説明

直接的凝固因子阻害剤を決定するためのへパリン非感受性方法

【課題】ヘパリン及びその誘導体に非感受性であり且つ凝固測定システムで直ちに自動化することができる、凝固因子阻害剤を特異的に決定するための方法を提供する。
【解決手段】試料中の凝固因子の直接的阻害剤を決定するための方法であって、以下の各工程:a)試料と酸化剤とを混合して反応混合物を形成する工程;b)前記反応混合物をインキュベートする工程;c)前記反応混合物と、前記酸化剤を中和する薬剤とを、混合する工程;d)定義された量の活性化凝固因子を前記反応混合物に添加する工程;及びe)添加された前記活性化凝固因子の阻害を決定する工程;を備える方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固診断薬の分野の発明であって、試料中の直接的凝固因子阻害剤、特に直接的トロンビン阻害剤及び直接的第Xa因子阻害剤、を決定するためのヘパリン非感受性方法並びにこのような方法で使用するためのアッセイキットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
抗凝固療法において、新規な直接的凝固阻害剤、特に直接的トロンビン(第IIa因子)阻害剤及び直接的第Xa因子阻害剤の使用が増加している。前記新規な凝固阻害剤は、現在まで使用されている間接的凝固阻害剤、とりわけ抗トロンビン又はヘパリン補因子II等の補因子との協働下でしか凝固阻害作用を発生することのないへパリン及びその誘導体、に取って代わる可能性を有する。しかしながら、現在のところ、各種のヘパリンが、主に使用され続けている。
【0003】
全てのヘパリンの凝固阻害作用は、活性化凝固因子の最も重要な血漿阻害剤である抗トロンビン(AT、抗トロンビンIII)と複合体を形成することに基づいている。抗トロンビンは、セリンプロテアーゼ阻害剤(セルピン)の群の一部であり、凝固因子トロンビン(第IIa因子、第FIIa因子)及び第Xa因子(FXa)を阻害し、他のセリンプロテアーゼFIXa、FXIa、FXIIa、カリクレイン及びプラスミンをも、僅かな程度、阻害する。ヘパリンの抗トロンビンへの結合は、抗トロンビンの一部の立体配座変化を生じ、抗トロンビンの阻害活性を何倍にも増強する。抗トロンビンへの結合の責任を負うヘパリン分子の結合部位は、特徴的な五糖類配列から成る。この五糖類の完全合成形(フォンダパリヌクス)は、UFH又はLMWHと同様に、凝固能力の薬物による阻害のために使用される。
【0004】
未分画ヘパリン(UFH)及び分画ヘパリン、ヘパリン誘導体、ヘパリン類似物質並びに五糖類は、相異なる凝固作用を有する。UFHがトロンビン及び第Xa因子を同等に阻害するのに対して、LMWHは第Xa因子阻害作用を主に示し、トロンビン阻害作用をより低い程度でのみ示す。フォンダパリヌクス等の五糖類は、第Xa因子を選択的に阻害し、トロンビン阻害を全く示さない。
【0005】
しかしながら、ある病理学的状態において、例えばヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の場合、ヘパリンによる処理は断念しなければならず、他の抗凝固剤、好ましくは直接的トロンビン阻害剤及び/又は直接的第Xa因子阻害剤、が患者に投与されねばならない。これらの患者では、トロンビン阻害又は第Xa因子阻害の直接的及び間接的構成要素を独立して決定できる診断方法を利用できるようにする必要がある。
【0006】
トロンビン阻害剤及び第Xa因子阻害剤は、通常、発色アッセイを使用して決定される。これらのアッセイでは、トロンビン阻害剤又は第Xa因子阻害剤を含有する患者の試料が、対応する活性化凝固因子の定義された量及び活性化凝固因子のための発色基質と混合されて、反応混合物中に残存する凝固因子活性が測光法で測定される。患者試料中の阻害剤の濃度が高いほど、添加された凝固因子の活性が大きく阻害され、反応混合物中で活性が低く測定される。例えば、特許文献1又は特許文献2は、このようなトロンビン又は第Xa因子に基づく発色アッセイについて記載している。
【0007】
しかしながら、このアッセイの原理の欠点は、阻害活性が、トロンビン若しくは第Xa因子によって又は間接若しくは直接的阻害剤によって引き起こされたのか、或いはどの程度、引き起こされたのかを識別することができずに、何らかの種類のトロンビン阻害活性又は第Xa因子阻害活性が測定されることである。
