説明

直接量子化を用いる圧力波の記録方法及び再生方法

本発明は、圧力波信号を記録及び再生するための方法に関する。波圧記録とアナログ/ディジタル変換が統合されるべきである。ビット深度が同じ場合にはより大きいダイナミックレンジが生じ、ダイナミックレンジが同じ場合にはより小さいビット深度が必要とされるべきである。本発明は、検出された圧力波信号の直接量子化された波圧差を用いて圧力波信号の全ての情報が算出及び記憶されることを特徴とする。更には、係数を記憶し、必要に応じて絶対的な波圧に逆変換することができる。このようにして圧力波信号の再生が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力波信号を記録するための記録方法、圧力波信号を再生するための再生方法、また、圧力波信号を記録するための相応の圧力傾度マイクロフォン並びに相応の使用に関する。
【0002】
本発明は特に圧力波信号の記録に関する。
【0003】
従来では、絶対的な波圧を検出する音圧マイクロフォンを用いて音圧が測定される。アナログオーディオ信号が形成され、続いて、電流振動の振幅の大きさがアナログ/ディジタル変換器によって量子化される。アナログオーディオ信号が形成された後には、例えば従来のコンパクトディスク(CD)に記憶するためにアナログ/ディジタル変換が行なわれる。従来の方法では、マイクロフォンを用いた信号のアナログ方式の記録が行なわれている。このアナログ方式の記録に続いて、必要に応じて圧縮及び記憶を行なうことができる。圧縮を例えば従来のMP3方式によって実施することができる。
【0004】
アナログ信号のアナログ/ディジタル変換のためには少なくとも、ナイキストに従い、解析すべき最大周波数の二倍の周波数がサンプリングレートとして使用される。処理すべきビットレートは、サンプリングレートと、使用される複数のビットを決定するビット深度と、使用されるチャネル数との積である。
【0005】
例えば音楽CDに関しては、20Hzから20kHzの領域の周波数が記録される。超音波領域では20kHzから1GHzの領域の周波数が記録される。例えばオーディオCDでは、アナログ/ディジタル変換のために44.1kHzのサンプリングレートが使用される。更には、従来では、最も小さい音と最も大きい音のダイナミックレンジの解析のために16ビットが使用される。二つのチャネルを使用する場合には、処理すべきビットレートは44.1kHz×2チャネル×16ビット=1.411Mbpsの大きさになる。
【0006】
本発明の課題は、波圧記録及びアナログ/ディジタル変換が統合される、圧力波信号、特に音波信号を記録する方法を提供することである。圧力波信号の再生方法も特に簡単に提供されるべきである。更には、相応の圧力傾度マイクロフォンが提供されるべきである。ビット深度が等しい場合にはより大きいダイナミックレンジが生じるべきであり、またダイナミックレンジが等しい場合にはより小さいビット深度が必要とされるべきである。ダイナミックレンジは最も弱い波圧信号と最も強い波圧信号の間隔である。
【0007】
本発明の課題は、請求項1に記載されている方法、請求項18に記載されている方法、請求項20に記載されている圧力傾度マイクロフォン、また、請求項24に記載されている使用によって解決される。
【0008】
本発明の第1の態様によれば、検出された圧力波信号の直接量子化された波圧差を用いて圧力波信号の情報が検出される、圧力波信号を記録するための方法が提供される。圧力波信号を記録するための本発明の方法によれば、波圧差値を記憶することができる。圧力波信号は例えば音楽信号、超音波信号又は地震波である。
【0009】
本発明は、波圧記録とアナログ/ディジタル変換を組み合わせた記録方法を要求する。波圧差を記録することによって種々の利点が得られる。直接量子化される複数の波圧差が測定される。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、逆変換によって、波圧差値又は係数から、選択的には和Sを用いて、全ての測定時点における絶対的な波圧が総時間間隔毎に再び算出される、本発明による方法を用いて記録された圧力波信号を再生するための方法が提供される。算出が行なわれると、例えばスピーカを用いて再生を行なうことができる。
【0011】
第3の態様によれば、複数の圧力傾度マイクロフォンの記録ダイアフラムの面がそれぞれの周波数領域に同調されている、本発明による方法を用いて圧力波信号を記録するための圧力傾度マイクロフォンが提供される。即ち、周波数領域のそれぞれの周波数が大きくなればなるほど、圧力傾度マイクロフォンの記録ダイアフラムの面積が一層小さくなる。
【0012】
