説明

監視装置、監視システム、プログラム

【課題】監視事象の状態を判定する条件の設定作業を軽減し、かつ適切な監視情報を用いて監視事象の状態を適切に判定することを可能にする。
【解決手段】監視装置10は、規定の監視事象に関連する計測情報をセンサ30から取得し、判定部13に設定した判定式に計測情報を適用することにより監視事象の状態を判定する。識別情報管理部16は、センサ30が計測する計測情報の種類および通信部12を通して他の監視装置10から取得可能な計測情報の種類を保持する。機器動作評価部15は、識別情報管理部16に記憶されている計測情報から判定式に適合する計測情報を抽出する。識別情報管理部16は、判定部13において判定に用いる判定式が他の監視装置10から取得される計測情報を含む場合に、通信部12を通して他の監視装置10から計測情報を取得して判定部13に引き渡す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測手段から得られる計測情報を用いて所望の監視事象の状態を判定する監視装置、複数台の監視装置が通信路を介して通信する監視システム、コンピュータを監視装置として機能させるプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、公園やイベント会場のような特定範囲の地域、ビルのような建物などには、空調システムや照明システムのように多くの負荷機器を含む各種のシステムが設置される。この種のシステムでは、各部に多数の計測手段(センサ)を設置し、センサが計測した計測情報を用いてシステム内の種々の監視事象について状態の判定を行っている。「監視事象」には、負荷機器の異常の有無のほか、負荷機器の動作の状態が含まれる。
【0003】
所望の監視事象について、センサが計測した計測情報を用いて、異常の発生のような状態を判定するには、システムをモデル化してシミュレーションを行うことが考えられる。しかしながら、シミュレーションを行うには、モデルの作成やシミュレーションの実行に際して、多大な時間と費用とが必要であり、その上、高機能のハードウェア資源が必要であるかって実用的ではない。
【0004】
そのため、特許文献1に記載されているように、監視事象の状態を判定するための条件を規定した判定式を設定し、センサが計測した計測情報を判定式に代入することにより、監視事象の状態を判定する技術が採用されている。
【0005】
特許文献1に記載の技術では、多数のセンサから計測情報を取得する異常判定装置(監視装置)が用いられている。異常判定装置は、判定式(基本数式)と、判定式の変数を置換することが可能な置換用数式(変換式)とを適宜に組み合わせることによって、接続されたセンサに応じた判定式を生成し、生成した判定式を用いて監視事象の状態を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4525414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特定範囲の地域やビルのような建物において構築されるシステムは多種多様であって監視事象の数が多く、また数百個以上のセンサを設ける場合もあるから、1台の異常判定装置のみで集中的に監視事象の状態を判定することは困難である。
【0008】
この問題を解決するには、センサから計測情報を取得する複数台の異常判定装置を分散して設け、各異常判定装置において監視事象の状態を判定することが考えられる。しかしながら、異常判定装置が分散して配置されると、監視事象の状態を判定するために異常判定装置ごとに管理しているセンサの種類に応じて、判定のための条件を異常判定装置ごとに設定することが必要になり、設定作業に多大な労力を要するという問題が生じる。
【0009】
本発明は、監視事象の状態を判定する条件の設定作業を軽減し、かつ適切な監視情報を用いて監視事象の状態を適切に判定することを可能にした監視装置を提供することを目的とし、さらに、複数台の監視装置が通信路を介して通信する監視システム、コンピュータを監視装置として機能させるプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る監視装置は、上記目的を達成するために、規定の監視事象に関連する計測情報を計測手段から取得する取得部と、取得部が取得した計測情報を判定式に適用することにより監視事象の状態を判定する判定部と、他装置との間で通信し計測手段が計測する計測情報の種類を他装置との間で授受する通信部と、計測手段が計測する計測情報の種類および通信部を通して他装置から取得可能な計測情報の種類を保持する識別情報管理部と、識別情報管理部に記憶されている計測情報から判定式に適合する計測情報を抽出する機器動作評価部とを備え、識別情報管理部は、判定部において判定に用いる判定式が他装置から取得される計測情報を含む場合に、通信部を通して他装置から計測情報を取得して判定部に引き渡すことを特徴とする。
【0011】
この監視装置において、通信部は、他装置に計測情報の種類を通知する際に複数種類の計測情報に共通する1種類の情報に集約した要約情報を他装置のアドレスとともに伝送し、識別情報管理部は、他装置から要約情報を受け取ると要約情報を保持し、判定部において判定に用いる判定式が他装置から取得される計測情報を含む場合に、要約情報およびアドレスを参照して他装置に所要の計測情報を要求することが好ましい。
【0012】
この監視装置において、通信部は、要約情報としてブルームフィルタの値を用いることが好ましい。
【0013】
この監視装置において、監視事象の状態を判定する判定式を記憶した判定情報記憶部を備え、判定情報記憶部は、判定式に含まれる計測情報を他の計測情報に置換する変換式を併せて記憶しており、機器動作評価部は、判定式に含まれる監視情報が識別情報管理部に記憶されていない場合、判定情報記憶部に記憶された変換式を用いて判定式を更新することが好ましい。
【0014】
この監視装置において、通信部は、判定情報記憶部に記憶されている判定式および変換式を他装置との間で授受し、他装置から受信した判定式および変換式が判定情報記憶部に記憶されていない場合に、受信した判定式および変換式を追記することが好ましい。
【0015】
この監視装置において、機器動作評価部は、監視事象が他装置と同じになる場合に、規定の優先条件に従って監視事象に対する判定式を採用するか否かを選択することが好ましい。
【0016】
この監視装置において、機器動作評価部は、判定式で用いる計測情報について、他装置から取得する計測情報の個数が最小であることを優先条件として監視事象に対する判定式を採用することが好ましい。
【0017】
