説明

白色発光OLEDのために一重項及び三重項励起子を効率的に捕獲するための物質及び構造

本発明は有機発光デバイス(OLED)に、より特に、電気的に生じた励起子の全てを効率的に利用するために蛍光発光体と燐光発光体の組み合わせを用いて発光するOLEDに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
特許請求の範囲に記載した発明は、共同の大学・企業研究契約に関わる1つ以上の以下の団体:プリンストン大学、サザン・カリフォルニア大学、及びユニバーサルディスプレイコーポレーションにより、1つ以上の団体によって、1つ以上の団体のために、及び/又は1つ以上の団体と関係して行われた。上記契約は、特許請求の範囲に記載の発明がなされた日及びそれ以前に発効しており、特許請求の範囲に記載された発明は、前記契約の範囲内で行われた活動の結果としてなされた。
【背景技術】
【0002】
[本発明の分野]
本発明は有機発光デバイス(OLED)、より特に、電気的に発生した励起子の全ての有効な利用のために、蛍光発光体と燐光発光体との組み合わせを用いて発光するOLEDに関する。好ましい態様では、本発明は、白色発光OLED(WOLED)に関する。本発明のデバイスは、OLED構造内の単一領域又は単一界面で再結合が起こることを可能にする物質と構造とを利用する。
【0003】
[背景]
有機物質を用いるオプトエレクトロニクスデバイスは、多くの理由によりますます望ましいものとなってきている。そのようなデバイスを作るために用いられる多くの物質はかなり安価であり、そのため有機オプトエレクトロニクスデバイスは、無機デバイスに対して、コスト上の優位性についての潜在力をもっている。加えて、有機物質固有の特性、例えばそれらの柔軟性は、それらを柔軟な基材上への作製などの具体的用途に非常に適したものにしうる。有機オプトエレクトロニクスデバイスの例には、有機発光デバイス(OLED)、有機光トランジスタ、有機光電池、及び有機光検出器が含まれる。OLEDについては、有機物質は、従来の物質に対して性能的優位性をもちうる。例えば、有機発光層が発光する波長は、一般に、適切なドーパントで容易に調節されうる。
【0004】
本明細書で用いるように、「有機」の用語は、有機オプトエレクトロニクスデバイスを作製するために用いることができる重合体並びに低分子有機物質を包含する。「低分子(small molecule)」とは、重合体ではない任意の有機物質をいい、「低分子」は、実際は非常に大きくてもよい。低分子はいくつかの状況では繰り返し単位を含んでもよい。例えば、置換基として長鎖アルキル基を用いることは、分子を「低分子」の群から排除しない。低分子は、例えば重合体主鎖上のペンダント基として、あるいは主鎖の一部として、重合体中に組み込まれてもよい。低分子は、コア残基上に作り上げられた一連の化学的殻からなるデンドリマーのコア残基として働くこともできる。デンドリマーのコア残基は、蛍光性又はリン光性低分子発光体であることができる。デンドリマーは「低分子」であってよく、OLEDの分野で現在用いられている全てのデンドリマーは低分子であると考えられる。一般に、低分子は、単一の分子量をもつ明確な化学式をもつが、重合体は分子ごとに変わりうる化学式と分子量とを有する。本明細書で用いるとおり、「有機」は、ヒドロカルビル(hydrocarbyl)配位子及びヘテロ原子で置換されたヒドロカルビル配位子の金属錯体を含む。
【0005】
OLEDは、デバイスを横切って電圧を印加した場合に光を発する薄い有機膜(有機フィルム)を用いる。OLEDは、フラットパネルディスプレイ、照明、及びバックライトなどの用途で用いるためのますます興味ある技術となってきている。いくつかのOLEDの材料と構成が、米国特許第5,844,363号明細書、同6,303,238号明細書、及び同5,707,745号明細書に記載されており、これらの明細書はその全体を参照により本願に援用する。
【0006】
OLEDデバイスは一般に(常にではないが)少なくとも1つの電極を通して光を発するように意図され、1つ以上の透明電極が、有機オプトエレクトロニクスデバイスにおいて有用でありうる。例えば、インジウムスズオキシド(ITO)などの透明電極材料は、ボトム電極として用いることができる。米国特許第5,703,436号明細書及び同5,707,745号明細書(これらはその全体を参照により援用する)に開示されているような透明なトップ電極も使用できる。ボトム電極を通してのみ光を発することが意図されたデバイスについては、トップ電極は透明である必要はなく、高い電気伝導度をもつ厚く且つ反射性の金属層からなっていてもよい。同様に、トップ電極を通してのみ光を発することが意図されたデバイスについては、ボトム電極は不透明及び/又は反射性であってよい。電極が透明である必要がない場合は、より厚い層の使用はより良い伝導度をもたらすことができ、反射性電極を用いることは透明電極に向けて光を反射し返すことによって他方の電極を通して放射される光の量を多くすることができる。完全に透明なデバイスも製作でき、この場合は両方の電極が透明である。側方発光OLEDも製作することができ、そのようなデバイスでは1つ又は両方の電極が不透明又は反射性でありうる。
【0007】
本明細書で用いるように「トップ」は、基材から最も遠くを意味する一方で、「ボトム」は基材に最も近いことを意味する。例えば、2つの電極を有するデバイスについては、ボトム電極は基材に最も近い電極であり、通常、作製する最初の電極である。ボトム電極は2つの表面である、基材に最も近いボトム面と、基材から最も遠いトップ面とをもつ。第一の層が第二の層の「上に配置される」と記載した場合は、第一の層は基材から、より遠くに配置される。第一の層が第二の層と「物理的に接触している」と特定されていない限り、第一の層と第二の層との間に別な層があってよい。例えば、カソードとアノードとの間に様々な有機層があったとしても、カソードはアノードの「上に配置される」と記載されうる。
【0008】
本明細書で用いるように、「溶液処理(加工)可能」とは、溶液又は懸濁液形態のいずれかで、液体媒体中に溶解、分散、又は輸送でき、及び/又は液体媒体から堆積されうることを意味する。
【0009】
本明細書で用いるように、かつ当業者によって一般に理解されているように、第一の「最高被占軌道」(HOMO)又は「最低空軌道」(LUMO)エネルギー準位は、第一のエネルギー準位が真空のエネルギー準位により近い場合は、第二のHOMO又はLUMOのエネルギー準位よりも大きいか又は高い。イオン化ポテンシャル(IP)は、真空準位に対する負のエネルギーとして測定されるので、より高いHOMOエネルギー準位は、より小さな絶対値をもつIP(より小さな負のIP)に相当する。同様に、より高いLUMOエネルギー準位は、より小さな絶対値をもつ電子親和力(EA)(より小さな負のEA)に相当する。従来のエネルギー準位ダイヤグラム上では、上端(トップ)を真空準位として、物質のLUMOエネルギー準位は、同じ物質のHOMOエネルギー準位よりも上である。「より高い」HOMO又はLUMOエネルギー準位は、「より低い」HOMO又はLUMOエネルギー準位よりも、そのようなダイヤグラムの上端(トップ)近くに現れる。
【0010】
白色証明源の質は、簡単なパラメータの組で記述可能である。光源の色は、そのCIE座標x及びy(1931 2°視野標準観察者CIE表色系)によって与えられる。このCIE座標は通常2次元座標上に示される。単色は、左下の青から始まり、右下の赤へと、時計回りの方向のカラースペクトルを通っている馬蹄形の曲線の周囲上に位置する。特定のエネルギーとスペクトル形状の光源のCIE座標は、その曲線の領域内に位置する。全ての波長の光を合計すると、このダイヤグラムの中心にある、白すなわち中性点を一様に与える(CIE、x,y-座標、0.33,0.33)。2以上の光源からの光を混合すると、その個別の光源のCIE座標の強度加重平均によって表される色の光を与える。したがって、2以上の光源からの光を混合することは、白色光を生じさせるために使うことができる。
【0011】
照明のためにこれらの白色光源を用いることを考えた場合、光源のCIE座標に加えてCIE演色指数(CRI)が考慮される。CRIは、いかに良くその光源が、それが照明する物体の色を表現するかの目安を与える。その標準光源に対する特定光源の完全な合致は100のCRIを与える。少なくとも70のCRI値が特定用途に対して許容されうるが、好ましい白色光源は約80又はそれより大きなCRIを有しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,844,363号明細書
【特許文献2】米国特許第6,303,238号明細書
【特許文献3】米国特許第5,707,745号明細書
【特許文献4】米国特許第5,703,436号明細書
【特許文献5】米国特許第6,310,360号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2002-0034656号公報
【特許文献7】米国特許出願公開第2002-0182441号公報
【特許文献8】米国特許出願公開第2003-0072964号公報
【特許文献9】国際公開WO02/074015号パンフレット
【特許文献10】米国特許第6,602,540号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2003-02309890号公報
【特許文献12】米国特許第6,548,956号明細書
【特許文献13】米国特許第6,576,134号明細書
【特許文献14】米国特許第6,097,147号明細書
【特許文献15】米国特許第5,247,190号明細書
