説明

真偽判別可能な印刷物

【課題】 本発明は、メタメリックペアインキで印刷される貴重品に適用可能な階調画像を有する真偽判別可能な印刷物が得られるものである。
【解決手段】 基材上に第1の領域と第2の領域が交互に隣接して複数配置され、前記第2の領域内に第3の領域が毛抜き合せで配置されて濃度階調を有する可視画像が形成され、前記第1の領域によって濃度階調を有する画像が形成され、前記第3の領域によって潜像画像が形成され、前記第2の領域は前記潜像画像のカムフラージュ領域となり、前記第1の領域及び前記第2の領域は第1の印刷インキで、前記第3の領域は第2の印刷インキで印刷され、前記第1の印刷インキと前記第2の印刷インキの分光反射率は可視領域内の第1の波長の範囲で近似し、可視領域内の第2の波長の範囲では異なる値であるインキで印刷する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、パスポート、有価証券、カード、印紙類、商品タグ、有料道路等の回数券及び各種チケット等の貴重品に適用する真偽判別可能な印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のスキャナ、プリンタ及びカラーコピー機等のディジタル機器の発展により、貴重印刷物の精巧な複製物を容易に作製することが可能となっている。その対策の一つに、従来から目視による識別方法としてメタメリズムを応用したメタメリックペアインキを用いる方法が多く試みられている。メタメリックペアインキを用いた貴重印刷物の目視による判別方法は、照明の光源の種類や特定波長を透過するフィルタの介在により、インキが同色に見えたり、異なった色に見えたりする特性を利用したものである。偽造防止技術を必要とする印刷物において、このようにインキのメタメリズムによる光学特性を利用する方法は従来から行われている。
【0003】
通常、有色のメタメリックペアインキによって印刷された印刷物は、400〜700nmの可視全波長である波長領域Aと、使用する所定のフィルタ等が透過する所定の波長である波長領域Bの二つの波長領域で観察される。
【0004】
図1(a)に示す印刷物A1は、基材1に可視画像2を形成し、可視画像2は、第1のインキで印刷される第1の領域3と第2のインキで印刷される第2の領域4で構成される。印刷物A1は、太陽光、蛍光灯又は白熱電球等による通常光下において肉眼で観察した場合に、図1(b)に示すように、第1のインキで印刷される第1の領域3と第2のインキで印刷される第2の領域4が等色で視認され、可視画像2のみが確認できる。印刷物A1は、所定のフィルタ等を通して肉眼で観察した場合に、図1(c)に示すように、第1のインキで印刷される第1の領域3と第2のインキで印刷される第2の領域4の色が異なって視認されるため、潜像画像として確認できる。印刷物A1は、可視画像2に対して所定のフィルタ10等を通して、第1の領域3と第2の領域4の色の差異が生じた場合に本物と判断し、色の差異が生じない場合に偽物と判断される。
【0005】
また、別のメタメリックペアインキを用いた印刷物の真偽判別方法として、ペアインキ間のコントラストの変化を利用するものがある。この方法においては、特定波長域を数十nm程度の範囲に限定された領域に設定するために、色相の変化はわずかしか発生しないが、ペアインキ間の特定波長領域における反射及び吸収特性の違いがより顕著に現れるため、図1の第1の領域3の濃度のみが低下し、図1の第2の領域4が強調されて、第2の領域4が潜像画像として出現したように見える。以上のように、フィルタを通して潜像画像の出現の有無を認証して真偽判別を行う方法も存在する。
【0006】
いずれにしても、色相変化又は潜像画像の出現の有無を認証する各々の方法においても、メタメリックペアインキを用いた真偽判別は、特定の波長領域におけるインキの反射及び吸収特性の差異を利用するものである。
【0007】
例えば、太陽光、蛍光灯又は白熱電球等による通常光下においては同色に見えるが、所定の分光エネルギー分布を有する光源の下で見るか、所定のフィルタを通して見るか、又は所定のフィルタを通過させた光の下で見ると、一方が異なった色相に見えるメタメリックな性質を有する二種類の色料によって、パターンを互いに対比観察できるように基材上に形成することに特徴を有した画像形成体が開示されている(特許文献1参照)。
【0008】
また、本出願人は、メタメリックペアインキに異なる近赤外特性を持たせ、その二種類のメタメリックペアインキを用いた印刷物を、近赤外領域の異なる二つの波長の反射又は透過光量を電圧換算で読み取る真偽判別方法とその装置を出願している(特許文献2参照)。
