説明

白金族金属吸着剤、及びそれを用いた白金族金属の分離回収方法

【課題】 従来の溶媒抽出法における、液−液型白金族金属抽出剤の抽出性能及び選択性を併せ持ち、且つ有機溶媒を使用する必要のない固−液型白金族金属吸着剤、及びそれを用いた白金族金属の効率的な分離方法乃至回収方法を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)
【化1】


(式中、R、Rは各々独立して、水素原子、炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、m、nは各々独立して、1〜4の整数を表す。)
で示されるアミド含有硫黄官能基を担体表面に有する白金族金属吸着剤を用いて、パラジウム及び/又は白金を選択的に分離回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のアミド含有硫黄官能基を担体表面に有する白金族金属吸着剤、及びそれを用いた白金族金属の分離方法、回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用触媒や自動車排ガス浄化触媒や多くの電化製品に白金やパラジウム等の白金族金属が用いられている。これらの白金族金属は高価であり、資源としても有用であることから、従来から使用後に回収してリサイクルすることが行われてきている。最近では資源の保全を考えて、回収及びリサイクルすることの重要性が一層増加している。
【0003】
白金族金属を回収するために、沈殿分離法、イオン交換法、電解析出法、溶媒抽出法等の多くの方法が開発されており、これらのうち溶媒抽出法が経済性及び操作性の点から広く採用されている。例えば、水溶液中のパラジウムイオンを油溶性の抽出剤を溶解した有機溶媒と液−液接触させることによりパラジウムイオンを有機相側に抽出する方法が知られている。抽出剤としては、ジアルキルスルフィド等の硫黄含有有機化合物用いられている(例えば、特許文献1参照)。また、抽出速度を改善させるため、ジアルキルスルフィドの硫黄近傍にアミド基を導入する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、上記した溶媒抽出法は、多量の有機溶剤を使用することから、安全性や環境負荷の面で課題を有する。
【0005】
このため、特定のチオエーテルをリガンドとし、それをスチレン誘導体のポリマー(例えば、ポリメチルスチレン)に固定化して水不溶性の固体状の高分子型スルフィド化合物とし、それをパラジウムイオンを含む水溶液中に直接添加してパラジウムイオンの吸着を行う、有機溶媒を用いない方法(吸着法)が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献3に記載の吸着法では、吸着剤のパラジウム吸着量が吸着剤1gあたり4mg(0.04mmol)と低いという問題があった。
【0007】
上記したとおり、白金族金属を回収するために、溶媒抽出法は経済性及び操作性の点から広く採用されているが、有機溶媒の使用が必須であるという課題を有する。
【0008】
一方、水に不溶性の高分子型キレート剤やイオン交換樹脂を用いる吸着法は、有機溶媒を用いずに金属分離が行えるという利点があるが、特定の金属に対する選択性が低い場合が多い。例えば、特許文献3に記載の高分子スルフィド型化合物により、複数の金属が混在する溶液中から白金やパラジウムを選択的に分離したという知見は、特許文献3には開示されていない。
【0009】
また、溶媒抽出法、吸着法共に被対象溶液の酸性度の影響を受けることが多く、特に強酸性条件下で金属の分離効率に問題が生じる場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9―279264号公報
【特許文献2】国際公開第2005/083131号パンフレット
【特許文献3】特開平5―105973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記した背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来の溶媒抽出法における、液−液型白金族金属抽出剤の抽出性能及び選択性を併せ持ち、且つ有機溶媒を使用する必要のない固−液型白金族金属吸着剤、及びそれを用いた白金族金属の効率的な分離方法乃至回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、特定のアミド含有硫黄官能基を担体表面に有する吸着剤を見出し、さらにこの吸着剤を用いて白金やパラジウムの分離回収を行うことで、上記した課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、以下に示すとおりの白金族金属吸着剤、及びそれを用いた白金族金属の分離方法乃至回収方法である。
【0014】
[1]下記一般式(1)
【0015】
【化1】

(式中、R、Rは各々独立して、水素原子、炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、m、nは各々独立して、1〜4の整数を表す。)
で示されるアミド含有硫黄官能基を担体表面に有する白金族金属吸着剤。
【0016】
[2]下記一般式(2)
【0017】
【化2】

