説明

皮下薬剤投与装置

【課題】熱その他の物理的手段を用いることにより薬剤の適用を改良する皮下薬剤投与装置を提供する。
【解決手段】皮下薬剤投与装置は、温度制御部品150及びそれと一体の薬剤投与部品160を有する。薬剤投与部品160は、医薬活性物質を有する二次元の処方物層と、前記処方物層よりわずかに大きく酸素及びアルコールが不透過性であるフィルムと、平坦なリム浅い貯蔵部を有するトレイと、皮膚が前記層に接触するように患者の皮膚に薬剤投与部品及び温度制御部品を取り付ける手段と、薬剤投与部品及び温度制御部品を酸素及び湿気から遮断する手段とを有する。前記層がトレイの浅い貯蔵部内に配置され、前記層がトレイの貯蔵部内に隔離されるようにフィルムがトレイのリムに対して密封される。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、皮下薬剤投与装置に関する。より詳細には、本発明は、制御された熱及び他の物理的手段を使用して、薬物の真皮投与、粘膜投与、及び注射投与を改良する皮下薬剤投与装置に関する。本発明はまた、制御された加熱を行うように酸化反応によって熱を発生するために使用される加熱デバイスを製造するための新規設計及び方法に関する。
【従来技術】
【0002】
薬剤活性化合物の真皮投与は、皮膚に薬剤活性製剤を直接塗布することを含み、皮膚が薬剤活性化合物の一部を吸収し、次いでそれが血流によって取り込まれる。そのような投与は、医療現場で長く知られており、依然として薬剤活性化合物の送達の重要な技法である。例えば1981年9月1日出願のChandrasekaranの米国特許第4286592号は、不透過性裏当て層と、薬物及びキャリアからなる薬物リザーバ層と、包帯が皮膚に付着される接触接着層とからなる使用者の皮膚に薬物を投与するための包帯を示す。
【0003】
このような真皮投与は、注射、経口錠剤及びカプセルなど他の送達技法に勝る多くの重要な利点を有する。これらの利点として、非侵襲性である(従って感染の危険が少ない)こと、第1パス代謝(薬物が経口で取り入れられ、胃腸管を介して吸収されるときの肝臓内での薬物の代謝)を避けること、及び患者の血流中の薬剤活性化合物の濃度の高いピーク及び低い谷を避けることが挙げられる。特に、無調整の濃度の高いピーク及び低い谷は、注射及び経口投与において典型的なものであり、しばしばそれに伴って望ましくない副作用が生じ、及び/又は意図した効果が満足の行かないものとなる。
【0004】
本明細書で使用する用語「真皮薬物送達システム」すなわち「DDDS」は、皮膚、皮膚下の局部組織、体循環、又はその他の人体内のターゲット部位に皮膚透過によって送達するための薬剤活性化合物を含む物品又は装置と定義される。本出願における用語「DDDS」は、別段の定めがない限り、薬物透過のための主駆動力が薬物濃度勾配であるシステムのみを指す。本明細書で使用する用語「皮膚」は、角質層で覆われた皮膚及び粘膜を含むように定義される。
【0005】
本明細書で使用する用語「薬物」は、疾病、外傷、望ましくない症状を治療して、健康を改善する、又は維持する化合物を含み、しかしそれに限定されない任意の薬剤活性化合物を含むように定義される。本明細書で使用する用語「目標領域」は、人体の全身血流と、筋肉、脳、肝臓、腎臓などを含み、しかしそれに限定されない全身血流によって到達することができる人体の領域と、投与された薬物の位置近傍の身体組織区域とを含むように定義される。
【0006】
DDDSでは、薬物が通常、水性アルコール・ゲルなどの製剤中に含まれ、製剤と皮膚の間に、薬物の透過の変動を最小限に抑えるための律速膜を含むことができる。DDDSが皮膚に当てられると、薬物が製剤の外に移行しはじめ、(存在する場合は)律速膜を横切って移行する。次いで、薬物は皮膚に入り、血管及び皮膚下の組織に入り、血液によって身体の体循環に取り入れられる。少なくともいくつかのDDDSは、使用前に律速膜(存在する場合)の皮膚側内又は皮膚側上に、ある量の薬剤活性化合物を有する。そのようなDDDSでは、律速膜の皮膚側にある薬物の一部が律速膜を通過せずに皮膚に入る。
【0007】
多くの薬物では、真皮的に吸収された薬物のかなりの部分が皮膚及び/又は皮膚下組織(本明細書で以後「デポー部位」と呼ぶ)中に貯蔵されてから、徐々に体循環に取り入れられる(本明細書で以後「デポー効果」と呼ぶ)。このデポー効果は、あるDDDSを当てた後、薬物が体循環中に遅延して現れること、及び皮膚からあるDDDSを除去した後、薬物を体循環中に継続的に送達することを、少なくとも部分的につかさどっていると考えられる。
【0008】
近年、非侵襲性アンドロゲン薬物送達システムにますます関心が集まっている。真皮送達システムは、アンドロゲン置換療法などのために開発されたシステムの1つである。テストステロン置換療法の主な目的は、血清テストステロン濃度を、可能であれば内生分泌の通常の概日パターンをまねる形で、健康な人に関する通常範囲内まで回復することである。より具体的には、この療法が、朝にピークを取り、その後徐々に減少して、夕方に谷に達するテストステロン・レベルの自然上昇をまねることが望ましい。性機能が低下した人に、本発明に開示されるようにテストステロンを送達するためにアンドロゲン経皮送達システムを使用することにより、この目的を達成することができる。本発明を用いたアンドロゲンの他の治療的使用例としては、下垂体機能低下、骨粗鬆症、月経異常、不応性貧血の治療、同化の促進、及び思春期に関連する状態に影響を及ぼすことが挙げられるが、それらに限定しない。
【0009】
男性の性機能低下は、テストステロン生成が通常範囲3〜10mg/日未満に低下する疾患である。この疾患の症状としては、性欲、性機能、エネルギー、気分の減退、ならびに二次性徴の退行、及び除脂肪体重、骨密度の減少が挙げられる。使用可能なアンドロゲン置換物理療法としては、長時間作用性テストステロンエステル類の筋肉注射、アルキル化及びエステル化テストステロンの経口投与が挙げられる。しかし、これらの治療はどれも、内生ホルモンの通常の概日プロファイルをまねるプラズマ・レベルを生み出す形ではテストステロンを送達しない。近年、いくつかの経皮テストステロン・システムが開発された。
【0010】
これらのシステムは、24時間の周期にわたって血清テストステロン濃度を正規化し、健康な若い人に見られる概日パターンの何らかの近似を可能にしている。これらのシステムが有用であることは証明されているが、副作用がないわけではない。例えば、Androderm(R)、テストステロン・パッチ使用後に、約53パーセントの人が貼付部位で局所皮膚反応を起こし(接触皮膚炎を起こし)、ある場合には、パッチを断続的に使用する必要がある。
【0011】
本明細書で使用される用語「アンドロゲン経皮的治療システム」すなわち「ATTS」は、皮膚透過によって人体内にアンドロゲンを送達するための物品、装置、又は方法と定義される。ATTSは、アンドロゲンの治療上の、又はその他の使用のために設計されている。本出願における用語「ATTS」は、別段の定めがない限り、薬物透過のための主駆動力が薬物濃度勾配であるシステムのみを指す。
【0012】
本明細書で使用される用語「アンドロゲン」は、プロピオネート、酢酸フェニル、エナンタート、シピオネート、メチルテストステロン、フルオキシメステロン、メタンドロステノロン、17α−メチルノルテストステロン、ノルエタンドロロン、スタノロン、オキシメトロン、スタノゾロール、エチルエストレノールなど、テストステロンのエステル類を含む、しかしそれらに限定されない男性二次性徴を調整することができる任意の薬剤活性化合物を含むように広く定義される。
【0013】
更に、アンドロゲンは、身長の伸び、骨格筋系の発達、皮膚の増厚、皮脂腺の増殖、ならびに皮下脂肪の減少、腋毛及び体毛の成長、喉頭の成長、髭の成長など成長を促進し、及び/壮年性脱毛症の発症を引き起こす薬剤活性薬剤を含む。アンドロゲンはまた、下垂体、精巣、及び皮脂腺に作用する薬剤剤、又は同化効果を保持するニトロゲンを有する薬剤として一般に記述することができる。
【0014】
皮膚にDDDSを配置した後、ターゲット組織又は血液中の薬物濃度は通常、ある時間にわたってゼロに、又はゼロ付近に維持され、その後、徐々に増加しはじめて、「治療レベル」と呼ばれる薬効的に有益と考えられる濃度に達する(治療レベルに到達するまでにかかる時間を、本明細書では以後「開始時間」と呼ぶ)。
【0015】
理想的には、ターゲット組織又は血液中の薬物の濃度が、治療レベルよりもわずかに高いレベルでプラトーを取る(すなわち実質的に安定な状態に達する)べきであり、長時間にわたってそこに留まるべきである。所与の人及び所与のDDDSに関して、「ターゲット組織又は血流中の薬物の濃度対時間」の関係は普通、通常の適用条件下では変えることができない。
【0016】
開始時間、及び典型的なDDDSに関する身体の目標領域中への薬物の送達速度は通常、以下のものを含めたいくつかの因子によって決定される。製剤からの薬物の解放速度、律速膜を横切る薬物の透過率(律速膜が利用される場合)、皮膚を横切る薬物の透過率(特に角質層)、デポー部位内での薬物貯蔵及びそこからの解放、血管壁の透過率、ならびにDDDSの下及びその周りの組織(皮膚を含む)中での血液及びその他の体液の循環。開始時間及び送達速度に影響を及ぼすこれらの主な因子が知られているが、既存のDDDSは、薬物の適用の過程中に変更可能な送達速度を有するように設計されてはいない。
【0017】
DDDSは、多くの態様で十分に働くが、現行の真皮薬物送達技術には、以下のものを含めたいくつかの重大な制限がある。1)多くのDDDSに関して、望ましくないことに開始時間が長い。2)DDDSが皮膚上に貼付されると、薬物が体循環又は身体の目標領域中に取り入れられる速度を簡単に変えることができず、定常状態伝達率が達成されたときに、それを簡単に変更することができない。3)送達される薬物の量が治療レベルに到達するほど十分に多くないため、皮膚透過率が非常に低く、そのため多くの薬物が真皮送達から除外される。更に、皮膚及びDDDSの温度変動が、薬物の真皮吸収の変動の原因となると考えられる。
【0018】
温度上昇により皮膚を介する薬物の吸収を高めることができることが知られている。1990年2月6日出願のLatzke他の米国特許第4898592号は、経皮的に吸収可能な活性物質を含浸されたキャリアと支持体とを含む加熱経皮的吸収可能活性物質を適用するためのデバイスに関する。支持体は、1つ又は複数のポリマー層からなる積層であり、任意選択で熱伝導要素を含む。この熱伝導要素は、活性物質の吸収を高めるように、患者の身体熱を分散するために使用される。1980年10月28日出願のHarwoodの米国特許第4230105号は、使用者の皮膚による薬物の吸収率を高めるために、好ましくは互いに混合した薬物と熱発生物質とを有する包帯を開示する。分離した薬物層と熱発生物質層も開示されている。1987年8月11日出願のKonno他の米国特許第4685911号は、薬物成分と、身体温度が溶融に不適切である場合に薬物含有製剤を溶融するための任意選択の加熱要素と含む皮膚パッチを開示する。
【0019】
別の投与の分野は、薬物を、制御された/持続された解放剤形/製剤(「剤形/製剤」)の形で皮膚又は皮膚下の組織中(これらの剤形/製剤用の滞留場所を本明細書で以後「貯蔵部位」と呼ぶ)に送達することを含み、この結果、薬物が、制御された/持続された形で貯蔵部位から解放される。貯蔵部位中に剤形/製剤を送達するための最も一般的な技法は、注射によるものである。体内移植や、高速ヒッティングによって皮膚中へ剤形/製剤を打込むなど他の技法も使用することができる。しかし、剤形/製剤が貯蔵部位に送達されると、薬物が貯蔵部位で剤形/製剤から解放され、体循環又は身体の目標領域に取り入れられる「解放速度」と呼ばれる速度を変えることが通常困難になる。別の投与の分野は、皮下に、又は筋肉内に薬物を注射することを含む。いくつかの臨床状況では、そのような注射の後、体循環又は身体内の他の目標領域への薬物吸収の速度を加速することが有利である。
【0020】
温度上昇により皮膚を介する薬物の吸収を高めることができることが知られているが、真皮送達を改善するために効率が良く、簡便であり、制御されている熱を提供することは困難である。更に、いくつかの適用例又は医療処置では、皮膚を介する薬物の吸収を高めるために、真皮薬物送達システムの適用の際に個別加熱要素を使用することが、真皮的薬物投与におけるいくつかの複雑な問題を提示する場合がある。例えば、患者又は介護者が温度制御要素を使用するために、例えば個別温度制御要素を獲得する、貯蔵する、調製する、ならびに個別温度制御要素を適用する、及び/除去するといった追加のステップを取ることが必要になることによって、温度制御要素の使用が治療用薬剤の投与を複雑にする可能性がある。
【0021】
また、治療用薬剤を投与する複雑さが増すとき、患者又は介護者が温度制御要素の所定の使用法を遵守する可能性が低減する傾向があり、場合により所定の処置の効果を低減する。所定の使用法が、患者がDDDSを投与することに加えて、個別加熱要素を購入し、貯蔵し、調製し、適用し、次いで除去することを必要とする場合、患者は、追加の時間がかかるので不便に感じ、個別温度制御要素の所定の使用法をしないことを選ぶ場合がある。更に、個別温度制御要素の使用は、所与の温度制御要素と、その温度制御要素を使用するDDDSとの適合性によって限定される。個別加熱要素がDDDSと共に使用するように特に設計されていない場合、DDDSの形状、配合、及び構成が、個別加熱要素の効果的な使用を妨げる場合がある。
【0022】
DDDSと共に個別温度制御要素を使用する難点を、(注意深い設計考慮をせずに)2つを単に組み合わせることによって解決しようという試みは、しばしば問題があり、成功しないという欠点がある。例えば、薬物製剤自体が、酸素にさらされたときに、又は他の機構によって熱を発生することができるようにすることにより、DDDSと温度制御要素を組み合わせることを試みることができる。しかし、それを行うためには、熱発生媒体と薬物製剤が互いに完全に適合していることが必要である。発熱酸化物を使用して熱を発生するとき、鉄粉、活性炭、及び水を備える熱発生媒体が水成ゲルベースの局部麻酔製剤と混合される場合に、様々な理由の中でも特に、局部麻酔製剤中のゲルが熱発生媒体に酸素が入るのを妨げることにより、適切に熱を発生することができない。
【0023】
初めに端的に見える別の手法は、加熱パッチを薬物パッチに単に取り付けて、その統合パッチを気密容器内に配置するものである。この手法は、米国特許第4963360号でAlbert Argaudによって利用された。Argaud特許は、一面で投薬物を保持するゼラチン層に貼付され、他面で空気にさらされたときに発熱反応を有するように設計された組成物に貼付されたベース・シートの使用を教示する。Argaud特許には熱調整機構が存在しないので、薬効成分の皮膚への吸収が制御されない。非制御吸収は、過剰投与及び過小投与により患者の重大な反応をもたらす可能性がある。これらに付随する副作用が、加熱反応によって提供される利点よりも大きくなる。加熱を調整するという問題に加えて、離隔、又は身体に熱を向けるエンジニアリングの欠如など他の問題も、DDDSの発熱反応の効果及び一貫性を低減する。
【0024】
これら従来の送達デバイスは、皮膚に対して薬効層をシールするための機構を提供しないので、ゲルが空気にさらされると、薬効成分の急速な蒸発が生じる場合がある。更に、パッチを皮膚に固定して付着するための手段がなく、適切な吸収が保証されない。Argaud参照によって提供される例を見ればわかるように、薬効層と接触領域の間の制限された接触面積が変わりやすく、吸収される薬物の量に影響を及ぼす。Argaudパッチでの別の問題は、デバイスのパッケージングにより、パッケージ内部の空気が、薬物製剤と熱発生媒体の両方と連絡することが可能になっていることである。このアプローチが、熱発生媒体と貯蔵中の薬物製剤との間での物質の交換又は移送を可能にし、それが薬物製剤と熱発生媒体の一方又は両方を損なわせる可能性がある。例えば、熱発生媒体が適切な割合の鉄粉、活性炭、塩、木粉、及び水を有し、薬物製剤がハイドロゲルの形である場合、熱発生媒体が、薬物製剤からの水蒸気を吸収し、それにより熱発生手段と薬物製剤の両方における所望の水濃度を変化させる可能性がある。フェンタニールなどの薬物の使用に適用されるときのこの問題を以下により詳細に説明する。
【0025】
温度制御ユニットをDDDSと結合することの難しさは、加熱酸化パッチをフェンタニールDDDSと結合する次の例に示される。上に配置した段落で述べたようなアルコール及び水を含む製剤を有する薬物パッチに熱生成媒体を有する加熱成分を貼ることにより、統合パッチの形成を試みることができ、この統合パッチは気密容器に密閉することができる。気密容器が外部環境から統合パッチを分離し、加熱成分と薬剤製剤との間にバリア・フィルムが配置される場合もあるものの、薬物製剤中のアルコール及び水はなお、蒸気の形で気密容器中の空間に拡散し、熱生成媒体に吸収される可能性がある。熱生成媒体中の活性炭は、揮発性物質を吸収する傾向が強い。従って薬物製剤は、多量のアルコール及び水を徐々に失うことになる。
【0026】
アルコールも水も両方とも、いくつかの薬物を経皮送達する際に重要な役割を果たす。製剤中のアルコールの少なくとも1つの機能は、所望の量の薬物が吸収されるように皮膚浸透性を高めることである。水及びアルコールはまた、製剤中の薬物の溶媒としても働く。上の段落で述べたように温度制御装置及びDDDSが結合された場合、貯蔵中に多量のアルコール及び水が失われることになり、皮膚浸透性は意図されたように上昇せず、薬物の皮膚吸収が低下する。また、製剤中の薬物の溶解度及び濃度が変化し、これは、経皮薬物浸透性に対する駆動力を変化させる。この結果、経皮パッチからの薬物吸収は、意図されたレートとは大きく異なり、全く予測不可能である可能性がある。これは、深刻な薬物過少量又は過量を引き起こす可能性がある。
【0027】
更に、十分なアルコール及び水が熱生成媒体に吸収された場合、加熱成分の機能もまた損なわれる場合がある。活性炭を使用した熱生成媒体では、活性炭は、周囲の環境から湿気を吸収する傾向がある。熱生成媒体中の水分量が過度に増加した場合、熱生成媒体は、熱を適切に生成しなくなる。従って、熱生成媒体を湿気から遮断することが重要である。尚早な蒸散からくる酸化反応を防止するために、熱生成媒体を酸素にさらされることから保護することも、同様に重要である。
【0028】
従って、統合パッチが気密容器中に密閉されている場合でも、統合パッチ中で薬物製剤と加熱成分との間をうまく分離することが非常に重要である。この分離は、物質が薬物製剤と加熱成分との間で直接に移動すること(すなわち浸透)を妨げるべきであるだけでなく、蒸気が気密容器中の空間を介して移動又は交換することを妨げるべきである。