【0008】
先行技術において、この問題は、トロンビン又はヘパリン以外の第Xa因子阻害剤を測定すべきアッセイ中のヘパリンの阻害活性を中和し又はマスキングすることによって解決される。
【0009】
第一の公知の方法において、試料中に含有されるいずれのヘパリンもヘパリン分解酵素、例えばヘパリナーゼ、を患者の試料に添加することによって分解される。ヘパリナーゼの活性により、ヘパリン及びグリコサミノグリカン配列を有する全てのヘパリン誘導体の酵素分解が生じ、その結果、抗トロンビンに仲立ちされた、ヘパリンの間接的阻害活性が除去される。グリコサミノグリカン配列を有さない、その他のトロンビン阻害剤又は直接的第Xa因子阻害剤は、試料のこのような前処理の後に定量できる。この原理は特許文献3に記載されている。
【0010】
ヘパリンの存在下で直接的第Xa因子阻害剤を決定するための他の公知の方法において、ポリエチレングリコールを接合した第Xa因子が試料に添加され、その阻害が発色基質を使用して決定される。ポリエチレングリコールを接合した第Xa因子は、直接的FXa阻害剤、例えばリバロキサバン、によって阻害できるが、抗トロンビン−ヘパリン複合体によっては、阻害できない。従って、修飾第Xa因子の使用によって、ヘパリンの存在下での直接的第Xa因子阻害剤を特異的に決定することが可能になる(非特許文献1)。
【0011】
ヘパリンの存在下での直接的第Xa因子阻害剤を決定するためのもう1つの公知の方法において、第Xa因子及びその阻害は、カオトロピック物質の存在下で、発色基質を使用して決定される。カオトロピック物質は、抗トロンビン−ヘパリン相互作用を、見掛け上、防止するので、この方法は、ヘパリンの第Xa因子阻害作用に対して非感受性であり、従って、直接的第Xa因子阻害剤、例えばリバロキサバン、の特異的決定に好適である(非特許文献2)。
【0012】
患者試料中のヘパリンを中和するための、また別の公知の方法は、臭化ヘキサジメトリン(ポリブレン(登録商標))等のポリカチオンの添加又は銅塩若しくは亜鉛塩等の金属塩の添加を含み、そのイオンがヘパリンと複合体を形成する(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許第0034320B1号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0004271A2号明細書
【特許文献3】米国特許第5,262,325号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第0697463A1号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Poster abstract P17−05,Lange,U.et al.,A simple and specific assay for direct factor Xa inhibitors in plasma without interference by heparins.Conference edition of Haemostaseologie 1/2010
【非特許文献2】Poster abstract P01−17,Samama,M.M.et al.,Specific and rapid measurement of rivaroxaban using a new,dedicated chromogenic assay.Conference edition of Haemostaseologie 1/2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、ヘパリン及びその誘導体に非感受性であり且つ凝固測定システムで直ちに自動化することができる、凝固因子阻害剤を特異的に決定するための、新規な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、先ず、ヘパリンの含有が疑われる試料及び1つ以上の直接的凝固阻害剤と酸化剤とを混合して反応混合物を形成し、そのインキュベーションを行なうことと、続いて、この反応混合物と、前記酸化剤を中和する薬剤とを、混合することとによって達成される。これにより、抗トロンビン−ヘパリン相互作用が防止されるので、ヘパリンのトロンビン阻害活性及び第Xa因子阻害活性が除去され、その結果、次に、添加された活性化凝固因子、例えばトロンビン又は第Xa因子、の阻害を決定する際に、直接的凝固阻害剤の阻害効果のみが特異的に測定される。