この監視装置において、取得部は、計測手段ごとに計測情報が正常か否かを評価し、かつ所定の期間において正常であった期間の割合を信頼度の指標として求め、機器動作評価部は、監視事象が他装置と同じになる場合に、判定式のうち指標が示す信頼度の高い計測情報を用いることが好ましい。
【0018】
この監視装置において、取得部は、計測手段ごとに計測情報が正常か否かを評価し、機器動作評価部は、計測情報が異常になった場合、当該計測情報を用いる判定式を採用せずに判定式を更新することが好ましい。
【0019】
本発明に係る監視システムは、請求項1〜9のいずれか1項に記載の監視装置を複数台備える監視システムであって、複数台の監視装置ごとに計測手段を管理しており、複数台の監視装置が通信路を通して互いに通信することを特徴とする。
【0020】
本発明に係るプログラムは、コンピュータを、規定の監視事象に関連する計測情報を計測手段から取得する取得部と、取得部が取得した計測情報を判定式に適用することにより監視事象の状態を判定する判定部と、他装置との間で通信し計測手段が計測する計測情報の種類を他装置との間で授受する通信部と、計測手段が計測する計測情報の種類および通信部を通して他装置から取得可能な計測情報の種類を保持する識別情報管理部と、識別情報管理部に記憶されている計測情報から判定式に適合する計測情報を抽出する機器動作評価部とを備え、識別情報管理部は、判定部において判定に用いる判定式が他装置から取得される計測情報を含む場合に、通信部を通して他装置から計測情報を取得して判定部に引き渡す監視装置として機能させるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の構成によれば、監視事象の状態を判定する条件の設定作業が軽減され、かつ適切な監視情報を用いて監視事象の状態を適切に判定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態を示すブロック図である。
【図2】実施形態1の要部の動作説明図である。
【図3】実施形態2の要部の動作説明図である。
【図4】実施形態3の要部の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に示すように、監視装置10は、上位通信路21に接続され、他の監視装置10と上位通信路21を介して通信することにより監視システムを構築する。この監視システムは、計測手段であるセンサ30により計測される計測情報を下位通信路22を通して伝送し、監視装置10に入力するように構成されている。図示例では、下位通信路22に中継用の機器20が接続されており、監視装置10は、機器20と通信し、センサ30が計測した計測情報を機器20を通して取得するように構成されている。ここに、上位通信路21および下位通信路22は、有線の通信路のほか無線の通信路であってもよい。また、上位通信路21と下位通信路22とのうちの一方が有線の通信路であって他方が無線の通信路であってもよい。
【0024】
限定する趣旨ではないが、便宜上、以下に説明する実施形態では、上位通信路21を通して行う通信についてIEEE802.3に準拠する通信方式を採用し、下位通信路22を通して行う通信について汎用のシリアル通信を採用している場合を想定する。また、監視装置10が上位通信路21を通して他の監視装置10と通信するためのアドレスには、IPアドレスが用いられる。
【0025】
ところで、監視装置10は機器20と兼用されていてもよい。すなわち、中継用の機器20を用いずに、監視装置10に下位通信路22を通してセンサ30を接続してもよい。また、各センサ30には計測事象を特定するために識別情報が付与される。センサ30の識別情報は、後述する命名規則によって計測事象が識別できるように付与される。すなわち、センサ30の識別情報は、センサ30が計測する監視点の場所と、センサ30が計測する計測情報の種類とにより計測事象を表すように設定される。また、空調機のように複数個のセンサを含むセンサ群31を備える負荷機器32についても、計測事象は個々に識別される。以下では、センサ群31に含まれるセンサをとくに区別せずに、センサ30として記載する。
【0026】
この監視システムは、センサ30が計測した計測情報を用いて、監視システムで規定した監視点における所要の監視事象を監視する。監視事象は、たとえば、監視対象である負荷機器32の異常や故障、監視対象である空間の異常高温や煙発生のような環境の異常などを想定しており、センサ30が計測する計測情報が適宜の判定式に当てはめられることにより、監視事象の状態が判定される。また、監視事象は、監視対象に関して異常の有無のように2段階で表される事象だけではなく、複数段階でレベルを判定する事象などであってもよい。
【0027】
判定式は、1種類以上の計測情報が当てはめられるように1個以上の変数(パラメータ)を含んでいる。ところで、監視システムは、現場に応じて、負荷機器32の種類や台数が異なり、またセンサ30の種類や個数が異なっている。したがって、監視装置10がセンサ30から取得する計測情報が、監視装置10にあらかじめ設定された標準の判定式に適合しない可能性がある。要するに、標準の判定式に当てはめる計測情報が、監視装置10の管理するセンサ30からは得られない場合がある。
【0028】
そのため、標準の判定式の変数を他の変数で表すことができる場合に、変数を変換するための変換式を用いて標準の判定式に含まれる変数を他の変数に置換できるようにしてある。要するに、標準の判定式で用いる計測事象に代わる計測事象がセンサ30から得られる場合には、変換式を用いて標準の判定式の変数を置換するのである。標準の判定式に含まれる変数に変換式を適用して他の変数に置換する処理は、原則として1回だけ行うが、変換式を適用して置換された変数にさらに他の変換式を適用することにより、さらに他の変数への置換を可能にしてもよい。
【0029】
このように、標準の判定式を用い、現場に設けられたセンサ30に適合するように適切な変換式を適用して判定式を適合させるから、標準の判定式をメタルールとして、変換式からなるサブルールを統合し、現場に適合したルールを生成することができる。標準の判定式と変換式との具体例を表1に示す。
【0030】
【表1】

表1に示しているように、本実施形態では、標準の判定式および変換式において、監視事象およびセンサ30の識別情報に相当する変数が正規表現を用いて表される。表1において、[.]は任意の1文字にマッチし、[*]はその前の文字の0回以上の繰り返しを意味する正規表現である。すなわち、[.*]は任意の文字列にマッチする。また、[¥1]は[.*]がマッチした文字列を意味する正規表現である。したがって、監視事象に関する場所を特定する文字列とセンサ30の識別情報を表す文字列とを、標準の判定式および変換式に適用することにより、センサ30から得られる計測情報に適合した判定式が自動的に生成される。
