説明

白内障形成リスクに関するスクリーニング法

本発明は、カリウム・イオン・チャネルを通じたイオン流動を測定することによって、白内障形成を誘導する能力に関して、候補療法剤をスクリーニングする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、水晶体細胞イオン・チャネルを通じたカリウム・イオン流動を測定することによって、薬剤が誘導する白内障形成リスクに関してスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
白内障は、眼の水晶体が曇るかまたは不透明になり、視力を損ない、そして治療しないと失明を導きうる状態である。一連の複雑な化学事象の結果、混濁化が起こり、そしてしたがって白内障の潜在的な原因は、非常に多様な範囲に渡るようである。
【0003】
白内障は、重大な公衆衛生上の問題であり、そして社会に深刻な損失を与える。例えば、米国では、かなりのメディケア予算が白内障手術に費やされている。
薬剤物質を含む特定の化学剤が白内障を引き起こしうることが知られている。化学薬品、化粧品および食品添加物を生産する産業を含むいくつかの産業とともに、製薬産業にとって、製品が安全であることを保障するのが最大の関心事である。こうしたものとして、白内障を生じうる毒性を含めて、こうした製品による毒性のリスクを最小限にすることに、多大な配慮がなされてきている。
【0004】
Zhang, J.J.(1994)は、タモキシフェンが水晶体上の塩素(イオン)チャネルをブロッキングすることを開示し、そしてこれが白内障を含む、タモキシフェンの既知の副作用に関与する機構である可能性もあることを示唆している。
【0005】
Zhang, J.J.およびJacob, T.J.C.(1996)は、塩素チャネルが水晶体の体積制御に関与し、そしてこうしたチャネルの阻害が水晶体膨張および混濁化を生じることを示唆している。
【0006】
培養水晶体上皮細胞において、カリウム・チャネル・コンダクタンスを測定するためのパッチクランプ技術の使用が、Cooper, K.ら(1990)に開示されている。
Rae, J.L.(1994)は、ニワトリ、ブタ、サル、ウサギ、ウシおよびヒト水晶体の単離上皮細胞が、電圧ステップ後、しばしば、遅れてスイッチが入り、そして巨視的には内向きの電流より外向きの電流に、より大きいコンダクタンスを有するカリウム・チャネルを含有することを開示している。
【0007】
ヒト水晶体上皮細胞株は、米国特許第5,885,832号およびIbaraki, N.(1998)に開示されている。
薬剤と目される剤および他の剤の白内障形成能を評価する、in vitroおよびin vivo両方の方法が開示されてきている。例えば、典型的には、in vivo法は、動物を試験剤で治療することを含み、その後、眼の水晶体をin vivoで試験して、白内障形成レベルを測定する。こうした方法は、典型的には、細隙灯顕微鏡などの装置の使用を含む。Wegener, A.ら(1989);Toogood, J.H.ら(1993)。
【0008】
試験剤の白内障形成能をin vitroで評価することもまた可能である。こうした方法は、動物の外植された培養水晶体の使用を含み、該培養水晶体を試験剤に曝露し、そして次いで、白内障形成に関して評価する。Aleo, M.D.ら(2000);Xu, G.T.ら(1992)。こうした方法の変型は、in vivo法およびin vitro法を組み合わせて使用することを含む。
【0009】
白内障形成を試験するin vivo法は、試験動物から水晶体を物理的に除去することを要しない点で、利用可能なin vitro法よりも勝っている。しかし、どちらの種類の方法にも欠点がある。例えば、2次元画像の投影を要する細隙灯法では、水晶体の厚みのため、鮮明な画像を得るのが困難である。Jaffe, N.S.およびHorwitz, J.(1992)。他の不都合な点には、試験速度が比較的遅い(低処理)であること、および試験に比較的多量の剤が必要であることが含まれる。
【0010】
in vivo法とin vitro外植片法はどちらも、実験室試験動物の使用を要する点がさらに不都合である。実験室研究における動物の使用は、ヒトおよび動物の健康の改善に重要な貢献を提供してきたが、適切な場合は常に、動物実験を、少なくとも匹敵する安全性リスク評価を提供しうるin vitro生物学的系に置き換えることが、製薬産業の方針である。
【0011】
試験剤の眼への毒性を評価するために、現在利用可能な方法は、有用でそして重要な機能を提供してきているが、それにもかかわらず、潜在的な白内障形成能の信頼しうる、そして正確な評価を提供する、新たなin vitro法に関する必要性が存在する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明の概要
本発明は、試験剤を性質決定する方法であって、哺乳動物細胞を試験剤で処理し;そして前記細胞の膜を通じたカリウム・イオン流動に対する試験剤の影響を測定することによって、試験剤の白内障形成(cataractogenic)能を性質決定する、ここで前記細胞はカリウム・イオン・チャネルを含む、前記方法に、部分的に関する。
【0013】
本発明の別の側面は、試験剤を性質決定する方法であって:哺乳動物細胞を試験剤で処理し;電気生理学的方法により、前記細胞の膜を通じたカリウム・イオン流動に対する試験剤の影響を測定することによって、試験剤の白内障形成能を性質決定する、ここで前記細胞はカリウム・イオン・チャネルを含む、前記方法を提供する。
【0014】
本発明のさらなる側面は、試験剤を性質決定する方法であって:哺乳動物細胞を試験剤で処理し;前記細胞の膜を通じたカリウム・イオン流動に対する試験剤の影響を測定し;そして試験剤を以下の一方:該剤が前記細胞を通じたカリウム・イオン流動に変化を引き起こすならば白内障形成性であり;または該剤が前記細胞を通じたカリウム・イオン流動に変化を引き起こさないならば白内障形成性でないと性質決定する、ここで前記細胞はカリウム・イオン・チャネルを含む、前記方法を提供する。
