説明

盛り上げられた縁部を有する円錐状黒鉛電極

【課題】従来の構造様式の電極に比べて転倒確率が格段に低減された電極を提供すること
【解決手段】円錐状先端部または角錐状先端部を有する、炭素から成る電極であって、当該電極は、フィラメントロッドを収容する手段を有しており、前記円錐状先端部または角錐状先端部の側面は、少なくとも1つの、盛り上げられた縁部によって取り囲まれている、ことを特徴とする電極

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円錐状先端部または角錐状先端部を有する、炭素から成る電極に関する。当該先端部の側面は、盛り上げられた縁部によって取り囲まれている。
【背景技術】
【0002】
産業分野では、多くの用途で黒鉛電極が使用されている。これに対する例は、アルミニウム生成および鋼生成、溶融塩の電気分解、化合物の電気分解、熱による析出反応、アーク溶接、測定機器等である。
【0003】
ここで重要な用途は、シーメンス法を用いたポリシリコンの析出である。ここでは高純度の単体ケイ素が、気相から、シリコンロッドの表面に析出される。この場合、析出反応器中で、900〜1200℃に加熱されたシリコン心棒の表面に、水素とハロゲンシランとの混合物または水素含有ケイ素化合物から、単体ケイ素が気相析出される。
【0004】
このシリコンロッドは、この場合、反応器中で一般に高純度の電気黒鉛からなる特別な電極により保持される。電極ホルダで異なる電圧極性を有するそれぞれ2つの心棒は、他方の心棒端部とブリッジにより接続されて閉じた電流回路を形成する。電極及びその電極ホルダを介して電気エネルギーが心棒の加熱のために供給される。その際に、心棒の直径が増大する。同時に、電極は、その先端部に始まり、シリコンロッドのロッド脚部内へ食い込む。
【0005】
シリコンロッドが所望の目標直径に達すると、この析出プロセスが終了する。灼熱されたシリコンロッドは冷やされ、取り外される。
【0006】
ここでは、電極の材料および形状が特に重要である。この電極は、心棒を保持するため、シリコンロッド中へ電流を伝達するために使用される。さらには、熱伝達のためおよび反応器中で成長するロッドの確実なスタンドとして利用される。より長くかつより重いロッドになる傾向があり、かつこのロッドペアは数百キロの重さになることがあり、この電極だけで反応器中に固定されているため、まさにこの形状および材料特性の選択が極めて重要である。
【0007】
後の用途に応じても、極めて異なる要求が、このように形成されるシリコンロッドおよびその析出プロセス、ひいては電極に課せられる。例えば、多結晶シリコンが後に、ソーラー用途およびエレクトロニクス用途のためのシリコン断片において使用される場合、シリコンロッドは析出プロセスの間または析出プロセスの後、析出反応器内で倒れてはならない。長くて厚い多結晶シリコンロッドは、析出プロセスの採算性を高める。しかし、反応器内で転倒するリスクも高まる。
【0008】
先行技術による電極は下側部分が円柱状の基体からなり、上側部分は円錐状先端部からなる。この円錐状先端部には心棒を収容するための穿孔が設けられている。電極の下端部は、この場合、金属電極ホルダ中に置かれ、この金属電極ホルダを介して電流が供給される。このような電極は一般に公知であり、例えばUS5284640号では、ケイ素析出のために使用される。
【0009】
この電極のための原材料として主に黒鉛が使用される、それというのもこの黒鉛は極めて高純度で提供されかつ析出条件で化学的に不活性であるためである。更に、黒鉛は極めて低い比電気抵抗を有する。
【0010】
US6639192号には、従来の形状の黒鉛電極が記載されている。この電極は、円錐状先端部を有する円柱状の基体から成る。この先端部は、心棒を収容するための穿孔を有している。この電極は、均一な材料特性を備えた部分、ひいては原材料(ここでは電気黒鉛)から製造される。これは殊に、非常に高い固有の熱伝導率を有している。この実施形態の欠点は、析出前および最終直径に達するまでの析出中の転倒率が高いということである。
【0011】
DE2328303号は、先端部を有していない円柱状電極を開示している。支持ロッドはここで、穿孔内に平面上に延在している。このような電極形状は全円柱形状であるので、ロッド直径が小さいときに既に非常に高い熱導出性を有している。直径が小さいときに、ロッドが析出プロセスの間に転倒しないようにするために、電極の熱導出性は低くなければならない。すなわち、電極は直径が小さくなければならず、電極原材料は非常に低い固有の熱伝導率を有していなければならない。今日では通常である厚いロッドはこのような電極形状では析出されない。なぜなら、電極直径が小さく、かつ電極原材料の固有熱伝導率が低いので、厚いロッド直径に必要な高いエネルギーが、ロッド脚部から供給されないからである。
