)である。
【0013】
[発酵原料]
本発明では、発酵乳の製造に用いる全原料(発酵原料)を、脂肪分を含む原料(A)と、脂肪分を含まない原料(B)とスターター(D)に分け、脂肪分を含む原料(A)のみ均質化した後に原料(A)と原料(B)を混合して、混合原料(C)とする。
そして、混合原料(C)にスターター(D)を加えて得られる発酵原料(E)を、発酵させる。
【0014】
脂肪分を含む原料(A)とは、均質化処理を行わずに発酵させると、表面にクリーム層の分離を生じる原料をいう。また、脂肪分を含まない原料(B)とは、均質化処理を行わずに発酵させても、表面にクリーム層の分離を生じない原料をいう。
脂肪分を含む原料(A)としては、生乳、部分脱脂乳、バター、植物性油脂、クリーム、クリーミングパウダーなどが挙げられる。
クリームは、生クリームであっても、植物油脂、乳化剤、安定剤などを用いて合成された合成クリームであってもよい。クリーミングパウダーは、生クリームを乾燥させたものでも、合成クリームを乾燥させたものでもよい。
【0015】
脂肪分を含む原料(A)は、全体として、均質化処理を行わずに発酵させると、表面にクリーム層の分離を生じる原料であればよい。したがって、脂肪分を含む原料(A)には、下記脂肪分を含まない原料(B)に該当する原料が含まれていてもよい。
特に、バターやクリーム等に加えて、脱脂粉乳や脱脂濃縮乳等の無脂乳固形分を含む原料を用いると、脂肪分の乳化を促進できるので好ましい。
脂肪分を含む原料(A)の無脂乳固形分濃度は、5〜20質量%とすることが好ましく、5〜10質量%とすることがより好ましい。
なお、無脂乳固形分とは、乳由来のタンパク質、乳糖、ミネラルを意味する。
【0016】
脂肪分を含まない原料(B)としては、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、脱脂粉乳溶解液等の無脂乳固形分を含む原料の他に、ショ糖、澱粉、デキストリンなどが挙げられる。
脂肪分を含まない原料(B)は、全体として、均質化処理を行わずに発酵させても、表面にクリーム層の分離を生じない原料であればよい。したがって、クリーム層の分離を引き起こさない程度の、若干の脂肪分を含んでいてもよい。
【0017】
発酵原料(E)は蛋白質を含む。発酵原料(E)に含有される蛋白質量(原料(A)の蛋白質量と原料(B)の蛋白質量と、スターター(C)の蛋白質量の合計量に等しい。)に占める、原料(A)由来の蛋白質量の割合は50質量%以下であり、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることが特に好ましい。また、2.5質量%以上であることが好ましい。
原料(A)由来の蛋白質量の割合が低いほど、本願発明の効果が顕著に得られる。一方、原料(A)由来の蛋白質量の割合が低すぎると、原料(A)に含まれる無脂乳固形分が不足し、脂肪分の乳化が阻害されやすい。
【0018】
発酵原料(E)の脂肪含量(原料(A)に含まれる脂肪分量の発酵原料(E)量に占める割合に、ほぼ等しい。)は、0.3質量%以上2.0質量%以下であり、0.3質量%以上2.0質量%未満であることがより好ましく、0.3質量%以上1.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.3質量%以上1.4質量%以下であることが特に好ましく、0.4質量%以上1.4質量%以下であることが最も好ましい。
なお、脂肪含量が2質量%を超えるものでは、もともと離水しにくいことから、本発明の効果が十分に発揮されない可能性がある。また、脂肪含量が0.3質量%未満の場合では、本発明の方法を以てしても、離水抑制が十分に期待されるには至らない恐れがある。
すなわち、本発明において離水抑制の効果が発揮される発酵乳としては、部分脱脂ヨーグルト(特に脂肪含量が0.5〜2.0%に好適である。)や脱脂ヨーグルト(例えば脂肪含量が0.5%以下)等の低脂肪タイプの発酵乳、なかでも低脂肪タイプの静置型発酵乳において当該効果が特に享受されるのである。
発酵原料(E)の無脂乳固形分濃度は、8〜15質量%とすることが好ましく、10〜13質量%とすることがより好ましい。
【0019】
発酵原料(E)には、寒天、ゼラチン、ペクチン等の増粘又は凝固作用を有する安定剤が添加されていてもよい。当該安定剤が添加されることによって、本発明の発酵乳における離水抑制の効果(低離水性)は、さらに増加すると考えられるので好ましい。
