説明

白癬菌の殺菌方法

【課題】 日常的に使用できる白癬菌の殺菌方法、とりわけ、成形薫香の燻煙ガスを用いて殺菌することを特徴とする白癬菌の殺菌方法を提供することを課題とする。
【解決方法】 成形薫香の燻煙ガスにさらして殺菌することを特徴とする白癬菌の殺菌方法を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白癬菌の殺菌方法に関するものであり、とりわけ、成形薫香の燻煙ガスにさらして殺菌することを特徴とする白癬菌の殺菌方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
白癬菌は、頭部白癬(シラクモ)、体部白癬(ゼニタムシ)、股部白癬(タムシ)、足白癬(水虫)、爪白癬、手白癬などの皮膚病、とりわけ水虫の原因菌として良く知られており、日本人の5人に1人は水虫であるとまで言われている。代表的な白癬菌としては、アルスロデレマ(Arthroderma)属(別名:トリコフィトン(Trichophyton)属)微生物が挙げられる。水虫は靴、長靴、草履、靴下、足ふきなどを介して感染し易く、これら物品に付着した白癬菌の殺菌方法が望まれている。
【0003】
一方、成形薫香は、従来より仏事などのための線香として、又は、燃焼させて香気を味わい、リラックスやヒーリング効果を得るための材料として使用されている。成形薫香は、通常、本粉と呼ばれる、クスノキ科の常緑高木であるたぶ(椨)の樹皮(甘皮)を製粉したものと、のり粉と呼ばれる、たぶの葉を製粉したもの又はたぶの葉と樹皮の粉砕物の混合物を主成分としてなり、これに香木粉末、香料、色素などを混合し、水(通常は湯)を加えて混捏し、これを各種の形状に成形した後、乾燥して製造されている。
【0004】
古くから用いられている蚊取り線香のように、炎の出ない状態で燃焼させることにより発生する燻煙ガスとともに除虫菊の殺虫成分であるピレスロイド類を揮散させ、昆虫を防除する目的に使用される成形薫香も知られている。しかしながら、防虫効果を目的として開発された蚊取り線香を別にすれば、燻煙ガスの生物作用については、これまで、議論らしい議論がほとんど為されてこなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
斯かる現状に鑑み、本発明は、日常的に使用できる白癬菌の殺菌方法、とりわけ、成形薫香の燻煙ガスを用いて殺菌することを特徴とする白癬菌の殺菌方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が成形薫香の利用に着目し、鋭意研究したところ、成形薫香の燻煙ガス、とりわけ竹粉を含有する成形薫香の燻煙ガスが白癬菌を殺菌する上で有効であることが判明した。
【0007】
すなわち、本発明は、成形薫香の燻煙ガスにさらして殺菌することを特徴とする白癬菌の殺菌方法を提供することによって、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の白癬菌の殺菌方法は、成形薫香の燻煙ガスを利用することから、手軽に実施することができ、日常的に使用する物品に付着した水虫などの皮膚病の感染源となる白癬菌の殺菌に、ひいては人体への白癬菌の感染防止に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、成形薫香の燻煙ガスが有する白癬菌の殺菌作用を利用した白癬菌の殺菌方法に関するものである。本発明の白癬菌の殺菌方法は、たぶの樹皮の粉砕物である本粉と、たぶの葉の粉砕物又は葉と樹皮の粉砕物の混合物であるのり粉とを水(通常は湯)を加えて香木粉末又は他の副材料とともに混捏し、成形・乾燥させて得られる通常一般の成形薫香、望ましくは、竹粉を含有する成形薫香の燻煙ガスに目的の物品をさらして殺菌することを特徴とする。
【0010】
本発明において用いる竹粉入り成形薫香における竹粉の含量は、通常、25質量%以上95質量%以下、望ましくは、30質量%以上90質量%以下が好適である。竹粉の含量が95質量%を越えると、本粉やのり粉などの結合母材の含量が5質量%未満となることから、成形薫香の物理的強度が低下し、成形が困難となるか、又は、成形・乾燥後の形状保持が困難となる。
【0011】
本発明に用いる成形薫香には、その燻煙ガスが白癬菌の殺菌作用を示すという所期の目的の妨げにならない範囲で、天然由来の香気物質若しくは合成香料が副材料として配合されたものであってもよい。天然由来の香気物質としては伽羅、沈香、白檀、桂皮、丁子、甘松香、琲草香、薫陸、ウコン、大茴香、乳香、竜脳、青木香、零陵香、没薬、山奈、安息香、菖蒲根、唐木香などの香木由来の木部の切断物、破砕物、粉砕物、また、クスノキ、スギ、マツなどの広葉樹又は針葉樹の樹木の切断物、破砕物、粉砕物が、さらには、麝香、龍涎香、貝甲香などの動物由来の香気物の切断物、破砕物、粉砕物が挙げられる。加えて、これらの香気物質の抽出物であるエキスや、ハーブエキス、ユーカリエキス、ローズオイル、ラベンダーオイル、プロポリスエキスなどの天然香料、メントール、ゲラニオール、バニリンなどの合成香料、さらには、これらの1種又は2種以上を適宜組み合わせて用いたものであっても有利に利用できる。
【0012】
以上のような成分に加えて、本発明に用いる成形薫香は、その燻煙ガスが白癬菌の殺菌作用を示すという所期の目的の妨げにならない範囲で、通常の成形薫香に一般的に利用される、例えば、無機塩などの賦形剤、安定剤、溶剤、結合剤、着色料、抗菌剤、防腐剤、乳化剤などが適宜配合されていてもよい。
【0013】
本発明において用いる成形薫香の形状は特に限定されず、例えば、粒状、球状、角柱状、角錐状、円柱状、円錐(コーン)状、立方体状、直方体状、渦巻状、コイル状、馬蹄状などが適宜選択できる。
【0014】
以上のような本発明の白癬菌の殺菌方法は、成形薫香の燻煙ガスを立ち上らせ、室内に揮散させたり、物品に焚き込んだりすることにより、各種室内若しくは物品における白癬菌の殺菌が期待できる。
【0015】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0016】
<成形薫香の燻煙ガスの白癬菌の殺菌作用>
調製した竹粉入り成形薫香及び市販の成形薫香を用いて、これらの燻煙ガスの抗白癬菌作用を調べた。
【0017】
<実施例1−1:竹粉入りコーン型成形薫香の調製>
まず、竹粉入りコーン型成形薫香を調製した。すなわち、孟宗竹の竹茹粉(商品名「タケキノンパウダー」、(株)フードテック製)73質量部、のり粉((株)天年堂製)22質量部及びプルラン(商品名「プルラン PF−10」、(株)林原商事販売)5質量部を均一に混合した後、熱湯を加えて混捏し、常法に従って、コーン型に圧縮・押出し成形を行い自然乾燥させて、重さ約0.46g、直径約10mm、高さ約20mmの竹粉入りコーン型成形薫香を調製した。
【0018】
<実施例1−2:竹粉入りコーン型成形薫香及び市販成形薫香の燻煙ガスの白癬菌に対する作用>
成形薫香の燻煙ガスの白癬菌に対する作用を調べる試験は下記のごとく行った。まず、試験菌株として、日本人の多くが保持する代表的な白癬菌であるアルスロデレマ・ベンハミエ(Arthroderma benhamiae)(別名:トリコフィトン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)) JCM1885株を選択し、これを予めポテトデキストロース寒天((株)日水製薬販売)斜面培地にて27℃で6日間培養し、これに滅菌生理食塩水を5ml加えて胞子を懸濁し、それぞれ脱脂綿を入れた漏斗でろ過して胞子懸濁液を調製した。次いで、この胞子懸濁液を適宜希釈した後、0.1mlをポテトデキストロース寒天((株)日水製薬販売)プレート培地に均一に塗布した。このプレート培地を滅菌した円筒形の密閉容器(嫌気培養用ジャー、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製、容量約8.5L)に無菌的に入れた後、着火した試験成形薫香約0.08gを密閉容器の底に入れ速やかに密閉し、成形薫香を炎の出ない状態で完全に燃焼させた。密閉し燻煙ガスが充満した状態で試験菌株を27℃で96時間培養し、プレート培地上に出現したコロニー数を計測した。さらに、計測後のプレート培地を密閉容器の外に出し、燻煙ガスのない条件下でさらに27℃で120時間培養を続け、再度、プレート培地上に出現したコロニー数を計測した。なお、密閉容器に成形薫香を入れず、燻煙ガスのない条件下で同様に培養したものを対照とし、対照のプレート培地に出現するコロニー数を100%として、下式により、各成形薫香の燻煙ガスにさらした場合、又は続いて燻煙ガスのない条件下でさらに120時間培養した場合のコロニー出現率(%)を相対評価した。
【0019】
【数1】

