説明

発電、および、充放電が可能な燃料電池

【課題】アノードへの水素の供給量や、カソードへの酸素の供給量が一時的に不足した場合でも、電流を出力可能であり、また、二次電池としても機能する燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池10は、プロトン伝導性を有する電解質膜12と、アノード14と、カソード16とを備える。アノード14は、自身の酸化還元反応によって、プロトンを生成する機能と、プロトンを生成した後、カソード16から供給されたプロトンを消費する機能とを有するPdHを含む。カソード16は、自身の酸化還元反応によって、アノード14から供給されたプロトンを消費する機能と、プロトンを消費した後、プロトンを生成する機能とを有するMoOを含む。なお、PdHの酸化還元電位は、MoOの酸化還元電位よりも低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電、および、充放電が可能な燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水素と酸素との電気化学反応によって発電する燃料電池がエネルギ源として注目されている。この燃料電池は、電解質と、水素が供給されるアノード(水素極)と、酸素が供給されるカソード(酸素極)とを備えている。電解質としては、プロトン伝導性を有する電解質や、水酸化物イオン伝導性を有する電解質が用いられる。また、アノード、および、カソードには、それぞれ上記電気化学反応を促進するための触媒が含まれる。
【0003】
近年では、燃料電池としても二次電池としても動作可能な電気化学デバイスが提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。この電気化学デバイスは、化学的に再充電可能な材料で構成された負極(アノード)を備えており、負極への水素の供給が遮断されたときには、負極を構成する材料自身が電子を放出し、発電することができる。
【0004】
【特許文献1】特表2004−501483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、プロトン伝導性を有する電解質を備える燃料電池のカソードでは、発電時に水(生成水)が生成される。そして、この生成水が、カソードで凍結したり、過剰に滞留したりすると、カソードへの酸素の供給が遮断され、発電不能となる場合がある。先に説明したように、上記特許文献1に記載された技術によれば、負極への水素の供給が遮断された場合であっても電流を出力することはできる。しかし、上記特許文献1に記載された技術では、正極(カソード)への酸素の供給が遮断された場合には、電流を出力することができなかった。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、アノードへの水素の供給量や、カソードへの酸素の供給量が一時的に不足した場合でも、電流を出力可能であり、また、二次電池としても機能する燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題の少なくとも一部を解決するため、本発明では、以下の構成を採用した。
本発明の第1の燃料電池は、
アノードと、プロトン伝導性を有する所定の電解質と、カソードとを備え、前記アノードに供給された水素と前記カソードに供給された酸素との電気化学反応によって発電する燃料電池であって、
前記アノードは、自身の酸化還元反応によって、プロトンを生成する機能と、該プロトンを生成した後、前記カソードから供給されたプロトンを消費する機能とを有する第1の物質を含み、
前記カソードは、自身の酸化還元反応によって、前記アノードから供給されたプロトンを消費する機能と、該プロトンを消費した後、プロトンを生成する機能とを有する第2の物質を含み、
前記第1の物質の酸化還元電位Eと、前記第2の物質の酸化還元電位Eとの関係は、E<Eであることを要旨とする。
【0008】
以下、本発明の第1の燃料電池について、上記第1の物質をPdHとし、上記第2の物質をMoOとした場合を一例に説明する。なお、周知の通り、PdHの酸化還元電位は、MoOの酸化還元電位よりも低い。
