説明

直接酸化型燃料電池およびそれの作動方法

本発明は、少なくとも1つの流体燃料が、燃料リザーバから流体分配構造体を介して膜電極組立体へ輸送され、その燃料の輸送が、受動的に、即ち、対流なしで達成される直接酸化型燃料電池を作動させるための方法に関する。さらに本発明は、対応する直接酸化型燃料電池に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの流体燃料が燃料リザーバから流体分配構造体を介して膜電極組立体へ輸送され、その燃料の輸送が受動的に、即ち、対流なしに達成される直接酸化型燃料電池を作動させるための方法に関する。さらに本発明は、対応する直接酸化型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
小型電気消費物(PDA、携帯電話など)のエネルギー必要量は絶えず増加している。しかしながら、マイクロプロセッサは過去10年間で約30倍速くなったが、電池のエネルギー密度は2倍になっただけである。燃料電池は、この状況において、従来の電池および蓄電池に対する可能な代替物または補完物とみなされる。液体燃料電池は、比較的容易に取り扱うことが可能であり、一般に電池または蓄電池よりもある倍数だけ高いエネルギー密度を有するので、特に直接酸化型燃料電池(例えば、直接メタノール型燃料電池)は、特別に見込みのある携帯エネルギー源と考えられる。
【0003】
直接酸化型燃料電池の作動に対する本質的な課題の1つは、アノード側における炭素含有液体燃料の酸化中の二酸化炭素気泡の生成に在る。例として、水の助けによるメタノールの酸化、即ち、CHOH+HO→CO+6H+6eを挙げてもよい。これらの気泡は、ガス拡散層の内部または燃料分配構造体内に固定されるようになる可能性があり、従って活性電池表面および燃料電池の性能を低減するおそれがある。
【0004】
標準的な作動モードでは、直接酸化型燃料電池に液体燃料を提供するポンプは連続運転される。気泡は、全体的に超化学量論的な体積流量を持つ液体内に溶解されるまたは液体とともに燃料電池から洗い出され、それに続くステップで液体燃料から分離される。これは、ポンプのかなり大きな電力必要量が伴うポンプの連続運転を必要とし、その結果として、全燃料電池システムのシステム効率を低減する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
連続的に作動されるシステムの最新技術から出発して、燃料電池のより高いシステム効率が達成されうるように、直接酸化型燃料電池の作動を改善することが本発明の目的であった。さらに、それによっていわゆる燃料のクロスオーバー、即ち、膜を通じての消費されない燃料の透過が防がれるシステムが、提供されることが意図された。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、請求項1の特性を示す特徴を有する一般的な方法および請求項15の特性を示す特徴を有する一般的な直接酸化型燃料電池によって達成される。追加の従属クレームは有利な展開を示す。
【0007】
本発明によると、少なくとも1つの流体燃料が燃料リザーバから流体分配構造体を介して膜電極組立体へ輸送される直接酸化型燃料電池を作動させるための方法が提供される。本発明は、少なくとも1つの流体燃料の輸送が対流なしに達成され、その輸送がもっぱら燃料の拡散および少なくとも1つの追加の流体に基づく点において区別される。
【0008】
本発明による方法の助けにより、能動的な、即ち、対流的な、例えばポンプの助けによる燃料供給は、完全に省略できる。拡散経路の正確な調節により、膜における最適燃料濃度が調節されうることが、本発明によって可能となる。このようにして、いわゆる燃料のクロスオーバー、即ち、膜を通じての消費されない燃料の透過が最小化できる。能動部品、例えば、ポンプなどは省略できるという事実のために、本発明による方法は、直接酸化型燃料電池の効率が、最新技術により知られる方法に対して著しく増加できるという実質的な利点を与える。
【0009】
好ましくは、本発明によるプロセスにおける少なくとも1つの追加の流体は、少なくとも部分的に電気化学的に再循環される。例えばDMFCの場合には、メタノールは水と反応させられて、アノード側にCOを形成する。カソード側では、消費された水が次いで再度電気化学的に再循環される。
【0010】