また、原料(A)が合成クリーム又は合成クリームを乾燥させたクリーミングパウダーを含む場合は、合成クリームの合成に用いられるレシチン等の安定剤を、発酵原料(E)に含んでいてもよい。
【0020】
[均質化工程]
均質化工程では、原料(A)のみを均質化する。原料(B)の均質化は行わない。
均質化は、予め原料(A)を加温し、当該加温した温度で行うことが好ましい。加温により、乳化が促進できる。
加温は、60〜85℃とすることが好ましい。
均質圧は、10〜20MPaとすることが好ましい。20MPa以下であれば、通常の高圧ホモゲナイザーを使用できる。また、10MPa以上であれば、原料(A)を充分に均質化できる。なお、超高圧ホモゲナイザーを使用し、20MPaを超える均質圧で均質化してもよい。
【0021】
[混合工程]
混合工程では、予め均質化した原料(A)と、均質化をしていない原料(B)とを混合し、混合原料(C)を得る。
混合工程は、後述の後殺菌工程前に行っても、前殺菌工程後に行ってもよい。
【0022】
[殺菌工程]
殺菌工程は、前殺菌工程でも後殺菌工程でもよい。
前殺菌工程は、混合工程に先立ち、予め均質化した原料(A)と、均質化をしていない原料(B)とを、各々別個に殺菌する工程である。後殺菌工程は、混合工程後に、混合原料(C)を殺菌する工程である。
前殺菌工程、後殺菌工程共に、プレート式殺菌機、チューブラー式殺菌機、直接加熱式殺菌機、ジャケット付きタンク等を用いることができる。殺菌条件は、85〜95℃で1〜15分間とすることが好ましい。
【0023】
[発酵工程]
発酵工程では、混合原料(C)にスターター(D)を添加して発酵原料(E)を得て、これを発酵させる。発酵工程は、混合工程と殺菌工程(前殺菌工程または後殺菌工程)の双方が終了した後に行う。
スターター(D)は、乳酸菌スターター、酵母が挙げられるが、乳酸菌スターターを用いることが好ましい。乳酸菌スターターとしては、例えば、ラクトバチルス・ブルガリクス(L.bulgaricus)、ラクトコッカス・ラクチス(L.lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(S.thermophilus)等のヨーグルト製造に通常用いられている乳酸菌スターターが挙げられる。また、乳酸菌スターターを用いる場合、ビフィズス菌スターター、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B.longum)等を添加してもよい。また、市販の乳酸菌スターターも用いることができる。
【0024】
乳酸菌スターターを用いる場合、混合原料(C)を、35〜45℃に冷却してから、スターター(D)を添加する。スターター(D)の添加量は、混合原料(C)に対して0.4〜2.5質量%であることが好ましい。
発酵時は、当該スターター(D)の生育に好適な温度に保持する。好適な温度は、菌種によって異なるが、上記で例示した乳酸菌であれば、37〜40℃が好ましい。
pHが4.6〜4.7に達した時点で発酵を終了させて、発酵乳を得ることができる。スターター(D)の添加から発酵終了までに要する時間(発酵時間)は、通常4〜6時間である。
【0025】
[低離水性]
上記製造方法で得られる発酵乳は、離水が少なく、組織が安定した発酵乳であるという特徴を有する。これは、発酵原料(E)に含まれる蛋白質の相当量を均質化しないことによって得られる効果であると考えられる。
すなわち、均質化処理は、クリーム層分離抑制のため必須の工程ではあるものの、蛋白質にとっては、必ずしも良い影響を与えていないと考えられる。つまり、均質化処理により蛋白質の構造が一部破壊されると、ネットワークが弱められ、これが離水の原因になっているものと推測される。
本発明の発酵乳は離水が少ないことにより、外観や風味を保ちながら保存することが可能である。
【実施例】
【0026】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の試験例において、%は、特に断りのない限り質量%を示す。
(1)発酵乳の調製
[原料]
以下の試験例で用いた原料は下記のとおりである。
クリーム:
森永乳業株式会社にて、生乳を遠心分離して製造した生クリーム。脂肪含量45.5%、蛋白質含量1.6%、無脂乳固形分4.5%。
