直径10〜20μmのマイクロスフェアを含む非経口組成物
本発明は、例えば標的器官又は標的組織の上流に投与する場合、製剤化した活性成分を特定の組織及び/又は器官(複数可)に標的化するのに適した医薬製剤、及び治療における該製剤の使用、該製剤を投与する治療方法、並びに該製剤の調製方法に関する。本発明の医薬製剤は、標的組織への非経口投与用であり、活性成分及び生分解性賦形剤を含有する粒子を含み、粒子の90%以上が直径10〜20μmを有し、製剤を標的組織の上流に投与する場合、活性成分が標的組織を通過して体循環に入る能力を制限するように、該製剤は直径50μmを超える粒子及び直径5μm未満の粒子を実質的に含まない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば標的器官又は標的組織の上流に投与する場合、製剤化された活性成分を特定の組織及び/又は器官(複数可)に標的化するのに適した医薬製剤に関する。本開示はまた、治療における該製剤の使用、該製剤を投与する治療方法、及び該製剤の製造方法に関する。
【0002】
特に、様々な増殖因子及びサイトカインを使用して、標的組織への活性化合物の局所送達用デバイス、例えばカテーテルを用いて内在幹細胞集団を活性化することによって、固形組織の本来備わっている再生能を刺激する。
【背景技術】
【0003】
大部分の薬剤/医薬品は、例えば経口的に、静脈内に、ワクチンにより、筋肉内などにより、全身投与する。明らかな例外は、活性成分で被覆したステント、肺に直接送達される一部の吸入製剤、標的領域に向けた一部の放射線治療、並びに局所投与される一部の皮膚科、眼科及び耳鼻科的治療である。
【0004】
とはいえ、適切な場合に、医薬品を主に罹患組織又は罹患器官に送達可能であることは有利である。なぜならば、これにより、必要な用量が低減し、且つ副作用が最小限にもなるからである。こうしたアプローチは、医療の2つの主要領域にとって特に有利である。a)特定の組織において内在幹細胞の増殖及び分化を活性化可能である増殖因子及びサイトカインの投与。これらの分子の潜在的な生物学的活性のため、それらの作用を対象組織に限定し、体の他の部分への流出が最小限であるか又は全くないことが望ましい。b)癌化学療法剤の送達。癌組織を特異的に標的化することができれば、少なくとも有意な程度にまで、該薬剤の恐ろしい毒性副作用を最小限に抑制しながら、標的細胞へより高用量の投与が可能となるかもしれないためである。
【0005】
より急性状態、例えば心臓発作及び卒中では、損傷器官を特異的に標的化することができれば、より良い治療、特に損傷組織の再生に関する治療が可能であるかもしれない。慢性状態、例えばパーキンソン病、糖尿病、又は肺線維症では、欠損細胞種(複数可)を再構成可能な薬剤の局所投与により、疾患の予後が改善する可能性がある。
【0006】
しかし、活性成分の標的組織又は標的器官への治療上有効な方法での再現可能な送達は、用いる成分(賦形剤を含む)、それらの物理的特性、用量及び送達方法に大きく影響を受ける。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、活性成分及び生分解性ポリマー賦形剤を含有する粒子を含む、標的組織への非経口投与用、特に動脈内投与用医薬製剤を提供する。ここで、製剤を標的組織の上流に投与する場合、活性成分が標的組織を通過して体循環に入る能力を制限するように、粒子の30%以上が25μm以下の直径を有し、製剤は直径50μmを超える粒子を実質的に含まない。つまり、活性成分は標的組織に保持され、一方で標的組織を通過して体循環に入る能力は大きく制限されているか、又は全くない。
【0008】
従って、本発明の特定の態様において、心臓組織への非経口投与用医薬製剤が提供され、該医薬組成物は活性成分及び生分解性賦形剤を含有する粒子を含み、製剤を標的組織の上流に投与する場合、活性成分が標的組織を通過して体循環に入る能力を制限するように、粒子の90%以上が10〜20μmの直径を有し、製剤は直径50μmを超える粒子及び直径5μm未満の粒子を実質的に含まない。一実施形態において、医薬発明の粒子の少なくとも90%が15〜20μmの直径を有する。
【0009】
本発明の一態様において、心臓組織への非経口投与用、例えば動脈内投与用の医薬製剤が提供され、該医薬組成物は、HGF及びIGF-1からなる群より選択される活性成分と生分解性賦形剤を含有する粒子とを含み、製剤を心臓組織の上流に投与する場合、活性成分が心臓組織を通過して体循環に入る能力を制限するように、粒子の90%以上が10〜20μmの直径を有し、製剤は直径50μmを超える粒子及び直径5μm未満の粒子を実質的に含まない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は成体ブタ心臓におけるc-kit陽性心臓細胞の分布及び特性解析を示す。
【図2】図2は様々な増殖したブタ心臓細胞を示す光学顕微鏡像を示す。
【図3】図3はGF処置したブタ心臓のH&E染色を示す。
【図4】図4は内在性CSCの活性化の証拠を示す。
【図5】図5は小さい新生細胞の再生帯を示す。
【図6】図6は新生組織の様々な像を示す。
【図7】図7は実施例1のように調製したIGF-1を有するPLGA粒子の光学顕微鏡像を示す。
【図8】図8は実施例1のように調製したIGF-1を有するPLGA粒子の電子顕微鏡像を示す。
【図9】図9はブタ心臓の切片を示す。
【図10A】図10Aはポリスチレンマイクロスフェア又はPLGA及び増殖因子マイクロスフェアの投与後のブタ心筋の切片を示す。
【図10B】図10Bはポリスチレンマイクロスフェア又はPLGA及び増殖因子マイクロスフェアの投与後のブタ心筋の切片を示す。
【図10C】図10Cはポリスチレンマイクロスフェア又はPLGA及び増殖因子マイクロスフェアの投与後のブタ心筋の切片を示す。
【図11】図11は内在性心臓幹細胞を強調したブタ心臓の切片を示す。
【図12】図12は対照及び損傷した大腿四頭筋の組織学的像を示す。
【図13A】図13Aは、AMI後2種類のマイクロスフェアの組み合わせで処置したブタで再生した心筋細胞数における効果を比較する。
【図13B】図13Bは、マイクロスフェアの様々な組み合わせで処置したブタの心エコー検査により決定した、AMI前、AMI直後、及びAMI4週間後の左心室駆出分画率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本開示の製剤は、標的組織又は標的器官の上流の動脈血中に投与する場合、循環により、及び粒径と分布滞留(distribution lodge)のために、標的組織又は標的器官に運び込まれる。つまり、直径約5〜10μmの組織又は器官の毛細血管にトラップ又は捕捉される。毛細血管に留まり血流を遮断する粒子は一般に望ましくないが、特に、製剤が非常に低用量の治療薬の使用を可能にする場合に、本開示の製剤によって影響を受ける毛細血管数は比較的少ない。さらに、生分解性賦形剤は融解、溶解、分解され、又はなんらかの方法で活性成分からそれ自体を分離し、最終的に「遮断」が解除される。従って、粒子の動きは、短期間の後に毛細血管を自然の状態に復帰させる可逆過程である毛細血管中の滞留によって制限される/遅延する。粒子の動きを短期間遅延させることによって、局所作用又は組織の血管外スペースへの活性成分の吸収を促進するのに適切な期間にわたり、標的付近に活性成分を維持することが可能となる。
【0012】
製剤は、全てではないが大部分の活性成分を粒子から放出し、標的組織血管床に固定化するように設計する。活性成分の積み荷(load)を放出すると、粒子は分解され、全身循環へと放出される構成材料は肝臓及び/又は腎臓によって代謝又は除去されるように設計する。
【0013】
本開示は、活性成分及び生分解性賦形剤を含有する粒子を含む、標的組織への非経口投与用医薬製剤を提供し、製剤を標的組織の上流に投与する場合、活性成分が標的組織又は標的器官に治療効果のある期間にわたり保持されるように、粒子の30%以上は25μm以下の直径を有し、製剤は直径50μmを超える粒子を実質的に含まない。
【0014】
活性成分の大部分は体循環に取り込まれずに標的組織に保持されるため、特に、本開示の製剤により、使用する活性成分の量の低下が可能となる。このことにより、活性成分の治療域が拡大するように思われる。つまり、治療上活性となる成分の用量範囲が拡大し、投与する絶対量の低下が可能となる。より低用量の局所投与は、副作用を最小限に抑えられる可能性が高いことを意味する。
【0015】
適切な用量は、例えば0.05μg/Kg〜約10μg/Kgの範囲内、例えば0.1μg/Kg〜約0.5μg/Kg、特に0.15、0.2、0.25、0.35、0.4又は0.45μg/Kgである。
【0016】
治療効果のために局所的に低用量を投与することは、強力な分子、例えば腫瘍形成を刺激する可能性があることが知られている増殖因子において特に重要である。正しい状況では治療上有利な効果をもたらすにもかかわらず、これらの潜在的に有害な副作用は、このような分子の有用性を制限する。
【0017】
本開示の製剤は、活性成分が結合したポリスチレン、シリカ又は他の非生分解性ビーズを含むマイクロスフェアを使用しない。なぜならば、持続的な弾性物質、すなわち非生分解性物質、例えばポリスチレン及びシリカは局所的な毛細血管に損傷を引き起こす可能性があり、異物として作用して局所炎症反応を引き起こし得るからである。さらに、そのような非生分解性ビーズは、最終的に体循環へと侵入し、ひいては、例えば肺及び肝臓などの遠位組織に蓄積する可能性があり、これらは全て望ましくない。
【0018】
一般に、各粒子は活性成分及び賦形剤を含む。製剤についての記載が、単純な混合物における活性成分の別個の粒子及び生分解性ポリマーの別個の粒子を意味することは意図しない。
【0019】
上に用いるように「50μmを超える粒子を実質的に含まない」とは、米国薬局方及び/又は欧州薬局方に定められた非経口製剤として投与する基準を満たす製剤を意味することを意図する。
【0020】
一実施形態において、「実質的に含まない」とは、該粒子の5%未満、特に1%未満、例えば0.5%未満、例えば0.1%未満を含有することを含んでよい。
【0021】
一実施形態において、粒子の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、例えば少なくとも99%が25μm以下の直径を有する。
【0022】
一実施形態において、粒径は6〜25μmの範囲内、例えば10〜20μm、特に15〜20μmであり、例えば粒子の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、例えば少なくとも99%が関連する粒径又は前記範囲内にある。従って、本発明の一実施形態において、医薬組成物の粒子の少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%が10〜20μmの直径を有する。別の実施形態において、医薬組成物の粒子の少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%が15〜20μmの直径を有する。
【0023】
一実施形態において、製剤は、直径1μm未満の粒子を含有しない。
【0024】
一実施形態において、製剤は、直径5μm未満の粒子を含有しない。
【0025】
一実施形態において、活性成分を有する粒子の少なくとも30%が投与後標的組織に保持され、例えば活性粒子の少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、例えば少なくとも80%又はそれ以上が保持される。
【0026】
一実施形態において、活性粒子は標的組織又は標的器官に、5分〜24時間、例えば30分〜5時間、例えば1、2、3又は4時間にわたり保持される。
【0027】
製剤が関連組織又は関連器官に保持される期間は、主に、使用する賦形剤又は賦形剤の組み合わせによって異なる。従って、in vivoで賦形剤に求める特性は以下の通りである:
・生体適合性であり(すなわち、一般に非毒性であり、ヒト及び/又は動物への投与に適し)、
・投与後適切な時間枠内で、例えば標的組織又は標的器官の毛細血管又は細動脈に留まることによって、粒子の動きを遅延させるのに十分な粒子完全性(particle integrity)を維持するのに寄与し、そして
・活性成分を放出するために、及び活性成分を放出した後に、生体により生分解可能である(すなわち、処理又は代謝可能である)。
【0028】
従って、本開示での使用に適する生分解性ポリマー賦形剤は、in vivoで長い滞在時間を有さないポリマー又はコポリマーであり、すなわち、ポリスチレン、ポリプロピレン、高密度ポリエテン(polyethene)及び同様の特性を有する物質などの物質を含まない。生分解性ポリマーは非毒性であり、且つ賦形剤由来の循環する断片/残屑の量を最小限に抑えるように、非毒性サブユニットに好ましくは局所的に分解されなければならない。
【0029】
好適な賦形剤は米国薬局方(USP)に見出すことができ、無機及び有機、天然及び人工ポリマーを含む。例としては、ポリ乳酸、ポリグリコリド(polygycolide)又はそれらの組み合わせ、すなわちポリ乳酸-グリコール酸コポリマー(polylactic co-glycolic acid)、ポリカプロラクトン(ポリ乳酸-グリコール酸コポリマーより生分解速度が遅い)、ポリヒドロキシ酪酸、又はそれらの組み合わせなどのポリマーを挙げることができる。ポリウレタン、多糖、タンパク質及びポリアミノ酸、炭水化物、キトサン(kitosane)、ヘパリン、ポリヒアルロン酸なども好適であり得る。賦形剤は一般に、活性成分が結合することができる、あるいは活性成分が会合するか又は組み込まれる近似球(マイクロスフェア)である粒子の形態である。
【0030】
リポソームは、本開示の意味において、生分解性ポリマー賦形剤ではない。リポソームは、一般にコレステロールを含むリン脂質二重層の小胞である。動脈硬化によって誘導される心筋梗塞などの疾患では、疾患の危険因子の1つとしてコレステロールレベルをモニターし、それ故、そのような患者へのコレステロールを含有する製剤の投与は避けることが賢明かもしれない。さらに、肝硬変を有する患者は、脂質及び食物脂肪の代謝障害が悪化している可能性があり、従って、そのような患者へのリポソームの投与は賢明でないかもしれない。
【0031】
一実施形態において、生分解性賦形剤はヒドロゲル(対応するコロイド分散相の連続相)ではない。
【0032】
従って、活性成分の「放出」速度及び粒子の「溶解」速度は、賦形剤及び/又は賦形剤への活性成分の結合方法を変更することによって変更することができ、そのため、例えばポリカプロラクトンの使用は、ポリ乳酸-グリコール酸コポリマーを用いる対応する粒子より溶解又は分解に長時間かかる粒子をもたらす。活性成分を賦形剤内に組み込む場合、粒子の表面にある場合よりゆっくり放出される。表面に存在し静電荷により結合する場合、共有結合の場合より速く放出される。
【0033】
一実施形態において、賦形剤はポリ乳酸-グリコール酸コポリマーを含む。
【0034】
一実施形態において、実質的に全ての粒子、例えば粒子の80、85、90、95、96、97、98、99又は100%がポリ乳酸-グリコール酸コポリマーを含む。
【0035】
一実施形態において、ポリ乳酸-グリコール酸コポリマーはそれぞれ75:25の比である。
【0036】
一実施形態において、賦形剤は2種以上の異なるポリマーを含む(ポリマーという用語にはコポリマーが含まれる)。
【0037】
一実施形態において、賦形剤には、アクリレートポリマー、例えばメタクリレートポリマーが含まれてよい。
【0038】
一実施形態において、粒子はアルギン酸塩を含む。
【0039】
一実施形態において、賦形剤はポリウレタンの生分解性形態を含む。
【0040】
一実施形態において、賦形剤はマイクロスフェアの形態である。
【0041】
一実施形態において、本開示は、ポリビニルアルコールマイクロスフェア製剤を使用する。
【0042】
一実施形態において、マイクロスフェアはアルブミンでない。
【0043】
一実施形態において、使用する活性成分(複数可)は、例えばオイドラギット(Eudragit)範囲から選択される生分解性被覆内に封入する。
【0044】
一実施形態において、1種以上の活性分子を粒子内に封入する。
【0045】
本開示に記載するように活性化合物が機能するため、これらを、サイズ、形態及び組成のために、血流とともに移動し標的組織に到達する微粒子として循環に投与する必要がある。標的で、粒子は活性成分の積み荷を制御可能な方法で放出すべきである。この目的を達成するために、荷を降ろしたら、粒子は分解され、その成分は代謝されるか、又は生体の通常の排出機構によって除去されるように体循環へと運ばれるべきである。
【0046】
これらの目的を達成するために、微粒子は以下の特徴を満たすべきである。
【0047】
微粒子は、確実に、循環系の設計したレベルで到達し、留まるために、均一な粒径及び形態であるべきである。粒径及び形態の均一性は、粒子が球状である場合により良く制御される。
【0048】
大部分の毛細血管床は、直径<6μmの粒子を自由に通過させ、本開示のマイクロスフェアは直径>6μm、好ましくは約15μmを有するべきである。直径20μm以上の範囲の粒子は、前毛細血管細動脈(pre-capillary arteriole)又は細動脈に留まり、一度にいくつかの毛細血管の血流を遮断する。従って、それらは微小梗塞を引き起こす可能性がある。従って、再生治療の送達において、最も好適なマイクロスフェアの直径は、15μmの範囲である。しかしながら、さらに、直径5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、16、17、18、19、20、21、22、23、24及び25μmを有する粒子は本発明における使用が想定される。
【0049】
標的に到達した場合に活性化合物を放出するのに要する時間は、マイクロスフェアの種類及び治療目的に応じて、数分〜数日そして数週にさえ及び得る。
【0050】
マイクロスフェアは、生分解性且つ非毒性化合物で作製するべきである。粒子の安定性及び分解時間は、マイクロスフェアの組成及び種類に依存する。分解し始める前に、積み荷を送達するように設計してもよい。あるいは、粒子が分解しながら積み荷の送達が起こるように設計してもよい。
【0051】
賦形剤として使用するポリマーの性質、そのサイズ、モノマー間の結合の不安定性、及び架橋結合の程度は、もしあれば、活性成分の放出速度、並びに粒子の安定性及び分解性に影響を与える。
【0052】
全ての実施形態において、マイクロスフェアは、循環に投与する間及び標的血管床に到達するのに要する時間の間、実質的に壊れないか、又は分解しないように、溶液中で十分に安定であるべきである。
【0053】
本開示の好適な実施形態において、各粒子は、単一の種類の活性化合物を有する。化合物の混合物が治療目的に有益であると考えられる場合、微粒子の混合物(各微粒子は単一の種類の化合物を積載する)を投与してよい。この設計は、治療用化合物の製造を単純化し、治療の柔軟性の増大をもたらし、それにより、患者の個別の具体的なニーズを迅速に満たす、個々に応じた医薬の製造が可能となる。
【0054】
一実施形態において、使用する粒子(複数可)は、1種類の活性分子のみと結合する。
【0055】
一実施形態において、使用する粒子(複数可)は、混合物、例えば2、3又は4種類の活性分子と結合する。
【0056】
活性化合物は、粒子上に、その形成時に積載してよく、並びに例えば粒子中に分散してよい。
【0057】
活性化合物は、賦形剤がマイクロスフェアの殻を形成する場合、粒子の内部に封入してよい。
【0058】
一実施形態において、活性成分(複数可)は粒子(複数可)に共有結合し、例えばポリペプチド又はタンパク質は、アルデヒド、例えばホルムアルデヒド又はグルタルアルデヒド処理により、例えば活性成分(複数可)、適切なアルデヒドの存在下でマイクロスフェア(又はマイクロスフェアの成分)を乳化し、必要な粒径の粒子の形成に適した条件下で混合物をホモジネートすることにより、架橋結合を介してマイクロスフェアに結合する。あるいは、活性成分は賦形剤マイクロスフェア上に存在するカルボキシレート基に結合してもよい。
【0059】
一実施形態において、活性成分(複数可)は静電力(電荷)によって粒子(複数可)に結合する。
【0060】
一実施形態において、活性成分(複数可)は、高分子電解質、例えば水溶液中にナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン及び/又はカルシウムイオンを塩化物対イオンとともに含む高分子電解質を介して粒子(複数可)に結合する。
【0061】
一実施形態において、活性成分(複数可)は高分子電解質の層間で粒子(複数可)に結合する。
【0062】
活性化合物は、電荷(静電力)又は共有結合によって粒子の表面に積載してよい。一実施形態において、活性成分(複数可)は静電荷により粒子に結合する。
【0063】
一実施形態において、活性成分(複数可)は高分子電解質によって、例えば電荷により活性成分が結合する、粒子を覆っている高分子電解質の殻によって、粒子に結合する。
【0064】
活性化合物は、粒子の表面に単一の層を形成してよく、あるいは連続して又は高分子電解質層により分離して多層で沈着してもよい。
【0065】
活性化合物は、一方には賦形剤マトリックスと、そしてもう一方には活性化合物と結合する「リンカー」によって粒子に結合してよい。これらの結合は静電的又は共有結合性であってよい。
【0066】
微粒子は、例えば凍結乾燥によって安定化し得る。微粒子は、凍結した場合にも安定化し得る。
【0067】
一実施形態において、賦形剤は数分〜数時間の範囲で迅速に、又はより長期間、例えば数週〜数ヶ月にわたって分解される。
【0068】
一実施形態において、製剤は、体循環に入ると、1種以上の活性成分を例えば1〜30分から約1〜12時間の範囲の期間内に迅速に放出するものである。
【0069】
一実施形態において、本開示は、制御放出又はパルス放出で製剤を供給するために用いてよい粒子の混合集団、つまり様々な「溶解」速度を有する粒子に関する。
【0070】
従って、本開示の製剤は、様々な放出速度及び分解速度を有する粒子を含むことができる。
【0071】
一実施形態において、活性成分は1〜24時間にわたって放出される。
【0072】
一実施形態において、活性成分は1日〜7日間にわたって放出される。
【0073】
従って、1つ以上の実施形態において、本開示の全ての製剤は、投与の7日以内に代謝される。
【0074】
一実施形態において、個体の体循環に入ると、活性成分(複数可)は数週〜数ヶ月の期間にわたり、例えば1週間から1、2、又は3ヶ月にわたり非常にゆっくり放出される。
【0075】
一実施形態において、粒子の集団はよく特徴付けられており、例えば同じ特徴を有する。つまり各粒子の物理的及び/又は化学的特性は狭い一定範囲にある。
【0076】
一実施形態において、マイクロスフェアの粒径は単分散している。
【0077】
従って、一実施形態において、製剤の粒子は小さい標準偏差の平均粒径を有し、例えば粒子の少なくとも68%が平均の+/-1μmの粒径を有し、例えば粒子の99%が平均の+/-1μmの粒径を有する(例えば15 +/- 1μm)。さらに、粒子が、平均の+/-1μm以内にある少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、又は少なくとも98%の粒子を有する組成物が、本発明により想定される。
【0078】
一実施形態において、製剤は、少なくとも2つの異なる種類の粒子を含有することを特徴とする粒子の集団を含み、例えば異なる粒子は、異なる活性成分、被覆、粒径又はこれらの組み合わせを有してよい。
【0079】
一実施形態において、本開示は、活性成分の粒子を1種以上の別の異なる活性成分の粒子と混合して含む、粒子の混合集団に関する。
【0080】
製剤の粒径及び粒子分布は、組織中で製剤がどのように分布するかといった、製剤のin vivoプロファイルに影響を与えるようである。単に平均粒径を10〜20μmの範囲内にするだけでは不十分なようである。なぜならば、これは、一部の粒子がはるかに大きい粒径を有すること、そしてまた、はるかに小さい粒径を有することを許容するからである。例えば小さい粒子は関連組織に保持されず、大きい粒子は組織に損傷を与える得ることから、この変動はin vivoで問題を引き起こす可能性がある。
【0081】
使用する活性成分:賦形剤の量は、必要とする放出プロファイルに応じて、1%:99% w/w、5%:95% w/w、10%:90% w/w、20%:80% w/w、30%:70%w/w、40%:60%w/w、50%:50%w/w、60%:40%w/w、70%:30%w/w、80%:20%w/w又は90%:10%w/wの比であってよい。活性成分をin vivoで迅速に又は即時に放出する必要があれば、賦形剤に対する活性成分のより高い比率を選び得る。
【0082】
一実施形態において、使用するマイクロスフェアは約16時間の半減期を有する。
【0083】
一実施形態において、製剤は凍結乾燥している。
【0084】
別の実施形態において、製剤は凍結している。
【0085】
本開示の粒子は感知できる程に磁性ではない。
【0086】
活性成分は、本開示に従って粒子の形態で投与し得る任意の薬剤又は医薬品であってよい。
【0087】
一実施形態において、15 x 106個の粒子(マイクロスフェア)を投与する。例えば14 x 106、13 x 106、12 x 106、11 x 106、10 x 106、9 x 106、8 x 106、7 x 106、6 x 106、5 x 106、4 x 106、3 x 106、2 x 106又は1 x 106個の粒子を投与する。
【0088】
粒子が必要な機能を発揮するのに十分な期間にわたって構造を維持するならば、本明細書で使用する粒子は、例えば、別個の粒子として製剤化した微粉化薬物(micronized drug)、半固体の又は水和した物質、例えばタンパク質又は生物学的に誘導された活性成分を含んでよい。粒子の外部完全性(external integrity)がin vivoで機能を発揮することができるものであるならば、本開示はまた、液体コアを有する粒子にも拡張する。本開示は気体コアを有する粒子まで拡張しない。
【0089】
マイクロスフェアは、ポリマー溶液を乳化させ、その後、溶媒を蒸発させることによって製造することができる。他の例では、モノマーを乳化させ、その後、熱重合又はUV重合する。あるいは、ポリマー溶解を乳化させ、その後、冷やして液滴を固化させる。乳化物のサイズ低下は、バルクを均質化又は超音波分解することによって得ることができる。マイクロスフェアは、反応混合物のろ過及び/又は遠心によって回収することができる。
【0090】
様々な医薬化合物及び治療用高分子の制御放出及び標的化送達のためのバイオポリマーの生分解性マイクロスフェア及びマイクロカプセルは、多くの形態で、特に本開示に記載するように比較的大きな直径の形態で長い間知られている(D.D. Lewis “Biodegradable polymers and drug delivery systems” M. Chasin and R. Langer, 編 (Marcel Dekker, New York, 1990); J.P. McGeeら, J. Control. Release 34:77, 1995を参照)。
【0091】
マイクロスフェア及びマイクロカプセルは、通常、機械的−物理的方法によって、例えば成分モノマーをそのサイズの微液滴に噴霧し、その後、乾燥又は重合ステップによって製造する。そのような微粒子はまた、乳化とその後の乳化性溶剤の除去によって形成することができる(B. Miksaら, Colloid Polym. Sci. 273: 47, 1995; G. Crottsら, J. Control. Release 35:91, 1995)。これらの方法の主要な課題は、形及びサイズにおいて、粒子の単分散集団を製造することである。これは、例えば、キャピラリー噴霧器を用いて適切なサイズの微液滴を形成するフローフォーカシング(flow focusing)の技術を使用して達成することができる。この工程では、微粒子成分を溶解/懸濁する役目を果たす回収溶液/溶剤中に成分を浸漬し、その後、固化した微粒子を生じるように溶剤を蒸発させる。
【0092】
この工程は、微粒子の全成分を混合して、微粒子を形成する微液滴が生成する単一の混合物(フォーカスされる(focused)化合物)とすることを要する場合がある。薬物送達に用いるポリマーの多くは疎水性であるのに対し、大部分の治療用高分子及び特にタンパク質は親水性であるため、均質な組成物を確実に得るために、微粒子を形成する前に混合物は乳化を要する。
【0093】
あるいは、粒子は、例えば対流電流中で、正味電荷を有するノズルから反対電荷を有するプレート又は物質に向けて陽極/陰極タイプの配置で、活性成分の溶液をマイクロスフェア中に吸入することによって製造してよい。
【0094】
一実施形態において、使用する粒子は、正味電荷、例えば正電荷又は負電荷を有する。これは、例えば標的組織又は標的器官において粒子の動きを遅延させるのに役立つかもしれない。この正味荷電は、投与後標的組織内に保持されない小さな、例えば5μm未満の対イオン球(例えば活性成分を有さない)によって、投与する製剤中で相殺されるだろう。
【0095】
一実施形態において、活性成分は生物学的分子又はそれから誘導される分子、例えばタンパク質、例えば抗体若しくは増殖因子、サイトカイン又は物質の組み合わせである。
【0096】
特に、本開示の製剤は、関連組織に見られる内在幹細胞を標的化/活性化するのに特に有用である。
【0097】
ある好ましい実施形態において、特定の組織又は器官の再生を刺激するため、本開示を使用して、該組織又は器官の内在幹細胞、前駆細胞及び/又は前駆体細胞を活性化する。
【0098】
一実施形態において、本開示は、生後組織に存在する幹細胞によって発現される受容体に対するリガンドを、同組織の再生の開始のため局所投与することに関する。リガンドは、例えば、本明細書に記載するように増殖ホルモンであってよい。
【0099】
一実施形態において、リガンドは、各標的組織に存在する最も未分化な幹細胞上に存在する受容体を活性化するために投与する。これらの細胞は、いわゆる「多能性遺伝子(multipotency gene)」、例えばOct 4、Sox2、Nanogなどを発現し、それらは潜在的な再生能を有する(以降、Oct4発現幹細胞として知られる)。
【0100】
一実施形態において、リガンドは、例えば心筋梗塞によって生じた組織損傷を最小限に抑制する、及び/又は再生するために、心臓に投与する。
【0101】
動脈が閉塞する場合、主な影響は、閉塞の下流にある組織の損失である。冠動脈閉塞の特有の結果は、心筋の一部の不可逆的な損失をもたらす心筋梗塞(MI)である。この損失は、心筋の収縮能及び心臓のポンピング能の低下を引き起こし、重大な場合には、適切な心拍出量をもたらす能力を制限し、個人の能力の重大且つ進行性の制限をもたらす(Nadal-Ginardら, Circ. Res. 2003; 92:139に概説されている)。
【0102】
米国及びEUだけで、毎年150万件を超えるMIが治療され、1100万人を超えるMIの生存者がいる(American Heart Association, 2007; British Heart Association, 2007)。これらのうち、30%超が梗塞後最初の年の間に亡くなる。MI後の生存は、虚血事象による梗塞のサイズ(損失した筋肉量の%)に大きく依存する。損失が左心室重量の約40〜45%に影響する場合、一様に致命的である不可逆的心原性ショックをもたらす(Pageら, 1971. N. Engl. J. Med. 285; 133)。この部分的心筋損失は、アポトーシスによる細胞死の増加、生存筋細胞の肥大、組織の線維化の増加、そして心室腔拡張を伴う、残った心筋の再組織化を引き起こす(Pfeffer, M.A. & Braunwald, E., 1990. Circulation 81:1161)。この再組織化(「リモデリング」として知られる)は、収縮性に対する負の影響のため、心不全(CF)に発展することが多い。MI後の最初のCFの発症後、平均生存期間は<5年であり、年間死亡率約18%である(American Heart Association, 2000)。
【0103】
虚血又は他の原因による実質組織の損失を治療するための大部分又は全ての治療法は、生存組織の機能の保存又は改善に関する。MIの場合、心臓収縮筋の損失の結果を治療するために現在使用されている全ての治療法は、生存組織の収縮機能の保存又は増進、並びにアポトーシス若しくはネクローシスによるこれらの筋細胞の継続的損失の低下に関する(Anversa & Nadal-Ginard, 2002. Nature 415:240; Nadal-Ginardら 2003. Circ. Res. 92:139を参照)。現在、MIで損失した筋細胞を再生又は置換し、こうして心臓の収縮機能を回復させるように設計された治療法は1つも承認されていない。さらに、現在までに記載されている全ての実験的アプローチは、ほとんどの場合、直接的又は間接的に損傷領域に増殖因子、例えば血管内皮増殖因子(VEGF)をタンパク質形態又はcDNA形態で送達することによって、毛細血管ネットワークの増加を刺激することによる虚血領域/壊死領域への血流の改善に関する。血管障害によって損失した実質及び微小循環をともに再生するために、内在幹細胞を複製し分化するよう刺激する、組織中の内在幹細胞に関する治療法は1つもない。
【0104】
急性MIへの治療的アプローチの目的は、さらなる筋肉損失を防ぐためにできるだけ早く、損傷した筋肉への血流を回復することである。これらの再かん流治療としては、血管溶解剤、バルーン血管形成術又はバイパス術の使用がある。米国では、1998年に500,000件を超える血管形成術及びほぼ同数の手術的バイパスが行われた。これらの治療法は虚血筋への血流の回復に成功することが多いが、治療介入時にすでに損失している筋細胞を1つも置換することはできない。この損失が大きい場合、長期的結果として、必要な心拍出量を生成することができず、無情にも末期的心不全へと発展する。
【0105】
現在まで末期的心不全を効果的に治療する唯一の選択肢は、あらゆる医療上(免疫抑制治療)、運搬上及び経済上の問題を伴う心臓移植であった。これらの問題を回避することができたとしても、ドナー不足により、この治療法は1%を超える心不全の患者に利用可能となっている。
【0106】
本開示の製剤により、例えば動脈閉塞により損傷した組織を再生するため、再生する組織にすでに存在する幹細胞を刺激することによって、心臓などの組織又は器官に特異的に標的化可能な形態で投与する、治療活性を有する分子の投与が可能となる。
【0107】
組織再生のための幹細胞治療
近年、対象の器官又は組織が損失した細胞の一部を置換することを標的とした、器官移植の代替法としての実験的アプローチが開発されている。これらの手法は半世紀を越えて行われている骨髄移植の成功を手本にしている。免疫適格個体に移植すると、骨髄中の細胞の小集団が全ての血液細胞種を生成することができる能力によって、成体組織が生成能を有する「幹細胞」を含有し、組織又は器官全体を再生することが説得力をもって証明された。この概念的ブレイクスルーによって、治療対象の個体から単離した(自己細胞治療)又は受容する個体とは異なる個体から単離した(異種細胞治療)様々な種類の幹細胞を使用して損傷組織を修復する実験的アプローチの開発に至った。これらの細胞は、大量に単離するか、又は移植前にまず培養液で増殖させて、損傷組織の所望の修復を引き起こす。これらの細胞治療アプローチは、組織再生のために幹細胞の本来の再生特性を利用する。
【0108】
「幹細胞」という用語は、本明細書では、自己複製(self-renewal)特性を有し(自己に似た多くの細胞を生成し)、クローン形成性である(clonogenic)(単一細胞から開始して増殖可能である)細胞を特定するために用い、且つそれは多能性(pluripotent)である。つまり、それらが属する組織中に存在することが多い、異なる細胞種に分化する子孫を生み出すことができる。つまり、幹細胞に由来する細胞は、幹細胞が由来する又は移植される組織又は器官に特徴的な特別な細胞の特殊化を獲得する(Stem Cells: A Primer. 2000. National Institutes of Health USA)。
【0109】
「多能性」という用語は、数多くの様々な細胞種に分化する能力を有する細胞を指す。本出願において、「四能性(tretrapotent)」という用語は、全能性(totipotent)(個体全体を生成する能力を有する)ではないかもしれないが、4つの異なる細胞種、例えば心筋細胞、血管内皮及び平滑筋細胞、並びに結合組織線維芽細胞を生成する能力を有する細胞を指す。
【0110】
「前駆細胞」という用語は、特定の分化経路にすでに入っており、従って幹細胞より限られた分化能を有する、幹細胞の子孫を指す。前駆細胞は高い増殖能を有し、まだ分化マーカーを発現していないが、それ自体より分化した子孫を生み出す能力を有する。例えば、その用語は、未分化細胞を指してよく、又は最終的な分化の手前まで分化した細胞を指してもよい。この細胞は増殖能を有し、より多くの前駆細胞を生じることができ、従って、次々に分化した娘細胞又は分化可能な娘細胞を生じ得る多くの母細胞を生成する能力を有する。特に、前駆細胞という用語は、例えば、胚細胞及び胚組織の進行性多様化に現れるように、完全に個別な特徴を獲得することによってその子孫がしばしば様々な方向に特殊化する、一般的母細胞を指す。前駆細胞は、それが由来する幹細胞の多分化能(multipotency)をすでにいくらか制限しているため、真の幹細胞より分化している。
【0111】
本明細書で用いる場合、異なる指摘がない限り、幹細胞とは、幹細胞、前駆細胞及び/又は前駆体細胞を指す。
【0112】
細胞の分化は、典型的には多くの細胞分裂を介して生じる複雑な過程である。分化した細胞は、それ自体が多能性細胞などに由来する、多能性細胞に由来し得る。これらの多能性細胞はそれぞれ幹細胞とみなしてよいが、それぞれが生成可能な細胞種の範囲は大幅に変化し得る。一部の分化した細胞はまた、より高い発生能を有する細胞を生成する能力を有する。そのような能力は本来もっているものであってよく、又は、最近iESC(誘導された胚性幹細胞)で実証されたように、様々な因子の処理により人工的に誘導されたものであってもよい(Takahashiら, 2007.Cell 131:1-12)。
【0113】
「前駆体細胞」は、分化経路をさらに進み、この細胞種について同定可能なマーカーをまだ発現していないかもしれないが単一の細胞種への分化に入っている、前駆細胞の子孫である。前駆体細胞は、通常、同定可能な分化した表現型を発現する前の、増殖の最後の1ラウンドを経験している細胞である。
【0114】