【0009】
【特許文献1】特公昭60−58711号公報(第1−4頁、第1−11図)
【特許文献2】特許第3709539号公報(第1−6頁、第1−6図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のメタメリックペアインキで印刷される印刷物は、色相変化や潜像画像の出現の有無を認証する場合に、一般的にベタの印刷パターンで印刷する形態であり、また、図1に示したように潜像画像は可視画像の一部をそのまま空白化して、潜像画像をその空白化した部位に重ね合わせて置き換える、いわゆる単純な「抜き」と呼ばれる構成を用いて付与される場合がほとんどである。これは複数色の色彩が用いられることがないため色彩に乏しく、さらに、可視画像内に埋め込まれた潜像画像が通常光下で視認される恐れがあり、デザインの自由度がなく、通常光下では同色に見える可視画像及び所定のフィルタ等を通して観察した場合に出現する潜像画像は、文字又はマーク等の単純なものであった。つまり、濃度階調を有する可視画像又は濃度階調を有する潜像画像を形成するものはなかった。特公昭60−58711号公報及び特許第3709539号公報についても濃度階調を形成することについては記載されていない。
【0011】
仮に、メタメリックペアインキを用いた印刷物に対して前述した「抜き」の構成を用い、通常光下で視認されるメタメリックペアインキにより印刷した可視画像2を、ベタ画像だけではなく、少なくとも二つの濃度階調、例えば、濃度階調が図2(a)のようなハイライト領域、中間調領域及びシャドー領域を有する印刷物A2の場合に、所定のフィルタ10等を通して出現する第2の領域4から成る潜像画像の視認性が図2(b)のように劣るという問題があった。これは、通常光下で視認される可視画像2に階調を表現するためには、第2の領域4から成る潜像画像にも可視画像2の階調を反映させておく必要がある。このため、所定のフィルタ10等を通して観察した場合に、第2の領域4から成る潜像画像の中に可視画像2の階調が出現してしまい、第2の領域から成る潜像画像に薄い領域が形成されてしまい視認性が劣るものとなる。また、可視画像2自体もフィルタを通した場合に階調表現域を若干失う程度の変化しかしない場合が多く、可視画像2自体の階調が目視可能な程度に出現してしまい、第2の領域4から成る潜像画像と混ざり合ってしまうことも、可視画像2に階調を付与した場合に潜像画像の視認性が劣る原因の一つであった。
【0012】
本発明は、このような従来の問題を解決することを目的としたもので、可視光下では、第1の領域と第2の領域が交互に隣接して複数配置され、第2の領域内に第3の領域が毛抜き合せで配置された濃度階調を有する可視画像が視認され、更に可視光下では第3の領域は第2の領域によって隠蔽され、第3の領域から成る潜像画像は、視認され難い状態よなるか又は視認されることはない状態となる。所定のフィルタ等を通して肉眼で観察した場合に、第3の領域から成る潜像画像が視認され、潜像画像は可視光下で視認される濃度階調を有する領域の濃度階調が反映されず、かつ、第3の領域から成る潜像画像は第1の領域及び第2の領域と鮮明な濃度差を有して視認されるため、容易に真偽判別することが可能である。また、必要に応じて第3の領域から成る潜像画像に濃度階調を付与することも可能であり、デザインの制約を受けることはない。
【0013】
本発明は、上記の階調画像を有するメタメリックペアインキで印刷された真偽判別可能な印刷物を提案することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、基材上に第1の領域と第2の領域が交互に隣接されて複数配置され、前記第2の領域内に第3の領域が毛抜き合せで配置されて濃度階調を有する可視画像が形成され、前記第1の領域によって濃度階調を有する画像が形成され、前記第3の領域によって潜像画像が形成され、前記第2の領域は前記潜像画像のカムフラージュ領域となり、前記第1の領域及び前記第2の領域は第1の印刷インキで、前記第3の領域は第2の印刷インキで印刷され、前記第1の印刷インキと前記第2の印刷インキの分光反射率は可視領域内の第1の波長の範囲では近似し、可視領域内の第2の波長の範囲では異なる値であるメタメリックペアインキで印刷されたことを特徴とする真偽判別可能な印刷物である。
【0015】