第4の態様によれば、本発明による方法又はマイクロフォンが、オーディオ領域もしくは超音波領域における音圧波のために使用されるか、又は、医学もしくは材料科学における音圧波のために使用されるか、又は、地球物理学又は材料科学においては地震波に使用される。
【0013】
本発明により得られる利点として以下のことが挙げられる:
同一のビットレートにおいてより大きいダイナミックレンジが得られる。大抵の場合、差分が非常に類似している。これによって、同一のビット深度への分割がより大きいダイナミックレンジを生じさせる。比較的低いビットレートにおいても同一のダイナミックレンジが得られる。差分の差異が比較的小さいことによって、量子化の際にはより小さいビット深度、従ってより低いビットレートで十分である。適合の可能性が得られる。音圧を記録する際に一定のビットレートが選定される場合には、差分の量子化の際により小さいビット深度を使用することができ、また絶対的な和を形成する際により大きいビット深度を使用することができる。
【0014】
ウェーブレット係数も記憶のためにディジタル化されなければならない。本発明によって、記録とアナログ/ディジタル変換の統合が実現される。圧力傾度マイクロフォンによって波圧差分測定が行なわれる。
【0015】
別の有利な実施の形態は、従属請求項に記載されている。
【0016】
有利な実施の形態によれば、検出された圧力波信号の直接量子化された波圧差を用いて、圧力波信号の情報を含む基底関数の係数が算出されるように圧力波信号を記録するための方法を提供することができる。圧力波信号を記録するための本発明の方法によれば、基底関数の係数を算出後に記憶することができる。
【0017】
有利な実施の形態によれば、基底関数はウェーブレット基底関数で良い。従来技術によれば、半分のサンプリングレートよりも高い周波数が発生することを回避するために、アナログ/ディジタル変換にはローパスフィルタが必要とされる。これはエイリアシングと称される。ウェーブレットを基礎とする記録によって、比較的高い周波数を直接的に排除することができる。
【0018】
別の有利な実施の形態によれば、異なる圧力傾度マイクロフォンの各々によって、反復的な総時間間隔における異なる測定時間間隔の異なる波圧差を検出することができる。即ち、異なる時間間隔の波圧差が同時に測定される。
【0019】
別の有利な実施の形態によれば、一つの総時間間隔を同じ長さの複数の基本時間間隔に均等に分割し、一つの基本時間間隔の長さを解析すべき最大周波数及び解析すべき最小周波数によって決定することができる。一つの総時間間隔は基底関数の係数が算出される最小単位である。圧力波信号を記録するための方法によれば、圧力波信号が反復的な複数の総時間間隔にわたりサンプリングされる。
【0020】
別の有利な実施の形態によれば、解析すべき最大周波数を解析すべき最小周波数によって除算し、その商によって一つの総時間間隔における基本時間間隔の数及び長さを決定することができる。圧力波信号の波圧差を検出するために、最大サンプリングレートを解析すべき最大周波数に依存して、また、最低サンプリングレートを解析すべき最低周波数に依存して、それぞれナイキストに従い決定することができ、最大サンプリングレートを最低サンプリングレートによって除算することができ、また、その商によって反復的な総時間間隔における基本時間間隔の数及び長さを決定することができる。測定時間間隔は複数の基本時間間隔によって決定されている。測定時間間隔は複数の基本時間間隔によって相互に間隔を空けて設けられている。
【0021】
別の有利な実施の形態によれば、基本時間間隔の数は、使用される圧力傾度マイクロフォンの数を決定する指数mを有する2の累乗、即ち2mとして表すことができる。
【0022】
別の有利な実施の形態によれば、音圧マイクロフォンを用いて、それぞれ一つの総時間間隔の全ての測定時点における絶対的な波圧レベルが加算され、和Sが形成される。各基本時間間隔が経過する度に測定が行なわれる。全ての測定時点を基本時間間隔の終了によってそれぞれ決定することができる。和Sは単に較正の一つの表現式に過ぎず、複数の総時間間隔が記録される場合にのみ必要とされる。
【0023】
別の有利な実施の形態によれば、検出された波圧差及び和Sを用いて、全ての係数を総時間間隔毎に算出することができる。
【0024】
別の有利な実施の形態によれば、ウェーブレット基底関数は、Haarウェーブレット関数、Coifletウェーブレット関数、Gaborウェーブレット関数、Daubechiesウェーブレット関数、Johnston-Barnardウェーブレット関数又はBioorthogonal-Splineウェーブレット関数で良い。
【0025】