【0017】
本発明は、従って、試料中の凝固因子の直接的阻害剤を決定するための方法であって、以下の各工程:
a)試料と酸化剤とを混合して反応混合物を形成する工程;
b)前記反応混合物をインキュベートする工程;
c)前記反応混合物と、前記酸化剤を中和する薬剤とを、混合する工程;
d)定義された量の活性化凝固因子を前記反応混合物に添加する工程;及び
e)添加された前記活性化凝固因子の阻害を決定する工程;
を備える方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ヘパリン含有試料におけるリバロキサバン特異的第Xa因子阻害の決定(実施例2を参照)。 曲線1:ヘパリン(R0からR5)を有さず、本発明による前処理なしの、リバロキサバン含有血漿。 曲線2:ヘパリン(R0HからR5H)を有し、本発明による前処理なしの、リバロキサバン含有血漿;測定された阻害は、リバロキサバン阻害及びヘパリン阻害の和である。 曲線3:ヘパリン(R0からR5)を有さず、本発明による前処理ありの、リバロキサバン含有血漿。 曲線4:ヘパリン(R0HからR5H)を有し、本発明による前処理ありの、リバロキサバン含有血漿;測定された阻害はリバロキサバン阻害に相当する(曲線1又は3を参照);ヘパリン阻害は、本発明による前処理によって除去されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
「凝固因子の直接的阻害剤」又は「直接抗凝固剤」という用語は、凝固因子との直接相互作用によって凝固因子の活性を低下させる、非生理学的な、好ましくは治療に有効な、物質に関する。本発明方法によって好適に決定できる凝固因子の直接的阻害剤は、特に、凝固因子トロンビンの直接的阻害剤、例えばヒルジン、ダビガトラン、メラガトラン、アルガトロバン、キシメラガトラン、ビバリルジン、レピルジン、MCC−977、SSR−182289、TGN−255、TGN−167、ARC−183及びオジパルシル、又は凝固因子第Xa因子の直接的阻害剤、例えばリバロキサバン、アピキサバン、オタミキサバン(これらは、新規クラスの薬物であるキサバンに分類される)、LY 517717、YM 153、DU−176b、DX−9065a及びKFA−1982である。
【0020】
直接的阻害剤は、抗トロンビン又はヘパリン補因子IIのような生理学的補因子との相互作用によってのみ凝固因子の活性を低下させる、「間接的阻害剤」又は「間接的抗凝固剤」、とは区別されるべきである。本発明方法がそれに対して非感受性である、凝固因子の間接的阻害剤は、特に、少なくとも1つのグリコサミノグリカン配列を有するヘパリン及びヘパリン様物質、例えば未分画高分子量ヘパリン(HMWH、UFH)、分画低分子量ヘパリン(LMWH)、ヘパリン誘導体及びヘパリン類似物質、である。ヘパリン誘導体及びヘパリン類似物質は、グリカン鎖長の特異的操作、硫酸化若しくはアセチル化パターンによりバイオテクノロジー的に修飾されていてもよい抗凝固特性を有する酵素的に及び/若しくは化学的に修飾されたグリコサミノグリカン鎖であるか、又は異なるグリコサミノグリカンの混合物、例えばダナパロイドナトリウムの場合には、主にヘパラン硫酸とより少ない比率のデルマタン硫酸及びコンドロイチン硫酸とから成るグリコサミノグリカン、の混合物である。五糖類フォンダパリヌクス等の合成ヘパリンも抗トロンビンを介した間接的効果を有する。本発明の目的に関して、「ヘパリン」という用語は、以下、上述のヘパリン、ヘパリン類似物質及びヘパリン誘導体の全てを包含する。
【0021】