(式中、R、Rは各々独立して、水素原子、炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、m、nは各々独立して、1〜4の整数を表す。)
で示される硫黄含有ジアミド化合物が担体に固定化された白金族金属吸着剤。
【0018】
[3]一般式(1)又は一般式(2)において、R及びRが炭素数1〜4の鎖式炭化水素基であり、m=2であり、且つn=1又は2であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の白金族金属吸着剤。
【0019】
[4]担体が、スチレン系ポリマーであることを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の白金族金属吸着剤。
【0020】
[5]上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の白金族金属吸着剤を、白金族金属を含有する水溶液と接触させ、パラジウム及び/又は白金を前記白金族金属吸着剤に吸着させることを特徴とする白金族金属の分離方法。
【0021】
[6]上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の白金族金属吸着剤を、白金族金属を含有する水溶液と接触させて、パラジウム及び/又は白金を前記白金族金属吸着剤に吸着させ、次いで前記白金族金属吸着剤に吸着したパラジウム及び/又は白金を、溶出液により溶出して、パラジウム及び/又は白金を含む水溶液を得ることを特徴とする白金族金属の回収方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の白金族金属吸着剤は、白金族金属に対して高い親和性を有し、特にパラジウム及び白金を選択的に吸着するという特徴を有する。本発明の白金族吸着剤は、パラジウムに関して吸着剤1gあたり2mmol以上の吸着が可能であり、特許文献3に記載の吸着剤と比較して、高いパラジウム吸着能を有する。
【0023】
また、本発明の白金族金属吸着剤は、被吸着溶液が濃塩酸溶液のような強酸性であっても問題なく白金族金属(特にパラジウム及び白金)を吸着可能である。
【0024】
一方、本発明の白金族金属の分離方法乃至回収方法によれば、白金族金属を含む水溶液中から白金族金属を、本発明の白金族金属吸着剤に効率良く且つ選択的に吸着させることができ、更に溶出液を用いることで、前記吸着剤に吸着した白金族金属を効率的に回収することができる。本発明の白金族金属吸着剤は、パラジウム及び白金を選択的に吸着するという特徴を有するため、パラジウム及び白金について、特に効率的に回収することができる。
【0025】
また、本発明の白金族金属の分離方法乃至回収方法によれば、有機溶媒を用いることなく、工業用触媒や自動車排ガス浄化触媒中の白金族金属を効率良く且つ選択的に吸着回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例2におけるパラジウムイオン濃度と金属吸着量との関係を示す図である。
【図2】実施例4における塩酸濃度と金属吸着率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の白金族金属吸着剤(以下、「本発明の吸着剤」と称する場合がある。)は、上記一般式(1)で示されるアミド含有硫黄官能基を担体表面に有するもの、又は上記一般式(2)で示される化合物を担体に固定化したものである。
【0028】
上記一般式(1)において、R、Rは、各々独立して、水素原子、炭素数1〜18の鎖式炭化水素基(これらの基は分岐していても差し支えない。)、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表す。これらのうち、水素原子、炭素数1〜8の鎖式炭化水素基、炭素数5〜8の脂環式炭化水素基、炭素数6〜8の芳香族炭化水素基が好ましい。
【0029】
炭素数1〜18の鎖式炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、2−エチルヘキシル基、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、2−メチルアリル基、1−ヘプチニル基、1−ヘキセニル基、1−ヘプテニル基、1−オクテニル基、2−メチル−1−プロペニル基等が挙げられる。
【0030】
炭素数3〜10の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロヘキサトリエニル基、シクロオクテニル基、シクロオクタジエニル基等が挙げられる。
【0031】
炭素数6〜14の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、ベンジル基、フェネチル基、スチリル基、シンナミル基、ビフェニリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
【0032】
