説明

直流ランプ点灯装置

【課題】
直流点灯型の高圧放電ランプを点灯する際に、電極部材の温度上昇による蒸発損耗を効果的に抑制する。
【解決手段】
直流ランプ点灯装置(1)が、ランプ電流及びランプ電圧に基づいて算出されたランプ電力が予め設定された定格電力に維持されるように定電力制御を行うPWM制御回路(21)を備え、当該制御回路(21)は、ランプ電流を定格電流より低く設定された一定の目標電流値に維持する電流優先制御手段(23)と、前記電流優先制御手段(23)により低電流化されたことにより落ち込んだ電力分を補って平均電力を定格電力に維持する電力優先制御手段(24)と、これら各制御手段を予め設定されたミリ秒オーダーの制御周期で交互に切り換えるタイミング制御手段(25)とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光管の放電容器内に一対の電極が対向して配置された直流点灯型の高圧放電ランプを点灯する直流ランプ点灯装置とこれを用いた光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、各種検査用光源装置は、その光源となる高圧放電ランプとして、発光管の放電容器内に対向して配置された電極間の距離が2〜2.5mm程度のメタルハライドランプを用いたものが一般的であったが、近時は、放電容器内に封入する水銀量を0.15mg/mm以上とし、放電容器内に対向して配置する電極間の距離を1.5mm以下として、高輝度で配光制御が容易な点光源に近い光を生じさせるようにしたショートアーク型の超高圧水銀ランプを用いるものが多くなっている。
【0003】
特に、光源となる高圧放電ランプから放射される光を楕円反射鏡で集光してライトガイドで照射位置まで伝送する検査用光源装置は、楕円反射鏡の一次焦点位置に配したランプの発光点から放射される光が高輝度で点光源に近いほど、ライトガイドへの入射光量が増して光利用効率が向上すると同時に、細径のライトガイドで必要な照度を得るのに十分な量の光を伝送することができるから、その光源となる高圧放電ランプとして、ショートアーク型の超高圧水銀ランプを用いたものが多くなっている。
【0004】
この種の高圧放電ランプは、使用初期から寿命末期に至るまで、累積点灯時間の増加に伴って電極先端部の蒸発損耗が進行することにより電極間距離が広がり、ランプ電圧が上昇する傾向にあるため、定電流制御の場合はランプ入力電力が上昇してランプが破壊するおそれがあるため、一般にその点灯制御は、点灯始動時を除き定電力制御により行われている(特許文献1参照)。
【0005】
しかし、本発明者の実験研究によれば、定電力制御を行った場合、電極間距離が短い点灯初期でランプの動作電圧(ランプ電圧)が低い状態にあるとき、つまり、ランプの動作電流(ランプ電流)が相対的に高い状態にあるときは、電極ないし電極軸の先端部や電極軸に巻装されたコイル等の電極部材の蒸発損耗が最も著しく、その後、電極先端部の蒸発損耗により電極間距離が拡がり、徐々にランプ電圧が上昇すると共にランプ電流が低下すると、電極部材の蒸発損耗も減少することが確認された。
すなわち、ランプを定電力制御で点灯する場合は、ランプ電流が相対的に高いランプの点灯初期において電極部材の蒸発損耗が最も顕著となることが判った。
【0006】
電極部材の蒸発損耗は、アークと接して最も高温となる電極ないし電極軸の先端部に限らず、始動性の確保及び電極の過熱を防止するために電極軸に巻装されたコイルにも生じ、例えば、タングステン電極の電極軸に巻装されたタングステン線で成るコイルは、ランプ点灯時に、電極軸からの放熱を促す一方で、自身の温度がその融点に達するまで上昇はしないものの、タングステンが徐々に蒸発する。
そして、コイルから蒸発するタングステンは、発光管の放電容器の内面に付着して発光管の黒化を生じさせる原因となる場合があり、更に、コイルの蒸発損耗が進行すると、コイルの線径が次第に細くなって、その一部が欠落することがあり、これらの現象は、ランプ寿命特性を悪化させる要因となる。
【0007】
また、図7に示す光源装置31は、高圧放電ランプ3と、その発光管4の放電容器5の中心(発光点)を一次焦点位置に配して当該ランプ3から放射される光を二次焦点に集光させる楕円反射鏡9とから成るランプユニット32が、ライドガイド33を接続する光出射口34を設けたハウジングケース35内に設置され、その光出射口34とランプユニット32との間に位置する二次焦点近傍に波長選択フィルタ及び/又は減光フィルタなどのフィルタ36が介装されている。