本発明による方法の好ましい変形は、燃料電池が、燃料リザーバに接続される穴のあいた隔膜および/または多孔質膜を有することを提供する。しかしながら、規則的に配置された開口部を持つ全ての構造体もまた、本明細書で使用できる。したがって、燃料はリザーバから穴または孔にまで通ることができる。穴および/または孔の直径はその結果、電気化学反応、したがって膜電極組立体への燃料の輸送に適した拡散が保証されるように選択される。
【0011】
受動的燃料供給、即ち、対流輸送のない供給はその結果、様々なパラメータの関数である。特定の位置に行き渡っている燃料の濃度は、拡散方程式を用いて計算できる。これは、メタノールが燃料として使用される直接メタノール型燃料電池(DMFC)の例において、明らかにされることが意図されている。この場合、燃料電池は、膜電極組立体から間隔dのところに穴のあいた隔膜または多孔質膜を有する。点ソースおよび間隔dにあるシンクに基づく1次元定常拡散モデルは、計算のための基礎として役立つ。これは、図6を参照して明らかにされる。所要の穴または孔の直径を計算可能とするために、その表面積がa=πrで近似され、供給されるべき膜電極組立体の部分(「シンク」)の表面積は球状キャップA=2πdで近似される。
【0012】
その結果、拡散方程式は次の結果になる。
【0013】
AΦ=DΔC
ここで、Φはメタノール消費量を表し、ΔCは濃度差を表す。それの計算は、次の方程式に従って達成される。
【0014】
【数1】

ソース半径rはそれらから決定できる。
【0015】
【数2】

ここで、パラメータは次の意味を有する。
d=穴または孔と膜電極組立体との間の間隔
Φ=燃料電池の燃料消費量
=膜電極組立体における燃料の濃度
=穴または孔における燃料の濃度
D=少なくとも1つの追加の流体内での燃料の拡散定数
j=燃料電池の電流密度
η=燃料電池の効率
T=燃料電池の作動温度
したがって、表1に挙げられているモデルパラメータを使用すると、間隔d=100μmに対して、ソースに対する半径r≒51.5μmが生成される。
【0016】
【表1】

実際的なパラメータを使って計算されるこの簡単なモデルを参照すると、純粋に拡散によってDMFCを、および特にマイクロDMFCを供給することが可能なことが示される。MEAにおいて消費される燃料は、もっぱら拡散によって液相で供給される。もし供給部が正しい寸法にされているならば(ここで、開口部は表面積aを持つ)、一定濃度Cでの連続作動が可能となる。
【0017】
具体的には、このような電池は、濃度Cを持つ反応に必要な混合物が、「穴のあいた板」または多孔質構造体を用いて、濃度Cを持つ純粋な燃料から分離されるように形成できる。自然拡散はそのとき、燃料分子をCからCへの濃度勾配の方向へ絶えず駆動する。多孔性開口部、または分離壁内の穴はそのとき、簡単化されたモデルで上述されたように、ソースとしての機能を果たす。
【0018】
膜電極組立体は最新技術により知られる構成を有する。したがって、後者は、例えばナフィオン(Nafion)で作られたプロトン伝導性膜から、ならびにまたそれぞれアノード側およびカソード側の触媒層および拡散層から成る。プロトン伝導性膜はその結果、燃料および反応生成物に対して不透過性であるべきである。
【0019】
触媒層に関しては、これらの材料は、大きな活性表面、一酸化炭素に対する抵抗力を有し、できる限り副次的反応または副産物を有さないことが好ましいとすべきである。特に好ましくは、触媒層はその結果、白金、ルテニウムおよび/またはその合金を含む。
【0020】
拡散層は、燃料のアノード触媒層への輸送および/または追加の抽出物のカソード触媒層への輸送を可能にすることが意図される。さらに、拡散層は、ガス状反応生成物のアノード触媒層からの輸送または反応生成物のカソード触媒層からの輸送を可能にしなければならない。拡散層の追加の必要条件は、電子を伝導させるためのその特性に関係する。
【0021】
拡散層の代わりに、微細構造体もまた使用できる。
【0022】
本発明による方法のさらに好ましい変形は、液体燃料のガス抜きが燃料電池内でさらに達成されることを提供する。この変形は、流体分配構造体の微細構造化を提供し、それを用いてガス状媒体を流体分配構造体から離れる方へ輸送することが支援される。この変形に関して、図1から4が参照される。
【0023】
