説明

白色発光体

【課題】紫外光を照射することにより室温で容易に白色発光する、新規な白色発光体を提供する。
【解決手段】第1酸化物層12が、基板11の上に層状に設けられている。第1酸化物層12は、シルセスキオキサンを含むアクリルアミド系ポリマーの、N−ドデシルアクリルアミドとシルセスキオキサンとの共重合体[p(DDA/SQ)](SQの導入率22%)から成り、ケイ素を含んでいる。固定層13が、第1酸化物層12の上に層状に設けられている。固定層13は、アミノ基を有するアクリルアミド系ポリマー[p(DDA/DONH)](DONHの導入率30%)から成っている。均一に分散されたCdSeナノ粒子層14が、固定層13の上に層状に設けられている。第2酸化物層15が、ナノ粒子層14の上に層状に設けられている。第2酸化物層15は、p(DDA/SQ)(SQの導入率22%)から成り、ケイ素を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色発光体に関する。
【背景技術】
【0002】
直径1〜10nmの半導体ナノ粒子は、発光効率が高く、光耐光性に優れ、サイズに応じた発光波長調節が可能なため、医療分野でのマーカーやOLED(有機エレクトロルミネッセンス)、レーザ発振用材料など、ナノメートルサイズの光源として期待されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
従来、半導体ナノ粒子の発光を利用した白色発光体として、発光性のポリマーと半導体ナノ粒子とを混合したデバイスに電圧をかけることにより、白色発光するものがある(例えば、非特許文献2参照)。また、半導体ナノ粒子を500℃に加熱することにより、白色発光させる方法もある(例えば、非特許文献3参照)。
【0004】
これらの方法では、半導体ナノ粒子が凝集しやすいため、十分な発光強度が得られないという問題があったが、ナノ粒子を二次元平面内に均一に分散させることができるLangmuir−Blodgett法(例えば、特許文献1または非特許文献4参照)により、解決可能である。
【0005】
なお、シルセスキオキサン前駆体に紫外光を照射することにより、室温、大気下において簡便に、ナノメートル厚のSiO超薄膜を形成できることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−232853号公報
【特許文献2】特開2009−114409号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】K.Grieve, P. Mulvaney, F. Grieser, “Synthesis and electronic properties ofsemiconductor nanoparticles/quantum dots”, Curr. Opin. Colloid Interface Sci., 2000, 5,P.168
【非特許文献2】S.Lee, B. Lee, B. J. Kim, J. Park, M. Yoo, W. K. Bae, K. Char, C. J. Hawker, “Free-StandingNanocomposite Multilayers with Various Length Scales, Adjustable InternalStructures, and Functionalities”, J. Am. Chem. Soc., 2009, 131, p.2579
【非特許文献3】A.Lita, A. L. Washington II, L. van de Burgt, G. F. Strouse, A. F. Stiegman, “Stable EfficientSolid-State White-Light-Emitting Phosphor with a High Scotopic/Photopic RatioFabricated from Fused CdSe-Silica Nanocomposites”, Adv. Mater., 2010, 22, p.3987
【非特許文献4】H.Tanaka, M. Mitsuishi, T. Miyashita, “Tailored-control of gold nanoparticle adsorptiononto polymer nanosheets”, Langmuir, 2003, 19, p.3103
