説明

皮膚しわの評価方法

【課題】真皮層等の皮膚内部の変化に起因する皮膚のしわの状態を、非侵襲的且つ定量的に評価する方法を提供する。
【解決手段】皮膚内部のコラーゲンの配向に基づいて、皮膚におけるしわの状態を評価する。皮膚内部のコラーゲン配向の測定は、好ましくは皮膚内部に超短パルス光を照射し、発生した第2高調波発生光(SHG光)を検出し、その検出結果に基づいて行なわれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚しわの状態を評価する方法に関する。具体的には、真皮層等の皮膚内部の変化から生じる皮膚のしわの状態を、非侵襲的且つ定量的に評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢に伴う皮膚老化現象の1つとしてしわの増加が挙げられるが、美容等の観点から、特に女性においてしわの防止及び改善に対する関心が非常に高まっている。顔など美容的に最も関心の高い部位は日光に曝されている部位であるため、そのような日光露光部で皮膚が伸縮する部位に生じる目尻などのしわについては、ヒトでそのグレードを評価する基準や、動物モデルによる評価モデルが確立されている。しかし、しわ発生のメカニズムの詳細については未だ明らかでない点が多く、しわ形成に密接に関わるパラメーターを定量的に評価する方法も存在していなかった。
【0003】
従来、非侵襲的に皮膚状態を定量する方法としては、皮膚粘弾性、角質水分量、経皮水分蒸散量(TEWL)などを測定する方法が用いられてきた。しかし、何れの測定方法も原理的に皮膚表面(最外層)から測定を行なうため、皮膚表面の状態が定量値に大きく影響してしまう。このため、日光に曝されている部位に生じるしわのように、真皮層等の皮膚内部の変化から生じるしわについて、しわの状態を反映した定量的なパラメーターを皮膚内部から非侵襲的且つ直接的に得ることは困難であった。また、近年、超音波エコーのような臨床診断装置や共焦点レーザー生体顕微鏡、皮膚光コヒーレンス断層撮影装置(OCT)など、生体の内部構造を画像として観察可能な手段が開発されているが、何れもコラーゲン情報のみを抽出して詳細に評価することは困難であった。
一方、しわ形成には、真皮状態が大きく関与すると考えられるが、真皮状態を非侵襲的に測定する方法として、近年、SHG光(第2高調波発生光)が着目されている。これは、超短パルス光(例えばフェムト秒オーダー)を生体組織に照射すると、コラーゲン分子が特異的に有する非線形光学特性によって、照射したレーザー光の一部が波長変換され、照射レーザーの半波長の光が発生することを応用した技術である。(非特許文献4)。
SHG光を用いた生体におけるコラーゲンの構造観察が提案されており、皮膚科学的な診断に有用である(非特許文献5)。また、コラーゲンゲルなどのインビトロでの三次元培養においても、SHG光を用いたコラーゲンの構造観察の検討がなされている(非特許文献6)。特許文献1には、コラーゲンゲル培養により得られる培養組織試料に入射光として超短パルス光を照射し、発生したSHG光を検出することにより、培養組織試料の成育程度を評価することが記載されている。更に、非特許文献7では、SHG光発生効率の入射レーザー偏光依存性を利用すると、コラーゲンの配向を解析することができることが報告されている。
しかしながら、今までコラーゲンの配向と、しわとの関連性について評価した報告は存在しておらず、SHG光の偏光特性で測定したコラーゲンの配向でしわ状態を評価する技術については存在していなかった。
【0004】
【非特許文献1】「皮膚の抗老化最前線」、(株)エヌ・ティー・エス発行、2006年7月
【非特許文献2】「皮膚の測定・評価マニュアル集」、技術情報協会発行、2003年11月
【非特許文献3】「現場レベルでの皮膚測定・評価 〜トラブル事例・対策〜」、サイエンス&テクノロジー株式会社発行、2007年2月
【非特許文献4】Roth S. et al., Biopolymers. 1981;20(6):1271-90