【0009】
本発明では、プロトン伝導性を有する電解質を用いた燃料電池(例えば、固体高分子型燃料電池等)において、アノードに供給される水素、および、カソードに供給される酸素の供給量が、それぞれ十分であるときには、下記反応式(1)で表される反応によってアノードで生成されたプロトンを、下記反応式(3)表される反応によってカソードで消費する電気化学反応によって発電する通常の燃料電池として動作する。
【0010】
そして、アノードへの水素の供給量が一時的に不足したときには、アノードに含まれる上記第1の物質(PdH)が、下記反応式(2)で表される反応によってプロトンを生成し、このプロトンを下記反応式(3)で表される反応によってカソードで消費することによって、放電状態の二次電池として動作し、電流を出力することができる。
【0011】
一方、カソードへの酸素の供給量が一時的に不足したときには、下記反応式(1)で表される反応によってアノードで生成されたプロトンを、カソードに含まれる上記第2の物質(MoO)が、下記反応式(4)で表される反応によって消費することによって、放電状態の二次電池として動作し、電流を出力することができる。
【0012】
さらに、アノードへの水素の供給量、および、カソードへの酸素の供給量の双方が、一時的に不足したときには、アノードに含まれるPdHが、下記反応式(2)で表される反応によってプロトンを生成し、このプロトンをカソードに含まれるMoOが、下記反応式(4)で表される反応によって消費することによって、放電状態の二次電池として動作し、電流を出力することができる。
【0013】
また、アノード、および、カソードに、外部から電位を加えることによって、下記反応式(4)で表される反応の逆反応によってカソードでプロトンを生成するとともに、下記反応式(2)で表される反応の逆反応によってアノードでプロトンを消費し、充電状態の二次電池として動作することができる。
【0014】
つまり、本発明によって、発電、および、充放電が可能な燃料電池を構成し、アノードへの水素の供給量や、カソードへの酸素の供給量が一時的に不足した場合でも、電流を出力することができる。
【0015】
アノード:(1/2)H→H+e ...(1)
PdH →Pd+H+e ...(2)
カソード:H+e+(1/4)O →(1/2)HO ...(3)
+e+(1/2)MoO→(1/2)HO+(1/2)MoO...(4)
【0016】
本発明の第2の燃料電池は、
アノードと、水酸化物イオン伝導性を有する所定の電解質と、カソードとを備え、前記アノードに供給された水素と前記カソードに供給された酸素との電気化学反応によって発電する燃料電池であって、
前記アノードは、自身の酸化還元反応によって、前記カソードから供給された水酸化物イオンを消費する機能と、該水酸化物イオンを消費した後、水酸化物イオンを生成する機能とを有する第1の物質を含み、
前記カソードは、自身の酸化還元反応によって、水酸化物イオンを生成する機能と、該水酸化物イオンを生成した後、前記アノードから供給された水酸化物イオンを消費する機能とを有する第2の物質を含み、
前記第1の物質の酸化還元電位Eと、前記第2の物質の酸化還元電位Eとの関係は、E<Eであることを要旨とする。
【0017】
以下、本発明の第2の燃料電池について、上記第1の物質をPdHとし、上記第2の物質をNiOOHとした場合を一例に説明する。なお、周知の通り、PdHの酸化還元電位は、NiOOHの酸化還元電位よりも低い。
【0018】
本発明では、水酸化物イオン伝導性を有する電解質を用いたアルカリ型燃料電池において、アノードに供給される水素、および、カソードに供給される酸素の供給量が、それぞれ十分であるときには、下記反応式(7)で表される反応によってカソードで生成された水酸化物イオンを、下記反応式(5)で表される反応によってアノードで消費する電気化学反応によって発電する燃料電池として動作する。
【0019】
そして、アノードへの水素の供給量が一時的に不足したときには、下記反応式(7)で表される反応によってカソードで生成された水酸化物イオンを、アノードに含まれる上記第1の物質(PdH)が、下記反応式(6)で表される反応によって消費することによって、放電状態の二次電池として動作し、電流を出力することができる。