幹細胞は、胚盤胞の内細胞塊、初期胚の生殖隆起、胎盤、及びヒトをはじめとする成体動物の組織の大部分に存在する。胚盤胞の内細胞塊に由来する幹細胞と異なり、一般に、成体組織から単離された幹細胞は、真の幹細胞、前駆細胞及び前駆体細胞と最終分化の初期段階にある細胞との混合物である。成体幹細胞は、現在、3種類の胚性細胞層(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)のそれぞれに由来する事実上全ての組織(骨髄、中枢神経系及び末梢神経系、あらゆる結合組織、皮膚、腸、肝臓、心臓、内耳などに及ぶ)で同定されている。
【0115】
これらの成体幹細胞は再生能を有するようである。驚くべきことに、全ての先進国における虚血性心臓病の高い罹患率、重大性及び莫大な経済的費用にも関わらず、最近まで、成体の心筋の再生を標的とした方法の探索は行われていなかった。この異常性の理由の一つは、ごく最近まで、心臓はその収縮細胞が内在性再生能を持たない最終分化した器官であると考えられていたことである(MacLellan, W. R. & Schneider, M.D. 2000. Annu Rev. Physiol. 62:289; Reinlib. L. and Field, L. 2000. Circulation 101:182; Pasumarthi, K.R.S. and Field, L.J. 2002. Circ. Res. 90:1044; MacLellan, W.R. 2001. J. Mol. Cell Cardiol. 34:87; Perin, E.C.ら 2003. Ciculation 107:935; Anversa, P. and Nadal-Ginard, B. 2002. Nature 415:240; Nadal-Ginard, B.ら 2003 Circ. Res. 92:139を参照)。この考えは、成体の心臓では、心筋細胞の大部分は最終分化しており、細胞周期に再び入る能力は不可逆的に阻害されているという実験的によく実証された事実に基づいていた。従って、これらの筋細胞が再生し、新たな筋細胞を生成することはできないということに疑いはない。
【0116】
心筋が再生能を持たない組織であるという浸透している考えの一つの結果は、これまでに実施された全てのいわゆる実験的「再生治療」が、梗塞中に損失した細胞を置換するため、胎児の筋細胞か、あるいはこの細胞種又は毛細血管及び微細動脈に分化する能力があると考えられている様々な細胞種を、損傷した心臓内に導入することに基づいていることである。こうして、胎児及び成体の骨格筋前駆体細胞、胎児心筋細胞、及び胚性幹細胞を、未分化状態で又は心筋細胞経路へ運命決定した後に移植する動物実験が行われてきた(Kocherら, 2001. Nature Med. 7: 430)。
【0117】
自家移植可能な骨格筋前駆体細胞(心臓細胞に変化する能力がなく、心筋細胞と電気的に共役することができない)(Menascheら, 2001. Lancet 357: 279; C Guoら 2007. J Thoracic and Cardiovasc Surgery 134:1332)を例外として、記載した全ての他の細胞種は異種由来の必要性があり、従って、免疫抑制治療を伴う必要があり、さもなくば移植物が速やかに免疫系によって除去される。実際のところ、これらのアプローチはいずれも前臨床アッセイにおいてあまり有効ではないことが示されており、全て多くの危険を有する。
【0118】
一部の成体幹細胞の最も興味深い特徴の一つは「可塑性」である。この特性は、一部の幹細胞をそれが由来する組織とは異なる組織内に置くと、この新しい環境に適応し、ドナー組織ではなく宿主組織に特徴的な細胞種に分化することができるという事実を指す。多くの細胞種についてこの可塑性の程度及び性質はいまだ議論の余地があるが(Wagers & Weissman, 2004.Cell 116:636-648; Balsamら, 2004 Nature 428, 668-673; Murrayら, 2004. Nature 428, 664-668; Chien, 2004. Nature 428, 607-608)、それにより、数え切れないほど多くの前臨床プロトコール及び臨床試験が生み出された。
【0119】
これまでに記載された成体幹細胞の中で、骨髄由来のものが最もよく研究され、より高い「可塑性」が示されている(Kocherら, 2001. Nature Med. 7: 430)。また広く用いられているのは、脂肪組織に由来するいわゆる「間葉系幹細胞」である(Rangappa, Sら 2003. Ann. Thorac Surg 75:775)。
【0120】
骨髄及び脂肪組織に由来する幹細胞が異なる組織及び器官の損傷領域を再増殖(re-populate)させる能力、そして単離の相対的容易性は、Asaharaら(1999; Circ. Res.85: 221-228)の以前の研究とともに、実験動物(Orlicら 2001. Nature 410:701; Orlicら, 2001. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:10344; Nadal-Ginardら, 2003. Circ. Res. 92:139)及びヒト(Tseら, 2003. Lancet 361:47; Perinら, 2003. Circulation 107:2294)において心筋に再生するための細胞治療の対象として有利であることを示している。一部から疑問視されているものの(Balsam,L.B.ら 2004. Nature 428: 668; Murry,C.E.ら 2004. Nature 428: 664)、骨髄由来の幹細胞は、ある条件下で、特に実験的心筋梗塞の境界領域に移植すると、心筋細胞、毛細血管及び微細動脈を生成する能力があることは明らかである(Quaini, F.ら, 2002. New Engl. J. Med. 346:5; Bayes-Geis, A.ら, 2003. Cardiovasc. Res.56:404;; Bayes-Genis, A.ら, 2004. Eur. J. Heart Fail. 6:399; Thiele, H.ら, 2004. Transplantation 77:1902)。評価のために利用可能な信頼できる組織病理学的データがないために、骨髄又は脂肪組織に由来する幹細胞を用いた細胞治療の数多くの臨床試験から利用できる同様の情報はない。
【0121】
心筋細胞治療に使用する技術の主な欠点は、細胞移植法自体の複雑性及び非効率性である。冠動脈樹を介して細胞を移植する場合、3〜5%のみが心筋に留まり、残りは全身に広がる。細胞を心筋に直接注入する場合、標的領域を特定するために、開胸術、又は複雑且つ時間のかかる器具(ノガ(Noga)タイプのシステム)の使用を要する。この技術は専門の操作者を必要とし、専門の医療センターで利用できるにすぎない。さらに、心筋内注入は、経心内膜(ノガ)経路でも、又は経心外膜(手術)経路でも、組織に50%未満の細胞を送達する。
【0122】
例外なく、実験動物又はヒトにおいて心筋梗塞後の心筋再生を引き起こす、現時点までに使用されたあらゆる細胞治療アプローチは、心筋が、内在幹細胞が示す内在性再生能を有するという事実を完全に無視して開発されている(Nadal-Ginard, B.ら, 2003. J. Clin. Invest. 111:1457; Beltramiら, 2003. Cell 114:763-776; Torella, D.ら, 2004. Circ. Res. 94:514; Mendez-Ferrer, S.ら,2006. Nature Clin. Prac. Cardiovasc. Med. 3 Suppl 1:S83; Torellaら, 2007. Cell. Mol. Life Sci. 64:661)。
【0123】
上に記載したように、最近まで、受け入れられていたパラダイムは、成体哺乳動物の心臓を再生能を持たない有糸分裂後(post-mitotic)の器官と見なしていた。過去数年にわたりこの考えは進化し始めているものの、心筋再生に対するあらゆる実験的及び臨床的アプローチは引き続き古いドグマに基づいている。このため、全ての心臓再生プロトコールは、再生能を有する細胞を心筋に供給するための細胞移植に基づいている。
【0124】
本開示の製剤を適切な条件下で投与すると、組織又は器官(例えば心臓)に存在する「幹細胞」の本来備わっている再性能が刺激又は活性化され、組織又は器官を再生することができると思われる。
【0125】
従って、一態様において、本開示は、再生対象の生後組織に存在する幹細胞が発現する受容体に対するリガンドの局所送達を含む、ヒトをはじめとする生体哺乳動物における固形組織の再生方法を提供する。これらは、生理学的又は薬理学的に刺激するとin situで倍化し、それらが存在する組織又は器官に特徴的な実質細胞に分化する細胞である。
【0126】
新たな心筋細胞の形成は、正常心臓及び病的状態、例えばMI及び心不全で見られている(Beltrami, A. P.ら, 2001. New Engl. J. Med. 344:1750; Urbanek, K.ら, 2003. Proc. Netl. Acad. Sci. USA. 100:10440; Nadal-Ginard, B.ら, 2003. J. Clin. Invest. 111:1457; Nadal-Ginard, B.ら, 2003. Circ. Res. 92:139)。興味深いことに、これらの新たな筋細胞はMIの境界領域で有意により多く存在し、そこでは年齢を適合させた健康な個体の心筋よりも一桁多く存在している。これらの観察は、成体ヒト心筋が、死んだ筋細胞を置換しようとする再生過程の失敗を伴いながら、急性的及び慢性的な細胞死の増加に応答する能力を有することを示唆した(Anversa, P. & Nadal-Ginard, B. 2002. Nature 415: 240; Anvrsa, P. and Nadal-Ginard, B. 2002. New Engl. J. Med. 346:1410; Nadal-Ginard, B.ら, 2003. Circ. Res. 92:139)。
【0127】
成体の心臓幹細胞(CSC)は2003年に初めて記載され(Beltramiら 2003. Cell 114:763-776)、何人かの著者によって同種及び他種において確認された(Torella, D.ら, 2004. Circ. Res. 94:514; Mendez-Ferrer, S.ら, 2006. Nature Clin. Prac. Cardiovasc. Med. 3 Suppl 1:S83; Torellaら, 2007. Cell. Mol. Life Sci. 64:661を参照)。これらのCSCは、心筋細胞、内皮及び平滑筋血管細胞、並びに結合組織線維芽細胞を生成するため、自己複製し、クローン形成性であり、且つ多能性である。それらは、幹細胞に関連する膜マーカー、例えばc-kit(SCFに対する受容体)、Sca I、MDR-1及びIsl-Iの発現によって同定された。成体の心臓で形成された新たな筋細胞が、心筋に存在するCSCに由来することは現在明らかである。これらのCSCは、梗塞の境界に注入すると、重症なMIの結果として損失した収縮細胞及び微小血管系を再生する能力を有する(Beltramiら, 2003. Cell: 114:763-776; Laugwitzら 2005; Mendez-Ferrerら, Torellaら, 2006; Torellaら, 2007)。
【0128】
健康な個体の心臓では、ほぼ全てのCSCは、生物の生存期間中、静止状態(G0)にあるか、又は非常にゆっくりと周期している。任意の時点で、これらの細胞のごくわずかな一部のみが活性であり、消耗により死んだ細胞を置換するのに十分なだけ複製及び分化を経ている。対照的に、CSCの多く(大部分であることもある)は、生理的又は病理的ストレスに応答して活性化する。一般に、ストレスの大きさと、応答して活性化するCSC数との間には直接的な相関がある。この活性化したCSC数は、生成した新たな心筋細胞数とも同じく直接的に相関する。マウスからヒトにまで生じるこの応答により(Nadal-Ginard, B.ら, 2003. Circ. Res. 92:139)、CSCの活性化をもたらす、ストレスが誘引となる生化学的経路の存在が明らかになっている。
【0129】
内在幹細胞とその環境とのコミュニケーションは、少なくとも心筋では、心拍出量における生理的又は病理的要求の増大によって生じる壁張力の変化を感知する、心筋細胞間のフィードバックループによって調節されており、幹細胞は、新たな収縮細胞及びそれらに栄養を与える微小循環の生成によって、筋量の増加をもたらす役割を担う。筋細胞は、生理的又は病理的に関係なく、ストレスに対して画一的に応答する(Ellisonら, 2007. J. Biol. Chem. 282: 11397-11409)。この応答とは、一連の増殖因子とサイトカイン、中でも例えばHGF(肝細胞増殖因子)、IGF-1(インスリン様増殖因子1)、PDGF-β(血小板由来増殖因子β)、FGF(線維芽細胞増殖因子)ファミリー、SDF-1(ストロマ細胞由来因子1)、VEGF(血管内皮増殖因子)、エリスロポエチン(EPO)、上皮増殖因子(EGF)、アクチビンA及びTGFβ(トランスフォーミング増殖因子β)、WINT3A及びニューレグリン(neurogeulin)の発現及び分泌の速やかな活性化にある。この分泌応答は、オートクリン/パラクリンループを介して筋細胞自体の肥大を刺激することに加えて、周辺のCSCの活性化も誘発する。なぜならば、これらの細胞は、これらの筋細胞が分泌した因子に対する受容体を発現しており、それらに応答するからである。この応答は、細胞生存、複製及び分化に関与する受容体の下流の遺伝経路を活性化する。さらに、これらの受容体の活性化は、CSCによる各リガンドの生成を刺激する、CSC自体におけるフィードバックループも活性化し、ひいては、単一の刺激に応答して、数週間又は生成した量の増加が心筋壁張力を正常レベルに回復させるまで活性状態を維持し得る自立応答状態に置く。従って、CSCは、一時的な刺激に対する持続的応答の維持を可能にするオートクリン/パラクリン応答で、パラクリン刺激に応答する。従って、正常な心臓細胞恒常性は、必要な血液心拍出量を生成するのに要する適切な収縮筋量を生成し維持するための、筋細胞とCSCとの持続的フィードバックを介して維持される。筋細胞は、分裂することはできないが、細胞数の維持又は増加のためにCSCに依存し、酸素及び栄養供給を保証するために毛細血管密度に依存する。CSCは、一方で、静止状態対活性状態を調節するために周囲の筋細胞が生成する生化学的刺激に依存し、応答する。
【0130】
上記した組織特異的幹細胞に加えて、本発明者らは最近、ヒトをはじめとする哺乳動物の心筋が、大部分の他の組織と同様に、長い間多能性である(つまり、適切な環境に置くと、単一の細胞が、それが由来する生物と同一の生物全体を生じる能力を有する)ことが知られてきた胚性幹細胞(ESC)と多くの類似点を有する非常に未分化な細胞の小集団を含有することを見出した。これらの細胞の主な特徴は、これらの細胞に多能性を付与する一連のいわゆる「多能性遺伝子」、例えばOct4、Sox2、Nanogなど(米国仮出願第61/127,067号を参照)の発現であり、そのため、由来する組織とは独立に、体の全てではないにしても大部分の細胞種を生成する能力を有するようである。特に、成体の心臓から単離されたOct4発現細胞は、平滑筋、神経、心臓、肝臓などを生成する能力を有する。それらの再生能は、組織特異的幹細胞の再生能より堅固且つ広範であるように思われる。
【0131】
本発明者らは、Oct4発現細胞が、各器官の全てではないにしても大部分の組織特異的幹細胞の起源であり、その刺激が、各組織の再生能の主な供給源であると考えている。従って、これらの細胞の刺激が、本明細書に記載する治療的アプローチの主要な標的である。
【0132】
心筋細胞を生成する能力及び/又は効率とは独立に、多数の幹細胞を組織に導入する場合、由来する組織にかかわらず、それらは、実験的に証明されているように心筋及び他の組織へ移植すると、重要なパラクリン作用を有する。移植した細胞が生成する増殖因子及びサイトカインの複合混合物は、危険性がある領域で心筋細胞及び他の細胞に対して、並びに複製し筋細胞及び微小血管系へ分化する内在性幹細胞の活性化においても、潜在的な抗アポトーシス作用を有する。このパラクリン作用は、細胞移植の直後に始まり、in vitroで実証することができる。
【0133】
本明細書の実施例で行った実験から、組織(この場合には心筋)の内在幹細胞(Oct4発現細胞を含む)を刺激するために、ストレスを与えた筋細胞が生成し、CSCが応答する増殖因子及びサイトカインは、再生応答を誘発する細胞移植以上に効果的である可能性があると思われる。インスリン様増殖因子1及び肝細胞増殖因子の組み合わせは、特に効果的であるかもしれない。
【0134】
一実施形態において、内在幹細胞は、例えば組織の再生を刺激するため、筋密度及び/又は標的細胞の細胞機能を増大させるために活性化する。
【0135】
標的細胞が心筋である場合は、機能の増大は、例えばより優れた/増大した収縮機能である。
【0136】
標的細胞が腎細胞である場合は、腎不全の腎臓の患者では、機能の増大はEPOを生成する能力の増大である。
【0137】
標的細胞が膵臓細胞である場合は、機能の増大はインスリンを生成する能力の増大である。
【0138】
本開示の製剤は「成熟組織」に内在する幹細胞を刺激/活性化することができると思われ、それにより、内在幹細胞が刺激され、有糸分裂を経て増殖するために、患者に「幹細胞」治療を投与する必要性を除去する。
【0139】
内在幹細胞の刺激は血管形成とは異なる。血管形成とは、毛細血管(組織又は腫瘍にあってよい)の増殖を刺激する過程である(Husnain, K.H.ら 2004. J. Mol. Med. 82:539; Folkman, J., and D’Amore, P.A. 1996. Cell 87:1153を参照)。一方、適切なリガンドを使用する本開示の製剤を投与すると、組織に存在する幹細胞、例えば多能性細胞、前駆細胞及び/又は前駆体細胞が活性化され、新たな/さらなる組織細胞、例えば筋細胞を生成する。
【0140】
これまでに記載されたあらゆる再生アプローチには、生物学的標的の性質、使用する再生剤及び/又は投与経路と投与方法のために、厳しい制限がある。大部分のいわゆる再生治療は、様々な生物学的因子、例えば血管内皮増殖因子(VEGF)(その主な役割は、毛細血管ネットワークを拡張し血液供給を改善するために、損傷組織中の生存内皮細胞の増殖を刺激することである)を用いて虚血心筋の毛細血管ネットワークを再生することに関するものである(Isner, J.M. and Losordo, D.W. 1999. Nature Medicine 5:491; Yamaguchi, J.ら, 2003. Circulation 107:1322; Henry, T.D.ら, 2003. Circulation 2003. 107:1359)。これらの治療法は、組織又は器官の特徴的な機能を行う実質細胞(例えば心臓の収縮性心筋細胞、肝臓の肝細胞、膵臓のインスリン産生β細胞など)の再生を試みるものでも達成するものでもない。せいぜい、これらの治療法は適度な効果があり、それらのうちどれも、標準的医療行為の一部になっていない。一方、組織又は器官の機能的細胞を置換するように設計されたあらゆる再生治療は、現在までは、標的組織中の失った細胞の特徴を獲得することができると考えられている細胞の移植に基づいている。これらのアプローチはいまだ臨床試験中である。使用するあらゆる再生アプローチの主な欠点は、損傷組織に再生剤を送達すること、及び体の他の部分への拡散を制限するすることである。治療対象組織の冠動脈樹を介して再生剤を投与する場合でもこれは重大な問題である。冠動脈投与による心筋細胞治療の場合、投与する細胞のうちごくわずかしか心臓に保持されないのに対し、大部分(>95%)は速やかに体循環に入り、全身に広がる。これは、細胞懸濁液の投与で繰り返し実証されているように、再生剤を直接心筋に経心外膜又は経心内膜により注入する場合にも生じる。さらに、経心外膜投与は開胸術による心臓の露出を必要とし、一方、経心内膜投与は、注入に適した領域を特定するために心内膜を位置づけるための精密で、時間のかかる、且つ高価な手法を必要とし(ノガタイプの機器)、この手法は極めて限られた数のセンターで、且つ専門の操作者が参加して利用可能である。どちらの場合も、投与した化合物のせいぜい50%が損傷領域に保持され、一方残りは胸腔中に又は体循環によって拡散する。本開示の製剤は、標的組織又は標的器官への幹細胞の送達と組み合わせて使用してよく、他の送達機構と比べて局所的に保持される数を増加させ得る。
【0141】
しかし、本開示は、対象の組織又は器官への血液供給を改善するために、細胞移植にも生存内皮細胞の増殖刺激にも基づかない、組織又は器官の実質細胞(すなわち機能的な「偉い(noble)」細胞)を再生する新規な方法を記載する。代わりに、本明細書に記載する方法は、それらを活性化、複製及び分化を刺激して損失した実質細胞を生成し、並びにその増殖、生存及び機能に必要な微小血管系を生成することができる特異的な増殖因子及び/又はサイトカインの局所送達による、in situ、つまり組織内での、該組織の内在幹細胞の刺激に基づく。全てではないにしても大部分の成体組織、ヒトをはじめとする哺乳動物組織は、適切に刺激すると、該組織又は器官に特異的な細胞種、並びにそれらに付随する血管及び間葉支持細胞を再生する能力を有する内在幹細胞を含有するため、これは可能である。
【0142】
幹細胞を刺激する再生剤の一部は非常に活性が高く、相互作用する様々な細胞、中でも潜在的腫瘍細胞の増殖及び転移を刺激する可能性があるため、これらの因子の多くの潜在的臨床応用は、再生対象の細胞への露出をできる限り制限するために、非常に局所的な方法で最小治療用量の投与を要する。従って、投与を局所的にすればするほど、必要な用量は低下し、同じ又は他の器官における傍観細胞(by-stander cell)の刺激による望ましくない副作用のリスクは低下する。より具体的には、本開示は、固形組織の特定の領域の再生を引き起こすため、全身又は組織中ではなく局所的に投与し送達する様々な増殖因子の治療用量の使用のための新たなアプローチを記載する。活性化合物の送達を損傷組織に限定するため、必要な治療用量は、他の利用可能な送達方法で必要な用量のごくわずかである。本開示の製剤は、いくつかある適用の中でも特に、心筋梗塞後及び/又は慢性心不全における心筋及び微小血管系を再生する能力を有する。
【0143】
一実施形態において、製剤は損傷組織の境界、例えば境界領域又は虚血領域に投与する。
【0144】
幹細胞のための好適なリガンドとしては、増殖因子、例えば表1に挙げるものがある。
【表1】
【0145】
一実施形態において、使用する増殖因子(複数可)はヒトの増殖因子である。
【0146】
一実施形態において、使用する増殖因子はHGF、IGF(例えばIGF-1及び/又はIGF-2)、並びにFGF、特にHGF及びIGF-1から選択する。これらの因子は内在幹細胞の刺激に特に効果的であるようである。
【0147】
増殖因子の組み合わせも使用してよく、例えば上記したリスト、例えばHGF及びIGF-1及び場合によりVEGFから選択してよい。
【0148】
一実施形態において、幹細胞を再生/活性化するための製剤は、唯一の活性成分としてVEGFから成るものではなく、例えばVEGFをはじめとする活性成分の組み合わせを含み得る。
【0149】
それにもかかわらず、製剤は血管形成因子としてVEGFの局所送達に適する。
【0150】
一実施形態において、増殖因子製剤は血管形成因子と組み合わせて使用し、例えば同じ経路又は異なる経路で同時に又は逐次的に投与する。
【0151】
一実施形態において、製剤は、例えばIL-1、IL-2、IL-6、IL-10、IL-17、IL-18及び/又はインターフェロンから選択されるサイトカインを含む。
【0152】
一実施形態において、製剤は、活性成分の組み合わせ、例えば増殖因子及びサイトカインを含む。
【0153】
組み合わせ製剤では、各活性成分の用量は、例えば活性成分を単独で投与する場合に用いるのと同じ用量であってよい。
【0154】
本開示の製剤及び/又は方法で使用する成分、特に生物学的種類の活性成分は、天然源に由来してよい。
【0155】
一実施形態において、使用する生物学的種類の活性成分は組換えDNA技術によって調製する。
【0156】
一実施形態において、投与する1つ又は複数の活性成分は、所望の治療効果を有する、生物学的分子のペプチド断片であってよい。
【0157】
1つ以上の実施形態において、使用する分子は、対応する生物学的分子に対して同じ、高い又は低いアフィニティーを有する、所望の治療効果を有する生物学的分子(例えば受容体のリガンド)の突然変異体である。
【0158】
一実施形態において、使用する物質(複数可)/活性成分はアプタマー(aptomer)(天然のリガンドの代わりに受容体に結合する小RNA分子)である。
【0159】
一実施形態において、使用する物質/活性成分は標的受容体を認識し結合する抗体であり、特に、標的受容体に対して適切な特異性及び/又はアビディティを有する。望ましくは、抗体は受容体をアップレギュレート又は受容体をダウンレギュレートするのに必要な活性を有し、それにより、必要に応じて受容体の活性化又は阻害を引き起こす。
【0160】
一実施形態において、活性成分はジアキン(diaquine)であり、これは目的受容体の2つを認識し結合する人工抗体分子であり、一方及び/又は他方の活性化又は阻害を引き起こす。
【0161】
一実施形態において、使用する物質/活性成分は分子量<5,000ダルトンを有する小分子である。
【0162】
一実施形態において、使用する1種以上の活性成分は合成起源であってよい。
【0163】
本明細書に開示する、所望の器官又は組織を標的化する製剤では、製剤は、該器官又は組織の上流に投与すべきである。つまり、血流が製剤を所望の組織/器官に運ぶように循環中に導入すべきである。
【0164】
製剤は、カテーテルなどの適切なデバイスを使用して、心臓などの器官の上流に導入することができる。他の主要な器官に、この方法で到達することができる。同様に、稀であるが、カテーテルを使用して肝臓にアクセスすることも可能である。
【0165】
他の例では、製剤は、戦略上重要な動脈内注射によって、又は逆行的静脈注射及び/若しくは標的組織前のカニューレによって導入してよい。
【0166】
製剤はまた、カテーテル挿入中に、例えばヘパリン又はモルヒネ又はカテーテル法における造影剤の投与に用いるタイプの、点滴又はポンプ駆動型送達デバイス、例えばシリンジポンプによって投与してもよい。好適な流速は、例えば0.5mL/分である。
【0167】
製剤はまた、カテーテルの第二の内腔によって組織のかん流を維持しながら、動脈内バルーンで注入部位の下流の血流速度を遅くさせる、いわゆるかん流カテーテルによって投与してもよい。
【0168】
特に好適な実施形態において、製剤は標的組織又は標的器官の上流の動脈に投与する。
【0169】
一実施形態において、カテーテルを使用して、標的組織又は標的器官に供給する動脈に、本開示の製剤を送達する。特に、製剤は、もっぱら(主に又は実質的に)、組織又は器官の領域に供給する区動脈へ送達することができる。
【0170】
一実施形態において、使用するカテーテルはバルーンカテーテルである。
【0171】
一実施形態において、カテーテルは、その遠位末端に、必要に応じて>50、25又は20μmの微粒子塊の放出を阻止又は妨害するのに十分小さい孔径を有するフィルターメッシュを有する。
【0172】
一実施形態において、標的細胞は生後の心臓に内在する心臓幹細胞である。
【0173】
一実施形態において、得られる再生には、心筋細胞、並びに毛細血管(内皮細胞)及び/若しくは細動脈(内皮及び血管平滑筋細胞)から成る血管構造の再生が共に又は別に含まれる。
【0174】
一実施形態において、再生は、急性であろうと慢性であろうと心筋梗塞(MI)後の任意の時に、例えば急性梗塞後0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11から24時間までに誘導する。
【0175】
一実施形態において、再生は、心筋梗塞の有無にかかわらず、虚血性心疾患を有する個体において誘導する。
【0176】
一実施形態において、再生は、急性又は慢性の心不全(CF)を発症した個体の心臓において誘導する。
【0177】
一実施形態において、再生は、虚血性、感染性、変性又は特発性心筋症を有する個体において誘導する。
【0178】
一実施形態において、標的細胞は膵内分泌部に存在する幹細胞(ランゲルハンス島の幹細胞)である。
【0179】
一実施形態において、再生は糖尿病を有する個体において誘導する。
【0180】
一実施形態において、標的細胞は中枢神経系(CNS)の神経幹細胞である。
【0181】
一実施形態において、標的幹細胞は脊髄の神経幹細胞である。
【0182】
一実施形態において、再生は脊髄損傷を有する個体において誘導する。
【0183】
一実施形態において、標的細胞は、例えばパーキンソン病を有する個体における、脳の黒質の幹細胞である。
【0184】
一実施形態において、再生は、脳血管障害(卒中)を有する個体において誘導する。
【0185】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本開示の製剤中に使用するリガンドは、卒中などを治療するために血液脳関門を通過することができると考えられている。さらに、脳血管障害では血液脳関門が損傷しており、化学物質がより容易に関門を通過できると考えられている。
【0186】
一実施形態において、標的細胞は肝臓幹細胞であり、例えば再生は、肝硬変などの肝臓障害を有する個体において誘導する。
【0187】
一実施形態において、標的幹細胞は肺(複数可)の幹細胞であり、例えば再生は、肺気腫などの肺損傷を有する個体において誘導する。
【0188】
一実施形態において、標的細胞は骨格筋の幹細胞であり、例えば再生は骨粗しょう症又はパジェット病などの特定の骨格筋障害を有する個体において誘導する。
【0189】
一実施形態において、標的細胞は上皮の幹細胞である。
【0190】
一実施形態において、標的幹細胞は腎臓の幹細胞である。
【0191】
標的細胞とは、本明細書で使用する場合、刺激する対象であり、所望の再生をもたらす可能性を有する細胞を指す。
【0192】
本開示の製剤は、標的組織又は標的器官への関連活性成分の正確な及び/又は再現可能な投与を保証する最適化したパラメーター及び材料を提供する。
【0193】
別の実施形態において、本開示の製剤を使用して、抗腫瘍剤の腫瘍組織への局所送達を可能にすることによって、例えば腫瘍内注射によって、固形腫瘍を治療し得る。
【0194】
腫瘍の治療に適する活性成分としては、エトポシド、シクロホスファミド、ゲニステイン、シスプラチン、アドリアマイシン(andriamycin)、ビンデシン、ミトグアゾン、フルオロウラシル及びパクリタキシル(paclitaxil)が挙げられる。
【0195】
一実施形態において、製剤は癌治療用ではない。
【0196】
一実施形態において、本発明は腫瘍又は組織への直接投与ではない。
【0197】
本開示における方法は、別個に、例えば同時に又は逐次的に投与する、あるいは1つの製剤(ワンポット)として製剤化した、活性成分の組み合わせを使用してよい。
【0198】
本開示の製剤は、溶液/懸濁液として、例えば等張の担体中に、例えば緩衝液(例えばリン酸緩衝液、生理食塩水又はグルコース溶液)として投与してよい。
【0199】
本開示の製剤は、場合により、1種以上のさらなる賦形剤を含んでよい。賦形剤は、ヒト及び/又は動物への投与に適したものであるべきである。
【0200】
一実施形態において、製剤は、溶液中に、例えば製剤中の少量の活性成分を安定化し得るアルブミンを含み、例えば1%〜20% w/volのアルブミン、例えばヒト血清アルブミンは必要な安定化を達成するのに十分であり得る。
【0201】
本開示はまた、本明細書に定義する治療用、特に心筋梗塞;虚血性心疾患;心不全;虚血性、感染性、変性又は特発性心筋症、硬化症、肝硬変、肺気腫、糖尿病などの治療用の製剤としての使用にまで及ぶ。
【0202】
一実施形態において、本開示は、本明細書に記載する、治療に使用するための製剤、特に上記疾患の治療用製剤に関する。
【0203】
本開示はまた、本明細書に記載する製剤の治療上有効量を、必要な患者に、特に上記疾患の治療のために投与することを含む、治療方法にも及ぶ。
【0204】
本開示はまた、例えば本明細書に記載する場合、in vivoで内在幹細胞を刺激して細胞を活性化するためのリガンドの使用にも及ぶ。
【0205】
本開示はまた、in vivoで内在幹細胞を刺激するための医薬の製造のための適切な増殖因子の使用も含む。
【実施例】
【0206】
本開示は、実施例を参照することにより以下に具体的に説明する。
【0207】
序論
第一中隔枝の遠位にある冠動脈前下行枝の一時的バルーン閉塞によって、雌ブタに前壁心筋梗塞を引き起こした。この手法によって、再現性のある中程度のサイズの前壁−心尖部梗塞が生じた。インスリン様増殖因子1と肝細胞増殖因子の組み合わせの心筋再生能を、梗塞を起こしたブタの心筋に様々な用量で因子を局所投与することによって試験した。対照動物を偽薬で処置した。
【0208】
微量の治療剤の局所投与を用いて治療効果を生成する実現可能性は、まず、組換えヒトIGF-1及びHGFの混合物を含有する溶液を、第一中隔動脈の発生部(emergence)直下の左冠動脈前下行枝にバルーン拡張により閉胸で実験モデルに引き起こした急性MI後に直接投与することによって23匹のブタで試験し、同じように処置した6匹の偽薬対照と比較した。
【0209】
材料と方法
心筋梗塞後様々な時点で、数日〜1ヶ月にわたり心臓を解析した。結果は、ヒトIGF-1及びHGFで処置したブタの虚血領域及びその境界において活性化した幹細胞数及び前駆細胞の数の劇的な増加を示した。虚血領域では筋肉の著しい再生が見られ、新生した細動脈及び血管も含有していた。再生応答は、投与した増殖因子の用量に比例するようであった。これらの予備データから、CSCの治療的in situ活性化は、ヒトの心臓とサイズ及び生体構造において類似する動物の心臓において、広範囲に及ぶ新たな心筋組織形成を引き起こし、並びに左心室機能を有意に改善する可能性がある。
【0210】
c-kit陽性ブタ心臓細胞の単離
雌のヨークシャー白ブタ(23±4kg;n=3)の様々な心臓領域(右房及び左房、右心室及び左心室並びに心尖部)から複数の心臓試料(各約2g)を得た。一部の試料を固定し、組織化学的解析のためにパラフィンに包埋した。その他の部分を酵素消化し、以前の記載に従い、改変を加えて、心筋細胞を欠失した心臓細胞懸濁液を調製した(Beltrami, A.P.ら, 2003. Cell 114:763)。簡単に説明すると、刻んだ心臓組織を、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)中の0.1%コラゲナーゼ(Worthington Biochemicals)、0.1%トリプシン(Sigma)、0.1%DNAse Iを用いて37℃で消化し、遠心により小さい心臓細胞の画分を回収した。心臓小細胞を、抗ヒトCD117(c-kit)抗体(Miltentyi Biotechnology)とインキュベートし、蛍光励起細胞分取(FACS;MoFlo(Dako Cytomation)セルソーター)又は磁性活性化微小免疫ビーズ(MACS)によって選別した。死細胞を除去するためFACS前にヨウ化プロピジウム(PI;2μg/mL)を添加した。
【0211】
c-kit陽性ブタ心臓細胞を、造血細胞、間葉細胞及び内皮細胞マーカーについてFacsCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson, BD)を用いて解析した。用いた抗体は、抗ブタCD45(Serotec, Clon: MCA1447)、抗ヒトCD34(BD, clon 8G12)、抗ヒトCD90(BD, Clon:5E10, ブタ交差反応性)及び抗ヒトCD166(BD, Clon: 3A6, ブタ交差反応性)、抗ヒトCD105(Caltag Laboratories, Clon: SN6, ブタ交差反応性)及び抗ヒトCD133(Miltenyi Biotec, clon AC133, ブタ交差反応性)であった。PECAM、E-カドヘリン、CD11b、CD13、CD14、CD29、CD31、CD33、CD36、CD38、CD44、CD49、CD62、CD71、CD73、CD106に特異的な抗ヒト抗体は、BD Biosciences社から購入した。各アイソタイプ対照(Pharmingen)を、全てのFACS法に対する陰性対照として使用した。CellQuestソフトウェアを用いてデータを解析した。
【0212】
ブタc-kit陽性心臓細胞の培養、クローニング、及び分化能
c-kit陽性細胞を、7〜10日間、細胞2 x 104個/mlで、10%FBS、bFGF(10ng/ml)、インスリン−トランスフェリン−セレナイト(ITS)、及びEPO(2.5U)を含有するDulbecco's MEM/Ham’s F12(DMEM/F12)改変培地中に播種した。回収後、一部の細胞を、心臓球(cardiosphere)生成のため、改変心臓球形成培地(mCSFM):DMEM/F12、bFGF(10ng/ml)、EGF(20ng/ml)、ITS、2-β-メルカプトエタノール(0.1mM)と、B27及びN2サプリメント(Gibco)を添加した神経基本培地との1:1比に移した。クローン形成能を試験するため、単一のc-kit陽性細胞を、フローサイトメトリー又は連続希釈によって、96ウェルのゼラチンコートしたテラサキプレートのウェルに一つずつ播種した。クローンが同定され大きくなる1〜3週間にわたり、個々のc-kit陽性細胞を、DMEM/F12改変培地中で増殖させた。各96ウェルプレートに生成したクローン数を数えることによってckit陽性細胞のクローン形成能を決定し、パーセンテージとして表した。心臓の領域毎に計10個のプレートを解析した。クローン化した細胞及び心臓球を、筋細胞、血管平滑筋及び内皮細胞特異化のための特殊な心臓形成分化培地(42から改変)に移した。
【0213】
製造業者(Chemicon)の説明書に従い、改変ボイデンチャンバー(Boyden chamber)を用いて細胞移動アッセイを行った。200ng/ml HGF又は200ng/ml IGF-1を、24ウェルプレートの下のチャンバー中に24時間入れた。増殖アッセイでは、2.5 x 104個のpCSCを24 x 35mmディッシュに播種し、0%血清DMEM/F12基本培地中で36時間、血清飢餓状態にした。6枚のディッシュをベースライン対照とし、固定前にBrdU(1μg/ml)を添加し、1時間後に染色した。その後、3%FBS及び200ng/ml HGF(n=6枚のディッシュ)若しくは200ng/ml IGF-1(n=6枚のディッシュ)を添加したDMEM/F12基本培地を、残りの12枚のディッシュに添加した。6枚のディッシュを対照とし、増殖因子を培地に添加しなかった。BrdUを6時間毎に1μg/ml加えた。24時間後に細胞を固定し、BrdU検出系キット(Roche)を用いてBrdUの取り込みを評価した。核を、DNA結合色素、4, 6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI, Sigma)1μg/mlで対比染色した。細胞を蛍光顕微鏡(Nikon E1000M)を用いて評価した。各ディッシュについて、倍率20倍で10個のランダムな視野をカウントし、カウントした総細胞数に対するBrdU陽性細胞のパーセンテージとして数を表した。
