説明

直腸結腸癌の早期発見のための薬剤スクリーニング及び分子診断検査:その試薬および方法

【課題】結腸直腸癌の新規な早期発見アプローチを提供する。
【解決手段】所定のポリヌクレオチドについてcDNAの定量したレベルのデータを入手させ、少なくとも1つの多変量統計解析を用いて、患者の組織サンプル由来のcDNAのレベルをコントロール組織サンプル由来のcDNAレベルと比較し、解析結果を提供させる命令を含むプログラムまたはそれらが保存されてある機械読み出し可能媒体、および、
結腸直腸癌、肺癌、前立腺癌、乳癌、アルツハイマー及びALSの少なくとも1つのための生物学的モデル系を選択し、この系を用いたスクリーニングのために少なくとも1つの薬剤を選択し、少なくとも2つのバイオマーカーを選択し、前記系に前記少なくとも1つの薬剤を投与する工程;及び、前記バイオマーカーの応答をモニターする工程、を含む薬剤のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
米国仮特許出願60/614,746(2004年9月30日出願(Nancy M. Lee et al.)、表題:直腸結腸癌の早期発見のための分子診断検査:その試薬、方法及びキット(Molecular Diagnostic Test for Early Detection of Colorectal Cancer: Reagents, Methods, and Kits Thereof))(Attorney Docket No. NLEE-01001US0);
米国仮特許出願60/651,344(2005年2月8日出願(Nancy M. Lee et al.)、表題:薬剤スクリーニングのためのバイオマーカーパネルの使用方法(Methods of Use of a Biomarker Panel for Drug Screening))(Attorney Docket No. NLEE-01002US0);及び
米国特許出願11/_,_(2005年9月29日出願(Nancy M. Lee et al.)、表題:直腸結腸癌の早期発見のための薬剤スクリーニング及び分子診断検査:その試薬、方法及びキット(Molecular Diagnostic Test for Early Detection of Colorectal Cancer: Reagents, Methods, and Kits Thereof))(Attorney Docket No. NLEE-01001US1)。
【0002】
関連出願の相互引用
本出願は、PCT/US2004/022594(2004年7月14日出願(Nancy M. Lee et al.)、表題:直腸結腸癌のためのバイオマーカー(生物学的指標)パネル(Biomarker Panel for Colorectal Cancer))(Attorney Docket No. NLEE-01000WO0)と関連を有し、米国仮特許出願60/488,660(2003年7月18日出願(Nancy M. Lee et al.)、表題:直腸結腸癌の決定のための分子バイオマーカーパネル(Molecular Biomarker Panel for Determination of Colorectal Cancer))(Attorney Docket No. CPMC-01000US0);及び米国特許出願10/690,880(2003年10月22日出願(Nancy M. Lee et al.)、表題:直腸結腸癌のためのバイオマーカーパネル(Biomarker Panel for Colorectal Cancer))(Attorney Docket No. CPMC-01000US1)に対して優先権を主張する(前記出願の各々は参照によりその全体が本明細書に含まれる)。
ヌクレオチド及び/又はアミノ酸配列表は、コンピューター読取り可能形態及びハードコピーとして本出願に含まれている。コンピューター読取り可能形態に含まれる情報はその全体が参照により本明細書に含まれる。コンピューター読取り可能形態中の情報はまたディスクにも含まれ、ディスクに付託された情報は参照によりその全体が本明細書に含まれる。コンパクトディスクNo.1は以下のファイル(NLEE1001WO0.ST25.txt(9/30/2005作成、96K))を含む。提出ディスクの総数は1枚である。
本出願の技術分野は、結腸直腸癌(“CRC”)の早期発見のための試薬、方法及びキット、並びに病変、例えば癌(例えばCRC、肺癌、前立腺癌及び乳癌)及び神経変性疾患(例えばアルツハイマー及びALS)の治療に効果的な薬剤スクリーニングのための方法に関する。これらの試薬、方法及びキットは、リスク判定、早期発見、予後確定、介入の評価、CRC及び他のそのような病変の再発、並びに治療的介入のための薬剤の発見に有用である。
【背景技術】
【0003】
医学分野では、CRCのリスク判定及び早期発見を提供する臨床的手順が長い間探索されてきた。現在、CRCは西欧では癌関連死の二番目に主要な原因である。CRCに関する数十年の研究の間に明瞭になった事柄は、早期発見が生存率向上に必須であるということである。
したがって、CRCの早期発見のために長い間探索されてきた1つのアプローチは、CRCの早期発見に効果的な、したがってCRCの治療に効果的なバイオマーカーの調査であった。癌胎児抗原(“CEA”)の発見以来40年以上の間、CRCの早期発見に効果的なバイオマーカーの調査が続いている。CRCの早期診断検査と一緒に用いられるサンプリング方法が低侵襲性であるか又は非侵襲性であるということは更なる利点である。非侵襲性及び低侵襲性のサンプリング方法は患者のコンプライアンスを高め、一般的にコストも低い。さらにまた、生物学的分析に典型的な複雑な多変量データを解析し、そのようなデータを基準にして信頼できる診断評価を得るためのバイオインフォマティクス的方法も所望される。
多数のタイプの癌、例えばCRC、肺癌、前立腺癌及び乳癌のための治療的介入には、外科手術、化学療法及び放射線療法並びに前記の組合せが含まれる。CRCについては、早期発見のための非侵襲性方法についての調査に加えて、これまで継続している研究開発領域は薬剤開発領域にある。
CRCについての数十年の研究を通して明らかになったことは、効果的な治療的介入と合わせて早期発見が生存率の向上に必須であるということである。今日まで、CRC治療でもっとも一般的に用いられる薬剤は5-フルオロウラシル(“5FU”)であり、これはしばしば、葉酸ビタミン、ロイコボリンと一緒に静脈内に投与される。転移が生じ、癌が体の種々の部分に拡散したときには、一次化学療法と称される方法が用いられる。CRCについては、一次化学療法のための従来の方法は、5FUの経口型、カペシタビンをカンプトサール(トポイソメラーゼI阻害剤)又はエロキサチン(DNA合成を粗害する有機金属の白金含有薬)とともに投与することである。
【0004】
現在のところ、CRCのための新規な薬剤開発戦略は、血管形成阻害剤及びシグナルトランスダクション阻害剤の2つの研究領域を含んでいる。
新規な生物製剤にはタンパク質系及びリボザイム系治療薬の両者が含まれる。ヒト化抗体系治療薬には例えばエルビタクス及びアバスチンが含まれる。エルビタクス(シグナルトランスダクション阻害剤)は、癌細胞表面での上皮増殖因子レセプター(“EGFR”)の阻害を目的とする。アバスチン(血管形成阻害剤)は血管内皮増殖因子(“VEGF”)(前記は血管の成長を促進することが知られている)の阻害を目的とする。さらにまた、アンギオザイム(リボザイム系治療薬の例)は、VEGF-R1レセプターの発現に対抗する血管形成阻害剤である。伝統的な小分子系薬剤の新規なものには、イレッサ及びSU11248のような例が含まれる。イレッサは、キナゾリン鋳型を土台とし、シグナルトランスダクション阻害剤として作用し、SU11248はインドリノン鋳型を土台とし抗血管形成阻害剤として作用する。
CRCについてのこれらの初期薬剤療法には、なお多数の潜在的な欠点及び不確実さが存在する。典型的な禁忌(例えば悪心、嘔吐、頭痛及び下痢)に加えて、より重篤な他の副作用(例えば胃腸穿孔、血圧上昇又は低下、極度の倦怠及び内出血)が有望な候補患者の多くについて観察された。さらにまた、血管形成阻害剤又はシグナルトランスダクション阻害剤による薬剤療法の多くが有望のように思われるが、それらは臨床試験の極めて初期段階にある。
したがって、当分野ではCRCの早期発見において有効なバイオマーカーが、低侵襲性又は非侵襲性のサンプリング方法及びバイオインフォマティクス的方法とともに希求される(これらは一緒になってCRCの早期発見のための強力な診断テストをもたらす)。さらに、病変、例えば癌(例えばCRC、肺癌、前立腺癌及び乳癌)及び神経変性疾患(例えばアルツハイマー及びALS)を有すると診断された個体に対して、癌が発症する前に効果的な治療を提供することができ、一方、重篤な副作用は最小限である薬剤の開発もまた当分野で希求されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
結腸直腸癌の早期発見のために、分子診断検査を用い全体的に正常に見える結腸組織を判定する、結腸直腸癌(“CRC”)の新規な早期発見アプローチを開示する。薬剤スクリーニングのための新規なバイオマーカーパネルの使用もまた開示される。また、本明細書に提示した特徴の全てを実施するために汎用または特化した演算プロセッサ/装置をプログラミングするために使用し得る、命令及び/又は情報がその中に保存された保存媒体であるコンピュータープログラム製品が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は具体的には以下の通りである。
1) 1つ又は2つ以上のプロセッサによって実行させたとき、システムに対して、
配列番号:1−16に示されたポリヌクレオチドについてcDNAの定量したレベルのデータを入手させ、
少なくとも1つの多変量統計解析を用いて、前記患者の組織サンプル由来のcDNA定量したレベルをコントロール組織サンプル由来のcDNA定量したレベルと比較し、さらに
結腸直腸癌判定のために訓練を受けた者による判定のために、前記多変量統計解析を提供させる、
命令が保存されてある機械読み出し可能媒体であって、前記cDNAの定量したレベルが患者の組織サンプル及びコントロール組織サンプルから得られるものである、前記機械読み出し可能媒体;
2) 以下を含む伝送媒体に埋め込まれたコンピューターシグナル:
配列番号:1−16から選択されるポリヌクレオチドについてcDNAの定量したレベルを得るための命令を含むコードセグメントであって、前記cDNAの定量したレベルが患者組織サンプルに由来する、前記コードセグメント;
患者組織サンプルに由来するcDNAの定量したレベルを複数のコントロールデータと多変量統計解析を用いて比較するための命令を含むコードセグメント;及び
前記比較に基づいて患者組織サンプルについて結腸直腸癌の診断を下すための命令を含むコードセグメント;
3)以下を含む伝送媒体に埋め込まれたコンピューターシグナル:
配列番号:17−33から選択されるポリペプチドの定量したレベルを得るための命令を含むコードセグメントであって、前記ポリペプチドの定量したレベルが結腸粘膜細胞を含む患者サンプルに由来する、前記コードセグメント;
患者組織サンプルに由来するポリペプチドの定量したレベルを複数のコントロールデータと多変量統計解析を用いて比較するための命令を含むコードセグメント;及び
結腸直腸癌の診断、結腸直腸癌の進行及び結腸直腸癌の治療の有効性の少なくとも1つについて、前記比較に基づく少なくとも1つの命令を含むコードセグメント。
4) 以下の工程を含む、薬剤をスクリーニングする方法:
結腸直腸癌、肺癌、前立腺癌、乳癌、アルツハイマー及びALSの少なくとも1つのための生物学的モデル系を選択する工程;