また、本発明の前記濃度階調を有する可視画像の網点面積率は、40〜80%以下で形成され、前記潜像画像の網点面積率は、40%以下で形成され、前記カムフラージュ領域の網点面積率は、40%以下で形成されたことを特徴とする真偽判別可能な印刷物である。
【0016】
また、本発明の前記第1の印刷インキの640〜700nm間における分光反射スペクトルの積分値は、前記第2の印刷インキの640〜700nm間における分光反射スペクトルの積分値の2倍以上を有し、前記第1の印刷インキの400〜600nm間における分光反射スペクトルの積分値は、前記第2の印刷インキの400〜600nm間における分光反射スペクトルの積分値と略同一であることを特徴とする真偽判別可能な印刷物である。
【0017】
また、本発明は、前記潜像画像が濃度階調を有することを特徴とする真偽判別可能な印刷物である。
【発明の効果】
【0018】
本発明はデザインに制約を受けることがないメタメリックペアインキで印刷される貴重品に適用する階調画像を有する真偽判別可能な印刷物が得られる。当然、貴重品以外の印刷物にも適用できる。
【0019】
可視光下において真偽判別印刷物は、濃度階調を有する可視画像が視認される。さらに可視光下では潜像画像は視認され難い状態又は視認されることはない状態となる。しかし、所定のフィルタ等を通して肉眼で観察した場合には、潜像画像が視認される。潜像画像は濃度階調を有する領域の濃度階調が反映されることはなく、潜像画像とその他の領域では鮮明な濃度差を有して視認される。よって、潜像画像の視認の有無を容易に判断でき、真偽判別することが可能となる。
【0020】
メタメリックペアインキで形成した第2の領域と第3の領域は、互いに対となり、全体的な濃度を一定にすることで、従来よりも可視光下における潜像画像の隠蔽性が向上する。また、第1の領域、第2の領域及び第3の領域の最低網点面積率と最高網点面積率を適切に設定することによって、可視光下における潜像画像の隠蔽性が向上し、所定のフィルタ等を通して肉眼で観察した場合に、明瞭に潜像画像が視認される。
【0021】
また、可視画像と潜像画像の両画像ともに濃度階調を付与することが可能である。さらに、濃度階調を有する可視画像上に分光反射率が640〜700nm間で反射率の高い少なくとも一色のインキ(例えば、マゼンタインキ及び/又はイエローインキ)でカムフラージュ模様を形成し、複数色の色彩を付与することが可能となり、可視光下での潜像画像の隠蔽性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0023】
通常、メタメリックペアインキによって構成された画像は、400〜700nmの可視全波長の波長領域Aと、使用する所定のフィルタ等が透過する所定の波長の波長領域Bの二つの波長領域で観察される。本発明の実施の形態における真偽判別可能な印刷物とは、二種類以上のインキを用いて基材に印刷されて作製される。
【0024】
図3(a)に真偽判別可能な印刷物Bを示す。m×mピクセルの第1のハーフトーン領域に濃度階調を有する画像を形成し、n×nピクセルの第2のハーフトーン領域に潜像画像と潜像画像を隠蔽するカムフラージュ領域が形成される。この特殊な網点構成は、ポストスクリプト網点生成法の中で、二種類の網点データを直接定義する技術と、特開2001-205917号公報で提案した二種類の網点画像を同一平面上に均等配置する画像処理法により生成される。
【0025】
図3(a)に示すように、基材1上に第1の領域2と第2の領域3が交互に隣接して複数配置され、第2の領域3内に第3の領域4を毛抜き合せで配置して濃度階調を有する可視画像5が形成される。ここでいう毛抜き合せは、図3(b)に示すように第2の領域3の非印刷領域3aに第3の領域4が形成される。さらに、図4に示すように第2の領域3の非印刷領域3aに第3の領域4が形成される位置は特に限定されるものではない。また、図5に示すように第2の領域3と第3の領域4の境界は、図5(a)に示すように重なることなく刷り合わさった形態、又は、図5(b)に示すように第2の領域3と第3の領域4の一部が重なった領域6を有する形態であってもよい。一部が重なった領域6は、第2の領域上に第3の領域4を印刷又は第3の領域上に第2の領域4を印刷してもよい。この場合は、第2の領域3と第3の領域4の一方又は両方の重なった領域は、グラデーション等の濃度調整をすることが好ましい。また、ここでいう第1の領域2と第2の領域3が交互に隣接とは、領域自体は隣り合って接しているが、第1の領域2に濃度階調を有する画像が形成されるため大小の網点が生じ、第1の領域2と第2の領域3の網点同士は接していない領域が生じるものである。