【特許文献16】米国特許第6,091,195号明細書
【特許文献17】米国特許第5,834,893号明細書
【特許文献18】米国特許第6,013,982号明細書
【特許文献19】米国特許第6,087,196号明細書
【特許文献20】米国特許第6,337,102号明細書
【特許文献21】米国特許第6,294,398号明細書
【特許文献22】米国特許第6,468,819号明細書
【特許文献23】米国特許第5,989,737号明細書
【特許文献24】米国特許第4,769,292号明細書
【特許文献25】米国特許第5,908,581号明細書
【特許文献26】米国特許第5,935,720号明細書
【特許文献27】米国特許第6,869,695号明細書
【特許文献28】米国特許第6,863,997号明細書
【特許文献29】米国特許第6,835,469号明細書
【特許文献30】米国特許第6,830,828号明細書
【特許文献31】米国特許第5,121,029号明細書
【特許文献32】米国特許第5,130,603号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Baldoら, Nature, vol.395, 151〜154頁, 1998
【非特許文献2】Baldoら, Appl. Phys. Lett., vol.75, No.3, 4〜6頁(1999)
【非特許文献3】Adachiら, J. Appl. Phys., 90, 5048頁(2001)
【非特許文献4】C.H. Chen, J. Shi, 及びC.W. Tang, Macromol. Symp. 125, pp. 1-48 (1997)
【非特許文献5】L.S. Hung及びC.H. Chen, Mat. Sci and Eng. R, 39 (2002), pp. 143-222
【非特許文献6】Baldo, M.A., Thompson, M.E. & Forrest, S.R., Nature 403, 750-753 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
燐光発光物質のみを有する白色OLEDは高効率でありうるが、それらの駆動安定性は青色燐光成分の寿命によって現在のところ制限されている。全てが蛍光発光物質を有する白色OLEDは良好な駆動安定性を有するが、それらの外部量子効率は通常、全てが燐光性の白色OLEDの外部量子効率の約1/3である。本発明は、白色OLEDにおける効率と寿命の改善されたバランスを達成するために、改善されたデバイス構造において燐光及び蛍光技術を結合させる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
[本発明のまとめ]
本発明は、電気的に発生した励起子の全てを直接利用するための、少なくとも2種の発光物質、蛍光発光物質と燐光発光物質からの組み合わされた発光を有する有機発光デバイスを提供する。蛍光発光物質と燐光発光物質は別の発光層中に存在し、蛍光層中又は蛍光層との界面において再結合が起こる。再結合を局在化することは、本発明のデバイスの蛍光及び燐光発光層を電荷輸送性ドーパント(charge-transporting dopant)でドーピングすることによって達成されうる。
【0016】
本発明のデバイスは、生じた励起子の一重項部分を捕獲するための高効率蛍光発光体と、生じた励起子の三重項部分のための高効率燐光発光体とを利用する。したがって、本発明は、電気的に発生した励起子の全ての効率的利用を目的としている(潜在的に100%の内部効率をもたらす)。
【0017】
本発明はまた、カソード、発光領域、及びアノードを含む有機発光デバイスを提供し、その発光領域が、ホスト物質中にドーパントとして蛍光発光物質を含む蛍光層と、ホスト物質中にドーパントとして燐光発光物質を含む燐光層とを含む。この発光領域は、そのホスト物質中にドープされた電荷輸送性ドーパントをさらに含む。
【0018】
本発明はまた、カソード、発光領域、及びアノードを含む有機発光デバイスを提供し、この発光領域が以下の層:ホスト物質中にドーパントとして蛍光発光物質を含む蛍光層、光学的スペーサー層、及びホスト物質中にドーパントとして燐光発光物質を含む燐光層、を順に含む。この蛍光層、スペーサー層、及び燐光層は、電荷輸送性ドーパント物質をも含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、別個の電子輸送層、正孔輸送層、及び発光層、並びにその他の層を有する有機発光デバイスを示す。
【図2】図2は、別個の電子輸送層をもたない倒置型(inverted)有機発光デバイスを示す。
【図3】図3は、アノード、正孔輸送層(HTL)、発光領域、電子輸送層(ETL)、及びカソードを有する、本発明の態様のためのデバイス構造図を示す。この発光領域は、赤(R)及び緑(G)発光のための別個の燐光層、スペーサー層、及び青色発光のための蛍光発光層を含む。この発光層は正孔輸送性ドーパントをさらに含む。
【図4】図4は、アノード、正孔輸送層、発光領域、電子輸送層、及びカソードを有する、本発明の態様のためのデバイス構造図を示す。この発光領域は、緑(G)発光のための燐光ドーパントと赤(R)発光のための蛍光ドーパントとを含む燐光増感蛍光層、スペーサー層、及び青色発光のための蛍光層を含む。この発光領域は、正孔輸送性ドーパントをさらに含む。
【図5】図5は、アノード、正孔輸送層、発光領域、電子輸送層、及びカソードを有する、本発明の態様のためのデバイス構造図を示す。この発光領域は、赤(R)及び緑(G)発光のための別個の燐光層、スペーサー層、青色発光のための蛍光層を含む。この発光領域は、電子輸送性ドーパントをさらに含む。
【図6】図6は、本発明の態様のためのデバイス構造図を示す。
【図7】図7は、本発明の態様のためのデバイス構造図を示す。
【0020】
[詳細な説明]
蛍光有機発光デバイスは、スピン対称性保存の必要条件によって、内部量子効率(IQE)に対して約25%の上限をもっている。それに代わる燐光の発光過程は、非常に高い、ほとんど100%のIQEを示す。しかし、長寿命をもつ青色燐光ドーパントはまだ達成されておらず、このことがデバイス寿命を、したがって、赤、緑、及び青の燐光ドーパントを用いた3色白色OLED(WOLED)の用途可能性を制限している。さらに、燐光発光物質のみを有するデバイスでは、交換相互作用エネルギーが効率的に失われ、なぜなら、燐光物質が、有機システム中で、スピン反対称励起子(一重項)よりも約0.8eV低いスピン対称励起子(三重項)から発光するからである。本発明においては、これらの欠陥は、青色発光のためのより高いエネルギーの一重項励起子を利用するための蛍光ドーパントと、緑及び赤色発光のためにより低いエネルギーの三重項励起子を利用するための燐光ドーパントとを用いることによって克服されている。本発明のデバイスについては、IQEは100%の高さになりうる。
【0021】
したがって、本発明は電気的に生じた励起子の全てを有効に利用することを目的とする(潜在的には100%内部効率をもたらす)。本明細書に記載するアプローチは、電気的に生じた励起子の全てを直接利用するために、蛍光発光物質と燐光発光物質の組み合わせを用いている。燐光発光物質は、三重項励起子の効率的な捕獲及び発光のために用い、一方、正孔-電子再結合によって形成された一重項励起子は直接に蛍光発光物質にトラップされて燐光発光物質には移されない。したがって、本発明のデバイスは、一重項発光中心及び三重項発光中心、すなわちそれぞれ、蛍光発光物質及び燐光発光物質、から発光する。
【0022】
電界燐光のこれまでの応用を上回る本発明の重要な利点は、別々の色が、単純化されたデバイス構造において、蛍光中心及び燐光中心から発光されうるということである。例えば、本発明のある態様のデバイスは、蛍光ドーパントからの青色発光と、燐光ドーパントからの緑発光を有するように構成されうる。その結果は、その青と緑の発光スペクトルの和である発光スペクトルを有するOLEDでありうる。あるいは、本発明の別の態様にしたがうデバイスは、白色発光OLEDを製造するために使用でき、そこでは、スペクトルの高エネルギー成分(すなわち、青)は蛍光ドーパントに由来し、白色光の緑〜赤(G−R)成分は燐光ドーパント(1又は複数)によってもたらされる。このG−R燐光発光体は、幅広い発光スペクトルで発光する単一ドーパント、又はそれらのスペクトルの和が緑〜赤の範囲をカバーするように選択された2種のドーパントであってよい。このようにして、励起子の25%が青色光を生みだし、一方、残る75%は発光スペクトルのG−R部分に用いられる。これが、この典型的白色OLEDスペクトルにおける青とG−Rの概略の割合である。白色OLEDへのこのアプローチは、駆動電圧が上昇したときの安定なカラーバランス及びより高められた安定性という利点を有しうる。この高められた安定性は、単一デバイス中に、長寿命G−R燐光発光体と結合された長寿命蛍光青色成分を有することからもたらされる。
【0023】
あるいは、本発明のある態様のデバイスは、青色発光のためのより高いエネルギーの一重項励起子を捕捉するための青色発光蛍光ドーパントと、より低いエネルギーの三重項励起子を捕捉するための赤色蛍光発光体とともに共ドープした緑色燐光発光体とを用いて構成することができる。この赤色蛍光発光体からの発光は、共通する導電性ホスト中に共ドープされた燐光発光体(phosphor)の存在によって増感される。その増感された層をその蛍光発光体(fluorophore)でわずかにドープすることによって、緑色燐光発光体からの三重項の完全な移動よりも少ない移動が、赤及び緑の発光の混合をもたらす。一重項捕捉性青色蛍光体からの発光と組み合わせて、所望のカラーバランスを達成しうる。