【0012】
多数の層から成る黒鉛電極が、別の領域から知られている。しかし種々異なる層から成るこの装置はここで、化学的転化を最適化することを目的にしている。US3676324号から例えば、円柱状の黒鉛電極が公知である。これは、円筒状の内側部分および外側部分から成る。ここでこの内側部分は非常に高い導電性を有しており、外側部分は多孔質の黒鉛である。この複数の層の目的は、高い電圧損失を回避し、多孔質表面で、高い化学的転化を得ることである。2つの異なる層を有する類似の電極が、GB2135334号から公知である。ここで外側の多孔層は、フッ素を電気分解によって獲得するために用いられる。
【0013】
従来技術から既知の全ての電極の欠点は、この電極が、シリコンロッドへの電極間の移行部分で、またはシリコンロッド内で、電極近傍において、多かれ少なかれ、材料の亀裂形成または材料の剥離を起こしやすく、これによってシリコンロッドを不安定にさせてしまう、ということである。
【0014】
転倒したバッチは、大きい経済的な損失を意味する。従って例えば、シリコンロッドの転倒時には、反応器の損失が生じる。転倒したシリコンロッドはここで、反応器壁部と接触することによって汚れ、表面が清掃されなければならない。付加的に転倒したバッチを反応器から取り出すのには高いコストがかかる。この際にケイ素の表面はさらに汚染される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】US5284640号明細書
【特許文献2】US6639192号明細書
【特許文献3】DE2328303号明細書
【特許文献4】US3676324号明細書
【特許文献5】GB2135334号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、従来の構造様式の電極に比べて転倒確率が格段に低減された電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の課題は、円錐状先端部または角錐状先端部を有する、炭素から成る電極であって、当該電極は、フィラメントロッドを収容する手段を有しており、前記円錐状先端部または角錐状先端部の側面は、少なくとも1つの、盛り上げられた縁部によって取り囲まれている、ことを特徴とする電極によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の電極の概略的な構造
【図2】本発明の電極の別の実施形態
【図3】はめ込み部分を有する、本発明の電極の特別な実施形態の例
【図4】はめ込み部分を有する、本発明の電極の特別な実施形態の別の例
【図5】従来技術の電極
【図6】様々な形状を有する本発明の電極
【発明を実施するための形態】
【0019】
驚くべきことに、盛り上げられた縁部によって取り囲まれた、円錐状または角錐状の先端部を有する、炭素から成る電極が、内部に固定されたフィラメントロッドが成長する際に、改善された熱導出および、ロッド厚に関する改善された電流密度分布を有することが判明した。
【0020】
本発明の構成要件は、円錐状先端部または角錐状先端部を有する、炭素から成る電極である。これは、フィラメントロッドを収容する手段を有している。この円錐状先端部または角錐状先端部の側面は、少なくとも1つの盛り上げられた縁部によって取り囲まれている。
【0021】
本発明の電極(図1)は、先端部(2)を備えた円柱状の基体(1)から成る。ここでこの先端部は、盛り上げられた縁部(3)によって取り囲まれている。この先端部内には、中空空間(4)が設けられている。この中空空間は後に、材料片、例えばフィラメントロッド(5)を収容するために用いられる。この中空区間は円柱状、円錐形または別の任意の形状を有することができる。これと相応に、材料片は同じように、円柱状、円錐状または別の任意の、中空空間に適合する形状を有する。
【0022】
本発明の電極は、電極内および表面上で、均等な電極密度が必要とされる全ての用途に使用可能である。有利には本発明の電極は、ポリシリコンの析出時に使用される。標準の形状を有する電極、すなわち先端部を有する基体とは異なり、ロッド脚部の横断面にわたって均等な電流密度が、シリコンに比べて低い、黒鉛の固有電気抵抗によって得られる。