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1および2に記載の方法では、白色発光を得るために、電圧をかけたり加熱処理を行ったりする必要があった。このため、室温で、より容易な方法で白色発光を得ることができる新たな白色発光体が模索されていた。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、紫外光を照射することにより室温で容易に白色発光する、新規な白色発光体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る白色発光体は、半導体ナノ粒子と酸化物とを含み、紫外光を照射することにより白色発光することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る白色発光体は、紫外光を照射するという容易な方法により、室温、大気下で、白色発光する。本発明に係る白色発光体は、半導体ナノ粒子が酸化物に覆われることにより、半導体ナノ粒子本来の発光波長の発光強度が減少するとともに、広い波長域で発光強度が増加して、白色発光が得られるものと考えられる。
【0012】
本発明に係る白色発光体によれば、様々な発光材料の発光強度の増強が可能である。本発明に係る白色発光体は、有機ELデバイスや光電変換素子、面発光素子などの光機能性、電子機能性材料として利用することができる。
【0013】
本発明に係る白色発光体で、前記半導体ナノ粒子はCdSeナノ粒子から成ることが好ましい。また、本発明に係る白色発光体で、前記酸化物はケイ素を含むことが好ましい。特に、前記酸化物はシルセスキオキサンを含むことが好ましい。さらに、前記酸化物はN−ドデシルアクリルアミドとシルセスキオキサンとの共重合体を含むことが好ましい。
【0014】
これらの場合、半導体ナノ粒子のCdSeナノ粒子がSiOの内部に入り込むことにより、紫外光照射での白色発光が得られるものと考えられる。N−ドデシルアクリルアミド(DDA)とシルセスキオキサン(SQ)との共重合体[p(DDA/SQ)]は、Langmuir−Blodgett法(LB法)により、厚さ1〜2nmレベルで積層させることができる。このため、均一に分散された半導体ナノ粒子の上に積層させることにより、半導体ナノ粒子と酸化物のp(DDA/SQ)とが互いに接するようそれぞれ層状に設けることができる。また、p(DDA/SQ)は、シルセスキオキサン前駆体であり、紫外光を照射することにより、ナノメートル厚のSiO超薄膜を形成することができる。このため、紫外光照射により、そのSiOの内部に、半導体ナノ粒子のCdSeナノ粒子を入り込ませることができ、白色発光を得ることができる。
【0015】
なお、半導体ナノ粒子を均一に層状にするために、半導体ナノ粒子は、粒径が揃っていることが好ましい。また、紫外光の照射は、室温で遠紫外線(deep UV)を照射することが好ましい。この場合、450nm〜650nmの波長領域で白色発光が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、紫外光を照射することにより室温で容易に白色発光する、新規な白色発光体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の白色発光体を示す斜視図である。
【図2】図1に示す白色発光体の(a)第1酸化物層および第2酸化物層を構成するp(DDA/SQ)の化学構造式、(b)固定層を構成するp(DDA/DONH)の化学構造式である。
【図3】図1に示す白色発光体の、deep−UV照射による(a)照射前(0min)および270分間照射後の発光スペクトル、(b)照射120分後から270分後まで、30分ごとに測定した発光スペクトルを示すグラフである。
【図4】図1に示す白色発光体の、650nmに発光ピークを有するCdSeナノ粒子を用いた場合の、deep−UVを270分間照射した後の発光スペクトルを示すグラフである。
【図5】図1に示す白色発光体の、(a)deep−UV照射前(0min)から照射9時間後までのUV−vis吸収スペクトル、(b)吸光度が小さい範囲を拡大したUV−vis吸収スペクトル、(c)deep−UV照射時間に対する波長250nmの吸光度変化を示すグラフである。
【図6】図1に示す白色発光体の、発光強度の温度依存性を示すグラフである。
【図7】図1に示す白色発光体の、300℃における発光強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図7は、本発明の実施の形態の白色発光体を示す。
図1に示すように、白色発光体10は、基板11と第1酸化物層12と固定層13とナノ粒子層14と第2酸化物層15とを有している。
【0019】
基板(Glass substrate)11は、平坦なフッ化カルシウム(CaF)基板から成る。
第1酸化物層12は、図2(a)に示す、シルセスキオキサンを含むアクリルアミド系ポリマーの、N−ドデシルアクリルアミドとシルセスキオキサンとの共重合体[p(DDA/SQ)](SQの導入率22%)から成り、ケイ素を含んでいる。図1に示すように、第1酸化物層12は、基板11の上に層状に設けられている。第1酸化物層12は、LB法により、厚さ約2nmの層を複数積層して形成されている。