【0214】
免疫細胞化学
細胞を、ガラスチャンバースライド(BD Falcon)上で2日間培養し、4%PFAで20分間固定し、次いで染色した。細胞内染色では、細胞を0.1%Triton X-100を用いて透過させた。細胞を一次抗体とともに4℃で一晩インキュベートし、3回洗浄し、次いでFITC結合二次抗体又はテキサスレッド結合二次抗体とともに37℃で1時間インキュベートした。その後、細胞を3回洗浄し、核をDAPIで対比染色した。蛍光を可視化し、像を共焦点顕微鏡(Zeiss LSM510)で取得した。細胞染色には以下の抗体を使用した:Oct3/4、Nanog、Isl-1、c-kit、Flk-1、及びNkx2.5(R&D Systems);Bmi-1、c-met及びIGF-1r(Santa Cruz Biotechnology)、テロメラーゼ(Abcam)。ガラスチャンバースライド中で24時間培養した後、心臓球をc-kitについて染色した。球から細胞を増殖及び分化させる培養において、4〜6日後、平滑筋アクチン、α-サルコメアアクチン(Sigma)及びフォンヴィレブランド因子(von Willebrand factor)(DAKO)に対する抗体で染色した。全ての二次抗体は、Jackson Immunoresearch社から購入した。
【0215】
ウエスタンブロット解析
血清飢餓培地に24時間さらし、その後200ng/ml IGF-1又は200ng/ml HGFを10〜20分間添加したc-kit陽性pCSCから得たタンパク質溶解物を用いて、IGF-1受容体(IGF-1R)及びHGF受容体(c-met)を検出するイムノブロッティングを、以前記載されたように行った(Ellisonら 2007. J. Biol. Chem. 282:11397)。以下の抗体を、製造業者の指示する希釈率で使用した:ウサギポリクローナル抗体IGF-1R、ホスホル-IGF1R、Akt、ホスホル-Akt、c-met(Cell Signalling)、ホスホル-c-met(Abcam)、FAK、及びホスホル-FAK(Upstate)。
【0216】
組織学
心房摘出後、長軸に垂直な切断により心尖部から基部まで、心臓を5個の冠状スライスに分割した。各ブタの各レベルから、梗塞した心筋、梗塞周囲の心筋及び遠位にある心筋の試料を得た。試料をPBSで洗浄し、10%ホルマリンで固定し、パラフィン包埋した。5μm切片をミクロトーム(Sakura)で調製し、顕微鏡スライド上にマウントした。切片を、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で標準的手法に従って染色した(Ellisonら 2007. J. Biol. Chem. 282:11397)。光学顕微鏡(Nikon E1000M)上でLucia Gソフトウェアを用いて、レベルC及びDに由来する梗塞周囲領域のH&E切片(動物1匹につき3枚のスライド)の核にわたって、筋細胞の直径を測定した。各ブタについて、1切片につき計200個の筋細胞を解析した。
【0217】
心筋の線維化を判定するため、梗塞した心筋の切片を、以前記載されたようにシリウスレッドで染色した(Lee, C.G.ら, 2001. J. Exp. Med. 194:809)。連続切片をPBS中の10%ホルマリンで20分間固定した。蒸留水で5分間洗浄した後、切片を、pH 9のホウ酸マグネシウムバッファー中の0.1%ファストブルー(Fast Blue)RR(Sigma)中で室温で30分間インキュベートした。次いで、切片を蒸留水で洗浄し、飽和ピクリン酸(Sigma)中の0.1%シリウスレッドで室温で10分間インキュベートした。切片を蒸留水でさらに洗浄し、脱水し、清澄化し、そしてマウントした。このプロトコールでは、結合組織(主にコラーゲン)は赤色に染まり、筋肉は黄色/橙色に染まる。Lucia Gイメージ解析を用いて倍率40倍で、心筋結合組織の量の半定量的評価を行った。完全梗塞領域において、コラーゲンの%(陽性染色領域の%)を決定した。各レベルについて動物1匹につき計3枚のスライドを評価し、平均を得た。
【0218】
免疫組織化学及び共焦点顕微鏡
CSCを同定するため、ブタ心臓の横断切片を、幹細胞抗原であるc-kit(ウサギポリクローナル、Dako)に対する抗体で染色した。c-kit陽性CSCは、造血系統、神経系統、及び骨格筋系統(21)のマーカーについて染色が陰性であることにより、系統陰性(Lin陰性)と同定された。対照ブタの様々な心臓領域におけるCSC心筋分布の定量のため、c-kit陽性(lin陰性)細胞数及び心筋細胞数を倍率63倍で計5個の切片についてカウントした。次いで、各横断切片の面積を測定し、単位面積あたりのCSC数及び心筋細胞数を決定した。左心房及び右心房においてc-kit陽性CSC数にわずかな差しか見られなかったため、心房についてのデータをプールした。CSC数を筋細胞106個あたりで表した。
【0219】
周期中の細胞を、BrdU(Roche)及びKi67(Vector labs)染色によって同定した。前駆細胞は、c-kit及び転写因子、Nkx2.5(R&D Systems)、Ets-1及びGATA6(Santa Cruz Biotechnology)について陽性に染色された。新生筋細胞を、BrdU、Ki67及びα-サルコメアアクチン(Sigma)、心筋トロポニンI(Santa Cruz Biotechnology)又は遅筋型(心臓)ミオシン重鎖(Sigma)に対する抗体で同定した。新生血管構造を、BrdU及びα-平滑筋アクチン(マウスモノクローナル、Sigma)又はvWF(ウサギポリクローナル、Dako)に対する染色によって検出した。共焦点顕微鏡(Zeiss 510 LSM)を用いて像を取得した。CSC数、筋細胞前駆細胞数(c-kit陽性/Nkx2.5陽性)、及び新生筋細胞数(BrdU陽性及びki67陽性)を、各レベルの梗塞領域、梗塞周囲領域及び遠位領域について定量した。各領域について倍率63倍で計300個の細胞(約20個の視野)をカウントした。動物1匹につき3枚のスライドを評価した。カウントした総細胞数に対するパーセンテージとして数を表した。梗塞領域及び梗塞周囲領域において動物1匹につき50個のBrdU陽性新生筋細胞のサイズをLucia Gソフトウェアを用いて測定した。
【0220】
梗塞領域における毛細血管の密度は、vWF(Dako)に対する抗体を用いた染色によって評価した。使用した二次抗体は、HRP結合型ロバ抗ウサギ(Santa Cruz)であった。切片中の内在性ペルオキシダーゼは、PBS中の3%過酸化水素で室温で15分間阻害した。色素原3, 3-ジアミノベンジジン(DAB)(Sigma)を用いて、血管を可視化した。核の同定のため、スライドをヘマトキシリンで対比染色した。毛細血管(vWF陽性な血管周囲にわたる1又は2個の内皮細胞として定義する)の数を、倍率40倍で、レベルC及びDの梗塞領域中の10個の視野/切片をカウントすることによって決定した。計3枚のスライド/動物を評価した。毛細血管数を0.2mm2あたりで表した。
【0221】
細胞アポトーシスを検出するため、切片をウサギ抗ヒト活性型カスパーゼ-3一次抗体(R&D Systems)及びロバ抗ウサギHRP結合型二次抗体で染色した。色素原DAB(Sigma)を使用して、アポトーシス心筋細胞を可視化した。次いで、切片をヘマトキシリンで対比染色し、永久的にマウントして光学顕微鏡で調べた。レベルC及びDの梗塞周囲領域におけるカスパーゼ-3陽性筋細胞の数を、倍率40倍で20個のランダム視野/切片をカウントすることによって決定した。計3枚のスライド/動物を評価した。カスパーゼ-3陽性筋細胞の量を、カウントした筋細胞の総数に対するパーセンテージとして表した。
【0222】
統計解析
データを平均±SDとして報告する。2群間の有意性を、スチューデントのt検定によって、及び分散分析(ANOVA)による多重比較において決定した。ボンフェローニ事後法(Bonferroni post hoc method)を使用して差を見出した。有意性をP<0.05で設定した。
【実施例1】
【0223】
PLGAマイクロスフェアの調製
2セットのPLGA及びアルギン酸塩のマイクロスフェアを調製した。一方のセットはヒト血清アルブミン(HSA)及びインスリン様増殖因子1(IGF-1)の混合物を含有し、もう一方のセットは、HSA及び肝細胞増殖因子(HGF)の混合物を含有する。要する増殖因子がごくわずかな量であることを考えて、乳化のための十分な体積(bulk)を提供するためにHSAを使用した。
【0224】
PLGAマイクロスフェアを形成するために使用する条件は以下の通りである。
【0225】
フォーカスされる液体(focused liquid)がPLGA+HSA+増殖因子のエマルジョンであり、フォーカスする液体(focusing liquid)が水である、液体−液体の設定で、Ingeniatrics社の噴霧器フローフォーカシング(D=150μm、H=125)を使用した。
【0226】
液相はEtOAc(酢酸エチル)中の5%PLGAで構成された。
【0227】
水相は水中の5%HSA、0.1%増殖因子、0.45%NaCL、0.25%Tween 20で構成された。
【0228】
2相の混合物を30分間超音波処理した。
【0229】
2%ポリビニルアルコール(PVA, Fluka Chemica)の槽中で微液滴を生成した。
【0230】
フォーカスされる(Qd)及びフォーカスする(Qt)液体の流量によって粒子の粒径を制御する。15±1μmの粒子を得るために、Qd = 3.5 mL/h及びQt= 3 mL/hを使用した。HSA+IGF-1混合物の封入効率は37%であった。
【0231】
粒子の粒径を光学顕微鏡及び電子顕微鏡によって確定した(図8を参照)。
【0232】
わずかに改変した同じ手法を用いて、HGFを含有するPLGA粒子を調製した。
【実施例2】
【0233】
直径15μmの単分散PLGAマイクロスフェアの製造の最適化
投与するマイクロスフェア数を低下させるため、封入効率を最適化するために、以下のパラメーターの変更によって使用する条件を最適化した:
a. - 液相中の乳化剤の取り込み。最適な組み合わせは、5時間まで安定なエマルジョンを生成するTween 80及びSpan 60の混合物であることがわかった。
b. - 5%から20%HSA(ヒト血清アルブミン)へのタンパク質濃度の最適化。
c. - 0.45%から0.2%への水相中のNaCl濃度の最適化。
d. - 5%から5.5%へのEtOAc中のPLGA濃度の最適化。
e. - 初期混合物中のHGF-1濃度を0.4%とした。
【0234】
従って、水相は、20%HSA、0.4%IGF-1;0.2 NaCl;0.1 Tween 20;0.15 Span 60で構成された。有機相は、EtOAc(酢酸エチル)中の5.5%PLGAで構成された。
【0235】
微粒子を、実施例1に記載する条件を用いた単純なフローフォーカシングによって得た。
【0236】
粒子の粒径は、SEMによって測定する場合、14.36μm(SD0.91)であり、封入効率は、13.1%のエントラップメント(entrapment)を有する82.4であった。定量的ELISAによって補正したタンパク質測定により、各1 x 106個のマイクロスフェアは3μgのIGF-1及び348μgのHSAを有することが実証された。生細胞のIGF-1受容体に結合し活性化する能力によって試験した、マイクロスフェア中に含まれるIGF-1の生物学的in vitroアッセイにより、1ラウンドの凍結乾燥及び再懸濁後、封入されたIGF-1は元の生物学的活性の82%を保持したことが示される。従って、各100万個のマイクロスフェアは、天然IGF-1の2.5μgに相当する生物学的活性を有していた。
【0237】
同様のプロトコールを用いて、HGFを封入し、粒子1 x 106個あたり1.7μgのHGFが封入され、元の63%の生物学的活性を有するという最終結果を得た。従って、各100万個のHGFマイクロスフェアは、活性型HGFの1μg相当を送達することができる。
【0238】
SCF(幹細胞因子)、すなわちc-kit受容体に対するリガンドの封入により、マイクロスフェア1 x 106個あたり2.3μgのSCFを含有し、c-kit受容体の活性化によって決定するように、元の溶液の76%の活性を有する粒子を製造した。
【0239】
結論:使用した単一のフローフォーカシング法は、HSA及び様々な増殖因子の混合物の封入に非常に効果的である。増殖因子に対するHSAの初期比を変えることによって、直径15μm(変動係数≦6%)のPLGAマイクロスフェア1 x 106個あたり350μgまでの所望の薬理作用のあるタンパク質の負荷値(loading value)を達成することができる。
【実施例3】
【0240】
単分散アルギン酸塩マイクロスフェアの製造及びIGF-1の封入
マイクロスフェアの製造に使用した試薬及び装置は以下の通りであった:
-アルギン酸塩:プロタナール(Protanal)LF 10/60;FMCBioPolymer(G/M≧1.5);プロタナール LF10/60LS;FMCBioPolymer(G/M≦1)
-Sigma-Aldrich社からのHSA(ヒト血清アルブミン、97〜99%、A9511)
-PreProtect社からのIGF-1
-CaCl2;クエン酸三ナトリウム
-液体−気体の設定で単純な噴霧器FF:L2(D=100μm、H=100)及びL3(D=100μm、H=100)
-ハーバードポンプ11プラス。
【0241】
適切な条件を確立するための120を超えるアッセイの後、アルギン酸塩の混合物は単一のアルギン酸塩より良い結果を与えることが明らかになった。0.7%:.3%比のプロタナールLF10/60:プロタナールLF10/60LSが最適な結果を与えた。噴霧の最適な距離は10cmであることがわかった。混合物中のHASの最適濃度は14%でありIGF-1は0.3%であった。この混合物を、液体−気体(ΔPt=300 mbar, Qd=5 mL/h)の設定で、フォーカスする流体として気体を用いて、FF(D=100μm、H=100)を使用して噴霧する。噴霧器を振とう槽中の3%CaCl2溶液から10cmに置き、30分後に遠心で回収し、洗浄してCaCl2を除去する。粒子の粒径分布をフローサイトメトリー及びSEMによって決定する。HSAの封入効率をタンパク質定量及び検量線によって決定する。hrHGF-1の封入を実施例2に記載するようにELISAによって判定した。
【0242】
粒子の粒径は、SEMによって測定する場合、15.87μm(SD1.83)であり、封入効率は、11.6%のエントラップメントを有する71.4であった。定量的ELISAによって補正したタンパク質測定により、各1 x 106個のマイクロスフェアは約2μgのIGF-1及び269μgのHSAを有することが実証された。生細胞のIGF-1受容体に結合し活性化する能力によって試験した、マイクロスフェア中に含まれるIGF-1の生物学的in vitroアッセイにより、1ラウンドの凍結乾燥及び再懸濁後、封入されたIGF-1は元の生物学的活性の67%を保持したことが示される。従って、各100万個のマイクロスフェアは、天然IGF-1の約1.5μgに相当する生物学的活性を有していた。
【0243】
このプロトコールを適用して、FF噴霧器及び他の噴霧法を用いて、様々な種類のポリマー、例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)及びポリエチレンオキシド(PEO)のポリエーテル−ポリエステル分割型ブロックコポリマー、ポリアクティブ(PolyActive)(登録商標)とともに使用することができる。
【0244】
結論:アルギン酸塩は、約15μmの直径を有する単分散マイクロスフェアの製造、及び大量のタンパク質の封入に適したポリマーである。使用したプロトコールを改変して、IGF-1対HSAの比を60:40まで増加させることができ、これにより活性化合物の積み荷は2桁以上増加する。得られた結果から、15μmのピーク周辺の粒径範囲は、PLGAを使用する場合に、本明細書で試験したアルギン酸塩の組み合わせを用いた場合より狭くなる。多数の様々なアルギン酸塩調製物を考慮すると、本明細書で見出した微粒子の均一性は有意に改善することができる可能性がある。
【実施例4】
【0245】
活性化合物が粒子の表面にあるマイクロスフェアを製造するために、PLGAの代わりに、結合する活性化合物と反対符号の電荷の高分子電解質を用いて上記のマイクロスフェアを製造することが可能である。そのような高分子電解質の例は、アラビアゴム、ペクチン、タンパク質、核酸、多糖、ヒアルロン酸、ヘパリン、カルボキシメチルセルロース、キトサン、アルギン酸及び多数の合成ポリマーである。高分子電解質が活性化合物と反対符号の電荷を有する場合、活性化合物の溶液から吸着によって微粒子へ結合させることができる。
【実施例5】
【0246】
直径15μgのマイクロスフェアは、冠動脈内投与後、体循環への流出なく、毛細血管でトラップされるのに最適である
雌のヨークシャー白ブタ(n=2)(27kg)をテラゾール(terazol)(100mg、I.M.)で鎮静させ、挿管し、毛を剃った。静脈内カテーテルを末梢耳静脈中に入れた。動物を手術室に移動させ、支持板上に置き、肢固定具で手術台に固定した。動物をイソフルレン(O2中2.5%)で麻酔下に維持し、手術中、絶えずEKGをモニターした。透視ガイドのため携帯型放射源(GE STENOSCOP, GE Medical Systems USA)を用いて、本プロトコールのために特別に設計した長さ40 cmの6FガイディングカテーテルJR 3.5を左主冠動脈に挿管した(Cordynamic-Iberhospitex S.A. Barcelona, Spain)。ベースラインの冠動脈造影法を行った。
【0247】
両動物において、直径2mmの冠動脈ガイドカテーテルをガイドワイヤー(Hi-Torque Balance Middle-Weight 0,014")に沿って左冠動脈起始部へ進めた。このカテーテルを通して、内部直径0.014"(0.3mm)のマイクロカテーテルを進め、その先端を、第一貫通動脈の起始部直下の、左前冠動脈(LAD)の近位部に位置した。これは、実験的心筋梗塞を引き起こすために使用し、且つ上述した増殖因子の溶液の投与に使用するのと同じ位置である。手術中、心臓静脈血液試料を回収するために、別のカテーテルを冠状静脈洞に入れた。投与開始前に、末梢の冠静脈及び冠動脈の血液試料を回収した。心室性期外収縮又は心室細動が多い場合には、1〜3mg/kgのリドカインを静脈内投与した。手術1日前に、75mgクロピドグレル(clopidrogel)(プラビックス (Plavix))及び250mgアスピリンの術前医薬を投与した。術後医薬は、屠殺まで毎日の75mgクロピドグレル(プラビックス)及び125mgアスピリンで構成された。
【0248】
毛細血管ネットワークに完全にトラップされるマイクロスフェアの最適な粒径を決定するために、それぞれ異なる色素で標識した直径2μm、4μm、6μm、10μm、12μm及び15μmの蛍光ポリスチレンマイクロスフェア(Invitrogen社及びPolysciences Inc.社から購入、Cat # F8830, F8858; F8824; Polybead Black dyed microsphere 6.0μm、Megabead NIST 12.0μm及びF8842)の混合物を1mLあたり6粒径それぞれについてマイクロスフェア1 x 106個の濃度で20mLのPBSの懸濁液中に混合し、確実に均一な懸濁液にするため5分間ボルテックスにかけた。この懸濁液を、3匹のブタの左冠動脈の起始部に、血管造影カテーテルを介して、速度1mL/minのハーバードポンプによって投与した。1mL(マイクロスフェア100万個)投与する毎に、注入を3分間中断し、この間、冠状静脈洞血液試料を採取した。血液試料を得た直後に、蛍光微粒子の存在を確認するために血液塗抹スライドを調製した。20mLのマイクロスフェア懸濁液の投与完了後、30分間隔でさらに3時間、冠状静脈洞血液試料を回収した。実験の終了時に動物を屠殺し、心臓を摘出し、固定し、試料を切片にするために得て、組織学的解析及び蛍光顕微鏡解析を行った。
【0249】
様々な粒径のマイクロスフェアを同数投与したため、冠状静脈洞静脈流中及び心筋中のそれらの比は、互いに鏡像であるはずである。毛細血管床を通過した粒子は、実験の終了時に、冠状静脈洞血液中には高濃度で、心筋中には低濃度であるはずである。毛細血管床を通過しない粒子については、逆のことが当てはまるはずである。以下に示すように、≦10μmの粒径のみが心筋中に効率的に保持され、10及び12μmのマイクロスフェアでさえ有意な程度に流出し、これらのマイクロスフェアのそれぞれ19及び8%が体循環に侵入した。一方、15μmの粒子の≧1%が毛細血管床を通過し、冠状静脈洞に到達した。
【表2】
【0250】
上に示した結果が心筋に特異的であるか、又は他の組織にも拡張し得るか判定するために、同じプロトコールを用いて、右肢の大腿動脈中にマイクロスフェアの同じ懸濁液を投与した。大腿静脈から血液試料を回収し、大腿四頭筋試料を解析して骨格筋中の様々なマイクロスフェアの持続性を判定した。結果を表3にまとめる。
【表3】
【0251】
結論:目的組織での≧99%の保持を保証するマイクロスフェアの最小粒径は直径15μmである。前毛細血管細動脈を遮断することによる虚血の微小部位の生成を最小限にするために、最小有効粒径を使用することが重要であるため、この直径粒径は毛細血管床を介して特定組織に物質を局所送達するのに最適である。
【実施例6】
【0252】
冠循環中のマイクロスフェアの投与
15μmの蛍光ポリスチレンマイクロスフェア(Invitrogen, Cat # F8842, フルオスフェアズ(FluoSpheres)(登録商標)ポリスチレンマイクロスフェア)のPBS中1x106個/mL濃度の20mL懸濁液を調製し、5分間ボルテックスにかけた。この懸濁液を、左主冠動脈の起始部に、血管造影カテーテルを介して、速度1mL/minのハーバードポンプによって投与した。1mL(マイクロスフェア100万個)投与する毎に、注入を3分間中断し、この間、完全なEKGを行い、冠状静脈洞血液試料を採取した。血液試料を得た直後に、蛍光微粒子の存在を確認するために血液塗抹スライドを調製した。残りの試料を酵素測定のために保存した。心電図が心筋虚血に合致した最小変化を示すまで、処置を続けた。実験の開始時及び粒子懸濁液の投与後に、冠血流量(TIMI)を測定した。2匹のブタを覚醒させ、24時間に再検査し、その後屠殺した。
【0253】
結果:動物#1では、16mLの懸濁液(マイクロスフェア1600万個)の投与後、最初のEKG変化が検出された。2番目の動物では、18mL(マイクロスフェア1800万個)の投与後まで、EKG変化が現れなかった。どちらの動物でも、冠血流量は処置の終わりにTIMI 3(正常)であった。動物#1を注入終了24時間後に屠殺した。屠殺前に完全なEKG及び血液試料を得た。心臓を巨視的検査及び顕微鏡検査のために処理した。
【0254】
24時間において動物#2は正常なEKG及び冠血流量(TIMI 3)を有していた。一連の血液試料を得た後、動物を屠殺し、心臓を巨視的検査及び顕微鏡検査のために処理した。
【0255】
動物#1及び#2由来の冠状静脈洞及び体循環から得た試料の血液塗抹標本は全て、低倍率及び高倍率で蛍光顕微鏡によって検査した。いずれの試料においても蛍光ビーズは検出されなかった。このことは、毛細血管ネットワーク中での直径15μmのマイクロスフェアのトラップは非常に効率的であることを示唆している。さらに、テベジウス静脈を介したこの注入方法において冠動脈から右心室への機能的なバイパスがあるならば、それらは少なく、本明細書で使用した方法では検出されない。
【0256】
酵素測定(表4)により、血中心筋特異的トロポニンT(TnT)のレベルの上昇が示すように(0.01ng/mlを超える値は異常である)、動物#1はわずかな心筋梗塞を発症し、一方、動物#2の値は正常であることが示され、この動物は粒子の投与中一時的な虚血を発症しただけで、永続的な心筋損傷なく回復したことが示唆される。この解釈を以下に示すように病理学によって確かめた。動物#1の心臓の巨視的切片は、壊死の微小部位(色が薄い領域)を示すのに対し、動物#2の切片は正常である。この結論は組織病理学によって確かめた(データ示さず)。
【表4】
【0257】
結論:心臓の左冠動脈前下行枝(LAD)が供給する領域における、直径15μmのマイクロスフェアの15x106個までの投与は、耐容性が良好であり、心筋損傷を引き起こさない。マイクロスフェア15x106個を超える用量は、永続的な瘢痕を残し得るわずかな虚血領域を引き起こすリスクが高い。従って、直径15μmのマイクロスフェア1 x 106個あたり1mgのタンパク質という、ポリマーとしてPLGAを用いて得られた値の中程度の積載で、左冠動脈が供給する心筋の毛細血管床に15mgまでの治療剤を送達することができる。
【実施例7】
【0258】
増殖因子を積載したPLGAマイクロビーズの投与
15μmのマイクロスフェアの安全な用量範囲を決定したため、同じプロトコールを用いて、心筋の同じ領域に10x106個のPLGAマイクロスフェア(直径15μm)を投与した。マイクロスフェア懸濁液は、計2μgのヒト組換えインスリン様増殖因子1(IGF-1)を積載したPLGAマイクロスフェア4x106個;計1μgのヒト組換え肝細胞増殖因子(HGF)を積載したPLGAマイクロスフェア4x106個で構成された。これら2種類のマイクロスフェアは、血中及び組織学的切片中で可視化をより容易にするため、蛍光緑色色素も積載した。さらに、懸濁液は、Invitrogen社の橙色範囲のポリスチレン蛍光2x106個を含有した。Invitrogen社のスフェアは、PLGAマイクロスフェアの安定性及び分布のための対照として機能するために含めた。10mLの生理的PBS中の懸濁液は、上述のように装置を付けたブタに投与した。
【0259】
2匹の動物への懸濁液の投与は無事に行われ、虚血の心電図上の徴候はなかった。処置中及び処置後、毛細血管血流量は正常であった(TIMI 3)。一方の動物(ブタ#3)を処置30分後に屠殺し、もう一方(ブタ#4)を処置24時間後に屠殺した。どちらの心臓も巨視的解析及び顕微鏡解析のために処理した。
【0260】
これら2匹の動物の末梢血液試料も冠状静脈洞血液試料も、複数の血液塗抹標本においてInvitrogenビーズの存在もPLGAビーズの存在も示さなかった。これら2匹の動物の肺、肝臓及び脾臓切片の予備的解析でも、いずれの種類のマイクロスフェアの存在も検出できなかった。
【表5】
【0261】
表4及び5の説明文。マーカー:CK、クレアチンキナーゼ;MB、心臓に特異的なクレアチンキナーゼのMBアイソフォーム;TrT、心筋トロポニンT、心筋損傷の最も特異的且つ高感度なマーカー。PRE INJ CS、処置開始時に冠状静脈洞から採取した血液試料;PRE INJ、処置開始時に採取した体循環血液試料;POST CS、処置終了時に冠状静脈洞から採取した血液試料;POST、処置終了時に採取した体循環由来の血液試料;POST 14H、処置14時間後に採取した体循環血液試料;POST 24H、動物を屠殺する前、処置24時間後に採取した体循環血液試料。
【0262】
これら2匹の動物の巨視的切片は完全に正常であった(示さず)。蛍光顕微鏡下におけるブタ#3の切片の解析により、約1:4比で、毛細血管中のPLGAビーズ(緑色)とポリスチレンビーズ(赤色/橙色)の分布が示され(下記図10)、これは投与した混合物の組成から期待される通りである。検査した心臓のどの領域にも、微視的組織損傷の証拠はなかった。ブタ#4では、PLGAビーズ(緑色)の数は、すでに有意に減少しており、これらのビーズ対ポリスチレンビーズ(赤色/橙色)の比は1:1に近く(図11を参照)、PLGAビーズが約16時間の半減期で分解されることを示唆している。
【0263】
内在心臓幹細胞を刺激するためにマイクロスフェアで投与したIGF-1及びHGFの有効性
上述したように、冠動脈を介して投与したIGF-1及びHGFの組み合わせは、内在心臓幹細胞の活性化を刺激するのに非常に有効であった。この予備的アッセイでは、本発明者らは、マイクロスフェアが送達された領域における幹細胞の活性化をモニターし、左冠動脈によって供給されない左心室の領域と比較した。図11の像に見られるように、未処置の心筋における大部分の内在幹細胞は休止状態にあるのに対し(矢印/矢頭で強調)、処置した領域のものは細胞周期マーカーki-67の発現が示すように細胞周期に入っている(核内の黄色いシグナル、図では強調した領域における明るい「スポット」)。従って、増殖因子を毛細血管に送達し、周囲の間質腔へ荷降ろしするまで増殖因子をその場に保持する固形基体上の増殖因子の投与は、内在性幹細胞集団の刺激に対して有効な増殖因子投与法である。
【0264】
結論:毛細血管を通過させず体循環へ侵入させない直径を有する生分解性マイクロビーズを用いた、心筋の特定の領域へのIGF-1及びHGFの局所送達は、治療の標的でない領域に影響を与えることなく、該組織の特定の領域の内在幹細胞を刺激するのに有効である。
【実施例8】
【0265】
ブタのc-kit陽性心臓幹細胞及び前駆細胞は多能性であり、他の動物種のものと表現型が似ている
体重24±3kgの3匹のヨークシャーブタに由来する心筋の組織学的切片を、共焦点顕微鏡で、大部分のCSCで発現することが知られている一般的幹細胞マーカーc-kit(幹細胞因子(SCF)の受容体)について陽性な細胞の存在について調べた。c-kitについて陽性(c-kit陽性)な小さい細胞が、心房及び心室の心筋中に(図1A〜B)、他の心臓領域と比べて心房(左心房と右心房との間に差はない、データ示さず)及び心尖部においてより高密度で分布していた(図1C)。この分布パターンは、ヒトをはじめとする他の動物種の心臓におけるc-kit陽性CSCの解剖学的位置と一致する。従って、ブタの心臓におけるc-kit陽性細胞の密度はヒト及び齧歯動物の心筋と類似している:約1,000個の筋細胞あたり1細胞、又は組織1gあたり約50,000個のc-kit陽性細胞。
【0266】
様々なブタの心臓領域に由来する心筋組織試料を酵素消化して、筋細胞を欠失した細胞集団を得た。c-kit陽性細胞は、心房、心室、及び心尖部に由来する、開始時の筋細胞欠失心臓細胞集団のそれぞれ10±3%、3±2%及び7±3%を構成していた(図1D)。
【0267】
>90%のc-kit陽性細胞からなる高度に濃縮された細胞調製物をもたらすMACS技術(21)を用いてc-kit陽性細胞を分離した(図1E)。FACS解析により、c-kit陽性に富む心臓細胞は、汎白血球マーカーCD45及び内皮/造血前駆のマーカーCD34について陰性であることが示された(図1E)。c-kit陽性ブタ心臓細胞の高い割合(87%)はCD90(一般的な非特異的間葉マーカー)及びCD166(接着分子)を発現していた(図1E)。わずかな割合のみが造血/内皮前駆細胞のマーカーCD105及びCD133について陽性であった(補足図1)。c-kit陽性心臓細胞は、CD13、CD14、CD31、CD38、CD44、CD33をはじめとする他の造血、間葉及び内皮細胞系統に特異的な一連のCDマーカーについて解析すると陰性であった。これらの解析から、本発明者らは、ブタのc-kitで選別した心臓細胞は、c-kit陽性、CD90陽性、CD166陽性、CD105低レベル、CD133低レベル且つCD45陰性、CD34陰性、CD31陰性、CD44陰性であると結論付けることができる。
【0268】
心房、心室及び心尖部から新しく単離したc-kit陽性心臓細胞を培養液中で増殖させ(4代継代)、その後、96ウェルテラサキプレートに単一細胞として入れ、単一細胞クローンを生成させた(図2A〜B)。ブタ細胞のクローン化効率は、全ての心臓部位について同様であり、以前に報告された齧歯動物CSCのクローン化効率と同程度であった(図2C)(Beltramiら Cell 2003)。本発明者らは、心房、心室及び心尖部に由来する細胞からそれぞれ2クローンをランダムに選び、さらに増殖させた。これらのクローンは約30時間の倍加時間を示し、増殖停止又は老化せずに、これまで65代を越えて継代し増殖しており、10代ごとに連続的にサブクローン化している。これらのc-kit陽性心臓細胞クローンは、検出可能な染色体の変化なく、正常な核型を維持している。
【0269】
クローン化したc-kit陽性ブタ心臓細胞を、免疫細胞化学を用いて幹細胞性マーカー及び心臓系統への運命決定について解析した。細胞はc-kit(90±8%)、Flk-1(86±9%)、Oct3/4(62±11%)、Nanog(46±5%)、テロメラーゼ(81±10%)、Bmi-1(70±14%)、Nkx2.5(52±8%)、Isl-1(8±6%)について陽性を示した(図2D)。クローンが単一細胞に由来したため、その子孫における多能性遺伝子の広範な発現は、親細胞集団におけるこれらの遺伝子の発現レベルが非常に高いことを示唆した。残念ながら、c-kit陽性細胞の一次集団はCSC、前駆細胞及び前駆体細胞の混合物であり、「真の」CSCに特異的なマーカーはまだない。従って、それらの子孫の解析を介して、これらの細胞の表現型を推測することしかできない。
【0270】
クローン化したc-kit陽性ブタ心臓細胞を、細菌用ディッシュ(Corning)内で改変心臓球形成培地(mCSFM)に播種すると、それらは懸濁液中で増殖し、心臓球と名づけられた球状クローンを生じる(図2E)(Beltrami, A.P.ら, 2003. Cell 114:763; Oh H, Bradfute SB, Gallardo TDら Cardiac progenitor cells from adult myocardium: homing, differentiation, and fusion after infarction. Proc Natl Acad Sci U S A 2003; 100(21):12313-12318; Matsuura K, Nagai T, Nishigaki Nら Adult cardiac Sca-1-positive cells differentiate into beating cardiomyocytes. J Biol Chem 2004; 279(12):11384-11391)。心臓球を心臓形成分化培地とともにラミニンコートしたプラスチックディッシュに入れると、接着し、細胞が球から広がり、扁平な形態を獲得する(図2E)。播種4〜6日後、これらの周辺扁平細胞は、筋細胞(27±4%)、内皮細胞(10±6%)及び平滑筋細胞(34±5%)系統に特異的なタンパク質を発現していた(図2E)。これらの結果は、ブタc-kit陽性心臓細胞が真の幹細胞特性を有すること、すなわちそれらは幹細胞マーカーを発現し、クローン形成性であり、自己複製し、且つ多能性であることを示している。従って、ブタc-kit陽性心臓幹細胞(以降pCSCとする)は他種から単離したc-kit陽性CSCと一致した遺伝子発現パターン及び表現型を有する(Ellisonら, 2007. J. Biol. Chem. 282:11397)。
【0271】
ブタCSCは、その活性化を調節するインタクトなIGF-1、HGF及びSCFシグナル伝達経路を発現する
この結果は、ブタ心臓における真のpCSCの存在を示す。
【0272】
pCSCはin vivo及びin vitroにおいてIGF-1受容体及びc-met受容体を発現する(図2F)。培養液中で増殖させると、新たに単離したpCSCは、hrIGF-1、hrHGF及びhrSCFによる刺激に、細胞増殖(図2G)及び細胞移動(図2H)で応答する。リガンドが結合すると、pCSCにおいて特異的な下流のエフェクター経路が活性化した(図2I)。同様の結果が、増殖した単一細胞クローンに由来する細胞で得られた(データ示さず)。従って、pCSCは、心筋再生プロトコールを試験するためのin vivoで利用可能な機能的に共役したGF受容体系を有する。
【実施例9】
【0273】
ブタにおける心筋梗塞の発生、心室機能のモニタリング及び増殖因子を用いた内在心臓幹細胞の刺激によるin situでの心筋再生
全ての動物実験は、Escuela Veterinaria y Hospital de Leon、レオン、スペインの適切な委員会によって認証された。雌のヨークシャー白ブタ(n=26)(27±3kg)をテラゾール(100mg、I.M.)で鎮静させ、挿管し、毛を剃った。静脈内カテーテルを末梢耳静脈中に入れた。動物を手術室に移動させ、支持板上に置き、肢固定具で手術台に固定した。動物をイソフルレン(O2中2.5%)で麻酔下に維持した。26匹の動物全てにおいて、冠動脈バルーンカテーテルをガイドワイヤーに沿って進め、第一貫通動脈の起始部直下の、左前冠動脈(LAD)の近位部に位置した。梗塞を誘導する前に125UI/kgのヘパリンをブタに与え、その後、梗塞術中にヘパリン点滴(10UI/kg/h)した。梗塞を誘導するため、LAD冠動脈をバルーン拡張(2.5mm直径)によって75分間閉塞した。抗不整脈剤として、アミオダロナ(Amiodarona)(トランゴレックス(Trangorex))(5mg/kg/h)を梗塞の15分前に開始して手術中、ブタに絶えず点滴した。心室性期外収縮又は心室細動が多い場合には、1〜3mg/kgのリドカインを静脈内投与した。手術1日前に、75mgクロピドグレル(プラビックス)及び250mgアスピリンの術前医薬を投与した。術後医薬は、屠殺まで毎日の75mgクロピドグレル(プラビックス)及び125mgアスピリンで構成された。
【0274】
ヒト組換えIGF-1及びHGF(Peprotech)を様々な用量(2μg〜8μgのIGF-1及び0.5μg〜2μgのHGF)で17匹のブタに、第一中隔動脈の起始部のすぐ遠位に進めたかん流バルーンカテーテルを介して冠動脈再かん流30分後に投与した。15mlのPBS中のGFを分速2.5mlで、5ml投与毎に2分間の再かん流を行い投与した。同じプロトコールを使用して、MIを有する別の9匹のブタに、生理食塩水のみを注入した(生理食塩水偽薬対照群;CTRL)。26匹の動物のうち5匹(CTRL群中2匹及びGF群中3匹)は急性心筋梗塞(AMI)中に死んだ(約30%の急性死亡率)。続いて、3匹の動物が術後期間に死んだ:1匹の動物は1日目(CTRL群)、1匹の動物は13日目(CTRL群)及び1匹の動物は14日目(GF群)。実験プロトコールを完了した残り18匹のブタのうち、13匹はGF処置群であり、5匹はCTRL群であった。具体的には、生存している18匹のGF処置動物のうち、4匹は1x用量のGF(2μgのIGF-1及び0.5μgのHGF;GF-1x)を投与され、5匹の動物は2x用量(4μgのIGF-1及び1μgのHGF;GF-2x)を投与され、4匹の動物は4x用量(8μmのIGF-1及び2μmのHGF;GF-4x)を投与された。GF又は生理食塩水単独を投与した直後に、全ての生存動物に、実験の期間中BrdUの0.5M溶液10mlを積載した浸透圧ポンプを埋め込んだ。MI及び増殖因子投与の21日後にブタを屠殺した。各ブタが属する群は、免疫組織化学解析を行う実験者には分からないようにした。