【非特許文献5】Lin SJ. et al., Eur J Dermatol. 2007 Sep-Oct;17(5):361-6. Review
【非特許文献6】Zoumi A. et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2002 Aug 20;99(17):11014-9
【非特許文献7】Yasui T. et al., J Biomed Opt. 2004 Mar-Apr;9(2):259-64
【特許文献1】特開2007-49990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、真皮層等の皮膚内部の変化に起因する皮膚のしわの状態を、非侵襲的且つ定量的に評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、皮膚の表面に観察される、皮膚の伸縮、光老化、又はその複合要因(UV等の露光部における皮膚の伸縮)等の皮膚内部の変化によって生じるしわと、その奥の皮膚内部、特に真皮層におけるコラーゲンの配向とが、密接に関連していることを初めて明らかにした。
【0007】
真皮層のコラーゲンの観察には、コラーゲン線維構造を非侵襲的かつ選択的に計測可能なSHG光(第2高調波発生光)顕微鏡を用いる。これは、超短パルス光(例えばフェムト秒オーダー)を生体組織に照射すると、コラーゲン分子が特異的に有する非線形光学特性によって、照射したレーザー光の一部が波長変換され、照射レーザーの半波長の光が発生することを応用した技術である。
【0008】
このSHG光発生効率の入射レーザー偏光依存性を利用して、皮膚表面におけるしわの存在と、皮膚内部におけるコラーゲンの配向との関係について解析したところ、これらが相関を有していることを見出した。本発明者等はこの技術を応用して、皮膚内部におけるコラーゲンの配向度合いによって皮膚のしわを評価する方法を新たに確立し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明の主旨は、皮膚内部のコラーゲンの配向に基づいて、皮膚におけるしわの状態を評価する工程を含んでなる、皮膚しわの評価方法に存する(請求項1)。
ここで、皮膚内部のコラーゲンの配向は、真皮層のコラーゲンの配向であることが好ましい(請求項2)。
また、皮膚におけるしわの状態が、皮膚の伸縮によって生じるしわの形成であることが好ましく(請求項3)、また、光老化によって生じるしわの形成であることも好ましい(請求項4)。
また、前記評価が、皮膚内部のコラーゲンの配向状態に基づく、皮膚にしわが形成される可能性及び/又はその方向の予測であることも好ましい(請求項5)。
更に、本発明の評価方法は、皮膚内部に超短パルス光を照射し、発生した第2高調波発生光(SHG光)を検出し、その検出結果に基づいて皮膚内部のコラーゲンの配向を測定する工程を更に含んでなることが好ましい(請求項6)。
ここで、検出されたSHG光の偏光異方性に基づいて皮膚内部のコラーゲンの配向を測定することが好ましい(請求項7)。
また、超短パルス光がフェムト秒モード同期レーザー光であることが好ましい(請求項8)。
また、超短パルス光が、クロム・フォルステライトレーザー光、チタン・サファイアレーザー光、ファイバーレーザー光、又はネオジウム・ガラスレーザー光であることが好ましい(請求項9)。
【発明の効果】
【0010】
本発明の評価方法によれば、真皮層等の皮膚内部におけるコラーゲンの配向を、皮膚のしわを評価するためのパラメーターとして用いることにより、皮膚の伸縮、光老化、又はその複合要因(UV等の露光部における皮膚の伸縮)等、皮膚内部の変化によって生じるしわの状態を、非侵襲的且つ定量的に評価することが可能である。
【0011】
また、皮膚内部に超短パルス光を照射して発生したSHG光の検出結果を用いることにより、皮膚内部のコラーゲンの配向を非侵襲的且つ直接的に評価することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、具体的な実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施の態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない限りにおいて、任意の変更を加えて実施することが可能である。
