説明

皮膚刺激の少ない経皮吸収型製剤

【課題】薬物及び経皮吸収促進剤を含有する経皮吸収型製剤において、皮膚刺激のメカニズムに基づき、薬効成分由来の皮膚刺激を効率よく低減できる経皮吸収型製剤を提供すること。
【解決手段】支持体とその上に粘着基剤、粘着付与樹脂、経皮吸収促進剤及び薬効成分を含有する粘着剤層を設けてなる経皮吸収型製剤であって、該経皮吸収促進剤の含有量が該薬効成分の含有量の2乃至3倍量(質量)であり、さらに、該粘着剤層の厚さが20乃至80μm、該薬効成分が抗炎症剤の場合には厚さ30乃至70μmである、経皮吸収型製剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬効成分及び経皮吸収促進剤を含有する皮膚刺激の少ない経皮吸収型製剤に関する。詳細には、本発明は、薬効成分として抗炎症剤、さらに詳しくはロキソプロフェンを含有し、経皮吸収促進剤としてパルミチン酸イソプロピルを含有する皮膚刺激の少ない経皮吸収型製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
経皮吸収型製剤は一般に、柔軟性のある支持体の片面に、薬効成分の他に、効率的な経皮吸収を為すための経皮吸収促進剤を含有する粘着剤層が形成された構成を有してなる。
こうした従来の経皮吸収型製剤に含有される薬剤の多くは、本来、皮膚からの投与を目的としてデザインされておらず、経皮投与時に製剤の有効性を確保しうる水準には血中濃度を高める必要があり、製剤を貼付した個所が局所的に非常に高い薬剤濃度とならざるを得ない。このため、発赤などの刺激性接触皮膚炎が発現することが多く、その殆どは数時間で消失する一時的な炎症ではあるものの、2乃至3日間、あるいは1週間以上も発赤が続く場合も少なからず存在する。
【0003】
そこで、経皮吸収型製剤の皮膚刺激を回避する手段の案出は、従来より当業者における継続的な課題となっており、これまでに各種技術の提案が為されている。
例えば特許文献1には、一般的な皮膚刺激の低減のために配合されるグリチルレチン酸やその塩類は、消炎鎮痛薬により発生する独特の皮膚刺激を低減させるには十分なものではないとし、アントラニル酸系、フェニル酢酸系、インドール系、プロピオン酸系、ピラゾロン系、ベンゾサイアジン系およびスルホンアミド系等の消炎鎮痛薬配合の外用組成物において、皮膚刺激の低減を目的として生薬成分を配合することにより、消炎鎮痛効果を有し且つ皮膚刺激が発生しないものとしたところの消炎鎮痛薬配合外用組成物が開示されている。
また、薬効成分が主原因となる皮膚障害に対する技術として、薬物と該薬物の代謝を調節しうる代謝調節剤を含む組成物による、経皮投与される感作性または刺激性薬物の代謝または主体内変換によって生ずる感作または刺激の調節、軽減又は除去する方法(特許文献2)並びに、皮膚刺激性を有する薬剤/浸透促進組成物に起因する皮膚刺激を抑制する方法(特許文献3)などの開示がある。
【0004】
一方、効率的な経皮吸収を目的としたものとしては、ロキソプロフェンを有効成分とする消炎鎮痛外用製剤において、溶解剤としてクロタミトンを配合することにより、ロキソプロフェンの経皮吸収速度、経皮吸収量の増大および持続的な供給が可能となったとする開示がある(特許文献4)。
【特許文献1】特開平10−182428号公報
【特許文献2】特開平2−96514号公報
【特許文献3】特開平2−115131号公報
【特許文献4】特開平10−120560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら公報に示された従来技術には、皮膚刺激の低減にあたり新たな物質を添加するなど構成が複雑になる問題があった。また、そもそも皮膚刺激の発生が薬剤の皮膚透過の過程でどの因子と関係するのかが明らかにされておらず、皮膚刺激の低い経皮吸収型製剤を有効確実に作製することは困難であった。
【0006】
本発明は上記問題点を鑑みてなされたものであって、薬物及び経皮吸収促進剤を含有する経皮吸収型製剤において、皮膚刺激のメカニズムに基づき、薬剤由来の皮膚刺激を効果的に低減できる製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは経皮吸収型製剤において、製剤適用期間の終了時(剥離直前)に製剤中の薬効成分の濃度が枯渇状態に近づいていること、すなわち、製剤中の薬効成分の濃度が低下し、実質的に薬剤の皮膚透過量も低下している状態にあることが、製剤適用期間の終了後(剥離後)における皮内の薬効成分の放出をより速やかなものとし、これにより薬効成分による皮膚刺激の低減が可能となることを見出した。
そして上記の作用を為すには、薬効成分の含有量に比べて2乃至3倍量の経皮吸収促進剤を配合し、且つ、粘着剤層の厚さを20乃至80μmと為す構成により実現できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、支持体とその上に粘着基剤、粘着付与樹脂、経皮吸収促進剤及び薬効成分を含有する粘着剤層を設けてなる経皮吸収型製剤であって、該経皮吸収促進剤の含有量が該薬効成分の含有量の2乃至3倍量(質量)であり、さらに、該粘着剤層の厚さが20乃至80μmであることを特徴とする、経皮吸収型製剤に関する。
【0009】
また本発明は、支持体とその上に粘着基剤、粘着付与樹脂、経皮吸収促進剤及び薬効成分として抗炎症剤を含有する粘着剤層を設けてなる経皮吸収型製剤であって、該経皮吸収促進剤の含有量が該抗炎症剤の含有量の2乃至3倍量(質量)であり、さらに、該粘着剤層の厚さが30乃至70μmであることを特徴とする、経皮吸収型製剤に関する。
