説明

皮下抗HER2抗体製剤

本発明は、皮下注射のための薬学的に活性な抗HER2抗体、例えばトラスツズマブ (ハーセプチン(商標))、ペルツズマブ又はT−DM1、又はかかる抗体分子の混合物の高度に濃縮された安定な薬学的製剤に関する。特に、本発明は、適切な量の抗HER2抗体に加えて、有効量の少なくとも一のヒアルロニダーゼ酵素を組み合わせ製剤として又は共製剤の形態での使用のために含有する製剤に関する。該製剤は加えて少なくとも一の緩衝剤、例えばヒスチジンバッファー、安定剤又は二以上の安定化剤の混合物(例えば糖、例えばα,α−トレハロース二水和物又はスクロースと、場合によっては第二安定剤としてメチオニン)、非イオン性界面活性剤及び有効量の少なくとも一のヒアルロニダーゼ酵素を含有する。該製剤の調製方法とその使用も提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、皮下注射のための薬学的に活性な抗HER2抗体又はかかる抗体分子の混合物の高度に濃縮された安定な薬学的製剤に関する。かかる製剤は、多くの量の抗HER2抗体又はその混合物に加えて、緩衝剤、安定剤又は二以上の安定化剤の混合物、非イオン性界面活性剤及び有効量の少なくとも一のヒアルロニダーゼ酵素を含有する。本発明は上記製剤の調製方法とかかる製剤の使用にも関する。
【0002】
抗体の医薬品としての使用は過去数年にわたり増加している。多くの例では、かかる抗体は静脈内(IV)経路を介して注射される。不幸にも、静脈内経路を介して注射されうる抗体の量は、抗体の物理化学的性質、特に適切な液体製剤におけるその溶解度及び安定性と注入液の体積により制限される。代替の投与経路は皮下又は筋肉内注射である。これらの注射経路は注射される最終溶液中において高いタンパク質濃度を必要とする[Shire, S.J., Shahrokh, Z.等, “Challenges in the development of high protein concentration formulations”, J. Pharm. Sci. 2004; 93(6): 1390-1402;Roskos, L.K., Davis C.G.等, “The clinical pharmacology of therapeutic antibodies”, Drug Development Research 2004; 61(3): 108-120]。皮下的に安全にかつ快適に投与されうる体積と、それによって治療用量を増加させるため、抗体製剤が注入されうる間質空間を増加させるためにグリコサミノグリカナーゼ酵素を使用することが提案されている[国際公開第2006/091871号]。
【0003】
現在市場にある治療用途の薬学的に活性な抗体の安定製剤の例は次の通りである:
【0004】
ハーセプチン(商標)(トラスツズマブ)は、およそ21mg/mlの注射用量を得るために注射用水を用いて注入のために再構成しなければならない150mgの凍結乾燥粉末(抗体、α,α−トレハロース二水和物、L−ヒスチジン及びL−ヒスチジン塩酸塩及びポリソルベート20を含む)の形態で欧州において現在市販されているHER2レセプターに対するモノクローナル抗体(抗HER2抗体)である。合衆国及び多くの他の国では、440mgのトラスツズマブを含む複数用量のバイアルが市販されている。
【0005】
アバスチン(商標)(ベバシズマブ)は、a)4mlに100mgのベバシズマブと、b)16mlに400mgのベバシズマブで、次の賦形剤:トレハロース二水和物、リン酸ナトリウム及びポリソルベート20を含む注射用水に25mg/mlの最終濃度をそれぞれもたらす二つのタイプのバイアルの液体製剤として欧州において現在市販されている血管内皮増殖因子(VEGF)に対するモノクローナル抗体である。
【0006】
上記抗体製剤は静脈内投与に適していることが見出されているが、皮下注射のための治療的に活性な抗体の高度に濃縮された安定な薬学的製剤が提供されることが望まれている。皮下注射剤の利点は、患者へのかなり短い治療処置で開業医師がそれを実施することが可能になる点である。更に、患者は皮下注射を自分で実施するように訓練を受けることができる。そのような自己投与は、ホスピタルケアが必要とされないので、維持投薬において特に有用である(医療資源の利用の減少)。通常、皮下経路を介した注射はおよそ2 mlに限られている。複数用量を必要とする患者では、数種の単位投薬製剤が体表面の複数部位に注射されうる。
【0007】
皮下投与のための次の二つの抗体製品は既に市場に出ている。
【0008】
ヒュミラ(商標)(アダリムマブ)は、皮下投与のための0.8ml注射量中、40mg用量の形態(濃度:50mg抗体/ml注射量)で欧州において現在市販されている腫瘍壊死因子α(TNFα)に対するモノクローナル抗体である。
【0009】
ゾレア(商標)(オマリズマブ)は、125mg/mlの注射用量を得るために皮下注射用水を用いて再構成しなければならない150mgの凍結乾燥粉末(抗体、スクロース、及びヒスチジン及びヒスチジン塩酸塩一水和物及びポリソルベート20を含む)の形態で現在市販されている免疫グロブリンEに対するモノクローナル抗体(抗IgE抗体)である。
【0010】
皮下投与に適したそれほど濃縮されていない安定な薬学的抗HER2抗体製剤は現在市場で入手できる。従って、皮下注射のための治療的に活性な抗体の高度に濃縮された安定な薬学的製剤が提供されることが望まれている。
【0011】
皮下組織中への非経口薬の注射は、皮下(SC)組織における水伝導性に対する粘弾性耐性のため、注射時に生成された背圧のため[Aukland K.及びReed R., “Interstitial-Lymphatic Mechanisms in the control of Extracellular Fluid Volume”, Physiology Reviews”, 1993; 73:1-78]、並びに疼痛の知覚のために2ml未満の量に一般に限られている。
【0012】
高濃度タンパク質製剤の調製はかなりやりがいがあるものであり、各々のタンパク質は異なった凝集挙動を有しているので、使用される特定のタンパク質に各製剤を適合させる必要がある。凝集体は事例の少なくとも幾つかにおいて治療用タンパク質の免疫原性を引き起こしやすい。タンパク質又は抗体凝集体に対する免疫原性反応は、治療用タンパク質又は抗体を効果がないようにしうる抗体の中和を生じうる。タンパク質凝集体の免疫原性は皮下注射に関連して最も問題であり、繰り返しの投与は免疫応答のリスクを増加させると思われる。
【0013】
抗体は非常に類似した全体的構造を有しているが、そのような抗体はアミノ酸組成及び(特に抗原に結合する原因であるCDR領域において)及び糖鎖付加パターンが異なる。更に、電荷及び糖鎖付加変異体のような翻訳後修飾が加えてありうる。抗HER2抗体の特定の場合には、そのような翻訳後修飾は例えばヒト化モノクローナル抗体humMAb4D5−8(=トラスツズマブ)に対して記載されている。例えば酸性変異体を除去するための特定の精製方法が開発され、低減された量の酸性変異体(元のポリペプチドの一又は複数のアスパラギン残基がアスパルテートに転換された、つまり中性アミノ側鎖が全体的に酸性の特性を持つ残基に転換されている主に脱アミド化された変異体)を含む組成物が国際公開第99/57134号においてBasey, C.D 及びBlank, G.S.によって最初に提供されている。
【0014】
リオプロテクタント(lyoprotectant)、バッファー及び界面活性剤を含有する安定な凍結乾燥抗体製剤はAndya等によって記載されている(国際公開第97/04801号及び米国特許第6267958号、第6685940号、第6821151号及び第7060268号)。
【0015】
国際公開第2006/044908号は、ヒスチジン−アセテートバッファー,pH5.5から6.5、好ましくは5.8から6.2で製剤化されたモノクローナル抗体を含む抗体製剤を提供する。
【0016】
従って、本発明によって解決される課題は、皮下注射のための薬学的に活性な抗HER2抗体又はそのような抗体分子の混合物の高度に濃縮された安定な薬学的製剤を提供することである。そのような製剤は、多くの量の抗HER2抗体又はその混合物に加えて、緩衝剤、安定剤又は二以上の安定剤の混合物、非イオン性界面活性剤及び有効量の少なくとも一のヒアルロニダーゼ酵素を含有する。高度に濃縮された抗体製剤の調製は、高いタンパク質濃度での粘度の潜在的な増加及びそれ自体が濃度依存性である現象であるタンパク質凝集の潜在的増加のため、やりがいがある。高粘度は抗体製剤のプロセス能力(例えばポンプ移送及び濾過工程)及び投与(例えばシリンジ能力)にマイナスの影響を与える。賦形剤の添加により、幾つかの例では高粘度を減少させることができた。タンパク質の凝集の制御及び分析は困難性が増す。凝集には、発酵、精製、製剤化及び保存中を含む製造プロセスの様々な工程において潜在的に遭遇する。異なった因子、例えば温度、タンパク質濃度、撹拌ストレス、凍結及び解凍、溶媒及び界面活性剤効果、及び化学修飾が治療用タンパク質の凝集挙動に影響を及ぼすかも知れない。高度に濃縮された抗体製剤の開発の間、タンパク質の凝集傾向がモニターされ、様々な賦形剤及び界面活性剤の添加によって制御されなければならない[Kiese S.等, J. Pharm. Sci., 2008; 97(10); 4347-4366]。本発明に係る薬学的に活性な抗HER2抗体の適切な高度に濃縮された安定な薬学的製剤を調製する困難性は、製剤が数週間にわたって安定なままであり薬学的に活性な成分が適切な保存中に活性なままであるように、二つの異なったタンパク質を一つの液体製剤において処方されなければならないという事実によって増加する。
【0017】
第一の態様では、本発明は、直ぐに使用できる、皮下注射のための薬学的に活性な抗HER2抗体又はそのような抗体分子の混合物の高度に濃縮された安定な薬学的製剤を提供する。
【0018】
より詳細には、本発明の薬学的に活性な抗HER2抗体製剤の高度に濃縮された安定な薬学的製剤は、
− 約50から350mg/mlの抗HER2抗体;
− 5.5±2.0のpHを与える約1から100mMの緩衝剤;
− 約1から500mMの安定剤又は二以上の安定剤の混合物(これによって、場合によってはメチオニンが、例えば5から25mMの濃度で、第二の安定剤として存在する);
− 0.01から0.1%の非イオン性界面活性剤;及び
− 有効量の少なくとも一のヒアルロニダーゼ酵素
を含有する。
【0019】
更なる態様では、本発明は、被検体において例えば癌又は非悪性疾患のような抗HER2抗体での治療が受け入れられる疾患又は障害を、該疾患又は障害を治療するのに効果的な量で被検体にここに記載の製剤を投与することを含む治療に有用である医薬の調製のための製剤の使用を提供する。抗HER2抗体は化学療法剤と同時に又は連続して同時投与されうる。
【0020】
他の態様では、本発明は、被検体における抗HER2抗体での治療を受け入れられる疾患又は障害(例えば癌又は非悪性疾患)を治療する方法において、上記疾患又は障害を治療するのに有効な量でここに記載の製剤を被検体に投与することを含む方法が提供される。癌又は非悪性疾患は、本発明に係る治療用薬学的SC製剤中のHER2抗体が罹患細胞に結合することができるようなHER2発現細胞を一般的に含む。
【0021】
本発明は、注射成分とその皮下投与のための適切な指図書の双方を含むキットの形態で、薬学的に活性な抗HER2抗体又はそのような抗体の混合物及び適切な量の少なくとも一のヒアルロニダーゼ酵素の高度に濃縮された安定な薬学的製剤からなる薬学的組成物をまた提供する。
【0022】
本発明の更なる態様は、本発明に係る高度に濃縮された安定な薬学的製剤を含む注射デバイスに関する。そのような製剤は、薬学的に活性な抗HER2抗体又はそのような抗体分子の混合物と、以下に概説される適切な賦形剤とからなり得、組み合わせ製剤として又は同時投与のための別個の製剤として可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質を更に含みうる。
【0023】
本発明の薬学的に活性な抗HER2抗体製剤の高度に濃縮された安定な薬学的製剤は液体形態で提供され得、又は凍結乾燥形態で提供されうる。国際公開第97/04801号の教示に従えば、再構成された製剤中の抗体濃度は、凍結乾燥製剤の再構成によって増加させ、凍結乾燥工程前の混合物中のタンパク質濃度よりも約2−40倍多いタンパク質濃度を再構成製剤中にもたらしうる。
【0024】
抗HER2抗体濃度は100から150mg/ml、例えば120±18mg/ml、約110mg/ml、約120mg/ml又は約130mg/mlである。
【0025】
5.5±2.0のpHを与える緩衝剤の濃度は、1から50mM、例えば10から30mM又は約20mMである。様々な緩衝剤は以下に更に概説するように当業者に知られている。緩衝剤はヒスチジンバッファー、例えばL−ヒスチジン/HClでありうる。特定の実施態様では、L−ヒスチジン/HClバッファーのpHは約5.5又は約6.0である。
【0026】
安定剤(本特許明細書において「安定化剤」なる用語と同義に使用される)は、例えば薬学的製剤における適切な添加剤又は賦形剤として当局によって認められている炭水化物又は糖類又は糖、例えばα,α−トレハロース二水和物又はスクロースである。安定剤の濃度は、15から250mM、又は150から250mM、又は約210mMである。製剤は二次安定剤を含み得、この二次安定剤は、例えば、5から25mMの濃度又は5から15mMの濃度でのメチオニンでありうる(例えば約5mM、約10mM又は約15mMの濃度のメチオニン)。
【0027】
薬学的に許容可能な界面活性剤の適切な例は、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween)、ポリエチレンポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、例えばポリオキシエチレンモノラウリルエーテル、アルキルフェニルポリオキシエチレンエーテル(Triton-X)、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体(Poloxamer, Pluronic)、及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む。最も適切なポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルはポリソルベート20, (商標Tween 20として販売) 及びポリソルベート80 (商標Tween 80として販売)である。最も適切なポリエチレン・ポリプロピレン共重合体は Pluronic(登録商標) F68又はPoloxamer 188(商標)の名で販売されているものである。最も適切なポリオキシエチレンアルキルエーテルは商標Brijで販売されているものである。.最も適切なアルキルフェノールポリオキシエチレンエーテルは商品名Triton-Xで販売されている。非イオン性界面活性剤は、例えばポリソルベート20, ポリソルベート80 及びポリエチレン・ポリプロピレン共重合体の群から選択されるポリソルベートでありうる。非イオン性界面活性剤の濃度は、0.01から0.1% (w/v)、又は0.01から0.08 % (w/v)、又は0.025から0.075% (w/v)、又はより特定的には約0.02, 0.04又は0.06 % (w/v)である。
【0028】
ヒアルロニダーゼ酵素の濃度は、本発明に係る製剤の調製に使用される実際のヒアルロニダーゼ酵素に依存する。ヒアルロニダーゼ酵素の有効量は、以下の開示に更に基づいて当業者によって容易に決定することができる。それは、同時投与される抗HER2抗体の分散及び吸収の増加が可能であるように十分な量で提供されなければならない。ヒアルロニダーゼ酵素の最少量は>150U/mlである。より詳細にはヒアルロニダーゼ酵素の有効量は約1000から16000U/mlであり、該量は、100000U/mgの推定された比活性に基づき、約0.01mgから0.16mgのタンパク質に対応する。あるいは、ヒアルロニダーゼ酵素の濃度は、約1500から12000U/ml、又はより詳細には約2000U/ml又は約12000U/mlである。これまでに特定された量は、製剤に最初に添加されるヒアルロニダーゼ酵素の量に対応する。実施例の製剤において実証されているように、最終製剤中で測定されるヒアルロニダーゼ酵素濃度はある範囲内で変わりうる。よって、例えば12000U/mlの酵素の添加直後に測定された実際の計測ヒアルロニダーゼ酵素(HE)濃度は12355U/mlから15178U/mlの間の変動を示した(表1の製剤AからF及び表3の製剤Hを参照)。ヒアルロニダーゼ酵素は、組み合わせ最終製剤として、又は同時投与での使用のために、例えば以下に更に概説されるように同時製剤として、存在する。本発明に係る製剤に対する重要な問題は、それが使用準備が整った、及び/又は注入される時点で、それが添付の特許請求の範囲に記載された組成を有していることである。抗HER2抗体に対するヒアルロニダーゼ酵素の比(w/w)は1:1000から1:8000の範囲、又は1:4000から1:5000又は約1:6000の範囲にある。
【0029】
ヒアルロニダーゼ酵素は動物、ヒト試料から誘導され得、又は更に以下に記載されるような組換えDNA技術に基づいて製造される。
【0030】