【0026】
次に、第1の領域2と第2の領域3の領域の大きさについて説明する。図3では一つの第1の領域2と、第1の領域2に隣接する一つの第2の領域3とが複数組配置され、第2の領域3の周囲が複数の第1の領域2により囲まれ、第1の領域2は、第2の領域3より面積が大きく、さらに、第2の領域3内には第3の領域が毛抜き合せで形成されている。本発明はこれに限定されることなく、図6(a)に示すように一つの第1の領域2と、第1の領域2に隣接する一つの第2の領域3とが複数組配置され、第1の領域2の周囲が、複数の第2の領域3により囲まれ、第2の領域3は、第1の領域2より面積が大きく、さらに、第2の領域3内には第3の領域が毛抜き合せで形成してもよい。また、図6(b)に示すように図6(a)に示すように一つの第1の領域2と、第1の領域2に隣接する一つの第2の領域3とが複数組配置され、第1の領域2の周囲が、複数の第2の領域3により囲まれ、第2の領域3の周囲が、複数の第1の領域2により囲まれ、第1の領域2は第2の領域3と面積が同一で、さらに、第2の領域3内には第3の領域を毛抜き合せで形成してもよい。
【0027】
図7に示すように第1の領域2によって濃度階調を有する画像7が形成され、第3の領域4によって潜像画像8が形成され、第2の領域3は潜像画像8のカムフラージュ領域9となる。
【0028】
第1の領域2から成る濃度階調を有する画像7及び第2の領域3から成るカムフラージュ領域9は第1の印刷インキで、第3の領域4から成る潜像画像は第2の印刷インキで印刷される。
【0029】
第1の印刷インキと第2の印刷インキの関係について説明する。第1の印刷インキと第2の印刷インキの分光反射率は可視領域内の第1の波長の範囲で近似し、可視領域内の第2の波長の範囲では異なる値となる。つまり、第1の印刷インキと第2の印刷インキはメタメリックペアインキの関係にある。また、第1の印刷インキの640〜700nm間における分光反射スペクトルの積分値は、第2の印刷インキの640〜700nm間における分光反射スペクトルの積分値の2倍以上を有し、第1の印刷インキの400〜600nm間における分光反射スペクトルの積分値は、第2の印刷インキの400〜600nm間における分光反射スペクトルの積分値と略同一であることを特徴とすることが好ましい。
【0030】
図8は、本発明で使用するメタメリックペアインキである第1の印刷インキ及び第2の印刷インキの分光反射率曲線の一例である。図8に示すように第1の印刷インキ及び第2の印刷インキの分光反射率の関係が、640〜700nm間で30%以上の分光反射率の差が生じる設計とし、400〜600nmで20%以下の分光反射率の差が生じる設計で第1の印刷インキ及び第2の印刷インキを作製している。図8に示す分光反射率曲線を有する第1の印刷インキ及び第2の印刷インキは茶系の色彩のインキである。ただし、本発明においては茶系の色彩のメタメリックペアインキを用いて説明を記載しているが、通常光下での等色性に優れ、かつ、特定波長域における異色性に優れたメタメリックペアインキを使用することを前提とした場合には、その色彩についての制限はない。
【0031】
図8に示すメタメリックペアインキである第1の印刷インキ及び第2の印刷インキの関係は、640nm以上の分光反射率に大きな違いが生じる設計とし、波長領域Bは、640nmから目視可能な最高波長である700nmの範囲としている。図8では、660nm以上でより顕著な分光反射率の差異が見受けられるが、660〜700nmの光を透過するシャープカットフィルタ等を用いる場合、屋内の光源では透過する光量が不足してしまい、インキの反射及び吸収特性が如何に優れている場合でも全体画像自体が暗く沈み、ほとんど視認不可能となることから、強力な光源を必要とする場合が多い。以上のことから、640〜700nmを波長領域Bとしている。この波長領域Bの設定については、ユーザが希望する認証波長を取り決め、それに従ったインキ材を選択してメタメリックペアインキを作製すればよいのであって、特にこの波長領域に限定されるものでない。
【0032】
次に、第1の領域2によって形成される濃度階調を有する画像7の網点面積率、第3の領域4によって形成される潜像画像8の網点面積率及び第2の領域3によって形成される潜像画像8のカムフラージュ領域9の網点面積率の関係について説明する。
【0033】