【0013】
本発明に係る皮膚しわの評価方法(適宜「本発明の評価方法」という。)は、皮膚内部のコラーゲンの配向に基づいて、皮膚におけるしわの状態を評価する工程を含んでなる。
ここで「皮膚内部のコラーゲンの配向」は、好ましくは真皮層のコラーゲンの配向である。真皮層の約70%を占めるコラーゲン線維(真皮コラーゲン線維)は、皮膚の形態や機械的特性(張りや弾性等)を決定する上で重要な役割を果たしており、老化により生じる皮膚のしわの形成や状態に深く関与していると考えられる。
本発明者等は、後述の実施例で示すように、皮膚の伸縮、光老化、又はその複合要因(UV等の露光部における皮膚の伸縮)等の皮膚内部の変化によって生じたしわを有する皮膚では、皮膚のしわに沿って皮膚内部のコラーゲンが配向していることを見出した。この知見を基に、本発明の評価方法では、皮膚内部のコラーゲンの配向の有無及び/又はその方向を測定し、その測定結果に基づいて、皮膚におけるしわの様々な状態の評価を行なう。
具体的に、好適な態様によれば、皮膚におけるしわの状態として、皮膚の伸縮、光老化、又はその複合要因(UV等の露光部における皮膚の伸縮)等の皮膚内部の変化によるしわの形成を評価することができる。即ち、皮膚内部のコラーゲンが皮膚のしわに沿って配向している場合、そのしわが皮膚の伸縮、光老化、又はその複合要因(UV等の露光部における皮膚の伸縮)等の皮膚内部の変化に起因するしわであると判定することができる。
また、別の好適な態様によれば、皮膚内部のコラーゲンの配向状態に基づいて、皮膚にしわが形成される可能性及び/又は方向を予測することもできる。即ち、皮膚にしわが殆ど(或いは全く)存在しない場合でも、皮膚内部においてコラーゲンが一定の方向に配向している場合には、皮膚に今後しわが形成される可能性が高いと判断することができる。また、そのしわの方向は、コラーゲンの配向方向と平行であると予測することができる。
【0014】
皮膚内部におけるコラーゲンの配向を定量的に測定する手法としては、制限されるものではないが、以下に説明するような、第2高調波発生光(SHG(Second Harmonic Generation)光)の検出に基づく手法が挙げられる。
即ち、好適な態様によれば、本発明の評価方法は、皮膚内部に超短パルス光を照射し、発生したSHG光を検出し、その検出結果に基づいて皮膚内部のコラーゲンの配向を測定する工程を更に含んでなる。
SHG光とは、ピークパワーの高い超短パルス光が非中心対象性物質に照射されることによって発生する二次の非線形光学応答であり、通常の反射や散乱等の線形光学応答では、周波数(ω)が変化しないのに対して、SHG光は、周波数が入射光の2倍(2ω)に変換されることが知られている。
皮膚内部に存在するコラーゲン線維の分子は、3重らせん構造の非中心対称性を有するため、特異的にSHG光を発生する生体構成物質として知られている。発生するSHG光の強度は、コラーゲンの濃度や配向等に依存する。このSHG光を検出することにより、皮膚内部におけるコラーゲンの密度、分布、配向等の情報を取得することができる。皮膚内部のコラーゲンは主に真皮層に局在しているので、図1に示すように、皮膚に超短パルス光を照射し、発生する生体SHG光を検出することにより、特に真皮層におけるコラーゲンの密度、分布、配向等の情報を選択的に計測することが可能になる。
即ち、かかるSHG光の検出に基づく手法によれば、皮膚内部のコラーゲン線維分子に固有の非線形光学特性を利用するため、組織染色等が不要であり、生体組織のありのままの状態におけるインビボ(in vivo)での測定が可能である。また、このようして得られるSHG光の強度は皮膚内部のコラーゲンの濃度に依存しているので、その強度情報からコラーゲンの濃度分布を可視化することができる。SHG光の検出は非線形光学効果を利用した手法であるため、極めて高い空間分解能での3次元イメージングが可能である。
