説明

直接アルコール型燃料電池及びその製造方法

【課題】 クロスオーバーによるセル電圧の低下を十分に抑制し、十分な出力電圧を長期間に亘って安定して得ることが可能な直接アルコール型燃料電池を提供すること。
【解決手段】 アノード触媒層2を有するアノード20と、カソード触媒層3を有するカソード30と、前記アノード20と前記カソード30との間に配置される固体高分子電解質膜1と、を備え、前記アノード20にアルコール及び水を供給することにより発電を行う直接アルコール型燃料電池であって、前記固体高分子電解質膜1がアニオン交換膜であり、前記カソード触媒層3は、触媒として銀を含むことを特徴とする直接アルコール型燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール類を直接燃料として使用する直接アルコール型燃料電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池は、発電効率が高く、反応生成物が原理的には水のみであり、環境性にも優れているエネルギー供給源として注目されている。このような燃料電池は、用いられる電解質の種類により、アルカリ型、固体高分子型、リン酸型等の低温動作燃料電池と、溶融炭酸塩型、固体酸化物型等の高温動作燃料電池とに大別される。なかでも、電解質に固体高分子を用いた固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、コンパクトな構造で高密度・高出力が得られ、かつ簡易なシステムで運転が可能なことから、定置用分散電源だけでなく車両用等の電源としても広く研究され、実用化が大いに期待されている。
【0003】
このようなPEFCの一つとして、アルコール類を直接燃料として使用する直接アルコール型燃料電池があり、特にメタノールを用いた直接メタノール型燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)が知られている。DMFCにおいては、アノード(燃料極)にメタノール及び水を供給すると、メタノールが水により酸化されて水素イオンが生じる。この水素イオンは電解質を移動してカソード(空気極)に到達し、このカソードに供給されている酸素を還元する。これらの酸化還元反応に基づいて両極間に電流が流れる。
【0004】
このように、直接アルコール型燃料電池は、燃料であるアルコールを水素等に改質することなく直接発電に用いることができることから、燃料改質用の装置を別途設ける必要がなく、シンプルな構造を有するものとなる。このため、直接アルコール型燃料電池は、小型化及び軽量化が極めて容易であり、ポータブル型電源用途等に好適に用いることができる。
【0005】
このような直接アルコール型燃料電池の高分子電解質膜としては、通常、プロトン伝導性のイオン交換膜が用いられ、特にスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなるイオン交換膜が広く用いられている。また、アノード及びカソードは、例えば、電極反応の反応場となる触媒層と、触媒層への反応物質の供給、電子の授受等を行うための拡散層との二層で構成されている。
【0006】
しかし、このような直接アルコール型燃料電池においては、アルコールを直接アノードに供給しているために以下の問題が生じることが知られている。すなわち、固体高分子電解質膜とアルコールとの高い親和性や濃度勾配によりアルコールが電解質膜に浸透してカソードに到達する、いわゆる「クロスオーバー」が発生する。ここで、カソードには酸素還元に対して活性の高い白金等が触媒として用いられるが、カソードに到達したアルコールは白金上で直ちに酸化され、アルデヒドや一酸化炭素、二酸化炭素を生成する。したがって、クロスオーバーが発生すると、カソードは酸素還元と上記のようなアルコールの酸化との混成電位になるため電位が低下し、結果としてセル電圧が低下することとなる。
【0007】
このように、クロスオーバー現象は直接アルコール型燃料電池における性能劣化の大きな原因となっている。そこで、かかるクロスオーバーを抑制するために、電解質膜に関する様々な検討がなされている。例えば、特許文献1には、電解質膜に金属酸化物を含有させることが記載されており、特許文献2には、液体燃料の透過を制限する制限透過層をカソードと固体電解質膜との間に配置することが記載されており、特許文献3には、第1の電解質層とこれよりも有機燃料の透過性が低い第2の電解質層からなる電解質膜を、第1の電解質層がアノード側となるように配置することが記載されている。これらの方法により、クロスオーバーの抑制が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−331869号公報
【特許文献2】特開2003−317742号公報
【特許文献3】特開2002−56857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜3に記載された電解質膜を用いた場合であっても、アルコールの透過を完全に防ぐことは困難である。そのため、徐々にアルコールが透過してセル電圧の低下を生じ、十分な出力電圧を長期間に亘って安定して得ることが困難となる。また、電解質膜は本来プロトンを伝導することが目的であるが、特許文献1〜3に記載されているように、電解質膜の中にプロトン伝導に寄与しない物質を混合したり、アルコールの透過を抑制する層を設けることは、プロトン伝導性を低下させる要因となり得る。
【0010】
また、クロスオーバーの発生を抑制するために、燃料においてアルコールに対する水の混合量を増やしてアルコール濃度を下げる方法も行われている。しかしながら、この場合、アルコール濃度は理論的な理想アルコール濃度の5分の1から20分の1程度となるため、十分なエネルギー密度を得ることが困難となる。
【0011】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、特に、クロスオーバーによるセル電圧の低下を十分に抑制し、十分な出力電圧を長期間に亘って安定して得ることが可能な直接アルコール型燃料電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、第1の発明に係る直接アルコール型燃料電池は、アノード触媒層を有するアノードと、カソード触媒層を有するカソードと、上記アノードと上記カソードとの間に配置される固体高分子電解質膜と、を備え、上記アノードにアルコール及び水を供給することにより発電を行う直接アルコール型燃料電池であって、上記カソード触媒層は、金属錯体及び/又は該金属錯体を焼成してなる金属錯体焼成物を触媒として含むことを特徴とするものである。