【0031】
以下に、上述の動作を実現するために用いる監視装置10について説明する。監視装置10は、組込み用マイコンのようにプログラムに従って動作するデバイスを用いて実現される。したがって、適宜のプログラムを用いることにより、コンピュータを監視装置10として機能させることも可能である。
【0032】
センサ30は、上述したように、独立して設けられる場合と、空調機や熱源機のような負荷機器32に組み込まれている場合とがある。センサ30は、建物や地域などに設置されている空調システムのように、複数の負荷機器32を組み合わせて構築されたシステムに組み込まれていてもよい。さらに、図1に示す例では、センサ30が監視装置10とは別に設けられているが、監視装置10が管理しているセンサ30の一部または全部が監視装置10と一体に設けられていてもよい。たとえば、センサ30の一部または全部と監視装置10とが同じ負荷機器32に組み込まれていてもよい。
【0033】
以下では、監視システムが、空調機や熱源機を備えたビルの空調監視システムである場合を想定して説明する。空調監視システムは、多数個のセンサ30を備えており、空調機や熱源機に付随するセンサ30のほか、熱媒の流路や送風ダクトにおいて温度や流量を計測するセンサ30、室内や外気の温度を計測するセンサ30なども空調監視システムに含まれる。センサ30の種類および個数は、監視システムが監視する監視対象の種類や監視対象が設置されている現場の環境によって異なるが、以下に説明する監視システムは、センサ30の種類および個数の相違に柔軟に対応する機能を備える。
【0034】
監視装置10は、図1に示すように、センサ30が計測した計測情報を取得するインターフェースとしての取得部11と、上位通信路21を通して他の監視装置10との間で互いに通信するための通信部12とを備える。取得部11は、複数のセンサ30から計測情報を個別に取得する。上述したように、センサ30は個々の計測事象を識別する識別情報を有しており、取得部11は、センサ30が計測した計測情報を、センサ30の識別情報とともに受信することによって、センサ30ごとに計測した計測情報を個別に取得する。
【0035】
さらに、監視装置10は、判定式が設定された判定部13を備える。判定部13は、判定式が格納される基準格納部131を備え、センサ30から取得した計測情報を基準格納部131に設定された判定式に代入することにより監視事象の状態を判定する。また、監視装置10は、表1のような標準の判定式と変換式とのうち少なくとも標準の判定式を記憶した判定情報記憶部14を備え、判定部13で用いられる判定式を生成する機器動作評価部15とを備える。判定情報記憶部14は、書換可能な不揮発性メモリを用いて構成することが好ましい。
【0036】
機器動作評価部15と通信部12との間には、メモリを備えた識別情報管理部16が設けられている。識別情報管理部16は、センサ30の識別情報を保持する機能を有する。機器動作評価部15は、判定情報記憶部14から標準の判定式または標準の判定式と変換式との組を選択する機能とを備える選出部151を備える。さらに、機器動作評価部15は、選出部151が選択した情報を用いて判定式を生成する生成部152を備える。選出部151は、後述するように、識別情報管理部16に保持されたセンサ30の識別情報から生成部152が生成した判定式に適合する識別情報を抽出する機能も備える。
【0037】
監視装置10は、上述した構成のほか、スイッチなどの操作部17と、操作部17の入力を受け付ける入力受付部18と、判定部13における判定の結果や選出部151が選択した標準の判定式および変換式などを表示する表示部19とを備える。監視装置10は、組込み用マイコンを用いて構成されているから、操作部17は、たとえばスイッチが用いられ、表示部19は、たとえば小型の液晶モニタが用いられる。また、操作部17と表示部19とを一体化したタッチパネルを用いてもよい。操作部17は、識別情報管理部16に保持させるセンサ30の識別情報を入力する機能を有する。ただし、識別情報管理部16に保持されるセンサ30の識別情報は操作部17から入力されるだけではなく、通信部12を通して他の監視装置10からも取得する。
【0038】
なお、監視装置10を汎用のコンピュータで構成する場合は、操作部17としてキーボードやマウスのような入力装置を用い、表示部19にはモニタ装置のような出力装置を用い、さらに、判定情報記憶部14や識別情報管理部16にはハードディスク装置を用いることが可能である。
【0039】
次に動作を説明する。本実施形態の監視装置10は、互いに他の監視装置10に接続されているセンサ30の識別情報を保有し、生成部152が生成した判定式の変数に適合するセンサ30の識別情報を適正化する。すなわち、生成部152が生成した判定式に含まれる変数は、その監視装置10に接続されたセンサ30の計測情報に適合しない場合がある。このような場合には、他の監視装置10が管理するセンサ30からも変数に適合する計測情報を探索し、適合する計測情報があれば、その計測情報を採用することにより、判定式による監視事象の判定を精度よく行うのである。
【0040】
各監視装置10が相互にセンサ30の識別情報を保有するために、各監視装置10は上位通信路21を通してセンサ30の識別情報を互いに他の監視装置10に通知する。監視装置10は、基本的な動作では、センサ30の識別情報をブロードキャストで他のすべての監視装置10に転送するが、指定した特定の監視装置10にマルチキャストでセンサ30の識別情報を転送する構成としてもよい。また、監視装置10がセンサ30の識別情報を他の監視装置10に転送するタイミングは、空調監視システムが起動されたとき、空調監視システムが停止した状態から復帰したとき、監視装置10が空調監視システムに参加したときなどから選択される。
【0041】
上記動作により、各監視装置10は、他の監視装置10に接続されたセンサ30の識別情報を取得し、センサ30の識別情報を記憶する。すなわち、監視装置10の識別情報管理部16は、通信部12を通して他の監視装置10からセンサ30の識別情報を取得し、取得したセンサ30の識別情報を記憶する。なお、各監視装置10に接続されているセンサ30の識別情報は、操作部17から入力してもよいが、取得部11を通してセンサ30から自動的に取得することが好ましい。識別情報管理部16が保有するセンサ30の識別情報の一例を表2、表3に示す。表2は他の監視装置10からセンサ30の識別情報を取得する前の状態を示し、表3は他の監視装置10からセンサ30の識別情報を取得した後の状態を示す。
【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

