目標検出装置
【課題】ウェーブレット変換を用いて目標を効率よく検出することができ、回路構成や信号処理の規模を小さくできる目標検出装置を提供する。
【解決手段】検出制御回路17からの指定に応じてN個(Nは正の整数)の異なる位置で入力信号をサンプリングしてN個の信号を出力する入力変換回路10と、N個の信号の各々に対してウェーブレット変換を行うウェーブレット変換回路11と、入力信号中の目標を表す信号の幅に応じて決定されたウェーブレット展開係数のレベルにおいて、ウェーブレット変換回路からのN個のウェーブレット展開係数の各々が所定のスレッショルドレベルより大きいかどうかを検出する検出器14と、N個のウェーブレット展開係数のうちのM個(Mは正の整数であり、N≧M)以上が所定のスレッショルドレベルより大きいことが検出された場合に、目標を検出した旨の検出信号を出力するM/N検出回路16を備える。
【解決手段】検出制御回路17からの指定に応じてN個(Nは正の整数)の異なる位置で入力信号をサンプリングしてN個の信号を出力する入力変換回路10と、N個の信号の各々に対してウェーブレット変換を行うウェーブレット変換回路11と、入力信号中の目標を表す信号の幅に応じて決定されたウェーブレット展開係数のレベルにおいて、ウェーブレット変換回路からのN個のウェーブレット展開係数の各々が所定のスレッショルドレベルより大きいかどうかを検出する検出器14と、N個のウェーブレット展開係数のうちのM個(Mは正の整数であり、N≧M)以上が所定のスレッショルドレベルより大きいことが検出された場合に、目標を検出した旨の検出信号を出力するM/N検出回路16を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標を捜索または追尾するレーダ装置や信号波形を観測する受信装置に適用されて目標を検出する目標検出装置に関し、特にウェーブレット変換を用いて目標を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は信号処理分野において、フーリエ変換や離散コサイン変換(DCT)に代えてウェーブレット変換がよく利用されている。ウェーブレット変換は、強度が局所的に分布する信号を効率良く処理できるため、画像処理や音声信号処理、さらにはレーダ装置におけるビデオ信号処理などといった種々の分野で応用されている。なお、ウェーブレット変換の詳細に関しては、例えば非特許文献1に記述されている。
【0003】
ところで、従来のレーダ装置に適用された目標検出装置において、瞬時にしか出現しない目標を表す目標信号を検出するためには、大きいSN比(信号電力対雑音電力比)が必要になるが、目標信号が小さい場合やレーダ装置のアンテナ利得が小さい場合にはSN比が小さく、目標信号を検出できないという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するために、ウェーブレット変換が信号の変化点に対する感度が高いことに着目し、ウェーブレット変換を利用して目標を検出するレーダ装置が知られている。図11は、このようなウェーブレット変換を利用した従来のレーダ装置の構成を示す図である。このレーダ装置は、ウェーブレット変換回路11、展開係数選定回路12、逆ウェーブレット変換回路60、CFAR回路13および検出器14から構成されている。
【0005】
このレーダ装置においては、ウェーブレット変換回路11において入力データをウェーブレット変換することにより生成された展開係数W1〜Wjは、展開係数選定回路12に送られる。展開係数選定回路12は、ノイズが含まれることが予想される展開係数成分を除去した展開係数を逆ウェーブレット変換回路60に送る。逆ウェーブレット変換回路60は、与えられた展開係数成分を再び周波数成分に戻し、CFAR(一定誤警報;Constant False Alarm Rate:)回路13に送る。CFAR回路13は、逆ウェーブレット変換回路60から送られてくる再変換後のデータを用いてCFAR処理を行い、検出器14に送る。検出器14は、CFAR回路13からの信号に基づき目標検出処理を実行し、検出した目標を表す検出信号を出力する。なお、CFAR回路13において行われるCFAR処理の詳細は、例えば非特許文献2に説明されている。
【非特許文献1】中野他著、“ウェーブレットによる信号処理と画像処理”、共立出版株式会社、pp.49−70、pp.101−110(1999)
【非特許文献2】関根著、“レーダ信号処理技術”、電子情報通信学会、pp.96−106(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したウェーブレット変換を利用した従来のレーダ装置では、受信した信号をウェーブレット変換し、ウェーブレット軸上で不要な成分を除去したのち再合成して時間軸上の信号に戻す。そして、この時間軸上の信号を所定のスレッショルドレベルと比較して目標の有無を判別する。したがって、ウェーブレット変換後の再合成処理が必須であり、回路構成や信号処理の規模が増大するという問題がある。
【0007】
本発明は、ウェーブレット変換を用いて目標を効率よく検出することができ、しかも、回路構成や信号処理の規模を小さくできる目標検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1の発明は、入力信号のサンプリング位置を指定する検出制御回路と、検出制御回路からの指定に応じてN個(Nは正の整数)の異なるサンプリング位置で入力信号をサンプリングしてN個の信号を出力する入力変換回路と、入力変換回路から出力されるN個の信号の各々に対してウェーブレット変換を行うウェーブレット変換回路と、入力信号に含まれる目標を表す信号の幅に応じて決定されたウェーブレット展開係数のレベルにおいて、ウェーブレット変換回路から出力されるN個のウェーブレット展開係数の各々が所定のスレッショルドレベルより大きいかどうかを検出する検出器と、検出器によって、N個のウェーブレット展開係数のうちのM個(Mは正の整数であり、N≧M)以上が所定のスレッショルドレベルより大きいことが検出された場合に、目標を検出した旨の検出信号を出力するM/N検出回路とを備えたことを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、入力信号に対してウェーブレット変換を行うウェーブレット変換回路と、入力信号に含まれる目標を表す信号の幅に応じて決定されたウェーブレット展開係数のレベルの前後のN個(Nは正の整数)のレベルの各々において、ウェーブレット変換回路から出力されるウェーブレット展開係数が所定のスレッショルドレベルより大きいかどうかを検出する検出器と、検出器によって、N個のレベルにおけるウェーブレット展開係数のうちのM個(Mは正の整数であり、N≧M)以上が所定のスレッショルドレベルより大きいことが検出された場合に、目標を検出した旨の検出信号を出力するM/N検出回路とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、ウェーブレット変換が信号の変化点に対する感度が高いことを利用して、ウェーブレット展開係数を用いて目標を検出するので、再合成処理が不要であり、回路構成および信号処理の規模を小さくすることができる。また、入力信号のサンプリング位置をずらしたN個の信号についてウェーブレット変換を実施し、そのうちのM個以上がスレッショルドレベルより大きければ目標を検出した旨の検出信号を出力するので、入力信号に含まれる目標信号の時間的な位置がウェーブレット展開係数の時間的な位置とマッチしていないことによるロスを解消でき、効率よく目標を検出することができる。