【0013】
かかる直接アルコール型燃料電池においては、カソード触媒層に含有させる触媒として金属錯体及び/又は金属錯体焼成物を用いている。従来からカソードの触媒として用いられている白金は、上述したようにアルコールを酸化させる作用が極めて強いため、クロスオーバーが生じるとセル電圧を低下させるという問題を有していた。これに対して、金属錯体及び金属錯体焼成物は、アルコールを酸化する作用が十分に弱く、クロスオーバーによりアルコールがカソードに到達した場合であっても、このアルコールに対してほとんど作用せず、カソードの電位の低下を十分に抑制することができる。したがって、第1の発明に係る直接アルコール型燃料電池によれば、クロスオーバーによるセル電圧の低下を十分に抑制することができ、十分な出力電圧を長期間に亘って安定して得ることが可能となる。また、これにより、燃料のアルコール濃度を理想アルコール濃度に近い高い濃度とすることが可能となり、燃料タンクの体積を含めた燃料電池システムのエネルギー密度を大幅に向上することができる。
【0014】
ここで、上記金属錯体は、ポルフィリン環又はフタロシアニン環を有するものであることが好ましい。
【0015】
かかる金属錯体及び該金属錯体を焼成してなる金属錯体焼成物は、アルコールに対する酸化力がより十分に弱く、且つ、酸素に対して十分な還元力を有しているため、クロスオーバーによるセル電圧の低下をより十分に抑制することができるとともに、高い出力電圧を得ることができる傾向がある。
【0016】
更に、上記金属錯体は、ポルフィリン環又はフタロシアニン環を有するとともに、Co、Fe、Ni、Cu、Mn及びVからなる群より選択される少なくとも一種の金属を中心金属とするものであることが好ましい。
【0017】
かかる金属錯体及び該金属錯体を焼成してなる金属錯体焼成物は、アルコールに対する酸化力が極めて弱く、且つ、酸素に対してより十分な還元力を有しているため、クロスオーバーによるセル電圧の低下をより十分に抑制することができるとともに、より高い出力電圧を得ることができる傾向がある。
【0018】
また、上記触媒は、上記金属錯体及び/又は上記金属錯体焼成物をカーボン材料に担持させてなる担持触媒を含むことが好ましい。カソード触媒層が、かかる担持触媒を触媒として含むことにより、反応物となる酸素を含むガスと、触媒と、電解質膜とが同時に存在する三相界面を増大させることができるため、カソードの電極反応を効率よく生じさせることができる。その結果、より高い出力電圧を得ることができる傾向がある。
【0019】
ここで、カソードの電極反応をより効率よく生じさせ、出力電圧をより向上させる観点から、上記担持触媒は、上記金属錯体を上記カーボン材料に担持させた状態で焼成してなるものであることが好ましい。
【0020】
また、第2の発明に係る直接アルコール型燃料電池は、アノード触媒層を有するアノードと、カソード触媒層を有するカソードと、上記アノードと上記カソードとの間に配置される固体高分子電解質膜と、を備え、上記アノードにアルコール及び水を供給することにより発電を行う直接アルコール型燃料電池であって、上記固体高分子電解質膜がアニオン交換膜であり、上記カソード触媒層は、触媒として銀を含むことを特徴とするものである。
【0021】
かかる直接アルコール型燃料電池においては、カソード触媒層に含有させる触媒として銀を用いている。銀は上記の金属錯体や金属錯体焼成物と同様に、アルコールを酸化する作用が十分に弱く、クロスオーバーによりアルコールがカソードに到達した場合であっても、このアルコールに対してほとんど作用せず、カソードの電位の低下を十分に抑制することができる。更に、第2の発明に係る燃料電池においては、電解質膜としてアニオン交換膜を用いている。一般的に、燃料電池の電解質膜にはカチオン交換膜が用いられるが、カチオン交換膜と銀触媒とを組み合わせて用いると、カチオン交換膜と銀との接触界面において銀の腐食が生じやすく、触媒活性が低下して出力電圧が低下するという問題が生じる。これに対して、本発明のようにアニオン交換膜と銀触媒とを組み合わせて用いると、銀の腐食を十分に抑制することができる。すなわち、第2の発明に係る直接アルコール型燃料電池によれば、クロスオーバーによるセル電圧の低下を十分に抑制することができ、且つ、触媒活性の低下を十分に抑制することができ、それにより十分な出力電圧を長期間に亘って安定して得ることが可能となる。また、燃料のアルコール濃度を理想アルコール濃度に近い高い濃度とすることが可能となり、燃料タンクの体積を含めた燃料電池システムのエネルギー密度を大幅に向上することができる。更に、アニオン交換膜と銀触媒とを組み合わせて用いることにより、カソードにおける過電圧を十分に低減することが可能となり、エネルギー密度を更に向上させることができる。
【0022】
ここで、上記触媒は、上記銀をカーボン材料に担持させてなる担持触媒を含むことが好ましい。カソード触媒層が、かかる担持触媒を触媒として含むことにより、反応物となる酸素を含むガスと、触媒と、電解質膜とが同時に存在する三相界面を増大させることができるため、カソードの電極反応を効率よく生じさせることができる。その結果、より高い出力電圧を得ることができる傾向がある。
【0023】
また、第1の発明に係る直接アルコール型燃料電池において、上記固体高分子電解質膜がアニオン交換膜であることが好ましい。
【0024】
第1の発明に係る燃料電池においても、電解質膜にアニオン交換膜を用いることにより、金属錯体及び金属錯体焼成物の腐食を十分に抑制することができ、触媒の安定性を向上させることができる。これにより、より十分な出力電圧を長期間に亘って安定して得ることができる傾向がある。更に、アニオン交換膜と金属錯体及び/又は金属錯体焼成物とを組み合わせて用いることにより、カソードにおける過電圧を十分に低減することが可能となり、エネルギー密度を更に向上させることができる傾向がある。
【0025】
また、第1及び第2の発明に係る直接アルコール型燃料電池において、上記アニオン交換膜は、分子内にカチオン基を有する高分子化合物からなるものであることが好ましい。
【0026】