【0010】
さらに本発明は前記粘着剤層において、該粘着剤層の総質量に対して粘着基剤25乃至60質量%、粘着付与樹脂15乃至60質量%、経皮吸収促進剤0.2乃至40質量%及び薬効成分0.1乃至20質量%を含有することを特徴とする、経皮吸収型製剤に関する。
また本発明は前記粘着剤層において、該粘着剤層の総質量に対して粘着基剤25乃至60質量%、粘着付与樹脂15乃至60質量%、経皮吸収促進剤2乃至30質量%及び抗炎症剤1乃至15質量%を含有することを特徴とする、経皮吸収型製剤に関する。
そして、上記経皮吸収型製剤において、前記粘着基剤がスチレン系熱可塑性エラストマーであり、前記粘着付与樹脂がロジン系樹脂であり、前記前記経皮吸収促進剤が脂肪酸エステルであることが望ましい。
【0011】
そして、製剤適用期間の終了時の薬効成分の皮膚への透過速度が、製剤適用期間における皮膚への透過速度の最高値と比べて20%以上低下している、経皮吸収型製剤に関する。
また、前記薬効成分が前記粘着剤層内で溶解された状態にあるか、或いは結晶状態にあり、結晶状態にある場合には、該結晶が経皮吸収型製剤の適用期間内に消失することが望ましい。
【0012】
加えて、前記抗炎症剤がロキソプロフェンであり、好ましくは前記経皮吸収促進剤がパルミチン酸イソプロピルである経皮吸収型製剤に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の経皮吸収型製剤は、粘着剤層中の経皮吸収促進剤の配合量を薬物の配合量の2乃至3倍量とし、且つ粘着剤層の厚さを一定の範囲内とすることにより、貼付時間中(製剤適用時)、経皮吸収促進剤は枯渇することなく粘着剤層中に存在し、一方、薬効成分は徐々に皮内に放出されて粘着剤層中の薬効成分は枯渇状態に近づき、単位時間当たりの皮
膚透過量が減少する。
このように、本発明の経皮吸収型製剤は、貼付後所定の時間経過後に薬効成分の皮膚透過量が徐々に減少する構成を為すことで、皮内の薬効成分の濃度もまた徐々に低下し、製剤の剥離直前には濃度を格段に低く(実質濃度0に近づく)することができる。そして経皮吸収促進剤により、表皮内の薬効成分は速やかに真皮へ移行することとなり、結果、薬効成分による皮膚刺激を低減することが可能となる。
すなわち、本発明の経皮吸収型製剤は、含有する各種薬効成分による皮膚刺激、特に製剤適用期間の終了後(剥離後)に起こる皮膚刺激を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をその完成に至る経緯を含め詳細に説明する。
従来、経皮吸収型製剤を貼付することによる皮膚刺激は、急性刺激や遅延性刺激など、製剤適用時(患部への貼付時)の問題として考えられてきた部分が多い。しかし、製剤適用個所(患部)である表皮には、製剤除去(剥離)後も薬効成分がしばらく留まるため、結果として製剤適用時同様、場合によってはむしろそれ以上に刺激が発現する可能性がある。
そこで本発明者らは、製剤除去後における適用個所の皮内の薬物動態を把握することが刺激発現の予測に非常に重要であるとして、モルモットの腹部摘出皮膚を用いたin vitroの皮膚透過性試験、並びに、製剤除去後の皮膚からの薬効成分の放出試験によりその薬物挙動を調べ、同時に色彩色差計でモルモットの腹部に出現した紅斑を測定することにより皮膚刺激性(発赤度)を評価し、薬物動態と皮膚刺激の関連について検討を行った。
その結果、皮膚刺激性(発赤度)は、製剤適用時の薬効成分の累積透過量とは必ずしも相関せず、製剤除去後の皮膚からの薬効成分の放出(消失)速度に相関する傾向が認められた。
一方、経皮吸収促進剤の添加は、たとえそれが薬効成分の皮膚透過にはあまり影響を与えない(皮膚透過を殆ど促進しない)少量の添加量であっても、皮内への薬効成分の溶解度を高め、その結果、薬効成分の貯留量を増加させることから、皮膚刺激の発現につながる場合があることも見出された。
したがって、経皮吸収促進剤を含有する経皮吸収型製剤において、貼付された製剤の剥離後における皮内の薬効成分の放出速度を、相対的により早いものとすることが必要とされた。
【0015】
ここで本発明者らは、貼付された経皮吸収型製剤の経皮吸収促進剤/薬効成分の濃度比が、従来のこの種の製剤の場合よりも相対的に高いとき、経皮吸収型製剤の剥離後における皮内の薬効成分の放出が迅速に進むものとし、製剤適用期間の終了時点で製剤中に薬効成分が枯渇状態に近づいていることがより好ましい結果の実現につながることを見出した。
そして本発明者らは、斯かる関係を明確にすべく更に研究を進め、その結果、経皮吸収促進剤の配合量を薬効成分の配合量と比して2乃至3倍量とし、かつ粘着剤層の厚さを20乃至80μmの範囲とすることで、製剤除去後に皮内に残存する薬効成分を速やかに消失させ、皮膚刺激の低減を可能にすることができることを見出した。
以上が本発明を完成するに至った経緯である。
【0016】
本発明の経皮吸収型製剤は支持体の表面に粘着剤層を設け、該粘着剤層の上に通常その全面を覆うように剥離ライナーを貼り合わせてなる経皮吸収型製剤であり、以下に本発明の各構成要素及びその機能に関してさらに説明する。
なお本発明において「粘着剤層全質量基準」とは、粘着基剤、粘着付与樹脂、経皮吸収促進剤、薬効成分およびその他の成分(抗酸化剤、充填剤、防腐剤、紫外線吸収剤など)からなる粘着剤層構成成分の全質量を基準とすることを意味するものとする。但し、希釈
塗工のために用いた有機溶媒などは含まれない。
【0017】
1)粘着剤層