【0011】
また、第2の発明によれば、ウェーブレット変換が信号の変化点に対する感度が高いことを利用して、ウェーブレット展開係数を用いて目標を検出するので、再合成処理が不要であり、回路構成および信号処理の規模を小さくすることができる。また、入力信号に含まれる目標を表す信号の幅に応じて決定されたウェーブレット展開係数のレベルの前後のN個のレベルにおけるウェーブレット展開係数のうちのM個以上が所定のスレッショルドレベルより大きいことが検出された場合に、目標を検出した旨の検出信号を出力するので、効率よく目標を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下では、本発明に係る目標検出装置が捜索用のレーダ装置に適用された場合について説明する。また、以下の各実施例において、同一または相当する構成部分には同一の符号を付して説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の実施例1に係る目標検出装置の構成を示すブロック図である。この目標検出装置は、入力変換回路10、ウェーブレット変換回路11、展開係数選定回路12、CFAR回路13、検出器14、データ蓄積回路15、M/N検出回路16および検出制御回路17から構成されている。
【0014】
入力変換回路10には、図示しないアンテナを介してビームを送受信することにより得られた受信信号が、入力データfとして入力される。この入力データfとしては、送受信信号のレンジセル毎のデータやPRI(Pulse Repetition Interval:パルス繰返し間隔)毎のデータが用いられる。入力変換回路10は、検出制御回路17から送られてくるシフト制御信号に応じて入力データfをシフトし、ウェーブレット変換回路11に送る。
【0015】
ウェーブレット変換回路11は、入力変換回路10から送られてくる信号を入力データとし、この入力データに対して離散ウェーブレット変換を施す。ここで、ウェーブレット変換回路11への入力データを、複素信号f0(I+jQ)で表すと、離散ウェーブレット変換の対象となる信号fとしては、下式(1)〜(4)に示す4通りなどを考えることができる。
【数1】
【0016】
ここで、
I:実部
Q:虚部
j:虚数単位
ウェーブレット変換回路11は、このような信号fを入力データとして、離散ウェーブレット変換を実行し、複数のウェーブレット展開係数wkを求める。離散ウェーブレット変換は、図3(a)に示すような入力信号(原波形)をスケーリング係数とウェーブレット展開係数で近似するものである。スケーリング係数には複数のレベル1〜Jがあり、各レベルに応じて近似の程度が異なる。ウェーブレット展開係数は、スケーリング係数のレベル間における差に相当する。
【0017】
このような離散ウェーブレット変換は時間−周波数フィルタで表すことができる。図2は、離散ウェーブレット変換のフィルタ特性を示す図である。レベルの順に、周波数領域は、広域から低域へ遷移する。すなわち、高域においては短時間のフィルタ特性を持ち、低域に行くほど長時間のフィルタ特性を持つようになる。このフィルタ特性は、例えば非特許文献1に説明されているように、下式(5)〜(10)で表すことができる。
【数2】
【0018】
ここで、
fj:jレベルの近似関数(j=1〜J)
gj:jレベルの展開関数
sk:スケーリング展開係数(k=1〜K)
wk:ウェーブレット展開係数
φ :スケーリング関数
ψ :マザー・ウェーブレット関数
pk:マザー・ウェーブレット関数により決まる数列
* :複素共役
ここで、(9)式に示すwは、レベルjにおける近似関数と実際の波形との差分を表す成分であり、ウェーブレット展開係数を表す。ウェーブレット展開係数が算出される様子を図3に示す。このウェーブレット展開を用いると、少ないヒット数で、目標を表す信号を検出できるというメリットがある。ウェーブレット変換回路11において得られたウェーブレット展開係数は、展開係数選定回路12に送られる。
【0019】
展開係数選定回路12は、検出制御回路17から送られてくる選定制御信号に応じて、ウェーブレット変換回路11から送られてくるウェーブレット展開係数から所定のレベルの展開係数を選定し、CFAR回路13に送る。
【0020】
CFAR回路13は、展開係数選定回路12から送られてくる展開係数に対して、誤警報確率を一定の低さに抑えた信号を生成し、検出器14に送る。CFAR回路13において行われるCFAR処理の詳細は、例えば非特許文献2に説明されている。図4は、CFAR回路13の一例として、相加平均で規格化を行うリニアCFAR回路の構成を示すブロック図である。CFAR回路13は、遅延回路51、加算回路52、平均化処理回路53および除算回路54から構成されている。
【0021】
遅延回路51は、入力された信号xiを遅延させた後、加算回路52および除算回路54に送る。加算回路52は、一定期間に遅延回路51から送られてくるN個のデータを加算し、平均化処理回路53に送る。平均化処理回路53は、加算回路52から送られてくるN個のデータの平均値を算出し、除算回路54に送る。除算回路54は、遅延回路51から送られてくるデータを平均値で除算して出力する。なお、CFAR回路13は、相乗平均で規格化を行う対数CFAR回路によって実現することもできる。
【0022】
検出器14は、CFAR回路13から送られてくる信号を所定のスレッショルドレベルと比較し、その比較の結果、CFAR回路13から送られてくる信号が所定のスレッショルドレベルより大きければ「検出あり」を表すデータを、そうでなければ「検出なし」を表すデータをデータ蓄積回路15に送る。
【0023】
データ蓄積回路15は、検出器14から送られてくる「検出あり」を表すデータおよび「検出なし」を表すデータを順次記憶する。このデータ蓄積回路15に記憶されている内容は、M/N検出回路16によって参照される。
【0024】
M/N検出回路16は、データ蓄積回路15の内容を参照し、該データ蓄積回路15に記憶されているN個(Nは正の整数)のデータのうちのM個(Mは正の整数であり、N≧M)以上が「検出あり」を表すデータである場合に、目標を検出した旨を表す検出信号を出力する。
【0025】
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係る目標検出装置の動作を説明する。まず、概略の動作を説明する。
