直列連鎖システムにおける未知動作を予測するシステムおよびその方法
【課題】 セグメントについての運動学データを予測する方法を提供する。
【解決手段】 本方法は、オリジナルの運動学データを少なくとも使って補正加速度を決定するステップと、補正加速度を少なくとも使ってセグメントの関節についての関節負荷を算定するステップと、1つ以上の補正パラメータに基づいてセグメントについて運動学データを予測するステップからなる。これにより、本発明の各種実施形態は未知の動作を予測できる特長を有する。
【解決手段】 本方法は、オリジナルの運動学データを少なくとも使って補正加速度を決定するステップと、補正加速度を少なくとも使ってセグメントの関節についての関節負荷を算定するステップと、1つ以上の補正パラメータに基づいてセグメントについて運動学データを予測するステップからなる。これにより、本発明の各種実施形態は未知の動作を予測できる特長を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、米国特許法第119条第e項に基づく米国特許仮出願番号第60/301,891(出願日:2001年6月29日)および米国特許仮出願番号第60/353,378号(出願日:2002年1月31日)を基礎とする米国特許一部継続出願番号第10/151,647号(出願日:2002年5月16日)の利益を請求するものであり、前記出願のすべての記載をここに引用するものである。本願は、米国特許出願番号第 11/038,692 号(出願日:2005年1月19日)発明の名称:「A System and Method of Estimating Joint Loads in a Three-Dimensional System」に関連するものであり、この出願のすべての記載をここに引用するものである。さらに、本願は、米国特許出願番号第 11/038,978 号(出願日:2005年1月19日)発明の名称:「A System and Method of Estimating Joint Loads Using an Approach of Closed Form Dynamics」に関連するものであり、この出願のすべての記載をここに引用するものである。
【0002】
本発明は人体動作の解析および合成に関する。また、本発明は、力学系の動作に関する知識を用いて、関節に付与される力とモーメントを決定する逆動力学的解析に関する。さらに、本発明は、付与された力の結果としてのバイオメカニカル・システム(biomechanical system)の動作を提供する順動力学的解析に関する。さらに、本発明は、軌道追従制御に関する課題として内力および内モーメントの算定を公式化するような、人体動作の解析および合成に関する制御理論的手法に関する。
【背景技術】
【0003】
神経筋肉システムの研究は、主に、人体動作の合成や解析に関する(DeIp および Loan著、 「A Computational Framework for Simulating and Analyzing Human and Animal Movement」 IEEE Computing in Science and Engineering, 2(5): P46−55、2000年; Thelen、 Anderson および DeIp著, 「Generating Dynamic Simulations of Movement Using Computed Muscle Control」、 Journal of Biomechanics、 P36、P321−328、2003年 なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する)。合成についての課題、つまり、順動力学的解析は、付与された力と与えられた初期状態の結果としてのバイオメカニカル・システムの動作を提供しようとするものである。解析、つまり、逆動力学の課題は、合成の課題とは逆のものであり、従来においては、関節力や関節モーメントを算出するために用いられている。関節に付与される1つ以上の力やモーメントは関節負荷と呼ばれる。
【0004】
従来の逆動力学的解析では、関節力と関節モーメントをセグメントの動作の観察から算出する。人体関節の内力は容易に測定できない理由から、従来、バイオメカニカルな課題には逆動力学的解析が適用されている。しかしながら、セグメントの動きを測定し、測定した変位から関節角度を推論することで、当該の関節の力とトルクを決定することができる。したがって、逆動力学的解析は、各関節のトルクと筋肉活動の総和について洞察を得るために用いられる従来の方法である。
【0005】
逆動力学を人体動作の研究に利用する上で大きな課題となるのは、関節の力とモーメントの算出で用いられる高次導関数の演算時に起こる誤差である。バイオメカニックス分野において逆動力学の概念を用いる方法は、入力信号にノイズが無くダイナミックモデルが完全な場合において研究が進んでいる。しかし、実験観察においてはノイズが混在し、その影響を受けるものである。ノイズ源には測定装置や関節自体が含まれる。関節の力とモーメントを算出する逆動力学的手法では、ノイズの影響を受けた実験データを使って高次導関数を演算する必要があり、しばしば誤差を生じさせる作業としてよく知られている(Cullum,著、「Numerical Differentiation and Regularization」、 SIAM J. Numer. Anal.、 8(2):P254−265、 1971年 なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する)。具体的には、三次元セグメントの角加速度はその関節角の二次導関数であり、三次元セグメントの直線加速度はその重心点座標の二次導関数である。
【0006】
そして、実験観察での数値微分によりノイズが増幅される。高周波ノイズの存在は、速度と加速度の計算に関する課題を考慮する際に非常に重要になる。ノイズを含んだ入力信号を微分すると、各高調波の振幅がその高調波次数に応じて増幅される。また、入力信号を微分すると、速度信号が線的に増幅される一方で、高周波次数の二乗に比例して加速度が増加する。例えば、高周波ノイズωを含んだ信号の二階導関数は、ω2 の周波数成分の信号になる。このような放射ノイズの増幅は、関節力と関節モーメントの算定誤差に帰結するのである。
【0007】
高次導関数の算定に数値的手法を用いることは可能であるが、バイオメカニカルなデータを除去する最適な解法や自動的な方法もないことから、信頼できる結果が得られる場合は限られる(Giakas および Baltzopoulos著、 「Optimal Digital Filtering Requires a Different Cut-Off Frequency Strategy for the Determination of the Higher Derivatives」、 Journal of Biomechanics, 30(8):P851−855、 1997年。 なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。)ノイズを除去する技術はあるものの、バイオメカニカルなデータの真の信号をノイズから分離するには、大量の解析が必要となるため、ノイズ除去は困難であり時間がかかる。例えば、高周波の誤差を低減するには、通常、ローパスフィルタを用いる。
【0008】
そこで、従来の逆動力学解析を用いて誤差なく関節力と関節モーメントを算定する最適なアプローチが提案されている(Chao および Rim著、「Application of Optimization Principles in Determining the Applied Moments in Human Leg Joints during Gait」、 J. Biomechanics、 6:P497−510、1973年。 なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する)。最適化手法では、逆動力学で必要な数値微分を必要としない。しかしながら、収束と安定性が保証されていない、コンピュータ処理にコストがかかる、一般に実装するには複雑すぎる、といった理由から最適化ソリューションの適用は限定的である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
人体動作の解析に逆動力学を用いる別の問題点としては、逆動力学的手法は未知の動作を予測する能力を備えていないことがあげられ、これは臨床応用において遭遇する典型的な問題である。逆動力学では、力とモーメントは観察した反応に基づいて算出される。一方、未知動作の予測には、力とモーメントを付加することで予測される反応を算出することが必要である。逆動力学解析は力とモーメントを算出するのであって、力とモーメントを付与して期待する反応を算出するのではないため、予測する能力を備えていない。
【0010】
運動学データのみを扱うような逆動力学的解析法(inverse dynamics procedures)でさらに問題となるのは、全身の解法(whole-body solution)を利用する場合である。上半身の物理的なパラメータや外的負荷の影響を含む上半身のパラメトリックな不確かさは、閉形式や全身の動力学的解析法(whole body dynamic procedures)を用いて関節の力とモーメントを算定する際には大きな誤差要因となる。
【0011】
したがって、三次元体の場合に、ノイズを含んだ運動学的データを用いて高次導関数を算出する場合でも誤差を生じさせないような、関節負荷を算定するシステムと方法が大いに必要となる。さらに、閉形式あるいは全身解析を必ずしも必要としないような、関節の力とモーメントを算定するシステムと方法も必要となる。同時に、付加された力の結果としての人体動作を予測するようなシステムと方法も強く求められる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態の1つによれば、セグメントの関節における関節負荷を算定する方法を提供する。この方法は、運動学データを受けるステップと、少なくとも運動学データを使って補正加速度を決定するステップと、少なくとも補正加速度を使って関節負荷を算定するステップと、少なくとも関節負荷を使ってセグメントについてシミュレーション運動学データを決定するステップとからなる。これにより、本発明は、安定性があり、収束性が保証され、演算効率がよく、加速度の演算を必要としない関節負荷の算定を実現するような順動力学的解法を提供することにより、従来の逆動力学的解析における課題を解決しようとするものである。
【0013】
本発明の実施形態の1つによれば、セグメントについてシミュレーション運動学データを予測する方法を提供する。この方法は、少なくともオリジナル運動学データを使って補正加速度を決定するステップと、少なくとも補正加速度を使って前記セグメントの関節について関節負荷を算定するステップと、1つ以上の補正パラメータに基づいて前記セグメントの運動学データを予測するステップとからなる。従って、本発明の1つの実施形態は、未知の動作を予測することができる特徴を有する。
【0014】
1つの実施形態によれば、補正加速度を、実測の運動学データと前回のシミュレーション運動学データとの差を示す1つ以上の誤差値を使って演算してもよい。誤差値をゼロにするためにフィードバックゲインを与える。このため、本発明は、ノイズを多く含んだ高次導関数の演算を必要とせずに補正加速度が算定できるという特長を有しており、これにより、高次導関数による誤差を発生させることなく、関節負荷の算定や予測が可能となる。
【0015】
さらに別の実施形態によれば、関節負荷を算定するステップには、三次元システムの連続する関節における関節負荷を繰り返し算定することを含む。本発明の反復の実施形態は、閉連鎖システムとともに開連鎖システムについても適用可能である。このため、本発明は、閉形式あるいは全身の動力学的手法を使って関節の力とモーメントを算定する間に発生するマラメトリックな不確かさによる誤差をなくすような特長を有する。また、別の実施形態によれば、関節負荷を算定するステップには、閉形式の動力学的手法を使って関節負荷を算定することが含まれる。本発明の閉形式に係わる実施形態は、閉連鎖システムとともに開連鎖システムにも適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係わる各種実施形態によれば、多次元システムにおける関節の負荷を算定する方法、例えば、人体の関節負荷の算定方法を提供する。また、本発明に係わる各種実施形態によれば、人体の動きの予測など、動きを予測する方法を提供する。
【0017】
本発明に係わる各種実施形態には、関節負荷をセグメントごとに繰り返し算定する反復の動力学(recursive dynamics)も含まれる。さらに、すべての関節負荷を同時に算定する閉形式の動力学(closed form dynamics)も含まれる。例えば、反復に関する実施形態と閉形式に関する実施形態の選択は、利用可能なセンサや本発明の用途に応じて決定してもよい。
【0018】
本発明の実施形態には、開鎖システムおよび閉鎖システムが含まれる。開鎖システムにおいては、多体システムの多くとも1つの端部が環境と接触する。その他の端部は自由であるか、もしくは拘束を受けない。閉鎖システムにおいては、1つ以上の端部が環境と接触する。
【0019】
さらに、本発明は、各種の感知様式を用いて実施してもよい。例えば、ある感知様式では、運動学的な測定のみが利用可能である。また、他の感知様式では、運動学的な測定と反力の測定の両方が利用可能である。
【0020】
I.反復動力学に関する実施形態
1つの実施形態によれば、関節負荷を繰り返し算定して、三次元直列連鎖(three-dimensional serial chain)を求める。直列連鎖システムには、関節で互いに接続される1つ以上のセグメントが含まれ、さらに、関節においては、関節の反力とモーメントがその関節で接続される2つのセグメントによって共有される。反復動力学(recursive dynamics)では、直列連鎖の第1の端部から始めて、この第1の端部から遠のく方向に移動するように連続する関節の負荷を算出する。第1の関節について算定した関節負荷を使って次の関節の負荷を算定し、このような算定作業を対象の関節に到達するまで行う。つまり、繰り返しにより得られた出力は、1つ以上の対象の関節に関する力およびモーメントの算定である。
【0021】
反復動力学の利点は、全身の動力モデルを必要とせずに、対象の特定関節についての負荷を算定することが可能な点である。図1は、反復の実施形態を用いて、下半身の運動が上半身の運動から分離される様子を示している。図には、上半身105と下半身110が含まれる。上半身105のセグメントは負荷140で示され、下半身110には、足首関節120、膝関節125および股関節130を備えるセグメントが含まれる。関節の力とモーメントを算定する反復の実施形態では、上半身105を下半身110から分離してモデル化してもよい。負荷140による影響や、重量、重心点、慣性、セグメント寸法といった上半身105の物理的パラメータを無視した上で、測定した反力・モーメント115から始めて、例えば、足首関節120、膝関節125および股関節130に作用する床反力とモーメント、内力と内モーメントを連続して算定することができる。これらの上半身105に関わるパラメトリックな不確かさは、閉形式、あるいは全身の動力学的解析法を用いた場合に、人体の内力と内モーメントを算定する際に主な誤差要因となる。全身の動力学をモデル化することが求められる特殊な場合もあるが、反復の実施形態によれば、さらなる誤差要因をもたらすことなく、対象の関節とセグメントに柔軟に着目することができる。
【0022】
さらに、反復で用いる実測の反力・モーメント115は、さらに別の感知様式も提供してくれる。つまり、実測の反力・モーメント115から、求めようとする内力の算定の信頼度を高める情報を得ることができる。人間は、環境に存在する物体や人物との相互作用によって予期せぬ負荷や拘束運動を受けることがある。このような状況では、関節の内力と内モーメントを算定するのに必要となる動的表現が変更されることもある。このような状況で反復の実施形態を用いた応用としては、持ち上げ作業に関するバイオメカニカルな研究や、肉体的な衰えた人の日常作業を支援するような支援装置の制御に関する開発などが含まれる。当業者であれば、靴内部の力や圧力を感知する装置を、力とモーメントの各種算定に用いる感知様式の補完技術とすることができることを理解するであろう。
【0023】
<A.三次元直列連鎖システムの反復動力学的手法(Recursive Dynamics Method)>