「酸化剤」という用語は、血漿セリンプロテアーゼ阻害剤の立体適合性の(sterically relevant)アミノ酸、特に抗トロンビン、の酸化を引き起こす物質を包含する。立体適合性のアミノ酸の酸化は、セリンプロテアーゼ阻害剤の活性配座の形成を防止し、従って、第Xa因子又は第IIa因子等のセリンプロテアーゼの活性部位の阻害を防止する。好ましい酸化剤は、中性pH範囲において活性な、例えば次亜塩素酸及びその塩、例えば次亜塩素酸ナトリウム又はカリウム、である。これはアッセイすべき検体、即ち、直接的凝固因子阻害剤、が反応混合物の極端なpH値のせいで分解されることがないという利点を有する。多くの場合において、メチオニンが、セリンプロテアーゼ阻害剤における立体適合性配座の形成に関与する。従って、他の好ましい酸化剤は、反応性ハロゲン、過酸化水素、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸、クロラミンB、クロラミンT、次亜塩素酸及びN−クロロスクシンイミド並びに上に挙げた物質の塩から成る群から選ばれる物質であり、これらは、メチオニンを酸化してメチオニンスルホキシドを生じ、かくして、セリンプロテアーゼ阻害剤活性を遮断する(Shechter,Y.et.al.,Selective oxidation of methionine residues in proteins.Biochemistry 1975,14(20),4497−4503も参照)。
【0022】
「酸化剤を中和する薬剤」という用語は、使用した酸化剤の酸化活性を中和する物質、即ち、酸化剤を無効にする物質、を包含し、従って、酸化剤は、測定原理に影響し得る更なる干渉を一切引き起こせない。酸化剤の酸化活性を中和する好適な薬剤は、温和な還元剤である。最も単純な場合において、ハロゲン酸、好ましくは塩素酸の低モル水溶液、例えば塩酸、はこの目的のために十分であり、酸化剤を不安定化するので、両成分は、水性系において反応を完了することができる。代わりに、フルクトース、ポリオール、フルーツ酸及びその塩も使用することができる。後続の反応工程を妨害する可能性がある、より強い還元剤は全て、例えばホウ酸は、好適でない。
【0023】
「試料」は、本発明の目的のために、決定すべき直接的凝固阻害剤を含有することが疑われる材料を意味すると理解すべきである。試料という用語は、特に、ヒト又は動物の体液、とりわけ、血液、血漿及び血清を包含する。
【0024】
凝固因子の直接的阻害剤を決定するための本発明方法は、とりわけ、試料と酸化剤とを混合して反応混合物を形成する工程を含み、反応混合物が、次に、限定された期間に亘ってインキュベートされ、その後、酸化剤を中和する薬剤が反応混合物に添加される。
【0025】
酸化剤添加後の反応混合物のインキュベーション持続時間は、中和剤が添加される前の30秒以上であるべきである。好ましくは、反応混合物は、約30〜180秒の期間、特に好ましくは90から120秒の期間、に亘ってインキュベートされる。
【0026】
このように前処理された試料は、次に、伝統的な凝固因子活性アッセイに供され、このアッセイでは、決定すべき直接的凝固阻害剤に特異的な定義された量の活性化凝固因子が、本発明に従って前処理された、試料に添加される。結果的に、直接的トロンビン阻害剤を決定する方法の場合は、定義された量のトロンビンが添加され、直接的第Xa因子阻害剤を決定する方法の場合は、定義された量の第Xa因子が添加され、添加された凝固因子の活性の阻害剤依存不活性化が測定される。好ましくは、添加された凝固因子のアミド分解活性の阻害剤依存不活性化は、活性化凝固因子によって特異的に切断される、発色基質、蛍光発生基質又は異なる標識を付された基質を使用して、決定される。基質の切断可能なシグナル群は、例えば、スペクトルの可視範囲で決定可能な染料、蛍光染料又はUV範囲で決定可能な染料であってもよい。好ましくは、アルギニン残基のカルボキシ基上にアミド結合を介して結合された発色団を有するペプチドが使用される。この目的のために特に好適なのは、p−ニトロアニリド(pNA)基及び5−アミノ−2−ニトロ安息香酸(ANBA)誘導体、及び同様に置換によりそれから誘導される染料であり、これらは、ペプチド部分の除去後に、波長405nmにおける光度測定によって、定量できる。好ましくは、切断可能な基質のペプチド部分は、3から約150のアミノ酸残基から成る。特許文献1及び米国特許第4,508,644号明細書は、多数の好適な発色ペプチド基質、その調製及び凝固診断アッセイにおける、例えば凝固因子第IIa因子(トロンビン)及び第Xa因子の決定のための、その使用について、記載している。
【0027】