この光源装置31にあっては、楕円反射鏡34で集光した光をライトガイド33に導く際に、フィルタ36で反射された光成分の一部が、楕円反射鏡9の一次焦点付近に戻って、その一次焦点位置付近に配された放電容器内の電極部材の温度を上昇させるために、電極部材の蒸発損耗がより顕著なものとなる。
【0008】
そこで、波長選択フィルタや減光フィルタで反射されて戻って来る光を遮るために、放電容器の反射鏡開口部側の表面に赤外線反射膜やフロスト加工を施した温度抑制加工部を設ける手段が提案されているが(特許文献2参照)、放電容器の表面にこのような加工を施すと、ランプの生産性が低下するのみならず、その信頼性が低下するおそれもあるから、好ましくない。
【0009】
また、上記のような原因によって発生する電極部材の蒸発損耗を抑止・抑制するために、ショートアーク型の超高圧水銀ランプの電極間距離を予め長めに設定すると、つまり、電極間距離の設計値を1.5mmより長い例えば2mmにすると、高輝度で配光制御が容易な点光源が得られるという当該ランプの最大の長所が損なわれてしまうから、これも好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−335086号公報
【特許文献2】特開2010−061816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、発光管の放電容器内に一対の電極が対向して配置された直流点灯型の高圧放電ランプを点灯する際に、その光源となる高圧放電ランプが、電極間距離が短いものであっても電極部材、特に電極軸に巻装されたコイルの温度上昇による蒸発損耗を効果的に抑制して寿命特性を向上させることを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、発光管の放電容器内に一対の電極が対向して配置された直流点灯型の高圧放電ランプに対し、安定点灯時に供給される直流電力をPWM制御により調整するスイッチング素子を有する降圧チョッパ回路と、ランプ動作電流及びランプ動作電圧に基づいて算出されたランプ動作電力が予め設定された定格電力に維持されるように前記スイッチング素子に供給されるPWM信号のデューティ比を決定して定電力制御を行うPWM制御回路とを備えた直流ランプ点灯装置において、
前記PWM制御回路は、ランプ動作電流を定格電流より低く設定された一定の目標電流値に維持する電流優先制御手段と、前記電流優先制御手段により低電流化されたことにより落ち込んだ電力分を補って平均電力を定格電力に維持する電力優先制御手段と、これら各制御手段を予め設定されたミリ秒オーダーの制御周期で交互に切り換えるタイミング制御手段とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明による直流ランプ点灯装置によれば、高圧放電ランプが、ランプ動作電流を定格電流より低く設定された一定の目標電流値に維持する電流優先制御による給電と、電流優先制御手段により低電流化されたことにより落ち込んだ電力分を補って平均電力を定格電力に維持する電力優先制御による給電を、ミリ秒オーダーの制御周期で交互に切り換えて定電力制御されている。
電流優先制御手段により給電されている間は、ランプ動作電流が、ランプ電圧によらず定格電流より低く設定された一定の目標電流値に維持されているので、通常点灯時に比して低電流化され、電極部材の温度上昇による蒸発損耗が抑制されて寿命特性が良化する。
また、電力優先制御手段により給電されている間は、電流優先制御手段により低電流化されたことにより落ち込んだ電力分を補って平均電力が定格電力に維持されるので、1サイクルの制御周期内で定電力制御されていることとなり、累積点灯時間の増大に伴いランプ電圧が上昇した場合であっても、定電流制御のようにランプ入力電力が上昇してランプが破壊されることもない。
さらに、電流優先制御手段による給電と電力優先制御手段による給電が、ミリ秒オーダーの周期で実行され、その周期が極めて短いので、ランプ動作電流の変動によるちらつきも生じないという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る直流ランプ点灯装置の一例を示す回路図。
【図2】陰極側電極の拡大図。