図2は、三次元直列リンクシステムの開鎖状態のセグメントに作用する力を示す自由体の図である。このシステムには、第1のセグメント205、第2のセグメント210および第nのセグメント215が含まれる。セグメント205、210・・・215は回転関節により連結される。セグメント205、210・・・215の各セグメントは、第1の関節220、第2の関節222、第3の関節224、第nの関節226および第(n+1)の関節228により連結されるような、自由体の図として描かれている。第1のセグメント205には、第1の関節220および第2の関節222が含まれる。第2のセグメント210には、第2の関節222および第3の関節224が含まれる。第nのセグメント215には、第nの関節226および第(n+1)の関節228が含まれる。特に、第1のセグメント205と第2のセグメント210の連結については、第2の関節222が第1のセグメント205を第2のセグメント210に連結するような状態で連結されている。つまり、n個のセグメントの直列連鎖は、隣接セグメント同士をそれぞれが共有する関節で接続するようにして形成される。関節にかかる関節負荷は、関節で接続されたセグメント同士によって共有される。
【0024】
図2に示す三次元直列リンクシステムの動作は2つの座標系、つまり、空間固定座標系または慣性座標系と、各セグメントにしっかり固定されて動作に関与する運動体固定座標系とで記述される。慣性座標系および運動体固定座標のフレーム記述は、それぞれ {O} と {Bi}で表される。フレーム {O} に対する各セグメントの位置は、ベクトルXiで記述される。左上付き文字で書かれたベクトルの表記は、そのベクトルの方向にある座標を指す。例えば、iNi は、フレーム{Bi}の軸を中心とする数値を有する成分のベクトルを表している。
【0025】
【0026】
図2を参照しつつ、反復計算の事例を説明する。第nの関節226における力とモーメントを決定することにより、反復解析が第nのセグメント215からはじまる。第nの関節226において算定した力とモーメントは、反復解析の第1ステップの出力となるものである。この出力を次の関節、つまり第(n−1)関節(図示せず)の力とモーメントを算定するための入力として用いる。このように、関節の力とモーメントの反復解析は、対象の関節に到達するまで関節ごとに次々と行われる。1つの実施形態によれば、実測の床反力とモーメントは、エンドエフェクタ・セグメント(end-effector segment)と呼ばれる第nのセグメント215に作用し、第nの関節226に作用する力とモーメントを、実測の床反力とモーメントを用いて算定する。次に、第(n−1)の関節に作用する力とモーメントを、前回算定した第nの関節226に作用する力とモーメントを用いて算定する。前回の算出による出力を、現在の算出の入力として用いる作業を、対象の関節についての力とモーメントが算定されるまで繰り返し行う。当業者であれば、第1のセグメント205は、必ずしもマルチセグメント・システムにおける最終セグメントである必要はないことは理解できるであろう。むしろ、第1のセグメント205は、第1の関節220の力とモーメントを算定する場合では、反復計算が終了する対象のセグメントとなる。なお、図1の実測の反力・モーメント115は、環境との接触点に作用しており、必ずしも関節である必要はない。
【0027】
図3は、三次元直列リンクシステム内の1つのセグメントを示す自由体の図である。第iのセグメント300は、三次元直列リンクシステム内、例えば、図2にしめすようなシステムの1セグメントである。図3に示すように、第iのセグメント300は、第iの関節305および第i+1の関節310を含む。フレーム {Bi} の基点は第iのセグメントの重心点315の位置を表している。フレーム {O} に対する第iのセグメントの重心点315の位置は、ベクトル Xi で記述される。第iの関節305および第i+1の関節310の関節中心は、フレーム {O} についてそれぞれベクトル Ci とベクトル Ci+1 とで記述される。第iのセグメントの重心点315から接続点 Ci と接続点Ci+1 までのフレーム {O} における位置ベクトルは、それぞれLi,i と Li, i+1 とで記述される。第iのセグメントの重心点315に作用する重力による力は、 mig で表されるのだが、この場合、mi は第iのセグメントの重量であり、g は重量の加速度を示す3×1ベクトルである。
【0028】
<B.回転変換の記述>
【0029】
【数1】
【0030】
フレーム {O} からフレーム {Bi} への逆変換は、下の式2により与えられる。
【0031】
【数2】
【0032】
【0033】
【数3】
【0034】
H-1を下の式4を用いてさらに詳細に定義する。
【0035】
【数4】
【0036】
また、逆変換は下の式5により与えられる。
【0037】
【数5】
【0038】
Hを下の式4を用いてさらに詳細に定義する。
【0039】
【数6】
【0040】
【0041】
【数7】
【0042】
【0043】
【数8】
【0044】
<C.ニュートン・オイラー方程式の微分>
並進と回転に関する運動方程式をベクトルと行列の形態で組み合わせた特殊な記述法を用いて、ニュートンとオイラーの運動方程式を導く。これらの方程式は、第iのセグメント300だけについて導出したものであるが、この第iのセグメント300は隣接する2つのセグメントにより直列鎖を形成する。したがって、当業者であれば、以下の微分を拡張し、繰り返し適用することで、1つ以上のセグメントで形成される直列鎖あるいは分枝鎖のメカニズムにも適用可能であることを認識するであろう。さらに、多くの人体解剖モデルと同じく、各関節は、3度の並進自由度および3度の回転自由度を有するように想定している。当業者であれば、その他の関節モデルについても以下の微分を適用できることを認識するはずである。
【0045】
【0046】
重心点315を中心とする第iのセグメント300の運動を記述するニュートンとオイラーの状態空間方程式を、下の方程式9、10、11に記載する。Hemami著、「A State Space Model for Interconnected Rigid Bodies」、Automatic Control のIEEE Trans、27(2):P376−382、1982年を参照のこと。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。
【0047】
【数9】
【0048】
式9はセグメント300に作用する並進力の総和の表現を、式10は第iのセグメント300の角速度を、式11は第iの関節305と第i+1の関節310に作用するトルクの総和の表現をそれぞれ表していることは、当業者ならば理解するであろう。
【0049】
表記を単純化して、外積を避けるために、次のような任意のベクトルaとbの外積の恒等式を考慮する。なお、ティルデ・シンボル(〜)は、ベクトルの交代行列の表現を示す。
【0050】
【数10】
【0051】
【0052】
【数11】
【0053】
式11の記述を新しい表記で表すと、下の式14のようになる。
【0054】
【数12】
【0055】
式7を利用して、iNiと iNi+1 をフレーム {O} に変換すると、式14を下の式15のように表すことができる。
【0056】
【数13】
【0057】
並進運動の方程式である式9と回転運動の方程式である式15とを組み合わせて、1つのセグメントについてのニュートン−オイラーの方程式を、コンパクトな行列形式の表現にまとめる。
【0058】
【数14】
【0059】
Ui は、第iのセグメント300の第iの関節305に作用する力とモーメントを要素とするベクトルであり、 Ui+1 は、第iのセグメント300の第i+1の関節310に作用する力とモーメントを要素とするベクトルである。
【0060】
【数15】
【0061】
<D.逆動力学の課題>
逆動力学解析においては、関節に作用する力とモーメントは、実測のデータや目標の運動学データから算出する。
【0062】
【数16】
【0063】
図2を参照しつつ、第nのセグメント215から始めて、対象の関節、例えば、第iの関節305に向かうように内向きに逆動力学解析を反復して行ってもよい。逆動力学解析に従って、第nから第iの関節に作用する力とモーメントを、前記の式16から導出した下の式24を用いて繰り返し演算する。1つの実施形態によれば、各セグメント qm についての実測の一般化座標およびその微分については、Un+1で表される第nのセグメント215に作用する実測の反力とモーメントとして既知である。これらの既知パラメータを用いて、反復式24に入力する。
【0064】
【数17】
【0065】
下の式25に示すように、逆動力学的解析により、第nから第iの関節に作用する力とモーメントのベクトルUを求めることができる。
【0066】
【数18】
【0067】
<E.順動力学的解法>
本発明の各種実施形態では、人体動作を解析・合成するための制御論理手法を提供し、これにより、軌道追従制御の課題である人体動作の算定と合成を公式化する。本発明の各種実施形態によれば、順動力学モジュールに適用した場合に実測の運動学的データを再生あるいは「追従」するような力とモーメントを表す出力値を有する軌道追従コントローラを提供する。この軌道追従コントローラは、バイオメカニカル・システムに実測運動を追従させるために必要となる関節負荷を算定する。追従誤差がゼロになるように、各状態を線形化、減結合する非線系制御則を用いて目標の軌道追従を得る。このような起動追従の方法は、次の文献に説明されているように、すでに、ロボット分野においてマニュピレータ制御の目的で利用されている。Craig著、「Introduction to Robotics, Mechanics and Control」、Addison- Wesley、第2版、1989年。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。本発明の各種実施形態によれば、フィードバック線形化の概念を適用して、人体動作の解析・合成に関する関節トルクを算定する。また、本発明の各種実施形態によれば、フィードバック線形化の概念を適用して、人体動作を予測する。閉形式の演算をおこなう軌道追従コントローラについての実施形態を以下に示す。ここでは、図4を参照しつつ、軌道追従コントローラによる反復算定に関する実施形態を説明する。
【0068】
図4は、人体動作を解析・合成するための軌道追従システムに係わる1つの実施形態を示すブロック図である。図2の三次元直列連鎖システムの事例を参照しつつ、図4の軌道追従システムは次の情報を用いて、ある特定の時間における関節負荷を算定する:前回のある時点の関節負荷を用いて算出し、シミュレーション状態変数の形で表されたシミュレーション運動学データ;および、ある特定の時間の実測運動学データとその微分。図4の軌道追従システムは、軌道追従コントローラ410と順動力学モジュール425とを含んで構成される。軌道追従コントローラ410は、誤差補正コントローラ415と逆動力学モジュール420とを含んで構成される。
【0069】
[誤差補正コントローラ415]
【0070】
【0071】
シミュレーション位置データ q 470は、現時点で軌道追従が行われているシミュレーション位置データを示しており、関節負荷480、シミュレーション状態変数および(任意選択として)前回の時点における実測の反力・モーメント460を用いて算出する。なお、この説明は以下に行う。
【0072】
例示の実施形態においては、誤差補正コントローラ415は、下の式26を実装するモジュールにより構成される。誤差補正コントローラ415は、現時点における実測位置データを、現時点についてのシミュレーション位置データ470と比較して、セグメントごとに位置誤差信号eを求める。各セグメントの位置誤差信号eは、3つのオイラー角と3つの重心点座標についての位置誤差を示している。
各セグメントの位置誤差信号eは、各セグメントについての3つのオイラー角と3つの重心点座標の速度誤差を示している。
【0073】
【0074】
【数19】
【0075】
【0076】
【数20】
【0077】
パラメータ a は、0か1に設定できるスカラーパラメータである。1つの実施形態によれば、 a = 1 であり、実測加速度を使って補正加速度項を算出する。また、1つの実施形態によれば、a = 0 であり、実測加速度を無視する。
【0078】
【0079】
【数21】
【0080】
[逆動力学モジュール420]
1つの実施形態によれば、実測反力・モーメントには、三次元直列連鎖システムの拘束端部の床反力とモーメントが含まれる。実施形態のある事例によれば、現時点における関節負荷(U)480は、逆動力学モジュール420を用いて算定する。なお、ベクトルUは、事例の直列連鎖システムの1つ以上の関節の力とモーメントの行列を示す。事例の第iの関節をUiのように表してもよい。
【0081】
【数22】
【0082】
1つの実施形態によれば、逆動力学解析が行われている時点ごとに、逆動力学モジュール420では式29の制御則を繰り返し行って、直列連鎖システムの連続する関節について関節負荷を算定する。式29に示すように、逆動力学モジュール420では、第i+1の関節の関節負荷 Ui+1 を用いて隣接する第iの関節の関節負荷 Ui を算定する。このようにして、逆動力学モジュール420は、対象の第iの関節の関節負荷が決定されるまで、端部のエフェクタ・セグメントである第nの関節から繰り返し関節負荷を算定する。別の実施形態によれば、以下に詳細に説明するように、閉形式の運動学を利用して1つ以上の関節における関節負荷(U)480を算定する。逆動力学モジュール420の出力は、第iから第nまでの関節について算定した関節負荷を示しており、下の式30により与えられる。
【0083】
【数23】
【0084】
[順動力学モジュール425]
順動力学モジュール245への入力には、現時点で解析が行われている関節負荷Uが含まれる。
【0085】
【0086】
【数24】
【0087】
当業者であれば、実測の関節中心は、実測運動および人体計測から導かれることを理解するであろう。1つの実施形態によれば、実測の関節中心を回帰方程式に基づいて統計学的に求めてもよい。また、別の実施形態によれば、実測の関節中心を関数法に基づいて幾何学的に求めてもよい。
【0088】
【数25】
【0089】
1つの実施形態によれば、順動力学モジュール425は、各セグメントについて誘発された加速度の数値積分を行って、解析が行われている時点の次の時点、つまり、 t + Δt における各セグメントについてのシミュレーション状態変数(シミュレーションの位置データと速度データ)を求める。1つの実施形態では、マサチューセッツ州ナティックのマスワークス社(MathWorks, Inc.)で購入可能なMATLAB (R) ソフトウェアの積分関数を使って行う。なお、当業者であれば、積分を、ルンゲ・クッタ(Runge Kutta)法などの各種方法で行うことが可能であることは理解できるであろう。
【0090】
誤差補正コントローラ415は、逆動力学モジュール420がUで表される入力セットや制御セットを演算し、これを順動力学モジュール425に入力した場合に実測運動450を実質的に再生・追従するような、補正加速度を生成する。
【0091】
人体運動を解析する所望の時間区間について、図4の軌道追従システムは、シミュレーション運動と実測運動の間の軌道追従誤差を経時的にゼロへ近づけるようにする。こうすることで、算定した関節負荷の精度を確保することができる。1つの実施形態によれば、システムは、 t = 0 におけるシミュレーション状態変数をt = 0 における実測運動450と等しく設定することで初期化される。
【0092】
当業者であれば、前記の方程式、表現、モジュールあるいは関数は汎用コンピュータ、専用コンピュータあるいはハードウェアにより実装可能であることを理解するであろう。ある実施形態においては、ソフトウェアでプログラム可能な汎用コンピュータにより本発明の特徴を実装する。このようなソフトウェアを、プログラム指令を含むコンピュータ読み取り可能な媒体に分散させてもよい。例えば、コンピュータ読み取り可能な媒体には、コンピュータ読み取り可能なストレージボリュームが含まれる。コンピュータ読み取り可能なストレージボリュームは、公衆のコンピュータネットワーク、個人のコンピュータネットワークあるいはインターネットを経由して入手可能である。当業者であれば、プログラム指令は、ソース符号、オブジェクト符号あるいはスクリプト符号など、適切であればいかなる形態でもよいことは理解するであろう。
【0093】
図5は、本発明の1つの実施形態に係わる、所望の時間区間について人体動作の解析に用いられる軌道追従の処理を示すフローチャートである。図2の事例で説明した三次元直列連鎖システム、および図3の事例で説明した第iのセグメント300を参照しつつ、図5のフローチャートを説明する。軌道追従処理の開始500は、1つ以上のセグメントの関節における関節負荷の算定を開始する時間として選択された、初期時間 t = 0 で発生する。
【0094】
【数26】
【0095】
この処理では、直列連鎖システムの動作の解析が行われている現時点について、連鎖のセグメントごとに実測運動510を得る。当業者であれば、実測のマーカー位置を用いる統計学的手法や幾何学的手法を使って、qmで表される実測の一般化座標を得てもよいことを理解するであろう。
