説明

皿ばね

【課題】 クラッチドラム内部の軸方向のスペースの縮小化に対応することができるのはもちろんのこと、要求されるストローク長および平坦時発生荷重を得ることができる皿ばねを提供する。
【解決手段】 皿ばね1では、一面における段差10Cより内周側の薄板部10Aの板厚T1Aを、段差10Cより外周側の厚板部10Bの板厚T1Bよりも薄くしている。薄板部10Aおよび厚板部10Bの板厚T1A,T1Bを適宜設定することにより、所望のストローク長STと平坦時発生荷重Pを得ることができる。また、輸送機械のクラッチ機構のピストン3と従動プレート4の間に設ける場合、段差10Cが形成された一面をピストン3側に配置し薄板部10Aをピストン3に接触させるとともに、厚板部10Bを従動プレート4側に配置することにより、機構内の軸方向スペースの縮小化に対応することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送機械の多板式クラッチ装置のクラッチ締結時などに生じるショックの吸収のために用いられる皿ばねに係り、特に多板式クラッチ装置の小型化に対応させるための皿ばねの改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
CVT(Continuously Variable Transmission)車やAT(Automatic Transmission)車などの輸送機械のクラッチ装置は、湿式多板式クラッチ機構を備えている。湿式多板式クラッチ機構は、略有底円筒状をなすクラッチドラムを備え、クラッチドラムには、軸線方向に移動可能に設けられた底面側の従動プレートとピストンとの間に、リング状の皿ばねが設けられている(たとえば特許文献1)。皿ばねは、その内周縁部がピストンによって支持されるとともに、その外周縁部が底面側の従動プレートによって支持されるように配置されている。皿ばねは、皿形状から略平坦になるように弾性変形することによって、クラッチ機構のクラッチ締結時に生じるショックを吸収する。
【0003】
皿ばねの荷重特性では、高さHと板厚Tとの差で規定されるストローク長ST(図6参照)と、弾性変形における皿ばねの略平坦時の発生荷重(以下、平坦時発生荷重)とがクラッチ機構の設計値として要求されている。なお、皿ばねの略平坦時は、皿ばねの変位量がストローク長STに達した時に対応する。
【0004】
平坦時発生荷重は、皿ばねの内径、外径、板厚T、および高さHに依存するが、それらのうち皿ばねの内径および外径はクラッチドラムの内部スペースの設計値により予め決定されている。これにより、平坦時発生荷重は、板厚Tおよび高さHにより調整されている。
【0005】
ところで、近年クラッチ機構の小型化を図るためにクラッチドラム内部の軸方向のスペースの縮小化が図られている。しかしながら、皿ばねは、上記のようなショック低減機能を満足する特性が要求されることから、クラッチドラム内部の軸方向のスペースの縮小化に対応することが困難であった。そこで、クラッチドラム内部の軸方向のスペースの縮小化に対応するために、特許文献2に開示されているように、皿ばねにおけるピストンに押圧される面とその反対側の面の多段直線状に形成することにより、皿ばねの高さHを小さくすることが考えられる。
【0006】
【特許文献1】特開平9−32918号公報(要約)
【特許文献2】特開平9−329155号公報(図7,8,11〜14)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の技術では、皿ばねの高さHを小さくするために皿ばねを略コイン状に形成しているため、ストローク長STは非常に小さい。このため、皿ばねは十分なストロークを行うことができないから、略平坦時に至るまでの荷重特性が急激な変化を示してしまい、要求される平坦時発生荷重を得ることができない。特に、特許文献2の技術では、弾性変形における皿ばねの局所的高温発生抑制のために皿ばねの相手部材との接触面積を大きく設定しているため、上記問題は深刻である。
【0008】
したがって、本発明は、クラッチドラム内部の軸方向のスペースの縮小化に対応することができるのはもちろんのこと、要求されるストローク長および平坦時発生荷重を得ることができる皿ばねを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の皿ばねは、筒状の第1部材の内部で軸線方向に移動可能に設けられた第2部材と第3部材との間に配置されるリング状の皿ばねであって、円周方向に延在する段差を一面に形成し、かつ他面を平面状に形成することにより、一面における段差より内周側および外周側の一方の部分の板厚を、他方の部分の板厚よりも薄くし、一方の部分に相手部材を接触させることを特徴としている。
【0010】
