説明

直接メタノール型燃料電池用アノード電極、それを用いた膜電極複合体および燃料電池

【課題】カソードで生成した水は、アノードに拡散し、アノード触媒層厚、カソード触媒層厚、およびnafion量により燃料電池の安定性に大きく影響する。そこで高出力の直接メタノール型燃料電池が得られるアノードを提供する。
【解決手段】アノード触媒層11と、アノード触媒層上に設けられた第一の燃料拡散層12と、第一の燃料拡散層の上に設けられ、導電性粒子と親水性高分子とを含む塗布膜からなる親水性導電層13とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接メタノール型燃料電池用アノード電極、それを用いた膜電極複合体および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
メタノールを燃料として用いた直接メタノール型燃料電池(DMFC)では、燃料極においてメタノールが酸化分解され、二酸化炭素、プロトンおよび電子が生成される。一方、空気極では、空気から得られる酸素と、電解質膜を経て燃料極から供給されるプロトン、および燃料極から外部回路を通じて供給される電子によって水が生成される。また、この外部回路を通る電子によって、電力が供給される。
【0003】
こうした構成で発電を進めるために、DMFCには、メタノールを供給するポンプや空気を送り込むブロワが補器として備えられる。その結果、システムとして複雑となり、かかる構造のDMFCでは小型化を図ることは困難であった。
【0004】
小型DMFC(パッシブ型DMFC)は、次のように構築された。まず、用いられる燃料の濃度を高めることによって、燃料ポンプの小型化が図られた。空気の取り入れについては、ブロワを用いず、発電素子に直接取り付けた吸気口が設置された。高濃度燃料を使用することから、メタノールクロスオーバーが大きい。したがって、このパッシブタイプのDMFCは、低濃度燃料が使用される通常のアクティブ型DMFCと比較して、高出力を得ることが難しい。
【0005】
なお、こうしたパッシブ型DMFCでは、カソードで生成した水がアノードに拡散して、燃料として使用されている。この拡散水の発生量は、アノード触媒層厚、カソード触媒層厚、およびnafion量などのバランスに大きく依存する。アノード触媒量を低減した場合には、従来の燃料電池の発電状態の安定性を高めることは困難であった。
【0006】
そこで、導電性多孔体と、この導電性多孔体の一方の側に含浸された親水性高分子層と、導電性多孔体の他方の側に含浸された疎水性高分子層とを含むアノード拡散層を用いることによって、出力を高めることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2008−186799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、高出力の直接メタノール型燃料電池が得られるアノードを提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様にかかるアノードは、アノード触媒層と、
前記アノード触媒層上に設けられた第一の燃料拡散層と、
前記第一の燃料拡散層の上に設けられ、導電性粒子と親水性高分子とを含む塗布膜からなる親水性導電層とを具備することを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様にかかる膜電極複合体は、前述のアノード、カソード、および、前記アノードとカソードとの間に配置された高分子電解質膜を具備することを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様にかかる直接メタノール型燃料電池は、前述の膜電極複合体を具備し、液体燃料が供給されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高出力の燃料電池が得られるアノードが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して一実施形態を説明する。
【0013】
図1に示されるように、一実施形態にかかる直接メタノール型の燃料電池10においては、燃料極(アノード)32と空気極(カソード)33と、これらに挟持された高分子電解質膜15とを含む膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)18が、起電部として用いられる。高分子電解質膜15は、プロトン(水素イオン)伝導性を有する。
【0014】
燃料極32においては、高分子電解質膜15に接して燃料極(アノード)触媒層11が設けられ、この上に、第一の燃料拡散層12および親水性導電層13が順次配置される。図示する例においては、親水性導電層13の上に第二の燃料拡散層14が設けられているが、この第二の燃料拡散層は必ずしも必須ではない。一方、空気極33においては、高分子電解質膜15に接して空気極(カソード)触媒層16が設けられ、この上に空気極ガス(カソード)拡散層17が配置される。
【0015】
高分子電解質膜15は、プロトン伝導性材料により構成され、例えば、スルホン酸基を有する樹脂を用いることができる。具体的には、パーフルオロスルホン酸重合体等のフッ素系樹脂(ナフィオン(商品名、デュポン社製)、フレミオン(商品名、旭硝子社製)等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂、タングステン酸やリンタングステン酸などの無機物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
アノード触媒層11およびカソード触媒層16に含有される触媒としては、例えば、Pt、Ru、Rh、Ir、Os、およびPd等の白金族元素が挙げられる。こうした白金族元素は、単体金属として用いることができる。あるいは、白金族元素を含有する合金を、触媒として用いてもよい。具体的には、アノード触媒層11には、メタノールや一酸化炭素に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Moなどが好ましく用いられる。カソード触媒層13には、白金やPt−Niなどを用いることが好ましいが、これらに限定されない。さらに、炭素材料のような導電性担持体を使用する担持触媒、あるいは無担持触媒を使用してもよい。
【0017】
触媒層として効果を発揮するためには、アノード触媒層11およびカソード触媒層16には、少なくとも0.1mg/cm2程度の量で触媒が担持されていることが望まれる。ただし、過剰の触媒が担持された場合には、燃料および空気の拡散抵抗が大きくなるおそれがある。アノード触媒層11およびカソード触媒層16における触媒の担持量は、4g/cm2程度にとどめることが望まれる。
【0018】
アノード触媒層11上に積層された第一の燃料拡散層12は、アノード触媒層11に燃料を均一に供給する役割を果たす。第一の燃料拡散層12は、導電性を有する多孔質の任意の材料を用いて形成することができる。塗布またはスパッタリング等によって、この第一の燃料拡散層12の上にアノード触媒層を形成できることも要求される。第一の燃料拡散層12に用い得る材料としては、具体的には、カーボンペーパーやカーボンクロスなどの多孔性カーボン材料が挙げられるが、それらに限定されない。