かかるアニオン交換膜を用いることにより、カソード触媒層中の金属錯体及び/又は金属錯体焼成物や銀の腐食をより十分に抑制することができるとともに、カソードにおける過電圧をより十分に低減することができる傾向がある。
【0027】
また、上記カチオン基が、ピリジニウム基、アルキルアンモニウム基及びイミダゾリウム基からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0028】
かかるカチオン基を有するアニオン交換膜を用いることにより、カソード触媒層中の金属錯体及び/又は金属錯体焼成物や銀の腐食を更に十分に抑制することができるとともに、カソードにおける過電圧を更に十分に低減することができる傾向がある。
【0029】
また、第1及び第2の発明に係る直接アルコール型燃料電池において、電解質膜としてアニオン交換膜を用いるとともに、上記カソード触媒層は、バインダーとしてアニオン交換樹脂を含むことが好ましい。
【0030】
カソード触媒層がバインダーとしてアニオン交換樹脂を含むことにより、当該バインダーと触媒とアニオン交換膜との接触界面において、アニオン伝導が良好に行われることとなり、エネルギー密度を向上させることが可能となる傾向がある。
【0031】
更に、第1及び第2の発明に係る直接アルコール型燃料電池において、上記アルコールが、メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセリン及びエリトリトールからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0032】
これらのアルコールを燃料として用いることにより、燃料電池のエネルギー密度の向上が容易となる傾向がある。
【0033】
本発明はまた、アノード触媒層を有するアノードと、カソード触媒層を有するカソードと、上記アノードと上記カソードとの間に配置される固体高分子電解質膜と、を備え、上記アノードにアルコール及び水を供給することにより発電を行う直接アルコール型燃料電池の製造方法であって、上記カソード触媒層を、金属錯体及び/又は該金属錯体を焼成してなる金属錯体焼成物を用いて形成する工程と、上記固体高分子電解質膜を、プラズマ重合により形成する工程と、を含むことを特徴とする直接アルコール型燃料電池の製造方法を提供する。
【0034】
かかる製造方法によれば、上述した第1の発明に係る直接アルコール型燃料電池を効率的に製造することができる。特に、上記固体高分子電解質膜をプラズマ重合により形成することにより、電解質膜の薄膜化が可能になり、電解質膜の抵抗を減らすことができる。また、従来のカチオン交換膜やアニオン交換膜の表面にプラズマ重合を行って固体高分子電解質膜を形成することも可能であり、これによりアルコール透過特性を改善し、クロスオーバーの発生を抑制することができる。
【0035】
本発明は更に、アノード触媒層を有するアノードと、カソード触媒層を有するカソードと、上記アノードと上記カソードとの間に配置される固体高分子電解質膜と、を備え、上記アノードにアルコール及び水を供給することにより発電を行う直接アルコール型燃料電池の製造方法であって、上記カソード触媒層を、銀を用いて形成する工程と、プラズマ重合によりアニオン交換膜を形成し、上記アニオン交換膜で構成される上記固体高分子電解質膜を得る工程と、を含むことを特徴とする直接アルコール型燃料電池の製造方法を提供する。
【0036】
かかる製造方法によれば、上述した第2の発明に係る直接アルコール型燃料電池を効率的に製造することができる。特に、上記固体高分子電解質膜をプラズマ重合により形成することにより、電解質膜の薄膜化が可能になり、電解質膜の抵抗を減らすことができる。また、従来のアニオン交換膜の表面にプラズマ重合を行って固体高分子電解質膜を形成することも可能であり、これによりアルコール透過特性を改善し、クロスオーバーの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、クロスオーバーによるセル電圧の低下を十分に抑制し、十分な出力電圧を長期間に亘って安定して得ることが可能な直接アルコール型燃料電池を提供することができる。また、かかる直接アルコール型燃料電池を効率的に製造することが可能な直接アルコール型燃料電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の直接アルコール型燃料電池の好適な一実施形態の基本構成を示す模式断面図である。
【図2】実施例1の直接アルコール型燃料電池に対してセル発電試験を行った際の電流密度と電圧との関係を示すグラフである。
【図3】実施例1の直接アルコール型燃料電池に対してセル発電試験を行った際の電流密度と出力密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0040】
図1は、本発明の直接アルコール型燃料電池の好適な一実施形態の基本構成を示す模式断面図である。図1に示す直接アルコール型燃料電池10(以下、単に「燃料電池10」という)は、いわゆる膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)の形態を有している。図1に示す燃料電池10は、主として、固体高分子電解質膜1と、この電解質膜1の膜面に密着したアノード触媒層2及びカソード触媒層3と、アノード触媒層2の外側の面に密着した燃料拡散層4と、カソード触媒層3の外側の面に密着したガス拡散層5と、シール体8とにより構成されている。
【0041】
燃料電池10においては、アノード20はアノード触媒層2と燃料拡散層4とから構成され、カソード30は、カソード触媒層3とガス拡散層5とから構成されている。これらのアノード20及びカソード30における燃料拡散層4及びガス拡散層5は、通常多孔性の導電性基材からなる。各拡散層4及び5は、燃料電池10において必須の構成ではないが、アノード触媒層2への燃料の拡散及びカソード触媒層3へのガスの拡散を促進し、集電体の機能も同時に有することから、アノード20及びカソード30にはこれら各拡散層4及び5が設けられていることが好ましい。
【0042】
燃料電池10において、アノード20の外側には燃料の流路となる溝6aが形成されたセパレータ6が配置されており、カソード30の外側にはガスの流路となる溝7aが形成されたセパレータ7が配置されている。そして、アノード20側には、セパレータ6の溝6aを通して、メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセリン及びエリトリトール等のアルコール類が燃料として直接供給され、カソード30側には、セパレータ7の溝7aを通して、酸素や空気が供給される。