幾つかの実施態様では、本発明に係る高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤は次の組成の一つを有する:
a) 例えばトラスツズマブ、ペルツズマブ及びT−DM1の群から選択される100から150mg/mlの抗HER2抗体;1から50mMのヒスチジンバッファー、例えば約5.5のpHのL−ヒスチジン/HCl;15から250mMの例えばα,α−トレハロース二水和物である安定剤、及び場合によっては5から25mMの濃度の第二安定剤としてのメチオニン;約0.01から0.08%の非イオン性界面活性剤;及び>150から16000U/ml、より特定的には1000から16000U/mlのヒアルロニダーゼ酵素、例えば約2000U/ml又は約12000U/mlの濃度の例えばrHuPH20。
b) 例えばトラスツズマブ、ペルツズマブ及びT−DM1の群から選択される120 ± 18 mg/mlの抗HER2抗体; 10から30mM、又は約20mMのヒスチジンバッファー、例えば約5.5のpHのL−ヒスチジン/HCl;150 から250mM又は約210mMの例えばα,α−トレハロース二水和物である安定剤、及び場合によっては5から25mM、又は5から15 mM,又は約10 mMの濃度の第二安定剤としてのメチオニン; 約0.01から0.08%の非イオン性界面活性剤;及び1000から16000U/ml、又は1500から12000U/ml、約2000U/ml又は約12000U/mlのヒアルロニダーゼ酵素、例えばrHuPH20。
c) 例えばトラスツズマブ、ペルツズマブ及びT−DM1の群から選択される約120 mg/mlの抗HER2抗体;10から30mM、又は約20mMのヒスチジンバッファー、例えば約5.5のpHのL−ヒスチジン/HCl;150から250 mM、例えば約210 mMの例えばα,α−トレハロース二水和物である安定剤、及び場合によっては5から25mM、又は5から15 mM,又は約10 mMの濃度の第二安定剤としてのメチオニン;約0.01から0.08%の非イオン性界面活性剤; 及び1000から16000U/ml、又は1500から12000U/ml、又はより特定的には約2000U/ml又は約12000U/mlのヒアルロニダーゼ酵素、例えばrHuPH20。
d) 例えばトラスツズマブ、ペルツズマブ及びT−DM1の群から選択される約120 mg/mlの抗HER2抗体; 約20mMのヒスチジンバッファー、例えば約5.5のpHのL−ヒスチジン/HCl;約210mMのα,α−トレハロース二水和物、及び場合によっては第二安定剤としての約10mMのメチオニン;0.04又は0.06 %のポリソルベート20;及び約12000U/mlのヒアルロニダーゼ酵素、例えばrHuPH20; 及び特に以下に特定する製剤A。
e) 例えばトラスツズマブ、ペルツズマブ及びT−DM1の群から選択される約120 mg/mlの抗HER2抗体;約20mMのヒスチジンバッファー、例えば約5.5のpHのL−ヒスチジン/HCl;約210mMのα,α−トレハロース二水和物、及び場合によっては第二安定剤としての10 mMのメチオニン;0.04又は0.06%のポリソルベート20;及び約2000U/mlのヒアルロニダーゼ酵素、例えばrHuPH20;及び特に以下に特定する製剤X。
f) 例えばトラスツズマブ、ペルツズマブ及びT−DM1の群から選択される120mg/mlの抗HER2抗体;20mMのヒスチジンバッファー、例えば約5.5のpHのL−ヒスチジン/HCl;210mMのα,α−トレハロース二水和物、及び場合によっては第二安定剤としての10 mMのメチオニン;約0.04から0.06%の非イオン性界面活性剤を含有する凍結乾燥製剤;及び特に以下に特定する製剤Y。これらの製剤は1000から16000U/ml、又は1500から12000U/ml、又はより特定的には約2000U/ml又は約12000U/mlのヒアルロニダーゼ酵素、例えばrHuPH20で再構成されうる。
【0031】
他の実施態様では、本発明に係る高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体 製剤は、表1、3及び4に特定された組成の一つを有しており、そこでの製剤C, D, E 及びF は、実施例及び表1に概説されるように所望の性質が少ないため、それほど好ましくはない。
【0032】
少量の可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGPs)を使用することによって治療用タンパク質及び抗体の皮下注射を容易にすることが提案されている;国際公開第2006/091871号を参照。そのような可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質の添加(組み合わせ製剤として又は同時投与によっての何れかで)が、皮下組織中への治療薬の投与を容易にすることが示されている。細胞外空間中にヒアルロナンHAを迅速に脱重合させることによってsHASEGPは間質の粘度を減少させ、それによって水伝導性を増加させ、 皮下組織中に安全かつ快適に投与される大きな体積を可能にする。減少した間質粘度を介してsHASEGPによって誘導される増加した水伝導性は大きな分散を可能にし、潜在的にSC投与される治療薬の全身性バイオアベイラビリティを潜在的に増加させる。
【0033】
よって、可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質を含有する本発明の高度に濃縮された安定な薬学的製剤は皮下注射に特に適している。抗HER2抗体及び可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質を含有するそのような製剤は一つの単一の組み合わせ製剤の形態で又は別法では皮下注射の直前に混合することができる二つの別個の製剤の形態での投与のために提供されうることは当業者によって明らかに理解される。別法では、抗HER2抗体及び可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質は、好ましくは互いに直ぐ隣接している部位に身体の異なった部位に、別個の注射剤として投与されうる。例えば最初に可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質と続く抗HER2抗体製剤の注射の、連続した注射剤として本発明に係る製剤中に存在している治療剤を注射することがまたできる。これらの注射はまた逆の順序で、つまり抗HER2抗体製剤の最初の注射と続く可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質の注射によって、実施されうる。抗HER2抗体及び可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質が別個の注射剤として投与される場合、タンパク質の一方又は双方には、緩衝剤、安定剤及び非イオン性界面活性剤が添付の特許請求の範囲に特定された濃度で提供されなければならないがヒアルロニダーゼ酵素は除外される。ついで、ヒアルロニダーゼ酵素は、例えば約6.5のpHのL−ヒスチジン/HClバッファー、100から150mMのNaCl及び0.01から0.1%(w/v)のポリソルベート20又はポリソルベート80中に提供されうる。特に、ヒアルロニダーゼ酵素は、以下の表1の製剤Gで特に例証される20mMのpH6.5のL−ヒスチジン/HClバッファー、130mMのNaCl、0.05%(w/v)のポリソルベート80に提供される。
【0034】
上に記載したように、可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質は抗HER2製剤における更なる賦形剤であると考えられうる。可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質は、抗HER2製剤の製造時に抗HER2製剤に加えられ得、又は注射の直ぐ前に添加されうる。別法では、可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質は別個の注射剤として提供されうる。後者の場合、可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質は、皮下注射がなされる前に適切な希釈剤で再構成されなければならない凍結乾燥形態で別個のバイアルで提供されうるか、又は製造者によって液体製剤として提供されうる。抗HER2製剤及び可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質は別個の物として入手されうるか、又は注射成分とその皮下投与のための適切な指図書の双方を含みキットとしてまた提供されうる。製剤の一又は双方の再構成及び/又は投与のための適切な指図書がまた提供されうる。
【0035】
従って、本発明は、注射成分とその皮下投与のための適切な指図書の双方を含むキットの形態で、薬学的に活性な抗HER2抗体又はかかる抗体の混合物及び適切な量の少なくとも一のヒアルロニダーゼ酵素の高度に濃縮された安定な薬学的製剤からなる薬学的組成物をまた提供する。
【0036】
本発明の更なる態様は、本発明に係る高度に濃縮された安定な薬学的製剤を含む注射デバイスに関する。そのような製剤は薬学的に活性な抗HER2抗体又はそのような抗体分子の混合物及び以下に概説される適切な賦形剤からなり得、組み合わせ製剤として又は同時投与のための別個の製剤として可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質を更に含みうる。
【0037】
様々な抗HER2抗体が従来から知られている。そのような抗体は好ましくはモノクローナル抗体である。それらはいわゆるキメラ抗体、ヒト化抗体又は完全なヒト抗体の何れかでありうる。それらは、そのような抗体又は断片のアミノ酸配列変異体及び/又は糖鎖付加変異体を含む完全長抗HER2抗体;同じ生物学的活性を有する抗HER2抗体断片でありうる。ヒト化抗HER2抗体の例はトラスツズマブ 及びペルツズマブのINN名で知られている。他の適切な抗HER2抗体は、現在転移性乳癌に対して開発されている、huMAb4D5−8(ハーセプチン(商標))と、(MMCリンカーで)コンジュゲートするメイタンシノイド(つまり、DM1=N’デアセチル−N’−(3−メルカプト−1−オキソプロピル)−メイタンシン;非常に強力な微小管阻害剤)からなる抗体・毒素コンジュゲートであるT−DM1である。様々な性質を持つ他のHER2抗体は、Tagliabue等, Int. J. Cancer, 47:933-937 (1991);McKenzie等, Oncogene, 4:543-548 (1989);Cancer Res., 51:5361-5369 (1991);Bacus等, Molecular Carcinogenesis, 3:350-362 (1990);Stancovski等, PNAS (USA), 88:8691-8695 (1991);Bacus等, Cancer Research, 52:2580-2589 (1992);Xu等, Int. J. Cancer, 53:401-408 (1993);国際公開第94/00136号;Kasprzyk等, Cancer Research, 52:2771-2776 (1992);Hancock等, Cancer Res., 51:4575-4580 (1991);Shawver等, Cancer Res., 54:1367-1373 (1994);Arteaga等, Cancer Res., 54:3758-3765 (1994);Harwerth等, J. Biol. Chem., 267:15160-15167 (1992);米国特許第5783186号;及びKlapper等, Oncogene, 14:2099-2109 (1997)に記載されている。最も成功した治療用抗HER2抗体は、ハーセプチン(商標)の名称でGenentech社及びF. Hoffmann-La Roche社によって販売されているトラスツズマブである。HER2抗原及びそれに対する抗体に関する更なる詳細は多くの特許及び非特許刊行物に記載されている(適切な概説には米国特許第5821337号及び国際公開第2006/044908号を参照)。
【0038】
抗HER2抗体は例えばトラスツズマブ, ペルツズマブ 及びT-DM1の群から選択され、また抗HER2抗体、例えばトラスツズマブ 及びペルツズマブ又はT-DM1 及びペルツズマブの混合物からなりうる。ペルツズマブ 及びトラスツズマブの組合せは、先のトラスツズマブ治療中に進行を被った転移性HER2陽性乳癌の患者で、活性であり、十分に許容されることが見出されている[例えばBaselga, J.等, Journal of Clin. Oncol. Vol 28 (7) 2010: pp. 1138-1144を参照]。本発明に係る製剤は抗HER2抗体トラスツズマブを用いてここで実証されている。「トラスツズマブ」、「ペルツズマブ」及び「T-DM1」なる用語は、米国、欧州及び日本からなる国の群から選択される国又は領域において同一品又はバイオ後続品として販売認可を得るのに必要な要件を満たす全ての対応する抗HER2抗体を包含する。トラスツズマブは欧州特許第590058B号に定義されたCDR領域を有している。ペルツズマブは国際公開第01/00245号に定義されたCDR領域を有している。BT-474 抗増殖アッセイにおけるトラスツズマブの活性[Nahta, R.等, “The HER-2-targeting antibodies Trastuzumab and Pertuzumab synergistically inhibit the survival of breast cancer cells”, Cancer Res. 2004; 64:2343.2346]は0.7−1.3×10U/mgであることが見出されている。T−DM1は国際公開第2005/117986号に記載されている。
【0039】
ハーセプチン(商標)(トラスツズマブ)は、次のようにHER2を過剰発現する腫瘍を有している転移性乳癌(MBC)の患者の治療についてEUにおいて承認されている:
− その転移性疾患に対して少なくとも2種の化学療法レジメンを受けた患者の治療のための単剤療法として。先の化学療法は、患者がこれらの治療に不向きではない限り、少なくともアントラサイクリン及びタキサンを含んでいなければならない。ホルモンレセプター陽性の患者は、患者がこれらの治療に不向きではない限り、ホルモン療法にまた失敗していなければならない。
− アントラサイクリンが適切ではなく、その転移性疾患に対する化学療法を受けていない患者の治療に対してパクリタキセルとの併用。
− その転移性疾患に対して化学療法を受けていない患者の治療に対してドセタキセルとの併用。
− トラスツズマブで過去に治療されていないホルモンレセプター陽性MBCの閉経後の患者の治療のためのアロマターゼ阻害剤との併用。
【0040】
トラスツズマブは、手術、化学療法(ネオアジュバント又はアジュバント)及び放射線療法(適用可能ならば)後のHER2陽性の初期段階乳癌(EBC)の患者の治療に対してHER2を過剰発現する腫瘍があるMBCの患者の治療に対してEUにおいてまた承認されている。
【0041】
更に、トラスツズマブは現在胃癌の治療のために開発されている。
【0042】
二通りの投薬レジメンが現在トラスツズマブ(表1)に対して承認されている:転移性乳癌(MBC)及び早期乳癌(EBC)の双方に対して毎週1回(q1w)及び3週毎(q3w)。q1w投薬レジメンでは、負荷用量は4mg/kgで、これに2mg/kgでの次の用量が続く。q3w投薬レジメンでは、負荷用量は8mg/kgで、これに6mg/kgで次の用量が続く。
【0043】
上に記載されたように、静脈内投与のためのハーセプチン(商標)(トラスツズマブ)は現在バイアルで凍結乾燥形態で販売されている。欧州で販売されている製剤では、各バイアルは、次の成分を含む6.25mlの充填体積の滅菌水溶液の凍結乾燥後に得られる乾燥残留物を含む:150mgのトラスツズマブ(再構成後に150mgの名目量が最終製品から取り出されうることを確実にするために有効な156.3mg)、3.50mgのL−ヒスチジン塩酸塩、2.25mgのL−ヒスチジン、141.9mgのα,α−トレハロース二水和物、0.63mgのポリソルベート20。溶解した凍結乾燥物は、約24mg/mlのトラスツズマブ、5mMのL−ヒスチジン/HCl,pH6.0、60mMのα,α−トレハロース二水和物、0.01%のポリソルベート20を含む。ついで、該溶液は注入液に添加され、ついで注入液が90分にわたって患者に投与される(もしよく許容されるならば、次の注入液がMBCにおいて30分にわたって投与されうる)。
【0044】
多くの可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質が従来から知られている。機能、作用機序及びそのような可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質の性質を更に定義するために、次の背景情報が提供される。
【0045】