【0019】
カーボンペーパーやカーボンクロスなどは、フッ素樹脂で撥水処理が施されてもよい。第一の燃料拡散層12は、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)あるいはナノカーボン粒子からなるマイクロポーラス層を、アノード触媒層11側に有することができる。
【0020】
第一の燃料拡散層12上に積層された親水性導電層13は、燃料タンク27から供給されるメタノールの量を調整する作用を有する。さらに、親水性導電層13は、カソードで生成した水が、アノード触媒層11および第一の燃料拡散層12へ拡散するのを制御する役割を有するとともに、アノードとカソードの水のバランスを調整する機能を有する。
【0021】
これらの機能により、アノードにおけるメタノールおよび水(水蒸気)等が安定に供給されるため、安定した出力が得られるとともに、過度のメタノールの供給によるアノードの劣化等を抑制できるようになる。高濃度メタノールに曝されることから、親水性導電性層13は、メタノールに難溶性であることが求められる。一方、水のアノードでのバランスをさらに向上させるために、親水性導電性層13は水分に対しては保水的であることが好ましい。
【0022】
親水性導電層13は、導電性粒子と親水性高分子とを含む塗布膜から構成される。親水性導電層中における親水性高分子の含有量は、その分子量等に応じて、適宜決定することができる。親水性高分子の分子量は、例えば重合度によって制御することができる。例えば、重合度が4500程度のポリビニルアルコールを親水性高分子として用いる場合には、1wt%程度で含有されていれば、所望の効果が得られる。親水性高分子の重合度は、例えば、溶液粘度法により求めることができる。
【0023】
親水性高分子の重合度は、500〜10000程度であることが望まれる。小さすぎる場合には、膜形成能が小さくなり、親水性導電を形成することが困難となる。一方、分子量が大きすぎる場合には、溶媒への溶解性が大きく低下する。それに加えて粘度が大きくなりすぎ、親水性導電層用のスラリー調整が難しくなるといった不都合が生じるおそれがある。
【0024】
親水性高分子は、親水性導電性層13の重量の1〜30wt%を占めることが好ましい。親水性高分子が1wt%未満の場合には、塗膜性が悪化する。一方、30wt%を越えると、抵抗が大きくなるため性能が低下してしまう。親水性高分子は、親水性導電性層の重量の5〜20wt%であることがより好ましい。
【0025】
親水性高分子としては、親水基(極性基)を有し、メタノールに不溶な任意の材料を用いることができる。具体的には、ポリビニルアルコール(PVA)、およびメチルセルロース等が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。また、親水性導電層13を形成後、加熱処理や極性基の一部を利用して、化学架橋することで、水およびメタノールへの耐性を向上させることもできる。
【0026】
導電性粒子としては、例えば、カーボン、グラファイト、カーボンナノチューブ、およびカーボンナノファイバーなどが挙げられる。さらに、TiN等の導電性窒化物、WO2などの導電性酸化物、およびW2Sなどの導電性硫化物を、導電性粒子として用いることができるが、これらに限定されない。
【0027】
導電性粒子の平均粒子径は、比表面積、吸油量などに応じて適宜選択することができるが、0.01〜10μm程度であることが望まれる。平均粒子径は、通常、レーザー回折散乱法により求めることができる。
【0028】
親水性導電層13における導電性粒子の濃度は、50〜99wt%程度であることが好ましい。導電性粒子が少なすぎる場合には、十分な導電性を確保することができない。一方、過剰に導電性粒子が含有された場合には、膜形成が困難になるおそれがある。
【0029】
親水性導電層13の厚みは、10〜100μmの範囲内であることが好ましい。親水性導電層13の厚みが10μm未満の場合には、十分な効果を発揮することができない。一方、100μm以上を越えると、燃料であるメタノールの拡散が大きく抑制されてしまい、十分な電流密度を得ることができない。
【0030】
親水性導電層13中に金属酸化物が含有されてもよい。金属酸化物が含有されることによって、保水性が向上する。金属酸化物としては、例えば、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニア、および酸化スズなどが挙げられるが、限定されるわけではない。
【0031】
こうした金属酸化物は、5wt%程度の量で親水性導電層中に含有されていれば、効果が得られる。過剰に含有されたところで、顕著な効果が発揮されるわけでもないので、その含有量の上限は30wt%程度にとどめることが望まれる。
【0032】
親水性導電層13上に積層される第二の燃料拡散層14は、導電性を有する多孔質の任意の材料を用いて形成することができる。第二の燃料拡散層14を設けることによって、燃料の拡散の均一性が向上する。第二の燃料拡散層14に用い得る材料としては、具体的には、カーボンペーパーやカーボンクロスなどの多孔性カーボン材料が挙げられるが、それに限定されない。
【0033】
カーボンペーパーやカーボンクロスなどは、フッ素樹脂で撥水処理が施されてもよい。第二の燃料拡散層14は、CNF、CNTおよびナノカーボン粒子からなるマイクロポーラス層を、親水性導電層13とは反対の側に有することができる。
【0034】
第二の燃料拡散層14の厚さは、触媒量、第一の燃料拡散層および親水導電層の組成と厚み等に応じて適宜決定することができる。ただし、過剰に厚すぎる場合には、燃料拡散量を低下させるおそれがあるので、最大でも600μm程度とすることが望まれる。
【0035】
カソード触媒層16に積層されたカソード拡散層17は、カソード触媒層16に酸化剤を均一に供給する役割を果たすと同時にカソードの集電も兼ねている。カソード拡散層17は、導電性を有する多孔質の任意の材料を用いて形成することができる。塗布またはスパッタリング等によって、このカソード拡散層17の上にカソード触媒層を形成できることも要求される。
【0036】
カソード拡散層17に用い得る材料としては、具体的には、カーボンペーパーやカーボンクロスなどの多孔性カーボン材料が挙げられるが、それらに限定されない。カーボンペーパーやカーボンクロスなどは、フッ素樹脂で撥水処理が施されてもよい。カソード拡散層17は、CNF、CNTあるいはナノカーボン粒子からなるマイクロポーラス層を、カソード触媒層16側に有することができる。
【0037】
第二の燃料拡散層14には、アノード集電体19が積層され、カソード拡散層17には、カソード集電体20が積層されている。アノード集電体19およびカソード集電体20は、例えば、金などの導電金属材料からなる穴あきやメッシュなどの多孔質層により構成することができる。
【0038】