【0043】
本発明の燃料電池10は、直接アルコール型の燃料電池において、カソード触媒層3を構成する触媒として金属錯体及び/又は金属錯体焼成物、或いは、銀を用いたことを主な特徴とするものである。まず、このカソード触媒層3について説明する。
【0044】
カソード触媒層3は、触媒として金属錯体を焼成してなる金属錯体及び/又は金属錯体焼成物、或いは、銀を含むものであればその他の構成は特に制限されないが、例えば、上記金属錯体及び/又は金属錯体焼成物、或いは、銀をカーボン材料に担持した担持触媒と、イオン交換樹脂とを含む構成を有している。
【0045】
触媒として金属錯体及び/又は該金属錯体を焼成してなる金属錯体焼成物を用いる場合、上記金属錯体としては、例えば、鉄フタロシアニン、コバルトフタロシアニン、銅フタロシアニン、マンガンフタロシアニン、亜鉛フタロシアニン等の金属フタロシアニン、鉄テトラフェニルポルフィリン、銅テトラフェニルポルフィリン、亜鉛テトラフェニルポルフィリン、コバルトテトラフェニルポルフィリン等の金属ポリフィリン、ルテニウムアンミン錯体、コバルトアンミン錯体、コバルトエチレンジアミン錯体等の金属錯体等が挙げられる。金属錯体焼成物を用いる場合には、これらの金属錯体を焼成することにより、上記金属錯体焼成物を得ることができる。
【0046】
これらの中でも、金属錯体としては、ポルフィリン環又はフタロシアニン環を有するものであることが好ましく、更に、Co、Fe、Ni、Cu、Mn及びVからなる群より選択される少なくとも一種の金属を中心金属とするものであることがより好ましい。また、金属錯体焼成物としては、ポルフィリン環又はフタロシアニン環を有する金属錯体を焼成してなるものであることが好ましく、更に、Co、Fe、Ni、Cu、Mn及びVからなる群より選択される少なくとも一種の金属を中心金属とする金属錯体を焼成してなるものであることがより好ましい。
【0047】
これらの金属錯体及びそれを焼成してなる金属錯体焼成物は、アルコールに対する酸化力が極めて弱く、且つ、酸素に対して十分な還元力を有しているため、クロスオーバーによるセル電圧の低下を十分に抑制することができるとともに、高い出力電圧を得ることができる傾向がある。
【0048】
ここで、金属錯体焼成物を得る場合、金属錯体の焼成は、500〜800℃の不活性雰囲気中で1〜20時間処理することにより行うことができる。
【0049】
焼成は、金属錯体単独で行ってもよいが、金属錯体をカーボン材料に担持させた状態で行うことが好ましい。これにより、金属錯体及び/又は金属錯体焼成物が高分散状態でカーボン材料に密着した担持触媒を得ることが可能となる傾向がある。このような担持触媒を用いると、反応物となる酸素を含むガスと、触媒と、電解質膜1とが同時に存在する三相界面を増大させることができるため、カソードの電極反応を効率よく生じさせることができる。
【0050】
また、金属錯体及び/又は金属錯体焼成物や銀の担体となるカーボン材料としては、例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等が挙げられる。これらの中でもカーボンブラックが好ましい。カーボン材料としてカーボンブラックを用いる場合、その比表面積は50〜1000m/gであることが、より大きな三相界面を形成する観点から好ましい。
【0051】
更に、担持触媒において、カーボン材料の平均一次粒子径は10〜100nmであることが好ましく、金属錯体及び金属錯体焼成物の平均一次粒子径は10〜500nmであることが好ましい。これにより、より大きな三相界面を形成することができる。
【0052】
なお、カソード触媒層3における触媒として銀を用いる場合には、焼成を行うことなく上記カーボン材料に担持させた状態で担持触媒として用いることができる。このときの銀の平均粒子径は1〜20nmであることが好ましく、これにより、より大きな三相界面を形成することができる。
【0053】
カーボン材料に銀を担持させた担持触媒を用いる場合、銀の担持量は、担持触媒全量を基準として10〜80質量%であることが好ましい。担持量が10質量%未満であると、触媒層中の触媒の量が不十分となり三相界面を十分に確保できなくなる傾向にある。一方、担持量が80質量%を超えると、銀同士の凝集が生じ、触媒としての活性が低下する傾向にある。また、カーボン材料に金属錯体及び/又は金属錯体焼成物を担持させた担持触媒を用いる場合、金属錯体及び/又は金属錯体焼成物の担持量は、担持触媒全量を基準として金属錯体及び金属錯体焼成物の中心金属の全質量が1〜10質量%であることが好ましい。担持量(金属錯体及び金属錯体焼成物の中心金属の全質量)が1質量%未満であると、触媒層中の触媒の量が不十分となり三相界面を十分に確保できなくなる傾向にある。一方、担持量(金属錯体及び金属錯体焼成物の中心金属の全質量)が10質量%を超えると、炭素材料の割合が減少することから十分な導電性の確保が困難になる傾向にある。
【0054】
カソード触媒層3に含有されるイオン交換樹脂は、上記担持触媒を結着させるバインダーとして機能するものである。かかるイオン交換樹脂としては、上記担持触媒を結着させることが可能なものであれば特に制限されないが、燃料電池10を構成する電解質膜1に使用するイオン交換樹脂と同じイオン交換性を有するものであることが好ましい。すなわち、触媒として銀を用いる場合には、電解質膜1はアニオン交換樹脂により形成されているため、上記イオン交換樹脂もアニオン交換樹脂であることが好ましい。また、触媒として金属錯体及び/又は金属錯体焼成物を用いる場合には、上記イオン交換樹脂としては、電解質膜1がアニオン交換樹脂により形成されていればアニオン交換樹脂、電解質膜1がカチオン交換樹脂により形成されていればカチオン交換樹脂を用いることが好ましい。これにより、当該イオン交換樹脂と触媒と電解質膜1との接触界面において、イオン伝導が良好に行われることとなり、エネルギー密度を向上させることが可能となる傾向がある。なお、触媒として金属錯体及び/又は金属錯体焼成物を用いる場合においても、電解質膜1にはアニオン交換樹脂を用いることが好ましいため、本発明において上記イオン交換樹脂はアニオン交換樹脂であることが好ましい。
【0055】