第1の領域2、第2の領域3及び第3の領域4によって印刷される濃度階調を有する可視画像5は、第1の所定範囲の網点面積率で印刷され、第1の領域2によって印刷される濃度階調を有する画像7は、第2の所定範囲の網点面積率で印刷され、第2の領域3によって印刷されるカムフラージュ領域9は、第3の所定範囲の網点面積率で印刷され、第3の領域4によって印刷される潜像画像8は、第4の所定範囲の網点面積率で印刷する必要がある。
【0034】
第1の印刷インキ及び第2の印刷インキで印刷される第1の領域2、第2の領域3及び第3の領域4から成る濃度階調を有する可視画像5は、所定範囲の網点面積率で印刷され、第2の印刷インキの印刷される第3の領域4から成る潜像画像8は濃度階調を有する可視画像5の最小網点面積率以下で印刷する必要がある。
【0035】
第1の領域2、第2の領域3及び第3の領域4によって印刷される濃度階調を有する可視画像5の第1の所定範囲の網点面積率は40〜80%以下で印刷され、第1の領域2によって印刷される濃度階調を有する画像7の第2の所定範囲の網点面積率は0〜80%以下で印刷され、第2の領域3によって印刷されるカムフラージュ領域9の第3の所定範囲の網点面積率は40%以下で印刷され、第3の領域4によって印刷される潜像画像8の第4の所定範囲の網点面積率は、40%以下で印刷することが好ましい。
【0036】
次に、第1の印刷インキ及び第2の印刷インキで印刷される第1の領域2、第2の領域3及び第3の領域4から成る濃度階調を有する可視画像5と、第1の印刷インキで印刷される第2の領域3から成るカムフラージュ領域9と、第2の印刷インキで印刷される第3の領域4から成る潜像画像8の濃度階調領域の関係について図9を用いて説明する。
【0037】
潜像画像を隠蔽する手段としては、潜像画像8を形成する第2の印刷インキで印刷される第3の領域4の網点と、前記網点と対となるカムフラージュ領域9を形成する第1の印刷インキで印刷される第2の領域3の網点を組み合わせた網点面積率の合計が一定の値となるようにする。
【0038】
波長領域Aにおいて、ある特定の反射濃度で表現された第1の印刷インキで印刷される領域及び第2の印刷インキで印刷される領域は、波長領域Bにおいては、互いの領域で良好な濃度差を得ることが可能となる。波長領域Bで高い濃度差を得るための最高網点面積率を網点面積率Aとする。これは、濃度階調を有する可視画像5の濃度が高すぎると、波長領域Bにおいても濃度階調を有する可視画像5が視認されてしまうことから一定の階調制限を設けることが好ましい。
【0039】
図9に示すように波長領域Aにおいては、第1の印刷インキ及び第2の印刷インキで印刷される第1の領域2、第2の領域3及び第3の領域4から成る濃度階調を有する可視画像5と、第1の印刷インキで印刷される第2の領域3から成るカムフラージュ領域9と、第2の印刷インキで印刷される第3の領域4から成る潜像画像8の濃度階調領域の関係について、図9を用いて説明する。
【0040】
第1の印刷インキ及び第2の印刷インキで印刷される第1の領域2、第2の領域3及び第3の領域4から成る濃度階調を有する可視画像5は、第3の領域4から成る潜像画像8を表現する最高網点面積率(例えば40%)以上、かつ、網点面積率A(例えば80%)以下で構成し、第2の印刷インキで印刷される第3の領域から成る潜像画像8の濃度階調領域は、濃度階調を有する可視画像5の最低網点面積率以下、例えば0〜40%で構成する。第1の印刷インキで印刷される第2の領域3から成るカムフラージュ領域9は、網点面積率A(例えば80%)以下、例えば0〜40%で構成する。第1の印刷インキで印刷される第1の領域2から成る濃度階調を有する画像7の濃度階調領域は網点面積率A(例えば80%)以下で構成する。カムフラージュ領域9の網点面積率については潜像画像8を構成する網点と、網点と対となるカムフラージュ領域9の網点を組み合わせた網点面積率の合計が一定の値(例えば40%)となるようにする。例えば、潜像画像8の網点面積率が0の場合は、対となるカムフラージュ領域9の網点面積率が40となり、潜像画像8の網点面積率が20の場合は、対となるカムフラージュ領域9の網点面積率が20となり、潜像画像8の網点面積率が40の場合は、対となるカムフラージュ領域9の網点面積率が0となる。
【0041】
メタメリックペアインキを用いる場合、フィルタ等を用いて目視される潜像画像は、観察環境に存在する光のうち、波長領域Bの光のみを利用するものであるから、波長領域Aでは低濃度と感じる画像であっても、波長領域Bにおいては、その光量自体が大きく低下するため、波長領域Bの光に対する反射及び吸収特性がより強く反映され、波長領域Aで得られる濃度よりも高い濃度であると目視上感じさせることができる。すなわち、波長領域Bにおけるインキの反射及び吸収特性が優れている場合には、波長領域Aではハイライト程度としか目視されない濃度であっても、フィルタを通して観察した場合には、中間からシャドーの濃度として観察者に認識させることが可能となる。
