説明

目的物質精製用タグおよび精製用タグを用いた目的物質の精製方法

【課題】本発明は、非特異吸着が少なく、取扱いが容易な大きさのペプチドからなる、目的物質精製用タグおよび該精製用タグを用いた精製方法を提供することを課題とする。
【解決手段】NHE1のCHPとの結合ドメインを含むペプチドを精製用タグとする。さらに該精製用タグを付加した目的物質をCHPと反応させて精製することにより、目的物質を効果的に精製しうる。例えば、NHE1のCHPとの結合ドメインを含むペプチドを精製用タグとし、精製用タグで標識した目的物質を含む試料を、少なくともCHP2の部分タンパク質を含む物質を担持する担体と接触させることによる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便かつ効率よく目的物質を精製するための新規精製用タグおよび該タグを用いた新規精製方法に関する。より詳しくは、Na+/H+交換輸送体(Na+/H+ Exchangers:NHE)が、Calcineurin B homologous protein(CHP)というCa2+結合タンパク質と強固に相互作用を有する性質を利用した、NHE1由来のペプチドによる精製用タグに関する。さらに、該精製用タグを所望の目的物質に標識し、CHP2の部分タンパク質を含む担体と相互作用させることにより、目的物質を精製するための精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ライフサイエンス研究は、いまやポストゲノム時代からポストストラクチャー時代に入っている。タンパク質の結晶構造解析あるいはプロテオーム解析などでは、タンパク質を大量に発現・精製することが、大変重要である。従来、このようなタンパク質の精製は、アフィニティタグが固定された担体を用い、目的物質とそれ以外の物質を含む液を接触させて担体に目的物質を吸着させて、液と担体を分離し、さらに担体から目的物質を脱離させることにより、目的物質を濃縮、精製する方法が知られている。
【0003】
上記アフィニティタグに使用可能なタグとして、例えばヒスチジン(His)タグ 、T7タグ、Sタグ、Nusタグ、HSVタグ、FLAGタグなどが挙げられる。特に代表的なものとしてヒスチジンタグ(以下、単に「Hisタグ」ともいう。)が挙げられる。
【0004】
Hisタグは、アミノ酸であるヒスチジンを連結したオリゴペプチドであり、Ni2+イオンなどに対して特異的な親和性があるため、目的タンパク質のN末端またはC末端に該Hisタグで標識して発現させ、ニッケル親和性カラムを用いて目的物質を精製する方法が一般的に広く行われてきた。しかし、該Hisタグを用いる精製法では、目的物質とするタンパク質の発現量が少ない場合、1回のカラム操作では精製することができず、その後数回のカラム操作が必要となることがしばしばである。また、該Hisタグを用いる精製法では、非特異的な吸着の問題もあった。該Hisタグにおいて、ヒスチジンとヒスチジンの間に他のアミノ酸またはアミノ酸誘導体を挟むことで、Ni2+イオンとより高い親和性が得られることを確認し、新規なタグおよび該タグを用いた精製方法について報告がある(特許文献1)。
【0005】
また、他のタグとして、例えばGST(グルタチオンS−トランスフェラーゼ)タグ、MBP(マルトース結合タンパク質)タグ等が挙げられる(特許文献2)が、これらのタグに使用されるタンパク質は大きすぎるため、取扱いが不便である。
【0006】
Na+/H+交換輸送体(Na+/H+ Exchangers:NHE)は、細胞内pH、Na+濃度、細胞容積の制御、および腎臓・小腸などの上皮細胞におけるNa+・HCO3-吸収に関わる主要な輸送体ファミリーである。NHEは、Calcineurin B homologous protein(CHP)というCa2+結合タンパク質と強固に相互作用を有する。決定されたCHP(CHP2アイソフォーム)とNHE(NHE1アイソフォーム)側の結合ドメインとの複合体の結晶構造については報告されている(非特許文献1)(図1参照)。しかし、これらのタンパク質または部分ペプチドを用いたタンパク質精製用タグの利用については、全く報告がない。
【特許文献1】特開2005-291836号公報
【特許文献2】特開2006-266919号公報
【非特許文献1】EMBO J. 25(11):2315-2325, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、非特異吸着が少なく、取扱いが容易な大きさのペプチドからなる、目的物質精製用タグおよび該精製用タグを用いた精製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、CHPとNHE側の結合ドメインとの結合性に着目し、NHE由来の部分ペプチドを目的物質精製用タグとし、さらに該精製用タグで標識した目的物質をCHPと反応させて精製することにより、目的物質を効果的に精製しうることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.NHE1の部分ペプチドからなる精製用タグ。