【0029】
人間の皮膚を加熱するための加熱装置は、当技術分野に多くある。加熱装置中で使用される加熱成分は、加熱装置の設計及び性能全体に大きな影響を与える。熱生成媒体としては、発熱性酸化反応を受けることのできる成分を使用することが、酸化反応成分を周囲の酸素にさらすことによって制御される利点を有する。例えば、酸化に基づいた熱生成ハンド・ウォーマは、熱生成媒体を含む空気透過性バッグを備えることができる。混合物は、鉄粉、活性炭、水、塩、及び任意選択で媒体をより多孔質にするための木の粉でできた、疎性顆粒を含むことができる。ハンド・ウォーマは通常、気密容器に保管される。容器から出された後、大気中の酸素が空気透過性バックを通して熱生成媒体に流入し、熱生成媒体中の鉄粉の発熱性酸化が熱生成を開始する。
【0030】
手又は身体を温めるように設計された装置では、加熱装置は通常、コンパクトに製造されず、生成される熱の加熱温度及び持続時間は正確に制御されるようにはなっていない。例えば、GRABBER Warmers、Grand Rapids、MI49512から供給されているハンド・ウォーマは、最低温度及び最高温度がそれぞれ40℃及び69℃であり、重量は約20グラムである。しかし、いくつかの状況では、加熱装置のサイズと、熱の温度及び持続時間を制御する能力とが重要な場合がある。
【0031】
米国特許第5658583号には、皮膚薬物送達を高めるために熱を生成する、酸化反応に基づく装置が開示されている。この特許に開示されている熱生成装置は、薄くフレキシブルなチャンバであり、このチャンバは、空気不透過性材料でできた底部及び周囲の壁と、大気中の酸素を適切なレートでチャンバに流入させることのできるカバーとで画定されている。この薄くフレキシブルなチャンバの内部には、酸素にさらされたときに熱を生成することのできる熱生成媒体がある。熱生成媒体の代表的な成分は、活性炭、鉄粉、塩化ナトリウム、微細な木の粉、及び水を適切な比率で含む。
【0032】
経皮薬物送達の向上や、注射又は移植された制御薬物の放出システムの調節など、医療関係の多くの用途において、加熱装置は、装置が機能的及び/実用的であるために、いくつかの基準を満たさなければならない。例えば、装置は通常、薄くコンパクトである必要がある。生成された熱の持続時間及び温度は、薬物過少量又は過量の危険性を最小限に抑えられるように、正確に制御され再現可能である必要がある。更に、加熱装置がコンパクトでありながら十分な持続時間にわたって熱を生成できるように、チャンバにできるだけ多くの熱生成媒体を配置することができるのが望ましいことも多い。更に装置は、滅菌されており使い捨てである必要がある場合もある。熱生成媒体の設計は、加熱装置の潜在的な用途に影響する。これらの設計上の制限は、医療関連の多くの用途や、チャンバのボリュームが小さく設計されたときなど、いくつかの用途の場合に深刻な問題を呈する可能性がある。
【0033】
従って、DDDSの薬物管理を改善する方法及び装置を開発すること、より詳細には、様々な臨床ニーズによりよく対応するために、DDDSの使用をよりフレキシブル及び/制御可能及び/滴定可能にする(薬物の生物学的効果に従って薬物送達のレート、量、又は期間を変えて)方法及び装置を開発することが有利であろう。また、皮膚浸透性が低いために現在は除外されている薬物に対して皮膚送達を可能にする方法及び装置を開発することも有利であろう。更に、いくつかの臨床ニーズに対応できる方式で、貯蔵部位又は注射部位からの薬物吸収率を主として増加させるために変える手段を開発することも有利であろう。
【0034】
更に、様々な臨床ニーズによりよく対応し、副作用を最小限に抑えるために、ATTSのアンドロゲン管理を改善する方法及び装置を開発することも有利であろう。例えば、皮膚温度を所望の温度範囲に上昇させることのできる薬物送達システムを開発することが有利であろう。所望の温度範囲は、アンドロゲンの管理を改善するが過熱によって肌に外傷を負わせる可能性を著しく増大させない範囲とすべきである。規定の範囲内で上昇させた温度を必要に応じてその範囲内で変えられることも、同様に有利であろう。温度を調節可能にすることで、患者又は介護者が吸収率を制御することができるようになる。更に、制御された時間枠又は所望の持続時間にわたって温度を上昇させることも有利であろう。また、患者又は介護者が、温度を上昇させるべき皮膚の部位を自由に選択できる方法及び装置を開発することも有利であろう。
【0035】
温度制御コンポーネントと皮膚薬物送達システムとの間における物質の望ましくない移動を防止し、それらを必要に応じて周囲の酸素及び望ましくない溶媒から遮断し、環境に対する溶媒の望ましくない利得又は損失を防止することを同時に行うことのできる、皮膚薬物送達コンポーネントを備えた統合温度制御コンポーネントの利便と使い易さとを結合する構成を提供することも、当技術分野における進歩になるであろう。
【発明の概要】
【0036】
本発明は、熱及び他の物理的手段を使用して薬物の皮膚及び粘膜管理を改善するための様々な方法及び装置に関する。本発明は更に、制御された熱及び他の物理的手段を使用して、いくつかの診療ニーズに対応する方式で、貯蔵部位又は注射部位からの薬物放出率を主として増加させるために変える方法及び装置に関する。
【0037】
DDDSの適用例では、薬物の吸収は通常、いくつかの要因によって決定される。すなわち、薬物製剤中の薬物分子の拡散係数、律速膜にわたる薬物の浸透係数(DDDS中で使用される場合)、製剤中の溶解薬物の濃度、薬物の皮膚浸透性、デポー部位への薬物貯蔵及びデポー部位からの薬物放出、皮膚中及び/又は皮膚の下の他の組織中の体液(血液を含む)循環、ならびに皮下組織中の毛細血管の壁の浸透性である。従って、現在の皮膚薬物送達技術の限界に対処するために、これらの薬物吸収要因を制御し、それらを変える能力を有することが望ましい。制御加熱/冷却は、上の各要因に影響を与えることができる可能性があると思われる。
【0038】
具体的には、温度を上昇させると、一般に、製剤中の薬物の拡散係数、ならびに律速膜及び皮膚にわたるそれらの浸透性を増加させることができる。また、温度を上昇させると、DDDSの下にある組織中の血液及び/又は他の体液の流れも増大し、これは薬物分子をより速い速度で体循環させるべきである。更に、温度を上昇させると、皮下組織中の毛細血管の壁の浸透性も増大する。更に、温度を上昇させると、薬物の製剤中のすべてでなくとも大部分の薬物の溶解度を上昇させることができ、これは、溶解されない薬物を含む製剤では浸透性駆動力を増大させるべきである。当然ながら、冷却は、ほぼ逆の効果を有するべきである。従って本発明は、制御加熱/冷却を使用して、薬物の皮膚吸収を制御可能にするために上の各要因に影響を与える。
【0039】
本発明はまた、制御加熱/冷却をいくつかの新規方式で使用して、様々な臨床条件に対処し個々の患者のニーズを満たすために皮膚薬物送達をよりフレキシブル及び/より制御可能なものにする。より大まかに言えば、本発明は、DDDSの適用中に制御加熱/冷却のための新規方法及び装置(以下「温度制御装置」という)を提供し、それにより、ニーズに対応するように加熱を開始、低減、増大、及び停止することができるようにする。
【0040】
本発明の別の実施形態は、十分な量の追加薬物を得るため、及び/、過少量及び過量に関連した不十分な処置及び副作用を最小限に抑えるために、薬物の効果に基づいてDDDS上の制御加熱の持続時間を決定するものである。
【0041】
特定の用途及び/又は個々の患者のニーズに基づいて、制御加熱を開始する時と、加熱温度と、制御加熱を停止する時を適切に選択することを通して、次のような吸収率の制御/操作を達成すべきである。すなわち、1)薬物の定常状態の送達レートを大きく変化させることなくDDDS中でその開始時間を短縮すること、2)DDDSの適用中に必要に応じて適切な量の追加薬物を提供すること、及び3)DDDS適用の持続時間のかなりの期間あるいは全持続時間にわたって薬物吸収率を増加させることである。
【0042】
開始時間の短縮は、DDDSが十分な定常状態の送達レートを提供するが開始が遅すぎるという状況で重要である。適切な量の追加薬物を提供することは、DDDSが十分な「ベースライン」量の薬物を送達するが患者がDDDS適用中の特定時に特定期間にわたり追加の薬物を必要とする場合に重要である。薬物吸収率を増加させることは、DDDSからより高い薬物送達レートを必要とする患者に使用される。
【0043】
前述の第1の手法は、DDDS適用の開始時に制御加熱を加え、体循環中又は身体の他の目標領域における薬物の濃度を治療レベルに向けて増加させるのに十分な長さで加熱が継続するようにし、その後しばらくして(おそらくは徐々に)停止することによって達成される。第2の手法は、追加の薬物を得る必要が生じたときに、制御された熱を加え、所定時に又は追加薬物の所望の効果が達成されたときに制御加熱を終了することによって達成することができる。第3の手法は、DDDS適用の開始時に、制御された熱を加えることによって達成することができる。これら3つの手法すべてにおいて、前記その薬物送達レートの増加の程度を制御するように制御加熱の温度を指定しなければならない。
【0044】
皮膚の皮膚浸透性が低いために、従来のDDDSの開始時間は一般に非常に長く、しばしば望ましくないほど長い。従って本発明の別の態様は、好ましくは定常状態薬物送達レートをほぼ変化させることなく、制御された熱を使用してDDDSの開始時間を短縮する方法及び装置を提供するものである。本発明のこの態様の特に有用な適用例は、DDDSを再設計する必要又はそれらの定常状態薬物送達速度を調節する必要なしに、従来の市販DDDSで使用するための制御加熱装置を提供して、臨床用途で開始時間を短縮するものである。
【0045】
DDDSにおける薬物吸収の変動の重要な原因の1つは、周囲の気温及び/又は人間の物理条件の変動によって引き起こされる、DDDS及び隣接皮膚の温度変動であると思われる。この温度変動は当然、DDDSの最終的な薬物送達速度を一括的に決定するすべての要因に影響を与える可能性がある。従って、制御加熱/冷却を使用する方法及び装置を提供する本発明はまた、皮膚及び皮膚上に適用されるDDDSの温度変動を最小限に抑える。温度変動を最小限に抑えることだけでなくDDDS及びその下の皮膚の温度を上昇させる(熱損失を減少させることにより)ことを助けるために、制御された温度装置に絶縁材料を組み込むことも考えられ、これらはそれぞれ、皮膚薬物吸収を増加させる傾向がある。
【0046】
本発明はまた、粘着性の縁を有し、DDDSよりも、又は注射薬物の上の領域よりもやや大きいサイズの絶縁材料でできたカバーなど(独立気泡フォーム・テープなど)の絶縁装置を使用して、DDDS及び/又は使用者の皮膚が極度の温度(熱いシャワー又は風呂、直射日光など)にさらされたときにDDDS/注射薬物をカバーする方法及び装置にも関する。
【0047】
現代麻酔学の重要な領域は、患者によって制御される鎮痛(以下「PCA」という)であり、これは、患者が必要を感じたときに自分で鎮痛薬を飲む。投薬の範囲及び投薬頻度は、通常、介護者(例えばケア医師、看護婦など)によって設定される。多くのPCA状況では、患者は、鎮痛薬のベースライン・レートを受け取り、患者が必要と思うときに追加のボーラス鎮痛薬をもらう。本発明における技術は、PCAに使用することもでき、その場合患者は、通常の皮膚鎮痛パッチによってベースライン投薬を受け、皮膚鎮痛パッチを加熱することによって追加の(「救急」)投薬を受ける。加熱温度及び持続時間は、適切な量の追加投薬を送達するようにする必要がある。
【0048】
制御又は持続放出剤形又は製剤中の薬剤は、注射、移植、薬物/薬物製剤を超音速で皮膚上に当てる、及び薬物/薬物製剤を皮膚上に埋め込むなどの方法で、皮膚中及び/又は皮膚下組織中のデポー/貯蔵部位に送達することができる。制御/持続剤形/製剤は、薬物が、持続期間にわたって徐々に周囲の組織及び/又は体循環に放出されるようにする。例えば、持続放出インスリン(Ultralente(R)亜鉛インスリン、Eli Lilly and Co.など)を皮下に注射して、持続期間にわたりインスリンを患者の体循環に送達することができる。しかし通常、制御/持続フォーム/製剤中の薬物が貯蔵部位に送達された後は、薬物放出の経路を制御するのは難しい。本発明の装置及び方法では、薬物がデポー/貯蔵部位に送達された後、制御/持続剤形/製剤からの薬物の放出を、制御された熱によって増加させ、制御された冷却によって減少させることができる。例えば、多くの糖尿病患者は、食事による血糖値の上昇を抑えるために食事のすぐ前に追加のインスリンを必要とする。しかし、皮下に注射された持続放出インスリンの放出レートは、比較的一定である。
【0049】
本発明の方法及び装置を使用して、糖尿病患者は、朝に皮下持続(extended)放出インシュリンを注射することができ、食事摂取の少し前の時間に、注射部位の皮膚に制御熱を加えて、食事からの糖を抑制する追加のインシュリンを得ることができる。制御熱は、貯蔵部位のまわりの血液及び他の体液の流れを増加させて、インシュリンの溶解速度を速めると信じられている。もちろん、デポー/貯蔵部位での所与の制御/持続放出製剤が、実際に、より高い温度を使用して、付加的な薬物を放出することができるかどうかは、その薬物剤形/製剤にの性質に依存する。ただし、熱は、その製剤での薬物の拡散速度を早め、血管壁の浸透性を増加させ、デポー部位のまわりの体液の循環を促進し、このそれぞれが、より多くの薬物放出を助けることが知られている、又は予期されるので、熱誘発の付加薬物放出は、皮下貯蔵部位に送達されるほとんどではないにしても、多くの制御/持続薬物剤形/製剤に対して起きると予測される。
【0050】
本発明の1つの重要な態様は、注射される薬物製剤、特に持続/制御放出製剤と併せた適用形態で、制御熱の温度及び制御熱を開始及び終了する時期を適切に選択して、前述のDDDSと併せた適用形態の場合と同様に、異なる療法及び個々の患者の必要性に対応することである。
【0051】
多くの生分解性のポリマーを使用して、制御/持続放出製剤を形成することができる。特筆すべきは、本明細書に参照によって組み込まれる、Donald L.Wiseその他によって編集され、Marcel Dekker、1995年出版の「Encyclopedic Handbook of Biomaterials and Bioengineering」の第29及び33章に記載の乳酸/グリコール酸ポリマーである。そうしたポリマーで作られ、このましくは、「Encyclopedic Handbook of Biomaterials and Bioengineering」に記載の方法を使用して準備された、制御/持続放出製剤からの薬物放出速度を制御/調整するのに、前述のとおり、制御熱を使用するのが、本発明の1つの重要な態様である。
【0052】
迅速な全身(systemic)吸収が重要である薬物に関して、本発明は、有用であり得る。例えば、偏頭痛の治療が成功するためには、偏頭痛の始りからある時間内に、血流中でのジヒドロエルゴタミンなどの抗偏頭痛薬物の濃度が、治療レベルに達しなければならないことが、一般的に認められている。こうした状況では、前述の発熱デバイスを薬物の通常の注射と併せて使用することが可能である。熱は、通常、その製剤での薬物の拡散速度を速め、血管壁の浸透性を増加させ、注射部位のまわりの体液の循環を促進することができるので、薬物は循環系により迅速に入ることになる。
【0053】
本発明のより重要な態様のうちの1つは、制御熱を生成し、提供するための装置である。これらの制御熱生成装置は、一般的に、熱生成部分、この熱生成部分によって生成された熱をDDDSに伝えるための手段、皮膚、及び/又は皮下のデポー部位及び貯蔵部位を含む。これらの制御熱生成装置は、一般的に、装置をDDDS及び/又は皮膚上に固定するためのメカニズム(テープ、接着剤、及びそれに類するもの)を更に含む。好ましくは、固定メカニズムは、制御熱生成装置を使用中に定位置にしっかりと保持するが、使用後、比較的、容易に取外しを行えるようにする。更に、これらの制御熱生成装置は、熱の生成を終了するためのメカニズムを更に含む。制御熱生成装置の底の形状及びサイズは、一般的に、それとともにそれらが使用されるべきDDDSに適合するように特別に形成されている。
【0054】
制御熱生成装置の一実施形態は、空気非透過性の側壁、底部の壁、及び限られた所望の空気透過性を有するエリア(例えば、微孔性の膜で覆われた穴)を有する空気非透過性の上部の壁を含んだ浅いチャンバである。熱生成媒体が、この浅いチャンバ内に配置される。熱生成媒体は、好ましくは、鉄の粉末、活性炭、塩、水、及びオプションとして、おがくずを含む。制御熱生成装置は、好ましくは、それがそこから使用前に取出される気密コンテナに保管する。気密コンテナから取出した後、大気中の酸素(「環境酸素」)が、所望の空気透過性を有する空気非透過性のトップ上のエリアを通って熱生成媒体に流れ込み、熱を生成する酸化反応(すなわち、発熱反応)を開始する。所望の発熱温度及びその持続時間は、トップの空気露出を選択することにより(例えば、カバー上の穴の正しいサイズ及び正しい数を選択し、及び/又は特定の空気透過性に対する、穴を覆う微孔性の膜を選択することにより)、及び/又は熱生成媒体の成分の正しい量及び/又は比率を選択することによって、得ることができる。
【0055】
制御熱生成装置のこの実施形態は、好ましくは、制御熱生成装置を皮膚上又は皮膚に適用されるDDDS上に固定するためのメカニズムを含む。そこで発熱の除去又は終了が必要となる可能性のある適用形態の場合、熱生成装置は、DDDS及び/又は皮膚からの容易な取外しを可能にするための、又は発熱を終了するためのメカニズムも含み得る。DDDSを皮膚から取り除くことなく、この前者から浅いチャンバを容易に取り外すことができるようにするための1つのメカニズムは、浅いチャンバの底に非接着エリア又は接着性のより低いエリア(DDDSを皮膚に付着する接着剤よりも接着性の低い)を有し、その非接着又は接着性の低いエリアが、DDDSのそれに類似する形状を有する、熱生成装置の側壁上にある接着剤の層を含む。
【0056】
こうした熱生成装置が、皮膚の上にあるDDDS上に適用されたとき、熱生成装置の側壁の底にある接着剤は、皮膚に付着し、非接着又は接着性のより低い部分は、DDDSの上にあるが、それに付着されていないか、又は強力に付着されていない。これが、DDDSを乱すことなく、熱生成装置を取り外すことを許す。
【0057】
