説明

皮革様シート材料の製造方法

【課題】 本発明は、生産性が良好で、かつ耐摩耗性と風合いに優れる皮革様シート材料の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、柔軟撥水処理をされていない繊維材料基体に、感熱凝固性エマルション(A)を付与した後、感熱凝固して皮革様シート材料を製造する方法であって、該感熱凝固性エマルション(A)が、ポリウレタン樹脂(a)、柔軟撥水剤(b)、40〜98℃の曇点を有するノニオン性界面活性剤(c)および無機塩(d)を必須成分とし、重量比(b)/(a)が0.005〜0.2であるエマルションであることを特徴とする皮革様シート材料の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮革様シート材料の製造方法および皮革様シート材料に関し、さらに詳しくは感熱凝固性ポリウレタン樹脂エマルションを用いて得られる皮革様シート材料の製造方法および皮革様シート材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、皮革様シート材料の製造方法としては、繊維材料基体にポリウレタン樹脂を結束剤として付与する方法が行われている。近年、ポリウレタン樹脂としては、有機溶剤削減の法規制強化の観点から、従来のポリウレタン樹脂溶液を使用した湿式法から、ポリウレタン樹脂エマルションを使用した乾式法への移行が進んでいる。しかし、ポリウレタン樹脂エマルションを使用した乾式法では、シートが硬くなり風合いが著しく劣り、耐摩耗性も悪くなるという欠点があった。
【0003】
ポリウレタン樹脂エマルションを使用した乾式法で風合いを改良するために、繊維材料基体に無機塩含有ポリウレタン樹脂エマルションを付与して感熱凝固する方法(特許文献1参照)、さらには、予め柔軟撥水剤を付与した繊維材料基体に無機塩含有ポリウレタン樹脂エマルションを付与して感熱凝固する方法(特許文献2参照)が提案されている。
【特許文献1】特開平6−316877号公報
【特許文献2】特開2000−17581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1および特許文献2に提案されている方法では、風合いと耐摩耗性が改善されておらず、しかも特許文献2の方法では、柔軟撥水剤を付与する工程を追加する必要があり生産性が低下するという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、この課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
即ち、本発明は、柔軟撥水処理をされていない繊維材料基体に、感熱凝固性エマルション(A)を付与した後、感熱凝固して皮革様シート材料を製造する方法であって、該感熱凝固性エマルション(A)が、ポリウレタン樹脂(a)、柔軟撥水剤(b)、40〜98℃の曇点を有するノニオン性界面活性剤(c)および無機塩(d)を必須成分とし、重量比(b)/(a)が0.005〜0.2であるエマルションであることを特徴とする皮革様シート材料の製造方法;該製造方法で得られた皮革様シート材料;並びに、該皮革様シート材料をさらに後加工処理して得られる皮革様シート;である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の皮革様シート材料の製造方法は、柔軟撥水剤を付与する工程を追加する必要がなく、生産性に優れ、得られた皮革様シート材料は、風合いおよび耐摩耗性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の皮革様シート材料の製造方法は、柔軟撥水処理をされていない繊維材料基体に、感熱凝固性エマルション(A)を付与した後、感熱凝固して皮革様シート材料を製造する方法であって、該感熱凝固性エマルション(A)が、ポリウレタン樹脂(a)、柔軟撥水剤(b)、40〜98℃の曇点を有するノニオン性界面活性剤(c)および無機塩(d)を必須成分とし、重量比(b)/(a)が0.005〜0.2であるエマルションであることを特徴とするものである。
【0008】
本発明において使用される繊維材料基体としては、従来から繊維材料基体に用いられている不織布や編織布等が用いられる。
不織布としては、補強用等の目的で編織布等が内部または表面に積層されたものでもよい。構成繊維としては、天然繊維、化学繊維のいずれでもよい。天然繊維としては、綿、羊毛、絹、石綿等が挙げられる。化学繊維としては、レーヨン、テンセル等の再生繊維、アセテート、トリアセテート等の半合成繊維、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、アクリル等の合成繊維が挙げられる。また、これらを混合使用した繊維を適宜用いることも可能である。
【0009】
本発明において使用される繊維材料基体は、工程削減の観点および耐摩耗性向上の観点から、予め柔軟撥水剤で処理されていないものである。
本発明においては、感熱凝固性エマルション中の一つの成分として柔軟撥水剤を含有させ、該感熱凝固性エマルションを繊維材料基体に含浸させて処理することによって、改善された耐摩耗性を得ることができる。
つまり、予め柔軟撥水剤で処理されていない繊維材料基体を使用し、柔軟撥水剤を感熱凝固性エマルション中の一つの成分として含有させることにより、工程削減のみではなく、柔軟撥水剤がポリウレタン樹脂中に分散して海島構造となったものが繊維表面に付着することで結束力が強くなり、皮革用シート材料が十分な破断強度が得られ、柔軟撥水剤がポリウレタン樹脂表面にブリードアウトすることで、ウレタン樹脂がミクロポーラスな構造となり、同時にウレタン樹脂表面に柔軟撥水剤が偏在することで、得られる皮革様シート材料の耐摩耗性の向上に効果を発揮しているものと考えられる。
【0010】
本発明における感熱凝固性エマルション(A)は、ポリウレタン樹脂(a)、柔軟撥水剤(b)、40〜98℃の曇点を有するノニオン性界面活性剤(c)および無機塩(d)を必須成分として含有する。
(A)中の(a)の含量は、好ましくは2〜40重量%、さらに好ましくは3〜30%(以下、特に限定しない限り、%は重量%を表す);(b)の含量は、好ましくは0.1〜10%、さらに好ましくは0.2〜5%;(c)の含量は、好ましくは0.1〜10%、さらに好ましくは0.2〜5%;(d)の含量は、好ましくは0.05〜5%、さらに好ましくは0.1〜2%であり、その他の成分は水性媒体である。
(A)中の(a)〜(d)の合計含量は、好ましくは2.3〜65%、さらに好ましくは3.5〜42%である。
また、(A)中の重量比(b)/(a)は、0.005〜0.2であり、好ましくは0.01〜0.15である。(b)/(a)が0.005未満では耐摩耗性が不十分であり、0.2を超えると表面の触感が悪化する。
さらに、(A)中の重量比(c)/(d)は、保存安定性の観点から好ましくは0.1〜2、さらに好ましくは0.2〜1である。
【0011】