高分子電解質膜15とアノード集電体19との間には、ゴム製のOリング21が配置され、高分子電解質膜15とカソード集電体20との間には、ゴム製のOリング22が配置される。こうしたOリングによって、膜電極接合体18からの燃料漏れおよび酸化剤漏れが防止される。
【0039】
アノード集電体19には、疎水性の多孔質膜23が積層され、フレーム24および25によってカソード集電体20を含むその間の積層体が挟持されている。フレーム24,25は、燃料電池10の外縁形に対応した形状とすることができ、例えば矩形のフレームとすることができる。
【0040】
フレーム24および25は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)のような熱可塑性ポリエステル樹脂などで形成することができる。アノード側のフレーム24は、気液分離膜26を介して、燃料供給部として機能する液体燃料タンク27と接続されている。この気液分離膜26は、液体燃料の気化成分のみを透過し、液体燃料を透過させない気相燃料透過膜として機能する。
【0041】
液体燃料タンク27内の燃料の気化成分を導出するために開口(図示せず)が設けられ、この開口を塞ぐように気液分離膜26が配設されている。気液分離膜26は、燃料の気化成分と液体燃料とを分離し、さらに液体燃料を気化させる作用を有する。気液分離膜26は、例えば、シリコーンゴムなどの材料により構成することができる。
【0042】
この気液分離膜26の液体燃料タンク27側には、透過量調整膜(図示せず)を設けることができる。透過量調整膜は、気液分離膜26と同様に気液を分離するのに加えて、燃料の気化成分の透過量を調整する。この透過量調整膜による気化成分の透過量は、透過量調整膜の開口率を変更することによって調整することができる。透過量調整膜には、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどの材料が用いられる。透過量調整膜を設けることによって、燃料の気液分離を可能とするとともに、アノード触媒層11側に供給される燃料の気化成分の供給量を調整することができる。
【0043】
液体燃料タンク27に貯留される液体燃料は、濃度が50モル%を超えるメタノール水溶液、または純メタノールである。純メタノールの純度は、95重量%以上100重量%以下であることが好ましい。こうした高濃度の液体燃料を用いることによって、燃料タンクの小型化を図ることができる。
【0044】
液体燃料の気化成分とは、液体燃料として液体のメタノールを使用した場合には、気化したメタノールを意味し、液体燃料としてメタノール水溶液を使用した場合には、メタノールの気化成分と水の気化成分とからなる混合気を意味する。
【0045】
多孔質膜23は、疎水性を有し、多孔質膜23を介して第二の燃料拡散層14側から流路板の流路へ水が侵入するのを防止する。その一方で、流路からの燃料供給を多孔質膜23で広げることによって、第二の燃料拡散層14へ均一に供給する。多孔質膜23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、撥水化処理したシリコーンシート等を用いて形成することができる。
【0046】
アノード集電体19と流路板との間に配設されているので、多孔質膜23は、さらに次のような効果を有する。例えば、浸透圧現象によって、カソード触媒層16で生成された水が電解質膜15を通過してアノード触媒層11に移動する現象が促進された場合である。移動してきた水が、アノード集電体19とそれよりも下方の気液分離膜26側へ侵入するのを防止することができる。
【0047】
これによって、液体燃料タンク27内での燃料の気化を妨げることなく進行させることができる。また、アノード触媒層11と多孔質膜23との間に水を保持することで、アノード触媒層11の水を補給することも可能である。例えば、純メタノールを液体燃料として用いた場合である。液体燃料タンク27から水分が供給されないので、多孔質膜23は特に有効である。なお、浸透圧現象によるカソード触媒層16側からアノード触媒層11側への水の移動は、保湿層28上に設置された表面層29の空気導入口30の個数やサイズを変えて、開口面積等を調整することで制御することができる。
【0048】
保湿層28は、例えば、ポリエチレン多孔質膜などの材料により構成することができる。その最大の孔径は、20〜50μm程度であることが好ましい。最大孔径が20μm未満の場合には、空気透過性が低下するおそれがある。一方、最大孔径が50μmより大きい場合には、水分蒸発が過度となる。場合によっては、保湿層28を用いずに燃料電池10を構成することもできる。その際には、カソード側のフレーム25上に表面層29を設置して、カソード触媒層16の水分貯蔵量や水の蒸散量を調整することが好ましいが、表面層29を用いずに燃料電池10を構成してもよい。
【0049】
上述したような構成の燃料電池10は、次のような反応が生じて動作する。
【0050】
まず、液体燃料タンク27内の液体燃料(例えば、メタノール水溶液)が気化し、気化したメタノールと水蒸気との混合気は、気液分離膜26、多質孔膜23、およびアノード集電体19を通過する。さらに、第二の燃料拡散層14で拡散され、親水性導電層13、および第一の燃料拡散層12を経て、アノード触媒層11に供給される。アノード触媒層11に供給された混合気は、下記反応式(1)で表わされるメタノールの内部改質反応を生じる。
【0051】
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- …式(1)
なお、液体燃料として、純メタノールを使用した場合には、液体燃料タンク27から水蒸気が供給されない。このため、上記反応式(1)で表わされる内部改質反応に関与するのは、カソード触媒層16で生成した水や電解質膜15中の水等である。あるいは、上記反応式(1)の内部改質反応によらず、水を必要としない他の反応機構によって、内部改質反応を生じる。
【0052】
内部改質反応で生成されたプロトン(H+)は、電解質膜15を伝導し、カソード触媒層16に到達する。表面層29の空気導入口30から取り込まれた空気は、保湿層28、カソード集電体20、およびカソード拡散層17を拡散して、カソード触媒層16に供給される。カソード触媒層16に供給された空気は、下記反応式(2)で表わされるようにプロトンと反応する。この反応によって、水が生成され、発電反応が生じる。
【0053】
(3/2)O2+6H++6e- → 3H2O …式(2)
こうした反応によりカソード触媒層16中に生成した水は、カソード拡散層17を拡散して保湿層28に到達する。水の一部は、保湿層28上に設けられた表面層29の空気導入口30から蒸散され、残りの水は表面層29によって蒸散が阻害される。特に、上述の反応式(2)の反応が進行すると、表面層29で蒸散が阻害される水の量が増加し、カソード触媒層16中の水分貯蔵量が増加する。
【0054】
この場合には、反応式(2)で表わされる反応が進行するのに伴なって、カソード触媒層16の水分貯蔵量が、アノード触媒層11の水分貯蔵量よりも多い状態となる。その結果、浸透圧現象によって、カソード触媒層16に生成した水が、電解質膜15を通過してアノード触媒層11に移動する現象が促進される。