【0015】
本発明の好ましい態様において、該哺乳動物細胞は、水晶体上皮細胞、より好ましくはSRA 01/04細胞である。
別の好ましい態様において、電気生理学的方法を用いることによる、カリウム・イオン流動に対する試験剤の影響の測定は、全細胞パッチクランプ電気生理である。
【0016】
便宜上、本発明をさらに説明する前に、本明細書、実施例、および付随する請求項において使用する特定の用語をここに集める。これらの定義は、全開示をふまえて解釈すべきであり、そして当業者が理解するとおりに理解すべきである。
【0017】
単数形「a」、「an」、および「the」には、文脈が明確に別に指示しない限り、複数の言及も含まれる。
「白内障形成」は、一方の眼または両方の眼の、水晶体もしくは被膜上のまたはこれらの中の、部分的または完全な混濁、特に視力を損なうか失明を引き起こす混濁の誘導を意味する。白内障形成はまた、こうした混濁を検出する慣用的方法の検出限界以下の混濁の部分的誘導も指し、そしてまた、こうした誘導を誘導するかまたは誘発する過程または化学的状態も指す。
【0018】
「クランピング」は、イオン・チャネル研究のための電気生理学的方法を指すのに用いた場合、膜を渡って生じる電圧または電流(イオンの移動のため)が不変であることを意味する。電圧がクランピングされると、該方法は、チャネルを通じたイオン移動によって生じる電流のみを測定し、そして膜を渡るイオン性電流の直接測定が可能になる。
【0019】
「コンダクタンス」は、イオンがチャネルを通じて移動する容易さを意味し、ジーメンス(S)で測定可能である。
「電流」は、イオン・チャネルを渡るかまたはイオン・チャネルを通じた、イオン流動の速度を意味する。
【0020】
「電気生理学的方法」は、生物学的組織において、イオンの流れまたは電圧を測定する方法いずれか、および特にこの流れの測定を可能にする電気的記録技術を意味する。これらには、いわゆる受動的記録とともに、「電圧固定」および「パッチクランプ」技術が含まれ、該技術は、明記されるレベルで、細胞電位を「クランピング」するかまたは維持する。この調節は、演算増幅器回路を通じたフィードバックを用いて達成可能である。膜電位の調節は、電位開口型イオン・チャネルの研究に最も明らかな価値があるが、コンダクタンスを性質決定するのも補助する。最も一般的な電気生理学的記録技術は、「ガラス電極」を用いて、細胞または組織内部との電気的接触を確立する。こうした電極は、実験者によって、直径約1mmの細いガラス管から形成され、実験者はこのガラス管を熱の元で引き伸ばして、先端をさらにより細く(しかしなお中空に)し、そして冷却させる。次いでこのガラス「マイクロピペット」に、塩素イオンに基づく塩溶液を満たし、そして塩素イオンでコーティングした銀ワイヤを挿入して、ピペットの液体およびピペットを挿入する組織または細胞との電気化学的接合を確立する(典型的には、顕微鏡、およびマイクロマニピュレーターとして知られる、細かく調整可能なピペットホルダーの補助が伴う)。塩素イオンでコーティングした銀ワイヤを増幅器に再びつなぐ。生物学的電流をオシロスコープ上に記録するか、チャート紙上に記録するか、またはコンピュータを用いて記録することも可能である。
【0021】
「流動」は、細胞膜を渡るイオンの流れまたは移動を意味する。
「含む」は、「限定されるわけではないが含む」を意味する。「含む」および「限定されるわけではないが含む」は、交換可能に使用可能である。
【0022】
「誘導する」は、引き起こすかまたは生じることを意味する。
「イオン」は、電子の通常の補完(complement)から電子を獲得したかまたは失い、そしてしたがって、純負電荷または純正電荷を所持する、原子または分子いずれかを意味する。典型的なイオンには、限定されるわけではないが、カリウム・イオン、ナトリウム・イオン、水素イオン、カルシウム・イオン、塩素イオン、水酸化イオン、硫酸イオン、およびリン酸イオンが含まれる。
【0023】
「水晶体上皮細胞」は、眼の水晶体上皮を構成するかまたは前に構成していた細胞いずれか、例えば水晶体から単離された細胞を意味する。さらに、用語「水晶体上皮細胞」は、水晶体上皮細胞株培養物の初代細胞または子孫細胞を含む。
【0024】
「試験剤」は、白内障形成能を性質決定しようとする化学剤または生物学的剤を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
発明の詳細な説明
本明細書で用いる略語は、当該技術分野における通常の意味を有する。しかし、本発明をさらにより明確にするため、便宜上、特定の略語の意味を以下のように提供する:「℃」は摂氏度を意味し;「μl」はマイクロリットルを意味し;「ATCC」は、バージニア州マナサスにあるアメリカン・タイプ組織カルチャー・コレクション(ウェブサイトwww.atcc.org)を意味し;「cDNA」は相補DNAを意味し;「dl」はデシリットルを意味し;「DMEM」はダルベッコの修飾イーグル培地を意味し;「DMSO」はジメチルスルホキシドを意味し;「DNA」はデオキシリボ核酸を意味し;「EDTA」はエチレンジアミン四酢酸を意味し;「EGTA」はエチレングリコール−ビス(b−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸を意味し;「EMEM」はイーグルの最小必須培地を意味し:「FBS」はウシ胎児血清を意味し;「g」はグラムを意味し;「GΩ」はギガオームを意味し;「HEPES」はN−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸を意味し;「kg」はキログラムを意味し;「NaCl」は塩化ナトリウムを意味し;「NaOH」は水酸化ナトリウムを意味し;「MEM」は修飾イーグル培地を意味し;「mRNA」はメッセンジャーRNAを意味し;「mg」はミリグラムを意味し;「ml」はミリリットルを意味し;「mM」はミリモルを意味し;「MΩ」はメガオームを意味し;「mOsm」はミリオスモルを意味し;「ms」はミリ秒を意味し;「ng」はナノグラムを意味し;「Ω」はオームを意味し;「PCR」はポリメラーゼ連鎖反応を意味し;「PBS」はリン酸緩衝生理食塩水を意味し;「RNA」はリボ核酸を意味し;「RPM」は分あたりの回転数を意味し;そして「RT−PCR」は逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応を意味し;「TEA」はテトラエチルアンモニウムを意味し;「xg」は引力の倍数として測定した遠心力を意味する。