【0024】
一般に、OLEDは、アノードとカソードとの間に配置され且つこれらに電気的に接続された少なくとも1つの有機層を含む。電流が流されると、有機層(複数であってもよい)に、アノードは正孔を注入し、カソードは電子を注入する。注入された正孔と電子はそれぞれ、反対に帯電した電極に向かって移動する。電子と正孔が同じ分子に局在するとき、「励起子」(これは、励起エネルギー状態を有する局在化した電子-正孔対である)が形成される。励起子が光放出機構によって緩和するときに光が放射される。いくつかの場合には、励起子はエキシマーまたはエキシプレックスに局在化されうる。無放射機構、例えば熱緩和も起こり得るが、一般には望ましくないと考えられている。
【0025】
初期のOLEDでは、例えば、米国特許第4,769,292号(その全体を参照により援用する)に開示されているように、一重項状態から発光(「蛍光」)する発光分子を用いた。蛍光発光は一般に、10ナノ秒未満の時間フレームで起こる。
【0026】
より最近、三重項状態から発光(「リン光」)する発光物質を有するOLEDが実証された。Baldoら,「Highly Efficient Phosphorescent Emission from Organic Electroluminescent Devices」, Nature, vol.395, 151〜154頁, 1998(「Baldo-I」)、および、Baldoら, 「Very high-efficiency green organic light-emitting devices based on electrophosphorescence」, Appl. Phys. Lett., vol.75, No.3, 4〜6頁(1999)(「Baldo-II」)(これらはその全体を参照により援用する)。リン光は「禁制」遷移とよばれることがあり、なぜなら、この遷移がスピン状態の変化を必要とし、量子力学はこのような遷移は好ましくないことを示しているからである。結果として、リン光は一般に、少なくとも10ナノ秒を超える時間フレームで起こり、典型的には100ナノ秒を超える。リン光の自然な放射寿命が長すぎると、三重項が無放射機構により減衰して全く光が放出されないということがあり得る。有機リン光は、しばしば、非共有電子対を有するヘテロ原子を含む分子においてもまた、非常に低温で観察される。2,2'-ビピリジンはこのような分子である。無放射的減衰機構は、通常、温度に左右されるので、液体窒素の温度でリン光を示す有機物質は、通常、室温ではリン光を示さない。しかし、Baldoにより実証されたように、室温で実際にリン光を発するリン光化合物を選択することによって、この問題を解決できる。代表的な発光層には、米国特許第6,303,238号、米国特許第6,310,360号;米国特許出願公開第2002-0034656号公報;同2002-0182441号公報;2003-0072964号公報;及び国際公開WO02/074015号パンフレットに開示されているようなドープされているか又はドープされていないリン光有機金属物質が含まれる。
【0027】
一般に、OLED内の励起子は、約3:1の比で、すなわち、約75%の三重項と約25%の一重項として生成されると考えられている。Adachiら、「Nearly 100% Internal Phosphorescent Efficiency In An Organic Light Emitting Device」, J. Appl. Phys., 90, 5048頁(2001)(これはその全体を参照により援用する)を参照されたい。多くの場合、一重項励起子は「項間交差」を通じて三重項励起状態に容易にエネルギーを移動できるが、三重項励起子はそれらのエネルギーを一重項励起状態に容易には移動できない。結果として、リン光OLEDで100%の内部量子効率が理論的には可能である。蛍光デバイスにおいては、三重項励起子のエネルギーは、通常、デバイスを昇温させる無放射減衰過程に費やされるので、結果的に内部量子効率はずっと小さくなる。三重項励起状態から発光するリン光物質を用いるOLEDが、例えば、米国特許第6,303,238号(これはその全体を参照により援用する)に開示されている。
【0028】
リン光発光に先立って、三重項励起状態から中間の非三重項状態への遷移が起こり、そこから発光減衰が起こりうる。例えば、ランタニド元素に配位した有機分子は、しばしば、ランタニド金属に局在化した励起状態からリン光を発する。しかし、このような物質は三重項励起状態から直接リン光を発するのでなく、代わりに、ランタニド金属イオンに集中した原子励起状態から発光する。ユーロピウムジケトネート錯体はこれらのタイプの化学種の1つの群を例示する。
【0029】
三重項からのリン光は、有機分子を大きな原子番号の原子のごく近くに、好ましくは結合を通じて留めることによって、蛍光を超えて強めることができる。この現象は、重原子効果とよばれ、スピン-軌道カップリングとして知られている機構によって生じる。このようなリン光遷移は、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)などの有機金属分子の励起金属配位子電荷移動(excited metal-to-ligand charge transfer、MLCT)状態から観察されうる。
【0030】
本明細書で用いるとおり、「三重項エネルギー」という用語は、所定の物質のリン光スペクトル中に認められる最も高いエネルギー的特徴部分に対応するエネルギーをいう。最も高いエネルギー的特徴部分は、必ずしも、リン光スペクトル中の最大強度を有するピークではなく、例えば、そのようなピークの高エネルギー側の明瞭な肩の極大値でありうる。
【0031】
本明細書で使用されるような用語「有機金属」は、当業者によって一般に理解されるとおりであり、例えば、Gary L. MiesslerおよびDonald A. Tarrによる「Inorganic Chemistry」(第2版),Prentice Hall (1998)に示されているようなものである。それ故に、用語「有機金属」は、炭素-金属結合を通じて金属に結合された有機基を有する化合物をいう。このクラスは、それ自体は、ヘテロ原子からの供与結合のみを有する物質である配位化合物、例えば、アミン、ハロゲン化物、擬ハロゲン化物(CN、その他)等の金属錯体を含まない。実際には、有機金属化合物は一般に、有機種への1つまたは複数の炭素-金属結合に加えて、ヘテロ原子からの1つまたは複数の供与結合を含む。有機種への炭素-金属結合は、金属原子と、フェニル、アルキル、アルケニル等などの有機基の炭素原子との間の直接結合をいうが、CNまたはCOの炭素などの「無機炭素」への金属の結合はいわない。
【0032】
図1は、有機発光デバイス100を示す。その図は必ずしも縮尺どおりには描かれていない。デバイス100は、基板110、アノード115、正孔注入層120、正孔輸送層(HTL)125、電子阻止層130、発光領域135、正孔阻止層140、電子輸送層(ETL)145、電子注入層150、保護層155、およびカソード160を含んでもよい。カソード160は、第1の導電層162および第2の導電層164を有する複合カソードである。デバイス100は、述べた層を順々に堆積させることによって製造しうる。
【0033】
基板110は、所望の構造特性を備えた任意の適切な基板であってよい。基板110は柔軟であっても堅くてもよい。基板110は、透明、半透明、または不透明でありうる。プラスチックおよびガラスは好ましい堅い基板物質の例である。プラスチックおよび金属箔は好ましい柔軟基板物質の例である。基板110は、回路の作製を容易にするために半導体物質であってもよい。例えば、基板110は、続いて基板上に堆積されるOLEDを制御できる回路がその上に作製されているシリコンウェハであってもよい。他の基板を使用してもよい。基板110の物質および厚さは、所望の構造特性および光学特性が得られるように選択されうる。
【0034】
アノード115は、有機層に正孔を輸送するために十分な導電性である任意の適切なアノードであってよい。アノード115の材料は、好ましくは、約4eVより大きい仕事関数を有する(「高仕事関数材料」)。好ましいアノード材料には、導電性金属酸化物、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)およびインジウム亜鉛酸化物(IZO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AlZnO)、ならびに金属が含まれる。アノード115(および基板110)は、ボトム発光デバイスを作るために十分に透明でありうる。好ましい透明基板とアノードの組合せは、ガラスまたはプラスチック(基板)上に堆積された市販のITO(アノード)である。柔軟かつ透明な基板-アノードの組合せは、米国特許第5,844,363号および米国特許第6,602,540号B2(これらはその全体を参照により援用する)に開示されている。アノード115は不透明および/または反射性でありうる。反射性アノード115は、デバイスのトップからの発光量を増加させるために、いくつかのトップ発光デバイスでは好ましいものでありうる。アノード115の材料および厚さは、所望の導電性および光学特性が得られるように選択されうる。アノード115が透明である場合、特定の材料に対して、所望の導電性をもたせるのに十分なだけ厚いが、それでも所望の透明度をもたせるのに十分なだけ薄い厚さの範囲がありうる。他のアノード材料および構造を用いてもよい。
【0035】