本発明の経皮吸収型製剤における粘着剤層は、粘着基剤、粘着付与樹脂、経皮吸収促進剤、薬効成分を必須の成分として含む。
また所望により、経皮吸収型製剤の粘着剤層に一般に用いられる以下に述べるようなその他添加剤をさらに含むことができる。
【0018】
(1)粘着基剤
本発明の経皮吸収型製剤の粘着剤層に含まれる粘着基剤としては、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエンゴム、シリコーンゴム、アクリル系ポリマー(ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、酢酸ビニル、メタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、メトキシエチルアクリレートおよびアクリル酸のうちの少なくとも2種類の共重合体)、天然ゴム、ポリウレタン系ゴムなどの各種合成ゴム系エラストマーを挙げることができるが、特に好ましいものとしてスチレン系熱可塑性エラストマーを挙げることができる。
このうち、凝集性、皮膚付着性、耐候性、耐老化性、耐薬品性の観点からスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(以下、SISブロック共重合体という)を用いることが最も好ましい。
さらに所望により、上記SISブロック共重合体に加えて、その他の合成ゴム系エラストマー、例えばポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブテンなどを組み合わせて用いることもできる。
【0019】
上記スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、及び所望によりその他の合成ゴム系エラストマーの配合量は、粘着剤層全質量基準で好ましくは25乃至60質量%であり、より好ましくは30乃至50質量%である。配合量が上記範囲の下限を下回ると、粘着基剤の凝集力や保型性等が低下する傾向にあり、上記範囲の上限を上回ると粘着基剤の凝集力が増加して粘着力の低下や作業性の低下等を招き易くなる傾向にある。
【0020】
上記SISブロック共重合体及びその他の合成ゴム系エラストマーの具体的な市販品の例としては、SIS5000、SIS5002(JSR(株)製 SISブロック共重合体)、ニポールIR−2200(日本ゼオン(株)製 ポリイソプレンゴム)、ビスタネックスMML−80(エクソン化学(株)製 ポリイソブチレン)、HV−300(新日本石油化学(株)製 HV−300)などが挙げられ、これらを好適に用いることが好適である。
【0021】
(2)粘着付与樹脂
前記SISブロック共重合体からなる粘着基剤に適度な粘着性を付与する粘着付与樹脂としては、石油系樹脂(脂肪族炭化水素樹脂、脂環族炭化水素樹脂)、テルペン樹脂、ロジン系樹脂、テルペンフェノール樹脂、クマロン樹脂、キシレン樹脂、スチレン樹脂などが挙げられる。これらの粘着付与樹脂はそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、本発明において、粘着力を向上する目的としては、ロジン系樹脂又は石油系樹脂を用いることが好ましい。
【0022】
上記ロジン系樹脂としては、天然樹脂ロジン、変性ロジン、ロジンエステル(ロジングリセリンエステル、ロジンペンタエリスリトールエステルなど)、水添ロジンエステル(水添ロジングリセリンエステル、水添ロジンペンタエリスリトールエステルなど)が挙げられ、中でも皮膚刺激性、耐老化性の観点から水添ロジンエステルが好ましく、水添ロジ
ングリセリンエステルが特に好ましい。
ロジン系樹脂の具体的な市販品の例としては、エステルガムH(荒川化学工業(株)製)、パインクリスタルKE−100、KE−311(荒川化学工業(株)製)などが挙げられ、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
上記石油系樹脂としては、C5系合成石油樹脂、C9系合成石油樹脂、ジシクロペンタジエン系合成石油樹脂などが挙げられる。このような石油系樹脂の具体的な市販品の例としては、アルコンP−90、アルコンP−100、アルコンP−125(荒川化学工業(株)製、脂環族飽和炭化水素樹脂)などが挙げられ、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
なお、本発明に係る粘着剤層は、上記の粘着付与樹脂に加えて他の種類の粘着付与剤(テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂など)を更に含有していてもよい。
【0025】
これら粘着付与樹脂の配合量は、粘着剤層全質量基準で15質量%乃至60質量%であり、好ましくは20質量%乃至50質量%である。配合量が上記範囲未満では長時間の貼付を可能とする十分な粘着力が得られず、他方、上記範囲を超えると薬効成分の放出性の低下や剥離時の痛みが発生し、皮膚のかぶれが発生し易くなる傾向にある。
【0026】
(3)薬効成分
本発明に係る粘着剤層は、上記粘着基剤および粘着付与剤に加えて薬効成分を含有する。本発明に適用可能な薬効成分としては、経皮吸収されるものであればその種類は特に限定されないが、例えば抗炎症剤、筋弛緩剤、強心剤、循環器官治療剤、抗アレルギー剤などが挙げられる。
中でもサリチル酸、ジクロフェナク、ロキソプロフェン、ケトプロフェン、イブプロフェン、フェルビナク、フルルビプロフェン、インドメタシン、ケトチフェン、オキシブチニン、フェンタニルおよびそれらの薬学的に許容できる塩からなる群から選択される抗炎症剤が好適であり、その中でもロキソプロフェンが最も好ましい。