【0026】
哺乳動物水晶体は、高濃度の水晶体タンパク質(主にアルファ・クリスタリンおよびガンマ・クリスタリン)を含有する細胞が正確にパッキングされた多層を含む無血管組織である。眼の水晶体の透明性は、線維細胞中で、短距離の相互作用を介して、高濃度の水晶体タンパク質を規則正しくパッキングして、濃密なガラス様液相を形成することによって維持される。上皮細胞は、水晶体前部表面の単層中に存在し、そして代謝活性、イオン勾配の維持、および水晶体機能に関与するタンパク質の合成に関与する。上皮細胞は、前部層上で増殖した後、水晶体中央に向かって遊走するにつれて、伸長された線維細胞へと最終的に分化する。古い線維細胞は水晶体から除去されず、より若い線維細胞がその上に固着するにつれて、水晶体の中央へと単に圧縮される。線維細胞は、成熟し、そして圧縮されるにつれて、核および他の細胞小器官を失い、脱水し始め、タンパク質代謝回転を止め、そして水晶体に向かって約1/3進む頃には、代謝活性のほぼすべてを失う。これらの成熟線維細胞は、「濃縮されたタンパク質溶液の不活性バッグ」と見なすことも可能であり、こうした細胞は、水晶体の非常に中央近くでは、最終的に、700mg/mlものタンパク質濃度を有することも可能である。
【0027】
水晶体には血管がないため、水晶体は、眼房水から溶質およびイオンを取り込むのに、上皮細胞に頼る。上皮細胞は、次いで、必要な代謝必需品すべてを、水晶体中の線維細胞に提供しなければならない。このユニークな役割を達成するため、水晶体は、非常に多様なチャネル、ポンプ、輸送体、およびギャップ結合部の細胞間連結を用いて、栄養素を分配し、代謝産物を除去し、そして上皮細胞および水晶体線維細胞両方の適切なイオンバランスおよび水和を維持する。
【0028】
本発明は、試験化合物が、眼の水晶体におけるカリウム・イオン・チャネル・コンダクタンスをブロッキングする能力を測定することによって、該試験剤の白内障形成能を予測可能であるという発見に、部分的に基づく。カリウム・チャネルをブロッキングする化合物は、水晶体白内障を引き起こす可能性があることが見出されている。本発明は、白内障形成剤を同定する、単純なスクリーニング法を提供する。
【0029】
作用の適切な機構に関して、いかなる特定の理論に束縛されることも望ましくないが、白内障形成は、水晶体上皮細胞体積の制御に関連付けられると考えられている。さらに、細胞の膨張は、細胞の内部環境の変化を引き起こし、これが次に、内部細胞下構成要素の破壊を生じると考えられている。こうした破壊の影響で、水晶体透明度が損失を受ける。最も重要なことに、カリウム・チャネルは、細胞体積制御における重要な因子であり、そしてこうしたチャネルのブロッキングは、細胞膨張、そして最終的には白内障を生じると考えられている。
【0030】
A.細胞
本発明の1つの態様において、細胞を剤で処理し、そして細胞のカリウム・イオン流動に対するこうした処理の影響を測定することによって、剤の白内障形成能に関して、剤を性質決定する。表面上にカリウム・イオン・チャネルを発現する哺乳動物細胞はいずれも、本発明のこの態様の実施に使用可能である。こうした細胞には、内因性にカリウム・イオン・チャネルを発現する哺乳動物細胞とともに、カリウム・イオン・チャネルを発現するように遺伝子修飾されている細胞も含まれることも可能である。好ましい態様において、こうした細胞は、哺乳動物水晶体上皮細胞由来である。
【0031】
哺乳動物水晶体上皮細胞のいかなる種類を、本発明の方法で使用することも可能であり、こうした細胞には、哺乳動物水晶体組織外植片から直接得た上皮細胞、および水晶体哺乳動物上皮細胞株から得た上皮細胞が含まれる。当業者は、本発明の方法によって、特定の哺乳動物種、例えばヒトにおいて、白内障形成リスクを予測する際、同じ種由来の上皮細胞を用いるのが好ましいことを認識するであろう。
【0032】
1.水晶体上皮細胞の初代培養調製
本開示に基づいて、当業者に知られる方法によって、前部水晶体被膜および付着した上皮から初代細胞培養を開始することも可能である。例えば、病理解剖された眼球(ocular globe)から、好ましくは死後6時間以内に、注意深く顕微解剖することによるか、または眼の手術、例えば白内障手術もしくは硝子体手術から、水晶体被膜およびその付着する上皮を得ることも可能である。好ましい供給源は、硝子体手術で得られた、または未熟児網膜症の治療のために得られた、乳児の水晶体上皮である。
【0033】
各被膜に関して、すべての過剰な被膜および線維細胞を切り取り、上皮およびその被膜の単層のみを残す。次いで、上皮および被膜を、pH7.35の低カルシウム・ナトリウム・アスパラギン酸リンガー液中の、0.125%コラゲナーゼ(IV型、Worthington Biochemical Corp.、ニュージャージー州レークウッド)および0.05%プロテアーゼ(XXIV型、Sigma−Aldrich Co.、ミズーリ州セントルイス)の溶液において、室温でインキュベーションする。次いで、1時間半〜2時間後、上皮細胞が付着した被膜を、酵素溶液から穏やかに取り除き、そして標準的塩化ナトリウム・リンガー溶液(149.2mM NaCl、4.74mM KCl、2.54mM CaCl、5.0mM Hepesおよび10mMグルコース(pH7.35および重量モル浸透圧濃度305mOsm/l))5ml中に入れた。先端熱加工した(fire−polished)パスツールピペットで穏やかに細かくすり砕く(trituration)ことによって、被膜から細胞を解離させ、そして生じた懸濁細胞を、350xg、3〜5分間の遠心分離によって遠心する。次いで、細胞を新鮮な標準的塩化ナトリウム・リンガー溶液に再懸濁する。