こうした熱生成装置の1つの適用形態は、DDDSと併せて使用されることになるが、熱生成装置は、デポー部位又は注射の部位から、又は制御放出される薬物のインプランテーション(貯蔵部位)からの薬物の放出を増加させるため、あるいは皮下注射又は筋肉内注射された薬物の吸収を促進するため、皮膚に直接に適用することも可能なことを理解されたい。
【0058】
制御熱生成装置のための本発明の熱発生メカニズムは、鉄の粉末、活性炭、塩、水、及びオプションとしてのおがくずの、好ましい発熱反応混合物に限定されず、その熱が電気によって生成される発熱ユニットを含み得る。電気発熱ユニットは、好ましくは、熱をDDDS及び/又は皮膚に伝える2次元表面を含む。電気発熱ユニットは、DDDS又は皮膚上に配置することが可能な、温度フィードバック・システム及び温度センサも含み得る。温度センサは、DDDS又は肌での温度を監視して、感知された温度に基づく電気信号をコントローラに伝送して、これが、電気発熱ユニットに対する電流又は電圧を調節して、DDDS又は皮膚での温度を所望のレベルに保つ。好ましくは、電気発熱ユニットを皮膚上に固定するのに、両面接着テープを使用することができる。
【0059】
熱生成メカニズムは、赤外線生成ユニット及び赤外線放射をDDDS上又は皮膚上に向けるためのメカニズムも含み得る。それは、DDDS上又は皮膚上に配置され、赤外線放出の強度を制御して、DDDS又は皮膚での温度を所望のレベルに保つことができる、温度フィードバック・システム及び温度センサも含み得る。
【0060】
熱生成メカニズムは、更に、マイクロ波生成ユニット及びDDDS上又は皮膚上にマイクロ波放射を向けるためのメカニズムを含み得る。この場合も、熱生成メカニズムは、マイクロ波放出の強度を調節して、DDDS又は皮膚での温度を所望のレベルに保つ、温度フィードバック・システム及び温度センサを含み得る。
【0061】
熱生成メカニズムは、結晶化から熱を生成する(「発熱」)過冷却液体を含んだコンテナを更に含み得る。結晶化は、過冷却液体内で金属片を曲げることなどによって、コンテナ内で開始され、コンテナが、DDDS又は皮膚の上に置かれる。結晶化プロセスから放出される熱は、DDDS及び/又は皮膚に伝えられる。ただし、結晶化によって生成された熱は、通常、長時間にわたって一定のレベルを維持しない。従って、こうした熱生成メカニズムは、そこで長時間にわたって狭い範囲内での高い温度が必要な適用形態に対しては、理想的ではないが、そこで短い発熱持続時間のみが必要な場合には役に立ち、オンセット時間を最小限に抑えるのに、短い発熱持続時間から益を得ることになるDDDSと併せて使用する場合などがそうである。
【0062】
一般的に、DDDSに対するほとんどの利点が、加熱によるより高い薬物吸収及び薬物放出速度で実現されるのではあるが、そこで薬物吸収及び薬物放出速度を増大させることも、低減することも両方できるようにするのが望ましい状況が存在する。
【0063】
薬物投与でのより完全な制御のためには、必要に応じて、加熱と冷却の両方を提供するためのメカニズムが有利となる。従って、本発明の新しい手法は、DDDS、皮膚、及び/又はその下の組織に対して、あるいは皮膚内の制御/持続放出薬物剤形/製剤又は皮下組織に対して、加熱又は冷却を提供するための方法及び装置を提供して、薬物吸収及び/又は薬物放出が制御できるようにすることである。加熱/冷却メカニズムは、加熱が望ましいか、又は冷却が望ましいかに依存して、そこで電力供給が逆転され得るヒートポンプとして機能する熱電モジュールを含む。冷却メカニズムは、前述の発熱結晶化メカニズムに類似した吸熱結晶化を含み得る。
【0064】
もちろん、薬物吸収及び/又は薬物放出を制御するための制御加熱及び/又は冷却の使用は、制御/持続剤形/製剤が皮膚及び/又は皮下組織に送り込まれた後でも、それらに同様に適用可能であることが理解されよう。ただし、加熱及び/又は冷却以外の物理的メカニズムもまた、同一の目的のために使用することができる。従って、本発明の新しい手法は、既に体内に送達され、物理誘発手段に反応する制御/持続放出剤形/製剤からの付加的な薬物放出を、超音波、電流、及び機械振動を使用して誘発するための方法及び装置を提供することである。
【0065】
本発明は、また、経皮薬物送達システムなどの薬物送達コンポーネントと、発熱パッチなどの温度制御コンポーネントとの統合を準備して、「統合DDDSパッチ」又は「統合パッチ」を出すことである。薬物送達コンポーネントは、薬物製剤アプリケータ及びこの薬物製剤アプリケータに固定された薬物製剤を含む。バリア及び/又は仕切りが、望ましくない物質が、温度制御コンポーネントと薬物送達コンポーネントの間で転移するのを防止する。バリア及び/又は仕切りは、また、薬物送達コンポーネントと温度制御コンポーネントと外部環境の間での揮発性物質の交換転移又は吸収も防止する。温度制御コンポーネントは、温度変更要素及びこの温度変更要素によって生成された熱を制御する又は調節することができる温度コントロールを含む。
【0066】
薬物送達コンポーネントは、製剤内に薬物が配剤され、製剤が薬物アプリケータに付着する又はその中に含まれる、既知の皮膚薬物送達システムに類似したものであり得る。薬物製剤アプリケータは、患者の皮膚に対する薬物又は薬物製剤の送達を円滑にする又はそれをもたらす、皮膚薬物送達システム内の任意の構造又はプロセスであることが可能であり、例えば、これは、接着テープに固定されたガーゼ・パッドなどである。薬物アプリケータは、薬物製剤とユーザの皮膚との間での速度制限膜を含むことが可能であり、又は別法では、製剤は、皮膚に直接に接触していることが可能である。不浸透性の医療包装フィルムなどの物理バリアが、直接浸透又は蒸気吸収を介する、薬物送達コンポーネントと温度制御コンポーネントの間での交換又は物質を防止するための手段を提供する。薬物製剤を備えた薬物アプリケータは、交換を防止するための手段に固定される。この薬物送達コンポーネントは、温度制御コンポーネントと統合されて、統合パッチを形成する。更に、医療接着テープの層をバリア・フィルム又は統合パッチの他の部分に取り付けることができ、これによって、統合パッチを患者の皮膚に付着するための手段を提供する。
【0067】
統合DDDSに関する治療薬物の吸収は、通常、多くの要因によって決定され、これは、薬物製剤内の薬物分子の拡散係数、速度制限膜を透過する(透過するとすれば)薬物の透過性係数、製剤内での溶解した薬物の濃度、薬物に対する皮膚の透過性、皮膚内及び/又は皮下の他の組織内での体液(血液を含む)循環、皮下組織内の毛細血管壁の透過性及び皮下組織内のデポー部位への吸収及びそこからの放出を含む。制御加熱は、前述の要因のそれぞれに影響する可能性があると考えられ、従って、温度制御コンポーネントを薬物送達コンポーネントと統合することが望ましく、好都合である。
【0068】
本発明の統合DDDSパッチは、幅広い種類の薬物製剤に備えている。製剤自体は、液体、ジェル、クリーム、ペースト、又は固体など、様々な形態をとり得る。一般的に、治療エージェントが、薬物製剤に混合される、又は溶解される。本発明の薬物送達システムは、鎮痛薬、麻酔薬、及び麻酔エージェントを含むが、それらには限定されない薬物製剤での経皮方式で投与される薬物の使用を考慮する。薬物製剤アプリケータは、アプリケータ上の薬物製剤をその貯蔵ポケットから容易に取出して、患者の皮膚に投与できるように、その薬物製剤を保持するように構成されている。
【0069】
温度制御コンポーネントは、熱生成要素(例えば、発熱パッチ)であり得る温度変更要素、及びユーザが温度を調節できるようにする温度コントロールを有する。発熱パッチは、皮膚薬物送達システムの効率及び治療効果を向上させるように特別に設計されている。発熱パッチの重要なフィーチャは、それが迅速に皮膚温度をおよそ39℃〜43℃に上昇させることができることである。発熱パッチは、皮膚温度をその範囲に長時間にわたって維持することができる。このことは、安定した加熱を提供するだけでなく、他の加熱方法を使用するとき、過熱によって引き起こされ得る皮膚の損傷を防止する。
【0070】
発熱パッチの一実施形態は、統合パッチに関して、特に有用である。発熱パッチは、底部と、フレームウォールと、カバーとによって定義される浅いチャンバを備える。浅いチャンバ内には、周囲の酸素に接触すると熱を生成することのできる熱生成媒体(heat generating medium)がある。このチャンバは、酸素に対して不透過性の原料で製造されたカバーを有する。このカバーは、酸素がチャンバに入ることができるように開いたエリアを有する。開口部は、選択的にカバーされ、部分的にカバーされ、又はチャンバへのエアフローとチャンバ内で生成された熱とを制御するためにユーザによって開けられることができる。
【0071】
別法として、カバーの特定エリア又はすべてのエリアは、空気に対する特定の透過性を伴う膜によって覆うことができる。従って、このカバーは、周囲の空気が所望の比率でチャンバに流入できるようにすることができ、皮膚の上で所望の温度を生成するために、熱生成媒体において酸化反応を生じさせることができる。チャンバの底部及びフレームウォールも、実質的に、酸素に対して透過性である。チャンバ内には、一般に、活性炭と、鉄粉と、塩と、水とを含む熱生成媒体がある。エアフローを改善する微細な木粉などの作用物質も付加することができる。この実施形態のコンポーネントの比率は、熱生成媒体が適切に機能するために、非常に重要である。例えば、活性炭:鉄粉:微細な木粉:塩化ナトリウム:水の典型的な比率である5:16:3:2:6(すべて重量)は、相当に優れた熱生成媒体を作成する。
【0072】
熱生成に酸化反応を使用する発熱パッチは、気密コンテナに格納される必要がある。統合パッチがコンテナから除去される際、周囲の空気中の酸素が、浅いチャンバに流入し、熱生成媒体の中で、熱生成する酸化反応を開始する。単位時間あたりに生成される熱の量は、酸素がカバーを通して熱生成媒体に流入する比率によって制御される。単位時間あたりに生成される熱の量を更に制御するためには、カバー上のホールの全体の数とサイズより少ない数とサイズしか利用することはできない。
【0073】
温度制御コンポーネントとしての発熱パッチと、上記で簡単に説明したような皮膚の薬物送達コンポーネントを結合することによって、統合された皮膚の薬物送達システムパッチを生じる。
【0074】
統合発熱パッチの設計により、人又は介護者は、より有効な経皮薬物送達のために制御された熱を、より便利に適用することができる。更に、統合発熱パッチの設計は、経皮薬物送達における制御された熱の誤用又は不適切な使用を防止するのに役立つ。統合パッチは、関連する薬物製剤に、より均一な加熱を提供する。患者が別個の温度制御エレメントを伴う薬物送達システムを使用する場合、ユーザによる温度制御エレメントの不適切な配置又は加熱エレメントの意図しないズレにより、薬物製剤の不均等な加熱を生じる恐れがある。別個の温度制御エレメントを使用すると、患者又は介護者は、どの種類のエレメントを使用するか、いつ加熱を開始するか、いつ加熱を終了するか、どの温度範囲が適切か、別個の温度制御エレメントから温度をどこでどのようにして導き、また接続するかを決定する必要が生じる。実際の取り扱いは、患者により、また治療により異なる。患者又は介護者は、上記に列挙した問題に関する誤った決定を安易に行う恐れがあり、従って、別個の加熱エレメントの適用を誤る恐れがある。温度制御エレメントの不適切な使用は、不適切な薬物の投与量をもたらす。統合発熱コンポーネント(integrated heat component)と薬物送達コンポーネントは、別個の温度制御エレメントを誤用する恐れを、低減又は除去する。
【0075】
統合発熱パッチの好ましい実施形態は、水分、とりわけ水と、アルコールとの蒸発に対する優れたバリアではあるが、必ずしも酸素に対する優れたバリアではない原料で製造されたトレーを備える。このトレーは、薬物製剤と薬物製剤アプリケータの両方を収納することができる浅いコンテナを定義する。薬物製剤は、薬物製剤アプリケータに付着する。薬物製剤アプリケータは、水分の蒸発に対して優れたバリアであるフィルムに固定される。フィルムは、トレー内のコンテナ及びフィルムによって定義される閉じたコンパートメントを形成するために、トレーの端にヒートシールすることができる。薬物製剤は、コンパートメント内に常駐する。コンパートメントが密封されると、コンパートメントのトレー及び蓋の両方が、溶剤に対するバリアとして働くので、薬物製剤と外部環境との間での物質の移動は、防止される。
【0076】
フィルム上部には、そのフィルムよりわずかに大きなエリアを有する接着テープがある。接着テープの接着側は、フィルムに面し、テープの端は、フィルムの端から伸びる。フィルムの端から伸びた接着テープの部分は、統合パッチを、ユーザの皮膚に固定するために使用される。発熱パッチは、接着テープの上部に固定され、接着テープの中央に置かれる。熱生成媒体を収納する発熱パッチの内部エリアは、効果的な加熱を提供するために、実質的に薬物製剤アプリケータのエリアと同等又はわずかに大きいことが望ましい。すなわち、発熱パッチが、フィルムバリア及び薬物アプリケータに固定される時、実質的に、すべての薬物製剤(これもまたバリアフィルムである)が均等及び/一様に加熱されるように、熱生成エレメントは、薬物製剤のエリアの上に直接に置かれるべきである。
【0077】
好ましい実施形態では、蓋となるフィルムの最外部端は、トレーにシールされておらず、接着テープは、この蓋となるフィルムの上部に、接着側が蓋となるフィルムに付着して置かれる。接着テープのサイズは、蓋となるフィルムのサイズと同等又は、好適には、蓋となるフィルムよりもわずかに大きくてよい。接着テープが、蓋となるフィルムよりもわずかに大きい場合、蓋となるフィルムの端から伸びる接着テープの部分は、トレーの上に置かれる。患者が、使用するためにテープをトレーから除去する際、接着テープはトレーの一端でトレーから剥離することができる。トレーにシールされていない(しかし、接着テープに付着している)蓋となるフィルムの部分は、接着テープと共に持ち上がる。剥離を続けると、蓋となるフィルム全体と、それに付着した薬物製剤は、接着テープと共に持ち上がる。次いで、上側に発熱パッチを伴い下側に薬物製剤を伴う接着テープは、統合パッチを皮膚の上に貼るために使用される。トレーは、剥離の開始を容易にするために、先端をへこませることができる。
【0078】
統合パッチは、気密コンテナにシールされる。製剤は、トレーとバリアフィルムとの間の空間に完全にシールされ、その結果、製剤と熱生成媒体又は外部環境との間での物質交換は発生しない。熱生成媒体は、更に気密コンテナ内部にシールされ、その結果、気密コンテナ内部の空間に完全に収納される。薬物製剤は、温度制御コンポーネント及び外部環境から完全に分離される。温度制御コンポーネントは、薬物製剤から分離される。統合パッチが気密コンテナ内にシールされると、温度制御コンポーネントもまた、外部環境から分離される。従って、発熱パッチは、薬物送達コンポーネントに統合され、空気及び湿気の両方に対して優れたバリアであるフィルムでできた、パウチのような気密コンパートメントに一緒に格納することができる。
【0079】
統合DDDSパッチの一実施形態では、薬物送達システムコンポーネントと温度制御コンポーネントとの間での所望でない物質の移動を防止するためのバリアは、1つ以上のチャンバ又は、薬物送達コンポーネントと温度制御コンポーネントが、構造的には統合されていながら、分離されているコンパートメントを備えることができる。チャンバは、特定の薬物製剤及び温度制御コンポーネントによって必要とされるような、不浸透性の物質であってよい。同様に、薬物送達コンポーネントと外部環境を伴う温度制御コンポーネントとの間での物質の移動を防止するための手段は、チャンバ又は統合発熱パッチが格納されるパウチを備えることができる。チャンバ又はパウチは、湿気、酸素、光又は他の必然的な環境要因に対して不浸透性であることができる。
【0080】
統合発熱パッチの他の実施形態では、所望でないヒートロスを防止するための手段が提供される。所望でないヒートロスを防止するための手段は、薬物送達コンポーネントと温度制御コンポーネントに使用される絶縁体を備える。所望でないヒートロスを防止するための他の手段は、薬物送達コンポーネント及び温度制御コンポーネントの固定していない端又は角を通して熱が逃げないための、接着剤と、統合DDDSパッチをユーザの皮膚に固定し、シーリングするための他の手段との使用法、ならびにユーザの体の特定部分に、統合発熱パッチを、より適切にフィットするように、特化されたシェーピング法又は成形法とを含む。
【0081】
本発明の一実施形態では、所望でないヒートロスを防止するための手段が提供される。場合によっては、ユーザの皮膚にパッチの角を固定することが、困難な場合がある。図4に、実質的に長円形の形状を有する統合発熱パッチを示す。長円形の形状は、長方形や正方形の形状をしたパッチのような角を有しない。従って、長円形の形状は、固定が困難で、所望でないヒートロスを生じさせる恐れのある角を除去することによって、所望でない角を通したヒートロスの防止を容易にする。
【0082】
本発明の他の実施形態は、熱生成媒体に対して泡沫カバー(a foam cover)を設ける。泡沫テープカバーは、カバーを通したヒートロスを最小限に抑えるのに役立ち、また様々な周辺温度が、加熱コンポーネントと温度制御コンポーネントとによって生成された熱に悪影響を及ぼすことを回避するのに役立つ絶縁性の特徴を有する。更に、統合発熱パッチの露出した表面を絶縁することができる絶縁性のカバーも、考慮される。
【0083】
熱生成媒体及び薬物製剤は、格納中及び/又は使用中は、相互に、また外部環境から完全にシールすることが必要な場合がしばしばある。更に、簡便な応用例と、薬物製剤及び熱生成媒体を保存するために必要な、高度なシーリングにもかかわらず両方のコンポーネントを使用することを提供することも望ましい。本発明の新しい構成は、格納中及び/又は使用中のコンポーネントを十分に分離し、及び/応用例及び使用法を便宜的にする。
【0084】
本発明の温度制御コンポーネントと薬物送達コンポーネントは、分離されるのが好ましい。分離された薬物送達コンポーネントと分離された温度制御コンポーネントは、環境との、またデバイスの他のコンポーネントとの所望でない相互作用を防止又は回避するように、配置される。例えば、温度制御コンポーネントの中の熱生成媒体と、環境と、薬物送達コンポーネントとの間での所望でない物質の移動を防止するバリアを有する、実質的に気密性の環境に封入された発熱媒体であってよい。同様に、分離された薬物送達コンポーネントは、実質的に気密性のコンパートメントに封入されることができ、また、外部環境と、温度制御コンポーネントと、薬物送達コンポーネントとの間での、所望でない物質の移動又は交換を防止するためのバリアを有することができる。各々のコンポーネントに対する分離要件は、使用される熱生成媒体と薬物製剤によって異なる場合がある。
