説明

皮膜異常の非破壊的検出のための方法及びシステム

本発明は、少なくとも1つの電気絶縁性カバー層(5)に覆われた導電性基材層(4)の皮膜異常を非破壊的に検出するための方法及び測定装置(1)に関する。信号入力装置(4)よって、導電性基材層(4)に入力信号が誘導式に又は静電容量式に入力される。信号出力装置(3)によって、基材層(4)からカバー層(5)を介して測定信号が出力される。評価ユニット(6)を用いて、出力された測定信号が評価される。このとき、出力された測定信号の信号パラメータの信号パラメータ変化が調節可能な閾値を越えたときに皮膜異常が検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの電気絶縁性カバー層で覆われた導電性基材層の皮膜異常を非破壊的に検出する方法及びそのための測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、金属又は炭素繊維強化プラスチック材料からなる導電性基材層は、例えば腐食からこれを保護するために電気絶縁性カバー層で覆われる。この場合、カバー層は受動的防食を形成しており、これにより、腐食性材料が基材層に到達してそこで化学反応又は電気化学反応を引き起こすことが防止される。この電気絶縁性カバー層には、例えば、気孔、割れ、気泡などの様々な欠陥がある可能性がある。これらの皮膜の欠陥が発見されないままであると、その下の導電性基材が腐食する可能性がある。これが非金属基材であると、そこで電気化学反応が起こり、これにより、卑金属と接触した場合には接触腐食が誘発されることもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、誘導式及び静電容量式の測定方法が用いられるが、これは、測定ヘッドの間隔が開くにつれて、その誘導性又は静電容量が変化することに基づいている。この誘導性又は静電容量の変化は、その後、間隔値又は層厚値に変換される。しかしながら、このような従来の誘導式及び静電容量式の方法は、十分に小さい検出器又は測定ヘッドを用いたとしても、皮膜又はカバー層の表面のより小さい欠陥の検出には適していない。これらの従来の検出方法において用いられる検出器ヘッドには、カバー層上に平らに置かれなければならず、測定ヘッドのごく僅かな傾きでさえも、深刻な信号の変化につながるという欠点がある。したがって、例えば約数マイクロメートルの大きさの欠陥を検出するために、例えば100μmの大きさの小型化された検出器ヘッドを採用したとしても、これらの既知の誘導式及び静電容量式の測定方法を用いることはできない。
【0004】
層厚を測定する別の従来の方法では、カバー層の試験に高電圧を使用する。高電圧が印加されるので、損傷点又は欠陥においてアークが発生する。この方法の欠点は、高電圧を印加する際に、導電性基材層を高電圧源に導電的に接続しなければならない点である。この従来の測定方法のさらなる欠点は、非破壊的に機能しない点である。電気絶縁性カバー層に弱点又は欠陥がある場合、測定することによってこの欠陥の程度がさらに大きくなったり、被測定絶縁性カバー層が完全に破断したりする。
【0005】
したがって、最小の皮膜異常でも、安全・確実に且つ非破壊的に検出されるようにする方法及び測定装置の提供が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、請求項1に開示された特徴を有する方法により、本発明に従って達成される。
【0007】
本発明は、少なくとも1つの電気絶縁性カバー層で覆われた導電性基材層の皮膜異常を非破壊的に検出する方法であって、
a)前記基材層に入力信号を入力することと、
b)前記基材層から前記カバー層を介して測定信号を出力することと、
c)前記出力された測定信号の信号パラメータの信号パラメータ変化が、調節可能な閾値を越えたときに皮膜異常を検出すること
からなる方法を提供する。
【0008】
本発明にかかる方法は非破壊的に機能する、即ち、電気絶縁性カバー層の既存の弱点又は前記カバー層の欠陥において、この皮膜異常がそれ以上拡大することがない。このことは、測定の結果として未臨界状態の皮膜異常が臨界皮膜異常に変わることがないことも意味している。
【0009】
