説明

白金錯体の製造方法

【課題】 本発明の課題は、簡便な方法によって、高い収率でビス[(1,1’−ビアリール−2,2’−ジイル)(μ−ジアルキルスルフィド)白金]を製造する方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明の課題は、ジハロゲノビス(ジアルキルスルフィド)白金錯体と、前記白金錯体に対して実質的に当モルの2,2’−ジリチオビフェニルとを反応させることを特徴とする、ビス[(1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル)(μ−ジアルキルスルフィド)白金]の製造方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二核白金錯体の製造方法に関する。本発明の二核白金錯体は、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光材料(ゲスト)用原料として有用な化合物である(例えば、非特許文献2及び4参照)。
【背景技術】
【0002】
従来、cis−ジハロゲノビス(ジアルキルスルフィド)白金(II)と、前記白金1モルに対して2倍モルの2,2’−ジリチオビアリールとを反応させてビス[(1,1’−ビアリール−2,2’−ジイル)(μ−ジアルキルスルフィド)白金]を製造する方法が開示されている(例えば、非特許文献1及び3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Inorganic Chemistry,1987年,26巻,3354〜3358ページ
【非特許文献2】Inorganic Chemistry,1992年,31巻,3230〜3235ページ
【非特許文献3】Journal of American Chemical Society,2004年,126巻,6470〜6484ページ
【非特許文献4】Inorganica Chimica Acta,1990年,168巻,145〜147ページ
【非特許文献5】Journal of Organometallic Chemistry,1973年,60巻,179〜188ページ
【非特許文献6】実験化学講座(第5版)(丸善社),18巻,13〜37ページ
【非特許文献7】Inorganic Synthesis,1960年,6巻,211〜215ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記の方法においては、2倍モルの2,2’−ジリチオビアリールを使用しているにも関わらず、目的物であるビス[(1,1’−ビアリール−2,2’−ジイル)(μ−ジアルキルスルフィド)白金]の収率が低く、工業的製造方法としては非効率的であり、且つ現実的な製造方法といえるものではなかった。
【0005】
本発明の課題は、上記問題点を解決し、簡便な方法によって、高い収率でビス[(1,1’−ビアリール−2,2’−ジイル)(μ−ジアルキルスルフィド)白金]を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。R及びRは同一又は異なっていても良く、炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。なお、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。)
で示されるジハロゲノビス(ジアルキルスルフィド)白金錯体と、前記白金錯体に対して実質的に当モルの一般式(2)
【0009】
【化2】

【0010】
で示される2,2’−ジリチオビフェニルとを反応させることを特徴とする、一般式(3)
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、R及びRは前記と同義である。)
で示されるビス[(1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル)(μ−ジアルキルスルフィド)白金]の製造方法によって解決される。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、高い収率でビス[(1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル)(μ−ジアルキルスルフィド)白金]を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一般式(1)で示されるジハロゲノビス(ジアルキルスルフィド)白金錯体は、市販品をそのまま用いても良いし、例えば、公知の方法によって合成したものを使用しても良い(例えば、非特許文献7参照)。その一般式(1)において、R及びRは同一又は異なっていても良く、炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられるが、好ましくはエチル基である。又、R及びRは互いに結合して環を形成していても良く、結合して形成される環としては、例えば、テトラヒドロチオフェン環等が挙げられる。Xはハロゲン原子であり、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であるが、好ましくは塩素原子である。
【0015】
本発明の反応において使用する2,2’−ジリチオビフェニルは、前記の一般式(2)において示される。その使用量は、ジハロゲノビス(ジアルキルスルフィド)白金錯体1モルに対して実質的に当モルであるが、この実質的に当モルとは当モルの範囲を大きく逸脱しないことを意味し、例えば、好ましくは0.8〜1.2モル、更に好ましくは0.9〜1.1モルである。なお、実質的に当モルでない場合であって、2,2’−ジリチオビフェニルの使用量が少ないとジハロゲノビス(ジアルキルスルフィド)白金錯体が多量に残存し、反応が完結しない。逆に多いと後述の比較例で示したように収率が著しく低下する。
【0016】
なお、2,2’−ジリチオビフェニルは、公知の方法により、一般式(4)
【0017】
【化4】