上記薬効成分の薬学的に許容できる塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム化合物の塩などが挙げられ、具体的にはナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニア、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、テトラメチルアンモニウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどとの塩が挙げられる。
なお、上記薬効成分、例えばロキソプロフェンはフリー体の形態または塩の形態で粘着剤層中に存在し、塩の形態で存在する場合には塩基性の添加物を加えて薬効成分の一部又は全部をフリー体の形態に変換した後、使用することが望ましい。このとき使用する塩基性の添加物の例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、硫酸マグネシウム、酢酸塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等が挙げられる。
【0027】
上記薬効成分の配合量は、薬理効果を発揮し、経皮吸収型製剤化が可能であるかぎり特に制限はないが、粘着剤層全質量基準で好ましくは0.1乃至20質量%であり、より好ましくは1乃至15質量%である。
また、ロキソプロフェンを配合する場合には、粘着剤層全質量基準で5乃至15質量%にて配合することが好適である。
上記薬効成分はそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
上記薬効成分は粘着剤層内において溶解された状態にある。この場合、薬効成分をポリオキシエチレンアルキルエーテル、炭酸プロピレン、クロタミトンなどの溶解剤を用いて溶解し、粘着剤層に添加することが望ましい。上記溶解剤を用いる場合、その使用量は、
粘着剤層全質量基準で好ましくは0.1乃至30質量%、より好ましくは0.5乃至20質量%である。
あるいは、上記薬効成分は結晶状態にあり、すなわち、粘着剤層内で薬効成分の結晶が析出した状態にある。その場合、経皮吸収型製剤の適用期間内(剥離前)に結晶が消失することが望ましい。
【0029】
(4)経皮吸収促進剤
本発明の貼付剤においては、粘着剤層に経皮吸収促進剤をさらに含有する。配合される経皮吸収促進剤としては、従来皮膚での吸収促進作用が認められている化合物のいずれでも良く、具体的にはカプリル酸、カプリン酸、カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、セチルアルコール、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ラウリン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸セチル、サリチル酸メチル、サリチル酸エチレングリコール、ケイ皮酸、ケイ皮酸メチル、クレゾール、乳酸セチル、乳酸ラウリル、酢酸エチル、酢酸プロピル、ゲラニオール、チモール、オイゲノール、テルピネオール、L−メントール、ボルネオロール、d−リモネン、イソオイゲノール、イソボルネオール、ネロール、dl−カンフル、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノカプレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ショ糖モノラウレート、ポリソルベート20、プロピレングリコールモノラウレート、プロピレングリコールモノカプリレート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、オリーブ油、n−メチル−2−ピロリドン、dl−カンフル、ハッカ油などが挙げられる。上記化合物のうち、特に脂肪酸エステル類を採用することが望ましい。
上記経皮吸収促進剤はそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
なお配合される上記薬効成分がロキソプロフェンの場合、経皮吸収促進剤としてパルミチン酸イソプロピルを用いることにより、薬効成分の皮膚透過性がより向上する傾向にあることから好適に用いられる。
【0030】
上記経皮吸収促進剤の配合量は前記薬効成分の配合量の2乃至3倍量(質量)であるが、粘着剤層全質量基準で0.2乃至40質量%であり、より好ましくは2乃至30質量%である。
また、ロキソプロフェンと共にパルミチン酸イソプロピルを配合する場合には、粘着剤層全質量基準で15乃至30質量%を配合することが好適である。
【0031】
本発明の経皮吸収型製剤において、上記経皮吸収促進剤の配合量は、前記薬効成分の配合量の2乃至3倍量(質量)である。該経皮吸収促進剤の配合量が上記範囲を下回ると、薬効成分の皮膚透過を迅速に促進しない反面、皮内の薬効成分の貯留量を増加させることとなり、製剤適用期間の終了後(剥離後)にも速やかに薬効成分が放出されずに強い皮膚刺激が生ずる場合がある。また上記範囲を超えて添加しても、薬効成分の皮膚への透過の促進には限界があり、所望の効果は得られない。
【0032】
(5)その他添加剤
本発明の経皮吸収型製剤の粘着剤層には、上記成分の他に、以下に挙げる抗酸化剤、軟化剤、充填剤、架橋剤、防腐剤、紫外線吸収剤等をさらに含むことが出来る。