本発明にかかる測定方法のさらなる利点は、導電性基材層との直接接触は必要ない点である。このことは、皮膜又は電気絶縁性カバー層が被測定要素を完全に取り囲んでおり、カバー層への機械的損傷があって初めて導電性基材層の直接接触が可能である場合に特に重要である。この時、この機械的損傷は修復する必要があろう。
【0010】
本発明にかかる測定方法により、前記カバー層又は皮膜を通して入力信号を入力することが可能となり、前記皮膜又はカバー層が損なわれることなく、前記要素のあらゆる点で入力信号を加えることができる。
【0011】
本発明にかかる方法の一実施形態では、前記測定信号は、前記絶縁性カバー層の表面全体を案内される柔軟な導電性ブリッスルを用いて出力される。
【0012】
この場合、前記柔軟な導電性ブリッスルは、電解液又は補助電解質で湿らせてあることが好ましい。
【0013】
本発明にかかる方法の一実施形態では、前記入力信号は、静電容量式に又は誘導式に前記導電性基材層に入力される。
【0014】
本発明にかかる方法のさらなる実施形態では、前記入力信号は、パルス直流電圧信号で形成される。
【0015】
本発明にかかる方法の可能な実施形態では、前記入力信号は、周波数の調節が可能な交流電圧信号で形成される。
【0016】
この交流電圧信号は、例えば、信号周波数の調節が可能な正弦波交流電圧信号である。
【0017】
本発明にかかる方法の可能な実施形態では、検出された皮膜異常の座標が検出される。
【0018】
本発明にかかる方法のさらなる実施形態では、皮膜異常タイプが判定される。
【0019】
本発明にかかる方法の実施形態では、皮膜異常が、前記基材層まで貫通している穴で形成されているか、前記基材層まで貫通していない前記カバー層の穴で形成されているか、前記カバー層の隆起で形成されているかが検出される。
【0020】
本発明にかかる方法の可能な実施形態では、各皮膜異常は、その後、検出された皮膜異常タイプに応じて自動的に修復される。
【0021】
本発明にかかる方法の一実施形態では、修復のために、検出されたカバー層の穴は塞がれ、認識されたカバー層の隆起は取り除かれる。
【0022】
本発明にかかる方法の可能な実施形態では、前記電解液は脱イオン水である。
【0023】
脱イオン水には、依然として十分に高い導電性を有する一方、蒸発後、カバー層又は皮膜に目に見える残留物を残さないという利点がある。
【0024】
電解液又は補助電解質として脱イオン水を用いるさらなる利点は、蒸留水は保全技術者が簡単に用いることができ、さらに、保全技術者に対して健康上のリスクをもたらさない点である。
【0025】
本発明にかかる方法の可能な実施形態では、前記柔軟な導電性ブリッスルは、前記電気絶縁性カバー層の表面をブラッシングするブラシに取り付けられる。
【0026】
本発明にかかる方法の一実施形態では、前記柔軟な導電性ブリッスルは、導電性ポリマー、金属繊維又は天然のブリッスルからなり、天然のブリッスルについては、補助電解質を用いて、例えば、脱イオン水を用いてその導電性を得る。
【0027】
本発明にかかる方法の可能な実施形態では、前記出力される測定信号の時間的な振幅変動が検出され、振幅変化が調節可能な振幅閾値を越えたときに皮膜異常が認識される。
【0028】
本発明にかかる方法のさらなる実施形態では、前記出力される測定信号の電流と電圧との位相ずれが検出され、位相変化が調節可能な位相閾値を越えたときに皮膜異常が認識される。
【0029】
本発明にかかる方法のさらなる実施形態では、静電容量が前記カバー層の層厚に影響されるコンデンサを備えたRC部材の充電及び/又は放電時間が検出され、充電及び/又は放電時間の変化が調節可能な時間閾値を越えたときに皮膜異常が認識される。
【0030】
本発明にかかる方法の可能な実施形態では、前記導電性基材層は、炭素繊維強化プラスチック材料、金属又は半導体材料からなる。
【0031】
本発明にかかる方法の可能な実施形態では、前記電気絶縁性カバー層は保護ラッカーを備える。
【0032】
本発明にかかる方法のさらなる実施形態では、前記カバー層の厚さ及び皮膜異常の大きさが信号パラメータ変化に応じて算出される。
【0033】
本発明は、さらに、少なくとも1つの電気絶縁性カバー層で覆われた導電性基材層の皮膜異常を非破壊的に検出する測定装置であって、
a)前記基材層に入力信号を入力する信号入力装置と、