SC(皮下組織)間質マトリックスは、グリコサミノグリカンの粘弾性ゲル内に埋め込まれた線維性タンパク質の網目構造からなる。ヒアルロナン(HA)、つまり非硫酸化反復線形二糖類は、SC組織の顕著なグリコサミノグリカンである。HAは、高分子量のメガダルトンの粘性ポリマーとして線維芽細胞によって間質中に分泌され、続いてリソソームヒアルロニダーゼ及びエキソグルコシダーゼの作用を通してリンパ及び肝臓において局所的に分解される。体内のおよそ50%のヒアルロナンがSC組織によって産生され、そこで、およそ0.8mg/gm湿重量組織で見出される[上掲のAukland K.及びReed R.]。平均70kgの成人は15グラムのHAを含んでおり、その30パーセントが毎日代謝回転する(合成され、分解される)と推定される[Laurent L.B.,等, “Catabolism of hyaluronan in rabbit skin takes place locally, in lymph nodes and liver”, Exp. Physiol. 1991; 76: 695-703]。皮下組織マトリックスのゲル様成分の主要な構成成分として、HAはその粘度に有意に寄与する。
【0046】
グリコサミノグリカン(GAGs)は細胞外マトリックス(ECM)の複合直鎖状多糖類である。GAGsは、N置換ヘキソサミン及びウロン酸(ヒアルロナン(HA)、コンドロイチン硫酸(CS)、コンドロイチン(C)、デルマタン硫酸(DS)、ヘパラン硫酸(HS)、及びヘパリン(H)の場合)、又はガラクトース(ケラタン硫酸(KS)の場合)の反復二糖類構造を特徴とする。HAを除いて、全てはコアタンパク質に共有結合して存在する。そのコアタンパク質を伴うGAGsは構造的にプロテオグリカン(PGs)と称される。
【0047】
ヒアルロナン(HA)は哺乳動物の主に結合組織、皮膚、軟骨中、及び滑液中に見出される。ヒアルロナンはまた眼の硝子体の主要構成要素である。結合組織では、ヒアルロナンに関連した水和の水が組織間に水和マトリックスをつくり出す。ヒアルロナンは、迅速な発生、再生、修復、胚形成、発生学的発生、創傷治癒、血管形成、及び腫瘍形成を含む細胞運動性に関連した生物学的現象において重要な役割を果たしている(Toole, Cell Biol. Extracell. Matrix, Hay (編), Plenum Press, New York, 1991; pp. 1384-1386;Bertrand等., Int. J. Cancer 1992; 52:1-6;Knudson等, FASEB J. 1993; 7:1233-1241]。また、ヒアルロナンのレベルは腫瘍攻撃性と相関する[Ozello等, Cancer Res. 1960; 20:600-604;Takeuchi等, Cancer Res. 1976; 36:2133-2139;Kimata等, Cancer Res. 1983; 43:1347-1354]。
【0048】
HAは多くの細胞の細胞外マトリックス、特に結合軟部組織に見出される。HAには、例えば水及び血漿タンパク質恒常性等の様々な生理学的機能があてがわれている[Laurent T.C.等, FASEB J., 1992; 6: 2397-2404]。HA生産は増殖性細胞で増加し、有糸分裂において所定の役割を果たしうる。それは自発運動及び細胞遊走にまた関与していた。HAは細胞調節、発生、及び分化において重要な役割を担っているようである[上掲のLaurent等]。
【0049】
HAは臨床医学において広く使用されている。その組織保護及びレオロジー特性は(例えば白内障手術中に角膜内皮を保護するために)眼科手術に有用であることが証明されている。血清HAは肝疾患及び様々な炎症症状、例えば関節リウマチの診断に用いられる。HAの蓄積によって引き起こされる間質浮腫は様々な器官に機能不全を生じさせうる[上掲のLaurent等]。
【0050】
ヒアルロナンタンパク質相互作用は、細胞外マトリックス又は「基底質」の構造に関与している。
【0051】
ヒアルロニダーゼは動物界全体に見出される一般的に中性又は酸活性の酵素の一群である。ヒアルロニダーゼは基質特異性及び作用機序について変動する(国際公開第2004/078140号)。3種の一般的なクラスのヒアルロニダーゼが存在している:
1.主要最終産物として四糖類及び五糖類を含むエンド−β−N−アセチルヘキソサミニダーゼである哺乳動物タイプのヒアルロニダーゼ(EC3.2.1.35)。これらは加水分解性及び及びトランスグルコシダーゼ活性の双方を有しており、ヒアルロナン及びコンドロイチン硫酸(CS)、一般にC4−S及びC6−Sを分解しうる。
2.細菌ヒアルロニダーゼ(EC4.2.99.1)はヒアルロナンと様々な度合いでCS及びDSを分解する。これらは主に二糖類最終産物を生じるβ脱離反応によって作用するエンド−β−N−アセチルヘキソサミニダーゼである。
3.ヒル、他の寄生虫、及び甲殻類からのヒアルロニダーゼ(EC3.2.1.36)は、β1−3結合の加水分解を通して四糖類及び五糖類参集産物を生成するエンド−β−グルクロニダーゼである。
【0052】
哺乳動物ヒアルロニダーゼは二つの群に更に分けられうる:中性活性及び酸活性酵素である。ヒトゲノムHYALl、HYAL2、HYAL3、HYAL4、HYALPl及びPH20/SPAM1には6つのヒアルロニダーゼ様遺伝子が存在する。HYALPlは偽遺伝子であり、HYAL3は如何なる既知の基質に対しても酵素活性を有していることは示されていない。HYAL4はコンドロイチナーゼであり、ヒアルロナンに対して殆ど活性を示さない。HYALlは原型的な酸活性酵素であり、PH20は原型的な中性活性酵素である。酸活性ヒアルロニダーゼ、例えばHYALl及びHYAL2は一般に中性pH(つまり、pH7)での触媒活性を欠く。例えば、HYALlはpH4.5ではインビトロで殆ど触媒活性を持たない[Frost I.G. 及びStern, R., “A microtiter-based assay for hyaluronidase activity not requiring specialized reagents”, Anal. Biochemistry, 1997; 251:263-269]。HYAL2はインビトロで比活性が非常に低い比活性の酸活性酵素である。
【0053】
ヒアルロニダーゼ様酵素は、ヒトHYAL2及びヒトPH20のようなグリコシルホスファチジルイノシトールアンカーを介して細胞膜に一般的にロックされるもの[Danilkovitch-Miagkova等, Proc. Natl. Acad. Sci. U SA, 2003; 100(8):4580-4585;Phelps等, Science 1988; 240(4860): 1780-1782]と、ヒトHYAL1のように一般に可溶性であるもの[Frost, I.G.等, “Purification, cloning, 及びexpression of human plasma hyaluronidase”, Biochem. Biophys. Res. Commun. 1997; 236(l):10-15]によりまた特徴付けることができる。しかしながら、種間でばらつきがある:例えば、ウシPH20は細胞膜に非常に緩く付着されており、ホスホリパーゼ感受性アンカーを介して結合されていない[Lalancette等, Biol. Reprod., 2001; 65(2):628- 36]。ウシヒアルロニダーゼのこの独特の特徴が、臨床使用用の抽出物としての可溶性ウシ精巣ヒアルロニダーゼ酵素の使用を可能にしている(Wydase(商標)、Hyalase(商標))。他のPH20種は、洗浄剤又はリパーゼの使用なしでは一般に可溶ではない脂質結合酵素である。例えば、ヒトPH20はGPIアンカーを介して細胞膜に結合される。ポリペプチドに脂質アンカーを導入しないヒトPH20DNAコンストラクトを作製しようとする試みの結果、触媒的に不活性な酵素、又は不溶性酵素が得られた[Arming等, Eur. J. Biochem., 1997; 247(3):810-4]。天然に生じるマカクザル精子ヒアルロニダーゼは、可溶型と膜結合型の両方で見出されている。64kDaの膜結合型はpH7.0で酵素活性を有するが、54kDa型はpH4.0でのみ活性である[Cherr等, Dev. Biol., 1996;10; 175(l): 142-53]。よって、可溶型PH20は中性条件下では酵素活性を欠いていることが多い。
【0054】
上に記載したように、また国際公開第2006/091871号における教示に従って、皮下組織中への治療薬剤の投与を容易にするために、少量の可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGPs)を製剤中に導入することができる。細胞外空間においてHAを迅速に脱重合させることにより、sHASEGPは間質の粘度を低減し、それによって水伝導性を増加させ、SC組織へのより多い容量の安全かつ快適な投与を可能にする。減少した間質の粘度を通してsHASEGPによって誘導された水伝導性の増加は、より多い分散を可能にし、SC投与治療薬の全身性バイオアベイラビリティを潜在的に増加させる。
【0055】
皮下組織に注射されたとき、sHASEGPによるHAの脱重合はSC組織内の注射部位に局在化する。実験的証拠は、CD−1マウスにおける一回の静脈内投薬の後、検出可能な血中への全身的吸収を伴わないで、13から20分の半減期でsHASEGPがマウスの間質空間で局所的に不活性化されることを示している。血管区画内において、sHASEGP は、マウス及びカニクイザルのそれぞれにおいて、 0.5 mg/kgまでの用量で、2.3 及び5 分の半減期を証明している。SC組織におけるHA基質の連続的合成と組み合わせての、sHASEGPの迅速な排除は、他の同時注射される分子に対して一過性で局所的に活性な浸透亢進を生じ、その効果は投与後24から48時間以内では完全に可逆的である[Bywaters G.L.,等, “Reconstitution of the dermal barrier to dye spread after Hyaluronidase injection”, Br. Med. J., 1951; 2 (4741): 1178-1183]。
【0056】
局所的液体分散に対するその効果に加えて、sHASEGPはまた吸収促進薬として作用する。16キロダルトン(kDa)を越える高分子は、主に拡散を介して毛細管を通っての吸収から排除され、殆どは流入領域リンパ節を介して吸収される。皮下的に投与された高分子、例えば治療用抗体(分子量およそ150kDa)は、従って続く血管区画中への吸収のために流入領域リンパに達する前に間質マトリックスを横切らなければならない。局所的分散を増加させることにより、sHASEGPは多くの高分子の吸収速度(Ka)を増加させる。これは、sHASEGPのないSC投与に対して、増加したピーク血液レベル(Cmax)と潜在的に増加したバイオアベイラビリティをもたらす[Bookbinder L.H.等, “A recombinant human enzyme for enhanced interstitial transport of therapeutics”, J. Control. Release 2006; 114: 230-241]。
【0057】
動物由来のヒアルロニダーゼ産物は、主に他の同時投与薬の分散及び吸収を増加させ、皮下注入(多い量での液のSC注射/注入)のために60年以上にわたって臨床的に使用されてきた[Frost G.I., “Recombinant human hyaluronidase (rHuPH20): an enabling platform for subcutaneous drug and fluid administration”, Expert Opinion on Drug Delivery, 2007; 4: 427-440]。ヒアルロニダーゼの作用機序の詳細は次の文献に詳細に記載されている:Duran-Reynolds F., “A spreading factor in certain snake venoms and its relation to their mode of action”, CR Soc Biol Paris, 1938; 69-81;Chain E., “A mucolytic enzyme in testes extracts”, Nature 1939; 977-978;Weissmann B., “The transglycosylative action of testicular hyaluronidase”, J. Biol. Chem., 1955; 216: 783-94;Tammi, R., Saamanen, A.M., Maibach, H.I., Tammi M., “Degradation of newly synthesized high molecular mass hyaluronan in the epidermal and dermal compartments of human skin in organ culture”, J. Invest. Dermatol. 1991; 97:126-130;Laurent, U.B.G., Dahl, L.B., Reed, R.K., “Catabolism of hyaluronan in rabbit skin takes place locally, in lymph nodes 及びliver”, Exp. Physiol. 1991; 76: 695-703;Laurent, T.C.及びFraser, J.R.E., “Degradation of Bioactive Substances: Physiology and Pathophysiology”, Henriksen, J.H. (Ed) CRC Press, Boca Raton, FL; 1991. pp. 249-265; Harris, E.N.等, “Endocytic function, glycosaminoglycan specificity, and antibody sensitivity of the recombinant human 190-kDa hyaluronanレセプターfor endocytosis (HARE)”, J. Biol. Chem. 2004; 279:36201-36209;Frost, G.I., “Recombinant human hyaluronidase (rHuPH20): an enabling platform for subcutaneous drug and fluid administration”, Expert Opinion on Drug Delivery, 2007; 4: 427-440。EU諸国において承認されたヒアルロニダーゼ製品はHylase(登録商標)「Dessau」及びHyalase(登録商標)を含む。米国で承認された動物由来のヒアルロニダーゼ製品はVitrase(商標)、Hydase(商標)、及びAmphadase(商標)を含む。
【0058】
ヒアルロニダーゼ製品の安全性と効能は広く確立されている。特定された最も顕著な安全性リスクは過敏性及び/又はアレルギー誘発性であり、これは動物由来の調製物の純度の欠如に関連していると考えられている[Frost, G.I., “Recombinant human hyaluronidase (rHuPH20): an enabling platform for subcutaneous drug and fluid administration”, Expert Opinion on Drug Delivery, 2007; 4 : 427-440]。英国、独国及び米国の間では動物由来のヒアルロニダーゼの承認された投薬量に関して差があることに留意すべきである。英国では、皮下又は筋肉内注射へのアジュバントとしての通常の用量は1500単位で、注射剤に直接添加される。米国では、この目的に対して使用される通常の用量は150単位である。皮下注入では、ヒアルロニダーゼは相対的に多量の液の皮下投与を補助するために使用される。英国では、1500単位のヒアルロニダーゼが皮下使用のためのそれぞれ500から1000mlの液と共に一般に与えられる。米国では、各リットルの皮下注入液に対して150単位が十分であると考えられている。独国では、この目的では、150から300単位が十分であると考えられている。英国では、局所麻酔剤の拡散が1500単位の添加によって加速される。独国及び米国では、この目的には150単位が十分であると考えられている。投薬量の差にかかわらず(英国での投薬量は米国よりも10倍高い)、米国及び英国でそれぞれ市販されている動物由来のヒアルロニダーゼ製品の安全性プロファイルの明らかな差は報告されていない。
【0059】
2005年12月2日に、Halozyme Therapeutics社は、組換え型ヒトヒアルロニダーゼrHuPH20の注射製剤(HYLENEX(商標))についてFDAから承認を得た。FDAは次の適応症のSC投与のための150単位用量のHYLENEX(商標)を承認した:
− 他の注射薬剤の吸収及び分散を増加させるためのアジュバント用
− 皮下点滴療法用
− 放射線不透過性薬剤の再吸収を改善するためのSC尿路造影法における補助剤用。
【0060】
規制の再調査の一部として、rHuPH20が、他の注入薬剤の分散及び吸収という、過去に承認された動物由来ヒアルロニダーゼ調製物と同じ性質を有しているが、改善された安全性プロファイルを有していることが確立された。特に、動物由来ヒアルロニダーゼと比較して組換えヒトヒアルロニダーゼ(rHuPH20)の使用は、動物の病原体及び伝達性海綿状脳症での汚染の潜在的リスクを最小にする。