上記抗酸化剤として、トコフェロール及びこれらのエステル誘導体、アスコルビン酸、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、ノルジヒトログアヤレチン酸、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸イソプロピル等を好適な
ものとして挙げることができる。
上記軟化剤としては、流動パラフィン、石油系オイル(パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等)、スクワラン、スクワレン、植物系オイル(オリーブ油、ツバキ油、ひまし油、トール油、ラッカセイ油等)、シリコーンオイル、二塩基酸エステル(ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等)、液状ゴム(ポリブテン、液状イソプレンゴム等)、サリチル酸グリコール等が挙げられ、中でも流動パラフィンを好適に用いることができる。
上記充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸塩(例えば、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸アルミニウム等)、ケイ酸、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜鉛酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等の無機充填剤が望ましい。
上記架橋剤としては、アミノ樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、有機系架橋剤、金属又は金属化合物等の無機系架橋剤を挙げることができる。
また、上記防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等が望ましい。
さらに上記紫外線吸収剤としては、p−アミノ安息香酸誘導体、アントラニル酸誘導体、サリチル酸誘導体、クマリン誘導体、アミノ酸系化合物、イミダゾリン誘導体、ピリミジン誘導体、ジオキサン誘導体等が望ましい。
【0033】
上記その他添加剤を配合する場合、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
またその配合量(その他添加剤合計の配合量)は、充分な透過性や貼付剤としての充分な凝集力の維持などを考慮し、粘着剤層全質量基準で好ましくは1乃至55質量%であり、より好ましくは10乃至50質量%にて適宜配合される。
【0034】
(6)粘着剤層の厚さ
上記の諸成分を用いて形成される本発明の経皮吸収型製剤に係る粘着剤層の厚さ(後述する支持体及び剥離シートの厚さは含まない)は20乃至80μmであり、薬効成分として抗炎症剤を含有する場合には30乃至70μmである。いずれの場合も厚さ40乃至60μmとすることがより好ましい。
粘着剤層の厚さが上記に定めた範囲の下限未満では粘着性や付着性の持続が低下する傾向にある。また、粘着剤層の厚さが上記に定めた範囲の上限を超えると、経皮吸収促進剤が薬効成分含有量の2乃至3倍量添加されたとしても、製剤適用期間の終了時において製剤中の薬効成分が枯渇状態に近づかず、皮膚透過量が殆ど減少していないため、製剤適用期間の終了後(剥離後)にも皮内に薬効成分が多量に残留し、発赤が現れる傾向にある。
【0035】
なお、本明細書における「製剤適用期間」とは、経皮吸収型製剤の製剤設計において貼付時間として定められる時間を指す。消炎鎮痛貼付剤にあっては、12時間や24時間が一般的な貼付時間であるので、それらの時間が該貼付剤の製剤適用期間となる。そして本明細書の経皮吸収型製剤にあっては、この製剤適用期間(貼付時間)内に皮内の薬物の血中濃度が所望の値となるように、かつ製剤適用終了時の薬効成分の皮膚への透過速度が製剤適用期間における皮膚への透過速度の最高値と比較して20%以上低下するように製剤設計が行われる必要がある。
【0036】
2)支持体
本発明の経皮吸収型製剤は、粘着基剤(SISブロック共重合体など)、粘着付与樹脂(ロジン系樹脂など)、経皮吸収促進剤(パルミチン酸イソプロピルなど)及び薬効成分(ロキソプロフェンなど)、さらに必要に応じてその他添加剤を配合して得られた混合物(粘着剤)を適当な剥離ライナー上に塗布し、その上から適当な支持体を貼り合わせ、必
要により適当な大きさに切断して、最終的な製品とすることができる。
上記支持体は、粘着剤層の薬効成分の放出に影響を与えず、また、患部への追従性ならびに貼付時の自己支持性などを加味して、柔軟性、伸縮性ならびに厚さなどを考慮し、目的に応じて適宜選択する。
【0037】
このような支持体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン等の合成樹脂フィルム、シート、シート状多孔質体、シート状発泡体、織布、編布又は不織布;紙;これらの積層体等が挙げられる。これらの中でも伸縮性の点では不織布、織布及び編布が、使い勝手のよさの面では透明性を有するプラスチックフィルムが好ましい。
用いる支持体の厚みは、伸び、引張り強さ、作業性などの物理的性質や貼付時の感触や患部の密閉性、薬物の支持体への移行等を考慮して適宜選択可能であるが、10μm乃至300μmの範囲で形成されるのが好ましい。
また上記支持体は、所望により撥水処理や、粘着剤層との密着性を改善する目的にてプライマー処理を施すこともできる。