2.NHE1の部分ペプチドが、CHPとの結合ドメインを含む、前項1に記載の精製用タグ。
3.CHPとの結合ドメインが、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち第516−541位のアミノ酸に該当する部分である、前項2に記載の精製用タグ。
4.前項1〜3のいずれかに記載の精製用タグで標識した目的物質を含む試料を、少なくともCHP2の部分タンパク質を含む物質を担持する担体と接触させることによる、目的物質の精製方法。
5.以下の工程を含む目的物質の精製方法:
1)前項1〜3のいずれかに記載の精製用タグを目的物質に標識する工程;
2)前記精製用タグで標識した目的物質を含む試料を、少なくともCHP2の部分タンパク質を含む物質を担持する担体と接触させる工程;
3)前記接触させる工程において、Ca2+の存在下で、試料と担体とを相互作用させる工程;
4)前記相互作用させた後に、Ca2+の非存在下で、目的物質を溶出する工程。
6.CHP2の部分タンパク質が、CHP2のC末端から1〜10個のアミノ酸残基が欠失されているタンパク質である、前項4または5に記載の精製方法。
7.少なくともCHP2の部分タンパク質を含む物質が、CHP2の部分タンパク質とNHE1の部分ペプチドの一部のアミノ酸を変異させたペプチドを結合して構成される物質である、前項4〜6にいずれかに記載の精製方法。
8.NHE1の部分ペプチドが、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち第516−541位のアミノ酸に該当する部分を含むペプチドであり、該ペプチドの一部のアミノ酸の変異が、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち第534位のアミノ酸の変異である、前項7に記載の精製方法。
9.NHE1の部分ペプチドの一部のアミノ酸の変異が、イソロイシンからリジンに変異されていることを特徴とする前項8に記載の精製方法。
10.前項4〜9のいずれかに記載の精製方法に使用し、前記精製方法において使用する担体に担持する物質であり、CHP2の部分タンパク質とNHE1の部分ペプチドの一部のアミノ酸を変異したペプチドを結合して構成されることを特徴とする融合タンパク質。
11.CHP2のC末端から1〜10個のアミノ酸残基が欠失されているタンパク質と、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち第516−541位のアミノ酸に該当する部分を含むペプチド、を含む融合タンパク質であり、該ペプチドの一部のアミノ酸の変異が、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち第534位のアミノ酸がイソロイシンからリジンへ変異されていることを特徴とする融合タンパク質。
12.前項1〜3のいずれかに記載の精製用タグを含む目的物質の精製、濃縮および/または検出用キット。
13.さらに、前項10もしくは11に記載の融合タンパク質または該融合タンパク質を担持する担体を含む、前項12に記載のキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明の精製用タグは、NHE1由来であり、本発明の精製方法に用いられるCHP2と強い相互作用を有するため、非特異吸着反応が軽減化される。本発明の精製方法に用いられるCHP2に、さらにNHE1の部分ペプチドの一部のアミノ酸を変異したペプチドを結合させることによって、CHP2の構造変化により、目的物質を溶出することができる。
【0011】
NHE1とCHP2は、Ca2+の存在により相互作用を有するので、精製用タグで標識した目的物質を、少なくともCHP2の部分タンパク質を含む物質を担持する担体と接触させ、Ca2+を含む緩衝液を用いて洗浄した後にCa2+を除去することで、目的物質を溶出することができる。
【0012】