【0055】
そのため、アノード触媒層11への水分の供給を液体燃料タンク27から気化した水蒸気のみに頼る場合に比べて、水分の供給が促され、前述した式(1)におけるメタノールの内部改質反応を促進させることができる。これによって、出力密度を高くすることができるとともに、その高い出力密度を長期間にわたって維持することが可能となる。
【0056】
また、液体燃料として、メタノールの濃度が50モル%を越えるメタノール水溶液、または純メタノールを使用する場合でも、カソード触媒層16からアノード触媒層11に移動してきた水を内部改質反応に使用することができるので、安定してアノード触媒層11へ水を供給することが可能となる。これによって、メタノールの内部改質反応の反応抵抗をさらに低下することができ、長期出力特性と負荷電流特性とがより向上する。さらに、液体燃料タンク27の小型化を図ることも可能である。
【0057】
このように、一実施の形態の直接メタノール型の燃料電池10によれば、多孔質膜23がアノード触媒層11側となるように多孔質膜23を積層して、燃料電池10を構成することで、メタノールをアノード触媒層11側に放出することができる。これによって、液体燃料タンク27におけるメタノールの気化量の変動による影響を緩和して、アノード触媒層11へ均一に所定濃度のメタノールを供給することができる。
【0058】
なお、上述した実施の形態では、液体燃料に、メタノール水溶液、または純メタノールを使用した直接メタノール型の燃料電池について説明したが、液体燃料は、これらに限られるものではない。例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ジメチルエーテル等、または、これらの水溶液を用いた液体燃料直接供給型の燃料電池にも応用することができる。
【0059】
以下に、本発明の具体例を示す。
【0060】
(実施例1)
まず、約75gのジルコニアボールを秤量して、ポリエチレンポットに収容した。ここに、白金担持カーボン(田中貴金属工業社製TEC10EPTM70)2.0g、および水2.0gを加えた。さらに、1−プロパノール3.0g、およびNafion溶液DE2020(商品名:デュポン社製)2.5gを加え、ボールミルで混合してカソード触媒層用のスラリーを調製した。
【0061】
得られたスラリーを、14wt%のPTFEを添加して撥水処理が施されたカーボンペーパー(東レ社製カーボンペーパーGPH−090)に塗布した。これを常温で乾燥して、空気極を作製した。触媒PtRu量は、約2.0mg/cm2である。
【0062】
また、白金ルテニウム担持カーボン(田中貴金属工業社製TEC61E54DM)2.0g、水3.0g、およびNafion溶液DE2020(商品名:デュポン社製)15.0gをボールミルで混合して、アノード触媒層用のスラリーを調製した。
【0063】
得られたスラリーを、14wt%のPTFEを添加して撥水処理されたカーボンペーパー(東レ社製カーボンペーパーGPH−060)に塗布した。これを常温で乾燥した後、12cm2に切断して燃料極を作製した。撥水処理されたカーボンペーパーは、拡散層(第一の燃料拡散層)として作用する。触媒PtRu量は、約1.7mg/cm2であった。
【0064】
導電性粒子としてのグラファイト粒子(Timcal社製TIMREX KS−6)2.0g、および親水性高分子としての5%PVA水溶液10gをポリエチレンポットに収容した。グラファイト粒子の平均粒子径は約6μmであり、PVAの重合度は2000である。これを、脱泡機(練り太郎(商標):シンキー社製)で約30分間分散して、親水性導電層用のスラリーを調製した。
【0065】
得られたスラリーを、14wt%のPTFEを添加して撥水処理が施されたカーボンペーパー(東レ社製カーボンペーパーGPH−060)にアプリケーターで塗布した。この際、アプリケーターのギャップは0.6mmとした。これを常温乾燥し、12cm2を切断して、親水性導電層付き拡散層(サンプル1)を作製した。
【0066】
この親水性導電層付き拡散層においては、撥水処理されたカーボンペーパーは、拡散層(第二の燃料拡散層)として作用する。一方、親水性導電層は、グラファイト粒子を含有するPVAの層から構成され、その厚みは45μmであった。
【0067】
電解質膜としては、デュポン社製の固定電解質膜ナフィオン112を用意した。この電解質膜の一方に空気極を配置し、他方には、燃料極および親水性導電層付き拡散層を配置した。親水性導電層付き拡散層は、親水性導電層を燃料極に接触させて配置した。これを、120℃、30kgf/cm2の条件でプレスして、膜電極接合体(MEA)を作製した。空気極および燃料極の電極面積は、いずれも12cm2とした。
【0068】
続いて、このMEAを、空気および気化したメタノールを取り入れるための複数の開孔を有する金箔で挟み、アノード集電体およびカソード集電体を形成した。
【0069】
MEA、アノード集電体、カソード集電体、および多孔質膜が積層された積層体を樹脂製の2つのフレームで挟み込んだ。なお、MEAの空気極側と一方のフレームとの間、およびMEAの燃料極側と他方のフレームとの間には、それぞれゴム製のOリングを挟持してシールを施した。
【0070】
燃料極側のフレームは、気液分離膜を介して、液体燃料タンクにネジ止めによって固定した。気液分離膜としては、シリコーンシートを使用した。一方、空気剤側のフレーム上には多孔質板を配置して保湿層を形成した。この保湿層上には、空気取り入れのための空気導入口(口径4mm、口数64個)が形成された厚さが2mmのステンレス板(SUS304)を配置して表面層を形成し、ネジ止めによって固定した。
【0071】
以上により、図1に示したような構成の直接メタノール型燃料電池(DMFC)が作製された。こうして得られたDMFCの液体燃料タンクには、液体燃料としての純メタノールを5ml注入した。温度25℃、相対湿度50%の条件の下、出力の最大値を電流値および電圧値から測定した。その結果、出力の最大値は、30.5mW/cm2であった。
【0072】
(実施例2)
導電性粒子としてのグラファイト粒子(Timcal社製TIMREX KS−6)4.0g、導電性高分子としての5%PVA(PVA重合度2000)水溶液10.0g、水5.5gおよび金属酸化物としてのシリカ(日本エアロジル社製300CF)0.5gをポリエチレンポットに収容した。脱泡機(練り太郎(商標):シンキー社製)で約30分間分散して、親水性導電層用のスラリーを調製した。
【0073】
得られたスラリーを、14wt%のPTFEを添加して撥水処理が施されたカーボンペーパー(東レ社製カーボンペーパーGPH−060)にアプリケーターで塗布した。この際、アプリケーターのギャップは0.5mmとした。これを常温乾燥し、12cm2を切断して親水性導電層付き拡散層(サンプル2)を作製した。
【0074】
親水性導電層付き拡散層においては、撥水処理されたカーボンペーパーは、拡散層(第二の燃料拡散層)として作用する。一方、親水性導電層は、グラファイト粒子およびシリカを含有するPVAの層から構成され、その厚みは45μmであった。
【0075】