【0038】
3)剥離ライナー
本発明の経皮吸収型製剤に用いられる剥離ライナーは、粘着剤層からの容易な剥離性、通気性、通水性ならびに柔軟性などを考慮して、目的に応じて適宜選択する。好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、無延伸ポリプロピレン(CPP)、延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等のプラスチックフィルムや、合成樹脂、合成紙、合成繊維等にシリコーン加工したシリコーン加工紙、アルミ箔、クラフト紙にポリエチレン等をラミネートしたラミネート加工紙等の無色又は着色したシートを用いることができる。
また剥離ライナーは、30μm乃至100μm、好ましくは40μm乃至80μmの範囲の厚さにて用いられることが好ましい。
【0039】
4)経皮吸収型製剤の製法
本発明の経皮吸収型製剤は一般的な経皮吸収型製剤の製造方法である溶液塗工法より製造することができる。
溶液塗工法では、まずはじめに、SISブロック共重合体(粘着基剤)、ロジン系樹脂(粘着付与樹脂)、パルミチン酸イソプロピル(経皮吸収促進剤)及びロキソプロフェン(薬効成分)、さらに所望により抗酸化剤、軟化剤、充填剤、架橋剤、防腐剤、紫外線吸収剤などを、上記所定の割合になるようにヘキサン、トルエン、酢酸エチル等の有機溶剤に添加し、攪拌して均一な溶液を調製する。これら有機溶媒にて調製した溶液中の固形分濃度は、好ましくは20乃至60質量%、より好ましくは30乃至50質量%である。
次に、各成分を含有する上記溶液を、例えばナイフコーター、コンマコーター又はリバースコーターなどの塗工機を用いて、剥離ライナー(シリコーン処理したポリエステルフィルムなど)上に均一に塗布し、乾燥して粘着剤層を完成させ、該層の上に支持体をラミネートすることにより、経皮吸収型製剤を得ることができる。支持体の種類によっては、支持体に粘着剤層を形成した後、粘着剤層の表面に剥離ライナーをラミネートしても良い。
このようにして得られた経皮吸収型製剤は、使用用途に応じて楕円形、円形、正方形、長方形などの形状に適宜裁断する。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものでない。なお実施例中、「%」「部」とは、特に断りのない限りそれぞれ「
質量%」「質量部」を意味するものである。
【0041】
以下の実施例及び比較例で用いた薬効成分、経皮吸収促進剤、合成ゴム系エラストマー、粘着付与樹脂及び酸化防止剤を以下の表1に、また、配合割合及び形成した粘着剤層の厚さを表2に示す。
なお、実施例及び比較例の経皮吸収型製剤の作製にあたって、以下の手順に従ってロキソプロフェンナトリウム(市販品)をフリー体(ベース体)化し、ロキソプロフェンとして用いた。
【0042】
[LP−Naのベース体化]
500mmLの分液ロートに、ロキソプロフェンナトリウム30gを入れ、300mLの精製水で溶解し(pH8)、1N塩酸8.7mLを加え、pH試験紙を用いてpH3であることを確認した。次にクロロホルム100mLで抽出してクロロホルムを分取し、硫酸マグネシウムを適量加え、ろ過後、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去した。残った油状物質にトルエンを5mL加え、5℃に密封して一晩保存し、折出した結晶をろ過し乳鉢で細粉後、デシケーターで乾燥後、ベース体を得た(収率78.6%)。
【0043】
【表1】

【表2】

【0044】
[経皮吸収型製剤の作製]
表1の各物質及び表2の配合割合にて各成分を均一に混合し、固形分が40%となるようにトルエンを加え、ステンレス製撹枠翼を用いて均一に溶解し、粘着剤溶液とした。次に少量のメタノール(ロキソプロフェン:メタノール=1:1)で溶解したロキソプロフェンを粘着剤溶液に加え、更に均一になるまで撹枠した。
この粘着剤溶液を粘着剤層の厚さが50μm又は100μmとなるよう、アプリケーター(テスター産業(株))を用いて片面シリコーン処理PETフィルム#75(藤森工業(株)、フィルムバイナ75E−0010)に塗工した。1分間乾燥した後、支持体として未処理PETフィルム#25を貼り合せ、実施例及び比較例の経皮吸収型製剤を作製した。
【0045】
[皮膚透過性の評価]
モルモット(日本チャールス・リバー(株)、Crj:Hartley、♂、6週令)の腹部を剃毛して剥離して試験皮膚とし、ウォータージャケットで32℃に保温した横型拡散セル(口径20mmφ)に該皮膚の真皮側を装着し、15mmφの円形に打ち抜いた実施例1又は2、或いは比較例1乃至6の経皮吸収型製剤を角質層側に貼付した。
レセプター溶液には生理食塩水を用い、2時間毎に24時間経過後まで1mlずつサンプリングを行った。なお、レセプター液の採取時に32℃に保温した薬効成分を含まない食塩水を1mlずつ加え、レセプター溶液の容積を一定に保った。
得られたサンプリング液の500μLにメタノール500μLを加え、遠心分離機(10,000rpm、5分)にて除タンパク後、HPLC(東ソー(株)、SC−8020システム)にてロキソプロフェンを定量した。
HPLC測定は、カラム:Shim−pack((株)島津製作所、CLC−ODS(M)4.6mm×15cm、5μm)、カラム温度:40℃、移動相:メタノール/水/酢酸(100)/トリエチルアミン混液(600:400:1:1)、検出波長:222mmにて行った。