【0023】
フィラメントロッド上へのポリシリコンの析出開始時、すなわちまだロッド直径が薄いときに、本発明の電極ではロッド脚部がまずはじめに、標準電極のように、先端部上でのみ成長する。固有熱伝導率が低い電極用材料を使用する場合、ロッド直径が小さいときには、熱導出率は電極にわたって僅かである。電極先端部はこれによって良好に電極と合体し、ロッド脚部内に迅速に食い込む。従って析出開始時に既に、高い安定性が得られ、最終直径に達する前にロッドが転倒してしまうリスクが最小化される。
【0024】
本発明の電極の先端部は、盛り上げられた縁部(3)によって取り囲まれているので、ロッド直径が大きくなったときには、この盛り上げられた縁部上へ、ますます大きくなったロッド脚部が成長する。盛り上げられた縁部はここで、ロッド脚部に付加的な静止保持部を提供する。さらに、電流密度は電極からロッド脚部へ移行するときに、盛り上げられた縁部の横断面にわたって均等にされる。
【0025】
盛り上げられた縁部を有する本発明の電極では、標準形状の電極と比べて、中央部からロッド表面への温度勾配は低くなる。これによって、亀裂および陥没の形成によってもたらされる熱的な緊張状態は、従来の電極を備えたロッド脚部に比べて低減される。本発明の電極を有するロッド脚部における低い温度勾配は、盛り上げられた縁部によって保証される均等な電流密度および改善された熱導出によって得られる。
【0026】
電極先端部に対して本発明による電極の盛り上げられた縁部の高さを変えることによって、ロッド脚部への電極移行時の電極横断面にわたった電流密度の局部的な分配、並びにロッド脚部からの熱導出が変えられる。電極先端部と比較してより高い位置に設けられた電極縁部は、ロッド脚部の中央部分の外側で電流密度を高める。これによってロッド脚部からの熱導出も高くなる。電極先端部が、取り囲んでいる、盛り上げられた電極縁部よりも高い場合には、ロッド脚部中央部分における電流密度が高まる。この場合には、ロッド脚部からの熱導出は悪くなる。
【0027】
本発明による電極の先端部を取り囲んでいる、盛り上げられた縁部を、先端部よりも高くまたは低く形成することができる。またはこれらが同じ高さを有してもよい。盛り上げられた電極縁部は、先端部の40mm下方から先端部の60mm上方までの領域に位置し得る。有利にはこれは、先端部の25mm下方から先端部の25mm上方までの領域に位置し、特に有利には、先端部の10mm下方から電極先端部の10mm上方までの領域に位置する。
【0028】
使用されている黒鉛材料の固有の熱伝導率は、DIN51908に従って室温で測定されて、20〜200W/(mK)、有利には20〜120W/(mK)、特に有利には20〜90W/(mK)である。電極のこの特別な形状に基づいて、原材料として、20〜90W/(mK)の範囲の、より低い固有熱伝導率を有する黒鉛種類が選択可能である。
【0029】
これによって、ロッド直径が小さい場合にロッド脚部が部分的に冷却されることがなくなる。これによってロッド直径が小さい場合の転倒が阻止される。成長部分における一貫した円柱形状および大きい電極横断面および電極横断面全体にわたった電流密度の均一化によって、比較的低い固有熱伝導率を有する電極原材料を使用した場合でも、ロッド直径が大きい場合の温度勾配が小さくなる。ロッドはロッド直径が大きい場合に、析出装置内でさらに安定する。ロッド脚部での個々の可視の亀裂は希である。最終直径に達した後の転倒率は全てのバッチの僅か約2%であり、析出の間、最終直径に達するまでバッチは転倒しない。
【0030】
電極原材料は、900℃〜1200℃の間の反応領域において、多結晶シリコンよりも格段に高い固有熱伝導率を有している。ロッド脚部内に食い込んでいる電極の全体部分は、小さい先端部を除いて、円柱状の、中実の横断面を有しているので、本発明の電極では熱導出のために、ロッド直径が大きい場合に、従来の電極形状の場合よりも格段に大きい横断面が使用される。これによってロッド脚部からの熱導出が格段に改善される。
【0031】
電極横断面にわたった一様の電流密度およびロッド脚部への電極終端部での大きい電極横断面は、総じて、ロッド脚部の中心からこの表面への平坦な温度勾配をもたらす。このような場合には熱的な緊張状態は、円錐状先端部のみを有する既知の電極よりも僅かになる。本発明による電極の電流密度は電極横断面全体にわたって均一になる。一様の電流密度およびロッド脚部への電極終端部での大きい電極横断面によって、ロッド脚部中心部における過度の加熱が、従来の形状の電極の場合よりも格段に小さくなる。