前記適切な生物学的モデル系を用いたスクリーニングのために少なくとも1つの見込みのある薬剤を選択する工程;
バイオマーカーパネルから配列番号:1−32によって特定される少なくとも2つのバイオマーカーを選択する工程;
前記生物学的モデル系に前記少なくとも1つの見込みのある薬剤を投与する工程;及び、
前記生物学的モデル系で前記少なくとも2つのバイオマーカーの応答を前記投与する工程の関数としてモニターする工程。
5)モニターする工程に基づいて見込みのある薬剤の有効性を決定する工程をさらに含む4)記載の方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
今日までに、腺腫様結腸ポリープ症(“APC”)、p53、及びKi-ras遺伝子に関する研究とともに、それらに対応するタンパク質および前記の調節に必要な関連経路に関する研究を通して、CRCの生物学の深い理解が得られた。しかしながら、特定の遺伝子、その発現、タンパク質生成物及び調節に関する研究と、どの遺伝子が、CRCに対する患者の処置の管理に有用な、前記疾患の分析に使用されるパネルに決定的に含まれるべきであるかについての理解との間には明らかな相違が存在する。CRCについて提唱されたパネルには、APC、p53及びKi-rasとともにBAT-26(ミクロサテライト不安定性マーカー遺伝子である)の特定の点変異が含まれる。
CRCにつては、リスク判定及びCRC早期発見のためのバイオマーカーが長い間探索されてきた。リスク判定と早期発見の間の相違は、CRC発症に関する確実性の程度である。リスク判定に用いられるバイオマーカーは、ある期間内においてCRCについて 100%に満たない確実性を与え、一方、早期発見に用いられるバイオマーカーは、特定の期間内において前記疾患の開始にほぼ100%の確実性を付与する。代用評価項目と絶対的出現との間に確立された関係が存在するということを条件として、リスク因子は、癌と診断されていない個体のための代用評価項目として用いることができる。CRCのための確立された代用評価項目の例は腺腫様ポリープである。立証されたことは、腺腫様ポリープの出現は、個体が後にCRCを発症するために必要条件ではあるが十分条件ではないということである。このことは、全ての前侵襲性癌病巣のうちの90%が腺腫様ポリープであるが、腺腫様ポリープをもつ全ての個体が後にCRC発症に進むわけではないという事実によって示される。
【0008】
腺腫様ポリープはCRCのための代用評価項目として確立され、さらに腺腫様ポリープは結腸鏡検査法又はS状結腸鏡検査法によって巨視的に特定可能である。そのような侵襲性手順中に、前記組織の組織学的判定のために生検サンプルをポリープから又は病巣から採取することができる。本明細書で開示する分子診断アプローチは、巨視的に特定することができるポリープ又は病巣に由来しない、概ね正常のように見える結腸粘膜細胞で用いることができる。しかしながら、本明細書でさらに開示するように、組織学的判定用の患者サンプルを得るために侵襲性手順を用いる必要はない。例えば血液サンプル、大便サンプル、又は概ね正常のように見える直腸細胞の拭き取りサンプルを得るために、非侵襲性又は低侵襲性手順を用いることができ、それらのサンプルに対して分子診断検査を実施してCRCの有無を判定することができる。CRCの早期発見のために以前に記載されたアプローチはいずれも、全体的に正常に見える結腸粘膜細胞、血液サンプル及び/又は大便サンプルの非侵襲性又は低侵襲性採取、その後の分子及び/又はタンパク質発現診断検査を開示していない。前記分子及び/又はタンパク質発現診断検査は、CRCを示す一切の不都合な組織学的変化が出現する前に組織における変化を検出することができる。
図1(-1〜3)は、本開示に含まれる配列リストの総覧を提供する表である。図1(-1〜3)の表は、本発明の実施で有用なバイオマーカーパネルを列挙する。バイオマーカーパネルのある実施態様は、配列番号:1−16によって与えられる16個の同定されたコード配列である。一方、バイオマーカーパネルのもう1つの実施態様は、配列番号:17−32によって与えられる16個の同定されたタンパク質である。これら2つの実施態様は、CRCの早期発見に必要な選択性及び感度を提供する一群の分子マーカーパネルを表す。前記配列リストに記載されたバイオマーカーのフラグメント及び変種もまた、CRC早期発見に用いられるパネルの実施態様において有用なマーカーであることは理解されよう。フラグメントとは、前記配列リストのポリヌクレオチド又はポリペプチドの不完全な又は単離された任意の部分を意味する。さらにまた、遺伝子変種、特に重点的な研究が行われている遺伝子(例えば癌のような疾患に関連する遺伝子)については、ほぼ毎日新しい発見が公表されていることは承知されよう。したがって、提示の配列リストはある遺伝子について現在報告されているものの例示であるが、当該遺伝子の変種及びそれらのフラグメントもまた分析方法にしたがって含まれることは承知されよう。
【0009】
図1(-1〜3)では、表中の1−16のエントリーは一群のバイオマーカーの一側面であり(前記はポリヌクレオチドコード配列である)、前記遺伝子の名称および略語が含まれている。図1(-1〜3)の17−32のエントリーはバイオマーカーパネルのもう1つの実施態様であり、1−16のコード配列に対応するタンパク質、又はポリペプチド、アミノ酸配列である。米国立衛生研究所(NIH)によって規定されているように、バイオマーカーとは、特定の生物学的特性、すなわち疾患の進行又は治療の効果を測定するために用いることができる生化学的特徴又は面をもつ分子指標である。バイオマーカーパネルはバイオマーカー精選物であり、一まとめにして疾患の進行又は治療の効果を測定するために用いることができる。バイオマーカーは多様なクラスの分子に由来し得る。以前に述べたように、CRCの早期発見に有効であるために要求される選択性及び感度を有するCRC用バイオマーカーがなお必要とされている。したがって、本明細書で開示される実施態様の1つは、CRCの早期発見のための基礎を提供することにおいて弁別的である有効なバイオマーカーセットの精選物である。
本発明のある特徴では、CRCの早期発見のために、配列番号:1−16として示されたポリヌクレオチドの発現レベルが、非侵襲的又は低侵襲的な方法によって患者から採取されたサンプル中の細胞から決定される。意図される方法には、血液サンプル採取、大便サンプル採取及び直腸細胞の拭き取りサンプル採取又は生検が含まれる。そのようなポリヌクレオチド発現レベルの分析は、当技術分野ではしばしば遺伝子発現プロファイリングと称される。遺伝子発現プロファイリングのためには、サンプル中のmRNAレベルが、生物学的状態の先導的指標として(本事例ではCRCの指標として)測定される。遺伝子発現プロファイリングの分析のためのもっとも一般的な方法は、逆転写として知られているプロセスを用いて、生物学的サンプル(非侵襲的又は低侵襲的方法によって上記に開示したように患者から採取されたサンプル)中のmRNAから多数のコピーを作成することである。逆転写プロセスでは、サンプルのmRNAは、当技術分野で周知の方法によって、前記生物学的サンプル中の細胞から単離される。続いて前記mRNAを用いて、このmRNAが初めに転写された対応するDNA配列のコピーを作成する。逆転写増幅プロセスでは、DNAコピーは遺伝子内の調節領域(すなわちイントロン)を含まずに作成される。mRNAから作成されたこれら多数のコピーはしたがって“cDNA”と称され、これは相補的DNA又はコピーDNAを表す。エントリー33−64はプライマーセットであり、これらは1−16に挙げた各バイオマーカー遺伝子のための逆転写プロセスで用いることができる。配列番号:1−64で特定される全てのヌクレオチド及びアミノ酸バイオマーカー配列は添付のプリントアウトで見出され本出願の内容として含まれ、かつディスクで見出され本出願の部分として含まれ、かつ参照により本明細書に含まれる。
【0010】
逆転写方法は、サンプル中の当初のmRNAレベルに比例するcDNAコピーを増幅するので、前記方法は、生物学的サンプルに存在する低レベルのmRNAの同定及び定量さえも可能にする標準的な方法になった。いずれの遺伝子もいずれかの生物学的状態でアップレギュレート又はダウンレギュレートされ、したがってmRNAレベルをそれに従って変動させることができる。
本発明のある特徴では、遺伝子発現プロファイリングの方法は、配列番号:1−16から選択されるバイオマーカーパネルのバイオマーカーのうち少なくとも2つについて、非侵襲的又は低侵襲的方法(例えば血液サンプル採取、大便サンプル採取、直腸細胞の拭き取りサンプル採取及び/又は直腸細胞の生検)によって患者から採取した生物学的サンプル中のcDNAレベルの定量的測定を含む。採取組織は、外観的に疾患を有している必要はなく、実際にところ、本発明は、全体的に正常に見える細胞の評価においてすらCRC検出のために有用であることを意図している。そのような遺伝子発現プロファイリングのための方法は、プライマー、酵素及び、cDNAの調製、検出及び定量のための他の試薬の使用を必要とする。サンプル中のmRNAからcDNAを作成する方法は、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(“RT-PCR”)と称される。配列番号:33−64で列挙されているプライマーは、バイオマーカーパネルで開示されているバイオマーカーを基準にしてRT-PCRを用いる遺伝子発現プロファイリングでの使用に特に適している。一連のプライマーはPrimer Expressソフトウェア(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて設計された。特別な候補が選択され、続いてただ1つのcDNAのみが増幅され、さらにゲノムDNAが夾雑していないことを立証するために試験した。配列番号:33−64に列挙されたプライマーを特別に設計し、選択して相応に試験した。
【0011】
配列番号:33−64に挙げたプライマーは、単離した細胞RNAからcDNAを作成する工程に続く工程で、注目する遺伝子発現生成物のリアルタイムPCRで定量的にコピーを増幅させるために重要である。最適なプライマーの配列及び最適なプライマーの長さはプライマーの設計で重要な考慮事項である。最適なプライマーの配列は、プライマーと鋳型との結合の特異性及び感度に大きな影響を与え得る。18−30塩基の間のプライマーの長さが最適範囲と考えられる。理論的には、18塩基がほとんどの真核細胞ゲノムにおいてただ1つの位置でハイブリダイズするであろう固有の配列を表す最小限の長さである。配列番号:33−64に挙げたプライマーは、その長さが21−27塩基の範囲であり、配列番号:1−16から選択されるヌクレオチドパネルのためのcDNAを増幅するように設計され、さらにそのような増幅が実証された。前記プライマーの特異性は、10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(“PAGE”)での単一生成物及びPCR生成物の単一解離曲線によって明らかにされた。
いったんプライマー対が設計され、特異性が実証されたら、それらプライマー対を大量に合成し、将来の便利な利用のために保存する。PCR反応は緩衝液の濃度及び緩衝液の組成に敏感であるので、プライマーは、増副反応で干渉しない適切な希釈剤中に維持されなければならない。適切な希釈剤の一例は、10mMトリス緩衝液(EDTAに対するアッセイの鋭敏性に応じて1mMのEDTAを添加するか又は添加しない)である。また別には、プライマーの適切な希釈剤のもう1つの例はヌクレアーゼを含まない脱イオン水である。プライマーは適切な容器(例えばシリコン処理チューブ)に小分けし、所望の場合は凍結乾燥することができる。液体サンプル又は凍結乾燥サンプルは好ましくは、生物学的サンプルの長期保存用と規定される冷蔵温度で保存される(その温度は約-20℃から-70℃である)。増幅反応におけるプライマー濃度は典型的には0.1から0.5μMである。ストック溶液から最終反応混合物への典型的な希釈係数は、前記小分けしたプライマーのストック溶液が典型的には約1から5μMであるように約10倍である。