【0015】
SHG光を得るために照射する超短パルス光としては、例えば、フェムト秒モード同期レーザー光が挙げられる。フェムト秒モード同期レーザー光は、フェムト秒(10−15秒)オーダーの超短パルスレーザー光であり、非常に高い瞬時ピークパワーを有する。このようなフェムト秒モード同期レーザー光の照射手段は特に制限されない。例としては、チタン・サファイアレーザー、クロム・フォルステライトレーザー、ファイバーレーザー光、ネオジウム・ガラスレーザー等のレーザー光源等が挙げられる。超短パルス光の具体的なパルス長は、通常300fs(フェムト秒)以下、中でも100fs以下が好ましい。下限は特に制限されないが、通常は100fs以上である。パルス幅が短くなればなるほど、SHG光の発生効率は高くなる。
また、超短パルス光としては、近赤外領域の波長を有する超短パルス光を使用することが好ましい。近赤外領域は生体組織における吸収と散乱が少なく、良好な生体透過性を有する波長帯であるため、近赤外超短パルス光を用いれば、レーザー光を皮膚内部に対して表皮越しに入射させて生体SHG光を誘起し、その後方散乱SHG光を表皮越しに検出することができる。その他にも、近赤外超短パルス光を用いれば、バックグラウンド光(拡散反射光、蛍光)との分離が容易である、低侵襲的・深浸透性である、熱的ダメージが小さい等の利点が得られる。
具体的には、超短パルス光の中心波長が、通常700nmから1550nm程度、中でも800nmから1300nm程度、更には1200nmから1300nmの範囲内にあることが好ましい。この観点から、超短パルス光の光源としては、クロム・フォルステライトレーザーが好ましい。クロム・フォルステライトレーザーを用いれば、例えば、中心波長1250nm近傍の超短パルス光を得ることが可能となる。
【0016】
SHG光の検出結果からコラーゲンの配向を把握する具体的な手法としては、検出されたSHG光の偏光異方性に基づいて把握する手法が挙げられる。この手法は、生体におけるSHG光の発生効率が、入射レーザー光の偏光の方向とコラーゲンの配向の方向との関係に強く依存することを利用するものである。
生体SHG光は、コラーゲン線維分子の構造の非中心対称性に起因しているため、コラーゲン線維分子の中心軸、即ち配向状態に敏感である。図2は、生体SHG光の発生に関する入射レーザー光の偏光状態と、コラーゲン線維の配向との関係を示している。図2に示すように、レーザー光がコラーゲン線維の断面方向から入射する場合、あらゆる偏光に対してコラーゲン線維の構造が中心対称性配置となるため、SHG光は発生しない。一方、それ以外の方向からの入射に対しては、コラーゲン線維の構造の非中心対称性により、生体SHG光が発生する。この場合、SHG光の発生効率は、入射レーザー光の偏光とコラーゲン線維の配向との関係に強く依存する。例えば、両者が平行な場合には強い生体SHG光が発生する一方で、直交した場合には非常に微弱となる。よって、かかるSHG光の偏光異方性を解析するにより、コラーゲン線維の配向状態を評価することができる。
【0017】
具体的には、入射レーザー光の偏光方向がコラーゲン線維の配向方向と直交するときに得られるSHG光強度をI、入射レーザー光の偏光方向がコラーゲン線維の配向方向と平行のときに得られるSHG光信号強度をIとすると、SHG光の偏光異方性は、以下の式(I)で定義されるα値によって数値化することができる。
【数1】

上記式(I)で求められるαの値が1に近ければ、入射レーザー光の偏光方向に対してコラーゲン線維が垂直に配向しており、逆に−1に近ければ、入射レーザー光の偏光方向に対してコラーゲン線維が平行に配向しているということになる。従って、このα値を算出して解析すれば、コラーゲン線維の配向を把握することが可能となる。