【0275】
心臓機能測定
心臓機能を、ベースライン、冠動脈閉塞直後及び屠殺前に心電図で測定した。簡単に説明すると、Mモード及び2次元エコー図を用いて、胸骨傍の長軸及び短軸図を得た。LV径(LV dimension)(LVEDD及びLVESD)を中弦レベル(midchordal level)で心室の長軸に対して垂直に測定した。LV駆出率及び放射方向のストレイン(radial strain)を計算した。
【0276】
局所的冠動脈内IGF-1/HGF注入は、急性心筋梗塞後、梗塞した組織の構造を維持し、心筋細胞の生存を改善する
ヒト組換えIGF-1及びHGF(以降IGF-1/HGF又はGFと略す)を、様々な用量でブタに冠動脈内注入によって急性心筋梗塞30分後に投与した。別のブタに、生理食塩水のみの同じ容量を注入し、対照群(CTRL)を構成した。
【0277】
冠外周面積(coronal circumferential area)の%として面積測定法で決定すると、梗塞のサイズはGF処置群とCTRL群とで差がなかった(GF-1x、-2x及び-4xでそれぞれ28±5%、26±7%、29±5%、対してCTRLで27±4%)。
【0278】
遠隔領域、境界領域及び梗塞領域における心臓組織のH&E及びシリウスレッド染色した横断切片によって、梗塞領域の線維性瘢痕組織(fibrotic scar tissue)に分布する生き残った心筋組織の島が明らかとなった。これらの生き残った心筋の島は、GF処置心筋の梗塞領域において、CTRL処置動物よりはるかに多かった(図3A〜B)。共焦点顕微鏡で解析した、切片のα-サルコメアアクチン及びBrdUの二重免疫蛍光染色によって、これらの島は、主に、巨大なα-サルコメアアクチン陽性、BrdU陰性心筋細胞から成ることが明らかとなり、この表現型により、それらが前梗塞心筋として生き残ったこと、及びそれらが成熟し、もっと言えば肥大した性質を有することが確認された(図3C)。さらに、GF処置したブタ心臓では、CTRLと比べて、梗塞領域における線維性組織が有意に少なかった(図3D〜F)。より興味深いことに、この減少は、投与したGFの用量と正の直線関係を示した(図3F)。
【0279】
本研究は、初期細胞死に対するGF治療の効果をモニターするために特に適合したものではなかった。しかし、以降記載する結果から、筋細胞死が、冠動脈閉塞/再かん流事象のずっと後になっても、梗塞周辺/境界領域では非常に高い状態が続いていることは明らかである。このことはおそらく、形態学的適応と持続的細胞死の悪循環を確立することが知られている病理学的リモデリングの影響のためであろう。図3G〜Hに示すように、IGF-1/HGF投与は、活性型カスパーゼ-3について陽性な筋細胞数がCTRLと比べて減少することから示されるように、用量依存的に後期筋細胞死を有意に減少させた。解剖学的形態の維持、筋細胞の生存及びリモデリングの低下と一致して、GF処置心臓は、CTRLと比べて筋細胞の肥大応答の低下を示した(図3I)。総合すれば、これらの知見は、急性MI後のIGF-1/HGF投与が、心筋細胞数及び心筋壁構造の維持に重要な効果を有することを示唆し、生き残った筋細胞への負荷を低下させ、その結果、心筋リモデリングの改善、並びに生き残った心筋の筋細胞死及び肥大を引き起こす刺激の低下をもたらす。
【0280】
急性心筋梗塞後のIGF-1/HGFの冠動脈内投与は内在pCSCを活性化する
正常心臓(示さず)及びMI後の心臓では、免疫組織化学によって検出されるように、in situでc-kit陽性pCSCの約90%がIGF-1受容体及びc-met(HGF)受容体を発現する(図4A〜B)。その結果、GF処置した梗塞ブタ心臓は、MI21日後に、境界領域においてc-kit陽性pCSC数の有意な増加を示し、梗塞領域でははるかに大きな増加を示す(図4C〜D)。c-kit陽性pCSCのこの増加がGF投与の結果であることは、投与したGF用量との直接的相関によって確かめられる(図4D)。最も高いGF用量では、梗塞領域におけるc-kit陽性pCSCの数は、CTRL心臓に比べて、>6倍多い(図4D、補足表)。さらに、1x用量と4x用量との間の直線的増加は、最大の再生応答を引き起こす飽和用量には達していないことを示唆している。pCSCの多くがBrdU陽性であったが、このことは、MI発生後にそれらが生まれたことを実証している(図4E)。それらの周期する性質は、現在細胞周期にある、又は最近細胞周期にあった細胞を標識するKi-67染色によって確かめた(データ示さず)。多くのc-kit陽性細胞は、主要心臓系統、すなわち筋細胞、内皮細胞及び平滑筋細胞への分化の指標となる転写因子Nkx-2.5、Ets-1又はGata6を発現していた(図4F〜I)。定量解析によって、c-kit陽性Nkx2.5陽性細胞(筋細胞/血管前駆体細胞へ運命決定している)の数は、GF処置したブタ心臓の梗塞領域及び境界領域においてGF用量依存的に有意に増加することが明らかになり(図4G)、CTRL心臓におけるより>10倍高いレベルに達した。
【0281】
IGF-1/HGF処置は、急性心筋梗塞後、堅固な心筋再生を引き起こす
GF処置心臓は、梗塞領域及び梗塞周辺/境界領域のいずれにおいても、まだ最終分化段階に達していない、非常に小さい新生BrdU陽性筋細胞を多数有していた(図5)。これらのデータは、小さい新生筋細胞中のKi67の発現によって確かめられ(図5C及びF)、これらの一部は有糸分裂及び細胞質分裂にあり、それらの未成熟な性質を裏付けた(図5I)。新生BrdU陽性筋細胞は、未処置の生理食塩水を注入したCTRLブタの梗塞周辺/境界領域にも存在した。しかし、それらの数は、処置した心臓の約1/10であり、梗塞領域にはほとんど存在しなかった(図5)。
【0282】
pCSCの場合であるが、梗塞領域及び境界領域のいずれにおいても、小さいBrdU陽性/Ki67陽性新生筋細胞の数とGF用量との間には直接的相関があった(図5G〜H)。GF処置心筋では、小さいBrdU陽性筋細胞は、梗塞領域に一群の再生帯として組織化した。これらの再生帯は、GF用量が増加するにつれ、構造的により組織化し、より詰まって、且つより密であった(図5A〜B)。最後に、梗塞から離れた領域(残った心筋)における新生筋細胞(BrdU陽性又はKi67陽性)の数も出現も、GF処置動物及びCTRL動物間で有意な差はなかった(データ示さず)。
【0283】
新生BrdU陽性血管構造も、境界及び梗塞した心筋で明らかであった(図6A〜C)。GF処置心臓は、生理食塩水処置したCTRLと比べて、梗塞領域において毛細血管数及び細動脈数の増加を示し、この応答は用量依存的であった(図6D〜F)。興味深いことに、新たな微小血管は、より高密度の新生した小さいBrdU陽性筋細胞及び再生帯も有する、上述した梗塞領域内の心筋の生き残った島の周辺で最も明らかであった(Gandia, C.ら, 2008. Stem Cells 26:638)。この組織化は、成体の残った筋細胞による、pCSCに作用する心臓形成性因子(Behfar, A.ら, 2007. J. Exp. Med. 2007 204: 208)の産生を示唆している。
【0284】
MI21日後の梗塞領域において再生した筋細胞は、それらの平均サイズが示すように、並びにKi-67の発現が実証するようにそれらの多くがまだ周期しているという事実が示すように、未成熟であった(図5I、F)。成熟筋細胞の心臓形成役割について示唆された役割と一致して、成熟筋細胞と接触しているか又はごく接近している(すなわち境界領域にある)新生筋細胞は、残った組織に接近していない瘢痕の中央にあるものよりサイズが有意に大きい(図5)。GF用量の増加に伴う平均筋細胞サイズの増加が示すように、GF処置が筋細胞の成熟に役割を果たしていることも明らかである。
【0285】
ブタ心臓のサイズ及び梗塞領域の体積を考慮すると、失った筋細胞数又はGF処置によって再生した筋細胞数を正確に決定することは不可能である。それにもかかわらず、梗塞領域及び梗塞周辺/境界領域の注意深いサンプリングから、28日目において、GF処置した梗塞した心臓が、全てではないにしても大部分の失った筋細胞を再生していることには疑いの余地がない。
【実施例10】
【0286】
冠動脈内GF投与は、心室機能を維持し、且つ改善する可能性がある
心エコー画像は、左心室駆出分画率(LVEF)が、冠動脈閉塞後、CTRLブタ及びGF処置ブタで有意に低下することを示した(図6G)。しかし、AMI28日後、LVEFはCTRLでわずかに悪化したのに対し、CF処置により、CTRLと比べると有意に維持/改善された(図6G)。部位的心臓機能についてさらに洞察を得るために、組織ドップラー心エコー検査を用いて、前壁中隔の放射方向のストレイン(antero-septal radial strain)を測定したところ、CTRLに比べてGF処置ブタでは有意に改善していた(図6H〜I)。心臓機能の維持/改善は、GF用量の増加と相関した(図6)。
【実施例11】
【0287】
直径15μmのPLGAマイクロスフェアに封入した50μgまでのIGF-1の冠動脈内投与は体循環へ流出しない
実施例5で示したように、直径15μmのマイクロスフェアの≧99%は標的組織、及び具体的には心筋の毛細血管ネットワークにトラップされる。しかし、これらのデータは、活性分子が放出されると組織内に保持されるかどうか、又はそれが毛細血管循環及び静脈還流に浸出するかどうかという問題には対処しない。この問題を調べるため、実施例5〜7に述べた同じ投与プロトコールに従って、計50μgのrhIGF-1を積載したマイクロスフェア5 x 106個を左前下行枝の起始部に冠動脈投与した。主な違いは、頸静脈を通して冠状静脈洞にカテーテルを残したことであった。投与中、手術3時間後及び翌3日間にわたり12時間毎に、血液試料を冠状静脈洞から、及び耳静脈を介して静脈血から回収した。血清を調製し、回収完了まで試料をLN2中で凍結した。全ての試料を、ブタIGF-1と交差反応しないヒトIGF-1検出キット(R&D, Minneapolis, Minnesota, USA)を用いたELISAにより解析した。冠状静脈洞由来の試料も、体静脈還流由来の試料も陽性を示さなかった。本発明者らの方法では、アッセイの最小検出限界はIGF-1について52.5ng/mlであった。従って、ELISAの検出レベル未満の漏出が生じた可能性はあるものの、IGF-1の大部分が心筋を離れなかったことは明らかである。
【実施例12】
【0288】
損傷した骨格筋へのIGF-1/HGFの動脈内局所投与は、筋肉の幹細胞の活性化を誘導し、再生を刺激する
損傷した心筋を治療するために使用したプロトコールが他の組織の治療において有効かどうか試験するために、同じプロトコールを用いて、大腿動脈の45分間の完全バルーン閉塞によって虚血性損傷を引き起こした3匹のブタの右肢の虚血後の骨格筋を治療した。心筋の場合のように、バルーンの収縮による再かん流の30分後、総用量8μmのIGF-1及び2μmのHGFについて実施例2に記載するように調製した、直径15μmのIGF-1及びHGFマイクロスフェアを含有するPBS20mLの懸濁液を投与した。動物を3週間後に屠殺し、大腿四頭筋の生検を免疫組織学によって解析し、病変における幹細胞の活性化の程度を決定した。
【0289】
心筋について記載したように、大腿動脈の閉塞後、あらゆる複製細胞を効率的に標識することが知られているBrdUの溶液を連続的に送達するために浸透ポンプを動物に埋め込んだ。こうして、治療の開始後に生まれた細胞は全てBrdU標識され、対照と処置動物との再生応答の比較が可能となる。それぞれの場合に、左肢の大腿四頭筋を非損傷対照とした。
【0290】
図12及び表6に示すように、直径15μmのPLGAマイクロスフェアに封入したIGF-1/HGFの局所投与は、虚血性であるが偽薬処置した対照と比べて、処置した肢の筋組織の再生を刺激するのに非常に有効であったが、対側の肢ではそうではなかった。
【表6】
【0291】
結論:心筋以外の損傷組織への増殖因子の局所投与は、損傷組織/器官の毛細血管ネットワークを標的化する送達系について予測されるように、マイクロスフェアの投与部位より下流の領域に位置する損傷組織の再生応答において刺激効果を有する。
【実施例13】
【0292】
IGF-1/HGF/SCFの冠動脈内注入は、CSCの活性化及び心室機能の維持において、IGF-1/HGFのみより強力な効果を有する
上の実施例に記載したプロトコールに新たな因子を付加することにより梗塞後の心筋の再生応答が改善するかどうか試験するために、3匹の動物群に実施例9で使用した高用量のIGF-1(8μg)及びHGF(2μg)を4μgのSCFとともに投与した。実施例2に記載したように、これらの因子はそれぞれ直径15μmのPLGAマイクロスフェアに封入した。梗塞の発生、モニタリング及びマイクロスフェア懸濁液の投与についてのプロトコールは実施例5〜7に記載した通りであった。動物を処置4週間後に屠殺した。
【0293】
図13A及び図13Bに示すように、3因子プロトコールにより引き起こされた再生は、再生のレベルにおいても再生した筋細胞の成熟においても、IGF-1/HGFの組み合わせによる場合より有意に優れている。表に示すように、細胞性及び組織学的パラメーターと機能的パラメーターは、用いた因子間の相乗効果を確かめ、記載した発明が、再生応答を改変する治療化合物の複数の変形を作製するのに適することを実証する。これらのデータから、特定の因子を有する粒子の加減に加えて、他のバリエーションとして、特定の因子又は一連の因子の用量、特定の因子の放出/荷降ろしのプロファイル、積載の程度などを変化させることがあり得ることを推定することは理に適っている。
【0294】
結論:本発明は、限定的な一連の構成要素から始めて、各因子を様々な用量、様々な放出パターン及び無制限の他の因子との組み合わせで使用することができる、治療化合物の特定の組み合わせのほぼ無数の製剤を許容する。これにより、単一の投与において、異なる時間で、異なる細胞標的に作用し、異なる有効量を要する可能性がある、様々な治療剤の組み合わせで特定の組織に標的化することが可能になる。これらの可能性は、心筋及び大部分の内部器官などの、繰り返し接近できないアクセス困難な組織について特に有利である。
【0295】
図の説明
図1.成体ブタ心臓におけるc-kit陽性心臓細胞の分布及び特性解析
(A〜B)正常なブタ心臓の右心房(A)及び左心室(B)におけるc-kit陽性(c-kit陽性(c-kitpos);白色)細胞の代表的な共焦点像。心筋細胞をα-サルコメアアクチン(α-sarc act)により赤色(図では灰色で示される)に染色し、核をDAPIで青色に染色した。(C)c-kit陽性細胞は、心房心筋及び心室心筋中に分布し、右心室及び左心室(RV, LV)と比べて、心房及び心尖部により高密度で分布する。RV及びLVに対して*p<0.05。(D)心房、心室(RV)及び心尖部について筋細胞を欠失した心臓細胞集団内のc-kit陽性細胞の代表的なFACS解析。(E)MACSを用いて得たc-kit陽性細胞は、>90%の濃縮を示す。c-kit陽性を濃縮したブタ心臓細胞のFACS解析により、それらは造血細胞系統マーカーCD45及びCD34について陰性であることが明らかとなった。また、c-kit陽性ブタ心臓細胞の高い割合は間葉細胞系統マーカーCD90及びCD166を発現する。
【0296】
図2.c-kit陽性ブタ心臓細胞は、幹細胞性マーカーを発現し、クローン形成能、自己複製、心臓球形成及び多能性の幹細胞特性を有し、それらの活性化を調節するインタクトなシグナル伝達IGF-1/HGF系を発現する
(A)4代継代した増殖したc-kit陽性ブタ心臓細胞を示す光学顕微鏡像。(B)単一のc-kit陽性ブタ心臓細胞をテラサキプレートのウェルに入れ、単一細胞クローンを生成させた後のクローンの光学顕微鏡像。(C)c-kit陽性ブタ心臓細胞のクローン形成能は心室にわたって同程度であり、マウス及び齧歯動物CSCと比べて同程度であった。(D)クローン化したc-kit陽性ブタ心臓細胞の免疫蛍光染色により、c-kit(白色)の発現が確かめられ、それらが心臓幹細胞と前駆細胞の混合物であることを示す、Flk-1、Oct-4、Nanog、Tert、Bmi-1、Nkx2.5及びIsl-1(全て灰色で示される)の発現が明らかとなった。像は倍率20倍であり、拡大した像を挿入に示す。(E)クローン化したc-kit陽性ブタ心臓細胞は心臓球を形成した(a)。c-kit陽性(白色)心臓球(b)をラミニンコートしたディッシュ内の心臓形成培地に入れると、心臓球細胞は球から広がる(c)。4〜6日後、球の周辺にある細胞では、心筋細胞(α-サルコメアアクチン、α-Sarc Act;d)、平滑筋細胞(平滑筋アクチン、SMA;e)及び内皮細胞(フォンヴィルブランド因子、vWF;f)についての生化学マーカーの発現が増加した(全て灰色の蛍光で示される)。(F)免疫蛍光染色は、c-kit陽性ブタCSCがIGF-1受容体及びHGF受容体を有することを示す(灰色、それぞれIgf-1R及びc-met)。(G〜H)培養液中で増殖すると、新たに単離したブタc-kit陽性心臓細胞は、細胞増殖(G;基準に対して*p<0.05、CTRLに対して†p<0.05、HGFに対して‡p<0.05)及び細胞移動(H;CTRLに対して†p<0.05、IGF-1に対して‡p<0.05)によってIGF-1及びHGFの刺激に応答する。(I)ウエスタンブロット解析によって、リガンドが結合すると、c-kit陽性ブタ心臓細胞において特異的な下流のエフェクター経路が活性化することが明らかとなった。phos=リン酸化、FAK=焦点接着キナーゼ。
【0297】
図3.IGF-1及びHGFの冠動脈内注入は、AMI後、心筋細胞のリモデリングを改善する
(A)GF処置したブタ心臓のH&E染色により、再生層と線維化層との間に位置する、梗塞領域における生き残った心筋組織の島が明らかとなった(矢印)。(B)これらの心筋の島は、生理食塩水で処置したCTRLブタ心臓ではあまりなく、構造的にほとんど定められなかった。(C)これらの心筋の島は、主にBrdU陰性心筋細胞(心筋トロポニンI、cTnI;灰色、細胞の中央に黒丸で表す核とともに)からなり、それらの生き残った成熟した表現型を実証する。梗塞後に生まれた細胞はBrdU陽性で、それらの核は白いドットで示す。(D〜E)シリウスレッド染色により、GF処置ブタ心臓(D)及び生理食塩水処置CTRL(E)ブタ心臓において、梗塞領域の横断切片中の線維化組織(灰色の染色)及び筋肉(黄色の染色)を特定した。(F)GF処置した(IGF-1/HGF)ブタ心臓は、生理食塩水処置したCTRLブタと比べ、梗塞領域における線維化の%面積比が低下した。CTRLに対して*p<0.05。IGF-1/HGF 1xに対して†p<0.05。(G)活性型カスパーゼ-3に対する染色(茶色;矢頭)によって、AMI後のCTRLブタ心臓の梗塞周辺/境界領域におけるアポトーシス筋細胞が明らかとなった。(H)IGF-1及びHGF注入は、梗塞周辺/境界領域において、生理食塩水処置CTRLと比べて、アポトーシス筋細胞数の減少をもたらした。CTRLに対して*p<0.05、IGF-1/HGF 1xに対して†p<0.05、IGF-1/HGF 2xに対して‡p<0.05。(I)筋細胞直径の解析は、GF処置ブタが、生理食塩水処置CTRL動物と比べると、AMI後に筋細胞肥大応答の低下を有することを示した。正常=CTRL心臓における梗塞領域から離れた/遠位領域。正常に対して^p<0.05、CTRLに対して*p<0.05。IGF-1/HGF 1xに対して†p<0.05。
【0298】
図4.AMI後のIGF-1及びHGF投与は、内在性CSCを活性化し、それらの心臓系統への運命決定(commitment)を推進する
(A〜B)大部分のブタckit陽性CSC(白色)はIgf-1受容体(A、灰色)及びc-met受容体(B、灰色)をin vivoで発現する。DAPIは核を青色に染色する。(C)GF-4x処置ブタ心臓の梗塞領域におけるckit陽性CSCの集団(白色)。(D)ckit陽性CSCの数は、生理食塩水処置CTRLと比べて、GF処置ブタの境界領域において有意に増加したが、梗塞領域においてさらに増加した。CTRLに対して*p<0.05、IGF-1/HGF 1xに対して†p<0.05、IGF-1/HGF 2xに対して‡p<0.05。(E)GF処置したブタ心臓の多くのc-kit陽性CSC(白色)は、新生状態の指標となるBrdU(灰色)について陽性であった。(F)c-kit陽性CSC(白色)は、心臓前駆細胞を表す心臓転写因子Nkx2.5(灰色)を発現した。核をDAPI(青色)で染色した。(G)c-kit陽性Nkx2.5陽性心臓前駆細胞の数は、GF処置したブタ心臓の梗塞領域及び境界領域で増加した。CTRLに対して*p<0.05、IGF-1/HGF 1xに対して†p<0.05、IGF-1/HGF 2xに対して‡p<0.05。(H〜I)一部のc-kit陽性CSC(白色)は、それぞれ平滑筋分化及び内皮細胞分化の指標となる転写因子GATA6(H;灰色)及びEts-1(I;灰色)を発現した。
【0299】
図5.IGF-1/HGF冠動脈内投与は、AMI後、かなりの量の新生筋細胞形成を誘導する
(A〜B)GF-1x(A)及びGF-4x(B)処置したブタ心臓の梗塞領域における小さい新生BrdU陽性(白色)筋細胞(灰色;α-サルコメアアクチン、α-Sarc Act)の再生帯。4x量のGF投与後の再生帯のサイズ増加に注目。また、筋細胞は、4x量のGF投与後、より密で、詰まっており、且つ心筋として構造化している。(C)梗塞領域におけるこれらの再生帯内に、小さいKi67陽性(白色)増殖筋細胞(灰色;α-Sarc Act)があった。(D〜E)GF-1x(D)及びGF-4x(E)投与後の、境界領域における新生小BrdU陽性(白色の核)筋細胞(灰色;α-Sarc Act細胞質)。(F)小さいKi67陽性(白色)筋細胞(灰色;α-Sarc Act)も、GF注入後、境界領域に存在した。(G〜H)小さいBrdU陽性及びKi67陽性筋細胞の割合は、GF注入後、境界領域で有意に増加したが、梗塞領域でさらに増加した。CTRLに対して*p<0.05、IGF-1/HGF 1xに対して†p<0.05、IGF-1/HGF 2xに対して‡p<0.05。(I)GF-4x処置したブタ心臓の梗塞領域における小さいKi67陽性の有糸分裂筋細胞。
【0300】
図6.増殖因子投与は、梗塞したブタ心臓において、新たな血管構造の生成を増加させ、心臓機能を改善した
(A)新生動脈構造(BrdU、白色;α-平滑筋アクチン、SMA、白色;ミオシン重鎖、MHC、灰色;DAPI、青色)は、GF処置したブタ心臓の梗塞領域において顕著であった。(B〜C)新生毛細血管も、IGF-1及びHGF注入後、梗塞領域で顕著であった(BrdU、白色;vWF、灰色;DAPI、濃灰色)。(D〜F)GF処置ブタにおける毛細血管数は、生理食塩水処置(濃灰色染色)CTRLと比べて、梗塞領域において有意に増加した。CTRLに対して*p<0.05、IGF-1/HGF 1xに対して†p<0.05、IGF-1/HGF 2xに対して‡p<0.05。像(倍率20倍)は、生理食塩水処置CTRL(D)及びGF-4x(E)処置した心臓におけるvWF染色(濃灰色)を示す。毛細血管は、1又は2個の内皮細胞からなる血管と定義した。(G〜H)GF処置心臓は、生理食塩水処置CTRLと比べて、左心室(LV)駆出分画率(G)及び放射方向のストレイン(H)の改善を示した。ベースラインに対して*p<0.05、AMIに対して#p<0.05、CTRLに対して†p<0.05、GF-1xに対して‡p<0.05。(I)CTRL(a〜c)及びGF-4x(d〜f)処置ブタから明らかとなった代表的な組織ドップラー放射方向のストレイン(Tissue Doppler radial strain)。CTRL(b)及びGF-4x(e)処置ブタは、90分間の冠動脈閉塞(AMI)後、前壁中隔収縮の同程度の脱同調を有した。屠殺時に(MI後)、脱同調収縮はCTRL(c)で悪化したのに対し、GF処置(f)ブタでは改善した。
【0301】
上記結果は、これらの増殖因子のμgレベルの投与が心筋リモデリングを改善し、内在CSCの活性化を促進することを実証し、それにより、広範な新たな心筋形成が引き起こされ、用量依存的に、ヒトに似たサイズ及び形態の動物心臓において、臨床上実行可能なプロトコールを用いてLV機能が改善される。従って、IGF-1/HGF注入は、投与したGFの用量に比例した、心臓リモデリング及び自己細胞再生に対して様々な有利な効果を引き起こした。
【0302】
図7は、上記方法で得られたIGF-1を含有するPLGA粒子の光学顕微鏡像を示す。
【0303】
図8は、上の図に示されているのと同じバッチの粒子の電子顕微鏡写真を示す。
【0304】
図9は、ブタ#1(左の像)及びブタ#2(右の像)の心臓の切片を示す。ブタ#1の左冠動脈によって供給される左心室の前壁は、多数の微小梗塞(色が薄い領域)を示すのに対し、ブタ#2の心筋は均一な色合いで示されるように正常である。
【0305】
図10Aは、ポリスチレン(赤色のビーズ、図では灰色の大きな直径、滑らかな円で示す)及びPLGA+増殖因子(緑色のビーズ、図では白色の小さい直径及び不規則な形で示す)ビーズの混合物の投与30分後に屠殺したブタ#3の心筋の切片を示す。赤色の粒子及び緑色の粒子間の見かけ上のサイズの違いは、赤色のより強い蛍光のためである。
【0306】
図10B及び10Cは、ポリスチレン(赤色、図では灰色の大きな直径、滑らかな円で示す)及びPLGA+増殖因子(緑色、図では白色の小さい直径及び不規則な形で示す)ビーズの混合物の投与24時間後に屠殺したブタ#4の心筋の切片を示す。赤色ビーズに対する緑色ビーズの比は、PLGA微粒子の分解のため、この動物において有意に低下している。左の4つのパネルにおいて、赤色のビーズのみが検出されるのに対し、右のパネルでは、比は1:1に近づいている。
【0307】
図11は、ブタ#4の2つの領域の顕微鏡切片を示す。筋細胞は灰色である。核は濃灰色である。内在性心臓幹細胞(CSC)を矢頭(上)及び矢印(下)で特定する。それらの膜を薄い緑色で標識する。上の図では、細胞が休止状態にあるため、核はきれいである。下の図では、全てのCSCは、細胞周期に入っている細胞のマーカーであるタンパク質Ki-67を特定する核内の薄い灰色の染色を有する。
【0308】
図12.15μmPLGAマイクロスフェア中に封入したIGF-1及びHGFの局所投与は、損傷した骨格筋の再生を増進する
対照及び損傷した大腿四頭筋の組織学的像。パネルA:右の筋肉に病変を引き起こした5日後の左の筋肉(対照)の組織学的像。この肢には治療薬を投与していない。パネルB:損傷を引き起こした5日後の治療していない右大腿四頭筋の組織学的切片(損傷対照)。矢頭は、細胞壊死のいくつかの広範な領域のうち2つを示しており、ここでは再生応答を開始するための核の凝縮が見られる。パネルC:計16μgのIGF-1及び4μgのHGFの投与に相当するIGF-1を積載したマイクロスフェア及びHGFを積載したマイクロスフェアの混合物で処置した、損傷3日後の右大腿四頭筋の右の生検。矢頭は、まさに再生過程にある損傷領域中の若い微小繊維を指し示す。パネルD:パネルCに示される同じ筋肉の2日後(損傷5日後)の生検。小さな色の濃い繊維は、再生した繊維のマーカーである胚性ミオシン重鎖に対する抗体で標識された再生した繊維である。このパネルの像は、パネルBの像に対応する。2つの像の顕著な違いは、治療の有効性を示す。
【0309】
図13.直径15μmのPLGAマイクロスフェアに封入し冠動脈投与したIGF-1/HGF/SCFの組み合わせの心筋再生能の増進
図13Aの棒グラフは、2種類のマイクロスフェアの組み合わせで処置したAMI後のブタ(白棒)(一方はIGF-を積載し、もう一方はHGFを積載)と、3種類のマイクロスフェア(hrIGF-1、hrHGF及びhrSCF)の組み合わせで処置した動物(黒棒)において、再生した心臓筋細胞の数における効果を比較する。使用した3つの異なる濃度において、それぞれ異なる因子を積載した3種類のマイクロスフェアの組み合わせが、2種類のみの組み合わせより優れていることは明らかである。CTRL=偽薬で処置した対照動物;白棒:1X=生物学的に活性な2μgのIGF-1及び0.5μgのHGF相当を積載したマイクロスフェアを投与した動物;2X=4μgのIGF-1及び1μgのHGF、並びに4X用量=8μgのIGF-1及び2μgのHGF。黒棒:白棒で表す動物に対するのと同量のIGF-1及びHGFに加えて、2、4及び8μgの生物学的に活性なhrSCF相当のSCFを積載したマイクロスフェア。
【0310】
図13Bは、様々な組み合わせのマイクロスフェアで処置したブタの心エコー検査によって決定した、AMI前、直後及び4週間後の左心室駆出分画率を示す。ベースライン=AMI直前のLV駆出分画率;AMI=AMI後のLV駆出分画率;AMI後=AMI及び局所的GF処置4週間後のLV駆出分画率。C=AMI後、偽薬で処置した対照動物;○=冠動脈内に溶液中4X用量のIGF-1+HGFで処置した動物;▼=冠動脈閉塞部位のすぐ下流に投与したPLGAマイクロスフェア中に封入した4X用量のIGF-1+HGFで処置した動物;△=冠動脈閉塞部位のすぐ下流に投与したPLGAマイクロスフェア中にそれぞれ別に封入した4X用量のIGF-1+HGF+SCFで処置した動物。
【0311】
明細書及び添付の特許請求の範囲全体において、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む」という語は、記載した整数若しくはステップ又は整数の群を含むことを意味するが、他の整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を除外することを意味しないと解される。
【0312】
本開示の実施形態は、整数を含むものとして本明細書に記載する。本開示はまた、前記整数からなる、又は基本的に前記整数からなる別の実施形態にまで拡張する。
【0313】
本開示は、技術的に可能である場合、本明細書に記載する1つ以上の実施形態の組み合わせに拡張することも具体的に想定される。
【0314】
本明細書に記載する全ての特許及び特許出願は、その全体が参照により援用される。
【0315】
本明細書及び特許請求の範囲が一部を構成する出願は、それに続く出願に関して、優先権の基礎として使用し得る。そのような後願の特許請求の範囲は、本明細書に記載する構成又は構成の組み合わせに関し得る。それらは、物、組成物、プロセス、又は用途クレームの形態でよく、そして実施例によって、限定されることなく、特許請求の範囲を含むだろう。
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば標的器官又は標的組織の上流に投与する場合、製剤化された活性成分を特定の組織及び/又は器官(複数可)に標的化するのに適した医薬製剤に関する。本開示はまた、治療における該製剤の使用、該製剤を投与する治療方法、及び該製剤の製造方法に関する。
【0002】
特に、様々な増殖因子及びサイトカインを使用して、標的組織への活性化合物の局所送達用デバイス、例えばカテーテルを用いて内在幹細胞集団を活性化することによって、固形組織の本来備わっている再生能を刺激する。
【背景技術】
【0003】
大部分の薬剤/医薬品は、例えば経口的に、静脈内に、ワクチンにより、筋肉内などにより、全身投与する。明らかな例外は、活性成分で被覆したステント、肺に直接送達される一部の吸入製剤、標的領域に向けた一部の放射線治療、並びに局所投与される一部の皮膚科、眼科及び耳鼻科的治療である。
【0004】
とはいえ、適切な場合に、医薬品を主に罹患組織又は罹患器官に送達可能であることは有利である。なぜならば、これにより、必要な用量が低減し、且つ副作用が最小限にもなるからである。こうしたアプローチは、医療の2つの主要領域にとって特に有利である。a)特定の組織において内在幹細胞の増殖及び分化を活性化可能である増殖因子及びサイトカインの投与。これらの分子の潜在的な生物学的活性のため、それらの作用を対象組織に限定し、体の他の部分への流出が最小限であるか又は全くないことが望ましい。b)癌化学療法剤の送達。癌組織を特異的に標的化することができれば、少なくとも有意な程度にまで、該薬剤の恐ろしい毒性副作用を最小限に抑制しながら、標的細胞へより高用量の投与が可能となるかもしれないためである。
【0005】
より急性状態、例えば心臓発作及び卒中では、損傷器官を特異的に標的化することができれば、より良い治療、特に損傷組織の再生に関する治療が可能であるかもしれない。慢性状態、例えばパーキンソン病、糖尿病、又は肺線維症では、欠損細胞種(複数可)を再構成可能な薬剤の局所投与により、疾患の予後が改善する可能性がある。
【0006】
しかし、活性成分の標的組織又は標的器官への治療上有効な方法での再現可能な送達は、用いる成分(賦形剤を含む)、それらの物理的特性、用量及び送達方法に大きく影響を受ける。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、活性成分及び生分解性ポリマー賦形剤を含有する粒子を含む、標的組織への非経口投与用、特に動脈内投与用医薬製剤を提供する。ここで、製剤を標的組織の上流に投与する場合、活性成分が標的組織を通過して体循環に入る能力を制限するように、粒子の30%以上が25μm以下の直径を有し、製剤は直径50μmを超える粒子を実質的に含まない。つまり、活性成分は標的組織に保持され、一方で標的組織を通過して体循環に入る能力は大きく制限されているか、又は全くない。
【0008】
従って、本発明の特定の態様において、心臓組織への非経口投与用医薬製剤が提供され、該医薬組成物は活性成分及び生分解性賦形剤を含有する粒子を含み、製剤を標的組織の上流に投与する場合、活性成分が標的組織を通過して体循環に入る能力を制限するように、粒子の90%以上が10〜20μmの直径を有し、製剤は直径50μmを超える粒子及び直径5μm未満の粒子を実質的に含まない。一実施形態において、医薬発明の粒子の少なくとも90%が15〜20μmの直径を有する。
【0009】
本発明の一態様において、心臓組織への非経口投与用、例えば動脈内投与用の医薬製剤が提供され、該医薬組成物は、HGF及びIGF-1からなる群より選択される活性成分と生分解性賦形剤を含有する粒子とを含み、製剤を心臓組織の上流に投与する場合、活性成分が心臓組織を通過して体循環に入る能力を制限するように、粒子の90%以上が10〜20μmの直径を有し、製剤は直径50μmを超える粒子及び直径5μm未満の粒子を実質的に含まない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は成体ブタ心臓におけるc-kit陽性心臓細胞の分布及び特性解析を示す。
【図2】図2は様々な増殖したブタ心臓細胞を示す光学顕微鏡像を示す。
【図3】図3はGF処置したブタ心臓のH&E染色を示す。
【図4】図4は内在性CSCの活性化の証拠を示す。
【図5】図5は小さい新生細胞の再生帯を示す。
【図6】図6は新生組織の様々な像を示す。
【図7】図7は実施例1のように調製したIGF-1を有するPLGA粒子の光学顕微鏡像を示す。
【図8】図8は実施例1のように調製したIGF-1を有するPLGA粒子の電子顕微鏡像を示す。
【図9】図9はブタ心臓の切片を示す。
【図10A】図10Aはポリスチレンマイクロスフェア又はPLGA及び増殖因子マイクロスフェアの投与後のブタ心筋の切片を示す。
【図10B】図10Bはポリスチレンマイクロスフェア又はPLGA及び増殖因子マイクロスフェアの投与後のブタ心筋の切片を示す。
【図10C】図10Cはポリスチレンマイクロスフェア又はPLGA及び増殖因子マイクロスフェアの投与後のブタ心筋の切片を示す。
【図11】図11は内在性心臓幹細胞を強調したブタ心臓の切片を示す。
【図12】図12は対照及び損傷した大腿四頭筋の組織学的像を示す。
【図13A】図13Aは、AMI後2種類のマイクロスフェアの組み合わせで処置したブタで再生した心筋細胞数における効果を比較する。
【図13B】図13Bは、マイクロスフェアの様々な組み合わせで処置したブタの心エコー検査により決定した、AMI前、AMI直後、及びAMI4週間後の左心室駆出分画率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本開示の製剤は、標的組織又は標的器官の上流の動脈血中に投与する場合、循環により、及び粒径と分布滞留(distribution lodge)のために、標的組織又は標的器官に運び込まれる。つまり、直径約5〜10μmの組織又は器官の毛細血管にトラップ又は捕捉される。毛細血管に留まり血流を遮断する粒子は一般に望ましくないが、特に、製剤が非常に低用量の治療薬の使用を可能にする場合に、本開示の製剤によって影響を受ける毛細血管数は比較的少ない。さらに、生分解性賦形剤は融解、溶解、分解され、又はなんらかの方法で活性成分からそれ自体を分離し、最終的に「遮断」が解除される。従って、粒子の動きは、短期間の後に毛細血管を自然の状態に復帰させる可逆過程である毛細血管中の滞留によって制限される/遅延する。粒子の動きを短期間遅延させることによって、局所作用又は組織の血管外スペースへの活性成分の吸収を促進するのに適切な期間にわたり、標的付近に活性成分を維持することが可能となる。
【0012】
製剤は、全てではないが大部分の活性成分を粒子から放出し、標的組織血管床に固定化するように設計する。活性成分の積み荷(load)を放出すると、粒子は分解され、全身循環へと放出される構成材料は肝臓及び/又は腎臓によって代謝又は除去されるように設計する。
【0013】
本開示は、活性成分及び生分解性賦形剤を含有する粒子を含む、標的組織への非経口投与用医薬製剤を提供し、製剤を標的組織の上流に投与する場合、活性成分が標的組織又は標的器官に治療効果のある期間にわたり保持されるように、粒子の30%以上は25μm以下の直径を有し、製剤は直径50μmを超える粒子を実質的に含まない。
【0014】
活性成分の大部分は体循環に取り込まれずに標的組織に保持されるため、特に、本開示の製剤により、使用する活性成分の量の低下が可能となる。このことにより、活性成分の治療域が拡大するように思われる。つまり、治療上活性となる成分の用量範囲が拡大し、投与する絶対量の低下が可能となる。より低用量の局所投与は、副作用を最小限に抑えられる可能性が高いことを意味する。
【0015】
適切な用量は、例えば0.05μg/Kg〜約10μg/Kgの範囲内、例えば0.1μg/Kg〜約0.5μg/Kg、特に0.15、0.2、0.25、0.35、0.4又は0.45μg/Kgである。
【0016】
治療効果のために局所的に低用量を投与することは、強力な分子、例えば腫瘍形成を刺激する可能性があることが知られている増殖因子において特に重要である。正しい状況では治療上有利な効果をもたらすにもかかわらず、これらの潜在的に有害な副作用は、このような分子の有用性を制限する。
【0017】
本開示の製剤は、活性成分が結合したポリスチレン、シリカ又は他の非生分解性ビーズを含むマイクロスフェアを使用しない。なぜならば、持続的な弾性物質、すなわち非生分解性物質、例えばポリスチレン及びシリカは局所的な毛細血管に損傷を引き起こす可能性があり、異物として作用して局所炎症反応を引き起こし得るからである。さらに、そのような非生分解性ビーズは、最終的に体循環へと侵入し、ひいては、例えば肺及び肝臓などの遠位組織に蓄積する可能性があり、これらは全て望ましくない。