本発明における(A)の必須成分であるポリウレタン樹脂(a)としては、例えば、有機ジイソシアネート(a1)、高分子ポリオール(a2)、カルボキシル基(−COOH)および/またはスルホン基(−SO3H)含有ポリオールもしくはその塩(a3)、並びに、必要に応じて鎖伸長剤(a4)および/または停止剤(a5)から形成され、その後、必要により、カルボキシル基および/またはスルホン基を中和剤(a6)で中和して形成されるものである。
以下、各成分について説明する。
【0012】
有機ジイソシアネート(a1)としては、従来からポリウレタン製造に使用されているものが使用できる。(a1)としては、例えば、炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様)6〜20の芳香族ジイソシアネート、炭素数2〜18の脂肪族ジイソシアネート、炭素数4〜15の脂環式ジイソシアネート、炭素数8〜15の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体(カーボジイミド変性体、ウレタン変性体、ウレトジオン変性体等)、およびこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0013】
芳香族ジイソシアネートとしては、1,3−および/または1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−および/または2,6−トリレンジイソシアネート(以下TDIと略記)、2,4'−および/または4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDIと略記)、4,4'−ジイソシアナトビフェニル、3,3'−ジメチル−4,4'−ジイソシアナトビフェニル、3,3'−ジメチル−4,4'−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5−ナフチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0014】
脂肪族ジイソシアネートとしては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエート等が挙げられる。
【0015】
脂環式ジイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキシレン−1,2−ジカルボキシレート、2,5−および/または2,6−ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、m−および/またはp−キシリレンジイソシアネート、α,α,α',α'−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0016】
(a1)のうち、好ましいものは芳香族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネートであり、特に好ましいものはイソホロンジイソシアネートおよび4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートである。
【0017】
高分子ポリオール(a2)としては、例えば、ポリエーテルジオール(a21)、ポリエステルジオール(a22)、およびこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0018】
ポリエーテルジオール(a21)としては、活性水素原子含有二官能化合物にアルキレンオキサイド(以下、AOと略記)が付加した構造の化合物およびこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0019】
活性水素原子含有二官能化合物としては、2価アルコール、2価フェノール類およびジカルボン酸等が挙げられる。
2価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンおよびビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン等が挙げられる。2価フェノール類としては、カテコールおよびヒドロキノンの他、ビスフェノールA、ビスフェノールFおよびビスフェノールS等のビスフェノール類等が挙げられる。ジカルボン酸としては、コハク酸およびアジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸およびテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
上述した活性水素原子含有二官能化合物は、2種以上使用することもできる。
【0020】
活性水素原子含有二官能化合物に付加するAOとしては、エチレンオキサイド(以下、EOと略記)、プロピレンオキサイド(以下、POと略記)、1,2−、2,3−もしくは1,3−ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン(以下、THFと略記)、スチレンオキサイド、α−オレフィンオキサイドおよびエピクロルヒドリン等が挙げられる。
AOは単独でも2種以上を併用してもよく、後者の場合はブロック付加でもランダム付加でも両者の混合系でもよい。
これらのAOのうちで好ましいものは、EO単独、PO単独、THF単独、POおよびEOの併用、POおよび/またはEOとTHFの併用である。
活性水素原子含有二官能化合物へのAOの付加は、通常の方法で行うことができ、無触媒で、または触媒(アルカリ触媒、アミン系触媒または酸性触媒)の存在下で行われる。
【0021】
(a21)の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコール等が挙げられ、好ましいものはポリテトラメチレングリコールである。
【0022】
ポリエステルジオール(a22)には、低分子ジオールおよび/または分子量1000以下のポリエーテルジオールとジカルボン酸とを反応させて得られる縮合ポリエステルジオール(a221)、低分子ジオールおよびその混合物と低級アルコール(メタノール等)の炭酸ジエステルとを反応させて得られるポリカーボネートジオール(a222)、並びにラクトンの開環重合により得られるポリラクトンジオール(a223)等が含まれる。
【0023】
上記低分子ジオールとしては、前述の2価アルコール等が挙げられる。分子量1,000以下のポリエーテルジオールとしては、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
また、ジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸およびセバシン酸等)、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸およびフタル酸等)、これらのジカルボン酸のエステル形成性誘導体[酸無水物および低級アルキル(炭素数1〜4)エステル等]およびこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。ラクトンとしては、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンおよびこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0024】