本発明の精製用タグを使用することにより、目的物質として、タンパク質、ペプチド、核酸等を精製するのみならず、これらを濃縮や検出することができる。また、生体中に微量しか存在しない、特定タンパク質の検出や選択的濃縮を効率的に行うことができる。特に本発明の精製用タグに蛍光物質、ラジオアイソトープ等の標識物質を付加することで、複雑な試料中に存在する微量の目的物質を濃縮して、高感度に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の精製用タグは、NHE1の部分ペプチドからなる。ここにおいて、NHE1をコードする遺伝子は、例えばGenBank Accession No. NM_003047(配列番号1)に示され、NHE1は配列番号1および2に示される815個のアミノ酸配列からなる。本発明の精製用タグに使用するNHE1の部分ペプチドは、NHE1を構成するアミノ酸配列のうち、CHP2に結合しうる部分を含んでいればよく、特に限定されない。NHE1の部分ペプチドは、例えばCHPとの結合ドメインを含むものであればよい。また、CHP2と結合するのであれば、NHE1におけるCHPとの結合ドメインのアミノ酸配列は、1〜複数個のアミノ酸を、置換、欠失、挿入または付加したものであってもよい。さらに、CHP2と相互作用を有するのであれば、精製用タグを構成するアミノ酸は、人工的に作製されたアミノ酸誘導体を含んでいても良い。
【0014】
本発明の精製用タグに含まれるCHPとの結合ドメインのアミノ酸配列は、具体的には配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、第516−541位のアミノ酸に該当する部分であり、26残基のアミノ酸から構成される(配列番号3)。精製用タグとしては、CHP2と相互作用を有するのであれば、前記具体的なアミノ酸配列から、1〜複数個のアミノ酸を、置換、欠失、挿入または付加したものであってもよい。さらに、CHP2と相互作用を有するのであれば、人工的に作製されたアミノ酸誘導体を含んでいても良い。
【0015】
本発明は、上記の精製用タグを用いた目的物質の精製方法にも及ぶ。ここで、目的物質としては特に限定されないが、好適にはタンパク質、ペプチド、核酸等が挙げられ、より好適には微生物、培養細胞やトランスジェニック動物等で発現させたタンパク質、ペプチド、核酸等を挙げることができる。
【0016】
本発明の目的物質の精製方法は、上記の精製用タグで標識した目的物質を、少なくともCHP2の部分タンパク質を含む物質を担持する担体と接触させることによる。ここにおいてCHP2は、例えばGenBank Accession No. O43745(配列番号4)に示さる196個のアミノ酸配列からなる。
【0017】
目的物質の具体的な精製方法として、以下の工程を含む方法が例示される(図5参照)。以下の精製工程において、試料と担体の接触はバッチ法またはカラム法のいずれを採用してもよく、処理する試料の性質や量に応じて、適宜選択することができる。
1)上記精製用タグを目的物質に標識する工程;
2)前記精製用タグで標識した目的物質を含む試料を、少なくともCHP2の部分タンパク質を含む物質を担持する担体と接触させる工程;
3)前記接触させる工程において、Ca2+の存在下で、試料と担体とを相互作用させる工程;
4)前記相互作用させた後に、Ca2+の非存在下で、目的物質を溶出する工程。
【0018】
ここにおいて、少なくともCHP2の部分タンパク質を含む物質は、CHP2やその部分タンパク質そのものであっても良いし、CHP2やその部分タンパク質に、ペプチドや化合物などを付加したものであってもよい。CHP2の部分タンパク質は、例えばCHP2のC末端から1〜10個のアミノ酸残基が欠失されているタンパク質が挙げられ、好適には10個のアミノ酸残基が欠失されているタンパク質が挙げられる。
【0019】
CHP2は、構造上の特徴である疎水性の溝を有するため、取扱いが困難であった(図1B参照)。例えば大腸菌等の微生物でCHP2を発現させたときに、発現タンパク質の精製過程で、その疎水性の溝のために微生物由来のタンパク質とCHP2が凝集してしまい、精製が困難であった。そこで、CHP2やその部分タンパク質に付加するものは、CHP2に存在する該疎水性溝を埋めるものであれば良く、そのような物質であれば、ペプチドや化合物等、特に限定されない。
【0020】
上記付加するものは、例えばNHE1由来のペプチドが挙げられる。しかしながら、NHE1由来ペプチドそのものは、CHP2に存在する該疎水性溝を埋めることができるものの、NHE1由来ペプチドとCHP2の親和性が高いために、本発明の精製用タグを精製に用いることができない。そこで、精製用タグよりも親和性が低く、かつCHP2に存在する該疎水性溝を埋めることができるものが好適である。そのようなものとしてCHP2と相互作用を有するNHE1由来のペプチドで、一部のアミノ酸を置換、欠失、導入および/または付加等したNHE1の部分ペプチド、すなわち一部のアミノ酸を変異させたNHE1の部分ペプチドで、精製用タグよりも親和性の低いものに改変したものが挙げられる。具体的には、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち第516−541位のアミノ酸に該当する部分を含むペプチドにおいて、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち第534位のアミノ酸を変異させたものが挙げられる。アミノ酸の変異は、具体的にはイソロイシンからリジンへ変異されているものが好適である。