ガス抜きのためのもう1つの変形は、燃料電池が、アノード側において、ガスおよび液体に対して不透過性である少なくとも1つのバリア層を有することを提供する。結果として、液体は流体分配構造体内に保持でき、ガスは流体分配構造体から離れる方へ輸送できる。この変形に関して、図5が参照される。バリア層はその結果、疎油性膜であることが好ましい。しかしながら、微細構造体またはセラミックもまた同様にバリア層として使用できる。バリア層の配置に関して、第1の好ましい変形は、後者が、MEAから離れる方に向きを合わせられた流体分配構造体の側に位置するアノード側端板とアノード側流体分配構造体との間に配置されることを提供する。もう1つの好ましい変形は、バリア層が、アノード側流体分配構造体から離れる方に向きを合わせられたアノード側端板の側に配置されることを提供する。端板はガス抜きの穴を有することが好ましい。
【0024】
本発明による主題は、前記主題を本明細書で示される特別な実施形態に制限することを望むことなく、後に続く図を参照してさらに詳細に説明されることが意図される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
同じチャネル1が図1で4回例示され、前記チャネルは、それ自身は例示されない化学微小反応装置内に組み込まれており、触媒膜と隣接する図の底部にそれぞれ位置する横方向表面2と一緒にそこに配置される。チャネル1は、本事例では液体を含む流動性媒体を伝導する。必要条件に従って、化学微小反応装置の作動は、横方向表面2上でチャネル1内に入り、そこで気泡を形成する触媒膜上でのガスの形成を含む。このような気泡によって形成される含有物3は、4つの連続する時間においてa)、b)、c)およびd)で特徴づけられる説明図で、図1で例示され、説明図b)は説明図a)で示される時間の0.000755秒後の時間を再現しており、説明図c)は0.001175秒後および説明図d)は0.00301秒後である。
【0026】
異なるが、同様に設計されたデバイスの場合には、含有物3は、チャネル1を通じて伝導される媒体と区別できる流体によってもまた形成されうる。各流動性媒体が、液体としてではなくガスとして存在することもまた可能であろう。本明細書で述べられる場合には、流動性媒体は、図1でそれぞれ左側に位置する端部からチャネル1に供給される液体反応物質に関連する。図1でそれぞれ右側に位置して例示されるチャネル1の一端部において、後者は、端の開いたチャネル出口4を有し、それを通じて含有物3を形成するガスが微小反応装置の周囲へ抜け出ることができる。
【0027】
チャネル1はT状輪郭を形成する横断面を有し、横方向表面2は、T状輪郭の横棒部分から突き出る追加の棒部分を終端させる。含有物3の表面エネルギーの最小化を達成する毛細管力のために、最初に横方向表面2上に形成された含有物3は、先述の追加の棒部分が横棒部分と接する位置まで上昇し、その結果として含有物3は、横方向表面2と隣接する触媒膜から除去される。
【0028】
さらに、チャネル1は次に、毛細管力が再度それに作用する形へと含有物3を強制する幾何学形状を有し、その力は含有物3をチャネル1に沿ってチャネル出口4まで移動させる。この幾何学形状は、チャネル1に沿ったチャネル出口4までの比A’/l’および比A/lが厳密に単調にかつ一定に増加するということで特徴づけられ、ここで、チャネル1の長手方向に垂直なチャネル1の各横断面に対して、値Aはこの横断面の面積として、値lはこの横断面の周囲長として定義され、一方、この横断面内に位置する密着する表面の面積をA’、その密着する表面の周囲線の長さをl’と称することができ、この表面は、横断面内に位置する全ての他の密着する表面と比較されるA’/l’が最大値を取ると定義され、θは、チャネル1によって伝導される流動性媒体と含有物3を形成するガス(または本発明の他の実施形態では液体流体)との間のチャネル壁5上のそれぞれの横断面のレベルにおいて設定され、最初に述べた流動性媒体内に完全に位置するぬれ角と定義される。本実施例では、特にsine(cosθ)=+1が当てはまり、従ってまた値sine(cosθ)A’/l’およびsine(cosθ)A/lが、チャネル1に沿って端が開いたチャネル出口4へ向かって厳密に単調にかつ一定に増加するように、θ<π/2が当てはまる。
【0029】