上記アニオン交換樹脂としては、分子内にカチオン基を有する高分子化合物からなるものが好ましい。また、上記カチオン基は、ピリジニウム基、アルキルアンモニウム基及びイミダゾリウム基からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。このようなアニオン交換樹脂としては、例えば、4級アンモニウム化処理したポリ−4−ビニルピリジン、ポリ−2−ビニルピリジン、ポリ−2−メチル−5−ビニルピリジン、ポリ−1−ピリジン−4−イルカルボニロキシエチレン等が挙げられる。ここで、ポリ−4−ビニルピリジンの4級アンモニウム化処理は、ポリ−4−ビニルピリジンを、臭化メチル、臭化エチル等のアルキルハライドと反応させることによって行うことができる。
【0056】
また、上記カチオン交換樹脂としては、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体、ポリサルホン樹脂、ホスホン酸基又はカルボン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体等を用いることができる。
【0057】
また、かかるイオン交換樹脂の含有量は、カソード触媒層3全量を基準として10〜50質量%であることが好ましい。含有量が10質量%未満であると、触媒をイオン交換樹脂で薄く均一に被うことが困難となる傾向にあり、50質量%を超えると、イオン交換樹脂により触媒が厚く被われてしまうためにガスの拡散が困難になり、出力特性が低下する傾向にある。
【0058】
燃料電池10において、カソード触媒層3が上述の材料により構成されていることにより、クロスオーバーによりアルコールがカソード30に到達した場合であっても、このアルコールを酸化する作用が十分に弱いため、カソード30の電位の低下を十分に抑制することができる。したがって、クロスオーバーによるセル電圧の低下を十分に抑制することができ、十分な出力電圧を長期間に亘って安定して得ることが可能となる。
【0059】
また、かかるカソード触媒層3の厚さは、10〜300μmであることが好ましい。厚さが10μm未満であると、触媒の量が不足する傾向にある。また、厚さが300μmを越えると、イオンの移動やガスの拡散を妨げ、抵抗が増大して出力特性が低下する傾向にある。
【0060】
カソード30は、カソード触媒層3へのガスの拡散を促進するために、ガス拡散層5を有している。かかるガス拡散層5の構成材料としては、例えば、電子伝導性を有する多孔質体が挙げられる。このような多孔質体としては、カーボンクロス、カーボンペーパー等が好ましい。
【0061】
かかるガス拡散層5の厚さは、10〜300μmであることが好ましい。厚さが10μm未満であると、撥水とガスの拡散が不十分となる傾向にあり、300μmを越えると、セルの体積が増大してエネルギー密度が低下する傾向にある。
【0062】
次に、アノード20について説明する。アノード20は、アノード触媒層2と燃料拡散層4とで構成されている。
【0063】
アノード触媒層2は、例えば、触媒をカーボン材料に担持した担持触媒と、イオン交換樹脂とを含む構成を有している。
【0064】
上記触媒としては、例えば、貴金属や貴金属合金等が挙げられる。貴金属としてはPtが好ましく、貴金属合金としては、Ptと、Ru、Sn、Mo、Ni、Co等との合金が好ましい。これらの中でも、触媒の被毒が生じにくいPt−Ruの貴金属合金を用いることが好ましい。
【0065】
アノード触媒層2を構成するカーボン材料及びイオン交換樹脂としては、カソード触媒層3に使用される材料と同様のものが使用可能である。
【0066】
アノード触媒層2において、カーボン材料に対する触媒の担持量は、担持触媒全量を基準として10〜85質量%であることが好ましい。担持量が10質量%未満であると、触媒層中の触媒の量が不十分となり三相界面を十分に確保できなくなる傾向にある。一方、担持量が85質量%を超えると、触媒同士の凝集が生じ、触媒としての活性が低下する傾向にある。
【0067】
また、アノード触媒層2において、イオン交換樹脂の含有量は、アノード触媒層2全量を基準として10〜50質量%であることが好ましい。含有量が10質量%未満であると、触媒をイオン交換樹脂で薄く均一に被うことが困難となる傾向にあり、50質量%を超えると、イオン交換樹脂により触媒が厚く被われしまうためにガスの拡散が困難になり、出力特性が低下する傾向にある。
【0068】
更に、アノード触媒層2の厚さは、10〜300μmであることが好ましい。厚さが10μm未満であると、触媒の量が不足する傾向にある。また、厚さが300μmを超えると、イオンの移動やガスの拡散を妨げ、抵抗が増大して出力特性が低下する傾向にある。
【0069】
また、燃料拡散層4の構成材料としては、ガス拡散層5に使用される材料と同様のものが使用可能である。
【0070】
かかる燃料拡散層4の厚さは、10〜300μmであることが好ましい。厚さが10μm未満であると、ガスの拡散が不十分となる傾向にあり、300μmを超えると、セルの体積が増大してエネルギー密度が低下する傾向にある。
【0071】
次に、アノード20とカソード30との間に配置される電解質膜1について説明する。
【0072】
カソード触媒層3に含有させる触媒として銀を用いる場合、電解質膜1としてはアニオン交換膜が用いられる。かかるアニオン交換膜の構成材料としては、分子内にカチオン基を有する高分子化合物が好ましく、例えば、上記カソード触媒層3に使用されるアニオン交換樹脂と同様のものが挙げられる。なお、電解質膜1を構成する高分子化合物としては、通常、上記カソード触媒層3に使用されるアニオン交換樹脂よりも分子量の大きいものが用いられる。
【0073】
燃料電池10において、カソード触媒層3に含有される触媒として銀を用いるとともに、電解質膜1としてアニオン交換膜を用いることにより、銀の腐食を十分に抑制することができる。これにより、銀の触媒活性の低下を十分に抑制することができ、十分な出力電圧を長期間に亘って安定して得ることが可能となる。更に、アニオン交換膜と銀触媒とを組み合わせて用いることにより、カソード30における過電圧を十分に低減することが可能となり、エネルギー密度を向上させることができる。
【0074】