配列番号:33−64に挙げた特異的なプライマーの他に、試薬、例えば4つ全てのジヌクレオチド三リン酸(例えばdATP、dGTP、dCTP及びdTTP)を含むジヌクレオチド三リン酸混合物を含むもの、及び耐熱性DNAポリメラーゼを含むものがRT-PCRのための必要である。さらにまた、緩衝液、阻害剤及び活性化因子もまたRT-PCRプロセスに要求される。
【0012】
図2は、CRC早期発見のために用いられるバイオインフォマティクスデータリダクション工程のある特徴を示す。この図は、CRCの家族歴をもつ14の個体(中央)及びポリープをもつ24の個体(右)と比較した17のコントロール(左)に対するマハラノビス距離の分布を示している。全体的に正常に見える結腸粘膜組織から採取した組織サンプルを、配列番号:1−16から選択したポリヌクレオチドのバイオマーカーパネルを用いて判定した。各コントロール及び検査対象について、配列番号:1−16から選択したポリヌクレオチドによって表される16遺伝子の各々の遺伝子発現レベルに対する平均がlog(底2)領域で計算された。続いて、正常発現レベルの限界を確定するために、16次元超空間における多変量平均を、多変量正規分布を基準にしてコントロールについて決定した。各コントロールについて、他の16のコントロールの多変量平均からのマハラノビス距離(“M-dist”)を測定し、一方、検査対象の各々のM-distを17のコントロールの多変量平均から決定した。図2に示した各群では、単一個体由来の生検の全てが垂直列を形成する。ポリープをもつ個体については、アスタリスクは過形成ポリープをもつ個体由来の生検を示す。水平の線は、自由度16をもつカイ二乗分布の第95百分順位を示す。この線(約25のM-distに対応する)を越える全ての値はp<0.05の水準でコントロールの平均とは異なっている。これらのデータは、検査対象者について、全体的に正常に見える結腸粘膜組織サンプルで遺伝子発現パターンの変化が存在することを明瞭に示している。したがって、前記データは、配列番号:1−16から選択されるポリヌクレオチドのバイオマーカーパネルを用いる診断検査の感度及び選択性が強化されていることを明らかにするものである。
【0013】
図3は、配列番号:1−16から選択されるポリヌクレオチドの発現プロファイリングを用いて分析したサンプルから得られたデータの判定のために用いられたバイオインフォマティクスの一側面の流れ作業図(300)を示す。配列番号:1−16から選択されるポリヌクレオチドパネルを用いる分子診断検査のために遺伝子発現データの解析に用いられるバイオインフォマティクス解析の目標は、ただ1つの、計算が容易な異常性測定値の使用である。多変量解析は一緒に得られた全ての発現レベルの変化の有意性を決定するので、配列番号:1−16から選択されるパネル中の全ての遺伝子の発現パターンを多変量解析によって解析することが望ましい。本明細書で開示する分子診断検査を用いて被検患者サンプル中に結腸癌が存在するか否かを判定するために用いられるバイオインフォマティクス解析に有用であり得る数種の多変量試験が存在する。配列番号:1−16から選択されるポリヌクレオチドバイオマーカーパネルを用いて検査される患者サンプルから得られるデータの判定に有用な多変量解析試験の例には、ANOVA及びマハラノビス距離(“M-Dist”)試験が含まれる。
ANOVAは、発現レベル間の相関性を説明する全体的試験である。多変量ANOVA試験は、ウィルクスのラムダ規準を基準にすること、及び、配列番号:1−16から選択されるポリヌクレオチドパネルを用いる分子診断検査を用いて得たデータのlog(底2)値で実施されることが数値の正規分布を得るために望ましい。
【0014】
M-dist解析は多変量解析のまた別の例であり、遺伝子発現の2つのパターン間における相違を、各遺伝子の発現の変動性及び遺伝子対間の相関性を考慮に入れながらただ1つの数字で要約する。M-distは、多変量データでしばしば域外値(outlier)(群内の他の全ての個々の事例とかけ離れている個々の事例)のための試験として用いられる。M-distは、変数(すなわち遺伝子)の数と等しい自由度のカイ二乗分布を参照することによってp-値に変換することができる。しかしながら、多変量正規分布という前提に依存することを避けるために、ランクサム試験、マン-ウィットニー試験を用いて個々の事例(すなわちポリープをもつ事例)についてM-distをコントロールと比較することが望ましい。マン-ウィットニー解析を用いることによって、発現パターンの相違に関する干渉は多変量正規分布という前提に左右されない。したがって、この方法により、全ての実験対象者の発現レベルの有意性をまとめて決定することができ、各個体の発現レベルの有意性の決定も可能となる。
【0015】
前述の開示の作業例は以下で提供される:C-Y. Hao et al. Alteration of Gene Expression in Macroscopically Normal Colonic Mucosa from Individuals with a Family History of Sporadic Colon Cancer, 11 Clin. Cancer Res., 1400-07(Feb. 15, 2005)。前記提示例は、当業者のための更なる手引きとして提供され、一切本発明の限定と解釈されるべきではない。
この例は、いくつかの遺伝子の発現が、結腸癌を未だ発症していないがCRCの家族歴のために高い発症リスクをもつ個体の形態学的に正常な結腸粘膜(“MNCM”)において変化しているか否かを解明するために実施された。
【実施例1】
【0016】
ヒトの対象者
直腸及びS状結腸のMNCM生検が、カリフォルニア・パシフィック・メディカルセンター(“CPMC”)で認められた個体から通常の結腸摘出時に実施された。前記対象者は結腸癌の既往歴をもたず、かつ検査時に腺腫様ポリープ、結腸癌又は他の結腸病巣をもたなかった。一親等に結腸癌の家族歴をもつ12人(表3)及び結腸癌について既知の家族歴をもたない16人がこの調査に含まれている。癌の家族歴の情報は患者の自己申告によって得られ、病院の癌記録での確認はできていないが、最近の調査によって、結腸癌に関する自己申告家族歴の正確さが確認されている。結腸癌の家族歴をもつ12人のうち、2人は母親及び娘であり(表3の事例#6及び7)、2人は姉妹及び兄弟であり(事例#11及び12)、残りは近縁者ではない。調査対象者の年齢は、結腸癌の家族歴をもつ群では18から64歳、及びコントロール群では16から83歳の範囲であった(コントロール群の16歳の対象者は慢性腹痛のために結腸摘出を受けていた)。調査のための正常生検標本を得るために研究プロトコルはCPMC院内調査委員会によって承認された。インフォームドコンセントを得るための適切な手順が全ての調査対象者について順守された。
【0017】
RNA及びcDNAの抽出と調製
盲腸と右結腸曲との間の結腸部分から得た生検サンプルは上行結腸サンプルに分類し、右結腸曲と左結腸曲との間の結腸部分から得たものは横行結腸サンプルに、左結腸曲から下の結腸部分から得たものは下行結腸に、下行結腸から下の結腸湾曲部分から得たものは直腸S状結腸サンプル(直腸から約5−25cm)に分類した。各患者から得た生検サンプル数は変動した。家族歴群の1人の対象者で横行結腸部分及び下行結腸部分からただ1つのサンプルしか得られなかったことを除いて、2つから8つの生検サンプルが各結腸部分から得られた。合計39の上行結腸、37の横行結腸、45の下行結腸及び77の直腸S状標本が、結腸癌の家族歴を持つ12人の個体から得られ、合計53の上行結腸、48の横行結腸、49の下行結腸及び104の直腸S状標本が、結腸癌の家族歴をもたない16人の個体から得られた。全ての生検サンプルはドライアイス上で瞬間冷凍し、記載したRNA調製及び逆転写のために直ちに研究室に運ばれた。
【0018】
遺伝子発現の解析
オンコジーンc-myc、CD44抗原(“CD44”)、シクロオキシゲナーゼ1及び2(“COX-1”及び“COX-2”)、サイクリンD1、サイクリン依存キナーゼ阻害剤(“p21cip/waf1”)、インターロイキン8(“IL-8”)、インターロイキン8レセプター(“CXCR2”)、オステオポンチン(“OPN”)、メラノーマ増殖刺激活性(“Groα/MGSA”)、GRO3オンコジーン(“Groγ”)、マクロファージコロニー刺激因子1(“MCSF-1”)、ペルオキシゾーム増殖活性化レセプター、アルファ、デルタ及びガンマ(“PPAR-α、δ及びγ”)及び血清アミロイドA1(“SAA1”)を、定量的RT-PCRによって解析した。簡単に記せば、蓄積されたPCR生成物が任意の閾値を超えたときにサイクル数(“CT値”)を記録した。この値を正規化するために、各被検遺伝子のCT値とβ-アクチンのCT値との間の相違としてΔCT値を決定した。コントロール群の各遺伝子の平均CT値を算出した。各個体サンプルのCT値とコントロールサンプルから得たこの遺伝子の平均CT値との間の相違としてΔΔCT値を決定した。続いて記載に従って、これらのΔΔCT値を用いて相対的遺伝子発現値を算出した(Applied Biosystems, User Bulletin #2, December 11, 1997)。全てのPCRは、cDNAサンプルが入手できるときはデュープリケートで実施した。結果はまた、内部コントロールとしてヒスチジル-tRNAシンターゼを用いて立証された。相対的遺伝子発現値は、リファレンスとしてβ-アクチン又はhis-tRNAシンターゼのどちらかを用いて同様な結果をもたらした。本明細書で報告する統計解析は、正規化コントロールとしてβ-アクチンを用いて得られた。
【0019】
統計解析
遺伝子発現パターンを、結腸癌の家族歴をもつ個体と結腸癌の家族歴をもたないコントロール群対象者との間で比較した。各遺伝子の発現を別々に調べ、統計的検出力を低下させる方法によって多数の比較について調整するのではなく、ウィルクスのラムダ規準を用いる多変量分散解析(“MANOVA”)によって全ての遺伝子の発現パターンを調べた。この試験は、単変量分散解析を目的とするF-テストの多変量型であり、平均の同等性を調べるものである。このタイプの解析は、遺伝子発現レベル間の相関性を説明し、発現パターンがサブセット中の全ての遺伝子を基準にして群間で異なるか否かの単一の試験を提供することによって偽陽性率を管理する。
発現パターンが群間で異なるという証拠があれば、我々は単変量t-テストを用いて、どの遺伝子が全体的な相違に寄与しているかを決定した。全てのMANOVA試験はウィルクスのラムダ規準に基づき、発現レベルのlog(底2)で実施した(なぜならばこの変換は正規分布を得るために必要だからである)。我々のデータは、各群(家族歴をもつ群対家族歴をもたない群)当たりの個体数が異なる、対象者当たりの種々の数のサンプルから成っていた。前記解析は、サンプリングスキームを考慮するために、群内の個体について、さらに個体内のサンプルについてのランダム効果項(random effects terms)を含めた。Yijkがi番目の群のj番目の患者のk番目のサンプルのlog2遺伝子発現値を示す場合、この統計的モデルは以下の等式により数学的に表される:Yijk=M+Ai+Bij+eijk、ここでAiは(固定された)群効果であり、Bijは(ランダムな)患者効果であり、さらにeijkは患者内の(ランダムな)サンプル効果である。