【0061】
可溶型ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、同タンパク質の調製方法及び薬学的組成物におけるその使用は国際公開第2004/078140号に記載されている。例えばトラスツズマブなど、様々な例示的抗体と組み合わせての可溶型ヒアルロニダーゼ糖タンパク質の使用は、国際公開第2006/091871号に述べられている。
【0062】
以下に更に概説される詳細な実験研究は、驚いたことに、本発明の製剤が望ましい貯蔵安定性を有しており保健機関による承認に対する全ての必要な要件を満たしていることを示した。
【0063】
本発明の製剤中のヒアルロニダーゼ酵素は、例えば活性物質の吸収を増大させることによって(浸透促進剤として作用する)、体循環への抗HER2抗体のデリバリーを亢進する。ヒアルロニダーゼ酵素はまたSC間質組織の細胞外成分であるヒアルロナンの可逆的加水分解により皮下投与を経由して体循環中への治療用抗HER2抗体のデリバリーを増加させる。皮下組織におけるヒアルロナンの加水分解はSC組織の間質空間中のチャンネルを一次的に開放し、それによって体循環中への治療用抗HER2抗体のデリバリーを改善する。また、投与は、ヒトにおける疼痛の減少と、SC組織の容積由来膨潤の低減を示す。
【0064】
ヒアルロニダーゼは、局所的に投与されるとその全効果を局所的に有する。換言すれば、ヒアルロニダーゼは数分で不活性化され局所的に代謝され、全身性又は長期にわたる効果を持つとは指摘されていない。血流に入るときの数分以内でのヒアルロニダーゼの迅速な不活性化は、異なったヒアルロニダーゼ産物間の比較できる体内分布を遂行する現実的な能力を妨げる。ヒアルロニダーゼ産物は遠位部位では作用できないので、この性質はまた潜在的な全身性の安全性に対する懸念を最小にする。
【0065】
全てのヒアルロニダーゼ酵素の統一的特徴は、化学構造、種供給源、組織源、又は同じ種及び組織からの医薬品バッチにおける差異にかかわらず、ヒアルロナンを脱重合するその能力である。それらは、その活性が異なった構造を有しているのにかかわらず、同じである(効力は除く)点で珍しい。
【0066】
本発明の製剤に係るヒアルロニダーゼ酵素賦形剤は、ここに記載された安定な薬学的製剤において抗HER2抗体の分子完全性に対して悪影響を有していないことを特徴とする。更に、ヒアルロニダーゼ酵素は体循環への抗HER2抗体の移送を単に改変するが、全身的に吸収される抗HER2抗体の治療効果をもたらし又はそれに寄与する如何なる性質も有さない。ヒアルロニダーゼ酵素は全身的にバイオアベイラブルではなく、本発明に係る安定な薬学的製剤の推奨保存条件で抗HER2抗体の分子完全性に悪影響を及ぼさない。従って、それはこの発明に係る抗HER2抗体製剤において賦形剤と考えられる。それは治療効果を奏さないので、それは、治療的に活性な抗HER2抗体とは別の薬学的形態の構成成分を表す。
【0067】
本発明に係る多くの適切なヒアルロニダーゼ酵素は従来から知られている。好ましい酵素は、ヒトヒアルロニダーゼ酵素、最も好ましくはrHuPH20として知られている酵素である。rHuPH20はN−アセチルグルコサミンのC位と及びグルクロン酸のC位の間のβ−1,4結合の加水分解によってヒアルロナンを脱重合する中性及び酸活性のβ−1,4グリコシルヒドロラーゼのファミリーのメンバーである。ヒアルロナンは、例えば皮下間質組織のような結合組織、及びある種の特殊組織、例えば臍帯及び硝子体液の細胞内基底質に見出される多糖類である。ヒアルロナンの加水分解は間質組織の粘性を一時的に減少させ、注入された液体又は局在化した漏出液又は滲出液の分散を促進し、よってその吸収を容易にする。ヒアルロニダーゼの効果は局所的で、24から48時間以内に生じる完全な再構成で可逆的である[Frost, G.I., “Recombinant human hyaluronidase (rHuPH20): an enabling platform for subcutaneous drug 及びfluid administration”, Expert Opinion on Drug Delivery, 2007; 4:427-440]。ヒアルロナンの加水分解を通した結合組織の浸透性の増加は同時投与された分子の分散及び吸収を増加させるその能力についてのヒアルロニダーゼの効果と相関する。
【0068】
ヒトゲノムは幾つかのヒアルロニダーゼ遺伝子を含む。PH20遺伝子産物のみが生理的細胞外条件下で有効なヒアルロニダーゼ活性を保有し、延展剤として作用する一方、酸活性のヒアルロニダーゼはこの性質を有していない。
【0069】
rHuPH20は、現在治療的用途に利用できる最初で唯一の組換えヒトヒアルロニダーゼ酵素である。天然に生じるヒトPH20タンパク質は、細胞膜にそれを固着させるカルボキシ末端アミノ酸に結合した脂質アンカーを有している。Halozymeによって開発されたrHuPH20酵素は、脂質結合の原因であるアミノ酸をカルボキシ末端に欠く切断欠失変異体である。これは、ウシ精巣調製物に見出されるタンパク質に類似した可溶性の中性pH活性な酵素を生じる。rHuPH20タンパク質は分泌プロセス中にN末端から除去される35アミノ酸のシグナルペプチドと共に合成される。成熟rHuPH20タンパク質は幾つかのウシヒアルロニダーゼ調製物に見出されるものとオルソロガスな真正のN末端アミノ酸配列を含んでいる。
【0070】
動物由来PH20及び組換えヒトrHuPH20を含むPH20ヒアルロニダーゼは、N−アセチルグルコサミンのC位と及びグルクロン酸のC位の間のβ−1,4結合の加水分解によってヒアルロナンを脱重合する。四糖類は最も小さい消化産物である[Weissmann, B., “The transglycosylative action of testicular hyaluronidase”, J. Biol. Chem., 1955; 216: 783-94]。このN-アセチルグルコサミン/グルクロン酸構造は、組換え生物学的産物のN結合グリカンに見出されておらす、従って、rHuPH20は、それが共に処方される抗体、例えばトラスツズマブの糖鎖付加に影響を及ぼさない。rHuPH20酵素自体は、モノクローナル抗体に見出されるものと同様なコア構造と共に分子当たり6つのN結合グリカンを有している。予期されるように、これらのN結合構想は経時的に変化せず、これらのN結合グリカン構造に対するrHuPH20の酵素活性の欠如を確認する。rHuPH20の短い半減期及びヒアルロナンの一定の合成が組織に対する酵素の短い局所的な作用を生じる。
【0071】
本発明に係る皮下製剤における賦形剤であるヒアルロニダーゼ酵素は、組換えDNA技術を使用して調製することができる。このように、同じタンパク質(同一のアミノ酸配列)がいつも得られ、例えば組織からの抽出中に同時精製される汚染タンパク質によって引き起こされるアレルギー反応が避けられることが保証される。ここで例証される製剤に使用されるヒアルロニダーゼ酵素はヒト酵素、つまりrHuPH20である。
【0072】
rHuPH20(HYLENEX(商標))のアミノ酸配列はよく知られており、CAS登録番号75971−58−7の下で入手できる。おおよその分子量は61kDaである。
【0073】
天然源の哺乳動物ヒアルロニダーゼとヒト及び他の哺乳動物からのPH−20 cDNAクローンの間で多重構造的及び機能的比較が実施されている。PH−20遺伝子は組換え産物rHuPH20に使用される遺伝子である;しかしながら、組換え医薬品はPH−20遺伝子によってコードされる完全タンパク質の447アミノ酸切断型である。アミノ酸配列に関する構造的類似性は何れの比較においても60%を滅多に越えない。機能的比較は、rHuPH20の活性が過去に承認されたヒアルロニダーゼ産物のものと非常に類似していることを示している。この情報は、ヒアルロニダーゼの供給源にかかわらず、ヒアルロニダーゼの臨床的安全性及び効能は均等であるという過去50年の臨床的知見と一致している。
【0074】
本発明に係る抗HER2抗体SC製剤におけるrHuPH20の使用は、より多い量の医薬品の投与を可能にし、皮下的に投与されるトラスツズマブの体循環中への吸収を潜在的に向上させる。
【0075】
本発明に係る安定な薬学的製剤の浸透圧は330±50mOsm/kgである。
【0076】
本発明に係る安定な薬学的製剤は本質的に可視(ヒトの眼による検査)粒子を含まない。(光遮蔽により測定した)肉眼では可視できない粒子は次の基準を満たさなければならない:
− バイアル当たりの≧10μm粒子の最大数 −> 6000
− バイアル当たりの≧25μm粒子の最大数 −> 600
【0077】
更なる態様では、本発明は、被検体における抗HER2抗体での治療を受け入れられる疾患又は障害、例えば癌又は非悪性疾患の治療に有用な医薬の調製における製剤の使用であって、上記疾患又は障害を治療するのに有効な量でここに記載の製剤を被検体に投与することを含む使用を提供する。抗HER2抗体は化学療法剤と同時に又は逐次的に同時投与されうる。
【0078】
更なる態様では、本発明は、被検体における抗HER2抗体での治療を受け入れられる疾患又は障害(例えば癌又は非悪性疾患)を治療する方法において、上記疾患又は障害を治療するのに有効な量でここに記載された製剤を被検体に投与することを含む方法を提供する。癌又は非悪性疾患は一般にHER2発現細胞を含み、本発明に係る治療用薬学的SC製剤中のHER2抗体が罹患した細胞に結合できる。本発明に係る製剤で治療することができる様々な癌又は非悪性疾患は、更に以下の定義のセクションにおいて列挙する。
【0079】
本発明に係る薬学的に活性な抗HER2抗体の安定な薬学的製剤は皮下注射剤として投与され得、投与は3週間(q3w)の時間間隔で数回繰り返される。注射液の全体積は大抵の場合1から10分、好ましくは2から6分、最も好ましくは3±1分の時間内に投与される。アジュバントEBC患者において、トラスツズマブ単剤療法を受けるMBCの患者のなかで、他の静脈内(IV)化学療法剤が与えられる場合、そのような皮下投与は、自宅での自己投与の潜在性と共に患者の利便性を増加させる。これは、改善された服薬遵守に導き、IV投与に関連したコスト(つまり、IV投与の看護コスト、デイ・ベッドのレンタル、患者の移動等)を低減/削除する。本発明による皮下投与は注入関連反応の減少した頻度及び/又は強度に関係している蓋然性が高い。
【0080】
製剤に対してヒアルロニダーゼを添加すると、皮下的に安全にかつ快適に投与されうる注射容量を増加させることが可能になる。通常の状況下では、注射容量は1から15mlである。本発明に係る製剤の投与は治療用抗体の分散、吸収及びバイオアベイラビリティを増加させることが観察されている。SC経路によって投与される大きな分子(つまり>16kDa)は排出リンパ液を通して血管区画内に優先的に吸収される[Supersaxo, A.等, “Effect of Molecular Weight on the Lymphatic Absorption of Water-Soluble Compounds Following Subcutaneous Administration”, 1990; 2:167-169;Swartz, M. A., “Advanced Drug Delivery Review, The physiology of the lymphatic system”, 2001; 50: 3-20]。よって、体循環中へのこれらの大きな分子の導入速度は静脈内注入に対して遅くなり、よって注入関連応答の頻度/強度が潜在的に減少する。
【0081】
本発明に係る皮下トラスツズマブ製剤の製造は、製造プロセスの最終精製工程において高い抗体濃度(およそ120mg/ml)を必要とする。従って、更なるプロセス工程(限外濾過/ダイアフィルトレーション)がトラスツズマブの一般的な製造プロセスに加えられる。国際公開第97/04801号における教示に従えば、本発明に係る高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤は、高抗HER2抗体濃度の再構成された製剤を生成するために適切な希釈剤で再構成することができる安定化タンパク質製剤としてもまた提供されうる。
【0082】
この発明に係るHER2抗体SC製剤は主として癌を治療するために使用される。ここで、「癌」及び「癌性」なる用語は、典型的には調節されない細胞増殖によって特徴付けられる哺乳動物の生理学的状態を指すか又は記述する。癌の例は、限定されないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫(髄芽細胞腫及び網膜芽細胞腫を含む)、肉腫(脂肪肉腫及び滑液細胞肉腫を含む)、神経内分泌腫瘍(カルチノイド腫瘍、ガストリノーマ及び膵島細胞癌を含む)、中皮腫、シュワン細胞腫(聴神経腫を含む)、髄膜腫、腺癌、メラノーマ及び白血病又はリンパ系の悪性腫瘍を含む。このような癌のより特定的な例は、扁平細胞癌(例えば上皮扁平細胞癌)、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌及び肺の扁平上皮癌を含む肺癌、腹膜の癌、肝細胞性癌、胃腸癌を含む胃(gastric又はstomach)癌、膵癌、神経膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、肝腫瘍、乳癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜もしくは子宮の癌、唾液腺癌、腎臓癌もしくは腎癌、前立腺癌、外陰部癌、甲状腺癌、肝癌、肛門の癌、陰茎癌、精巣癌、食道癌、胆道の腫瘍、並びに頭頸部癌を含む。
【0083】
本特許明細書において使用される「約」なる用語は、与えられた特定の値が、ある範囲まで変動しうることを特定することを意味し、例えばその与えられた値に±10%、好ましくは±5%、最も好ましくは±2%の範囲の変動が含まれることを意味する。
【0084】
HERレセプターを「過剰発現する」癌は、同じ組織型の非癌性細胞に比べて、その細胞表面に有意に高いレベルのHERレセプター、例えばHER2を有するものである。このような過剰発現は、遺伝子増幅によって、又は転写もしくは翻訳の増加によって引き起こされうる。HERレセプターの過剰発現は、細胞の表面に存在するHERタンパク質の増加したレベルを評価することによって、診断又は予後アッセイで(例えば免疫組織化学アッセイ;IHCによって)決定することができる。別法では、又は追加的に、例えば、蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH;国際公開第98/45479号参照)、サザンブロット、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術、例えばリアルタイム定量PCR(RT−PCR)などによって、細胞中のHERコード核酸のレベルを測定することができる。血清などの生体液中の分断された(shed)抗原(例えばHER細胞外ドメイン)を測定することによって、HERレセプターの過剰発現を研究することもできる[例えば、1990年6月12日に発行された米国特許第4933294号;1991年4月18日に公開された国際公開第91/05264号;1995年3月28日に発行された米国特許第5401638号;及びSias等, J. Immunol. Methods 1990; 132: 73-80を参照のこと]。上記アッセイとは別に、様々なインビボアッセイが当業者には利用可能である。例えば検出可能な標識、例えば放射性同位体で場合により標識された抗体に、患者の体内の細胞を曝露して、例えば放射能を外部スキャンすることにより、又はその抗体に予め曝露された患者から採取した生検を分析することにより、その患者の細胞に対する抗体の結合を評価することができる。
【0085】
逆に、「HERレセプターを過剰発現しない」癌は、同じ組織型の非ガン性細胞に比べて正常レベルよりも高いHERレセプターを発現しないものである。
【0086】
HERリガンドを「過剰発現する」癌は、同じ組織型の非癌性細胞に比べて、有意に高いレベルのそのリガンドを生じるものである。このような過剰発現は、遺伝子増幅によって、又は転写もしくは翻訳の増加によって引き起こされうる。HERリガンドの過剰発現は、例えばIHC、FISH、サザンブロット法、PCR又は当該技術分野でよく知られているインビボアッセイのような様々な診断アッセイによって又は腫瘍生検において、患者におけるリガンド(又はそれをコードする核酸)のレベルを評価することによって、診断的に決定することができる。
【0087】