ポリエステル化反応は、通常の方法、例えば、低分子ジオールおよび/または分子量1,000以下のポリエーテルジオールを、ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とを反応(縮合)させる方法、あるいは開始剤(低分子ジオールおよび/または分子量1,000以下のポリエーテルジオール)にラクトンを付加させる方法等により行うことができる。
【0025】
(a221)としては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリネオペンチレンアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリブチレンヘキサメチレンアジペートジオールおよびポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペートジオール等のアジペート系縮合ポリエステルジオール;ポリエチレンアゼレートジオールおよびポリブチレンアゼレートジオール等のアゼレート系縮合ポリエステルジオール;ポリエチレンセバケートジオールおよびポリブチレンセバケートジオール等のセバケート系縮合ポリエステルジオール等が挙げられる。
【0026】
(a222)としては、炭素数4〜10(以下、C4〜10のように略記する)の直鎖状アルキレンのポリアルキレンカーボネートジオール(例えば、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ノナンジオールのポリカーボネートジオール等)、C4〜10の分岐状アルキレンのポリアルキレンカーボネートジオール(例えば、2−メチルブタンジオールのポリカーボネートジオール、2−エチルブタンジオールのポリカーボネートジオール、ネオペンチルグリコールのポリカーボネートジオール、2−メチルペンタンジオールのポリカーボネートジオール、3−メチルペンタンジオールのポリカーボネートジオール等)、これらの共重合体等が挙げられる。
(a223)としては、ポリカプロラクトンジオール等が挙げられる。
【0027】
(a2)のうち耐加水分解性、耐久性の観点から、好ましくはポリカーボネートジオール(a222)、さらに好ましくはポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、3−メチルペンタンジオールのポリカーボネートジオールおよびこれらの共重合体である。
【0028】
(a2)の数平均分子量(以下において、Mnと略記)の下限は好ましくは500、さらに好ましくは1,000であり、上限は好ましくは20,000、さらに好ましくは10,000、特に好ましくは3,000である。
(a2)のMnは、水酸基価より求められ、水酸基価は、JIS−K0070−1992(電位差滴定方法)に規定された方法で測定できる。
【0029】
カルボキシル基および/またはスルホン基含有ポリオールもしくはその塩(a3)は、ポリウレタン樹脂を水中に自己乳化させることを目的として、カルボキシレート基またはスルホネート基導入のために使用される成分である。
【0030】
(a3)としては、カルボキシル基含有ポリオール(a31)[ジアルキロールアルカン酸{C6〜24のもの、例えば2,2−ジメチロールプロピオン酸(以下、DMPAと略記)、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールヘプタン酸、2,2−ジメチロールオクタン酸等}]、スルホン基含有ポリオール(a32)[スルホン酸ジオール{3−(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)−1−プロパンスルホン酸等}およびスルファミン酸ジオール{N,N−ビス(2−ヒドロキシアルキル)スルファミン酸およびそのAO付加物等}]、およびこれらの2種以上の併用等が挙げられる。
(a3)における塩としては、例えばアンモニウム塩、アミン塩[C1〜12の1級アミン(1級モノアミン、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンおよびオクチルアミン)塩、2級モノアミン(ジメチルアミン、ジエチルアミンおよびジブチルアミン)塩、3級モノアミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミンおよびN,N−ジメチルエタノールアミン等の脂肪族3級モノアミン;N−メチルピペリジンおよびN−メチルモルホリン等の複素環式3級モノアミン;ベンジルジメチルアミン、α−メチルベンジルジメチルアミン、およびN−ジメチルアニリン等の芳香環含有3級モノアミン)塩]、アルカリ金属(ナトリウム、カリウムおよびリチウム)塩、並びにこれらの2種以上の併用等が挙げられる。
塩のうち、好ましいものはアミン塩、さらに好ましいものは脂肪族3級モノアミン塩、特に好ましいものはトリエチルアミン塩である。
【0031】
鎖伸長剤(a4)としては、C2〜10のジアミン類(例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミンおよびトルエンジアミン等);ポリアミン類(例えばジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等);ヒドラジンもしくはその誘導体(二塩基酸ジヒドラジド例えばアジピン酸ジヒドラジド等);C2〜15の多価アルコール類[前述の2価アルコール、3価アルコール(例えばグリセリン、トリメチロールプロパン等)、これらの多価アルコールのEOおよび/またはPO低モル付加物(分子量500未満)]、およびこれらの2種以上の併用等が挙げられる。これらのうち好ましいものは、エチレンジアミンおよびイソホロンジアミンである。
【0032】
停止剤(a5)としては、C1〜8のモノアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、セロソルブ類およびカービトール類等)、C1〜10のモノアミン類(モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、モノオクチルアミン、モノエタノールアミンおよびジエタノールアミン等)、およびこれらの2種以上の併用等が挙げられる。これらのうち好ましいものは、モノエチルアミン、モノブチルアミンおよびモノエタノールアミンである。
【0033】
(a3)が塩ではなくて、カルボキシル基および/またはスルホン基含有ポリオールの場合は、(a6)を使用してカルボキシル基および/またはスルホン基を中和してカルボキシレート基および/またはスルホネート基とすることができる。