【0034】
2.水晶体上皮細胞株の調製
ヒト・ドナー水晶体上皮細胞は入手可能であるとはいえ、その供給量は十分ではない。さらに、成人または老人白内障患者から得られる水晶体上皮細胞は、細胞培養中で増殖不能であるか、または継体培養不能であり、そして乳児由来の細胞は、増殖能が限定されており、そして時間とともに変性する。Ibaraki, N.ら(1998)。これらの理由のため、本発明の方法を実施する際には、水晶体上皮細胞株由来の細胞が好ましい。
【0035】
本開示に基づいて、当業者に知られる方法によって、哺乳動物水晶体上皮細胞株を調製することも可能である。例えば、初代培養を調製するために上述した方法によって単離した細胞を、10〜20%ウシ胎児血清またはウシ血清を含有する液体培地、例えばEMEM、ダルベッコの修飾EMEM、HAM培地F12または勝田培地DM−160中に懸濁し、そして二酸化炭素インキュベーター中、14〜21日間プレインキュベーションする。次いで、本開示に基づき、当業者に知られる方法によって、生じた細胞を不死化する。例えば、SV40ラージT抗原遺伝子を通じて不死性を与えるサル・ウイルス40(SV40)(Andley, U.Pら(1994)を参照されたい)などのウイルスに細胞を感染させることも可能である。より好ましくは、当業者に知られる方法によって、SV49ラージT抗原遺伝子を含有するプラスミド(Genbank寄託番号VIRU0033)で細胞をトランスフェクションする(Ibarakiら(1998)を参照されたい)。
【0036】
以下の刊行物は、水晶体上皮細胞株を生成し、そして培養する多様な方法を記載し、そして各刊行物の内容は、本明細書に完全に援用される:Bermbach, G.ら(1991);Chandrasekharam, N.N.およびBhat, S.P.(1989);Jacob, T.J.C.(1987);Lipman, R.D.およびTaylor, A.(1987);Reddan, J.R.ら(1982/1983)。また、水晶体上皮細胞株は、商業的に入手可能であり、例えば、ATCCのヒト水晶体上皮細胞株CRL−11421、および工業技術院生命工学工業技術研究所、日本・茨城のFERM BP−5454がある。
【0037】
好ましい態様において、本発明の方法で用いる水晶体上皮細胞は、ヒト水晶体上皮細胞株SRA 01/04である。細胞株SRA 01/04は、国際寄託番号FERM BP−5454の元に、工業技術院生命工学工業技術研究所、日本・茨城から入手可能である。
【0038】
3.カリウム・チャネルを発現する哺乳動物細胞の調製
哺乳動物細胞がカリウム・イオン・チャネルを発現するように遺伝子修飾する方式は、本開示に基づいて、当業者には明らかであろう。例えば、チャイニーズ・ハムスター卵巣(CHO)細胞およびHEK−293細胞にカリウム・チャネルをトランスフェクションする方法が、Shepard, A.R.およびRae, J.L.(1999)に記載される。
【0039】
一般的に、生物学的に活性であるカリウム・イオン・チャネルを発現するには、カリウム・チャネルをコードする適切なヌクレオチド配列を、適切な発現ベクターに挿入する。いくつかのカリウム・イオン・チャネル配列が当該技術分野に知られ、例えばRae, J.LおよびShepard, A.R.(1998)に記載されるKv2.1(Genbank寄託番号AF026005)、並びにSano, Y.(2002)に記載されるKv6.3(Genbank寄託番号AB070604)などがある。他のものは、本開示に基づいて、当業者には明らかであろう。
【0040】
本開示に基づいて、当業者は、カリウム・イオン・チャネルをコードする配列、並びに適切な転写調節要素および翻訳調節要素を含有する発現ベクターを構築するため、いかなる適切な既知の方法を用いることも可能である。これらの方法には、例えば、in vitro組換えDNA技術、合成技術、およびin vivo遺伝子組換えが含まれる(例えばSambrook, J.ら(1989);Ausubel, F.M.ら(2001)を参照されたい)。
【0041】
適切な宿主において、挿入されたカリウム・イオン・チャネルをコードする配列を転写調節および翻訳調節する要素には、カリウム・チャネルをコードするベクターおよびポリヌクレオチド配列中の、エンハンサー、恒常性プロモーターおよび誘導性プロモーターなどの制御配列、並びに5’および3’非翻訳領域が含まれることも可能である。当業者が認識するであろうように、こうした要素は、その強度および特異性が多様である。特定の開始シグナルを用いて、カリウム・チャネルをコードする配列のより効率的な翻訳を達成することもまた可能である。こうしたシグナルには、ATG開始コドンおよび隣接配列、例えばコザック配列が含まれる。本発明を実施する目的のため、カリウム・イオン・チャネルおよびその開始コドンをコードする配列、並びに上流制御配列を、適切な発現ベクターに挿入する場合、さらなる転写調節シグナルまたは翻訳調節シグナルは不要であることもある。しかし、コード配列またはその断片のみを挿入する場合、インフレームATG開始コドンを含む、外因性の翻訳調節シグナルをベクターが提供しなければならない。外因性翻訳要素および開始コドンは、天然および合成両方の、多様な起源のものであることも可能である。用いる特定の宿主細胞系に適したエンハンサーを含むことによって、発現効率を増進させることも可能である(例えばScharf, D.ら(1994)を参照されたい)。