具体的な解析手法の例を挙げると、例えば、所定の皮膚領域について得られたα値を3次元イメージング化し、得られたα値の3次元イメージから、その皮膚領域の皮膚内部におけるコラーゲンの配向状態の分布情報を抽出することができる。更には、このα値の分布を統計学的に処理することにより、詳細なコラーゲン配向分布を得ることができる。例えば、α値のヒストグラムを作成し、そのヒストグラムのピーク位置から測定領域における平均的なコラーゲン配向方位を、またヒストグラムの分布幅(半値全幅)からコラーゲンの配向がどの程度揃っているかを、それぞれ定量的に評価することが可能になる。また、簡易的にα値の平均値からこれらの評価を行うことも可能である。
上述のように、皮膚のしわ形成に深く関連していると考えられる真皮層のコラーゲン配向を、非接触で高感度に可視化することが可能な手段はこれまで存在しなかったことから、本発明で使用されるSHG光の検出に基づく手法は、皮膚計測においても革新的な手法であると言える。
【0018】
次に、本発明の評価方法を達成するための具体的な態様について説明する。なお、本発明の評価方法は、以下の形態に限定されるものではない。
【0019】
図3は、本発明の評価方法における超短パルス光の照射及びSHG光の検出に使用可能なSHG顕微鏡システムの一例を示す構成概略図である。このSHG顕微鏡システムは、光源1、被検体10を配置するステージ11、光検出器(例えば、光電子増倍管)13、及びコンピューター14を備えている。光源1と被検体10との間には、NDフィルター(neutral density filter)2、偏光子3、位相差板4(例えば、1/2波長板、電気光学変調器など)、ミラー5、ダイクロイックミラー6、ガルバノミラー7、第1レンズ121、第2レンズ122、及び対物レンズ8がこの順序で配置されている。被検体10と光検出器13との間には、対物レンズ8、第2レンズ122、第1レンズ121、ガルバノミラー7、ダイクロイックミラー6、SHG光透過フィルター12がこの順序で配置されている。光検出器13は、コンピューター14と接続している。また、対物レンズ8はピエゾステージ9に取り付けられている。なお、実線Xは入射レーザー光(超短パルス光)、点線Yは反射SHG光を示す。
まず、光源1から超短パルス光Xが出射され、NDフィルター2で適度なレーザー光強度に調節された後、偏光子3並びに位相差板4を通過する。位相差板の種類に応じて得られる偏光は、ミラー5で反射され、ダイクロイックミラー6を透過した後、ガルバノミラー7で反射される。さらに、第1レンズ121と第2レンズ122を通過した後、対物レンズ8によりステージ11上の被検体10に集光される。被検体10で発生したSHG光の後方散乱成分Yを対物レンズ8で集め、入射レーザー光Xと同一の光路を逆に戻す。SHG光Yは、第2レンズ122と第1レンズ121を通過し、ガルバノミラー7で反射される。ダイクロイックミラー6はSHG光Yのみを反射し、SHG光透過フィルター12によってSHG光Yのみが抽出される。抽出されたSHG光Yは、光検出器13で光検出される。そして検出結果がコンピューター14に入力され、イメージング処理が行なわれる。
入射レーザー光は、偏光子3で直線偏光にされた後、位相差板4(例えば、1/2波長板)で任意方向の直線偏光に変換することができる。更に、被検体10上のビームスポットは、ガルバノミラー7、第1レンズ121、及び第2レンズ122によって、被検体10の2次元面内を高速走査することができる。あるいは、ステージ11によって被検体10を2次元面内で走査することもできる。また、対物レンズ8を取り付けたピエゾステージ9によって、ビームスポットを被検体10の深さ方向に走査することも可能である。このようにして、SHG偏光異方性の2次元又は3次元空間分布を分析することが可能となる。
図3に示すシステムにおいて、例えば、ミラー5は必須の構成要素ではなく、適宜省くことができる。また、面内の2次元分布測定が不要の場合には、ガルバノミラー7,第1レンズ121、第1レンズ122を、深さ(光軸)方向の分布測定が不要の場合にはピエゾステージ9を適宜省くこともできる。
【0020】
評価対象となる皮膚は、人間由来のものでもよく、その他の動物由来のものでもよい。また、生体から採取した皮膚組織を測定してもよいが、本発明の測定方法の利点である非侵襲性を生かすためには、生体の皮膚を原位置のまま測定対象とすることが好ましい。