b)前記基材層から前記カバー層を介して測定信号を出力する信号出力装置と、
c)前記出力された測定信号を評価する評価ユニットであって、前記出力された測定信号の信号パラメータの信号パラメータ変化が調節可能な閾値を越えたときに皮膜異常を検出する評価ユニット
からなる測定装置を提供する。
【0034】
本発明にかかる測定装置の可能な実施形態では、前記信号入力装置は、前記入力信号を、前記基材層に誘導式に又は静電容量式に入力する。
【0035】
本発明にかかる測定装置の可能な実施形態では、前記信号出力装置は、前記出力信号を、前記基材層から前記カバー層を介して誘導式に又は静電容量式に出力する。
【0036】
本発明にかかる測定装置の可能な実施形態では、前記信号出力装置は、柔軟な導電性ブリッスルを有する。
【0037】
本発明にかかる測定装置の一実施形態では、前記信号出力装置は、前記ブリッスルを湿らせるために設けられる、電解液を受ける貯留槽を有する。
【0038】
本発明にかかる測定装置の一実施形態では、前記電解液は、蒸留水又は脱イオン水からなる。
【0039】
本発明にかかる測定装置の一実施形態では、前記信号出力装置はモータを備えており、このモータは、皮膜異常検出のために前記カバー層を走査するため、当該カバー層の表面全体にわたって当該信号出力装置を移動させる。
【0040】
本発明にかかる測定装置の一実施形態では、前記移動可能な信号出力装置の空間座標が、前記測定信号の信号パラメータと共にメモリに格納され、評価される。
【0041】
本発明にかかる測定装置の可能な実施形態では、最後者はマイクロプロセッサを備える。
【0042】
本発明にかかる測定装置の可能な実施形態では、前記信号入力装置は、導電性吸盤、伝導性フォームラバー、伝導性ロール又は伝導性ローラを備える。
【0043】
本発明にかかる測定装置の可能な実施形態では、前記信号入力装置は、測定のために、絶縁される前記カバー層、又は、前記導電性基材層に取り付けられる。
【0044】
本発明は、さらに、少なくとも1つの電気絶縁性カバー層に覆われた導電性基材層の皮膜異常を非破壊的に検出する方法を実施するプログラム指令を有するコンピュータプログラムであって、
a)前記基材層に入力信号を入力することと、
b)前記基材層から前記カバー層を介して測定信号を出力することと、
c)前記出力された測定信号の信号パラメータの信号パラメータ変化が調節可能な閾値を越えたときに皮膜異常を検出すること
からなるコンピュータプログラムを提供する。
【0045】
本発明は、さらに、このようなコンピュータプログラムを格納するデータキャリアを提供する。
【0046】
本発明は、さらに、本発明にかかる方法によって得られる測定結果を格納するデータキャリアを提供する。
【0047】
皮膜異常の非破壊的検出のための本発明にかかる方法及び本発明にかかる測定装置の好ましい実施形態について、添付図面を参照しながら以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1A】図1Aは、皮膜異常の非破壊的検出のための本発明にかかる測定装置の実施形態を示す。
【図1B】図1Bは、皮膜異常の非破壊的検出のための本発明にかかる測定装置の実施形態を示す。
【図2】図2は、本発明にかかる測定方法を説明するための様々なタイプの検出可能な皮膜異常を示す。
【図3】図3は、本発明にかかる測定装置のさらなる図を示す。
【図4】図4は、本発明にかかる測定装置のさらなる実施形態を示すさらなるブロック図を示す。
【図5】図5は、本発明にかかる測定装置の実施形態を示す。
【図6】図6は、本発明にかかる測定装置のさらなる実施形態を示す。
【図7】図7は、皮膜異常の非破壊的検出のための本発明にかかる方法の実施形態の簡単なフローチャートを示す。
【図8】図8は、本発明にかかる方法の代表的な測定結果を説明するグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図1A及び図1Bでわかるように、皮膜異常BFを非破壊的に検出するための本発明にかかる測定装置1は、信号入力装置2と信号出力装置3とを有する。前記測定装置1は、少なくとも1つの電気絶縁性カバー層5で覆われた導電性基材層4の皮膜異常を検出する。前記導電性基材層4は炭素繊維強化プラスチック材料で構成されていてもよい。他の実施形態では、前記導電性基材層4は金属又は半導体材料で構成される。前記電気絶縁性カバー層5は、例えば、保護ラッカーで構成される。可能な実施形態では、この保護ラッカーは腐食抑制剤である。