正孔輸送層125には、正孔を輸送できる物質が含まれうる。正孔輸送層130は真性(ドープされていない)であってもドープされていてもよい。ドーピングは導電性を高めるために使用されうる。α-NPDおよびTPDは真性正孔輸送層の例である。p型ドープ正孔輸送層の例は、Forrestらの米国特許出願公開第2003-02309890号(これはその全体を参照により援用する)に開示されている、50:1(m-MTDATA:F4-TCNQ)のモル比でF4-TCNQでドープされたm-MTDATAである。他の正孔輸送層を用いてもよい。
【0036】
発光領域135は、アノード115とカソード160との間に、それぞれが、電流を流したときに発光しうる有機物質を含む少なくとも2つの発光層を含んでなる。その発光物質のうち少なくとも1つが燐光発光物質であり、その発光物質のうち少なくとも1つが蛍光発光物質であるべきである。この発光層(複数)はさらに、電子、正孔、及び/又は励起子を捕捉し、それにより励起子が発光機構によってその発光物質から緩和することができる発光物質でドープされた、電子及び/又は正孔を輸送可能なホスト物質も含んでいてもよい。発光層は、輸送および発光特性を併せもつ単一物質を含んでいてもよい。発光物質がドーパントであるか主成分であるかにかかわらず、発光層は、発光物質の発光を調整するドーパントなどの他の物質を含みうる。発光領域135は、組み合わされて所望の光スペクトルを発光できる複数の発光物質を含んでいてもよい。リン光発光物質の例には、Ir(ppy)3が含まれる。蛍光発光物質の例には、DCMおよびDMQAが含まれる。ホスト物質の例には、Alq、CBPおよびmCPが含まれる。発光物質及びホスト物質の例は、Thompsonらの米国特許第6,303,238号(これはその全体を参照により援用する)に開示されている。発光物質は多くのやり方で発光領域135に含めることができる。例えば、発光性の低分子がポリマーに組み込まれてもよい。これは、いくつかのやり方によって、例えば、低分子を、別個の独立した分子種としてポリマーにドープすることによって;あるいは、低分子をポリマー骨格に組み込み、コポリマーを形成することによって;あるいは、低分子をペンダント基としてポリマーに結合させることによって、実施できる。他の発光層物質および構造を用いてもよい。例えば、低分子の発光物質は、デンドリマーのコアとして存在してもよい。
【0037】
多くの有用な発光物質は、金属中心に結合した1つまたは複数の配位子を含む。配位子は、それが有機金属発光物質の光活性特性に直接寄与する場合、「光活性」とよぶことができる。「光活性」配位子は、金属と共同で、光子が放出されるときに、電子がそこから移動するエネルギー準位及びそこへ移動するエネルギー準位を提供しうる。他の配位子は「補助」ということができる。補助配位子は、例えば光活性配位子のエネルギー準位をシフトさせることによって分子の光活性特性を改変し得るが、補助配位子は発光に直接関与するエネルギー準位を直接提供はしない。1つの分子において光活性である配位子は別の分子においては補助でありうる。光活性および補助のこれらの定義は本発明を限定しない理論を意図している。
【0038】
電子輸送層145は電子を輸送できる物質を含みうる。電子輸送層145は、真性(ドープされていない)であっても、またはドープされていてもよい。ドーピングは導電性を高めるために使用されうる。Alqは真性電子輸送層の例である。n型ドープ電子輸送層の例は、Forrestらの米国特許出願公開第2003-02309890号(これはその全体を参照により援用する)に開示されている、1:1のモル比でLiによりドープされたBPhenである。他の電子輸送層を用いてもよい。
【0039】
電子輸送層の電荷担体(キャリア)成分は、電子輸送層のLUMO(最低空軌道)エネルギー準位へ、電子がカソードから効率的に注入されうるように選択できる。「電荷担体成分」は、実際に電子を輸送するLUMOエネルギー準位を担う物質である。この成分はベース物質であっても、あるいはそれはドーパントであってもよい。有機物質のLUMOエネルギー準位は一般にその物質の電子親和力により特徴付けることができ、カソードの相対的電子注入効率は一般にカソード材料の仕事関数によって特徴付けることができる。これは、電子輸送層およびそれに隣接するカソードの好ましい特性は、ETL(電子輸送層)の電荷担体成分の電子親和力とカソード材料の仕事関数とによって特定できることを意味する。特に、高い電子注入効率を達成するためには、カソード材料の仕事関数は、電子輸送層の電荷担体成分の電子親和力より、好ましくは約0.75eVを超えては大きくなく、より好ましくは約0.5eVを超えては大きくない。同様の考慮は、電子が注入される如何なる層にも適用される。
【0040】
カソード160は、カソード160が電子を伝導し、かつデバイス100の有機層に電子を注入できるような、当技術分野で公知の如何なる適切な物質または物質の組合せであってもよい。カソード160は透明または不透明であってよく、また反射性であってよい。金属および金属酸化物は適切なカソード材料の例である。カソード160は単層であっても、あるいは複合構造を有していてもよい。図1は、薄い金属層162と、より厚い導電性金属酸化物層164とを有する複合カソード160を示している。複合カソードにおいて、より厚い層164のための好ましい材料には、ITO、IZO、および当技術分野において公知のその他の物質が含まれる。米国特許第5,703,436号、米国特許第5,707,745号、米国特許第6,548,956号B2、および米国特許第6,576,134号B2(これらは全体を参照により援用する)は、スパッタリングによって堆積させた透明で導電性のITO層が上に重なったMg:Agなどの薄い金属層を有する複合カソードを含めたカソードの例を開示している。その下にある有機層と接触しているカソード160の部分は、それが単層カソード160、複合カソードの薄い金属層162、または何らかのその他の部分であるかどうかにかかわらず、約4eVより小さい仕事関数を有する材料(「低仕事関数材料」)から作られていることが好ましい。その他のカソード材料および構造を用いてもよい。
【0041】
阻止層(blocking layer)は、発光層から出て行く電荷担体(電子もしくは正孔)および/または励起子の数を減らすために使用できる。電子阻止層130は、電子が発光層135を離れて正孔輸送層125のほうへ向かうことを妨害するために、発光層135と正孔輸送層125との間に配置できる。同様に、正孔阻止層140は、正孔が発光層135を離れて電子輸送層145のほうへ向かうことを妨害するために、発光層135と電子輸送層145との間に配置できる。阻止層はまた、励起子が発光層から拡散して出て行くのを妨害するためにも使用できる。阻止層の理論と使用は、Forrestらの米国特許第6,097,147号および米国特許出願公開第2003-02309890号(これらは全体を参照により援用する)に、より詳細に記載されている。
【0042】
本明細書で用いており、かつ、当業者により理解されているように、「阻止層」という用語は、この層が、デバイスを通っての電荷担体および/または励起子の輸送を著しく抑制するバリアを提供することを意味するが、この層が電荷担体および/または励起子を必ずしも完全に妨害することは示唆してはいない。デバイス中にこのような阻止層が存在することにより、阻止層を欠いた類似のデバイスと比べて、実質的により高い効率をもたらしうる。また、阻止層は、OLEDの所望の領域に発光を限定するためにも使用できる。
【0043】
一般に、注入層は、一つの層、例えば電極または有機層から、隣接する有機層への電荷担体の注入を向上させうる物質から構成される。注入層は電荷輸送機能も果たしうる。デバイス100において、正孔注入層120は、アノード115から正孔輸送層125への正孔の注入を向上させる如何なる層であってもよい。CuPcは、ITOアノード115および他のアノードからの正孔注入層として使用されうる物質の例である。デバイス100において、電子注入層150は、電子輸送層145への電子の注入を向上させる如何なる層であってもよい。LiF/Alは、隣接する層から電子輸送層への電子注入層として用いうる物質の例である。他の物質または物質の組合せを注入層に用いてもよい。特定のデバイス構成に応じて、注入層はデバイス100において示されているものとは異なる位置に配置されてもよい。注入層のより多くの例は、Luらの米国特許出願第09/931,948号(これはその全体を参照により援用する)に記載されている。正孔注入層は、スピンコートされたポリマー(例えばPEDOT:PSS)などの、溶液によって堆積された物質を含んでいるか、あるいは、それは蒸着された低分子物質(例えば、CuPcまたはMTDATA)でもありうる。
【0044】
正孔注入層(HIL)は、アノードから正孔注入物質への効率的な正孔の注入をもたらすように、アノード表面を平坦化し、または濡らしうる。正孔注入層はまた、HILの一方の側に隣接するアノード層とHILの反対側の正孔輸送層とに都合よく適合するHOMO(最高被占軌道)エネルギー準位(本明細書に記載されている相対的イオン化ポテンシャル(IP)エネルギーにより定義される)を有する電荷担体成分を有することもできる。「電荷担体成分」は、実際に正孔を輸送するHOMOエネルギー準位を担う物質である。この成分はHILのベース物質であるか、あるいは、それはドーパントであってもよい。ドープされたHILを用いることにより、ドーパントをその電気的特性で選択でき、ホストをモルホロジー的特性(例えば、濡れ性、柔軟性、靱性など)によって選択できる。HIL物質の好ましい特性は、正孔がアノードからHIL物質に効率的に注入されることができるということである。特に、HILの電荷担体成分は、好ましくは、アノード材料のIPより約0.7eVを超えて大きくはないIPを有する。より好ましくは、電荷担体成分は、アノード材料より約0.5eVを超えて大きくはないIPを有する。同様の考慮は、正孔が注入される如何なる層にも適用される。HIL物質は、HIL物質が従来の正孔輸送物質の正孔伝導度よりも実質的に小さい正孔伝導度を有しうるという点で、OLEDの正孔輸送層に通常使用される従来の正孔輸送物質からさらに区別される。本発明のHILの厚さは、アノード層の表面を平坦化し又は濡らすことを助けるために十分に厚くてよい。例えば、10nmほどの薄いHILの厚さでも、非常に滑らかなアノード表面に対しては許容可能でありうる。しかし、アノード表面は非常に粗い傾向があるので、いくつかの場合には最大で50nmまでのHILの厚さが望ましい。