【0021】
CHP2やその部分タンパク質に上記のペプチド等を付加することにより、担体に担持するCHP2の部分タンパク質を含む物質を容易に発現、精製することができる。さらに、CHP2の部分タンパク質を含む物質を担持する担体を用いて目的物質を精製する際にも、CHP2やその部分タンパク質に上記のペプチド等を付加することにより、CHP2の構造変化がなされ、目的物質が溶出される。
【0022】
CHP2やその部分タンパク質に上述のペプチドや化合物を付加する際に、CHP2とペプチドまたは化合物の間に適当なリンカーを設けても良い(図2参照)。例えば、3残基のグリシンが挙げられる。さらに、部分タンパク質に上述のペプチドを付加した融合タンパク質を大腸菌等の微生物で発現させた場合の精製を容易にするために、融合タンパク質を本発明の精製用タグとは異なる精製用タグで標識することができる。一般的なものとして、Hisタグ 、T7タグ、Sタグ、Nusタグ、GSTタグ、MBPタグ、HSVタグ、FLAGタグなどを挙げることができ、特に代表的なものとしてHisタグが挙げられる。
【0023】
本発明は、担体に担持される物質、すなわち上記の融合タンパク質も含まれる(図3参照)。また、担体としては、タンパク質等の精製や濃縮に用いられる自体公知の担体が挙げられ、具体的にはセルロース、アガロース、ラテックス、磁気ビーズなどの固相担体が挙げられる。また、目的物質の精製や濃縮の目的以外に適用する場合、例えば目的物質の検出の場合には、固相プレートに本発明の融合タンパク質を固定することで、精製用タグで標識した目的物質を検出することができる。固相担体の大きさや量は、目的物質の性質、量や、あるいは精製や検出等の目的により適宜選択することができる。
【0024】
本発明は、上記精製用タグを含む目的物質の精製、濃縮および/または検出用キットも含まれる。さらに、キットの構成物として、本発明の融合タンパク質または該融合タンパク質を担持した担体を含んでいても良い。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の理解を深めるために実施例により本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではないことはいうまでもない。
【0026】
(実施例1)精製用タグ
NHE1タンパク質を構成するアミノ酸配列は、GenBank Accession No. NM_003047(配列番号2)に示される。本実施例において、精製用タグとして、以下の配列番号5に示すペプチドを精製しようとする目的タンパク質のC末端に付加した。具体的には、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち、第516−541位に示されるCHP2結合領域である26個のアミノ酸残基(配列番号3)を含む、第516−545位の領域からなるペプチドである。
RSINEEIHTQFLDHLLTGIEDIAGHYGHHH(配列番号5)
【0027】
(実施例2)精製用タグで標識したGFPタンパク質発現用大腸菌の構築
ヒトNHE1遺伝子はヒトcDNAライブラリーからクローニングした。ベクターpEGFP-C1を用いて、PCR法により、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるペプチドをコードするオリゴヌクレオチドを、GFPタンパク質をコードする遺伝子のC末端側に結合し、さらに全体を大腸菌発現用ベクターpET11aにクローニングした。また、対照コントロール(比較例)として、本発明の精製用タグのかわりに、6残基のヒスチジンを結合したGFPについても同様に、pET11aを用いて構築した。
【0028】
(実施例3)融合タンパク質のコンストラクションと精製
本実施例では、精製用担体に担持するCHP2−NHE1ペプチド融合タンパク質のコンストラクションと該融合タンパク質の大腸菌からの精製について説明する。
【0029】