【0050】
図1A及び図1Bでわかるように、前記基材層4に入力信号を入力する前記信号入力装置2及び、前記基材層4から測定信号を出力する前記信号出力装置3は、ユニット6に接続されており、このユニット6は、前記入力信号を生成する一方で、前記信号出力装置3により供給される測定信号を評価するために設けられる。
【0051】
前記信号入力装置2は、前記ユニット6により生成された入力信号を、前記導電性基材層4に誘導式に又は静電容量式に入力する。図1Aに示す実施形態では、前記導電性基材層4への静電容量式入力が前記電気絶縁性カバー層5を通して行われる。一方、図1Bに示す実施形態では、前記入力信号の入力は前記基材層4に対して直接的に行われる。図1Aに示した、前記カバー層5を介した入力信号の静電容量式入力の実施形態には、前記導電性基材層4に直接接触させる必要がないという利点がある。これは、前記導電性層4が絶縁性カバー層5に完全に取り囲まれており、当該電気絶縁性カバー層5に損傷を与えずに前記基材層4に直接電気的接触を行うことができない場合に特に有利である。
【0052】
可能な実施形態では、前記信号入力装置2は導電性吸盤を備え、この吸盤は、図1Aに示すように、前記電気絶縁性カバー層5上に置かれるか、又は、図1Bに示すように、前記導電性層4に直接取り付けられる。
【0053】
他の実施形態では、前記信号入力装置2は、例えば、伝導性フォームラバーである。さらなる実施形態では、前記信号入力装置2は、伝導性ロール又は伝導性ローラからなる。
【0054】
図1A及び図1Bに示す電気絶縁性カバー層5には皮膜異常BFがある。図示例では、皮膜異常BFは穴であり、これは前記基材層4まで貫通している。図2A、図2B及び図3Cと併せて説明しているように、別のタイプの皮膜異常も起こり得る。前記信号出力装置3を用いて皮膜異常BFを検出するために、前記導電性基材層4に入力された測定信号が出力され、その後前記評価ユニット6により評価される。前記測定信号は、同様に、誘導式に又は静電容量式に出力することができる。
【0055】
図1A及び図1Bに示す実施形態では、前記信号出力装置3は柔軟な導電性ブリッスル7を備えており、これはブラシに取り付けられてもよい。このブラシは、図1A及び図1Bに概略的に示すように、前記電気絶縁性カバー層5の表面全体をブラッシングする。前記入力された測定信号は、この柔軟な導電性ブリッスルを用いて出力され、前記評価ユニット6に供給される。この評価ユニット6は、前記出力された測定信号を評価し、前記出力された測定信号の少なくとも1つの信号パラメータの信号パラメータ変化が調節可能な桁の値を超えたときに皮膜異常BFが検出される。図1A及び1Bに示すように、前記信号出力装置3の柔軟な導電性ブリッスル7又は前記カバー層5の表面を電解液8で湿らせる。この電解液8は、導電性の補助電解質を形成する。可能な実施形態では、前記電解液は、脱イオン水で形成されており、又は蒸留水で形成されても構わない。可能な実行手順は、まず、前記信号出力装置3の前記ブリッスル7を前記補助電解質又は電解液で湿らせ、その後、この湿らせたブリッスル7を備えたブラシ又は出力装置3を、前記カバー層5の表面全体にわたって案内する。1又はそれ以上のブリッスル7が皮膜異常上を移動するとすぐに、出力される測定信号の信号パラメータ変化が生じ、前記評価ユニット6がこれを検出する。さらに、可能な実施形態では、前記信号パラメータ変化を基に皮膜異常BFのタイプを推定することもできる。
【0056】
可能な実施形態では、出力される測定信号の時間的な振幅変動が検出され、振幅変化ΔAが調節可能な振幅閾値を越えたときに皮膜異常BFが認識される。
【0057】
他の実施形態では、出力される測定信号の電流と電圧信号との位相ずれが前記評価ユニット6によって検出され、位相変化Δφが調節可能な位相閾値を越えたときに皮膜異常BFが認識される。
【0058】
さらなる実施形態では、静電容量が前記カバー層5の層厚に影響されるコンデンサを備えたRC部材の充電及び/又は放電時間が前記評価ユニット6によって検出され、充電及び/又は放電時間変化が調節可能な時間閾値を越えたときに皮膜異常BFが認識される。