皮膚における測定対象位置も特に制限されず、表皮下の皮膚内部であればよいが、上述のように真皮層のコラーゲンの配向が特にしわと深い関連性を有することから、真皮層を測定対象位置とすることが好ましい。真皮層の深さは生物や身体部位によって大きく異なるが、人間の場合には通常、皮膚表面から0.1mm〜4mm程度の深さである。
【0021】
以上説明した本発明の評価方法によれば、皮膚内部(好ましくは真皮層)におけるコラーゲンの配向を、皮膚のしわを評価するためのパラメーターとして用いることにより、皮膚の伸縮、光老化、又はその複合要因(UV等の露光部における皮膚の伸縮)等の皮膚内部の変化から生じるしわの状態を、非侵襲的且つ定量的に評価することが可能である。
具体的には、皮膚内部(好ましくは真皮層)におけるコラーゲンの配向方向と、皮膚のしわの配向方向との関係を調べることにより、皮膚のしわが皮膚の伸縮、光老化、又はその複合要因(UV等の露光部における皮膚の伸縮)等のによるものか否かを判断するための評価基準とすることができる。
また、皮膚内部のコラーゲンの配向状態に基づいて、皮膚にしわが形成される可能性及び/又は方向を予測することもできる。即ち、皮膚にしわが殆ど(或いは全く)存在しない場合でも、皮膚内部においてコラーゲンが一定の方向に配向している場合には、皮膚に今後しわが形成される可能性が高いと判断することができる。また、そのしわの方向は、コラーゲンの配向方向と平行であると予測することができる。
また、超短パルス光(好ましくはクロム・フォルステライトレーザー光)を皮膚内部に照射して、発生したSHG光の検出結果(特に、SHG光の偏光異方性)を用いることにより、皮膚内部のコラーゲンの配向を非侵襲的且つ直接的に評価することが可能である。
【0022】
本発明の評価方法は、しわ抑制剤(抗しわ剤)の臨床的評価に用いることができる。即ち、光老化によるしわを抑制するために、例えば酸化チタン、酸化亜鉛、パラメトキシ桂皮酸エステル、パラアミノ安息香酸エステル等の各種の紫外線吸収、散乱、遮蔽物質をしわ抑制剤として配合した化粧料(サンスクリーン、サンプロテクト化粧品)や、紫外線によって生じるフリーラジカルによる悪影響を軽減する酸化防止剤等をしわ抑制剤として配合した化粧料等が提案されているが、本発明の評価方法を用いれば、これらのしわ抑制剤がどの程度の効力を有するかを、非侵襲的且つ定量的に評価することが可能である。
また、本発明の評価方法は、しわ抑制剤(抗しわ剤)となる物質のスクリーニングにも用いることができる。即ち、しわ抑制剤の候補となる物質について、それらが実際にしわを抑制する効果を有するか否かを、本発明の評価方法を用いて評価すれば、生体の皮膚を評価系として使用することが可能となり、しわ抑制剤をより確実且つ効率的に選定することが可能となる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
6週齢の雄のヘアレスマウスに、10週間に亘って断続的に紫外線UV−Bを照射した。照射開始時のUV−B強度は40mJ/cmとし、徐々にUV−B強度を上昇させて、照射終了時のUV−B強度は200mJ/cmとした。UV−B照射終了後の16週齢雄ヘアレスマウスの背中皮膚を、光老化マウスの皮膚サンプルとして用いた。また、UV−B照射処理を行なわなかった16週齢雄ヘアレスマウスの背中皮膚を、コントロールマウスの皮膚サンプルとして用いた。
まず、光老化マウス及びコントロールマウスの各皮膚サンプルを目視で観察したところ、コントロールマウスの皮膚サンプルには、目視されるしわは殆ど形成されていないが、光老化マウスの皮膚サンプルには、体の左右方向(頭尾方向に直交する方向)に、特徴的な深いしわが見られた。
【0025】
次に、これらの光老化マウス及びコントロールマウスの各皮膚サンプルを用いて、SHG光に関するデータの測定を行なった。
測定装置としては、図3に示す測定装置を用いた。光源としてはクロム・フォルステライトレーザーを用い、照射する超短パルス光の波長は1250nm、周波数は75MHz、パルス長は90fs(フェムト秒)とした。