得られた結果よりロキソプロフェンの皮膚透過量及び累積透過量を算出するとともに、皮膚透過速度を算出して下記表3に示す判定基準にて皮膚透過性を評価した。
【表3】

【0046】
上記試験に用いた拡散セルのモデル図を図1aに、得られた累積透過量の変化を図2(実施例1、実施例2、比較例1、比較例2)及び図3(比較例3乃至6)の両グラフに示し、各例の皮膚透過速度の経時変化を表4に示し、また、皮膚透過性の判定結果を後出の表7に示す。
【表4】

図2及び図3に示す通り、パルミチン酸イソプロピルの配合量を20%又は30%とした実施例1、実施例2、比較例5及び比較例6の経皮吸収型製剤の24時間経過後の累積透過量は、配合量を0%又は10%とした比較例1乃至4の製剤の約2倍となった。但し粘着剤層の厚さが同じ場合、配合量を20%とした場合(実施例1又は比較例5)と30%とした場合(実施例2又は比較例6)の累積透過量の挙動に大きな違いは見られなかった。
そして薬効成分の皮膚透過速度(表4)は、粘着剤層の厚さが50μmの経皮吸収型製剤の場合、実施例1及び2においては12〜14時間経過時点で最も大きい値を示し、それ以降徐々に低下し、18時間経過を過ぎて皮膚透過速度の大きな低下が起きているとする結果が得られ、また比較例1及び比較例2においては、18時間経過時点で皮膚透過速度は最も大きいものとなり、以降、徐々に速度が低下するという結果が得られた。一方、粘着剤層の厚さが100μmの場合、時間の経過とともに薬効成分の透過速度が増加したとする結果が得られた。
【0047】
[皮膚放出性の評価]
上述の皮膚透過試験の24時間後のサンプリング終了後、速やかに試験皮膚から経皮吸収型製剤を除去した。次に、試験皮膚を拡散セルから外して、真皮側の試験皮膚を精製水でよくリンスした後、水分を除去し、別の拡散セルに装着した。
以下、透過試験と同様の操作を行い、上記と同様にHPLC(東ソー、SC−8020システム)にてロキソプロフェンを定量し、ロキソプロフェンの放出量及び累積放出量を算出した。また下記表5に示す通り、放出試験開始後6時間以内に試験皮膚内の薬効成分量の80%以上が放出されたか否かを判定することにより、皮膚放出性を評価した。
【表5】

【0048】
上記試験に用いた拡散セルのモデル図を図1bに、得られた累積放出量の結果を図4(実施例1、実施例2、比較例1、比較例2)及び図5(比較例3乃至6)に、また、皮膚放出性の判定結果を表7に示す。
図4及び図5に示す通り、実施例1及び実施例2の経皮吸収型製剤のロキソプロフェンの累積放出量は、皮膚放出試験開始から6時間以内に、24時間経過後の累積放出量の80%以上が放出され、18時間経過後にはほぼ一定の値となったが、比較例1乃至6は24時間経過後まで増加し続けた。
【0049】
[皮膚刺激性の評価]
モルモット(日本チャールス・リバー(株)、Crj:Hartley、♂、6週令)の腹部を剃毛し、20mmφに打ち抜いた実施例1又は2、或いは比較例1乃至6の経皮吸収型製剤を該腹部に貼付した。貼付後24時間経過した後、経皮吸収型製剤を除去してから1時間、24時間及び48時間経過後の無貼付部位と貼付部位の赤色度を色彩色差計(ミノルタ、CR−300)を用いてそれぞれ3回測定し、その平均値aを測定結果とした。得られた貼付部位のa値から、無貼付部位のa値の差分Δa値を求め、下記表6に示す
判定基準にて皮膚刺激性を判定した。判定結果を表7に、また、24時間経過後のΔa値のIPP濃度依存性を図6(実施例1、実施例2、比較例1、比較例2)及び図7(比較例3乃至6)に示す。
【表6】

【0050】
[皮膚透過性・皮膚放出性及び皮膚刺激性の判定結果]
【表7】

【0051】
表7に示す通り、実施例1及び実施例2の経皮吸収型製剤は、薬効成分の皮膚透過速度
の低下割合が大きく、皮膚放出性に優れ、皮膚刺激が少ないとする結果が得られた。
一方、IPP/LP比が1である比較例2は、皮膚透過速度の低下はみられたものの、薬効成分の皮膚放出が速やかでなく、皮膚刺激が若干生ずる結果となった。なお、比較例1は皮膚刺激が少ないとする結果は得られたものの、経皮吸収促進剤の添加がないため皮膚透過量が非常に少ないことから、実際の製剤として使用した場合に所望の薬理効果を得られない。
また、粘着剤層の厚さを100μmとした比較例は、IPP/LP比が2〜3である比較例5又は6の場合においても、皮膚透過速度の低下が起こらず、皮内の薬効成分が試験開始24時間経過後まで依然残留して放出されている様子が認められ、皮膚刺激を生ずる結果となった。
【0052】
[ロキソプロフェンの結晶/溶解状態の違いによる皮膚刺激性の評価]
ロキソプロフェンをメタノールで溶解せずに他の成分と混合した以外は前出の経皮吸収型製剤の作製と同様に製剤を作製し(実施例3)、この製剤を前出の皮膚刺激性試験にて評価した。なお、粘着剤層厚さは50μmにて作製した。
表8に実施例1(再掲)、実施例3の経皮吸収型製剤の各成分の配合割合と、皮膚刺激性の判定結果を示す。
【表8】

表8に示すように、ロキソプロフェンが溶解された状態(実施例1)又は結晶状態(実施例3)にある経皮吸収型製剤のいずれにおいても、発赤は殆ど認められないとする結果が得られた。
【0053】
以上の実施例及び比較例の結果は、粘着剤層厚50μmの経皮吸収型製剤においては、薬効成分の皮膚透過の過程で、皮内の薬効成分濃度が徐々に低下する(透過速度が落ちてくる)一方、経皮吸収促進剤は引き続き高い濃度で存在することで、剥離後の薬効成分の消失が速やかに行われることにより皮膚刺激が低減するというメカニズムを裏付けるものであった。