【図3】制御周期と電流制御時間との関係を示すグラフ。
【図4】点灯制御装置の処理手順を示すフローチャート
【図5】制御周期内の電流、電圧、電力変化を示すグラフ。
【図6】累積点灯時間とランプ電流の関係を示すグラフ。
【図7】光源装置を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、発光管の放電容器内に一対の電極が対向して配置された直流点灯型の高圧放電ランプが電極間距離の短いものであっても、電極部材の温度上昇による蒸発損耗を効果的に抑制して、寿命特性を向上させるという目的を達成するために、直流点灯型の高圧放電ランプに対し定電力制御を行うPWM制御回路に、ランプ動作電流を定格電流より低く設定された一定の目標電流値に維持する電流優先制御手段と、前記電流優先制御手段により低電流化されたことにより落ち込んだ電力分を補って平均電力を定格電力に維持する電力優先制御手段と、これら各制御手段を予め設定されたミリ秒オーダーの制御周期で交互に切り換えるタイミング制御手段とを備えた。
【実施例1】
【0016】
図1に示す本発明に係る直流ランプ点灯装置1は、交流電源2から直流点灯型の高圧放電ランプ3に対して直流電力を供給するものである。
高圧放電ランプ3は、発光管4の放電容器5内に一対の電極6A,6Bが対向して配置され、陰極となる電極6Aは、タングステンで形成された電極ロッド7の先端側に当該電極ロッド7を所定長さ露出させた状態でコイル8が巻回され、陽極となる電極6Bは先丸状のロッドで形成され、発光管4の陽極側が、反射鏡9のネック部10に挿通されて固定されている。
本例の高圧放電ランプ3は、定格電力Pc=100W、定格電圧Ec=100V、定格電流Ic=1Aのものを用いた。
【0017】
点灯装置1は、交流電源2から放電ランプ3に至る給電回路11上に、交流電源2から供給される電力を直流に変換するAC/DCコンバータ12と、安定点灯時に供給される直流電力をPWM制御により所定電圧まで降圧させるスイッチング素子13を有する降圧チョッパ回路14と、始動時に始動パルスを印加するイグナイタ回路15と、ランプ動作電流(ランプ電流)を検出する電流検出回路16と、ランプ動作電圧(ランプ電圧)を検出する電圧検出回路17を備えると共に、前記検出回路16及び17により検出されたランプ電流及びランプ電圧に基づいて算出されたランプ動作電力(ランプ電力)が予め設定された定格電力に維持されるようにスイッチング素子13に供給されるPWM信号のデューティ比を決定して定電力制御を行うPWM制御回路21を備えている。
【0018】
PWM制御回路21は、I/Oポート22の入力側が電流検出回路16及び電圧検出回路17に接続され、出力側がスイッチング素子13に接続されている。
そして、検出されたランプ電流を定格電流より低く設定された一定の目標電流値に維持する電流優先制御手段23と、前記電流優先制御手段23により低電流化されたことにより落ち込んだ電力分を補って平均電力を定格電力に維持する電力優先制御手段24と、これら各制御手段を予め設定されたミリ秒オーダーの制御周期で交互に切り換えるタイミング制御手段25と、前記電流優先制御手段23及び電力優先制御手段24により決定されたデューティ比に応じたPWM信号を出力する生成するPWM信号生成器26を備えている。
【0019】
電流優先制御手段23には、定格電流Ic(=1A)より低い一定の目標電流値Id(例えば0.8A)が設定され、電流検出回路16により検出された瞬時ランプ電流Iを目標電流値Idと比較して、その差に基づいてPWM信号のデューティ比を決定することにより、ランプ電流Iを目標電流値Idに維持するようになっている。
なお、目標電流値Idは、式(1)を満足することが好ましい。
0.45Ic≦Id≦0.9Ic ………(1)
目標電流値Idが0.45Ic未満では、放電が不安定になって立消えが発生するおそれがあり、0.9Icを超えると、電流低下によるコイル温度上昇抑止効果が得られないからである。
また、目標電流値Idは、式(1)の条件を満たし、且つ、定格電力Pcに維持して点灯している場合に、ランプ電圧Eが累積点灯時間に応じて上昇する放電ランプ3の寿命末期時におけるランプ電流I以下に設定されていることが望ましい。
【0020】
電力優先制御手段24には、定格電力Pcが1サイクルの制御周期の間に連続供給されたときの積算電力量が目標積算電力量Wcとして設定されると共に、電流優先制御手段23により低電流化されたことによる電力不足分に基づいて目標電力Pfが設定されている。