【0032】
析出反応器内に本発明の電極を収容するために、従来技術から既知の任意の電極保持部(6)を使用することができる。電極全体の熱導出率を改善するために、この電極保持部は、付加的な冷却体(7)も有することができる。この冷却体は、基礎部分の下方終端部に配置されている、および/または基礎部分内に突出している。この冷却体は通常は電極保持部の構成部分であり、有利には、1つの部分から電極保持部とともに製造される。材料としては、良好な熱伝導性および導電性を有する材料からの全ての既知の材料が適している。これは例えば金属である。冷却体は適切な熱搬送体、例えば水によって冷却される。重要なのは、基礎部分と冷却体の非常に良好な熱的な接触接続および電気的な接触接続である。これによって高く、かつはめ込み部分の範囲にわたって均一の電気的および熱的な伝導性が生じる。冷却体の形状は任意であってよく、有利には円柱形または円錐形であり、特に有利には円錐形である。
【0033】
本発明の電極用の材料としては、電極としての使用に適している、全ての既知の種類の炭素が使用可能である。純度の理由から有利には、種々異なる熱伝導率を有する高純度の電気黒鉛が使用される。しかし別の材料、例えばシリコンカーバイド、炭素繊維強化炭素(CFC)複合材料、タングステン、または別の高融点金属も使用可能である。シリコン、シリコンカーバイド、シリコンナイトライド、熱分解炭素、ガラス炭素またはシリセン(Silicene)、つまりナノシリコンを用いた電極の被覆も可能である。この場合、100μmより薄い層厚が有利である。
【実施例】
【0034】
図1は、本発明の電極の概略的な構造を示している。内側先端部および盛り上げられた外側縁部を含む電極全体の高さ(L)は70〜200mmであり、有利には70〜150mmであり、特に有利には80〜130mmである。
【0035】
電極の直径(D)は30〜100mmであり、有利には40〜80mmであり、特に有利には45〜70mmである。電極先端部の高さ(LS)は10〜40mmであり、有利には15〜30mmであり、特に有利には15〜25mmである。電極先端部の直径(D5)は20〜50mmであり、有利には25〜45mmであり、特に有利には30〜40mmである。盛り上げられた電極縁部は、先端部の40mm下方から先端部の60mm上方までに位置することができ、有利には、先端部の25mm下方から先端部の25mm上方までの領域に位置し、特に有利には先端部の10mm下方から電極先端部の10mm上方までに位置する。
【0036】
先端部は、n個の面を有する円錐状または角錐状に形成されており、ここでnは3以上である。円錐状の先端部が有利である。この先端部は、電極の基本面を基準に、中央部分にまたは中央部分外に配置される。電極先端部を中央部分外に配置すること、ひいてはフィラメントロッドを収容するために孔を設けることによって、後に、反応器内で複数の薄いロッドを相互に水平に配向することができる。さらに、電極を直接的にまたは電極保持部とともに、回転運動によって最適な位置にすることができる。電極の先端部を、電極の基本面の中央点を基準にして、0〜20mmの範囲でずらして配置するのが有利である。円錐角(α)は15°〜45°であり、有利には20°〜35°であり、特に有利には20〜30°であり、角度(β)は0〜45°であり、有利には20〜35°であり、特に有利には20〜30°である。盛り上げられた縁部の上方終端部は、心棒直径、角度αおよびβ、電極(D)の直径および内側縁部直径(D6)によって表される。幅は0mm(とがっている角)〜30mmであり、有利には3〜20mmであり、特に有利には3〜10mmである。冷却体の直径(D3)は上方終端部で10〜60mmであり、有利には10〜50mmであり、特に有利には15〜45mmであり、下方終端部での冷却体の直径(D4)は10〜60mmであり、有利には10〜50mmであり、特に有利には15〜45mmである。冷却体の長さ(LK)は20〜80mmであり、有利には20〜60mmであり、特に有利には30〜50mmである。
【0037】
本発明の電極の別の実施形態(図2)では、外側の、盛り上げられた縁部は拡張され、電極の基本面に対して階段状または円錐状の移行部を形成する。拡張された上方の縁部は、この実施形態では30〜200mm、有利には40〜150mm、特に有利には45〜120mmの直径(D7)を有している。基本的にこの上方の縁部は先端がとがって、または丸くされて、または傾斜されて、または平坦に構成される。