【0085】
注意深い設計をせずに、発熱酸化反応によって生成された熱と経皮薬物送達とを結合する試みは、無効又は無力な組み合わせを生じる恐れがある。組み合わせによっては、コンポーネントが、適切及び/便宜的に分離されていないので、無効又は無力とされるものがある。薬物製剤の物質は、蒸気の吸収によって熱生成酸化反応エレメントに失われ及び/又は熱生成酸化反応エレメントを損なうことがある。格納中に、薬物製剤の物質が損失すると、その薬物製剤を、元来の所望と著しく異なるように機能させることがある。更に、温度制御コンポーネントの物質は、薬物製剤と所望でないように相互作用し、有効でなくする又は無力にすることがある。他の組み合わせは、生成し、使用するのに困難又は非実用的である。
【発明の実施の形態】
【0086】
図1乃至図29は、温度制御又はそれ以外の装置と皮膚薬搬送システム(dermal drug delivery system = DDDS)とに関する様々な外観を図解している。以下の説明との関係で提供されているこれらの図面は、特定の装置が呈する実際の外観を図解しようと意図するものでは全くなく、本発明を可能性がありうる他の態様の場合よりも明瞭かつ完全に示すために用いられている理想化された表現にすぎないことを理解すべきである。複数の図面の間で共通する要素には、同じ参照番号が付されている。
【0087】
図1は、本発明の温度制御装置100を図解しているが、この温度制御装置100は、底部壁102、頂部壁104及び側壁106を備えており、温度調整機構108がチャンバの内部に配置されている。温度調整機能108は、熱発生酸化反応機構、電気加熱ユニット、発熱結晶化機構、吸熱結晶化機構、加熱/冷却機構、冷却機構などを含みうる。
【0088】
図2は、温度制御装置100を図解しているが、この温度制御装置100は、底部壁102、頂部壁104及び側壁106によって包囲された温度調整機構108を備えている。底部壁102はプラスチック材料であるのが好ましく、側壁106は、非通気性の閉鎖セルの発泡材料など、可撓性があり非通気性の材料で構成されているのが好ましい。温度制御装置100の底部壁102の一部又は全体は、DDDS又は患者の皮膚に付着させるための接着性材料112を含む。温度調整機構108は、好ましくは、活性炭、鉄粉、塩化ナトリウム及び水の適切な比率での組成物で構成されている。オプションではあるが、おがくずをこの組成物に加えることによって、この組成物内部での空気の流れが容易になり、及び/又は、この組成物に「本体」が提供されることになる。頂部壁104は、また、可撓性を有し非通気性の材料であり、それ自体を通過するホールを有している。好ましくは、通気性の膜116が、頂部壁104と温度調整機構108との間に配置され、ホール114を通過して温度調整機構108に到達する空気の量を調整する。通気性の膜116は、好ましくは、(米国ミネソタ州ミネアポリス所在の3M社による第9711番の細孔性のポリエチレン・フィルムであるCoTranTMなどの)多孔性フィルムである。
【0089】
図3は、可撓性材料からなるハウジング122を備えた皮膚薬搬送システム120(以下では、「DDDS120」と称する)を図解している。ハウジング122は、好ましくは、側壁124と頂部壁126とを備えており、薬剤調合物(drug formulation)128がハウジング122の内部に配置されている。好ましくは、DDDS側壁124の底部は、DDDS120を患者の皮膚に固定するための接着剤132を含む。
【0090】
図4は、図2の温度制御装置100が図3のDDDS120に付着されている様子を図解している。DDDS120は、患者の皮膚134の一部に付着している。温度調整機構108の面積は、薬剤調合物128の面積よりも若干大きいのが好ましい。温度制御装置100とDDDS120とは、1つの空気密封性の容器の別々の区画に(又は、別々の空気密封性の容器に)収容されているのが好ましい。
【0091】
図25乃至図27は、統合型パッチ(integrated patch)の様々な外見を図解している。統合型パッチ2は、温度制御成分20と薬剤搬送成分4とで構成される。統合型パッチ2は、フォイル・ポーチ6の内部に収納されている。
【0092】
薬剤搬送成分4は、更に、薬剤調合物リザーバ40を画定するトレイ8と、薬剤調合物リザーバ40とほぼ同じ範囲に拡がる薬剤アプリケータ・リザーバ42とを更に備えている。トレイ8は、その周囲のまわりに拡がるリム44を有する。薬剤調合物10は、トレイ8の調合物リザーバ40の内部に配置されている。ゲージ12は、アプリケータ・リザーバ42の内部に配置され、調合物リザーバ40の内部に配置された薬剤調合物と接触している。フィルム・バリア16は、トレイ8のリム44に着脱自在に固定され、ゲージ12に固定される。トレイ8のリム44に固定されたフィルム・バリア16は、薬剤調合物区画を画定する。接着テープ18が、トレイ8のリム44に着脱自在に固定され、フィルム・バリア16の頂部に固定される。接着テープ18は、フィルム16、ゲージ12及び薬剤調合物10よりも幅が広くて長さも長く、これらのフィルム16、ゲージ12及び薬剤調合物10の周囲よりも広い範囲に拡がっている。テープ18の下側の接着剤は、統合型パッチをユーザの皮膚に固定し、テープ18をトレイ18に固定するのに用いられる。
【0093】
温度制御成分20は、更に、パッチ・リザーバ52を含んでいる。パッチ・リザーバは、医療用テープ・ベース22、フォーム・テープ・フレーム24及びフォーム・テープ・カバー28によって画定されうる。熱発生媒体34が、パッチ・リザーバ52内部に配置される。カバー28は、複数のホール32を画定している。ホール32は、酸素透過性又は空気フロー率を制限するホール・カバー54を用いて選択的に被覆又は開放することができる。ホール・カバー54により、カバー28の透過性を、ホールの一部又は全体を被覆又は開放することによって、又は、ホールが開放される期間を変動させることによって、選択的に調整することが可能になる。ホール32は、選択された通気性を有する膜(図示せず)を用いて被覆することができる。
【0094】
好適実施例では、薬剤搬送成分を隔離する手段は、フィルム・バリア16とトレイ8とによって画定される区画である。薬剤搬送成分の成分劣化を隔離する他の手段としては、それ以外の物理的なバリアを含むことがありうる。
【0095】
図3に図解されている好適実施例は、フォイル・ポーチ6を備えた温度制御成分を隔離する手段を示している。この成分を外部の環境因子から隔離する他の手段には、統合型パッチの成分を環境から隔離する他の物理的バリアが含まれる。
【0096】
図2に示されている実施例は、非通気性のカバー28において画定されており選択的に被覆可能及び開放可能なホール32を備えた温度制御成分20を示している。これ以外の温度制御手段も、温度制御成分20における熱発生媒体34との関係で考えられる。そのような他の手段には、温度を調整する電子的な手段や、発熱反応によって生じる熱を制御する他の方法が含まれる(すなわち、周囲の酸素は、フレーム壁を介して熱発生媒体の中に吸収される)。
【0097】
図2に図解されている好適実施例では、温度修正要素は、熱発生媒体34であり、更に特定すると、酸素との発熱性の酸化反応を生じることが可能な媒体である。例えば、電子的な熱発生要素や、これ以外の発熱性化学反応など、他の温度修正要素を考えることもできる。
【0098】
意図せずに統合型パッチ2を分離させてしまうことなくパッチをトレイから容易に取り外すためには、接着剤と熱融着(heat sealing)との相対的な強度だけでなく、接着テープとバリア・フィルムとの相対的な位置決めが、考慮されることになる。図4に示されているように、熱融着可能なフィルム16に関しては、少なくともその一端17がトレイに対して密封されていない状態で維持され、接着テープに接着された状態であるのが好ましい。これにより、熱融着性フィルム16は、トレイ8に固定された状態に維持されるのでなく、接着テープと共に取り外すことが可能になる。図4に示されている実施例では、熱融着性の結合は、フィルム16の狭い端部から約2mmの位置で終了させるのが適切であることが見いだされている。
【0099】
実際の実験では、温度制御装置100は、外側の寸法が約2.25インチx4インチであり厚さが1/4インチである矩形のフォーム・テープ(米国ミネソタ州ミネアポリス所在の3M社による、4層の第1779番の1/16’’である白いフォーム・テープ)であって、内側の寸法が約1.75インチx3.5インチである開口を有するフォーム・テープで画定された側壁106と、寸法が約2.25インチx4インチであり接着性でない側が側壁106の底部に付着されている矩形の医療用テープ(米国ミネソタ州ミネアポリス所在の3M社による、第1525L番のプラスチック医療用テープ)で構成された底部壁102と、厚さ1/32インチの矩形のフォーム・テープ(米国ミネソタ州ミネアポリス所在の3M社による、第9773番の1/32’’である黄褐色のフォーム・テープ)であって(直径が約1/16インチである)32のホールが開いているフォーム・テープで構成された頂部壁104と、で構成されていた。側壁106、底部壁102と、頂部壁104とが、チャンバを画定していた。頂部壁104のホールは、頂部壁104と温度調整機構108との間に配置された細孔膜で構成された通気性の膜116(米国ミネソタ州ミネアポリス所在の3M社による第9711番のCoTranTM膜など)によって被覆された。チャンバ内に配置された温度調整機構108は、活性炭、鉄粉、塩化ナトリウム及び水をおよそ5:21:3:2:6の重量比率で重量が約31グラムとなるように混合したもので構成した。
【0100】
この温度制御装置100は、ボランティアの皮膚上でテストがなされたが、その際に、温度プローブを温度制御装置100とボランティアの皮膚との間に配置して温度を測定した。この温度実験の結果は、図7と表Dとに図解されている。これらには、温度制御装置100が、皮膚の温度を、摂氏約41度乃至44度という通常よりも高められた狭い範囲内に一定の期間(少なくとも840分)維持することができたことが示されている。
【0101】
【表1】

【0102】
上述した実験の結果とここで提供されている加熱パッチの説明とは、この加熱パッチが、従来技術と比較して、また場合によっては温度制御装置において熱を発生させる他の方法と比較してユニークな長所を有していることを示している。この加熱パッチは、皮膚温度を上昇させる安全な手段を提供する。熱発生要素が鉄粉と酸素との間の制御された酸化反応であるため、熱発生要素が過熱して皮膚に障害を生じさせる可能性は大きく減少している。選択された空気流率を有するカバーを用いて鉄粉と反応する酸素の量を制限すると、発熱性反応によって発生する熱を、安全範囲内の温度に維持することが可能となる。さらに、熱発生要素は、危険な化学物質を含んでいない。反応物は、粉末の形態であるから、反応成分を保持している区分に穴があいた場合であっても漏れる可能性は低い。この成分が主に液体である場合にはこうならないであろう。
【0103】
加熱パッチは、使用するのも便利である。この加熱パッチは酸化反応物と周囲の酸素との間に選択的な透過性を有するバリアを有するように設計されているので、区分内での酸化反応によって発生しつつある温度を変動させたり調整することが可能である。これは、カバーに設けられるホールの数及び/又はサイズを変化させることによって行うことができる。本発明のある実施例によると、カバー上のエアホールを被覆するための非通気性のエアホールが提供される。ユーザは、1つ又は複数のホールを選択的に被覆又は開放して、発熱性反応の速度を上昇又は低下させ、それによって、熱発生要素によって生じる熱を調整及び規制することができる。あるいは、酸素と熱発生要素とが反応する速度が通気性膜の露出している表面積によって実質的に決定されるような場合には、露出している表面積の所望の部分を被覆することで、温度を利用可能な狭い範囲の温度に規制することが可能になる。
【0104】
加熱の継続時間は、反応物が酸素に露出される時間を調整する、及び/又は、区分の中に配置される反応物の量を調整することによって、変動させることができる。加熱パッチを調整することができるから、患者又は介護を提供する側の必要に合致するように、多様な方法で用いることが可能である。加熱パッチの別の便利な特徴として、熱発生要素を活性化するのに酸素を用いている点がある。加熱パッチは、使用に先立ってこの加熱パッチをその密閉性のポーチから取り出すなど、この加熱パッチを単に周囲の酸素に露出させることによって、容易に活性化させることができる。この加熱パッチは、熱を発生させるために電気等の外部的なソースを必要としないから、携帯に適している。
【0105】
また、この加熱パッチは、経皮的な薬剤搬送において熱を制御する必要性に対する低コストの解決策を提供している点でもユニークである。この加熱パッチの製造は過渡に複雑ということは乃至、その設計及び形態からして、流通や保管も容易である。この加熱パッチ製造するための構成要素も、当該産業において確立されている供給源から比較的低コストで得ることが容易である。また、この加熱パッチは、環境保護の観点からも優れている。
【0106】
本発明の別の新規な特徴として、熱発生装置に対して断熱がなされている点がある。図1に示されているように、本発明のある実施例では、熱発生媒体が、周囲の空気から、加熱されつつある対象物(すなわち、加熱装置の下方にある経皮的薬剤パッチ及び皮膚)に熱を伝達するのに用いられる面を除くすべての方向において断熱されている。装置4の熱発生媒体8の周囲における断熱6は、装置6を外部の環境から分離することを助け、熱発生媒体8に熱がよりよく集積されることを可能にする。これは、このような断熱機能を備えていない装置と比較すると、より低い発熱率で同じ温度を達成することができることを意味する。本発明によれば、与えられた量の熱発生媒体の寿命が長くなるが、これは、コンパクトであることを求められる装置にとっては非常に期待されることである。更に、これにより、若干低い温度を生じさせるようにしながら熱発生媒体を有効化することによって加熱装置を皮膚に直接に適用する場合に、皮膚をやけどさせる潜在的な危険性を最小化することができる。
【0107】
図8は、温度制御装置150の別の実施例を図解しているが、この温度制御装置150では、温度調整機構108が、底部壁102、頂部壁104及び側壁152によって包囲されている。側壁152は、底部壁102の下側にある距離だけ伸張することによって空洞154を画定している。底部壁102は、プラスチック・テープ材料で作られていることが好ましく、側壁152は、非通気性の閉鎖セル・フォーム材料など、可撓性があり非通気性の材料で作られていることが好ましい。温度制御装置150の底部の一部は、側壁152の底部に接着剤112を含み、好ましくは、底部壁102の底部に第2の接着剤156を含む。ただし、この第2の接着剤156は、接着剤112よりも接着力が低いことが好ましい。やはり、温度調整機構108は、好ましくは、活性炭、鉄粉、塩化ナトリウム、水、及びオプションであるがおがくずからなる組成物で構成されている。また、頂部壁104は、それ自体を通過するホール114を有する可撓性を有し非通気性の材料であるのが好ましい。通気性の膜116が頂部壁104と温度調整機構108との間に配置され、ホール114を通過して温度調整機構108に到達する空気の量を調整する。
【0108】
図9は、可撓性材料で作られたハウジング122を備えたDDDS160を図解している。ハウジング122は、好ましくは、側壁124と頂部壁126とを備えており、薬剤調合物128がハウジングの内部に配置されている。速度制限膜でありうる膜130を含むこともある。
【0109】
図10は、図9のDDDS160に付着された図8の温度制御装置150を図解している。DDDS160は患者の皮膚134の一部の上に配置され(又は、接着剤を用いて付着され)、温度制御装置150がDDDS160の上に配置されている。DDDS160は空洞154の内部に存在している(図8を参照)。接着剤112が皮膚134に付着し、温度制御装置150をその位置に保持する。DDDS160が皮膚134に付着しない場合には、温度制御装置150がDDDS160をその位置に保持することになる。好ましくは、DDDS160は、接着剤(図示せず)を用いて皮膚134に付着し、温度制御装置150がDDDS160の上に配置される。温度制御装置150は接着剤112を用いて皮膚134に付着され、第2の接着剤156(DDDS160と皮膚134との間のどのような付着用接着剤(図示せず)よりも接着力が低く、温度制御装置150と皮膚134との間の接着剤112よりも接着力が低い)が温度制御装置150をDDDS160に付着させる。このように構成することの結果として、温度制御装置150とDDDS160とを皮膚に確実に接着させることができると共に、DDDS160を取り外すことなく、温度制御装置150を取り外すことが可能になる。
【0110】
図11は、可撓性材料によって作られたハウジング123を備えている別のDDDS165を図解している。ハウジング123は、好ましくは、頂部壁125と、速度制限膜でありうる膜103とを備えており、薬剤調合物128がハウジング123の内部に配置されている。図12は、図8の温度制御装置120が、図10に関して説明したものと同じように、図11のDDDS165に付着された様子を図解している。
【実施例1】
【0111】
パッチを貼付する前(0時間)ならびに貼付後2, 4, 6, 8, 10および12時間目に、血清テストステロン濃度を測定するための静脈血試料を採取した。12時間目の採血を終了後、パッチシステムを外した。選択したAndroderm(R)テストステロン経皮システムは、5mgのシステムで、接触総面積は24cm2であり、15cm2の薬物レザーバにアルコールベースのゲルに溶解したテストステロンUSP 24.3mgを含んだ。放射免疫測定法を用いて、血清テストステロン濃度を測定した。表Bに0, 2, 4, 6, 8および10時間目の血清テストステロン濃度を記載する。制御加温支援型薬物送達パッチとともにアンドロゲンテストステロン経皮システムを用いてテストステロンを投与すると、Androderm(R)テストステロン経皮システムパッチを単独で用いた場合に比べて、被験者の血中テストステロン濃度が有意に高かった。
【0112】
【表2−1】

【0113】
【表2−2】

【0114】
【表2−3】

【0115】
【表2−4】

【0116】