【0026】
上述したウェーブレット変換回路11におけるウェーブレット変換において、もし、入力信号(原波形)にノイズのような非定常な信号が含まれていれば、そのノイズはウェーブレット展開係数wに含まれる。そこで、入力信号からノイズを除去するために、図11に示す従来のレーダ装置では、入力信号を(5)〜(10)式で分解し、ウェーブレット展開係数wのうちノイズが含まれることが予想される成分を除去した上で、(5)〜(10)式によって再合成して、ノイズ等を除去した出力信号を得ている。
【0027】
これに対して、本発明に係る目標検出装置では、入力信号を分解した後のウェーブレット展開係数wに、検出対象である目標信号も含まれることに着目し、ウェーブレット展開係数wの軸で、所定のスレッショルドレベルと比較することにより目標信号を検出する。そのために、ウェーブレット展開係数wの軸で、CFAR処理を実施して、スレッショルドレベルを越えた信号を検出信号とする。
【0028】
この場合において、ウェーブレット展開係数Wcは、入力信号に含まれる目標を表す信号(目標信号)の幅をnとすると、2c=nを満足するcより決めることができるが、入力信号中の目標信号の位置によっては、このウェーブレット展開係数Wcの値が小さい場合がある。これを防ぐために、図5(a)および図5(b)に示すように、入力信号のサンプリング位置をシフトして変化させたN個のケースについて、ウェーブレット変換を実施し、ウェーブレット展開係数WcでCFAR処理を実施し、N個のケースのうちのM個のケ−ス(N≧M)がスレッショルドを越えた場合に目標が検出された旨を表す検出信号を出力する。
【0029】
図6は、入力信号のサンプリング位置を変えた場合のウェーブレット変換による時間−周波数フィルタと目標信号の関係を示す図である。図6(a)は、図5(a)に示す位置(シフトする前の位置)で入力信号をサンプリングした場合の目標信号を示し、目標信号(斜線で示す部分)がレベルW3にマッチしていない。これに対し、図6(b)は、図5(b)に示す位置(図5(a)に示すサンプリング位置をシフトした位置)で入力信号をサンプリングした場合の目標信号を示し、目標信号(斜線で示す部分)がレベルW3にマッチしている。このように、入力信号をシフトすることにより、目標信号が時間−周波数フィルタにマッチして、検出効率を上げることができることがわかる。
【0030】
次に、本発明の実施例1に係る目標検出装置の詳細な動作を、図7に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0031】
レーダ装置による捜索が開始されると、まず、サンプリング位置のシフトが行われる(ステップS10)。すなわち、検出制御回路17は、シフト制御信号を入力変換回路10に送ることによりサンプリング位置をシフトさせる。なお、検出制御回路17は、各ビームポジションに対する処理の1回目は、サンプリング位置を初期位置に設定する。これにより、入力変換回路10は、入力データを、検出制御回路17から送られてくるシフト制御信号に応じた位置でサンプリングし、ウェーブレット変換回路11に送る。
【0032】
次いで、離散ウェーブレット変換(DWT)が行われる(ステップS11)。ウェーブレット変換回路11は、入力されたデータに対して離散ウェーブレット変換を実施し、ウェーブレット展開係数を生成して展開係数選定回路12に送る。展開係数選定回路12は、検出制御回路17からの選定制御信号に応じて、目標信号の信号幅に応じたウェーブレット展開係数を選定し、CFAR回路13に送る。
【0033】
次いで、CFAR処理が行われる(ステップS12)。すなわち、CFAR回路13は、展開係数選定回路12から送られてくるウェーブレット展開係数に対してCFAR処理を実施し、検出器14に送る。次いで、目標信号の検出があるかどうかが調べられる(ステップS13)。すなわち、検出器14は、CFAR回路13から送られてくる信号を所定のスレッショルドレベルと比較する。この比較の結果、CFAR回路13から送られてくる信号が所定のスレッショルドレベルより大きければ「検出あり」と判断され、「検出あり」データ蓄積が行われる(ステップS14)。すなわち、検出器14は、「検出あり」と判断した場合は、「検出あり」を表すデータをデータ蓄積回路15に送る。
【0034】
一方、上記比較の結果、CFAR回路13から送られてくる信号が所定のスレッショルドレベル以下であれば「検出なし」と判断され、「検出なし」データ蓄積が行われる(ステップS15)。すなわち、検出器14は、「検出なし」と判断した場合は、「検出なし」を表すデータをデータ蓄積回路15に送る。
【0035】
次いで、N回のサンプリング位置のシフトが終了したかどうかが調べられる(ステップS16)。このステップS16において、終了していないことが判断されると、シーケンスはステップS10に戻り、上述した処理が繰り返される。一方、終了したことが判断されると、次いで、M/N検出が行われる(ステップS17)。具体的には、M/N検出回路16は、上記ステップS10〜S16の処理によってデータ蓄積回路15に蓄積されたデータを参照し、N個のデータのうちのM個以上が「検出あり」を表すデータである場合に、目標を検出した旨を表す検出信号を外部に出力する。
【0036】
次いで、全空間の捜索が終了したかどうかが調べられる(ステップS18)。このステップS18において、全空間の捜索が終了していないことが判断されると、シーケンスはステップS10に戻り、ビーム方向を次の方向に変更して上述した処理が繰り返される。一方、ステップS18において、全空間の捜索が終了したことが判断されると、ビーム方向が捜索空間の最初の位置に戻される(ステップS19)。その後、シーケンスはステップS10に戻り、上述した処理が繰り返される。
【実施例2】
【0037】
本発明の実施例2に係る目標検出装置は、CFAR処理を実施するウェーブレット展開係数の選定方法として、2c=nを満足するウェーブレット展開係数Wcのみを用いるのではなく、ウェーブレット展開係数Wcの前後の複数(N個)のレベルのウェーブレット展開係数Wc+N/2〜Wc−N/2+1を用い、図9に示すように、N個のレベルのうち、少なくともM個のレベルで所定のスレッショルドレベルを越えた場合に、目標が検出された旨を表す検出信号を出力するようにしたものである。
【0038】
図8は、本発明の実施例2に係る目標検出装置の構成を示すブロック図である。この目標検出装置は、実施例1に係る目標検出装置から入力変換回路10が除去されるとともに、実施例1に係る目標検出装置の検出制御回路17が、検出制御回路18に置き換えられて構成されている。
【0039】
検出制御回路18は、1つのウェーブレット展開係数Wcを選定するのみならず、その前後のN個のレベルのウェーブレット展開係数Wc+N/2〜Wc−N/2+1を順次選定するような選定制御信号を発生し、展開係数選定回路12に送る。
【0040】