【0020】
一方、カソードへの酸素の供給量が一時的に不足したときには、カソードに含まれる上記第2の物質(NiOOH)が、下記反応式(8)で表される反応によって水酸化物イオンを生成し、この水酸化物イオンを下記反応式(5)で表される反応によってアノードで消費することによって、放電状態の二次電池として動作し、電流を出力することができる。
【0021】
さらに、アノードへの水素の供給量、および、カソードへの酸素の供給量の双方が、一時的に不足したときには、カソードに含まれるNiOOHが、下記反応式(8)で表される反応によって水酸化物イオンを生成し、この水酸化物イオンをアノードに含まれるPdHが、下記反応式(6)で表される反応によって消費することによって、放電状態の二次電池として動作し、電流を出力することができる。
【0022】
また、アノード、および、カソードに、外部から電位を加えることによって、下記反応式(6)で表される反応の逆反応によってアノードで水酸化物イオンを生成するとともに、下記反応式(8)で表される反応の逆反応によってカソードで水酸化物イオンを消費し、充電状態の二次電池として動作することができる。
【0023】
つまり、本発明によって、発電、および、充放電が可能な燃料電池を構成し、アノードへの水素の供給量や、カソードへの酸素の供給量が一時的に不足した場合でも、電流を出力することができる。
【0024】
アノード:H+2OH→2HO+2e ...(5)
PdH+OH→Pd+H0+e ...(6)
カソード:(1/2)O+HO+2e→2OH ...(7)
NiOOH+HO+e →Ni(OH)+OH ...(8)
【0025】
本発明の第1または第2の燃料電池において、
前記第1の物質の酸化還元電位Eと、前記電気化学反応時の前記アノードの酸化還元電位EH2との関係は、E≧EH2であり、
かつ、
前記第2の物質の酸化還元電位Eと、前記電気化学反応時の前記カソードの酸化還元電位EO2との関係は、E≦EO2であるものとしてもよい。
【0026】
こうすることによって、上述した本発明の第1の燃料電池においては、アノードへの水素の供給量、および、カソードへの酸素の供給量がそれぞれ十分であって、燃料電池における上記反応式(1),(3)や、上記反応式(5),(7)で表される反応における電位が、二次電池として動作するときの電位よりも高いときに、上記反応式(2),(4)の逆反応や、上記反応式(6),(8)の逆反応によって、自ら充電することができる。また、上述した本発明の第2の燃料電池においては、アノードへの水素の供給量、および、カソードへの酸素の供給量がそれぞれ十分であって、燃料電池における上記反応式(1),(3)や、上記反応式(5),(7)で表される反応における電位が、二次電池として動作するときの電位よりも高いときに、上記反応式(2),(4)の逆反応や、上記反応式(6),(8)の逆反応によって、自ら充電することができる。
【0027】
なお、上記燃料電池において、第1の物質、および、第2の物質としては、それぞれ種々の物質を適用可能であり、例えば、
前記第1の物質は、金属酸化物、金属水酸化物、金属複合酸化物、金属水素化物の中から選択された物質を含み、
前記第2の物質は、金属酸化物、金属水酸化物、金属複合酸化物、金属水素化物の中から選択された物質を含み、
前記金属酸化物は、
MoO(ただし、x=1〜3)、NiO(ただし、x=1〜2)、FeO(ただし、x=1〜3)、CrO(ただし、x=1〜3)、ZnO(ただし、x=0.5〜1.5)からなる群より選択されるものであり、
前記金属水酸化物は、
MOOH(ただし、Mは、Mo,Ni,Fe,Cuのうちのいずれか)であり、
前記金属複合酸化物は、
ABxOy(ただし、Aは、Ni,Fe,Cr,Moのうちのいずれかであり、かつ、Bは、Zn,Ca,Co,Cuのういちのいずれかであり、かつ、x=0.5〜4、かつ、y=0.5〜4)であり、
前記金属水素化物は、