【0045】
保護層は次の製造工程の間、下にある層を保護するために使用されうる。例えば、金属または金属酸化物の上部電極(トップ電極)を作製するために用いられる工程は有機層を損傷し得るので、保護層はこのような損傷を減らすか、または無くすために使用されうる。デバイス100において、保護層155は、カソード160の作製中、下にある有機層への損傷を減らすことができる。保護層は、保護層がデバイス100の駆動電圧を著しく増大させないように、それが輸送する担体のタイプ(デバイス100では電子)に対する大きな担体移動度を有することが好ましい。CuPc、BCP、および様々な金属フタロシアニンは、保護層に使用されうる物質の例である。その他の物質または物質の組合せを用いてもよい。好ましくは、保護層155の厚さは、有機保護層155が堆積された後に実施される製造工程によって下にある層への損傷がほとんどまたは全くないように充分に厚いが、デバイス100の駆動電圧を著しく増加させる程には厚くない。保護層155はその導電性を増すためにドープされてもよい。例えば、CuPcまたはBCPの保護層155はLiによってドープされうる。保護層のより詳細な説明は、Luらの米国特許出願第09/931,948号(これはその全体を参照により援用する)に見ることができる。
【0046】
図2は倒置型(inverted)OLED200を示している。このデバイスは、基板210、カソード215、発光層220、正孔輸送層225、およびアノード230を含む。デバイス200は記載した層を順に堆積させることによって製造できる。最も一般的なOLEDの構成はアノードの上方に配置されたカソードを有し、デバイス200はアノード230の下方に配置されたカソード215を有するので、デバイス200を「倒置型」OLEDとよぶことができる。デバイス100に関して記載したものと同様の物質を、デバイス200の対応する層に使用できる。図2は、デバイス100の構造からどのようにいくつかの層を省けるかの1つの例を提供している。
【0047】
図1および2に例示されている簡単な層状構造は非限定的な例として与えられており、本発明の実施形態は多様な他の構造と関連して使用できることが理解される。記載されている具体的な物質および構造は事実上例示であり、その他の物質および構造も使用できる。設計、性能、およびコスト要因に基づいて、実用的なOLEDは様々なやり方で上記の記載された様々な層を組み合わせることによって実現でき、あるいは、いくつかの層は完全に省かれうる。具体的に記載されていない他の層を含むこともできる。具体的に記載したもの以外の物質を用いてもよい。本明細書に記載されている例の多くは単一の物質を含むものとして様々な層を記載しているが、物質の組合せ(例えばホストおよびドーパントの混合物、またはより一般的には混合物)を用いてもよいことが理解される。また、層は様々な副層(sublayer)を有してよい。本明細書において様々な層に与えられている名称は、厳格に限定することを意図するものではない。例えば、デバイス200において、正孔輸送層225は正孔を輸送し且つ発光層220に正孔を注入するので、正孔輸送層として、あるいは正孔注入層として記載されうる。一実施形態において、OLEDは、カソードとアノードとの間に配置された「有機層」を有するものとして説明できる。この有機層は単一の層を含むか、または、例えば図1および2に関連して記載された様々な有機物質の複数の層をさらに含むことができる。
【0048】
具体的に記載されていない構造および物質、例えばFriendらの米国特許第5,247,190号(これはその全体を参照により援用する)に開示されているようなポリマー物質で構成されるOLED(PLED)、も使用することができる。さらなる例として、単一の有機層を有するOLEDを使用できる。OLEDは、例えば、Forrestらの米国特許第5,707,745号(これはその全体を参照により援用する)に記載されているように積重ねてもよい。OLEDの構造は、図1および2に示されている簡単な層状構造から逸脱していてもよい。例えば、基板は、光取出し(out-coupling)を向上させるために、Forrestらの米国特許第6,091,195号(これはその全体を参照により援用する)に記載されているメサ構造、および/またはBulovicらの米国特許第5,834,893号(これはその全体を参照により援用する)に記載されているピット構造などの、角度の付いた反射表面を含みうる。
【0049】
特に断らないかぎり、様々な実施形態の層のいずれも、何らかの適切な方法によって堆積されうる。有機層については、好ましい方法には、熱蒸着(thermal evaporation)、インクジェット(例えば、米国特許第6,013,982号および米国特許第6,087,196号(これらはその全体を参照により援用する)に記載されている)、有機気相成長(organic vapor phase deposition、OVPD)(例えば、Forrestらの米国特許第6,337,102号(その全体を参照により援用する)に記載されている)、ならびに有機気相ジェットプリンティング(organic vapor jet printing、OVJP)による堆積(例えば、米国特許出願第10/233,470号(これはその全体を参照により援用する)に記載されている)が含まれる。他の適切な堆積方法には、スピンコーティングおよびその他の溶液に基づく方法が含まれる。溶液に基づく方法は、好ましくは、窒素または不活性雰囲気中で実施される。その他の層については、好ましい方法には熱蒸着が含まれる。好ましいパターニング方法には、マスクを通しての堆積、圧接(cold welding)(例えば、米国特許第6,294,398号および米国特許第6,468,819号(これらはその全体を参照により援用する)に記載されている)、ならびにインクジェットおよびOVJPなどの堆積方法のいくつかに関連するパターニングが含まれる。その他の方法も用いることができる。堆積される物質は、それらを特定の堆積方法に適合させるために改変されてもよい。例えば、分岐した又は分岐のない(好ましくは少なくとも3つの炭素を含む)アルキルおよびアリール基などの置換基が、溶液加工性を高めるために、低分子に用いることができる。20以上の炭素原子を有する置換基を用いてもよく、3〜20の炭素が好ましい範囲である。非対称構造を有する物質は対称構造を有するものよりも良好な溶液加工性を有しうるが、これは、非対称物質は、より小さな再結晶化傾向を有しうるからである。デンドリマー置換基は、低分子が溶液加工を受ける能力を高めるために用いることができる。
【0050】
本明細書に開示した分子は、本発明の範囲から外れることなく多くの様々なやり方で置換できる。例えば、3つの二座配位子を有する化合物に置換基を追加して、その置換基を付加した後で1つ以上の二座配位子を一緒に連結して、例えば、四座又は六座配位子を形成することができる。その他のそのような連結を形成することができる。この種の連結は、当分野で「キレート効果」として一般的に理解されているものによって、連結のない類似の化合物と比較して安定性を高めることができると考えられる。
【0051】
本発明の実施形態により製造されたデバイスは多様な消費者製品に組み込むことができ、これらの製品には、フラットパネルディスプレイ、コンピュータのモニタ、テレビ、広告板、室内もしくは屋外の照明灯および/または信号灯、ヘッドアップディスプレイ、完全に透明な(fully transparent)ディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、レーザープリンタ、電話機、携帯電話、携帯情報端末(personal digital assistant、PDA)、ラップトップコンピュータ、デジタルカメラ、カムコーダ、ビューファインダー、マイクロディスプレイ、乗り物、大面積壁面(large area wall)、映画館またはスタジアムのスクリーン、あるいは標識が含まれる。パッシブマトリクスおよびアクティブマトリクスを含め、様々な制御機構を用いて、本発明にしたがって製造されたデバイスを制御できる。デバイスの多くは、18℃から30℃、より好ましくは室温(20〜25℃)などの、人にとって快適な温度範囲において使用することが意図されている。
【0052】
本明細書に記載した物質及び構造は、OLED以外のデバイスにおいても応用しうる。例えば、その他のオプトエレクトロニックデバイス、例えば、有機太陽電池及び有機光検出器は、これらの物質及び構造を用いることができる。さらに一般的には、有機デバイス、例えば有機トランジスタは、これらの物質及び構造を用いることができる。
【0053】
