説明

皮膚バリア機能評価装置

【課題】 測定用プローブの周囲の気流に影響されることなく、皮膚の水分蒸散から皮膚バリア機能を求める手段を、安価で小型な装置として供給する。
【解決手段】 皮膚密着側のみ解放された湿度センサ内蔵小型カプセルを、皮膚に密着させる前に、まず乾燥空気で満たす。満たす方法としては、測定前にシリカゲル等乾燥剤の入った低湿度容器にプローブのカプセル部分を挿入しておく方法と、乾燥剤容器内空気を何らかの送風手段でカプセルに送り込む方法がある。これにより皮膚密着後、一定の低湿度からの蒸散量変化を得ることができ、皮膚から密閉カプセルへの水分拡散のモデルにより、皮膚バリア機能を評価することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人の皮膚から蒸発する水分量を基に皮膚バリア機能を短時間で評価する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚からの水分蒸散は、皮膚のバリア機能を表す指標としてスキンケア化粧品の効能評価や皮膚移植後の定着・回復の評価として用いられる。その測定方法として例えば、特開2002−263072のように小型カプセルを皮膚に密着させ、内部の湿度を検出すれば良い。
【0003】
しかし生体からの水分蒸散は環境湿度に依存する。例えば湿度の高い環境下では皮膚のバリア機能の良好・不調に関わらず蒸散量変化は小さい。バリア機能評価にはまず常に一定の湿度環境を皮膚に接触させたときの水分蒸散量の測定が必要である。従って従来の水分蒸散量測定装置は環境湿度に対する配慮が無いために、このままでは皮膚バリア機能評価に適用できない。
【0004】
皮膚に密着させたカプセル内に空気を供給しながら湿度を測ることで蒸散量を求める方法も考案されている(特許第3294528号、特許第3569215号、特許第3559993号)。この供給空気を低湿度で一定に保てば、バリア機能を評価できる可能性がある。しかしこの方法では供給空気を逃す通路としてカプセルの上面を解放しなければならず、周囲の気流の影響を受けやすい。また測定中の空気供給維持の必要性を考えれば、原理上、小型化および低価格化が難しいことは明白である。
【発明の開示】