【0018】
一般に、各粒子は活性成分及び賦形剤を含む。製剤についての記載が、単純な混合物における活性成分の別個の粒子及び生分解性ポリマーの別個の粒子を意味することは意図しない。
【0019】
上に用いるように「50μmを超える粒子を実質的に含まない」とは、米国薬局方及び/又は欧州薬局方に定められた非経口製剤として投与する基準を満たす製剤を意味することを意図する。
【0020】
一実施形態において、「実質的に含まない」とは、該粒子の5%未満、特に1%未満、例えば0.5%未満、例えば0.1%未満を含有することを含んでよい。
【0021】
一実施形態において、粒子の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、例えば少なくとも99%が25μm以下の直径を有する。
【0022】
一実施形態において、粒径は6〜25μmの範囲内、例えば10〜20μm、特に15〜20μmであり、例えば粒子の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、例えば少なくとも99%が関連する粒径又は前記範囲内にある。従って、本発明の一実施形態において、医薬組成物の粒子の少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%が10〜20μmの直径を有する。別の実施形態において、医薬組成物の粒子の少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%が15〜20μmの直径を有する。
【0023】
一実施形態において、製剤は、直径1μm未満の粒子を含有しない。
【0024】
一実施形態において、製剤は、直径5μm未満の粒子を含有しない。
【0025】
一実施形態において、活性成分を有する粒子の少なくとも30%が投与後標的組織に保持され、例えば活性粒子の少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、例えば少なくとも80%又はそれ以上が保持される。
【0026】
一実施形態において、活性粒子は標的組織又は標的器官に、5分〜24時間、例えば30分〜5時間、例えば1、2、3又は4時間にわたり保持される。
【0027】
製剤が関連組織又は関連器官に保持される期間は、主に、使用する賦形剤又は賦形剤の組み合わせによって異なる。従って、in vivoで賦形剤に求める特性は以下の通りである:
・生体適合性であり(すなわち、一般に非毒性であり、ヒト及び/又は動物への投与に適し)、
・投与後適切な時間枠内で、例えば標的組織又は標的器官の毛細血管又は細動脈に留まることによって、粒子の動きを遅延させるのに十分な粒子完全性(particle integrity)を維持するのに寄与し、そして
・活性成分を放出するために、及び活性成分を放出した後に、生体により生分解可能である(すなわち、処理又は代謝可能である)。
【0028】
従って、本開示での使用に適する生分解性ポリマー賦形剤は、in vivoで長い滞在時間を有さないポリマー又はコポリマーであり、すなわち、ポリスチレン、ポリプロピレン、高密度ポリエテン(polyethene)及び同様の特性を有する物質などの物質を含まない。生分解性ポリマーは非毒性であり、且つ賦形剤由来の循環する断片/残屑の量を最小限に抑えるように、非毒性サブユニットに好ましくは局所的に分解されなければならない。
【0029】
好適な賦形剤は米国薬局方(USP)に見出すことができ、無機及び有機、天然及び人工ポリマーを含む。例としては、ポリ乳酸、ポリグリコリド(polygycolide)又はそれらの組み合わせ、すなわちポリ乳酸-グリコール酸コポリマー(polylactic co-glycolic acid)、ポリカプロラクトン(ポリ乳酸-グリコール酸コポリマーより生分解速度が遅い)、ポリヒドロキシ酪酸、又はそれらの組み合わせなどのポリマーを挙げることができる。ポリウレタン、多糖、タンパク質及びポリアミノ酸、炭水化物、キトサン(kitosane)、ヘパリン、ポリヒアルロン酸なども好適であり得る。賦形剤は一般に、活性成分が結合することができる、あるいは活性成分が会合するか又は組み込まれる近似球(マイクロスフェア)である粒子の形態である。
【0030】
リポソームは、本開示の意味において、生分解性ポリマー賦形剤ではない。リポソームは、一般にコレステロールを含むリン脂質二重層の小胞である。動脈硬化によって誘導される心筋梗塞などの疾患では、疾患の危険因子の1つとしてコレステロールレベルをモニターし、それ故、そのような患者へのコレステロールを含有する製剤の投与は避けることが賢明かもしれない。さらに、肝硬変を有する患者は、脂質及び食物脂肪の代謝障害が悪化している可能性があり、従って、そのような患者へのリポソームの投与は賢明でないかもしれない。
【0031】
一実施形態において、生分解性賦形剤はヒドロゲル(対応するコロイド分散相の連続相)ではない。
【0032】
従って、活性成分の「放出」速度及び粒子の「溶解」速度は、賦形剤及び/又は賦形剤への活性成分の結合方法を変更することによって変更することができ、そのため、例えばポリカプロラクトンの使用は、ポリ乳酸-グリコール酸コポリマーを用いる対応する粒子より溶解又は分解に長時間かかる粒子をもたらす。活性成分を賦形剤内に組み込む場合、粒子の表面にある場合よりゆっくり放出される。表面に存在し静電荷により結合する場合、共有結合の場合より速く放出される。
【0033】
一実施形態において、賦形剤はポリ乳酸-グリコール酸コポリマーを含む。
【0034】
一実施形態において、実質的に全ての粒子、例えば粒子の80、85、90、95、96、97、98、99又は100%がポリ乳酸-グリコール酸コポリマーを含む。
【0035】
一実施形態において、ポリ乳酸-グリコール酸コポリマーはそれぞれ75:25の比である。
【0036】
一実施形態において、賦形剤は2種以上の異なるポリマーを含む(ポリマーという用語にはコポリマーが含まれる)。
【0037】
一実施形態において、賦形剤には、アクリレートポリマー、例えばメタクリレートポリマーが含まれてよい。
【0038】
一実施形態において、粒子はアルギン酸塩を含む。
【0039】
一実施形態において、賦形剤はポリウレタンの生分解性形態を含む。
【0040】
一実施形態において、賦形剤はマイクロスフェアの形態である。
【0041】
一実施形態において、本開示は、ポリビニルアルコールマイクロスフェア製剤を使用する。
【0042】
一実施形態において、マイクロスフェアはアルブミンでない。
【0043】
一実施形態において、使用する活性成分(複数可)は、例えばオイドラギット(Eudragit)範囲から選択される生分解性被覆内に封入する。
【0044】
一実施形態において、1種以上の活性分子を粒子内に封入する。
【0045】
本開示に記載するように活性化合物が機能するため、これらを、サイズ、形態及び組成のために、血流とともに移動し標的組織に到達する微粒子として循環に投与する必要がある。標的で、粒子は活性成分の積み荷を制御可能な方法で放出すべきである。この目的を達成するために、荷を降ろしたら、粒子は分解され、その成分は代謝されるか、又は生体の通常の排出機構によって除去されるように体循環へと運ばれるべきである。
【0046】
これらの目的を達成するために、微粒子は以下の特徴を満たすべきである。
【0047】
微粒子は、確実に、循環系の設計したレベルで到達し、留まるために、均一な粒径及び形態であるべきである。粒径及び形態の均一性は、粒子が球状である場合により良く制御される。
【0048】
大部分の毛細血管床は、直径<6μmの粒子を自由に通過させ、本開示のマイクロスフェアは直径>6μm、好ましくは約15μmを有するべきである。直径20μm以上の範囲の粒子は、前毛細血管細動脈(pre-capillary arteriole)又は細動脈に留まり、一度にいくつかの毛細血管の血流を遮断する。従って、それらは微小梗塞を引き起こす可能性がある。従って、再生治療の送達において、最も好適なマイクロスフェアの直径は、15μmの範囲である。しかしながら、さらに、直径5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、16、17、18、19、20、21、22、23、24及び25μmを有する粒子は本発明における使用が想定される。
【0049】
標的に到達した場合に活性化合物を放出するのに要する時間は、マイクロスフェアの種類及び治療目的に応じて、数分〜数日そして数週にさえ及び得る。
【0050】
マイクロスフェアは、生分解性且つ非毒性化合物で作製するべきである。粒子の安定性及び分解時間は、マイクロスフェアの組成及び種類に依存する。分解し始める前に、積み荷を送達するように設計してもよい。あるいは、粒子が分解しながら積み荷の送達が起こるように設計してもよい。
【0051】
賦形剤として使用するポリマーの性質、そのサイズ、モノマー間の結合の不安定性、及び架橋結合の程度は、もしあれば、活性成分の放出速度、並びに粒子の安定性及び分解性に影響を与える。
【0052】
全ての実施形態において、マイクロスフェアは、循環に投与する間及び標的血管床に到達するのに要する時間の間、実質的に壊れないか、又は分解しないように、溶液中で十分に安定であるべきである。
【0053】
本開示の好適な実施形態において、各粒子は、単一の種類の活性化合物を有する。化合物の混合物が治療目的に有益であると考えられる場合、微粒子の混合物(各微粒子は単一の種類の化合物を積載する)を投与してよい。この設計は、治療用化合物の製造を単純化し、治療の柔軟性の増大をもたらし、それにより、患者の個別の具体的なニーズを迅速に満たす、個々に応じた医薬の製造が可能となる。
【0054】
一実施形態において、使用する粒子(複数可)は、1種類の活性分子のみと結合する。
【0055】
一実施形態において、使用する粒子(複数可)は、混合物、例えば2、3又は4種類の活性分子と結合する。
【0056】
活性化合物は、粒子上に、その形成時に積載してよく、並びに例えば粒子中に分散してよい。
【0057】
活性化合物は、賦形剤がマイクロスフェアの殻を形成する場合、粒子の内部に封入してよい。
【0058】
一実施形態において、活性成分(複数可)は粒子(複数可)に共有結合し、例えばポリペプチド又はタンパク質は、アルデヒド、例えばホルムアルデヒド又はグルタルアルデヒド処理により、例えば活性成分(複数可)、適切なアルデヒドの存在下でマイクロスフェア(又はマイクロスフェアの成分)を乳化し、必要な粒径の粒子の形成に適した条件下で混合物をホモジネートすることにより、架橋結合を介してマイクロスフェアに結合する。あるいは、活性成分は賦形剤マイクロスフェア上に存在するカルボキシレート基に結合してもよい。
【0059】
一実施形態において、活性成分(複数可)は静電力(電荷)によって粒子(複数可)に結合する。
【0060】
一実施形態において、活性成分(複数可)は、高分子電解質、例えば水溶液中にナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン及び/又はカルシウムイオンを塩化物対イオンとともに含む高分子電解質を介して粒子(複数可)に結合する。
【0061】
一実施形態において、活性成分(複数可)は高分子電解質の層間で粒子(複数可)に結合する。
【0062】
活性化合物は、電荷(静電力)又は共有結合によって粒子の表面に積載してよい。一実施形態において、活性成分(複数可)は静電荷により粒子に結合する。
【0063】
一実施形態において、活性成分(複数可)は高分子電解質によって、例えば電荷により活性成分が結合する、粒子を覆っている高分子電解質の殻によって、粒子に結合する。
【0064】
活性化合物は、粒子の表面に単一の層を形成してよく、あるいは連続して又は高分子電解質層により分離して多層で沈着してもよい。
【0065】
活性化合物は、一方には賦形剤マトリックスと、そしてもう一方には活性化合物と結合する「リンカー」によって粒子に結合してよい。これらの結合は静電的又は共有結合性であってよい。
【0066】
微粒子は、例えば凍結乾燥によって安定化し得る。微粒子は、凍結した場合にも安定化し得る。
【0067】
一実施形態において、賦形剤は数分〜数時間の範囲で迅速に、又はより長期間、例えば数週〜数ヶ月にわたって分解される。
【0068】
一実施形態において、製剤は、体循環に入ると、1種以上の活性成分を例えば1〜30分から約1〜12時間の範囲の期間内に迅速に放出するものである。
【0069】
一実施形態において、本開示は、制御放出又はパルス放出で製剤を供給するために用いてよい粒子の混合集団、つまり様々な「溶解」速度を有する粒子に関する。
【0070】
従って、本開示の製剤は、様々な放出速度及び分解速度を有する粒子を含むことができる。
【0071】
一実施形態において、活性成分は1〜24時間にわたって放出される。
【0072】
一実施形態において、活性成分は1日〜7日間にわたって放出される。
【0073】
従って、1つ以上の実施形態において、本開示の全ての製剤は、投与の7日以内に代謝される。
【0074】
一実施形態において、個体の体循環に入ると、活性成分(複数可)は数週〜数ヶ月の期間にわたり、例えば1週間から1、2、又は3ヶ月にわたり非常にゆっくり放出される。
【0075】
一実施形態において、粒子の集団はよく特徴付けられており、例えば同じ特徴を有する。つまり各粒子の物理的及び/又は化学的特性は狭い一定範囲にある。
【0076】
一実施形態において、マイクロスフェアの粒径は単分散している。
【0077】
従って、一実施形態において、製剤の粒子は小さい標準偏差の平均粒径を有し、例えば粒子の少なくとも68%が平均の+/-1μmの粒径を有し、例えば粒子の99%が平均の+/-1μmの粒径を有する(例えば15 +/- 1μm)。さらに、粒子が、平均の+/-1μm以内にある少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、又は少なくとも98%の粒子を有する組成物が、本発明により想定される。
【0078】
一実施形態において、製剤は、少なくとも2つの異なる種類の粒子を含有することを特徴とする粒子の集団を含み、例えば異なる粒子は、異なる活性成分、被覆、粒径又はこれらの組み合わせを有してよい。
【0079】
一実施形態において、本開示は、活性成分の粒子を1種以上の別の異なる活性成分の粒子と混合して含む、粒子の混合集団に関する。
【0080】
製剤の粒径及び粒子分布は、組織中で製剤がどのように分布するかといった、製剤のin vivoプロファイルに影響を与えるようである。単に平均粒径を10〜20μmの範囲内にするだけでは不十分なようである。なぜならば、これは、一部の粒子がはるかに大きい粒径を有すること、そしてまた、はるかに小さい粒径を有することを許容するからである。例えば小さい粒子は関連組織に保持されず、大きい粒子は組織に損傷を与える得ることから、この変動はin vivoで問題を引き起こす可能性がある。
【0081】
使用する活性成分:賦形剤の量は、必要とする放出プロファイルに応じて、1%:99% w/w、5%:95% w/w、10%:90% w/w、20%:80% w/w、30%:70%w/w、40%:60%w/w、50%:50%w/w、60%:40%w/w、70%:30%w/w、80%:20%w/w又は90%:10%w/wの比であってよい。活性成分をin vivoで迅速に又は即時に放出する必要があれば、賦形剤に対する活性成分のより高い比率を選び得る。
【0082】
一実施形態において、使用するマイクロスフェアは約16時間の半減期を有する。
【0083】
一実施形態において、製剤は凍結乾燥している。
【0084】
別の実施形態において、製剤は凍結している。
【0085】
本開示の粒子は感知できる程に磁性ではない。
【0086】
活性成分は、本開示に従って粒子の形態で投与し得る任意の薬剤又は医薬品であってよい。
【0087】
一実施形態において、15 x 106個の粒子(マイクロスフェア)を投与する。例えば14 x 106、13 x 106、12 x 106、11 x 106、10 x 106、9 x 106、8 x 106、7 x 106、6 x 106、5 x 106、4 x 106、3 x 106、2 x 106又は1 x 106個の粒子を投与する。
【0088】
粒子が必要な機能を発揮するのに十分な期間にわたって構造を維持するならば、本明細書で使用する粒子は、例えば、別個の粒子として製剤化した微粉化薬物(micronized drug)、半固体の又は水和した物質、例えばタンパク質又は生物学的に誘導された活性成分を含んでよい。粒子の外部完全性(external integrity)がin vivoで機能を発揮することができるものであるならば、本開示はまた、液体コアを有する粒子にも拡張する。本開示は気体コアを有する粒子まで拡張しない。
【0089】
マイクロスフェアは、ポリマー溶液を乳化させ、その後、溶媒を蒸発させることによって製造することができる。他の例では、モノマーを乳化させ、その後、熱重合又はUV重合する。あるいは、ポリマー溶解を乳化させ、その後、冷やして液滴を固化させる。乳化物のサイズ低下は、バルクを均質化又は超音波分解することによって得ることができる。マイクロスフェアは、反応混合物のろ過及び/又は遠心によって回収することができる。
【0090】
様々な医薬化合物及び治療用高分子の制御放出及び標的化送達のためのバイオポリマーの生分解性マイクロスフェア及びマイクロカプセルは、多くの形態で、特に本開示に記載するように比較的大きな直径の形態で長い間知られている(D.D. Lewis “Biodegradable polymers and drug delivery systems” M. Chasin and R. Langer, 編 (Marcel Dekker, New York, 1990); J.P. McGeeら, J. Control. Release 34:77, 1995を参照)。
【0091】
マイクロスフェア及びマイクロカプセルは、通常、機械的−物理的方法によって、例えば成分モノマーをそのサイズの微液滴に噴霧し、その後、乾燥又は重合ステップによって製造する。そのような微粒子はまた、乳化とその後の乳化性溶剤の除去によって形成することができる(B. Miksaら, Colloid Polym. Sci. 273: 47, 1995; G. Crottsら, J. Control. Release 35:91, 1995)。これらの方法の主要な課題は、形及びサイズにおいて、粒子の単分散集団を製造することである。これは、例えば、キャピラリー噴霧器を用いて適切なサイズの微液滴を形成するフローフォーカシング(flow focusing)の技術を使用して達成することができる。この工程では、微粒子成分を溶解/懸濁する役目を果たす回収溶液/溶剤中に成分を浸漬し、その後、固化した微粒子を生じるように溶剤を蒸発させる。
【0092】
この工程は、微粒子の全成分を混合して、微粒子を形成する微液滴が生成する単一の混合物(フォーカスされる(focused)化合物)とすることを要する場合がある。薬物送達に用いるポリマーの多くは疎水性であるのに対し、大部分の治療用高分子及び特にタンパク質は親水性であるため、均質な組成物を確実に得るために、微粒子を形成する前に混合物は乳化を要する。
【0093】
あるいは、粒子は、例えば対流電流中で、正味電荷を有するノズルから反対電荷を有するプレート又は物質に向けて陽極/陰極タイプの配置で、活性成分の溶液をマイクロスフェア中に吸入することによって製造してよい。
【0094】
一実施形態において、使用する粒子は、正味電荷、例えば正電荷又は負電荷を有する。これは、例えば標的組織又は標的器官において粒子の動きを遅延させるのに役立つかもしれない。この正味荷電は、投与後標的組織内に保持されない小さな、例えば5μm未満の対イオン球(例えば活性成分を有さない)によって、投与する製剤中で相殺されるだろう。
【0095】
一実施形態において、活性成分は生物学的分子又はそれから誘導される分子、例えばタンパク質、例えば抗体若しくは増殖因子、サイトカイン又は物質の組み合わせである。
【0096】
特に、本開示の製剤は、関連組織に見られる内在幹細胞を標的化/活性化するのに特に有用である。
【0097】
ある好ましい実施形態において、特定の組織又は器官の再生を刺激するため、本開示を使用して、該組織又は器官の内在幹細胞、前駆細胞及び/又は前駆体細胞を活性化する。
【0098】
一実施形態において、本開示は、生後組織に存在する幹細胞によって発現される受容体に対するリガンドを、同組織の再生の開始のため局所投与することに関する。リガンドは、例えば、本明細書に記載するように増殖ホルモンであってよい。
【0099】
一実施形態において、リガンドは、各標的組織に存在する最も未分化な幹細胞上に存在する受容体を活性化するために投与する。これらの細胞は、いわゆる「多能性遺伝子(multipotency gene)」、例えばOct 4、Sox2、Nanogなどを発現し、それらは潜在的な再生能を有する(以降、Oct4発現幹細胞として知られる)。
【0100】
一実施形態において、リガンドは、例えば心筋梗塞によって生じた組織損傷を最小限に抑制する、及び/又は再生するために、心臓に投与する。
【0101】
動脈が閉塞する場合、主な影響は、閉塞の下流にある組織の損失である。冠動脈閉塞の特有の結果は、心筋の一部の不可逆的な損失をもたらす心筋梗塞(MI)である。この損失は、心筋の収縮能及び心臓のポンピング能の低下を引き起こし、重大な場合には、適切な心拍出量をもたらす能力を制限し、個人の能力の重大且つ進行性の制限をもたらす(Nadal-Ginardら, Circ. Res. 2003; 92:139に概説されている)。
【0102】
米国及びEUだけで、毎年150万件を超えるMIが治療され、1100万人を超えるMIの生存者がいる(American Heart Association, 2007; British Heart Association, 2007)。これらのうち、30%超が梗塞後最初の年の間に亡くなる。MI後の生存は、虚血事象による梗塞のサイズ(損失した筋肉量の%)に大きく依存する。損失が左心室重量の約40〜45%に影響する場合、一様に致命的である不可逆的心原性ショックをもたらす(Pageら, 1971. N. Engl. J. Med. 285; 133)。この部分的心筋損失は、アポトーシスによる細胞死の増加、生存筋細胞の肥大、組織の線維化の増加、そして心室腔拡張を伴う、残った心筋の再組織化を引き起こす(Pfeffer, M.A. & Braunwald, E., 1990. Circulation 81:1161)。この再組織化(「リモデリング」として知られる)は、収縮性に対する負の影響のため、心不全(CF)に発展することが多い。MI後の最初のCFの発症後、平均生存期間は<5年であり、年間死亡率約18%である(American Heart Association, 2000)。
【0103】
虚血又は他の原因による実質組織の損失を治療するための大部分又は全ての治療法は、生存組織の機能の保存又は改善に関する。MIの場合、心臓収縮筋の損失の結果を治療するために現在使用されている全ての治療法は、生存組織の収縮機能の保存又は増進、並びにアポトーシス若しくはネクローシスによるこれらの筋細胞の継続的損失の低下に関する(Anversa & Nadal-Ginard, 2002. Nature 415:240; Nadal-Ginardら 2003. Circ. Res. 92:139を参照)。現在、MIで損失した筋細胞を再生又は置換し、こうして心臓の収縮機能を回復させるように設計された治療法は1つも承認されていない。さらに、現在までに記載されている全ての実験的アプローチは、ほとんどの場合、直接的又は間接的に損傷領域に増殖因子、例えば血管内皮増殖因子(VEGF)をタンパク質形態又はcDNA形態で送達することによって、毛細血管ネットワークの増加を刺激することによる虚血領域/壊死領域への血流の改善に関する。血管障害によって損失した実質及び微小循環をともに再生するために、内在幹細胞を複製し分化するよう刺激する、組織中の内在幹細胞に関する治療法は1つもない。
【0104】
急性MIへの治療的アプローチの目的は、さらなる筋肉損失を防ぐためにできるだけ早く、損傷した筋肉への血流を回復することである。これらの再かん流治療としては、血管溶解剤、バルーン血管形成術又はバイパス術の使用がある。米国では、1998年に500,000件を超える血管形成術及びほぼ同数の手術的バイパスが行われた。これらの治療法は虚血筋への血流の回復に成功することが多いが、治療介入時にすでに損失している筋細胞を1つも置換することはできない。この損失が大きい場合、長期的結果として、必要な心拍出量を生成することができず、無情にも末期的心不全へと発展する。
【0105】
現在まで末期的心不全を効果的に治療する唯一の選択肢は、あらゆる医療上(免疫抑制治療)、運搬上及び経済上の問題を伴う心臓移植であった。これらの問題を回避することができたとしても、ドナー不足により、この治療法は1%を超える心不全の患者に利用可能となっている。
【0106】
本開示の製剤により、例えば動脈閉塞により損傷した組織を再生するため、再生する組織にすでに存在する幹細胞を刺激することによって、心臓などの組織又は器官に特異的に標的化可能な形態で投与する、治療活性を有する分子の投与が可能となる。
【0107】
組織再生のための幹細胞治療
近年、対象の器官又は組織が損失した細胞の一部を置換することを標的とした、器官移植の代替法としての実験的アプローチが開発されている。これらの手法は半世紀を越えて行われている骨髄移植の成功を手本にしている。免疫適格個体に移植すると、骨髄中の細胞の小集団が全ての血液細胞種を生成することができる能力によって、成体組織が生成能を有する「幹細胞」を含有し、組織又は器官全体を再生することが説得力をもって証明された。この概念的ブレイクスルーによって、治療対象の個体から単離した(自己細胞治療)又は受容する個体とは異なる個体から単離した(異種細胞治療)様々な種類の幹細胞を使用して損傷組織を修復する実験的アプローチの開発に至った。これらの細胞は、大量に単離するか、又は移植前にまず培養液で増殖させて、損傷組織の所望の修復を引き起こす。これらの細胞治療アプローチは、組織再生のために幹細胞の本来の再生特性を利用する。
【0108】
「幹細胞」という用語は、本明細書では、自己複製(self-renewal)特性を有し(自己に似た多くの細胞を生成し)、クローン形成性である(clonogenic)(単一細胞から開始して増殖可能である)細胞を特定するために用い、且つそれは多能性(pluripotent)である。つまり、それらが属する組織中に存在することが多い、異なる細胞種に分化する子孫を生み出すことができる。つまり、幹細胞に由来する細胞は、幹細胞が由来する又は移植される組織又は器官に特徴的な特別な細胞の特殊化を獲得する(Stem Cells: A Primer. 2000. National Institutes of Health USA)。
【0109】
「多能性」という用語は、数多くの様々な細胞種に分化する能力を有する細胞を指す。本出願において、「四能性(tretrapotent)」という用語は、全能性(totipotent)(個体全体を生成する能力を有する)ではないかもしれないが、4つの異なる細胞種、例えば心筋細胞、血管内皮及び平滑筋細胞、並びに結合組織線維芽細胞を生成する能力を有する細胞を指す。
【0110】
「前駆細胞」という用語は、特定の分化経路にすでに入っており、従って幹細胞より限られた分化能を有する、幹細胞の子孫を指す。前駆細胞は高い増殖能を有し、まだ分化マーカーを発現していないが、それ自体より分化した子孫を生み出す能力を有する。例えば、その用語は、未分化細胞を指してよく、又は最終的な分化の手前まで分化した細胞を指してもよい。この細胞は増殖能を有し、より多くの前駆細胞を生じることができ、従って、次々に分化した娘細胞又は分化可能な娘細胞を生じ得る多くの母細胞を生成する能力を有する。特に、前駆細胞という用語は、例えば、胚細胞及び胚組織の進行性多様化に現れるように、完全に個別な特徴を獲得することによってその子孫がしばしば様々な方向に特殊化する、一般的母細胞を指す。前駆細胞は、それが由来する幹細胞の多分化能(multipotency)をすでにいくらか制限しているため、真の幹細胞より分化している。
【0111】
本明細書で用いる場合、異なる指摘がない限り、幹細胞とは、幹細胞、前駆細胞及び/又は前駆体細胞を指す。
【0112】
細胞の分化は、典型的には多くの細胞分裂を介して生じる複雑な過程である。分化した細胞は、それ自体が多能性細胞などに由来する、多能性細胞に由来し得る。これらの多能性細胞はそれぞれ幹細胞とみなしてよいが、それぞれが生成可能な細胞種の範囲は大幅に変化し得る。一部の分化した細胞はまた、より高い発生能を有する細胞を生成する能力を有する。そのような能力は本来もっているものであってよく、又は、最近iESC(誘導された胚性幹細胞)で実証されたように、様々な因子の処理により人工的に誘導されたものであってもよい(Takahashiら, 2007.Cell 131:1-12)。
【0113】
「前駆体細胞」は、分化経路をさらに進み、この細胞種について同定可能なマーカーをまだ発現していないかもしれないが単一の細胞種への分化に入っている、前駆細胞の子孫である。前駆体細胞は、通常、同定可能な分化した表現型を発現する前の、増殖の最後の1ラウンドを経験している細胞である。
【0114】
幹細胞は、胚盤胞の内細胞塊、初期胚の生殖隆起、胎盤、及びヒトをはじめとする成体動物の組織の大部分に存在する。胚盤胞の内細胞塊に由来する幹細胞と異なり、一般に、成体組織から単離された幹細胞は、真の幹細胞、前駆細胞及び前駆体細胞と最終分化の初期段階にある細胞との混合物である。成体幹細胞は、現在、3種類の胚性細胞層(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)のそれぞれに由来する事実上全ての組織(骨髄、中枢神経系及び末梢神経系、あらゆる結合組織、皮膚、腸、肝臓、心臓、内耳などに及ぶ)で同定されている。
【0115】
これらの成体幹細胞は再生能を有するようである。驚くべきことに、全ての先進国における虚血性心臓病の高い罹患率、重大性及び莫大な経済的費用にも関わらず、最近まで、成体の心筋の再生を標的とした方法の探索は行われていなかった。この異常性の理由の一つは、ごく最近まで、心臓はその収縮細胞が内在性再生能を持たない最終分化した器官であると考えられていたことである(MacLellan, W. R. & Schneider, M.D. 2000. Annu Rev. Physiol. 62:289; Reinlib. L. and Field, L. 2000. Circulation 101:182; Pasumarthi, K.R.S. and Field, L.J. 2002. Circ. Res. 90:1044; MacLellan, W.R. 2001. J. Mol. Cell Cardiol. 34:87; Perin, E.C.ら 2003. Ciculation 107:935; Anversa, P. and Nadal-Ginard, B. 2002. Nature 415:240; Nadal-Ginard, B.ら 2003 Circ. Res. 92:139を参照)。この考えは、成体の心臓では、心筋細胞の大部分は最終分化しており、細胞周期に再び入る能力は不可逆的に阻害されているという実験的によく実証された事実に基づいていた。従って、これらの筋細胞が再生し、新たな筋細胞を生成することはできないということに疑いはない。
【0116】
心筋が再生能を持たない組織であるという浸透している考えの一つの結果は、これまでに実施された全てのいわゆる実験的「再生治療」が、梗塞中に損失した細胞を置換するため、胎児の筋細胞か、あるいはこの細胞種又は毛細血管及び微細動脈に分化する能力があると考えられている様々な細胞種を、損傷した心臓内に導入することに基づいていることである。こうして、胎児及び成体の骨格筋前駆体細胞、胎児心筋細胞、及び胚性幹細胞を、未分化状態で又は心筋細胞経路へ運命決定した後に移植する動物実験が行われてきた(Kocherら, 2001. Nature Med. 7: 430)。
【0117】
自家移植可能な骨格筋前駆体細胞(心臓細胞に変化する能力がなく、心筋細胞と電気的に共役することができない)(Menascheら, 2001. Lancet 357: 279; C Guoら 2007. J Thoracic and Cardiovasc Surgery 134:1332)を例外として、記載した全ての他の細胞種は異種由来の必要性があり、従って、免疫抑制治療を伴う必要があり、さもなくば移植物が速やかに免疫系によって除去される。実際のところ、これらのアプローチはいずれも前臨床アッセイにおいてあまり有効ではないことが示されており、全て多くの危険を有する。
【0118】
一部の成体幹細胞の最も興味深い特徴の一つは「可塑性」である。この特性は、一部の幹細胞をそれが由来する組織とは異なる組織内に置くと、この新しい環境に適応し、ドナー組織ではなく宿主組織に特徴的な細胞種に分化することができるという事実を指す。多くの細胞種についてこの可塑性の程度及び性質はいまだ議論の余地があるが(Wagers & Weissman, 2004.Cell 116:636-648; Balsamら, 2004 Nature 428, 668-673; Murrayら, 2004. Nature 428, 664-668; Chien, 2004. Nature 428, 607-608)、それにより、数え切れないほど多くの前臨床プロトコール及び臨床試験が生み出された。
【0119】
これまでに記載された成体幹細胞の中で、骨髄由来のものが最もよく研究され、より高い「可塑性」が示されている(Kocherら, 2001. Nature Med. 7: 430)。また広く用いられているのは、脂肪組織に由来するいわゆる「間葉系幹細胞」である(Rangappa, Sら 2003. Ann. Thorac Surg 75:775)。
【0120】
骨髄及び脂肪組織に由来する幹細胞が異なる組織及び器官の損傷領域を再増殖(re-populate)させる能力、そして単離の相対的容易性は、Asaharaら(1999; Circ. Res.85: 221-228)の以前の研究とともに、実験動物(Orlicら 2001. Nature 410:701; Orlicら, 2001. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:10344; Nadal-Ginardら, 2003. Circ. Res. 92:139)及びヒト(Tseら, 2003. Lancet 361:47; Perinら, 2003. Circulation 107:2294)において心筋に再生するための細胞治療の対象として有利であることを示している。一部から疑問視されているものの(Balsam,L.B.ら 2004. Nature 428: 668; Murry,C.E.ら 2004. Nature 428: 664)、骨髄由来の幹細胞は、ある条件下で、特に実験的心筋梗塞の境界領域に移植すると、心筋細胞、毛細血管及び微細動脈を生成する能力があることは明らかである(Quaini, F.ら, 2002. New Engl. J. Med. 346:5; Bayes-Geis, A.ら, 2003. Cardiovasc. Res.56:404;; Bayes-Genis, A.ら, 2004. Eur. J. Heart Fail. 6:399; Thiele, H.ら, 2004. Transplantation 77:1902)。評価のために利用可能な信頼できる組織病理学的データがないために、骨髄又は脂肪組織に由来する幹細胞を用いた細胞治療の数多くの臨床試験から利用できる同様の情報はない。
【0121】
心筋細胞治療に使用する技術の主な欠点は、細胞移植法自体の複雑性及び非効率性である。冠動脈樹を介して細胞を移植する場合、3〜5%のみが心筋に留まり、残りは全身に広がる。細胞を心筋に直接注入する場合、標的領域を特定するために、開胸術、又は複雑且つ時間のかかる器具(ノガ(Noga)タイプのシステム)の使用を要する。この技術は専門の操作者を必要とし、専門の医療センターで利用できるにすぎない。さらに、心筋内注入は、経心内膜(ノガ)経路でも、又は経心外膜(手術)経路でも、組織に50%未満の細胞を送達する。
【0122】
例外なく、実験動物又はヒトにおいて心筋梗塞後の心筋再生を引き起こす、現時点までに使用されたあらゆる細胞治療アプローチは、心筋が、内在幹細胞が示す内在性再生能を有するという事実を完全に無視して開発されている(Nadal-Ginard, B.ら, 2003. J. Clin. Invest. 111:1457; Beltramiら, 2003. Cell 114:763-776; Torella, D.ら, 2004. Circ. Res. 94:514; Mendez-Ferrer, S.ら,2006. Nature Clin. Prac. Cardiovasc. Med. 3 Suppl 1:S83; Torellaら, 2007. Cell. Mol. Life Sci. 64:661)。
【0123】
上に記載したように、最近まで、受け入れられていたパラダイムは、成体哺乳動物の心臓を再生能を持たない有糸分裂後(post-mitotic)の器官と見なしていた。過去数年にわたりこの考えは進化し始めているものの、心筋再生に対するあらゆる実験的及び臨床的アプローチは引き続き古いドグマに基づいている。このため、全ての心臓再生プロトコールは、再生能を有する細胞を心筋に供給するための細胞移植に基づいている。
【0124】
本開示の製剤を適切な条件下で投与すると、組織又は器官(例えば心臓)に存在する「幹細胞」の本来備わっている再性能が刺激又は活性化され、組織又は器官を再生することができると思われる。
【0125】
従って、一態様において、本開示は、再生対象の生後組織に存在する幹細胞が発現する受容体に対するリガンドの局所送達を含む、ヒトをはじめとする生体哺乳動物における固形組織の再生方法を提供する。これらは、生理学的又は薬理学的に刺激するとin situで倍化し、それらが存在する組織又は器官に特徴的な実質細胞に分化する細胞である。
【0126】