MHx(ただし、Mは、Pd,Ti,Fe,V,Cr,Ni,Coのうちのいずれかであり、かつ、x=0.01〜4)、ABxHy(ただし、Aは、Pd,Ti,Fe,V,Cr,Ni,Zr,Irのうちのいずれかであり、かつ、Bは、Co,Mg,Ca,B,Al,In,Ho,Sm,Ce,Te,Siのうちのいずれかであり、かつ、X=0.1〜3、かつ、y=0.01〜4)からなる群より選択されたものであるものとしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき以下の順序で説明する。
A.第1実施例:
A1.燃料電池の構成:
A2.燃料電池の動作:
B.第2実施例:
B1.燃料電池の構成:
B2.燃料電池の動作:
C.変形例:
【0029】
A.第1実施例:
A1.燃料電池の構成:
図1は、本発明の第1実施例としての燃料電池10の概略構成を示す説明図である。この燃料電池10は、プロトン伝導性を有する電解質膜12と、アノード14と、カソード16とを備えている。本実施例では、電解質膜12として、固体高分子膜を用いるものとした。電解質膜12として、プロトン伝導性を有する他の電解質を用いるようにしてもよい。
【0030】
アノード14には、燃料ガスとしての水素が供給される。また、カソード16には、酸化剤ガスとしての酸素が供給される。後述するように、通常の発電時には、アノード14において、水素からプロトン(H)と電子(e)とが生成される。アノード14で生成されたプロトンは、電解質膜12を通って、アノード14に移動する。また、電子は、アノード14、および、カソード16に接続された負荷20を通って、カソード16に移動する。一方、カソード16では、アノード14から受け取ったプロトン、および、電子と、外部から供給された酸素とから水が生成される。
【0031】
図中に、アノード14、および、カソード16の拡大図を模式的に示した。図示するように、アノード14は、電解質141と、カーボン触媒担体142と、触媒143と、付加物質144とを含んでいる。電解質141は、電解質膜12、カーボン触媒担体142、触媒143、付加物質144と接触しており、それぞれとの間でイオンが移動可能である。また、カーボン触媒担体142と、触媒143と、付加物質144とは、電気的に導通している。本実施例では、触媒143と、付加物質144とは、別個の物質であるものとしたが、これらは、部分合金化されていてもよい。
【0032】
カソード16は、アノード14と同様に、電解質161と、カーボン触媒担体162と、触媒163、付加物質164とを含んでいる。電解質161は、電解質膜12、カーボン触媒担体162、触媒163、付加物質164と接触しており、それぞれとの間でイオンが移動可能である。また、カーボン触媒担体162と、触媒163と、付加物質164とは、電気的に導通している。本実施例では、触媒163と、付加物質164とは、別個の物質であるものとしたが、これらは、部分合金化されていてもよい。
【0033】
なお、アノード14側の電解質141、および、カソード16側の電解質161は、電解質膜12と同じ物質である。また、本実施例では、アノード14側の触媒143、および、カソード16側の触媒163として、Pt(白金)を用いるものとした。触媒143、および、触媒163として、それぞれ他の物質を用いるものとしてもよい。また、アノード14側の付加物質144として、PdHを用いるものとし、カソード16側の付加物質164として、MoOを用いるものとした。PdHの酸化還元電位は、MoOの酸化還元電位よりも低い。また、PdHの酸化還元電位は、水素と酸素との電気化学反応時のアノード14の酸化還元電位よりも高い。また、MoOの酸化還元電位は、水素と酸素との電気化学反応時のカソード16の酸化還元電位よりも低い。アノード14側の付加物質144、および、カソード16側の付加物質164は、それぞれ本発明における第1の物質、および、第2の物質に相当する。
【0034】
A2.燃料電池の動作:
本実施例の燃料電池10は、通常の燃料電池としての機能の他に、充放電可能な二次電池としての機能も有している。これは、アノード14に含まれる付加物質144(PdH)、および、カソード16に含まれる付加物質164(MoO)の作用による。以下、燃料電池10の動作について説明する。
【0035】