表2、表3におけるセンサ30の識別情報は、以下に説明する所定の命名規則で各センサ30の計測事象を表すようにセンサ30ごとに個別に付与される。また、センサ30の識別情報には、センサ30を管理する監視装置10のアドレスが対応付けられる。下位通信路22と監視装置10との間に中継用の機器20が介在する場合には、監視装置10のアドレスに代えて機器20のアドレスを用いてもよい。この場合、機器20は上位通信路21を通して監視装置10と通信可能であることが望ましい。
【0044】
センサ30の識別情報は、センサ30が監視する負荷機器32の名称と、センサ30が監視する場所と、センサ30が監視する計測情報(多くの場合、物理量)の種類とを含んでいる。すなわち、センサ30の識別情報は、これらの3種類の情報を分類するための文字列と、文字列を結合するための記号とを用いて表すように命名規則が定められる。
【0045】
たとえば、表2、表3では、負荷機器32の名称を表す文字列として「AHU」「HD」が含まれており、前者は空調機を表し、後者は熱源機を表している。場所を表す文字列は、「1F」「2F」が含まれ、それぞれセンサ30が監視する場所が1階である場合と2階である場合とを表している。さらに、計測情報の種類を表す文字列は、「QA」「QW」「PW」などがあり、「QA」は空気の熱量を表し、「QW」は水の熱量を表し、「PW」は水圧を表している。結合用の記号は、場所を示す文字列が入る角かっこ([])と、計測情報の種類を結合するアンダーバー(_)とが用いられる。したがって、センサ30の計測事象を表す識別情報は、「負荷機器の名称[場所]_計測情報の種類」という形式で表される。
【0046】
表2、表3には、センサ30の名称に角かっこを含まずに、アルファベットの小文字を用いて場所を示す文字列を記述した形式も含まれている。たとえば、「sup」は供給経路を表し、「ret」は還流経路を表している。
【0047】
いま、標準の判定式が、|AHU[.*]_QA−AHU[¥1]_QW|≦50であると仮定する。ここで、[.*]は、センサ30の設置場所を示し、たとえば1階を表す「1F」や2階を表す「2F」が与えられる。この判定式は、空調機において空気を媒体として室内に供給された熱量(AHU[.*]_QA)と、水を媒体として熱源機から空調機に供給された熱量(AHU[.*]_QW)との差が、比較的小さく閾値(=50)以下であれば、異常ではないということを意味している。この判定式で表現されている事象は、一般的事象ということができ、空調監視システムの仕様に応じて閾値が変化する点を除けば、この判定式は場所に関わらず汎用的に用いることが可能である。したがって、表1に示したように、正規表現によって記述されていることが好ましい。
【0048】
以下では、すべての監視装置10の判定情報記憶部14に、上述のような標準の判定式が記憶され、また、判定情報記憶部14には、様々なセンサ30の識別情報を変数に用いた変換式が記憶されていることを前提とする。
【0049】
ここで、空調監視システムが起動するなどすると、上述したように、上位通信路21に接続された各監視装置10からセンサ30の識別情報が送信される。したがって、監視装置10の通信部12は、図2に示すように、上位通信路21から他の監視装置10が管理するセンサ30の識別情報を受信する(S11)。通信部12を通して他の監視装置10から受信したセンサ30の識別情報(つまり、計測事象の識別情報)は、識別情報管理部16に記憶される。ここで、識別情報管理部16に記憶された識別情報の内容が受信の前後で変化したか否かが判断される(S12)。受信前後で変化があれば(S12:Y)、機器動作評価部15の生成部152は、識別情報管理部16に記憶された識別情報を用いて判定式を更新し、更新後の判定式を基準格納部131に保存する。
【0050】
上述した動作では、識別情報管理部16が保持しているセンサ30の識別情報が変化したことによって判定式を更新しているが、監視装置10が管理しているセンサ30の計測情報が判定式に適合している場合は判定式の更新は不要である。したがって、識別情報管理部16にセンサ30の識別情報が記憶された後、選出部151が、判定情報記憶部14に記憶されている標準の判定式を抽出し、抽出した標準の判定式の変数を、識別情報管理部16に保持されたセンサ30の識別情報と照合してもよい。この場合、判定情報記憶部14に記憶されている標準の判定式の変数が、識別情報管理部16に保持されているセンサ30の識別情報のうち操作部17から入力された識別情報のみで表される場合は、当該判定式を判定部13の基準格納部131に格納する。
【0051】
一方、判定情報記憶部14に記憶されている標準の判定式の変数のいずれかが、操作部17から入力されたセンサ30の識別情報で表されない場合、選出部151は、当該変数を他のセンサ30の識別情報に置換する変換式を探索する。判定情報記憶部14に登録されている変換式に含まれる変数がセンサ30の識別情報に適合する場合、選出部151は当該変換式を抽出し、生成部152は標準の判定式に当該変換式を適用して新たな判定式を生成する。
【0052】
たとえば、表1に示した例では、標準の判定式に変数AHU_QA[.*]が含まれ、操作部17から入力されたセンサ30の識別情報(表2参照)には、変数AHU_QA[.*]が含まれていない。このような場合に、AHU_QA[.*]の変換式を用いて標準の判定式を書き換えた判定式が生成される。したがって、監視装置10では、標準の判定式に加えて、標準の判定式に変換式を適用した判定式を持つことになる。
【0053】
また、選出部151は、識別情報管理部16が保持しているセンサ30の識別情報を探索し、判定式の変数に適合する識別情報の抽出を試みる。識別情報管理部16が保持しているセンサ30の識別情報だけで標準の判定式に適合する場合は、生成部152は標準の判定式を基準格納部131に格納し、以後はこの判定式を用いて監視事象の状態を判定する。一方、標準の判定式に適合する識別情報が識別情報管理部16に存在しない場合は、識別情報管理部16に保持された識別情報が変換式を適用した判定式に適合するか否かを判断し、適合すればその判定式を判定部13で用いる。
【0054】
上述したように、監視装置10は、システムに含まれるセンサ30の識別情報を識別情報管理部16に保存し、判定部13で用いる判定式を生成する際には、識別情報管理部16に保存された識別情報を参照して適切な判定式を設定するのである。なお、他の監視装置10と通信を行って識別情報管理部16にセンサ30の識別情報を保存する際に、保存の前後において識別情報管理部16の内容が変化すると、機器動作評価部15を起動して判定部131が用いる判定式を再生成することが好ましい。
【0055】