ここで、半径方向に均一な板厚を有する皿ばねでは、図4に示すように、内径、外径、およびストローク長STを一定にした状態で、板厚Tを点XのTから点YのT1Aへと薄くした場合、平坦時発生荷重がPからP1Aへと小さくなり、板厚Tを点XのTから点ZのT1Bへと厚くした場合、PからP1Bへと大きくなるという関係を示す。
【0011】
本発明の皿ばねでは、上記関係を利用することにより、一面における段差より内周側および外周側の一方の部分(以下、薄板部)および他方の部分(以下、厚板部)の板厚を適宜設定することにより、所望のストローク長と平坦時発生荷重を得ることができる。これについて、図2を参照して説明する。図2(A)〜(C)に示すように、クラッチ機構のピストン3と従動プレート4の間の軸方向スペース長をHからH(<H)へとするスペースの縮小化に対応し、かつ従来の皿ばね2と同じストローク長と平坦時発生荷重を有する本発明の皿ばね1を得る場合を考える。なお、従来の皿ばね2は、半径方向に均一な板厚T、高さH、ストローク長ST、および平坦時発生荷重Pを有する。
【0012】
本発明の皿ばね1では、スペースの縮小化に対応するために、ピストン3に接触する薄板部10Aのストローク長STを確保した状態で、薄板部10Aの板厚T1Aを従来の皿ばね2の板厚Tよりも小さく設定する。すると、薄板部10Aの単位面積あたりの平坦時発生荷重が従来の皿ばね2のものより減少するから、その減少分を相殺するために、厚板部10Bの板厚T1Bを従来の皿ばね2の板厚Tよりも大きく設定することにより、厚板部10Bの単位面積あたりの平坦時発生荷重を従来の皿ばね2のものよりも大きく設定する。これにより、本発明の皿ばね1の全体の平坦時発生荷重は、従来の皿ばね2と同じ平坦時発生荷重Pに設定される。なお、上記態様では、一面に段差を形成し、薄板部をピストンに接触するように一面の内周側に形成したが、その代わりに、他面に段差を形成し、薄板部を従動プレートに接触するように他面の外周側に形成してもよいのは言うまでもないことである。
【0013】
以上のように従来の皿ばね2のストローク長STと平坦時荷重特性Pを有する本発明の皿ばね1では、図2(B)に示すように、段差10Cが形成された一面をピストン側に配置し薄板部10Aをピストン3に接触させるとともに、厚板部10Bの他面を従動プレート4側に配置することにより、クラッチ機構1のピストン3と従動プレート4の間の軸方向スペース長の縮小化に対応することができる。
【0014】
本発明の皿ばねでは種々の構成を用いることができる。たとえば、段差を2つ形成し、薄板部を2つの段差により形成された凹条とすることができる。この場合、相手部材を凹条の内部に接触させるように設けることにより、相手部材の皿ばねに対する半径方向への移動を抑制することができるので、相手部材の皿ばねからの離脱を防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の皿ばねでは、一面における段差より内周側および外周側の一方の部分(以下、薄板部)の板厚を、他方の部分(以下、厚板部)の板厚よりも薄くしているので、薄板部および厚板部の板厚を適宜設定することにより、所望のストローク長と平坦時発生荷重を得ることができる。また、輸送機械のクラッチ機構のピストンと従動プレートの間に設ける場合、段差が形成された一面を一方の部材側に配置し薄板部を一方の部材に接触させるとともに、厚板部の他面を他方の部材側に配置することにより、機構内の軸方向スペースの縮小化に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(1)皿ばねの構成
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る皿ばね1の構成を表す図である。図1の(A)は平面図、(B)は(A)の1B−1B線の側断面図である。なお、皿ばね1の部分拡大図は、図2(B)である。
【0017】
皿ばね1は、図1(A),(B)、図2(B)に示すように、リング状の皿形状をなす本体10を備え、本体10の中心部に円形状の孔11が形成されている。本体10の一面には、円周方向に延在する段差10Cが形成され、本体10の他面は平面状に形成されている。これにより、本体10における段差10Aより内周側に薄板部10Aが形成され、段差10Cより外周側に厚板部1Bが形成され、薄板部10Aの板厚T1Aは厚板部10Bの板厚T1Bよりも薄い。本実施形態では、皿ばね1のストローク長STおよび平坦時発生荷重Pは、半径方向に均一な板厚T(T1A<T<T1B)を有するとともに高さH(>H)を有する従来の皿ばね2と等しい。
【0018】
なお、本発明が適用される皿ばねは、図1(A),(B)、図2(B)に示される皿ばね1に限定されるものではなく、種々の構成を用いることができる。たとえば、本発明の薄板部の形状はピストンの形状に対応するように任意に設定することができる。たとえば、図3に示す皿ばね200のように、薄板部210Aは、円周方向に延在する2つの段差210C1,210C2から形成された凹条210Dとすることができる。厚板部210B1,210B2は、凹条210Dの両側に形成される。薄板部210Aは薄板部10Bと同じ厚さT1A、厚板部210Bは薄板部10Bと同じ厚さT1Bを有している。皿ばね200では、ピストン3を凹条210Dの内部に接触させるように設けることにより、ピストン3の皿ばね200に対する半径方向への移動を抑制することができるので、ピストン3の皿ばね200からの離脱を防止することができる。