【0042】
当業者には、本開示に基づいて、適切な選択系(「選択マーカー」)いずれかを用いて、形質転換細胞株を回収可能であることがさらに認識されるであろう。これらには、限定されるわけではないが、それぞれ、tk−細胞およびapr−細胞で使用するための、単純疱疹ウイルス・チミジンキナーゼおよびアデニン・ホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子が含まれる(例えばWigler, M.ら(1977);Lowy, I.ら(1980)を参照されたい)。代謝拮抗剤、抗生物質、または除草剤耐性もまた、選択の基礎として使用可能である。例えば、dhfr(ジヒドロ葉酸レダクターゼ)はメトトレキセートに対する耐性を与え;neoはアミノ配糖体ネオマイシンおよびG−418に対する耐性を与え;そしてalsおよびpatは、それぞれ、クロルスルフロンおよびフォスフィノスリシン・アセチルトランスフェラーゼに対する耐性を与える(Wigler, M.ら(1980);Colbere−Garapin, F.ら(1981)を参照されたい)。さらなる選択可能遺伝子が記載されており、例えば代謝産物に関する細胞要求を改変するtrpBおよびhisDがある(例えばHartman, S.C.ら(1988)を参照されたい)。可視選択マーカー、例えばアントシアニン、緑色蛍光タンパク質(Clontech、カリフォルニア州パロアルト)、βグルクロニダーゼおよびその基質、β−グルクロニド、またはルシフェラーゼおよびその基質、ルシフェリンを用いることも可能である。これらのマーカーを用いて、形質転換体を同定するだけでなく、特定のベクター系に起因する一過性タンパク質発現または安定タンパク質発現の量を定量化することも可能である(例えば、Rhodes, C.A.(1995)を参照されたい)。
【0043】
選択マーカー遺伝子発現の存在または非存在は、場合によっては、目的の遺伝子もまた存在することを示唆するが、こうした場合いずれにおいても、遺伝子の存在および発現を確認することが望ましい可能性もある。例えば、カリウム・チャネルをコードする配列を、選択マーカー遺伝子配列内に挿入する場合、選択マーカー遺伝子機能の非存在によって、カリウム・チャネルをコードする配列を含有する形質転換細胞を同定することも可能である。あるいは、選択マーカー遺伝子を、単一プロモーターの調節下、カリウム・チャネルをコードする配列とタンデムに配置することも可能である。当業者が認識するであろうように、本開示に基づいて、誘導または選択に反応するマーカー遺伝子の発現は、一般的に、タンデム遺伝子の発現もまた示す。
【0044】
本開示に基づいて、当業者に知られる多様な方法によって、カリウム・チャネルをコードするヌクレオチド配列を含有する宿主細胞を同定することも可能である。これらの方法には、限定されるわけではないが、DNA−DNAまたはDNA−RNAハイブリダイゼーション、PCR増幅、およびタンパク質バイオアッセイまたはイムノアッセイ技術が含まれ、これらには、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の検出および/または定量化のための膜、溶液および/またはチップに基づく技術が含まれる。こうした方法および技術は、例えばAusubel, F.M.ら(2001)に記載される。
【0045】
B.カリウム・イオン流動を測定する方法
水晶体細胞におけるイオンの流動を測定するため、当業者に知られる多様な技術のいずれを本発明とともに用いてもよく、これらには、限定されるわけではないが、電気生理学的技術、および蛍光色素の使用など、イオン流動を画像化する方法が含まれる。しかし、好ましい方法は、電気生理学的技術を使用する。
【0046】
当業者が認識するであろうように、本開示に基づいて、こうした方法において、細胞における電気コンダクタンスを測定可能ないかなる電気生理学的技術を用いてもよい。例には、細胞内微小電極記録(間接的測定)、二微小電極電圧固定、および単一微小電極電圧固定が含まれる。
【0047】
パッチクランプ技術およびその改善法は、細胞における電流を研究するため、特に細胞膜を渡るイオン輸送を研究するため、そしていくつかの場合は、細胞中の単一チャネルを通じた電流を研究するために開発されてきた。これらの電流を測定するため、一般的に、非常に緊密なシールが達成されるように、細胞の膜をパッチマイクロピペットの開口部にしっかり付着させる。このシールは、電流がパッチマイクロピペット外部に流出するのを防止する。その結果生じる、シールを渡る高い電気抵抗を利用して、電圧を適用し、そして高分解能の電流測定を行い、そして膜を渡る電圧を適用することも可能である。異なる配置のパッチクランプ技術を用いることも可能である(Sakmann, B.およびNeker, E.(1984))。本発明では、細胞に付着した様式のパッチクランプ技術を用いて、カリウム・チャネルの存在を記録することも可能であり、そしてインサイドアウトおよびアウトサイドアウトのパッチ配置を用いて、多様な化学薬品に対するカリウム・チャネルの感度を記録することも可能である。Cooper, K.ら(1990)は、培養水晶体上皮細胞におけるカリウム・チャネル・コンダクタンスを測定するためのパッチクランプ技術の使用を記載する。
【0048】
一般的に、測定しようとするイオンおよび細胞種に応じて、技術を適切に適応させて、パッチクランプ測定を以下のように行うことも可能である。ガラス・マイクロキャピラリーまたはマイクロピペットに生理食塩水緩衝溶液を満たし、そして微小電極を取り付ける。電極の機能は、ピペット溶液中のイオンの可逆的交換を介して、ワイヤへの電気的連結を提供することである。顕微鏡および微小操作(micromanipulating)アームを使用して、目的のイオン・チャネルを含有する生物学的細胞または細胞膜を見出し、そして穏やかにピペットで細胞膜に触れる。外部イオン溶液および第二の槽電極によって、測定回路が完全なものとなる。高インピーダンス演算増幅器は、回路を流れる電流を感知し、電流は、続いて、データ記録系に記録され、そして解析される。技術が機能する鍵は、増幅器に記録される電流が、細胞膜を通じて流れるイオンによって左右され、そしてガラス・ピペット周囲から槽溶液に直接流れるイオンによって左右されないように、ガラス・ピペットおよび細胞膜間の高い電気抵抗(約1ギガオーム)のシールを形成する能力である。