別の有利な実施の形態によれば、Haarウェーブレット関数では、m個の圧力傾度マイクロフォンのうちの一つがその都度、測定時間間隔としてのそれぞれ2n個の基本時間間隔の差分を検出することができる。測定時間間隔はそれぞれ2n個の基本時間間隔によって相互に間隔を空けており、またnは要素N0であり、且つ、n≦m−1である。
【0026】
別の有利な実施の形態によれば、圧力差から算出されるウェーブレット係数のうち閾値を下回るものが無視されることによって、記憶を圧縮して行なうことができる。閾値を下回るウェーブレット係数は信号に寄与しない。
【0027】
別の有利な実施の形態によれば、複数の異なる圧力傾度マイクロフォンを種々の周波数領域に対して使用することができる。即ち、高周波数の差分を測定するために、低周波数の差分を測定するための圧力傾度マイクロフォンとは異なる圧力傾度マイクロフォンを使用することができる。
【0028】
別の有利な実施の形態によれば、圧力傾度マイクロフォンの記録ダイアフラムの面をそれぞれの周波数領域に合わせることができる。それぞれの周波数が大きくなればなるほど、記録ダイアフラムの面積が一層小さくなる。
【0029】
別の有利な実施の形態によれば、複数の圧力傾度マイクロフォンの記録ダイアフラムを相互に接して一つのケーシング内に配置することができる。複数の記録ダイアフラムが空間的に相互に近接して一つのケーシング内に収容される場合には特に有利である。圧力差測定は同一の音源に属していなければならない。
【0030】
別の有利な実施の形態によれば、複数の記録ダイアフラムを相互に同心に配置することができる。
【0031】
別の有利な実施の形態によれば、同心の配置構成において、高周波数の波圧差のための記録ダイアフラムが内側に配置されており、低周波数の波圧差のための記録ダイアフラムが外側に配置されている。
【0032】
本発明による方法を用いて記録された圧力波信号を再生するための方法においては、再生をスピーカによって行なうことができる。
【0033】
別の有利な実施の形態によれば、上ヘッセンベルグ行列を用いて、係数の絶対的な波圧への逆変換を行なうことができる。
【0034】
別の有利な実施の形態によれば、複数の圧力傾度マイクロフォンの記録ダイアフラムの面がそれぞれの周波数領域に同調されている、圧力傾度マイクロフォンを提供することができる。
【0035】
別の有利な実施の形態によれば、複数の圧力傾度マイクロフォンの記録ダイアフラムが相互に接して一つのケーシング内に配置されている。
【0036】
別の有利な実施の形態によれば、相互に同心に配置されている複数の記録ダイアフラムを備えた圧力傾度マイクロフォンを提供することができる。
【0037】
別の有利な実施の形態によれば、高周波数の波圧差のための記録ダイアフラムが内側に配置されており、低周波数の波圧差のための記録ダイアフラムが外側に配置されている。
【0038】
本発明による方法を音楽の記録、医学及び材料科学における超音波の記録、又は、地球物理学及び材料化学における地震波の記録に使用することができる。
【0039】
以下では、図面を参照しながら実施例に基づき本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1a】従来の記録方法のデータフローを示す。
【図1b】従来の記録方法のデータフローを示す。
【図1c】従来の記録方法のデータフローを示す。
【図1d】従来の記録方法のデータフローを示す。
【図2a】従来の音圧マイクロフォンの実施例を示す。
【図2b】従来の音圧マイクロフォンの実施例を示す。
【図2c】従来の音圧マイクロフォンの実施例を示す。
【図2d】従来の音圧マイクロフォンの実施例を示す。
【図3】従来の記録方法の測定を示す。
【図4a】圧力傾度マイクロフォンの実施例を示す。
【図4b】圧力傾度マイクロフォンの実施例を示す。
【図4c】圧力傾度マイクロフォンの測定原理を示す。
【図5a】基底関数の係数を算出するための波圧差の必要な圧力測定を示す。
【図5b】基底関数の係数を算出するための波圧差の必要な圧力測定を示す。
【図5c】基底関数の係数を算出するための波圧差の必要な圧力測定を示す。
【図5d】基底関数の係数を算出するための波圧差の必要な圧力測定を示す。
【図6a】Haarウェーブレット基底関数の経過を示す。
【図6b】本発明による原理を示す。
【図7】個々のマイクロフォンの測定時間間隔IMを示す。
【図8】圧力傾度マイクロフォンの記録ダイアフラムの有利な実施例を示す。
【図9】係数の絶対音波圧力への逆変換を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1aから1dは、従来の記録方法のデータフローを示す。図1aは、オーディオ信号をアナログ方式で記録するための音圧マイクロフォンを示す。図1bは、従来の音圧マイクロフォンによって記録されたアナログ信号及び所属のサンプリング信号の時間経過を示す。図1cは、必要に応じて引き続き行なわれる、記録された信号の例えば従来のMP3方式を用いる圧縮を示す。続いて、図1dに示されているように、従来のCD(コンパクトディスク)にデータを記憶させることができる。