上記した一般式(1)及び一般式(2)におけるR、Rとしては、炭素数1〜4の鎖式炭化水素基がより好ましく、炭素数1〜2の鎖式炭化水素基がさらに好ましく、エチル基が特に好ましい。
【0033】
上記一般式(1)及び一般式(2)において、m、nで示されるカルボニル基−硫黄原子間のメチレン数は、各々独立して、1〜4の整数であり、1又は2の場合が特に好ましい
本発明において、担体としては、水に不溶性のものであれば特に制限なく用いることができる。
【0034】
このような担体としては、例えば、ポリスチレン、架橋ポリスチレン等のスチレン系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化オレフィン);ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー等の高分子担体や、活性炭、シリカゲル、珪藻土、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、酸化チタン、マグネシア、ポリシロキサン等の無機担体が挙げられる。
【0035】
ここで、架橋ポリスチレンとは、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等のモノビニル芳香族化合物とジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン、トリビニルベンゼン、ビスビニルジフェニル、ビスビニルフェニルエタン等のポリビニル芳香族化合物との架橋共重合体を主体とするものであり、これらの共重合体にグリセロールメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、等のメタクリル酸エステルが共重合されていてもよい。
【0036】
本発明において、架橋ポリスチレンとしては、架橋ポリスチレンにハロアルキル基を導入したものが特に好ましい。架橋ポリスチレンにハロアルキル基を導入する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、モノビニル芳香族化合物として、クロロメチルスチレン、クロロエチルスチレン、ブロモメチルスチレン、ブロモブチルスチレン等のハロアルキルスチレン等を用い、これとポリビニル芳香族化合物とを共重合させる方法が挙げられる。
【0037】
本発明においては、これらの担体のうち、ポリスチレン、架橋ポリスチレン等のスチレン系ポリマーが好ましい。
【0038】
本発明において用いられる担体の形状としては、球状(例えば、球状粒子等)、粒状、繊維状、顆粒状、モノリスカラム、中空糸、膜状(例えば、平膜等)等の一般的に分離基材として使用される形状が利用可能であり、特に限定するものではないが、これらのうち、球状、膜状、粒状、繊維状のものが好ましい。球状粒子はカラム法やバッチ法で使用する際、その使用体積を自由に設定できることから、特に好ましく使用できる。
【0039】
担体として球状粒子を用いる場合、その平均粒径としては通常1μm〜10mmの範囲、好ましくは2μm〜1mmの範囲であり、平均細孔径としては通常1nm〜1μm、好ましくは1nm〜300nmの範囲である。
【0040】
この場合、上記一般式(1)で示されるアミド含有硫黄官能基を担体へ固定化する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、上記一般式(2)で示される硫黄含有ジアミド化合物を担体に化学的に結合させ固定化する方法や、上記一般式(2)で示される硫黄含有ジアミド化合物を担体に物理的に吸着させて担持する方法等が挙げられる。
【0041】
本発明の吸着剤は、例えば、担体が架橋ポリスチレンの場合には、クロロメチルスチレンとジビルベンゼンとの架橋ポリスチレンである、ポリクロロメチルスチレン(PCMS)と、上記一般式(2)で表される硫黄含有ジアミド化合物とを塩基性条件下で反応させることにより、製造することができる。
【0042】
また、例えば、上記一般式(2)で示される硫黄含有ジアミド化合物を、THF等の溶媒に溶解させ、次いで上記した担体を加えて、当該化合物を当該担体に含浸させて、更に溶媒を留去することにより、本発明の吸着剤を製造することができる。
【0043】
本発明の吸着剤において、当該吸着剤に含まれる上記一般式(1)で示されるアミド含有硫黄官能基の量は、目的に応じて任意に調節可能であり、特に限定するものではないが、本発明の吸着剤に対して、上記一般式(1)で示されるアミド含有硫黄官能基を1〜90重量%の範囲で含有することが好ましく、5〜80重量%の範囲がさらに好ましい。
【0044】
また、上記一般式(2)で示される硫黄含有ジアミド化合物を担体に固定化(担持)する場合は、担体への当該化合物の固定化率(担持率)は、目的に応じて任意に調節可能であり、特に限定するものではないが、本発明の吸着剤に対して、上記一般式(2)で示される硫黄含有ジアミド化合物が1〜90重量%の範囲で固定化(担持)されているのが好ましく、5〜80重量%の範囲がさらに好ましい。
【0045】
上記一般式(2)で示される硫黄含有ジアミド化合物の製造法としては、特に限定するものではないが、下記式(A)
【0046】
【化3】

