説明

皮膚科用途のための粘弾性ゲル

【課題】皮膚科用途のための粘弾性ゲルを提供する。
【解決手段】本発明は、多糖、例えばヒアルロン酸のような多糖類水溶液0.1質量/容積%ないし5質量/容積%と、粘稠で且つ強い親水性の生体適合性アルコール、例えばグリセロール0.5質量/容積%ないし5質量/容積%、及び所望により、皮膚科において通常使用される助剤の水溶液を含む、皮膚科用途のための天然由来の多糖ゲルに関するものである。本発明のゲルは、混合物全体を、例えば湿式加熱により滅菌する前に、多糖溶液と、強い親水性の粘稠アルコールを混合することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚科用途のための粘弾性ゲルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然由来の粘稠ポリマー、例えばコラーゲン、ヒアルロン酸又はセルロース誘導体は、皺に詰めるために、顔面を整形するために、唇のボリュームを増加させるために、そして顔の皮膚を若返らせるために、美容形成医療において、及び皮膚科においてしばしば使用される;この最後の種類の処置は、メソセラピーに直接由来する。
皮膚を若返らせるために、医師はしばしば、ヒアルロン酸を、時にはビタミン、アミノ酸、ミネラル塩及び核酸の複合体と組み合わせて使用する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の観点は、特に、皮膚科における注射として使用される、特に天然由来の多糖ゲルが関与する、皮膚の若返り処置を最適化する、注射可能な、すぐ使用できる組成物であって、多糖水溶液0.1質量/容積%ないし5質量/容積%と、粘稠で且つ強い親水性の生体適合性アルコール0.5質量/容積%ないし5質量/容積%を含み、多糖とアルコールの水溶液を製造し、その後、この溶液及び、所望により、皮膚科において通常使用される助剤を滅菌することにより得られ、前記成分を混合した後の前記滅菌が、得られるゲルの粘度を大いに増大させる効果を有する組成物を提供するための、天然由来の多糖、より好ましくはヒアルロン酸と粘稠アルコールの組み合わせからなっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
多糖又はその塩、特にヒアルロン酸又はヒアルロン酸ナトリウムと、少量の生体適合性粘稠アルコールの組み合わせが、粘度が非常に増大する組成物を提供し、そして前記生体適合性粘稠アルコールが更に親水性である場合には、該組成物は、該組成物が処置される皮膚の下に注射される場合に、保水性をかなり増大させることが実際に見出された。
親水性化合物は、水に対する強い親和性を有する如何なる化合物として定義される。アルコールにおいては、OH基の密度が高くなるほど、それはより親水性になる。例えば、低分子量(92.09g.mol)であり且つ三つのOH基を含むアルコールであるグリセロールは、非常に親水性が高い。
【0005】
0.5質量/容積%ないし5質量/容積%のような、少量の粘稠アルコールの添加が、0.1質量/容積%ないし5質量/容積%における天然由来の多糖溶液の粘度の相当な増大を引き起し、滅菌の間この溶液を安定化し、そして皮膚組織の若返りのために特に利点のある粘性を維持することが見出された。前記粘稠アルコールは、皮膚の再構築及び前記組織の細胞の成熟において参画することができ、そして混合物の等張性を確保する。
【0006】
皮膚感染のリスクを低減する、殺菌性を有する生体適合性アルコールが好ましく使用される。実際、このリスクは、顔に行われる膨大な回数の注射を考慮すれば、若返り処置の間重要である。このようなアルコールの例は、特に、グリセロール及びポリエチレングリコールラウリルスルフェートである。
市販のヒアルロン酸は、製造者により異なる分子量(MW)及び異なる濃度を有する。例証としては、ヒアルロン酸は、低分子量ないし中程度の分子量(0.5MDaないし1.8MDa;MDa=メガダルトン)(8.30×10-19 gないし2.99×10-18 g)のヒアルロン酸では濃度1.8質量/容積%及び高分子量(2.0MDaないし3.0MDa)(3.32×10-18 gないし4.98×10-18 g)のヒアルロン酸では濃
度1.5質量/容積%を使用することが可能である。
【0007】
本発明はまた、皮膚科用途のための天然由来の多糖ゲルの製造方法であって、
a)所望比率において、多糖と、粘稠で且つ強い親水性の生体適合性アルコールの水溶液を製造する工程、
b)得られた溶液を、特に湿式加熱により滅菌する工程、及び
c)所望により、ゲルをすぐ使用できる形にする工程
を含む方法を提供する。
【実施例】
【0008】
実施例1:顔の若返り用の粘稠溶液における、ヒアルロン酸濃度及びグリセロールの存在の影響
平均分子量1.6MDaにより特徴付けられる同一ヒアルロン酸に基づく3種の溶液を製造した。
第一溶液は、1%ヒアルロン酸溶液である。
第二溶液は、2%に濃縮されたこと以外は、同一ヒアルロン酸溶液である。
第三溶液は、グリセロールが2質量/容積%添加された前記と同一のヒアルロン酸1.8%を含む溶液である。
前記3種の製剤を湿式加熱により滅菌し、その後、レオメーターを使用して、生成物に付与された剪断速度に基づく粘度を測定することにより、それらのレオロジー的性質を分析した。