【0059】
前記信号パラメータ変化により、皮膜異常BFのタイプ及び広がりを認識することが可能になる。図2A、図2B及び図2Cは、様々な検出可能な皮膜異常のタイプを示している。図2Aに示す皮膜異常のタイプは、前記カバー層5に存在し、前記導電性基材層4まで貫通している穴である。図2Aに概略的に示す穴は、ごく小さな穴又は割れであってもよく、このような穴又は割れの空間的広がりは、ブリッスル7の直径より大きくても小さくても。
【0060】
図2Bに示す皮膜異常BFは、前記カバー層5の穴であり、これは前記基材層4まで貫通していない。この皮膜異常BFの点で静電容量が著しく増加するので、このような皮膜異常も本発明にかかる測定方法によって検出することができる。これは、前記湿らせたブリッスル7の前記導電性基材層4との間隔が皮膜異常の点においてそれ以外の点よりも小さくなるためである。コンデンサの静電容量Cはその板間の間隔dに反比例するので、静電容量Cは図2Bに示す皮膜異常BFの点で著しく増加する:

【0061】
図2Cは、別のタイプの皮膜異常を示しており、前記カバー層5は、皮膜異常として、望ましくない隆起を有している。図2Cに示す例では、前記静電容量Cは皮膜異常BFの点で減少する。
【0062】
図3Aは、本発明にかかる測定装置1の実施形態を概略的に示している。前記導電性ブリッスル7が取り付けられた信号出力装置3が、評価のために、前記信号入力装置2によって前記導電性基材層4に入力された測定信号を読み出す。
【0063】
図3Aに示す実施形態では、前記信号出力装置3は、複数の湿らせたブリッスル7を備えたブラシと一体化されている。このブラシは、カバー層5の皮膜異常BFを検出するために、前記カバー層5の表面全体を手動でブラッシングしてもコンピュータ制御によりブラッシングしてもよい。出力される測定信号の信号パラメータの信号パラメータ変化が調節可能な閾値を越えるとすぐに、皮膜異常BFがその座標と共に出力されるか、又は、メモリ9に格納される。図3Bは、一例として、様々な検出された皮膜異常BFを、関連する座標と検出された皮膜異常の詳細又は情報と共に示した表を示している。これらの記述的データは、例えば、皮膜異常BFのタイプ、即ち、皮膜異常が穴(L)であるか隆起(E)であるかを開示していてもよい。さらに、検出された信号パラメータ変化を基に皮膜異常の寸法の詳細を算出して格納することができる。
【0064】
図3Aに示すブラシは保全技術者により手動でカバー層5全体を案内され、他の実施形態においては、当該ブラシの座標x,yが無線インターフェース及び三角測量を用いて決定される。
【0065】
図3Aは、単純な構成要素、つまり導電性基材層4及びカバー層5を備えた板を示している。このような板は、x方向とy方向の両方において数メートル広がっていてもよい。本発明にかかる測定方法は、単純な表面を有する単純な板に全く限定されず、他の表面、とりわけ円筒状中空体にも適している。可能な実施形態では、図3Aに示すブラシは、付加的に、前記ブリッスル7を湿らすための電解液を受ける貯留槽を備える。前記柔軟な導電性ブリッスル7は、導電性ポリマー、金属繊維又は天然のブリッスルで構成されていてもよい。天然のブリッスルについては、補助電解質を用いてその導電性を得る。
【0066】
本発明にかかる測定方法の可能な実施形態では、皮膜異常BFは、検出されるだけでなく、その後自動的に修復される。
【0067】
図4に示す実施形態では、ユニット6が入力信号を生成し、この入力信号が、信号入力装置2、例えば導電性吸盤を用いて、前記導電性基材層4にカバー層を介して静電容量式に入力される。この静電容量式に入力された測定信号は、前記導電性層4に広がり、信号評価のために前記出力装置3により前記ユニット6に供給される。図4に概略的に示す皮膜異常BFは、ブリッスル7が当該皮膜異常BF上をブラッシングしたときに著しく大きい信号パラメータ変化を基に認識される。前記入力信号は、例えば、パルス直流電圧信号であってもよい。他の実施形態では、前記入力信号は、周波数の調節が可能な交流電圧信号であってもよい。図4に示す実施形態では、ブラシと一体化された信号出力装置は、制御式モータ10によって前記カバー層5上を案内され、皮膜異常BFを検出する。モータ10は、前記ユニット6内のモータ制御装置により駆動される。例えば、前記ブラシは前記カバー層5の表面全体を曲がりくねるように案内されて、皮膜異常BFを検出する。図4に示す実施形態では、前記モータ10により駆動されるブラシに、検出点において認識された皮膜異常BFを自動的に修復する修復ユニット11が設けられている。この場合、この修復ユニット11によって、カバー層5において検出された穴は塞がれ、カバー層5において検出された隆起は取り除かれる。