中和剤(a6)としては、アルカリ性化合物が挙げられ、例えばアンモニア、アミン[C1〜12の1級アミン(1級モノアミン、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンおよびオクチルアミン)、2級モノアミン(ジメチルアミン、ジエチルアミンおよびジブチルアミン)、3級モノアミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミンおよびN,N−ジメチルエタノールアミン等の脂肪族3級モノアミン;N−メチルピペリジンおよびN−メチルモルホリン等の複素環式3級モノアミン;ベンジルジメチルアミン、α−メチルベンジルジメチルアミン、およびN−ジメチルアニリン等の芳香環含有3級モノアミン)]、アルカリ金属(ナトリウム、カリウムおよびリチウム)、アルカリ金属水酸化物、並びにこれらの2種以上の併用等が挙げられる。これらのうち好ましいものはアミン、さらに好ましいものは脂肪族3級モノアミン、特に好ましいものはトリエチルアミンである。
【0034】
上記(a4)および(a5)の合計の使用量は、プレポリマー末端NCO基の当量に基づいて、通常0〜100%当量、樹脂強度の観点から、好ましくは20〜80%当量、さらに好ましくは30〜70%当量である。
また、中和における(a6)の使用量は、カルボキシル基およびスルホン基の合計に基づいて、通常20〜200モル%、好ましくは30〜150モル%である。(a6)の使用量が30モル%以上の場合には水性分散体の保存安定性の点で好ましく、150モル%以下の場合には水性分散体の粘度の観点で好ましい。
【0035】
本発明における(a)は、カルボキシレート基および/またはスルホネート基を、該ポリウレタン樹脂(a)の重量に基づいて、好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.05%以上、特に好ましくは0.08%以上含有し、好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは0.75%以下、特に好ましくは0.50%以下含有する。カルボキシレート基および/またはスルホネート基の含有量が0.01%未満では安定な(A)が得られにくい傾向があり、1.5%を超えると形成樹脂皮膜の耐水性が低下する傾向がある。
(a)中のカルボキシレート基およびスルホネート基の含量は、(A)の3〜10gを130℃で45分間加熱乾燥して得られる残査を、水洗後、再度130℃で45分間加熱乾燥し、ジメチルホルムアミドに溶解し、JIS−K0070記載の方法(電位差滴定法)で測定される酸価から算出できる。
【0036】
(a)のMnは、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略記)により測定することができる。
非架橋型(熱可塑性)の(a)の場合は、Mnは、好ましくは2,000〜2,000,000またはそれ以上、さらに好ましくは10,000〜1,500,000、特に好ましくは100,000〜500,000である。架橋型の(a)の場合は、上記範囲より高いMnのもの、GPCで測定できない高いMnのものでもよい。
【0037】
本発明における(a)を得るためのウレタン化反応においては、反応を促進させるため、必要により通常のウレタン反応に使用される触媒を使用してもよい。触媒としては、アミン触媒、例えばトリエチルアミン、N−エチルモルホリン、トリエチレンジアミンおよび米国特許第4524104号明細書に記載のシクロアミジン類[1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(サンアプロ・製造、DBU)等];錫系触媒、例えばジブチル錫ジラウリレート、ジオクチル錫ジラウリレートおよびオクチル酸錫;チタン系触媒、例えばテトラブチルチタネート等が挙げられる。
【0038】
本発明における(a)の製造は、以下の2つの方法が挙げられる。
(1)予め末端イソシアネート基のプレポリマー(以下、末端NCO基ウレタンプレポリマーと略記)を製造しておいて、分散媒、並びに必要により、乳化剤(a7)、鎖伸長剤(a4)および/または停止剤(a5)等の存在下に乳化させて、(a)のエマルションの形態で得る方法。
(2)末端水酸基のポリウレタン樹脂を製造しておいて、分散媒、並びに必要により、乳化剤(a7)の存在下に(a)のエマルションの形態で得る方法。
これらのうち好ましいのは(1)の方法である。
【0039】
(1)の方法における末端NCO基ウレタンプレポリマーは、分子内に活性水素含有基を含まない有機溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド等)の存在下または非存在下で、(a1)と(a2)および(a3)からなる活性水素成分とを、(NCO/水酸基)当量比が、通常1.05〜2.0、好ましくは1.1〜1.6の範囲でワンショット法または多段法により、通常20℃〜150℃、好ましくは60℃〜110℃で反応させた後、(a6)で中和して得られる。
【0040】
また、エマルションの製造に必要な分散媒として用いられるものは、通常、水および親水性有機溶剤が挙げられる。親水性有機溶剤としては、水に対する溶解度が30以上/100g水のもの、例えば1価アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール等)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコールおよびジエチレングリコール等)、3価以上のアルコール(グリセリン等)、セロソルブ類(メチルセロソルブおよびエチルセロソルブ等)が挙げられる。分散媒のうち、好ましいものは水である。親水性有機溶剤を併用する場合は、通常、分散媒合計に基づいて、親水性有機溶剤は10%以下が好ましい。
【0041】
また、(2)の方法におけるエマルションは、(a)を、分子内に活性水素含有基を含まない有機溶剤の存在下または不存在下に、(a1)と(a2)および(a3)とからなる活性水素成分とを、(NCO/水酸基)当量比が、0.5〜0.99の範囲でワンショット法または多段法で反応させ、末端水酸基のウレタンポリマーとし、これを(a6)で中和して得られる。
【0042】
上記の(1)および(2)の方法において使用できる乳化剤(a7)としては、後述の、40〜98℃の曇点を有するノニオン性界面活性剤(c)、その他のノニオン性界面活性剤(a71)、アニオン性界面活性剤(a72)、カチオン性界面活性剤(a73)、両性界面活性剤(a74)、高分子型乳化分散剤(a75)が挙げられ、例えば米国特許第3929678号および米国特許第4331447号明細書に記載のものが挙げられる。これらの2種以上を併用することもできる。
(a7)のうち、好ましいのは感熱凝固性の観点から後述の(c)である。
【0043】
(a71)としては、アルキレンオキシド付加型ノニオン性界面活性剤および多価アルコール型ノニオン性界面活性剤のうち、曇点を有しないか、または曇点が40℃未満もしくは98℃を超えるノニオン性界面活性剤が挙げられる。