図1のグラフより、低い剪断速度(製剤が、注射後、皮膚組織の若返りに使用されることに対応する)において、高粘度製剤を得るためには、ヒアルロン酸溶液へのグリセロールの添加が、ヒアルロン酸濃度の増加よりもより影響があることが明らかに思える。
【0009】
実施例2:高分子量を持つヒアルロン酸の溶液の粘度に対するグリセロールの影響
非常に高い平均分子量(2.6MDa)(4.32×10-18 g)により特徴付けられる、ヒアルロン酸に基づく2種の溶液を製造した。
第一溶液は、1.5%ヒアルロン酸溶液である。
第二溶液もまた、2質量/容積%にてグリセロールが添加された、高分子量を持つ1.5%ヒアルロン酸を含む溶液である。
2種の製剤を湿式加熱により滅菌し、その後、レオメーターを使用して、生成物に付与された剪断速度に基づく粘度を測定することにより、それらのレオロジー的性質を分析した。
図2のグラフは、製剤が高分子量のヒアルロン酸−従って、初期の高粘度を特徴とする−でさえも、グリセロールは全く同様に、生成物の粘性を増大させる傾向があることを示している。
【0010】
実施例3:滅菌の間のグリセロールによる製剤の安定化(比較用)
非常に高い平均分子量(2.6MDa)(4.32×10-18 g)により特徴付けられる、1.5%ヒアルロン酸を持つ溶液を製造した。この溶液を、その後、湿式加熱により滅菌した(製剤1)。
グリセロールを、この滅菌された溶液数ミリリットルに添加した(製剤2)。
これら2種の製剤の間には、レオロジー的な相違は観察されなかった;図3のグラフ及び上記実施例は、滅菌の間のグリセロールの安定化効果を示している。
従って、粘度を増大させるためには、粘稠アルコールをヒアルロン酸溶液と、滅菌前に混合することが不可欠である。
滅菌後、組成物を、アンプル又はすぐ使用できる形、例えば、注射器により注射される投与量を含むフラスコ、に入れることができる。
前記組成物は、滅菌前にこの混合物に添加される、皮膚科において通常使用される助剤
を含むことができる。このような助剤はビタミン、鉱酸、ミネラル塩及び核酸である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、2種の濃度のヒアルロン酸溶液及びグリセロールを添加したヒアルロン酸溶液の、粘度と剪断速度との関係を表わすグラフを示す図である。
【図2】図2は、高分子量のヒアルロン酸の溶液及びグリセロールを添加した高分子量のヒアルロン酸の溶液の、粘度と剪断速度との関係を表わすグラフを示す図である。
【図3】図3は、湿式加熱前にグリセロールを添加したヒアルロン酸溶液及び湿式加熱後にグリセロールを添加したヒアルロン酸溶液の、粘度と剪断速度との関係を表わすグラフを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚科における注射用に使用される天然由来の多糖ゲルであって、該ゲルが、
多糖水溶液0.1質量/容積%ないし5質量/容積%と、粘稠で且つ強い親水性の生体適合性アルコール0.5質量/容積%ないし5質量/容積%を含み、
多糖とアルコールの水溶液を製造し、その後、この溶液及び、所望により、皮膚科において通常使用される助剤を滅菌することにより得られ、
これにより、前記成分を混合した後の前記滅菌が、得られるゲルの粘度をかなり増大させる効果を有する
ことを特徴とする、多糖ゲル。
【請求項2】
前記多糖がヒアルロン酸である、請求項1に記載のゲル。
【請求項3】
前記生体適合性アルコールがグリセロールである、請求項1又は2に記載のゲル。
【請求項4】
前記水溶液が、平均分子量(0.5MDaないし1.8MDa)(8.30×10-19 gないし2.99×10-18 g)のヒアルロン酸1.8質量/容積%とグリセロール2質量/容積%を含む、請求項1ないし3の何れか一項に記載のゲル。
【請求項5】
前記水溶液が、平均分子量(2.0MDaないし3.0MDa)(3.32×10-18 gないし4.98×10-18 g)のヒアルロン酸1.5質量/容積%とグリセロール2質量/容積%を含む、請求項1ないし3の何れか一項に記載のゲル。
【請求項6】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の、皮膚科用途のための天然由来の多糖ゲルの製造方法であって、
a)所望比率において、多糖と、粘稠で且つ強い親水性の生体適合性アルコールの水溶液を製造する工程、
b)得られた溶液を、特に湿式加熱により滅菌する工程、及び
c)所望により、ゲルをすぐ使用できる形にする工程
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−522342(P2009−522342A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549043(P2008−549043)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【国際出願番号】PCT/FR2007/000016
【国際公開番号】WO2007/077399
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(506032369)アンタイス エス.エイ. (6)
【Fターム(参考)】