(式中、R、R、nは上記と同じ定義である。)
で示されるクロロアミドに、塩基性条件下でチオ安息香酸を反応させて、下記式(B)
【0047】
【化4】

(式中、Bzはベンゾイル基を表し、R、R、nは上記と同じ定義である。)
で示されるチオエステルを得、次に、チオエステルを塩基性条件下で下記式(C)
【0048】
【化5】

(式中、R、R、nは上記と同じ定義である。)
で示されるチオラートを得、さらに、このチオラートと下記一般式(D)
【0049】
【化6】

(式中、mは上記と同じ定義である。)
で示されるビス(2−クロロアルキル)アミンと反応させることにより、上記一般式(2)で示される硫黄含有ジアミド化合物を得ることができる。
【0050】
ここで、チオラート(C)を一旦単離してからビス(2−クロロアルキル)アミン(D)との反応を行ってもよいが、チオエステル(B)からワンポットで上記一般式(2)で示される硫黄含有ジアミド化合物まで変換する方法がより簡便である。
【0051】
本発明の白金族金属の分離方法は、本発明の吸着剤を白金族金属を含有する水溶液と接触させ、パラジウム及び/又は白金を前記吸着剤に吸着させることを特徴とする。
【0052】
また、本発明の白金族金属の回収方法は、本発明の吸着剤を白金族金属を含有する水溶液と接触させて、パラジウム及び/又は白金を前記吸着剤に吸着させ、次いで前記吸着剤に吸着したパラジウム及び/又は白金を、溶出液により溶出して、パラジウム及び/又は白金を含む水溶液を得ることを特徴とする。
【0053】
上記した白金族金属の分離方法乃至回収方法において、本発明で処理対象となる被対象溶液は、例えば自動車排ガス処理触媒を溶解した水溶液や、白金族金属の湿式精錬工程における酸浸出後溶液を用いることができる。これらの被対象溶液はパラジウム、白金、ロジウム等の白金族金属を含有するものであるが、これらのうちパラジウム及び/又は白金が含有されていればよく、それら以外の成分は必須というものではない。
【0054】
本発明の吸着剤によりパラジウム及び/又は白金を吸着するためには、まず、上記の被対象溶液に本発明の吸着剤を添加する。この際にこの溶液を攪拌することが望ましい。また、被対象溶液は酸性であることが好ましく、塩酸酸性であることがさらに好ましい。被対象溶液の塩酸濃度としては、本発明の吸着剤は広範な塩酸濃度範囲で使用可能であり、特に限定するものではないが、0.1〜5mol/Lの範囲が好ましい。この範囲の塩酸濃度において、パラジウム、白金共に吸着効率を損なうことなく吸着を実施することができる。
【0055】
また、上記したパラジウムの分離方法乃至回収方法において、本発明の吸着剤の使用量は特に限定するものではないが、例えば、被対象溶液中のパラジウムに対し、本発明の吸着剤を、上記一般式(2)で示される硫黄含有ジアミド化合物換算で等モル量以上用いるのが好ましい。
【0056】
前記の操作により、本発明の吸着剤に吸着された白金族金属を、溶出液により溶出して、白金族金属を含む水溶液を得ることで、白金族金属を回収する。白金族金属の溶出液としては、例えば、アンモニア水、チオ尿素水溶液、チオ尿素水溶液と塩酸の混合水溶液等を好適に用いることができ、中でもチオ尿素水溶液と塩酸の混合水溶液が最も好ましい。本発明の吸着剤を用いてパラジウム及び白金を吸着した場合には、前記の溶出液を用いることにより、パラジウム及び白金を水溶液として回収することができる。
【実施例】
【0057】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定して解釈されるものではない。
【0058】
合成例1.
上記一般式(1)で示されるアミド含有硫黄官能基を担体表面に有する白金族金属吸着剤(又は上記一般式(2)で示される硫黄含有ジアミド化合物を高分子担体に固定化した白金族金属吸着剤)の合成例として、下記式(3)で示される吸着剤の合成法を以下に記す。
【0059】
【化7】