(a71)のアルキレンオキシド付加型ノニオン性界面活性剤としては、脂肪族アルコールEO付加物、フェノールEO付加物、ノニルフェノールEO付加物、アルキル(C8〜22)アミンEO付加物およびポリプロピレングリコールEO付加物等のうち、曇点を有しないか、または曇点が40℃未満もしくは98℃を超えるノニオン性界面活性剤(例えばノニルフェノールEO50モル付加物等)が挙げられる。多価アルコール型ノニオン性界面活性剤としては、多価(3〜8価またはそれ以上)アルコール(C2〜30)の脂肪酸(C8〜24)エステル(例えばグリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレエート、ソルビタンモノラウレートおよびソルビタンモノオレエート等)、アルキル(C4〜24)ポリ(重合度1〜10)グリコシド等が挙げられる。
【0044】
(a72)としては、C8〜24の炭化水素基を有するエーテルカルボン酸またはその塩[ラウリルエーテル酢酸ナトリウム、(ポリ)オキシエチレン(付加モル数1〜100)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム等];C8〜24の炭化水素基を有する硫酸エステルもしくはエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩[ラウリル硫酸ナトリウム、(ポリ)オキシエチレン(付加モル数1〜100)ラウリル硫酸ナトリウム、(ポリ)オキシエチレン(付加モル数1〜100)ラウリル硫酸トリエタノールアミン、(ポリ)オキシエチレン(付加モル数1〜100)ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド硫酸ナトリウム等];C8〜24の炭化水素基を有するスルホン酸塩[ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等];C8〜24の炭化水素基を1個もしくは2個有するスルホコハク酸塩;C8〜24の炭化水素基を有するリン酸エステルもしくはエーテルリン酸エステルおよびそれらの塩[ラウリルリン酸ナトリウム、(ポリ)オキシエチレン(付加モル数1〜100)ラウリルエーテルリン酸ナトリウム等];C8〜24の炭化水素基を有する脂肪酸塩[ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸トリエタノールアミン等];およびC8〜24の炭化水素基を有するアシル化アミノ酸塩[ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム、ヤシ油脂肪酸サルコシンナトリウム、ヤシ油脂肪酸サルコシントリエタノールアミン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸トリエタノールアミン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸ナトリウム、ラウロイルメチル−β−アラニンナトリウム等]が挙げられる。
【0045】
(a73)としては、第4級アンモニウム塩型[塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム等];およびアミン塩型[ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド乳酸塩、ジラウリルアミン塩酸塩、オレイルアミン乳酸塩等]が挙げられる。
【0046】
(a74)としては、ベタイン型両性界面活性剤[ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン、ラウロイルアミドエチルヒドロキシエチルカルボキシメチルベタインヒドロキシプロピルリン酸ナトリウム等];およびアミノ酸型両性界面活性剤[β−ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム等]が挙げられる。
【0047】
(a75)としては、ポリビニルアルコール;デンプンおよびその誘導体;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリアクリル酸ソーダ等のカルボキシル基含有(共)重合体でMn=1,000〜50,000のもの;および米国特許第5906704号明細書に記載のウレタン結合もしくはエステル結合を有する高分子型分散剤[例えばポリカプロラクトンポリオールとポリエーテルジオールをポリイソシアネートで連結させたもの]等が挙げられる。
【0048】
本発明における(A)の必須成分である柔軟撥水剤(b)としては、従来から柔軟撥水剤として使用されている化合物であれば特に限定されないが、例えばシリコーン化合物(b1)およびフッ素化合物(b2)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0049】
シリコーン化合物(b1)としては、ポリシロキサンおよび変性シリコーンオイル等が挙げられる。ポリシロキサンとしては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサンおよびジオルガノポリシロキサンジオール等が挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、エポキシ変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、アルキルアラルキル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルおよびポリエーテル変性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0050】
フッ素化合物(b2)としては、例えばアクリル酸のフルオロアルキルエステル系重合体(例えば1,1−ジヒドロパーフルオロオクチルアクリレートポリマー、パーフルオロアルキルエチルアクリレート−アルキルアクリレート共重合体等)等が挙げられる。
【0051】
これらのうち、好ましいのは(b1)、さらに好ましいのはポリシロキサン、特に好ましいのはジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサンおよびこれらの併用である。
【0052】
(b)は、シリコーン化合物またはフッ素化合物そのものの形態であってもよいが、水性媒体に乳化分散されたエマルションの形態であってもよい。添加しやすさの観点から、好ましいのはエマルションの形態である。
(b)のエマルションに使用できる乳化剤としては、(a)のエマルションの製造で挙げた乳化剤(a7)と同様のものが挙げられる。
エマルション型の(b)の市販品には、シリコーン化合物として、「SM8706」[東レダウコーニング(株)製、有効成分35%]、「KM797」[信越化学工業(株)製、有効成分38%]等、フッ素化合物として「ディックガードF−90N」[大日本インキ化学工業(株)製、有効成分20%]等が挙げられる。
【0053】