燃料電池10において、アノード14に供給される水素、および、カソード16に供給される酸素の供給量が、それぞれ十分であるときには、下記反応式(1)で表される反応によってアノード14で生成されたプロトンを、下記反応式(3)表される反応によってカソード16で消費する電気化学反応によって発電する通常の燃料電池として動作する。
【0036】
そして、アノード14への水素の供給量が一時的に不足したときには、アノード14に含まれるPdHが、下記反応式(2)で表される反応によってプロトンを生成し、このプロトンを下記反応式(3)で表される反応によってカソード16で消費することによって、放電状態の二次電池として動作し、電流を出力することができる。
【0037】
一方、カソード16への酸素の供給量が一時的に不足したときには、下記反応式(1)で表される反応によってアノード14で生成されたプロトンを、カソード16に含まれるMoOが、下記反応式(4)で表される反応によって消費することによって、放電状態の二次電池として動作し、電流を出力することができる。
【0038】
さらに、アノード14への水素の供給量、および、カソード16への酸素の供給量の双方が、一時的に不足したときには、アノード14に含まれるPdHが、下記反応式(2)で表される反応によってプロトンを生成し、このプロトンをカソード16に含まれるMoOが、下記反応式(4)で表される反応によって消費することによって、放電状態の二次電池として動作し、電流を出力することができる。
【0039】
また、アノード14、および、カソード16に、外部から電位を加えることによって、下記反応式(4)で表される反応の逆反応によってカソード16でプロトンを生成するとともに、下記反応式(2)で表される反応の逆反応によってアノード14でプロトンを消費し、充電状態の二次電池として動作することができる。
【0040】
アノード:(1/2)H→H+e ...(1)
PdH →Pd+H+e ...(2)
カソード:H+e+(1/4)O →(1/2)HO ...(3)
+e+(1/2)MoO→(1/2)HO+(1/2)MoO...(4)
【0041】
図2は、燃料電池10の動作モードについて示す説明図である。周知の通り、燃料電池10の燃料電池としての出力電圧Vfcは、出力電流Iの増加とともに低下する。また、燃料電池10の二次電池としての出力電圧Vb、すなわち、放電電圧も、出力電流Iの増加とともに低下する。ただし、燃料電池10の二次電池としての出力電圧Vbの変化率は、燃料電池としての出力電圧Vfcの変化率よりも小さい。また、燃料電池10の二次電池としての出力電圧Vbは、概ねMoOの酸化還元電位と、PdHの酸化還元電位との差によって決定され、また、本実施例の燃料電池10では、付加物質144、および、付加物質164として、それぞれPdH、および、MoOを用いており、PdHの酸化還元電位は、水素と酸素との電気化学反応時のアノード14の酸化還元電位よりも高く、MoOの酸化還元電位は、水素と酸素との電気化学反応時のカソード16の酸化還元電位よりも低いので、出力電流Iが比較的小さいときの燃料電池10の二次電池としての出力電圧Vbは、燃料電池としての出力電圧Vfcよりも小さい。したがって、出力電流IがI=Ithを境界として、出力電流IがI<Ithのときには、燃料電池としての出力電圧Vfcが、二次電池としての出力電圧Vbよりも大きくなる。また、出力電流IがI>Ithのときには、二次電池としての出力電圧Vbが、燃料電池としての出力電圧Vfcよりも大きくなる。
【0042】
そして、出力電流IがI≦Ithのときには、燃料電池10は、燃料電池として動作する。このとき、燃料電池10は、燃料電池としての出力電圧Vfcによって、上記反応式(4)で表される反応の逆反応、および、上記反応式(2)で表される反応の逆反応によって、自己充電を行う。また、出力電流IがI>Ithのときには、燃料電池10は、放電状態の二次電池として動作する。
【0043】
以上説明した第1実施例の燃料電池10によれば、発電、および、充放電が可能な燃料電池を構成し、アノード14への水素の供給量や、カソード16への酸素の供給量が一時的に不足した場合でも、電流を出力することができる。
【0044】