我々はまた、結腸の上行部分のサンプルについては数値1、横行部分のサンプルについては2、下行部分のサンプルについては3、及び直腸S状部分のサンプルについては4を用いて変数を規定することによって、弁別的発現の規模(過剰発現か又は低発現か)が、結腸の上行部分から直腸に向けて増加するか否かを調べた。この変数は、単変量ANOVAを用いて一定の遺伝子についてその作用を試験することができるように前記モデルに加えられた。
【0020】
カットオフ点の定義
コントロール群の全ての生検サンプルの発現レベルのlog(底2)を用いて、各遺伝子のアップレギュレーション又はダウンレギュレーションのためのカットオフ点を算出した。Pを超えない分布部分が、アップレギュレートされた遺伝子についてはカットオフ点の上に、又はダウンレギュレートされた遺伝子についてはカットオフ点の下に存在し得るように、正規分布に関する許容限度表を用いてカットオフ点を規定した。各カットオフ点は以下によって規定された:カットオフ点=平均+k(SD)。ここで平均及びSD(標準偏差)はコントロール群の値を基準にしている。k値は前記の表で見出され、P値及び正常サンプル数に依存する(D.B. Owen, Noncentral t and tolerance limits, in Z.W. Brimbauim ed. Handbook of Statistical Tables, Reading, MA: Addison-Wesley, 1962, 108-127)。各遺伝子の発現レベルがガウス分布に従うと仮定すると、正常集団の生検の1%未満が99%許容限度(p=0.01)を超える発現レベルをもつと予想されるであろう。
百分順位上位99の外で認められるサンプルの数は偶然によるものであるという確率を計算するために、我々は、p=0.01及びn=被検遺伝子数を乗じた各事例のサンプル数とともに二項分布法を用いた。例えば、事例#1(表3)について、われわれは2サンプルを得た。PPAR-γ及びSAA1については両サンプルとも、PPAR-δについては2つのうちの1つについて異常な発現を示し、IL-8及びCOX-2についてはいずれも異常ではなかった。このように、この事例では、試験した10のうち5つが上部0.01境界を越えていた。このことが偶然に発生する確率は2.4x10-8である。一般式は以下によって与えられる:
【0021】
【数1】

【0022】
式中、kは第99百分順位を超える数であり、nはサンプル数である(5はテストした遺伝子数である)。
【0023】
結果
結腸癌の家族歴をもつ個体の直腸S状粘膜における遺伝子発現の変化
12人(女性10名、男性2名)が結腸癌の家族歴をもつ群を構成し、16人(女性9名、男性7名)がコントロール群であった(表1)。我々は、合計92の上行結腸生検サンプル、85の横行結腸サンプル、94の下行結腸生検サンプル及び181の直腸S状生検サンプルを16の遺伝子の発現レベルについて解析した。これらの遺伝子の発現は、ヒト結腸癌の後期に変化することが知られている。我々はまた、これらの遺伝子のいくつかは結腸癌患者の外科的切除から得られたMNCMで変化していることを示した。
表1の参照を続ければ、結果は、家族歴をもたない16人に由来する104の生検サンプル、及び一親等が結腸癌である家族歴をもつ12人からの77の生検サンプルの解析を示している。サンプルは方法の項で述べたように遺伝子発現について解析した。表中の数字は、コントロール群の平均MCTに対する発現レベルを表している。個体間に変動がなければ、コントロール群の正常な遺伝子発現レベルは1に等しいはずである。ウィルクスラムダ規準を用いる多変量解析を16の遺伝子のlog2発現値により実施し、この2つの群間の相違の有意さを決定した。遺伝子は最小のP値から最大のP値へと列挙されている。
【0024】
16の遺伝子全ての発現値の多変量解析によって、散発性結腸癌家族歴を有する者と有しないものとの間で、直腸S状領域由来の生検サンプルには有意差があることが示された(p=0.01)。下行、上行及び横行結腸由来の生検サンプルでは、遺伝子発現はこれら2つの個体群で有意には変動しなかった(それぞれp=0.06、0.22及び0.52)。直腸S状生検サンプルにおける相違の大半は、これら遺伝子(表1)のうち以下の5つによるものであった:PPAR-γ、SAA1、IL-8、COX-2及びPPAR-δ。癌患者のMNCMでの遺伝子発現の変化と同様に、我々は、散発性結腸癌の家族歴をもつ個体のMNCMでは、SAA1、IL-8及びCOX-2の発現レベルはアップレギュレートし、PPAR-γ及びPPAR-δはダウンレギュレートすることを見出した。
家族歴群の平均(±SD)年齢(45±12歳)はコントロール群(56±16歳)よりも若く、おそらく結腸癌の家族歴をもつ群における早期結腸鏡検査の必要性の認識が高いためであろう。さらにまた、これら2つの群間には性差が存在する(家族歴群では女性10名、男性2名に対しコントロール群では女性9名、男性7名)。しかしながら、我々は、性別は遺伝子発現レベルに影響を与えないことを見出した(p=0.67)。さらにまた、PPAR-δ(p=0.01)を除いて、年齢とSAA1、IL-8、COX-2及びPPAR-γの発現レベルとの間には相関性はなかった(全てp>0.05)。それにもかかわらず、PPAR-δの異常発現(ダウンレギュレーション)は年齢とともに増加した。したがって、より若い家族歴群と年齢のより高いコントロールとの間の比較では、家族歴群での異常発現を多めにではなく少なめに発見することになろう。換言すれば、我々は家族歴群におけるPPAR-δの発現変化の発生を過小評価する可能性がある。
【0025】
表1:結腸直腸癌の家族歴をもつ個体の正常な直腸S状生検サンプルにおける、コントロールと比較した遺伝子発現レベル
【0026】

【0027】
“正常な”遺伝子発現についてのカットオフ点との比較
直腸S状サンプルにおける相対的な遺伝子発現レベルは個体間で変動し、この変動は、コントロール群の対応する値よりも家族歴を持つ個体から得られたサンプルではるかに大きかった(表1)。したがって、我々はコントロール群における各遺伝子の発現レベルを用いて各遺伝子についてのカットオフ点(p=0.01)を計算することによって、各遺伝子についての“正常な”発現レベルを規定した。図3は、遺伝子PPAR-γ、IL-8、SAA1及びCOX-2についてのlog(底2)発現値の分布及びそれらのカットオフ点を示す。予想されたとおり、コントロール群の生検サンプルの1%未満が、前記カットオフ線の上又は下にこれらの遺伝子の発現を示した(p=0.01、図3)。しかしながら、家族歴群由来の生検サンプルの21%、12%及び8%が、それぞれSAA1、IL-8及びCOX-2のカットオフ点を超える発現を示し、さらに12%がカットオフ点より低いPPAR-γの発現を示した(表2)。
【0028】
表2:正常個体又は結腸癌の家族歴をもつ個体におけるカットオフ点より高い/低い遺伝子発現を示す生検サンプルの数(N)
【0029】

【0030】
+カットオフ点より低い遺伝子発現レベルを有する
*カットオフ点より高い遺伝子発現レベルを有する
\変化を示す患者数は表3に示される
【0031】
我々は次に家族歴群において各個体を解析した(表3)。カットオフ点(p=0.01)より低い(PPAR-γ及びδ)又は高い(IL-8、SAA1及びCOX-2)発現レベルを示した生検サンプルの数が示されている。全ての生検サンプルが正常範囲内の発現レベルを示す個体は(−)の記号で示されている。この調査で結腸癌をもつ全ての祖父は母方である。結腸癌と診断されたときの家族のメンバーの年齢は以下のとおりに示されている:***は結腸癌が50歳前に、**は60歳前に、*は60歳より後で診断されたことを示す。家族歴群内の12人の患者のうちいずれも家族内で他のタイプの癌があったことを報告していないが、事例#10の患者の父親は1970年代に肺癌を有していた。
表3で立証されたように、5つのもっとも一般的に変化した遺伝子については、結腸癌の家族歴をもつ12人の患者のうち9人は、少なくとも1つの生検サンプルがカットオフ点より低いか又は高い発現レベルを示した。2つの個体(事例#1及び2)は、外見的に正常な直腸S状粘膜でこれら遺伝子のうち3つの発現に変化を示した。対照的に、コントロール群の16人のうち1人だけがこれらつの5遺伝子のうちの1つの発現の変化を示した(表2参照)。カットオフは、発現の1%が偽陽性であるように設定される。しかしながら、各個体から得られた生検サンプル数は異なっている。標本数について調整するために、我々はまた、各事例について、百分順位上位99の外側で観察されるサンプル数が偶然によって生じる確率を計算した。この計算は二項分布を基準にした。表3に示されるように、家族歴群の12個体のうち7人で観察された遺伝子発現の変化は偶然による蓋然性は低い(p<0.01)。これらの7事例では、5つの遺伝子のうち少なくとも2つの発現が変化した。さらにまた、分析した16の遺伝子のうち、PPAR-γ及びSAA1は、結腸癌の家族歴をもつ12人のうち5人で生じるもっとも頻繁に変化する遺伝子である(表3)。
【0032】
表3.結腸癌の家族歴をもつ個体からの直腸S状結腸生検サンプルにおけるPPAR-γ、IL-8、SAA1、COX-2およびPPAR-δの発現のまとめ
【0033】

【0034】
表3続き

【0035】
表3つづき

【0036】
結腸癌の家族歴をもつ個体から得たMNCMの種々の部位で種々の遺伝子の発現が変化する。
家族歴群の個々の事例の解析によって、種々の遺伝子は種々の対象者の直腸S状生検サンプルで変化することが示された。例えば、SAA1及びPPAR-γが事例#3で変化し、IL-8及びSAA1が事例#4で変化し、一方、COX-2及びIL-8は事例#8で変化したがこの事例でSAA1は変化しなかった(図4A)。さらにまた、いくつかの遺伝子は、同じ患者の直腸S状生検サンプルの全てで変化したが(例えば事例#4のSAA1及び事例#8のIL2)、一方、他の遺伝子はこれらの生検サンプルのいくつかでのみ変化を示した(すなわち、事例#3のSAA1及びPPAR-γ、事例#4のIL-8、及び事例#8のCOX-2)。さらにまた、これらの変化のいくつかは直腸S状領域に限定されるが(例えば事例#4のIL-8)、一方、他の変化は結腸の他の領域に広がり得る(例えば事例#4のSAA1)(図4B)。
我々はまた、2つの個体群の間の遺伝子発現の相違は、PPAR-γ(傾向についてp=0.001)及びSAA1(p<0.001)については結腸の全長にわたって増加するが、IL-8(p=0.20)、COX-2(p=0.58)については増加せず、PPAR-δ(p=0.54)でも同様であった。これらの結果は、2つの個体群間で上行部分から直腸部分に進む結腸に沿って異常性の増加が存在することを示唆している(前記増加は、この調査では上行部分に向かってサンプル数が減少するにもかかわらず検出することができる)。
【0037】