【0020】
成形薫香としては、実施例1−1で得た竹粉入りコーン型成形薫香及び市販されている成形薫香1種(市販成形薫香1:A社製)の計2種を用いて試験した。燻煙ガスが充満した状態で96時間培養した際の結果、及び、これに続いて燻煙ガスのない条件下、開放状態で120時間培養した際の結果を表1に示した。
【0021】
【表1】

【0022】
成形薫香の燻煙ガスを充満させ、密閉した状態で白癬菌を培養し、コロニー出現率を比較したところ、表1の結果に見られるとおり、竹粉入り成形薫香と市販の成形薫香はいずれも相対コロニー出現率が0%と全く白癬菌の生育が認められず、強い殺菌作用を有することが判明した。さらに、密閉容器の外に出して燻煙ガスが充満していない条件下でさらに120時間培養した場合では、竹粉入り成形薫香では、白癬菌のコロニー出現率を0%に維持していたものの、市販成形薫香では、コロニー出現率7%と白癬菌の増殖が認められた。これの結果は、成形薫香の燻煙ガスが白癬菌の殺菌作用を有しており、その作用は竹粉入り成形薫香において、より強いことを物語っている。
【実施例2】
【0023】
各種履き物を収納した下駄箱(幅75cm×高さ150cm×奥行き30cm、容積約340L)内において、実施例1−1で調製した竹粉入りコーン型成形薫香4個を最下段に配置させた後、炎の出ない状態で完全に燃焼させ、燻煙ガスを充満させた。4時間燻蒸した後の下駄箱内の履き物からは、白癬菌が検出されず、本方法は、白癬菌の感染を防止する上で有効な手段であった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
成形薫香は、その燻煙ガスが白癬菌の殺菌作用を発揮することから、その燻煙ガスを焚き込むことにより、浴室の脱衣場、プールの更衣室、武道場の収納庫などの各種室内、さらには、靴、長靴、スリッパ、サンダル、草履、靴下、足袋、足ふき、バスマット、格闘技の胴衣、防具、下駄箱など各種物品に付着した白癬菌を殺菌することができる。本発明の白癬菌の殺菌方法は顕著な有用性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形薫香の燻煙ガスにさらして殺菌することを特徴とする白癬菌の殺菌方法。
【請求項2】
成形薫香が、竹粉を含有することを特徴とする請求項1記載の白癬菌の殺菌方法。
【請求項3】
竹粉の含量が、成形薫香の25質量%以上95質量%以下である請求項2記載の白癬菌の殺菌方法。

【公開番号】特開2007−119366(P2007−119366A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310591(P2005−310591)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(301040394)株式会社春興社 (8)
【Fターム(参考)】