同様に、現時点における各セグメントについての位置追従誤差 e 520を演算する。セグメントごとに現時点における実測の位置・運動学データと現時点についてのシミュレーションの位置データ470を比較して、位置追従誤差 e を演算する。前記の通り、位置誤差信号 e は、3つのオイラー角と3つの重心点の座標についての位置誤差を表している。
【0096】
さらに、前記の式26を用いて、現時点における各セグメントについての補正加速度525を演算する。1つの実施形態によれば、スカラー a を式26においてゼロに設定して、軌道追従の処理を行っている間は加速度運動データを無視することで、力とモーメントの算定の精度を向上させる。ステップ525において演算した補正加速度を使って逆動力学解析530を行い、これによって現時点についての各関節の力とモーメントを得る。1つの実施形態によれば、逆動力学解析を行うステップ530では、式29に従って、直列連鎖システムの各関節の力とモーメントを繰り返し算定する。また、別の実施形態によれば、この逆動力学解析を行うステップでは、閉形式の解析を行って、直列連鎖システムにおける各関節の力とモーメントを算定する。さらに、閉形式の実施形態についての詳細は、以下に説明する。
【0097】
ステップ535では、順動力学解析を行って、人体動作の解析を行なおうとする次の時点における各セグメントについてのシミュレーション状態変数(シミュレーションの運動学データ)を得る。順動力学解析535の詳細については、前記の順動力学モジュール425を参照しながらすでに説明した。
【0098】
シミュレーション運動を求めたら、ステップ540において、人体運動の解析のための所望の時間区間が終了したか否かを、つまり、t = tfinal か否かを判定する。 終了していない場合は、ステップ545において、現時点の t をΔtだけ増加させて、関節負荷を算出しようとする次の時点を選択する。その後、510から540までの前記した軌道追従ステップを繰り返し、新たに選択した時点における直列連鎖システムの関節の力とモーメントを算定する。そして、人体動作を解析する所望の時間区間が終了すると、ステップ550において処理が終了する。
【0099】
<F.閉ループ誤差ダイナミクス>
本発明の各種の実施形態によれば、前記の式29により記述されるフィードバック制御則を使った人体動作の解析・合成を行う軌道追従システムを提供する。このシステムの軌道追従性能の実証にあたっては、閉ループ誤差ダイナミクス(closed loop error dynamics)を考慮することが有用である。軌道追従コントローラ410の閉ループ反応とその関連の誤差ダイナミクスは、線状システムを用いて記述してもよい。
【0100】
【数27】
【0101】
加速度を含む場合: a = 1
測定が完璧であり、数値微分の誤差がゼロという理想的な状況においては、閉ループ誤差ダイナミクスを下の微分方程式38により求めることができる。
【0102】
【数28】
【0103】
そして、式39により、実固定値および等固定値を用いて、臨界減衰の解、つまり、ゼロのサイン振動を求める。この解により、最も速い非振動反応を得ることができる。前記の通り、臨界減衰反応を達成するための Kp および Kv の関係は、前記の式27で記述した通りである。
【0104】
【数29】
【0105】
加速度を無視する場合: a = 0
a = 0 に設定することで、実測運動から算定する実測加速度を無視する。閉ループ誤差ダイナミクスは、下の非同次形微分方程式40で表現される。
【0106】
【数30】
【0107】
【0108】
微分算出誤差を組み入れる
【0109】
【0110】
【数31】
【0111】
微分計算の誤差を組み込んだ閉ループダイナミクスは、下の式42により求めることができる。
【0112】
【数32】
【0113】
式41を式42に代入して下の式43が導かれる。
【0114】
【数33】
【0115】
下の式44および式45により、a = 0 および a = 1 についての誤差ダイナミクスが与えられる。
【0116】
【数34】
【0117】
<G.開鎖および閉鎖の実施形態>
本発明の反復算定の実施形態には、開鎖システムの算定と閉鎖システムの算定が含まれる。開鎖システムは一端部のみが環境の拘束を受けており、残りの端末セグメントは自由な状態にある。また、閉鎖システムは1つ以上の端部が環境と接触している。反復算定の実施形態は、前記の図2を参照しながらすでに説明したように、第nの関節226から始まって、対象の関節、例えば、第1の関節220で終了するまで、連続する関節の関節負荷を繰り返し演算する。反復式を用いる利点は、全身をモデル化する必要がない点である。対象のセグメントが直列システムの最終セグメントであるか否かに関係なく、力とモーメントの算定を対象のセグメントで終了する。図1を参照しながら前記で説明したように、上半身105におけるパラメトリックな不確かさは、内力と内モーメントを算定する際の主な誤差要因となる。しかし、床反力板(force plate)近傍の関節モーメントのみを求める場合は、このような不確かさを避けることができる。
【0118】
本発明の反復に係る1つの実施形態においては、開鎖システムの算定を行う。開鎖システムにおいては、環境と接触する一端部を拘束端と呼ぶ。本発明の1つの実施形態においては、拘束端とは、地面やその他の支持面に接触する人体の足である。
【0119】
本発明の反復に係る別の実施形態では、閉鎖算定を行う。閉鎖システムは、環境と接触する1つ以上の端部を有する。図2を参照しつつ、第nのセグメント215の利用可能な床反力板の測定値を用いて、対象の関節における関節負荷を前記の式29により繰り返し演算する。
【0120】
II.マルチモデルの実施形態
動作の動的方程式の理想的な表現は、利用可能なセンサにより異なるため、一般に、逆動力学はマルチモーダル・センシング(multimodal sensing)の課題とみなされている。Dariush、 Hemami および Paraianpour著、「Multi-modal Analysis of Human Movement from External Measurements」、Journal of Dynamic Systems、Measurement and Control、123(2):P272−278、2002年を参照のこと。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。本発明の軌道追従システムは、センシングの各種モードを用いて実施してもよい。図6は、3つの異なるレベル構成を有する2つのセンシングモードを例示したものである。
【0121】
図6aおよび図6bは、実測運動450のみが利用可能である場合の軌道追従システムの実施形態を示すブロック図である。図6aは、直列連鎖システムを、歩容が片脚支持相(single support phase)であるような開運動連鎖としてモデル化した実施形態を示している。開鎖システムの場合、関節負荷を算定したりシミュレーション運動610を予測するのに、反力とモーメントの算定や測定の必要はない。図6bは、直列連鎖システムを、歩容が両脚支持相(double support phase)であるような閉運動連鎖としてモデル化した実施形態を示す。軌道追従システムの開連鎖と閉連鎖の実施形態については、以下に詳しく説明する。閉連鎖システムの場合、関節負荷を算定したりシミュレーション運動610を予測するには、反力とモーメントの算定や測定が必要となる。図6bに示すように、拘束モジュール615を用いて反力620を算定し、これを順動力学モジュール425へ入力する。本発明の1つの実施形態によれば、関節負荷と前時点においてシミュレーションした前回のシミュレーション運動学データを使って反力620の解析的推定を行う。例えば、前回シミュレーションした運動学データを前回の時間ステップにおいてシミュレーションする。
【0122】
図6cは、例えばモーション・キャプチャや床反力計などから得られた、実測運動450と実測の反力・モーメント460が利用可能な場合の軌道追従システムの実施形態を示すブロック図である。
【0123】
反復動力学的手法か閉形式動力学的手法かの選択は、利用可能な感知様式と用途の特殊性により左右される。例えば、閉形式の動力学は、図6bに例示すような軌道追従システムの関節負荷の算定やシミュレーション運動610の予測に適しており、実測運動450のみが利用可能な閉連鎖システムが含まれる。一方、反復動力学的手法は直列連鎖システムのパラメトリックな不確かさにはあまり敏感ではない。反復動力学的手法は、図6cに例示されるような軌道追従システムの関節負荷の算定やシミュレーション運動610の予測に適しており、実測運動および算定運動とともに反力・モーメント460が利用可能な開連鎖システムおよび閉連鎖システムが含まれる。
【0124】
III.閉形式動力学の実施形態
本発明の各種実施形態は、閉形式の運動方程式を表現する。例えば、閉形式の実施形態は、入力としてモーションキャプチャ・データのみを用いた開運動連鎖あるいは閉運動連鎖の解析に有用である。軌道追従制御を目的とする閉形式の動力学方程式は、もともとロボット関連の文献において研究が進んでおり、当業者であれば、このような方程式を、本発明の軌道追従システムに係わる人体動作の解析・合成へ容易に応用できることは認識するであろう。閉形式の動力学方程式の起源には、ニュートンの運動法則(Newtonian Mechanics)、ラグランジュの方程式(Lagrangian Formulation)、ケイン法(Kane's method)、ハミルトン法(Hamiltonian method)が含まれる。閉形式の実施形態には、閉形式の運動連鎖とともに開形式の運動連鎖も含まれる。
【0125】
<A.開運動連鎖を用いた閉形式の動力学に係る実施形態>
開運動連鎖としてモデル化された閉形式の実施形態では、モーション・キャプチャから得た運動の記述が完全であれば、十分に関節負荷の算定や予測を行うことができる。下の微分方程式46を用いて、開運動連鎖を閉形式にモデル化することができる。
【0126】
【数35】
【0127】
式46では、ベクトル q は実測の座標を、Mは慣性行列を、Hはコリオリ効果と遠心力を、Gは重力のベクトルを表す。ベクトルUは関節負荷を表す。式46とそのすべての成分ベクトルおよび行列についての詳細は、J. Craig著の「Introduction to Robotics: Mechanics and Control」、第2版、Addison ― Wesley(1989年)に記載されている。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。
【0128】
[誤差補正コントローラ]
開運動連鎖としてモデル化された閉形式の実施形態の場合、誤差補正コントローラは、下付き文字 i を取り除いた以外には、式26の反復計算を表したものと同一であり、下の式47のように記述される。
【0129】
【数36】
【0130】
[逆動力モジュール420]
開運動連鎖としてモデル化された閉形式の実施形態の場合、下の式48の制御則を用いて、式46のシステムに適用した場合に実測運動を再生するような関節負荷を算定する。
【0131】
【数37】
【0132】
[順動力学モジュール425]
開運動連鎖としてモデル化された閉形式の実施形態の場合、誘発の加速度ベクトルを下式49を用いて計算する。
【0133】
【数38】
【0134】
式48により求めた制御則の閉ループ誤差ダイナミクスは、反復の方程式で得られたものと同一である。
【0135】
<B.閉運動連鎖を用いた閉形式の動力学に係る実施形態>
両脚支持相の動作などの、閉運動連鎖としてモデル化された閉形式の実施形態の場合、拘束力の効果は動作の方程式に含まれる。閉運動連鎖としてモデル化された閉形式の実施形態に係わる動作の方程式は、下の式50により与えられる。式50では、J はヤコビ行列(Jacobian matrix)であり、F は拘束力ベクトルである。
【0136】
【数39】
【0137】
[逆動力学モジュール420]
従来技術で問題となるのが、式50のシステムに対する一意の解が、拘束力Fを測定できない場合には存在しない点である。本発明の1つの実施形態では、方程式50から項 JTF を削除することにより、制御則Uを決定する手法を提供する。ゼロ空間射影(null-space projection)を使って拘束力を除去するやり方は、すでに二足制御において用いられている。これについては、Jalics、HemamiおよびClymer著、「A Control Strategy for Terrain Adaptive Bipedal Locomotion」、Autonomous Robots、4:P243−257(1997年)に記載されている。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。
【0138】
NはJTに対して直交するため、N JT F の項はゼロになる。このようにして得られたシステムは、下の式52のように表現される。なお、b の項は下の式53のように表される。
【0139】
【数40】
【0140】
Nは一般的な平方行列ではないため、エネルギー費用の関数を最小化する擬逆行列の解を下の式54により求める。当業者であれば、エネルギー消費ではなくパラメータを用いたその他の費用関数により運動プロファイルを決定できるであろう。
【0141】
【数41】
【0142】
代替の実施形態として、関節負荷 U は、モーメントアーム行列と筋力の積を用いて表すことができる。筋肉をアクチュエータとして用いる場合には、次の文献に記載される静的最適化解法を用いて筋力を決定することができる。Crowninshield および Brand著、 「A physiologically based criterion of muscle force prediction in locomotion」、 Journal of Biomechanics, 14:793−801(1981年); Anderson および Pandy著、 「Static and Dynamic Solutions for Gait are Practically Equivalent」、 Journal of Biomechanics, 34:153−161(2001年)。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。
【0143】
[順動力学モジュール425]
運動連鎖としてモデル化された閉形式の実施形態の場合に、誘発の加速度を算出する1つの方法を下の式55に表す。
【0144】
【数42】
【0145】
拘束力 F を、状態と入力 U の関数として、下の式56を用いて算出してもよい。Hemami および Wyman著、 「Modeling and Control of Constrained Dynamic Systems with Application to Biped Locomotion in the Frontal Plane」、 IEEE Transactions on Automatic Control、 24::P526−535(1979年8月)を参照のこと。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。
【0146】
【数43】
【0147】
式56により求めた実施形態は拘束条件(hard constraint)を前提としているが、当業者であれば、ペナルティに基づく方法を含む、その他の接触のモデルを用いることで拘束力を算出できることを認識するであろう。
【0148】
IV.未知動作の合成
本発明の各種の実施形態では、順動力学モジュール420を用いて未知の動作を予測する。Anderson および Pandy著、 「Dynamic Optimization of Human Walking」、 Journal of Biomechanical Engineering, 123:381−390(2001年)を参照のこと。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。前記の通り、直列連鎖システムが所望の軌道を追従するのに必要となる関節負荷を算定するために逆動力学モジュール420を用いることができる。例えば、逆動力学モジュール420は、所望の軌道の情報に基づいて、神経筋肉系の駆動に必要な運動指令を算出する。順動力学モジュール425では、算定した関節負荷を用いて、直列連鎖システムのセグメント位置と速度データを表すシミュレーションの運動データを算出する。
【0149】
各種の予測に関する実施形態においては、順動力学モジュール425において、1つ以上のオリジナルのパラメータを変更してパラメータを補正することにより、直列連鎖システムのシミュレーション運動を予測してもよい。
逆動力学モジュール420では、オリジナルパラメータに基づいて関節負荷Uを算定し、順動力学モジュール425では、補正パラメータに基づいてシミュレーションの運動学データを予測する。