この発明に係るHER2抗体SC製剤はまた様々な非悪性疾患又は障害を治療するために使用されうることが考えられ、そのようなものは、自己免疫疾患(例えば、乾癬);子宮内膜症;強皮症;再狭窄;大腸ポリープ、鼻ポリープ、または消化管ポリープ等のポリープ;線維腺腫;呼吸器疾患;胆嚢炎;神経線維腫症;多発性嚢胞腎疾患;炎症性疾患;乾癬及び皮膚炎を含む皮膚疾患;血管系疾患;血管上皮細胞の異常増殖が関与する症状;消化性潰瘍;メネトリエ病、分泌性腺腫、又はタンパク質減少症候群;副腎性疾患;血管形成性疾患;老年性黄斑変性症、予測される眼性ヒストプラズマ症症候群(presumed ocular histoplasmosis syndrome)、増殖性糖尿病網膜症由来の網膜血管新生、網膜血管新生、糖尿病網膜症、又は老年性黄斑変性症等の眼疾患;変形性関節症、くる病および骨粗鬆症等の骨関連病変;脳虚血後障害;肝硬変、肺線維症、サルコイドーシス、甲状腺炎、全身性高粘性症候群(hyperviscosity syndrome systemic)、オースラー-ウェーバー-ランデュ病、慢性閉塞性肺疾患、又は火傷、外傷、放射線、脳卒中、低酸素症、又は虚血などの線維性又は浮腫疾患;皮膚の過敏症反応;糖尿病性網膜症及び糖尿病性腎症;ギラン-バレー症候群;移植片対宿主病又は移植片拒絶反応;パジェット病;骨又は関節炎;光老化(例えば、ヒトの皮膚のUV照射によって引き起こされる);良性前立腺肥大;アデノウイルス、ハンタウイルス、ライム病菌、エルシニア菌、及び百日咳菌から選択される微生物性病原体を含むある種の微生物感染症;血小板凝集により引き起こされる血栓;子宮内膜症、卵巣過剰刺激症候群、子癇前症、機能不全子宮出血、又は機能性子宮出血等の生殖性症状;滑膜炎;アテローム;急性及び慢性腎症(増殖性糸球体腎炎及び糖尿病誘発性腎性疾患を含む);湿疹;肥大性瘢痕形成;内毒素ショック及び真菌感染:家族性大腸ポリープ症;神経変性疾患(例えば、アルツハイマー氏病、AIDS関連認知症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、網膜色素変性症、脊髄性筋萎縮症、及び小脳変性症);骨髄異形成症候群;再生不良性貧血;虚血性損傷;肺、腎臓、又は肝臓の線維症;T細胞媒介性過敏症疾患;乳児肥厚性幽門狭窄症;泌尿器系閉塞性症候群;乾癬性関節炎;及び橋本甲状腺炎を含む。ここでの治療の例示的な非悪性の症状には、乾癬、子宮内膜症、強皮症、血管系疾患(例えば、再狭窄、アテローム動脈硬化、冠動脈疾患、又は高血圧)、大腸ポリープ、線維腺腫、又は呼吸器疾患(例えば、喘息、慢性気管支炎、気管支拡張症、嚢胞性線維症)を含む。
【0088】
徴候が癌である場合、患者は抗体製剤と化学療法剤の組み合わせで治療されうる。併用投与には、別個の製剤又は単一の薬学的製剤を用いた同時投与又は併用投与、及び何れかの順序での連続投与が含まれ、ここで、好ましくは両方(又は全て)の活性薬剤が同時にそれらの生物学的活性を示す期間がある。よって、化学療法剤は、本発明に係る抗体製剤の投与前、又は投与後に投与されうる。この実施態様では、化学療法剤の少なくとも一回の投与と本発明に係る抗体製剤の少なくとも一回の投与の間のタイミングは好ましくはおよそ1ヶ月以下、最も好ましくはおよそ2週間以下である。あるいは、化学療法剤及び本発明に係る抗体製剤は、単一の製剤又は別個の製剤で患者に同時に投与される。
【0089】
上記抗体製剤での治療は癌又は疾患の症状又は徴候の改善をもたらす。例えば、治療されている疾患が癌である場合、かかる治療法は生存(全生存及び/又は無増悪生存期間)の改善を生じ得、及び/又は客観的な臨床応答(部分又は完全)を生じ得る。更に、化学療法剤と抗体製剤の併用での治療は、患者に相乗的な又は相加より大きな治療的恩恵を生じ得る。
【0090】
通常、投与される製剤中の抗体はネイキッド抗体である。しかしながら、投与される抗体は細胞傷害剤とコンジュゲートされていてもよい。免疫コンジュゲート及び/又はそれが結合する抗原がついで細胞によって内部に取り入れられ、それが結合する癌細胞の死滅化における免疫コンジュゲートの治療効果が増大する。一実施態様では、細胞傷害剤は癌細胞中の核酸を標的とし又は妨害する。そのような細胞傷害剤の例は、メイタンシノイド、カリケアマイシン、リボヌクレアーゼ及びDNAエンドヌクレアーゼを含む。臨床的に最も進んだ免疫コンジュゲートは、国際公開第2003/037992号に記載されているようなトラスツズマブ−メイタンシノイド免疫コンジュゲート(T−DM1)、特にその化学名がN’−デアセチル−N’−(3−メルカプト−1−オキソプロピル)−メイタンシン−4−マレイミドメチル−シクロヘキシル−1−カルボキシル−トラスツズマブである免疫コンジュゲートT−MCC−DM1である。
【0091】
皮下投与では、製剤は、(限定しないが)シリンジ;注射装置(例えば、INJECT−EASE(商標)及びGENJECT(商標)装置);注入ポンプ(例えばAccu−Chek(商標));ペン型注射器(例えばGENPEN(商標));無針装置(例えばMEDDECTOR(商標)及びBIOJECTOR(商標));又は皮下パッチ送達システムのような適切な装置を介して投与されうる。本発明に係る製剤のための適切なデリバリーシステムは国際公開第2010/029054号に記載されている。そのような装置は、約5から約15ml又はより特定的には5mlの本発明に係る液体製剤を含む。
【0092】
疾患の予防又は治療のために、抗体の好適な用量は、上で定義した治療される疾患のタイプ、疾患の重症度及び経過、抗体を予防目的で投与するか治療目的で投与するか、以前の治療法、患者の病歴及び抗体への応答性、及び担当医師の判断に依存するであろう。抗体は一回で又は一連の治療にわたって好適に患者に投与される。疾患のタイプ及び重篤度に応じて、約1μg〜50mg/kg体重、又はより特定的には約0.1mg/kg〜20mg/kg体重の抗HER2抗体が、例えば一又は複数の分割投与又は連続注入による患者投与の初期候補用量である。より詳細には、抗体の投与量は、約0.05mg抗HER2抗体/kg体重から約10mg抗HER2抗体/kg体重の範囲であろう。化学療法剤が投与されるならば、それは通常それに対して知られている投与量で投与され、又は薬剤の併用作用又は化学療法剤の投与に起因する負の副作用のために場合によっては低下される。そのような化学療法剤の調製及び投薬スケジュールは、製造者の指示書に従って、又は熟練した医師によって経験的に決定された通りに使用されうる。そのような化学療法のための調製及び投薬スケジュールはまたChemotherapy Service Ed., M.C. Perry, Williams & Wilkins, Baltimore, MD (1992)に記載されている。
【0093】
限定しないが、第二(第三、第四等)の化学療法剤(別の言葉では異なった化学療法剤の「カクテル」);他のモノクローナル抗体;増殖阻害剤;細胞傷害剤;化学療法剤;EGFR標的薬;チロシンキナーゼインヒビター;抗血管形成剤;及び/又はサイトカイン等;又はその任意の適切な組み合わせを含む他の治療レジメンを抗体と組み合わせてもよい。
【0094】
上記の治療レジメンに加えて、患者には癌細胞の外科的除去及び/又は放射線療法を施すことができる。
【0095】
本発明の他の実施態様では、本発明の薬学的製剤を含む製造品が提供され、その使用のための説明書を提供する。製造品は容器を含む。適切な容器には、例えばボトル、バイアル(例えば、複数又は二重チャンバーバイアル)、シリンジ(複数又は二重チャンバーシリンジなど)、及び試験管が含まれる。容器はガラス又はプラスチックのような様々な材料で形成することができる。容器は製剤を収容し、該容器の上又は該容器に付随したラベルは使用のための指示を示しうる。容器は、再構成された製剤の繰り返し投与(例えば2から6の投与)を可能にする多使用バイアルでありうる。製造品は、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、及び使用説明に関するパッケージ挿入物を含む、市販及び使用者の観点から望ましい他の材料を更に含みうる。
【0096】
「薬学的製剤」なる用語は、活性成分の生物学的活性を許容する形態であり、その製剤が投与されるであろう被検体に許容できない程に毒性である更なる成分を含まない調製物を意味する。そのような製剤は無菌である。
【0097】
「滅菌」製剤は無菌的であるか又はあらゆる生きている微生物及びその胞子を含まない。
【0098】
「安定」製剤は、例えば2−8℃のような意図された保存温度での保存時にその中の全てのタンパク質が本質的にその物理的安定性及び/又は化学的安定性及び/又は生物学的活性を保持するものである。その製剤は、保存時に本質的にその物理的及び化学的安定性、並びにその生物学的活性を保持するのが望ましい。保存期間は一般にその製剤の意図された有効期間に基づき選択される。更に、製剤は製剤の凍結(例えば−70℃まで)及び解凍後、例えば1、2又は3サイクルの凍結解凍後に安定でなければならない。タンパク質の安定性を測定するための様々な分析技法が当該技術分野で利用でき、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery, 247-301, Vincent Lee編, Marcel Dekker, Inc., New York, New York, Pubs. (1991)及びJones, A. Adv. Drug Delivery Rev. 10: 29-90 (1993)に概説されている。選択された温度で選択された期間、安定性を測定することができる。安定性は、(例えば、分子ふるいクロマトグラフィーを用いた、濁度を測定することによる、及び/又は視覚検査による)凝集体形成の評価;カチオン交換クロマトグラフィー又はキャピラリーゾーン電気泳動を用いて電荷不均一性を評定することによる;アミノ末端又はカルボキシ末端配列分析;質量分析;還元抗体とインタクトな抗体を比較するSDS−PAGE分析;ペプチドマップ(例えばトリプシン又はLYS−C)分析;抗体の生物学的活性又は抗原結合機能を評価することを含む多様な異なる方法で定性的及び/又は定量的に評価することができる。不安定性は、凝集、脱アミド(例えばAsn脱アミド)、酸化(例えばMet酸化)、異性化(例えばAsp異性化)、クリッピング/加水分解/断片化(例えば、ヒンジ領域断片化)、スクシンイミド形成、不対システイン、N末端伸長、C末端プロセシング、糖鎖付加変化等の何れか一又は複数を伴うことがある。ここでの「脱アミド」モノクローナル抗体は、その一又は複数のアスパラギン残基が、例えば翻訳後修飾によってアスパラギン酸又はイソアスパラギン酸に修飾されたものである。
【0099】
ここで使用される場合、「5.5±2.0のpHを与える緩衝剤」とは、それを含有する溶液がその酸/塩基共役成分の作用によってpH変化に抵抗することをもたらす薬剤を意味する。本発明に係る製剤において使用されるバッファーは約5.0から約7.0、又は約5.0から約6.5、又は約5.3から約5.8の範囲のpHを有している。約5.5のpHが最も適していることが見出されなければならない。この範囲にpHを制御する緩衝剤の例は、アセテート、スクシネート、グルコネート、ヒスチジン、シトレート、グリシルグリシン及び他の有機酸バッファーを含む。本発明に係る最も適したバッファーは、ヒスチジンバッファー、例えばL−ヒスチジン/HClである。
【0100】
「ヒスチジンバッファー」はアミノ酸ヒスチジンを含有するバッファーである。ヒスチジンバッファーの例は、塩化ヒスチジン、酢酸ヒスチジン、リン酸ヒスチジン、硫酸ヒスチジンを含む。最も適しているとして実施例において特定されるヒスチジンバッファーは、塩化ヒスチジンバッファーである。かかる塩化ヒスチジンバッファーは、L−ヒスチジン(遊離塩基、固形)を希塩酸で滴定することによって調製される。特に、ヒスチジンバッファー又は塩化ヒスチジンバッファーは、5.5±0.6のpH、より特定的には約5.3から約5.8のpH、最も特定的には5.5のpHを有している。
【0101】
「等張」とは対象の製剤がヒト血液と本質的に同じ浸透圧を有していることを意味する。等張製剤は一般に約250から350mOsmの浸透圧を有するであろう。等張性は蒸気圧又は凝固点降下型浸透圧計を使用して測定できる。
【0102】
ここでの「糖類」は、単糖類、二糖類、三糖類、多糖類、糖アルコール、還元糖、非還元糖等を含む一般的組成(CHO)及びその誘導体を含む。ここでの糖類の例は、グルコース、スクロース、トレハロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デキストラン、グリセリン、デキストラン、エリスリトール、グリセロール、アラビトール、シリトール、ソルビトール、マンニトール、メリビオース、メレチトース、ラフィノース、マンノトリオース、スタキオース、マルトース、ラクツロース、マルツロース、グルシトール、,マルチトール、ラクチトール、イソ−マルツロース等を含む。特にここに記載される製剤は安定化剤として非還元二糖類、例えばトレハロース(例えばα,α−トレハロース二水和物の形態)及びスクロースの群から選択される糖類を含む。
【0103】
ここで、「界面活性剤」は界面活性な薬剤、例えば非イオン性界面活性剤を意味する。ここでの界面活性剤の例は、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20及びポリソルベート80);ポロキサマー(例えばポロキサマー188);トリトン(Triton);ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);ラウリル硫酸ナトリウム;ナトリウムオクチルグルコシド;ラウリル−、ミリスチル−、リノレイル−,又はステアリル−スルホベタイン;ラウリル−、ミリスチル−、リノレイル−又はステアリル−サルコシン;リノレイル−、ミリスチル−,又はセチル−ベタイン;ラウロアミドプロピル−,コカミドプロピル−、リノールアミドプロピル−、ミリスタミドプロピル−、パルミドプロピル−,又はイソステアラミドプロピル−ベタイン(例えばラウロアミドプロピル);ミリスタミドプロピル−、パルミドプロピル−、又はイソステアラミドプロピル−ジメチルアミン;ナトリウムメチルココイル−、又は二ナトリウムメチルオレイル−タウレート;及びMONAQU AT(商標)シリーズ(Mona Industries, Inc., Paterson, New Jersey);ポリエチルグリコール、ポリプロピルグリコール、及びエチレン・プロピレングリコール共重合体(例えばプルロニックス(Pluronics)、PF68等);等々を含む。ポリソルベート20(PS20)及びポリソルベート80(PS80)は、それぞれここに記載の製剤において特に適していることが見出されている。
【0104】
ここでの「抗体」なる用語は最も広義に使用され、完全長モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも二の完全長抗体から形成される多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及びそれらが所望の生物学的活性を示す限り、抗体断片を特に包含する。
【0105】
ここで使用される「モノクローナル抗体」なる用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体を指し、すなわち、集団を構成する個々の抗体が、一般に微量に存在している変異体など、モノクローナル抗体の生産中に生じ得る可能な変異体を除いて同一であり、及び/又は同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的には含むポリクローナル抗体調製物とは異なり、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、それらが他の免疫グロブリンによって汚染されなていない点で有利である。「モノクローナル」との修飾語句は、実質的に均一な抗体の集団から得たものとしての抗体の性質を示すものであり、抗体が何か特定の方法による生産を必要とするものと解釈されるべきではない。例えば、本発明で使用されるモノクローナル抗体は、最初にKohler等, Nature 256: 495 (1975)よって記載されたハイブリドーマ法によって作ることができ、あるいは組換えDNA法によって作製されうる(例えば米国特許第4816567号を参照)。「モノクローナル抗体」はまた例えばClackson等, Nature, 352:624-628 (1991)及びMarks等, J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991)に記載された技術を使用するファージ抗体ライブラリーから単離することもまたできる。
【0106】
「抗体断片」は、完全長抗体の一部を含み、特にその抗原結合又は可変領域を含む。抗体断片の例は、Fab、Fab’、F(ab’)、及びFv断片;ダイアボディ;線状抗体;単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成される多重特異性抗体を含む。
【0107】
「完全長抗体」は、抗原結合可変領域並びに軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメインCH1、CH2及びCH3を含むものである。定常ドメインは天然配列定常ドメイン(例えばヒト天然配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列変異体でありうる。特に、完全長抗体は一又は複数のエフェクター機能を有する。
【0108】
ここでの「アミノ酸配列変異体」抗体は、主な種抗体と異なるアミノ酸配列を有する抗体である。通常、アミノ酸配列変異体は、主な種抗体と少なくとも約70%の相同性を有し、好ましくは、それらは主な種抗体と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%の相同性である。アミノ酸配列変異体は、主な種抗体のアミノ酸配列内又は隣接して、所定の位置で置換、欠失及び/又は付加を有する。ここでのアミノ酸配列変異体の例には、酸性変異体(例えば脱アミド化された抗体変異体)、塩基性変異体、抗体の一又は二の軽鎖上にアミノ末端リーダー伸展(例えばVHS-)を有する抗体、抗体の一又は二の重鎖上にC末端リジン残基を有する抗体などが含まれ、重鎖及び/又は軽鎖のアミノ酸配列に対する変異の組合せが含まれる。ここで特に関心のある抗体変異体は、抗体の一又は二の軽鎖上にアミノ末端リーダー伸展を含み、場合によっては主な種抗体に対して他のアミノ酸配列及び/又は糖鎖付加(グリコシル化)の相違を更に含んでなる抗体である。