カソード触媒層3中に含有させる触媒として金属錯体及び/又は金属錯体焼成物を用いる場合、電解質膜1としては上記アニオン交換膜以外にカチオン交換膜も使用可能である。カチオン交換膜の構成材料としは、上記カソード触媒層3に使用されるカチオン交換樹脂と同様のものが挙げられる。なお、触媒として金属錯体及び/又は金属錯体焼成物を用いた場合にも、電解質膜1としてはアニオン交換膜を用いることが好ましい。アニオン交換膜を用いることにより、金属錯体及び金属錯体焼成物の腐食を十分に抑制することができ、触媒の安定性を向上させることができる。そのため、より十分な出力電圧を長期間に亘って安定して得ることができる傾向がある。更に、アニオン交換膜と金属錯体及び/又は金属錯体焼成物触媒とを組み合わせて用いることにより、カソード30における過電圧を十分に低減することが可能となり、エネルギー密度を向上させることができる傾向がある。
【0075】
かかる電解質膜1の厚さは、20〜250μmであることが好ましい。厚さが20μm未満であると、機械的強度が不十分となる傾向にあり、250μmを超えると、電解質膜の抵抗が大きくなるため出力が低下する傾向にある。
【0076】
次に、セパレータ6及び7について説明する。燃料電池10においては、アノード20の外側に、燃料の流路となる溝6aが形成されたセパレータ6が配置されており、カソード30の外側に、ガスの流路となる溝7aが形成されたセパレータ7が配置されている。
【0077】
セパレータ6及び7は、電子伝導性を有する材料で形成されており、かかる材料としては、例えば、カーボン、樹脂モールドカーボン、チタン、ステンレス等が挙げられる。
【0078】
上述した構成を有する燃料電池10は、カソード触媒層3に使用する触媒の種類に応じて、以下の方法により製造される。
【0079】
まず、金属錯体焼成物を触媒とする場合の燃料電池10の製造方法について説明する。
【0080】
はじめに、カソード触媒層3を形成するために、金属錯体とカーボン材料とをボールミル等によって混合して混合物を得る。混合方法は適宜選択することができ、乾式であっても湿式であってもよい。このとき、金属錯体の配合量は、その中心金属の質量が金属錯体とカーボン材料との合計質量を基準として0.1〜10質量%となるようにすることが好ましく、1〜6質量%となるようにすることがより好ましい。0.1質量%未満では中心金属の割合が少なすぎるために触媒活性点が減少する傾向があり、10質量%を超えると相対的にカーボン材料の割合が少なくなり、担持触媒を形成したときの導電性が不十分となる傾向がある。
【0081】
次に、得られた混合物を500℃〜800℃の不活性雰囲気で1〜20時間程度焼成し、金属錯体焼成物をカーボン材料に担持してなる担持触媒を得る。
【0082】
次に、バインダーとしてのイオン交換樹脂を溶媒に溶解させたバインダー溶液を調製し、この溶液中に担持触媒を入れて混合、混練し、塗料化する。ここで、混錬、塗料化はボールミルや2軸混錬機、2軸押し出し機等、通常用いられる混錬機により行うことができる。
【0083】
そして、得られた塗料をカーボンペーパーやPETフィルム、PTFEフィルム等の基材に塗布、乾燥することによってカソード触媒層3を作製する。ここで、塗布の方法としてはドクターブレード法やノズル法、スクリーン印刷やグラビアコート、ダイコーター等を採用することができる。
【0084】
また、アノード触媒層2を作製するために、貴金属や貴金属合金等の触媒とカーボン材料とをボールミル等によって混合し、触媒をカーボン材料に担持してなる担持触媒を得る。混合方法は、乾式であっても湿式であってもよい。
【0085】
次に、バインダーとしてのイオン交換樹脂を溶媒に溶解させたバインダー溶液を調製し、この溶液中に担持触媒を入れて混合、混練し、塗料化する。ここで、混錬、塗料化は、ボールミルや2軸混錬機、2軸押し出し機等、通常用いられる混錬機により行うことができる。また、バインダーとしては、上記カソード触媒層に使用したものと同じイオン交換樹脂を用いることが好ましい。
【0086】
そして、得られた塗料をカーボンペーパーやPETフィルム、PTFEフィルム等の基材に塗布、乾燥することによってアノード触媒層2を作製する。ここで、塗布の方法としてはドクターブレード法やノズル法、スクリーン印刷やグラビアコート、ダイコーター等を採用することができる。
【0087】
一方、電解質膜1は、プラズマ重合により形成する。具体的には、電解質膜1を形成するためのモノマー及びプラズマアシストガスをチャンバーに導入し、交流電圧を電極間に印加することによりプラズマを発生させる。そして、プラズマによりイオン化されたモノマー同士が重合し、基板上に堆積することにより薄膜状の電解質膜1が形成される。
【0088】
また、従来の電解質膜(カチオン交換膜やアニオン交換膜等、以下、「ベース膜」という)の表面にプラズマ重合を行って、電解質膜1を形成することもできる。この場合には、予めプラズマによりベース膜を活性化し、イオン化されたベース膜表面にモノマーを重合させる。このようにして得られた電解質膜1によれば、アルコールの透過を抑制することができ、セル電圧の低下をより十分に抑制することができる。
【0089】
その後、カソード触媒層3及びアノード触媒層2をそれぞれ基材から電解質膜1に転写する。転写は、ホットプレス等により電解質膜1に各触媒層2及び3を接合し、その後基材を剥離する方法等により行うことができる。更に、これを燃料拡散層4及びガス拡散層5で挟み込むことで、アノード20、カソード30及び電解質膜1からなる積層体を作製する。
【0090】
なお、カソード触媒層3をガス拡散層5に、アノード触媒層2を燃料拡散層4にそれぞれ転写し、アノード20及びカソード30を形成した後に、これらで電解質膜1を挟み込むことによって上記積層体を作製してもよい。更に、カソード触媒層3及びアノード触媒層2を形成するための塗料を基材に塗布することなく、それぞれ直接、ガス拡散層5、燃料拡散層4に塗布してアノード20及びカソード30を形成してもよい。あるいは、電解質膜1に各触媒層2及び3を形成するための塗料を直接塗布することにより、上記積層体を作製してもよい。
【0091】
このようにして得られた積層体を、燃料供給溝6aが形成されたセパレータ6及びガス供給溝7aが形成されたセパレータ7で挟み込み、シール体8で封止して、燃料電池(膜電極接合体)10の作製を完了する。
【0092】
また、金属錯体を触媒とする場合の燃料電池10は、担持触媒を得る際に焼成を行わない以外は上記の金属錯体焼成物を触媒とする場合と同様の方法で作製することができる。
【0093】
また、銀を触媒とする場合の燃料電池10は、カソード触媒層3を以下の手順で作製する以外は上記の金属錯体焼成物を触媒とする場合と同様の方法で作製することができる。