【0150】
1つの実施形態では、順動力学モジュール425を用いて、質量、慣性、長さ、重心点などのセグメントに関するパラメータを変更することで得られる運動応答を予測してもよい。別の実施形態では、順動力学モジュール425を用いて、筋肉をある部位から別の部位に移植するなどの外科的変更により得られる運動応答を予測してもよい。Piazza および DeIp著, 「Three-Dimensional Dynamic Simulation of Total Knee Replacement Motion During a Step-Up Task」, Journal of Biomechanical Engineering, 123:P589−606、2001年を参照のこと。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。更に、別の実施形態においては、順動力学モジュール425を用いて、システムに負荷を加えることにより得られる運動応答を予測してもよい。システムに対して負荷を加える例としては、セグメントの1つにバックパックを付与するような外的負荷がある。
【0151】
1つの実施形態によれば、図6aは、順動力学モジュール425を使って、入力として実測運動450が利用可能な開連鎖システムについてシミュレーション運動610を予測するような軌道追従システムを示している。本発明の軌道追従システムでは、開連鎖システムについて反力・モーメントを測定したり予測する必要がない。別の実施形態によれば、図6bは、順動力学モジュール425を使って、入力として実測運動450が利用可能な閉連鎖システムについてのシミュレーション運動610を予測するような軌道追従システムを示している。図6bのシステムに係わる1つの実施形態では、順動力学モジュール425へ入力するための反力・モーメント115(図1参照)を予測する。拘束モジュール615では、前記の式56を使って順動力学モジュール425へ入力する反力620を予測する。
【0152】
本発明の1つの実施形態によれば、反復動力学の手法を用いて未知の動作を予測する。直列連鎖システムを、図6aで説明した開運動連鎖としてモデル化する本発明の別の実施形態によれば、閉形式の動力学の手法を用いて未知の動作を予測する。
【0153】
直列連鎖システムを、図6bで説明した閉運動連鎖としてモデル化する本発明の別の実施形態によれば、閉形式の動力学の手法を用いて未知の動作を予測する。本実施形態の1つの事例を示すために、前記の式56を参照しつつ説明したように、関節負荷480およびシミュレーション運動610を用いて、反力620を解析的に算定する。本実施形態の別の事例を示すために、前記の式51から式54を参照しつつ説明したように、ゼロ空間射影の手法を用いて関節負荷480を決定する。
【0154】
V.開連鎖システムのシミュレーション
実測データを用いて導いたシミュレーションには、関節の力とモーメントを算定する軌道追従システムの実施形態に係わる軌道追従システムの効果が示される。なお、実験的に得た実測データについてのシミュレーション動作は、人体の歩容のサイクルである。
【0155】
図7は、シミュレーションで用いられた、4つのセグメントの3次元の下肢モデルを表す自由体の図である。4つのセグメントは、骨盤セグメント745、太腿セグメント750、脛セグメント755および足セグメント760からなる。股関節705は、骨盤セグメント745と大腿セグメント750とを接続する。膝関節710は、大腿セグメント750と脛セグメント755とを接続する。足首関節715は、脛セグメント755と足セグメント760とを接続する。図7は、股関節705、膝関節710および足首関節715への関節負荷を示している。さらに、図7には、大腿セグメント750、脛セグメント755および足セグメント760についてセグメントパラメータも示めされている。関節負荷とセグメントパラメータを示すために用いられる変数は、すでに、図2および図3を参照しつつ詳細に説明されている。
【0156】
<A.実験的な実測歩容データ>
モーション・キャプチャと床反力計のデータを含む標準的な容歩の測定値は、次の文献から得たものである。Vaughan、DavisおよびO'Connor著, 「Dynamics of Human Gait, Kiboho Publishers」、 南アフリカ、 ケープタウン、 第2版、1999年 (「Vaughan」)。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。ヘレンヘイズ(Helen Hayes)のマーカセットから得た記録動作と一連の人体計測を用いて、Vaughanの統計学的な回帰方程式に基づいて、人体のセグメントパラメータと関節中心を決定した。
【0157】
一般に、オイラー角は、関節体間の相対的な回転運動を表すものであるが、関節動作の解剖学的に意味のある記述を表すものではない。同様に、関節の反力とモーメントも、解剖学的に意味のある情報をもたらすものではない。そこで、Vaughanによる人体の歩容解析の方法を用いて、解剖学的に意味のある運動を示した。GroodおよびSuntay著、「A Joint Coordinate System for the Clinical Description of Three-Dimensional Motions」: Application to the Knee、 Journal of Biomechanical Engineering、 105:P136−144、1983年を参照のこと。
【0158】
<B.図7の下肢システムについての軌道追従システムの方程式>
図4の軌道追従システムに関する方程式を、図7の下肢システムについて表現する。
【0159】
[逆動力学モジュール420]
1つの実施形態によれば、逆動力学モジュール420では、式29に基づいた反復処理を行う。足首715の関節負荷 U4 から始まり、膝710の関節負荷 U3 から股705の関節負荷 U2についての力とモーメントのバランスを算定するために必要な式を、下の式57に記述する。
【0160】
【数44】
【0161】
逆動力学モジュール420の出力は、3つの関節すべてについての力・モーメントを含んだベクトルであり、下の式58のように表現される。
【0162】
【数45】
【0163】
[誤差補正コントローラ415]
前記式26から、誤差補正コントローラ415についての方程式は、下の式59、式60、式61により与えられる。
【0164】
【数46】
【0165】
誤差補正コントローラ415の出力は、下の式62に示すような配列である。
【0166】
【数47】
【0167】
[順動力学モジュール425]
【0168】
【数48】
【0169】
【数49】
【0170】
【0171】
【数50】
【0172】
動作に関する前記式における個々の行列を、足セグメント760、脛セグメント755および大腿セグメント750について、下の式66、67、68のようにそれぞれ記述する。
【0173】
(足セグメント760)
【0174】
【数51】
【0175】
(脛セグメント755)
【0176】
【数52】
【0177】
(大腿セグメント750)
【0178】
【数53】
【0179】
<C.シミュレーション結果>
図8、9、10は、1つの実施形態に係わる歩容の完全なサイクルを求めるために、シミュレーションの関節角の軌道と実測の関節角の軌道を比較したものである。
各種の実施形態によれば、順動力学モジュール425における数値積分のサンプリング率を低減し、およびまたはフィードバックゲインを増加させることにより、軌道追従性をさらに向上させることができる。当業者であれば、サンプリング率を低減するには、オリジナル信号を高周波で再サンプリングする必要があることを認識するであろう。軌道追従性能を向上させる1つの方法としては、三次スプラインを用いて実測運動データを高周波で再サンプルする方法がある。オイラー法などの一次元数値積分法により好適な結果を得られることが観察された。
【0180】
図11、12、13において、従来の逆動力学的解析法を用いて求めた足首関節715、膝関節710および股関節705のそれぞれの関節モーメントを、本発明に係わる順動力学的手法によるそれらと比較した。そこでは、追従誤差が最小化される場合には、順動力学的解法が逆動力学的解法に迫っていることが観察できる。
【0181】
本発明は各種形態にて実施可能であり、ここに記載される実施形態のみに限定するものではない。むしろ、これらの実施形態は、開示を完全にするためのものであり、また、当業者が本発明を完全に理解できるように提示したものである。さらに、記載される装置および方法は剛体のみに限定するものではない。
【0182】
特定の実施形態および用途を例示して本発明を説明したが、本発明は、ここに開示された厳密な構成および構成要素のみに限定されるのではなく、本発明の付属の請求項に定義される技術的な思想と範囲を逸脱しない限りにおいて、各種の修正、変更あるいは変形を、構成、運用、本発明の方法および装置の詳細について行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】本発明の1つの実施形態に係わる反復の実施形態を用いて、下半身の運動が上半身の運動から分離されている様子を示している。
【図2】本発明の1つの実施形態に係わる三次元直列リンクシステムの開鎖状態のセグメントに作用する力を示す自由体の図である。
【図3】本発明の1つの実施形態に係わる三次元直列リンクシステム内の1つのセグメントを示す自由体の図である。
【図4】人体動作を解析・合成するための、本発明の1つの実施形態に係わる軌道追従システムを示すブロック図である。
【図5】所望の時間区間についての人体動作の解析に用いられる、本発明の1つの実施形態に係わる軌道追従の処理を示すフローチャートである。
【図6】aは、直列連鎖システムを開運動連鎖としてモデル化した、本発明の1つの実施形態に係わる軌道追従システムのブロック図である。bは、直列連鎖システムを閉運動連鎖としてモデル化した、本発明の1つの実施形態に係わる軌道追従システムを示すブロック図である。cは、実測運動と実測の反力・モーメントが利用可能な場合の、本発明の1つの実施形態に係わる軌道追従システムを示すブロック図である。
【図7】本発明の1つの実施形態に係わるシミュレーションで用いられた、4つのセグメントの3次元の下肢モデルを表す自由体の図である。
【図8】本発明の1つの実施形態に係わる歩容の完全なサイクルを求めるために、シミュレーションの足首関節角の軌道と実測の足首関節角の軌道を比較したものである。
【図9】本発明の1つの実施形態に係わる歩容の完全なサイクルを求めるために、シミュレーションの膝関節角の軌道と実測の膝関節角の軌道を比較したものである。
【図10】本発明の1つの実施形態に係わる歩容の完全なサイクルを求めるために、シミュレーションの股関節角の軌道と実測の股関節角の軌道を比較したものである。
【図11】従来の逆動力学的解析法を用いて求めた足首の関節モーメントを、本発明に係わる順動力学的手法によるそれらと比較したものである。
【図12】従来の逆動力学的解析法を用いて求めた膝の関節モーメントを、本発明に係わる順動力学的手法によるそれらと比較したものである。
【図13】従来の逆動力学的解析法を用いて求めた股の関節モーメントを、本発明に係わる順動力学的手法によるそれらと比較したものである。
【技術分野】
【0001】
本願は、米国特許法第119条第e項に基づく米国特許仮出願番号第60/301,891(出願日:2001年6月29日)および米国特許仮出願番号第60/353,378号(出願日:2002年1月31日)を基礎とする米国特許一部継続出願番号第10/151,647号(出願日:2002年5月16日)の利益を請求するものであり、前記出願のすべての記載をここに引用するものである。本願は、米国特許出願番号第 11/038,692 号(出願日:2005年1月19日)発明の名称:「A System and Method of Estimating Joint Loads in a Three-Dimensional System」に関連するものであり、この出願のすべての記載をここに引用するものである。さらに、本願は、米国特許出願番号第 11/038,978 号(出願日:2005年1月19日)発明の名称:「A System and Method of Estimating Joint Loads Using an Approach of Closed Form Dynamics」に関連するものであり、この出願のすべての記載をここに引用するものである。
【0002】
本発明は人体動作の解析および合成に関する。また、本発明は、力学系の動作に関する知識を用いて、関節に付与される力とモーメントを決定する逆動力学的解析に関する。さらに、本発明は、付与された力の結果としてのバイオメカニカル・システム(biomechanical system)の動作を提供する順動力学的解析に関する。さらに、本発明は、軌道追従制御に関する課題として内力および内モーメントの算定を公式化するような、人体動作の解析および合成に関する制御理論的手法に関する。
【背景技術】
【0003】
神経筋肉システムの研究は、主に、人体動作の合成や解析に関する(DeIp および Loan著、 「A Computational Framework for Simulating and Analyzing Human and Animal Movement」 IEEE Computing in Science and Engineering, 2(5): P46−55、2000年; Thelen、 Anderson および DeIp著, 「Generating Dynamic Simulations of Movement Using Computed Muscle Control」、 Journal of Biomechanics、 P36、P321−328、2003年 なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する)。合成についての課題、つまり、順動力学的解析は、付与された力と与えられた初期状態の結果としてのバイオメカニカル・システムの動作を提供しようとするものである。解析、つまり、逆動力学の課題は、合成の課題とは逆のものであり、従来においては、関節力や関節モーメントを算出するために用いられている。関節に付与される1つ以上の力やモーメントは関節負荷と呼ばれる。
【0004】
従来の逆動力学的解析では、関節力と関節モーメントをセグメントの動作の観察から算出する。人体関節の内力は容易に測定できない理由から、従来、バイオメカニカルな課題には逆動力学的解析が適用されている。しかしながら、セグメントの動きを測定し、測定した変位から関節角度を推論することで、当該の関節の力とトルクを決定することができる。したがって、逆動力学的解析は、各関節のトルクと筋肉活動の総和について洞察を得るために用いられる従来の方法である。
【0005】
逆動力学を人体動作の研究に利用する上で大きな課題となるのは、関節の力とモーメントの算出で用いられる高次導関数の演算時に起こる誤差である。バイオメカニックス分野において逆動力学の概念を用いる方法は、入力信号にノイズが無くダイナミックモデルが完全な場合において研究が進んでいる。しかし、実験観察においてはノイズが混在し、その影響を受けるものである。ノイズ源には測定装置や関節自体が含まれる。関節の力とモーメントを算出する逆動力学的手法では、ノイズの影響を受けた実験データを使って高次導関数を演算する必要があり、しばしば誤差を生じさせる作業としてよく知られている(Cullum,著、「Numerical Differentiation and Regularization」、 SIAM J. Numer. Anal.、 8(2):P254−265、 1971年 なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する)。具体的には、三次元セグメントの角加速度はその関節角の二次導関数であり、三次元セグメントの直線加速度はその重心点座標の二次導関数である。
【0006】
そして、実験観察での数値微分によりノイズが増幅される。高周波ノイズの存在は、速度と加速度の計算に関する課題を考慮する際に非常に重要になる。ノイズを含んだ入力信号を微分すると、各高調波の振幅がその高調波次数に応じて増幅される。また、入力信号を微分すると、速度信号が線的に増幅される一方で、高周波次数の二乗に比例して加速度が増加する。例えば、高周波ノイズωを含んだ信号の二階導関数は、ω2 の周波数成分の信号になる。このような放射ノイズの増幅は、関節力と関節モーメントの算定誤差に帰結するのである。
【0007】
