説明

白色顔料インク組成物

【課題】 白色顔料インク組成物の必須要件である「隠蔽性、固着性、塗膜柔軟性、流動性、乾燥性」と「層分離及び顔料沈降の抑止」を両立させ、修正液の顔料沈降及び層分離がなく、充分な強度と柔軟性を有する塗膜が得られる修正液あるいは筆記具用白色インクとして使用される白色顔料インク組成物を提供すること。
【解決手段】 少なくとも有機溶剤、白色顔料、樹脂及びドライアップ防止成分を含む白色顔料インク組成物において、インク組成物全体の0.05〜2.0wt%のトリブロック構造のSB系合成ゴムを含有することを特徴とする白色顔料インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印字や筆記文字の誤記等を白色インクで隠蔽修正するための修正液や筆記具用の白色インクとして使用される白色顔料インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の修正液や筆記具用の白色インクとして使用される白色顔料インク組成物には、最低限、溶剤、文字等を隠蔽するための白色顔料、沈降する顔料のハードケーキ化防止剤(フロキュレーションの向上)及び紙面への固着剤としての樹脂、ペン体先端部のドライアップ防止剤の4つの成分が含まれている。
溶剤は樹脂の溶解や粘度調整のために使用されるもので、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等が一般的である。有機溶剤ではなく水を使用した製品もあるが、臭いが気にならない利点がある反面、有機溶剤に比べてインク塗布後の乾燥時間が長くなってしまう欠点がある。
白色顔料としては二酸化チタン、酸化亜鉛などが知られているが、最も隠蔽性が高い二酸化チタンが多く用いられている。
樹脂は紙面に顔料を固着させ、安定した塗膜を形成させるために使用されるとともに、インク中で沈降した顔料がハードケーキ化するのを防止する機能も有している。このための樹脂としてはアクリル樹脂、アルキド樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルアルキルエーテル樹脂、スチレン樹脂などが使用されている。
ドライアップ防止剤としてはパラフィン類が一般的であり、天然のものや合成のものなど多種多様なものが利用されている。
【0003】
白色顔料インク組成物はこれらの各成分をミル等で混合して製造されるが、各成分の中で白色顔料として一般的に使用される二酸化チタンだけはその他の成分と比較すると比重が非常に重いため静止時には沈降してしまう。そのため、インクを充填する塗布容器に攪拌子を入れておき、使用する際に激しくインクを攪拌し、沈降・凝集した二酸化チタンを「物理的な衝撃」により再分散させて使用するのが現状である。
顔料の沈降を防止する目的で樹脂の配合量を増やすと液の流動性や塗布面の柔軟性などに悪影響を及ぼすため、「顔料沈降の抑止」というよりは沈降してしまった二酸化チタンの「再分散性(フロキュレーション)の向上」を目的とした提案が数多くなされている。
【0004】
例えば、沈降した顔料のハードケーキ化の抑止のために添加する樹脂の構造に特徴をもたせた修正液組成物(特許文献1)、添加剤として有機リン酸エステル金属塩を添加した油性白色顔料組成物(特許文献2参照)、モンモリロナイト系粘土鉱物を添加した修正液(特許文献3参照)など、界面活性剤を使用したり、機能性微粒子を添加してその分散機能を利用する方法が提案されているが、フロキュレーションの向上が目的であり、顔料沈降抑止の課題は残されている。
また、キャップオフ性の改善を目的としてパラフィンワックスとゲル化剤を添加した修正液組成物(特許文献4参照)や、膜の強度と柔軟性の改良を目的として樹脂成分にスチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、ポリブタジエンゴムなどのゴム系樹脂を使用した修正液(特許文献5参照)などが提案されているが、これらもフロキュレーションの向上を目的としており、使用時には攪拌が必要なインクである。
また、各種のゲル化剤を添加したインク組成物も提案されている。その中でも、一価アルコールや水を添加するものは油性染料インクや水性染料インクを溶解し、隠蔽に不具合が生じることが考えられる(特許文献6、7参照)。合成ゴム以外のゲル化剤として、無水シリカ、有機ベントナイト、ワックス、有機金属塩なども提案されているが、時として加湿、加圧状態で生産する方法を用いなければならず、添加量も多いというデメリットが挙げられる(特許文献8〜10参照)。また、用途は異なるが、皮膜形成剤として合成ゴムを添加する提案もなされているが、ジブロック構造の合成ゴムであるため、ゲル化効果は無く、別のゲル化剤と併用しなければならない(特許文献11参照)。