【0109】
ここでの「糖鎖付加(グリコシル化)変異体」抗体は、主な種抗体に結合した一又は複数の炭水化物部分と異なる一又は複数のそれに結合した炭水化物部分を有する抗体である。ここでの糖鎖付加変異体の例には、そのFc領域に結合した、G0オリゴ糖構造の代わりにG1又はG2オリゴ糖構造を有する抗体、その一又は二の軽鎖に結合した一又は二の炭水化物部分を有する抗体、抗体の一又は二の重鎖に結合した炭水化物がない抗体等、及び糖鎖付加変異の組合せを有する抗体が含まれる。更に。「糖鎖付加変異体」なる用語は例えば欧州特許出願公開第1331266号及び米国特許第7517670号に記載されたもののような糖鎖工学操作した抗体も含む。
【0110】
抗体「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域(天然配列Fc領域又はアミノ酸配列変異体Fc領域)に起因し得る生物学的活性の機能を意味する。抗体エフェクター機能の例は、C1q結合;補体依存性細胞傷害性(CDC);Fcレセプター結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC);食作用;細胞表面レセプターの下方制御(例えばB細胞レセプター;BCR)等を含む。
【0111】
それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に依存して、完全長抗体は異なる「クラス」に分類できる。完全長抗体の五つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、それらの幾つかは更に「サブクラス」(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA及びIgA2に分類される。抗体の異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインはそれぞれα[アルファ]、δ[デルタ]、ε[イプシロン]、γ[ガンマ]及びμ[ミュー]と呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造及び三次元構造はよく知られている。
【0112】
ここでのモノクローナル抗体の「生物学的活性」は抗原に結合し、インビトロ又はインビボで測定することができる測定可能な生物学的応答を生じる抗体の能力を意味する。そのような活性はアンタゴニスト作用(例えば抗体がHER2抗体である場合)又はアゴニスト作用でありうる。ペルツズマブの場合、一実施態様では、生物学的活性はヒト乳癌細胞株MDA−MB−175−VIIの増殖を阻害する処方抗体の能力を意味する。
【0113】
ここでの「モノクローナル抗体」なる用語は、特定の種由来又は特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体において、対応する配列に一致する又は相同する重鎖及び/又は軽鎖の一部であり、残りの鎖は、他の種由来又は他の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応する配列に一致するか又は相同であるいわゆるキメラ抗体、並びにそれらが所望の生物学的活性を示す限り、そのような抗体の断片を特に含む(米国特許第4816567号;及びMorrison等 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855(1984))。ここでの対象のキメラ抗体は、非ヒト霊長類(例えば旧世界ザル、類人猿等)由来の可変ドメイン抗原結合配列とヒト定常領域配列を含む「プリマタイズ」抗体を含む。
【0114】
非ヒト(例えば齧歯類)抗体の「ヒト化」型とは、非ヒト免疫グロブリンから誘導された最小配列を含むキメラ抗体である。大部分では、ヒト化抗体はレシピエントの高頻度可変領域由来の残基が、マウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類のような所望の特異性、親和性、及び能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)の高頻度可変領域由来の残基によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。更に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見出されない残基を含んでいてもよい。これらの改変は、抗体の性能を更に洗練させるために行なわれる。一般に、ヒト化抗体は、全てあるいは実質的に全ての高頻度可変ループが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てあるいは実質的に全てのFRがヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも一つ、典型的には二つの可変ドメインの実質的に全てを含む。ヒト化抗体は、場合によっては、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部を含んでなる。更なる詳細については、Jones等, Nature 321:522-525 (1986);Riechmann等, Nature 332:323-329 (1988);及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)を参照のこと。
【0115】
ヒト化抗HER2抗体は、米国特許第5821337号の表3に記載されたhuMAb4D5−1、huMAb4D5−2、huMAb4D5−3、huMAb4D5−4、huMAb4D5−5、huMAb4D5−6、huMAb4D5−7及びhuMAb4D5−8又はトラスツズマブ(ハーセプチン(商標));及び以下に更に記載されるペルツズマブのようなヒト化2C4抗体を含む。
【0116】
ここでの目的に対して、「トラスツズマブ」、「ハーセプチン(商標)」及び「huMAb4D5−8」は、4D5エピトープに対して産生された抗HER2抗体を意味する。そのような抗体は、好ましくは、例えば国際公開第2006/044908号の図14に開示された軽鎖及び重鎖アミノ酸配列を有する。
【0117】
「エピトープ4D5」は、抗体4D5(ATCC CRL10463)及びトラスツズマブが結合するHER2の細胞外ドメイン中の領域である。このエピトープはHER2の膜貫通ドメインに近接しており、HER2のドメインIV内にある。4D5エピトープに結合する抗体をスクリーニングするために、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow 及びDavid Lane (1988)に記載されているような常套的な交差遮断アッセイを実施することができる。あるいは、エピトープマッピングを実施して、その抗体がHER2の4D5エピトープ(例えば、HER2の約529番残基から約625番残基までの両端の残基を含めた領域における任意の一又は複数の残基)に結合するかどうかを評価することができる。「エピトープ7C2/7F3」は、7C2抗体及び/又は7F3抗体が結合するHER2の細胞外ドメインのドメインI内のアミノ末端の領域である。7C2/7F3エピトープに結合する抗体をスクリーニングするために、“Antibodies, A Laboratory Manual” (Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow 及びDavid Lane (1988))に記載されているような常套的な交差遮断アッセイを実施することができる。あるいは、その抗体がHER2上の7C2/7F3エピトープ(例えば、HER2の約22番残基から約53番残基までの領域中の任意の一又は複数の残基)に結合するかどうかを確立するために、エピトープマッピングを実施することができる。
【0118】
ここで、「ペルツズマブ」及び「rhuMAb 2C4」は、2C4エピトープに結合し、好ましくは国際公開第2006/044908号に開示された可変軽鎖及び可変重鎖アミノ酸配列を含む抗体、より詳細には国際公開第2006/044908号の図2に開示されたヒト化2C4型574を意味する。
【0119】
「エピトープ2C4」は、抗体2C4が結合するHER2の細胞外ドメイン中の領域である。2C4エピトープに結合する抗体をスクリーニングするために、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow 及びDavid Lane (1988)に記載されているもののような常套的な交差遮断アッセイを実施することができる。あるいは、エピトープマッピングを実施して、抗体がHER2の2C4エピトープに結合するかどうかを評価することができる。エピトープ2C4は、HER2の細胞外ドメイン中のドメインII由来残基を含む。2C4及びペルツズマブは、ドメインI、II、及びIIIの結合部でHER2の細胞外ドメインに結合する(Franklin等 Cancer Cell 5:317-328 (2004))。
【0120】
ここで使用される場合、「増殖阻害剤」は、細胞、特にHER発現ガン細胞の増殖をインビトロ又はインビボの何れかで阻害する化合物又は組成物を指す。このように、増殖阻害剤は、S期のHER発現細胞の割合を有意に低減する薬剤でありうる。増殖阻害剤の例としては、G1停止及びM期停止を誘導する薬剤などの、細胞周期の進行を(S期以外の位置で)遮断する薬剤が挙げられる。古典的なM期遮断薬としては、ビンカ(ビンクリスチン及びビンブラスチン)、タキサン、及びドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エトポシド、及びブレオマイシンなどのトポIIインヒビターが挙げられる。G1で停止させる薬剤、例えば、タモキシフェン、プレドニゾン、ダカルバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキセート、5−フルオロウラシル、及びara−CなどのDNAアルキル化剤はまたS期停止にも波及する。更なる情報は、”The Molecular Basis of Cancer”, Mendelsohn 及びIsrael編, 1章, 表題 "Cell cycle regulation, oncogenes, and antineoplastic drugs" by Murakami等 (WB Saunders: Philadelphia, 1995)、特に13頁に見出すことができる。
【0121】
「増殖阻害」抗体の例は、HER2に結合し、HER2を過剰発現している癌細胞の増殖を阻害するものである。好ましい増殖阻害HER2抗体は、約0.5から30μg/mlの抗体濃度で、細胞培養でのSK−BR−3乳房腫瘍細胞の増殖を20%よりも大きく、好ましくは50%よりも大きく(例えば、約50%から約100%)阻害し、ここで、抗体にSK−BR−3細胞を曝露した6日間後に、増殖阻害が決定される(1997年10月14日に発行された米国特許第5677171号を参照)。好ましい増殖阻害抗体は、マウスモノクローナル抗体4D5のヒト化変異体、例えばトラスツズマブである。
【0122】
「治療」は、治療的処置及び予防措置又は防止措置の両方を指す。治療を必要とする者としては、既にその疾患を有する者並びにその疾患が防止されるべき者を含む。よって、、ここで処置されるべき患者は、その疾患を有すると診断される場合があり、又はその疾患の素因があるかもしくはその疾患に感受性である場合がある。
【0123】
ここで使用される「細胞傷害剤」なる用語は、細胞の機能を阻害もしくは防止し、及び/又は細胞の破壊を生ずる物質を意味する。該用語は、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32及びLuの放射性同位体)、化学療法剤、及び毒素、例えば細菌、糸状菌、植物又は動物起源の低分子毒素又は酵素的に活性な毒素で、その断片及び/又は変異体を含むものを含むことを意図する。
【0124】
「化学療法剤」は、癌の治療に有用な化学的化合物である。化学療法剤の例は、アルキル化剤、例えばチオテパ及びシクロホスファミド(CYTOXAN(商標));アルキルスルホネート、例えばブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファン;アジリジン、例えばベンゾドーパ、カルボコン、メツレドーパ、及びウレドーパ;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、及びトリメチロールメラミンを含むエチレンイミン及びメチラメラミン(methylamelamine);アセトゲニン(特にブラタシン及びブラタシノン(bullatacinone));δ−9−テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、MARINOL(商標));β−ラパコン;ラパコール;コルヒチン;ベツリン酸;カンプトテシン(合成アナログのトポテカン(HYCAMTIN(商標))、CPT−11(イリノテカン、CAMPTOSAR(商標))、アセチルカンプトテシン、スコポレクチン(scopolectin)、及び9−アミノカンプトテシンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC−1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン、及びビゼレシン合成アナログを含む);ポドフィロトキシン;ポドフィリン酸(podophyllinic acid);テニポシド;クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成アナログKW−2189及びCB1−TM1を含む);エリュテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンギスタチン;ナイトロジェンマスタード、例えばクロラムブシル、クロルナファジン、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノブエンビキン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード;ニトロソ尿素、例えばカルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、及びラニムスチン(ranimnustine);抗生物質、例えば、エンジイン抗生物質(例えばカリケアマイシン、特にカリケアマイシンγ1I及びカリケアマイシンωI1(例えば、等、Agnew, Chem Intl. Ed. Engl., 33:183-186 (1994)を参照));ダイネマイシンAを含むダイネマイシン;エスペラマイシン;並びにネオカルジノスタチン発色団及び関連色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アントラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン(ADRIAMYCIN(商標)、モルホリノ−ドキソルビシン、シアノモルホリノ−ドキソルビシン、2−ピロリノ−ドキソルビシン、ドキソルビシンHClリポソーム注射剤(DOXIL(商標))、リポソームドキソルビシンTLCD−99(MYOCET(商標))、ペグ化リポソームドキソルビシン(CAELYX(商標))及びデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、例えばマイトマイシンC、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗剤、例えばメトトレキセート、ゲムシタビン(GEMZAR(商標))、テガフール(UFTORAL(商標))、カペシタビン(XELODA(商標))、エポチロン、及び5−フルオロウラシル(5−FU);葉酸アナログ、例えばデノプテリン、メトトレキセート、プテロプテリン、トリメトレキセート;プリンアナログ、例えばフルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジンアナログン、例えばアンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン;抗副腎剤、例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸リプレニッシャー(replenisher);、例えば、フロリン酸;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキセート;デフォファミン;デメコルシン;ジアジコン(diaziquone);エルフォルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium);エトグルシド(etoglucid);硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニン;メイタンシノイド、例えばメイタンシン(maytansine)及びアンサミトシン(ansamitocin);ミトグアゾン(mitoguazone);ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラエリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン(losoxantrone);2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSKL(商標)多糖類複合体(JHS