上記の例から、以下の結論を引き出すことができた。結腸直腸癌のほぼ5−10%は、結腸癌の1つ又は2つ以上の常染色体優性遺伝型(家族性腺腫様ポリープ症及び遺伝性非ポリープ症性結腸直腸癌)をもつ患者、又は炎症性腸疾患をもつ患者で発生する(R. Burt, G.M. Peterson. In: G. Young, P. Rozen & Levin B. Saunders, ed. In Prevention and Early Detection of Colorectal Cancer, Philadelphia, 171-194(1996))。残りの結腸癌のうち、ほぼ20%は結腸癌の家族歴と密接な関係を有し、前記は結腸癌発症リスクが2倍高い(R.A. Smith, A.C. von Eschenbach, R. Wender et al. American Cancer Society guidelines for the early detection of cancer: update of early detection guidelines for prostate, colorectal, and endometrial cancers, and Update 2001--testing for early lung cancer detection, 51 CA Cancer J. Clin. 38-75; quiz 77-80 (2001))。染色体15q13-14及び9q22.2-31.2とのリンクが、家族性結腸直腸癌をもつサブセットの患者で報告されたが(G.L. Wiesner, D. Daley, S. Lewis et al. A subset of familial colorectal neoplasia kindreds linked to chromosome 9q22.2-31.2, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (2003), 100:12961-5)、これら症例のほとんどについて遺伝的な基礎は不明である。この調査で、我々は、散発性結腸癌の家族歴をもつ個体から得た直腸S状MNCMで、前記固体は検出可能な結腸の異常すら持たなかったが、PPAR-γ、IL-8及びSAA1の発現が実質的に変化することを明らかにした。我々の以前の研究は、PPAR-γ、IL-8及びSAA1の他に、PPAR-δ、p21、OPN、COX-2、CXCR2、MCSF-1及びCD44の発現もまた、結腸癌、ポリープ又は家族歴をもたない正常なコントロールと比較したとき、結腸癌患者のMNCMで有意に変化することを示した。これらの観察は、MNCMでの癌の発生に関係する遺伝子の発現変化は連続的事象であり、全体的な形態学的異常性が出現するより以前に生じる可能性を示唆している。例えば、PPAR-γ、SAA1及びIL-8の発現変化は、結腸癌を未だ発症させていないが発症させる高いリスクを有する可能性があり、一方、他の遺伝子、例えばPPAR-δ、p21、OPN、COX-2、CXCR2、MCSF-1及びCD44の発現変化は、既に結腸癌を発症させた個体のMNCMで後に生じるのかもしれない(L-C Chen, C-Y Hao, Y.S.Y. Chiu et al. Alteration of Gene Expression in Normal Appearing Colon Mucosa of AOCmin Mice and Human Cancer Patients, 2004 Cancer Research 64:3694-3700)。
【0038】
遺伝的及び後成的変化がいくつかの新形成について顕微鏡的に正常な組織で報告された(B. Tycko, Genetic and epigenetic mosaicism in cancer precursor tissues, 983 Ann N Y Acad Sci, 43-54(2003))。例えば、対立遺伝子座の消失が原発性乳癌に隣接する正常な乳房の末端管の小葉ユニットで明らかにされた(G. Deng, Y. Lu, G. Zlotnikov, A.D. Thor, H.S. Smith, Loss of heterozygosity in normal tissue adjacent to breast carcinomas, 1996, Science, 274:2057-9)。そのような対立遺伝子座の喪失は局所性再発のリスクの増加と結びついている(Z. Li, D.H. Moore, Z.H. Meng, B.M. Ljung, J.W. Gray, S.H. Dairkee, Increased risk of local recurrence is associated with allelic loss in normal lobules of breast cancer patients, 2002, Cancer Res. 62:1000-3)。さらにまた、以前に結腸癌を罹患していた個体の外見的に正常な結腸の粘膜細胞は、以前に結腸癌に罹患していない個体の粘膜細胞よりも胆汁酸誘導アポトーシスに耐性を示す(C. Bernstein, H. Bernstein et al. A bile acid-induced apoptosis assay for colon cancer risk and associated quality control studies, 1999, Cancer Res. 59:2353-7;及びA. Bedi, P.J. Pasricha, A.J. Akhtar et al. Inhibition of apoptosis during development of colorectal cancer, 1995 Cancer Res. 55:1811-6)。アポトーシスは、修復されなかったDNA損傷をもつ細胞の排除のために結腸上皮で重要であるので(C.M. Payne, H. Bernstein, C. Bernstein, H. Garewal, Role of apoptosis in biology and pathology: resistance to apoptosis in colon carcinogenesis, 1995, Ultrastruct Pathol., 19:221-48)、アポトーシスの低下はDNA損傷細胞の維持をもたらし、発癌性変異のリスクを高めるであろう。
【0039】
PPAR-γはいくつかの癌でダウンレギュレートされる。PPAR-γのリガンドは細胞増殖を阻害し、細胞分化を誘導し(S. Kitamura, Y. Miyazaki, Y. Shinomura, S. Kondo, S. Kanayama, Y. Matsuzawa, Peroxisome proliferators-activated receptor gamma induces growth arrest and differentiation markers of human colon cancer cells, 1999, Jpn J Cancer Res 90:75-80)、さらにPPAR-γにおける機能低下変異がヒト結腸癌で報告された(P. Sarraf, E. Mueller, W.M. Smith et al. Loss-of-function mutations in PPAR gamma associated with human colon Cancer, 1999, Mol Cell. 3:799-804)。したがって、MNCMにおけるPPAR-γ発現におけるダウンレギュレーションに関する我々の観察は、結腸の上皮性細胞増殖を促進し、細胞分化を抑制する初期事象を表しているのかもしれない。さらにまた、PPAR-γはまた炎症性応答を負に調節する(J.S. Welch, M. Ricote, T.E. Akiyama, F.J. Gonzalez, C.K. Glass, PPAR gamma and PPAR delta negatively regulate specific subsets of lipopolysaccharide and IFN-gamma target genes in macrophages, 2003, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100:6712-7)。炎症は血管形成及び細胞増殖を促進することによって腫瘍発生を促進する(N. Nakajima, H. Kuwayama, Y. Ito, A. Iwasaki, Y. Arakawa, Helicobacter pylori, neutrophils, interleukins, and gastric epithelial proliferation, 1997, J. Clin Gastroenterol. 25(Suppl.1):98-202)。同様に、IL-8及び急性期タンパク質SAA1は炎症プロセスを調節する(P. Dhawan, A. Richmond, Role of CXCL1 in tumorigenesis of melanoma, 2002, J. Leukoc. Biol. 72:9-18;及びS. Urieli-Shoval, R.P. Linke, Y. Matzner, Expression and function of serum amyloid A, a major acute-phase protein, in normal and disease states, 2000, Curr. Opin. Hematol. 7:64-9)。前炎症性サイトカイン及び急性期タンパク質のアップレギュレーションが、炎症性腸疾患をもつ個体の結腸粘膜で報告された(C. Niederau, F. Backmerhoff, B. Schumacher, Inflammatory mediators and acute phase proteins in patients with crohn's disease and ulcerative colitis, 1997, Hepatogastroenterology 44:90-107;及びA. Keshavarzian, R.D. Fusunyan, M. Jacyno, D. Winship, R.P. MacDermott, I.R. Sanderson, Increased interleukin-8 (IL-8) in rectal dialysate from patients with ulcertive colitis: evidence for a biological role for IL-8 in inflammation of the colon, 1999, Am. J. Gastroenterol. 94:704-12)。前記個体は結腸癌を発症させるリスクが非常に高い(D.R. Bachwich, G.R. Lichtenstein, P.G. Traber, Cancer in inflammatory bowel disease, 1994, Med. Cli. North Am., 78:1399-412)。疫学的観察もまた、慢性炎症は結腸直腸癌を発症させやすくすることを示唆している(J.M. Rhodes, B.J. Campbell, Inflammation and colorectal cancer: IBD-associated and sporadic cancer compared, 2002, Trends Mol. Med., 8:10-6;及びR.J. Farrell, M.A. Peppercorn, Ulcertive colitis, 2002, Lancet 359:331-40)。したがって、散発性結腸癌の家族歴をもつ個体及び炎症性腸疾患をもつ個体の正常粘膜におけるPPAR-γのダウンレギュレーション並びにIL-8及びSAA1のアップレギュレーションの観察は、これらの群で結腸癌形成にいたる一般的経路の中心的関与を示しているのかもしれない。
【0040】
結腸癌の家族歴をもついくつかの個体の正常な結腸粘膜における癌及び炎症に関連する遺伝子の発現の変化を我々が観察したことは、結腸癌発症前の血清C-反応性タンパク質(“CRP”)濃度の上昇との密接な関係が報告されたことと一致する(T.P. Erlinger, E.A. Platz, N. Rifai, K.J. Helzlsouer, C-reactive protein and the risk of incident colorectal cancer, 2004, JAMA, 291:585-90)。これらの発見は、平均的リスクをもつ個体で炎症は結腸癌発症のリスク因子であることを示唆している(上掲書)。しかしながら、CRPは、結腸以外の組織における炎症を示す可能性がある非特異的炎症マーカーである。我々の研究では、結腸癌が発生し、結腸癌発症リスクの判定により特異的であろうと思われる組織が解析されている。