高次導関数の算定に数値的手法を用いることは可能であるが、バイオメカニカルなデータを除去する最適な解法や自動的な方法もないことから、信頼できる結果が得られる場合は限られる(Giakas および Baltzopoulos著、 「Optimal Digital Filtering Requires a Different Cut-Off Frequency Strategy for the Determination of the Higher Derivatives」、 Journal of Biomechanics, 30(8):P851−855、 1997年。 なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。)ノイズを除去する技術はあるものの、バイオメカニカルなデータの真の信号をノイズから分離するには、大量の解析が必要となるため、ノイズ除去は困難であり時間がかかる。例えば、高周波の誤差を低減するには、通常、ローパスフィルタを用いる。
【0008】
そこで、従来の逆動力学解析を用いて誤差なく関節力と関節モーメントを算定する最適なアプローチが提案されている(Chao および Rim著、「Application of Optimization Principles in Determining the Applied Moments in Human Leg Joints during Gait」、 J. Biomechanics、 6:P497−510、1973年。 なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する)。最適化手法では、逆動力学で必要な数値微分を必要としない。しかしながら、収束と安定性が保証されていない、コンピュータ処理にコストがかかる、一般に実装するには複雑すぎる、といった理由から最適化ソリューションの適用は限定的である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
人体動作の解析に逆動力学を用いる別の問題点としては、逆動力学的手法は未知の動作を予測する能力を備えていないことがあげられ、これは臨床応用において遭遇する典型的な問題である。逆動力学では、力とモーメントは観察した反応に基づいて算出される。一方、未知動作の予測には、力とモーメントを付加することで予測される反応を算出することが必要である。逆動力学解析は力とモーメントを算出するのであって、力とモーメントを付与して期待する反応を算出するのではないため、予測する能力を備えていない。
【0010】
運動学データのみを扱うような逆動力学的解析法(inverse dynamics procedures)でさらに問題となるのは、全身の解法(whole-body solution)を利用する場合である。上半身の物理的なパラメータや外的負荷の影響を含む上半身のパラメトリックな不確かさは、閉形式や全身の動力学的解析法(whole body dynamic procedures)を用いて関節の力とモーメントを算定する際には大きな誤差要因となる。
【0011】
したがって、三次元体の場合に、ノイズを含んだ運動学的データを用いて高次導関数を算出する場合でも誤差を生じさせないような、関節負荷を算定するシステムと方法が大いに必要となる。さらに、閉形式あるいは全身解析を必ずしも必要としないような、関節の力とモーメントを算定するシステムと方法も必要となる。同時に、付加された力の結果としての人体動作を予測するようなシステムと方法も強く求められる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態の1つによれば、セグメントの関節における関節負荷を算定する方法を提供する。この方法は、運動学データを受けるステップと、少なくとも運動学データを使って補正加速度を決定するステップと、少なくとも補正加速度を使って関節負荷を算定するステップと、少なくとも関節負荷を使ってセグメントについてシミュレーション運動学データを決定するステップとからなる。これにより、本発明は、安定性があり、収束性が保証され、演算効率がよく、加速度の演算を必要としない関節負荷の算定を実現するような順動力学的解法を提供することにより、従来の逆動力学的解析における課題を解決しようとするものである。
【0013】
本発明の実施形態の1つによれば、セグメントについてシミュレーション運動学データを予測する方法を提供する。この方法は、少なくともオリジナル運動学データを使って補正加速度を決定するステップと、少なくとも補正加速度を使って前記セグメントの関節について関節負荷を算定するステップと、1つ以上の補正パラメータに基づいて前記セグメントの運動学データを予測するステップとからなる。従って、本発明の1つの実施形態は、未知の動作を予測することができる特徴を有する。
【0014】
1つの実施形態によれば、補正加速度を、実測の運動学データと前回のシミュレーション運動学データとの差を示す1つ以上の誤差値を使って演算してもよい。誤差値をゼロにするためにフィードバックゲインを与える。このため、本発明は、ノイズを多く含んだ高次導関数の演算を必要とせずに補正加速度が算定できるという特長を有しており、これにより、高次導関数による誤差を発生させることなく、関節負荷の算定や予測が可能となる。
【0015】
さらに別の実施形態によれば、関節負荷を算定するステップには、三次元システムの連続する関節における関節負荷を繰り返し算定することを含む。本発明の反復の実施形態は、閉連鎖システムとともに開連鎖システムについても適用可能である。このため、本発明は、閉形式あるいは全身の動力学的手法を使って関節の力とモーメントを算定する間に発生するマラメトリックな不確かさによる誤差をなくすような特長を有する。また、別の実施形態によれば、関節負荷を算定するステップには、閉形式の動力学的手法を使って関節負荷を算定することが含まれる。本発明の閉形式に係わる実施形態は、閉連鎖システムとともに開連鎖システムにも適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係わる各種実施形態によれば、多次元システムにおける関節の負荷を算定する方法、例えば、人体の関節負荷の算定方法を提供する。また、本発明に係わる各種実施形態によれば、人体の動きの予測など、動きを予測する方法を提供する。
【0017】
本発明に係わる各種実施形態には、関節負荷をセグメントごとに繰り返し算定する反復の動力学(recursive dynamics)も含まれる。さらに、すべての関節負荷を同時に算定する閉形式の動力学(closed form dynamics)も含まれる。例えば、反復に関する実施形態と閉形式に関する実施形態の選択は、利用可能なセンサや本発明の用途に応じて決定してもよい。
【0018】
本発明の実施形態には、開鎖システムおよび閉鎖システムが含まれる。開鎖システムにおいては、多体システムの多くとも1つの端部が環境と接触する。その他の端部は自由であるか、もしくは拘束を受けない。閉鎖システムにおいては、1つ以上の端部が環境と接触する。
【0019】
さらに、本発明は、各種の感知様式を用いて実施してもよい。例えば、ある感知様式では、運動学的な測定のみが利用可能である。また、他の感知様式では、運動学的な測定と反力の測定の両方が利用可能である。
【0020】
I.反復動力学に関する実施形態
1つの実施形態によれば、関節負荷を繰り返し算定して、三次元直列連鎖(three-dimensional serial chain)を求める。直列連鎖システムには、関節で互いに接続される1つ以上のセグメントが含まれ、さらに、関節においては、関節の反力とモーメントがその関節で接続される2つのセグメントによって共有される。反復動力学(recursive dynamics)では、直列連鎖の第1の端部から始めて、この第1の端部から遠のく方向に移動するように連続する関節の負荷を算出する。第1の関節について算定した関節負荷を使って次の関節の負荷を算定し、このような算定作業を対象の関節に到達するまで行う。つまり、繰り返しにより得られた出力は、1つ以上の対象の関節に関する力およびモーメントの算定である。
【0021】
反復動力学の利点は、全身の動力モデルを必要とせずに、対象の特定関節についての負荷を算定することが可能な点である。図1は、反復の実施形態を用いて、下半身の運動が上半身の運動から分離される様子を示している。図には、上半身105と下半身110が含まれる。上半身105のセグメントは負荷140で示され、下半身110には、足首関節120、膝関節125および股関節130を備えるセグメントが含まれる。関節の力とモーメントを算定する反復の実施形態では、上半身105を下半身110から分離してモデル化してもよい。負荷140による影響や、重量、重心点、慣性、セグメント寸法といった上半身105の物理的パラメータを無視した上で、測定した反力・モーメント115から始めて、例えば、足首関節120、膝関節125および股関節130に作用する床反力とモーメント、内力と内モーメントを連続して算定することができる。これらの上半身105に関わるパラメトリックな不確かさは、閉形式、あるいは全身の動力学的解析法を用いた場合に、人体の内力と内モーメントを算定する際に主な誤差要因となる。全身の動力学をモデル化することが求められる特殊な場合もあるが、反復の実施形態によれば、さらなる誤差要因をもたらすことなく、対象の関節とセグメントに柔軟に着目することができる。
【0022】
さらに、反復で用いる実測の反力・モーメント115は、さらに別の感知様式も提供してくれる。つまり、実測の反力・モーメント115から、求めようとする内力の算定の信頼度を高める情報を得ることができる。人間は、環境に存在する物体や人物との相互作用によって予期せぬ負荷や拘束運動を受けることがある。このような状況では、関節の内力と内モーメントを算定するのに必要となる動的表現が変更されることもある。このような状況で反復の実施形態を用いた応用としては、持ち上げ作業に関するバイオメカニカルな研究や、肉体的な衰えた人の日常作業を支援するような支援装置の制御に関する開発などが含まれる。当業者であれば、靴内部の力や圧力を感知する装置を、力とモーメントの各種算定に用いる感知様式の補完技術とすることができることを理解するであろう。
【0023】
<A.三次元直列連鎖システムの反復動力学的手法(Recursive Dynamics Method)>
図2は、三次元直列リンクシステムの開鎖状態のセグメントに作用する力を示す自由体の図である。このシステムには、第1のセグメント205、第2のセグメント210および第nのセグメント215が含まれる。セグメント205、210・・・215は回転関節により連結される。セグメント205、210・・・215の各セグメントは、第1の関節220、第2の関節222、第3の関節224、第nの関節226および第(n+1)の関節228により連結されるような、自由体の図として描かれている。第1のセグメント205には、第1の関節220および第2の関節222が含まれる。第2のセグメント210には、第2の関節222および第3の関節224が含まれる。第nのセグメント215には、第nの関節226および第(n+1)の関節228が含まれる。特に、第1のセグメント205と第2のセグメント210の連結については、第2の関節222が第1のセグメント205を第2のセグメント210に連結するような状態で連結されている。つまり、n個のセグメントの直列連鎖は、隣接セグメント同士をそれぞれが共有する関節で接続するようにして形成される。関節にかかる関節負荷は、関節で接続されたセグメント同士によって共有される。
【0024】
図2に示す三次元直列リンクシステムの動作は2つの座標系、つまり、空間固定座標系または慣性座標系と、各セグメントにしっかり固定されて動作に関与する運動体固定座標系とで記述される。慣性座標系および運動体固定座標のフレーム記述は、それぞれ {O} と {Bi}で表される。フレーム {O} に対する各セグメントの位置は、ベクトルXiで記述される。左上付き文字で書かれたベクトルの表記は、そのベクトルの方向にある座標を指す。例えば、iNi は、フレーム{Bi}の軸を中心とする数値を有する成分のベクトルを表している。
【0025】
【0026】
図2を参照しつつ、反復計算の事例を説明する。第nの関節226における力とモーメントを決定することにより、反復解析が第nのセグメント215からはじまる。第nの関節226において算定した力とモーメントは、反復解析の第1ステップの出力となるものである。この出力を次の関節、つまり第(n−1)関節(図示せず)の力とモーメントを算定するための入力として用いる。このように、関節の力とモーメントの反復解析は、対象の関節に到達するまで関節ごとに次々と行われる。1つの実施形態によれば、実測の床反力とモーメントは、エンドエフェクタ・セグメント(end-effector segment)と呼ばれる第nのセグメント215に作用し、第nの関節226に作用する力とモーメントを、実測の床反力とモーメントを用いて算定する。次に、第(n−1)の関節に作用する力とモーメントを、前回算定した第nの関節226に作用する力とモーメントを用いて算定する。前回の算出による出力を、現在の算出の入力として用いる作業を、対象の関節についての力とモーメントが算定されるまで繰り返し行う。当業者であれば、第1のセグメント205は、必ずしもマルチセグメント・システムにおける最終セグメントである必要はないことは理解できるであろう。むしろ、第1のセグメント205は、第1の関節220の力とモーメントを算定する場合では、反復計算が終了する対象のセグメントとなる。なお、図1の実測の反力・モーメント115は、環境との接触点に作用しており、必ずしも関節である必要はない。
【0027】
図3は、三次元直列リンクシステム内の1つのセグメントを示す自由体の図である。第iのセグメント300は、三次元直列リンクシステム内、例えば、図2にしめすようなシステムの1セグメントである。図3に示すように、第iのセグメント300は、第iの関節305および第i+1の関節310を含む。フレーム {Bi} の基点は第iのセグメントの重心点315の位置を表している。フレーム {O} に対する第iのセグメントの重心点315の位置は、ベクトル Xi で記述される。第iの関節305および第i+1の関節310の関節中心は、フレーム {O} についてそれぞれベクトル Ci とベクトル Ci+1 とで記述される。第iのセグメントの重心点315から接続点 Ci と接続点Ci+1 までのフレーム {O} における位置ベクトルは、それぞれLi,i と Li, i+1 とで記述される。第iのセグメントの重心点315に作用する重力による力は、 mig で表されるのだが、この場合、mi は第iのセグメントの重量であり、g は重量の加速度を示す3×1ベクトルである。
【0028】
<B.回転変換の記述>
【0029】
【数1】
【0030】
フレーム {O} からフレーム {Bi} への逆変換は、下の式2により与えられる。
【0031】
【数2】
【0032】
【0033】
【数3】
【0034】
H-1を下の式4を用いてさらに詳細に定義する。
【0035】
【数4】
【0036】
また、逆変換は下の式5により与えられる。
【0037】
【数5】
【0038】
Hを下の式4を用いてさらに詳細に定義する。
【0039】
【数6】
【0040】
【0041】
【数7】
【0042】
【0043】
【数8】
【0044】
<C.ニュートン・オイラー方程式の微分>
並進と回転に関する運動方程式をベクトルと行列の形態で組み合わせた特殊な記述法を用いて、ニュートンとオイラーの運動方程式を導く。これらの方程式は、第iのセグメント300だけについて導出したものであるが、この第iのセグメント300は隣接する2つのセグメントにより直列鎖を形成する。したがって、当業者であれば、以下の微分を拡張し、繰り返し適用することで、1つ以上のセグメントで形成される直列鎖あるいは分枝鎖のメカニズムにも適用可能であることを認識するであろう。さらに、多くの人体解剖モデルと同じく、各関節は、3度の並進自由度および3度の回転自由度を有するように想定している。当業者であれば、その他の関節モデルについても以下の微分を適用できることを認識するはずである。
【0045】
【0046】
重心点315を中心とする第iのセグメント300の運動を記述するニュートンとオイラーの状態空間方程式を、下の方程式9、10、11に記載する。Hemami著、「A State Space Model for Interconnected Rigid Bodies」、Automatic Control のIEEE Trans、27(2):P376−382、1982年を参照のこと。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。
【0047】
【数9】
【0048】
式9はセグメント300に作用する並進力の総和の表現を、式10は第iのセグメント300の角速度を、式11は第iの関節305と第i+1の関節310に作用するトルクの総和の表現をそれぞれ表していることは、当業者ならば理解するであろう。
【0049】
表記を単純化して、外積を避けるために、次のような任意のベクトルaとbの外積の恒等式を考慮する。なお、ティルデ・シンボル(〜)は、ベクトルの交代行列の表現を示す。