【解決しようとする課題】
【0005】
皮膚バリア機能を簡便な操作で評価する安価な装置。
【課題を解決するための手段】
【0006】
皮膚の被測定部位において、一定の湿度環境を設定するために密閉空間(皮膚接触側が解放されたカプセル)を作る。そのカプセルには測定前にあらかじめ一定湿度の乾燥空気を充満させておくことで、皮膚蒸散は常にほぼ同じ初期環境湿度から始まることになる。
【0007】
上記のカプセルを皮膚に密着させたときのカプセル内湿度を経時的に測定し、蒸散が生体側と外部環境との湿度差による単純拡散であることを仮定して蒸散量変化を求め、特定の環境湿度に対する蒸散量をもってバリア機能指標(バリア能)とする。
【発明の効果】
【0008】
上記の手段を取ることにより、カプセル、小型湿度センサ、乾燥空気製造のためのシリカゲルといった安価な部品を用いて一定環境湿度に対する皮膚水分蒸散量の測定、さらには皮膚バリア能の評価が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
安価な部品で簡便に上記発明を実施する手段として、二つの方法が考えられる。一つは小型湿度センサを内包したカプセルを、乾燥空気を作り出すシリカゲル容器に直接差し込み、カプセル内を一定湿度まで下げた後、皮膚に密着させる方法である。
【0010】
他の一つは、同じく小型湿度センサを内包したカプセルに乾燥空気を送り込む通路を設け、カプセル内が一定湿度まで下がった後に通路を閉じ、皮膚に密着させて測定を開始するものである。
【0011】
上記二法のうちいずれかによりカプセルを皮膚に密着させた後、カプセル内の湿度上昇を、内部に装着した小型湿度センサにより測定し、上昇曲線から水分蒸散量を算定する。
【実施例】
【0012】
図1に第一の方法を示す。この方法では、測定前にプローブAの先端を、シリカゲルを収納した低湿度容器Bに挿入し、温湿度センサ4を内蔵するカプセル5の湿度を下げておく。
【0013】
プローブAを皮膚に押し当てるとき以外は、コイルバネ3によって可動円筒6が押し出されている。これは低湿度容器Bからプローブを取り出したとき、カプセル内の湿度が急激に外部環境湿度に戻ることを防ぐ目的のために、カプセル容積を一時的に倍増させている。
【0014】
図2に第二の方法を示す。この方法では、測定直前に送風用ゴム球11でシリカゲルカートリッジ10に空気を送り、乾燥空気を一方向空気弁9を介してカプセル5へ送る。一方向空気弁は電磁弁等も考えられるが,安価に達成するにはゴム製のダックビル弁(空気圧が掛かったときだけ開くゴム製の弁)で十分である。送風後、皮膚に密着させると、蒸散量を測定できる。この方法における送風法はゴム球に限らず、注射器のようなピストン−シリンダー方式、ないしは小型電動空気ポンプによる方式でも良い。
【0015】
第一の方法においても第二の方法においても、シリカゲルが作り出す乾燥空気の湿度には限度があるので、カプセル内湿度は毎回ほぼ同じレベルから立ち上がることになる。もしあらかじめ決めておいた数値まで湿度が下がらない場合は、シリカゲルを交換するように警告を発するように、信号処理回は設計される。
【0016】
第一の方法においても第二の方法においても、応答を出来る限り早めるために、カプセルは小さく設計する。そのため皮膚との距離が短くなり、体温によってカプセル内温度が次第に増加するので、相対湿度を得るセンサの場合は、温度を同時に測定して飽和水蒸気圧で補正し絶対湿度を計測する。
【0017】
第一または第二の方法により得られるカプセル内湿度の経時変化から皮膚バリア能を評価する方法は以下の通りである。
まずカプセル内湿度を時間tに依存する量x(t)、皮膚側の仮想湿度をW(≒100%)とすると、蒸散はこの差による拡散として生じるので次式で表される。
K・dx(t)/dt+x(t)=W (1)
ここでKは拡散の係数で、
K=V・L/(P・A) (2)
V;カプセルの体積、A;測定面積、L;拡散距離、P;皮膚の透過係数となる。Lは皮膚の厚みと等価なものであるが測定不能なので、
B=L/P (3)
をもって皮膚バリア能とする。
式(1)を解くと
x(t)=(X0−W)・exp(−t/K)+W (4)
X0:カプセルの初期湿度
となる。カプセル内湿度の経時変化x(t)を測定し、最小二乗法により式(4)に外挿することで、X0、K、Wが求まる。皮膚バリア能は、Kの値より式(2)、(3)を用いて求める。
【0018】
実際の測定例を図3に示す。図3(a)、(b)とも頬の測定であるが、(a)は健常部位、(b)は(a)に比べやや肌荒れぎみの部位である。これらの曲線を最小二乗法により上記式(4)にフィットさせると、相関係数0.99で外挿でき、そのときの係数は表の通りである。これより(a)、(b)それぞれのバリア能B(式(3))は17.5、11.2と評価される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】皮膚バリア能評価プローブと測定前の乾燥空気充填方法(第一法)
【図2】皮膚バリア能評価プローブと測定前の乾燥空気充填方法(第二法)
【図3】実際の測定例−(a)皮膚バリア機能が高い例、(b)皮膚バリア機能が低い例
【符号の説明】
【0020】
1 表示器
2 信号処理回路
3 コイルバネ
4 温湿度センサ
5 皮膚接触側を解放したカプセル
6 可動円筒
7 回転蓋
8 シリカゲル
9 一方向空気弁
10 シリカゲルカートリッジ
11 送風用ゴム球
A 皮膚バリア機能評価プローブ
B 低湿度容器
C 空気の流れを示す矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に接触させるカプセル内に温湿度センサを配置し、同カプセル内に乾燥空気を充満させる手段を有し、毎回、ほぼ一定の低湿度環境に皮膚を接触させることにより皮膚バリア機能を評価する装置。
【請求項2】
温度補正によりカプセル内の絶対湿度経時変化を求め、その絶対湿度変化データを、皮膚からカプセルへの水分拡散をモデルとした理論式に適用し、皮膚バリア能を求めることを特徴とする装置。
【請求項3】
測定開始前に、カプセル内をあらかじめ定めた湿度まで下げられない場合、シリカゲル等の乾燥剤を交換するよう表示や音で警告を発する皮膚バリア機能評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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