【0049】
最も一般的な測定配置(多くが使用可能であるが)の1つは、全細胞電圧固定である。この配置では、ピペット電極を細胞内部に効果的に配置するため、ピペット先端で、膜の一部を透過処理することが必要である。これは、次に、細胞内ピペット電極および細胞外槽電極間に、外部の電圧コマンドを配置し、それによって細胞膜電位差の調節を提供することを可能にする。用語「全細胞」は、この配置では、装置が全細胞膜の電流の大部分を測定するという事実に由来する。
【0050】
ピペット先端の膜の電気的透過処理は、多くの方法で誘導可能であるが、しばしば、ピペット内部の膜が物理的に破壊されるのに十分な強度および期間の電圧パルスによって達成される。これは、一般的に、「ザッピング」と称され、そして当該分野に周知の技術である。膜を電気的に透過処理するのに利用される別の技術は、ニスタチンおよびアンホテリシンBなどの特定の抗生物質の使用を通じるものである。これらの化学薬品は、細胞膜に、塩素イオンなどの一価イオンが透過可能な化学的孔を形成することによって働く。塩素イオンは、一般的に用いられるAg/AgCl電極の電流運搬イオンであるため、これらの抗生物質は、細胞内部に、低抵抗性電気的アクセスを生じうる。化学的技術の利点は、膜パッチが損なわれないままであり、したがってより大きい細胞内分子が細胞内部にとどまり、そしてザッピング技術を用いた場合のようには、ピペット溶液によって洗い出されることがない点である。膜を電気的に透過処理するための化学薬品の使用もまた、当該分野で一般的に用いられる技術であり、そして「穿孔(perforated)パッチ」と称される。
【0051】
高抵抗性電気的シールを形成すると、非常に小さい生理学的膜電流(例えば10−12amp)を検出する測定系が可能になる。さらに、細胞膜の一部を電気的または化学的に穿孔することによって、細胞膜の残りの損なわれていない部分を渡る電圧を調節する(電圧固定)か、または電流を調節する(電流固定)ことが可能である。これによって、イオン・チャネル/輸送体活性を生理学的に測定する技術の有用性が非常に増進するが、これは、イオン・チャネル/輸送体活性が、非常にしばしば、膜電圧依存性であるためである。膜を渡る電圧(または電流)を調節可能であれば、非常に正確に、イオン・チャネルまたは輸送体を刺激するかまたは非活性化することが可能であり、そしてこうしたものとして、複雑な薬剤相互作用を研究する能力が非常に増進する。
【0052】
米国特許第6,488,829号は、ヒトの直接介入を伴わずに、平行して多数の測定を行うことを可能にする方式で、細胞または細胞膜に対して、電気生理学的測定を行うことも可能な装置を記載する。
【0053】
上述のパッチクランプ技術の他の適応の多様な説明が、以下の特許、特許出願、および刊行物に記載され、そしてこれらは本明細書に完全に援用される:Denyer, J.ら(1998);Ausubel, F.M.ら(2001);Neher E.ら(1976);Neher E.ら(1978);Hammill, O.Pら(1981);Sherman−Gold, R.(1993);Rae, J.ら(1991);並びにSakmann, B.およびNeher, E.(1995);Olesenらに対する米国特許第6,063,260号;並びにPCT出願公開第WO 99/66329号。
【0054】
当業者が、本発明に基づいて認識するであろうように、電気生理学的測定に基づかない方法もまた、本発明の実施において、イオン流動を測定するのに使用可能である。例えば、86ルビジウム(86Rb+)などの放射性カリウム代理イオンを用いて、カリウム流動を測定することも可能である。Dieckeら(1998);並びにDieckeおよびBeyer−Mears(1997)。
【0055】
薬剤発見のため、製薬産業に特に有用な、本発明の方法の好ましい態様において、該方法を、自動化された系に適応させることも可能である。これらの方法を自動化すると、多数の試験剤を比較的短い期間内にスクリーニングすることが可能であり、そして必要とされる試験剤が比較的少量になるというさらなる利点がある。パッチクランプ電気生理学的技術に基づく自動化された系は、商業的に入手可能である。典型的な系には、IonWorksTM HT系(Molecular Devices Corporation、カリフォルニア州サニーベール)およびPatchXpressTM 7000A自動化平行パッチクランプ系(Axon Instruments、カリフォルニア州ユニオンシティー)が含まれる。
【0056】
他の態様において、蛍光顕微鏡を用いて、単一イオン・チャネル流動を測定することも可能である。例えば、共焦点顕微鏡または共焦点蛍光画像化を用いて、個々のN型カルシウム・イオン・チャネルを通じたカルシウム・イオン流入を測定することも可能である。10ms程度に短い単一チャネル・カルシウム過渡電流(SCCAT)を解像し、そしてチャネルの存続期間および反応待ち時間(latency)区分を測定することも可能である。共焦点蛍光画像化によって、パッチクランプ記録によって得られるのと類似の、チャネル通門に関する時間的情報が提供される。さらに、視覚的画像化は、多数のチャネルからの空間的情報を提供し、最小限の破壊しか伴わず、そしてパッチピペットでは接近不能なチャネルにも適用可能である。
【0057】