先述の値または比の、チャネル1に沿ってチャネル出口4へ向かっての単調増加は、チャネル1の横断面の面積Aが、従ってまた横断面内で含有物3が取ろうとする表面積によい近似で対応する、横断面内に位置する表面の面積A’が、チャネルに沿って単調に増加する本事例で達成される。これらの表面積AおよびA’のチャネル1に沿っての増加はその結果、横断面の寸法が、先述のT状輪郭の横棒部分に垂直なチャネル1に沿った方向に単調に増加するように構成されることで達成され、それは、横棒部分を形成するT状輪郭の一部分を横棒部分に垂直な方向へ引き延ばして、チャネル1の進路を増加させることによって、およびそれに関連する輪郭の変化によって達成される。T状輪郭のそれぞれ横棒部分を形成するチャネル1の部分はその結果、くさび形状を得る。チャネル1の他の幾何学形状がまた考え得ることがあり、そこではチャネル1の横断面の最大直径および/またはこの横断面の寸法は、結果として毛細管力を用いて好ましい方向に含有物3の移動を生じさせるために、チャネル1に沿ってその直径に垂直な方向で単調に増加する。図1からのチャネル1の本事例では、輪郭変化は、A/lと定義される比およびA’/l’と定義される比もまたチャネル1に沿ってチャネル出口4の方向へ厳密に単調にかつ一定に増加する前述の仕方で生成される。
【0030】
最後に、チャネル1によって伝導される流動性媒体の含有物3を形成するガスのおよびチャネル壁5の表面特性の関数であるぬれ角θが、チャネル1に沿って変化する値を持つように、かつ含有物3が結果として、含有物3をチャネル出口4の方へ移動させる毛細管力を引き起こすまたは増加させる形状になるように、例えば位置依存性の被覆を用いて、チャネルに沿って変化する表面特性を持つ輪郭変化の代替としてまたはそれに加えて、チャネル1のチャネル壁5を構成することもまた可能であろう。
【0031】
図1で例示されるチャネルは、一定の縮尺ではなく、さらにチャネル1の横断面の面積Aがチャネルの始点において25000μmの値を有し、チャネル1に沿って0.7mmの長さの引き伸ばしによりチャネル出口4において95000μmの値にまで一様に増加するような寸法にされている。チャネル1はその結果、先述のT状輪郭の横棒部分の長さだけ与えられ、本事例では一定である500μmの幅を有する。横断面の変化がチャネル壁5の少なくとも1つを約0.001°だけ単に傾けることによって達成される、毛細管の対応する構成もまた可能であろう。
【0032】
例示のチャネル1を含む微小反応装置の作動中、図1でそのうちの1つが例示される含有物3は横方向表面2上で生成され、含有物3を形成するガスは、デバイスのために、横方向表面2上またはそれに隣接する触媒膜上で起こる反応の結果として、明白に固定された化学組成を有する。したがって、チャネル1の特性を述べるために先に使用されたぬれ角θもまた固定される。チャネル1の先述の幾何学形状のために、含有物3は次に、もっぱら毛細管力によって駆動されて、チャネル出口4の方へ移動させられる。
【0033】
流動性媒体を伝導する、先述のチャネル1の型の毛細管はまた、化学微小反応装置は別として、特に他の含有物をガス抜きするまたは除去するための他のデバイス、例えば詰め替え可能な液体を含むデバイスおよび詰め替えが典型的には気泡の形成と関連しているデバイスにおいても提供できる。詰め替え可能なインクカートリッジが一例として挙げられてもよい。
【0034】
燃料電池スタックのバイポーラ板内で液体反応物質を輸送する働きをし、先述のチャネル1と同様の寸法を有する同様なチャネル1が、図2で横断面図(説明図a)からf))および側面図(説明図g)およびg))として例示される。それ自身は例示されない燃料電池スタックは、本事例では、直接メタノール型燃料電池を含み、例示されるチャネル1は主として、先述の反応物質を形成するメタノールを輸送する働きをする。
【0035】
チャネル1はやはり、T状輪郭を形成する横断面を有し、図2でそれぞれ底部に位置するこのT状輪郭の横棒部分は拡散層と隣接し、その拡散層は、触媒として働き、その部分に対しては、電解質膜と隣接する。この拡散層は、燃料電池スタックの作動中にガス状二酸化炭素が生成される活性表面6を形成し、そのガス状二酸化炭素は、チャネル1内でメタノールに取り囲まれる含有物3を形成する。T状輪郭の横棒部分は、2つの端部の方へ次第に細くなる形状を有し、活性表面6から離れる方を指す追加の棒部分は、横棒部分上の中心において突き出る。a)からf)で特徴づけられる図2での説明図は、T状輪郭のこの形状が、成長する含有物3が毛細管力のために先述の追加の棒部分の方へ移動し、より大きな含有物3が途中で出会う任意のより小さな含有物3をそれ自身内に吸収するという結果を有することを例示する。本発明の他の実施形態の場合には、T状輪郭の横棒部分上の中心から始まる先述の追加の棒部分が、横棒部分から離れる方へ広くなり、それの結果として、含有物3の移動が、毛細管力のためにT状輪郭の追加の棒部分内へ、従って活性表面6から離れる方へ引き起こされうることが提供できる。同じように、本発明の変更形態では、チャネル1はまた、活性表面6に隣接する膜を持つL状輪郭(これは、横棒部分の半分を除外することによって生成されるであろう)で構成されることも可能であろう。