新たな心筋細胞の形成は、正常心臓及び病的状態、例えばMI及び心不全で見られている(Beltrami, A. P.ら, 2001. New Engl. J. Med. 344:1750; Urbanek, K.ら, 2003. Proc. Netl. Acad. Sci. USA. 100:10440; Nadal-Ginard, B.ら, 2003. J. Clin. Invest. 111:1457; Nadal-Ginard, B.ら, 2003. Circ. Res. 92:139)。興味深いことに、これらの新たな筋細胞はMIの境界領域で有意により多く存在し、そこでは年齢を適合させた健康な個体の心筋よりも一桁多く存在している。これらの観察は、成体ヒト心筋が、死んだ筋細胞を置換しようとする再生過程の失敗を伴いながら、急性的及び慢性的な細胞死の増加に応答する能力を有することを示唆した(Anversa, P. & Nadal-Ginard, B. 2002. Nature 415: 240; Anvrsa, P. and Nadal-Ginard, B. 2002. New Engl. J. Med. 346:1410; Nadal-Ginard, B.ら, 2003. Circ. Res. 92:139)。
【0127】
成体の心臓幹細胞(CSC)は2003年に初めて記載され(Beltramiら 2003. Cell 114:763-776)、何人かの著者によって同種及び他種において確認された(Torella, D.ら, 2004. Circ. Res. 94:514; Mendez-Ferrer, S.ら, 2006. Nature Clin. Prac. Cardiovasc. Med. 3 Suppl 1:S83; Torellaら, 2007. Cell. Mol. Life Sci. 64:661を参照)。これらのCSCは、心筋細胞、内皮及び平滑筋血管細胞、並びに結合組織線維芽細胞を生成するため、自己複製し、クローン形成性であり、且つ多能性である。それらは、幹細胞に関連する膜マーカー、例えばc-kit(SCFに対する受容体)、Sca I、MDR-1及びIsl-Iの発現によって同定された。成体の心臓で形成された新たな筋細胞が、心筋に存在するCSCに由来することは現在明らかである。これらのCSCは、梗塞の境界に注入すると、重症なMIの結果として損失した収縮細胞及び微小血管系を再生する能力を有する(Beltramiら, 2003. Cell: 114:763-776; Laugwitzら 2005; Mendez-Ferrerら, Torellaら, 2006; Torellaら, 2007)。
【0128】
健康な個体の心臓では、ほぼ全てのCSCは、生物の生存期間中、静止状態(G0)にあるか、又は非常にゆっくりと周期している。任意の時点で、これらの細胞のごくわずかな一部のみが活性であり、消耗により死んだ細胞を置換するのに十分なだけ複製及び分化を経ている。対照的に、CSCの多く(大部分であることもある)は、生理的又は病理的ストレスに応答して活性化する。一般に、ストレスの大きさと、応答して活性化するCSC数との間には直接的な相関がある。この活性化したCSC数は、生成した新たな心筋細胞数とも同じく直接的に相関する。マウスからヒトにまで生じるこの応答により(Nadal-Ginard, B.ら, 2003. Circ. Res. 92:139)、CSCの活性化をもたらす、ストレスが誘引となる生化学的経路の存在が明らかになっている。
【0129】
内在幹細胞とその環境とのコミュニケーションは、少なくとも心筋では、心拍出量における生理的又は病理的要求の増大によって生じる壁張力の変化を感知する、心筋細胞間のフィードバックループによって調節されており、幹細胞は、新たな収縮細胞及びそれらに栄養を与える微小循環の生成によって、筋量の増加をもたらす役割を担う。筋細胞は、生理的又は病理的に関係なく、ストレスに対して画一的に応答する(Ellisonら, 2007. J. Biol. Chem. 282: 11397-11409)。この応答とは、一連の増殖因子とサイトカイン、中でも例えばHGF(肝細胞増殖因子)、IGF-1(インスリン様増殖因子1)、PDGF-β(血小板由来増殖因子β)、FGF(線維芽細胞増殖因子)ファミリー、SDF-1(ストロマ細胞由来因子1)、VEGF(血管内皮増殖因子)、エリスロポエチン(EPO)、上皮増殖因子(EGF)、アクチビンA及びTGFβ(トランスフォーミング増殖因子β)、WINT3A及びニューレグリン(neurogeulin)の発現及び分泌の速やかな活性化にある。この分泌応答は、オートクリン/パラクリンループを介して筋細胞自体の肥大を刺激することに加えて、周辺のCSCの活性化も誘発する。なぜならば、これらの細胞は、これらの筋細胞が分泌した因子に対する受容体を発現しており、それらに応答するからである。この応答は、細胞生存、複製及び分化に関与する受容体の下流の遺伝経路を活性化する。さらに、これらの受容体の活性化は、CSCによる各リガンドの生成を刺激する、CSC自体におけるフィードバックループも活性化し、ひいては、単一の刺激に応答して、数週間又は生成した量の増加が心筋壁張力を正常レベルに回復させるまで活性状態を維持し得る自立応答状態に置く。従って、CSCは、一時的な刺激に対する持続的応答の維持を可能にするオートクリン/パラクリン応答で、パラクリン刺激に応答する。従って、正常な心臓細胞恒常性は、必要な血液心拍出量を生成するのに要する適切な収縮筋量を生成し維持するための、筋細胞とCSCとの持続的フィードバックを介して維持される。筋細胞は、分裂することはできないが、細胞数の維持又は増加のためにCSCに依存し、酸素及び栄養供給を保証するために毛細血管密度に依存する。CSCは、一方で、静止状態対活性状態を調節するために周囲の筋細胞が生成する生化学的刺激に依存し、応答する。
【0130】
上記した組織特異的幹細胞に加えて、本発明者らは最近、ヒトをはじめとする哺乳動物の心筋が、大部分の他の組織と同様に、長い間多能性である(つまり、適切な環境に置くと、単一の細胞が、それが由来する生物と同一の生物全体を生じる能力を有する)ことが知られてきた胚性幹細胞(ESC)と多くの類似点を有する非常に未分化な細胞の小集団を含有することを見出した。これらの細胞の主な特徴は、これらの細胞に多能性を付与する一連のいわゆる「多能性遺伝子」、例えばOct4、Sox2、Nanogなど(米国仮出願第61/127,067号を参照)の発現であり、そのため、由来する組織とは独立に、体の全てではないにしても大部分の細胞種を生成する能力を有するようである。特に、成体の心臓から単離されたOct4発現細胞は、平滑筋、神経、心臓、肝臓などを生成する能力を有する。それらの再生能は、組織特異的幹細胞の再生能より堅固且つ広範であるように思われる。
【0131】
本発明者らは、Oct4発現細胞が、各器官の全てではないにしても大部分の組織特異的幹細胞の起源であり、その刺激が、各組織の再生能の主な供給源であると考えている。従って、これらの細胞の刺激が、本明細書に記載する治療的アプローチの主要な標的である。
【0132】
心筋細胞を生成する能力及び/又は効率とは独立に、多数の幹細胞を組織に導入する場合、由来する組織にかかわらず、それらは、実験的に証明されているように心筋及び他の組織へ移植すると、重要なパラクリン作用を有する。移植した細胞が生成する増殖因子及びサイトカインの複合混合物は、危険性がある領域で心筋細胞及び他の細胞に対して、並びに複製し筋細胞及び微小血管系へ分化する内在性幹細胞の活性化においても、潜在的な抗アポトーシス作用を有する。このパラクリン作用は、細胞移植の直後に始まり、in vitroで実証することができる。
【0133】
本明細書の実施例で行った実験から、組織(この場合には心筋)の内在幹細胞(Oct4発現細胞を含む)を刺激するために、ストレスを与えた筋細胞が生成し、CSCが応答する増殖因子及びサイトカインは、再生応答を誘発する細胞移植以上に効果的である可能性があると思われる。インスリン様増殖因子1及び肝細胞増殖因子の組み合わせは、特に効果的であるかもしれない。
【0134】
一実施形態において、内在幹細胞は、例えば組織の再生を刺激するため、筋密度及び/又は標的細胞の細胞機能を増大させるために活性化する。
【0135】
標的細胞が心筋である場合は、機能の増大は、例えばより優れた/増大した収縮機能である。
【0136】
標的細胞が腎細胞である場合は、腎不全の腎臓の患者では、機能の増大はEPOを生成する能力の増大である。
【0137】
標的細胞が膵臓細胞である場合は、機能の増大はインスリンを生成する能力の増大である。
【0138】
本開示の製剤は「成熟組織」に内在する幹細胞を刺激/活性化することができると思われ、それにより、内在幹細胞が刺激され、有糸分裂を経て増殖するために、患者に「幹細胞」治療を投与する必要性を除去する。
【0139】
内在幹細胞の刺激は血管形成とは異なる。血管形成とは、毛細血管(組織又は腫瘍にあってよい)の増殖を刺激する過程である(Husnain, K.H.ら 2004. J. Mol. Med. 82:539; Folkman, J., and D’Amore, P.A. 1996. Cell 87:1153を参照)。一方、適切なリガンドを使用する本開示の製剤を投与すると、組織に存在する幹細胞、例えば多能性細胞、前駆細胞及び/又は前駆体細胞が活性化され、新たな/さらなる組織細胞、例えば筋細胞を生成する。
【0140】
これまでに記載されたあらゆる再生アプローチには、生物学的標的の性質、使用する再生剤及び/又は投与経路と投与方法のために、厳しい制限がある。大部分のいわゆる再生治療は、様々な生物学的因子、例えば血管内皮増殖因子(VEGF)(その主な役割は、毛細血管ネットワークを拡張し血液供給を改善するために、損傷組織中の生存内皮細胞の増殖を刺激することである)を用いて虚血心筋の毛細血管ネットワークを再生することに関するものである(Isner, J.M. and Losordo, D.W. 1999. Nature Medicine 5:491; Yamaguchi, J.ら, 2003. Circulation 107:1322; Henry, T.D.ら, 2003. Circulation 2003. 107:1359)。これらの治療法は、組織又は器官の特徴的な機能を行う実質細胞(例えば心臓の収縮性心筋細胞、肝臓の肝細胞、膵臓のインスリン産生β細胞など)の再生を試みるものでも達成するものでもない。せいぜい、これらの治療法は適度な効果があり、それらのうちどれも、標準的医療行為の一部になっていない。一方、組織又は器官の機能的細胞を置換するように設計されたあらゆる再生治療は、現在までは、標的組織中の失った細胞の特徴を獲得することができると考えられている細胞の移植に基づいている。これらのアプローチはいまだ臨床試験中である。使用するあらゆる再生アプローチの主な欠点は、損傷組織に再生剤を送達すること、及び体の他の部分への拡散を制限するすることである。治療対象組織の冠動脈樹を介して再生剤を投与する場合でもこれは重大な問題である。冠動脈投与による心筋細胞治療の場合、投与する細胞のうちごくわずかしか心臓に保持されないのに対し、大部分(>95%)は速やかに体循環に入り、全身に広がる。これは、細胞懸濁液の投与で繰り返し実証されているように、再生剤を直接心筋に経心外膜又は経心内膜により注入する場合にも生じる。さらに、経心外膜投与は開胸術による心臓の露出を必要とし、一方、経心内膜投与は、注入に適した領域を特定するために心内膜を位置づけるための精密で、時間のかかる、且つ高価な手法を必要とし(ノガタイプの機器)、この手法は極めて限られた数のセンターで、且つ専門の操作者が参加して利用可能である。どちらの場合も、投与した化合物のせいぜい50%が損傷領域に保持され、一方残りは胸腔中に又は体循環によって拡散する。本開示の製剤は、標的組織又は標的器官への幹細胞の送達と組み合わせて使用してよく、他の送達機構と比べて局所的に保持される数を増加させ得る。
【0141】
しかし、本開示は、対象の組織又は器官への血液供給を改善するために、細胞移植にも生存内皮細胞の増殖刺激にも基づかない、組織又は器官の実質細胞(すなわち機能的な「偉い(noble)」細胞)を再生する新規な方法を記載する。代わりに、本明細書に記載する方法は、それらを活性化、複製及び分化を刺激して損失した実質細胞を生成し、並びにその増殖、生存及び機能に必要な微小血管系を生成することができる特異的な増殖因子及び/又はサイトカインの局所送達による、in situ、つまり組織内での、該組織の内在幹細胞の刺激に基づく。全てではないにしても大部分の成体組織、ヒトをはじめとする哺乳動物組織は、適切に刺激すると、該組織又は器官に特異的な細胞種、並びにそれらに付随する血管及び間葉支持細胞を再生する能力を有する内在幹細胞を含有するため、これは可能である。
【0142】
幹細胞を刺激する再生剤の一部は非常に活性が高く、相互作用する様々な細胞、中でも潜在的腫瘍細胞の増殖及び転移を刺激する可能性があるため、これらの因子の多くの潜在的臨床応用は、再生対象の細胞への露出をできる限り制限するために、非常に局所的な方法で最小治療用量の投与を要する。従って、投与を局所的にすればするほど、必要な用量は低下し、同じ又は他の器官における傍観細胞(by-stander cell)の刺激による望ましくない副作用のリスクは低下する。より具体的には、本開示は、固形組織の特定の領域の再生を引き起こすため、全身又は組織中ではなく局所的に投与し送達する様々な増殖因子の治療用量の使用のための新たなアプローチを記載する。活性化合物の送達を損傷組織に限定するため、必要な治療用量は、他の利用可能な送達方法で必要な用量のごくわずかである。本開示の製剤は、いくつかある適用の中でも特に、心筋梗塞後及び/又は慢性心不全における心筋及び微小血管系を再生する能力を有する。
【0143】
一実施形態において、製剤は損傷組織の境界、例えば境界領域又は虚血領域に投与する。
【0144】
幹細胞のための好適なリガンドとしては、増殖因子、例えば表1に挙げるものがある。
【表1】
【0145】
一実施形態において、使用する増殖因子(複数可)はヒトの増殖因子である。
【0146】
一実施形態において、使用する増殖因子はHGF、IGF(例えばIGF-1及び/又はIGF-2)、並びにFGF、特にHGF及びIGF-1から選択する。これらの因子は内在幹細胞の刺激に特に効果的であるようである。
【0147】
増殖因子の組み合わせも使用してよく、例えば上記したリスト、例えばHGF及びIGF-1及び場合によりVEGFから選択してよい。
【0148】
一実施形態において、幹細胞を再生/活性化するための製剤は、唯一の活性成分としてVEGFから成るものではなく、例えばVEGFをはじめとする活性成分の組み合わせを含み得る。
【0149】
それにもかかわらず、製剤は血管形成因子としてVEGFの局所送達に適する。
【0150】
一実施形態において、増殖因子製剤は血管形成因子と組み合わせて使用し、例えば同じ経路又は異なる経路で同時に又は逐次的に投与する。
【0151】
一実施形態において、製剤は、例えばIL-1、IL-2、IL-6、IL-10、IL-17、IL-18及び/又はインターフェロンから選択されるサイトカインを含む。
【0152】
一実施形態において、製剤は、活性成分の組み合わせ、例えば増殖因子及びサイトカインを含む。
【0153】
組み合わせ製剤では、各活性成分の用量は、例えば活性成分を単独で投与する場合に用いるのと同じ用量であってよい。
【0154】
本開示の製剤及び/又は方法で使用する成分、特に生物学的種類の活性成分は、天然源に由来してよい。
【0155】
一実施形態において、使用する生物学的種類の活性成分は組換えDNA技術によって調製する。
【0156】
一実施形態において、投与する1つ又は複数の活性成分は、所望の治療効果を有する、生物学的分子のペプチド断片であってよい。
【0157】
1つ以上の実施形態において、使用する分子は、対応する生物学的分子に対して同じ、高い又は低いアフィニティーを有する、所望の治療効果を有する生物学的分子(例えば受容体のリガンド)の突然変異体である。
【0158】
一実施形態において、使用する物質(複数可)/活性成分はアプタマー(aptomer)(天然のリガンドの代わりに受容体に結合する小RNA分子)である。
【0159】
一実施形態において、使用する物質/活性成分は標的受容体を認識し結合する抗体であり、特に、標的受容体に対して適切な特異性及び/又はアビディティを有する。望ましくは、抗体は受容体をアップレギュレート又は受容体をダウンレギュレートするのに必要な活性を有し、それにより、必要に応じて受容体の活性化又は阻害を引き起こす。
【0160】
一実施形態において、活性成分はジアキン(diaquine)であり、これは目的受容体の2つを認識し結合する人工抗体分子であり、一方及び/又は他方の活性化又は阻害を引き起こす。
【0161】
一実施形態において、使用する物質/活性成分は分子量<5,000ダルトンを有する小分子である。
【0162】
一実施形態において、使用する1種以上の活性成分は合成起源であってよい。
【0163】
本明細書に開示する、所望の器官又は組織を標的化する製剤では、製剤は、該器官又は組織の上流に投与すべきである。つまり、血流が製剤を所望の組織/器官に運ぶように循環中に導入すべきである。
【0164】
製剤は、カテーテルなどの適切なデバイスを使用して、心臓などの器官の上流に導入することができる。他の主要な器官に、この方法で到達することができる。同様に、稀であるが、カテーテルを使用して肝臓にアクセスすることも可能である。
【0165】
他の例では、製剤は、戦略上重要な動脈内注射によって、又は逆行的静脈注射及び/若しくは標的組織前のカニューレによって導入してよい。
【0166】
製剤はまた、カテーテル挿入中に、例えばヘパリン又はモルヒネ又はカテーテル法における造影剤の投与に用いるタイプの、点滴又はポンプ駆動型送達デバイス、例えばシリンジポンプによって投与してもよい。好適な流速は、例えば0.5mL/分である。
【0167】
製剤はまた、カテーテルの第二の内腔によって組織のかん流を維持しながら、動脈内バルーンで注入部位の下流の血流速度を遅くさせる、いわゆるかん流カテーテルによって投与してもよい。
【0168】
特に好適な実施形態において、製剤は標的組織又は標的器官の上流の動脈に投与する。
【0169】
一実施形態において、カテーテルを使用して、標的組織又は標的器官に供給する動脈に、本開示の製剤を送達する。特に、製剤は、もっぱら(主に又は実質的に)、組織又は器官の領域に供給する区動脈へ送達することができる。
【0170】
一実施形態において、使用するカテーテルはバルーンカテーテルである。
【0171】
一実施形態において、カテーテルは、その遠位末端に、必要に応じて>50、25又は20μmの微粒子塊の放出を阻止又は妨害するのに十分小さい孔径を有するフィルターメッシュを有する。
【0172】
一実施形態において、標的細胞は生後の心臓に内在する心臓幹細胞である。
【0173】
一実施形態において、得られる再生には、心筋細胞、並びに毛細血管(内皮細胞)及び/若しくは細動脈(内皮及び血管平滑筋細胞)から成る血管構造の再生が共に又は別に含まれる。
【0174】
一実施形態において、再生は、急性であろうと慢性であろうと心筋梗塞(MI)後の任意の時に、例えば急性梗塞後0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11から24時間までに誘導する。
【0175】
一実施形態において、再生は、心筋梗塞の有無にかかわらず、虚血性心疾患を有する個体において誘導する。
【0176】
一実施形態において、再生は、急性又は慢性の心不全(CF)を発症した個体の心臓において誘導する。
【0177】
一実施形態において、再生は、虚血性、感染性、変性又は特発性心筋症を有する個体において誘導する。
【0178】
一実施形態において、標的細胞は膵内分泌部に存在する幹細胞(ランゲルハンス島の幹細胞)である。
【0179】
一実施形態において、再生は糖尿病を有する個体において誘導する。
【0180】
一実施形態において、標的細胞は中枢神経系(CNS)の神経幹細胞である。
【0181】
一実施形態において、標的幹細胞は脊髄の神経幹細胞である。
【0182】
一実施形態において、再生は脊髄損傷を有する個体において誘導する。
【0183】
一実施形態において、標的細胞は、例えばパーキンソン病を有する個体における、脳の黒質の幹細胞である。
【0184】
一実施形態において、再生は、脳血管障害(卒中)を有する個体において誘導する。
【0185】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本開示の製剤中に使用するリガンドは、卒中などを治療するために血液脳関門を通過することができると考えられている。さらに、脳血管障害では血液脳関門が損傷しており、化学物質がより容易に関門を通過できると考えられている。
【0186】
一実施形態において、標的細胞は肝臓幹細胞であり、例えば再生は、肝硬変などの肝臓障害を有する個体において誘導する。
【0187】
一実施形態において、標的幹細胞は肺(複数可)の幹細胞であり、例えば再生は、肺気腫などの肺損傷を有する個体において誘導する。
【0188】
一実施形態において、標的細胞は骨格筋の幹細胞であり、例えば再生は骨粗しょう症又はパジェット病などの特定の骨格筋障害を有する個体において誘導する。
【0189】
一実施形態において、標的細胞は上皮の幹細胞である。
【0190】
一実施形態において、標的幹細胞は腎臓の幹細胞である。
【0191】
標的細胞とは、本明細書で使用する場合、刺激する対象であり、所望の再生をもたらす可能性を有する細胞を指す。
【0192】
本開示の製剤は、標的組織又は標的器官への関連活性成分の正確な及び/又は再現可能な投与を保証する最適化したパラメーター及び材料を提供する。
【0193】
別の実施形態において、本開示の製剤を使用して、抗腫瘍剤の腫瘍組織への局所送達を可能にすることによって、例えば腫瘍内注射によって、固形腫瘍を治療し得る。
【0194】
腫瘍の治療に適する活性成分としては、エトポシド、シクロホスファミド、ゲニステイン、シスプラチン、アドリアマイシン(andriamycin)、ビンデシン、ミトグアゾン、フルオロウラシル及びパクリタキシル(paclitaxil)が挙げられる。
【0195】
一実施形態において、製剤は癌治療用ではない。
【0196】
一実施形態において、本発明は腫瘍又は組織への直接投与ではない。
【0197】
本開示における方法は、別個に、例えば同時に又は逐次的に投与する、あるいは1つの製剤(ワンポット)として製剤化した、活性成分の組み合わせを使用してよい。
【0198】
本開示の製剤は、溶液/懸濁液として、例えば等張の担体中に、例えば緩衝液(例えばリン酸緩衝液、生理食塩水又はグルコース溶液)として投与してよい。
【0199】
本開示の製剤は、場合により、1種以上のさらなる賦形剤を含んでよい。賦形剤は、ヒト及び/又は動物への投与に適したものであるべきである。
【0200】
一実施形態において、製剤は、溶液中に、例えば製剤中の少量の活性成分を安定化し得るアルブミンを含み、例えば1%〜20% w/volのアルブミン、例えばヒト血清アルブミンは必要な安定化を達成するのに十分であり得る。
【0201】
本開示はまた、本明細書に定義する治療用、特に心筋梗塞;虚血性心疾患;心不全;虚血性、感染性、変性又は特発性心筋症、硬化症、肝硬変、肺気腫、糖尿病などの治療用の製剤としての使用にまで及ぶ。
【0202】
一実施形態において、本開示は、本明細書に記載する、治療に使用するための製剤、特に上記疾患の治療用製剤に関する。
【0203】
本開示はまた、本明細書に記載する製剤の治療上有効量を、必要な患者に、特に上記疾患の治療のために投与することを含む、治療方法にも及ぶ。
【0204】
本開示はまた、例えば本明細書に記載する場合、in vivoで内在幹細胞を刺激して細胞を活性化するためのリガンドの使用にも及ぶ。
【0205】
本開示はまた、in vivoで内在幹細胞を刺激するための医薬の製造のための適切な増殖因子の使用も含む。
【実施例】
【0206】
本開示は、実施例を参照することにより以下に具体的に説明する。
【0207】
序論
第一中隔枝の遠位にある冠動脈前下行枝の一時的バルーン閉塞によって、雌ブタに前壁心筋梗塞を引き起こした。この手法によって、再現性のある中程度のサイズの前壁−心尖部梗塞が生じた。インスリン様増殖因子1と肝細胞増殖因子の組み合わせの心筋再生能を、梗塞を起こしたブタの心筋に様々な用量で因子を局所投与することによって試験した。対照動物を偽薬で処置した。
【0208】
微量の治療剤の局所投与を用いて治療効果を生成する実現可能性は、まず、組換えヒトIGF-1及びHGFの混合物を含有する溶液を、第一中隔動脈の発生部(emergence)直下の左冠動脈前下行枝にバルーン拡張により閉胸で実験モデルに引き起こした急性MI後に直接投与することによって23匹のブタで試験し、同じように処置した6匹の偽薬対照と比較した。
【0209】
材料と方法
心筋梗塞後様々な時点で、数日〜1ヶ月にわたり心臓を解析した。結果は、ヒトIGF-1及びHGFで処置したブタの虚血領域及びその境界において活性化した幹細胞数及び前駆細胞の数の劇的な増加を示した。虚血領域では筋肉の著しい再生が見られ、新生した細動脈及び血管も含有していた。再生応答は、投与した増殖因子の用量に比例するようであった。これらの予備データから、CSCの治療的in situ活性化は、ヒトの心臓とサイズ及び生体構造において類似する動物の心臓において、広範囲に及ぶ新たな心筋組織形成を引き起こし、並びに左心室機能を有意に改善する可能性がある。
【0210】
c-kit陽性ブタ心臓細胞の単離
雌のヨークシャー白ブタ(23±4kg;n=3)の様々な心臓領域(右房及び左房、右心室及び左心室並びに心尖部)から複数の心臓試料(各約2g)を得た。一部の試料を固定し、組織化学的解析のためにパラフィンに包埋した。その他の部分を酵素消化し、以前の記載に従い、改変を加えて、心筋細胞を欠失した心臓細胞懸濁液を調製した(Beltrami, A.P.ら, 2003. Cell 114:763)。簡単に説明すると、刻んだ心臓組織を、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)中の0.1%コラゲナーゼ(Worthington Biochemicals)、0.1%トリプシン(Sigma)、0.1%DNAse Iを用いて37℃で消化し、遠心により小さい心臓細胞の画分を回収した。心臓小細胞を、抗ヒトCD117(c-kit)抗体(Miltentyi Biotechnology)とインキュベートし、蛍光励起細胞分取(FACS;MoFlo(Dako Cytomation)セルソーター)又は磁性活性化微小免疫ビーズ(MACS)によって選別した。死細胞を除去するためFACS前にヨウ化プロピジウム(PI;2μg/mL)を添加した。
【0211】
c-kit陽性ブタ心臓細胞を、造血細胞、間葉細胞及び内皮細胞マーカーについてFacsCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson, BD)を用いて解析した。用いた抗体は、抗ブタCD45(Serotec, Clon: MCA1447)、抗ヒトCD34(BD, clon 8G12)、抗ヒトCD90(BD, Clon:5E10, ブタ交差反応性)及び抗ヒトCD166(BD, Clon: 3A6, ブタ交差反応性)、抗ヒトCD105(Caltag Laboratories, Clon: SN6, ブタ交差反応性)及び抗ヒトCD133(Miltenyi Biotec, clon AC133, ブタ交差反応性)であった。PECAM、E-カドヘリン、CD11b、CD13、CD14、CD29、CD31、CD33、CD36、CD38、CD44、CD49、CD62、CD71、CD73、CD106に特異的な抗ヒト抗体は、BD Biosciences社から購入した。各アイソタイプ対照(Pharmingen)を、全てのFACS法に対する陰性対照として使用した。CellQuestソフトウェアを用いてデータを解析した。
【0212】
ブタc-kit陽性心臓細胞の培養、クローニング、及び分化能
c-kit陽性細胞を、7〜10日間、細胞2 x 104個/mlで、10%FBS、bFGF(10ng/ml)、インスリン−トランスフェリン−セレナイト(ITS)、及びEPO(2.5U)を含有するDulbecco's MEM/Ham’s F12(DMEM/F12)改変培地中に播種した。回収後、一部の細胞を、心臓球(cardiosphere)生成のため、改変心臓球形成培地(mCSFM):DMEM/F12、bFGF(10ng/ml)、EGF(20ng/ml)、ITS、2-β-メルカプトエタノール(0.1mM)と、B27及びN2サプリメント(Gibco)を添加した神経基本培地との1:1比に移した。クローン形成能を試験するため、単一のc-kit陽性細胞を、フローサイトメトリー又は連続希釈によって、96ウェルのゼラチンコートしたテラサキプレートのウェルに一つずつ播種した。クローンが同定され大きくなる1〜3週間にわたり、個々のc-kit陽性細胞を、DMEM/F12改変培地中で増殖させた。各96ウェルプレートに生成したクローン数を数えることによってckit陽性細胞のクローン形成能を決定し、パーセンテージとして表した。心臓の領域毎に計10個のプレートを解析した。クローン化した細胞及び心臓球を、筋細胞、血管平滑筋及び内皮細胞特異化のための特殊な心臓形成分化培地(42から改変)に移した。
【0213】
製造業者(Chemicon)の説明書に従い、改変ボイデンチャンバー(Boyden chamber)を用いて細胞移動アッセイを行った。200ng/ml HGF又は200ng/ml IGF-1を、24ウェルプレートの下のチャンバー中に24時間入れた。増殖アッセイでは、2.5 x 104個のpCSCを24 x 35mmディッシュに播種し、0%血清DMEM/F12基本培地中で36時間、血清飢餓状態にした。6枚のディッシュをベースライン対照とし、固定前にBrdU(1μg/ml)を添加し、1時間後に染色した。その後、3%FBS及び200ng/ml HGF(n=6枚のディッシュ)若しくは200ng/ml IGF-1(n=6枚のディッシュ)を添加したDMEM/F12基本培地を、残りの12枚のディッシュに添加した。6枚のディッシュを対照とし、増殖因子を培地に添加しなかった。BrdUを6時間毎に1μg/ml加えた。24時間後に細胞を固定し、BrdU検出系キット(Roche)を用いてBrdUの取り込みを評価した。核を、DNA結合色素、4, 6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI, Sigma)1μg/mlで対比染色した。細胞を蛍光顕微鏡(Nikon E1000M)を用いて評価した。各ディッシュについて、倍率20倍で10個のランダムな視野をカウントし、カウントした総細胞数に対するBrdU陽性細胞のパーセンテージとして数を表した。
【0214】
免疫細胞化学
細胞を、ガラスチャンバースライド(BD Falcon)上で2日間培養し、4%PFAで20分間固定し、次いで染色した。細胞内染色では、細胞を0.1%Triton X-100を用いて透過させた。細胞を一次抗体とともに4℃で一晩インキュベートし、3回洗浄し、次いでFITC結合二次抗体又はテキサスレッド結合二次抗体とともに37℃で1時間インキュベートした。その後、細胞を3回洗浄し、核をDAPIで対比染色した。蛍光を可視化し、像を共焦点顕微鏡(Zeiss LSM510)で取得した。細胞染色には以下の抗体を使用した:Oct3/4、Nanog、Isl-1、c-kit、Flk-1、及びNkx2.5(R&D Systems);Bmi-1、c-met及びIGF-1r(Santa Cruz Biotechnology)、テロメラーゼ(Abcam)。ガラスチャンバースライド中で24時間培養した後、心臓球をc-kitについて染色した。球から細胞を増殖及び分化させる培養において、4〜6日後、平滑筋アクチン、α-サルコメアアクチン(Sigma)及びフォンヴィレブランド因子(von Willebrand factor)(DAKO)に対する抗体で染色した。全ての二次抗体は、Jackson Immunoresearch社から購入した。
【0215】
ウエスタンブロット解析
血清飢餓培地に24時間さらし、その後200ng/ml IGF-1又は200ng/ml HGFを10〜20分間添加したc-kit陽性pCSCから得たタンパク質溶解物を用いて、IGF-1受容体(IGF-1R)及びHGF受容体(c-met)を検出するイムノブロッティングを、以前記載されたように行った(Ellisonら 2007. J. Biol. Chem. 282:11397)。以下の抗体を、製造業者の指示する希釈率で使用した:ウサギポリクローナル抗体IGF-1R、ホスホル-IGF1R、Akt、ホスホル-Akt、c-met(Cell Signalling)、ホスホル-c-met(Abcam)、FAK、及びホスホル-FAK(Upstate)。
【0216】
組織学
心房摘出後、長軸に垂直な切断により心尖部から基部まで、心臓を5個の冠状スライスに分割した。各ブタの各レベルから、梗塞した心筋、梗塞周囲の心筋及び遠位にある心筋の試料を得た。試料をPBSで洗浄し、10%ホルマリンで固定し、パラフィン包埋した。5μm切片をミクロトーム(Sakura)で調製し、顕微鏡スライド上にマウントした。切片を、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で標準的手法に従って染色した(Ellisonら 2007. J. Biol. Chem. 282:11397)。光学顕微鏡(Nikon E1000M)上でLucia Gソフトウェアを用いて、レベルC及びDに由来する梗塞周囲領域のH&E切片(動物1匹につき3枚のスライド)の核にわたって、筋細胞の直径を測定した。各ブタについて、1切片につき計200個の筋細胞を解析した。
【0217】
心筋の線維化を判定するため、梗塞した心筋の切片を、以前記載されたようにシリウスレッドで染色した(Lee, C.G.ら, 2001. J. Exp. Med. 194:809)。連続切片をPBS中の10%ホルマリンで20分間固定した。蒸留水で5分間洗浄した後、切片を、pH 9のホウ酸マグネシウムバッファー中の0.1%ファストブルー(Fast Blue)RR(Sigma)中で室温で30分間インキュベートした。次いで、切片を蒸留水で洗浄し、飽和ピクリン酸(Sigma)中の0.1%シリウスレッドで室温で10分間インキュベートした。切片を蒸留水でさらに洗浄し、脱水し、清澄化し、そしてマウントした。このプロトコールでは、結合組織(主にコラーゲン)は赤色に染まり、筋肉は黄色/橙色に染まる。Lucia Gイメージ解析を用いて倍率40倍で、心筋結合組織の量の半定量的評価を行った。完全梗塞領域において、コラーゲンの%(陽性染色領域の%)を決定した。各レベルについて動物1匹につき計3枚のスライドを評価し、平均を得た。
【0218】
免疫組織化学及び共焦点顕微鏡
CSCを同定するため、ブタ心臓の横断切片を、幹細胞抗原であるc-kit(ウサギポリクローナル、Dako)に対する抗体で染色した。c-kit陽性CSCは、造血系統、神経系統、及び骨格筋系統(21)のマーカーについて染色が陰性であることにより、系統陰性(Lin陰性)と同定された。対照ブタの様々な心臓領域におけるCSC心筋分布の定量のため、c-kit陽性(lin陰性)細胞数及び心筋細胞数を倍率63倍で計5個の切片についてカウントした。次いで、各横断切片の面積を測定し、単位面積あたりのCSC数及び心筋細胞数を決定した。左心房及び右心房においてc-kit陽性CSC数にわずかな差しか見られなかったため、心房についてのデータをプールした。CSC数を筋細胞106個あたりで表した。
【0219】
周期中の細胞を、BrdU(Roche)及びKi67(Vector labs)染色によって同定した。前駆細胞は、c-kit及び転写因子、Nkx2.5(R&D Systems)、Ets-1及びGATA6(Santa Cruz Biotechnology)について陽性に染色された。新生筋細胞を、BrdU、Ki67及びα-サルコメアアクチン(Sigma)、心筋トロポニンI(Santa Cruz Biotechnology)又は遅筋型(心臓)ミオシン重鎖(Sigma)に対する抗体で同定した。新生血管構造を、BrdU及びα-平滑筋アクチン(マウスモノクローナル、Sigma)又はvWF(ウサギポリクローナル、Dako)に対する染色によって検出した。共焦点顕微鏡(Zeiss 510 LSM)を用いて像を取得した。CSC数、筋細胞前駆細胞数(c-kit陽性/Nkx2.5陽性)、及び新生筋細胞数(BrdU陽性及びki67陽性)を、各レベルの梗塞領域、梗塞周囲領域及び遠位領域について定量した。各領域について倍率63倍で計300個の細胞(約20個の視野)をカウントした。動物1匹につき3枚のスライドを評価した。カウントした総細胞数に対するパーセンテージとして数を表した。梗塞領域及び梗塞周囲領域において動物1匹につき50個のBrdU陽性新生筋細胞のサイズをLucia Gソフトウェアを用いて測定した。
【0220】
梗塞領域における毛細血管の密度は、vWF(Dako)に対する抗体を用いた染色によって評価した。使用した二次抗体は、HRP結合型ロバ抗ウサギ(Santa Cruz)であった。切片中の内在性ペルオキシダーゼは、PBS中の3%過酸化水素で室温で15分間阻害した。色素原3, 3-ジアミノベンジジン(DAB)(Sigma)を用いて、血管を可視化した。核の同定のため、スライドをヘマトキシリンで対比染色した。毛細血管(vWF陽性な血管周囲にわたる1又は2個の内皮細胞として定義する)の数を、倍率40倍で、レベルC及びDの梗塞領域中の10個の視野/切片をカウントすることによって決定した。計3枚のスライド/動物を評価した。毛細血管数を0.2mm2あたりで表した。
【0221】
細胞アポトーシスを検出するため、切片をウサギ抗ヒト活性型カスパーゼ-3一次抗体(R&D Systems)及びロバ抗ウサギHRP結合型二次抗体で染色した。色素原DAB(Sigma)を使用して、アポトーシス心筋細胞を可視化した。次いで、切片をヘマトキシリンで対比染色し、永久的にマウントして光学顕微鏡で調べた。レベルC及びDの梗塞周囲領域におけるカスパーゼ-3陽性筋細胞の数を、倍率40倍で20個のランダム視野/切片をカウントすることによって決定した。計3枚のスライド/動物を評価した。カスパーゼ-3陽性筋細胞の量を、カウントした筋細胞の総数に対するパーセンテージとして表した。
【0222】
統計解析
データを平均±SDとして報告する。2群間の有意性を、スチューデントのt検定によって、及び分散分析(ANOVA)による多重比較において決定した。ボンフェローニ事後法(Bonferroni post hoc method)を使用して差を見出した。有意性をP<0.05で設定した。
【実施例1】
【0223】
PLGAマイクロスフェアの調製
2セットのPLGA及びアルギン酸塩のマイクロスフェアを調製した。一方のセットはヒト血清アルブミン(HSA)及びインスリン様増殖因子1(IGF-1)の混合物を含有し、もう一方のセットは、HSA及び肝細胞増殖因子(HGF)の混合物を含有する。要する増殖因子がごくわずかな量であることを考えて、乳化のための十分な体積(bulk)を提供するためにHSAを使用した。
【0224】
PLGAマイクロスフェアを形成するために使用する条件は以下の通りである。
【0225】
フォーカスされる液体(focused liquid)がPLGA+HSA+増殖因子のエマルジョンであり、フォーカスする液体(focusing liquid)が水である、液体−液体の設定で、Ingeniatrics社の噴霧器フローフォーカシング(D=150μm、H=125)を使用した。