こうして得られた親水性導電層付き拡散層を用いた以外は実施例1と同様にしてMEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。その結果、出力の最大値は24.2mW/cm2であった。
【0076】
(実施例3)
カーボンペーパーに添加されるPTFEを25wt%に変更する以外は、実施例2と同様にして親水性導電層付き拡散層を作製した。得られた親水性導電層付き拡散層を用いる以外は実施例1と同様にしてMEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。出力の最大値は、24.5mW/cm2であった。
【0077】
(実施例4)
カーボンペーパーに添加されるPTFEを35wt%に変更する以外は、実施例2と同様にして親水性導電層付き拡散層を作製した。得られた親水性導電層付き拡散層を用いる以外は実施例1と同様にしてMEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。出力の最大値は、25.6mW/cm2であった。
【0078】
(実施例5)
白金ルテニウム担持カーボン(田中貴金属工業社製TEC61E54DM)2.0g、水3.0g、およびNafion溶液DE2020(商品名:デュポン社製)5.0gをボールミルで混合して、アノード触媒層用のスラリーを調製した。
【0079】
得られたスラリーを、14wt%のPTFEを添加して撥水処理されたカーボンペーパー(東レ社製カーボンペーパーGPH−060)に塗布した。これを常温で乾燥した後、12cm2に切断して燃料極を作製した。触媒PtRu量は、約1.7mg/cm2であった。
【0080】
得られたアノードを用いる以外は実施例1と同様にしてMEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。出力の最大値は、21.1mW/cm2であった。
【0081】
(実施例6)
まず、約75gのジルコニアボールを秤量して、ポリエチレンポットに収容した。ここに、白金担持カーボン(田中貴金属工業社製TEC10EPTM70)2.0g、および水2.0gを加えた。さらに、1−プロパノール3.0g、およびNafion溶液DE2020(商品名:デュポン社製)2.5gを加え、ボールミルで混合してカソード触媒層用のスラリーを調製した。
【0082】
得られたスラリーを、14wt%のPTFEを添加して撥水処理されたカーボンペーパー(東レ社製カーボンペーパーGPH−090)に塗布した。これを常温で乾燥して、空気極を作製した。触媒PtRu量は、約2.0mg/cm2であった。
【0083】
導電性粒子としてのグラファイト粒子(Timcal社製TIMREX KS−6)4.0g、導電性高分子としての5%PVA(PVA重合度2000)水溶液10g、および金属酸化物としてのシリカ(日本エアロジル社製300CF)0.5gをポリエチレンポットに収容した。脱泡機(練り太郎(商標):シンキー社製)で約30分間分散して、親水性導電層用のスラリーを調製した。
【0084】
得られたスラリーを、14wt%のPTFEを添加して撥水処理が施されたカーボンペーパー(東レ社製カーボンペーパーGPH−060)にアプリケーターで塗布した。この際、アプリケーターのギャップは0.6mmとした。これを常温乾燥し、親水性導電層付きカーボンペーパーを作製した。この親水性導電層付き拡散層においては、撥水処理されたカーボンペーパーは、拡散層(第一の燃料拡散層)として作用する。一方、親水性導電層は、グラファイト粒子を含有するPVAの層から構成され、その厚みは47μmであった。
【0085】
次に、白金ルテニウム担持カーボン(田中貴金属工業社製TEC61E54DM)2.0g、水3.0g、およびNafion溶液DE2020(商品名:デュポン社製)15.0gをボールミルで混合して、アノード触媒層用のスラリーを調製した。
【0086】
このスラリーを、前述の親水性導電層付きカーボンペーパーにおける導電性触媒層とは反対側の面に塗布した、常温で乾燥した後、12cm2に切断して燃料極を作製した。撥水処理されたカーボンペーパーは、拡散層(第一の燃料拡散層)として作用する。触媒PtRu量は、約1.7mg/cm2であった。
【0087】
電解質膜としては、デュポン社製の固定電解質膜ナフィオン112を用意した。この電解質膜の一方に空気極を配置し、他方には、燃料極および親水性導電層付き拡散層を配置した。親水性導電層付き拡散層は、親水性導電層を燃料極に接触させて配置した。これを、120℃、30kgf/cm2の条件でプレスして、膜電極接合体(MEA)を作製した。空気極および燃料極の電極面積は、いずれも12cm2とした。
【0088】
続いて、このMEAを、空気および気化したメタノールを取り入れるための複数の開孔を有する金箔で挟み、アノード集電体およびカソード集電体を形成した。
【0089】
MEA、アノード集電体、カソード集電体、および多孔質膜が積層された積層体を樹脂製の2つのフレームで挟み込んだ。なお、MEAの空気極側と一方のフレームとの間、およびMEAの燃料極側と他方のフレームとの間には、それぞれゴム製のOリングを挟持してシールを施した。
【0090】
燃料極側のフレームは、気液分離膜を介して、液体燃料タンクにネジ止めによって固定した。気液分離膜としては、シリコーンシートを使用した。一方、空気剤側のフレーム上には多孔質板を配置して保湿層を形成した。この保湿層上には、空気取り入れのための空気導入口(口径4mm、口数64個)が形成された厚さが2mmのステンレス板(SUS304)を配置して表面層を形成し、ネジ止めによって固定した。
【0091】
以上により、図1に示したような構成の直接メタノール型燃料電池(DMFC)が作製された。こうして得られたDMFCの液体燃料タンクには、液体燃料としての純メタノールを5ml注入した。温度25℃、相対湿度50%の条件の下、出力の最大値を電流値および電圧値から測定した。その結果、出力の最大値は24.1mW/cm2であった。
【0092】
(実施例7)
第一の燃料拡散層として、撥水処理なしのカーボンペーパー(東レ社製カーボンペーパーGPH−060)を用いる以外は実施例6と同様にして、MEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。その結果、出力の最大値は23.7mW/cm2であった。
【0093】
(実施例8)
親水性導電層をアノード集電体側に配置した以外は実施例2と同様にしてMEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。その結果、出力の最大値は23.5mW/cm2であった。
【0094】
(実施例9)
親水性導電層付き拡散層をアノード集電体側に配置した以外は実施例4と同様にしてMEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。その結果、出力の最大値は23,4mW/cm2であった。
【0095】
(実施例10)
親水性導電層付き拡散層の親水性導電層をアノード集電体側に配置した以外は実施例5と同様にして、MEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。その結果、出力の最大値は20.8mW/cm2であった。