【0036】
先述の実施例でのように、図2で例示されるチャネル1はまた、チャネル1に沿ってチャネル出口4の方へ一定にかつ厳密に単調に増加する断面積Aも有し、A/lとして定義される比もまたチャネル出口4の方へ一定にかつ厳密に単調に増加し、ここでlはチャネル1の横断面の周囲長として定義される。含有物3は、チャネル壁5に対して、0とπ/2との間のより小さな値を持つぬれ角または接触角θを形成し、その理由のため、比A/lの先述の増加およびそれに関連する比A’/l’(A’およびl’は図1に関連して先に説明されたように定義されてもよい)の増加は、含有物3をチャネル出口4の方へ移動させる毛細管力が前記含有物に作用するという結果を有する。先述のように引き起こされる断面積Aの増加および含有物3のチャネル出口4の方への移動は、2つの時間的に連続する点を再現する説明図g)およびh)で例示される。ぬれ角θはそこでの1つの位置においてもまた例示される。
【0037】
本明細書で述べられるチャネル1と同様に、液体冷却剤を伝導し、燃料電池スタックまたはもう1つの化学微小反応装置の作動中に冷却剤の蒸気泡が形成されうる冷却剤チャネルもまた構成できる。対応するチャネル1は、例えば燃料電池のバイポーラ板内だけでなく他の電流消費物内にもまた配置できる。
【0038】
繰り返される特徴がやはり同じ参照番号で特徴づけられる図3および4は、毛細管力に帰されうる気泡輸送の先述の効果を再度例示する。図3の左側において、流動性媒体によって右側および左側を囲まれる流体の含有物3を持つチャネル1が示される。含有物3の外側で、完全に流動性媒体内に位置すると定義される接触角θは、チャネル出口4の方へ(ここから左側へ)のA/l(およびA’/l’)の増加がこの方向への気泡の輸送を達成するように、ここではπ/2よりも小さい。同じ図3において、もう1つのデバイスからのもう1つのチャネル1は右側に例示され、そこでは含有物3は同様の仕方で形成されるが、しかしながらその場合には、接触角θはπ/2よりも大きく設定される。チャネル出口4(今の場合右側に位置する)の方へのA/l(およびA’/l’)の減少は、ここでは含有物3がその方へ移動させられるという効果を有する。
【0039】
図4は、2つの例、即ち左側でθ>π/2、右側でθ<π/2において、一定のチャネル断面積を持つ場合でも、位置依存性のθ値を用いてどのように対応する効果が達成されるかを例示する。どちらの場合にも、チャネル出口4(それぞれ左側に位置する)の方へのθの増加は、それぞれの含有物3に作用し、後者をチャネル出口4の方へ移動させる力をもたらす。描かれたすべての場合において、移動は、向かい合って配置される2つの端部におけるそれぞれの含有物3の異なる毛細管圧力によって生成され、それは含有物を区切るメニスカスの異なる曲率に反映される。この効果は、図3の実施例においては、チャネルの幾何学形状に起因し、図4の実施例においては、チャネル1に沿って変化するチャネル壁5の表面被覆によって達成されうる位置依存性の接触角θに起因する。もちろん、図3および4を参照して述べられる効果はまた(特徴の組合せによって)重ね合わせもできる。
【0040】
本微細構造体を用いて、気泡の輸送のために、流体伝導チャネル1の幾何学形状がそれぞれの必要条件に従って構成される幾何学構造を特に使用することがさらに提案される。もし例えばチャネル1の横方向壁2が、反応がその上で起こる膜によって形成され、例えばできるだけ速く排出されるべく意図されるガスを生成するならば、そのときにはチャネルの幾何学形状は、単に毛細管力のためにガスが膜から離れる方へ輸送されるように構成できる。したがって、本明細書で提示される型の構造体は、ガス容積を取り去る受動的輸送に使用でき、チャネル1は好ましい方向を指示し、かなり長時間にわたってさえ受動的輸送に使用できる。気泡の排出のために、外部から作用する力、したがって例えばポンプなどの対応する外部部品はその結果必要とされない。図1および2は、数値的流れシミュレーションに基づいており、含有物3を形成するガス容積が、表面エネルギーの最小化のためにどのように横断面の特定区分内にそれぞれ移動させられ、異なる毛細管圧力の結果として、そこでどのようにチャネル1に沿った移動を強いられるかを示す。この移動は典型的には、そのときエネルギー最小が達成されるので、対応するガス容積のチャネル出口4におけるチャネル壁5からの離脱まで続く。
【0041】