本発明における(A)の必須成分である40〜98℃の曇点を有するノニオン性界面活性剤(c)としては、ノニオン性界面活性剤のうちの曇点が40〜98℃のものであれば特に限定されないが、好ましいのはポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤である。また、曇点は、好ましくは42〜95℃、さらに好ましくは42〜80℃である。(c)の曇点が40℃未満では、(A)を長期に保存した場合に、凝固物が発生する等の保存安定性に問題を生じる。一方曇点が98℃を超えると、ポリウレタンの水に対する親和性が大きくなりすぎるため、(A)が感熱凝固しにくくなる。
曇点は、ノニオン性界面活性剤の2%水溶液を撹拌下に昇温し、白濁する温度を温度計により読みとることによって測定できる。
(c)は、前述の(a)または(b)のエマルション製造時の乳化剤として用いてもよく、またエマルションの製造後に新たに添加・配合してもよい。
【0054】
(c)の具体例としては、脂肪族アルコールEO付加物[オレイルアルコールEO11〜16モル付加物(曇点78〜93℃)、ラウリルアルコールEO8〜11モル付加物(曇点70〜98℃)等];アルキル(C8〜22)フェノールEO付加物[オクチルフェノールEO9.5〜14モル付加物(曇点65〜94℃)およびノニルフェノールEO10〜15モル付加物(曇点64〜96℃)等];アルキル(C8〜22)アミンEO付加物;およびポリプロピレングリコールEO付加物[ポリプロピレングリコール(Mn=700)EO20〜30モル付加物等]が挙げられ、これらのEO付加物は少量(30モル%以下)のPOとのランダムまたはブロック付加物であってもよい。
【0055】
(c)のHLBの下限は好ましくは10、さらに好ましくは11、特に好ましくは12であり、上限は好ましくは17、さらに好ましくは16、特に好ましくは15である。(c)のHLBが10以上であれば、エマルションを長期に保存した場合でも、凝固物が発生することはなく、保存安定性により優れるので好ましい。一方、HLBが17以下であれば、該エマルションを加熱したときに感熱凝固しやすいので好ましい。
【0056】
本発明におけるHLBは、藤本武彦著「新・界面活性剤入門」三洋化成工業株式会社発行(1992年)、P128記載の下記のグリフィンの方法により算出される値である。
HLB=(親水基の重量%)×(1/5)
【0057】
(c)の市販品としては、以下の脂肪族アルコールEO付加物等が挙げられる。
「エマルミンNL−70」;C12の高級アルコールのEO付加物、曇点=44℃、HLB=12.4、三洋化成工業(株)製
「エマルミン110」;C16−18の高級アルコールのEO付加物、曇点=56℃、HLB=13.2、三洋化成工業(株)製
「ナローアクティN−120」;C14−15の高級アルコールのEO付加物、曇点=77℃、HLB=14.2、三洋化成工業(株)製
「エマルミン140」;C16−18の高級アルコールのEO付加物、曇点=80℃、HLB=14.2、三洋化成工業(株)製
【0058】
本発明における(A)の必須成分である無機塩(d)としては、25℃の水に対する溶解度が1以上、好ましくは10以上の下記の無機塩等が挙げられる。また、(d)は、エマルションを凝固させる作用を有しており、例えば以下のものが挙げられる。
【0059】
アルカリ金属塩(d1);
アルカリ金属水酸化物[水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウム]、アルカリ金属炭酸塩[炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸リチウム]、アルカリ金属硫酸塩[硫酸ナトリウムおよび硫酸カリウム]、アルカリ金属硝酸塩[硝酸ナトリウムおよび硝酸カリウム]、アルカリ金属リン酸塩[リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウムおよびリン酸カリウム]、アルカリ金属亜硫酸塩[亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムおよび亜硫酸カリウム]およびアルカリ金属ハロゲン(塩素、臭素、ヨウ素もしくはフッ素)化物[塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化カリウムおよびフッ化カリウム]等。
アルカリ土類金属塩(d2);
アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム、バリウムおよびストロンチウム等)水酸化物[水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムおよび水酸化ストロンチウム]、アルカリ土類金属炭酸塩[炭酸カルシウムおよび炭酸マグネシウム]、アルカリ土類金属硫酸塩[硫酸カルシウムおよび硫酸マグネシウム]、アルカリ土類金属硝酸塩[硝酸カルシウムおよび硝酸マグネシウム]、アルカリ土類金属リン酸塩[リン酸水素カルシウムおよびリン酸水素マグネシウム]、アルカリ土類金属亜硫酸塩[亜硫酸カルシウムおよび亜硫酸マグネシウム]およびアルカリ土類金属ハロゲン(塩素、臭素、ヨウ素もしくはフッ素)化物[塩化カルシウム、塩化マグネシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウムおよびフッ化マグネシウム]等。
アンモニウム塩(d3);
ハロゲン化アンモニウム塩(塩化アンモニウムおよび臭化アンモニウム等)等。
これらのうち、エマルションが比較的長期の保存安定性を得られやすいという観点から、好ましいのは(d1)である。
【0060】
本発明の感熱凝固性エマルション(A)の調整方法は特に限定されないが、保存安定性の観点から、(d)を、(a)、(b)および(c)からなるエマルションに添加する方法が好ましい。
【0061】
(a)、(b)および(c)からなるエマルションを調整する方法としては、以下の方法が挙げられる。
(1);(a)のエマルションに、(b)のエマルションおよび(c)を添加する方法。
(2);末端水酸基ポリウレタン樹脂、末端NCO基ウレタンプレポリマーもしくは分散媒のいずれか1種以上に、(c)および必要により(a7)を混合し、分散媒中でこれらを乳化した後、さらに(b)のエマルションを添加する方法。
(3);末端水酸基ポリウレタン樹脂もしくは末端NCO基プレポリマーのいずれかに、(c)および必要により(a7)を混合し、これを、(b)のエマルション中に分散して乳化する方法。
(4);末端水酸基ポリウレタン樹脂もしくは末端NCO基プレポリマーのいずれかと(b)を混合した後、(c)を加えて混合し、さらに、水のみ、もしくは水と(c)の混合物を加えて乳化する方法。
(5);末端水酸基ポリウレタン樹脂もしくは末端NCO基プレポリマーのいずれかと(b)を混合した後、水と(c)の混合物を加えて乳化する方法。
これらのうちで(2)の方法が(A)の保存安定性の観点から好ましい。
【0062】
本発明における混合・乳化工程で使用できる装置としては特に限定されず、例えば下記の方式の乳化機等が挙げられる:1)錨型撹拌方式、2)回転子−固定子式方式[例えば「エバラマイルダー」(荏原製作所製)]、3)ラインミル方式[例えばラインフローミキサー]、4)静止管混合式[例えばスタティックミキサー]、5)振動式[例えば「VIBRO MIXER」(冷化工業社製)]、6)超音波衝撃式[例えば超音波ホモジナイザー]、7)高圧衝撃式[例えばガウリンホモジナイザー(ガウリン社)]、8)膜乳化式[例えば膜乳化モジュール]、および9)遠心薄膜接触式[例えばフィルミックス]。これらのうち、好ましいのは、1)、2)および9)である。