【0068】
図5は、本発明にかかる測定装置1のさらなる実施形態を示している。図5に示す実施形態では、静電容量がカバー層5の層厚に影響されるコンデンサを備えたRC部材の充電又は放電時間が検出される。充電及び/又は放電時間の変化が調節可能な時間閾値を越えたときに皮膜異常BFが認識される。例えば5Vの直流電圧が、制御式スイッチ12を用いて、複素抵抗Zを有する被測定要素に印加される。前記スイッチ12を定期的に切り替えることにより、パルス直流電圧信号が生成され、RC部材の充電又は放電が行われる。例えば、前記スイッチ12は1秒当たり1000回切り替えられる。前記カバー層5が損傷しておらず、十分に絶縁している場合、前記複素抵抗Zは非常に大きい。前記RC部材の時間挙動は抵抗R1及び静電容量C1に依存している。例えば、抵抗R1は1Mohmの抵抗を有し、コンデンサC1は68pFの静電容量を有する。被測定表面に皮膜異常BFがある場合、前記複素抵抗Zが変化する。連続的な穴の場合、信号入力装置と信号出力装置との間に短い回路が生じ、図5に示すコンデンサC2がRC部材に対して並列に接続される。前記コンデンサC2は、例えば、100nFの静電容量を有する。前記コンデンサC2の並列接続により、前記RC部材の充電及び放電時間が極端に増加する。この充電及び放電時間の変化が評価ユニット6のマイクロプロセッサにより検出される。
【0069】
図6は、本発明にかかる測定装置1のさらなる実施形態を示している。この場合、前記ユニット6内の信号生成装置を用いて、被覆された要素において信号周波数の調節が可能な交流電圧信号が信号入力装置を介して静電容量式に入力され、その後、今度は信号出力装置を介して静電容量式に出力され、評価される。前記信号入力装置は、例えば、静電容量C1の導電性吸盤からなる。前記信号出力装置は、例えば、静電容量C2の濡れたブラシ又は湿らせたブラシからなる。前記交流電圧信号は、例えば、正弦波交流電圧信号である。濡れたブラシで形成することができる測定信号センサ又は信号出力装置は、損傷していない表面と共に、例えば、約100pFの静電容量を有する。被覆されたモジュールが損傷している場合、抵抗Zが低下し、前記交流電圧信号の測定される振幅の増加につながる。この増加が前記評価ユニット6により検出される。さらなる測定の変形例が可能である。例えば、損傷していない状態の、即ち、皮膜異常がない被検査表面は、ほとんど理想的なコンデンサであり、測定される電流と測定される電圧信号との間の最大90°の位相変位を供給する。カバー層が局所的な欠陥を有する場合、静電容量が減少するか、又は、静電容量が全く無くなる。この結果、位相角の変化が0になる。この位相角変化Δφを評価ユニット6により検出することができる。
【0070】
図7は、本発明にかかる測定方法の可能な実施形態の簡単なフローチャートを示している。
【0071】
第1工程S1では、入力信号が直接的又は間接的に導電性基材層4に入力される。入力は、例えば、静電容量式に又は誘導式に行うことができる。可能な実施形態では、前記入力信号はパルス直流電圧信号である。他の実施形態では、前記入力信号は周波数の調節が可能な交流電圧信号である。
【0072】
次の工程S2では、前記基材層4からカバー層5を介して測定信号が出力される。この測定信号は、同様に誘導式に又は静電容量式に出力することができる。
【0073】
さらに次の工程S3では、前記出力された測定信号が評価される。この場合、この出力された測定信号の少なくとも1つの信号パラメータの信号パラメータ変化が調節可能な閾値を越えたときに前記カバー層5における皮膜異常が検出される。この調節可能な閾値は、例えば、前記カバー層5の層厚を考慮していてもよい。前記測定信号は、場所的に可変の点で、工程S2において出力されるが、この測定信号を受信するために、湿らせたブラシ又は導電性ブリッスルを備えるブラシが、例えば、前記カバー層5の表面全体を移動せしめられる。