【0226】
液相はEtOAc(酢酸エチル)中の5%PLGAで構成された。
【0227】
水相は水中の5%HSA、0.1%増殖因子、0.45%NaCL、0.25%Tween 20で構成された。
【0228】
2相の混合物を30分間超音波処理した。
【0229】
2%ポリビニルアルコール(PVA, Fluka Chemica)の槽中で微液滴を生成した。
【0230】
フォーカスされる(Qd)及びフォーカスする(Qt)液体の流量によって粒子の粒径を制御する。15±1μmの粒子を得るために、Qd = 3.5 mL/h及びQt= 3 mL/hを使用した。HSA+IGF-1混合物の封入効率は37%であった。
【0231】
粒子の粒径を光学顕微鏡及び電子顕微鏡によって確定した(図8を参照)。
【0232】
わずかに改変した同じ手法を用いて、HGFを含有するPLGA粒子を調製した。
【実施例2】
【0233】
直径15μmの単分散PLGAマイクロスフェアの製造の最適化
投与するマイクロスフェア数を低下させるため、封入効率を最適化するために、以下のパラメーターの変更によって使用する条件を最適化した:
a. - 液相中の乳化剤の取り込み。最適な組み合わせは、5時間まで安定なエマルジョンを生成するTween 80及びSpan 60の混合物であることがわかった。
b. - 5%から20%HSA(ヒト血清アルブミン)へのタンパク質濃度の最適化。
c. - 0.45%から0.2%への水相中のNaCl濃度の最適化。
d. - 5%から5.5%へのEtOAc中のPLGA濃度の最適化。
e. - 初期混合物中のHGF-1濃度を0.4%とした。
【0234】
従って、水相は、20%HSA、0.4%IGF-1;0.2 NaCl;0.1 Tween 20;0.15 Span 60で構成された。有機相は、EtOAc(酢酸エチル)中の5.5%PLGAで構成された。
【0235】
微粒子を、実施例1に記載する条件を用いた単純なフローフォーカシングによって得た。
【0236】
粒子の粒径は、SEMによって測定する場合、14.36μm(SD0.91)であり、封入効率は、13.1%のエントラップメント(entrapment)を有する82.4であった。定量的ELISAによって補正したタンパク質測定により、各1 x 106個のマイクロスフェアは3μgのIGF-1及び348μgのHSAを有することが実証された。生細胞のIGF-1受容体に結合し活性化する能力によって試験した、マイクロスフェア中に含まれるIGF-1の生物学的in vitroアッセイにより、1ラウンドの凍結乾燥及び再懸濁後、封入されたIGF-1は元の生物学的活性の82%を保持したことが示される。従って、各100万個のマイクロスフェアは、天然IGF-1の2.5μgに相当する生物学的活性を有していた。
【0237】
同様のプロトコールを用いて、HGFを封入し、粒子1 x 106個あたり1.7μgのHGFが封入され、元の63%の生物学的活性を有するという最終結果を得た。従って、各100万個のHGFマイクロスフェアは、活性型HGFの1μg相当を送達することができる。
【0238】
SCF(幹細胞因子)、すなわちc-kit受容体に対するリガンドの封入により、マイクロスフェア1 x 106個あたり2.3μgのSCFを含有し、c-kit受容体の活性化によって決定するように、元の溶液の76%の活性を有する粒子を製造した。
【0239】
結論:使用した単一のフローフォーカシング法は、HSA及び様々な増殖因子の混合物の封入に非常に効果的である。増殖因子に対するHSAの初期比を変えることによって、直径15μm(変動係数≦6%)のPLGAマイクロスフェア1 x 106個あたり350μgまでの所望の薬理作用のあるタンパク質の負荷値(loading value)を達成することができる。
【実施例3】
【0240】
単分散アルギン酸塩マイクロスフェアの製造及びIGF-1の封入
マイクロスフェアの製造に使用した試薬及び装置は以下の通りであった:
-アルギン酸塩:プロタナール(Protanal)LF 10/60;FMCBioPolymer(G/M≧1.5);プロタナール LF10/60LS;FMCBioPolymer(G/M≦1)
-Sigma-Aldrich社からのHSA(ヒト血清アルブミン、97〜99%、A9511)
-PreProtect社からのIGF-1
-CaCl2;クエン酸三ナトリウム
-液体−気体の設定で単純な噴霧器FF:L2(D=100μm、H=100)及びL3(D=100μm、H=100)
-ハーバードポンプ11プラス。
【0241】
適切な条件を確立するための120を超えるアッセイの後、アルギン酸塩の混合物は単一のアルギン酸塩より良い結果を与えることが明らかになった。0.7%:.3%比のプロタナールLF10/60:プロタナールLF10/60LSが最適な結果を与えた。噴霧の最適な距離は10cmであることがわかった。混合物中のHASの最適濃度は14%でありIGF-1は0.3%であった。この混合物を、液体−気体(ΔPt=300 mbar, Qd=5 mL/h)の設定で、フォーカスする流体として気体を用いて、FF(D=100μm、H=100)を使用して噴霧する。噴霧器を振とう槽中の3%CaCl2溶液から10cmに置き、30分後に遠心で回収し、洗浄してCaCl2を除去する。粒子の粒径分布をフローサイトメトリー及びSEMによって決定する。HSAの封入効率をタンパク質定量及び検量線によって決定する。hrHGF-1の封入を実施例2に記載するようにELISAによって判定した。
【0242】
粒子の粒径は、SEMによって測定する場合、15.87μm(SD1.83)であり、封入効率は、11.6%のエントラップメントを有する71.4であった。定量的ELISAによって補正したタンパク質測定により、各1 x 106個のマイクロスフェアは約2μgのIGF-1及び269μgのHSAを有することが実証された。生細胞のIGF-1受容体に結合し活性化する能力によって試験した、マイクロスフェア中に含まれるIGF-1の生物学的in vitroアッセイにより、1ラウンドの凍結乾燥及び再懸濁後、封入されたIGF-1は元の生物学的活性の67%を保持したことが示される。従って、各100万個のマイクロスフェアは、天然IGF-1の約1.5μgに相当する生物学的活性を有していた。
【0243】
このプロトコールを適用して、FF噴霧器及び他の噴霧法を用いて、様々な種類のポリマー、例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)及びポリエチレンオキシド(PEO)のポリエーテル−ポリエステル分割型ブロックコポリマー、ポリアクティブ(PolyActive)(登録商標)とともに使用することができる。
【0244】
結論:アルギン酸塩は、約15μmの直径を有する単分散マイクロスフェアの製造、及び大量のタンパク質の封入に適したポリマーである。使用したプロトコールを改変して、IGF-1対HSAの比を60:40まで増加させることができ、これにより活性化合物の積み荷は2桁以上増加する。得られた結果から、15μmのピーク周辺の粒径範囲は、PLGAを使用する場合に、本明細書で試験したアルギン酸塩の組み合わせを用いた場合より狭くなる。多数の様々なアルギン酸塩調製物を考慮すると、本明細書で見出した微粒子の均一性は有意に改善することができる可能性がある。
【実施例4】
【0245】
活性化合物が粒子の表面にあるマイクロスフェアを製造するために、PLGAの代わりに、結合する活性化合物と反対符号の電荷の高分子電解質を用いて上記のマイクロスフェアを製造することが可能である。そのような高分子電解質の例は、アラビアゴム、ペクチン、タンパク質、核酸、多糖、ヒアルロン酸、ヘパリン、カルボキシメチルセルロース、キトサン、アルギン酸及び多数の合成ポリマーである。高分子電解質が活性化合物と反対符号の電荷を有する場合、活性化合物の溶液から吸着によって微粒子へ結合させることができる。
【実施例5】
【0246】
直径15μgのマイクロスフェアは、冠動脈内投与後、体循環への流出なく、毛細血管でトラップされるのに最適である
雌のヨークシャー白ブタ(n=2)(27kg)をテラゾール(terazol)(100mg、I.M.)で鎮静させ、挿管し、毛を剃った。静脈内カテーテルを末梢耳静脈中に入れた。動物を手術室に移動させ、支持板上に置き、肢固定具で手術台に固定した。動物をイソフルレン(O2中2.5%)で麻酔下に維持し、手術中、絶えずEKGをモニターした。透視ガイドのため携帯型放射源(GE STENOSCOP, GE Medical Systems USA)を用いて、本プロトコールのために特別に設計した長さ40 cmの6FガイディングカテーテルJR 3.5を左主冠動脈に挿管した(Cordynamic-Iberhospitex S.A. Barcelona, Spain)。ベースラインの冠動脈造影法を行った。
【0247】
両動物において、直径2mmの冠動脈ガイドカテーテルをガイドワイヤー(Hi-Torque Balance Middle-Weight 0,014")に沿って左冠動脈起始部へ進めた。このカテーテルを通して、内部直径0.014"(0.3mm)のマイクロカテーテルを進め、その先端を、第一貫通動脈の起始部直下の、左前冠動脈(LAD)の近位部に位置した。これは、実験的心筋梗塞を引き起こすために使用し、且つ上述した増殖因子の溶液の投与に使用するのと同じ位置である。手術中、心臓静脈血液試料を回収するために、別のカテーテルを冠状静脈洞に入れた。投与開始前に、末梢の冠静脈及び冠動脈の血液試料を回収した。心室性期外収縮又は心室細動が多い場合には、1〜3mg/kgのリドカインを静脈内投与した。手術1日前に、75mgクロピドグレル(clopidrogel)(プラビックス (Plavix))及び250mgアスピリンの術前医薬を投与した。術後医薬は、屠殺まで毎日の75mgクロピドグレル(プラビックス)及び125mgアスピリンで構成された。
【0248】
毛細血管ネットワークに完全にトラップされるマイクロスフェアの最適な粒径を決定するために、それぞれ異なる色素で標識した直径2μm、4μm、6μm、10μm、12μm及び15μmの蛍光ポリスチレンマイクロスフェア(Invitrogen社及びPolysciences Inc.社から購入、Cat # F8830, F8858; F8824; Polybead Black dyed microsphere 6.0μm、Megabead NIST 12.0μm及びF8842)の混合物を1mLあたり6粒径それぞれについてマイクロスフェア1 x 106個の濃度で20mLのPBSの懸濁液中に混合し、確実に均一な懸濁液にするため5分間ボルテックスにかけた。この懸濁液を、3匹のブタの左冠動脈の起始部に、血管造影カテーテルを介して、速度1mL/minのハーバードポンプによって投与した。1mL(マイクロスフェア100万個)投与する毎に、注入を3分間中断し、この間、冠状静脈洞血液試料を採取した。血液試料を得た直後に、蛍光微粒子の存在を確認するために血液塗抹スライドを調製した。20mLのマイクロスフェア懸濁液の投与完了後、30分間隔でさらに3時間、冠状静脈洞血液試料を回収した。実験の終了時に動物を屠殺し、心臓を摘出し、固定し、試料を切片にするために得て、組織学的解析及び蛍光顕微鏡解析を行った。
【0249】
様々な粒径のマイクロスフェアを同数投与したため、冠状静脈洞静脈流中及び心筋中のそれらの比は、互いに鏡像であるはずである。毛細血管床を通過した粒子は、実験の終了時に、冠状静脈洞血液中には高濃度で、心筋中には低濃度であるはずである。毛細血管床を通過しない粒子については、逆のことが当てはまるはずである。以下に示すように、≦10μmの粒径のみが心筋中に効率的に保持され、10及び12μmのマイクロスフェアでさえ有意な程度に流出し、これらのマイクロスフェアのそれぞれ19及び8%が体循環に侵入した。一方、15μmの粒子の≧1%が毛細血管床を通過し、冠状静脈洞に到達した。
【表2】
【0250】
上に示した結果が心筋に特異的であるか、又は他の組織にも拡張し得るか判定するために、同じプロトコールを用いて、右肢の大腿動脈中にマイクロスフェアの同じ懸濁液を投与した。大腿静脈から血液試料を回収し、大腿四頭筋試料を解析して骨格筋中の様々なマイクロスフェアの持続性を判定した。結果を表3にまとめる。
【表3】
【0251】
結論:目的組織での≧99%の保持を保証するマイクロスフェアの最小粒径は直径15μmである。前毛細血管細動脈を遮断することによる虚血の微小部位の生成を最小限にするために、最小有効粒径を使用することが重要であるため、この直径粒径は毛細血管床を介して特定組織に物質を局所送達するのに最適である。
【実施例6】
【0252】
冠循環中のマイクロスフェアの投与
15μmの蛍光ポリスチレンマイクロスフェア(Invitrogen, Cat # F8842, フルオスフェアズ(FluoSpheres)(登録商標)ポリスチレンマイクロスフェア)のPBS中1x106個/mL濃度の20mL懸濁液を調製し、5分間ボルテックスにかけた。この懸濁液を、左主冠動脈の起始部に、血管造影カテーテルを介して、速度1mL/minのハーバードポンプによって投与した。1mL(マイクロスフェア100万個)投与する毎に、注入を3分間中断し、この間、完全なEKGを行い、冠状静脈洞血液試料を採取した。血液試料を得た直後に、蛍光微粒子の存在を確認するために血液塗抹スライドを調製した。残りの試料を酵素測定のために保存した。心電図が心筋虚血に合致した最小変化を示すまで、処置を続けた。実験の開始時及び粒子懸濁液の投与後に、冠血流量(TIMI)を測定した。2匹のブタを覚醒させ、24時間に再検査し、その後屠殺した。
【0253】
結果:動物#1では、16mLの懸濁液(マイクロスフェア1600万個)の投与後、最初のEKG変化が検出された。2番目の動物では、18mL(マイクロスフェア1800万個)の投与後まで、EKG変化が現れなかった。どちらの動物でも、冠血流量は処置の終わりにTIMI 3(正常)であった。動物#1を注入終了24時間後に屠殺した。屠殺前に完全なEKG及び血液試料を得た。心臓を巨視的検査及び顕微鏡検査のために処理した。
【0254】
24時間において動物#2は正常なEKG及び冠血流量(TIMI 3)を有していた。一連の血液試料を得た後、動物を屠殺し、心臓を巨視的検査及び顕微鏡検査のために処理した。
【0255】
動物#1及び#2由来の冠状静脈洞及び体循環から得た試料の血液塗抹標本は全て、低倍率及び高倍率で蛍光顕微鏡によって検査した。いずれの試料においても蛍光ビーズは検出されなかった。このことは、毛細血管ネットワーク中での直径15μmのマイクロスフェアのトラップは非常に効率的であることを示唆している。さらに、テベジウス静脈を介したこの注入方法において冠動脈から右心室への機能的なバイパスがあるならば、それらは少なく、本明細書で使用した方法では検出されない。
【0256】
酵素測定(表4)により、血中心筋特異的トロポニンT(TnT)のレベルの上昇が示すように(0.01ng/mlを超える値は異常である)、動物#1はわずかな心筋梗塞を発症し、一方、動物#2の値は正常であることが示され、この動物は粒子の投与中一時的な虚血を発症しただけで、永続的な心筋損傷なく回復したことが示唆される。この解釈を以下に示すように病理学によって確かめた。動物#1の心臓の巨視的切片は、壊死の微小部位(色が薄い領域)を示すのに対し、動物#2の切片は正常である。この結論は組織病理学によって確かめた(データ示さず)。
【表4】
【0257】
結論:心臓の左冠動脈前下行枝(LAD)が供給する領域における、直径15μmのマイクロスフェアの15x106個までの投与は、耐容性が良好であり、心筋損傷を引き起こさない。マイクロスフェア15x106個を超える用量は、永続的な瘢痕を残し得るわずかな虚血領域を引き起こすリスクが高い。従って、直径15μmのマイクロスフェア1 x 106個あたり1mgのタンパク質という、ポリマーとしてPLGAを用いて得られた値の中程度の積載で、左冠動脈が供給する心筋の毛細血管床に15mgまでの治療剤を送達することができる。
【実施例7】
【0258】
増殖因子を積載したPLGAマイクロビーズの投与
15μmのマイクロスフェアの安全な用量範囲を決定したため、同じプロトコールを用いて、心筋の同じ領域に10x106個のPLGAマイクロスフェア(直径15μm)を投与した。マイクロスフェア懸濁液は、計2μgのヒト組換えインスリン様増殖因子1(IGF-1)を積載したPLGAマイクロスフェア4x106個;計1μgのヒト組換え肝細胞増殖因子(HGF)を積載したPLGAマイクロスフェア4x106個で構成された。これら2種類のマイクロスフェアは、血中及び組織学的切片中で可視化をより容易にするため、蛍光緑色色素も積載した。さらに、懸濁液は、Invitrogen社の橙色範囲のポリスチレン蛍光2x106個を含有した。Invitrogen社のスフェアは、PLGAマイクロスフェアの安定性及び分布のための対照として機能するために含めた。10mLの生理的PBS中の懸濁液は、上述のように装置を付けたブタに投与した。
【0259】
2匹の動物への懸濁液の投与は無事に行われ、虚血の心電図上の徴候はなかった。処置中及び処置後、毛細血管血流量は正常であった(TIMI 3)。一方の動物(ブタ#3)を処置30分後に屠殺し、もう一方(ブタ#4)を処置24時間後に屠殺した。どちらの心臓も巨視的解析及び顕微鏡解析のために処理した。
【0260】
これら2匹の動物の末梢血液試料も冠状静脈洞血液試料も、複数の血液塗抹標本においてInvitrogenビーズの存在もPLGAビーズの存在も示さなかった。これら2匹の動物の肺、肝臓及び脾臓切片の予備的解析でも、いずれの種類のマイクロスフェアの存在も検出できなかった。
【表5】
【0261】
表4及び5の説明文。マーカー:CK、クレアチンキナーゼ;MB、心臓に特異的なクレアチンキナーゼのMBアイソフォーム;TrT、心筋トロポニンT、心筋損傷の最も特異的且つ高感度なマーカー。PRE INJ CS、処置開始時に冠状静脈洞から採取した血液試料;PRE INJ、処置開始時に採取した体循環血液試料;POST CS、処置終了時に冠状静脈洞から採取した血液試料;POST、処置終了時に採取した体循環由来の血液試料;POST 14H、処置14時間後に採取した体循環血液試料;POST 24H、動物を屠殺する前、処置24時間後に採取した体循環血液試料。
【0262】
これら2匹の動物の巨視的切片は完全に正常であった(示さず)。蛍光顕微鏡下におけるブタ#3の切片の解析により、約1:4比で、毛細血管中のPLGAビーズ(緑色)とポリスチレンビーズ(赤色/橙色)の分布が示され(下記図10)、これは投与した混合物の組成から期待される通りである。検査した心臓のどの領域にも、微視的組織損傷の証拠はなかった。ブタ#4では、PLGAビーズ(緑色)の数は、すでに有意に減少しており、これらのビーズ対ポリスチレンビーズ(赤色/橙色)の比は1:1に近く(図11を参照)、PLGAビーズが約16時間の半減期で分解されることを示唆している。
【0263】
内在心臓幹細胞を刺激するためにマイクロスフェアで投与したIGF-1及びHGFの有効性
上述したように、冠動脈を介して投与したIGF-1及びHGFの組み合わせは、内在心臓幹細胞の活性化を刺激するのに非常に有効であった。この予備的アッセイでは、本発明者らは、マイクロスフェアが送達された領域における幹細胞の活性化をモニターし、左冠動脈によって供給されない左心室の領域と比較した。図11の像に見られるように、未処置の心筋における大部分の内在幹細胞は休止状態にあるのに対し(矢印/矢頭で強調)、処置した領域のものは細胞周期マーカーki-67の発現が示すように細胞周期に入っている(核内の黄色いシグナル、図では強調した領域における明るい「スポット」)。従って、増殖因子を毛細血管に送達し、周囲の間質腔へ荷降ろしするまで増殖因子をその場に保持する固形基体上の増殖因子の投与は、内在性幹細胞集団の刺激に対して有効な増殖因子投与法である。
【0264】
結論:毛細血管を通過させず体循環へ侵入させない直径を有する生分解性マイクロビーズを用いた、心筋の特定の領域へのIGF-1及びHGFの局所送達は、治療の標的でない領域に影響を与えることなく、該組織の特定の領域の内在幹細胞を刺激するのに有効である。
【実施例8】
【0265】
ブタのc-kit陽性心臓幹細胞及び前駆細胞は多能性であり、他の動物種のものと表現型が似ている
体重24±3kgの3匹のヨークシャーブタに由来する心筋の組織学的切片を、共焦点顕微鏡で、大部分のCSCで発現することが知られている一般的幹細胞マーカーc-kit(幹細胞因子(SCF)の受容体)について陽性な細胞の存在について調べた。c-kitについて陽性(c-kit陽性)な小さい細胞が、心房及び心室の心筋中に(図1A〜B)、他の心臓領域と比べて心房(左心房と右心房との間に差はない、データ示さず)及び心尖部においてより高密度で分布していた(図1C)。この分布パターンは、ヒトをはじめとする他の動物種の心臓におけるc-kit陽性CSCの解剖学的位置と一致する。従って、ブタの心臓におけるc-kit陽性細胞の密度はヒト及び齧歯動物の心筋と類似している:約1,000個の筋細胞あたり1細胞、又は組織1gあたり約50,000個のc-kit陽性細胞。
【0266】
様々なブタの心臓領域に由来する心筋組織試料を酵素消化して、筋細胞を欠失した細胞集団を得た。c-kit陽性細胞は、心房、心室、及び心尖部に由来する、開始時の筋細胞欠失心臓細胞集団のそれぞれ10±3%、3±2%及び7±3%を構成していた(図1D)。
【0267】
>90%のc-kit陽性細胞からなる高度に濃縮された細胞調製物をもたらすMACS技術(21)を用いてc-kit陽性細胞を分離した(図1E)。FACS解析により、c-kit陽性に富む心臓細胞は、汎白血球マーカーCD45及び内皮/造血前駆のマーカーCD34について陰性であることが示された(図1E)。c-kit陽性ブタ心臓細胞の高い割合(87%)はCD90(一般的な非特異的間葉マーカー)及びCD166(接着分子)を発現していた(図1E)。わずかな割合のみが造血/内皮前駆細胞のマーカーCD105及びCD133について陽性であった(補足図1)。c-kit陽性心臓細胞は、CD13、CD14、CD31、CD38、CD44、CD33をはじめとする他の造血、間葉及び内皮細胞系統に特異的な一連のCDマーカーについて解析すると陰性であった。これらの解析から、本発明者らは、ブタのc-kitで選別した心臓細胞は、c-kit陽性、CD90陽性、CD166陽性、CD105低レベル、CD133低レベル且つCD45陰性、CD34陰性、CD31陰性、CD44陰性であると結論付けることができる。
【0268】
心房、心室及び心尖部から新しく単離したc-kit陽性心臓細胞を培養液中で増殖させ(4代継代)、その後、96ウェルテラサキプレートに単一細胞として入れ、単一細胞クローンを生成させた(図2A〜B)。ブタ細胞のクローン化効率は、全ての心臓部位について同様であり、以前に報告された齧歯動物CSCのクローン化効率と同程度であった(図2C)(Beltramiら Cell 2003)。本発明者らは、心房、心室及び心尖部に由来する細胞からそれぞれ2クローンをランダムに選び、さらに増殖させた。これらのクローンは約30時間の倍加時間を示し、増殖停止又は老化せずに、これまで65代を越えて継代し増殖しており、10代ごとに連続的にサブクローン化している。これらのc-kit陽性心臓細胞クローンは、検出可能な染色体の変化なく、正常な核型を維持している。
【0269】
クローン化したc-kit陽性ブタ心臓細胞を、免疫細胞化学を用いて幹細胞性マーカー及び心臓系統への運命決定について解析した。細胞はc-kit(90±8%)、Flk-1(86±9%)、Oct3/4(62±11%)、Nanog(46±5%)、テロメラーゼ(81±10%)、Bmi-1(70±14%)、Nkx2.5(52±8%)、Isl-1(8±6%)について陽性を示した(図2D)。クローンが単一細胞に由来したため、その子孫における多能性遺伝子の広範な発現は、親細胞集団におけるこれらの遺伝子の発現レベルが非常に高いことを示唆した。残念ながら、c-kit陽性細胞の一次集団はCSC、前駆細胞及び前駆体細胞の混合物であり、「真の」CSCに特異的なマーカーはまだない。従って、それらの子孫の解析を介して、これらの細胞の表現型を推測することしかできない。
【0270】
クローン化したc-kit陽性ブタ心臓細胞を、細菌用ディッシュ(Corning)内で改変心臓球形成培地(mCSFM)に播種すると、それらは懸濁液中で増殖し、心臓球と名づけられた球状クローンを生じる(図2E)(Beltrami, A.P.ら, 2003. Cell 114:763; Oh H, Bradfute SB, Gallardo TDら Cardiac progenitor cells from adult myocardium: homing, differentiation, and fusion after infarction. Proc Natl Acad Sci U S A 2003; 100(21):12313-12318; Matsuura K, Nagai T, Nishigaki Nら Adult cardiac Sca-1-positive cells differentiate into beating cardiomyocytes. J Biol Chem 2004; 279(12):11384-11391)。心臓球を心臓形成分化培地とともにラミニンコートしたプラスチックディッシュに入れると、接着し、細胞が球から広がり、扁平な形態を獲得する(図2E)。播種4〜6日後、これらの周辺扁平細胞は、筋細胞(27±4%)、内皮細胞(10±6%)及び平滑筋細胞(34±5%)系統に特異的なタンパク質を発現していた(図2E)。これらの結果は、ブタc-kit陽性心臓細胞が真の幹細胞特性を有すること、すなわちそれらは幹細胞マーカーを発現し、クローン形成性であり、自己複製し、且つ多能性であることを示している。従って、ブタc-kit陽性心臓幹細胞(以降pCSCとする)は他種から単離したc-kit陽性CSCと一致した遺伝子発現パターン及び表現型を有する(Ellisonら, 2007. J. Biol. Chem. 282:11397)。
【0271】
ブタCSCは、その活性化を調節するインタクトなIGF-1、HGF及びSCFシグナル伝達経路を発現する
この結果は、ブタ心臓における真のpCSCの存在を示す。
【0272】
pCSCはin vivo及びin vitroにおいてIGF-1受容体及びc-met受容体を発現する(図2F)。培養液中で増殖させると、新たに単離したpCSCは、hrIGF-1、hrHGF及びhrSCFによる刺激に、細胞増殖(図2G)及び細胞移動(図2H)で応答する。リガンドが結合すると、pCSCにおいて特異的な下流のエフェクター経路が活性化した(図2I)。同様の結果が、増殖した単一細胞クローンに由来する細胞で得られた(データ示さず)。従って、pCSCは、心筋再生プロトコールを試験するためのin vivoで利用可能な機能的に共役したGF受容体系を有する。
【実施例9】
【0273】
ブタにおける心筋梗塞の発生、心室機能のモニタリング及び増殖因子を用いた内在心臓幹細胞の刺激によるin situでの心筋再生
全ての動物実験は、Escuela Veterinaria y Hospital de Leon、レオン、スペインの適切な委員会によって認証された。雌のヨークシャー白ブタ(n=26)(27±3kg)をテラゾール(100mg、I.M.)で鎮静させ、挿管し、毛を剃った。静脈内カテーテルを末梢耳静脈中に入れた。動物を手術室に移動させ、支持板上に置き、肢固定具で手術台に固定した。動物をイソフルレン(O2中2.5%)で麻酔下に維持した。26匹の動物全てにおいて、冠動脈バルーンカテーテルをガイドワイヤーに沿って進め、第一貫通動脈の起始部直下の、左前冠動脈(LAD)の近位部に位置した。梗塞を誘導する前に125UI/kgのヘパリンをブタに与え、その後、梗塞術中にヘパリン点滴(10UI/kg/h)した。梗塞を誘導するため、LAD冠動脈をバルーン拡張(2.5mm直径)によって75分間閉塞した。抗不整脈剤として、アミオダロナ(Amiodarona)(トランゴレックス(Trangorex))(5mg/kg/h)を梗塞の15分前に開始して手術中、ブタに絶えず点滴した。心室性期外収縮又は心室細動が多い場合には、1〜3mg/kgのリドカインを静脈内投与した。手術1日前に、75mgクロピドグレル(プラビックス)及び250mgアスピリンの術前医薬を投与した。術後医薬は、屠殺まで毎日の75mgクロピドグレル(プラビックス)及び125mgアスピリンで構成された。
【0274】
ヒト組換えIGF-1及びHGF(Peprotech)を様々な用量(2μg〜8μgのIGF-1及び0.5μg〜2μgのHGF)で17匹のブタに、第一中隔動脈の起始部のすぐ遠位に進めたかん流バルーンカテーテルを介して冠動脈再かん流30分後に投与した。15mlのPBS中のGFを分速2.5mlで、5ml投与毎に2分間の再かん流を行い投与した。同じプロトコールを使用して、MIを有する別の9匹のブタに、生理食塩水のみを注入した(生理食塩水偽薬対照群;CTRL)。26匹の動物のうち5匹(CTRL群中2匹及びGF群中3匹)は急性心筋梗塞(AMI)中に死んだ(約30%の急性死亡率)。続いて、3匹の動物が術後期間に死んだ:1匹の動物は1日目(CTRL群)、1匹の動物は13日目(CTRL群)及び1匹の動物は14日目(GF群)。実験プロトコールを完了した残り18匹のブタのうち、13匹はGF処置群であり、5匹はCTRL群であった。具体的には、生存している18匹のGF処置動物のうち、4匹は1x用量のGF(2μgのIGF-1及び0.5μgのHGF;GF-1x)を投与され、5匹の動物は2x用量(4μgのIGF-1及び1μgのHGF;GF-2x)を投与され、4匹の動物は4x用量(8μmのIGF-1及び2μmのHGF;GF-4x)を投与された。GF又は生理食塩水単独を投与した直後に、全ての生存動物に、実験の期間中BrdUの0.5M溶液10mlを積載した浸透圧ポンプを埋め込んだ。MI及び増殖因子投与の21日後にブタを屠殺した。各ブタが属する群は、免疫組織化学解析を行う実験者には分からないようにした。
【0275】
心臓機能測定
心臓機能を、ベースライン、冠動脈閉塞直後及び屠殺前に心電図で測定した。簡単に説明すると、Mモード及び2次元エコー図を用いて、胸骨傍の長軸及び短軸図を得た。LV径(LV dimension)(LVEDD及びLVESD)を中弦レベル(midchordal level)で心室の長軸に対して垂直に測定した。LV駆出率及び放射方向のストレイン(radial strain)を計算した。
【0276】
局所的冠動脈内IGF-1/HGF注入は、急性心筋梗塞後、梗塞した組織の構造を維持し、心筋細胞の生存を改善する
ヒト組換えIGF-1及びHGF(以降IGF-1/HGF又はGFと略す)を、様々な用量でブタに冠動脈内注入によって急性心筋梗塞30分後に投与した。別のブタに、生理食塩水のみの同じ容量を注入し、対照群(CTRL)を構成した。
【0277】
冠外周面積(coronal circumferential area)の%として面積測定法で決定すると、梗塞のサイズはGF処置群とCTRL群とで差がなかった(GF-1x、-2x及び-4xでそれぞれ28±5%、26±7%、29±5%、対してCTRLで27±4%)。
【0278】
遠隔領域、境界領域及び梗塞領域における心臓組織のH&E及びシリウスレッド染色した横断切片によって、梗塞領域の線維性瘢痕組織(fibrotic scar tissue)に分布する生き残った心筋組織の島が明らかとなった。これらの生き残った心筋の島は、GF処置心筋の梗塞領域において、CTRL処置動物よりはるかに多かった(図3A〜B)。共焦点顕微鏡で解析した、切片のα-サルコメアアクチン及びBrdUの二重免疫蛍光染色によって、これらの島は、主に、巨大なα-サルコメアアクチン陽性、BrdU陰性心筋細胞から成ることが明らかとなり、この表現型により、それらが前梗塞心筋として生き残ったこと、及びそれらが成熟し、もっと言えば肥大した性質を有することが確認された(図3C)。さらに、GF処置したブタ心臓では、CTRLと比べて、梗塞領域における線維性組織が有意に少なかった(図3D〜F)。より興味深いことに、この減少は、投与したGFの用量と正の直線関係を示した(図3F)。
【0279】
本研究は、初期細胞死に対するGF治療の効果をモニターするために特に適合したものではなかった。しかし、以降記載する結果から、筋細胞死が、冠動脈閉塞/再かん流事象のずっと後になっても、梗塞周辺/境界領域では非常に高い状態が続いていることは明らかである。このことはおそらく、形態学的適応と持続的細胞死の悪循環を確立することが知られている病理学的リモデリングの影響のためであろう。図3G〜Hに示すように、IGF-1/HGF投与は、活性型カスパーゼ-3について陽性な筋細胞数がCTRLと比べて減少することから示されるように、用量依存的に後期筋細胞死を有意に減少させた。解剖学的形態の維持、筋細胞の生存及びリモデリングの低下と一致して、GF処置心臓は、CTRLと比べて筋細胞の肥大応答の低下を示した(図3I)。総合すれば、これらの知見は、急性MI後のIGF-1/HGF投与が、心筋細胞数及び心筋壁構造の維持に重要な効果を有することを示唆し、生き残った筋細胞への負荷を低下させ、その結果、心筋リモデリングの改善、並びに生き残った心筋の筋細胞死及び肥大を引き起こす刺激の低下をもたらす。
【0280】
急性心筋梗塞後のIGF-1/HGFの冠動脈内投与は内在pCSCを活性化する
正常心臓(示さず)及びMI後の心臓では、免疫組織化学によって検出されるように、in situでc-kit陽性pCSCの約90%がIGF-1受容体及びc-met(HGF)受容体を発現する(図4A〜B)。その結果、GF処置した梗塞ブタ心臓は、MI21日後に、境界領域においてc-kit陽性pCSC数の有意な増加を示し、梗塞領域でははるかに大きな増加を示す(図4C〜D)。c-kit陽性pCSCのこの増加がGF投与の結果であることは、投与したGF用量との直接的相関によって確かめられる(図4D)。最も高いGF用量では、梗塞領域におけるc-kit陽性pCSCの数は、CTRL心臓に比べて、>6倍多い(図4D、補足表)。さらに、1x用量と4x用量との間の直線的増加は、最大の再生応答を引き起こす飽和用量には達していないことを示唆している。pCSCの多くがBrdU陽性であったが、このことは、MI発生後にそれらが生まれたことを実証している(図4E)。それらの周期する性質は、現在細胞周期にある、又は最近細胞周期にあった細胞を標識するKi-67染色によって確かめた(データ示さず)。多くのc-kit陽性細胞は、主要心臓系統、すなわち筋細胞、内皮細胞及び平滑筋細胞への分化の指標となる転写因子Nkx-2.5、Ets-1又はGata6を発現していた(図4F〜I)。定量解析によって、c-kit陽性Nkx2.5陽性細胞(筋細胞/血管前駆体細胞へ運命決定している)の数は、GF処置したブタ心臓の梗塞領域及び境界領域においてGF用量依存的に有意に増加することが明らかになり(図4G)、CTRL心臓におけるより>10倍高いレベルに達した。
【0281】
IGF-1/HGF処置は、急性心筋梗塞後、堅固な心筋再生を引き起こす
GF処置心臓は、梗塞領域及び梗塞周辺/境界領域のいずれにおいても、まだ最終分化段階に達していない、非常に小さい新生BrdU陽性筋細胞を多数有していた(図5)。これらのデータは、小さい新生筋細胞中のKi67の発現によって確かめられ(図5C及びF)、これらの一部は有糸分裂及び細胞質分裂にあり、それらの未成熟な性質を裏付けた(図5I)。新生BrdU陽性筋細胞は、未処置の生理食塩水を注入したCTRLブタの梗塞周辺/境界領域にも存在した。しかし、それらの数は、処置した心臓の約1/10であり、梗塞領域にはほとんど存在しなかった(図5)。
【0282】
pCSCの場合であるが、梗塞領域及び境界領域のいずれにおいても、小さいBrdU陽性/Ki67陽性新生筋細胞の数とGF用量との間には直接的相関があった(図5G〜H)。GF処置心筋では、小さいBrdU陽性筋細胞は、梗塞領域に一群の再生帯として組織化した。これらの再生帯は、GF用量が増加するにつれ、構造的により組織化し、より詰まって、且つより密であった(図5A〜B)。最後に、梗塞から離れた領域(残った心筋)における新生筋細胞(BrdU陽性又はKi67陽性)の数も出現も、GF処置動物及びCTRL動物間で有意な差はなかった(データ示さず)。
【0283】
新生BrdU陽性血管構造も、境界及び梗塞した心筋で明らかであった(図6A〜C)。GF処置心臓は、生理食塩水処置したCTRLと比べて、梗塞領域において毛細血管数及び細動脈数の増加を示し、この応答は用量依存的であった(図6D〜F)。興味深いことに、新たな微小血管は、より高密度の新生した小さいBrdU陽性筋細胞及び再生帯も有する、上述した梗塞領域内の心筋の生き残った島の周辺で最も明らかであった(Gandia, C.ら, 2008. Stem Cells 26:638)。この組織化は、成体の残った筋細胞による、pCSCに作用する心臓形成性因子(Behfar, A.ら, 2007. J. Exp. Med. 2007 204: 208)の産生を示唆している。
【0284】
MI21日後の梗塞領域において再生した筋細胞は、それらの平均サイズが示すように、並びにKi-67の発現が実証するようにそれらの多くがまだ周期しているという事実が示すように、未成熟であった(図5I、F)。成熟筋細胞の心臓形成役割について示唆された役割と一致して、成熟筋細胞と接触しているか又はごく接近している(すなわち境界領域にある)新生筋細胞は、残った組織に接近していない瘢痕の中央にあるものよりサイズが有意に大きい(図5)。GF用量の増加に伴う平均筋細胞サイズの増加が示すように、GF処置が筋細胞の成熟に役割を果たしていることも明らかである。
【0285】
ブタ心臓のサイズ及び梗塞領域の体積を考慮すると、失った筋細胞数又はGF処置によって再生した筋細胞数を正確に決定することは不可能である。それにもかかわらず、梗塞領域及び梗塞周辺/境界領域の注意深いサンプリングから、28日目において、GF処置した梗塞した心臓が、全てではないにしても大部分の失った筋細胞を再生していることには疑いの余地がない。
【実施例10】
【0286】
冠動脈内GF投与は、心室機能を維持し、且つ改善する可能性がある
心エコー画像は、左心室駆出分画率(LVEF)が、冠動脈閉塞後、CTRLブタ及びGF処置ブタで有意に低下することを示した(図6G)。しかし、AMI28日後、LVEFはCTRLでわずかに悪化したのに対し、CF処置により、CTRLと比べると有意に維持/改善された(図6G)。部位的心臓機能についてさらに洞察を得るために、組織ドップラー心エコー検査を用いて、前壁中隔の放射方向のストレイン(antero-septal radial strain)を測定したところ、CTRLに比べてGF処置ブタでは有意に改善していた(図6H〜I)。心臓機能の維持/改善は、GF用量の増加と相関した(図6)。
【実施例11】
【0287】
直径15μmのPLGAマイクロスフェアに封入した50μgまでのIGF-1の冠動脈内投与は体循環へ流出しない