そして、電流検出回路16と電圧検出回路17で検出された瞬時ランプ電流I及び瞬時ランプ電圧Eの積から瞬時ランプ電力P=I×Eを算出し、さらに、1サイクルの制御周期の開始か終了までの積算電力量Wsをその都度記憶していく。
PWM信号のデューティ比は、算出された瞬時ランプ電力Pを目標電力Pfと比較し、その差に基づいて決定すると共に、瞬時ランプ電力Pが目標電力Pfに達したときは、積算電力量Wsが目標積算電力量Wcと一致するように、その都度、目標電力Pfを修正する。
【0021】
また、タイミング制御手段25では、電流優先制御手段23による一回の連続制御時間(電流制御時間)Tdと、電力優先制御手段24による一回の連続制御時間(電力制御時間)Tpが設定され、1サイクルの制御周期TsがTd+Tpで定義される(図5(b)参照)。
このとき、これらの制御時間は式(2),(3)を満足することが好ましい。
1≦Ts≦10(msec) ………(2)
0.1≦Td/Ts<0.5 …………(3)
制御周期Tsが1msec未満では、電流低下によるコイル温度上昇抑止効果が得られず、10msecを超えると、ちらつき感が増加し実用上好ましくないからである。
また、Td/Tsが0.1未満では、制御周期Tsが下限値にときに応答速度の問題でランプ電流が下がりきらないため、温度上昇抑止効果が得られず、0.5を超えると、Tsが上限値のときに電極先端温度が低下しすぎて放電が不安定になるためである。
【0022】
図3のグラフは、横軸に制御周期Tsを示し、縦軸に電流制御時間Tdを示す。
グラフは、式(2)及び(3)の条件を示し、Ts=1、Td=0.5Ts、Ts=10、Td=0.1Tsの4本の線で囲まれた斜線部分が式(2)及び(3)の条件を満たす部分である(境界条件は式(2)及び(3)に従う)。
そして、目標電流値Idを式(1)の条件の範囲で変化させ、制御周期Ts及び定電流制御時間Tdを式(2)及び(3)の条件で変化させて実験を行ったところ、放電が不安定になったり、立ち消えしたり、ちらつきを生じたりすることなく、電極部材の温度上昇による蒸発損耗を効果的に抑制して、寿命特性を向上させることができた。
【0023】
ここで、電極軸に巻装されたコイル線材の蒸発損耗を抑制できる理由を次のように推察する。本発明に係る直流ランプ点灯装置の電流優先制御時と電力優先制御時において、電流優先制御時(低電流期間)には陰極先端部と放電アークとの接触面積が相対的に減り、電力優先制御時には電流増加に伴い接触面積が増える。この二種類の制御をミリ秒オーダーの制御周期で交互に切り換ることにより、陰極先端部と放電アークとの接触面積がこれに略追随して増減する。したがって、陰極先端部から離間して巻装されているコイル体への熱の伝わり方が通常の定電力制御で点灯させた場合よりも抑制されているものと思われる。
【0024】
図4は、PWM制御回路21における制御手順を示すフローチャートである。
スイッチ(図示せず)をオンして、イグナイタ回路15より始動パルスが発せられ、高圧放電ランプ3が点灯すると、処理が実行開始される。
まず、ステップSTP1でタイマを起動させて制御開始からの時刻tを計時し、ステップSTP2で電流検出回路16及び電圧検出回路17からランプ電流I及びランプ電圧Eを検出し、ステップSTP3でランプ電力P=I×Eを算出し、ステップSTP4で1サイクルの制御周期Tsの開始から現時点までの時刻tにおける積算電力量Wnを算出し、所定の記憶領域に記憶していく。
時間ΔTにおける電力量ΔWは、
ΔW=ランプ電力P×データ検出時間ΔT
であるから、積算電力量Wnは、
Wn=Σ(P×ΔT)
で算出できる。
【0025】
次いで、ステップSTP5で電流優先制御を行うか、電力優先制御を行うかが判断される。この判断は、時刻t<Tdであるか否かで判断される。
そして、時刻t<Tdであれば、電流優先制御を行うためにステップSTP6に移行し、予め設定された目標電流値Idを所定の記憶領域から読み出し、ステップSTP7に移行して、検出された瞬時ランプ電流Iと目標電流値Idとを比較し、I=IdであればステップSTP8に移行して現在のPWM信号のデューティ比を維持し、I≠IdであればステップSTP9に移行してその差に応じてPWM信号のデューティ比を増減する。
【0026】