Natural Products,Eugene,OR);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2”−トリクロロトリエチルアミン;トリコテシン(特に、T−2毒素、ベラクリン(verracurin)A、ロリジンA及びアングイジン);ウレタン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン(pipobroman);ガシトシン;アラビノシド(「Ara−C」);チオテパ;タキソイド、例えばパクリタキセル(TAXOL(商標))、パクリタキセルのアルブミン操作ナノ粒子処方物(ABRAXANE(商標))、及びドセタキセル(TAXOTERE(商標));クロラムブシル;6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;白金剤、例えばシスプラチン、オキサリプラチン、及びカルボプラチン;チューブリン重合化を微小管を形成しないように妨げるビンカ(vincas)であって、ビンブラスチン(VELBAN(商標))、ビンクリスチン(ONCOVIN(商標))、ビンデシン(ELDISINE(商標)、FILDESIN(商標))、及びビノレルビン(NAVELBINE(商標))を含む;エトポシド(VP−16);イフォスファミド;ミトキサントロン;ロイコボリン(leucovovin);ノバントロン(novantrone);エダトレキセート(edatrexate);ダウノマイシン;アミノプテリン;イバンドロネート;トポイソメラーゼインヒビターRFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド、例えばレチノイン酸、例えばベキサロテン(bexarotene)(TARGRETIN(商標));ビスホスホネート、例えばクロドロネート(clodronate)(例えばBONEFOS(商標)又はOSTAC(商標))、エチドロネート(etidronate)(DIDROCAL(商標))、NE−58095、ゾレドロン酸/ゾレドロン酸塩(ZOMETA(商標))、アレンドロネート(FOSAMAX(商標))、パミドロネート(AREDIA(商標))、チルドロネート(tiludronate)(SKELID(商標))、又はリセドロネート(risedronate)(ACTONEL(商標));トロキサシタビン(1,3−ジオキソランヌクレオシドシトシンアナログ);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に、異常な細胞増殖に関与するシグナル伝達経路で遺伝子の発現を阻害するオリゴヌクレオチド、例えばPKC−α、Raf、H−Ras及び上皮増殖因子レセプター(EGF−R);ワクチン、例えばTHERATOPE(商標)ワクチン及び遺伝子治療ワクチン、例えばALLOVECTIN(商標)ワクチン、LEUVECTIN(商標)ワクチン、及びVAXID(商標)ワクチン;トポイソメラーゼ1インヒビター(例えばLURTOTECAN(商標));rmRH(例えばABARELIX(商標));BAY439006(ソラフェニブ;Bayer);SU−11248(Pfizer);ペリフォシン(perifosine)、COX−2インヒビター(例えば、セレコキシブ又はエトリコキシブ)、プロテオソームインヒビター(例えば、PS341);ボルテゾミブ(VELCADE(商標));CCI−779;ティピファルニブ(tipifarnib)(R11577);オラフェニブ、ABT510;Bcl−2インヒビター、例えばオブリマーセン・ナトリウム(oblimersen sodium)(GENASENSE(商標));ピクサントロン;EGFRインヒビター(以下の定義を参照);チロシンキナーゼインヒビター(以下の定義を参照);及び任意の上記のものの薬学的に許容可能な塩、酸又は誘導体;並びに上記の二以上の組合せ、例えば、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン及びプレドニゾロンの併用療法についての略号であるCHOP、オキサリプラチン(ELOXATIN(商標))と5−FU及びロイコボリン(leucovovin)とを併用した治療レジメンの略号であるFOLFOXを含む。
【0125】
またこの定義に含まれるものは、腫瘍に対するホルモン作用を調節又は阻害するように働く抗ホルモン剤、例えば、混合アゴニスト/アンタゴニストプロファイルを持つ抗エストロゲン、例えばタモキシフェン(NOLVADEX(商標))、4−ヒドロキシタモキシフェン、トレミフェン(FARESTON(商標))、イドキシフェン、ドロロキシフェン、ラロキシフェン(EVISTA(商標))、トリオキシフェン、ケオキシフェン及び選択的エストロゲンレセプター調節因子(SERMs)、例えばSERM3;アゴニスト特性のない純粋な抗エストロゲン、例えばフルベストラント(FASLODEX(商標))、及びEM800(このような薬剤は、エストロゲンレセプター(ER)二量体化をブロックし、DNA結合を阻害し、ER代謝回転を増大し、及び/又はERレベルを抑制し得る);アロマターゼインヒビター、例えばステロイド性アロマターゼインヒビター、例えばフォルメスタン及びエキセメスタン(AROMASIN(商標))、及び非ステロイド性アロマターゼインヒビター、例えばアナストラゾール(ARIMIDEX(商標))、レトロゾール(FEMARA(商標))及びアミノグルテチミド、及び他のアロマターゼインヒビター、例えばボロゾール(RIVISOR(商標))、酢酸メゲステロール(MEGASE(商標))、ファドロゾール、イミダゾール;黄体形成ホルモン放出ホルモンアゴニスト、例えばロイプロリド(LUPRON(商標)及びELIGARD(商標))、ゴセレリン、ブセレリン及びトリプテレリン;性ステロイド、例えばプロゲスチン、例えば酢酸メゲストロール及び酢酸メドロキシプロゲステロン、エストロゲン、例えばジエチルスチルベストロール及びプレマリン、及びアンドロゲン/レチノイド、例えばフルオキシメステロン、オールトランスレチノイン酸及びフェンレチニド;オナプリストン;抗プロゲステロン;エストロゲンレセプター下方調節因子(ERD);抗アンドロゲン、例えばフルタミド、ニルタミド及びビカルタミド;テストラクトン;及び上記の任意のものの薬学的に許容可能な塩、酸又は誘導体;並びに上記の二以上の組合せである。
【0126】
ここで使用される場合、「EGFR標的薬」なる用語は、EGFRに結合して、場合によりEGFRの活性化を阻害する治療剤を意味する。このような薬剤の例には、EGFRに結合する抗体及び低分子が含まれる。EGFRに結合する抗体の例には、MAb579(ATCC CRL HB8506)、MAb455(ATCC CRL HB8507)、MAb225(ATCC CRL8508)、MAb528(ATCC CRL8509)(米国特許第4943533号、Mendelsohn等を参照)、及びその変異体、例えばキメラ化225(C225又はセツキシマブ;ERBUTIX(商標))及び再形状化ヒト225(H225)(国際公開第96/40210号、Imclone Systems社参照);II型変異体EGFRと結合する抗体(米国特許第5212290号);米国特許第5891996号に記載されたEGFRと結合するヒト化及びキメラ抗体;及びEGFRに結合するヒト抗体、例えばABX−EGF(国際公開第98/50433号、Abgenix参照)が含まれる。抗EGFR抗体を細胞傷害剤とコンジュゲートさせることにより、免疫コンジュゲートを生成することができる(例えば、欧州特許出願公開第659439A2号、Merck Patent GmbHを参照)。EGFRに結合する低分子の例は、ZD1839又はゲフィチニブ(IRESSA(商標);AstraZeneca)、CP−358774又はエルロチニブ(TARCEVA(商標);Genentech/Roche/OSI)及びAG1478、AG1571(SU5271;Sugen)を含む。
【0127】
「チロシンキナーゼインヒビター」は、HERレセプターなどのチロシンキナーゼのチロシンキナーゼ活性をある程度まで阻害する分子である。このようなインヒビターの例としては、前の段落で言及したEGFR標的化薬物並びに武田から入手可能なTAK165などの低分子HER2チロシンキナーゼインヒビター;優先的にEGFRと結合するが、HER2及びEGFR過剰発現細胞の両方を阻害するEKB−569(Wyethから入手可能)などの二重HERインヒビター、経口HER2及びEGFRチロシンキナーゼインヒビターであるGW572016(Glaxoから入手可能)、及びPKI−166(Novartisから入手可能);カネルチニブ(CI−1033;Pharmacia)などの汎HERインヒビター;Raf−1シグナル伝達を阻害するISIS Pharmaceuticalsから入手できるアンチセンス剤ISIS−5132などのRaf−1インヒビター;Novartisから入手できるメシル酸イマチニブ(Gleevac(商標))などの非HER標的TKインヒビター;MAPK細胞外調節キナーゼIインヒビターCI−1040(Pharmaciaから入手可能);PD153035、4−(3−クロロアニリノ)キナゾリンなどのキナゾリン類;ピリドピリミジン類;ピリミドピリミジン類;CGP59326、CGP60261、及びCGP62706などのピロロピリミジン類;ピラゾロピリミジン、4−(フェニルアミノ)−7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン類;クルクミン(ジフェルロイルメタン、4,5−ビス(4−フルオロアニリノ)フタルイミド);ニトロチオフェン部分含有チルホスチン類;PD−0183805(Warner−Lamber);アンチセンス分子(例えば、HERコード核酸に結合するもの);キノキサリン類(米国特許第5804396号);トリホスチン類(tryphostins)(米国特許第5804396号);ZD6474(Astra Zeneca);PTK−787(Novartis/Schering AG);CI−1033(Pfizer)などの汎HERインヒビター;アフィニタック(ISIS3521;Isis/Lilly);PKI166(Novartis);GW2016(Glaxo SmithKline);CI−1033(Pfizer);EKB−569(Wyeth);セマキシニブ(Sugen);ZD6474(AstraZeneca);PTK−787(Novartis/Schering AG);INC−1C11(Imclone);又は以下の特許公報の何れかに記載されるもの:米国特許第5804396号;国際公開第99/09016号(American Cyanimid);国際公開第98/43960号(American Cyanamid);国際公開第97/38983号(Warner Lambert);国際公開第99/06378号(Warner Lambert);国際公開第99/06396号(Warner Lambert);国際公開第96/30347号(Pfizer,Inc);国際公開第96/33978号(Zeneca);国際公開第96/3397号(Zeneca);及び国際公開第96/33980号(Zeneca)が含まれる。
【0128】
「抗血管形成剤」は、血管の発達をある程度まで遮断し又は妨害する化合物を意味する。抗血管形成因子は、例えば、血管形成の促進に関与する増殖因子又は増殖因子レセプターに結合する低分子又は抗体でありうる。ここでの好ましい抗血管形成因子は、ベバシズマブ(AVASTIN(商標))等の血管内皮増殖因子(VEGF)に結合する抗体である。
【0129】
「サイトカイン」なる用語は、細胞間媒介物質として別の細胞に作用するある細胞集団によって放出されるタンパク質に対する総称である。このようなサイトカインの例は、リンホカイン、モノカイン、及び伝統的なポリペプチドホルモンである。サイトカインの中に含まれるのは、成長ホルモン、例えばヒト成長ホルモン、N−メチオニルヒト成長ホルモン、及びウシ成長ホルモン、副甲状腺ホルモン、チロキシン、インスリン、プロインスリン、レラキシン;プロレラキシン、糖タンパク質ホルモン、例えば卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、及び黄体形成ホルモン(LH)、肝増殖因子;線維芽細胞増殖因子、プロラクチン、胎盤ラクトゲン、腫瘍壊死因子α及びβ、ミュラー管抑制物質、マウス性腺刺激ホルモン関連ペプチド、インヒビン;アクチビン、血管内皮増殖因子、インテグリン、トロンボポエチン(TPO)、NGF−β等の神経増殖因子、血小板成長因子;TGF−α及びTGF−β等のトランスフォーミング増殖因子(TGF)、インスリン様増殖因子−I及び−II、エリスロポエチン(EPO)、骨誘導因子;インターフェロン−α、−β、及び−γ等のインターフェロン、コロニー刺激因子(CSF)、例えばマクロファージCSF(M−CSF)、顆粒球マクロファージCSF(GM−CSF)、及び顆粒球CSF(G−CSF)、インターロイキン(ILs)、例えば、IL−1、IL−1α、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、TNF−α又はTNF−β等の腫瘍壊死因子、及びLIF及びkitリガンド(KL)を含む他のポリペプチド因子である。ここで使用される場合、サイトカインなる用語は、天然源由来又は組換え細胞培養由来のタンパク質、及び天然配列サイトカインの生物学的に活性な等価物を含む。
【0130】
「有効量」なる用語は、所望される効果をもたらす量を意味する。本発明に係るヒアルロニダーゼ酵素のような製剤成分の場合、有効量は、抗HER2抗体が上に概説したように治療的に効果的な形で作用することができるように同時投与された抗HER2抗体の分散及び吸収を増加させるのに必要な量である。医薬物質の場合には、それは、患者の疾患を治療するのに効果的な活性成分の量である。疾患が癌である場合、有効量の薬剤により、癌細胞の数が減少し得;腫瘍の大きさが小さくなり得;周辺臓器への癌細胞の浸潤が阻害され得(すなわち、ある程度ゆっくりになり、好ましくは停止する);腫瘍の転移が阻害され得(すなわち、ある程度ゆっくりになり、好ましくは停止する);腫瘍の増殖がある程度阻害され得;及び/又は癌に関連した症状の一又は複数がある程度軽減され得る。薬剤が、存在する癌細胞の増殖を妨げるか、及び/又は殺傷し得る範囲で、それは細胞増殖抑制性及び/又は細胞傷害性であり得る。有効量により、無増悪生存が延長し、他覚的応答(一部寛解(PR)又は完全寛解(CR)を含む)が生じ、全生存時間が増加し、及び/又は癌の一又は複数の症状が改善され得る。
【0131】
本発明に従って製剤化される抗体は、好ましくは本質的に純粋であり、望ましくは本質的に均一である(つまり、汚染タンパク質等を含まず、本発明に係る製剤中のヒアルロニダーゼ酵素は本発明に係る抗HER2モノクローナル抗体の汚染タンパク質であるとは考えてはいけない)。「本質的に純粋な」抗体は、組成物の全重量に基づいて、少なくとも約90重量%、好ましくは少なくとも約95重量%の抗体を含有する組成物を意味する。「本質的に均一な」抗体は、組成物の全重量に基づいて、少なくとも約99重量%の抗体を含有する組成物を意味する。
【0132】
本発明は次の実施例を参照することにより更に十分に理解されるであろう。実施例は、しかしながら、発明の範囲を限定するものと解してはならない。全ての文献及び特許引用例は出典明示によりここに援用される。
【図面の簡単な説明】
【0133】
次の実験結果を示す添付の図面によって実施例を更に例証する:
【図1】分子ふるい−HPLCによって検出された低分子量(LMW)種に対する8週間後の製剤AからFの安定性(以下の表1を参照)。この図に示されるように、PS20製剤A、C及びEは、30℃での保存時にPS80製剤B、D及びFより僅かに良好な安定性を示した。
【図2】分子ふるい−HPLCによって検出された高分子量(HMW)種に対する8週間後の製剤AからFの安定性(以下の表1を参照)。この図に示されるように、塩化ナトリウムの添加がなくトレハロースを含む製剤A及びBは、8週間の保存期間後のHMWの増加は少しであることが分かる。
【図3】濁度に対する8週間後の安定性。この図に示されるように、トレハロース含有製剤A及びBは低濁度を示す;一方、NaCl含有製剤CからFは更に高い濁度を示す。トレハロース並びにNaClを含む製剤E及びFは中間の濁度を示した。8週間の保存で有意な増加は観察されなかった。
【図4】雰囲気温度でプレート・コーン粘度測定法を使用して測定した液体製剤AからFの粘度(以下の表1を参照)。全ての製剤は、皮下注射を可能にする低粘度範囲にある。
【実施例】
【0134】
本発明に係る皮下投与のための抗HER2製剤を、以下に概説する一般的調製及び分析方法及びアッセイを使用して以下に与えた実験結果に基づいて開発した。