本発明のデバイスは、生じた励起子の一重項部分を捕獲するための高効率蛍光発光体と、生じた励起子の三重項部分を捕獲するための高効率燐光発光体とを利用する。白色デバイスについては、本発明のデバイスは、青色蛍光発光物質を、緑及び赤色燐光発光物質と組み合わせて用いて、高い電力効率、安定なカラーバランス、及び100%内部量子効率の可能性をうみだす。2つの異なるエネルギー移動様式がほとんど全ての三重項エネルギーを燐光発光物質(1又は複数)へと導く一方で、一重項エネルギーは蛍光発光物質上にもっぱら留めておく。加えて、一重項励起子からの交換エネルギー損失を排除することによって、燐光のみのデバイスと比較して、最大約20%まで増大した電力効率を可能にする。このデバイス構成は、一重項及び三重項励起子が独立したチャネルによって捕獲され、それによって両方の種類についてのホストからドーパントへの前述の移動がほぼ共鳴(resonant)するように別個に最適化でき、それによって単一のIQEを維持する一方でエネルギー損失を最小限にすることができる。
【0054】
本発明は、効率的な白色発光又は多色発光OLEDを提供する。白色発光デバイスについては、発光物質の組み合わされた発光がそのデバイスからの白色発光をもたらす。好ましい白色発光デバイスについては、デバイスからの組み合わされた発光がX=0.37±0.07及びY=0.37±0.07の間の範囲にあるCIEを有するように、2つ以上の発光ドーパントが選択される。より好ましくは、CIE座標は、X=0.35±0.05及びY=0.35±0.05、さらに好ましくはX=0.33±0.02、Y=0.33±0.02である。「多色」(マルチカラー)の用語は、それぞれが異なる発光スペクトルを有する2つ以上の異なる発光物質に起因する、デバイスからの発光をいう。高いCRI値が所定の照明用途のためには好ましいであろうが、本発明のデバイスはまた、その他の色をもたらす光源を作り出すために用いることもできる。好ましい態様では、本発明のデバイスは少なくとも約6%の外部量子効率を達成することができる。
【0055】
照明用の白色発光デバイスについては、演色指数(CRI)は重要な考慮事項であり、なぜなら、CRIは、いかにその光源が、それが照明する物体の色を表現するかの目安を与えるからである。本発明の好ましい白色発光デバイスについては、CRI値は少なくとも75、より好ましくは少なくとも80、最も好ましくは少なくとも85である。
【0056】
発光領域は、蛍光発光物質(1又は複数)と燐光発光物質(1又は複数)が発光領域内の異なる層にドープされるようにした多層から構成される。本発明の好ましい態様では、発光領域は、蛍光発光物質(1又は複数)と燐光発光物質(1又は複数)が発光領域内の異なる層にドープされるようにした2以上の層を含む。本発明の1つの態様では、発光領域は、2つの隣接した発光層、すなわち蛍光発光層と燐光発光層を含む。この態様によるデバイスの代表的構造は図6Aに示している。蛍光層は、蛍光機構(すなわち、一重項励起子の減衰)を介して発光する物質を含有する。好ましい態様では、蛍光層はホスト物質をさらに含み、ホスト物質の中に蛍光発光物質がドープされている。燐光層は、ホスト物質中にドーパントとして存在する1種以上の燐光発光物質を含有する。燐光物質は、発光領域内の同じ層中に又は別々の複数層中に存在してよい。
【0057】
2種の燐光発光物質を用いる場合(例えば、緑色発光燐光物質及び赤色発光燐光物質)は、この2種の燐光物質は同じ層に共ドープされていてよい。あるいは、2種の燐光物質は、別個の燐光層(複数)(例えば、別個の緑燐光層と赤燐光層)中にドープされていてもよい。
【0058】
本発明の別の態様では、燐光層は蛍光発光物質とともに共ドープされて、ホスト物質中にドーパントとして第二の蛍光発光物質と燐光発光物質とを含む燐光増感蛍光層を作り出す。好ましい態様では、第一の蛍光発光物質は青色発光物質であり、燐光で増感された蛍光層は、緑色発光燐光物質と赤色発光蛍光物質とを有する(図4を参照されたい)。第二の(赤色)蛍光ドーパントからの発光は、燐光増感発光層の共通のホスト中に共ドープされた燐光物質の存在によって増感される。その増感層を第二の蛍光発光物質によってわずかにドーピングすることによって、燐光物質からの三重項の完全な移動よりも少ない移動が、燐光増感層の2つの発光物質からの結合された(組み合わされた)発光をもたらす。好ましい態様では、この組み合わされた発光は、それぞれ蛍光発光物質と燐光発光物質からの赤と緑の発光の混合である。一重項捕獲性の青色蛍光体からの発光と結合されて、所望する白のカラーバランスが達成される。この方法を用いて、広範囲の蛍光染料がWOLEDに使用できるとともに、高い輝度及び量子効率が保たれる。
【0059】
本発明の好ましい態様においては、蛍光(のみの)層は、燐光層(1又は複数)もしくは燐光増感層から、スペーサー層によって分離される。この態様によるデバイスの代表的構造は、図3、4、5、6B、及び7Bに示している。蛍光/燐光ドープの界面を横切る直接のエネルギー移動は、全ての励起子が、蛍光層内でよりも、より低いエネルギーの燐光発光物質から発光することを防ぐように作用できる。スペーサーは直接の励起子移動を防止することができるか、あるいは、より高いエネルギーのホストはこの防止に役立つエネルギー障壁をもたらすが、デクスター(トンネル)移動を排除する程には厚くない。このスペーサー層は、隣接する燐光層への一重項の直接移動を防止するバッファーとして機能する。一重項の寿命は非常に短いので、蛍光ドープ層と燐光ドープ層との間にスペーサーを入れることは、多くの一重項が、燐光ドーパントの一重項状態に容易に移動して次にそれらの三重項への効率的な項間交差が起こることなしに蛍光ドーパント分子上に局在化されることを確実にすることができる。このスペーサー層は、フォレスター機構による一重項移動を防止するために充分厚いことが好ましく、すなわち、このスペーサーはフェルスター半径(約30Å)よりも大きな厚さを有することが好ましい。このスペーサー層は、三重項励起子が燐光層に達することを可能にするように充分薄いことが好ましい。好ましい態様では、スペーサー層は、約30Å〜200Åであり、特に好ましい態様では、スペーサー層は約40Å〜150Åの厚さである。スペーサー層は、蛍光及び/又は燐光層のためのホストと同じ物質からなることが好ましい。
【0060】
本発明の好ましい態様では、蛍光層及び燐光層のためのホスト物質は同じ物質である。蛍光層と燐光層を分離するスペーサー層を有する本発明の態様では、スペーサー層も、そのホスト物質からなることが好ましい。このことが、最適な性能と、移動に対するエネルギー障壁の排除とを可能にする。
【0061】
本発明の好ましい態様では、デバイスの発光領域は、発光領域が以下の構造を有するように複数層からなる。
蛍光層/燐光層;
蛍光層/スペーサー/燐光層;
蛍光層/スペーサー/燐光層/燐光層;
蛍光層/燐光増感層;及び
蛍光層/スペーサー/燐光増感層。
【0062】
発光領域の各構成については、発光領域に直接隣接する層が、励起子及びそれらの層が伝導する反対の電荷を阻止(ブロック)することが好ましい。
【0063】
本発明のデバイスは、再結合が主に蛍光層で起こるように構成される。なおさらに好ましくは、本デバイスは、再結合ゾーンが、蛍光層と、隣接する輸送層(HTL又はETL)もしくは阻止層(ブロッキング層)との界面に存在するように構成される。このことは、電荷輸送性ドーパントを発光領域の層中にドーピングすることによって達成される。したがって、好ましい態様では、蛍光層、燐光層(1又は複数)、及びスペーサー層は、それぞれ電荷移動性ドーパントでドープされる。
【0064】
発光層中での電荷移動性ドーパントの使用は、再結合が、OLED内の単一の領域又は界面で実質的に起こることを可能にする。再結合は主に蛍光層中で起こるか、あるいは蛍光層と隣接層(例えば、隣接する、電子輸送層、正孔輸送層、又は阻止層)との間で起こることが好ましい。
【0065】
電荷移動性ドーパント物質は、ホスト物質(1又は複数)もしくは発光領域中にドープした場合に、発光領域を横切る正孔もしくは電子の輸送を容易にし、且つ発光層からの発光を実質的に妨害しない任意の物質から選択することができる。好ましくは、この電荷移動性物質は、標準的方法、最も好ましくは真空蒸着によって、発光領域中に共ドープされることができる。この電荷移動性ドーパントは、ホスト物質中に約10%〜約50%の濃度でドープされることが好ましい。
【0066】
本発明の一つの態様では、電荷移動性ドーパントは正孔輸送性ドーパントである。この正孔輸送性ドーパントは、発光領域を横切ってのHTLからの正孔の輸送を容易にし、それによって再結合が実質的に、発光領域とETLとの、もしくはETLに隣接する阻止層との界面で、あるいはその界面の近くで起こることを容易にする。この態様では、発光領域の蛍光層はETLに、又はETLに隣接する阻止層に隣接し、それによって実質的に全ての励起子が蛍光層内で形成される。上で議論したように、一重項励起子は、蛍光層中の蛍光発光物質上に捕捉され且つそこから発光する一方で、三重項励起子は1つの燐光層又は複数の燐光層へと拡散する。正孔輸送性ドーパントは、(i) そのHOMO準位が蛍光発光物質(1又は複数)と燐光発光物質(1又は複数)の両方のHOMOよりも上であり、且つ(ii) それが、ホスト物質の三重項エネルギーよりも高い三重項エネルギーを有するように選択されることが好ましい。このようにして、正孔輸送性ドーパントは、発光領域中の全ての層内で正孔を捕捉し且つ輸送し、且つ三重項又は一重項励起子は捕捉しない。これらのパラメータは、燐光発光物質での電荷担体(キャリア)の捕捉と再結合(これは、電圧が変動した場合に蛍光/燐光発光比を変える可能性がある)をも防止でき、したがって、電圧の関数としての改善された色度安定性をもつデバイスを提供しうる。好ましくは、正孔輸送性ドーパントは、発光物質のHOMO準位よりも少なくとも0.1eV、より好ましくは少なくとも0.2eV、なおより好ましくは少なくとも0.3eV高いHOMO準位を有する。
【0067】