【0094】
まず、銀をカーボン材料に担持させた担持触媒を得る。担持触媒である銀担持カーボンの作製方法としては、例えば、化学還元法、気相還元法、還元熱分解法、スパッタリング法等を適用することができる。また、銀とカーボン材料とをボールミル等によって混合することで作製してもよい。この混合方法も適宜選択することができ、乾式であっても湿式であってもよい。
【0095】
次に、バインダーとしてのイオン交換樹脂を溶媒に溶解させたバインダー溶液を調製し、この溶液中に担持触媒を入れて混合、混練し、塗料化する。ここで、混錬、塗料化はボールミルや2軸混錬機、2軸押し出し機等、通常用いられる混錬機により行うことができる。
【0096】
そして、得られた塗料をカーボンペーパーやPETフィルム、PTFEフィルム等の基材に塗布、乾燥することによってカソード触媒層3の作製を完了する。ここで、塗布の方法としてはドクターブレード法やノズル法、スクリーン印刷やグラビアコート、ダイコーター等を採用することができる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0098】
[製造例1]
(電極の作製)
5,10,15,20−テトラフェニルポルフィリナトコバルト(II)(TPPCo:アルドリッチ社製)0.8gとカーボンブラック(商品名:デンカブラック、電気化学工業社製)0.6gとをボールミルによって混合し、得られた混合物を600℃のアルゴン雰囲気で3時間焼成して焼成物を得た。この焼成物を20mg秤量し、5質量%ナフィオン(登録商標)溶液(アルドリッチ社製)0.18mlとエタノール0.82mlとの混合溶液に懸濁させた。次いで、得られた懸濁液10μlをグラッシーカーボン製の6mmφディスク電極に滴下して均一な塗膜を形成し、これを25℃で12時間乾燥して電極を作製した。
【0099】
(電極の評価)
上記のように作製した電極を作用極として用い、対極には白金、参照極には可逆水素電極(RHE)を用い、電解液には酸素飽和させた0.5M硫酸(HSO)水溶液と、酸素飽和させた1M水酸化カリウム(KOH)水溶液とを用いて、それぞれ0.9Vから0.05Vまで50mV間隔で電位ステップし、各電位で500秒間保持した後の電流値を読み取り、定常分極として酸素還元電流密度を測定した。それぞれの電解液について上記の測定を行った後に、各々の電解液200ml中に1Mのメタノール水溶液を5.28ml追加して同様の測定を行った。0.8Vでの酸素還元電流密度の値を表1に示す。
【0100】
[製造例2]
(電極の作製)
5,10,15,20−テトラフェニルポルフィリン鉄(II)塩化物(TPPFeCl:アルドリッチ社製)23mgをジメチルスルフォキシド(DMSO)3mlに溶解して塗布液を調製した。この塗布液10μlを、グラッシーカーボン製の6mmφディスク電極に滴下して均一な塗膜を形成し、これを25℃で12時間乾燥することにより電極を作製した。
【0101】
(電極の評価)
上記のように作製した電極を作用極として用い、対極には白金、参照極には可逆水素電極(RHE)を用い、電解液には酸素飽和させた1M水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いて、0.9Vから0.05Vまで50mV間隔で電位ステップし、各電位で500秒間保持した後の電流値を読み取り、定常分極として酸素還元電流密度を測定した。1M水酸化カリウム水溶液を電解液として測定した後に、この1M水酸化カリウム水溶液200mlに1Mのメタノール水溶液5.28mlを追加して同様の測定を行った。0.8Vでの酸素還元電流密度の値を表1に示す。
【0102】
[製造例3]
(電極の作製)
銀担持カーボン(銀担持カーボン全量を基準とした銀の担持量:20質量%)5mgをエタノール0.33mlに溶解して塗布液を調製した。この塗布液10μlを、グラッシーカーボン製の6mmφディスク電極に滴下して均一な塗膜を形成し、これを25℃で12時間乾燥することにより電極を作製した。
【0103】
(電極の評価)
上記のように作製した電極を作用極として用いた以外は製造例2と同様の方法で電極の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0104】
[製造例4]
(電極の作製及び評価)
5,10,15,20−テトラフェニルポルフィリン鉄(II)塩化物(TPPFeCl:アルドリッチ社製)23mgの代わりに、5,10,15,20−テトラフェニルポルフィリナトコバルト(II)23mgを用いた以外は製造例2と同様にして電極を得た。この電極を作用極として用いた以外は製造例2と同様の方法で電極の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0105】
[製造例5]
(電極の作製及び評価)
5,10,15,20−テトラフェニルポルフィリン鉄(II)塩化物(TPPFeCl:アルドリッチ社製)23mgの代わりに、ニッケル(II)フタロシアニン23mgを用いた以外は製造例2と同様にして電極を得た。この電極を作用極として用いた以外は製造例2と同様の方法で電極の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0106】
[比較製造例1]
(電極の作製及び評価)
6mmφの白金ディスク電極を用意し、これを電極とした。この電極を作用極として用いた以外は製造例1と同様の方法で電極の評価を行った。なお、電解液には酸素飽和させた0.5M硫酸(HSO)水溶液を用いた。その結果を表1に示す。
【0107】
[比較製造例2]
(電極の作製及び評価)
5,10,15,20−テトラフェニルポルフィリナトコバルト(II)を使用せず、カーボンブラックを単独で焼成したものを焼成物として用いた以外は製造例1と同様にして電極を得た。この電極を作用極として用いた以外は製造例1と同様の方法で電極の評価を行った。なお、電解液には酸素飽和させた0.5M硫酸(HSO)水溶液を用いた。その結果を表1に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
表1に示すように、製造例1〜5はメタノールを添加した後も酸素還元電流が流れているが、比較製造例1〜2はメタノール添加後には逆に酸化電流が流れている。従って、製造例1〜5は直接アルコール型燃料電池のカソードとしての特性が得られるが、比較製造例1〜2はカソードとして機能して発電することが困難であることが確認された。