次に、本発明の実施例2に係る目標検出装置の詳細な動作を、図10に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0041】
レーダ装置による捜索が開始されると、まず、展開係数の変更が行われる(ステップS20)。すなわち、検出制御回路17は、選定制御信号を展開係数選定回路12に送ることによりウェーブレット展開係数のレベルを変更する。なお、検出制御回路17は、各ビームポジションに対する処理の初回は、ウェーブレット展開係数のレベルを初期値に設定する。
【0042】
次いで、離散ウェーブレット変換(DWT)が行われる(ステップS21)。ウェーブレット変換回路11は、入力されたデータに対して離散ウェーブレット変換を実施し、ウェーブレット展開係数を生成して展開係数選定回路12に送る。展開係数選定回路12は、検出制御回路17からの選定制御信号に応じて、ウェーブレット展開係数を選定し、CFAR回路13に送る。
【0043】
次いで、CFAR処理が行われる(ステップS22)。すなわち、CFAR回路13は、展開係数選定回路12から送られてくるウェーブレット展開係数に対してCFAR処理を実施し、検出器14に送る。次いで、目標信号の検出があるかどうかが調べられる(ステップS23)。すなわち、検出器14は、CFAR回路13から送られてくる信号を所定のスレッショルドレベルと比較する。この比較の結果、CFAR回路13から送られてくる信号が所定のスレッショルドレベルより大きければ「検出あり」と判断され、「検出あり」データ蓄積が行われる(ステップS24)。すなわち、検出器14は、「検出あり」と判断した場合は、「検出あり」を表すデータをデータ蓄積回路15に送る。一方、上記比較の結果、CFAR回路13から送られてくる信号が所定のスレッショルドレベル以下であれば「検出なし」と判断され、「検出なし」データ蓄積が行われる(ステップS25)。すなわち、検出器14は、「検出なし」と判断した場合は、「検出なし」を表すデータをデータ蓄積回路15に送る。
【0044】
次いで、N回の展開係数の変更が終了したかどうかが調べられる(ステップS26)。このステップS26において、終了していないことが判断されると、シーケンスはステップS20に戻り、上述した処理が繰り返される。一方、終了したことが判断されると、次いで、M/N検出が行われる(ステップS27)。具体的には、M/N検出回路16は、上記ステップS20〜S26の処理によってデータ蓄積回路15に蓄積されたデータを参照し、N個のデータのうちのM個以上が「検出あり」を表すデータである場合に、目標を検出した旨を表す検出信号を外部に出力する。
【0045】
次いで、全空間の捜索が終了したかどうかが調べられる(ステップS28)。このステップS18において、全空間の捜索が終了していないことが判断されると、シーケンスはステップS20に戻り、ビーム方向を次の方向に変更して上述した処理が繰り返される。一方、ステップS28において、全空間の捜索が終了したことが判断されると、ビーム方向が捜索空間の最初の位置に戻される(ステップS29)。その後、シーケンスはステップS20に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0046】
この実施例2に係る目標検出装置によれば、目標信号の信号幅が変動する場合や、信号幅が明確に既知でない場合に有効である。
【0047】
なお、上述した実施例1と実施例2とを組合せ、複数のウェーブレット展開係数の各々についてサンプリング位置を変更しながら目標を検出するように構成することができる。この構成によれば、目標の検出精度を向上させることができる。
【0048】
また、入力データをウェーブレット変換することにより得られたウェーブレット展開係数をCFAR処理して目標を検出するように構成したが、CFAR処理に限らず、例えば固定のスレッショルドレベルを用いて目標を検出する方法、その他の方法で目標を検出するように構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る目標検出装置は、レーダ装置や受信装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例1に係る目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図2】離散ウェーブレット変換のフィルタ特性を示す図である。
【図3】離散ウェーブレット変換においてウェーブレット展開係数が算出される様子を示す図である。
【図4】図1に示すCFAR回路の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施例1に係る目標検出装置における入力信号の変換を説明するための図である。
【図6】本発明の実施例1に係る目標検出装置において入力信号のサンプリング位置を変えた場合の時間−周波数フィルタと目標信号の関係を示す図である。
【図7】本発明の実施例1に係る目標検出装置の詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
【図8】本発明の実施例2に係る目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の実施例2に係る目標検出装置における目標検出の様子を説明するための図である。
【図10】本発明の実施例2に係る目標検出装置の詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
【図11】従来のウェーブレット変換を利用した目標検出装置を説明するための図である。
【符号の説明】
【0051】
10 入力変換回路
11 ウェーブレット変換回路
12 展開係数選定回路
13 CFAR回路
14 検出器
15 データ蓄積回路
16 M/N検出回路
17、18 検出制御回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標を捜索または追尾するレーダ装置や信号波形を観測する受信装置に適用されて目標を検出する目標検出装置に関し、特にウェーブレット変換を用いて目標を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は信号処理分野において、フーリエ変換や離散コサイン変換(DCT)に代えてウェーブレット変換がよく利用されている。ウェーブレット変換は、強度が局所的に分布する信号を効率良く処理できるため、画像処理や音声信号処理、さらにはレーダ装置におけるビデオ信号処理などといった種々の分野で応用されている。なお、ウェーブレット変換の詳細に関しては、例えば非特許文献1に記述されている。
【0003】