【0042】
真偽判別可能な印刷物Bは特定波長Aである太陽光、蛍光灯又は白熱電球等による通常光下では図10(a)に示すように濃度階調を有する可視画像5が確認され、潜像画像8は確認することができない。潜像画像8は濃度階調を有する可視画像5以下の反射濃度によって可視画像の中に目視不可能な程度に微細な構造で違和感なく配置されることにより、濃度階調を有する可視画像5の中に完全に隠蔽される。
【0043】
真偽判別可能な印刷物Bは、波長領域Bである異なる光源又は所定のフィルタ10を通して観察した場合に、図10(b)に示すように潜像画像8が確認される。第1の印刷インキで印刷される第1の領域2から成る濃度階調を有する画像7及び第1の印刷インキで印刷される第2の領域3から成るカムフラージュ領域9はあたかも消出したようになり、潜像画像8のみが視認されているように見える。潜像画像8は、第1の印刷インキで印刷される第1の領域2から成る濃度階調を有する可視画像5以下の反射濃度で構成されながらも、波長領域Bにおいて第1の印刷インキで印刷される第1の領域2から成る濃度階調を有する画像7及び第2の領域3から成るカムフラージュ領域9が、一定濃度に収束されるため、潜像画像8と、第1の領域2から成る濃度階調を有する画像7及び第2の領域3から成るカムフラージュ領域9の濃度差が高くなることで、視認性の高い潜像画像として発現させることを可能となる。第1の領域2から成る濃度階調を有する画像7と潜像画像8はデザイン的に重なっているが、波長領域Bで観察した場合に、潜像画像8に第1の領域2から成る濃度階調を有する画像7の濃度階調がほとんど反映されず、潜像画像8と、濃度階調を有する画像7及びカムフラージュ領域9に鮮明な濃度差を有して視認されるため、容易に真偽判別することが可能となる。
【0044】
真偽判別可能な印刷物Bに用いる第1の印刷インキにより印刷される第1の領域2から成る濃度階調を有する画像7と、第1の印刷インキにより印刷される第2の領域3から成るカムフラージュ領域9の第1の版面12と、第2の印刷インキで印刷される第3の領域から成る潜像画像8の第2の版面13を作製するための容易な手順としては、図11(a)に示すカムフラージュ領域9と、図11(b)に示す潜像画像8を形成し、カムフラージュ領域9と、潜像画像8を合成した図11(c)に示す濃度が一定な画像11を形成する。この場合の濃度は、濃度階調を有する可視画像5の最低網点面積率以下まで引き下げる。次に、図11(d)に示す濃度階調を有する画像7に対して図11(c)に示した潜像画像8とカムフラージュ領域9のうち、カムフラージュ領域9のみを抽出し、濃度階調を有する画像7に加算して、網点面積率Aまで引き下げて、図11(e)に示す濃度階調を有する画像7及びカムフラージュ領域9の画像から第1の版面12を作製する。第2の版面13は図11(c)に示した潜像画像8とカムフラージュ領域9のうち、潜像画像8のみを抽出して第2の版面13を作製する。ただし、本発明はこの手順にのみ限定されるものではないことは言うまでもない。
【0045】
真偽判別可能な印刷物において、濃度階調を有する可視画像5上に分光反射率が640〜700nm間で反射率の高い少なくとも一色のインキ(例えば、マゼンタインキ及び/又はイエローインキ)でカムフラージュ模様を刷り重ねることにより、複数色の色彩を付与することが可能となる。このような構成にしても、フィルタ等で観察した場合の前述した作用を損なうことはない。これは、所定のフィルタ(例えば、FUJI FILM製 SC64)の波長以上のインキ(例えば、マゼンタインキ及び/又はイエローインキ)で濃度階調を有する可視画像5に重ね刷りした場合、その印刷物にフィルタを重ねて観察しても重ね刷りしたインキは視認することができないためである。また、濃度階調を有する可視画像5内に埋め込まれた潜像画像8が通常光下で視認されることがない。
【0046】
本発明に用いる網点形状は、円形ドットに限定されるものではなく、ランダムドットや本出願人が先に出願した特開平11-268228号公報で提案している特殊網点生成法を用いて意匠性を加味した入力画像を網点(ハーフトーンスクリーン)から成る連続階調網点に変換した自由度のある特殊網点形状を用いてもよい。
【0047】