【0063】
本発明における(A)の感熱凝固温度は、保存安定性および凝固性の観点から、好ましくは35〜90℃、さらに好ましくは40〜80℃である。つまり、感熱凝固性エマルション(A)そのものの温度が35〜90℃になれば凝固するものが好ましい。
感熱凝固温度は、エマルションを加温していき、凝固流動しなくなる温度を温度計により読みとることで測定できる。
【0064】
本発明における(A)の体積平均粒子径は、好ましくは0.01μm〜1μm、さらに好ましくは0.02μm〜0.5μmである。なお、当該体積平均粒子径は、エマルションにおいて、分散媒中に分散している分散質の体積平均粒子径を意味する。
体積平均粒子径は、大塚電子株式会社製、ELS−800型電気泳動光散乱光度計を用いて測定できる。
【0065】
本発明における(A)を室温(25℃)で24時間放置し、さらに105℃で3時間乾燥させて得られるフィルムの破断強度は、好ましくは10〜100MPa、さらに好ましくは20〜60MPaである。なお、フィルムの作成には、必要に応じて造膜助剤を使用しても良い。
破断強度は、以下の方法により測定できる。3号のダンベルカッターで得られたフィルムをカットして試験片とし、これをオートグラフ{AGS−500D、島津製作所(株)製}を用い、引張速度300mm/分で引張り、破断時の強度を測定する。なお、本試験は温度25℃、相対湿度65%RHの条件下で実施し、測定前には試験サンプルを同条件下で2時間以上温調することが必要である。
【0066】
本発明における(A)には、必要により、酸化チタン等の着色剤、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系等)や酸化防止剤[トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等のヒンダートフェノール;トリフェニルホスファイト、トリクロルエチルホスファイト等の有機ホスファイト等]等の各種安定剤、防腐剤、架橋剤(ポリエポキシ化合物、ポリイソシアネート化合物等)、無機充填剤(炭酸カルシウム等)等を添加させることができる。
これら各添加剤の合計量は、(A)の固形分100重量部に対して、5重量部以下が好ましく、さらに好ましくは0.1重量部以上3重量部以下である。
【0067】
本発明における(A)の繊維材料基体への付与は、含浸または塗布により行われ、通常行われる方法であればいずれでもよい。
例えば、繊維材料基体に(A)を含浸し、マングル等で搾ってピックアップを調製する方法、その他ナイフコーティング、エアーナイフコーティング、ロールコーティングおよびスプレーコーティング等の方法が挙げられる。
【0068】
基体に付与された(A)の凝固および乾燥の方法としては、例えば、(1)加熱水蒸気を吹き付けて感熱凝固した後、乾燥装置による加熱乾燥または風乾する方法、および(2)乾燥装置中にそのまま導入して、加熱凝固すると共に乾燥する方法、等が挙げられる。上記のうちで好ましいのは、(1)の方法である。
【0069】
基体に付与された(A)を感熱凝固させるための雰囲気の温度は、凝固浴の安定性およびポリウレタン樹脂の凝固を速やかに完了させるという観点から、好ましくは40〜180℃、さらに好ましくは60〜150℃、特に好ましくは70〜120℃である。感熱凝固させる時間は、温度によって異なるが、通常0.1分〜30分、好ましくは0.5分〜20分である。
【0070】
凝固させた後の乾燥温度は、通常100〜200℃、好ましくは120〜180℃である。乾燥時間は、通常1〜60分、好ましくは2〜30分である。
【0071】
本発明の皮革様シート材料は、上記の製造方法で得られたものである。
繊維材料基体へのポリウレタン樹脂(a)の付着重量は、繊維材料基体100重量部に対して、好ましくは3重量部以上、さらに好ましくは10重量部以上、特に好ましくは20重量部以上であり、好ましくは150重量部以下、さらに好ましくは100重量部以下、特に好ましくは50重量部以下である。
【0072】
本発明の皮革様シートは、上記のようにして得られた皮革様シート用材料を、さらに染色、洗浄、研削および/または乾燥等の後加工処理が施されて得られるものである。
染色は、サーキュラー染色機を用いる等の公知の染色方法により行うことができる。染色に用いる染料としては特に限定されないが、分散染料、金属錯塩染料、酸性染料等を主体とした染料が挙げられる。
洗浄は、未反応の染料、活性剤、無機塩等を取り除くために行われる。洗浄の方法としては特に限定されないが、温水または冷水を用いてサーキュラー染色機でもみ洗いを行う、水浴に含浸してマングル等で絞る方法等が挙げられる。
研削は、人工皮革表面を起毛するために行われる。研削の方法としては特に限定されないが、エメリーパフ機等を用いる方法が挙げられる。
乾燥は、含浸後の水分を除去する、または樹脂の強度を向上する等のために行われる。乾燥の方法としては特に限定されないが、ピンテンター等を用いる熱風乾燥、赤外線加熱、マイクロ波加熱等の方法が挙げられる。
【0073】
本発明の皮革様シートは、適度な皮革強度および向上された耐摩耗性を有し、天然皮革に近似した良好な風合いを有しているので、極めて有用である。また、本発明の皮革様シートは、種々の用途、例えば、マットレス、鞄内張り材料、衣料、靴用芯材、クッション地、自動車内装材、壁材等に好適に使用することができる。
【0074】
[実施例]
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下において、「部」は重量部を示す。
【0075】
また、製造例に記載のMnは、JIS−K0070−1992(電位差滴定方法)に規定された方法で測定した水酸基価より求めた。
【0076】
<ポリウレタン樹脂(a)のエマルションの製造>
製造例1
温度計および攪拌機を備えた密閉反応槽に、Mn2,000のポリヘキサメチレンカーボネートジオール330部、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA)6.5部、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート98部およびアセトン235部を仕込み、反応系を窒素ガスで置換した後、攪拌下90℃で10時間反応させ、末端NCO基ウレタンプレポリマーのアセトン溶液を得た。得られた該アセトン溶液を40℃に冷却して、トリエチルアミン5.0部を加えた。次いで、(c)として「ナローアクティN−120」[三洋化成工業(株)製、HLBは14.2、曇点77℃]21.7部を水412部に溶解したものを該アセトン溶液に加え、ホモミキサーで1分間攪拌して乳化した後、エチレンジアミン1.0部を水230部に溶解したものを加え、鎖伸長反応をさせた後、減圧下でアセトンを留去し、水で濃度調整して、不揮発残留分40%、平均分散粒子径0.5μmのポリウレタン樹脂エマルション−1を得た。