なお、実際に判定式を用いて監視事象の状態を判定する際には、該当するセンサ30の識別情報を用いて他の監視装置10から計測情報を取得する必要がある。この場合、他の監視装置10が管理しているセンサ30の計測情報を取得するために他の監視装置10との通信が必要である。そのため、複数のセンサ30の計測情報を用いていると、各センサ30の計測情報に時間差が生じる可能性がある。したがって、判定部13は計測情報を取得する時間差を考慮した判定を行うことが必要になる。
【0056】
本実施形態のように、システム内の他の監視装置10が管理するセンサ30が計測する計測情報を含めて判定式の判定に適した計測情報が採用されるから、所望の監視事象の状態を適切に判定することができる。しかも、監視装置10ごとに設定する判定式や変換式は、監視装置10が管理するセンサ30に合致していなくてもよいから、監視装置10を用いたシステムの構築にあたって、従来よりも作業量を低減させることが可能である。
【0057】
(実施形態2)
実施形態1の構成を採用することにより、複数台の監視装置10がそれぞれ管理しているセンサ30の計測情報を他の監視装置10でも用いることが可能になる。すなわち、各監視装置10がそれぞれ管理しているセンサ30の計測情報のみでは監視事象の状態の判定ができない場合でも、他の監視装置10が管理しているセンサ30の計測情報を流用ないし代用することが可能になる。その結果、各監視装置10において、自身が管理するセンサ30の計測情報のみでは判定することができない監視事象であっても状態を判定することが可能になる。
【0058】
ところで、実施形態1の構成では、他の監視装置10が管理しているセンサ30の識別情報を収集するために、上位通信路21を通して通信可能であるすべての監視装置10と通信するか、あるいは特定の範囲の監視装置10と通信している。通信可能なすべての監視装置10からセンサ30の識別情報を収集すると、監視装置10の台数やセンサ30の個数が多い場合(一般に、ビルのような建物では数百個のセンサ30が配置される)、識別情報管理部16に記憶させる識別情報の個数が多くなる。
【0059】
そのため、組込み用マイコンを用いて構成された監視装置10のように記憶容量に制限がある場合には、大規模なシステムに対応することができない場合がある。また、各監視装置10が用いる判定式を設定する前に、それぞれの監視装置10がセンサ30の識別情報を取得するために通信を行うから、上位通信路21を通して行う通信の負荷が大きくなり、トラフィックが増加したり、通信待ちの時間が長くなったりする。すなわち、各監視装置10が管理するセンサ30の識別情報をすべての監視装置10が保有するまでに長い時間を要することになる。センサ30の識別情報を各監視装置10が通知する際にブロードキャストで通信を行うと、ピアツーピアで通信を行う場合よりも時間は短縮されるが、大規模なシステムでは、監視装置10の台数も多くなるから、通信待ちの時間は十分には短縮されない。
【0060】
本実施形態は、この種の問題を解決するために、各監視装置10が管理しているセンサ30の識別情報について、情報量を低減させた要約情報を生成する機能を識別情報管理部16に設けている。識別情報管理部16は、要約情報を生成する機能に加えて、生成した要約情報を他の監視装置10に通知する機能と、他の監視装置10から取得した要約情報を保持する機能とを備える。要約情報は、センサ30の識別情報を用いて生成され、複数種類の識別情報に共通する情報が1種類の情報に集約されている。また、要約情報は、1台の監視装置10(または、中継用の機器20)の範囲で集約されている。したがって、要約情報のみではセンサ30の識別情報を特定することはできない。識別情報管理部16は、着目するセンサ30の識別情報を探索する範囲を絞り込むことができる補助情報として要約情報を生成するのである。
【0061】
実施形態1で説明したように、センサ30の識別情報は、センサ30を設けた機器の名称と、センサ30が監視する場所と、センサ30が監視する計測情報の種類とを結合した形式で構成されている。また、表4に示すように、センサ30の識別情報は、当該センサ30を管理している監視装置10のアドレスに対応付けられている。センサ30の識別情報を上述した形式とすることは必須ではないが、センサ30の識別情報は、少なくとも、センサ30が監視する場所とセンサ30が監視する計測情報の種類との情報を含むことが必要である。
【0062】
【表4】

上述のように、センサ30の識別情報が、複数の情報の組み合わせであることに着目すると、情報の階層性を用いることにより、センサ30の識別情報のうちの上位階層の情報を用いることが可能である。たとえば、判定式に含まれる変数のうち置換可能である変数は同じ種類の負荷装置32から得られることが多いから、同じ種類の負荷装置32はセンサ30の識別情報の範囲を絞り込むための要約情報に用いることができる。すなわち、負荷装置32の名称は要約情報(補助情報)として用いることが可能である。また同様に、センサ30の識別情報のうち負荷装置32の名称と、センサ30が監視する場所とを組み合わせることにより、要約情報(補助情報)として用いることも可能である。
【0063】
以上のことから、本実施形態の識別情報管理部16は、上述した2種類の要約情報のいずれかを生成する。負荷装置32の名称のみの要約情報を用いるか、負荷装置32の名称と監視する場所とを組み合わせた要約情報を用いるかは、識別情報管理部16が用いるハードウェア資源の記憶容量や、上位通信線21を通して通信する際のトラフィック量などによって、適宜に選択される。
【0064】
要約情報(補助情報)は、センサ30の識別情報を抽出する範囲を絞り込むための情報であるから、センサ30の識別情報に対して、所定の規則による変換を施したビット配列を用いることも可能である。この種のビット配列としては、ハッシュ値を利用したブルームフィルタが知られている。すなわち、ブルームフィルタの値を要約情報として用いることが可能である。
【0065】
ブルームフィルタは、各ビットの初期値が0である所定ビット数のビット配列を用い、複数種類のハッシュ関数を適用して求めたハッシュ値をビット配列にマッピングして得られるデータ構造である。したがって、センサ30の識別情報からブルームフィルタの値を求めると、センサ30の識別情報に比べて空間効率を大幅に高め、結果的に識別情報管理部16に記憶させる情報量を低減させることができる。
【0066】
ブルームフィルタは、ハッシュ値を用いているから、元の値が異なっていても偶然に同じ値を持つことがあるものの、元の値が一致していれば必ず該当するビット位置の値が1になる。したがって、種々のセンサ30の識別情報から得られたブルームフィルタを識別情報管理部16に登録しておくと、以下のようにして着目するセンサ30の識別情報を識別情報管理部16から検索することができる。
【0067】