脱脂濃縮乳:
森永乳業株式会社にて、生乳を遠心分離して脱脂乳を調製し、これを減圧濃縮して製造した脱脂濃縮乳。脂肪含量0.3%、蛋白質含量12.4%、無脂乳固形分34.6%。
脱脂粉乳:
森永乳業株式会社にて、前記脱脂濃縮乳を噴霧乾燥して製造した脱脂粉乳。脂肪含量1.0%、蛋白質含量34.0%、無脂乳固形分95.2%。
スターター:
ラクトバチルス・ブルガリクス(L.bulgaricus)とストレプトコッカス・サーモフィラス(S.thermophilus)の混合培養物(乳酸菌スターター)。脂肪含量0.1%、蛋白質含量4.1%、無脂乳固形分10%
【0027】
[原料(A)の調製]
表1に示す原料組成で、クリームと、脱脂粉乳を含み、残部が水である原料を混合して70℃まで加温し、均質圧15MPaで均質化処理を行った。均質化装置としては、三丸機械工業(株)製ホモジナイザーを用いた。その後10℃以下(0℃超)まで冷却して、表1に示す各原料(A)(A−1〜A−6)を得た。
表1に、原料組成から計算した各原料(A)の脂肪含量、蛋白質含量、無脂乳固形分を併せて示す。
【0028】
【表1】

【0029】
[発酵乳の製造]
本発明の発酵乳の製造方法である下記の調製法Xにて、本発明の発酵乳を製造した。
(調製法X)
表2に示す配合割合で、表1の原料(A)、脱脂濃縮乳、水を混合し、無脂乳固形分10%の混合原料(C)を調製した。
これらの混合原料(C)を、90℃で10分間殺菌し、38℃まで冷却し、これにスターター(D)(乳酸菌スターター)を1.9%となるように添加して、発酵原料(E)を調製した。
この発酵原料(E)の100gを直径7cm(底5.5cm)高さ5.5cmの逆円錐台状の紙カップに入れ、pHが4.7になるまで38℃で培養発酵し、10℃の冷蔵庫にて冷却し、試験試料1〜18の発酵乳を製造した。
【0030】
表2に、原料組成から計算した発酵原料(E)の脂肪含量、「均質化した蛋白質(%)」を併せて示す。調製法Xの場合の「均質化した蛋白質(%)」は、発酵原料(E)全体に含まれる蛋白質に占める、原料(A)由来の蛋白質の割合である。
例えば、試験試料1の蛋白質含量は、以下のようにして求めた値である。
発酵原料(E)100g中の原料(A)由来の蛋白質
=2.7×0.021=0.057g
発酵原料(E)100g中の脱脂濃縮乳由来の蛋白質
=12.4×0.279=3.460g
発酵原料(E)100g中のスターター由来の蛋白質
=4.1×0.019=0.078g
均質化した蛋白質(%)
={0.057/(0.057+3.460+0.078)}×100=16%
【0031】
【表2】

【0032】
また、従来の脂肪を含む原料と脂肪を含まない原料を分けずに均質化処理する方法である下記の調製法Yにて、対照試料となる発酵乳を製造した。
(調製法Y)
表3に示す配合割合で、クリーム、脱脂濃縮乳、水を混合して無脂乳固形分10%の混合原料(C)を調製した。
これらの混合原料を、70℃まで加温し、均質圧15MPaで均質化処理を行った。均質化装置としては、三丸機械工業(株)製ホモジナイザーを用いた。その後、90℃で10分間殺菌し、38℃まで冷却し、これにスターター(D)(乳酸菌スターター)を1.9%となるように添加して、発酵原料(E)を得た。
この発酵原料(E)の100gを直径7cm(底5.5cm)高さ5.5cmの逆円錐台状の紙カップに入れ、pHが4.7になるまで38℃で培養発酵し、10℃の冷蔵庫にて冷却し、対照試料1〜6の発酵乳を製造した。
【0033】
表3に、原料組成から計算した各発酵乳の脂肪含量、「均質化した蛋白質(%)」を併せて示す。調製法Yの場合の「均質化した蛋白質(%)」は、発酵原料全体に含まれる蛋白質に占める、混合原料由来の蛋白質(クリーム及び脱脂濃縮乳由来の蛋白質)の割合である。
例えば、対照試料1の蛋白質含量は、以下のようにして求めた値である。
発酵原料(E)100g中のクリーム由来の蛋白質
=1.6×0.004=0.006g
発酵原料(E)100g中の脱脂濃縮乳由来の蛋白質
=12.4×0.283=3.509g
発酵原料(E)100g中のスターター由来の蛋白質
=4.1×0.019=0.078g
均質化した蛋白質(%)
={(0.006+3.509)/(0.006+3.509+0.078)}×100=3.515/3.593×100=97.8%