なお、本合成例で使用したポリクロロメチルスチレン(PMCS)は、クロルメチルスチレンとジビニルベンゼンとの架橋ポリスチレンであって、分級による粒子径が5〜10μmの範囲にある網目状の球状ポリマーである。
【0060】
チオエステル体(E)の合成.
200mLナス型フラスコに炭酸カリウム15.20g(110mmol)、水80gを量り取り、これにチオ安息香酸15.20g(110mmol)を加えて室温で30分間攪拌した。これに2−クロロ‐N,N−ジエチルアセタミド14.96g(100mmol)、及びテトラヒドロフラン(THF)20gを加え、室温で3時間攪拌した。反応液を分液ロートに移して有機層と水層を分離した後、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせ、水、飽和食塩水で順次洗浄した後、硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を留去して上記式(E)で示されるチオエステル体(以下、これを「チオエステル体(E)」と称する。)をオレンジ色のオイルとして収量25.67g、収率100%で得た。
【0061】
アミン体(F)の合成.
200mL四つ口フラスコに、上記チオエステル体(E)12.57g(50mmol)、メタノール40g、及び水20gを量り取り、これに20%水酸化ナトリウム水溶液 25g(125mmol)を加えて窒素気流下室温で2時間攪拌した。これにビス(2−クロロエチル)アミン塩酸塩4.46g(25mmol)を水25gに溶解した溶液を40℃にて2時間かけて滴下し、更に40℃で20時間攪拌した。反応液を室温まで冷却し、分液ロートに移して有機層と水層を分離した後、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせ、飽和重曹水、飽和食塩水で順次洗浄した後、硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を留去して、上記式(F)で示されるアミン体(以下、これを「アミン体(F)」と称する。)を淡黄色のオイルとして収量7.24g、収率79.6%で得た。
【0062】
吸着剤(3)の合成.
50mLナス型フラスコに上記アミン体(F)7.27g(20mmol)、ポリクロロメチルスチレン1.50g(塩素分9mmol、ジビニルベンゼン架橋度10mol%)、及び1,4−ジオキサン10gを量り取り、窒素気流下室温で20時間加熱還流した。反応液を室温まで冷却した後、5%水酸化ナトリウム水溶液5gを加え、室温で30分間攪拌した。固体をろ取した後、水、メタノールで順次洗浄し、上記式(3)で示される吸着剤(以下、これを「吸着剤(3)」と称する。)を淡黄色粉末として収量4.24gで得た。元素分析結果から算出した、吸着剤(3)1g中の上記一般式(1)で示されるアミド含有硫黄官能基量(又は上記一般式(2)で示される硫黄含有ジアミド化合物量)は687mgであり、吸着剤(3)1g中の硫黄含有量は3.8mmolであった。
【0063】
合成例2.
上記一般式(1)で示されるアミド含有硫黄官能基を担体表面に有する白金族金属吸着剤(又は上記一般式(2)で示される硫黄含有ジアミド化合物を高分子担体に固定化した白金族金属吸着剤)の合成例として、下記式(4)で示される吸着剤の合成例を以下に記す。
【0064】
【化8】

なお、本合成例で使用したポリクロロメチルスチレンは、合成例1で使用したものと同じでものある。
【0065】
チオエステル体(G)の合成.
200mLナス型フラスコに炭酸カリウム9.95g(72mmol)、水80gを量り取り、これにチオ安息香酸9.95g(72mmol)を加えて室温で30分間攪拌した。これに3−クロロ‐N,N−ジエチルプロパナミド9.82g(60mmol)及びTHF20gを加え、40℃で6時間攪拌した。反応液を分液ロートに移して有機層と水層を分離した後、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせ、水、飽和食塩水で順次洗浄した後、硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を留去して、上記式(G)で示されるチオエステル体(以下、これを「チオエステル体(G)」と称する。)をオレンジ色のオイルとして収量14.93g、収率93.8%で得た。
【0066】
アミン体(H)の合成.
200mL四つ口フラスコに上記チオエステル体(G)4.60g(17.3mmol)、メタノール25gを量り取り、これに20%水酸化ナトリウム水溶液8.67g(43.3mmol)を加えて窒素気流下室温で2時間攪拌した。これにビス(2−クロロエチル)アミン塩酸塩1.55g(8.7mmol)を水15gに溶解した溶液を40℃にて2時間かけて滴下し、更に40℃で18時間攪拌した。反応液を室温まで冷却し、分液ロートに移して有機層と水層を分離した後、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせ、飽和重曹水、飽和食塩水で順次洗浄した後、硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を留去して、上記式(H)で示されるアミン体(以下、これを「アミン体(H)」と称する。)を淡黄色のオイルとして収量3.30g、収率97.1%で得た。
【0067】
吸着剤(4)の合成.
50mLナス型フラスコに上記アミン体(H)7.05g(18mmol)、ポリクロロメチルスチレン1.37g(塩素分8.2mmol、ジビニルベンゼン架橋度10重量%)及び1,4−ジオキサン10gを量り取り窒素気流下室温で40時間加熱還流した。反応液を室温まで冷却した後、5%水酸化ナトリウム水溶液5gを加え、室温で30分間攪拌した。固体をろ取した後、水、メタノールで順次洗浄し、上記式(4)で示される吸着剤(以下、これを「吸着剤(4)」と称する。)を淡黄色粉末として収量2.80gで得た。元素分析結果から算出した、吸着剤(4)1g中の上記一般式(1)で示されるアミド含有硫官能基量(又は上記一般式(2)で示される硫黄含有ジアミド化合物量)は684mgであり、吸着剤(4)1g中の硫黄含有量は3.5mmolであった。
【0068】
実施例1.
50〜400mg/Lのパラジウムを含む1M塩酸溶液10mLに上記吸着剤(3)を添加して室温で24時間攪拌した。その後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、ろ液中の残存金属濃度をICP発光分光器(Perkin Elmaer社製、製品名:OPTIMA3300DV)にて測定した。残存パラジウム濃度と攪拌前の初濃度とから、パラジウム吸着率を求め、更にパラジウム吸着量を算出した。結果を図1に示す。この結果から求めた吸着剤(3)のパラジウム飽和吸着量は240mg/g(2.3mmol/g)であった。
【0069】
実施例2.
パラジウム、白金、及びロジウムを各々50mg/L含む1mol/L塩酸溶液10mLに、上記吸着剤(3)又は吸着剤(4)を10mg添加して室温で1時間攪拌した。その後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、ろ液中の残存金属濃度をICP発光分光器(Perkin Elmaer社製、製品名:OPTIMA3300DV)にて測定した。残存金属濃度と攪拌前の初濃度とから、各金属の吸着率を求めた。結果は表1に示すように、いずれの吸着剤を用いた場合もパラジウムが優先的に吸着され、ロジウムに関してはほとんど吸着が見られなかった。
【0070】
【表1】