上記PWM制御は、ランプ電流を所定の値に保つようにスイッチング素子13のオンオフ時間をPWM制御回路21によって制御する。
一般に放電ランプは負性特性を有するため、ランプ電流Iを低下させるには、PWM信号のデューティ比を高く、つまりオン時間を長くする必要がある。
そこで、ステップSTP9でランプ電流を低下させる場合は、目標電流値Idとの差に応じてPWM信号のデューティ比を高くするように調整し、ランプ電流を上昇させる場合はデューティ比を低くするように調整する。
【0027】
ステップSTP10では、ステップSTP8及び9で設定されたデューティ比のPWM信号をスイッチング素子13に対して出力し、ステップSTP1に戻る。
【0028】
また、ステップSTP5で時刻t≧Tdと判断されると、電力優先制御を行うためにステップSTP11に移行して目標ランプ電力Pfを以下のように算出する(図5(d)参照)。
1サイクルの制御周期Tsの開始からの経過時間をtとすると、定格電力Pcが供給されたと仮定したときの積算電力量Wcは、
Wc=Pc×t
であり、それまでの積算電力量WnはステップSTP3で算出されているから、不足している電力量Wxは、
Wx=Wc−Wn=Pc×t−Wn
で表される。この不足電力量Wxを1サイクルの制御周期Tsの残りの時間で上乗せすればよいから、上乗せする電力量ΔPnは、
ΔPn=Wx/(Ts−t
で表され、目標ランプ電力Pfは、
Pf=Pc+ΔPn
=Pc+(Pc×t−Wn)/(Ts−t
で算出できる。
【0029】
次いで、ステップSTP12で、ランプ電力Pと目標ランプ電力Pfを比較し、P=PfであればステップSTP13に移行して現在のPWM信号のデューティ比を維持し、P≠PfであればステップSTP14に移行してその差に応じてPWM信号のデューティ比を増減する。
【0030】
ステップSTP14でランプ電力を増加させる場合は、目標電力Pfとの差に応じてPWM信号のデューティ比を減少させ、これによって、目標電力Pfとの差が小さくなれば一致するまで減少させる制御を行い、デューティ比の減少により目標電力Pfとの差が大きくなればデューティ比を増加させる制御を行う。
逆に、ランプ電力を減少させる場合は、目標電力Pfとの差に応じてPWM信号のデューティ比を増加させ、これによって、目標電力Pfとの差が小さくなれば一致するまで増加させる制御を行い、デューティ比の増加により目標電力Pfとの差が大きくなればデューティ比を減少させる制御を行えばよい。
なお、ランプ電力はランプ電圧値にランプ電流値を乗じれば算出される。
【0031】
次いで、ステップSTP15では、ステップSTP13及び14で設定されたデューティ比のPWM信号をスイッチング素子13に対して出力する。
ステップSTP16では、電力優先制御を継続するか否かを時刻t<Tsで判断し、t<Tsの場合は、電力優先制御を継続すべくそのままステップSTP2に戻り、t≧Tsの場合は、電力優先制御を終了して電流優先制御を実行させるためステップSTP17で時刻t=0にリセットし再起動してから、ステップSTP2に戻る。
【0032】
ここで、ステップSTP6〜10が電流優先制御手段23における処理、ステップSTP11〜15が電力優先制御手段24における処理、ステップSTP5及び16がタイミング制御手段25における処理である。
【0033】
以上が本発明の一構成例であって、次に、その作用について図5及び図6を伴って説明する。
図5(a)はPWM信号、(b)はランプ電流I、(c)はランプ電圧E、(d)はランプ電力Pを示す。
時刻tがTdより小さいときは、電流優先制御が実行され、検出されたランプ電流Iが目標電流値Id(0.8A)まで低下されるようにPWM制御が行われる。
ランプ電流を低下させる場合は、目標電流値Idとの差に応じてPWM信号のデューティ比を高くするように調整する。
【0034】
例えば、定格電圧Ec(100V)、定格電流(1A)を供給するときのPWM信号のデューティ比d/d=50%のときに、そのデューティ比を変化させてランプ電流Iを目標電流値Id(0.8A)まで低下させる場合、ランプ電流Iをモニタしながら、目標電流値Idとの差に応じて、PWM信号のデューティ比が例えばd/d=60%と高くなるように設定される。
この場合、ランプ電圧Eは図5(c)に示すように定格電圧Ecより高くなり、ランプ電力Pは図5(d)に示すように定格電力Pcより低めであった。