【0042】
図2aから図2cは、従来の音圧マイクロフォンの実施例を示す。図2aは、従来のコンデンサマイクロフォンの機能を示す。音圧は電気的なキャパシタンスに影響を及ぼす。図2aには給電部1、高オーム抵抗3、対抗電極5及びダイアフラム7が示されている。ここでは相応に音波9が電気信号11に変換される。
【0043】
図2bは従来のピエゾマイクロフォンを示す。音圧は圧電素子13の形状に影響を及ぼし、電圧を形成する。参照番号7はダイアフラムを表す。参照番号9は検出すべき圧力波又は音波であり、検出された圧力波又は音波は電気信号11に変換される。
【0044】
図2cは、従来のカーボンマイクロフォンの機能を示す。音圧は電気的な抵抗に影響を及ぼす。参照番号1は給電部を表し、参照番号5は対抗電極を表し、参照番号7はダイアフラムを表し、また、参照番号15は炭素粒を表す。音波信号9が炭素粒15によって電気信号に変換される。
【0045】
図3は、従来の記録方法による測定を示す。一様な基本時間間隔IBに従い測定が実施される。ここではアナログ/ディジタル変換によって記録が行なわれる。従来の音圧マイクロフォンを用いて記録が行なわれる。ナイキストに従ったサンプリングレートが選定される。相応に、測定時点t1,t2,...が規定されている。後続のステップでは、離散的な音圧p1,p2,...が所定のビット深度でもって量子化される。更に後続のステップでは記録されたものを圧縮することができる。圧縮方式の例としていわゆるMP3方式が挙げられる。続いて、記録されたものを記憶することができる。オーディオ信号の記憶及び圧縮の前提はリアルタイム能力を有するデコーダである。
【0046】
図4aから図4cは、圧力傾度マイクロフォンの二つの実施例と、その動作方式を示す。図4aにはコイル17及び永久磁石19が示されている。付加的に、ダイアフラム7も設けられている。圧力傾度マイクロフォンを用いることにより、音波9が電気信号21に変換される。音圧又は波圧の変化によって、コイル17を流れる電流が誘導される。
【0047】
図4bには同様に永久磁石19が示されており、それら永久磁石19のN極とS極との間には、蛇腹状のアルミニウム薄板23が設けられている。ここでもまた、波圧の変化によって蛇腹状のアルミニウム薄板23に電流が誘導される。このようにして、音波9が電気信号21に変換される。
【0048】
図4Cには、ダイアフラム7の変位25への圧力波信号の変換が示されている。参照番号24は圧力波源を表す。参照番号27は圧力波源24からダイアフラム7への直接的な波の経路を表す。参照番号29はダイアフラム7の弾性の係止部を表す。参照番号31は入力される波面を表す。参照番号33は近接効果を表し、また、参照番号35は音波の経路を表す。
【0049】
図5aから図5dは、基底関数の係数を算出するための波圧差の必要な圧力測定を示す。図5aから図5dによれば、基底関数はウェーブレット基底関数、とりわけHaarウェーブレット関数である。圧力波信号の全ての情報を含むウェーブレット係数は、検出された圧力信号の直接量子化された波圧差を用いて算出され、特に記憶される。
【0050】
図5aには総時間間隔IGが示されている。総時間間隔IGは同じ長さの八つの基本時間間隔IBに区分されている。総圧力波信号は一連の反復的な総時間間隔IGによって検出される。従って、図5aから図5dにそれぞれ示されている総時間間隔IGは圧力波信号を検出するための最小単位である。図5aから図5dによれば、異なる圧力傾度マイクロフォンを用いることによって、反復的な総時間間隔IGにおける異なる測定時間間隔IMの異なる波圧差が検出される。総時間間隔IGは同じ長さの複数の基本時間間隔IBに一様に区分される。基本時間間隔IBの長さは解析すべき最大周波数及び解析すべき最小周波数によって決定される。解析すべき最大周波数が解析すべき最小周波数によって除算されると、その商は一つの総時間間隔IGにおける基本時間間隔IBの数及び長さを決定する。基本時間間隔IBの数は、使用される圧力傾度マイクロフォンの数を決定する指数mを有する2の累乗、即ち2mとして表すことができる。図5aから図5cによれば、基本時間間隔の数は8=23であるので、三つの圧力傾度マイクロフォンが使用される。図5aは、マイクロフォン3の測定時間間隔IMを示す。図5bはマイクロフォン2の測定時間間隔IMを示し、また図5cはマイクロフォン1の測定時間間隔IMを示す。相応に、図5aによれば、圧力差p1−p2,p3−p4,p5−p6及びp7−p8が検出される。図5bによれば、圧力波信号の波圧差p2−p4及びp6−p8が測定技術的に検出される。図5cによれば、波圧差p4−p8が検出される。図5aから図5cによれば、Haarウェーブレット基底関数では、反復的な総時間間隔IGにおいて、隣接する測定時間間隔IMの間隔が一つの測定時間間隔IMのそれぞれの持続時間に等しい。