【0034】
【表3】

【0035】
(2)評価
各試料の発酵乳を、前記直径7cm(底5.5cm)高さ5.5cmの紙カップのまま10℃で静置し、製造後7日目に表面に出てきた水の量(離水量)を測定し、下式(1)に基づき離水率を求めた。結果を表4に示す。
離水率(%)
=[紙カップあたりの離水量(g)/紙カップに充填した発酵原料(E)(g)]×100
・・・(1)
また、各試験試料について、下式(2)に基づき、脂肪含量が同一である対照試料と比較した離水の改善効果を、離水改善率として求めて表4に示した。
離水改善率(%)
=100−(試験試料の離水率/試験試料と脂肪含量が同一の対照試料の離水率)×100
・・・(2)
【0036】
【表4】

【0037】
本発明の方法で製造される発酵乳は、製造後7日目の離水率が、3.0%以下であることが好ましく、2.3%以下であることが特に好ましい。離水率が3.0%以下であれば、外観上や風味に寄与する組織の安定性の点で好ましく、特に静置型発酵乳において好適である。
表4から明らかなとおり、本発明の製造方法によれば、脂肪含量が0.3〜2.0%の全範囲において7日目の離水率が3.0%以下であって、充分に組織が安定していた。このことから、本発明の製造方法は、低脂肪の発酵乳の製造に好ましいこと、及び本発明の製造方法によれば高品質の静置型発酵乳が得られることが確認できた。
また、脂肪含量が1.5%以下、特に0.4%以上1.4%以下の範囲で、30%以上の高い離水改善率が見られた。このことから、本発明の製造方法は、特に脂肪含量が低い発酵乳の製造に好ましいことが確認できた。
なお、脂肪含量が1.4〜2.0%の場合、対照試料の離水率も、3.0%以下であるが、これらの場合も、高い離水改善率が得られた。このことから、脂肪含量が1.4〜2.0%の場合にも、本発明によって、離水が一層少なく、さらに安定した発酵乳を得られることがわかった。
また、離水を抑制する効果は、均質化した蛋白質量(%)が低いほど高いことが確認された。特に、脂肪含量が0.4%以上1.4%以下の範囲で、かつ製造時に均質化した蛋白質の割合が40%以下の場合、離水改善率は50%以上となり、とりわけ顕著な離水抑制効果が発揮されることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪分を含む原料(A)と脂肪分を含まない原料(B)とを混合して混合原料(C)を得る混合工程と、
混合工程に先立ち、原料(A)のみを均質化する均質化工程と、
混合工程の後に、混合原料(C)を殺菌する後殺菌工程と、
後殺菌工程の後に、混合原料(C)にスターター(D)を添加して脂肪含量が0.3質量%以上2.0質量%以下である発酵原料(E)を得て、これを発酵させる発酵工程を備え、
発酵原料(E)に含有される蛋白質量に占める、原料(A)由来の蛋白質量の割合が、50質量%以下であることを特徴とする発酵乳の製造方法。
【請求項2】
脂肪分を含む原料(A)と脂肪分を含まない原料(B)とを混合して混合原料(C)を得る混合工程と、
混合工程に先立ち、原料(A)のみを均質化する均質化工程と、
混合工程に先立ち、均質化工程後の原料(A)と、原料(B)を、各々殺菌する前殺菌工程と、
混合工程の後に、混合原料(C)にスターター(D)を添加して脂肪含量が0.3質量%以上2.0質量%以下である発酵原料(E)を得て、これを発酵させる発酵工程を備え、
発酵原料(E)に含有される蛋白質量に占める、原料(A)由来の蛋白質量の割合が、50質量%以下であることを特徴とする発酵乳の製造方法。
【請求項3】
発酵乳が静置型発酵乳である請求項1または2に記載の発酵乳の製造方法。
【請求項4】
スターター(D)として乳酸菌スターターを用いる請求項1〜3の何れか一項に記載の発酵乳の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の発酵乳の製造方法により製造されたことを特徴とする発酵乳。

【公開番号】特開2011−4740(P2011−4740A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124881(P2010−124881)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】