【0050】
【数10】
【0051】
【0052】
【数11】
【0053】
式11の記述を新しい表記で表すと、下の式14のようになる。
【0054】
【数12】
【0055】
式7を利用して、iNiと iNi+1 をフレーム {O} に変換すると、式14を下の式15のように表すことができる。
【0056】
【数13】
【0057】
並進運動の方程式である式9と回転運動の方程式である式15とを組み合わせて、1つのセグメントについてのニュートン−オイラーの方程式を、コンパクトな行列形式の表現にまとめる。
【0058】
【数14】
【0059】
Ui は、第iのセグメント300の第iの関節305に作用する力とモーメントを要素とするベクトルであり、 Ui+1 は、第iのセグメント300の第i+1の関節310に作用する力とモーメントを要素とするベクトルである。
【0060】
【数15】
【0061】
<D.逆動力学の課題>
逆動力学解析においては、関節に作用する力とモーメントは、実測のデータや目標の運動学データから算出する。
【0062】
【数16】
【0063】
図2を参照しつつ、第nのセグメント215から始めて、対象の関節、例えば、第iの関節305に向かうように内向きに逆動力学解析を反復して行ってもよい。逆動力学解析に従って、第nから第iの関節に作用する力とモーメントを、前記の式16から導出した下の式24を用いて繰り返し演算する。1つの実施形態によれば、各セグメント qm についての実測の一般化座標およびその微分については、Un+1で表される第nのセグメント215に作用する実測の反力とモーメントとして既知である。これらの既知パラメータを用いて、反復式24に入力する。
【0064】
【数17】
【0065】
下の式25に示すように、逆動力学的解析により、第nから第iの関節に作用する力とモーメントのベクトルUを求めることができる。
【0066】
【数18】
【0067】
<E.順動力学的解法>
本発明の各種実施形態では、人体動作を解析・合成するための制御論理手法を提供し、これにより、軌道追従制御の課題である人体動作の算定と合成を公式化する。本発明の各種実施形態によれば、順動力学モジュールに適用した場合に実測の運動学的データを再生あるいは「追従」するような力とモーメントを表す出力値を有する軌道追従コントローラを提供する。この軌道追従コントローラは、バイオメカニカル・システムに実測運動を追従させるために必要となる関節負荷を算定する。追従誤差がゼロになるように、各状態を線形化、減結合する非線系制御則を用いて目標の軌道追従を得る。このような起動追従の方法は、次の文献に説明されているように、すでに、ロボット分野においてマニュピレータ制御の目的で利用されている。Craig著、「Introduction to Robotics, Mechanics and Control」、Addison- Wesley、第2版、1989年。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。本発明の各種実施形態によれば、フィードバック線形化の概念を適用して、人体動作の解析・合成に関する関節トルクを算定する。また、本発明の各種実施形態によれば、フィードバック線形化の概念を適用して、人体動作を予測する。閉形式の演算をおこなう軌道追従コントローラについての実施形態を以下に示す。ここでは、図4を参照しつつ、軌道追従コントローラによる反復算定に関する実施形態を説明する。
【0068】
図4は、人体動作を解析・合成するための軌道追従システムに係わる1つの実施形態を示すブロック図である。図2の三次元直列連鎖システムの事例を参照しつつ、図4の軌道追従システムは次の情報を用いて、ある特定の時間における関節負荷を算定する:前回のある時点の関節負荷を用いて算出し、シミュレーション状態変数の形で表されたシミュレーション運動学データ;および、ある特定の時間の実測運動学データとその微分。図4の軌道追従システムは、軌道追従コントローラ410と順動力学モジュール425とを含んで構成される。軌道追従コントローラ410は、誤差補正コントローラ415と逆動力学モジュール420とを含んで構成される。
【0069】
[誤差補正コントローラ415]
【0070】
【0071】
シミュレーション位置データ q 470は、現時点で軌道追従が行われているシミュレーション位置データを示しており、関節負荷480、シミュレーション状態変数および(任意選択として)前回の時点における実測の反力・モーメント460を用いて算出する。なお、この説明は以下に行う。
【0072】
例示の実施形態においては、誤差補正コントローラ415は、下の式26を実装するモジュールにより構成される。誤差補正コントローラ415は、現時点における実測位置データを、現時点についてのシミュレーション位置データ470と比較して、セグメントごとに位置誤差信号eを求める。各セグメントの位置誤差信号eは、3つのオイラー角と3つの重心点座標についての位置誤差を示している。
各セグメントの位置誤差信号eは、各セグメントについての3つのオイラー角と3つの重心点座標の速度誤差を示している。
【0073】
【0074】
【数19】
【0075】
【0076】
【数20】
【0077】
パラメータ a は、0か1に設定できるスカラーパラメータである。1つの実施形態によれば、 a = 1 であり、実測加速度を使って補正加速度項を算出する。また、1つの実施形態によれば、a = 0 であり、実測加速度を無視する。
【0078】
【0079】
【数21】
【0080】
[逆動力学モジュール420]
1つの実施形態によれば、実測反力・モーメントには、三次元直列連鎖システムの拘束端部の床反力とモーメントが含まれる。実施形態のある事例によれば、現時点における関節負荷(U)480は、逆動力学モジュール420を用いて算定する。なお、ベクトルUは、事例の直列連鎖システムの1つ以上の関節の力とモーメントの行列を示す。事例の第iの関節をUiのように表してもよい。
【0081】
【数22】
【0082】
1つの実施形態によれば、逆動力学解析が行われている時点ごとに、逆動力学モジュール420では式29の制御則を繰り返し行って、直列連鎖システムの連続する関節について関節負荷を算定する。式29に示すように、逆動力学モジュール420では、第i+1の関節の関節負荷 Ui+1 を用いて隣接する第iの関節の関節負荷 Ui を算定する。このようにして、逆動力学モジュール420は、対象の第iの関節の関節負荷が決定されるまで、端部のエフェクタ・セグメントである第nの関節から繰り返し関節負荷を算定する。別の実施形態によれば、以下に詳細に説明するように、閉形式の運動学を利用して1つ以上の関節における関節負荷(U)480を算定する。逆動力学モジュール420の出力は、第iから第nまでの関節について算定した関節負荷を示しており、下の式30により与えられる。
【0083】
【数23】
【0084】
[順動力学モジュール425]
順動力学モジュール245への入力には、現時点で解析が行われている関節負荷Uが含まれる。
【0085】
【0086】
【数24】
【0087】
当業者であれば、実測の関節中心は、実測運動および人体計測から導かれることを理解するであろう。1つの実施形態によれば、実測の関節中心を回帰方程式に基づいて統計学的に求めてもよい。また、別の実施形態によれば、実測の関節中心を関数法に基づいて幾何学的に求めてもよい。
【0088】
【数25】
【0089】
1つの実施形態によれば、順動力学モジュール425は、各セグメントについて誘発された加速度の数値積分を行って、解析が行われている時点の次の時点、つまり、 t + Δt における各セグメントについてのシミュレーション状態変数(シミュレーションの位置データと速度データ)を求める。1つの実施形態では、マサチューセッツ州ナティックのマスワークス社(MathWorks, Inc.)で購入可能なMATLAB (R) ソフトウェアの積分関数を使って行う。なお、当業者であれば、積分を、ルンゲ・クッタ(Runge Kutta)法などの各種方法で行うことが可能であることは理解できるであろう。
【0090】
誤差補正コントローラ415は、逆動力学モジュール420がUで表される入力セットや制御セットを演算し、これを順動力学モジュール425に入力した場合に実測運動450を実質的に再生・追従するような、補正加速度を生成する。
【0091】
人体運動を解析する所望の時間区間について、図4の軌道追従システムは、シミュレーション運動と実測運動の間の軌道追従誤差を経時的にゼロへ近づけるようにする。こうすることで、算定した関節負荷の精度を確保することができる。1つの実施形態によれば、システムは、 t = 0 におけるシミュレーション状態変数をt = 0 における実測運動450と等しく設定することで初期化される。
【0092】
当業者であれば、前記の方程式、表現、モジュールあるいは関数は汎用コンピュータ、専用コンピュータあるいはハードウェアにより実装可能であることを理解するであろう。ある実施形態においては、ソフトウェアでプログラム可能な汎用コンピュータにより本発明の特徴を実装する。このようなソフトウェアを、プログラム指令を含むコンピュータ読み取り可能な媒体に分散させてもよい。例えば、コンピュータ読み取り可能な媒体には、コンピュータ読み取り可能なストレージボリュームが含まれる。コンピュータ読み取り可能なストレージボリュームは、公衆のコンピュータネットワーク、個人のコンピュータネットワークあるいはインターネットを経由して入手可能である。当業者であれば、プログラム指令は、ソース符号、オブジェクト符号あるいはスクリプト符号など、適切であればいかなる形態でもよいことは理解するであろう。
【0093】
図5は、本発明の1つの実施形態に係わる、所望の時間区間について人体動作の解析に用いられる軌道追従の処理を示すフローチャートである。図2の事例で説明した三次元直列連鎖システム、および図3の事例で説明した第iのセグメント300を参照しつつ、図5のフローチャートを説明する。軌道追従処理の開始500は、1つ以上のセグメントの関節における関節負荷の算定を開始する時間として選択された、初期時間 t = 0 で発生する。
【0094】
【数26】
【0095】
この処理では、直列連鎖システムの動作の解析が行われている現時点について、連鎖のセグメントごとに実測運動510を得る。当業者であれば、実測のマーカー位置を用いる統計学的手法や幾何学的手法を使って、qmで表される実測の一般化座標を得てもよいことを理解するであろう。
同様に、現時点における各セグメントについての位置追従誤差 e 520を演算する。セグメントごとに現時点における実測の位置・運動学データと現時点についてのシミュレーションの位置データ470を比較して、位置追従誤差 e を演算する。前記の通り、位置誤差信号 e は、3つのオイラー角と3つの重心点の座標についての位置誤差を表している。
【0096】
さらに、前記の式26を用いて、現時点における各セグメントについての補正加速度525を演算する。1つの実施形態によれば、スカラー a を式26においてゼロに設定して、軌道追従の処理を行っている間は加速度運動データを無視することで、力とモーメントの算定の精度を向上させる。ステップ525において演算した補正加速度を使って逆動力学解析530を行い、これによって現時点についての各関節の力とモーメントを得る。1つの実施形態によれば、逆動力学解析を行うステップ530では、式29に従って、直列連鎖システムの各関節の力とモーメントを繰り返し算定する。また、別の実施形態によれば、この逆動力学解析を行うステップでは、閉形式の解析を行って、直列連鎖システムにおける各関節の力とモーメントを算定する。さらに、閉形式の実施形態についての詳細は、以下に説明する。
【0097】
ステップ535では、順動力学解析を行って、人体動作の解析を行なおうとする次の時点における各セグメントについてのシミュレーション状態変数(シミュレーションの運動学データ)を得る。順動力学解析535の詳細については、前記の順動力学モジュール425を参照しながらすでに説明した。
【0098】
シミュレーション運動を求めたら、ステップ540において、人体運動の解析のための所望の時間区間が終了したか否かを、つまり、t = tfinal か否かを判定する。 終了していない場合は、ステップ545において、現時点の t をΔtだけ増加させて、関節負荷を算出しようとする次の時点を選択する。その後、510から540までの前記した軌道追従ステップを繰り返し、新たに選択した時点における直列連鎖システムの関節の力とモーメントを算定する。そして、人体動作を解析する所望の時間区間が終了すると、ステップ550において処理が終了する。
【0099】
<F.閉ループ誤差ダイナミクス>
本発明の各種の実施形態によれば、前記の式29により記述されるフィードバック制御則を使った人体動作の解析・合成を行う軌道追従システムを提供する。このシステムの軌道追従性能の実証にあたっては、閉ループ誤差ダイナミクス(closed loop error dynamics)を考慮することが有用である。軌道追従コントローラ410の閉ループ反応とその関連の誤差ダイナミクスは、線状システムを用いて記述してもよい。
【0100】
【数27】
【0101】
加速度を含む場合: a = 1
測定が完璧であり、数値微分の誤差がゼロという理想的な状況においては、閉ループ誤差ダイナミクスを下の微分方程式38により求めることができる。
【0102】
【数28】
【0103】
そして、式39により、実固定値および等固定値を用いて、臨界減衰の解、つまり、ゼロのサイン振動を求める。この解により、最も速い非振動反応を得ることができる。前記の通り、臨界減衰反応を達成するための Kp および Kv の関係は、前記の式27で記述した通りである。
【0104】
【数29】
【0105】
加速度を無視する場合: a = 0
a = 0 に設定することで、実測運動から算定する実測加速度を無視する。閉ループ誤差ダイナミクスは、下の非同次形微分方程式40で表現される。
【0106】
【数30】
【0107】
【0108】
微分算出誤差を組み入れる
【0109】
【0110】
【数31】
【0111】
微分計算の誤差を組み込んだ閉ループダイナミクスは、下の式42により求めることができる。
【0112】
【数32】
【0113】
式41を式42に代入して下の式43が導かれる。
【0114】
【数33】
【0115】
下の式44および式45により、a = 0 および a = 1 についての誤差ダイナミクスが与えられる。
【0116】
【数34】
【0117】
<G.開鎖および閉鎖の実施形態>
本発明の反復算定の実施形態には、開鎖システムの算定と閉鎖システムの算定が含まれる。開鎖システムは一端部のみが環境の拘束を受けており、残りの端末セグメントは自由な状態にある。また、閉鎖システムは1つ以上の端部が環境と接触している。反復算定の実施形態は、前記の図2を参照しながらすでに説明したように、第nの関節226から始まって、対象の関節、例えば、第1の関節220で終了するまで、連続する関節の関節負荷を繰り返し演算する。反復式を用いる利点は、全身をモデル化する必要がない点である。対象のセグメントが直列システムの最終セグメントであるか否かに関係なく、力とモーメントの算定を対象のセグメントで終了する。図1を参照しながら前記で説明したように、上半身105におけるパラメトリックな不確かさは、内力と内モーメントを算定する際の主な誤差要因となる。しかし、床反力板(force plate)近傍の関節モーメントのみを求める場合は、このような不確かさを避けることができる。
【0118】
本発明の反復に係る1つの実施形態においては、開鎖システムの算定を行う。開鎖システムにおいては、環境と接触する一端部を拘束端と呼ぶ。本発明の1つの実施形態においては、拘束端とは、地面やその他の支持面に接触する人体の足である。
【0119】
本発明の反復に係る別の実施形態では、閉鎖算定を行う。閉鎖システムは、環境と接触する1つ以上の端部を有する。図2を参照しつつ、第nのセグメント215の利用可能な床反力板の測定値を用いて、対象の関節における関節負荷を前記の式29により繰り返し演算する。
【0120】
II.マルチモデルの実施形態
動作の動的方程式の理想的な表現は、利用可能なセンサにより異なるため、一般に、逆動力学はマルチモーダル・センシング(multimodal sensing)の課題とみなされている。Dariush、 Hemami および Paraianpour著、「Multi-modal Analysis of Human Movement from External Measurements」、Journal of Dynamic Systems、Measurement and Control、123(2):P272−278、2002年を参照のこと。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。本発明の軌道追従システムは、センシングの各種モードを用いて実施してもよい。図6は、3つの異なるレベル構成を有する2つのセンシングモードを例示したものである。