正孔輸送性ドーパント物質は、ホスト物質(1又は複数)中にドープされた場合に、発光領域を横切っての正孔の輸送を容易にし、且つ発光層からの発光を実質的に妨害しない任意の物質から選択できる。好ましい正孔輸送性物質には、ポリアリールアミン、アミノベンゼン類のナフチル類縁体、縮合多環式芳香族、オリゴアレン類、オリゴフルオレン類、及び金属錯体が含まれる。ホール輸送性ドーパントは、当分野で公知のHTL材料(例えば、NPD、TPD、HMTPD、TCTA等、及びそれらの誘導体)から選択してもよい。しかし、正孔輸送性ドーパントは安定な非晶質フィルムを形成することができる必要はないので、正孔輸送性ドーパントとして用いてもよい物質の範囲は、HTL材料には限定されない。正孔輸送性ドーパントとして用いるための好ましいポリアリールアミンには、パラ-ビス(N,N-ジフェニルアミノ)ベンゼンが含まれる。
【0068】
本発明の別の態様では、電荷輸送性ドーパントは電子輸送性ドーパントである。電子輸送性ドーパントは、発光領域を横切ってのETLからの電子の輸送を容易にし、それによって再結合が、発光領域とHTLとの、もしくはETLに隣接する阻止層との界面で、又はその界面近くで起こる。この態様では、発光領域の蛍光層は、HTLに、又はETLに隣接する阻止層に隣接すべきであり、それによって実質的に励起子の全てが、蛍光層内で形成される。上で議論したように、一重項励起子は蛍光層中の蛍光発光物質上に捕捉され且つそこから発光される一方で、三重項励起子は1つの燐光層又は複数の燐光層へと拡散する。電子輸送性ドーパントは、(i) そのLUMO準位が、蛍光発光物質と燐光発光物質(1又は複数)の両方のLUMO準位よりも低く、且つ(ii) それが、ホスト物質の三重項エネルギーよりも高い三重項エネルギーを有するように選択されることが好ましい。このようにして、電子輸送性ドーパントは、発光領域の全ての層内で電子を捕捉し且つ輸送し、且つ三重項もしくは一重項励起子を捕捉しない。これらのパラメータは、燐光発光物質でのキャリアの捕捉及び再結合(これは電圧が変化した場合に、蛍光/燐光発光比を変動させる可能性がある)をも防止し、それによって電圧の関数としての改善された色度安定性をもつデバイスを提供しうる。好ましくは、電子輸送性ドーパントは、発光物質のLUMO準位よりも少なくとも0.1eV、より好ましくは少なくとも0.2eV、なおより好ましくは少なくとも0.3eV低いLUMO準位を有する。
【0069】
電子輸送性ドーパント物質は、ホスト物質(1又は複数)中にドープした場合に、発光領域を横切っての電子の輸送を容易にし、且つ発光層からの発光を実質的に妨害しない任意の物質から選択できる。好ましい電子輸送性物質には、フェナントロリン類、アリール置換オキサゾール類及びトリアゾール類、オリゴフルオレン類、オリゴアレン類、並びに金属錯体が含まれる。電子輸送性ドーパントは、当分野で公知のETL材料(例えば、Alq、TAZ、OXD−7等、及びそれらの誘導体)から選択してもよい。しかし、この電子輸送性ドーパントは、安定な非晶質フィルムを形成することができる必要はないため、電子輸送性ドーパントとして用いられる物質の範囲は、ETL材料に限定されない。
【0070】
本発明の別の態様では、発光領域の層のためのホスト物質は正孔輸送性ホスト物質である。この態様では、発光領域の蛍光層は、ETLもしくはETLに隣接する阻止層に隣接するべきであり、それによって実質的に全ての励起子が蛍光層内で形成される。上で議論したように、一重項励起子は、蛍光層中の蛍光発光物質上で捕捉され、且つそこから発光する一方で、三重項励起子は1つの燐光層又は複数の燐光層へと拡散する。正孔輸送性ホストは、(i) そのHOMO準位が、蛍光発光物質(1又は複数)と燐光発光物質(1又は複数)の両方のHOMO準位よりも上であることが好ましい。このようにして、正孔輸送性ホストは、発光領域内の全ての層で正孔を捕捉し且つ輸送する。これらのパラメータはまた、燐光発光物質でのキャリア捕捉及び再結合(これは電圧が変化に伴って蛍光/燐光発光比を変える可能性がある)をも防止し、それによって電圧の関数としての改善された色度安定性をもつデバイスを提供しうる。好ましくは、正孔輸送性ホストは、発光物質のHOMO準位よりも、少なくとも0.1eV、好ましくは少なくとも0.2eV、なおさらに好ましくは0.3eV高いHOMO準位を有する。正孔輸送性ホスト物質は、安定なフィルムを形成する、当分野で公知のHTL材料から選択できる。
【0071】
蛍光(のみの)層においては、正孔と電子の再結合によって生じた一重項励起子は、蛍光発光物質によって捕捉され且つそこから発光される。蛍光層の厚さ及びその層中の蛍光発光物質の濃度は、一重項励起子がその蛍光発光物質において完全に捕捉されるように調節される。蛍光ドーパントの三重項は、蛍光ドーパントに捕捉されないほど充分に高いエネルギーであるべきである。したがって、本発明の好ましい態様では、再結合の約75%より多くは蛍光層内で起こり、特に好ましい態様では、再結合の90%より多くが蛍光層内で起こる。
【0072】
再結合で生じる三重項励起子は、蛍光層内の再結合ゾーンから、燐光発光層又は燐光増感層中へ拡散する。三重項励起子は、燐光発光物質がドープされた領域中へ拡散し、捕捉される。物質の適切な選択によって、各ドーパントは高効率で発光し、且つ高い全体効率がそのデバイスについて達成される。
【0073】
本発明の好ましい態様では、蛍光層の蛍光発光物質は青色発光蛍光物質である。今日まで、燐光青色発光体は通常、OLEDにおいて低い駆動安定性しか示していない。蛍光青色発光体は、OLEDにおいて高効率であり且つ良好な駆動寿命を有するように選択される。
【0074】
好ましい蛍光青色発光体には、多環芳香族化合物、例えば、9,10-ジ(2-ナフチルアントラセン)、ペリレン類、フェニレン類、及びフルオレン類が含まれ、4,4’-(ビス(9-エチル-3-カルバゾビニレン)-1,1’-ビフェニルが特に好ましい蛍光青色発光体である。好ましい蛍光青色発光体は、C.H. Chen, J. Shi, 及びC.W. Tang, “Recent Developments in Molecular Organic Electroluminescent Materials”, Macromol. Symp. 125, pp. 1-48 (1997)、及びそこに引用された参考文献;L.S. Hung及びC.H. Chen, “Recent progress of molecular organic electroluminescent materials and devices”, Mat. Sci and Eng. R, 39 (2002), pp. 143-222、及びそこに引用された参考文献にみることができ、これらそれぞれはその全体を本願に参照により援用する。その他の好ましい蛍光青色発光体には、2005年4月4日出願の“アリールピレン化合物(Arylpyrene Compounds)”の標題の同時係属出願第11/097352(その全体を参照により本願に援用する)に記載されているとおりのアリールピレン類が含まれる。その他の好ましい青色蛍光発光体には、米国特許第5,121,029号明細書及び同第5,130,603号明細書(これらはその全体を参照により本願に援用する)に記載されたアリーレンビニレン化合物が含まれる。蛍光青色発光物質は、ホスト物質中に約1%〜約5%の濃度でドープされることが好ましい。この蛍光層は、約50Å〜約200Åの厚さを有することが好ましい。
【0075】
好ましい燐光緑色発光体は、Baldo, M.A., Thompson, M.E. & Forrest, S.R. High efficiency fluorescent organic light-emitting devices using a phosphorescent sensitizer, Nature 403, 750-753 (2000);及び米国特許第6,830,828号中に見出すことができ、そのそれぞれはその全体を参照により本願に援用する。好ましい燐光赤色発光体は、2-フェニルピリジン-イリジウム錯体の誘導体、例えばPQIrである。好ましい燐光赤色発光体は、米国特許第6,835,469号明細書及び同第6,830,828号明細書に見出すことができ、そのそれぞれはその全体を参照により本願に援用する。燐光緑色発光物質は、ホスト物質中に約2%〜約20%の濃度でドープされることが好ましい。燐光赤色発光物質は、ホスト物質中に約2%〜約10%の濃度でドープされることが好ましい。
【0076】
本発明の別の態様では、白色デバイスのための緑及び赤色発光は、幅広い発光スペクトルで発光する単一の燐光物質によってもたらされる。この種の好ましいドーパントには、平面四角形有機金属白金化合物が含まれ、米国特許第6,869,695号明細書及び同6,863,997号明細書に見出すことができ、そのそれぞれはその全体を参照により本願に援用する。この燐光R−G発光物質は、ホスト物質中に約5%〜約20%の濃度でドープされていることが好ましい。
【0077】
蛍光赤色発光物質は、米国特許第5,989,737号明細書、同第4,769,292号明細書、同第5,908,581号明細書、同第5,935,720号明細書に見出すことができ、そのそれぞれを参照によりその全体を本願に援用する。好ましい赤色蛍光物質には、DCM/DCJ類の赤色発光体(例えば、4-(ジシアノメチレン)-2-メチル-6-(p-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン、及びジュロジリル誘導体)及びキナクリドン類が含まれる。燐光増感発光層においては、共ドープされた燐光発光物質の存在が、蛍光発光物質を発光のために増感する。したがって、この蛍光発光物質は非常に低濃度で存在してもよい。一般に赤色発光ドーパントは電荷担体(キャリア)捕捉部位として働き、その結果、その低い電荷担体移動度によって、駆動電圧は上昇する。燐光増感WOLEDにおいては、赤色ドーパントは非常にわずかにドープされるだけであり、それによってその蛍光発光体での顕著な電荷担体捕捉は防がれる。さらに、蛍光ホストの一重項及び三重項状態から、青色燐光体を励起させるために必要な非常に高いエネルギーによって生じる交換エネルギー損失を取り除くことによって、全て燐光体でドープされた発光領域について予測されるものを超えて電力効率が増大する。好ましい態様では、燐光発光体で増感された層の蛍光発光物質は、約1%未満、好ましくは約0.5%未満、さらに好ましくは約0.1%未満の濃度で存在する。