実施例3.
パラジウム、白金、及びロジウムを各々50mg/L含む0.1〜5mol/Lの濃度の塩酸溶液10mLに、上記吸着剤(3)を10mgを添加して室温で1時間攪拌した。その後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、ろ液中の残存金属濃度をICP発光分光器(Perkin Elmaer社製、製品名:OPTIMA3300DV)にて測定した。残存金属濃度と攪拌前の初濃度とから、各金属の吸着率を求めた。結果を図2に示す。図2から明らかなように、いずれの塩酸濃度においても良好なパラジウムが吸着が見られ、白金とパラジウムに関しては塩酸濃度を増加することで吸着率が向上した。尚、ロジウムに関してはいずれの塩酸濃度においてもほとんど吸着が見られなかった。
【0071】
実施例4.
溶出試験用サンプルの調整:
パラジウム、白金を各々250mg/L含む1mol/L塩酸溶液10mLに吸着剤(3)を100mg添加して室温で1時間攪拌した。その後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、ろ液中の残存金属濃度をICP発光分光器(Perkin Elmaer社製、製品名:OPTIMA3300DV)にて測定した。残存金属濃度と攪拌前の初濃度とから、各金属の吸着率を求め、吸着剤(3)に吸着した金属含有量を算出した。吸着剤(3)1gあたりのパラジウムの吸着量は23.8mg、白金の吸着量は25.0mgであった。
【0072】
金属溶出試験:
パラジウム及び白金を吸着した上記吸着剤(3)10mgを各種溶出液10mL中室温にて1時間攪拌し、これら金属を水層に溶出させた。その後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、ろ液中の溶出金属濃度をICP発光分光器(Perkin Elmaer社製、製品名:OPTIMA3300DV)にて測定した。溶出金属濃度と攪拌前の初濃度とから、各金属の溶出率を求めた。結果は表2に示すように、溶出液として、1mol/Lチオ尿素/1mol/L塩酸溶液を用いた際に効率良くパラジウム及び白金が溶出された。
【0073】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、R、Rは各々独立して、水素原子、炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、m、nは各々独立して、1〜4の整数を表す。)
で示されるアミド含有硫黄官能基を担体表面に有する白金族金属吸着剤。
【請求項2】
下記一般式(2)
【化2】

(式中、R、Rは各々独立して、水素原子、炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、m、nは各々独立して、1〜4の整数を表す。)
で示される化合物が担体に固定化された白金族金属吸着剤。
【請求項3】
一般式(1)において、R及びRが炭素数1〜4の鎖式炭化水素基であり、m=2であり、且つn=1又は2であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の白金族金属吸着剤。
【請求項4】
担体が、スチレン系ポリマーであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の白金族金属吸着剤。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の白金族金属吸着剤を、白金族金属を含有する水溶液と接触させ、パラジウム及び/又は白金を前記白金族金属吸着剤に吸着させることを特徴とする白金族金属の分離方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の白金族金属吸着剤を、白金族金属を含有する水溶液と接触させて、パラジウム及び/又は白金を前記白金族金属吸着剤に吸着させ、次いで前記白金族金属吸着剤に吸着したパラジウム及び/又は白金を、溶出液により溶出して、パラジウム及び/又は白金を含む水溶液を得ることを特徴とする白金族金属の回収方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−41918(P2011−41918A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192468(P2009−192468)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】