ヒトCHP2遺伝子およびヒトNHE1遺伝子はヒトcDNAライブラリーからクローニングした。プラスミドコンストラクションは、これらのcDNAをテンプレートにして、PCR法により行った。具体的には、配列番号5に示すヒトCHP2(196アミノ酸残基)のうちC末端側の10残基を欠失させ、リンカーとしてグリシン(3残基)をつなぎ、配列番号2のうち第516−542位に示される27個のアミノ酸残基のうち、配列番号2の第534位のアミノ酸をイソロイシンからリジンに変異導入(Ile534→Lys)したペプチド(配列番号6、図2参照)とを含む融合タンパク質(配列番号7、図2参照)にHisタグ(ヒスチジン6残基)を標識したタンパク質をコードするDNAを作製し、常法に従いpET11aへ導入した。このプラスミドを導入した大腸菌を培養し、IPTG(isopropyl thio-β-galactoside) の添加により、18℃で上記融合タンパク質を誘導し、発現させた。融合タンパク質を含む可溶性画分をニッケル親和性樹脂に結合させ、pH4.7の低いpH溶液により非特異的吸着タンパク質を除いた後、イミダゾールを含む溶液で融合タンパク質を溶出し、精製した(図3、4)。
【0030】
(実施例4)親和性樹脂の作製
本実施例では、実施例3で作製した融合タンパク質を、精製用担体に担持した親和性樹脂の作製について説明する。
【0031】
常法に従い、実施例3で作製したCHP2−NHE1ペプチド融合タンパク質(100mg)をCNBr−活性化セファロース(2g)に結合させ、親和性樹脂を作製した。
【0032】
(実施例5)親和性樹脂を用いた目的物質の精製
本実施例では、実施例4で作製した親和性樹脂を用いて、実施例2で構築したコンストラクションにより産生した精製用タグで標識したGFPタンパク質および対照コントロールを精製した。
【0033】
実施例2で構築した精製用タグで標識したGFPタンパク質および対照コントロール発現用大腸菌100mlを、吸光度OD600が約1.0になるまで37℃で培養し、1mMのIPTGを加えて18℃でさらに一晩培養した。培養液を遠心分離して大腸菌を回収し、10mlのPBS溶液を加えて10分間超音波処理し、菌体を破壊した。さらに遠心分離により得られた上清を試料とした。
【0034】
得られた試料を上記親和性樹脂100μlに加え、4℃で2時間インキュベーションした後、親和性樹脂を1.5mlのチューブに回収した。回収した親和性樹脂を、1mlのPBS溶液を用いて5回洗浄した。なお、本実施例で用いる親和性樹脂におけるCHP2のCa2+の親和性は、K=2nMであり、試料に含まれる少量のCa2+濃度(1μM程度)で、精製用タグとCHP2の相互作用が十分維持できる。従って、本実施例では精製用タグとCHP2の相互作用のために、新たにCa2+を加えた緩衝液を用いる必要はなかった。本実施例ではバッチ法を採用したが、図5に示すカラム法により精製することもできる。
【0035】
試料と親和性樹脂を相互作用させた後、PBS溶液を廃棄し、50mMのEGTAを含むPBS溶液を0.5ml加え、4℃で1時間インキュベートした。その結果、溶出液中に精製用タグ(NHEタグ)で標識した蛍光標識されたGFPタンパク質が確認された(図6)。対照コントロールは、Hisタグで標識したGFPタンパク質を、Ni2+カラムで精製した。本発明の精製用タグで標識したGFPタンパク質および対照コントロールのHisタグで標識したGFPタンパク質をSDS−PAGEにより分析した結果、対照コントロールにくらべ、精製用タグ(NHEタグ)で標識したGFPタンパク質は明らかに非特異反応が低く、高度に精製されていることが確認された(図7)。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上説明したように、本発明の精製用タグは多くの応用が可能である。例えば大腸菌等の微生物のみならず、培養細胞やトランスジェニック動物で発現した目的物質である目的タンパク質を精製するのみならず、既知のタンパク質の新規結合タンパク質を網羅的に解析するような場合にも応用することができる。
【0037】
本発明の精製用タグを使用することにより、タンパク質、ペプチド、核酸等の目的物質を精製するのみならず、濃縮や検出することもできる。また、生体中に微量しか存在しない、特定タンパク質の検出や選択的濃縮を効率的に行うことができる。特に、本発明の精製用タグに蛍光物質、ラジオアイソトープなどの標識物質を付加することにより、複雑な試料中に存在する微量の目的物質を濃縮して、高感度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(A)動物細胞NHE1と必須サブユニットCHPの相互作用を示す図である。(B)CHP2とNHE1側の結合ドメイン複合体の結晶構造を示す図である。NHE1ペプチドは、CHP2の疎水性の溝に充填されている様子が示されている。
【図2】CHP2とNHE1ペプチドとの融合タンパク質のコンストラクションを示す図である。CHP2のC末端のアミノ酸10残基を除去し、3残基のグリシンをリンカーとして加えた後、ヒトNHE1(配列番号2)のアミノ酸残基第516−542位部分のペプチドを加え、さらにC末端にHisタグ(6残基のヒスチジン)で標識した。さらに、CHP2とNHE1との相互作用を弱めるために、第534位のイソロイシンをリジンに置換した。