【0078】
本明細書中に開示した様々な態様は、例示のみを目的とするものであり、本発明の範囲を限定することを意図していない。例えば、本明細書中に記載した物質及び構造の多くは、本発明の思想から離れることなく、その他の物質及び構造で置き換えることができる。どうして本発明が機能するかについての様々な理論は、限定されることを意図していないことが理解される。例えば、電荷移動に関する理論は限定することを意図していない。当業者は、その他のパラメータ、例えば、所望する電流密度を保ちながら、駆動電圧をどのように調節するかを理解できる。
【0079】
[物質の定義]
本明細書で用いるとおり、略語は以下のように物質を表す。
CBP: 4,4’-N,N-ジカルバゾール-ビフェニル
m-MTDATA: 4,4’,4’’-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン
Alq3: 8-トリス-ヒドロキシキノリンアルミニウム
Bphen: 4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン
n-BPhen: n-ドープされたBPhen(リチウムでドープ)
F4-TCNQ: テトラフルオロ-テトラシアノ-キノジメタン
p-MTDATA: p-ドープされたm-MTDATA(F4-TCNQでドープ)
Ir(ppy)3: トリス(2-フェニルピリジン)-イリジウム(Irppy)
Ir(ppz)3: トリス(1-フェニルピラゾロト,N,C(2’)イリジウム(III)
BCP: 2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン
TAZ: 3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール
CuPc: 銅フタロシアニン
ITO: インジウムスズオキシド
NPD: 4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニル-アミノ]-ビフェニル
TPD: N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(3-トリル)-ベンジジン
BAlq: アルミニウム(III)ビス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)4-フェニルフェノレート
mCP: 1,3-N,N-ジカルバゾール-ベンゼン
DCM: 4-(ジシアノエチレン)-6-(4-ジメチルアミノスチリル-2-メチル)-4H-ピラン
DMQA: N,N’-ジメチルキナクリドン
PEDOT:PSS : ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホネート(PSS)の水性分散物
BCzVBi: 4,4’-(ビス(9-エチル-3-カルバゾビニレン)-1,1’-ビフェニル
PQIr: イリジウム(III)ビス(2-フェニルキノリル-N,C2’)アセチルアセトナート
UGH2: p-ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン
DCJTB: 4-(ジシアノメチレン)-2-t-ブチル-6-(1,1,7,7-テトラメチルジュロリジル-9-エニル)-4H-ピラン)
BCzVBi: 4,4’-ビス(9-エチル-3-カルバゾビニレン)-1,1’-ビフェニル
【実施例】
【0080】
[実施例]
有機層は熱蒸発によって10−6Torrの真空チャンバーで堆積させうる。アノード電極は約1200Åのインジウムスズオキシド(ITO)であってよい。1mm径のシャドーマスクを用いてLiF/Alカソード径を画定できる。カソードは、10ÅのLiFと続く1000ÅのAlからなることができる。デバイスは、作製直後に窒素グローブボックス中(<1ppmのHO及びO)にてエポキシ樹脂でシールしたガラス蓋で封入し、吸湿剤をそのパッケージ内部に組み込むことができる。デバイスは、通常、環境条件下、暗所で、Hewlett-Packard 4156C半導体パラメータ分析機とNewport Model 2932-Cデュアルチャネル電力計を使用して試験を行う。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード、発光領域、及びアノードを含み、
前記発光領域が、ホスト物質中に蛍光発光ドーパントと電荷輸送性ドーパントとを含む蛍光層と、ホスト物質中に燐光発光ドーパントと電荷輸送性ドーパントとを含む燐光層とを含む、有機発光デバイス。
【請求項2】
前記電荷輸送性ドーパントが正孔輸送性ドーパントである、請求項1に記載の有機発光デバイス。
【請求項3】
前記正孔輸送性ドーパントのHOMO準位が、前記蛍光発光ドーパントのHOMO準位及び前記燐光発光ドーパントのHOMO準位よりも高い、請求項2に記載の有機発光デバイス。
【請求項4】
前記正孔輸送性ドーパントの三重項エネルギーが前記ホスト物質の三重項エネルギーよりも高い、請求項3に記載の有機発光デバイス。
【請求項5】
前記電荷輸送性ドーパントが電子輸送性ドーパントである、請求項1に記載の有機発光デバイス。
【請求項6】
前記電子輸送性ドーパントのLUMO準位が、前記蛍光発光ドーパントのLUMO準位及び前記燐光発光ドーパントのLUMO準位よりも低い、請求項5に記載の有機発光デバイス。
【請求項7】
前記電子輸送性ドーパントの三重項エネルギーが前記ホスト物質の三重項エネルギーよりも高い、請求項6に記載の有機発光デバイス。
【請求項8】
前記蛍光層と前記燐光層との間にスペーサー層を含み、前記スペーサー層がホスト物質中に電荷輸送性ドーパントを含む、請求項1に記載の有機発光デバイス。
【請求項9】
前記発光領域が、前記蛍光層、前記スペーサー層、及び前記燐光層のみからなる、請求項8に記載の有機発光デバイス。
【請求項10】
前記蛍光層のためのホスト物質、前記燐光層のためのホスト物質、及び前記スペーサー層が同じ物質を含んでなる、請求項9に記載の有機発光デバイス。
【請求項11】
前記蛍光層のためのホスト物質、前記燐光層のためのホスト物質、及び前記スペーサー層がCBPを含んでなる、請求項10に記載の有機発光デバイス。
【請求項12】
前記蛍光層のための正孔輸送性ドーパント、前記燐光層のための正孔輸送性ドーパント、及び前記スペーサー層のための正孔輸送性ドーパントが同じ物質を含んでなる、請求項2に記載の有機発光デバイス。
【請求項13】
前記正孔輸送性ドーパントが、
【化1】

である、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記蛍光発光ドーパントが青色発光蛍光物質である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項15】
励起子の約75%より多くが前記蛍光層内で生じる、請求項1に記載の有機発光デバイス。
【請求項16】
カソード、発光領域、及びアノードを含み、
前記発光領域が、正孔輸送性ホスト物質中にドーパントとして蛍光発光物質を含む蛍光層と、正孔輸送性ホスト物質中にドーパントとして燐光発光物質を含む燐光層とを含む、有機発光デバイス。
【請求項17】
前記蛍光層と前記燐光層との間にスペーサー層を含み、前記スペーサー層が正孔輸送性ホスト物質を含む、請求項16に記載の有機発光デバイス。
【請求項18】
前記発光領域が、前記蛍光層、前記スペーサー層、及び前記燐光層のみからなる、請求項17に記載の有機発光デバイス。
【請求項19】
前記蛍光層のための正孔輸送性ホスト物質、前記燐光層のための正孔輸送性ホスト物質、及び前記スペーサー層のための正孔輸送性ホスト物質が同じ物質を含んでなる、請求項18に記載の有機発光デバイス。
【請求項20】
前記蛍光発光物質が青色発光蛍光物質である、請求項16に記載のデバイス。
【請求項21】
励起子の約75%より多くが前記蛍光層内で生じる、請求項16に記載の有機発光デバイス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−507922(P2010−507922A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534572(P2009−534572)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/020304
【国際公開番号】WO2008/054578
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(502023332)ザ ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア (20)
【出願人】(509119061)ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミシガン (14)
【Fターム(参考)】