シグナルを発生する放出された切断生成物、例えば発色、蛍光発生又は電流発生群の量は、試料中の阻害剤の活性又は濃度と反比例する。既知の阻害剤活性を有する試料の測定から得られた較正曲線を使用して、患者試料中の直接的凝固阻害剤の量を正確に定量することが可能である。
【0028】
アミド分解活性は、運動学的に又は終点決定として評価することができる。運動学的方法の場合、反応、即ち存在する阻害剤活性の尺度としての残存する凝固因子活性、は、切断可能な基質についての反応速度に基づいて定量される。終点決定の場合、切断反応は、所定の測定時間の後に停止され、放出された切断生成物の量が測定される。
【0029】
本発明方法の特別の利点は、本方法が、試料のヘパリン活性を決定するための伝統的な方法とは、試料の前処理においてのみ異なり、従って、このような方法と非常に良好に併用できることである。従って、例えば、試料の第1の標本、及び、本発明に従って、先ず酸化剤と、続いて前記酸化剤を中和する薬剤と混合された、同じ試料の第2の標本のそれぞれを、定義された濃度の活性化凝固因子を含有する第1の試薬及び凝固因子特異的基質を含有する第2の試薬と、混合して、添加された凝固因子の活性の阻害剤依存不活性化を決定することが可能である。第1の未処理の標本のアッセイ結果は、全体的な抗凝固潜在能力、即ち、あらゆるヘパリン活性をも含む、試料の凝固因子阻害活性の全ての和を反映している。対照的に、本発明に従って前処理された第2の標本のアッセイ結果は、試料中のあらゆる直接的凝固因子阻害剤の凝固因子阻害活性を特異的に反映している。
【0030】
本発明の更なる態様は、試料中の凝固因子の直接的阻害剤を決定するための本発明方法を行なうためのアッセイキットであって、少なくとも2つの試薬を含有し、試薬の一方は酸化剤を含有し他方は酸化剤を中和する薬剤を含有するアッセイキットに関する。試薬は、更に、保存料を含有していてもよく、液体試薬として又は凍結乾燥物として提供され得る。好ましいアッセイキットは、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを含有する第1の試薬及び中和剤として塩酸を含有する第2の試薬を含有する。
【0031】
本発明によるアッセイキットは、更なる試薬、特に好ましくは活性化凝固因子、好ましくはトロンビン若しくは第Xa因子、を含有する試薬、及び/又は、検出可能なシグナル基を有する、活性化凝固因子のための、基質を含有する試薬を、更に、含有するのが好ましい。
【0032】
本発明によるアッセイキットの試薬は、液体又は凍結乾燥形で提供され得る。アッセイキットのいくつか又は全ての試薬が凍結乾燥物として存在する場合、アッセイキットは、更に、凍結乾燥物を溶解するために必要な溶媒、例えば蒸留水、好適な緩衝剤及び/又は標準ヒト血漿を含有してもよい。
【実施例】
【0033】
以下の例示的な実施態様は、本発明を例証する役割を果たすものであり、本発明を制限するものとして理解されるべきではない。
(実施例1)
【0034】
酸化剤及び中和剤の添加による、試料中のヘパリン活性の除去
【0035】
(実施例1a)
本発明に従って前処理された試料における直接的第Xa因子阻害剤の決定
種々の量の直接的凝固因子阻害剤(直接的第Xa因子阻害剤としてのリバロキサバン、直接的トロンビン阻害剤としてのアルガトロバン)又は間接的凝固因子阻害剤(フォンダパリヌクス五糖化物[アリクストラ(登録商標)]及び高分子量ヘパリン[HMWH])を、正常ヒト血清に添加した。
【0036】
血清試料20μLを、酸化剤としての0.1%力価次亜塩素酸(次亜塩素酸ナトリウム)10μLと混合して、反応混合物を+37℃で30秒間インキュベートした。続いて0.1%力価塩酸溶液10μLを反応混合物に添加して酸化剤を中和し、反応混合物を+37℃で30秒間インキュベートした。続いて、第Xa因子試薬95μL(ヒト第Xa因子、1U/ml TRIS緩衝液中、pH8.0)を反応混合物に添加して、反応混合物を+37℃で30秒間インキュベートした。続いて、発色性第Xa因子基質80μL(Z−D−Leu−Gly−Arg−ANBA−メチルアミド、4ミリモル/L)を反応混合物に添加して、基質の変換率(ΔA/時間)を、自動化凝固測定機器(BCS(登録商標)System、シーメンス ヘルスケア ダイアグノスティックス社製)を用いて、405nmの波長で決定した。