【0020】
固定層13は、図2(b)に示す、アミノ基を有するアクリルアミド系ポリマー[p(DDA/DONH)](DONHの導入率30%)から成っている。図1に示すように、固定層13は、第1酸化物層12の上に層状に設けられている。固定層13は、LB法により、厚さ約2nmの層を複数積層して形成されている。固定層13は、正に帯電している。
【0021】
ナノ粒子層14は、均一に分散されたCdSeナノ粒子から成っている。CdSeナノ粒子は、発光中心波長が605nmの市販の半導体ナノ粒子であり、水溶性で、表面が負に帯電している。ナノ粒子層14は、固定層13の上に層状に設けられている。ナノ粒子層14は、CdSeナノ粒子が均一に分散した水溶液に固定層13を浸漬することにより、負に帯電したCdSeナノ粒子を、正に帯電した固定層13に静電吸着させて形成されている。
【0022】
第2酸化物層15は、図2(a)に示すp(DDA/SQ)(SQの導入率22%)から成り、ケイ素を含んでいる。図1に示すように、第2酸化物層15は、ナノ粒子層14の上に層状に設けられている。第2酸化物層15は、LB法により、厚さ約2nmの層を複数積層して形成されている。
【0023】
なお、図1に示す具体的な一例では、第1酸化物層12および第2酸化物層15は、p(DDA/SQ)の層がそれぞれ200層、積層して成り、厚さが約400nmである。固定層13は、p(DDA/DONH)の層が10層、積層して成り、厚さが約20nmである。
【0024】
次に、白色発光体10の発光特性について、実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0025】
図1に示す白色発光体10の基板11の片面をアセトンで拭き、室温でdeep−UV(波長254nm、100mW/cm)を照射した。所定のdeep−UV照射時間ごとに、発光スペクトルを測定し、発光の変化を調べた。発光スペクトルの測定には、光ファイバーおよび分光器(オーシャンオプティクス社製、商品名「USB2000」)を用いた。
【0026】
deep−UVの照射時間が長くなるにしたがって、発光色がCdSeナノ粒子本来の赤色から白色(270分照射後)へと変化することが確認された。deep−UV照射前(0min)および270分間照射後の発光スペクトルを、図3(a)に示す。また、deep−UV照射120分後から270分後まで、30分ごとに測定した発光スペクトルを、図3(b)に示す。
【0027】
図3(a)に示すように、deep−UV照射により、CdSe本来の605nmの発光ピークは減少しているが、500〜550nm付近にかけて、新たにブロードなピークが出現していることが確認できる。deep−UVを照射すると、照射開始後90分間にわたり605nmの発光が減衰していき、その後新たに短波長域にブロードなピークが現れる。図3(b)に示すように、そのピークはdeep−UV照射に伴い増加してき、照射時間が7時間を過ぎると、発光全体が減衰し、やがて消滅していくのが確認された。このように、白色発光体10は、紫外光を照射することにより、450nm〜650nmの波長領域で白色発光することが確認された。
【0028】
図3(b)に示すように、deep−UV照射により生じた500〜550nm付近のピークの位置、形状は変化していないことが確認できる。なお、この新たなピークが生じた要因として、CdSeナノ粒子の粒径がdeep−UV照射により小さくなったことが考えられるが、deep−UV照射時間に伴うスペクトルのピークシフトは認められず、強度のみが変化していることから、このピークがdeep−UV照射によるCdSeナノ粒子の粒径変化により生じたものではないことが示唆される。
【0029】
これを確認するために、605nmの発光を示すCdSeナノ粒子に代わり、650nmに発光ピークを有する、粒径が異なるCdSeナノ粒子を用いて白色発光体10を作製し、deep−UV照射を行った。その結果を、図4に示す。図4に示すように、650nmの発光を示すCdSeナノ粒子を用いた場合も、605nmの発光を示すCdSeナノ粒子を用いた場合と同様に、500〜550nm付近に新たな発光ピークが出現した。このことからも、deep−UV照射により生じる発光ピークの波長は、用いるCdSeナノ粒子の粒径には影響されないことが示唆される。このように、deep−UV照射により出現する発光は、CdSeナノ粒子の粒径変化によるものではないと考えられる。
【実施例2】
【0030】
実施例1と同様に、白色発光体10にdeep−UV(波長254nm、100mW/cm)を照射し、所定のdeep−UV照射時間ごとに、UV−vis吸収スペクトルの測定を行った。吸収スペクトルの測定には、分光光度計(日立製、商品名「U−3000」)を用い、スリットは1nmとした。