【図3】CHP2とNHE1ペプチドとの融合タンパク質の立体構造を示す図である(一部はモデル)。
【図4】CHP2とNHE1ペプチドとの融合タンパク質を大腸菌で発現したものを精製した後にSDS−PAGEにより電気泳動した結果を示す図である。
【図5】GFPタンパク質を目的物質としたときの本発明の精製方法を示す図である。(実施例5)
【図6】GFPタンパク質を本発明の精製方法により精製したときに得られた精製物を示す図である。GFPが濃縮、精製され蛍光を発している。
【図7】本発明の精製用タグ(NHE1タグ)と対照コントロール(Hisタグ)で標識したGFPタンパク質を精製したときの精製した後にSDS−PAGEにより電気泳動した結果を示す図である。(実施例6)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NHE1の部分ペプチドからなる精製用タグ。
【請求項2】
NHE1の部分ペプチドが、CHPとの結合ドメインを含む、請求項1に記載の精製用タグ。
【請求項3】
CHPとの結合ドメインが、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち第516−541位のアミノ酸に該当する部分である、請求項2に記載の精製用タグ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の精製用タグで標識した目的物質を含む試料を、少なくともCHP2の部分タンパク質を含む物質を担持する担体と接触させることによる、目的物質の精製方法。
【請求項5】
以下の工程を含む目的物質の精製方法:
1)請求項1〜3のいずれかに記載の精製用タグを目的物質に標識する工程;
2)前記精製用タグで標識した目的物質を含む試料を、少なくともCHP2の部分タンパク質を含む物質を担持する担体と接触させる工程;
3)前記接触させる工程において、Ca2+の存在下で、試料と担体とを相互作用させる工程;
4)前記相互作用させた後に、Ca2+の非存在下で、目的物質を溶出する工程。
【請求項6】
CHP2の部分タンパク質が、CHP2のC末端から1〜10個のアミノ酸残基が欠失されているタンパク質である、請求項4または5に記載の精製方法。
【請求項7】
少なくともCHP2の部分タンパク質を含む物質が、CHP2の部分タンパク質とNHE1の部分ペプチドの一部のアミノ酸を変異させたペプチドを結合して構成される物質である、請求項4〜6にいずれかに記載の精製方法。
【請求項8】
NHE1の部分ペプチドが、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち第516−541位のアミノ酸に該当する部分を含むペプチドであり、該ペプチドのアミノ酸変異が、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち第534位のアミノ酸の変異である、請求項7に記載の精製方法。
【請求項9】
NHE1の部分ペプチドのアミノ酸変異が、イソロイシンからリジンに変異されていることを特徴とする請求項8に記載の精製方法。
【請求項10】
請求項4〜9のいずれかに記載の精製方法に使用し、前記精製方法において使用する担体に担持する物質であり、CHP2の部分タンパク質とNHE1の部分ペプチドの一部のアミノ酸を変異したペプチドを結合して構成されることを特徴とする融合タンパク質。
【請求項11】
CHP2のC末端から1〜10個のアミノ酸残基が欠失されているタンパク質と、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち第516−541位のアミノ酸に該当する部分を含むペプチド、を含む融合タンパク質であり、該ペプチドの一部のアミノ酸の変異が、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち第534位のアミノ酸がイソロイシンからリジンへ変異されていることを特徴とする融合タンパク質。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれかに記載の精製用タグを含む目的物質の精製、濃縮および/または検出用キット。
【請求項13】
さらに、請求項10もしくは11に記載の融合タンパク質または該融合タンパク質を担持する担体を含む、請求項12に記載のキット。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−285428(P2008−285428A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130239(P2007−130239)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】