実施例5で示したように、直径15μmのマイクロスフェアの≧99%は標的組織、及び具体的には心筋の毛細血管ネットワークにトラップされる。しかし、これらのデータは、活性分子が放出されると組織内に保持されるかどうか、又はそれが毛細血管循環及び静脈還流に浸出するかどうかという問題には対処しない。この問題を調べるため、実施例5〜7に述べた同じ投与プロトコールに従って、計50μgのrhIGF-1を積載したマイクロスフェア5 x 106個を左前下行枝の起始部に冠動脈投与した。主な違いは、頸静脈を通して冠状静脈洞にカテーテルを残したことであった。投与中、手術3時間後及び翌3日間にわたり12時間毎に、血液試料を冠状静脈洞から、及び耳静脈を介して静脈血から回収した。血清を調製し、回収完了まで試料をLN2中で凍結した。全ての試料を、ブタIGF-1と交差反応しないヒトIGF-1検出キット(R&D, Minneapolis, Minnesota, USA)を用いたELISAにより解析した。冠状静脈洞由来の試料も、体静脈還流由来の試料も陽性を示さなかった。本発明者らの方法では、アッセイの最小検出限界はIGF-1について52.5ng/mlであった。従って、ELISAの検出レベル未満の漏出が生じた可能性はあるものの、IGF-1の大部分が心筋を離れなかったことは明らかである。
【実施例12】
【0288】
損傷した骨格筋へのIGF-1/HGFの動脈内局所投与は、筋肉の幹細胞の活性化を誘導し、再生を刺激する
損傷した心筋を治療するために使用したプロトコールが他の組織の治療において有効かどうか試験するために、同じプロトコールを用いて、大腿動脈の45分間の完全バルーン閉塞によって虚血性損傷を引き起こした3匹のブタの右肢の虚血後の骨格筋を治療した。心筋の場合のように、バルーンの収縮による再かん流の30分後、総用量8μmのIGF-1及び2μmのHGFについて実施例2に記載するように調製した、直径15μmのIGF-1及びHGFマイクロスフェアを含有するPBS20mLの懸濁液を投与した。動物を3週間後に屠殺し、大腿四頭筋の生検を免疫組織学によって解析し、病変における幹細胞の活性化の程度を決定した。
【0289】
心筋について記載したように、大腿動脈の閉塞後、あらゆる複製細胞を効率的に標識することが知られているBrdUの溶液を連続的に送達するために浸透ポンプを動物に埋め込んだ。こうして、治療の開始後に生まれた細胞は全てBrdU標識され、対照と処置動物との再生応答の比較が可能となる。それぞれの場合に、左肢の大腿四頭筋を非損傷対照とした。
【0290】
図12及び表6に示すように、直径15μmのPLGAマイクロスフェアに封入したIGF-1/HGFの局所投与は、虚血性であるが偽薬処置した対照と比べて、処置した肢の筋組織の再生を刺激するのに非常に有効であったが、対側の肢ではそうではなかった。
【表6】
【0291】
結論:心筋以外の損傷組織への増殖因子の局所投与は、損傷組織/器官の毛細血管ネットワークを標的化する送達系について予測されるように、マイクロスフェアの投与部位より下流の領域に位置する損傷組織の再生応答において刺激効果を有する。
【実施例13】
【0292】
IGF-1/HGF/SCFの冠動脈内注入は、CSCの活性化及び心室機能の維持において、IGF-1/HGFのみより強力な効果を有する
上の実施例に記載したプロトコールに新たな因子を付加することにより梗塞後の心筋の再生応答が改善するかどうか試験するために、3匹の動物群に実施例9で使用した高用量のIGF-1(8μg)及びHGF(2μg)を4μgのSCFとともに投与した。実施例2に記載したように、これらの因子はそれぞれ直径15μmのPLGAマイクロスフェアに封入した。梗塞の発生、モニタリング及びマイクロスフェア懸濁液の投与についてのプロトコールは実施例5〜7に記載した通りであった。動物を処置4週間後に屠殺した。
【0293】
図13A及び図13Bに示すように、3因子プロトコールにより引き起こされた再生は、再生のレベルにおいても再生した筋細胞の成熟においても、IGF-1/HGFの組み合わせによる場合より有意に優れている。表に示すように、細胞性及び組織学的パラメーターと機能的パラメーターは、用いた因子間の相乗効果を確かめ、記載した発明が、再生応答を改変する治療化合物の複数の変形を作製するのに適することを実証する。これらのデータから、特定の因子を有する粒子の加減に加えて、他のバリエーションとして、特定の因子又は一連の因子の用量、特定の因子の放出/荷降ろしのプロファイル、積載の程度などを変化させることがあり得ることを推定することは理に適っている。
【0294】
結論:本発明は、限定的な一連の構成要素から始めて、各因子を様々な用量、様々な放出パターン及び無制限の他の因子との組み合わせで使用することができる、治療化合物の特定の組み合わせのほぼ無数の製剤を許容する。これにより、単一の投与において、異なる時間で、異なる細胞標的に作用し、異なる有効量を要する可能性がある、様々な治療剤の組み合わせで特定の組織に標的化することが可能になる。これらの可能性は、心筋及び大部分の内部器官などの、繰り返し接近できないアクセス困難な組織について特に有利である。
【0295】
図の説明
図1.成体ブタ心臓におけるc-kit陽性心臓細胞の分布及び特性解析
(A〜B)正常なブタ心臓の右心房(A)及び左心室(B)におけるc-kit陽性(c-kit陽性(c-kitpos);白色)細胞の代表的な共焦点像。心筋細胞をα-サルコメアアクチン(α-sarc act)により赤色(図では灰色で示される)に染色し、核をDAPIで青色に染色した。(C)c-kit陽性細胞は、心房心筋及び心室心筋中に分布し、右心室及び左心室(RV, LV)と比べて、心房及び心尖部により高密度で分布する。RV及びLVに対して*p<0.05。(D)心房、心室(RV)及び心尖部について筋細胞を欠失した心臓細胞集団内のc-kit陽性細胞の代表的なFACS解析。(E)MACSを用いて得たc-kit陽性細胞は、>90%の濃縮を示す。c-kit陽性を濃縮したブタ心臓細胞のFACS解析により、それらは造血細胞系統マーカーCD45及びCD34について陰性であることが明らかとなった。また、c-kit陽性ブタ心臓細胞の高い割合は間葉細胞系統マーカーCD90及びCD166を発現する。
【0296】
図2.c-kit陽性ブタ心臓細胞は、幹細胞性マーカーを発現し、クローン形成能、自己複製、心臓球形成及び多能性の幹細胞特性を有し、それらの活性化を調節するインタクトなシグナル伝達IGF-1/HGF系を発現する
(A)4代継代した増殖したc-kit陽性ブタ心臓細胞を示す光学顕微鏡像。(B)単一のc-kit陽性ブタ心臓細胞をテラサキプレートのウェルに入れ、単一細胞クローンを生成させた後のクローンの光学顕微鏡像。(C)c-kit陽性ブタ心臓細胞のクローン形成能は心室にわたって同程度であり、マウス及び齧歯動物CSCと比べて同程度であった。(D)クローン化したc-kit陽性ブタ心臓細胞の免疫蛍光染色により、c-kit(白色)の発現が確かめられ、それらが心臓幹細胞と前駆細胞の混合物であることを示す、Flk-1、Oct-4、Nanog、Tert、Bmi-1、Nkx2.5及びIsl-1(全て灰色で示される)の発現が明らかとなった。像は倍率20倍であり、拡大した像を挿入に示す。(E)クローン化したc-kit陽性ブタ心臓細胞は心臓球を形成した(a)。c-kit陽性(白色)心臓球(b)をラミニンコートしたディッシュ内の心臓形成培地に入れると、心臓球細胞は球から広がる(c)。4〜6日後、球の周辺にある細胞では、心筋細胞(α-サルコメアアクチン、α-Sarc Act;d)、平滑筋細胞(平滑筋アクチン、SMA;e)及び内皮細胞(フォンヴィルブランド因子、vWF;f)についての生化学マーカーの発現が増加した(全て灰色の蛍光で示される)。(F)免疫蛍光染色は、c-kit陽性ブタCSCがIGF-1受容体及びHGF受容体を有することを示す(灰色、それぞれIgf-1R及びc-met)。(G〜H)培養液中で増殖すると、新たに単離したブタc-kit陽性心臓細胞は、細胞増殖(G;基準に対して*p<0.05、CTRLに対して†p<0.05、HGFに対して‡p<0.05)及び細胞移動(H;CTRLに対して†p<0.05、IGF-1に対して‡p<0.05)によってIGF-1及びHGFの刺激に応答する。(I)ウエスタンブロット解析によって、リガンドが結合すると、c-kit陽性ブタ心臓細胞において特異的な下流のエフェクター経路が活性化することが明らかとなった。phos=リン酸化、FAK=焦点接着キナーゼ。
【0297】
図3.IGF-1及びHGFの冠動脈内注入は、AMI後、心筋細胞のリモデリングを改善する
(A)GF処置したブタ心臓のH&E染色により、再生層と線維化層との間に位置する、梗塞領域における生き残った心筋組織の島が明らかとなった(矢印)。(B)これらの心筋の島は、生理食塩水で処置したCTRLブタ心臓ではあまりなく、構造的にほとんど定められなかった。(C)これらの心筋の島は、主にBrdU陰性心筋細胞(心筋トロポニンI、cTnI;灰色、細胞の中央に黒丸で表す核とともに)からなり、それらの生き残った成熟した表現型を実証する。梗塞後に生まれた細胞はBrdU陽性で、それらの核は白いドットで示す。(D〜E)シリウスレッド染色により、GF処置ブタ心臓(D)及び生理食塩水処置CTRL(E)ブタ心臓において、梗塞領域の横断切片中の線維化組織(灰色の染色)及び筋肉(黄色の染色)を特定した。(F)GF処置した(IGF-1/HGF)ブタ心臓は、生理食塩水処置したCTRLブタと比べ、梗塞領域における線維化の%面積比が低下した。CTRLに対して*p<0.05。IGF-1/HGF 1xに対して†p<0.05。(G)活性型カスパーゼ-3に対する染色(茶色;矢頭)によって、AMI後のCTRLブタ心臓の梗塞周辺/境界領域におけるアポトーシス筋細胞が明らかとなった。(H)IGF-1及びHGF注入は、梗塞周辺/境界領域において、生理食塩水処置CTRLと比べて、アポトーシス筋細胞数の減少をもたらした。CTRLに対して*p<0.05、IGF-1/HGF 1xに対して†p<0.05、IGF-1/HGF 2xに対して‡p<0.05。(I)筋細胞直径の解析は、GF処置ブタが、生理食塩水処置CTRL動物と比べると、AMI後に筋細胞肥大応答の低下を有することを示した。正常=CTRL心臓における梗塞領域から離れた/遠位領域。正常に対して^p<0.05、CTRLに対して*p<0.05。IGF-1/HGF 1xに対して†p<0.05。
【0298】
図4.AMI後のIGF-1及びHGF投与は、内在性CSCを活性化し、それらの心臓系統への運命決定(commitment)を推進する
(A〜B)大部分のブタckit陽性CSC(白色)はIgf-1受容体(A、灰色)及びc-met受容体(B、灰色)をin vivoで発現する。DAPIは核を青色に染色する。(C)GF-4x処置ブタ心臓の梗塞領域におけるckit陽性CSCの集団(白色)。(D)ckit陽性CSCの数は、生理食塩水処置CTRLと比べて、GF処置ブタの境界領域において有意に増加したが、梗塞領域においてさらに増加した。CTRLに対して*p<0.05、IGF-1/HGF 1xに対して†p<0.05、IGF-1/HGF 2xに対して‡p<0.05。(E)GF処置したブタ心臓の多くのc-kit陽性CSC(白色)は、新生状態の指標となるBrdU(灰色)について陽性であった。(F)c-kit陽性CSC(白色)は、心臓前駆細胞を表す心臓転写因子Nkx2.5(灰色)を発現した。核をDAPI(青色)で染色した。(G)c-kit陽性Nkx2.5陽性心臓前駆細胞の数は、GF処置したブタ心臓の梗塞領域及び境界領域で増加した。CTRLに対して*p<0.05、IGF-1/HGF 1xに対して†p<0.05、IGF-1/HGF 2xに対して‡p<0.05。(H〜I)一部のc-kit陽性CSC(白色)は、それぞれ平滑筋分化及び内皮細胞分化の指標となる転写因子GATA6(H;灰色)及びEts-1(I;灰色)を発現した。
【0299】
図5.IGF-1/HGF冠動脈内投与は、AMI後、かなりの量の新生筋細胞形成を誘導する
(A〜B)GF-1x(A)及びGF-4x(B)処置したブタ心臓の梗塞領域における小さい新生BrdU陽性(白色)筋細胞(灰色;α-サルコメアアクチン、α-Sarc Act)の再生帯。4x量のGF投与後の再生帯のサイズ増加に注目。また、筋細胞は、4x量のGF投与後、より密で、詰まっており、且つ心筋として構造化している。(C)梗塞領域におけるこれらの再生帯内に、小さいKi67陽性(白色)増殖筋細胞(灰色;α-Sarc Act)があった。(D〜E)GF-1x(D)及びGF-4x(E)投与後の、境界領域における新生小BrdU陽性(白色の核)筋細胞(灰色;α-Sarc Act細胞質)。(F)小さいKi67陽性(白色)筋細胞(灰色;α-Sarc Act)も、GF注入後、境界領域に存在した。(G〜H)小さいBrdU陽性及びKi67陽性筋細胞の割合は、GF注入後、境界領域で有意に増加したが、梗塞領域でさらに増加した。CTRLに対して*p<0.05、IGF-1/HGF 1xに対して†p<0.05、IGF-1/HGF 2xに対して‡p<0.05。(I)GF-4x処置したブタ心臓の梗塞領域における小さいKi67陽性の有糸分裂筋細胞。
【0300】
図6.増殖因子投与は、梗塞したブタ心臓において、新たな血管構造の生成を増加させ、心臓機能を改善した
(A)新生動脈構造(BrdU、白色;α-平滑筋アクチン、SMA、白色;ミオシン重鎖、MHC、灰色;DAPI、青色)は、GF処置したブタ心臓の梗塞領域において顕著であった。(B〜C)新生毛細血管も、IGF-1及びHGF注入後、梗塞領域で顕著であった(BrdU、白色;vWF、灰色;DAPI、濃灰色)。(D〜F)GF処置ブタにおける毛細血管数は、生理食塩水処置(濃灰色染色)CTRLと比べて、梗塞領域において有意に増加した。CTRLに対して*p<0.05、IGF-1/HGF 1xに対して†p<0.05、IGF-1/HGF 2xに対して‡p<0.05。像(倍率20倍)は、生理食塩水処置CTRL(D)及びGF-4x(E)処置した心臓におけるvWF染色(濃灰色)を示す。毛細血管は、1又は2個の内皮細胞からなる血管と定義した。(G〜H)GF処置心臓は、生理食塩水処置CTRLと比べて、左心室(LV)駆出分画率(G)及び放射方向のストレイン(H)の改善を示した。ベースラインに対して*p<0.05、AMIに対して#p<0.05、CTRLに対して†p<0.05、GF-1xに対して‡p<0.05。(I)CTRL(a〜c)及びGF-4x(d〜f)処置ブタから明らかとなった代表的な組織ドップラー放射方向のストレイン(Tissue Doppler radial strain)。CTRL(b)及びGF-4x(e)処置ブタは、90分間の冠動脈閉塞(AMI)後、前壁中隔収縮の同程度の脱同調を有した。屠殺時に(MI後)、脱同調収縮はCTRL(c)で悪化したのに対し、GF処置(f)ブタでは改善した。
【0301】
上記結果は、これらの増殖因子のμgレベルの投与が心筋リモデリングを改善し、内在CSCの活性化を促進することを実証し、それにより、広範な新たな心筋形成が引き起こされ、用量依存的に、ヒトに似たサイズ及び形態の動物心臓において、臨床上実行可能なプロトコールを用いてLV機能が改善される。従って、IGF-1/HGF注入は、投与したGFの用量に比例した、心臓リモデリング及び自己細胞再生に対して様々な有利な効果を引き起こした。
【0302】
図7は、上記方法で得られたIGF-1を含有するPLGA粒子の光学顕微鏡像を示す。
【0303】
図8は、上の図に示されているのと同じバッチの粒子の電子顕微鏡写真を示す。
【0304】
図9は、ブタ#1(左の像)及びブタ#2(右の像)の心臓の切片を示す。ブタ#1の左冠動脈によって供給される左心室の前壁は、多数の微小梗塞(色が薄い領域)を示すのに対し、ブタ#2の心筋は均一な色合いで示されるように正常である。
【0305】
図10Aは、ポリスチレン(赤色のビーズ、図では灰色の大きな直径、滑らかな円で示す)及びPLGA+増殖因子(緑色のビーズ、図では白色の小さい直径及び不規則な形で示す)ビーズの混合物の投与30分後に屠殺したブタ#3の心筋の切片を示す。赤色の粒子及び緑色の粒子間の見かけ上のサイズの違いは、赤色のより強い蛍光のためである。
【0306】
図10B及び10Cは、ポリスチレン(赤色、図では灰色の大きな直径、滑らかな円で示す)及びPLGA+増殖因子(緑色、図では白色の小さい直径及び不規則な形で示す)ビーズの混合物の投与24時間後に屠殺したブタ#4の心筋の切片を示す。赤色ビーズに対する緑色ビーズの比は、PLGA微粒子の分解のため、この動物において有意に低下している。左の4つのパネルにおいて、赤色のビーズのみが検出されるのに対し、右のパネルでは、比は1:1に近づいている。
【0307】
図11は、ブタ#4の2つの領域の顕微鏡切片を示す。筋細胞は灰色である。核は濃灰色である。内在性心臓幹細胞(CSC)を矢頭(上)及び矢印(下)で特定する。それらの膜を薄い緑色で標識する。上の図では、細胞が休止状態にあるため、核はきれいである。下の図では、全てのCSCは、細胞周期に入っている細胞のマーカーであるタンパク質Ki-67を特定する核内の薄い灰色の染色を有する。
【0308】
図12.15μmPLGAマイクロスフェア中に封入したIGF-1及びHGFの局所投与は、損傷した骨格筋の再生を増進する
対照及び損傷した大腿四頭筋の組織学的像。パネルA:右の筋肉に病変を引き起こした5日後の左の筋肉(対照)の組織学的像。この肢には治療薬を投与していない。パネルB:損傷を引き起こした5日後の治療していない右大腿四頭筋の組織学的切片(損傷対照)。矢頭は、細胞壊死のいくつかの広範な領域のうち2つを示しており、ここでは再生応答を開始するための核の凝縮が見られる。パネルC:計16μgのIGF-1及び4μgのHGFの投与に相当するIGF-1を積載したマイクロスフェア及びHGFを積載したマイクロスフェアの混合物で処置した、損傷3日後の右大腿四頭筋の右の生検。矢頭は、まさに再生過程にある損傷領域中の若い微小繊維を指し示す。パネルD:パネルCに示される同じ筋肉の2日後(損傷5日後)の生検。小さな色の濃い繊維は、再生した繊維のマーカーである胚性ミオシン重鎖に対する抗体で標識された再生した繊維である。このパネルの像は、パネルBの像に対応する。2つの像の顕著な違いは、治療の有効性を示す。
【0309】
図13.直径15μmのPLGAマイクロスフェアに封入し冠動脈投与したIGF-1/HGF/SCFの組み合わせの心筋再生能の増進
図13Aの棒グラフは、2種類のマイクロスフェアの組み合わせで処置したAMI後のブタ(白棒)(一方はIGF-を積載し、もう一方はHGFを積載)と、3種類のマイクロスフェア(hrIGF-1、hrHGF及びhrSCF)の組み合わせで処置した動物(黒棒)において、再生した心臓筋細胞の数における効果を比較する。使用した3つの異なる濃度において、それぞれ異なる因子を積載した3種類のマイクロスフェアの組み合わせが、2種類のみの組み合わせより優れていることは明らかである。CTRL=偽薬で処置した対照動物;白棒:1X=生物学的に活性な2μgのIGF-1及び0.5μgのHGF相当を積載したマイクロスフェアを投与した動物;2X=4μgのIGF-1及び1μgのHGF、並びに4X用量=8μgのIGF-1及び2μgのHGF。黒棒:白棒で表す動物に対するのと同量のIGF-1及びHGFに加えて、2、4及び8μgの生物学的に活性なhrSCF相当のSCFを積載したマイクロスフェア。
【0310】
図13Bは、様々な組み合わせのマイクロスフェアで処置したブタの心エコー検査によって決定した、AMI前、直後及び4週間後の左心室駆出分画率を示す。ベースライン=AMI直前のLV駆出分画率;AMI=AMI後のLV駆出分画率;AMI後=AMI及び局所的GF処置4週間後のLV駆出分画率。C=AMI後、偽薬で処置した対照動物;○=冠動脈内に溶液中4X用量のIGF-1+HGFで処置した動物;▼=冠動脈閉塞部位のすぐ下流に投与したPLGAマイクロスフェア中に封入した4X用量のIGF-1+HGFで処置した動物;△=冠動脈閉塞部位のすぐ下流に投与したPLGAマイクロスフェア中にそれぞれ別に封入した4X用量のIGF-1+HGF+SCFで処置した動物。
【0311】
明細書及び添付の特許請求の範囲全体において、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む」という語は、記載した整数若しくはステップ又は整数の群を含むことを意味するが、他の整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を除外することを意味しないと解される。
【0312】
本開示の実施形態は、整数を含むものとして本明細書に記載する。本開示はまた、前記整数からなる、又は基本的に前記整数からなる別の実施形態にまで拡張する。
【0313】
本開示は、技術的に可能である場合、本明細書に記載する1つ以上の実施形態の組み合わせに拡張することも具体的に想定される。
【0314】
本明細書に記載する全ての特許及び特許出願は、その全体が参照により援用される。
【0315】
本明細書及び特許請求の範囲が一部を構成する出願は、それに続く出願に関して、優先権の基礎として使用し得る。そのような後願の特許請求の範囲は、本明細書に記載する構成又は構成の組み合わせに関し得る。それらは、物、組成物、プロセス、又は用途クレームの形態でよく、そして実施例によって、限定されることなく、特許請求の範囲を含むだろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分及び生分解性賦形剤を含有する粒子を含む、標的組織への非経口投与用医薬製剤であって、粒子の90%以上が10〜20μmの直径を有し、該製剤を標的組織の上流に投与する場合、活性成分が標的組織を通過して体循環に入る能力を制限するように、該製剤は直径50μmを超える粒子及び直径5μm未満の粒子を実質的に含まない、前記医薬製剤。
【請求項2】
直径20μmを超える粒子及び直径5μm未満の粒子を実質的に含まない、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
粒子の少なくとも90%が15〜20μmの直径を有する、請求項1又は2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
粒子の少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%が10〜20μmの直径を有する、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
粒子の少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%が15〜20μmの直径を有する、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
粒子の粒径が単分散している、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
粒子の少なくとも68%が平均粒径の+/-1μmの粒径を有する、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
粒子の少なくとも99%が平均粒径の+/-1μmの粒径を有する、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
粒子が15μmの平均粒径を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
虚血組織への非経口投与用の、請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
心臓虚血組織への非経口投与用の、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
HGF(肝細胞増殖因子);IGF(インスリン様増殖因子)例えばIGF-1;PDGF(血小板由来増殖因子)例えばPDGF-β、FGF(線維芽細胞増殖因子)例えばaFGF(FGF-1)又はbFGF(FGF-2)及びFGF-4;SDF-1(ストロマ細胞由来因子1);EGF(上皮増殖因子);VEGF(血管内皮増殖因子);エリスロポエチン(EPO);TGFβ(トランスフォーミング増殖因子β);G-CSF(顆粒球・コロニー刺激因子);GM-CSF(顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子)、骨形成タンパク質(BMP類、BMP-2、BMP-4);アクチビンA;IL-6;ニューロトロフィン、例えばNGF(神経増殖因子)、BDNF(脳由来神経栄養因子)、NT-3(ニューロトロフィン-3)、NT-4(ニューロトロフィン-4)並びにNGF、BDNF、NT-3及びNT-4と構造的に無関係なニューロトロフィン-1;TPO(トロンボポエチン);GDF-8(ミオスタチン);GDF9(増殖分化因子-9);ペリオスチン、Wint 3A又はニューレグリン(Neuroregulin)から選択される増殖因子をさらに含む、請求項11に記載の医薬製剤。
【請求項13】
HGF及び/又はIGFを含む群から選択される活性成分を含有する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
PDGF(血小板由来増殖因子)例えばPDGF-β、FGF(線維芽細胞増殖因子)例えばaFGF(FGF-1)又はbFGF(FGF-2)及びFGF-4;SDF-1(ストロマ細胞由来因子1);EGF(上皮増殖因子);VEGF(血管内皮増殖因子);エリスロポエチン(EPO);TGFβ(トランスフォーミング増殖因子β);G-CSF(顆粒球・コロニー刺激因子);GM-CSF(顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子)、骨形成タンパク質(BMP類、BMP-2、BMP-4);アクチビンA;IL-6;ニューロトロフィン、例えばNGF(神経増殖因子)、BDNF(脳由来神経栄養因子)、NT-3(ニューロトロフィン-3)、NT-4(ニューロトロフィン-4)並びにNGF、BDNF、NT-3及びNT-4と構造的に無関係なニューロトロフィン-1;TPO(トロンボポエチン);GDF-8(ミオスタチン);GDF9(増殖分化因子-9);ペリオスチン、Wint 3A又はニューレグリンをさらに含む、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
SCF-1をさらに含む、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
活性成分の濃度が粒子1 x 106個あたり1ng〜マイクロスフェア1 x 106個あたり4mgまでの範囲である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
活性成分の少なくとも30%が投与後標的組織に保持される、請求項1〜16のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項18】
活性成分の少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、例えば少なくとも80%が保持される、請求項17に記載の医薬製剤。
【請求項19】
非経口投与が動脈内投与である、請求項1〜18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
治療用の、請求項1〜19のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項21】
選択した組織又は器官を標的化するための、請求項1〜19のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項22】
器官が心臓、1若しくは複数の肺、肝臓、1若しくは複数の腎臓、膀胱、子宮、睾丸、膵臓、脾臓又は腸から選択される、請求項21に記載の医薬製剤。
【請求項23】
心臓組織に標的化するための、請求項22に記載の医薬製剤。
【請求項24】
急性又は慢性の心筋梗塞(MI)、心筋梗塞を有するか又は有していない虚血性心疾患の治療用の、請求項23に記載の医薬製剤。
【請求項25】
心臓組織の上流の循環中に、請求項1〜19のいずれか1項に記載の医薬組成物を投与するステップを含む、局所送達方法。
【請求項26】
局所送達が動脈内投与による、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
成熟心臓組織に内在する幹細胞を刺激することによる心臓組織の再生のためのHGF又はIGF-1の使用。
【請求項28】
虚血性損傷からの心臓組織特異的幹細胞の細胞保護を誘導し、アポトーシス及び/又はネクローシスによる死を低下させるための、請求項12に記載の増殖因子の使用。
【請求項29】
Oct4発現幹細胞を刺激するための、請求項12に記載の増殖因子の使用。
【請求項30】
心臓組織特異的幹細胞も刺激される、請求項12に記載の増殖因子の使用。
【請求項31】
脳血管障害(卒中)の治療のための、請求項1〜19のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項32】
血流低下(虚血)又は他の組織における変性疾患の結果として引き起こされる細胞損失の治療のための、請求項1〜19のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項33】
粒子の混合集団を含む医薬組成物であって、該集団が第一の活性成分を有する粒子と、1種以上のさらに異なる活性成分を有する粒子とを混合して含む、請求項1〜19のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項1】
活性成分及び生分解性賦形剤を含有する粒子を含む、標的組織への非経口投与用医薬製剤であって、粒子の90%以上が10〜20μmの直径を有し、該製剤を標的組織の上流に投与する場合、活性成分が標的組織を通過して体循環に入る能力を制限するように、該製剤は直径50μmを超える粒子及び直径5μm未満の粒子を実質的に含まない、前記医薬製剤。
【請求項2】
直径20μmを超える粒子及び直径5μm未満の粒子を実質的に含まない、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
粒子の少なくとも90%が15〜20μmの直径を有する、請求項1又は2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
粒子の少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%が10〜20μmの直径を有する、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
粒子の少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%が15〜20μmの直径を有する、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
粒子の粒径が単分散している、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
粒子の少なくとも68%が平均粒径の+/-1μmの粒径を有する、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
粒子の少なくとも99%が平均粒径の+/-1μmの粒径を有する、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
粒子が15μmの平均粒径を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
虚血組織への非経口投与用の、請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
心臓虚血組織への非経口投与用の、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
HGF(肝細胞増殖因子);IGF(インスリン様増殖因子)例えばIGF-1;PDGF(血小板由来増殖因子)例えばPDGF-β、FGF(線維芽細胞増殖因子)例えばaFGF(FGF-1)又はbFGF(FGF-2)及びFGF-4;SDF-1(ストロマ細胞由来因子1);EGF(上皮増殖因子);VEGF(血管内皮増殖因子);エリスロポエチン(EPO);TGFβ(トランスフォーミング増殖因子β);G-CSF(顆粒球・コロニー刺激因子);GM-CSF(顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子)、骨形成タンパク質(BMP類、BMP-2、BMP-4);アクチビンA;IL-6;ニューロトロフィン、例えばNGF(神経増殖因子)、BDNF(脳由来神経栄養因子)、NT-3(ニューロトロフィン-3)、NT-4(ニューロトロフィン-4)並びにNGF、BDNF、NT-3及びNT-4と構造的に無関係なニューロトロフィン-1;TPO(トロンボポエチン);GDF-8(ミオスタチン);GDF9(増殖分化因子-9);ペリオスチン、Wint 3A又はニューレグリン(Neuroregulin)から選択される増殖因子をさらに含む、請求項11に記載の医薬製剤。
【請求項13】
HGF及び/又はIGFを含む群から選択される活性成分を含有する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
PDGF(血小板由来増殖因子)例えばPDGF-β、FGF(線維芽細胞増殖因子)例えばaFGF(FGF-1)又はbFGF(FGF-2)及びFGF-4;SDF-1(ストロマ細胞由来因子1);EGF(上皮増殖因子);VEGF(血管内皮増殖因子);エリスロポエチン(EPO);TGFβ(トランスフォーミング増殖因子β);G-CSF(顆粒球・コロニー刺激因子);GM-CSF(顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子)、骨形成タンパク質(BMP類、BMP-2、BMP-4);アクチビンA;IL-6;ニューロトロフィン、例えばNGF(神経増殖因子)、BDNF(脳由来神経栄養因子)、NT-3(ニューロトロフィン-3)、NT-4(ニューロトロフィン-4)並びにNGF、BDNF、NT-3及びNT-4と構造的に無関係なニューロトロフィン-1;TPO(トロンボポエチン);GDF-8(ミオスタチン);GDF9(増殖分化因子-9);ペリオスチン、Wint 3A又はニューレグリンをさらに含む、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
SCF-1をさらに含む、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
活性成分の濃度が粒子1 x 106個あたり1ng〜マイクロスフェア1 x 106個あたり4mgまでの範囲である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
活性成分の少なくとも30%が投与後標的組織に保持される、請求項1〜16のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項18】
活性成分の少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、例えば少なくとも80%が保持される、請求項17に記載の医薬製剤。
【請求項19】
非経口投与が動脈内投与である、請求項1〜18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
治療用の、請求項1〜19のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項21】
選択した組織又は器官を標的化するための、請求項1〜19のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項22】
器官が心臓、1若しくは複数の肺、肝臓、1若しくは複数の腎臓、膀胱、子宮、睾丸、膵臓、脾臓又は腸から選択される、請求項21に記載の医薬製剤。
【請求項23】
心臓組織に標的化するための、請求項22に記載の医薬製剤。
【請求項24】
急性又は慢性の心筋梗塞(MI)、心筋梗塞を有するか又は有していない虚血性心疾患の治療用の、請求項23に記載の医薬製剤。
【請求項25】
心臓組織の上流の循環中に、請求項1〜19のいずれか1項に記載の医薬組成物を投与するステップを含む、局所送達方法。
【請求項26】
局所送達が動脈内投与による、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
成熟心臓組織に内在する幹細胞を刺激することによる心臓組織の再生のためのHGF又はIGF-1の使用。
【請求項28】
虚血性損傷からの心臓組織特異的幹細胞の細胞保護を誘導し、アポトーシス及び/又はネクローシスによる死を低下させるための、請求項12に記載の増殖因子の使用。
【請求項29】
Oct4発現幹細胞を刺激するための、請求項12に記載の増殖因子の使用。
【請求項30】
心臓組織特異的幹細胞も刺激される、請求項12に記載の増殖因子の使用。
【請求項31】
脳血管障害(卒中)の治療のための、請求項1〜19のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項32】
血流低下(虚血)又は他の組織における変性疾患の結果として引き起こされる細胞損失の治療のための、請求項1〜19のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項33】
粒子の混合集団を含む医薬組成物であって、該集団が第一の活性成分を有する粒子と、1種以上のさらに異なる活性成分を有する粒子とを混合して含む、請求項1〜19のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【公表番号】特表2011−529946(P2011−529946A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521575(P2011−521575)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060171
【国際公開番号】WO2010/015665
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(511030482)コアセラピクス エスエルユー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060171
【国際公開番号】WO2010/015665
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(511030482)コアセラピクス エスエルユー (1)
【Fターム(参考)】
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