どの細胞タイプが観察された遺伝子発現の変化をもたらすかを我々は認識していない。結腸粘膜には多くの細胞タイプが存在し、これらにはいくつかのタイプの粘膜上皮細胞、間質細胞及び血液によって運ばれる細胞が含まれる。我々のグループ及び他のグループの研究によって、MNCMのCOX-2タンパク質のアップレギュレーションは、もっぱらAPCminマウスのMNCMの浸潤マクロファージに、二番目には異常な腺窩病巣内の上皮細胞に局在することが示された(L-C Chen, C-Y Hao, Y.S.Y. Chiu et al. Alteration of Gene Expression in Normal Appearing Colon Mucosa of APCmin Mice and Human Cancer Patients, 2004, Cancer Research 64:3694-3700;及びM.A. Hull, J.K. Booth, A. Tisbury, et al. Cyclooxygenase 2 is upregulated and localized to macrophages in the intestine of Min mice, 1999, Br. J. Cancer, 79:1399-405)。APCminマウスのMNCMにおける我々の以前の研究から、MNCNでアップ又はダウンレギュレートされる遺伝子生成物の免疫組織化学的染色による検出は困難であることが判明したが、それはおそらく分泌タンパク質(例えばIL-8及びSAA1)は組織切片では直ぐに消えていくためであろう(L-C Chen, C-Y Hao, Y.S.Y. Chiu et al. Alteration of Gene Expression in Normal Appearing Colon Mucosa of APCmin Mice and Human Cancer Patients, 2004, Cancer Research 64:3694-3700)。生検サンプル量が限られていること及び技術的困難さのために、我々は免疫組織化学的染色を実施することが可能な遺伝子発現の変化に寄与する細胞タイプを明らかにすることができなかった。RNAの絶対量が十分である場合、RNA in situハイブリダイゼーションは、細胞内の変化の場所を決定するためにより優れた方法であり得る。あるいは、レーザー顕微解剖とそれに続くRT-PCRによって、中心的に関与する細胞タイプを限定することができよう。遺伝子発現の変化をもたらす細胞タイプに関係なく、我々の結果は、結腸癌の家族歴をもたない正常な個体に対して、遺伝子発現の変化が結腸癌の家族歴をもついくつかの個体の正常な結腸粘膜に存在し、さらにこれらの個体は結腸癌を発症させる高いリスクを持つことが分かったことを明らかにした(R. Burt, G.M. Peterson, In:G. Young, P. Rozen & Levin B. Saunders, ed. In Prevention and Early Detection of Colorectal Cancer, Philadelphia, 171-194(1996))。
【0041】
直腸S状サンプルで遺伝子発現の変化を有する患者の中で、幾人かは全ての生検サンプルで変化を示し(すなわち事例#4及び12のSAA1の発現)、一方、他の者はいくつかの生検サンプルでのみ発現の変化を示した(すなわち事例#2及び#3のPPAR-γ、図2)。ほとんどのサンプルは複数の遺伝子を用いて二重にアッセイしてcDNAの品質を確認したので、前記のような不均一性は技術的な変動によるとは考えにくい。我々は、この不均一性は、これら個体の“ホットスポット”の頻度及び/又は分布を反映しているのかもしれないと推測する。全ての直腸S状領域生検サンプルで遺伝子発現が変化した個体は、直腸S状粘膜に広範囲に広がった分子異常を有する可能性があり、一方、生検サンプルのいくつかで発現が変化した個体は個々に分離したホットスポットを有する可能性がある。したがって、前者の群の個体は、結腸ポリープ又は癌の発症に対して全体的な傾向を有するのかもしれず、一方、後者の群の個体は局所的傾向を有するのかもしれない。結腸癌発症又はポリープ発生のリスクはこれら2つの群間で相違するか否かは不明である。さらにまた、異なる組合せの遺伝子の発現変化が、家族歴群の個体の直腸S状生検サンプルで観察された。この観察は、異なる分子経路が結腸癌形成の早期に必要とされる可能性を示唆している。ある種の分子経路における遺伝子の発現変化がポリープ又は癌の高リスクと密接に結びついているか否かもまた判明していない。
散発性結腸癌患者及び発癌物質処置マウスでは基部結腸よりも遠位結腸でより異常な腺窩病巣(前新形成性結腸病巣)があるとの報告(B. Shpitz, Y. Bomstein, Y. Mekori et al. Aberrant crypt foci in human colons: distribution and histomorphologic characteristics, 1998, Hum. Pathol. 29:469-75;及びE.I. Salim, H. Wanibuchi, K. Morimura et al. Induction of tumors in the colon and liver of the immunodeficient (SCID) mouse by 2-amino-3-methylimidazo[4,5-f]quinoline(IQ)-modulation by long chain fatty acids, 2002, Carcinogenesis,23:1519-29)と一致して、我々は、遺伝子発現変化の大半を家族歴群の個体の遠位結腸で見い出した。我々は、感受性を有する個体の遠位結腸粘膜は、他の結腸領域の粘膜よりも、大半の水が大腸末端で再吸収された後、大便に存在する高濃度の外因性物質に暴露される可能性があり、そのような暴露がこの領域における高率の遺伝子発現変化をもたらし得ると推測する。
【0042】
我々は、結腸癌の家族歴(年齢でも性別でもない)は、2つの群の直腸S状部粘膜における遺伝子発現の観察された相違の原因であることを示した。入手可能な情報によれば、これら2つの患者群の間の食事又は治療法における特定の相違は全く示されていない。しかしながら、我々は、更に研究を重ねることなく食事又は治療法が遺伝子発現に影響を及ぼす可能性を排除することはできない。結腸癌の家族歴をもつ全ての個体が結腸の癌又は腺腫様ポリープを発症するわけではない(R.A Smith, von Eschenbach, R. Wender et al. American Cancer Society guidelines for the early detection guidelines for prostate, colorectal, and endometrial cancers, and Update 2001−testing for early lung cancer detection, 2001, CA Cancer J. Clin. 51:38-75;質問 77-80 (2001))。この臨床観察と一致して、我々の分析はまた、結腸癌の家族歴をもつ全ての個体がMNCMで遺伝子発現の変化を有するわけではないことを示した。この調査で解析した遺伝子は結腸癌発症に必要であるので、我々は、MNCMで遺伝子発現が変化した個体はポリープ又は癌の発生に対して遺伝子発現が変化していない個体よりも感受性が高い可能性があると仮説を立てた。この仮説を調べるために、多数の調査対象によるプロスペクティブ研究が要求されるであろう。そのような関係が確認されたならば、直腸S状生検サンプルの遺伝子発現解析を用いることによって結腸癌発症リスクの高い個体を特定することが可能であろう。理論的には、ランダムなMNCMサンプルの解析によって、局所的な変化をもつ個体よりもMNCMで全体的な変化をもつ個体を特定することがより容易である。しかしながら、多数のサンプルを用いる解析のために適切な遺伝子パネルが選択されるならば、そのような患者の特定に十分な予測力をもつことができる。
【0043】
ここで図5を参照する。図5の種々の特徴は、コンピューター分野の業者には明らかなように、本発明の教示にしたがってプログラムした汎用又は特化したデジタルコンピューター及び/又はプロセッサを用いて実装することができる。適切なソフトウェアコードは、ソフトウェア分野の業者には明らかなように、本発明の教示にしたがってプログラマーによって容易に作成され得る。本発明はまた、集積回路の製造によって、及び/又は当業者には極めて明白なように、構成回路の適切なネットワークとの相互連結によって実施することができる。
種々の特徴には、本明細書に提示した特徴の全てを実施するために汎用または特化した演算プロセッサ/装置をプログラミングするために使用し得る、命令及び/又は情報がその中に保存された保存媒体であるコンピュータープログラム製品が含まれる。前記保存媒体には以下の1つ又は2つ以上が含まれる(ただしこれらに限定されない):フレキシブルディスク、光学ディスク、DVD、CD-ROM、マイクロドライブ、光磁気ディスク、ホログラム保存装置、ROM、RAM、EPROM、EEPROM、DRAM、PRAM、VRAM、フラッシュメモリー装置、磁気又は光学カード、ナノシステム(分子メモリーICを含む)を含む任意のタイプの物理的媒体;紙又は紙を土台にした媒体;及び命令及び/又は情報を保存するために適した任意のタイプの媒体又は装置。種々の特徴には、全体として又は部分として、さらに1つ若しくは2つ以上の公的及び/又は私的ネットワークを越えて伝送することができるコンピュータープログラム製品が含まれる。ここで前記伝送には、本明細書で提示した特徴の全てを実施するために1つ又は2つ以上のプロセッサによって使用され得る命令及び/又は情報が含まれる。種々の特徴では、前記伝送は別個の複数の伝送を含むことができる。
【0044】
1つ又は2つ以上のコンピューター読取り可能媒体に保存される場合、本発明は、汎用/特化コンピューター及び/又はプロセッサを制御するためのソフトウェア、並びに本発明の結果を利用しようとする人間の使用者又は他のメカニズムとコンピューター及び/又はプロセッサをインターラクションさせることを可能にするソフトウェアを含む。そのようなソフトウェアは、デバイスドライバー、オペレーティングシステム、実行環境/コンテナ、ユーザーインターフェース及びアプリケーションを含むことができる。
コードの実行は直接的でも間接的でもよい。前記コードにはコンパイル言語、インタープリター言語及び他の型の言語が含まれ得る。特にクレーム表現によって制限されない限り、ある機能のためのコード及び/又はコードセグメントの実行及び/又は伝送は、その機能達成のために他のソフト又は装置(ローカルであれ遠隔であれ)へのコール又は呼び出しを含むことができる。前記コール又は呼び出しは、前記機能の達成のためのライブラリモジュール、デバイスドライバー及び遠隔ソフトへのコール又は呼び出しを含むことができる。前記コール又は呼び出しは、分散システム及びクライアント/サーバーシステムにおけるコール又は呼び出しを含むことができる。
【0045】
図6は、結腸粘膜細胞の低侵襲性サンプリングのための拭き取りサンプル採取系及び輸送系(400)を含む本発明の特徴を示す。図6の系(400)は、スワブ(410)及び容器(420)で構成される。容器(420)(例えば図6に示す本発明の特徴によって表したもの)は、開示したバイオマーカーパネルを用いるCRC早期発見のための診断検査がサンプルについて実施され得るまで、結腸粘膜細胞の安定化、抽出及び保存を達成することができる形態を有する。