【0074】
図8は、本発明にかかる測定装置1の測定結果を概略的に示している。前記カバー層5の厚さは、例えば、高さプロファイルとして格納される。図示した実施形態では、カバー層は、点X1,Y1において、貫通して前記基材層4まで到達する凹みを有する。
【0075】
本発明にかかる方法及び本発明にかかる測定装置1は、様々な方法で用いることができる。例えば、ラッカー層で覆われた炭素繊維強化プラスチック材料の皮膜異常を、本発明にかかる測定装置1を用いて判定することができる。このような炭素繊維強化プラスチック材料は、例えば、航空機製造又は車両製造に用いられる。本発明にかかる測定方法によって、どのように形成された表面でも、用いる信号電圧を小さくして、皮膜異常を非破壊的に検出することが可能になる。この小さい信号電圧は保全技術者を危険にさらすことがない。一方、調査対象のカバー層の損傷もない。誘導式又は静電容量式に入力を行うので、導電性基材層4との直接伝導的な電気的接触の必要がない。
【0076】
本発明にかかる測定装置1のさらなる変形例では、前記信号出力装置3が前記カバー層5上を移動せしめられるのではなく、被測定要素が、定置された信号出力装置3上を移動せしめられる。
【0077】
本発明にかかる測定装置1のさらなる実施形態の変形例では、前記評価ユニット6からの/への信号伝達は、無線インターフェースを介して、信号入出力装置を介して行われる。さらに、前記評価ユニット6は、ネットワークを介して、リモートサーバ及び関連するデータベースに接続されていてもよい。
【0078】
本発明にかかる測定装置1のさらなる実施形態の変形例では、受信した信号の1つの信号パラメータだけではなく、複数の信号パラメータ、例えば、信号振幅及び位相変化が評価される。複数の信号パラメータを評価することにより、皮膜異常のタイプ及び大きさの両方について皮膜異常BFの測定の精度を上げることができる。
【0079】
可能な実施形態の変形例では、特性/目標値がユーザインタフェースを介して入力される。例えば、保全技術者によって前記カバー層5の所望の層厚が入力され、これを基に信号パラメータの目標値が算出される。測定される信号パラメータと期待される目標値との差が入力することができる閾値よりも大きい場合に皮膜異常BFが検出される。
【0080】
本発明にかかる測定装置1は、例えば、品質保証に用いることができる。この場合、限界値、例えば、長期的な保護を保証する目標値を入力して確かめることができる。その結果、特に、腐食損傷の危険性及びリスクが最小となる。このような品質保証基準を規定して管理することができる。さらに、測定装置1は、部品サプライヤにより予め設置することができる。本発明にかかる測定方法は、電気絶縁性カバー層5に覆われたどのような導電性基材層4の皮膜異常の検出にも適している。本発明にかかる測定装置1は、特に、航空宇宙部門及び自動車産業において適している。
【符号の説明】
【0081】
1 測定装置
2 信号入力装置
3 信号出力装置
4 基材層
5 カバー層
6 評価ユニット
7 ブリッスル
8 電解液
9 メモリ
10 モータ
11 修復ユニット
12 スイッチ
BF 皮膜異常
C 静電容量
C1−C2 コンデンサ
Δφ 位相角変化
E 隆起
L 穴
S1 入力
S2 出力
S3 検出

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材(4)を覆う電気絶縁性層(5)の皮膜異常(BF)を非破壊的に検出する測定装置(1)であって、
a)前記導電性基材(4)に前記電気絶縁性層(5)を介して入力信号を入力する信号入力装置(2)と、
b)柔軟な導電性ブリッスル(7)を有し、前記導電性基材(4)から前記電気絶縁性層(5)を介して測定信号を出力する移動可能な信号出力装置(3)と、
c)前記出力された測定信号を評価する評価ユニット(6)であって、前記出力された測定信号の信号パラメータの信号パラメータ変化が調節可能な閾値を越えたときに前記電気絶縁性層(5)の皮膜異常(BF)を検出する評価ユニット(6)
からなる測定装置(1)。
【請求項2】
前記信号出力装置(3)は、前記ブリッスル(7)を湿らせるために設けられる、電解液を受ける貯留槽を有する請求項1記載の測定装置。
【請求項3】
前記電解液は水又は脱イオン水からなる請求項2記載の測定装置。