ところで、従来のレーダ装置に適用された目標検出装置において、瞬時にしか出現しない目標を表す目標信号を検出するためには、大きいSN比(信号電力対雑音電力比)が必要になるが、目標信号が小さい場合やレーダ装置のアンテナ利得が小さい場合にはSN比が小さく、目標信号を検出できないという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するために、ウェーブレット変換が信号の変化点に対する感度が高いことに着目し、ウェーブレット変換を利用して目標を検出するレーダ装置が知られている。図11は、このようなウェーブレット変換を利用した従来のレーダ装置の構成を示す図である。このレーダ装置は、ウェーブレット変換回路11、展開係数選定回路12、逆ウェーブレット変換回路60、CFAR回路13および検出器14から構成されている。
【0005】
このレーダ装置においては、ウェーブレット変換回路11において入力データをウェーブレット変換することにより生成された展開係数W1〜Wjは、展開係数選定回路12に送られる。展開係数選定回路12は、ノイズが含まれることが予想される展開係数成分を除去した展開係数を逆ウェーブレット変換回路60に送る。逆ウェーブレット変換回路60は、与えられた展開係数成分を再び周波数成分に戻し、CFAR(一定誤警報;Constant False Alarm Rate:)回路13に送る。CFAR回路13は、逆ウェーブレット変換回路60から送られてくる再変換後のデータを用いてCFAR処理を行い、検出器14に送る。検出器14は、CFAR回路13からの信号に基づき目標検出処理を実行し、検出した目標を表す検出信号を出力する。なお、CFAR回路13において行われるCFAR処理の詳細は、例えば非特許文献2に説明されている。
【非特許文献1】中野他著、“ウェーブレットによる信号処理と画像処理”、共立出版株式会社、pp.49−70、pp.101−110(1999)
【非特許文献2】関根著、“レーダ信号処理技術”、電子情報通信学会、pp.96−106(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したウェーブレット変換を利用した従来のレーダ装置では、受信した信号をウェーブレット変換し、ウェーブレット軸上で不要な成分を除去したのち再合成して時間軸上の信号に戻す。そして、この時間軸上の信号を所定のスレッショルドレベルと比較して目標の有無を判別する。したがって、ウェーブレット変換後の再合成処理が必須であり、回路構成や信号処理の規模が増大するという問題がある。
【0007】
本発明は、ウェーブレット変換を用いて目標を効率よく検出することができ、しかも、回路構成や信号処理の規模を小さくできる目標検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1の発明は、入力信号のサンプリング位置を指定する検出制御回路と、検出制御回路からの指定に応じてN個(Nは正の整数)の異なるサンプリング位置で入力信号をサンプリングしてN個の信号を出力する入力変換回路と、入力変換回路から出力されるN個の信号の各々に対してウェーブレット変換を行うウェーブレット変換回路と、入力信号に含まれる目標を表す信号の幅に応じて決定されたウェーブレット展開係数のレベルにおいて、ウェーブレット変換回路から出力されるN個のウェーブレット展開係数の各々が所定のスレッショルドレベルより大きいかどうかを検出する検出器と、検出器によって、N個のウェーブレット展開係数のうちのM個(Mは正の整数であり、N≧M)以上が所定のスレッショルドレベルより大きいことが検出された場合に、目標を検出した旨の検出信号を出力するM/N検出回路とを備えたことを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、入力信号に対してウェーブレット変換を行うウェーブレット変換回路と、入力信号に含まれる目標を表す信号の幅に応じて決定されたウェーブレット展開係数のレベルの前後のN個(Nは正の整数)のレベルの各々において、ウェーブレット変換回路から出力されるウェーブレット展開係数が所定のスレッショルドレベルより大きいかどうかを検出する検出器と、検出器によって、N個のレベルにおけるウェーブレット展開係数のうちのM個(Mは正の整数であり、N≧M)以上が所定のスレッショルドレベルより大きいことが検出された場合に、目標を検出した旨の検出信号を出力するM/N検出回路とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、ウェーブレット変換が信号の変化点に対する感度が高いことを利用して、ウェーブレット展開係数を用いて目標を検出するので、再合成処理が不要であり、回路構成および信号処理の規模を小さくすることができる。また、入力信号のサンプリング位置をずらしたN個の信号についてウェーブレット変換を実施し、そのうちのM個以上がスレッショルドレベルより大きければ目標を検出した旨の検出信号を出力するので、入力信号に含まれる目標信号の時間的な位置がウェーブレット展開係数の時間的な位置とマッチしていないことによるロスを解消でき、効率よく目標を検出することができる。
【0011】
また、第2の発明によれば、ウェーブレット変換が信号の変化点に対する感度が高いことを利用して、ウェーブレット展開係数を用いて目標を検出するので、再合成処理が不要であり、回路構成および信号処理の規模を小さくすることができる。また、入力信号に含まれる目標を表す信号の幅に応じて決定されたウェーブレット展開係数のレベルの前後のN個のレベルにおけるウェーブレット展開係数のうちのM個以上が所定のスレッショルドレベルより大きいことが検出された場合に、目標を検出した旨の検出信号を出力するので、効率よく目標を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下では、本発明に係る目標検出装置が捜索用のレーダ装置に適用された場合について説明する。また、以下の各実施例において、同一または相当する構成部分には同一の符号を付して説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の実施例1に係る目標検出装置の構成を示すブロック図である。この目標検出装置は、入力変換回路10、ウェーブレット変換回路11、展開係数選定回路12、CFAR回路13、検出器14、データ蓄積回路15、M/N検出回路16および検出制御回路17から構成されている。
【0014】
入力変換回路10には、図示しないアンテナを介してビームを送受信することにより得られた受信信号が、入力データfとして入力される。この入力データfとしては、送受信信号のレンジセル毎のデータやPRI(Pulse Repetition Interval:パルス繰返し間隔)毎のデータが用いられる。入力変換回路10は、検出制御回路17から送られてくるシフト制御信号に応じて入力データfをシフトし、ウェーブレット変換回路11に送る。
【0015】
ウェーブレット変換回路11は、入力変換回路10から送られてくる信号を入力データとし、この入力データに対して離散ウェーブレット変換を施す。ここで、ウェーブレット変換回路11への入力データを、複素信号f0(I+jQ)で表すと、離散ウェーブレット変換の対象となる信号fとしては、下式(1)〜(4)に示す4通りなどを考えることができる。