また、一般に、プロトン伝導性を有する電解質膜を用いた燃料電池、特に、固体高分子型燃料電池では、発電によって生成された生成水が、カソードで凍結したり、過剰に滞留したりして、カソードへの酸素の供給が遮断され、発電性能が著しく低下したり、発電不能となったりする場合があるが、燃料電池システムに本実施例の燃料電池10を適用すれば、このような場合に、燃料電池10を、先に説明したように、放電状態の二次電池として動作させて電流を出力しつつ、生成水の凍結や、過剰な滞留を解消するための処理を行うようにすることができる。
【0045】
B.第2実施例:
B1.燃料電池の構成:
図3は、本発明の第2実施例としての燃料電池10Aの概略構成を示す説明図である。この燃料電池10Aは、水酸化物イオン伝導性を有する電解質12Aと、アノード14Aと、カソード16Aとを備えるアルカリ型燃料電池である。本実施例では、電解質12Aとして、水酸化カリウム水溶液を用いるものとした。電解質12Aとして、水酸化物イオン伝導性を有する他の電解質を用いるようにしてもよい。
【0046】
第1実施例の10と同様に、アノード14Aには、燃料ガスとしての水素が供給される。一方、カソード16Aには、酸化剤ガスとしての酸素が供給される。後述するように、通常の発電時には、アノード14Aにおいて、水素と、水酸化物イオン(OH)とから、水と電子(e)とが生成される。アノード14Aで生成された電子は、アノード14A、および、カソード16Aに接続された負荷20を通って、カソード16Aに移動する。一方、カソード16では、アノード14から受け取った電子と、電解質12A中の水と、外部から供給された酸素とから水酸化物イオンが生成される。
【0047】
本実施例において、アノード14Aは、主としてガス拡散性を有する多孔質カーボンからなり、触媒(以下、アノード触媒と呼ぶ)と、付加物質(以下、アノード付加物質と呼ぶ)とを含んでいる。また、カソード16Aも、主としてガス拡散性を有する多孔質カーボンからなり、触媒(以下、カソード触媒と呼ぶ)と、付加物質(以下、カソード付加物質と呼ぶ)とを含んでいる。
【0048】
なお、本実施例では、アノード触媒として、Pt−Pd合金を用いるものとした。また、カソード触媒として、Au−Pt合金を用いるものとした。アノード触媒、および、カソード触媒として、それぞれ他の物質を用いるものとしてもよい。また、アノード付加物質として、PdHを用いるものとし、カソード付加物質として、NiOOHを用いるものとした。PdHの酸化還元電位は、NiOOHの酸化還元電位よりも低い。また、PdHの酸化還元電位は、水素と酸素との電気化学反応時のアノード14Aの酸化還元電位よりも高い。また、NiOOHの酸化還元電位は、水素と酸素との電気化学反応時のカソード16Aの酸化還元電位よりも低い。アノード付加物質、および、カソード付加物質は、それぞれ本発明における第1の物質、および、第2の物質に相当する。
【0049】
B2.燃料電池の動作:
本実施例の燃料電池10Aも、第1実施例の燃料電池10と同様に、通常の燃料電池としての機能の他に、二次電池としての機能も有している。これは、アノード付加物質(PdH)、および、カソード付加物質(NiOOH)の作用による。以下、燃料電池10の動作について説明する。
【0050】
燃料電池10Aにおいて、アノード14Aに供給される水素、および、カソード16Aに供給される酸素の供給量が、それぞれ十分であるときには、下記反応式(7)で表される反応によってカソード16Aで生成された水酸化物イオンを、下記反応式(5)で表される反応によってアノード14Aで消費する電気化学反応によって発電する燃料電池として動作する。
【0051】
そして、アノード14Aへの水素の供給量が一時的に不足したときには、下記反応式(7)で表される反応によってカソード16Aで生成された水酸化物イオンを、アノード14Aに含まれるPdHが、下記反応式(6)で表される反応によって消費することによって、放電状態の二次電池として動作し、電流を出力することができる。
【0052】
一方、カソード16Aへの酸素の供給量が一時的に不足したときには、カソードに含まれるNiOOHが、下記反応式(8)で表される反応によって水酸化物イオンを生成し、この水酸化物イオンを下記反応式(5)で表される反応によってアノード14Aで消費することによって、放電状態の二次電池として動作し、電流を出力することができる。
【0053】