制御加温式薬物送達システムからの発熱によって、テストステロンの吸収が有意に亢進されるかどうかを判断するために計画されたパイロット試験で、第1治療群には成人健常志願者1名にAndroderm(R) 5mgパッチを12時間用い、第2療群にはAndroderm(R) 5mgパッチにCHADD制御加温活性型経皮送達パッチを加えて12時間用いた。3日間、各治療群を分けた。Androderm(R)パッチはTheraTech, Inc., Salt Lake City, Utah, USAで製造された。CHADDパッチはZARS, Inc.,で製造され、表D(下)のデータを作成するために用いた加温パッチと機能および設計が類似であった。
【0117】
これはフォームテープカバー、微孔性膜、発熱媒体、発熱媒体を入れるフォームテープレザーバのほか、底面の粘着テープ層の5つの構成要素からなった。加熱媒体を除き、3M Corporation, Minneapolis, Minnesota, USA drug delivery systemsがCHADDパッチ成分に用いたすべての材料を製造している。
【0118】
このように、温度が上昇することによって(上記のような加温機構のないATTS 120と比較して)皮膚の透過性が亢進すると考えられており、これによってテストステロンが患者の体循環に速やかに浸透する。血清テストステロン濃度は、望ましい治療濃度に速やかに到達すると考えられる。この加温装置は、体液循環および皮下組織にある血管壁の透過性を増進するとも考えられ、テストステロンが皮下貯留槽に残る時間が短いのはそのためである。その結果、患者はアンドロゲン化合物をさらに速く得て、(加温装置のないATTS 120で十分な量のテストステロンが送達されない場合の)治療を改善し、受けられることができる。
【0119】
体循環でのアンドロゲン濃度の望ましい上昇は、送達システムによって送達されるアンドロゲンおよび/または送達システムによって送達されるアンドロゲン誘導体および/または異なるアンドロゲンの濃度の上昇であると理解されている。たとえば、体循環中のテストステロン濃度を上昇させるために、送達システムによってエナント酸テストステロンを送達してもよい。このように、送達システムアンドロゲン(この場合はエナント酸テストステロン)は、体循環中の標的アンドロゲン(テストステロン)の濃度の上昇を促す。
【0120】
1. 制御加温式薬物送達システムから生じる熱がテストステロンの吸収を有意に亢進するかどうかを判断するために計画されたもうひとつの試験では、6名の健常試験志願者の血清テストステロン濃度を12時間にわたり測定した。次に第1群では、試験志願者が12時間にわたり、Androderm(R) 5mgパッチを使用した。その後第2群では、試験志願者が12時間にわたり、Androderm(R) 5mgパッチにCHADD制御加温活性型経皮送達パッチを併用した。3日間、各治療群を分離した。Androderm(R)パッチは、TheraTech, Inc., Salt Lake City, Utah, USAが製造した。CHADDパッチはZARS, Inc.,が製造し、表D(下)のデータを作成するために用いた加温パッチと機能および設計が類似であった。これはフォームテープカバー、微孔性膜、発熱媒体、発熱媒体を入れるフォームテープレザーバのほか、底面の粘着テープ層の5つの構成要素からなった。
【0121】
発熱媒体を除き、CHADDパッチ成分に用いたすべての材料は、3M Corporation, Minneapolis, Minnesota, USA drug delivery systemsが製造している。ガーゼテープをCHADDとAndrodermパッチとの間に置き、使用後にCHADDパッチを外すのを容易にした。
【0122】
血清テストステロン濃度を測定するための静脈血試料を非治療群で0, 1, 2, 4, 6, 8, 10および12時間目に採取し、ベースラインデータを決定した。血清テストステロン濃度を得るための静脈血試料は、パッチ貼付前(0時間)ならびにパッチ貼付後の1, 2, 4, 6, 8, 10および12時間目に採取した。12時間目の採血終了後、パッチシステムを外した。Androderm(R)テストステロン経皮システムは5mgのシステムで、接触総面積は24cm2であり、15cm2の薬物レザーバにアルコールベースのゲルに溶解したテストステロンUSP 24.3mgを含んだ。放射免疫測定法を用いて、血清テストステロン濃度を測定した。表B-1に0, 1, 2, 4, 6, 8, 10および12時間目の血清テストステロン濃度を記載する。パイロット試験と同じく、制御加温支援型物送達パッチとともにアンドロゲンテストステロン経皮システムを用いたテストステロンの投与は、Androderm(R)テストステロン経皮システムパッチを単独で用いた場合に比べて、被験者の血中テストステロン濃度を有意に高くすることがこの試験で示された。
【0123】
【表3】

【実施例2】
【0124】
ニコチン嗜癖を抑制するための経皮ニコチン投与に関して、図8〜12に詳述する本発明の実施形態を用いる別の例は、使用者が皮膚134上にニコチンDDDS 160, 165を置くことからなる。数時間後、使用者は血流中で「ベースライン」のニコチン嗜癖を抑制するために十分な定常状態のニコチン濃度を得る。使用を開始して、ニコチン嗜癖が高まるエピソードを有する場合、温度制御装置150をDDDS 160, 165の上に置く。温度制御装置150は、発熱反応が温度調節機構108を消耗させる前に、少なくとも15分間で加温することが好ましい。熱は皮膚へのニコチン輸送を亢進し、DDDS 160, 150下の組織の血流を増進する。そのDDDS 160, 165がその下の組織内に貯留したニコチンを高速で体循環に輸送する。この結果、使用者はニコチン嗜癖の高まりを治療するために血中ニコチン濃度を速やかに上昇させる。加温後、ニコチン吸収速度は徐々に正常に戻り、血流には定常状態のニコチン濃度になる。
【実施例3】
【0125】
送達される薬物量を増やして最適化する経皮投与テストステロンに関して、図8〜12に詳述した本発明の実施形態を用いる別の例は、使用者がたとえばTheraTech, Inc., Salt Lake City, Utah, USAで製造されたAndroderm(R)などの1日1回経皮テストステロンパッチのようなDDDS 160, 165を皮膚134上に置くことからなる。DDDS160, 165は、一般に夜間、たとえば午後10時に皮膚134に貼付する。しかし翌日、使用者が十分な用量のテストステロンを得られない場合、DDDS 160, 165の上部に温度調節装置150を置く。DDDS 160, 165、皮膚134および皮下組織で温度が上昇すると、テストステロンの経皮吸収が有意に亢進する。さらに、DDDS 160, 165がグリセリンモノオレアートなどの浸透エンハンサーを有していれば、温度によってエンハンサーが皮膚に速やかに浸透され、さらに効果的である。
【0126】
最終的な結果は使用者がDDDS 160, 165から十分なテストステロンを得ることである。さらに使用者は、午前中にDDDS 160, 165の上に温度調節装置150を置き、使用者が高い用量を最も必要としている午前中から午後まで、テストステロンを多く送達することもできる。制御された加温装置によってテストステロンの吸収が亢進され、DDDS 160, 165で使用される浸透エンハンサーの濃度を低減することもできる。テストステロンDDDSでは、浸透エンハンサーは十分なテストステロンを送達するに通常必要であるが、浸透エンハンサーはAndroderm(R)中のグリセリンモノオレアートのように、重篤な皮膚刺激の原因になることがある。
【実施例4】
【0127】
無論、DDDS 160 , 165および温度調節装置150はスポーツ外傷に用いることができると考えられている。たとえば、スポーツ競技で肘を損傷した場合、使用者はDDDS 160, 165に、たとえばデキサメタゾン、冬緑油などの鎮痛薬を含ませて、DDDS 160, 165を貼付することができる。温度調節装置150が発する熱は、肘に薬物を多く送り、熱によって誘発された血流の増大によって薬物が肘の深部に送られる。
【実施例5】
【0128】
図8〜12に詳述する本発明の実施形態を用いるさらに別の例は、製剤128中の活性成分の拡散係数および/または律速膜130を透過する透過係数がきわめて低いため、この係数が患者の体内へのDDDS 160, 165からの全体的な薬物吸収速度を優位に決定する場合に、薬物投与のために温度調節装置 150を用いることからなる。DDDS 160, 165を使用する例として、患者または医療提供者が患者の皮膚134上にDDDS 160,165を置く。しばらくDDDS 160, 165を貼付した後、この特定の患者および患者の状態が、その状態に適切に対処するためには血流中にさらに高い薬物濃度を必要としていると判断された場合、温度調節装置150をDDDS 160, 165の上部に置き、DDDS 160, 165を加温する。
【0129】
温度の上昇によって、DDDS 160, 165にある製剤の活性成分の拡散係数が増大し、さらにDDDS 160, 165のなかの律速膜130を透過する透過係数が増大して、これにより活性成分が患者の体内に入る全体的な速度が増す。この結果、血流中の活性成分の濃度を上昇する。こうして患者は増大した適切な効果を得る。
【実施例6】
【0130】
図8〜12に詳述する本発明の実施形態を用いたさらに別の例は、DDDS 160, 165からの薬物のオンセットタイムを短縮するために温度調節装置150を用いることからなる。例として、患者または医療提供者が患者の皮膚134の上にDDDS 160, 165を置き、DDDS 160に温度調節装置150を置く。温度制御装置150は、温度制御機構108のなかに十分な量の活性炭、鉄粉、塩化ナトリウムおよび水を含み、発熱反応を少なくとも4時間継続することが好ましい。
【0131】
温度制御装置150からの熱は、皮膚134およびDDDS 160, 165の接触面の温度を約60℃まで、好ましくは約36〜46℃の限られた範囲、最も好ましくは37〜44℃の範囲に上昇させ、一定時間(すなわち約4時間)にわたりこの温度を維持する。熱はこの間に、DDDS 160, 165からの薬物放出速度、皮膚134を透過する浸透速度および薬物を速やかに体循環に輸送する血流速度を上昇させる。発熱反応が停止した(約4時間)後、薬物吸収および血流濃度はDDDS 160, 165からの熱により上昇していたレベルから下降を始め、正常(加温していない)レベルに戻る。患者は、計約48〜72時間にわたり、このシステムを貼付し続ける。
【0132】
温度調節装置150を使用しない場合のDDDS 160, 165に比べて、薬物が有意に早く血流に出現し始めてオンセットタイムは短縮され、貼付初期の血流中の薬物濃度は加温していないDDDS 160, 165によって得られる濃度に比べて有意に高い。治療的血清薬物濃度には個体差がある。たとえば、0.2 ng/mLを越えるレベルで反応する人もいる。図6に示すように、この0.2 ng/mLの濃度を得るには、加温していないシステムに比べて加温システムによる時間は約1/3の時間であった(つまり、約210分に比べて約70分)。
【0133】
ある一定の時間の後、温度制御装置150の発熱反応が徐々に熱を生成しなくなると、血流中の薬物濃度が徐々に血流中の正常な定常状態である薬物濃度に近づき始める。これは最終的に十分に時間をおいた場合の加温しないDDDS 160, 165でみられる状態である。この結果、温度調節装置150は、定常状態の送達速度を有意に変えることなく、パッチ内の薬物のオンセットタイムを有意に短縮する。このように、この方法によって提供される重要な長所は、医療提供者および患者によく知られているが十分ではない定常状態の送達速度を有意に変更することなく、すでに臨床応用されているDDDS 160, 165のオンセットタイムを短縮することができる点にある。
【実施例7】
【0134】
再び図8〜12に説明されている本発明の実施態様を用いた更にその上もう1つの実施例は、DDDS160,165からの鎮痛性物質の作用開始時間を短くするための温度コントロール装置150を使用することを含む。例証として、痛みを伴う医療処置の前に皮膚134の感覚をなくすために、DDDS160,165によってリドカインとテトラカインの共融混合物のような局所麻酔剤を投与することができる。DDDS160,165上に温度コントロール装置150を置くことによって短時間の間により早い効き目及びより深い麻酔効果を達成することができ、その際、温度コントロール装置150は少なくとも30分間、約37℃〜約41℃の間、好ましくは約39℃〜約40℃の間の狭い範囲で皮膚に加熱を提供することが可能である。皮膚134は30分以内に麻酔されるはずであり、それは加熱を伴わない場合よりもはるかに短い。元々の皮膚温に依存して、そのような加熱によって加熱がない場合の作用開始時間の約60%に作用開始時間が短縮されると考えられている。
【実施例8】
【0135】
再び図8〜12に説明されている本発明の実施態様を用いた更にもう1つの実施例は、DDDS160,165からの薬剤の溶解性を高めるための温度コントロール装置150を使用することを含む。例証として、有意な部分が溶解されない粒子の形状である低い溶解性を有し、溶解性が製剤形態の温度上昇とともに高まるような薬剤を含有するように製剤形態を設計してもよい。
【0136】
患者はそのようなDDDS160,165をその皮膚の上に置く。患者がDDDS160,165から受け取る薬剤化合物の量が不十分である場合、患者は、DDDS160,165の真上又は上に温度コントロール装置150を置く。温度コントロール装置150に集められた熱は、DDDS160,165における製剤形態の温度を高め、DDDS160,165を適用している有意な部分又は実質的に全長について高められた温度を維持する。製剤形態において上昇した温度によって製剤形態における薬剤化合物の溶解性が高められる。従って、更に多くの薬剤化合物が製剤形態中に溶解し、薬剤化合物の経皮浸透性に高い推進力を与える。その結果、更に多くの薬剤化合物が患者の体内に入って行く。
【0137】
実施例1〜10は、具体的な薬剤の適用を議論しているが、本発明はいかなる特定の薬剤にも限定されないことは当然理解される。相当多様な薬剤の種類及び具体的な薬剤が本発明と共に使用されてもよいことが理解される。薬剤の種類には、アンドロゲン、エストロゲン、非ステロイド系抗炎症剤、降圧剤、鎮痛剤、抗鬱剤、抗生剤、抗癌剤、局所麻酔剤、抗嘔吐剤、抗菌剤、避妊剤、抗糖尿病薬、ステロイド剤、抗アレルギー、抗片頭痛剤、禁煙のための薬剤、及び抗肥満薬を挙げることができるが、これに限定されない。具体的な薬剤には、ニコチン、テストステロン、エストラジオール、ニトログリセリン、クロニジン、デキサメタゾン、冬緑油、テトラカイン、リドカイン、フェンタニール、スフェンタニール、プロゲステロン、インスリン、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、プリロカイン、ブピバカイン、スマトリプタン及びジヒドロエルゴタミンを挙げることができるが、これに限定されない。
【実施例9】
【0138】
再び図8〜12に説明されている本発明の実施態様を用いた更にその上もう1つの実施例は、DDDS160,165に対して安定な温度を維持するために温度コントロール装置150を使用することを含む。ある種の薬剤は、相対的に低い治療指標、即ち、治療用量と重篤な及び/又は望ましくない副作用を起こすことができる用量との間の差異が小さいという意味を有する。従って、そのような薬剤の皮膚送達は、特に、極端な気象条件の戸外で働く人のような激しく変化する外気温にさらされた人では危険なもの(過用量)又は不十分なもの(用量不足)になりうる。外気温の変動は、皮膚温の変動を起こすことができ、それによって薬剤の最終的な皮膚吸収を有意に変えることができる。低い治療指標の薬剤を含有するDDDS160,165を温度コントロール装置150で変換することは、皮膚温を狭い範囲に調節し、薬剤の皮膚吸収の変動を軽減することができる。この方法によって利益を得る可能性のある薬剤及び薬剤の種類には、ニコチン、ニトログリセリン、クロニジン、フェンタニール、スフェンタニール及びインスリンのような薬剤;及び非ステロイド系抗炎症剤、降圧剤、鎮痛剤、抗糖尿病薬及び抗片頭痛薬のような薬剤の種類が挙げられるが、これに限定されない。
【0139】
図13〜19は温度コントロール装置170のもう1つの実施態様を説明している。図13は、図8の実施態様に類似する温度コントロール装置170を説明しているが、空気を浸透しない壁174によって分離された複数のチャンバー172から構成されている温度調節機構108を含む。温度調節機構108は実質的に底壁102、上壁104、及び側壁152に囲まれている。再び、温度調節機構108は好ましくは、チャンバー172の各々に配置されている活性炭、鉄粉、塩化ナトリウム、水及び任意でノコギリ屑の組成物を含む。上壁104は好ましくは、複数の孔114を有し、その結果好ましくは各チャンバー172の孔の列を有する柔軟な空気を浸透しない物質である。空気を浸透する膜116は、上壁104と温度調節機構108との間に配置され、孔114を介して温度調節機構108に達する空気の量を調節する。上壁104は、チャンバー172に入る空気を調節するために複数の孔114を覆うカバーを有することができる。図13に説明するように、3つのカバーが上壁104の上で層になっている。
【0140】
第1のカバー層176は、上壁104に添えられ、3つの孔114のうち2つをさらす開口部178(図17を参照)を有する。第2のカバー層182は第1のカバー層176に添えられ、3つの孔114のうち1つをさらす開口部184(図15を参照)を有する。最上層のカバー186は開口部を有さず、第2のカバー層182に添えられる。従って、患者はどの比率でチャンバー172を外気にさらすかという様々な選択肢を有する。チャンバーの3分の1から集められた熱が必要な場合、図14及び15に示すように最上層のカバー186を取り除く。チャンバーの3分の2から集められた熱が必要な場合、又は温度調節機構108の最初の3分の1が枯渇した後更に追加の熱が必要な場合、
図16及び17に示すように最上層のカバー186及び第2のカバーを取り除く。チャンバー全体から集められた熱が必要な場合、又は温度調節機構108の最初及び2回目の3分の1が枯渇した後更に追加の熱が必要な場合、図18及び19に示すように最上層のカバー186、第2のカバー及び第1のカバー176を取り除く。結果として温度調節機構108のいかなる所望の量も活性化されるように、多かれ少なかれカバー層はいずれの数の孔と共にも使用できることは当然理解される。