【0018】
で示される2,2’−ジハロゲノビフェニルとリチウム試薬を反応させることによって合成できる化合物である(例えば、非特許文献5及び6参照)。
【0019】
前記リチウム試薬としては、例えば、金属リチウム、メチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム等のアルキルリチウムが挙げられるが、好ましくはアルキルリチウム、更に好ましくはn−ブチルリチウムが使用させる。
【0020】
本発明の反応においては、溶媒を使用することが望ましく、使用される溶媒としては反応を阻害しないものならば特に限定されないが、例えば、ヘプタン、ヘキサン、ペンタン等の炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類が挙げられるが、好ましくはジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、更に好ましくはジエチルエーテル、テトラヒドロフランが使用される。なお、これらの溶媒は単独又は二種以上を使用しても良く、例えば、ジエチルエーテルとn−ヘキサンとの混合物が好適に使用される。
【0021】
前溶媒の使用量は、ジハロゲノビス(ジアルキルスルフィド)白金錯体1gに対して、好ましくは10〜100ml、更に好ましくは20〜50mlである。
【0022】
本発明の反応は、例えば、ジハロゲノビス(ジアルキルスルフィド)白金錯体に対して実質的に当モルの2,2’−ジリチオビフェニル(予め2,2’−ジハロゲノビフェニルとリチウム試薬から調整しておくことが望ましい)及び溶媒を混合して反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは−78℃〜25℃、更に好ましくは−10℃〜25℃であり、反応圧力は特に制限されない。なお、反応系内は非水条件で行うことが望ましい。
【0023】
本発明により得られるビス[(1,1’−ビアリール−2,2’−ジイル)(μ−ジアルキルスルフィド)白金]は、反応終了後、中和、抽出、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、昇華、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等の一般的な方法を組み合わせることによって単離・精製される。
【実施例】
【0024】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0025】
参考例1(2,2’−ジリチオビフェニルの合成)
攪拌装置を備えた内容量30mlのガラス製容器に、2,2’−ジブロモビフェニル(和光純薬製)140mg(0.45mmol)及び脱水ジエチルエーテル(和光純薬製)6.5mlを加え−10℃に冷却した後、n−ブチルリチウムへキサン溶液0.56ml(濃度1.6mol/l,0.90mmol)を加え、攪拌しながら−10℃で1時間反応させ、0.064mol/lの2,2’−ジリチオビフェニルのジエチルエーテル/ヘキサン混合溶液7.0mlを得た。
【0026】
実施例1(ビス[(1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル)(μ−ジエチルスルフィド)白金]の合成)(反応溶媒:ジエチルエーテル−テトラヒドロフラン)
攪拌装置を備えた内容量50mlのガラス製容器に、cis−ジクロロビス(ジエチルスルフィド)白金(II)(シグマアルドリッチ社製)200mg(0.45mmol)及び脱水テトラヒドロフラン(和光純薬製)6.5mlを加え、−10℃に冷却した。次いで、参考例1で合成した2,2’−ジリチオビフェニルのジエチルエーテル溶液/ヘキサン混合溶液7.0ml(0.45mmol)を加え、攪拌しながら−10℃で1時間、0℃で1時間、25℃で1時間反応させた。反応終了後、反応液に水を加え、塩化メチレンで抽出した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=2/3(容量比))で精製し、黄色固体として、ビス[(1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル)(μ−ジエチルスルフィド)白金]134mgを得た((cis−ジクロロビス(ジエチルスルフィド)白金(II))基準の単離収率;69%)。
なお、ビス[(1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル)(μ−ジエチルスルフィド)白金]の物性値は以下の通りであった。
【0027】
H−NMR(CDCl,δ(ppm));7.34(dd,2H),6.99〜7.06(m,4H),6.88〜6.92(m,2H),3.85(q,4H),1.78(t,6H)
【0028】
実施例2(ビス[(1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル)(μ−ジエチルスルフィド)白金]の合成)(反応溶媒:ジエチルエーテル)