【数1】
【0016】
ここで、
I:実部
Q:虚部
j:虚数単位
ウェーブレット変換回路11は、このような信号fを入力データとして、離散ウェーブレット変換を実行し、複数のウェーブレット展開係数wkを求める。離散ウェーブレット変換は、図3(a)に示すような入力信号(原波形)をスケーリング係数とウェーブレット展開係数で近似するものである。スケーリング係数には複数のレベル1〜Jがあり、各レベルに応じて近似の程度が異なる。ウェーブレット展開係数は、スケーリング係数のレベル間における差に相当する。
【0017】
このような離散ウェーブレット変換は時間−周波数フィルタで表すことができる。図2は、離散ウェーブレット変換のフィルタ特性を示す図である。レベルの順に、周波数領域は、広域から低域へ遷移する。すなわち、高域においては短時間のフィルタ特性を持ち、低域に行くほど長時間のフィルタ特性を持つようになる。このフィルタ特性は、例えば非特許文献1に説明されているように、下式(5)〜(10)で表すことができる。
【数2】
【0018】
ここで、
fj:jレベルの近似関数(j=1〜J)
gj:jレベルの展開関数
sk:スケーリング展開係数(k=1〜K)
wk:ウェーブレット展開係数
φ :スケーリング関数
ψ :マザー・ウェーブレット関数
pk:マザー・ウェーブレット関数により決まる数列
* :複素共役
ここで、(9)式に示すwは、レベルjにおける近似関数と実際の波形との差分を表す成分であり、ウェーブレット展開係数を表す。ウェーブレット展開係数が算出される様子を図3に示す。このウェーブレット展開を用いると、少ないヒット数で、目標を表す信号を検出できるというメリットがある。ウェーブレット変換回路11において得られたウェーブレット展開係数は、展開係数選定回路12に送られる。
【0019】
展開係数選定回路12は、検出制御回路17から送られてくる選定制御信号に応じて、ウェーブレット変換回路11から送られてくるウェーブレット展開係数から所定のレベルの展開係数を選定し、CFAR回路13に送る。
【0020】
CFAR回路13は、展開係数選定回路12から送られてくる展開係数に対して、誤警報確率を一定の低さに抑えた信号を生成し、検出器14に送る。CFAR回路13において行われるCFAR処理の詳細は、例えば非特許文献2に説明されている。図4は、CFAR回路13の一例として、相加平均で規格化を行うリニアCFAR回路の構成を示すブロック図である。CFAR回路13は、遅延回路51、加算回路52、平均化処理回路53および除算回路54から構成されている。
【0021】
遅延回路51は、入力された信号xiを遅延させた後、加算回路52および除算回路54に送る。加算回路52は、一定期間に遅延回路51から送られてくるN個のデータを加算し、平均化処理回路53に送る。平均化処理回路53は、加算回路52から送られてくるN個のデータの平均値を算出し、除算回路54に送る。除算回路54は、遅延回路51から送られてくるデータを平均値で除算して出力する。なお、CFAR回路13は、相乗平均で規格化を行う対数CFAR回路によって実現することもできる。
【0022】
検出器14は、CFAR回路13から送られてくる信号を所定のスレッショルドレベルと比較し、その比較の結果、CFAR回路13から送られてくる信号が所定のスレッショルドレベルより大きければ「検出あり」を表すデータを、そうでなければ「検出なし」を表すデータをデータ蓄積回路15に送る。
【0023】
データ蓄積回路15は、検出器14から送られてくる「検出あり」を表すデータおよび「検出なし」を表すデータを順次記憶する。このデータ蓄積回路15に記憶されている内容は、M/N検出回路16によって参照される。
【0024】
M/N検出回路16は、データ蓄積回路15の内容を参照し、該データ蓄積回路15に記憶されているN個(Nは正の整数)のデータのうちのM個(Mは正の整数であり、N≧M)以上が「検出あり」を表すデータである場合に、目標を検出した旨を表す検出信号を出力する。
【0025】
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係る目標検出装置の動作を説明する。まず、概略の動作を説明する。
【0026】
上述したウェーブレット変換回路11におけるウェーブレット変換において、もし、入力信号(原波形)にノイズのような非定常な信号が含まれていれば、そのノイズはウェーブレット展開係数wに含まれる。そこで、入力信号からノイズを除去するために、図11に示す従来のレーダ装置では、入力信号を(5)〜(10)式で分解し、ウェーブレット展開係数wのうちノイズが含まれることが予想される成分を除去した上で、(5)〜(10)式によって再合成して、ノイズ等を除去した出力信号を得ている。
【0027】
これに対して、本発明に係る目標検出装置では、入力信号を分解した後のウェーブレット展開係数wに、検出対象である目標信号も含まれることに着目し、ウェーブレット展開係数wの軸で、所定のスレッショルドレベルと比較することにより目標信号を検出する。そのために、ウェーブレット展開係数wの軸で、CFAR処理を実施して、スレッショルドレベルを越えた信号を検出信号とする。
【0028】
この場合において、ウェーブレット展開係数Wcは、入力信号に含まれる目標を表す信号(目標信号)の幅をnとすると、2c=nを満足するcより決めることができるが、入力信号中の目標信号の位置によっては、このウェーブレット展開係数Wcの値が小さい場合がある。これを防ぐために、図5(a)および図5(b)に示すように、入力信号のサンプリング位置をシフトして変化させたN個のケースについて、ウェーブレット変換を実施し、ウェーブレット展開係数WcでCFAR処理を実施し、N個のケースのうちのM個のケ−ス(N≧M)がスレッショルドを越えた場合に目標が検出された旨を表す検出信号を出力する。
【0029】
図6は、入力信号のサンプリング位置を変えた場合のウェーブレット変換による時間−周波数フィルタと目標信号の関係を示す図である。図6(a)は、図5(a)に示す位置(シフトする前の位置)で入力信号をサンプリングした場合の目標信号を示し、目標信号(斜線で示す部分)がレベルW3にマッチしていない。これに対し、図6(b)は、図5(b)に示す位置(図5(a)に示すサンプリング位置をシフトした位置)で入力信号をサンプリングした場合の目標信号を示し、目標信号(斜線で示す部分)がレベルW3にマッチしている。このように、入力信号をシフトすることにより、目標信号が時間−周波数フィルタにマッチして、検出効率を上げることができることがわかる。
【0030】
次に、本発明の実施例1に係る目標検出装置の詳細な動作を、図7に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0031】