すなわち、着目するセンサ30の識別情報についてブルームフィルタの値を求め、識別情報管理部16に登録されたブルームフィルタの値と照合する。ここで、識別情報管理部16に該当するビット位置のビット値が1であるブルームフィルタの値が登録されていると、着目するセンサ30の識別情報がシステム(識別情報管理部16が収集した範囲)内に存在する可能性があるといえる。一方、該当するビット位置のビット値のうちの1つでも1にならなければ、着目するセンサ30の識別情報はシステム(識別情報管理部16が収集した範囲)内に存在しないことがわかる。
【0068】
したがって、表5のように、識別情報管理部16に、センサ30の識別情報から求めたブルームフィルタの値を登録しておけば、選出部151は、所望のセンサ30がシステム内に存在するか否かを容易に判断することができる。また、ブルームフィルタの値にはセンサ30を管理する監視装置10のアドレスが対応付けられており、該当するセンサ30がシステム内に存在する場合には、当該センサ30を管理している監視装置10にアクセスすることが可能になる。
【0069】
【表5】

上述したように、識別情報管理部16が要約情報を保持している場合について、選出部151からの問い合わせに対する識別情報管理部16の動作をまとめると、図3のようになる。すなわち、識別情報管理部16は、選出部151から判定式または変換式の変数(センサ30の識別情報)の照合が要求されると、変数を保持している識別情報と照合する(S21)。監視装置10が管理しているセンサ30の識別情報と照合を要求された変数とが一致した場合(S21:Y)、選出部151には「存在する」を返す(S22)。
【0070】
一方、照合を要求された変数に一致する識別情報が存在しない場合(S21:N)、照合を要求された変数を補助情報に照合する(S23)。補助情報は要約情報として保持されているから、識別情報管理部16に要約情報が存在するか否かが判断される。要約情報が存在する場合(S23:Y)、識別情報管理部16は、要約情報に対応する監視装置10のアドレスを用いてセンサ30の識別情報(変数)の有無を問い合わせる(S24)。目的とするセンサ30の識別情報が存在する場合(S25:Y)、当該センサ30の識別情報を識別情報管理部16に、新たな識別情報として追記し(S26)、選出部151には「存在する」を返す(S27)。
【0071】
ステップS23において対応する要約情報が存在しない場合(S23:N)、またはステップS25において他の監視装置10に目的とするセンサ30の識別情報が存在しない場合(S25:N)、選出部151には「存在しない」が返される(S28)。
【0072】
以上の処理により、監視装置10が管理しているセンサ30の計測情報では判定式を充足できない場合であっても、他の監視装置10が管理しているセンサ30の計測情報で代用することが可能になる。なお、他の監視装置10が管理しているセンサ30の計測情報を代用しても判定式を充足させることができない場合には、当該監視装置10で用いる判定式を新規に作成することにより対応すればよい。ただし、上述の処理によって、多くの場合には新規の判定式を作成する必要がないから、導入時における作業量の低減につながる。
【0073】
ところで、要約情報を用いると、計測情報の取得に失敗することもある。すなわち、要約情報に対応する監視装置10に計測情報を問い合わせたときに、該当する計測情報が得られない場合がある。このように計測情報を取得できなかった回数を蓄積すると、要約情報ごとに問い合わせ回数に対する失敗の回数の割合を求めることができる。この割合を要約情報の誤り率とし、要約情報の誤り率が規定の閾値を超える場合には、該当する監視装置10に対して、要約情報の情報量を増加させるように指示する構成を採用することが望ましい。要約情報の情報量が増加すれば、要約情報の誤り率が低減されると考えられるから、全体として問い合わせ回数を低減させ、トラフィックの低減につながる。他の構成および動作は実施形態1と同様であるから説明を省略する。
【0074】
(実施形態3)
上述した実施形態は、他の監視装置10が管理するセンサ30の計測情報のみを代用ないし流用しているが、本実施形態は、他の監視装置10の判定情報記憶部14に設定された判定式や変換式を、システム内の監視装置10で共用する点が特徴である。
【0075】
したがって、判定情報記憶部14は、通信部12を通して上位通信路21に接続されている(不図示)。識別情報管理部16がセンサ30の識別情報を取得する動作と同様に、通信部12は、図4に示すように、起動時などの適宜のタイミングで他の監視装置10と通信を行い、他の監視装置10から判定式および変換式(判定基準)を受信する(S31)。通信部12は、受信した判定式および変換式(判定基準)を判定情報記憶部14に保存し、受信の前後での判定基準の変化の有無を判断する(S32)。ここで、判定情報記憶部14に記憶された判定基準が他の監視装置10から判定基準を受信した前後において変化している場合(S32:Y)、通信部12は、機器動作評価部15を起動する(S23)。
【0076】
機器動作評価部15は、操作部17から入力受付部18を通して指示された監視事象の状態を判断する判定式を、判定情報記憶部14から選択し、実施形態1、2として説明したように、必要に応じて変換式による変数の置換を行う。
【0077】
本実施形態では、システム内に監視装置10を増設したり、いずれかの監視装置10に登録されている判定式や変換式を追加すれば、既存の監視装置10の判定情報記憶部14に登録される判定式や変換式の種類を増加させることが可能になる。そのため、システムの導入初期では、判定式や変換式に不足がある場合や、新たな監視装置10や負荷装置32が導入されることによって監視事象に変更が生じた場合でも、判定式や変換式を書き換える作業をすべての監視装置10に対して行う必要がなく、作業量の削減につながる。
【0078】
ところで、システム内の監視装置10において、他の監視装置10が管理するセンサ30の計測情報を代用ないし流用し、かつ判定式や変換式を共有可能にした場合に、同じ監視事象の状態を判定するための異なる判定式が設定される可能性がある。この場合、判定式に含まれる変数が少ないほど、センサ30から計測情報を収集するのに要する時間が短くなり監視事象が生じてから判定結果が得られるまでの時間が短縮される可能性がある。一方、監視事象の内容によっては、判定式に含まれる変数が多いほど判定の精度が高くなる場合もある。
【0079】
そこで、同じ監視事象の状態を判定する判定式が得られる場合は、利用者が操作部17を用いて指定した動作モードに従って判定式を選択する。操作部17から指定される動作モードは、速度優先モードと精度優先モードとであって、速度優先モードが選択されているときには、変数が最小になる判定式が選択され、精度優先モードが選択されているときには、変数が最大になる判定式が選択される。なお、同じ監視事象に対して3種類以上の判定式が生成される場合に備えて、利用者が操作部17を通して所望の判定式を指示するカスタムモードを設けてもよい。