【0121】
図6aおよび図6bは、実測運動450のみが利用可能である場合の軌道追従システムの実施形態を示すブロック図である。図6aは、直列連鎖システムを、歩容が片脚支持相(single support phase)であるような開運動連鎖としてモデル化した実施形態を示している。開鎖システムの場合、関節負荷を算定したりシミュレーション運動610を予測するのに、反力とモーメントの算定や測定の必要はない。図6bは、直列連鎖システムを、歩容が両脚支持相(double support phase)であるような閉運動連鎖としてモデル化した実施形態を示す。軌道追従システムの開連鎖と閉連鎖の実施形態については、以下に詳しく説明する。閉連鎖システムの場合、関節負荷を算定したりシミュレーション運動610を予測するには、反力とモーメントの算定や測定が必要となる。図6bに示すように、拘束モジュール615を用いて反力620を算定し、これを順動力学モジュール425へ入力する。本発明の1つの実施形態によれば、関節負荷と前時点においてシミュレーションした前回のシミュレーション運動学データを使って反力620の解析的推定を行う。例えば、前回シミュレーションした運動学データを前回の時間ステップにおいてシミュレーションする。
【0122】
図6cは、例えばモーション・キャプチャや床反力計などから得られた、実測運動450と実測の反力・モーメント460が利用可能な場合の軌道追従システムの実施形態を示すブロック図である。
【0123】
反復動力学的手法か閉形式動力学的手法かの選択は、利用可能な感知様式と用途の特殊性により左右される。例えば、閉形式の動力学は、図6bに例示すような軌道追従システムの関節負荷の算定やシミュレーション運動610の予測に適しており、実測運動450のみが利用可能な閉連鎖システムが含まれる。一方、反復動力学的手法は直列連鎖システムのパラメトリックな不確かさにはあまり敏感ではない。反復動力学的手法は、図6cに例示されるような軌道追従システムの関節負荷の算定やシミュレーション運動610の予測に適しており、実測運動および算定運動とともに反力・モーメント460が利用可能な開連鎖システムおよび閉連鎖システムが含まれる。
【0124】
III.閉形式動力学の実施形態
本発明の各種実施形態は、閉形式の運動方程式を表現する。例えば、閉形式の実施形態は、入力としてモーションキャプチャ・データのみを用いた開運動連鎖あるいは閉運動連鎖の解析に有用である。軌道追従制御を目的とする閉形式の動力学方程式は、もともとロボット関連の文献において研究が進んでおり、当業者であれば、このような方程式を、本発明の軌道追従システムに係わる人体動作の解析・合成へ容易に応用できることは認識するであろう。閉形式の動力学方程式の起源には、ニュートンの運動法則(Newtonian Mechanics)、ラグランジュの方程式(Lagrangian Formulation)、ケイン法(Kane's method)、ハミルトン法(Hamiltonian method)が含まれる。閉形式の実施形態には、閉形式の運動連鎖とともに開形式の運動連鎖も含まれる。
【0125】
<A.開運動連鎖を用いた閉形式の動力学に係る実施形態>
開運動連鎖としてモデル化された閉形式の実施形態では、モーション・キャプチャから得た運動の記述が完全であれば、十分に関節負荷の算定や予測を行うことができる。下の微分方程式46を用いて、開運動連鎖を閉形式にモデル化することができる。
【0126】
【数35】
【0127】
式46では、ベクトル q は実測の座標を、Mは慣性行列を、Hはコリオリ効果と遠心力を、Gは重力のベクトルを表す。ベクトルUは関節負荷を表す。式46とそのすべての成分ベクトルおよび行列についての詳細は、J. Craig著の「Introduction to Robotics: Mechanics and Control」、第2版、Addison ― Wesley(1989年)に記載されている。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。
【0128】
[誤差補正コントローラ]
開運動連鎖としてモデル化された閉形式の実施形態の場合、誤差補正コントローラは、下付き文字 i を取り除いた以外には、式26の反復計算を表したものと同一であり、下の式47のように記述される。
【0129】
【数36】
【0130】
[逆動力モジュール420]
開運動連鎖としてモデル化された閉形式の実施形態の場合、下の式48の制御則を用いて、式46のシステムに適用した場合に実測運動を再生するような関節負荷を算定する。
【0131】
【数37】
【0132】
[順動力学モジュール425]
開運動連鎖としてモデル化された閉形式の実施形態の場合、誘発の加速度ベクトルを下式49を用いて計算する。
【0133】
【数38】
【0134】
式48により求めた制御則の閉ループ誤差ダイナミクスは、反復の方程式で得られたものと同一である。
【0135】
<B.閉運動連鎖を用いた閉形式の動力学に係る実施形態>
両脚支持相の動作などの、閉運動連鎖としてモデル化された閉形式の実施形態の場合、拘束力の効果は動作の方程式に含まれる。閉運動連鎖としてモデル化された閉形式の実施形態に係わる動作の方程式は、下の式50により与えられる。式50では、J はヤコビ行列(Jacobian matrix)であり、F は拘束力ベクトルである。
【0136】
【数39】
【0137】
[逆動力学モジュール420]
従来技術で問題となるのが、式50のシステムに対する一意の解が、拘束力Fを測定できない場合には存在しない点である。本発明の1つの実施形態では、方程式50から項 JTF を削除することにより、制御則Uを決定する手法を提供する。ゼロ空間射影(null-space projection)を使って拘束力を除去するやり方は、すでに二足制御において用いられている。これについては、Jalics、HemamiおよびClymer著、「A Control Strategy for Terrain Adaptive Bipedal Locomotion」、Autonomous Robots、4:P243−257(1997年)に記載されている。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。
【0138】
NはJTに対して直交するため、N JT F の項はゼロになる。このようにして得られたシステムは、下の式52のように表現される。なお、b の項は下の式53のように表される。
【0139】
【数40】
【0140】
Nは一般的な平方行列ではないため、エネルギー費用の関数を最小化する擬逆行列の解を下の式54により求める。当業者であれば、エネルギー消費ではなくパラメータを用いたその他の費用関数により運動プロファイルを決定できるであろう。
【0141】
【数41】
【0142】
代替の実施形態として、関節負荷 U は、モーメントアーム行列と筋力の積を用いて表すことができる。筋肉をアクチュエータとして用いる場合には、次の文献に記載される静的最適化解法を用いて筋力を決定することができる。Crowninshield および Brand著、 「A physiologically based criterion of muscle force prediction in locomotion」、 Journal of Biomechanics, 14:793−801(1981年); Anderson および Pandy著、 「Static and Dynamic Solutions for Gait are Practically Equivalent」、 Journal of Biomechanics, 34:153−161(2001年)。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。
【0143】
[順動力学モジュール425]
運動連鎖としてモデル化された閉形式の実施形態の場合に、誘発の加速度を算出する1つの方法を下の式55に表す。
【0144】
【数42】
【0145】
拘束力 F を、状態と入力 U の関数として、下の式56を用いて算出してもよい。Hemami および Wyman著、 「Modeling and Control of Constrained Dynamic Systems with Application to Biped Locomotion in the Frontal Plane」、 IEEE Transactions on Automatic Control、 24::P526−535(1979年8月)を参照のこと。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。
【0146】
【数43】
【0147】
式56により求めた実施形態は拘束条件(hard constraint)を前提としているが、当業者であれば、ペナルティに基づく方法を含む、その他の接触のモデルを用いることで拘束力を算出できることを認識するであろう。
【0148】
IV.未知動作の合成
本発明の各種の実施形態では、順動力学モジュール420を用いて未知の動作を予測する。Anderson および Pandy著、 「Dynamic Optimization of Human Walking」、 Journal of Biomechanical Engineering, 123:381−390(2001年)を参照のこと。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。前記の通り、直列連鎖システムが所望の軌道を追従するのに必要となる関節負荷を算定するために逆動力学モジュール420を用いることができる。例えば、逆動力学モジュール420は、所望の軌道の情報に基づいて、神経筋肉系の駆動に必要な運動指令を算出する。順動力学モジュール425では、算定した関節負荷を用いて、直列連鎖システムのセグメント位置と速度データを表すシミュレーションの運動データを算出する。
【0149】
各種の予測に関する実施形態においては、順動力学モジュール425において、1つ以上のオリジナルのパラメータを変更してパラメータを補正することにより、直列連鎖システムのシミュレーション運動を予測してもよい。
逆動力学モジュール420では、オリジナルパラメータに基づいて関節負荷Uを算定し、順動力学モジュール425では、補正パラメータに基づいてシミュレーションの運動学データを予測する。
【0150】
1つの実施形態では、順動力学モジュール425を用いて、質量、慣性、長さ、重心点などのセグメントに関するパラメータを変更することで得られる運動応答を予測してもよい。別の実施形態では、順動力学モジュール425を用いて、筋肉をある部位から別の部位に移植するなどの外科的変更により得られる運動応答を予測してもよい。Piazza および DeIp著, 「Three-Dimensional Dynamic Simulation of Total Knee Replacement Motion During a Step-Up Task」, Journal of Biomechanical Engineering, 123:P589−606、2001年を参照のこと。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。更に、別の実施形態においては、順動力学モジュール425を用いて、システムに負荷を加えることにより得られる運動応答を予測してもよい。システムに対して負荷を加える例としては、セグメントの1つにバックパックを付与するような外的負荷がある。
【0151】
1つの実施形態によれば、図6aは、順動力学モジュール425を使って、入力として実測運動450が利用可能な開連鎖システムについてシミュレーション運動610を予測するような軌道追従システムを示している。本発明の軌道追従システムでは、開連鎖システムについて反力・モーメントを測定したり予測する必要がない。別の実施形態によれば、図6bは、順動力学モジュール425を使って、入力として実測運動450が利用可能な閉連鎖システムについてのシミュレーション運動610を予測するような軌道追従システムを示している。図6bのシステムに係わる1つの実施形態では、順動力学モジュール425へ入力するための反力・モーメント115(図1参照)を予測する。拘束モジュール615では、前記の式56を使って順動力学モジュール425へ入力する反力620を予測する。
【0152】
本発明の1つの実施形態によれば、反復動力学の手法を用いて未知の動作を予測する。直列連鎖システムを、図6aで説明した開運動連鎖としてモデル化する本発明の別の実施形態によれば、閉形式の動力学の手法を用いて未知の動作を予測する。
【0153】
直列連鎖システムを、図6bで説明した閉運動連鎖としてモデル化する本発明の別の実施形態によれば、閉形式の動力学の手法を用いて未知の動作を予測する。本実施形態の1つの事例を示すために、前記の式56を参照しつつ説明したように、関節負荷480およびシミュレーション運動610を用いて、反力620を解析的に算定する。本実施形態の別の事例を示すために、前記の式51から式54を参照しつつ説明したように、ゼロ空間射影の手法を用いて関節負荷480を決定する。
【0154】
V.開連鎖システムのシミュレーション
実測データを用いて導いたシミュレーションには、関節の力とモーメントを算定する軌道追従システムの実施形態に係わる軌道追従システムの効果が示される。なお、実験的に得た実測データについてのシミュレーション動作は、人体の歩容のサイクルである。
【0155】
図7は、シミュレーションで用いられた、4つのセグメントの3次元の下肢モデルを表す自由体の図である。4つのセグメントは、骨盤セグメント745、太腿セグメント750、脛セグメント755および足セグメント760からなる。股関節705は、骨盤セグメント745と大腿セグメント750とを接続する。膝関節710は、大腿セグメント750と脛セグメント755とを接続する。足首関節715は、脛セグメント755と足セグメント760とを接続する。図7は、股関節705、膝関節710および足首関節715への関節負荷を示している。さらに、図7には、大腿セグメント750、脛セグメント755および足セグメント760についてセグメントパラメータも示めされている。関節負荷とセグメントパラメータを示すために用いられる変数は、すでに、図2および図3を参照しつつ詳細に説明されている。
【0156】
<A.実験的な実測歩容データ>
モーション・キャプチャと床反力計のデータを含む標準的な容歩の測定値は、次の文献から得たものである。Vaughan、DavisおよびO'Connor著, 「Dynamics of Human Gait, Kiboho Publishers」、 南アフリカ、 ケープタウン、 第2版、1999年 (「Vaughan」)。なお、この文献に記載されるすべての内容をここに引用する。ヘレンヘイズ(Helen Hayes)のマーカセットから得た記録動作と一連の人体計測を用いて、Vaughanの統計学的な回帰方程式に基づいて、人体のセグメントパラメータと関節中心を決定した。
【0157】
一般に、オイラー角は、関節体間の相対的な回転運動を表すものであるが、関節動作の解剖学的に意味のある記述を表すものではない。同様に、関節の反力とモーメントも、解剖学的に意味のある情報をもたらすものではない。そこで、Vaughanによる人体の歩容解析の方法を用いて、解剖学的に意味のある運動を示した。GroodおよびSuntay著、「A Joint Coordinate System for the Clinical Description of Three-Dimensional Motions」: Application to the Knee、 Journal of Biomechanical Engineering、 105:P136−144、1983年を参照のこと。
【0158】
<B.図7の下肢システムについての軌道追従システムの方程式>
図4の軌道追従システムに関する方程式を、図7の下肢システムについて表現する。
【0159】
[逆動力学モジュール420]
1つの実施形態によれば、逆動力学モジュール420では、式29に基づいた反復処理を行う。足首715の関節負荷 U4 から始まり、膝710の関節負荷 U3 から股705の関節負荷 U2についての力とモーメントのバランスを算定するために必要な式を、下の式57に記述する。
【0160】
【数44】
【0161】
逆動力学モジュール420の出力は、3つの関節すべてについての力・モーメントを含んだベクトルであり、下の式58のように表現される。
【0162】
【数45】
【0163】
[誤差補正コントローラ415]
前記式26から、誤差補正コントローラ415についての方程式は、下の式59、式60、式61により与えられる。
【0164】
【数46】
【0165】
誤差補正コントローラ415の出力は、下の式62に示すような配列である。