【0038】
本発明による電極の別の特別な実施形態として、先端部が、電極の基礎部分よりも低い熱伝導率を備えた金属から構成されてもよい。電極はこの場合に少なくとも2つの部分(図3および図4)、すなわち電極基礎部分(A)および少なくとも1つの、この基礎部分内に組み込まれている別の内側領域(B)から成る。電極は付加的に、領域(A)と領域(B)との間で、さらに別の領域(C)を有することもできる。ここで最も内側の領域は心棒(5)を収容する。はめ込み部分および基礎部分はここで、少なくとも2つの異なる原材料から構成される。ここで最も内側のはめ込み部分(領域(B))は、最も低い熱伝導率を有する原材料から成る。別のはめ込み部分は、高い固有熱伝導率を有する原材料から製造される。ここでこの固有熱伝導率は有利には、内側から外側へ向かって上昇する。
【0039】
異なる材料および異なる熱伝導率から成る異なる領域に区分することによって、電極を最適に、その上に固定された材料、例えばシリコンロッドの成長時の種々の要求に適応させることができる。成長の開始時、ひいてはロッド直径が小さい時には、ロッド脚部はまずは、低い熱伝導率を有するはめ込み部分上でのみ成長する。使用されている黒鉛が低い固有熱伝導率を有しているので、はめ込み部分(領域B)を介した熱導出性が低くなり、成長の開始時には、電極全体にわたって、およびその電極保持部にわたって導出される熱は僅かであり、まだロッド直径が小さい場合でも、シリコンロッドへ電極の接続部で高い温度が得られる。過度に低い温度故にエッチングプロセスが生じ得る、ロッド脚部での冷たい領域は存在しない。これによってロッド脚部は迅速に、かつ誤りなく、領域(B)における電極先端部(2)と合体する。これによって析出プロセスの間の、ロッド直径が小さいときの転倒はほぼ生じない。
【0040】
析出プロセスが進み、ロッドが厚くなると、ロッド脚部はさらに、基礎部分上のはめ込み部分(領域(A))を越えて成長し、基礎部分を取り囲むように成長する。基礎部分の熱伝導率は高いので、ロッド脚部からエネルギーが非常に良好に導出される。これによってロッド脚部での温度勾配および熱的緊張状態が格段に低減される。ロッド脚部で亀裂および陥没が生じることは極めて希になる。
【0041】
本発明による電極の内側領域(B)は直接的に電極の製造時に組み込まれる、または取り外し可能なまたは交換可能なはめ込み部分として形成される。
【0042】
内側領域(B)はここで、電極の先端部(2)を形成し、この先端部と反対側の終端部によって基礎部分内に差し込まれる。はめ込み部分への基礎部分の接続部は円錐状、円柱状または別の任意の形状を有し得る。実際には、円錐状の差し込み接続部が有利であることが判明している。なぜなら、円錐状の接続部によって次のことが保証されるからである。すなわち、基礎部分とはめ込み部分が機械的に固定された接続部を構成し、良好な熱的接触接続および電気的接触接続を有することが保証される。これらの領域の間では、伝導性を改善するために、添加剤も使用される。
【0043】
領域(A)と(B)の間にオプショナルで配置された別の領域(C)は円錐状先端部の一部または、盛り上げられた縁部の一部または、円錐状先端部と盛り上げられた縁部の一部であってよい。
【0044】
本発明の電極の有利な実施形態の領域(A)の固有熱伝導率は、DIN51908に従って室温で測定されて、80〜200W/(mK)、有利には100〜180W/(mK)、特に有利には130〜160W/(mK)である。内側領域(B)の固有熱伝導率は20〜100W/(mK)、有利には20〜80W/(mK)、特に有利には20〜70W/(mK)である。
【0045】
DIN51911に従った室温で測定された、使用されている黒鉛材料の固有電気的な抵抗は30〜5μOhmmであり、有利には30〜10μOhmmであり、特に有利には30〜15μOhmmの間である。
【0046】
使用されている黒鉛材料の、表面粗さRaの算術平均値は、DIN EN ISO 4287に従って測定して、1〜20μm、有利には1〜15μm、特に有利には1〜10μmである。これは10〜200μm、有利には10〜150μm、特に有利には10〜100μmの粗さ曲線Rtの全体の高さおよび、8〜160μm、有利には8〜120μm、特に有利には8〜80μmの平均粗さ深さRzの場合である。
【0047】