【0037】
いずれの阻害剤も有さない血漿と比較した基質変換率の低下は、試料中の阻害剤の量と相関している。
【0038】
結果を表1に示す。本発明による試料の前処理は、アリクストラ(フォンダパリヌクス)又は高分子量ヘパリン等の間接的阻害剤による第Xa因子の阻害をほぼ完全に排除する。しかしながら、リバロキサバン等の直接的阻害剤等の第Xa因子阻害作用は、本発明による試料の前処理によって損なわれない。直接的トロンビン阻害剤(アルガトロバン)を含有する試料において、とにかく第Xa因子阻害は起こらない。
【0039】
【表1】

【0040】
(実施例1b)
本発明に従って前処理された試料における直接トロンビン阻害剤の決定
血清試料20μLを酸化剤としての0.1%力価次亜塩素酸(次亜塩素酸ナトリウム)10μLと混合して、反応混合物を+37℃で30秒間インキュベートした。続いて、0.1%力価塩酸溶液10μLを反応混合物に添加して酸化剤を中和し、反応混合物を+37℃で30秒間インキュベートした。続いて、トロンビン試薬140μL(ウシトロンビン、6U/mL)を反応混合物に添加して、反応混合物を+37℃で30秒間インキュベートした。続いて、発色性トロンビン基質50μL(Tos−L−Gly−Pro−Arg−ANBA−イソプロピルアミド、4ミリモル/L)を反応混合物に添加して、基質の変換率(ΔA/時間)を、自動化凝固測定機器(BCS(登録商標)System、シーメンス ヘルスケア ダイアグノスティックス社製)を用いて、405nmの波長で決定した。
【0041】
いずれの阻害剤も有さない血漿と比較した基質変換率の低下は、試料中の阻害剤の量と相関している。
【0042】
結果を表2に示す。本発明による試料の前処理は、アリクストラ(フォンダパリヌクス)又は高分子量ヘパリン等の間接的阻害剤によるトロンビンの阻害をほぼ完全に排除する。しかしながら、アルガトロバン等の直接的阻害剤等のトロンビン阻害作用は、本発明による試料の前処理によって損なわれない。直接的第Xa因子阻害剤(リバロキサバン)を含有する試料において、とにかくトロンビン阻害は起こらない。
【0043】
【表2】

【0044】
(実施例2)
ヘパリン含有試料における直接的第Xa因子阻害剤リバロキサバンの特異的決定
種々の量の直接的第Xa因子阻害剤リバロキサバン、又は、種々の量の直接的第Xa因子阻害剤リバロキサバンと種々の量の第Xa因子間接的阻害剤ヘパリン(HMWH)とを、正常ヒト血漿に添加した(表3を参照)。
【0045】
【表3】

【0046】
血清試料9μLを、最初に水6μLと、次に酸化剤としての0.1%力価次亜塩素酸(次亜塩素酸ナトリウム)8μLと、混合して、37℃まで加熱した。続いて、0.1%力価塩酸溶液8μLを反応混合物に添加して、酸化剤を中和し、反応混合物を+37℃で120秒間インキュベートした。続いて、第Xa因子試薬150μL(ヒト第Xa因子、1U/mL TRIS緩衝液中、pH8.0)を反応混合物に添加して、反応混合物を+37℃で120秒間インキュベートした。続いて、発色性第Xa因子基質30μL(Z−D−Leu−Gly−Arg−ANBA−メチルアミド、4ミリモル/L)を反応混合物に添加して、基質の変換率(ΔA/時間)を、自動化凝固測定機器(BCS(登録商標)System、シーメンス ヘルスケア ダイアグノスティックス社製)を用いて、405nmの波長で決定した。
【0047】
並行して、本発明による前処理なしの、0.1%力価次亜塩素酸及び0.1%力価塩酸溶液を有する試料を、上記の方法を使用してアッセイした。
【0048】
いずれの阻害剤も有さない血漿と比較した基質変換率の低下は、試料中の阻害剤の量と相関している。
【0049】
結果を図1に示す。本発明によるリバロキサバン及びヘパリンを含有する試料の前処理は、リバロキサバンによる第Xa因子阻害に相当する第Xa因子阻害のみが測定されるという効果を有する(前処理なしの曲線2、及び前処理ありの曲線4を比較)。従って、本発明による方法は、ヘパリン含有試料におけるリバロキサバン活性の特異的決定を可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の凝固因子の直接的阻害剤を決定するための方法であって、以下の各工程:
a)試料と酸化剤とを混合して反応混合物を形成する工程;
b)前記反応混合物をインキュベートする工程;
c)前記反応混合物と、前記酸化剤を中和する薬剤とを、混合する工程;
d)定義された量の活性化凝固因子を前記反応混合物に添加する工程;及び
e)添加された前記活性化凝固因子の阻害を決定する工程;
を備える方法。
【請求項2】
工程a)において、前記試料が、次亜塩素酸、次亜塩素酸の塩、特に次亜塩素酸ナトリウム及びカリウム、反応性ハロゲン、過酸化水素、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸、クロラミンB、クロラミンT、次亜塩素酸及びN−クロロスクシンイミド並びにこれらの塩から成る群から選ばれる酸化剤と、混合される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程c)において、前記反応混合物が、ハロゲン酸、好ましくは塩素酸の低モル水溶液、特に好ましくは塩酸;フルクトース;ポリオール;並びにフルーツ酸及びその塩から成る群から選ばれる中和剤と、混合される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程b)のインキュベーションの持続時間が、少なくとも約30秒、好ましくは約30から180秒、特に好ましくは約90から120秒、である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程d)において、定義された量の活性化凝固因子トロンビンが前記反応混合物に添加される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ヒルジン、ダビガトラン、メラガトラン、アルガトロバン、キシメラガトラン、ビバリルジン、レピルジン、MCC−977、SSR−182289、TGN−255、TGN−167、ARC−183及びオジパルシルから成る群から直接的トロンビン阻害剤を決定するための、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程d)において、定義された量の活性化凝固因子第Xa因子が前記反応混合物に添加される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
リバロキサバン、アピキサバン、オタミキサバン、LY 517717、YM 153、DU−176b、DX−9065a及びKFA−1982から成る群から直接的第Xa因子阻害剤を決定するための、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程c)の後に、前記活性化凝固因子によって特異的に切断される発色基質、蛍光発生基質又は異なる標識を付された基質が、更に、前記反応混合物に添加され、放出されたシグナル生成切断生成物の量が測定される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも酸化剤、好ましくは次亜塩素酸ナトリウム、を含有する第1の試薬、及び、酸化剤を中和する薬剤、好ましくは塩酸、を含有する第2の試薬を含有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法を行なうためのアッセイキット。
【請求項11】
活性化凝固因子、好ましくはトロンビン若しくは第Xa因子、を含有する試薬、及び/又は、検出可能なシグナル基を有する、前記活性化凝固因子のための基質を含有する試薬を、更に、含有する、請求項10に記載のアッセイキット。

【図1】
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【公開番号】特開2012−163560(P2012−163560A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−20919(P2012−20919)
【出願日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【出願人】(398032751)シーメンス・ヘルスケア・ダイアグノスティックス・プロダクツ・ゲーエムベーハー (36)
【Fターム(参考)】