さらに、アノード14Aへの水素の供給量、および、カソード16Aへの酸素の供給量の双方が、一時的に不足したときには、カソード16Aに含まれるNiOOHが、下記反応式(8)で表される反応によって水酸化物イオンを生成し、この水酸化物イオンをアノード14Aに含まれるPdHが、下記反応式(6)で表される反応によって消費することによって、放電状態の二次電池として動作し、電流を出力することができる。
【0054】
また、アノード14A、および、カソード16Aに、外部から電位を加えることによって、下記反応式(6)で表される反応の逆反応によってアノード14Aで水酸化物イオンを生成するとともに、下記反応式(8)で表される反応の逆反応によってカソード16Aで水酸化物イオンを消費し、充電状態の二次電池として動作することができる。
【0055】
アノード:H+2OH→2HO+2e ...(5)
PdH+OH→Pd+H0+e ...(6)
カソード:(1/2)O+HO+2e→2OH ...(7)
NiOOH+HO+e →Ni(OH)+OH ...(8)
【0056】
なお、燃料電池10Aの動作モードについては、第1実施例において図2を用いて説明したものと同じであるので、説明を省略する。
【0057】
以上説明した第2実施例の燃料電池10Aによっても、発電、および、充放電が可能な燃料電池を構成し、アノード14Aへの水素の供給量や、カソード16Aへの酸素の供給量が一時的に不足した場合でも、電流を出力することができる。
【0058】
C.変形例:
以上、本発明のいくつかの実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、以下のような変形例が可能である。
【0059】
C1.変形例1:
上記第1実施例では、付加物質144、および、付加物質164として、それぞれPdH、および、MoOを用いるものとしたが、これに限られない。一般に、付加物質144、および、付加物質164としては、付加物質144の酸化還元電位が、付加物質164の酸化還元電位よりも低ければよく、さらに、付加物質144の酸化還元電位が、水素と酸素との電気化学反応時のアノードの酸化還元電位以上であり、かつ、付加物質164の酸化還元電位が、上記電気化学反応時のカソードの酸化還元電位以下であることが好ましい。このような条件を満たす物質は、例えば、金属酸化物、金属水酸化物、金属複合酸化物、金属水素化物の中から適宜選択される。金属酸化物としては、例えば、MoO(ただし、x=1〜3)、NiO(ただし、x=1〜2)、FeO(ただし、x=1〜3)、CrO(ただし、x=1〜3)、ZnO(ただし、x=0.5〜1.5)が挙げられる。また、金属水酸化物としては、例えば、MOOH(ただし、Mは、Mo,Ni,Fe,Cuのうちのいずれか)が挙げられる。また、金属複合酸化物としては、例えば、ABxOy(ただし、Aは、Ni,Fe,Cr,Moのうちのいずれかであり、かつ、Bは、Zn,Ca,Co,Cuのうちのいずれかであり、かつ、x=0.5〜4、かつ、y=0.5〜4)が挙げられる。また、金属水素化物としては、例えば、MHx(ただし、Mは、Pd,Ti,Fe,V,Cr,Ni,Coのうちのいずれかであり、かつ、x=0.01〜4)、ABxHy(ただし、Aは、Pd,Ti,Fe,V,Cr,Ni,Zr,Irのうちのいずれかであり、かつ、Bは、Co,Mg,Ca,B,Al,In,Ho,Sm,Ce,Te,Siのうちのいずれかであり、かつ、X=0.1〜3、かつ、y=0.01〜4)が挙げられる。上記第2実施例におけるアノード付加物質、および、カソード付加物質についても同様である。
【0060】
C2.変形例2:
上記第1実施例、および第2実施例では、本発明を単電池に適用した場合を一例として示したが、複数の単電池を、セパレータを介在させて複数積層させたスタック構造を有する燃料電池スタックに本発明を適用するものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1実施例としての燃料電池10の概略構成を示す説明図である。
【図2】燃料電池10の動作モードについて示す説明図である。