【0005】
他方、顔料を分散させた形で固形化した、クレヨン状のものや粘土等を焼結させた固形修正具(特許文献12参照)も提案されている。こような固形タイプでは二酸化チタンの沈降は完全に解決されているが、固体の強度と「つる抜け(すべって紙面にインクがのらないこと)」の相関関係という新たな問題が生じていることは否めない。そこで強度を持たせるための添加物としてマイカ、アルミナ等の板状体質剤を使用する提案(特許文献13参照)もあるが、強度が不十分なためか、細かい個所も修正可能な修正ペンに匹敵する位の「細い固形修正具」は市販されておらず、クレヨンのように「太い固形修正具」が商品化されているのみである。
なお、白色顔料として二酸化チタン以外の比重の比較的小さい顔料のみを使用した修正液は隠蔽力が非常に劣るため実用化されていない。
【0006】
【特許文献1】特開平6−184476号公報
【特許文献2】特開2001−279127号公報
【特許文献3】特開平6−264012号公報
【特許文献4】特開2003−213162号公報
【特許文献5】特開2001−81361号公報
【特許文献6】特開2000−177295号公報
【特許文献7】特開2000−313829号公報
【特許文献8】特開2000−351942号公報
【特許文献9】特開2001−158869号公報
【特許文献10】特開2002−256178号公報
【特許文献11】特開2002−103884号公報
【特許文献12】特開2002−254895号公報
【特許文献13】特開2002−363449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は修正液や筆記具用白色インクに用いられる白色顔料インク組成物の必須要件である「隠蔽性、固着性、塗膜柔軟性、流動性、乾燥性」と「層分離及び顔料沈降の抑止」を両立させ、修正液の顔料沈降及び層分離がなく、充分な強度と柔軟性を有する塗膜が得られる白色顔料インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、他のインク成分に比べて二酸化チタンの比重が格段に大きいために、使用前に容器を振って沈降した二酸化チタンを再分散させなければならなかった白色顔料インク組成物に、トリブロック構造のSB系合成ゴムを少量添加することによって充分なチキソトロピー性を付与できることを見出した結果に基づくものである。
すなわち、本発明の白色顔料インク組成物(以下、単にインク組成物とも記載する)は、少なくとも有機溶剤、白色顔料、樹脂及びドライアップ防止成分を含むインク組成物において、インク組成物全体の0.05〜2.0wt%(質量%)のトリブロック構造のSB系合成ゴムを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の白色顔料インク組成物は白色顔料(特に二酸化チタン)の凝集や沈降がなく、長期的に安定な性状を維持することができる。また、スチレン−ブタジエン系ゴムの添加量はごく少量で効果があるので、隠蔽性、固着性、乾燥性、塗布面の滑らかさと柔軟性など、製品としたときに必要な機能は全く損なわれることはない。
すなわち、本発明のインク組成物は、使用時に攪拌する煩わしさがなく、また、ゲル化させたことで透明チューブ状のインク保持体を利用して、インク残量のわかる修正具や筆記具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のインク組成物における有機溶剤は後述する樹脂の溶解、粘度の調整などの目的で使用するものでありトルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤、n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソヘプタン、n−オクタン、イソオクタンなどの脂肪族炭化水素系溶剤、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどのシクロパラフィン系溶剤などが単独又は混合物の形で使用できる。特に環境、人体への配慮、染料を溶解しない、などの理由によりメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンが好ましい。有機溶剤の使用量は、インク組成物全体の30〜60wt%程度である。
【0011】
本発明のインク組成物における隠蔽用の白色顔料としては二酸化チタン、微細シリカ粉、炭酸カルシウム、タルク、クレー、ケイ酸アルミニウム粉などが使用できるが、特に隠蔽性の面で二酸化チタンが好ましい。その使用量はインク組成物全体の30〜60wt%とするのが好ましい。二酸化チタン以外の白色顔料は、必要により分散補助等の目的で顔料全体の3割程度までの量で使用するのが一般的である。