【0135】
A)製剤のための成分の調製
トラスツズマブは、組換えタンパク質の生産で一般に知られている技術によって製造される。欧州特許第590058B号に記載のようにして調製された遺伝子操作チャイニーズマムスター卵巣細胞(CHO)株がマスター細胞バンクからの細胞培養で増殖される。トラスツズマブモノクローナル抗体は、細胞培養液から収集され、固定プロテインAアフィニティークロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィー(例えばP−Sepharose FF)、ウイルス汚染物質を除去するための濾過工程(例えばPVDFメンブレン(MiliporeからViresolveフィルターの名称で販売)と続くアニオン交換クロマトグラフィー(例えばQ−Sepharose FF)及び限外濾過/ダイアフィルトレーション工程を使用して精製される。これらの実施例に係る製剤を調製するために、トラスツズマブはおよそ6.0のpHの20mMのヒスチジンバッファー中、およそ100mg/mlの濃度で提供された。
【0136】
rHuPH20は、組換えタンパク質の生産で一般に知られている技術によって製造される。該プロセスは、ワーキング細胞バンク(WCB)又はマスター細胞バンク(MCB)からの細胞の解凍と一連のスピナフラスコでの細胞培養による増殖とバイオリアクターでの増殖で始まる。製造段階の完了後、細胞培養液を濾過によって清澄にし、ついで溶媒/洗浄剤で処理してウイルスを不活化させる。ついで、タンパク質を一連のカラムクロマトグラフィープロセスによって精製して、プロセス及び生成物に関連する不純物を除去する。ウイルス濾過工程を実施し、ついで、濾過したバルクを濃縮し、最終バッファー中に製剤化する:20mMのL−ヒスチジン/HClバッファー(pH6.5)、130mMのNaCl、0.05%(w/v)のポリソルベート80中に10mg/mLのrHuPH20。rHuPH20バルクは−70℃以下で保存される。
【0137】
本発明に係る製剤の他の賦形剤は広く実際に使用され、当業者に知られている。従って、それらをここで詳細に説明する必要はない。
【0138】
本発明に係る皮下投与のための液体医薬品製剤を次の通りに開発した。
【0139】
実施例1:液体製剤の調製
液体製剤の調製のために、トラスツズマブを、予測されたバッファー組成を含むダイアフィルトレーションバッファーに対してバッファー交換し、必要とされる場合、およそ150mg/mlの抗体濃度までダイアフィルトレーションによって濃縮した。ダイアフィルトレーション操作の完了後、賦形剤(例えばトレハロース、rHuPH20)を原液として抗体溶液に加えた。ついで、界面活性剤を50から200倍原液として加えた。最後に、タンパク質濃度を、更に以下の特定の製剤において特定された約110mg/ml、120mg/ml又は130mg/mlの最終トラスツズマブ濃度になるまでバッファーで調節した。
【0140】
全ての製剤を0.22μmの低タンパク質結合フィルターで滅菌濾過し、ETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)被覆ゴム栓及びアルクリンプ(alucrimp)キャップで閉めた滅菌した6mlのガラスバイアルに無菌的に充填した。充填体積はおよそ3.0mlであった。これらの製剤を、異なった気候条件(5℃、25℃及び30℃)で異なった時間間隔の間、保存し、震盪(5℃及び25℃で200min−1の震盪頻度で1週)及び凍結解凍ストレス法によってストレスを与えた。次の分析法によってストレス試験を適用する前後に試料を分析した:
1)紫外分光法;
2)分子ふるいクロマトグラフィー(SEC);
3)イオン交換クロマトグラフィー(IEC);
4)溶液の濁度;
5)可視粒子;
6)rHuPH20活性。
【0141】
タンパク質含有量の決定に使用される紫外線分光法は240nmから400nmの波長範囲でPerkin Elmer λ35紫外線分光光度計で実施した。ニートタンパク質試料は対応する製剤バッファーを用いておよそ0.5mg/mlまで希釈した。タンパク質濃度は式1に従って計算した。

280nmでの紫外線吸収を320nmでの光散乱に対して修正し、ニート試料と希釈バッファーの重み付け質量と密度から決定された希釈係数を乗じた。分子はキュベットの経路長dと吸光係数εの積で除した。
【0142】
分子ふるいクロマトグラフィー(SEC)を使用して、製剤中の可溶性高分子量種(凝集物)と低分子量加水分解産物(LMW)を検出した。該方法はWaters W2487 Dual Absorbance Detectorを具備し2つのTosoHaas TSK Gel SuperSW3000,4.6×300mmカラムを列で備えたWaters Alliance 2695HPLC機器で実施した。未変化の単量体、凝集物及び加水分解産物を、50mMのリン酸ナトリウム、420mMの過塩素酸ナトリウム,pH7.0を移動相として使用して定組成溶離プロファイルによって分離し、280nmの波長で検出した。
【0143】
イオン交換クロマトグラフィー(IEC)を実施して、製剤中のトラスツズマブの正味荷電を変える化学分解産物を検出した。この目的に対して、トラスツズマブをカルボキシペプチダーゼBで消化させた。該方法は、UV検出器(検出波長214nm)及びDionex ProPac(商標)WCX−10分析用カチオン交換カラム(4×250mm)を備えた適切なHPLC機器を使用した。HO中の10mMのリン酸ナトリウムバッファーpH7.5と10mMのリン酸ナトリウムバッファーpH7.5及び100mMのNaClを0.8ml/分の流量でそれぞれ移動相A及びBとして使用した。
【0144】
濁度の決定に対しては、室温でHACH 2100AN濁度計を使用して、FTU(濁度単位)で乳白色を測定した。
【0145】
Seidenader V90−T視覚検査機器を使用して試料を可視粒子について分析した。
【0146】
ヒアルロニダーゼとしてrHuPH20のインビトロ酵素アッセイを活性アッセイとして使用した。該アッセイは、ヒアルロナン(ヒアルロン酸ナトリウム)がカチオン性沈殿剤に結合するときの不溶性沈殿物の形成に基づく。酵素活性は、ヒアルロナン基質と共にrHuPH20をインキュベートし、ついで酸性化された血清アルブミン(ウマ血清)を用いて未消化のヒアルロナンを沈殿させることによって酵素活性を測定した。濁度は640nmの波長で測定し、ヒアルロナン基質に対する酵素活性から生じる濁度の減少が酵素活性の尺度である。該手順はrHuPH20アッセイ参照標準の希釈で作成した標準曲線を使用して実施され、試料活性が曲線から読み取られる。
【0147】
次の変動を含む更なる実験を実施した:
− 約およそ5.0からおよそ6.0のpHの変動
− 約およそ110mg/mlからおよそ130mg/mlのタンパク質含有量の変動
− およそ0.02%からおよそ0.06%の界面活性剤の変動
− 約5mMから約15mMの安定剤(メチオニン)の変動
【0148】
液体抗HER2医薬品製剤(製剤AからX)に対する組成及び安定性試験結果を、次の略語が使用されている以下の表1に提供する:
ffp:=粒子存在せず;effp:=本質的に粒子存在せず;wafp:=少し粒子あり
F/T:=凍結/解凍;skg:=震盪;nd:=決定されず
【0149】
以下に特定された製剤は、高濃度の2種の異なったタンパク質を用いて液体製剤を提供することができることを示している。かかる製剤は凍結乾燥製剤よりもより簡単かつより低コストで調製することができる。更に、かかる製剤は、凍結乾燥された最終製品の溶解(再構成)が必要とされない(直ぐに使用できる)ので、取り扱いが容易である。表1、3及び4において特定されている製剤は、ヒアルロニダーゼ酵素を欠く薬学的に活性な抗HER2抗体の高度に濃縮された安定な薬学的製剤の処方にまた適していることが見出された。従って、一態様では、本発明は特定された成分を有するが、ヒアルロニダーゼ酵素を欠く製剤にも関する。
【0150】
























【0151】
実施例2:凍結乾燥製剤の調製
およそ60mg/mlのトラスツズマブの溶液を、液体製剤に対して上述したようにして調製した。全ての賦形剤は上述の液体製剤の半分の濃度で添加した。製剤を0.22μmフィルターで滅菌濾過し、滅菌した20mlのガラスバイアルに等量で無菌的に分配した。バイアルを、凍結乾燥プロセスでの使用に適したETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)被覆ゴム栓で部分的に閉め、表2に報告した凍結乾燥サイクルを使用して凍結乾燥した。

【0152】
生成物を最初に室温からおよそ5℃(予冷)まで冷却した後、およそ1℃/分のプレート冷却速度で−40℃での凍結工程を続け、ついで−40℃で約2時間の保持工程を続けた。最初の乾燥工程はおよそ−25℃のプレート温度とおよそ80μbarのチャンバー圧で約76時間、実施した。ついで、第二の乾燥工程は−25℃から25℃まで0.2℃/分の温度変化速度で開始し、およそ80μbarのチャンバー圧で少なくとも5時間25℃で保持工程を続けた。
【0153】
凍結乾燥は、Usifroid SMH−90 LN2凍結乾燥機(Usifroid, Maurepas, France)又はLyoStar II凍結乾燥機(FTS Systems, Stone Ridge, NY, USA)で実施した。凍結乾燥した試料を異なった気候条件(5℃、25℃及び30℃)で異なった時間間隔の間、保存した。凍結乾燥バイアルを注射用水(WFI)で最終体積2.65mlに再構成し、およそ120mg/mlの抗体濃度の等張製剤を得た。凍結乾燥ケーキの再構成時間は約10分であった。再構成した試料の分析は、雰囲気温度で再構成液体試料を24時間インキュベーションした後に実施した。
【0154】
上述した次の分析方法によって試料を再び分析した:
1)紫外分光法;
2)分子ふるいクロマトグラフィー(SEC);
3)イオン交換クロマトグラフィー(IEC);
4)溶液の濁度;及び
5)可視粒子。
【0155】
製剤Yに対する安定性試験の結果を、次の略語が使用されている以下の表3にまとめる。
ffp:=粒子存在せず;
effp:=本質的に粒子存在せず;
nd:=決定されず

【0156】
提供された上記製剤の性質を次の表4にまとめる:


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.約50から350mg/mlの抗HER2抗体;
b.5.5±2.0のpHを与える約1から100mMの緩衝剤;
c.約1から500mMの安定剤又は二以上の安定剤の混合物;
d.約0.01から0.08%の非イオン性界面活性剤;及び
e.それぞれ150から約16000U/ml、約2000U/ml、又は約12000U/mlのヒアルロニダーゼ酵素
を含有する、薬学的に活性な抗HER2抗体の高度に濃縮された安定な薬学的製剤。
【請求項2】
約1000から約16000U/mlのヒアルロニダーゼ酵素を含有する請求項1に記載の薬学的に活性な抗HER2抗体の高度に濃縮された安定な薬学的製剤。
【請求項3】
抗HER2抗体濃度がそれぞれ100から150mg/ml、120±18mg/ml、約110mg/ml、約120mg/ml、又は約130mg/mlである、請求項1又は2に記載の高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤。
【請求項4】
緩衝剤が1から50mMの濃度である請求項1から3の何れか一項に記載の高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤。
【請求項5】
緩衝剤が5.5±0.6のpHを与える請求項1から4の何れか一項に記載の高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤。
【請求項6】
緩衝剤がヒスチジンバッファー、例えば20mMのヒスチジン/HClである請求項1から5の何れか一項に記載の高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤。
【請求項7】
安定剤が糖、例えばα,α−トレハロース二水和物又はスクロースである請求項1から6の何れか一項に記載の高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤。
【請求項8】
安定剤がそれぞれ15から250mM又は約210mMの濃度にある請求項1から7の何れか一項に記載の高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤。
【請求項9】
メチオニンが第二安定剤として、例えば5から25mMの濃度で、使用される請求項7又は8に記載の高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤。
【請求項10】
非イオン性界面活性剤が、ポリソルベート20、ポリソルベート80、及びポリエチレン・ポリプロピレン共重合体からなる群から選択されるポリソルベートである請求項1から9の何れか一項に記載の高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤。
【請求項11】
ポリソルベートの濃度がそれぞれ0.02%(w/v)、0.04%(w/v)又は0.06%(w/v)である請求項10に記載の高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤。
【請求項12】
抗HER2抗体が、トラスツズマブ、ペルツズマブ及びT−DM1又は該抗体の組み合わせの群から選択される請求項1から11の何れか一項に記載の高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤。
【請求項13】
凍結及び解凍時に安定である請求項1から12の何れか一項に記載の高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤。
【請求項14】
ヒアルロニダーゼ酵素がrHuPH20である請求項1から13の何れか一項に記載の高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤。
【請求項15】
ヒアルロニダーゼ酵素を欠く請求項1から13の何れか一項に記載の高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤。
【請求項16】
皮下又は筋肉内投与のための請求項1から14の何れか一項に記載の高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤。
【請求項17】
液体形態である請求項1から16の何れか一項に記載の高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤。
【請求項18】
凍結乾燥形態である請求項1から16の何れか一項に記載の高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤。
【請求項19】
癌又は非悪性疾患等の抗HER2抗体での治療を受け入れられる疾患又は障害の治療のための請求項1から18の何れか一項に記載の高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤。
【請求項20】
請求項1から19の何れか一項に記載の高度に濃縮された安定な薬学的抗HER2抗体製剤を含む注射デバイス。
【請求項21】
被検体における癌又は非悪性疾患等の抗HER2抗体での治療を受け入れられる疾患又は障害の治療に有用な医薬の調製における請求項1から19の何れか一項に記載の製剤の使用であって、上記疾患又は障害を治療するのに有効な量でここに記載の製剤を被検体に投与することを含む使用。
【請求項22】
製剤が化学療法剤と同時に又は連続して同時投与される請求項20に記載の注射デバイス又は請求項21に記載の使用。
【請求項23】
被検体における癌又は非悪性疾患等の抗HER2抗体での治療を受け入れられる疾患又は障害を治療する方法において、上記疾患又は障害を治療するのに有効な量で請求項1から19の何れか一項に記載の製剤を被検体に投与することを含む方法。
【請求項24】
請求項1から19の何れか一項に記載の製剤を含む一又は複数のバイアルと患者に対する製剤の皮下投与のための指図書とを含むキット。
【請求項25】
患者に対する製剤の皮下投与のための注射デバイスを更に有する請求項24に記載のキット。
【請求項26】
明細書に記載された発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−500947(P2013−500947A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522158(P2012−522158)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【国際出願番号】PCT/EP2010/060930
【国際公開番号】WO2011/012637
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(306021192)エフ・ホフマン−ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト (58)
【Fターム(参考)】