スワブ(410)は、シャフト(414)の末端から伸びる先端(412)を有する。前記先端(410)は多くの形状(例えば偏球、四角形、三角形、球状など)が可能であり、約0.5cmから1.0cmの最大幅、並びにロッドの末端辺りで約1.0cmから10.0cmの長さを有する。先端(412)は多数の物質(例えば綿、レーヨン、ポリエステル及びポリマー泡沫又は例えばそのような物質の組合せ)で構成することができる。シャフト(414)は、直腸領域を効果的に拭い取るために十分な機械的強度をもつが、しかし損傷を防止するために十分な可撓性をもつ物質で作成される。直腸拭き取りサンプル採取のために強度及び可撓性特性を有するシャフト材の例には、木、紙、及び種々のポリマー物質、例えばポリエステル、ポリスチレン及びポリウレタン、並びにそのようなポリマーの混成物が含まれる。
容器(420)は本体(412)及び蓋(424)を有する。本体(412)は、上記に記載したように先端(412)及びシャフト(414)の全長の寸法を有するスワブ(410)を収納するために多様な長さ及び直径を有することができる。容器の本体(412)は、多数のポリマー物質(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリフルオロカーボン)、又はガラスで作成することができ、一方、蓋(424)は、典型的には所望のポリマー物質、例えば本体(412)について述べた例から作成される。容器(420)はその底に試薬(426)を有し、前記試薬は、低侵襲性サンプリング術として直腸領域が拭われたときにスワブ(410)上に採集された結腸粘膜細胞の安定化及び抽出に適している。さらにまた、大便サンプル由来の結腸粘膜細胞サンプルの安定化及び抽出に適した試薬(426)を有する容器(420)を、スワブ(410)の必要なしに用いることもできる。
試薬(426)は、少なくとも約0.4Mの濃度のグアニジンチオシアネート及び他の組織変性試薬(例えば約0.1から10%の濃度の生物学的界面活性剤)の緩衝溶液を含む。望ましい生物学的界面活性剤は双性イオン(例えばCHAPS又はCHAPSO)、非イオン性界面活性剤(例えばTWEEN)又は任意のアルキルグルコシド界面活性剤、又はイオン性界面活性剤(例えばSDS)であり得る。多様な緩衝液、例えばGoodの緩衝液として一般的に知られているもの、例えばトリスを用いることができる。緩衝液の濃度は、約7.0から8.5のpHに効果的に試薬(426)を緩衝させるために変動させることができる。
【0046】
さらに意図されるものは、図6の拭き取りサンプル採取及び輸送系(400)のような本発明の特徴を用いて採取したサンプルを処理することができ、さらに上記に開示したコンピューターハードウェア及びソフトウェアを用いて単一装置でデータを解析することができることである。すなわち、図6に開示した特徴から得たサンプルを単一装置で図5にしたがって解析することができる。しかしながら、患者の血液又は大便サンプルを単一装置で解析することもまた意図される。ある実施態様では、前記装置の1つの特徴は、遺伝子発現プロファイリングのために上記のように患者由来のサンプルについてRT-PCRを実施するために用いられる第一の構成部分である。遺伝子発現プロファイリングは、配列番号:1−16のcDNAの定量を可能にする(前記cDNAは患者のサンプル中の細胞によって生成されるmRNAから逆転写される)。配列番号:33−64由来のプライマーセットをRT-PCR反応において配列番号:1−16に対応するmRNA鎖をプライミングするために使用し、それによって配列番号:1−16に対応するcDNAを合成する。
RT-PCRからcDNAを得た後、データは、装置内で保存媒体に既に保存されたコントロールと装置の第二の成分によって比較される。上記で開示したように多変量解析が、ANOVA、M-dist又は他の多変量解析手段のための命令を実行するソフトを用いて適用される。統計解析により、有資格の診断医がCRCの有無、CRCの進行及び/又はCRC治療の効果について判定することができる。
【0047】
本発明のさらに別の特徴では、単一装置を用いて、患者サンプルのタンパク質発現プロファイリングをCRC早期発見のために実施することができる。本明細書では“ポリペプチド”という用語は、“タンパク質”とう用語と相互に用いられる。以前に考察したように、タンパク質は潜在的なバイオマーカーとして長い間調べられてきたが、成果は限定的であった。ポリヌクレオチドバイオマーカーを補足するものとしてタンパク質バイオマーカーには価値がある。両タイプのバイオマーカーによって提供される情報を持つ理由には、mRNA発現レベルはタンパク質発現レベルの良好な指標ではないという従来の観察、及びmRNA発現レベルはタンパク質の翻訳後修飾(タンパク質の生物学的活性にとって重要である)については何も語らないというこれまでの観察が含まれる。したがって、タンパク質の発現レベル及びそれらの完全な構造を理解するために、タンパク質の直接解析が望ましい。
配列番号:17−32に列挙したタンパク質が本明細書で開示される。これらは配列番号:1−16に示した遺伝子に対応する。本発明の更なる特徴は、配列番号:17−32に示されるタンパク質の発現レベルを決定することである。上記に開示したように非侵襲的又は低侵襲的方法によって採取された患者のサンプルを用いて、固定細胞又はサンプルの細胞のタンパク質抽出物を調製することができる。タンパク質発現プロファイリングのための細胞は、図6の方法により、あるいは例えば血液サンプル又は大便サンプルによって、又は他の非侵襲的若しくは低侵襲的方法(又はもちろんのこと通常のより侵襲的な方法(例えばS字鏡及び他の方法)によって)よって得ることができる。
本装置の第一の構成部分では、細胞又はタンパク質抽出物は、標的ポリペプチドレベルを測定するために、開示のバイオマーカーパネルに対する抗体(モノクローナル又はポリクローナル抗体)パネルを用いてアッセイすることができる。前記アッセイの目的は、配列番号:1−16のバイオマーカー遺伝子配列に対応するタンパク質(すなわち配列番号:17−32)の発現を検出し、これを定量することである。
【0048】
前記方法について意図される本発明のある特徴では、前記抗体パネル中の抗体(バイオマーカーパネルを基準にしている)は固相に結合させることができる。タンパク質発現プロファイリングのための方法は、前記結合され標的となるポリペプチドの何らかの部分に対して特異性を有する第二の抗体を用いることができる。そのような第二の抗体は、前記結合されるポリペプチドを検出及び定量するために有用な、したがって検出及び定量のために前記ポリペプチドとの結合において有用な分子で標識することができる。さらにまた、検出及び定量のために結合ポリペプチドを標識する他の試薬も意図される。そのような試薬は前記結合ポリペプチドを直接標識してもよいが、又は、第二の抗体のように、標識を有する前記結合ポリペプチドに対して特異性を有する部分でもよい。そのような部分の例には、小分子(例えば補助因子、基質、錯化剤など)又は大きな分子(例えばレクチン、ペプチド、オリゴヌクレオチドなど)が含まれるが、ただしこれらに限定されない。そのような部分は天然に存在するものでも合成でもよい。
本発明の方法で意図される検出態様の例には、分光分析技術(例えば蛍光及びUV-可視線分光分析)、シンチレーション計測、質量分析が含まれるが、ただしこれらに限定されない。これらの検出態様を補足するために、これらの方法で用いられる検出及び定量のための標識の例には発色団標識、シンチレーション標識及び質量標識が含まれるが、ただしこれらに限定されない。これらの方法を用いて本装置の第二の構成部分で測定されるポリヌクレオチド及びポリペプチドの発現レベルは、目標に合わせた測定のために作成したコントロールに対して標準化することができる。前記コントロールデータはコンピューターに保存され、これは本装置の第三の構成部分である。
第四のソフトウェア構成部分は一人の患者のサンプル又は複数の患者のサンプルから得られたデータを前記コントロールデータと比較する。この比較は少なくとも1つの多変量解析を含むであろう。前記多変量解析にはANOVA、MANOVA、M-Dist及び当業者に公知の他のものが含まれ得る。いったん統計分析及び比較が実施され、完了したら、医師又は他の有資格者は患者のCRC状態に関して診断を下すことができる。
【0049】
ここで本発明の薬剤スクリーニングの特徴を述べれば、本明細書に開示したバイオマーカーパネルは遺伝子及びその発現生成物であることが特記される。前記発現生成物もまた以下の代謝経路及びプロセスに必要とされることが判明している:1)酸化性ストレス/炎症;2)APC/b-カテニン経路;3)細胞周期/転写因子;及び4)細胞/細胞連絡、増殖、修復及び損傷又は外傷に対する応答に必要とされるサイトカイン及び他の因子の作用。これらの経路(及びしたがって本バイオマーカーパネルのメンバー)はまた、CRC以外の他の多くの種類の癌(例えば肺癌、前立腺癌)と同様に神経変性疾患(例えばアルツハイマーおよび筋萎縮性側索硬化症(“ALS”))にも必要とされることを示す証拠が増えている。そのような病変では、これらの経路に必要とされる遺伝子及びその発現産物は、多くの種々のタイプの細胞の増殖、維持及びストレスへの応答に対して重要である。例えば癌又は神経変性のような病変時に、ある種の変化した遺伝子の発現の変化は病理学的症状をもたらし、それによってこれら遺伝子のシフト及びその発現生成物が当該特定の病変の特徴的なバイオマーカーとなる。前記に関しては、無関係に見える病変、例えば種々の癌及び神経変性疾患は、各々が本バイオマーカー(それらは上記の経路及びプロセス群から引き出される遺伝子及びその発現生成物である)のそれぞれ別個のメンバーを必要とする非常に複雑な病変を出現させる。この実際的な証拠として、COX-2阻害物質は極めて多様な疾患(結腸癌及び他の癌だけでなくいくつかの神経変性疾患も同様に含まれる)に対して治療価値を有することが今や理解されよう。
【0050】
本明細書で開示されるものは、病変、例えば癌(例えばCRC、肺癌、前立腺癌及び乳癌)及び神経変性疾患(例えばアルツハイマー及びALS)のための薬剤開発プロセスにおける図1(-1〜3)中のバイオマーカーパネルの使用である。上記で述べたように、変化した遺伝子及びその発現産物のそれぞれ別個のパターンは各々具体的疾患の固有の特徴を提供し、したがって前記パネルは多様な病変に対して必要な選択性を提供する。薬剤とは、病変の治療で有用な任意の治療物質を意味する。これには、伝統的な合成分子、天然生成物、合成により改変された天然生成物、及び生物薬剤生成物(例えばポリペプチド及びポリヌクレオチド)並びにそれらの組合せ、抽出物及び調製物が含まれる。
薬剤スクリーニングは、薬剤発見相と称される、薬剤開発の第一段階の部分である。薬剤スクリーニング過程を通して適格であるとされた見込みのある薬剤は、典型的にはリード薬剤と称される。換言すれば、スクリーニング工程の規準を通過し、それらは一般的にはリード最適化と称される薬剤発見段階の更なる検査へと進む。薬剤発見のリード最適化段階を通過すると、そのリード薬剤は候補物質として適格となり、薬剤発見段階を超えて次の段階(前臨床試験として知られている)へと進み、前記薬剤は研究新薬(“IND”)と称される。INDが前進すると、この薬剤は臨床試験に進み、そこでINDはヒトを対象として試験される。最後にINDが臨床試験段階で有望性を示したならば、FDAの承認後に商品化され得る。ただ1つの候補物質のための全薬剤開発プロセスには10−15年及び数億ドルの開発コストを要することが知られている。このような理由で、薬剤開発業界内の従来の方法は、見込みのある薬剤から不要なものを効率的に除去し、さらに残りの薬剤開発サイクルを通して成功の高い潜在能力をもつ候補物質のみを進歩させるように薬剤発見段階に焦点を当てようとしている。