【0080】
上述の動作は、同じ監視事象に対して異なる変数を含む判定式が設定される場合の例であるが、異なる監視装置10において同じ判定式が設定される可能性もある。この場合、異なる監視装置10において監視事象に競合ないし衝突を生じるという不都合が生じることになる。そこで、このような不都合を回避するために、判定式の設定に際して優先順位を設定することが好ましい。たとえば、同じ判定式が設定されている場合、他の監視装置10から代用ないし流用しているセンサ30の計測情報の個数を比較し、他の監視装置10から受け取る計測情報の個数が少ないほうの判定式を優先するという優先条件で判定式を選択することが好ましい。この優先条件を用いると、他の監視装置10が管理しているセンサ30の計測情報を取得する頻度が低減されるから、結果的にセンサ30の計測情報を監視装置10の間で授受する際の通信量が低減される。
【0081】
いま、2台の監視装置10において、センサ30の識別情報と、センサ30の計測情報を取得する監視装置10のアドレスとが、表6、表7のように対応付けられ、生成部152が生成する判定式において、表に示す4種類の計測情報を変数に用いているとする。
【0082】
【表6】

【0083】
【表7】

表6と表7とにおいて「ローカル」は、生成部152を備える監視装置10が管理しているセンサ30から計測情報を取得することを意味する。また、監視装置10のアドレスが「ローカル」ではない場合は、他の監視装置10が管理しているセンサ30から計測情報を取得することを意味する。
【0084】
したがって、判定式に用いる4個の監視情報について、表6に示す情報を持つ監視装置10は他の監視装置10から受け取る計測情報が1個であり、表7に示す情報を持つ監視装置10は他の監視装置10から受け取る計測情報が3個になる。このような場合、表6に示す情報を持つ監視装置10が選択されるのである。
【0085】
ただし、他の監視装置10から受け取る計測情報の個数が同じになる場合もある。そこで、各監視装置10には生成部152が判定式を設定したときに他の監視端末10に判定式の設定を判定式とともに通知する機能を設け、判定式を受信した監視端末10の生成部152は他の監視装置10と同じ判定式の生成を禁止することが好ましい。すなわち、システム内において、判定式は生成順で採用され、システム内に同じ判定式が生成されることが防止される。
【0086】
本実施形態の他の構成および動作は実施形態1、実施形態2と同様であって、本実施形態は、上述した他の実施形態と組み合わせて用いることが好ましい。
【0087】
(実施形態4)
実施形態3では、センサ30が計測した計測情報がつねに正しいとみなして判定式を設定しているが、システム内に多数のセンサ30が存在していると、すべてのセンサ30から正しい計測情報が得られていない可能性もある。とくに、センサ30の計測情報は、経年的変化を生じる可能性があるから、定期点検はもちろんのことであるが、センサ30の計測情報を日常的に監視することも必要である。
【0088】
そこで、本実施形態では、センサ30ごとに計測情報を評価する機能が監視装置10の取得部11に設けられている。すなわち、取得部11は、計測情報に対して正常範囲を定めており、センサ30から得られた計測情報が正常範囲を逸脱した時間の割合を評価値として記憶する機能を備える。たとえば、計測情報が正常範囲を逸脱した時間が24時間のうち3時間であれば、このセンサ30について計測情報が正常範囲であった割合を87.5%とし、この値を評価値が用いられる。評価値は、日毎、週毎、月毎など適宜の期間において求められる。
【0089】
上述のようにして求めたセンサ30の評価値は、センサ30から得られる計測情報の信頼度に相当する。したがって、同じ監視事象について複数の判定式を選択可能である場合に、判定式を随時更新し、信頼度の高いセンサ30を用いて監視事象を判定することによって、センサ30が劣化しても監視事象の判定の精度を維持することが可能になる。すなわち、判定式を更新する際には、センサ30の計測情報に関する評価値を用い、判定式に含まれる変数に対応した計測情報の評価値が高い判定式を優先的に選択するのである。
【0090】
ここに、計測情報の評価値を用いて判定式の評価を行うにあたっては、判定式に含まれる変数に対応した計測情報の評価値について平均値を求めるとともに、評価値の最大値と最小値との差を求める。判定式の選択には、判定式に含まれる評価値の最小値が規定の閾値以上になるという条件を満たし、かつ評価値の平均値が最大になるという条件を満たす判定式を選択することが好ましい。前者の条件は、判定式の判定結果の信頼度を維持するために設定されている。すなわち、信頼度の低い計測情報が含まれる判定式で判定を行うと他の計測情報の信頼度のいかんによらず判定結果の信頼度が低下するから、閾値以上の信頼度が得られる計測情報のみを用いて判定を行うように条件が設定される。また、後者の条件によって、判定式による判定結果の信頼度を高めている。
【0091】
上述のように複数の判定式から判定式を選択する場合だけではなく、実施形態1のように、同じ判定式に含まれる変数に割り当てる計測情報が置換可能である場合にも、置換可能な計測情報の信頼度が高いほうを選択することが望ましい。たとえば、異なる2個のセンサ30から得られる計測情報が、ともに判定式の変数として採用可能である場合であって、一方のセンサ30から得られる計測情報の評価値が100%であり、他方のセンサ30から得られる計測情報の評価値が10%であるとする。この場合、前記一方のセンサ30から得られる計測情報が採用されることになる。
【0092】
上述の動作では、判定部13が用いる判定式の更新を随時行っているが、判定式の更新はシステムの起動時、新たな監視装置10がシステムに参加したとき、操作部17を通して利用者が指示したときなどでもよい。
【0093】
また、上述の動作では、評価値として計測情報が正常範囲を逸脱した時間の割合を用い、判定式の更新時に評価値を用いて判定式を選択しているが、計測情報が正常状態を逸脱する時間が規定した判定時間に達するまで継続した場合に判定式を変更してもよい。すなわち、使用中の判定式に含まれる変数に対応した計測情報について、正常範囲を逸脱するか否かを常時監視し、正常範囲を逸脱したときは、逸脱した状態が継続する時間を計時するとともに、この時間が判定時間に達すると判定式を更新するのである。
【0094】