【0019】
また、一面に段差10Cを形成し、薄板部10Aの内周縁部をピストン3に接触するように薄板部10Aを一面の内周側に形成する代わりに、他面に段差10Cを形成し、薄板部10Aの外周縁部を従動プレートに接触するように薄板部を他面の外周側に形成することができる。以上のような変形例では、 薄板部および厚板部の板厚を適宜設計することにより高さH,ストローク長ST,平坦時発生荷重Pを得ることができるのは言うまでもないことである。
【0020】
(2)皿ばねの製造方法
次に、皿ばね1の製造方法について説明する。まず、プレス加工によって、板厚T1Bの板材からリング形状のブランクを打ち抜く。続いて、リング形状のブランクに焼入れを行いながら、皿形状への曲げ成形および段差10Cの形成を行い、一面の内周側に板厚T1Aを有する薄板部10A、一面の外周側に板厚T1Bを有する厚板部10Bを形成する。次いで、焼戻しを行うことにより、上記のような構成を有する皿ばね1が得られる。
【0021】
なお、本発明が適用される皿ばねの製造方法は、上記製造方法に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。たとえば、まず、複数の工程を行うことが可能な単一金型(いわゆる順送型の金型)を用い、プレス加工によって、板厚T1Bの板材からリング状のブランクを打ち抜くとともに、そのリング状のブランクに段差10Cの形成を行うことにより、一面の内周側に板厚T1Aを有する薄板部10A、一面の外周側に板厚T1Bを有する厚板部10Bを形成する。次いで、常温でブランクを皿形状に曲げ成形を行い、皿形状のブランクに焼入れ・焼戻しを行うことにより皿ばね1が得られる。
【0022】
(3)クラッチ機構の構成
上記の皿ばね1は、図5に示すようなクラッチ機構100に適用することができる。図2は、クラッチ機構100の構成を表す拡大側断面図である。なお、下記ピストン105,従動プレート103は、図2(A),(B)のピストン3,従動プレート4に対応している。
【0023】
クラッチ機構100は、略有底円筒状をなすクラッチドラム101を備えている。クラッチドラム101の内周面には、軸線方向に延在する複数のスプライン溝101Aが円周方向に等間隔に形成されている。クラッチドラム101の内部には、それと回転軸線位置が一致する筒状のクラッチハブ102が設けられ、その外周面には、軸線方向に延在する複数のスプライン溝102Aが円周方向に等間隔に形成されている。
【0024】
クラッチドラム101とクラッチハブ102との間には、クラッチドラム101のスプライン溝101Aに嵌合する従動プレート103と、クラッチハブ102のスプライン溝102Aに嵌合する駆動プレート104とが、軸線方向に移動可能に所定の間隔をおいて交互に配置されている。クラッチドラム101の底面側には、軸線方向に移動可能にピストン105が配置されている。クラッチドラム101とピストン105との間には、作動油が供給される油圧室106が形成されている。ピストン105の開口側表面には、そこに負荷される圧力によって伸縮するリターンスプリング107の一端部が固定されている。リターンスプリング107の他端部は、クラッチドラム101に設けられたスプリングリテーナ108に固定されている。リターンスプリング107は、ピストン105をクラッチドラム101の底面側へ付勢している。
【0025】
クラッチドラム101の底面側の従動プレート103とピストン105との間には、上記皿ばね1が配置されている。皿ばね1では、段差10Cが形成された一面をピストン105側に配置し薄板部10Aの内周縁部をピストン105に支持させるとともに、他面を従動プレート103側に配置し、厚板部10Bの外周縁部を従動プレート103に支持させる。これにより、皿ばね1は軸線方向に移動可能となっている。クラッチドラム101の開口側には、従動プレート103および駆動プレート104を支持するためのリテーニングプレート109が配置されている。リテーニングプレート109の開口側表面には、それの外部への離脱防止のためのスナップリング110が配置されている。
【0026】
(4)クラッチ機構の動作
次に、皿ばね1が適用されたクラッチ機構100の動作について、おもに図5を参照して説明する。
【0027】