したがって、電流優先制御が行われている間は、電力が低めに維持されるので、1サイクルの制御周期内で定電力制御とするためには電力優先制御ではその不足分を補う必要がある。
【0035】
時刻tがTdに達すると、電力優先制御が実行され、算出されたランプ電力Pが目標ランプ電力Pfまで上昇されるようにPWM制御が行われる。
1サイクルの制御周期の開始から時刻tまでの電力量の不足分Wxに基づき目標ランプ電力Pfが算出され(ステップSTP11)、ランプ電力P=Pfとなるようにデューティ比が決定される。
ランプ電力Pを増加させるためには、ランプ電圧Eとランプ電流Iの積を増加させる必要があり、ランプ電圧Eとランプ電流Iをモニタしてその積を算出しながら、目標電流値Idとの差に応じて、PWM信号のデューティ比が例えばd/d=40%と低くなるように設定される。
【0036】
図6は累積点灯時間の増加に伴う平均ランプ電力、平均ランプ電圧、平均ランプ電流を示す。
放電ランプ3は累積点灯時間の増加に伴って電極6A,6B先端部の蒸発損耗が進行することにより電極間距離が長くなり、ランプ電圧が上昇する傾向にある。
本例では、図6(a)に示すように定電力制御が行われているが、図6(b)に示すように累積点灯時間の増加に伴って平均ランプ電圧EAVは徐々に上昇し、ランプの種類によっても異なるが寿命末期まで約10%程上昇する傾向にある。
これに伴い平均ランプ電流IAVは、図6(c)に示すように、点灯初期において定格電流Icと同程度であり、累積点灯時間の増加に伴い徐々に低下して、寿命末期において約10%程低下するが、平均ランプ電流IAVが低下すればするほど、電極部材の加熱が抑制されて蒸発損耗の弊害も低減される。
【0037】
この場合に、本発明に係る電流優先制御においては、目標電流値Idがランプ電流Iに対する比ではなく、点灯初期における設計値である定格電流Icに対する比で設定されており、例えば、定格電流Ic=1Aのときに、目標電流Id=0.85Aに設定されている。
点灯初期の平均ランプ電流IAVが定格電流Icと同程度であり、寿命末期に至るまで徐々に低下して0.9Aまで低下する場合に、点灯初期においては、平均ランプ電流IAVと目標電流Idとの差ΔI=IAV−Id=0.15Aと大きいため、低電流化による温度抑制効果が高い。
一方、寿命末期に近づくにつれて平均ランプ電流IAVが低下してくると、電極先端の加熱が抑制されて蒸発損耗の弊害も低減されるだけでなく、これに伴って、目標電流Idとの差ΔI=IAV−Idも小さくなって、低電流化による温度抑制効果が自動的に緩和されていく。
したがって、電極部材の蒸発損耗の程度が少なくなるのに伴って、電流優先制御時のランプ電流の低下に伴う加熱抑制効果も自動的に緩和されることとなり、電極先端が冷却され過ぎて放電が不安定になることもない。
さらに、電流優先制御手段23による給電と電力優先制御手段24による給電が、ミリ秒オーダーの周期(最長10msec)で交互に実行され、その周期は、人間の視力の時間分解能より十分小さいので、ランプ電流の変動によるちらつきを感じることもない。
【0038】
また、この点灯装置1を内蔵した光源装置31は、図7に示すように、高圧放電ランプ3を楕円反射鏡9に装着したランプユニット32が、ライドガイド33を接続する光出射口34を設けたハウジングケース35内に設置されて成る。
放電ランプ3は、楕円反射鏡9の一次焦点位置に発光管4の放電容器5の中心(発光点)が配され、その二次焦点に集光された光が、光出射口34に接続されたライトガイド33に導かれるように成っている。
そして、光出射口34とランプユニット32との間に位置する二次焦点近傍には波長選択フィルタ及び/又は減光フィルタなどのフィルタ36が介装されている。
【0039】
まず、定格ランプ電力Pc=100W、定格ランプ電圧Ec=60V、定格ランプ電流1.67A、電極ロッド7の露出部分長さD=0.5mmの高圧放電ランプ3を点灯装置1に接続し、電流優先制御時における目標電流値Id=0.8A、1サイクルの制御周期Ts=5msec、電流制御時間Td=1msec、Td/Ts=0.2に設定し、ランプ単体で点灯実験を行い、電極6Aの先端側に巻かれたコイル8の最高温度を測定したところ2000℃であった。
次いで、この放電ランプ3を反射鏡9に装着し、光源装置31に組み込んで点灯させても、寿命時間(3000時間)を通じてコイル8が著しく損耗する程度までに加熱されることはなかった。
【0040】