第1の領域2、第2の領域3及び第3の領域4は、60〜700line/inchで印刷されることが好ましい。
【0048】
また、本発明の真偽判別可能な印刷物に用いる基材は、特に限定されることがなく、上質紙、コート紙、アート紙等の紙葉類又はフィルム等を用いることができる。
【0049】
本発明の真偽判別可能な印刷物の印刷方式は、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式、スクリーン印刷方式、フレキソ印刷方式、インクジェットプリンタ又はレーザプリンタ等、特に限定されるものではないが、刷り合わせ精度が要求される場合が多いため、特にオフセット印刷方式が好ましい。実際に印刷物を作製する場合、ほとんどの印刷方式において、印刷物と版面間においてはドットゲインによる網点面積率の上昇が見込まれることから、版面作製に当たっては、あらかじめそれを見込んだ網点面積率にする必要があることはいうまでもない。
【0050】
なお、濃度階調を有する可視画像、濃度階調を有する画像、潜像画像は、文字、数字又は記号等の単なる二値画像としても、階調画像としても問題はない。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の内容は、これらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0052】
図8に示した分光反射率曲線を有する第1の印刷インキ及び第2の印刷インキを用いて実施例の印刷物を作製した。実施例に示す濃度階調を有する画像7及びカムフラージュ領域9は、第1の印刷インキで印刷し、潜像画像8は第2の印刷インキで印刷した。
【0053】
発明を実施するに当たっては、図8に示した第1の印刷インキ及び第2の印刷インキの特性に応じて、まず網点面積率A、カムフラージュ領域9及び潜像画像8の合成領域の濃度の決定を行った。はじめに、使用する第1の印刷インキ及び第2の印刷インキのグラデーションスケールをそれぞれ印刷し、図12のとおり波長領域Aにおける両インキの反射濃度特性を確認した。波長領域Aにおいて、第1の印刷インキ及び第2の印刷インキの網点面積率と反射濃度がほぼ比例関係にあることが重要であり、測定の結果、比例関係にあることが確認できた。次に、波長領域Bにおいて、第1の印刷インキ及び第2の印刷インキの濃度差は、シャープカットフィルタを通して目視による判定で行った。また、第1の印刷インキ及び第2の印刷インキのそれぞれの網点面積率による分光スペクトルの波長領域Bにおける積分値で算出することも可能である。
【0054】
潜像画像8は、網点面積率が0〜40%以下の範囲で第2の印刷インキにより印刷した場合は、波長領域Bにおいて十分な階調を有していることが確認できた。第1の印刷インキで印刷されるカムフラージュ領域9は網点面積率が0〜40%以下の範囲で形成し、潜像画像8を構成する網点と、網点と対となるカムフラージュ領域9の網点を組み合わせた網点面積率の合計が一定の値(40%)となるようにした。第1の印刷インキで印刷する網点面積率は波長領域Bにおいて、80%以下の連続階調が一定の階調に収まっている範囲であることが確認できたため、濃度階調を有する画像7は網点面積率が80%以下の範囲で形成した。よって、第1の印刷インキ及び第2のインキで印刷した濃度階調を有する可視画像5は網点面積率が40〜80%以下の範囲で形成した。
【0055】
潜像画像8及び濃度階調を有する画像7は、階調表現域が網点面積率の差で25%以上に達していることが好ましい。
【0056】
第1の印刷インキ及び第2の印刷インキを用いてオフセット校正印刷機で真偽判別可能な印刷物Cを作製した。
【0057】
真偽判別可能な印刷物Cは、図13に示すように基材1上に第1の領域2と第2の領域3が交互に隣接して複数配置され、第2の領域3内に第3の領域4が毛抜き合せで配置されて濃度階調を有する可視画像5を形成している。濃度階調を有する可視画像5の網点面積率は、40〜80%以下の範囲で形成されている。第1の領域2によって濃度階調を有する画像7を形成し、第3の領域4によって潜像画像8を形成し、第2の領域3によってカムフラージュ領域9を形成した。潜像画像8の網点面積率は、0〜40%以下の範囲で形成し、カムフラージュ領域9の網点面積率は、0〜40%以下の範囲で形成し、カムフラージュ領域9と潜像画像8の合成領域の網点面積率は、40%となるように調整した。
【0058】
図14(a)に示すように真偽判別可能な印刷物Cは特定波長Aである太陽光、蛍光灯又は白熱電球等からの通常光下では濃度階調を有する可視画像5のみが確認された。潜像画像8は確認することができなかった。