【0051】
薬剤発見のスクリーニング段階では、見込みのある薬剤の評価のための特別なアッセイが、適格な生物学的モデル系(前記系のために特別なエンドポイントがモニターされる)に対して実施される。病変、例えば癌(例えばCRC、肺癌、前立腺癌及び乳癌)及び神経変性疾患(例えばアルツハイマー及びALS)のための薬剤スクリーニングのための代用評価項目として用いられるバイオマーカーパネルは、そのような病変の早期発見のために有用であるだけでなく、さらに病変の発生又は再発の減少に相関する様式で薬剤による調節を明らかにする。さらにまた、そのような病変の早期発見で有用なバイオマーカーパネルの1つ又は2つ以上のメンバーもまた、そのような病変について薬剤をスクリーニングするための標的として有用であり得る。以降で考察するように、図1(-1〜3)に記載されているバイオマーカーは、生物学的モデル系で代用評価項目として有用であると同様に薬剤スクリーニングでの標的としても有用であり得る。
スクリーニング相の間に見込みのある薬剤の大きなライブラリーを評価し、ただ1回のスクリーニングレジメンにおいて数万の化合物を処理する能力を示すことができる。低処理量スクリーニング(“LTS”)とみなされるものは、約10,000から50,000の見込み薬剤であり、一方、中等度処理量(“MTS”)は約50,000から約100,000の見込み薬剤を表し、高処理量(“HTS”)は100,000から約500,000の見込みのある薬剤である。
スクリーニングレジメンによって意味されるものには、検査プロトコル及びスクリーニングを管理する解析方法の両方が含まれる。したがって、スクリーニングレジメンは例えば以下の要素を含む:検査に使用される生物学的モデルのタイプ;検査が実施される条件;見込みのある薬剤、候補物質、又は用いられる見込みのある候補物質のライブラリーのタイプ;用いられる装置のタイプ;及びデータが採集され、処理され、保存される態様。スクリーニングレジメンの規模(LTS、MTS又はHTS)は、複数の要素、例えば検査プロトコル(例えばアッセイのタイプ)、解析方法(例えばミニチュア化、自動化)、及びコンピューターの性能及び容量によって影響される。生物学的モデル系が意味するものには、生物体全体、全細胞、細胞溶解物及び分子標的が含まれる。見込みのある薬剤候補物が意味するものは、治療的使用が考慮される任意のタイプの分子、又は分子調製物若しくは懸濁物である。例えば、見込みのある薬剤候補物は、合成分子、天然生成物、合成により改変された天然生成物、生物医薬生成物(例えばポリペプチド及びポリヌクレオチド)、並びのそれらの組合せ、抽出物及び調製物であり得る。
上記で考察したように、図1(-1〜3)は、本発明を実施するために有用なバイオマーカーパネルの配列表を提供する。本発明のある特徴は、配列番号:1−16に示される16の同定されたコード配列のバイオマーカーパネルであり、一方、バイオマーカーパネルのまた別の特徴は配列番号:17−31で示される16の同定されたタンパク質である。本発明のこれら2つの特徴は、病変、例えば癌(例えばCRC、肺癌、前立腺癌及び乳癌)及び神経変性疾患(例えばアルツハイマー及びALS)の早期発見に必要な選択性及び感度を提供する。
以前に述べたように、CRCは新規薬剤の開発のために意図される例示的病変である。CRCの場合、CRCの早期発見に有効な許容できる高い選択性及び感度を有するバイオマーカー又はバイオマーカーパネルはこれまで特定されてなかった。したがって、図1(-1〜3)に記載されているものは、CRCの早期発見のための土台の提供において弁別的な様相をもつバイオマーカーパネルである。臨床的に規定されるバイオマーカーの選択性は正確に診断される患者の百分率である。臨床的な意味合いでのバイオマーカーの感度は、疾患が治癒可能な段階で発見される確率と定義される。理想的には、バイオマーカーは100%の臨床的選択性及び100%の臨床的感度を有するであろう。今日まで、患者の処置管理の広範囲の要求に有効であるために必要とされる十分に高度な選択性及び感度を有するバイオマーカー又はバイオマーカーパネルは全く特定されていない。
スクリーニングが実施される解析方法にはCRCの早期発見のために上記で開示した方法、すなわち以下が含まれ得る:生物学的サンプルのmRNAの遺伝子発現プロファイリングによってバイオマーカーの遺伝子発現を決定し、さらにそれらの発現レベルが見込みのある薬剤候補物によってどのように影響されたか(RT-PCRの使用を含む)、及び/又は見込みのある薬剤候補物を適用することによる図1(-1〜3)のポリペプチドマーカーのタンパク質発現レベルを決定し、続いて多変量解析を利用して、前記見込みのある薬剤候補物の存在下及び非存在下でパネルの種々のマーカーの発現レベルの統計的有意を決定する。
図7を参照すれば、本発明の薬剤スクリーニングのある特徴は、組織サンプル、例えば拭き取りサンプル(図6参照)、血液サンプル、又は生検サンプル(例えば低侵襲性、侵襲性又は非侵襲性手段によって採取される)を得ることを意図する。適切な溶解緩衝液を用いて組織サンプル内のRNAを抽出及び保存することができる。続いて、上記に記載したように例えば配列番号:33−64(図1-1〜3のバイオマーカーパネルに特異的である)に列挙したプライマーの少なくとも2つを用いてRT-PCRを前記抽出されたRNAで実施しcDNAに変換し、薬剤の効果をスクリーニングすることができる。続いて上記に開示したように、アッセイの結果を多変量解析及びM-distに付し、結果をコントロールデータと比較する。
図8は本発明の薬剤スクリーニングのさらに別の特徴を示す。前記では、配列番号:17−32に示される少なくとも2つのバイオマーカータンパク質に対して抗体を作成し、前記抗体を用いて、例えば生検又は上記で説明した他の組織サンプル由来の生物学的な系(例えば全細胞、細胞溶解物など)をアッセイする。前記抗体を用いて配列番号:17−32によって同定されるバイオマーカーペプチドの発現を検出及び定量し、それによって潜在的薬剤の生物学的な系への投与の関数としてこれらバイオマーカーペプチドの発現をモニターすることができる。結果を上記に開示したように多変量解析又は単変量解析及びM-distに付し、コントロールのデータと比較する。
【0052】
本明細書に開示したものは、例示と説明を目的として提供されたものである。徹底的に網羅することも厳密な記載形態で開示したものを限定することも意図されない。当業者には多くの改変及び変更が明らかであろう。原理及び開示した実施態様の実際の利用をもっとも良好に説明し、それによって当業者が種々の態様及び意図する具体的な使用に適した種々の改変を理解できるように、本開示内容は選択され記載されたものである。
上記に引用した参考文献は参照により本明細書に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1−1】本発明のバイオマーカーパネルについて具体的配列を列挙した表である。
【図1−2】図1−1の続き。
【図1−3】図1−2の続き。
【図2】図1−1〜3のバイオマーカーパネルの一特徴及び本発明のバイオインフォマティクス解析評価の一特徴を用いて評価した、コントロール対象者対検査対象者の分布図である。
【図3】遺伝子、PPAR-γ、IL-8、SAA1及びCOX-2のlog(底2)発現値の分布及びそれらのカットオフ点を示す。
【図4】図4A及び4Bは、種々の遺伝子の発現は、結腸癌の家族歴をもつ個体のMNCMの種々の部位において変動することを示す。
【図5】データ評価のために用いられるバイオインフォマティクス解析工程の一特徴を示す作業工程図である。
【図6】結腸粘膜サンプルの低侵襲性検体採取のための拭き取りサンプリング及び輸送系の一実施態様である。
【図7】本発明の薬剤スクリーニングの一特徴を示す作業工程図である。
【図8】本発明の薬剤スクリーニングの別の特徴を示す作業工程図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は2つ以上のプロセッサによって実行させたとき、システムに対して、
配列番号:1−16に示されたポリヌクレオチドについてcDNAの定量したレベルのデータを入手させ、
少なくとも1つの多変量統計解析を用いて、患者の組織サンプル由来のcDNAの定量したレベルをコントロール組織サンプル由来のcDNAの定量したレベルと比較し、さらに
結腸直腸癌判定のために訓練を受けた者による判定のために、前記多変量統計解析結果を提供させる、
命令が保存されてある機械読み出し可能媒体であって、前記cDNAの定量したレベルが前記患者の組織サンプル及びコントロール組織サンプルから得られるものである、前記機械読み出し可能媒体。
【請求項2】
以下を含む伝送媒体に埋め込まれたコンピューターシグナル:
配列番号:1−16から選択されるポリヌクレオチドについてcDNAの定量したレベルを得るための命令を含むコードセグメントであって、前記cDNAの定量したレベルが患者組織サンプルに由来する、前記コードセグメント;
患者組織サンプルに由来するcDNAの定量したレベルを複数のコントロールデータと多変量統計解析を用いて比較するための命令を含むコードセグメント;及び
前記比較に基づいて患者組織サンプルについて結腸直腸癌の診断を下すための命令を含むコードセグメント。
【請求項3】
以下を含む伝送媒体に埋め込まれたコンピューターシグナル:
配列番号:17−33から選択されるポリペプチドの定量したレベルを得るための命令を含むコードセグメントであって、前記ポリペプチドの定量したレベルが結腸粘膜細胞を含む患者サンプルに由来する、前記コードセグメント;
患者組織サンプルに由来するポリペプチドの定量したレベルを複数のコントロールデータと多変量統計解析を用いて比較するための命令を含むコードセグメント;及び
結腸直腸癌の診断、結腸直腸癌の進行及び結腸直腸癌の治療の有効性の少なくとも1つについて、前記比較に基づく少なくとも1つの命令を含むコードセグメント。
【請求項4】
以下の工程を含む、薬剤をスクリーニングする方法:
結腸直腸癌、肺癌、前立腺癌、乳癌、アルツハイマー及びALSの少なくとも1つのための生物学的モデル系を選択する工程;
前記適切な生物学的モデル系を用いたスクリーニングのために少なくとも1つの見込みのある薬剤を選択する工程;
バイオマーカーパネルから配列番号:1−32によって特定される少なくとも2つのバイオマーカーを選択する工程;
前記生物学的モデル系に前記少なくとも1つの見込みのある薬剤を投与する工程;及び、
前記生物学的モデル系で前記少なくとも2つのバイオマーカーの応答を前記投与する工程の関数としてモニターする工程。
【請求項5】
モニターする工程に基づいて見込みのある薬剤の有効性を決定する工程をさらに含む、請求項4記載の方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−60908(P2009−60908A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243636(P2008−243636)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【分割の表示】特願2007−534759(P2007−534759)の分割
【原出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(506232903)インテリジーンスキャン インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】