【0096】
(実施例11)
親水性導電層に用いられる導電性粒子をカーボン粒子(Degussa社製 Printex25)に変更した以外は実施例1と同様にして、MEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。その結果、出力の最大値は23.8mW/cm2であった。
【0097】
(実施例12)
親水性導電層付きカーボンペーパー(サンプル2)を150℃で10分間加熱処理した以外は、実施例2と同様にして、MEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。その結果、出力の最大値は23.2mW/cm2であった。
【0098】
サンプル2の親水性導電層は、沸騰水で徐々に溶解し、剥離してしまう。上述のような熱処理を施すことにより、沸騰水中でも1時間置いても溶解および脱落等はみられず、水に対する耐性が向上した。
【0099】
(実施例13)
親水性導電層に用いられる金属酸化物粒子を酸化チタン(昭和電工社製 スーパーチタニアF6)に変更した以外は実施例2と同様にして、MEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。その結果、出力の最大値は23.9mW/cm2であった。
【0100】
(実施例14)
白金ルテニウム担持カーボン(田中貴金属工業社製TEC61E54DM)2.0g、5wt%WO3担持TiO20.4g、水3.0g、1−メトキシ―2−プロパノール6.0g、およびNafion溶液DE2020(商品名:デュポン社製)5.0gをボールミルで混合して、アノード触媒層用のスラリーを調製した。
【0101】
得られたスラリーを、14wt%のPTFEを添加して撥水処理が施されたカーボンペーパー(東レ社製カーボンペーパーGPH−060)にアプリケーターで塗布した。この際、アプリケーターのギャップは0.5mmとした。これを常温で乾燥した後、12cm2に切断して燃料極を作製した。触媒PtRu量は、約1.7mg/cm2であった。
【0102】
この燃料極を用いる以外は実施例5と同様にしてMEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。その結果、出力の最大値は19.9mW/cm2であった。
【0103】
(実施例15)
導電性粒子としてのグラファイト粒子(Timcal社製TIMREX KS−6)2.0g、導電性高分子としての5%PVA(PVA重合度2000)水溶液10g、10wt%メタタングステン酸アンモニウム(日本無機化学工業社製AMT−72)水溶液1.0g、および金属酸化物としてのシリカ(日本エアロジル社製300CF)0.5gをポリエチレンポットに収容した。脱泡機(練り太郎(商標):シンキー社製)で約30分間分散して、親水性導電層用のスラリーを調製した。
【0104】
得られたスラリーを、14wt%のPTFEを添加して撥水処理が施されたカーボンペーパー(東レ社製カーボンペーパーGPH−060)にアプリケーターで塗布した。この際、アプリケーターのギャップは0.6mmとした。これを常温乾燥し、12cm2を切断して、親水性導電層付き拡散層(サンプル15)を作製した。さらに、150℃で10分間加熱して得た。
【0105】
この親水性導電層付き拡散層においては、撥水処理されたカーボンペーパーは、拡散層(第二の燃料拡散層)として作用する。一方、親水性導電層は、グラファイト粒子を含有するPVAの層から構成され、その厚みは42μmであった。この親水性導電層は、沸騰水中でも、溶解および滑落が見られなかった。
【0106】
ここで作製した親水性導電層つき拡散層を用いる以外は実施例2と同様にして、MEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。その結果、出力の最大値は23.5mW/cm2であった。
【0107】
(実施例16)
導電性粒子としてのグラファイト粒子(Timcal社製TIMREX KS−6)1.98g、親水性高分子としての5%PVA(PVA:重合度4500、クラレ社製)水溶液1.0g、およびイオン交換水5.0gをポリエチレンポットに収容した。グラファイト粒子の平均粒子径は約6μmである。これを、脱泡機(練り太郎(商標):シンキー社製)で約30分間分散して、親水性導電層用のスラリーを調製した。
【0108】
得られたスラリーを、14wt%のPTFEを添加して撥水処理が施されたカーボンペーパー(東レ社製カーボンペーパーGPH−060)にアプリケーターで塗布した。この際、アプリケーターのギャップは0.6mmとした。これを常温乾燥し、12cm2を切断して、親水性導電層付き拡散層を作製した。
【0109】
ここで得られた親水性導電層付き拡散層を用いる以外は実施例1と同様にして、MEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。その結果、出力の最大値は21.5mW/cm2であった。
【0110】
(実施例17)
導電性粒子としてのグラファイト粒子(Timcal社製TIMREX KS−6)2.0g、導電性高分子としての5%PVA(PVA重合度2000)水溶液10.0g、および金属酸化物としてのシリカ(日本エアロジル社製300CF)0.5gをポリエチレンポットに収容した。脱泡機(練り太郎(商標):シンキー社製)で約30分間分散して、親水性導電層用のスラリーを調製した。
【0111】
得られたスラリーを、14wt%のPTFEを添加して撥水処理が施されたカーボンペーパー(東レ社製カーボンペーパーGPH−060)にアプリケーターで塗布した。この際、アプリケーターのギャップは0.5mmとした。これを常温乾燥し、12cm2を切断して親水性導電層付き拡散層を作製した。
【0112】
親水性導電層付き拡散層においては、撥水処理されたカーボンペーパーは、拡散層(第二の燃料拡散層)として作用する。一方、親水性導電層は、グラファイト粒子およびシリカを含有するPVAの層から構成され、その厚みは41μmであった。
【0113】
ここで得られた親水性導電層付き拡散層を用いる以外は実施例2と同様にして、MEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。その結果、出力の最大値は22.1mW/cm2であった。
【0114】
(実施例18)
導電性粒子としてのグラファイト粒子Timcal社製TIMREX KS−6)4.0g、導電性高分子としての5%PVA(PVA重合度2000)水溶液15.0g、および金属酸化物としてのシリカ(日本エアロジル社製300CF)0.25gをポリエチレンポットに収容した。脱泡機(練り太郎(商標):シンキー社製)で約30分間分散して、親水性導電層用のスラリーを調製した。
【0115】
この組成のスラリーを用いる以外は実施例2と同様にして、MEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。その結果、出力の最大値は20.5mW/cm2であった。
【0116】