【0059】
図14(b)に示すように真偽判別可能な印刷物Cはシャープカットフィルタ10(FUJI FILM製 SC64)を通して波長領域B(640nm〜700nm)の光で観察した場合には、濃度階調を有する潜像画像8が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】従来のメタメリックペア印刷物を示す図である。
【図2】従来のメタメリックペア印刷物の問題点を示す図である。
【図3】本発明の真偽判別可能な印刷物Bである。
【図4】毛抜き合わせの位置関係を示す図である。
【図5】第2の領域3と第3の領域4の境界を示す図である。
【図6】第1の領域2、第2の領域3及び第3の領域4の関係を示す図である。
【図7】本発明の真偽判別可能な印刷物Bの説明図である。
【図8】本発明で使用するメタメリックペアインキである第1の印刷インキ及び第2の印刷インキの分光反射率曲線の一例を示す図である。
【図9】第1の印刷インキ及び第2の印刷インキで印刷される第1の領域2、第2の領域3及び第3の領域4から成る濃度階調を有する可視画像5と、第1の印刷インキで印刷される第2の領域3から成るカムフラージュ領域9と、第2の印刷インキで印刷される第3の領域から成る潜像画像8の濃度階調領域の関係についての説明図である。
【図10】本発明の真偽判別可能な印刷物Bの作用についての説明図である。
【図11】第1の版面と、第2の版面を作製するための方法を示す説明図である。
【図12】第1の印刷インキ及び第2の印刷インキのグラデーションスケールをそれぞれ印刷し、波長領域Aにおける反射濃度特性を示す図である。
【図13】実施例の真偽判別可能な印刷物Cの説明図である。
【図14】実施例の真偽判別可能な印刷物Cの作用を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 基材
2 第1の領域
3 第2の領域
3a 非印刷領域
4 第3の領域
5 濃度階調を有する可視画像
6 重なった領域
7 濃度階調を有する画像
8 潜像画像
9 カムフラージュ領域
10 フィルタ
11 濃度が一定な画像
12 第1の版面
13 第2の版面
A 印刷物
B、C 真偽判別可能な印刷物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に第1の領域と第2の領域が交互に隣接して複数配置され、前記第2の領域内に第3の領域が毛抜き合せで配置されて濃度階調を有する可視画像が形成され、前記第1の領域によって濃度階調を有する画像が形成され、前記第3の領域によって潜像画像が形成され、前記第2の領域は前記潜像画像のカムフラージュ領域となり、前記第1の領域及び前記第2の領域は第1の印刷インキで、前記第3の領域は第2の印刷インキで印刷され、前記第1の印刷インキと前記第2の印刷インキの分光反射率は、可視領域内の第1の波長の範囲では近似し、可視領域内の第2の波長の範囲では異なる値のメタメリックペアインキで印刷されたことを特徴とする真偽判別可能な印刷物。
【請求項2】
前記濃度階調を有する可視画像の網点面積率は、40〜80%以下で形成され、前記潜像画像の網点面積率は、40%以下で形成され、前記カムフラージュ領域の網点面積率は、40%以下で形成されたことを特徴とする請求項1記載の真偽判別可能な印刷物。
【請求項3】
前記第1の印刷インキの640〜700nm間における分光反射スペクトルの積分値は、前記第2の印刷インキの640〜700nm間における分光反射スペクトルの積分値の2倍以上を有し、前記第1の印刷インキの400〜600nm間における分光反射スペクトルの積分値は、前記第2の印刷インキの400〜600nm間における分光反射スペクトルの積分値と略同一であることを特徴とする請求項1又は2記載の真偽判別可能な印刷物。
【請求項4】
前記潜像画像が濃度階調を有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の真偽判別可能な印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−49570(P2008−49570A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227324(P2006−227324)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】