【0166】
【数47】
【0167】
[順動力学モジュール425]
【0168】
【数48】
【0169】
【数49】
【0170】
【0171】
【数50】
【0172】
動作に関する前記式における個々の行列を、足セグメント760、脛セグメント755および大腿セグメント750について、下の式66、67、68のようにそれぞれ記述する。
【0173】
(足セグメント760)
【0174】
【数51】
【0175】
(脛セグメント755)
【0176】
【数52】
【0177】
(大腿セグメント750)
【0178】
【数53】
【0179】
<C.シミュレーション結果>
図8、9、10は、1つの実施形態に係わる歩容の完全なサイクルを求めるために、シミュレーションの関節角の軌道と実測の関節角の軌道を比較したものである。
各種の実施形態によれば、順動力学モジュール425における数値積分のサンプリング率を低減し、およびまたはフィードバックゲインを増加させることにより、軌道追従性をさらに向上させることができる。当業者であれば、サンプリング率を低減するには、オリジナル信号を高周波で再サンプリングする必要があることを認識するであろう。軌道追従性能を向上させる1つの方法としては、三次スプラインを用いて実測運動データを高周波で再サンプルする方法がある。オイラー法などの一次元数値積分法により好適な結果を得られることが観察された。
【0180】
図11、12、13において、従来の逆動力学的解析法を用いて求めた足首関節715、膝関節710および股関節705のそれぞれの関節モーメントを、本発明に係わる順動力学的手法によるそれらと比較した。そこでは、追従誤差が最小化される場合には、順動力学的解法が逆動力学的解法に迫っていることが観察できる。
【0181】
本発明は各種形態にて実施可能であり、ここに記載される実施形態のみに限定するものではない。むしろ、これらの実施形態は、開示を完全にするためのものであり、また、当業者が本発明を完全に理解できるように提示したものである。さらに、記載される装置および方法は剛体のみに限定するものではない。
【0182】
特定の実施形態および用途を例示して本発明を説明したが、本発明は、ここに開示された厳密な構成および構成要素のみに限定されるのではなく、本発明の付属の請求項に定義される技術的な思想と範囲を逸脱しない限りにおいて、各種の修正、変更あるいは変形を、構成、運用、本発明の方法および装置の詳細について行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】本発明の1つの実施形態に係わる反復の実施形態を用いて、下半身の運動が上半身の運動から分離されている様子を示している。
【図2】本発明の1つの実施形態に係わる三次元直列リンクシステムの開鎖状態のセグメントに作用する力を示す自由体の図である。
【図3】本発明の1つの実施形態に係わる三次元直列リンクシステム内の1つのセグメントを示す自由体の図である。
【図4】人体動作を解析・合成するための、本発明の1つの実施形態に係わる軌道追従システムを示すブロック図である。
【図5】所望の時間区間についての人体動作の解析に用いられる、本発明の1つの実施形態に係わる軌道追従の処理を示すフローチャートである。
【図6】aは、直列連鎖システムを開運動連鎖としてモデル化した、本発明の1つの実施形態に係わる軌道追従システムのブロック図である。bは、直列連鎖システムを閉運動連鎖としてモデル化した、本発明の1つの実施形態に係わる軌道追従システムを示すブロック図である。cは、実測運動と実測の反力・モーメントが利用可能な場合の、本発明の1つの実施形態に係わる軌道追従システムを示すブロック図である。
【図7】本発明の1つの実施形態に係わるシミュレーションで用いられた、4つのセグメントの3次元の下肢モデルを表す自由体の図である。
【図8】本発明の1つの実施形態に係わる歩容の完全なサイクルを求めるために、シミュレーションの足首関節角の軌道と実測の足首関節角の軌道を比較したものである。
【図9】本発明の1つの実施形態に係わる歩容の完全なサイクルを求めるために、シミュレーションの膝関節角の軌道と実測の膝関節角の軌道を比較したものである。
【図10】本発明の1つの実施形態に係わる歩容の完全なサイクルを求めるために、シミュレーションの股関節角の軌道と実測の股関節角の軌道を比較したものである。
【図11】従来の逆動力学的解析法を用いて求めた足首の関節モーメントを、本発明に係わる順動力学的手法によるそれらと比較したものである。
【図12】従来の逆動力学的解析法を用いて求めた膝の関節モーメントを、本発明に係わる順動力学的手法によるそれらと比較したものである。
【図13】従来の逆動力学的解析法を用いて求めた股の関節モーメントを、本発明に係わる順動力学的手法によるそれらと比較したものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに基づいてセグメントのシミュレーション運動学データを自動的に予測する方法であって、
オリジナルのパラメータに基づいたオリジナル運動学データを少なくとも使って補正加速度を決定するステップと、
前記補正加速度を少なくとも使ってセグメントの関節についての関節負荷を算定し、さらに、この関節負荷を前記オリジナルのパラメータを使って算定するステップと、
1つ以上の補正パラメータに基づいて前記セグメントについてのシミュレーション運動学データを予測し、このシミュレーション運動学データを、前記関節負荷を少なくとも使って予測するステップからなる
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記セグメントは3次元であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記セグメントは2次元であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記補正加速度を決定する前記ステップは、
前回の時間においてシミュレーションした前回のシミュレーション運動学データと前記オリジナル運動学データとの差を示す誤差値を決定し、
この誤差値にフィードバックゲインを与えることを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記オリジナル運動学データは、少なくとも位置運動学データを含み、
前記前回のシミュレーション運動学データは、少なくとも前回のシミュレーション位置データを含み、
前記誤差値は、前記前回のシミュレーション位置データと前記位置運動学データとの差を示す位置追従誤差を含む
ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記オリジナル運動学データは、少なくとも速度運動学データを含み、
前記前回のシミュレーション運動学データは、少なくとも前回のシミュレーション速度データを含み、
前記誤差値は、前記前回のシミュレーション速度データと前記速度運動学データとの差を示す速度追従誤差を含む
ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記関節負荷を算定するステップは、1つ以上の連続する関節における1つ以上の連続する関節負荷を使って前記関節負荷を繰り返し算定することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記関節負荷を算定するステップでは、閉形式の運動学的手法を用いることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記セグメントは、開運動連鎖の一部であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記セグメントは、閉運動連鎖の一部であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記閉運動連鎖の反力は、少なくとも関節負荷と前回の時間においてシミュレーションした前回のシミュレーション運動学データとを用いて解析学的に算定することを特徴とする請求項10に記載のコンピュータに基づいてセグメントのシミュレーション運動学データを自動的に予測する方法。
【請求項12】
前記関節負荷を算定するステップでは、ゼロ空間射影の手法を用いることを特徴とする請求項10に記載のコンピュータに基づいてセグメントのシミュレーション運動学データを自動的に予測する方法。
【請求項13】
前記セグメントについてのシミュレーション運動学データを予測するステップは、
前記セグメントについての誘発の加速度を決定し、
前記誘発の加速を積分することで前記セグメントについてのシミュレーション運動学データを決定することをさらに含む
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
オリジナルのパラメータに基づいたオリジナル運動学データを少なくとも使って補正加速度を決定する第1の決定手段と、
前記補正加速度を少なくとも使ってセグメントの関節についての関節負荷を算定し、さらに、この関節負荷を前記オリジナルのパラメータを使って算定する手段と、
1つ以上の補正パラメータに基づいて前記セグメントについてのシミュレーション運動学データを予測し、このシミュレーション運動学データを、前記関節負荷を少なくとも使って予測する手段とを備える
ことを特徴とするセグメントのシミュレーション運動学データを予測するシステム。
【請求項15】
前記セグメントは三次元であることを特徴とする請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記セグメントは二次元であることを特徴とする請求項14に記載のシステム。
【請求項17】
前記補正加速度を決定する前記第1の決定手段は、
前回の時間においてシミュレーションした前回のシミュレーション運動学データと前記オリジナル運動学データとの差を示す誤差値を決定し、この誤差値にフィードバックゲインを与える第2の決定手段をさらに備える
ことを特徴とする請求項14に記載のセグメントのシミュレーション運動学データを予測するシステム。
【請求項18】
前記セグメントについてのシミュレーション運動学データを予測する手段は、
前記セグメントについて誘発の加速度を決定する第2の決定手段と、
前記誘発の加速度を積分することにより、前記セグメントについてのシミュレーション運動学データを決定する第3の決定手段をさらに備える
ことを特徴とする請求項14に記載のシステム。
【請求項1】
コンピュータに基づいてセグメントのシミュレーション運動学データを自動的に予測する方法であって、
オリジナルのパラメータに基づいたオリジナル運動学データを少なくとも使って補正加速度を決定するステップと、
前記補正加速度を少なくとも使ってセグメントの関節についての関節負荷を算定し、さらに、この関節負荷を前記オリジナルのパラメータを使って算定するステップと、
1つ以上の補正パラメータに基づいて前記セグメントについてのシミュレーション運動学データを予測し、このシミュレーション運動学データを、前記関節負荷を少なくとも使って予測するステップからなる
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記セグメントは3次元であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記セグメントは2次元であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記補正加速度を決定する前記ステップは、
前回の時間においてシミュレーションした前回のシミュレーション運動学データと前記オリジナル運動学データとの差を示す誤差値を決定し、
この誤差値にフィードバックゲインを与えることを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記オリジナル運動学データは、少なくとも位置運動学データを含み、
前記前回のシミュレーション運動学データは、少なくとも前回のシミュレーション位置データを含み、
前記誤差値は、前記前回のシミュレーション位置データと前記位置運動学データとの差を示す位置追従誤差を含む
ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記オリジナル運動学データは、少なくとも速度運動学データを含み、
前記前回のシミュレーション運動学データは、少なくとも前回のシミュレーション速度データを含み、
前記誤差値は、前記前回のシミュレーション速度データと前記速度運動学データとの差を示す速度追従誤差を含む
ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記関節負荷を算定するステップは、1つ以上の連続する関節における1つ以上の連続する関節負荷を使って前記関節負荷を繰り返し算定することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記関節負荷を算定するステップでは、閉形式の運動学的手法を用いることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記セグメントは、開運動連鎖の一部であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記セグメントは、閉運動連鎖の一部であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記閉運動連鎖の反力は、少なくとも関節負荷と前回の時間においてシミュレーションした前回のシミュレーション運動学データとを用いて解析学的に算定することを特徴とする請求項10に記載のコンピュータに基づいてセグメントのシミュレーション運動学データを自動的に予測する方法。
【請求項12】
前記関節負荷を算定するステップでは、ゼロ空間射影の手法を用いることを特徴とする請求項10に記載のコンピュータに基づいてセグメントのシミュレーション運動学データを自動的に予測する方法。
【請求項13】
前記セグメントについてのシミュレーション運動学データを予測するステップは、
前記セグメントについての誘発の加速度を決定し、
前記誘発の加速を積分することで前記セグメントについてのシミュレーション運動学データを決定することをさらに含む
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
オリジナルのパラメータに基づいたオリジナル運動学データを少なくとも使って補正加速度を決定する第1の決定手段と、
前記補正加速度を少なくとも使ってセグメントの関節についての関節負荷を算定し、さらに、この関節負荷を前記オリジナルのパラメータを使って算定する手段と、
1つ以上の補正パラメータに基づいて前記セグメントについてのシミュレーション運動学データを予測し、このシミュレーション運動学データを、前記関節負荷を少なくとも使って予測する手段とを備える
ことを特徴とするセグメントのシミュレーション運動学データを予測するシステム。
【請求項15】
前記セグメントは三次元であることを特徴とする請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記セグメントは二次元であることを特徴とする請求項14に記載のシステム。
【請求項17】
前記補正加速度を決定する前記第1の決定手段は、
前回の時間においてシミュレーションした前回のシミュレーション運動学データと前記オリジナル運動学データとの差を示す誤差値を決定し、この誤差値にフィードバックゲインを与える第2の決定手段をさらに備える
ことを特徴とする請求項14に記載のセグメントのシミュレーション運動学データを予測するシステム。
【請求項18】
前記セグメントについてのシミュレーション運動学データを予測する手段は、
前記セグメントについて誘発の加速度を決定する第2の決定手段と、
前記誘発の加速度を積分することにより、前記セグメントについてのシミュレーション運動学データを決定する第3の決定手段をさらに備える
ことを特徴とする請求項14に記載のシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2008−532572(P2008−532572A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552186(P2007−552186)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/001250
【国際公開番号】WO2006/078553
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/001250
【国際公開番号】WO2006/078553
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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