(実施例19)
導電性粒子としてのグラファイト粒子Timcal社製TIMREX KS−6)4.0g、導電性高分子としての5%PVA(PVA重合度2000)水溶液5.0g、および金属酸化物としてのシリカ(日本エアロジル社製300CF)0.75gをポリエチレンポットに収容した。脱泡機(練り太郎(商標):シンキー社製)で約30分間分散して、親水性導電層用のスラリーを調製した。
【0117】
この組成のスラリーを用いる以外は実施例2と同様にして、MEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。その結果、出力の最大値は21.5mW/cm2であった
(実施例20)
導電性粒子としてのグラファイト粒子Timcal社製TIMREX KS−6)4.0g、導電性高分子としての5%PVA(PVA重合度2000)水溶液10.0g、水5.0g、架橋材(マツモト交商社製オルガノチックスTC−315水溶液)0.5g、および金属酸化物としてのシリカ(日本エアロジル社製300CF)0.5gをポリエチレンポットに収容した。脱泡機(練り太郎(商標):シンキー社製)で約30分間分散して、親水性導電層用のスラリーを調製した。
【0118】
得られたスラリーを、14wt%のPTFEを添加して撥水処理が施されたカーボンペーパー(東レ社製カーボンペーパーGPH−060)にアプリケーターで塗布した。この際、アプリケーターのギャップは0.6mmとした。これを常温乾燥し、12cm2を切断して、親水性導電層付き拡散層を作製した。
【0119】
この親水性導電層付き拡散層においては、撥水処理されたカーボンペーパーは、拡散層(第二の燃料拡散層)として作用する。一方、親水性導電層は、グラファイト粒子を含有するPVAの層から構成され、その厚みは42μmであった。この親水性導電層は、沸騰水中でも、溶解および滑落が見られなかった。
【0120】
得られた親水性導電層付き拡散層を用いる以外は実施例2と同様にして、MEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。その結果、出力の最大値は22.4mW/cm2であった。
【0121】
(実施例21)
5%グルタルアルデヒド水溶液100gに硫酸0.5g加えた溶液に、実施例2で作製した親水性導電付きカーボンペーパーを浸漬し、加熱乾燥してPVAを架橋させた。この処理により、沸騰水中での溶解等が観測されなくなった。
【0122】
得られた架橋型親水性導電層付き拡散層を用いる以外は実施例2と同様にして、MEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。その結果、出力の最大値は21.8mW/cm2であった。
【0123】
(実施例22)
導電性粒子としてのグラファイト粒子Timcal社製TIMREX KS−6)4.0g、導電性高分子としての5%メチルセルロース(メチル化度47%)水溶液10.0g、架橋剤(マツモト交商社製オルガノチックスTC−315水溶液)0.5g、および金属酸化物としてのシリカ(日本エアロジル社製300CF)0.5gをポリエチレンポットに収容した。脱泡機(練り太郎(商標):シンキー社製)で約30分間分散して、親水性導電層用のスラリーを調製した。
【0124】
得られたスラリーを、14wt%のPTFEを添加して撥水処理が施されたカーボンペーパー(東レ社製カーボンペーパーGPH−060)にアプリケーターで塗布した。この際、アプリケーターのギャップは0.6mmとした。これを70℃で乾燥し、12cm2を切断して、親水性導電層付き拡散層を作製した。
【0125】
この親水性導電層付き拡散層においては、撥水処理されたカーボンペーパーは、拡散層(第二の燃料拡散層)として作用する。一方、親水性導電層は、グラファイト粒子を含有するPVAの層から構成され、その厚みは42μmであった。この親水性導電層は、沸騰水中でも、溶解および滑落が見られなかった。
【0126】
得られた親水性導電層付き拡散層を用いる以外は実施例2と同様にして、MEAを構成し、DMFCを作製した。得られたDMFCについて、実施例1と同様の条件で出力の最大値を測定した。その結果、出力の最大値は22.4mW/cm2であった。
【0127】
(比較例1)
まず、約75gのジルコニアボールを秤量して、ポリエチレンポットに収容した。ここに、白金担持カーボン(田中貴金属工業社製TEC10EPTM70)2.0g、および水2.0gを加えた。さらに、1−プロパノール3.0g、およびNafion溶液DE2020(商品名:デュポン社製)2.5gを加え、ボールミルで混合してカソード触媒層用のスラリーを調製した。
【0128】
得られたスラリーを、14wt%のPTFEを添加して撥水処理が施されたカーボンペーパー(東レ社製カーボンペーパーGPH−090)に塗布した。これを常温で乾燥して、空気極を作製した。
【0129】
また、白金ルテニウム担持カーボン(田中貴金属工業社製TEC61E54DM)2.0、水3.0g、およびNafion溶液DE2020(商品名:デュポン社製)15.0gとボールミルで混合して、アノード触媒層用のスラリーを調製した。
【0130】
得られたスラリーを、14wt%のPTFEを添加して撥水処理が施されたカーボンペーパー(東レ社製カーボンペーパーGPH−120)に塗布した。これを常温で乾燥した後、12cm2に切断して燃料極を作製した。触媒PtRu量は、約1.7mg/cm2であった。
【0131】
電解質膜としては、デュポン社製の固定電解質膜ナフィオン112を用意した。この電解質膜を、空気極および燃料極で挟持した。これを、120℃、30kgf/cm2の条件でプレスして、膜電極接合体(MEA)を作製した。なお、空気極および燃料極の電極面積は、いずれも12cm2とした。
【0132】
得られたMEAを用いる以外は実施例1と同様にしてDMFCを作製し、出力の最大値を評価した。その結果、出力の最大値は、18.2mW/cm2であった。
【0133】
(比較例2)
親水性導電層付き拡散層を、14wt%のPTFEを添加して撥水処理したカーボンペーパー(東レ社製カーボンペーパーGPH−060)に変更した以外は実施例1と同様にしてMEAを作製した。得られたMEAを用いる以外は実施例1と同様にしてDMFCを作製し、出力の最大値を評価した。出力の最大値は、17.8mW/cm2であった。
【0134】
(比較例3)
親水性導電層付き拡散層を、14wt%のPTFEを添加して撥水処理したカーボンペーパー(東レ社製カーボンペーパーGPH−060)に変更した以外は実施例5と同様にしてMEAを作製した。得られたMEAを用いる以外は実施例1と同様にしてDMFCを作製し、出力の最大値を評価した。出力の最大値は、10.7mW/cm2であった。
【0135】
実施例1,2、および比較例1,2のDMFCを用いて、以下の手法により長期劣化試験を行なった。パッシブ型DMFC評価装置の燃料タンク部分を薄くして、燃料の蓄積量ができるだけ低減された構成とした。使用した燃料(メタノール)をポンプで供給(数十μL)を供給する方式として、ポンプは、カソード温度(約55℃)でon−offするように制御した。この方式で、定電圧で間欠発電を行なった。運転時間4時間と休止時間5時間で1サイクルの間欠運転を行ない、500時間後の出力の劣化を調べた。