比較のため、同様の条件で、電流優先制御を行わず、ランプ電力Pが定格電力Pcに維持されるように従来の定電力制御を行った場合、コイル8の最高温度は2200℃であった。
すなわち、本発明に係る点灯装置1によれば、従来の定電力制御を行う場合に比して、コイル8の最高温度の温度差が200℃もあり、その分、電極軸に巻装されたコイルの温度上昇を抑制することができた。
次いで、この放電ランプ3を反射鏡9に装着し、光源装置31に組み込んで、従来の定電力制御により点灯させた場合は、コイル8が加熱されて蒸発損耗し、その一部が欠落するものが見受けられた。
【0041】
なお、光源装置31として使用する場合、反射鏡9としては楕円反射鏡に限らず、高圧放電ランプ3の発光点から放射される光を反射させて平行光にする放物面反射鏡(図示せず)が取り付けられると共に、該反射鏡の前方に前記平行光を集光させるレンズ系(図示せず)を配する場合であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、発光管の放電容器内に一対の電極が対向して配置された直流点灯型の高圧放電ランプを点灯する直流ランプ点灯装置の用途に適用しうる。
【符号の説明】
【0043】
1 直流ランプ点灯装置
2 交流電源
3 高圧放電ランプ
4 発光管
5 放電容器
6A,6B 電極
7 電極ロッド
8 コイル
9 反射鏡
13 スイッチング素子
14 降圧チョッパ回路
15 イグナイタ回路
21 PWM制御回路
23 電流優先制御手段
24 電力優先制御手段
25 タイミング制御手段
26 PWM信号生成器




【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管の放電容器内に一対の電極が対向して配置された直流点灯型の高圧放電ランプに対し、安定点灯時に供給される直流電力をPWM制御により調整するスイッチング素子を有する降圧チョッパ回路と、ランプ動作電流及びランプ動作電圧に基づいて算出されたランプ動作電力が予め設定された定格電力に維持されるように前記スイッチング素子に供給されるPWM信号のデューティ比を決定して定電力制御を行うPWM制御回路とを備えた直流ランプ点灯装置において、
前記PWM制御回路は、ランプ動作電流を定格電流より低く設定された一定の目標電流値に維持する電流優先制御手段と、前記電流優先制御手段により低電流化されたことにより落ち込んだ電力分を補って平均電力を定格電力に維持する電力優先制御手段と、これら各制御手段を予め設定されたミリ秒オーダーの制御周期で交互に切り換えるタイミング制御手段とを備えたことを特徴とする直流ランプ点灯装置。
【請求項2】
電力優先制御手段による一回の連続制御時間をTp、電流優先制御手段による一回の連続制御時間Td、Tp+Tdで定義される1サイクルの制御時間をTsとしたときに、
1≦Ts≦10(msec)
0.1≦Td/Ts<0.5
である請求項1記載の直流ランプ点灯装置。
【請求項3】
前記電流優先制御手段によりランプ動作電流が維持される目標電流値は、定格電流より低く、且つ、寿命末期におけるランプ電流値以下に設定された請求項1又は2記載の直流ランプ点灯装置。
【請求項4】
前記電流優先制御手段によりランプ動作電流が維持される目標電流値をId、ランプの設計値である定格電流をIcとしたときに、
0.45Ic≦Id≦0.9Ic
である請求項1乃至3いずれか記載の直流ランプ点灯装置。
【請求項5】
放電容器内に一対の電極が対向して配置され、陰極となる電極ロッドの先端側に電極ロッドを所定長さ露出させた状態でコイルが巻回された直流点灯型の高圧放電ランプを光源とし、請求項1乃至4いずれか記載の直流ランプ点灯装置を備えたことを特徴とする光源装置。
【請求項6】
前記高圧放電ランプに、該ランプの発光点を一次焦点位置に配して、その発光点から放射される光を二次焦点に集光させる楕円反射鏡が取り付けられている請求項5記載の光源装置。
【請求項7】
前記高圧放電ランプに、該ランプの発光点から放射される光を反射させて平行光にする放物面反射鏡が取り付けられると共に、該反射鏡の前方に前記平行光を集光させるレンズ系が配設されている請求項5記載の光源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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