油圧室106に作動油を供給すると、油圧により駆動されたピストン105がリターンスプリング107の付勢力に抗して軸線方向の開口側に移動し、皿ばね1を介して、クラッチドラム101の底面側の従動プレート103を押圧する。すると、交互に配置されている従動プレート103および駆動プレート104とリテーニングプレート109は、軸線方向の開口側に移動する。このような移動によって、リテーニングプレート109がスナップリング110に押接されると、互いに対向する従動プレート103および駆動プレート104の摩擦面が係合してクラッチ締結が行われる。これにより、クラッチドラム101とクラッチハブ102との間のトルク伝達が可能となる。このとき、皿ばね1は、皿形状から略平坦になるように弾性変形することにより、クラッチ締結時に生じるショックを吸収する。このときの皿ばね1の平坦時発生荷重はPである。
【0028】
次に、油圧室106の作動油を排出すると、ピストン105がリターンスプリング107の付勢力によって、クラッチドラム101の底面側に押し戻される。すると、従動プレート103および駆動プレート104の摩擦面の係合が解除されてクラッチ締結が解除されるとともに、皿ばね1の形状が元の状態に戻る。
【0029】
本実施形態の皿ばね1では、一面における段差10Cより内周側の薄板部10Aの板厚T1Aを、段差10Cより外周側の厚板部10Bの板厚T1Bよりも薄くしているので、薄板部10Aおよび厚板部10Bの板厚T1A,T1Bを適宜設定することにより、所望のストローク長STと平坦時発生荷重Pを得ることができる。また、輸送機械のクラッチ機構100のピストン105と従動プレート103の間に設ける場合、段差が形成された一面をピストン105側に配置し薄板部10Aをピストン103に接触させるとともに、厚板部10Bを従動プレート103側に配置することにより、機構内の軸方向スペースの縮小化に対応することができる。
【0030】
(5)変形例
以上のように上記実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。たとえば、皿ばね1の外周部に、半径方向外側へ突出する歯を複数形成してもよい。皿ばね1の歯は、クラッチ機構100におけるクラッチドラム101のスプライン溝101Aに嵌合し、クラッチドラム101に対する皿ばね1の相対回転を防止する機能を有する。
【0031】
さらに、上記実施形態では、本発明を自動車のCVT車の多板式クラッチ装置に適用したが、これに限定されるものではない。たとえば、本発明を、自動車のAT車や、建設機械、自動二輪などの輸送機械の多板式クラッチ装置に適用することができる。また、上記実施形態では、クラッチ機構100における皿ばね1の発生荷重として、それらが略平坦になるときの平坦時発生荷重を用いるようにしたが、これに限定されるものではなく、それらが略平坦になる前の所望のストローク長STのときの発生荷重を用いることができるのは言うまでもないことである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る皿ばねの構成を表し、(A)は平面図、(B)は(A)の1B−1B線の側断面図である。
【図2】各種皿ばねが設けられたクラッチ機構を表し、(A)は従来の皿ばねが設けられたクラッチ機構を表す部分断面図、(B)は本発明の皿ばねが設けられたクラッチ機構を表す部分断面図、(C)は本発明の皿ばねと従来の皿ばねとを比較するための部分断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る皿ばねの変形例設けられたクラッチ機構の部分断面図である。
【図4】半径方向に均一な板厚を有する各種皿ばねのストローク長STと平坦時発生荷重Pの関係図である。
【図5】図1の皿ばねを適用した多板式クラッチ機構の構成を表す側断面図である。
【図6】皿ばねの構成を表し、ストローク長ST、板厚T、および高さHの関係を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1…皿ばね、10A,210A…薄板部、10B,210B1,210B2…厚板部、10C、210C1,210C2…段差、100…クラッチ機構、101…クラッチドラム(第1部材)、4,103…従動プレート(第2部材)、3,105…ピストン(第3部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の第1部材の内部で軸線方向に移動可能に設けられた第2部材と第3部材との間に配置されるリング状の皿ばねにおいて、
円周方向に延在する段差を一面に形成し、かつ他面を平面状に形成することにより、前記一面における段差より内周側および外周側の一方の部分の板厚を、他方の部分の板厚よりも薄くし、前記一方の部分に相手部材を接触させることを特徴とする皿ばね。
【請求項2】
前記段差は2つあり、前記一方の部分は、前記2つの段差により形成された凹条であることを特徴とする請求項1に記載の皿ばね。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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