攪拌装置を備えた内容量50mlのガラス製容器に、cis−ジクロロビス(ジエチルスルフィド)白金(II)(シグマアルドリッチ社製)200mg(0.45mmol)及び脱水ジエチルエーテル(和光純薬製)6.5mlを加え、−10℃に冷却した。次いで、参考例1で合成した2,2’−ジリチオビフェニルのジエチルエーテル溶液/ヘキサン混合溶液7.0ml(0.45mmol)を加え、攪拌しながら−10℃で1時間、0℃で1時間、25℃で1時間反応させた。反応終了後、反応液に水を加え、塩化メチレンで抽出した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=2/3(容量比))で精製し、黄色固体として、ビス[(1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル)(μ−ジエチルスルフィド)白金]118mgを得た((cis−ジクロロビス(ジエチルスルフィド)白金(II))基準の単離収率;58%)。
【0029】
参考例2(2,2’−ジリチオビフェニルの合成)
攪拌装置を備えた内容量30mlのガラス製容器に、2,2’−ジブロモビフェニル(和光純薬製)280mg(0.90mmol)及び脱水ジエチルエーテル(和光純薬製)6.5mlを加え−10℃に冷却した後、n−ブチルリチウムへキサン溶液1.1ml(濃度1.6mol/l,1.80mmol)を加え、攪拌しながら−10℃で1時間反応させ、0.128mol/lの2,2’−ジリチオビフェニルのジエチルエーテル/ヘキサン混合溶液7.6mlを得た。
【0030】
比較例1(ビス[(1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル)(μ−ジエチルスルフィド)白金]の合成)
攪拌装置を備えた内容量50mlのガラス製容器に、cis−ジクロロビス(ジエチルスルフィド)白金(II)(シグマアルドリッチ社製)200mg(0.45mmol)及び脱水ジエチルエーテル(和光純薬製)6.5mlを加え、−10℃に冷却した。次いで、比較例1で合成した2,2’−ジリチオビフェニルのジエチルエーテル/ヘキサン混合溶液7.6ml(0.90mmol)を加え、攪拌しながら−10℃で1時間、0℃で1時間、25℃で1時間反応させた。反応終了後、反応液に水を加え、塩化メチレンで抽出した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=2/3(容量比))で精製し、黄色固体として、ビス[(1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル)(μ−ジエチルスルフィド)白金]12mgを得た((cis−ジクロロビス(ジエチルスルフィド)白金(II))基準の単離収率;6.5%)。
【0031】
実施例1及び2と比較例1の結果より、ジハロゲノビス(ジアルキルスルフィド)白金錯体と、前記白金錯体に対して実質的に当モルの2,2’−ジリチオビフェニルとを反応させることにより、目的とするビス[(1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル)(μ−ジアルキルスルフィド)白金]が収率良く製造できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、二核白金錯体の新規な製造方法に関する。本発明の二核白金錯体は、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光材料(ゲスト)用原料として有用な化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。R及びRは同一又は異なっていても良く、炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。なお、R及びRは互いに結合して環を形成していても良い。)
で示されるジハロゲノビス(ジアルキルスルフィド)白金錯体と、前記白金錯体に対して実質的に当モルの一般式(2)
【化2】

で示される2,2’−ジリチオビフェニルとを反応させることを特徴とする、一般式(3)
【化3】

(式中、R及びRは前記と同義である。)
で示されるビス[(1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル)(μ−ジアルキルスルフィド)白金]の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の2,2’−ジリチオビフェニルが、一般式(4)
【化4】

(式中、Yはハロゲン原子を示す。)
で示される2,2’−ジハロゲノビフェニルとリチウム化合物又は金属リチウムとを反応させたものである請求項1記載のビス[(1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル)(μ−ジアルキルスルフィド)白金]の製造方法。
【請求項3】
ジハロゲノビス(ジアルキルスルフィド)白金錯体1モルに対して、2,2’−ジリチオビフェニルを0.8〜1.2モル使用する請求項1のビス[(1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル)(μ−ジアルキルスルフィド)白金]の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の反応を炭化水素類、エーテル類、又はそれらの混合溶媒中で行う請求項1乃至4にいずれか記載のビス[(1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル)(μ−ジアルキルスルフィド)白金]の製造方法。

【公開番号】特開2010−235453(P2010−235453A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82144(P2009−82144)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】