【0012】
本発明のインク組成物における樹脂としてはケトン樹脂、スルホアミド樹脂、マレイン酸樹脂、エステルガム、キシレン樹脂、アルキド樹脂、ロジン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、セルロース樹脂、ビニル樹脂、フェノール樹脂、エステル樹脂などが使用できる。中でもアクリル系樹脂が好ましい。
【0013】
本発明のインク組成物におけるドライアップ防止成分としては、パラフィンが一般的であり、特に平均分子量100〜700のものが好ましく、200〜400のものが最適である。平均分子量が100未満のものは溶剤の揮散による固化を防止する作用がやや低くなり、平均分子量が700を越えるものは塗布時の被膜の乾燥が遅くなる傾向にあるので好ましくない。
【0014】
本発明のインク組成物は、チキソトロピー性を付与し、二酸化チタンの沈降、凝集を抑制する成分としてトリブロック構造のSB系合成ゴムを含有することを特徴としている。
本発明で使用するSB系合成ゴムはポリスチレンブロックとポリオレフィンブロックで構成されている。しかし、片端にしかポリスチレンブロックが結合していないもの(ジブロック体)は、さほど溶剤を増粘させず、添加量を増やしても必要な粘度が得られる前に飽和し、溶解できない。可能な限り溶解させたとしても、粘度が不十分であることに加えてインク組成物本来の組成バランスを崩し、隠蔽性、乾燥性、固着性、流動性などの機能の低下を招いてしまう。しかし、種々のゴムを試験したところ、SB系合成ゴムでも、ポリオレフィンブロックの両端にポリスチレンブロックが存在するトリブロック体では少量でチキソトロピー性を付与できることが見出された。これは両端にポリスチレンブロックが結合しているために、ポリスチレンブロック部分どうしの凝集力により架橋構造がとりやすく、またこの架橋部は、熱や剪断力付加により容易に離れて流動性が増すためである。
トリブロック体の具体的な例としてはポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン(SBS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)−ポリスチレン(SEBS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)−ポリスチレン(SEPS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)−ポリスチレン(SEEPS)などがあげられる。
【0015】
本発明において、トリブロック構造のSB系合成ゴムとして、例えば、以下の商品名で市販されているものを使用することができる。
旭化成ケミカルズ(株)社製:タフテック H1051、H1043、H1052、M1911、M1913、M1943、P1000、P2000
クレイトンポリマー社製:KRATON D1101、D1107、D1116、D1161、D1184、G1650、G1651、G1652、G1654x、G1657、G1726、G1730、FG1901x、FG1924x クラレ(株)社製:SEPTON 2006、2007、2063、2104、4033、4044、4055、4077、4099、HG252、8004、8006、8007、8076、8104
【0016】
本発明のインク組成物においては、上記の成分に加えて二酸化チタンの分散補助剤として中空微粒子や疎水処理した二酸化チタンなどの機能性微粒子や、界面活性剤を添加してもよい。また、必要により二酸化チタン以外の白色顔料や調色のための有色顔料を添加してもよく、ドライアップ性や乾燥性の向上を目的として種々の有機溶剤を併用してもよい。このための有機溶剤としては、例えばデカン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの炭化水素系有機溶剤が使用できる。
【0017】
本発明のインク組成物は、上記の材料をインク組成物全体に占める割合が、有機溶剤30〜60wt%、白色顔料30〜60wt%、樹脂5〜40wt%、パラフィン類0.1〜5wt%、トリブロック構造のSB系合成ゴム0.05〜2.0wt%となるように混合し、さらに必要によりその他の添加成分を添加して、ミルなどの混合手段を用いて混合することによって製造することができる。
【0018】
本発明のインク組成物は、従来使用されているメチルシクロヘキサンなどの有機溶剤と二酸化チタンを使用したインク組成物に、特定のSB系合成ゴムを少量添加することで、隠蔽性、固着性、乾燥性、塗布面の滑らかさ等の製品として必要な機能を全く損なわずにチキソトロピー性を付与することができ、それによって顔料沈降及び層分離の問題を解決したものである。