したがって、化学反応装置システム内で含有物3(典型的にはガス)を形成する相の輸送のために、本明細書で述べられた型の受動システムを使用することが特に提案される。このような構造体を使用するのに適している典型的な反応装置は、例えばその上で気泡が連続的に生成される触媒膜を持つ燃料電池などの触媒反応装置である。気泡を取り去る急速な輸送によって、この膜表面がきれいに保たれるという点において、活性膜表面の閉塞は結果として防止される。さらに、結果として生じる気泡は、チャネル1の特別に適された幾何学形状の助けにより、気泡による膜表面の典型的には周期的な洗浄を自動的に保証する。この方法は、最大自由反応表面を保証し、対応する反応物質での反応装置の自動詰め替えを保証し、従って最新技術に対して大きな利点を提供する。
【0042】
気泡を形成する相の受動輸送のための所望の毛細管力がそれによって達成される幾何学構造体はまた、ウエブおよび先細形状を含むこともでき、またはそれらによって達成もできる。幾何学形状はその結果、幾何学形状のためにおよび幾何学構造の表面特徴のために、気泡を形成する相が、結果として生じる気泡の表面張力によって駆動されて、好ましい方向に移動させられるように作り出されることが意図され、気泡の輸送は典型的には排他的に受動的に達成される、即ち、単に相境界における毛細管力によって駆動される。
【0043】
図5において、燃料電池のガス抜きに関係する本発明による変形の構成が示される。これは、プロトン伝導性膜7を持つ膜電極組立体(MEA)に基づいており、その膜に触媒層8および8’がならびにまたガス拡散層9および9’がアノード側およびカソード側で隣接する。アノード側では、関連する電流コレクタ11を持つ流体分配構造体10が隣接して配置される。同じように、カソード側は、電流コレクタ11’を持つ流体分配構造体10’を有する。端板12および12’はそれぞれ両側にシールを形成し、さらにガスは透過するが液体は透過しないバリア層、例えば疎油性膜がアノード側に配置される。このバリア層13の助けにより、燃料は流体分配構造体内に保持され、一方メタノールの酸化の場合に生成される二酸化炭素は周囲へ抜け出ることができる。バリア層はまた端板12上に外部から適用できるため、バリア層の配置は強制的ではない。
【0044】
図6において、ソースから間隔dにおいて所望の濃度Cを保証するために、ソース、即ち、穴または孔の表面がどのように選択されなければならないかが概略的に例示される。所要のソースの直径を計算可能とするために、その表面はa=πrで近似され、シンクとして供給されるべき膜電極組立体の部分の表面は、球状キャップA=2πdで近似される。
【0045】
図7において、本発明による構想が、直接メタノール型燃料電池(DMFC)を用いて示される。これによる燃料電池は、多数の開口部14、14’および14’’を持つ、例えば膜の形状の、構造体13を有する。その構造体はその結果、燃料が、開口部14、14’および14’’を通じて、本事例では水で充填される流体分配構造体内へ拡散できるように、燃料リザーバに接続される。拡散は次に、所望の燃料濃度が膜電極組立体15において保証されるように調節される。
【0046】
図8において、本発明による燃料電池の構成が概略的に表わされる。開口部14から14’’’’’を提供される構造体はその結果、膜電極組立体15から間隔dに配置される。個々の開口部間の間隔はこの結果2dである。開口部の直径は2rである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】4つの時間的に連続する点における、1つの含有物を持つ微細構造体の形状での、ガス状成分を除去するためのデバイスからのチャネル部分の透視図である。
【図2】6つの時間的に連続する点における、複数の含有物を持つ微細構造体のもう1つの実施形態におけるチャネルを貫通する横断面図であり、また2つの時間的に連続する点における、1つの含有物を持つ同じチャネルの側面図でもある。
【図3】微細構造体の2つの異なる実施形態を含む、チャネルを貫通するそれぞれの縦断面図である。
【図4】さらに別の実施形態の2つのチャネルを貫通するやはりそれぞれの縦断面図である。
【図5】燃料電池のガス抜きに関して、本発明による変形の構成を概略的に示す図である。
【図6】基礎をなす拡散モデルに従ってソースの表面積を決定するためのモデルを示す図である。
【図7】概略的描写に関連して、直接メタノール型燃料電池(DMFC)の例における追加の流体内での燃料の拡散希釈を示す図である。