またこのとき、粘着剤層に存在する薬効成分(ロキソプロフェン)の形態が結晶状態、又は溶解剤によって溶解された状態のいずれであっても、皮膚刺激の低減には影響を与えなかった。
また、粘着剤層厚100μm経皮吸収型製剤においては、薬効成分の皮膚透過速度が貼付時間の経過によらず高く保たれるため、製剤剥離直後の皮内の経皮吸収促進剤と薬効成分の濃度比が製剤貼付時とほぼ変わることがなく、その結果、皮内の薬効成分濃度が高い状態で維持され、高い皮膚刺激が発現するというメカニズムを裏付けるものであった。
このように、経皮吸収促進剤を含有する本発明の経皮吸収型製剤において、経皮吸収促進剤の含有量を薬効成分の含有量と比して2〜3倍とし、薬効成分の皮膚透過速度が徐々に低下する製剤設計を為すことにより、薬効成分による皮膚刺激の低減を達成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、皮膚透過性試験(図1a)及び皮膚放出性試験(図1b)に用いた拡散セルのモデル図である。
【図2】図2は、厚さ50μm粘着剤層を有する経皮吸収型製剤のロキソプロフェンの累積透過量の時間変化を示す図である。
【図3】図3は、厚さ100μm粘着剤層を有する経皮吸収型製剤のロキソプロフェンの累積透過量の時間変化を示す図である。
【図4】図4は、厚さ50μm粘着剤層を有する経皮吸収型製剤の剥離後、モルモット皮膚からのロキソプロフェンの累積放出量の時間変化を示す図である。
【図5】図5は、厚さ100μm粘着剤層を有する経皮吸収型製剤の剥離後、モルモット皮膚からのロキソプロフェンの累積放出量の時間変化を示す図である。
【図6】図6は、厚さ50μm粘着剤層を有する経皮吸収型製剤の剥離24時間経過後、モルモット皮膚の赤色度(Δa値)と粘着剤層に含有するIPP濃度の依存性を示す図である。
【図7】図7は、厚さ100μm粘着剤層を有する経皮吸収型製剤の剥離24時間経過後、モルモット皮膚の赤色度(Δa値)と粘着剤層に含有するIPP濃度の依存性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体とその上に粘着基剤、粘着付与樹脂、経皮吸収促進剤及び薬効成分を含有する粘着剤層を設けてなる経皮吸収型製剤であって、該経皮吸収促進剤の含有量が該薬効成分の含有量の2乃至3倍量(質量)であり、さらに、該粘着剤層の厚さが20乃至80μmであることを特徴とする、経皮吸収型製剤。
【請求項2】
支持体とその上に粘着基剤、粘着付与樹脂、経皮吸収促進剤及び薬効成分として抗炎症剤を含有する粘着剤層を設けてなる経皮吸収型製剤であって、該経皮吸収促進剤の含有量が該抗炎症剤の含有量の2乃至3倍量(質量)であり、さらに、該粘着剤層の厚さが30乃至70μmであることを特徴とする、経皮吸収型製剤。
【請求項3】
前記粘着剤層において、該粘着剤層の総質量に対して、粘着基剤25乃至60質量%、粘着付与樹脂15乃至60質量%、経皮吸収促進剤0.2乃至40質量%及び薬効成分0.1乃至20質量%を含有することを特徴とする、請求項1記載の経皮吸収型製剤。
【請求項4】
前記粘着剤層において、該粘着剤層の総質量に対して、粘着基剤25乃至60質量%、粘着付与樹脂15乃至60質量%、経皮吸収促進剤2乃至30質量%及び抗炎症剤1乃至15質量%を含有することを特徴とする、請求項2記載の経皮吸収型製剤。
【請求項5】
前記粘着基剤がスチレン系熱可塑性エラストマーである、請求項1又は2に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項6】
前記粘着付与樹脂がロジン系樹脂である、請求項1又は2に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項7】
前記経皮吸収促進剤が脂肪酸エステルである、請求項1又は2に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項8】
製剤適用期間終了時の薬効成分の皮膚への透過速度が、製剤適用期間における皮膚への透過速度の最高値と比べて20%以上低下していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項9】
前記薬効成分が前記粘着剤層内で溶解された状態にある、請求項1又は2に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項10】
前記薬効成分が前記粘着剤層内で結晶状態にあり、該結晶が経皮吸収型製剤の適用期間内に消失する、請求項1又は2に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項11】
前記抗炎症剤がロキソプロフェンである、請求項2に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項12】
前記経皮吸収促進剤がパルミチン酸イソプロピルである、請求項11に記載の経皮吸収型製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−100939(P2008−100939A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284372(P2006−284372)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000004020)ニチバン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】