【0110】
直接メタノール型燃料電池ではアノードから透過したメタノールがカソードに達し、カソードの酸素還元電流が減少することが問題になる。製造例1〜5のようにメタノールによる電流減少の割合が少ない(又は電流減少のない)、メタノール耐性の高い電極を用いることによって、直接アルコール型燃料電池の出力低下を防ぐことができる。したがって、製造例1〜5の電極を用いることで、クロスオーバーの問題を解決し、十分なエネルギー密度を有する直接アルコール型燃料電池を提供することができる。
【0111】
[実施例1]
(燃料電池の作製)
銀担持カーボン(銀担持カーボン全量を基準とした銀の担持量:20質量%)と、8質量%4級化ポリビニルピリジン(アルドリッチ社製)/メタノール溶液と、水と、2−プロパノールとを、銀担持カーボン:4級化ポリビニルピリジン/メタノール溶液:水:2−プロパノールが質量比で1:4:1:5となるように配合し、ボールミルにより混合してカソード触媒層形成用塗布液を調製した。
【0112】
次に、得られた塗布液を、PETフィルム上にバーコーターを用いて塗布した。このとき、形成されるカソード触媒層に含まれるAg元素の含有量が0.4mg/cmとなるように塗布量を調節した。塗布後、25℃で3時間乾燥することにより、カソード触媒層を形成した。
【0113】
PETフィルム上に形成したカソード触媒層を、電解質膜としてのAHA(商品名、トクヤマ社製)の表面に、16kgf/cmの圧力、130℃の温度で転写した。また、アノード触媒層にはPt−Ruを担持した触媒層を用い、ガス拡散層には120μmの厚さのカーボンペーパーを用いて、図1に示した構成を有するセルを作製した。
【0114】
(燃料電池の評価1)
上記実施例1の直接アルコール型燃料電池において、アノードには、1M水酸化カリウム水溶液に対して1Mのメタノールを混合した燃料を供給した。また、カソードには、50℃加湿酸素を供給した。セルを50℃に保ち、定電流でセル発電試験を行った。このときの電流密度と電圧との関係を図2に、電流密度と出力密度との関係を図3にそれぞれ示す。
【0115】
(燃料電池の評価2)
アノードに、1M水酸化カリウム水溶液に対して3Mのエチレングリコールを混合した燃料を供給した以外は上記評価1と同様にして、セル発電試験を行った。このときの電流密度と電圧との関係を図2に、電流密度と出力密度との関係を図3にそれぞれ示す。
【0116】
図2及び3に示した結果から明らかなように、実施例1の直接アルコール型燃料電池によれば、十分なセル電圧及び出力密度が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0117】
以上説明したように、本発明によれば、クロスオーバーによるセル電圧の低下を十分に抑制し、十分な出力電圧を長期間に亘って安定して得ることが可能な直接アルコール型燃料電池を提供することができる。また、かかる直接アルコール型燃料電池を効率的に製造することが可能な直接アルコール型燃料電池の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0118】
1…固体高分子電解質膜、2…アノード触媒層、3…カソード触媒層、4…燃料拡散層、5…ガス拡散層、6,7…セパレータ、6a…セパレータ6の燃料供給溝、7a…セパレータ7のガス供給溝、8…シール体、10…直接アルコール型燃料電池。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード触媒層を有するアノードと、カソード触媒層を有するカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置される固体高分子電解質膜と、を備え、前記アノードにアルコール及び水を供給することにより発電を行う直接アルコール型燃料電池であって、
前記固体高分子電解質膜がアニオン交換膜であり、
前記カソード触媒層は、触媒として銀を含むことを特徴とする直接アルコール型燃料電池。
【請求項2】
前記触媒は、前記銀をカーボン材料に担持させてなる担持触媒を含むことを特徴とする請求項1記載の直接アルコール型燃料電池。
【請求項3】
前記アニオン交換膜は、分子内にカチオン基を有する高分子化合物からなるものであることを特徴とする請求項1又は2記載の直接アルコール型燃料電池。
【請求項4】
前記カチオン基が、ピリジニウム基、アルキルアンモニウム基及びイミダゾリウム基からなる群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項3記載の直接アルコール型燃料電池。
【請求項5】
前記カソード触媒層は、バインダーとしてアニオン交換樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の直接アルコール型燃料電池。
【請求項6】
前記アルコールが、メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセリン及びエリトリトールからなる群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の直接アルコール型燃料電池。
【請求項7】
アノード触媒層を有するアノードと、カソード触媒層を有するカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置される固体高分子電解質膜と、を備え、前記アノードにアルコール及び水を供給することにより発電を行う直接アルコール型燃料電池の製造方法であって、
前記カソード触媒層を、銀を用いて形成する工程と、
プラズマ重合によりアニオン交換膜を形成し、前記アニオン交換膜で構成される前記固体高分子電解質膜を得る工程と、
を含むことを特徴とする直接アルコール型燃料電池の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−84536(P2012−84536A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−277554(P2011−277554)
【出願日】平成23年12月19日(2011.12.19)
【分割の表示】特願2006−528752(P2006−528752)の分割
【原出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】