上述の方法で使用するのに適した、アッセイおよびアッセイを発展させる方法が当業者に知られ、そして本発明の方法とともに、適切なように使用することが意図される。上記スクリーニング法はすべて、多様なアッセイ形式を用いて達成することも可能である。低い重量モル浸透圧濃度または候補療法剤の投薬量などの条件に似せたアッセイ形式を、多くの異なる形で生成することも可能である。
【0058】
本明細書に引用される、すべての特許、出願、刊行物および文書の開示は、パンフレットおよび技術告示を含めて、明確に、本明細書に完全に援用される。実施例、図、および付随する請求項を含む、本説明に基づいて、当業者は、本発明を完全に利用することが可能であると考えられる。
【0059】
以下の実施例は、本発明の実施の単なる実例であると見なされるべきであり、そしていかなる方式であっても、本開示の残りを限定すると見なされるべきではない。
参考文献
【0060】
【化1−1】

【0061】
【化1−2】

【0062】
【化1−3】

【実施例】
【0063】
(実施例1)
全細胞パッチクランプ記録法を用いた、水晶体細胞電流に対するTEAの影響
水晶体上皮細胞株培養物の調製
細胞株、SRA 01/04(工業技術院生命工学工業技術研究所、日本・茨城に寄託、国際寄託番号FERM BP−5454)由来の細胞を融解し、そして25平方センチメートルの組織培養フラスコ(FalconTMフラスコ、BD Biosciences、ニュージャージー州リンカーンパーク)の底に蒔き、そして15%のFBS(Invitrogen、ニューヨーク州グランドアイランド)および1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を補った高グルコースDMEM中、5%COおよび95%空気の環境で、37℃で増殖させた。週2回、培地を交換した。90〜100%集密(confluence)に達したら(約7〜14日間)、培養フラスコから培地を取り除き、そして底の細胞を1mlのトリプシン−EDTA(0.05%トリプシンおよびEDTA、Invitrogen)で洗浄した。次いで、37℃インキュベーター中、3.5〜5分間、1mlのトリプシン−EDTA溶液で細胞を処理した。次いで、15% FBSを含有するDMEM 4〜8mlを添加することによってトリプシンを不活性化し、そして生じた細胞懸濁物を1000xgで、室温で4〜5分間、遠心分離した。次いで、SRA 01/04細胞を、149mM NaCl、4.7mM KCl、2.5mM CaCl、5mMグルコースおよび5mM HEPES(pH7.3、NaOHで調整)を含有し、0.1%アルブミン(Sigma−Aldrich Co.)を添加した槽溶液1〜1.5mlに再懸濁した。
【0064】
カリウム・イオン流動の測定
実施例1のSRA 01/04細胞懸濁物をボルテックスして、均一な懸濁物であることを確実にした。倒立微分干渉顕微鏡(Eclipse TE300、ニコン、日本・東京)上にマウントした記録チャンバーの透明な底の上に置いたカバーガラス(Warner Instruments、米国コネチカット州ハムデン)上に、細胞懸濁物およそ15μlをピペッティングした。マルチクランプ700A二重チャネル多目的微小電極増幅器(Axon Instruments、米国カリフォルニア州フォスターシティー)を用いて、全細胞配置下、室温(24〜26℃)で全細胞電流を測定した。Sutter P−97微小電極牽引装置(Sutter Instrument Co.、コロラド州ナバト)を用いて、1.65mmキャピラリーガラス(PG52165−4、World Precision Instruments、フロリダ州サラソタ)から電極を作成した。MF−830マイクロフォージ(Narishige International USA, Inc.、ニューヨーク州イーストミドウ)によってピペット先端を研磨した。ピペットに、130mM KCl、2mM MgATP、5mM MgCl、10mM HEPESおよび5mM EGTA(pH7.3、KOHで調整)を含有するピペット溶液を満たした。用いた槽溶液は、149mM NaCl、4.7mM KCl、2.5mM CaCl、5mMグルコースおよび5mM HEPES(pH7.3、NaOHで調整)を含有した。溶液を満たしたピペットの抵抗は、2.5〜5.0MΩであった。Wescor 5520浸透圧計(Wescor, Inc.、ユタ州ローガン)を用いて、ピペット溶液および槽溶液の重量モル浸透圧濃度を、295および300mosM/kgに調整した。
【0065】
1GΩより高いシール抵抗を持つ全細胞配置を達成した後、直列抵抗は10MΩ未満であり、そして電圧誤差を最小限にするため、3〜30%補償された。パッチクランプ増幅器のコンピュータ制御回路網を用いて、電気容量アーチファクトを自動的に相殺した。A/DおよびD/AインターフェースDigidata 1322A高速データ獲得装置(Axon Instruments)を用いて、オンラインでパルス生成およびデータ獲得を行った。電流シグナルに5KHzでフィルターをかけ、そして20kHzでサンプリングした。電圧開口型NaおよびCa2+チャネルを不活性化するため、保持電位を−60mVに設定した。電流−電圧(I−V)関係を得るため、20mV増分で−120〜+140mVまで、250msの期間、一連の連続ステップパルスを適用した。
【0066】
1、2.5、5、10および20mMの濃度のTEAを、ピペットによって槽溶液に直接導入した。図3に示されるように、外向きの整流電流がTEAにブロッキングされる。容量依存方式で、電流−電圧の関係を示す、図4に示されるように、5mMより高いTEA濃度は、さらなる電流ブロッキングを有意には生じない。これらの結果によって、水晶体上皮細胞における主な電流は、外向きに整流された電圧依存性カリウム電流であることが示唆される。
【0067】
実施例1は、細胞膜を通じたカリウム・イオンの流動に対する剤の影響を測定することによって、試験剤の白内障形成能を性質決定する、本発明の方法を例示する。