【0141】
従って、例証として、患者は、例えばブレークスルーペイン(破綻的な痛み)を抑えるために温度コントロール装置170を用いることに多くの選択を有することができる。ブレークスルーペインが生じた場合、患者は鎮痛物質DDDS上に温度コントロール装置170を置き、以下のいずれかを行うことができる:
1)ブレークスルーペインを治療するためにどれほどの追加鎮痛物質が必要であるかに依存して必要なカバーを外すことによって特定の数又は比率のチャンバー172を活性化する。好ましくは、もはや追加の鎮痛物質を必要としない場合、発熱反応を止めるようにカバーを置き換えることができる。
【0142】
2) 特定の数又は比率のチャンバー172を活性化し、そのようなチャンバー172の熱発生能を使い尽くし、次いで別(活性化されていない)のチャンバー172を活性化する。これによって温度コントロール装置170の加熱時間を引き延ばす。総発熱時間は、特定の患者のブレークスルーペインの典型的な時間によって決定する。
【0143】
3)1回のブレークスルーペインの症状を治療するのに十分なチャンバー172を活性化し、所定の位置に発熱パッチを置きっぱなしにする。ブレークスルーペインの次の症状が生じた場合、使用していないチャンバー172を活性化する。
【0144】
図20は、律速膜192を有する皮膚薬剤送達システム190(以下『DDDS190』)を説明する。DDDS190の構造は図3のそれに類似する。しかしながら、DDDS190は、薬剤の製剤形態128と患者の皮膚134との間に存在する律速膜192を包含する。
【0145】
一般に、律速膜192を介した薬剤の製剤形態128における薬剤の浸透性は、平均的な患者の皮膚に入る薬剤の製剤形態128における薬剤の浸透性よりも有意に低い。律速膜192は、浸透全体における変動を最小限にし、患者に送達される薬剤の量を調節して過投与が起きないようにするために使用される。本発明のもう1つの側面は、温度に敏感な律速膜を使用し、律速膜を介した薬剤の浸透速度が温度の上昇に伴って有意に高まるようにすることである。そのようなDDDS190によって、上で議論した温度コントロール機構100(図1及び2)、150(図8)及び170(図13)は、律速膜192を介した薬剤送達速度を高めて、ブレークスルーペインを治療し、作用開始時間を短縮し、定常状態の送達速度、又は上で議論したその他の効果を高めるために使用することができる。
【0146】
可能性のある温度コントロール機構は、上で議論したような鉄粉、活性炭、塩、水及びノコギリ屑の発熱反応混合物に限定されない。図21は、底壁102、上壁104及び側壁152に囲まれた(図8に類似する)電気発熱素子202を含む電気式温度コントロール機構200を説明している。側壁152は好ましくは底壁の下の方に延び、空洞154を規定する。電気式発熱素子202が、側壁152が形成する空洞154を有さねばならないわけではないことは当然理解される。
【0147】
底壁102及び側壁152は好ましくは、空気を浸透しない独立気泡の泡状物質のような柔軟な空気を浸透しない物質でできている。温度コントロール装置200の底部分は、側壁152の底の上に粘着物質112を包含し、好ましくは底壁の底の中に第2の粘着物質156を包含し、第2の粘着物質156は好ましくは粘着物質112よりも粘着性が低い。電気式発熱素子202は好ましくは、掃引線206、208を介して電流を供給する場合、熱を生じることができる柔軟な抵抗板を含む。電流は好ましくはコントロール機構214に取り付けられた電池212及び電子スイッチ216から供給される。電池212、コントロール機構214及び電子スイッチ216は好ましくは上壁104の上面に取り付けられる。電気式発熱素子202は、電池212から電気式発熱素子202に電流を流し始める電子スイッチ216を入れることによって活性化される。サーミスタのような温度センサー218は好ましくは底壁102の底に取り付けられ、電気掃引線222を介してコントロール機構214にシグナル(底壁の底における温度に相当する)を送る。コントロール機構214は、電気式発熱素子202への電流の流れを調節し、電気式発熱素子202が底壁102とDDDS上部との間の接触面で、事前に定めたレベルの温度を素早くもたらし、事前に定めたレベルを維持するようにする。
【0148】
以下の特徴をコントロール機構214に組み入れてもよい:1)医師又は介護者が各患者のための各発熱時間の長さを設定できるような、医師が発熱を制限でき、及び従って患者が患者の状態に基づいて得られる余分な薬剤を制限できるような機構;2)医師又は介護者が発熱時間の最小時間を設定でき、従って熱の上昇を介して患者がどれくらい頻繁に余分な薬剤を得られるかを設定できるような機構;3)医師又は介護者が事前に定めた温度を設定できる機構;及び/又は4)医師又は介護者が例えば、事前に定めた時間にわたって徐々に発熱温度を上昇させる、又は温度を低下させるような発熱温度の特徴をコントロールできるような機構。このような特徴によって、余分な薬剤の送達という点で医師及び/又は患者にとって、単純なDDDSに多様なコントロールの選択肢が与えられることになる。
【実施例10】
【0149】
図21に説明されるような、本発明の実施態様を使用する実施例は、約14重量%のテトラカイン/リドカイン共融混合物;8.6重量%のポリビニルアルコール(PVA)、0.17重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)及び残り部分の水(HO)を含む局所麻酔剤の作用開始時間を短くするための温度コントロール機構200を使用することを包含する。薄いパッチという形状での局所麻酔剤は、志願者の左前腕に置かれ、温度コントロール機構200は、41℃の温度を維持するように設定されて、局所麻酔剤の上に置かれた。局所麻酔剤は志願者の右前腕にも置かれ(別の時間で)室温(24℃)に放置された。結果を表Dに示すが、鋭利ではない物で皮膚を突いたときの痛みのスコアによって局所麻酔剤の効果を測定した。痛みのスコアは以下のように定義した。
【0150】
スコア 効果
0 効果なし
1 感覚がある及び中程度の感覚
2 中程度の感覚
3 ほとんど完全に感覚がない
4 完全に感覚はないが、深くない
5 完全に感覚がなく、深い
表D

時間(分) 加熱を伴う痛みのスコア 加熱しない痛みのスコア

15 4 2
20 5 3
25 4
30 5

【0151】
従って、加熱によって完全な深い感覚麻痺となる作用開始時間はおよそ33%減らされたことを知ることができる。
【実施例11】
【0152】
図23〜24に説明されるような、本発明の実施態様を使用する実施例は、加熱及び冷却が可能で、従ってDDDSにおける薬剤の製剤形態の吸収速度を必要に応じて増減することができる温度コントロール装置300を使用することを含む。
【0153】
例えば、図23に示すように、患者の全身で薬剤のレベルに調整が必要な場合、温度コントロール装置をDDDS160の上に置く。加熱することによって薬剤の吸収が高まり(前に議論したように)、冷却することによって薬剤吸収を減らし、過投与を防ぐ。図23は、加熱及び冷却の双方に使用される熱電式モジュールとしての温度コントロール装置300を説明している。温度コントロール装置300は、小型熱ポンプとして機能し、低い電圧のDC電源304が一方向306で熱電ユニット310に電流を供給し、熱電ユニットは温度コントロール装置300の第1側面308(好ましくはセラミック物質)で加熱を生じ、温度コントロール装置300の第2側面312(好ましくはフィン付き熱放散構造)で冷却を生じる。電流方向を入れかえると、第1側面308が冷却され、第2側面が加熱される。
【0154】
温度コントロール装置300は、図24に示されるように閉鎖ループによる温度コントローラ314によってコントロールされてもよい。温度コントローラ314は一次回路320に回路を供給する正のDC分岐点及び負のDC分岐点を含む。一次回路320は、電圧増幅器324及び出力増幅器326を介して熱電ユニット310に電気的シグナル322を送る。一次回路320は更に熱電ユニット310からの温度シグナル330を受け取る温度センサー328を包含し、更に電気的シグナルを調整する温度調整機構332を包含する。
【0155】
様々な薬剤及び薬剤の種類をそのような治療に利用することができる。薬剤には、ニコチン、ニトログリセリン、クロニジン、デキサメタゾン、フェンタニール、スフェンタニール及びインスリンが挙げられるが、これに限定されない。薬剤の種類には、アンドロゲン、非ステロイド系抗炎症剤、降圧剤、鎮痛剤、抗鬱剤、抗癌剤、抗糖尿病薬,抗片頭痛薬、抗喘息薬及び禁煙のための薬剤が挙げられるが、これに限定されない。
【0156】
上で議論した加熱装置は、フィードバック機構を備えた赤外線加熱装置に置き換えることができるのは当然理解される。上で議論したあらゆるコントロール及びコントロールにおける変動は、そのような赤外線加熱装置に適用される。赤外線放射の単純な加熱を越える利点は、前者が適当な波長で患者の皮膚に深く浸透するということである。
【0157】
本発明のもう1つの側面は、蓄積/貯蔵部位からの薬剤の吸収を改善するために、熱及びその他の物理的手段、例えば、超音波、マイクロ波、電流、及び振動を使用することである。そのような蓄積/貯蔵部位は、皮膚パッチから投与された薬剤又は皮膚の表面下に直接注射された又は埋め込まれた薬剤の結果として存在してもよい。
【0158】
上で議論された物理的に誘導する手段に反応する可能性のある製剤形態の種類は:
超音波: 超音波で処置された場合、小さく壊れることができる薬剤の製剤形態を含有する粒子。
マイクロ波: 周囲の体液における溶解性に限界があるが、溶解性は温度の上昇と共に有意に高まる薬剤;及びその衰退及び崩壊速度が周りの体液の流れ/変換を増すことによって有意に高まるような固体の製剤形態。
電気: 製剤形態中及び/又は周囲の体液中でイオン化された形状で存在する薬剤。
振動: 体液中の溶解性に限界のある薬剤;及びその衰退及び崩壊速度が周りの体液の流れ/変換を増すことによって有意に高まるような固体の製剤形態。
【実施例12】
【0159】
図1及び2に説明されている本発明の実施態様を使用する貯蔵部位での吸収の実施例は、注射又はその他の例えば超音波スピードヒット(例えば、英国のパウダージェクト・ファーマシューティカルによって開発されたものに類似する製品)のような方法によって皮膚に延長放出性のインスリンを導入する患者又は介護者で構成される。延長放出性のインスリン製剤形態では、インスリン分子のほとんどは結晶形状である。注射後、インスリンは、結晶として徐々に結晶から放出され、周囲の体液に徐々に溶解する。これによって全身の循環にベースラインのインスリン放出が提供される。しかしながら、患者は食事による糖を抑えるためにベースラインを超える追加のインスリンを必要とする。従って、各食事の前に患者は、温度コントロール装置100を、好ましくは事前に定められた時間(即ち、約15〜60分の間)で熱をコントロールするように設計されたものを、注射された延長放出性のインスリン製剤形態が存在する注射部位で皮膚の上に置く。
【0160】
温度コントロール装置100からの熱が延長インスリン製剤形態を取り巻く組織における血液及びその他の体液の流れを増し、それによってインスリンの溶解速度が高まり、全身循環に高い比率でインスリンが運ばれる。温度コントロール装置100の加熱時間は好ましくは、食事に由来する糖に対処するのに適切な余分なインスリンの量を放出するのに十分長く続くように設計される。従って、患者は、延長放出性の製剤形態から調整された適当なインスリン吸収が得られ、食事前に追加のインスリン注射を選択しなくてもよく、食事による高血糖で引き起こされる生理的な結果に苦しまなくてもよい。
【実施例13】
【0161】
図1と図2に例示する本発明の態様に基づく存在部位における医薬吸収の他の例では、患者または介護者は制御された医薬リリース用粒子に混合された医薬を皮下注射する。医薬は制御された医薬供給システム(例えば米国コロラド州Fort CollinsのArtrix Laboratories, Inc.製Atrigel、登録商標)に組込まれ、このシステムは生体内分解性で生体適合性の高分子体[即ちポリ(DL-ラクタイド)、ポリ(DL-ラクタイド)/ポリ(グリコライド共重合体)、ポリ(DL-ラクタイド/ε-カプロラクトン共重合体),ポリカプロラクトン或いはそれら高分子体の組合わせ)と生体分解性溶媒(即ちN-メチル-2-ピロリドン)とから構成されている。温度制御されたリリース用調合体は一般に患者の皮下3cm以内、好ましくは1cm、最適には0.3cmに注射して癌の苦痛を緩和する。
【0162】
乳酸およびグリコール酸のホモポリマーあるいはコポリマーはいずれも使用できるものと理解される。乳酸或いはグリコール酸の高分子類は固体であるため、医薬と高分子類共に生体分解性溶媒に溶解する。注射後に生体分解性溶媒は拡散し生体分解性沈着物の形で高分子体が残存して医薬の殆どを保持する。高分子体粒子が次第に蝕壊或いは分解されるにつれて医薬は体内循環システムに放出され、この高分子体の体内における蝕壊或いは分解の速度が医薬のリリース速度を決定する。
【0163】
活性医薬物質はまた別の方法でシステムに組込まれて保管サイトに供給されることもある。例えば医薬を生体分解性で生体適合性の高分子体と共に溶媒に混合した後に溶媒を蒸発させると医薬活性物質と混合された状態で高分子体粒子が得られる。活性医薬物質を含有する高分子体のサイズは液体(水性液が望ましい)に懸濁(溶解しない)可能な程度に小さくなければならない。得られたサスペンジョンは皮膚の表面に近接した患者の組織に注射され、液体はこの貯留所を速やかに退去して高分子の注入物が医薬活性物質を伴って組織内に滞まる。高分子体からの医薬活性物質のリリースは上述の方法で増加させることができる。
【実施例14】
【0164】
生体適合性で生体分解性の高分子マトリックス中に組込まれた医薬のリリースに及ぼす加熱の効果を調査した。麻酔薬(即ちリドカイン)を高分子マトリックス(即ちラクチド/グリコリドポリマー)に組込んで麻酔薬/高分子体からなる組成物を形成した。この組成物は患者の皮下注射/組織への埋め込みに使用することができ、体内で高分子体マトリックスがゆっくりと蝕壊するにつれて医薬が徐々に体内にリリースされる。
【0165】
麻酔薬/高分子体からなる組成物は1/10gのラクチド/グリコリドポリマー(米国オハイオ州シンシナティのMedisorb Technologies International, L.P. 製Medisorb Grade 8515DL)と0.1gのリドカインベースとを2gのアセトンに溶解し、溶液を作る。この溶液をテフロン(登録商標)被覆した磁性棒を急速に回転させて攪拌しながら約5 mLの水(pHを8以上に調整したもの)を徐々に加えた。Medisorb-リドカイン混合物は繊維状物として磁性棒に付着沈降し溶液中に細かい粒子となって懸濁した。約5 mLの懸濁液を0.2μmのPTFEフィルタ(Nalgene、25mm)に注入の後、規定の塩水を2 mL/hrの速さで3M 3000型注射ポンプを用いて約7日間フィルタ上に注いでMedisorbマトリックスに組込まれなかったリドカインならびに粒径0.2μm以下の粒子を流去し、粒径0.2μm以上のリドカインポリマー粒子をフィルタ上に捕捉した。この粒子は徐々に加水分解してリドカインをフィルタを通過した食塩水中にゆっくりとリリースする。
【0166】
フィルタの端部に短い太針を緊密に取付け、太針には薄いプラスチックのチューブを装着した。チューブの先端から次の手順(ステップ)で濾液を収集した。
ステップ 1: 室温(約24℃)で濾過し約1時間濾液をガラス瓶に収集する
ステップ 2: フィルタを約36℃の水浴に浸して約1時間待機した後、薄チューブから約1時間で濾液を収集する
ステップ 3: 水浴温度を約44℃に上昇した後に約1時間待機してから濾液を約1時間で収集する
ステップ 4: 水浴からフィルタを取出し約0.5時間室温(約24℃)放置の後、約1時間で濾液を収集する
ステップ 5: ステップ4の操作を更に約2時間の間繰り返す。
【0167】
塩水は実験全体の間に2 mL/hrの速さで注入され、収集を行わない時間帯に薄いプラスチックチューブから発生する濾液は捨てられた。上述の収集濾液中のリドカイン濃度は高性能液体クロマトグラフ(HPLC)法により測定する。
【0168】
種々の温度におけるポリマーマトリックスからのリドカインリリース速度は収集試料中のリドカイン濃度から求められ、表Eに示される通りである。
1:ステップ 2:温度 3:リドカインリリース速度(mcg/hour)
実験結果の示す通り、リドカインリリース速度はフィルタ温度(従ってリドカインポリマー粒子の温度)の上昇と下降に伴って増減した。ステップ4と5における温度は同一であるが、リドカインのステップ5におけるリリース速度はステップ4の場合よりも低くステップ1に接近している。
【0169】
フィルタ上のMedisorbおよびリドカインの全体量は測定されなかったが、異なる温度におけるリドカインリリース速度から見るとMedisorbポリマーからのリドカインリリース速度は温度と共に増加することを示している。ステップ5におけるリドカインのリリース速度がステップ4における値より低いことは、リリース速度が温度の下降以後に徐々に低下していることを示唆している。
【0170】
Medisorbポリマーの分解(加水分解)がリリース速度を制御すると考えられために、この実験結果から見るとMedisorbポリマーの分解速度は温度の上昇に連れて増加するものと思われる。この事からMedisorbマトリックス(或いは他の同様な材料)に組込まれ体内に注入された薬品のリリース速度は、いずれも温度上昇に連れて増加するものと考えれれる。更にMedisorb-リドカイン 粒子の加水分解速度の上昇に加えて、実際において保管サイトに人体内における粒子周辺の体液の流れも熱によって増加することが期待され、このことが医薬のさらなる吸収速度の増加の要因となる。
【0171】
Medisorb(上述と同じ型)に関して行われた別の実験では、Medisorb(透明なビード状)の第一サンプル0.1024gを0.9%の塩化ナトリウム注射液9.9024gを入れた第一のガラス瓶内に収容する。これをパラフィンでシールした後約43℃に保持されている加熱装置に入れる。第二のサンプルとして0.1028gのMedisorbを0.9%の塩化ナトリウム注射液9.9167gを入れた第二のガラス瓶に収容する。第二のガラス瓶をパラフィンでシ−ルし室温約23℃の室内に保管する。
【0172】