得られたポリウレタン樹脂エマルション−1中の(a)の重量に基づくカルボキシレート基の含有率は0.51%であった。
【0077】
製造例2
Mn2,000のポリヘキサメチレンカーボネートジオールのかわりに、Mn2,000の3−メチル−1,5−ペンタンジオール/1,6−ヘキサンジオールの共重合ポリカーボネートジオール、(c)として「エマルミンNL−70」[三洋化成工業(株)製、HLBは12.4、曇点44℃]を用いること以外は、製造例1と同様にしてポリウレタン樹脂エマルション−2を得た。
得られたポリウレタン樹脂エマルション−2中の(a)の重量に基づくカルボキシレート基の含有率は0.50%であった。
【0078】
製造例3
(c)の「ナローアクティN−120」のかわりに、「ノニポール500」[ノニルフェノールEO付加物、三洋化成工業(株)製、HLBは18.2、曇点100℃以上]を使用すること以外は、製造例1と同様にしてポリウレタン樹脂エマルション−3を得た。
得られたポリウレタン樹脂エマルション−3中の(a)の重量に基づくカルボキシレート基の含有率は0.48%であった。
【0079】
<不織布の製造>
製造例4
ポリエチレンテレフタレート短繊維から積層シートを作り、このシートを280本/cm2の打込数となるようにニードルパンチした後、乾燥し、重量380g/m2、見掛密度0.18g/cm2の不織布Aを得た。
【0080】
比較製造例1
不織布Aに、純分5%に希釈したエマルション型シリコーン「SM8706」[東レダウコーニング(株)製]を含浸させて、120℃で20分乾燥し、シリコーンの不織布に対する付着率が2%である不織布Bを得た。
【0081】
実施例1
ポリウレタン樹脂エマルション−1の100部に対して、(b)としてエマルション型シリコーン「SM8706」[東レダウコーニング(株)製]3部、(d)として塩化カルシウムの10%水溶液8部を添加し、不揮発残留分が20%となるように水を加えて調整して、本発明における感熱凝固性エマルションを得た。該エマルションに不織布Aを含浸し、樹脂の付着率が不織布重量に対して約30%となるようにマングルで絞った後、100℃の飽和水蒸気中で2分間加熱し、更に120℃の熱風乾燥機で20分乾燥後、水洗し、再度120℃の熱風乾燥機で20分乾燥することにより皮革様シート材料を得た。
【0082】
実施例2
(b)としてエマルション型シリコーン「KM797」[信越化学工業(株)製]6部を使用すること以外は、実施例1と同様にして皮革様シート材料を得た。
【0083】
実施例3
(b)としてエマルション型フッ素系化合物「ディックガードF−90N」[大日本インキ化学工業(株)製]6部を使用すること以外は、実施例1と同様にして皮革様シート材料を得た。
【0084】
実施例4
ポリウレタン樹脂エマルション−1の代わりにポリウレタン樹脂エマルション−2を使用すること以外は、実施例1と同様にして皮革様シート材料を得た。
【0085】
比較例1
ポリウレタン樹脂エマルション−1の代わりにポリウレタン樹脂エマルション−3を使用すること以外は、実施例1と同様にして皮革様シート材料を得た。
【0086】
比較例2
(d)を添加しないこと以外は実施例1と同様にして皮革様シート材料を得た。
【0087】
比較例3
(b)を添加しないこと以外は実施例1と同様にして皮革様シート材料を得た。
【0088】
比較例4
(b)を添加しないこと以外は実施例4と同様にして皮革様シート材料を得た。
【0089】
比較例5
不織布Aの代わりに不織布Bを使用すること以外は比較例3と同様にして皮革様シート材料を得た。
【0090】
実施例および比較例で使用した感熱凝固性エマルションの成分および感熱凝固温度、並びに使用した不織布の種類を表1および表2に示した。
なお、感熱凝固温度は、エマルションを加熱してゆき、凝固して流動しなくなる温度を温度計により読みとることで測定した。
【0091】
<性能試験>
実施例および比較例で製造した皮革様シート材料について、以下の評価方法で、樹脂の付着率(重量%)、耐摩耗性(毛羽の平均長さ)および風合いを評価した。結果を表1および表2に示す。
[樹脂の付着率(重量%)]
次式により算出した。
100×[(皮革様シート材料の重量)−(繊維材料基体の重量)]/(繊維材料基体の重量)
[耐摩耗性]
皮革様シート材料の表面を、テーバ式摩耗試験機を用いて摩耗輪H−18で加重1kgで500回試験したときの、シートの研削面を走査型電子顕微鏡にて観察し、毛羽の平均長さ(μm)で評価し、毛羽が摩耗試験で切断されることなく長いものを良いと判定した。
[風合い]
皮革様シート材料が、天然皮革様の風合いを有するものである場合を「○」と判定し、天然皮革に比べて柔軟性がやや劣るものを「△」、柔軟性不足のため天然皮革様の風合いを呈さない場合を「×」と判定した。判定は手の触感による官能試験で行った。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の皮革様シート材料の製造方法は、柔軟撥水剤を付与する工程を追加する必要がなく、生産性に優れ、得られた皮革様シート材料は、風合いおよび耐摩耗性に優れる。また、本発明の製造方法で得られる皮革様シート材料および皮革様シートは、マットレス、鞄内張り材料、衣料、靴用芯材、クッション地、自動車内装材および壁材等に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟撥水処理をされていない繊維材料基体に、感熱凝固性エマルション(A)を付与した後、感熱凝固して皮革様シート材料を製造する方法であって、該感熱凝固性エマルション(A)が、ポリウレタン樹脂(a)、柔軟撥水剤(b)、40〜98℃の曇点を有するノニオン性界面活性剤(c)および無機塩(d)を必須成分とし、重量比(b)/(a)が0.005〜0.2であるエマルションであることを特徴とする皮革様シート材料の製造方法。
【請求項2】
(a)が、カルボキシレート基および/またはスルホネート基を(a)の重量に基づいて0.01〜1.5重量%含有するポリウレタン樹脂である請求項1記載の皮革様シート材料の製造方法。
【請求項3】
(b)が、シリコーン化合物および/またはフッ素化合物である請求項1または2記載の皮革様シート材料の製造方法。
【請求項4】
40〜180℃の雰囲気温度で感熱凝固させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の皮革様シート材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の製造方法で得られた皮革様シート材料。
【請求項6】
請求項5記載の皮革様シート材料をさらに後加工処理して得られる皮革様シート。

【公開番号】特開2006−200115(P2006−200115A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359373(P2005−359373)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【出願人】(506059285)
【Fターム(参考)】