各皮膚サンプルの皮膚表面から100μm、150μm、200μm、及び250μmの深さの位置に超短パルス光を照射し、SHG光の検出を行なった。また、各測定部位に対して入射超短パルスレーザー光の偏光方向を変化させてSHG光の信号強度を検出し、超短パルス光の偏光方向が垂直方向で各皮膚サンプルのしわ走行方向と直交な場合(マウスの頭尾方向と平行な場合)に得られたSHG光の信号強度をI、超短パルス光の偏光方向が水平方向で各皮膚サンプルのしわの走行方向と平行な場合(マウスの頭尾方向と直交な場合)に得られたSHG光の信号強度をIとして、上述の式(I)を用いてα値を算出した。
【0026】
コントロールマウス及び光老化マウスの各皮膚サンプルについて、皮膚表面から100μm、150μm、200μm、及び250μmの深さの位置から得られたSHG光のイメージを図4に示す。また、そのSHG光の偏光異方性を表わすα値のイメージ及びヒストグラムを、それぞれ図5及び図6に示す。
【0027】
なお、図4及び図5の何れも、上列の4枚の画像はコントロールマウスの皮膚サンプルから得られたイメージを表わし、下列の4枚の画像は光老化マウスの皮膚サンプルから得られたイメージを表わす。また、各列は左から順に、それぞれ皮膚表面から100μm、150μm、200μm、及び250μmの深さの位置から得られたイメージを表わす。図4及び図5の各画像は何れも、皮膚サンプル上の400μm×400μmの領域に対応する。また、図4及び図5の各画像において、上下方向がマウスの頭尾方向に相当し、左右方向がマウスの頭尾方向に直交する方向、即ちしわの方向に相当する。
【0028】
図4はSHGイメージで、コントロールマウスの皮膚サンプルと光老化マウスの皮膚サンプルのコラーゲン像を検出している。さらに偏光解析を行うことにより同位置のコラーゲンの配向を示した(図5)。
【0029】
一方、図5では、各列右側のグラフに示すように、α値が0の場合を白として、α値が正の値(1に近い値)を取る部分を青色で示し、α値が負の値(−1に近い値)を取る部分を赤色で示すことにより、α値をイメージ化している。
図5のα値イメージから、コントロールマウスの皮膚サンプルが、赤と青が混在した比較的等方的なコラーゲン配向を示しているのに対し、光老化マウスの皮膚サンプルでは全体的に赤く表示されており、水平方向のコラーゲン配向が優位であることが分かる。水平方向のコラーゲン配向はしわの走行方向と一致している。
【0030】
また、図6は、図5の各画像におけるα値のデータを、縦軸をピクセル数、横軸をα値としてヒストグラム化したものである。図6のα値のヒストグラムによれば、コントロールマウスの皮膚サンプルでは、何れの深さにおいてもヒストグラムの中心がゼロ付近に存在するのに対し、光老化マウスの皮膚サンプルでは、ヒストグラムの中心が負の方向(しわの走行方向)にずれていることが分かる。また、光老化マウスの皮膚サンプルにおけるヒストグラムの幅は、コントロールマウスの皮膚サンプルのものと比較すると何れの深さにおいても狭くなっており、光老化マウスの皮膚サンプルの方がコラーゲン配向がよく揃っていることが分かる。
【0031】
以上の結果から、皮膚内部のコラーゲンの配向と、皮膚の伸縮によって皮膚の露光部に生じたしわの方向との間には相関があること、ひいては、皮膚内部のコラーゲンの配向に基づいて皮膚のしわの状態を評価することが可能であることが分かる。
また、皮膚内部のコラーゲンの配向を測定する上で、SHG光の検出に基づく手法が有効であることが分かる。
更には、検出されたSHG光の偏光異方性をα値で表わし、このα値を統計的に処理したヒストグラムが、皮膚内部のコラーゲンの配向を表わす定量的な指標となり、ひいては皮膚におけるしわの状態を表わす定量的な指標としても使用できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の評価方法によって最も直接的な効果を期待できるのは皮膚美容分野であり、特に皮膚老化診断が興味深い。皮膚老化診断は、近年のアンチエイジングや皮膚美容に対する意識の高まりと共に、今後大きな進展が予想される分野である。特に、本発明の評価方法を化粧品関連分野(例えば、抗しわ化粧品)と有機的に融合することができれば、極めて大きな市場(例えば、加齢や日焼けに伴う皮膚のしわや弾力性低下の評価、化粧品・塗薬の効用テストほか)が生成されると期待される。また、今後日本が直面する高齢化社会において老化問題は切実な問題であり、社会ニーズという観点からも皮膚老化診断の需要は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】SHG光の検出に基づく皮膚内部のコラーゲンの配向の測定を説明するための模式図である。