29日後に観察すると室温で保管されたMedisorb(第二のサンプル)には少ししか変化が認められないのに対して、約43℃で保管されたサンプルは透明であった材料が乳白色に変化し角部がとれ、Medisorbのビードも元よりも小さくなった。この簡単な実験からMedisorbポリマーの分解速度は温度上昇に伴って増加することが分かる。
【実施例15】
【0173】
図1と図2に示すこの発明の態様による保管サイトにおける医薬吸収の更に他の実施例としては患者または介護者によって皮下挿入され、生体適合性且つ生体内分解性の実施例16に表示されるような固体片(即ち板状、棒状或いは類似の形状物)が挙げられる。例としてインシュリンがそれらの材料に組み込まれる。インシュリンを含む固体片は糖尿病患者の皮下3cm以内、好ましくは1cm以内、最適には0.3cm以内に挿入される。固体片からのインシュリンリリース速度は長期(例えば2、3ケ月)に亘る基準必要量の供給が充分なように設定される。
【0174】
食事前に患者は温度制御装置100を好ましくは所定の加熱時間を定めて挿入固体片のある皮膚上に位置させる。温度制御装置100からの熱は固体片周辺の血流または他の体液の流れを増し、この結果固体片の蝕壊または分解を促進して過分のインシュリンを循環システムに供給して食事から摂取される糖分量を抑制する。温度制御装置100による所定の加熱期間が経過、或いは患者によって加熱が中断されると、インシュリンリリース速度と共に固体片の蝕壊または分解の速度も徐々に正常になる。
【0175】
更にこのようなシステムはテストステロンと共に固体片を患者の皮下に挿入して使用することが可能である。温度制御装置100は実質的により長期に亘って(即ち6〜10時間)継続するよう設計しておくことが好ましい。この発明は温度制御装置100を固体片の挿入されている皮膚の直上に位置させ、朝から夕方の間で最も血液中にテストステロンを必要とする期間に高いレベルのテストステロンが得られるようにする。
【0176】
実施例13〜18ではごく少数の医薬しか開示されていないけれども、以下の記述に適合する治療用医薬はこの発明の方法を適用することによって利益を受ける可能性がある:
1)長期に亘り(1日以上、好適には1週間以上)基準の医薬供給速度を有する治療
2)長期に亘り医薬供給速度の高いことを必要とする治療。
【0177】
上述の治療に使用される医薬品には次のようなものが含まれるが、これらに限定されない。ニコチン、テストステロン、エストラヂィオール、ニトログリセリン、クロニジン、デクサメタゾーン、テトラカイン、リドカイン、フェンタニール、スフェンタニル、プロゲステロン、インシュリン、プリロカイン、ブピバカイン、スマトリプタン、ジヒドロエルゴタミン。
【0178】
また医薬品分類として次のようなものが挙げられるがこれに限定されない。アンドロゲン、エストロゲン、非ステロイド系抗炎症剤、抗高血圧剤、鎮痛剤、抗機能低下、抗生物質、抗癌剤、局所麻酔薬、咳吐薬、抗伝染薬、避妊薬、抗糖尿病剤、ステロイド、抗アレルギー剤、抗頭痛剤、煙草をやめさせる薬、抗喘息剤、抗肥満剤。
【実施例16】
【0179】
図1及び2に図示する本発明の実施形態を使用したさらに別の保管サイトの吸収の例は、患者又は介護人が薬剤を補給サイトに包埋するための工程からなる。例として、介護人は、患者が偏頭痛の頭痛の症状が起こりそうと感じるときに、高速で皮下の補給サイトに薬剤を投入することにより(イギリスのPowderject Pharmaceuticalが製造する装置などにより)、粉末状のジヒドロエルゴタミン、スマトリプタン、又はエルゴタミンなどの抗偏頭痛薬を包埋することができる。Powderjectの装置を使用して、薬剤の粉末は音速以上の速度に加速され、皮膚に投入する。温度調整機器100を、好ましくは約1時間継続して、埋め込まれる薬剤の場所の上の皮膚に即座に当てる。温度調整機器100からの熱が抗偏頭痛薬の周囲の体液の流れの速度を高めて、より速く抗偏頭痛薬を体循環に運搬する。その結果、治療効果のある抗偏頭痛薬の血中濃度により早く達し、偏頭痛の頭痛を治療するのに間に合う。
【0180】
この技法は、薬剤の予防的な基線の放出率の抗偏頭痛薬又はニトログリセリンなどを送達するためにも使用できる。また、医学症状が発現し始めたときに、薬剤を余分に放出するために加熱パッチを当てる。
当然ながら、前述する加熱装置はフィードバック機構を備えた赤外線加熱装置又はマイクロ波加熱装置と取り換えることもできるであろうことは理解される。前述した制御器及び制御器の変型すべてが上記装置に適用されるであろう。
【実施例17】
【0181】
特に、放出制御した調合物が比較的大きな粒子の形状の場合には(つまり、25μm以上)、注射する放出制御した調合物の放出率を高めるために、超音波を使用することができる。放出制御した調合物を、皮膚から3cm以内、好ましくは1cm以内、最も好ましくは0.3cm以内で患者の組織に注射する。粒子の侵食/減成率が薬剤の放出率を決定し、薬剤の定常放出率は薬剤の治療効果のあるレベルが患者に送達するように設計される。鎮痛薬の場合には、定常放出率は通常、平均的な者の術後の痛みを治療するために必要なものよりもわずかに低い。定常放出率が十分でない特別な患者の場合には(薬剤反応及び/又は痛みの強さのために)、超音波を調合物に向けて、粒子をより小さな粒子に破壊する(これには、粒子が超音波で破壊できる必要がある)。
【0182】
これにより周辺の体液に曝される調合物の表面積が増加し、そのため投与の残りの放出率が高まる。この方法により、安全に調合物を低い放出率で投与でき、さらに送達率を高める必要のある患者には放出率を高めることができる。超音波の強度、周波数、及び持続時間を選択して、適性レベルまで放出率を高めることができる。例示的な超音波治療及び装置は、1998年8月14日にKostらに発行された米国特許第4,948,587号に見られ、これによって参照によりこれに組込まれる。
【実施例18】
【0183】
特に、放出制御した調合物が調合物及び/又は周囲の体液でイオン化された形態で存在する場合には、患者の体の部位での電位の発生を利用して、注射した放出制御薬剤の調合物の放出率を高める。例えば、放出制御したインシュリンを糖尿病患者の皮膚に注射するとき、この調合物からの通常のインシュリンの放出率を、インシュリンが存在する粒子の溶解速度により制御し、そこで通常の放出率が患者内で十分な基線のインシュリンレベルを提供する。
【0184】
図26に図示するように、患者は第1電極262を放出制御したインシュリン調合物264の注射サイトの上の皮膚134の上に載せる。第2電極266を、放出制御したインシュリン調合物264の注射サイト近くの位置の皮膚134の上に載せる(つまり、少なくとも数センチ離して)。患者が食事からの糖分を抑制するために血中インシュリンレベルを高める必要がある各食事の前に、患者はそれぞれワイヤ268と270が付いた第1電極262と第2電極266を、電流発生装置272に接続する。電流発生装置272は電位を第1電極262と第2電極266の間に誘導する。好ましくは、インシュリンを使用して、電気アンペア数を約0.2から4mAの範囲にするべきである。体内のpHでは、インシュリン分子は正味の陰電荷をもつため、第1電極262は、陰電荷のインシュリンを調合物周囲の体液から離れて、体循環254に押しやる陰電荷をもつべきである。これによりインシュリンはより速く放出される。好ましくは、余分なインシュリンの治療上の必須量を送達するために、電流の強度と持続時間を電流発生装置272で変更できる。
【実施例19】
【0185】
特に、放出制御した調合物の体液中での溶解度が制限される場合、又はその侵食/減成速度が固体調合物周囲の体液の流れ/交換を高めることによって著しく高めることができる場合には、放出制御した薬剤の調合物の注射サイトの上での振動の発生を利用して、調合物の放出率を高めることができる。例えば、放出制御したインシュリンを糖尿病患者の皮膚に注射するとき、この調合物からの通常のインシュリンの放出率を、インシュリンが存在する粒子の侵食/減成又は溶解率により制御し、そこで通常の放出率が患者内で十分な基線のインシュリンレベルを提供する。図27に図示するように、食事前に、患者は振動発生装置282を、放出制御したインシュリンの調合物264の注射サイトの上の皮膚134の上に載せる。振動発生装置282は、好ましくは約20から400Hzの間の振動を伝える。振動が放出制御したインシュリン264の周囲の体液(図示せず)を攪拌し、その循環を高める。その結果、食事からの糖分を抑えるべき食事の直前に、放出制御したインシュリンの調合物264からより多くのインシュリンが体循環254に不出する。好ましくは、余分なインシュリンの治療上の必須量を送達するために、振動の強度と持続時間を振動発生装置282で変更できる。
【0186】
実施例19〜22でほんの数種の薬剤を開示したが、以下の説明に合う治療で使用する薬剤はどれも、潜在的には放出の増加を誘導するための物理的な方法から便益を受けるであろう。1)薬剤が長期的な治療で(1日以上、好ましくは1週間以上など)基線の送達率をもつことが必要な治療、2)長期的な治療期間中の一定期間の間薬剤の送達率を高める必要のある治療、及び3)調合物が放出の増加を誘導するための物理的な方法の1つ以上に反応する。様々な薬剤及び薬剤の分類が上記治療とともに利用できる。薬剤には、ニコチン、テストステロン、エストラジオール、ニトログリセリン、クロニジン、デクサメタゾーン、テトラカイン、リドカイン、フェンタニール、スフェンタニル、プロゲステロン、インシュリン、プリロカイン、ブピバカイン、スマトリプタン、及びジヒドロエルゴタミンを含むが、それに制限されない。薬剤の分類には、アンドロゲン、エストロゲン、非ステロイド系抗炎症剤、血圧降下薬、鎮痛薬、抗抑うつ薬、抗生物質、抗がん剤、局部麻酔薬、制吐剤、抗感染剤、避妊薬、抗糖尿病薬、ステロイド、抗アレルギー剤、抗偏頭痛剤、及び禁煙剤を含むが、それに制限されない。
【実施例20】
【0187】
本発明の別の実施例は、図23に図示するものと類似の温度調整機器300を使用する工程からなり、この機器は、必要な場合、注射した放出制御薬剤の調合物の吸収率を増減することができるように、加熱及び冷却できる。
【0188】
例えば、放出制御した薬剤の調合物を患者の皮膚に注射する場合、この調合物からの薬剤の通常の放出率は、薬剤が存在する粒子の侵食/減成率により制御し、そこで通常の放出率が患者内での適切な基線の薬剤レベルを提供する。図28に図示するように、患者の体内で薬剤のレベルを調整する必要がある場合には、温度調整機器300を、放出制御した薬剤の調合物302の注射サイトの上の皮膚134の上にのせる。加熱すると薬剤の吸収が増加し(前述したように)、冷却すると過剰投与を避けるために薬剤の吸収が減少する。図23には、加熱又は冷却の両方に使用する熱電モジュールとしての温度調整機器300を図示している。温度調整機器300は小さな加熱ポンプとして作用し、そこで低圧DC電源304が熱電ユニット310にある方向306に電流を供給する結果、温度調整機器300の第1側面308(好ましくはセラミック物質)を加熱し、温度調整機器300の第2側面312(好ましくは フィン付き放散構造)を冷却する。電流の方向が反転すると、第1側面308が冷却され、第2側面が加熱される。温度調整機器300は、図24に以前に図示したように、閉ループの温度制御器で制御できる。
【0189】
このような治療で、様々な薬剤及び薬剤の分類が利用できる。薬剤には、ニコチン、ニトログリセリン、クロニジン、デクサメタゾーン、フェンタニール、スフェンタニル、及びインシュリンを含むが、それに制限されない。薬剤の分類には、アンドロゲン、非ステロイド系抗炎症剤、血圧降下薬、鎮痛薬、抗抑うつ薬、抗がん剤、抗糖尿病薬、ステロイド、抗偏頭痛剤、及び禁煙剤を含むが、それに制限されない。
【実施例21】
【0190】
本発明の別の実施例は、図23に示すように温度調整機器300、又は熱ゲルを含有する注射可能な液体薬剤送達調合物に関連して、皮膚を冷却できる装置を使用する工程からなる。熱ゲルと正則ゲルの主な相違点は、熱ゲルは室温で(つまり、約20〜25℃)液体であり、体温で(つまり、約37℃)ゲル状である一方、正則ゲルでは、温度が上昇するとともに一般的にはゲルの粘度が低下することである。そのため、熱ゲルは室温(つまり、液体の状態で)の間に、薬剤調合物を熱ゲルに混合する。そうすると熱ゲル/薬剤の混合物を容易に注射器に入れて、患者に注射することができる。患者の体内に入れば、熱ゲル/薬剤の混合物は急速にゲル状に凝固する。次にゲルは時間をかけて、薬剤の調合物を患者の体循環に放出しながら溶解する。
【0191】
図23に図示する温度調整機器などの冷却装置を使用して、皮下で凝固した熱ゲル/薬剤の混合物を冷却して、ゲルを液体に戻すことができる。液体状態では、薬剤の調合物の拡散率と放出率は増して、それによって必要なときには患者の体循環に存在する薬剤調合物が増加する。
熱ゲルの例はGel Science/GelMedが開発したSmart HydrogelTMがあり、任意に接合した2つのポリマーの絡み合った網からなる。ポリマーの1つはポリ(アクリル酸)で、これは生体付着性で、pHに反応しやすい。もう1つのポリマーは、配列PEO-PPO-PEOでポリ(酸化プロピレン)(「PPO」)とポリ(酸化エチレン)(「PEO」)セグメントを含有するトリブロック共重合体である。
【0192】
熱ゲルとともに本発明を使用する例は、食物摂取の前に糖尿病患者に追加のインシュリンを送達することである。インシュリンを含む熱ゲルは、ゲルを形成して継続的な基線のインシュリン投与量を放出するために皮下注射できる。循環中の過剰な糖分を吸収するためにインシュリンが必要な食事のとき、患者は冷却装置を注射サイトに隣接する皮膚の上に当てて、注射サイトを熱ゲル/インシュリンの混合物のゲル化温度以下の温度に冷却することができる。当然ながら、ゲルは液体になり、摂取した食事を補うために患者の体内のインシュリンレベルが増加する。このプロセスは、注射した熱ゲル/インシュリンの混合物がなくなるまで、何回も繰り返すことができる。この薬剤送達システムの利点は、糖尿病患者がわずか1回の注射で数日の間、数週間の間でさえもインシュリンの送達を制御することができることである。
【実施例22】
【0193】
図29に図示するように、絶縁材料を温度調整機器に組込んで、温度の変動を最低限に抑えるだけでなく、その下のDDDSと皮膚の温度を高める(熱損失を減少することによって)のに役立たせることができ、そのいずれも皮膚の薬剤吸収を高める傾向がある。図29には、図2の温度調整機器100を図3のDDDS 120に取り付けた図4に図示する構成と類似の構成を図示している。DDDS 120は患者の皮膚134の一部に取り付けた。絶縁スリーブ350は皮膚134に当接して、温度調整機器100とDDDS 120の実質的な部分を包み込む。
【0194】
図30には、接着端362を患者の皮膚134に付け、DDDS 364よりもわずかに大きくそれを覆う、独立気泡発泡テープなどの絶縁材料製の別の絶縁スリーブ360を図示している。図31には、加熱機器366を覆う絶縁スリーブ360と、患者の皮膚134に取り付けるDDDS 364を図示している。図32には、注射/移植/制御/追加した放出薬剤調合物368を置いた皮膚134の上の領域を覆う絶縁スリーブ360を図示している。
【実施例23】
【0195】
本発明の別の応用例は、典型的な液体薬剤の注射に関連して、前述したような加熱装置の使用に関わる。ある薬剤では、体内に注射した後の体循環への吸収速度が増すと、患者の治療が施せる。例えば、効果を発揮するためには、抗偏頭痛薬であるジヒドロエルゴタミンは、偏頭痛発作の開始から一定時間内に血流中で効果的な濃度レベルに達しないといけない。そうしないと薬剤は効果がなくなる。現在、患者の体循環への薬剤の吸収は、注射後には変更できない。そのため、本発明の加熱の調整の側面を利用して、皮下注射した及び筋内注射した薬剤の吸収速度を増すことができる。
【0196】
例えば、薬剤を皮下注射又は筋内注射した後、上記実施例で説明したような加熱パッチを、その下に注射した薬剤がある皮膚の上に載せる。加熱により注射した薬剤の周囲の体液の循環が増し、周辺組織の血管の壁の浸透性が増し、その結果体循環への薬剤の吸収速度が高まる。
このような方法は、皮膚の上又は外側で加熱手段により加熱できる体の部位に注射され、循環あるいはより深層の組織への吸収速度が高まることによって効果が改善できる薬剤には有益であろう。上記薬剤には、抗偏頭痛薬、血圧降下薬、鎮痛薬、制吐剤、心血管薬を含むことができる。具体的な薬剤には、ジヒドロエルゴタミン、エルゴタミン、スマトリプタン、rizatriptan、zolmitriptan、並びにその他選択的5-ヒドリキシトリプタミン受容体亜種アゴニスト、モルヒネ、並びにその他麻薬剤、アトロピン、ニトログリセリン、フェンタニール、スフェンタニル、アルフェンタニール、及びメペレジンを含むことができる。
【0197】
体循環への吸収速度を高めると通常は血中のピーク濃度が高くできるため、この技法は皮下注射及び筋内注射した薬剤の血液ピーク濃度を高めるためにも使用できる。
皮下注射及び筋内注射の体吸収に時間がかかりすぎて効果が現れないため、薬剤には静脈注射をしなければならないものもある。しかしながら、静脈注射は実施するのがより難しく、より大きなリスクも伴う。本発明を使用して、ある種の薬剤の吸収速度は、皮下注射又は筋内注射が十分な吸収速度を提供できるよう十分に高めることができる。そのため、本技法は、ある種の薬剤に関しては、静脈注射を皮下注射又は筋内注射に代えるために使用することもできる。
【0198】
具体的な例として、患者が偏頭痛の発作を感じた後に、自分でスマトリプタン又はジヒドロエルゴタミンを皮下注射できる。さらに、患者は鉄粉、活性炭、水、塩化ナトリウム、及びおがくずからなる熱発生媒体(実施例1と類似の)を、その機密容器から取り出して、それを注射サイトの上に載せる。加熱パッチが加熱パッチ下の皮膚の温度を急速に39〜43℃の狭い範囲に加熱し、それをそこで最低15分間維持する。注射した薬剤の周囲の体液の循環速度と、周辺組織の血管の浸透性は、ともに加熱により高まる。その結果、薬剤が体循環に侵入し、より急速に作用サイトに到達し、患者はより速やかに及び/又はよりよく偏頭痛の発作の抑制を受ける。
【0199】
他の実施例では、看護婦は患者の筋組織にモルヒネを注射して、激痛を治療することができる。さらに、看護婦は前述したように、注射サイトの上に加熱パッチを載せる。モルヒネの体循環への吸収速度が前述したように高まる。その結果、患者はより速やかに及び/又はよりよく痛みの抑制を受ける。
【実施例24】
【0200】