【0051】
図5dは同様に、一つの総時間間隔IGにおける測定すべき圧力波信号の経過を示す。八つの測定時点t1,t2...t8が生じている。音圧マイクロフォンを用いることによって、それぞれの総時間間隔IGの全ての測定時点(t1...t8)における絶対的な波圧レベルが加算されて、和Sが形成される。即ち、図5dによれば、圧力傾度マイクロフォン1から3とは異なる音圧マイクロフォンである別のマイクロフォン0が使用される。図5dによれば、和S=p1+P2+P3+P4+P5+P6+P7+P8が測定技術的に検出される。この和Sは連続する二つの総時間間隔を較正するために使用される。別の較正も考えられる。ただ一つの総時間間隔しか記録されない場合には較正は必要ない。この場合には複数の差分があれば十分である。この和は較正の一つの表現式に過ぎず、複数の総時間間隔が記録される場合にのみ必要とされる。
【0052】
図6aはHaarウェーブレット基底関数の経過を示す。Haarウェーブレット基底関数は次式によって規定されている:
【数1】

【0053】
関数をウェーブレット変換として表すことができる:
【数2】

【0054】
ウェーブレットセンサによれば、各信号を差分の和として分解することができる。本発明によれば、従来の絶対値の代わりに、波圧差が直接的に測定される。この相違が図6bに示されている。
【0055】
図6aは、図5aから図5cによる測定を基礎としている、Haarウェーブレット基底関数の経過を示す。
【0056】
図6bは、従来技術とは異なり絶対的な波レベルではなく、特に直接量子化された波圧差が検出される原理を示す。
【0057】
図5aから図5dによる四つのマイクロフォンを用いた測定によって、ウェーブレット係数を直接的に算出することができる。
【0058】
以下には、図5aから図5cによる検出された波圧差並びに図5dによる和に従い、全てのウェーブレット係数をどのように算出することができるかを示す。
【数3】

【0059】
算出されたウェーブレット係数は総時間間隔IGにおける圧力波信号の全ての情報を含んでいる。ここでは基底関数がHaarウェーブレット関数である場合の基底関数の算出された係数を記憶することができる。
【0060】
図7においても、個々のマイクロフォン1,2,3及び0の測定時間間隔IMが示されている。マイクロフォン0は全ての測定時点t1...t6における絶対的な波レベルを形成するための音圧マイクロフォンである。図7には、連続する二つの総時間間隔IGが示されている。マイクロフォン3は高周波数の圧力差を記録する。マイクロフォン2は中間周波数の圧力差を記録する。マイクロフォン1は低周波数の圧力差を記録する。マイクロフォン0は圧力波信号の絶対的なレベルを加算する。
【0061】
図5から図7のマイクロフォン1,2及び3はそれぞれダイアフラムを有しており、それらのダイアフラムを一つのケーシングに収容することができる。各ダイアフラムを測定すべき周波数に同調させることができる。このために、マイクロフォン3のダイアフラムの面積はマイクロフォン1のダイアフラムの面積よりも小さい。有利には、個々の差分測定のための記録ダイアフラムが相互に非常に近接して配置されている。このようにして、差分測定を同一の圧力波源に対応付けることができる。特に有利な実施の形態が図8に示されている。図8によれば、複数の記録ダイアフラムが相互に同心に配置されている。内側には高周波数の差分のためのダイアフラムが配置されており、外側には低周波数の差分のためのダイアフラムが配置されている。従って、マイクロフォン3のダイアフラムが内側に配置されている。マイクロフォン3のダイアフラムの周囲にはマイクロフォン2のダイアフラムが配置されている。マイクロフォン2のダイアフラムの周囲にはマイクロフォン1のダイアフラムが配置されている。
【0062】
図5から図7による本発明の方法はHaarウェーブレットに関連させて説明した。上述の方法は現行のあらゆるウェーブレットについて拡張することができる。更には、本発明による方法をステレオ記録のためにも同様に使用することができる。この場合にはチャネルの加算及び減算が行なわれる。本発明は音楽の記録に限定されるものではない。本発明は一般的にあらゆるオーディオ記録、超音波領域における記録、更には、例えば地震学又は材料科学における圧力波の検出も含むものである。基本的には任意の圧力波信号を検出及び記憶することができる。
【0063】