DIN51910に従って室温で測定して、使用されている黒鉛材料の圧力耐性は40〜250MPa、有利には50〜200MPa、特に有利には50〜150MPaの間である。
【0048】
DIN51902に従って室温で測定して、使用されている黒鉛材料の曲げ強さは10〜100MPa、有利には15〜80MPa、特に有利には20〜70MPaの間にある。
【0049】
DIN51915に従って室温で測定して、使用されている黒鉛材料の弾性率は1〜20GPa、有利には2〜15GPa、特に有利には3〜15GPaの間である。
【0050】
使用されている黒鉛材料の線形の熱膨張係数は20〜1000℃の温度領域において、DIN51909に従って測定して、210−6〜1010−61/K、有利には310−6〜810−61/K、特に有利には、3.510−6〜7101/Kである。
【0051】
使用されている黒鉛材料の開放された多孔性は、DIN51918に従って測定されて、5〜25%の間、有利には10〜25%の間、特に有利には10〜20%の間である。
【0052】
図3は例として、はめ込み部分を有する、本発明の電極の特別な実施形態を示している。これによって、異なる熱伝導率を有する異なる領域が構成される。内側はめ込み部分(領域(B))の長さ(LE)は30〜90mmであり、有利には35〜80mmであり、特に有利には35〜65mmである。このはめ込み部分の直径(D5)は最も幅の広い箇所で20〜50mmであり、有利には25〜45mmであり、特に有利には30〜40mmである。下方終端部でのこのはめ込み部分の直径(D2)は15〜40mmであり、有利には20〜40mmであり、特に有利には20〜35mmである。
【0053】
本発明の電極は、2つまたはそれより多くの、相互に差し込まれているはめ込み部分も有することができる(図4)。この場合には内側はめ込み部分が、電極先端部を伴う領域(B)を構成する。この内側はめ込み部分は、隣接領域(C)内に差し込まれている。この隣接領域は同じように、例えばさらなるはめ込み部分内に差し込まれている。最後のはめ込み部分は領域(A)、すなわち電極の基礎部分内に差し込まれている。
【0054】
電極内の異なる固有熱伝導率を有する異なる領域を、電極の製造プロセスの間に1つの部分から形成することもできる。この場合には一体型の電極は、異なる材料から成る本発明の種々異なる領域を有しており、これらは、それぞれ隣接する領域への、使用されている材料のよどみない移行部も有している。
【0055】
本発明の電極形状を、異なる固有の熱伝導率を有する種々異なる使用領域および拡張された電極縁部と組み合わせることによって、電極の全体熱伝導率をそれぞれ個別に、析出プロセスの要求に合わせることができる。これらの実施形態の特別な組み合わせによって、反応器内で転倒するポリシリコンロッドの確率がほぼ完全に除去される。
【0056】
図6は、横断面において拡張された縁部を有している、および有していない、本発明の電極の異なる形状(a−l)の選択を示している。この例は、分かりやすくするために、異なる領域を有していない電極のみを示している。当然ながら、全てのこれらの形状を自身の後の要求に相応して、本発明でも、異なる固有熱伝導率を備えた複数の領域から形成することもできる。
【0057】
以下の実施例に基づき、本発明をより詳細に説明する。
【0058】
シーメンス社の析出反応器内で、140〜200mmの間の直径を有する多結晶シリコンロッドが析出された。ここで電極の複数の実施形態がテストされた。析出プロセスのパラメータは全ての試みにおいてそれぞれ同じであった。これらの試みは、電極の形態においてのみ異なる。析出温度は1000℃〜1100℃の間のバッチ経過にある。この析出プロセスの間に、式SiHnCl4-n(n=0〜4)の1種以上の塩素含有シラン化合物とキャリアガスとしての水素とからなる供給物を添加した。
【0059】
比較例1:
析出のために、従来技術の電極が使用された(図5)。使用されている電極は、80W/(mK)の固有熱伝導率を備えた高純度の電気黒鉛から成る。全長(L)は118mmであり、円柱部分の長さ(L1)は72mmである。円錐角(α)は32°であり、直径(D)は65mmである。冷却体を有していない電極が使用された。反応が終了すると反応器が開放され、転倒したポリシリコンロッドを有するバッチの数が記される。100バッチのうち、20バッチが、最終直径に達した後に転倒した。
【0060】
比較例2:
析出のために、従来技術の電極が使用された(図5)。使用されている電極は、150W/(mK)の固有熱伝導率を備えた高純度の電気黒鉛から成る。全長(L)は118mmであり、円柱部分の長さ(L1)は72mmである。円錐角(α)は32°であり、直径(D)は65mmである。冷却体を有していない電極が使用された。反応が終了すると反応器が開けられ、転倒したポリシリコンロッドを有するバッチの数が記される。100バッチのうち、10バッチが、最終直径に達する前に、析出の間に転倒し、2つのバッチが最終直径に達した後に転倒した。
【0061】
実施例1:
析出のために、図1に示されているような、盛り上げられた縁部を有する本願発明の電極が使用された。付加的に電極の基礎部分に冷却体が使用された。使用されている電極は、80W/(mK)の固有の熱伝導率および15μOhmmの固有電気抵抗を備えた高純度の電気黒鉛から成る。
【0062】
電極は以下の形状を有している:
全長(L):118mm、直径(D):65mm、円錐角度(α):32°、円錐角度(β):16°、電極先端部長さ(LS):21mm、電極先端部直径(D5):34mm、内側縁部直径(D6):46mm、冷却体直径(D3):25mm、冷却体直径(D4):45mm、冷却体長さ(LK):50mm
【0063】
反応が終了すると反応器が開けられ、転倒したポリシリコンロッドを有するバッチの数が記される。100のバッジのうち、2つのバッジが、最終直径に達した後に転倒し、析出中の最終直径に達する前には、バッジは転倒しなかった。
【0064】
実施例2:
析出のために、本発明では、盛り上げられた縁部を有する電極が使用された。この電極は、異なる固有熱伝導率を有する2つの異なる領域から成る(図3参照)。付加的に電極の基礎部分に冷却体が使用された。使用された電極の領域(A)は、135W/(mK)の固有熱伝導率および10μOhmmの固有電気抵抗を備えた高純度の電気黒鉛から成る。内側の領域(B)に対しては、50W/(mK)の固有熱伝導率および22μOhmmの固有電気抵抗を備えた高純度の電気黒鉛が使用された。
【0065】
電極は以下の形を有している:
全長(L):118mm、直径(D):65mm、円錐角度(α):32°、円錐角度(β):16°、電極先端部長さ(LS):21mm、電極先端部直径(D5):34mm、内側縁部直径(D6):46mm、はめ込み部分長さ(LE):46mm、はめ込み部分直径(D1):34mm、はめ込み部分直径(D2):22mm、冷却体直径(D3):25mm、冷却体直径(D4):45mm、冷却体長さ(LK):50mm
【0066】
反応が終了すると反応器が開けられ、転倒したポリシリコンロッドを有するバッチの数が記された。100バッチのうち、1バッチが、最終直径に達した後に転倒した。最終直径に達する前に析出の間、バッチは転倒しなかった。
【0067】
実施例3:
析出するために、本発明に相応する盛り上げられた縁部を有する電極が使用された。付加的に、この電極では上方の縁部の幅が広げられた(図2を参照)。付加的に電極の基礎部分に冷却体が使用された。使用された電極は、80W/(mK)の固有熱伝導率および15μOhmmの固有電気抵抗を備えた高純度の電気黒鉛から成る。
【0068】
電極は以下の形状を有している:
全長(L):118mm、直径(D):65mm、円錐角度(α):32°、円錐角度(β):16°、電極先端部長さ(LS):21mm、電極先端部直径(D5):34mm、内側縁部直径(D6):46mm、拡張された縁部(D7)の直径:130mm、冷却体直径(D3):25mm、冷却体直径(D4):45mm、冷却体長さ(LK):50mm
【0069】
反応が終了すると反応器が開けられ、転倒したポリシリコンロッドを有するバッチの数が記された。100のバッジのうち、1つのバッジが、最終直径に達した後に転倒し、析出中の最終直径に達する前には、バッジは転倒しなかった。
【0070】
実施例4:
析出するために、本発明に相応する盛り上げられた縁部を有する電極が使用された。この電極は、異なる固有熱伝導率を有する3つの異なる領域から成る。付加的に、この電極では上方の縁部の幅が広げられた(図4を参照)。電極の基礎部分に冷却体が使用された。使用されている電極の領域(A)は、135W/(mK)の固有熱伝導率および10μOhmmの固有電気抵抗を備えた高純度の電気黒鉛から成る。使用されている電極の領域(C)は、100W/(mK)の固有熱伝導率および12μOhmmの固有電気抵抗を備えた高純度の電気黒鉛から成る。内側の領域(B)に対しては、50W/(mK)の固有熱伝導率および22μOhmmの固有電気抵抗を備えた高純度の電気黒鉛が使用された。