レーダ装置による捜索が開始されると、まず、サンプリング位置のシフトが行われる(ステップS10)。すなわち、検出制御回路17は、シフト制御信号を入力変換回路10に送ることによりサンプリング位置をシフトさせる。なお、検出制御回路17は、各ビームポジションに対する処理の1回目は、サンプリング位置を初期位置に設定する。これにより、入力変換回路10は、入力データを、検出制御回路17から送られてくるシフト制御信号に応じた位置でサンプリングし、ウェーブレット変換回路11に送る。
【0032】
次いで、離散ウェーブレット変換(DWT)が行われる(ステップS11)。ウェーブレット変換回路11は、入力されたデータに対して離散ウェーブレット変換を実施し、ウェーブレット展開係数を生成して展開係数選定回路12に送る。展開係数選定回路12は、検出制御回路17からの選定制御信号に応じて、目標信号の信号幅に応じたウェーブレット展開係数を選定し、CFAR回路13に送る。
【0033】
次いで、CFAR処理が行われる(ステップS12)。すなわち、CFAR回路13は、展開係数選定回路12から送られてくるウェーブレット展開係数に対してCFAR処理を実施し、検出器14に送る。次いで、目標信号の検出があるかどうかが調べられる(ステップS13)。すなわち、検出器14は、CFAR回路13から送られてくる信号を所定のスレッショルドレベルと比較する。この比較の結果、CFAR回路13から送られてくる信号が所定のスレッショルドレベルより大きければ「検出あり」と判断され、「検出あり」データ蓄積が行われる(ステップS14)。すなわち、検出器14は、「検出あり」と判断した場合は、「検出あり」を表すデータをデータ蓄積回路15に送る。
【0034】
一方、上記比較の結果、CFAR回路13から送られてくる信号が所定のスレッショルドレベル以下であれば「検出なし」と判断され、「検出なし」データ蓄積が行われる(ステップS15)。すなわち、検出器14は、「検出なし」と判断した場合は、「検出なし」を表すデータをデータ蓄積回路15に送る。
【0035】
次いで、N回のサンプリング位置のシフトが終了したかどうかが調べられる(ステップS16)。このステップS16において、終了していないことが判断されると、シーケンスはステップS10に戻り、上述した処理が繰り返される。一方、終了したことが判断されると、次いで、M/N検出が行われる(ステップS17)。具体的には、M/N検出回路16は、上記ステップS10〜S16の処理によってデータ蓄積回路15に蓄積されたデータを参照し、N個のデータのうちのM個以上が「検出あり」を表すデータである場合に、目標を検出した旨を表す検出信号を外部に出力する。
【0036】
次いで、全空間の捜索が終了したかどうかが調べられる(ステップS18)。このステップS18において、全空間の捜索が終了していないことが判断されると、シーケンスはステップS10に戻り、ビーム方向を次の方向に変更して上述した処理が繰り返される。一方、ステップS18において、全空間の捜索が終了したことが判断されると、ビーム方向が捜索空間の最初の位置に戻される(ステップS19)。その後、シーケンスはステップS10に戻り、上述した処理が繰り返される。
【実施例2】
【0037】
本発明の実施例2に係る目標検出装置は、CFAR処理を実施するウェーブレット展開係数の選定方法として、2c=nを満足するウェーブレット展開係数Wcのみを用いるのではなく、ウェーブレット展開係数Wcの前後の複数(N個)のレベルのウェーブレット展開係数Wc+N/2〜Wc−N/2+1を用い、図9に示すように、N個のレベルのうち、少なくともM個のレベルで所定のスレッショルドレベルを越えた場合に、目標が検出された旨を表す検出信号を出力するようにしたものである。
【0038】
図8は、本発明の実施例2に係る目標検出装置の構成を示すブロック図である。この目標検出装置は、実施例1に係る目標検出装置から入力変換回路10が除去されるとともに、実施例1に係る目標検出装置の検出制御回路17が、検出制御回路18に置き換えられて構成されている。
【0039】
検出制御回路18は、1つのウェーブレット展開係数Wcを選定するのみならず、その前後のN個のレベルのウェーブレット展開係数Wc+N/2〜Wc−N/2+1を順次選定するような選定制御信号を発生し、展開係数選定回路12に送る。
【0040】
次に、本発明の実施例2に係る目標検出装置の詳細な動作を、図10に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0041】
レーダ装置による捜索が開始されると、まず、展開係数の変更が行われる(ステップS20)。すなわち、検出制御回路17は、選定制御信号を展開係数選定回路12に送ることによりウェーブレット展開係数のレベルを変更する。なお、検出制御回路17は、各ビームポジションに対する処理の初回は、ウェーブレット展開係数のレベルを初期値に設定する。
【0042】
次いで、離散ウェーブレット変換(DWT)が行われる(ステップS21)。ウェーブレット変換回路11は、入力されたデータに対して離散ウェーブレット変換を実施し、ウェーブレット展開係数を生成して展開係数選定回路12に送る。展開係数選定回路12は、検出制御回路17からの選定制御信号に応じて、ウェーブレット展開係数を選定し、CFAR回路13に送る。
【0043】
次いで、CFAR処理が行われる(ステップS22)。すなわち、CFAR回路13は、展開係数選定回路12から送られてくるウェーブレット展開係数に対してCFAR処理を実施し、検出器14に送る。次いで、目標信号の検出があるかどうかが調べられる(ステップS23)。すなわち、検出器14は、CFAR回路13から送られてくる信号を所定のスレッショルドレベルと比較する。この比較の結果、CFAR回路13から送られてくる信号が所定のスレッショルドレベルより大きければ「検出あり」と判断され、「検出あり」データ蓄積が行われる(ステップS24)。すなわち、検出器14は、「検出あり」と判断した場合は、「検出あり」を表すデータをデータ蓄積回路15に送る。一方、上記比較の結果、CFAR回路13から送られてくる信号が所定のスレッショルドレベル以下であれば「検出なし」と判断され、「検出なし」データ蓄積が行われる(ステップS25)。すなわち、検出器14は、「検出なし」と判断した場合は、「検出なし」を表すデータをデータ蓄積回路15に送る。
【0044】
次いで、N回の展開係数の変更が終了したかどうかが調べられる(ステップS26)。このステップS26において、終了していないことが判断されると、シーケンスはステップS20に戻り、上述した処理が繰り返される。一方、終了したことが判断されると、次いで、M/N検出が行われる(ステップS27)。具体的には、M/N検出回路16は、上記ステップS20〜S26の処理によってデータ蓄積回路15に蓄積されたデータを参照し、N個のデータのうちのM個以上が「検出あり」を表すデータである場合に、目標を検出した旨を表す検出信号を外部に出力する。
【0045】