【図8】拡散モデルから導出される値を持つ、本発明による燃料電池の構成を概略的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの流体燃料が、燃料リザーバから流体分配構造体を介して膜電極組立体へ輸送される直接酸化型燃料電池を作動させるための方法であって、
前記少なくとも1つの流体燃料の前記輸送が、対流なしで、少なくとも1つの追加の流体内での拡散によって達成されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記酸化に必要な前記少なくとも1つの追加の流体に対する燃料の濃度比が、前記膜電極組立体において前記拡散によって調節されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの追加の流体が、少なくとも部分的に電気化学的に再循環されることを特徴とする、前記請求項のうちのいずれか1つの請求項に記載の方法。
【請求項4】
燃料リザーバに接続される、穴のあいた隔膜および/または多孔質膜が前記燃料電池において使用され、前記穴および/または孔の直径が、電気化学反応に適する前記膜電極組立体の方への前記燃料の拡散が保証されるように選択されることを特徴とする、前記請求項のうちのいずれか1つの請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記穴および/または孔の直径rが次式に従って決定され、
【数1】

ただし、
d=穴または孔と膜電極組立体との間の間隔
Φ=前記燃料電池の燃料消費量
=前記膜電極組立体における前記燃料の濃度
=前記穴または前記孔における前記燃料の濃度
D=前記少なくとも1つの追加の流体内での前記燃料の拡散定数
であることを特徴とする、前記請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記燃料消費量Φが次式に従って決定され、
【数2】

ただし、
j=前記燃料電池の電流密度
η=前記燃料電池の効率
であることを特徴とする、前記請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの燃料が液体であることを特徴とする、前記請求項のうちのいずれか1つの請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの燃料がメタノールであることを特徴とする、前記請求項のうちのいずれか1つの請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの追加の流体が水であることを特徴とする、前記請求項のうちのいずれか1つの請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記燃料電池におけるガス状成分が、前記少なくとも1つの液体燃料から分離されることを特徴とする、請求項7から9のうちのいずれか1つの請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記ガス状成分が、ガス状媒体の前記流体分配構造体から離れる方への輸送を支援する前記流体分配構造体の微細構造化によって除去されることを特徴とする、前記請求項10に記載の方法。
【請求項12】
T形状の横断面を持つ少なくとも1つのチャネルを持つ流体分配構造体が使用されることを特徴とする、前記請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ガスに対しては透過性であり、液体に対しては不透過性である、少なくとも1つのアノード側バリア層が使用され、その結果として、前記液体は前記流体分配構造体に保持され、前記ガスは、前記流体分配構造体から離れる方へ輸送されることを特徴とする、前記請求項のうちのいずれか1つの請求項に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つのバリア層が疎油性膜であることを特徴とする、前記請求項13に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの燃料の輸送が対流なしで達成され、アノードおよびカソードを持つ膜電極組立体ならびにそれぞれ1つの燃料リザーバを持つ少なくとも1つのアノード側および1つのカソード側の流体分配構造体もまた含む直接酸化型燃料電池であって、
前記燃料電池が、前記燃料リザーバに接続される穴のあいた隔膜および/または多孔質膜を有し、それの穴または孔の直径を介して、拡散を用いて前記膜電極組立体への前記燃料の輸送が制御できることを特徴とする、直接酸化型燃料電池。