【請求項4】
前記信号入力装置(2)は、導電性吸盤、伝導性フォームラバー、伝導性ロール又は伝導性ローラを備える請求項1乃至3記載の測定装置。
【請求項5】
前記信号入力装置(2)は、測定のために、絶縁される前記層(5)に取り付けられる請求項4記載の測定装置。
【請求項6】
前記信号入力装置(2)は、前記入力信号を、前記導電性基材(4)に誘導式に又は静電容量式に入力する請求項1記載の測定装置。
【請求項7】
前記信号出力装置(3)は、前記測定信号を、前記基材(4)から前記電気絶縁性層(5)を介して誘導式に又は静電容量式に出力する請求項6記載の測定装置。
【請求項8】
前記移動可能な信号出力装置(3)は、皮膜異常(BF)の認識のために前記電気絶縁性層(5)を走査するため、当該電気絶縁性層(5)の表面全体にわたって当該信号出力装置(3)を移動させるモータ(10)を備える請求項1乃至7記載の測定装置。
【請求項9】
前記移動可能な信号出力装置(3)の空間座標(x,y)が前記検出信号の信号パラメータと共にメモリに格納され、評価される請求項8記載の測定装置。
【請求項10】
導電性基材(4)を覆う少なくとも1つの電気絶縁性層(5)の皮膜異常(BF)を非破壊的に検出する方法であって、
a)前記基材(4)に前記電気絶縁性層(5)を介して入力信号を入力すること(S1)と、
b)前記基材層(4)から前記電気絶縁性層(5)及び柔軟な導電性ブリッスル(7)を介して測定信号を出力すること(S2)と、
c)前記出力された測定信号の信号パラメータの信号パラメータ変化が調節可能な閾値を越えたときに前記電気絶縁性層(5)の皮膜異常(BF)を検出すること(S3)
からなる方法。
【請求項11】
前記入力信号は、静電容量式に又は誘導式に前記導電性基材(4)に入力される請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記入力信号は、パルス直流電圧信号で、又は、周波数の調節が可能な交流電圧信号で形成される請求項10又は11記載の方法。
【請求項13】
検出された皮膜異常(BF)の座標及び皮膜異常タイプが確立される請求項10乃至12記載の方法。
【請求項14】
各皮膜異常は、その後、認識された皮膜異常(BF)のタイプに応じて自動的に修復される請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記出力された測定信号の時間的な振幅変動が検出され、振幅変化(ΔA)が調節可能な振幅閾値を越えたときに前記電気絶縁性層(5)の皮膜異常(BF)が認識される請求項10乃至14記載の方法。
【請求項16】
前記出力された測定信号の電流と電圧との位相ずれが検出され、位相変化(Δφ)が調節可能な位相閾値を越えたときに前記電気絶縁性層(5)の皮膜異常(BF)が認識される請求項10乃至14記載の方法。
【請求項17】
静電容量が前記電気絶縁性層(5)の層厚に影響されるコンデンサを備えたRC部材の充電及び/又は放電時間が検出され、充電及び/又は放電時間変化(Δt)が調節可能な時間閾値を越えたときに前記電気絶縁性層(5)の皮膜異常(BF)が認識される請求項10乃至14記載の方法。
【請求項18】
前記電気絶縁性層(5)の厚さ及び皮膜異常(BF)の大きさが信号パラメータ変化に応じて算出される請求項10乃至17記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−504754(P2012−504754A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529539(P2011−529539)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/062653
【国際公開番号】WO2010/037761
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(311014956)エアバス オペレーションズ ゲーエムベーハー (54)
【氏名又は名称原語表記】Airbus Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Kreetslag 10,21129 Hamburg,Germany
【Fターム(参考)】