【図2】生体SHG光の発生に関する入射レーザー光の偏光状態と、コラーゲン線維の配向との関係を示す図である。
【図3】本発明の評価方法における超短パルス光の照射及びSHG光の検出に使用可能なSHG顕微測光システムの一例を示す構成概略図である。
【図4】コントロールマウス及び光老化マウスの各皮膚サンプルについて、皮膚表面から100μm、150μm、200μm、及び250μmの深さの位置から得られた、SHG光のイメージである。
【図5】コントロールマウス及び光老化マウスの各皮膚サンプルについて、皮膚表面から100μm、150μm、200μm、及び250μmの深さの位置から得られた、SHG光の偏光異方性から求めたα値のイメージである。
【図6】コントロールマウス及び光老化マウスの各皮膚サンプルについて、皮膚表面から100μm、150μm、200μm、及び250μmの深さの位置から得られた、SHG光の偏光異方性から求めたα値のヒストグラムである。
【符号の説明】
【0034】
1 光源
2 NDフィルター
3 偏光子
4 位相差板
5 ミラー
6 ダイクロイックミラー
7 ガルバノミラー
8 対物レンズ
9 ピエゾステージ
10 被検体
11 ステージ
12 SHG光透過フィルター
13 光検出器
14 コンピューター
121 第1レンズ
122 第2レンズ
X 入射レーザー光
Y SHG光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚内部のコラーゲンの配向に基づいて、皮膚におけるしわの状態を評価する工程を含んでなる、皮膚しわの評価方法。
【請求項2】
前記の皮膚内部のコラーゲンの配向が、真皮層のコラーゲンの配向である、請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
前記の皮膚におけるしわの状態が、皮膚の伸縮によって生じるしわの形成である、請求項1又は請求項2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記の皮膚におけるしわの状態が、光老化によって生じるしわの形成である、請求項1〜3の何れか一項に記載の評価方法。
【請求項5】
前記評価が、皮膚内部のコラーゲンの配向状態に基づく、皮膚にしわが形成される可能性及び/又はその方向の予測である、請求項1又は請求項2に記載の評価方法。
【請求項6】
皮膚内部に超短パルス光を照射し、発生した第2高調波発生光(SHG光)を検出し、その検出結果に基づいて皮膚内部のコラーゲンの配向を測定する工程を更に含んでなる、請求項1〜5の何れか一項に記載の評価方法。
【請求項7】
検出されたSHG光の偏光異方性に基づいて皮膚内部のコラーゲンの配向を測定する、請求項6記載の評価方法。
【請求項8】
超短パルス光がフェムト秒モード同期レーザー光である、請求項6又は請求項7に記載の評価方法。
【請求項9】
超短パルス光が、クロム・フォルステライトレーザー光、チタン・サファイアレーザー光、ファイバーレーザー光、又はネオジウム・ガラスレーザー光である、請求項6〜8の何れか一項に記載の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−236610(P2009−236610A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81503(P2008−81503)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】