【0019】
本発明のインク組成物は、従来のインク組成物と同様に先端に塗布部を有する密閉容器に入れた修正具や筆記具として使用すれば、使用前に激しく攪拌する必要はなく、常に安定した塗布膜を形成することができる。
また、透明チューブ状のインク保持体(容器)を使用し、上部から加圧した状態で使用することにより、インク残量が簡単にわかる修正具、筆記具とすることができる。
【実施例】
【0020】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〜4、比較例1〜3〕
表1に示す組成で各成分を配合し、ボールミルにより十分攪拌し、分散させて修正液インク組成物を得た。なお、SB系合成ゴム1〜3は、その他の材料をミルで分散した後に添加し、温和に攪拌する方法で配合してもよい。
また、使用したトリブロック構造のSB系ゴムのKRATON FG1924XはSEBS、SEPTON 4099はSEEPS、SEPTON 2006はSEPSである。
これらの修正液インク組成物について、各種物性値等の測定、試験を行った結果を表1に示す。
表1の結果から、本発明の白色顔料インク組成物である修正液インク組成物は、全測定項目について優れた特性を有することがわかる。
【0021】
なお、表1のデータ中、隠蔽性、剥離性、乾燥性はJIS S6055に準じて測定、評価したもので、隠蔽性は90%以上を○とし、剥離性は剥離のないものを○とし、乾燥性は30秒で凹み、削れのないものを◎、1分で凹み、削れのないものを○とした。
【0022】
顔料沈降抑止、実使用排出量、実使用乾燥性、塗布面は、インク組成物をナイロン製のチューブに充填し、修正ペン用チップを組み込んだ中芯を用いて測定した。機構の特徴としては中芯のインクを上部空間から加圧できるものである。
顔料沈降抑止(顔料沈降性)は、芯タンクに充填し1カ月静置した後に目視で評価した。評価は、全く沈降や層分離が起こらないものを◎、やや沈降や層分離の兆候が生じたものを○、沈降や層分離が生じたものを×とした。
実使用排出量は、文字を5文字修正した後の排出量を目視し、最適な排出量での隠蔽を○とし、加圧により過剰なインク排出を伴った隠蔽を「過多」、インクが排出されず、修正不可能なものを「不出」とした。
【0023】
粘度はBROOKFIELD社製E型粘度計を用い、条件25℃、0.1rpmで測定した。
実使用乾燥性は、文字を5文字修正し、1分後に隠蔽個所上に再筆記した際の状態を評価し、筆感、筆記線共に通常どおりの筆記ができるものを◎、筆記線は通常どおりだがやや筆感が悪いものを○、インクの乾燥が不完全なために筆記が行えないものを△、隠蔽されていないものを×とした。
塗布面は、文字を5文字修正し、1分後に隠蔽個所を目視し、塗布面が平滑で均一なものを○、塗布面に若干の凹凸がみられるものを△、塗布されていないものを×とした。
【0024】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の白色顔料インク組成物は筆記文字、印刷文字、複写文字等を消去、修正する修正液として、また、白色文字による筆記具用のインクとして極めて優れた性能を有するものであり、その産業上の利用価値は極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも有機溶剤、白色顔料、樹脂及びドライアップ防止成分を含む白色顔料インク組成物において、インク組成物全体の0.05〜2.0wt%のトリブロック構造のSB系合成ゴムを含有することを特徴とする白色顔料インク組成物。
【請求項2】
前記SB系合成ゴムが、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン、ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)−ポリスチレン、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)−ポリスチレン及びポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)−ポリスチレンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の白色顔料インク組成物。


【公開番号】特開2006−241343(P2006−241343A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60348(P2005−60348)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000108328)ゼブラ株式会社 (172)
【Fターム(参考)】