【0068】
(実施例2)
げっ歯類水晶体外植片に対するTEAの影響
げっ歯類水晶体を外科的に除去し、そして10mM TEA(Sigma Aldrich Co.)を含み、そして含まずに、重炭酸緩衝液を補った組織培養199(TC199)培地(Invitrogen)に入れた。7日間の期間に渡って、細胞の暗視野顕微鏡写真を撮影した。図6および図7に示すように、TEAでの処理によって、対照と比較した際、水晶体の曇りの増加が引き起こされる。
【0069】
実施例2は、既知のカリウム・イオン・チャネル・ブロッキング剤の白内障誘引能を例示する。
【0070】
同等物
本発明は、水晶体細胞イオン・チャネルを通じて、カリウム・イオン流動を測定することによって、白内障形成リスクに関してスクリーニングする方法を、部分的に提供する。本発明の特定の態様が論じられてきているが、上記明細は例示であり、そして制限ではない。本明細書を再検討すると、当業者には、本発明の多くの変型が明らかとなるであろう。付随する請求項は、こうした態様および変型をすべて請求することを意図せず、そして本発明の全範囲は、全範囲の同等物を伴う請求項、およびこうした変型を伴う明細書を参照することによって、決定されなければならない。
【0071】
本明細書に言及するすべての刊行物および特許は、以下に列挙するものを含めて、個々の刊行物または特許が、明確にそして個々に援用されると示されるかのように、本明細書に完全に援用される。不一致の場合は、本明細書のいかなる定義も含めて、本出願が統制するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は、全細胞パッチクランプ電気生理配置下の培養SRA 01/04細胞の顕微鏡写真を示す。
【図2】図2は、全細胞パッチクランプ電気生理配置下の細胞の概略図を示す。
【図3】図3は、広範囲のカリウム・チャネル・ブロッカーであるTEAの非存在下および存在下(濃度記載)両方の、培養SRA 01/04細胞で測定した、脱分極が活性化する外向きの電流の波形トレースを示す。
【図4】図4は、TEAが用量依存方式で、外向きの整流電流をブロッキングすることを示す、図3の波形トレースから得た用量反応曲線を示す。
【図5】図5は、対照培地および10mM TEAを含有する培地中、7日間に渡って処理したげっ歯類水晶体外植片の暗視野顕微鏡写真を示す。
【図6A】図6Aは、10mM TEAの非存在下または存在下での培養5日後に画像化した、水晶体外植片由来のピクセル強度ヒストグラムを示す。TEAは、強度ヒストグラム中、右向きのシフトを引き起こす。
【図6B】図6Bは、10mM TEAの非存在下または存在下での培養5日後に画像化した、水晶体外植片由来のピクセル強度ヒストグラムを示す。TEAは、強度ヒストグラム中、右向きのシフトを引き起こす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験剤を性質決定する方法であって:哺乳動物細胞を試験剤で処理し;そして前記細胞の膜を通じたカリウム・イオン流動に対する試験剤の影響を測定することによって、試験剤の白内障形成(cataractogenic)能を性質決定する、ここで前記細胞はカリウム・イオン・チャネルを含む、前記方法。
【請求項2】
前記哺乳動物細胞が水晶体上皮細胞である、請求項1の方法。
【請求項3】
前記哺乳動物細胞がSRA 01/04細胞である、請求項1の方法。
【請求項4】
試験剤を性質決定する方法であって:哺乳動物細胞を試験剤で処理し;そして電気生理学的方法により、前記細胞の膜を通じたカリウム・イオン流動に対する試験剤の影響を測定することによって、試験剤の白内障形成能を性質決定する、ここで前記細胞はカリウム・イオン・チャネルを含む、前記方法。
【請求項5】
前記電気生理学的方法が全細胞パッチクランプ電気生理である、請求項4の方法。
【請求項6】
前記哺乳動物細胞が水晶体上皮細胞である、請求項4の方法。
【請求項7】
前記哺乳動物細胞がSRA 01/04細胞である、請求項4の方法。
【請求項8】
前記電気生理学的方法が全細胞パッチクランプ電気生理であり、そして前記細胞が水晶体上皮細胞である、請求項4の方法。
【請求項9】
試験剤を性質決定する方法であって:哺乳動物細胞を試験剤で処理し;前記細胞の膜を通じたカリウム・イオン流動に対する試験剤の影響を測定し;そして試験剤を以下のいずれか一方:該剤が前記細胞を通じたカリウム・イオン流動に変化を引き起こすならば白内障形成性であり;または該剤が前記細胞を通じたカリウム・イオン流動に変化を引き起こさないならば白内障形成性でないと性質決定する、ここで前記細胞はカリウム・イオン・チャネルを含む、前記方法。
【請求項10】
前記細胞の膜を通じたカリウム・イオン流動に対する該剤の影響を測定する前記方法が、電気生理学的方法を含む、請求項9の方法。
【請求項11】
前記電気生理学的方法が全細胞パッチクランプ電気生理である、請求項10の方法。
【請求項12】
前記哺乳動物細胞が水晶体上皮細胞である、請求項9の方法。
【請求項13】
前記哺乳動物細胞がSRA 01/04細胞である、請求項9の方法。
【請求項14】
前記電気生理学的方法が全細胞パッチクランプ電気生理であり、そして前記細胞が水晶体上皮細胞である、請求項10の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate


【公表番号】特表2006−525011(P2006−525011A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506561(P2006−506561)
【出願日】平成16年4月19日(2004.4.19)
【国際出願番号】PCT/IB2004/001353
【国際公開番号】WO2004/097410
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】