本発明の別の応用例は、前述したような加熱装置を概日リズムを擬態するために使用することに関わる。例えば、テストステロン又はエナント酸テストステロン及びテストステロン・シピオネートなどのその誘導体は人に筋内注射すると、少ない又は存在しない自然の精巣ホルモンに置換あるいは交換することができる。エナント酸テストステロン及びテストステロン・シピオネートはテストステロンよりも作用の継続時間が長いため、その方がテストステロンよりも好ましい。
【0201】
しかしながら、テストステロン又はテストステロンエステルなどのその誘導体は、乳酸とグリコール酸、好ましくはポリ(DL-ラクチド)、ポリ(DL-ラクチド-コ-グリコリド)及びポリ(DL-ラクチド-コ-(-カプロラクトン))のホモポリマー又は共重合体などの放出制御したポリマーマトリックスに組込んで、作用の継続時間を増すことができる。筋内注射の後、作用の継続時間を2〜4週間にするように、エナント酸テストステロンは徐々に注射サイトの脂質組織の層から吸収される。しかしながら、健康な人の自然の血中テストステロンの濃度は昼間高く、夜間に低くなる。そのため、注射したテストステロンの誘導体から得られる血中テストステロンの濃度は自然の概日リズムを擬態していない。
【0202】
例として、患者はエナント酸テストステロンを皮下又は筋内に注射できる(筋内注射の場合、注射は比較的皮膚の表面の近くにするべきである)。さらに、患者は加熱パッチを毎朝注射サイトに載せる(注射したエナント酸テストステロンがなくなるまで)。加熱パッチは急速に注射サイトの温度を狭い範囲で高め、それを所望の継続時間(つまり、約8時間)維持する。加熱することにより、エナント酸テストステロンの放出が増加し、及び/又はエナント酸テストステロンからテストステロンへの変換率が高まり、そのため血中のテストステロンの濃度が高まる。「使用済みの」パッチは、新しい加熱パッチを同上に載せる前に取除く。この断続的な加熱応用技法を使用して、血中のテストステロンの濃度は夜間に低く、昼間に高くなり、このように自然の概日リズムを擬態できる。
【0203】
TheraTech, Inc.が製造したAndrodermaパッチは、図3及び図13のATTSと類似のアンドロゲン経皮治療システムである。Androdermaパッチは、24時間の間テストステロンを患者に経皮的に投与できる。Androdermaシステムは、その周辺に沿って細孔性のポリエチレンフィルムの周辺に裏当てして固定して、ポリエステルエチレン酢酸ビニルのラミネートフィルムにより画成される薬剤調合剤貯蔵容器を備える。2枚のフィルムが、2枚のフィルムの間に薬剤調合物貯蔵容器が形成されるような方法で、互いに固定される。テストステロンを含有する薬剤調合剤が貯蔵容器にある。細孔性のポリエチレンフィルムは浸透性があり、薬剤調合物が細孔膜を移動でき、薬剤貯蔵容器が患者に皮膚に当たると、皮膚に吸収される。容器内では、薬剤調合物はエチレン酢酸ビニル共重合体フィルム製の密閉ディスクによって、細孔性のポリエチレンフィルムが交差するのを防いでいる。ディスクが薬剤調合物の移動の物理的な障壁として機能する。ディスクをポリエステルフィルムのリリースライナーに取り付ける。リリースライナーは細孔フィルムの底部に配設される接着剤を保護し、Androdermaパッチが保管されている間ディスクが薬剤調合物を膜と交差しないようにする。リリースライナーとディスクはパッチのパッチ前に除去される。
【0204】
現在市場に出ているATTSでは皮膚の炎症が大きな問題である。皮膚の炎症は、調合物の浸透エンハンサーが主な原因と考えられている。(Androdermaパッチの場合、浸透エンハンサーはグリセリンモノオレアートである)。十分なテストステロンを皮膚に浸透できるように、肌の浸透性を高めるためには、浸透エンハンサーが必要である。皮膚の炎症の程度は、通常調整剤中の浸透エンハンサーの濃度と、皮膚との接触時間に正比例する。熱調整すると皮膚の吸収が著しく高まるため、熱調整することによって、調合物中のエンハンサーの濃度を減少でき、調合物と皮膚の接触時間を短縮でき、及び/又はより軽い浸透エンハンサーを使用できることが考えられる。適切にそうすれば、十分なテストステロンを送達している間でさえも、皮膚の炎症を抑えられるであろう。つまり、熱調整を利用すると、皮膚の浸透性を高めるための少なくともある程度の負担が、浸透エンハンサーから熱に移すことができ、それは皮膚の浸透性を高めるにはかなり安全な方法である。
【0205】
テストステロンパッチ(ATTS)からの放出率は通常、昼夜実質的に一定である。これは自然な概日リズムではない。熱調整を利用して、多少なりとも一定の放出率のATTSを利用しながらも、自然の概日リズムを得ることができる。朝、利用者はその下に注射/移植した放出制御調合物がある皮膚の領域に、加熱パッチを載せる。温度が高まると、調合物周辺の体液の流れが増加する、及び/又は調合物マトリックスの侵食速度が高まる結果、アンドロゲンの放出率が高まり、そのため血清レベルが高くなる。加熱は、日中高い放出率を維持するために十分長い間持続するよう計画されている。午後又は夕方には、加熱パッチが発熱を停止し(又は取除き)、放出率は加熱しないレベルに戻る。利用者はこれを毎日繰り返す。この段取りでは、自然の概日リズムを擬態する血中のテストステロンの濃度の形が、そうでない一定の放出調合物から得ることができる。
【実施例25】
【0206】
テストステロンを皮下注射して、送達した薬剤の量を増加し最適にするために図8〜12に図示する本発明の実施形態を使用した別の実施例は、利用者が、例えば米国ユタ州ソルトレイクシティのTheraTech, Inc.が製造したAndrodermaの1日1回のテストステロン皮膚パッチなどのATTS 160、165を皮膚134に載せるための工程からなる。ATTS160、165は一般的には、夜に、例えば午後10時に皮膚134に貼る。利用者は翌朝まず温度調整機器150をATTS 160、165の上に載せる。ATTS 160 165、皮膚134及び皮下組織の温度が高まると、テストステロンの皮膚吸収が著しく高まり、投薬中高い送達率になる。
【0207】
また、ATTS 160、165はグリセリンモノオレアートなどの浸透エンハンサーを有する。テストステロンATTS 160では、十分なテストステロンを送達するために通常浸透エンハンサーが必要であるが、Androdermaが使用するグリセリンモノオレアートなどの浸透エンハンサーは重大な皮膚の炎症を生じさせることがある。炎症の潜在的なリスクを少なくしながら、熱調整によって提供されるテストステロン吸収の向上により、ATTS 160、165で使用する浸透エンハンサーの濃度を低くすることができる。また、熱によりエンハンサーがより速く皮膚に浸透するため、エンハンサーの効果を高めるはずである。熱調整の最終的な結論は、利用者は最も必要な日中の間に、ATTS 160、165から十分なテストステロンを得られることである。
【実施例26】
【0208】
図8〜12に図示する本発明の実施形態を使用するさらに別の実施例は、吸収率を高め、ATTS 160、165からのアンドロゲン物質の発現時間を短縮するために、温度調整機器150を使用するための工程からなる。ATTS 160、165としてAndroderm-50aなどの市販されるテストステロンパッチを利用した例として、患者又は看護人は患者の皮膚134にATTS 160、165を載せ、ATTS 160の上に温度調整機器150を載せる。好ましくは、温度調整機器150には、温度調整機構108のための十分な量の発熱媒体を有し、少なくとも4時間の間発熱反応を持続する。
【0209】
温度調整機器150からの熱は皮膚134とATTS 160、165の接触面で、約38℃〜45℃、好ましくは約39℃〜43℃、さらに好ましくは約42℃の狭い温度範囲まで高まり、この温度は一定の期間(つまり、約4時間)維持する。この間、熱はATTS 160、165からのテストステロンの放出率、皮膚134の浸透率、及びテストステロンを体循環により速く運搬する血液循環の速度を高める。発熱反応が停止した後(約4時間)、血流中のテストステロンの吸収と濃度は、ATTS 160、165からの熱により高まったレベルから低下し始め、通常の(加熱していない)レベルに戻る。患者は次の24時間の間このシステムを着用しつづける。温度調整機器150を使用しないATTS 160、165を比較すると、テストステロンは著しく早く血流中に現れ始めたため発現時間が短くなり、パッチしてから早い時間の血流中のテストステロン濃度はATTS 160、165を加熱しないで生じるものよりも著しく高い。その結果、早い時間(つまり、朝まず貼ってから4〜6時間)に血清中の高いテストステロンレベルが達成される。
【0210】
このように本発明の好適な実施形態を詳細に説明してきたが、添付する請求項で定義される発明は、その精神又は範囲を逸脱することなく数多くの明らかなその変型が可能であるため、上記説明に記載する具体的な詳細により制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0211】
この明細書は、本発明として考えられる内容を特に特許請求し格別に特許請求している特許請求の範囲をその結論としているが、本発明の効果は、以上の本発明に関する説明を以下の添付の図面と共に読むことによって、容易に認識することができる。
【図1】本発明による温度制御装置の1つの実施例の側断面図である。
【図2】本発明による温度制御装置の別の実施例の側断面図である。
【図3】本発明による皮膚薬搬送システムの1つの実施例の側断面図である。
【図4】本発明による図3の皮膚薬搬送システムとの関係における図2の温度制御装置の側断面図である。
【図5】本発明による温度制御装置に関する時間対温度のグラフである。
【図6】本発明によって加熱を行った場合と行わなかった場合における、DDDSを含むフェンタニールを4時間接触させた際の9人のボランティアの平均フェンタニール濃度対時間のグラフである。
【図7】本発明による温度制御装置に関する時間対温度のグラフである。
【図8】本発明による温度制御装置の別の実施例の側断面図である。
【図9】本発明による皮膚薬搬送システムの別の実施例の側断面図である。
【図10】本発明による図9の皮膚薬搬送システムとの関係における図8の温度制御装置の側断面図である。
【図11】本発明による皮膚薬搬送システムの更に別の実施例の側断面図である。
【図12】本発明による図11の皮膚薬搬送システムとの関係における図8の温度制御装置の側断面図である。
【図13】酸素活性温度規制機構チャンバの上に3つの被覆層を有する本発明による温度制御装置の更に別の実施例の側断面図である。
【図14】第1の層が取り除かれた状態の本発明による図13の温度制御装置の側断面図である。
【図15】本発明による図14の温度制御装置の線15−15に沿った平面図である。
【図16】第2の層が取り除かれた状態の本発明による図14の温度制御装置の側断面図である。
【図17】本発明による図16の温度制御装置の線17−17に沿った平面図である。
【図18】第3の層が取り除かれた状態の本発明による図16の温度制御装置の側断面図である。
【図19】本発明による図18の温度制御装置の線19−19に沿った平面図である。
【図20】本発明による速度制限膜を有する皮膚薬搬送システムの別の実施例の側断面図である。
【図21】本発明による電気的温度制御制御機構の側断面図である。
【図22】本発明による超冷却された液体で充填された可撓的なバッグを備えた温度制御装置の側断面図である。
【図23】本発明による患者の皮膚に直接に適用された温度制御装置の側断面図である。
【図24】本発明による、温度変動を最小化する及び/又はDDDSとその下の皮膚との温度を上昇させるDDDSの上の断熱材料と注射された又はデポ薬剤(depot drug)位置とを示す側断面図である。
【図25】統合型パッチの1つの実施例の階層的に内部を示している全体図である。
【図26】図1における統合型パッチの展開図である。
【図27】図1のパッチが収納された様子の断面図である。
【図28】統合型パッチの1つの実施例の薬剤搬送成分の上からの透視図である。
【図29】加熱パッチの断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度制御部品と、温度制御部品と一体の薬剤投与部品と、を有する皮下薬剤投与装置であって、
前記薬剤投与部品は、
少なくとも1つの医薬活性物質を有する二次元の処方物層と、
前記処方物層よりわずかに大きく酸素及びアルコールが不透過性であり、上側及び下側を有するフィルムと、
平坦なリム浅い貯蔵部を有するトレイであって、アルコール及び水に対して不
透過性であり、前記層が前記トレイの浅い貯蔵部内に配置され、前記フィルムが前記処方物層が前記トレイの貯蔵部内に隔離されるように前記トレイのリムに対して密封され、前記発熱媒体を有する二次元の貯蔵室が前記フィルムの上側に取り付けられ、前記薬剤成分が、前記フィルムの下側に取り付けられている、トレイと、
前記皮膚が前記層に接触するように患者の皮膚に、統合された薬剤投与部品及び温度制御部品を取り付ける手段と、
統合された薬剤投与部品及び温度制御部品を酸素及び湿気から遮断する手段とを有する、皮下薬剤投与装置。
【請求項2】
酸素に露出されるとき熱を発生することができる加熱部品と、
前記加熱部品に取り付けられる薬剤投与部品と、
前記薬剤投与部品と前記加熱部品との間の物質の移動を防止するために薬剤投与部品を密封する手段と、を有する皮下薬剤投与装置。
【請求項3】
前記加熱部品と前記大気との間の物質の移動を防止する手段を有する請求項2の皮下薬剤投与装置。
【請求項4】
更に、望ましくない熱損失を防止する手段を有する請求項2の皮下薬剤投与装置。
【請求項5】
前記加熱部品は、活性炭素、鉄及び水を有する発熱媒体を含む請求項2の皮下薬剤投与装置。
【請求項6】
前記加熱部品は、空気に対して不透過性の材料でつくられる底部及び周囲の壁によって画成された浅い室と、
選択された空気透過性を有するカバーと、
前記浅い室に配置された活性炭素、鉄及び水を有する発熱媒体と、を含む請求
項2の皮下薬剤投与装置。
【請求項7】
前記カバーは、空気に対してほぼ不透過性の材料層による選択された空気透過性を有し、該材料層は選択された寸法を備えた選択された数の穴を有する請求項6の皮下薬剤投与装置。
【請求項8】
前記選択された寸法を備えた選択された数の穴は、選択された空気透過性を有する薄膜でカバーされる請求項7の皮下薬剤投与装置。
【請求項9】
前記薬剤投与部品は、ほぼ二次元マトリクスの薬剤成分を有する請求項2の皮下薬剤投与装置。
【請求項10】
前記薬剤投与部品は、バックフィルムと速度制限薄膜との間に配置された薬剤成分を有する請求項2の皮下薬剤投与装置。
【請求項11】
前記薬剤投与部品は、バックフィルムと速度非制限薄膜との間に配置された薬剤成分を有する請求項2の皮下薬剤投与装置。
【請求項12】
前記薬剤投与部品は、フェンタニル、スフェンタニル、カーフェンタニル、テストステロン、リドカイン、テトラカイン、プリロカイン、ロピボカイン、ブピバカイン、プロカイン、フルビプロフェン、ナプロクセン、イブプロフェン、及びデクスマセソンからなるグループから選択される薬剤を有する請求項17の装置。
【請求項13】
前記薬剤投与部品は、アナルゲシック剤、アンチインフラマトリ剤、ステロイド、アンドロゲン、エストロゲン、ホルモン、アンチビラル剤、アンチアスシマ剤、カルジオバスキュラ剤、アンチハイパーテンション剤、アンチデプレサンツ、及びコックス2インヒビタからなるクラスから選択される薬剤を有する請求項2の皮下薬剤投与装置。
【請求項14】
更に環境から前記薬剤投与部品を隔離するための手段を有する請求項2の皮下薬剤投与装置。
【請求項15】
前記薬剤投与部品を密封する手段は、前記加熱部品と前記薬剤投与部品との間に配置された障壁材料の層を有する請求項2の皮下薬剤投与装置。
【請求項16】
前記薬剤投与部品を密封する手段は、湿気またはアルコールに対して不透過性の材料によって完全に包囲されたスペースに前記薬剤投与部品を密封する請求項2の皮下薬剤投与装置。
【請求項17】
前記スペースは障壁材料の第1の層と障壁材料の第2の層とによって画成され、前記第1及び第2の障壁材料の層はすべての縁部で密封されそれらの間に閉鎖スペースを形成し、前記障壁材料の第1の層は前記障壁材料の前記第2の層より前記加熱部品に接近している請求項16の皮下薬剤投与装置。
【請求項18】
前記密封は、手で分離可能である請求項16の皮下薬剤投与装置。
【請求項19】
前記密封の剥離を容易にする手段を有する請求項16の皮下薬剤投与装置。
【請求項20】
前記障壁材料の前記第2の層は、薬剤成分を保持する貯蔵室を画成する請求項17の皮下薬剤投与装置。
【請求項21】
前記障壁材料の第2の層は、前記障壁材料の第1の層よりも実質的により剛固である請求項20の皮下薬剤投与装置。
【請求項22】
前記障壁材料の前記第1の層はアルミニウムの層を有する請求項17の皮下薬剤投与装置。
【請求項23】
前記障壁材料の前記第2の層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルクロライド、バレクス、アクラ、アルミニウム、ポリマー層でコートされたアルミニウムからなるグループから選択される請求項17の皮下薬剤投与装置。
【請求項24】
更に人間の皮膚に取り付ける手段を含む請求項2皮下薬剤投与装置。
【請求項25】
前記取り付ける手段は、前記皮下薬剤投与部品の外縁に沿った接着領域を有する請求項24の皮下薬剤投与装置。
【請求項26】
前記加熱部品と大気との間の物質の移動を防止する手段は、湿気または酸素に対して不透過性であり、前記皮下薬剤投与装置を含むことができる容器を有する請求項17の皮下薬剤投与装置。
【請求項27】
前記熱損失を防止する手段は、前記加熱部品に絶縁材料を有する請求項42の皮下薬剤投与装置。
【請求項28】
前記熱損失を防止する手段は、前記皮膚と前記薬剤成分の大気への露出を禁止するために人間の皮膚に薬剤投与成分の縁部全体を密封することを含む請求項26の皮下薬剤投与装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2007−83091(P2007−83091A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−767(P2007−767)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【分割の表示】特願2000−571862(P2000−571862)の分割
【原出願日】平成11年9月29日(1999.9.29)
【出願人】(501127213)ザース・インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】