【0071】
電極は以下の形状を有している:
全長(L):118mm、直径(D):65mm、円錐角度(α):32°、円錐角度(β):16°、電極先端部長さ(LS):21mm、電極先端部直径(D5):34mm、内側縁部直径(D6):46mm、拡張された縁部(D7)の直径:130mm、はめ込み領域(B)の長さ(LE1):46mm、はめ込み領域(B)の直径(D5):34mm、はめ込み領域(B)の直径(D2):22mm、はめ込み領域(C)の長さ(LE2):55mm、はめ込み領域(C)の直径(D8):70mm、はめ込み領域(C)の直径(D9):35mm、冷却体直径(D3):25mm、冷却体直径(D4):45mm、冷却体長さ(LK):50mm
【0072】
反応が終了すると反応器が開けられ、転倒したポリシリコンロッドを有するバッチの数が記された。100のバッジのうち、1つのバッジが、最終直径に達した後に転倒し、析出中の最終直径に達する前には、バッジは転倒しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円錐状先端部または角錐状先端部を有する、炭素から成る電極であって、
当該電極は、フィラメントロッドを収容する手段を有しており、
前記円錐状先端部または角錐状先端部の側面は、少なくとも1つの、盛り上げられた縁部によって取り囲まれている、
ことを特徴とする電極。
【請求項2】
前記盛り上げられた縁部の終端は、前記電極先端部の高さを上回る、下回る、またはこれと同じである、請求項1記載の電極。
【請求項3】
前記盛り上げられた縁部の上方終端部は、とがっている、丸められている、傾斜している、または平らである、請求項1または2記載の電極。
【請求項4】
前記電極の先端部は、前記電極基礎面の中央点から、0〜20mmの範囲でずれている、請求項1から3までのいずれか1項記載の電極。
【請求項5】
前記電極は異なる固有熱伝導率を有する異なる材料の複数の領域から成り、
当該材料の固有熱伝導率は内側から外側へと上昇する、請求項1から4までのいずれか1項記載の電極。
【請求項6】
1つまたは複数の前記内側領域は、取り外し可能または交換可能なはめ込み部分として構成されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の電極。
【請求項7】
前記内側領域は、差し込み接続によって、最も近接している外側の領域とそれぞれ接続されている、請求項6記載の電極。
【請求項8】
前記複数の領域は共通の、熱的および電気的な接触接続を有している、請求項1から7までのいずれか1項記載の電極。
【請求項9】
前記電極の基礎部分には冷却体が結合されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の電極。
【請求項10】
前記電極は、異なる熱伝導率を有する、純度の高いまたは極めて純度の高い電気黒鉛から成る、請求項1から9までのいずれか1項記載の電極。
【請求項11】
前記使用されている炭素材料は、1つまたは複数の以下のパラメータ:
a.)20〜200W/(mk)の固有熱伝導率、
b.)30〜5μOhmmの固有電気抵抗、
c.)10〜200μmの粗さ曲線の全体の高さRtおよび8〜160μmの平均粗さ深さRzでの、1〜20μmの表面粗さRaの算術平均値、
d.)40〜250MPaの耐圧性、
e.)10〜100MPaの曲げ強さ、
f.)1〜20GPaの弾性率、
g.)20〜1000℃の温度領域における、210−6〜1010−61/Kの線形熱膨張係数、
h.)5〜25%の開放多孔性、
を有している
請求項1から10までのいずれか1項記載の電極。
【請求項12】
シリコンロッド表面で、気相から純度の高い単体ケイ素を析出させることによって、多結晶シリコンを製造する方法であって、
前記シリコンロッドを反応器内で、請求項1から11までのいずれか1項または複数項記載の電極によって保持する、
ことを特徴とする、多結晶シリコンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−195438(P2011−195438A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57970(P2011−57970)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】