判定式を更新する際は、選出部151は、まず、識別情報管理部16が記憶しているセンサ30の識別情報が判定式で採用されないように、該当する識別情報にフラグを設定するか、該当する識別情報を識別情報管理部16から削除する。フラグを設定した場合は、センサ30の調整や交換によってセンサ30の計測情報が復旧したときに、利用者が操作部17を用いて意図的にフラグを解除することにより、元の動作に復旧させることが可能である。
【0095】
上述のように、いずれかのセンサ30の計測情報が正常範囲を逸脱し、かつ正常範囲を逸脱している時間が判定時間に達すると、基準格納部131に格納される判定式を更新するのである。この動作によって、判定部13は、正常である計測情報のみを用いて監視事象の状態を判定することが可能になる。すなわち、監視事象の状態の判定精度を維持することができる。なお、判定式を更新する際の判定式の選定基準には、上述した評価値を用いてもよい。
【0096】
本実施形態の他の構成および動作は実施形態1〜3と同様であって、本実施形態は、上述した他の実施形態と組み合わせて用いることが可能である。
【符号の説明】
【0097】
10 監視装置
11 取得部
12 通信部
13 判定部
14 判定情報記憶部
15 機器動作評価部
16 識別情報管理部
21 上位通信路
22 下位通信路
30 センサ(計測手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
規定の監視事象に関連する計測情報を計測手段から取得する取得部と、前記取得部が取得した前記計測情報を判定式に適用することにより前記監視事象の状態を判定する判定部と、他装置との間で通信し前記計測手段が計測する前記計測情報の種類を他装置との間で授受する通信部と、前記計測手段が計測する前記計測情報の種類および前記通信部を通して前記他装置から取得可能な前記計測情報の種類を保持する識別情報管理部と、前記識別情報管理部に記憶されている前記計測情報から前記判定式に適合する前記計測情報を抽出する機器動作評価部とを備え、前記識別情報管理部は、前記判定部において判定に用いる前記判定式が前記他装置から取得される前記計測情報を含む場合に、前記通信部を通して前記他装置から前記計測情報を取得して前記判定部に引き渡すことを特徴とする監視装置。
【請求項2】
前記通信部は、前記他装置に前記計測情報の種類を通知する際に複数種類の前記計測情報に共通する1種類の情報に集約した要約情報を前記他装置のアドレスとともに伝送し、前記識別情報管理部は、前記他装置から前記要約情報を受け取ると前記要約情報を保持し、前記判定部において判定に用いる前記判定式が前記他装置から取得される前記計測情報を含む場合に、前記要約情報および前記アドレスを参照して前記他装置に所要の前記計測情報を要求することを特徴とする請求項1記載の監視装置。
【請求項3】
前記通信部は、前記要約情報としてブルームフィルタの値を用いることを特徴とする請求項2記載の監視装置。
【請求項4】
前記監視事象の状態を判定する前記判定式を記憶した判定情報記憶部を備え、前記判定情報記憶部は、前記判定式に含まれる前記計測情報を他の前記計測情報に置換する変換式を併せて記憶しており、前記機器動作評価部は、前記判定式に含まれる前記監視情報が前記識別情報管理部に記憶されていない場合、前記判定情報記憶部に記憶された前記変換式を用いて前記判定式を更新することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の監視装置。
【請求項5】
前記通信部は、前記判定情報記憶部に記憶されている前記判定式および前記変換式を前記他装置との間で授受し、前記他装置から受信した前記判定式および前記変換式が前記判定情報記憶部に記憶されていない場合に、受信した前記判定式および前記変換式を追記することを特徴とする請求項4記載の監視装置。
【請求項6】
前記機器動作評価部は、前記監視事象が前記他装置と同じになる場合に、規定の優先条件に従って前記監視事象に対する判定式を採用するか否かを選択することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の監視装置。
【請求項7】
前記機器動作評価部は、前記判定式で用いる前記計測情報について、前記他装置から取得する前記計測情報の個数が最小であることを前記優先条件として前記監視事象に対する判定式を採用することを特徴とする請求項6記載の監視装置。
【請求項8】
前記取得部は、前記計測手段ごとに前記計測情報が正常か否かを評価し、かつ所定の期間において正常であった期間の割合を信頼度の指標として求め、前記機器動作評価部は、前記監視事象が前記他装置と同じになる場合に、前記判定式のうち前記指標が示す信頼度の高い前記計測情報を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の監視装置。
【請求項9】
前記取得部は、前記計測手段ごとに前記計測情報が正常か否かを評価し、前記機器動作評価部は、前記計測情報が異常になった場合、当該計測情報を用いる前記判定式を採用せずに前記判定式を更新することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の監視装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の監視装置を複数台備える監視システムであって、前記複数台の前記監視装置ごとに前記計測手段を管理しており、前記複数台の前記監視装置が通信路を通して互いに通信することを特徴とする監視システム。
【請求項11】
コンピュータを、規定の監視事象に関連する計測情報を計測手段から取得する取得部と、前記取得部が取得した前記計測情報を判定式に適用することにより前記監視事象の状態を判定する判定部と、他装置との間で通信し前記計測手段が計測する前記計測情報の種類を他装置との間で授受する通信部と、前記計測手段が計測する前記計測情報の種類および前記通信部を通して前記他装置から取得可能な前記計測情報の種類を保持する識別情報管理部と、前記識別情報管理部に記憶されている前記計測情報から前記判定式に適合する前記計測情報を抽出する機器動作評価部とを備え、前記識別情報管理部は、前記判定部において判定に用いる前記判定式が前記他装置から取得される前記計測情報を含む場合に、前記通信部を通して前記他装置から前記計測情報を取得して前記判定部に引き渡す監視装置として機能させるプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−4038(P2013−4038A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137777(P2011−137777)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】