【0136】
実施例1、2では、500h後の初期出力の約78%、75%であった。これに対し、比較例1では50%、比較例2では35%と低く、親水性導電層による出力劣化の抑制効果が確認された。
【0137】
以上の結果に示されるように、導電性粒子と親水性高分子とを含む塗布膜からなる親水性導電層を設けたアノードを用いることによって、直接メタノール型燃料電池の出力が向上することが確認された。
【0138】
なお、本発明は上述した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することが可能である。また、実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせによって、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】一実施形態にかかるパッシブ型燃料電池の断面図。
【符号の説明】
【0140】
10…パッシブ型燃料電池; 11…アノード触媒層; 12…第一の燃料拡散層
13…親水性導電層; 14…第二の燃料拡散層; 32…アノード
15…高分子電解質膜; 16…カソード触媒層; 17…カソード拡散層
33…カソード; 18…膜電極接合体(MEA); 19…アノード集電体
20…カソード集電体; 21…O−リング; 22…O−リング; 23…多孔質膜
24…アノードフレーム; 25…カソードフレーム; 26…気液分離膜
27…燃料タンク; 28…保湿層; 29…表面層; 30…空気導入孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード触媒層と、
前記アノード触媒層上に設けられた第一の燃料拡散層と、
前記第一の燃料拡散層の上に設けられ、導電性粒子と親水性高分子とを含む塗布膜からなる親水性導電層と
を具備することを特徴とする直接メタノール型燃料電池用アノード。
【請求項2】
前記親水性導電層の上に、第二の燃料拡散層をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の直接メタノール型燃料電池用アノード。
【請求項3】
前記親水性高分子の含有量は、前記親水性導電層の1wt%以上30wt%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の直接メタノール型燃料電池用アノード。
【請求項4】
前記親水性導電層は、1μm以上100μm以下の厚さを有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の直接メタノール型燃料電池用アノード。
【請求項5】
前記導電性粒子は、カーボン、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、導電性窒化物、導電性酸化物、および導電性硫化物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の直接メタノール型燃料電池用アノード。
【請求項6】
前記導電性粒子の平均粒子径は、0.01μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の直接メタノール型燃料電池用アノード。
【請求項7】
前記導電性粒子は、50wt%以上99wt%以下の量で前記親水性導電層に含有されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の直接メタノール型燃料電池用アノード。
【請求項8】
前記親水性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリアルコール共重合体、メチルセルロースおよびセルロース誘導体からなる群から選択されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の直接メタノール型燃料電池用アノード。
【請求項9】
前記親水性高分子の重合度は、500以上10000以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の直接メタノール型燃料電池用アノード。
【請求項10】
前記親水性導電層は、金属酸化物粒子をさらに含有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の直接メタノール型燃料電池用アノード。
【請求項11】
前記金属酸化物粒子は、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニア、および酸化スズからなる群から選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項10に記載の直接メタノール型燃料電池用アノード。
【請求項12】
前記金属酸化物粒子は、1wt%以上30wt%以下の量で含有されることを特徴とする請求項10または11に記載の直接メタノール型燃料電池用アノード。
【請求項13】
前記金属酸化物粒子の平均粒子径は、0.001μm以上1μm以下であることを特徴とする請求項10乃至12のいずれか1項に記載の直接メタノール型燃料電池用アノード。
【請求項14】
前記アノード触媒層は、0.1mg/cm2以上4mg/cm2以下の触媒を含むことを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の直接メタノール型燃料電池用アノード。
【請求項15】
前記触媒は白金族元素を含むことを特徴とする請求項14に記載の直接メタノール型燃料電池用アノード。
【請求項16】
前記第一の燃料拡散層の厚さは、50μm以上600μm以下であることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の直接メタノール型燃料電池用アノード。
【請求項17】
前記第二の燃料拡散層の厚さは、50μm以上600μm以下であることを特徴とする請求項2乃至16のいずれか1項に記載の直接メタノール型燃料電池用アノード。
【請求項18】
請求項1乃至17のいずれか1項に記載のアノード、
カソード、および
前記アノードとカソードとの間に配置された高分子電解質膜を具備することを特徴とする膜電極複合体。
【請求項19】
請求項18に記載の膜電極複合体を具備し、液体燃料が供給されることを特徴とする直接メタノール型燃料電池。
【請求項20】
前記液体燃料は、濃度が50モル%を越えるメタノール水溶液、または液体のメタノールであることを特徴とする請求項19に記載の直接メタノール型燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2010−153145(P2010−153145A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328714(P2008−328714)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】