次いで、全空間の捜索が終了したかどうかが調べられる(ステップS28)。このステップS18において、全空間の捜索が終了していないことが判断されると、シーケンスはステップS20に戻り、ビーム方向を次の方向に変更して上述した処理が繰り返される。一方、ステップS28において、全空間の捜索が終了したことが判断されると、ビーム方向が捜索空間の最初の位置に戻される(ステップS29)。その後、シーケンスはステップS20に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0046】
この実施例2に係る目標検出装置によれば、目標信号の信号幅が変動する場合や、信号幅が明確に既知でない場合に有効である。
【0047】
なお、上述した実施例1と実施例2とを組合せ、複数のウェーブレット展開係数の各々についてサンプリング位置を変更しながら目標を検出するように構成することができる。この構成によれば、目標の検出精度を向上させることができる。
【0048】
また、入力データをウェーブレット変換することにより得られたウェーブレット展開係数をCFAR処理して目標を検出するように構成したが、CFAR処理に限らず、例えば固定のスレッショルドレベルを用いて目標を検出する方法、その他の方法で目標を検出するように構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る目標検出装置は、レーダ装置や受信装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例1に係る目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図2】離散ウェーブレット変換のフィルタ特性を示す図である。
【図3】離散ウェーブレット変換においてウェーブレット展開係数が算出される様子を示す図である。
【図4】図1に示すCFAR回路の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施例1に係る目標検出装置における入力信号の変換を説明するための図である。
【図6】本発明の実施例1に係る目標検出装置において入力信号のサンプリング位置を変えた場合の時間−周波数フィルタと目標信号の関係を示す図である。
【図7】本発明の実施例1に係る目標検出装置の詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
【図8】本発明の実施例2に係る目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の実施例2に係る目標検出装置における目標検出の様子を説明するための図である。
【図10】本発明の実施例2に係る目標検出装置の詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
【図11】従来のウェーブレット変換を利用した目標検出装置を説明するための図である。
【符号の説明】
【0051】
10 入力変換回路
11 ウェーブレット変換回路
12 展開係数選定回路
13 CFAR回路
14 検出器
15 データ蓄積回路
16 M/N検出回路
17、18 検出制御回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号のサンプリング位置を指定する検出制御回路と、
前記検出制御回路からの指定に応じてN個(Nは正の整数)の異なるサンプリング位置で前記入力信号をサンプリングしてN個の信号を出力する入力変換回路と、
前記入力変換回路から出力されるN個の信号の各々に対してウェーブレット変換を行うウェーブレット変換回路と、
前記入力信号に含まれる目標を表す信号の幅に応じて決定されたウェーブレット展開係数のレベルにおいて、前記ウェーブレット変換回路から出力されるN個のウェーブレット展開係数の各々が所定のスレッショルドレベルより大きいかどうかを検出する検出器と、
前記検出器によって、N個のウェーブレット展開係数のうちのM個(Mは正の整数であり、N≧M)以上が所定のスレッショルドレベルより大きいことが検出された場合に、目標を検出した旨の検出信号を出力するM/N検出回路と、
を備えたことを特徴とする目標検出装置。
【請求項2】
入力信号に対してウェーブレット変換を行うウェーブレット変換回路と、
前記入力信号に含まれる目標を表す信号の幅に応じて決定されたウェーブレット展開係数のレベルの前後のN個(Nは正の整数)のレベルの各々において、前記ウェーブレット変換回路から出力されるウェーブレット展開係数が所定のスレッショルドレベルより大きいかどうかを検出する検出器と、
前記検出器によって、N個のレベルにおけるウェーブレット展開係数のうちのM個(Mは正の整数であり、N≧M)以上が所定のスレッショルドレベルより大きいことが検出された場合に、目標を検出した旨の検出信号を出力するM/N検出回路と、
を備えたことを特徴とする目標検出装置。
【請求項1】
入力信号のサンプリング位置を指定する検出制御回路と、
前記検出制御回路からの指定に応じてN個(Nは正の整数)の異なるサンプリング位置で前記入力信号をサンプリングしてN個の信号を出力する入力変換回路と、
前記入力変換回路から出力されるN個の信号の各々に対してウェーブレット変換を行うウェーブレット変換回路と、
前記入力信号に含まれる目標を表す信号の幅に応じて決定されたウェーブレット展開係数のレベルにおいて、前記ウェーブレット変換回路から出力されるN個のウェーブレット展開係数の各々が所定のスレッショルドレベルより大きいかどうかを検出する検出器と、
前記検出器によって、N個のウェーブレット展開係数のうちのM個(Mは正の整数であり、N≧M)以上が所定のスレッショルドレベルより大きいことが検出された場合に、目標を検出した旨の検出信号を出力するM/N検出回路と、
を備えたことを特徴とする目標検出装置。
【請求項2】
入力信号に対してウェーブレット変換を行うウェーブレット変換回路と、
前記入力信号に含まれる目標を表す信号の幅に応じて決定されたウェーブレット展開係数のレベルの前後のN個(Nは正の整数)のレベルの各々において、前記ウェーブレット変換回路から出力されるウェーブレット展開係数が所定のスレッショルドレベルより大きいかどうかを検出する検出器と、
前記検出器によって、N個のレベルにおけるウェーブレット展開係数のうちのM個(Mは正の整数であり、N≧M)以上が所定のスレッショルドレベルより大きいことが検出された場合に、目標を検出した旨の検出信号を出力するM/N検出回路と、
を備えたことを特徴とする目標検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−47118(P2007−47118A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234368(P2005−234368)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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