本発明による方法の別の実施例は、従来のCD(コンパクトディスク)におけるオーディオ信号の記録である。この場合、解析すべき周波数領域は20Hzから20kHzである。従って、ナイキストに従った44.1kHzの最大サンプリング周波数が生じる。理論上最も低いサンプリング周波数は43Hzである。最大サンプリング周波数が理論上最も低いサンプリング周波数によって除算されると、係数として44.1kHz/43Hz=1024が生じる。これによって、複数の1024個の基本時間間隔IBが生じる(1024=210)。従って、音圧差10を測定するために複数の圧力傾度マイクロフォンが使用される。更には、音圧マイクロフォンは、圧力レベルが1024個の基本時間間隔IBにわたり加算されることを必要とする。
【0064】
図9には、図5から図7により検出及び算出されたウェーブレット係数をどのようにして音波信号に逆変換することができるかが示されている。全ての絶対的な波圧の和Sを用いて、係数から逆変換を行なうことにより、全ての測定時点における絶対的な波圧を総時間間隔IG毎に逆変換することができる。スピーカを用いることにより、算出された絶対的な波圧を再び圧力波信号に変換することができる。つまり、圧力p1=S+d2+d3+d5となる。更には、全ての圧力P2...P8を図9に逆算することができる。
【0065】
データフローの二つのルートが存在する:
・圧力差が測定され、ディジタル化され、そして記憶される。上ヘッセンベルグ行列を用いる逆変換によって、圧力値を再生のために再び算出することができる。
・圧力差が測定され、その測定値からウェーブレット係数が形成される。それらのウェーブレット係数がディジタル化され、そして記憶される。逆ウェーブレット変換によって圧力値を再び算出することができる。
【0066】
測定された全ての差分の半分に関しては、圧力差及びウェーブレット係数が一致しており、しかも最高レベルで一致している。
【0067】
差分測定の値を的確にソートすることによって、逆変換のために上ヘッセンベルグ行列を形成することができる。このようにして、特に効果的な逆変換が実現される。この関係において、測定された圧力差は一般的にウェーブレット係数ではないことを明記しておく。圧力差からはウェーブレット係数を算出することができる。全ての絶対的な波圧を算出し終わった後に、圧力波信号をスピーカによって再生することができる。
【0068】
以下には、圧力差値を絶対的な圧力値に逆変換するための上ヘッセンベルグ行列の例を示す。
【数4】

【図1a−1d】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力波信号の直接量子化された波圧差を検出して記憶することを特徴とする、圧力波信号を記録するための方法。
【請求項2】
前記圧力波信号の情報を含む基底関数の係数を、検出された前記圧力信号の直接量子化された波圧差を用いて算出して記憶する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基底関数はウェーブレット基底関数である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
異なる圧力傾度マイクロフォンの各々によって、反復的な総時間間隔(IG)における異なる測定時間間隔(IM)の異なる波圧差を検出する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
一つの総時間間隔(IG)を同じ長さの複数の基本時間間隔(IB)に一様に分割し、一つの基本時間間隔(IB)の長さを解析すべき最大周波数及び解析すべき最小周波数によって決定する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記解析すべき最大周波数を前記解析すべき最小周波数によって除算し、該除算の商によって一つの総時間間隔(IG)における基本時間間隔(IB)の数及び長さを決定する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記基本時間間隔(IB)の数を指数mを有する2の累乗、即ち2mとして表し、該累乗によって、使用される圧力傾度マイクロフォンの数を決定する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
音圧マイクロフォンを用いて、それぞれの総時間間隔(IG)の全ての測定時点(t0...t8)における絶対的な波圧レベルを加算し和Sを形成する、請求項4乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