【0031】
deep−UV照射前(0min)から9時間後までのUV−vis吸収スペクトル測定の結果を、図5(a)および(b)に示す。図5(a)および(b)に示すように、deep−UV照射直後に210nm付近のアミド結合のピークおよび260nm付近のフェニル基由来のピークが消滅している。これは、p(DDA/SQ)のみの膜にUVを照射したときと同様である。その後もdeep−UV照射を続けると、p(DDA/SQ)のみの膜では、全波長にわたって吸光度(Absorbance)が減少していくのに対し、p(DDA/SQ)にCdSeナノ粒子が含まれる白色発光体10では、図5(b)に示すように、250nm付近の吸光度が増加している。
【0032】
この波長250nmの吸光度変化(Absorbance@250nm)を、deep−UV照射時間に対しプロットした結果を、図5(c)に示す。図5(c)に示すように、250nm付近の吸光度は、deep−UV照射が7時間を過ぎると減少していくことが確認される。これは、発光が消滅していく時間に一致している。この吸収スペクトルの変化から、deep−UV照射により何らかの光吸収体が新たに形成され、それが発光に関与していると考えられる。
【0033】
なお、deep−UV照射によるフーリエ変換型赤外分光(FT−IR)測定も行なったが、白色発光体10での結果と、p(DDA/SQ)のみの膜での結果との間には、変化は認められなかった。
【実施例3】
【0034】
白色発光体10に、deep−UVを4.5時間照射した後、5℃/分で30℃から300℃まで加熱しながら、He−Cdレーザー(波長325nm)を励起光として発光を測定し、発光の温度依存性を調べた。加熱には、顕微鏡用加熱冷却ステージ(ジャパンハイテック社製、商品名「10002L」)を用いた。その結果を、図6および図7に示す。
【0035】
図6および図7に示すように、温度上昇に伴い発光強度(Emission intensity)は減少していくが、300℃においても、発光が完全に消失することはなく、白色発光が得られることが確認された。また、150℃から200℃にかけて、CdSeナノ粒子の605nmのピークが消失していることも確認された。これは、熱をかけることにより、deep−UV照射と同様の効果が生じていることを示唆しており、白色発光体10を200℃に加熱することでも、白色発光が得られると予想できる。deep−UV照射の場合は、CdSeナノ粒子由来の発光が完全になくなる前に発光が消失してしまうが、温度をかけた場合には、CdSeナノ粒子本来のピークがなくなって1つのブロードなピークのみになっても発光が消失することはない。
【0036】
また、一度温度をあげた後に冷却すると、発光強度が回復するのが確認された。このため、温度上昇による発光強度の低下は、白色発光体10が崩壊しているためではないと考えられる。
【符号の説明】
【0037】
10 白色発光体
11 基板
12 第1酸化物層
13 固定層
14 ナノ粒子層
15 第2酸化物層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ナノ粒子と酸化物とを含み、紫外光を照射することにより白色発光することを特徴とする白色発光体。
【請求項2】
前記半導体ナノ粒子はCdSeナノ粒子から成ることを、特徴とする請求項1記載の白色発光体。
【請求項3】
前記酸化物はケイ素を含むことを特徴とする請求項1または2記載の白色発光体。
【請求項4】
前記酸化物はシルセスキオキサンを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の白色発光体。
【請求項5】
前記酸化物はN−ドデシルアクリルアミドとシルセスキオキサンとの共重合体を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の白色発光体。
【請求項6】
前記半導体ナノ粒子と前記酸化物とが互いに接するようそれぞれ層状に設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の白色発光体。
【請求項7】
室温で遠紫外線を照射することにより、450nm〜650nmの波長領域で白色発光することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の白色発光体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−201834(P2012−201834A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69170(P2011−69170)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】