【請求項16】
前記穴および/または孔の直径rが次式によって決定され、
【数3】

ただし、
d=穴または孔と膜電極組立体との間の間隔
Φ=前記燃料電池の燃料消費量
=前記膜電極組立体における前記燃料の濃度
=前記穴または前記孔における前記燃料の濃度
D=少なくとも1つの追加の流体内での前記燃料の拡散定数
であることを特徴とする、請求項15に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項17】
前記燃料消費量Φが次式によって決定され、
【数4】

ただし、
j=前記燃料電池の電流密度
η=前記燃料電池の効率
であることを特徴とする、請求項16に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項18】
前記膜電極組立体が、プロトン伝導性膜ならびに、またそれぞれアノード側およびカソード側触媒層および拡散層から成ることを特徴とする、請求項15から17のうちのいずれか1つの請求項に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項19】
前記膜電極組立体が、プロトン伝導性膜ならびに、またそれぞれアノード側およびカソード側触媒層および微細構造体から成ることを特徴とする、請求項15から18のうちのいずれか1つの請求項に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項20】
前記プロトン伝導性膜が前記燃料および反応生成物に対して不透過性であることを特徴とする、前記請求項19に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項21】
前記触媒層が、白金、ルテニウムおよび/またはその合金を含むことを特徴とする、2つの前記請求項のうちのいずれか1つの請求項に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項22】
燃料電池が、前記液体燃料のガス状成分を除去するためのデバイスをさらに有することを特徴とする、請求項15から21のうちのいずれか1つの請求項に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項23】
前記ガス抜きデバイスが、ガス状媒体の前記流体分配構造体から離れる方への輸送を支援する前記流体分配構造体の微細構造化の形で存在することを特徴とする、前記請求項23に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項24】
前記流体分配構造体が、T形状の横断面を持つ少なくとも1つのチャネルを有することを特徴とする、前記請求項23に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項25】
前記燃料電池が、アノード側において、ガスに対しては透過性であり、液体に対しては不透過性である少なくとも1つのバリア層を有し、その結果として、前記液体は前記流体分配構造体内に保持され、前記ガスは前記流体分配構造体から離れる方へ輸送できることを特徴とする、請求項15から24のうちのいずれか1つの請求項に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項26】
前記少なくとも1つのバリア層が疎油性膜から成ることを特徴とする、前記請求項25に記載の直接酸化型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−524184(P2009−524184A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−550697(P2008−550697)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【国際出願番号】PCT/EP2007/000518
【国際公開番号】WO2007/085402
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(507241894)フラオンホファー−ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・アンゲヴァンテン・フォルシュング・エー・ファオ (14)
【出願人】(508157657)
【Fターム(参考)】