検出された前記波圧差及び前記和Sを用いて、全ての係数を総時間間隔(IG)毎に算出する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ウェーブレット基底関数は、Haarウェーブレット関数、又は、Coifletウェーブレット関数、又は、Gaborウェーブレット関数、又は、Daubechiesウェーブレット関数、又は、Johnston-Barnardウェーブレット関数、又は、Bioorthogonal-Splineウェーブレット関数である、請求項3乃至9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ウェーブレット基底関数はHaarウェーブレット基底関数であり、m個の圧力傾度マイクロフォンの内の一つがその都度、測定時間間隔(IM)としてのそれぞれ2n個の基本時間間隔(IG)の圧力差を検出する、ただし、前記測定時間間隔(IM)はそれぞれ2n個の基本時間間隔(IB)によって相互に間隔を空けており、nは要素N0であり、且つ、n≦m−1である、請求項7を引用する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
閾値を下回る係数を無視することによって圧縮を行なう、請求項2乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
複数の異なる圧力傾度マイクロフォンを異なる周波数領域に対して使用する、請求項4乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記圧力傾度マイクロフォンの記録ダイアフラムの面はそれぞれの周波数領域に同調されている、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記圧力傾度マイクロフォンの記録ダイアフラムは相互に接して一つのケーシング内に配置されている、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記記録ダイアフラムは相互に同心に配置されている、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
高周波数の波圧差のための記録ダイアフラムが内側に配置されており、低周波数の波圧差のための記録ダイアフラムが外側に配置されている、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1乃至17のいずれか一項に記載の方法を用いて記録された圧力波信号を再生するための方法において、
上ヘッセンベルグ行列を用いて、記憶されている圧力差から、全ての測定時点における波圧を総時間間隔毎に逆算して再生することを特徴とする、圧力波信号を再生するための方法。
【請求項19】
請求項2乃至17のいずれか一項に記載の方法を用いて記録された圧力波信号を再生するための方法において、
逆変換を用いて、係数から、選択的には和Sを用いて、全ての測定時点における絶対的な波圧を総時間間隔毎に逆算して再生することを特徴とする、圧力波信号を再生するための方法。
【請求項20】
請求項1乃至17のいずれか一項に記載の方法を用いて圧力波信号を記録するための圧力傾度マイクロフォンにおいて、
圧力傾度マイクロフォンの記録ダイアフラムの面はそれぞれの周波数領域に同調されていることを特徴とする、圧力傾度マイクロフォン。
【請求項21】
前記圧力傾度マイクロフォンの前記記録ダイアフラムは相互に接して一つのケーシング内に配置されている、請求項20に記載の圧力傾度マイクロフォン。
【請求項22】
前記記録ダイアフラムは相互に同心に配置されている、請求項21に記載の圧力傾度マイクロフォン。
【請求項23】
高周波数の波圧差のための記録ダイアフラムが内側に配置されており、低周波数の波圧差のための記録ダイアフラムが外側に配置されている、請求項22に記載の圧力傾度マイクロフォン。
【請求項24】
医学又は材料科学におけるオーディオ領域又は超音波領域では音圧波、又は、地球物理学又は材料科学においては地震波への請求項1乃至23のいずれか一項に記載の方法又はマイクロフォンの使用。

【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図5d】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−532548(P2012−532548A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518841(P2012−518841)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056476
【国際公開番号】WO2011/003651
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】