【図3】本発明の第2実施例としての燃料電池10Aの概略構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0062】
10,10A...燃料電池
12...電解質膜
12A...電解質
14,14A...アノード
141...電解質
142...カーボン触媒担体
143...触媒
144...付加物質
16,16A...カソード
161...電解質
162...カーボン触媒担体
163...触媒
164...付加物質
20...負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、プロトン伝導性を有する所定の電解質と、カソードとを備え、前記アノードに供給された水素と前記カソードに供給された酸素との電気化学反応によって発電する燃料電池であって、
前記アノードは、自身の酸化還元反応によって、プロトンを生成する機能と、該プロトンを生成した後、前記カソードから供給されたプロトンを消費する機能とを有する第1の物質を含み、
前記カソードは、自身の酸化還元反応によって、前記アノードから供給されたプロトンを消費する機能と、該プロトンを消費した後、プロトンを生成する機能とを有する第2の物質を含み、
前記第1の物質の酸化還元電位Eと、前記第2の物質の酸化還元電位Eとの関係は、E<Eである、
燃料電池。
【請求項2】
アノードと、水酸化物イオン伝導性を有する所定の電解質と、カソードとを備え、前記アノードに供給された水素と前記カソードに供給された酸素との電気化学反応によって発電する燃料電池であって、
前記アノードは、自身の酸化還元反応によって、前記カソードから供給された水酸化物イオンを消費する機能と、該水酸化物イオンを消費した後、水酸化物イオンを生成する機能とを有する第1の物質を含み、
前記カソードは、自身の酸化還元反応によって、水酸化物イオンを生成する機能と、該水酸化物イオンを生成した後、前記アノードから供給された水酸化物イオンを消費する機能とを有する第2の物質を含み、
前記第1の物質の酸化還元電位Eと、前記第2の物質の酸化還元電位Eとの関係は、E<Eである、
燃料電池。
【請求項3】
請求項1または2記載の燃料電池であって、
前記第1の物質の酸化還元電位Eと、前記電気化学反応時の前記アノードの酸化還元電位EH2との関係は、E≧EH2であり、
かつ、
前記第2の物質の酸化還元電位Eと、前記電気化学反応時の前記カソードの酸化還元電位EO2との関係は、E≦EO2である、
燃料電池。
【請求項4】
請求項3記載の燃料電池であって、
前記第1の物質は、金属酸化物、金属水酸化物、金属複合酸化物、金属水素化物の中から選択された物質を含み、
前記第2の物質は、金属酸化物、金属水酸化物、金属複合酸化物、金属水素化物の中から選択された物質を含み、
前記金属酸化物は、
MoO(ただし、x=1〜3)、NiO(ただし、x=1〜2)、FeO(ただし、x=1〜3)、CrO(ただし、x=1〜3)、ZnO(ただし、x=0.5〜1.5)からなる群より選択されるものであり、
前記金属水酸化物は、
MOOH(ただし、Mは、Mo,Ni,Fe,Cuのうちのいずれか)であり、
前記金属複合酸化物は、
ABxOy(ただし、Aは、Ni,Fe,Cr,Moのうちのいずれかであり、かつ、Bは、Zn,Ca,Co,Cuのうちのいずれかであり、かつ、x=0.5〜4、かつ、y=0.5〜4)であり、
前記金属水素化物は、
MHx(ただし、Mは、Pd,Ti,Fe,V,Cr,Ni,Coのうちのいずれかであり、かつ、x=0.01〜4)、ABxHy(ただし、Aは、Pd,Ti,Fe,V,Cr,Ni,Zr,Irのうちのいずれかであり、かつ、Bは、Co,Mg,Ca,B,Al,In,Ho,Sm,Ce,Te,Siのうちのいずれかであり、かつ、X=0.1〜3、かつ、y=0.01〜4)からなる群より選択されたものである、
燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−10312(P2008−10312A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179804(P2006−179804)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】