説明

真核細胞の長期培養法およびその使用

不死化タンパク質複合体は、内部移行分子、形質転換ポリペプチドおよびエンドソーム放出分子を含み(全ての分子および/またはポリペプチドは、1つまたは2つ以上の他のポリペプチドに作動可能に結合する)、任意に核内部移行分子およびテロメア伸長分子のうちの1つまたは2つ以上を含む。不死化細胞を産生するまたは初代細胞の寿命を延長させる方法には、タンパク質複合体が内部移行して形質転換ポリペプチドが放出するのに有効な条件下および時間で、本発明の不死化タンパク質複合体を標的細胞に接触させること;および形質転換ポリペプチドに、細胞の寿命を延長させることおよび/または細胞成長の停止を克服させることが含まれる。タンパク質複合体をコードする不死化ポリヌクレオチド、発現ベクターおよびポリヌクレオチドを搭載したハイブリッドベクター、ハイブリッドベクターで形質転換細胞、タンパク質複合体を発現する細胞、ならびにタンパク質複合体および/またはタンパク質をコードするポリヌクレオチドおよび/またはポリヌクレオチドを搭載したハイブリッド発現ベクターを含む細胞不死化キット、およびその(それらの)細胞不死化法を実施するための使用についての説明書もまた提供する。細胞および細胞(単数または複数)を含む組織移植、ならびに不死化細胞およびそれらの組織の多様な用途もまた提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不死化細胞の分野、ならびにそれらの実験研究、治療および試験における使用に関する。本発明は、核酸の代わりにタンパク質を使用する、細胞を不死化させる新規な方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
形質転換細胞を産生する慣用的な方法において、E6/E7ウイルス癌遺伝子のDNAまたはRNAを用いる。その後、遺伝子(単数または複数)を標的細胞へトランスフェクトしてもよい。代替的に、遺伝子(単数または複数)をウイルスベクター中にクローン化してもよく、ウイルス感染を介してハイブリッドベクターを標的細胞へと導入する。多くの場合、遺伝子導入ベクターは、薬剤耐性遺伝子によって標識化されるので、後続の作業ステップおよび選別が容易になる。通常、薬剤耐性遺伝子を使用した遺伝子導入の直後に、細胞を選別してもよい。代替的に、正常細胞は死滅させてもよく、今後の使用のために、生存細胞をそれらの特性を測定するために分析してもよい。
【0003】
大量の癌細胞および形質転換細胞の望まれない特性を有しないまたは最小限に留めた細胞を産生する方法について切迫した需要がある。また、容易に派生してもよく、培養液中保存し得、分化、遺伝的変異、安定的代謝、および細胞外の剤への一貫した反応を行う能力を提供する細胞株についても、明らかな需要がある。細胞治療および組織工学などの臨床適用のためには、遺伝子改変をせずに、拡大縮小可能な量の多様な器官由来の細胞を有することが極めて重要である。
【発明の概要】
【0004】
発明の概要
本発明の実施のために、内部移行分子(単数または複数)、形質転換ポリペプチド(単数または複数)およびエンドソーム放出分子(単数または複数)を含む不死化タンパク質複合体を提供し、好ましい態様において、全ての分子および/またはポリペプチドは、1つまたは2つ以上の他のポリペプチドに作動可能に連結してもよい。他の好ましい態様において、内部移行はエンドソームに媒介される。さらに他の好ましい態様において、不死化タンパク質複合体は、核内部移行分子(単数または複数)およびテロメア伸長分子(単数または複数)をさらに含む。さらなる態様において、内部移行機能およびエンドソーム放出機能が同じ分子によって行われるので、ウイルス粒子およびウイルスキャプシドタンパク質が使われる場合のように、内部移行分子およびエンドソーム放出分子は同じものである。
【0005】
本発明の一部はまた、不死化タンパク質複合体(単数または複数)をコードする不死化ポリヌクレオチド(単数または複数)、発現ベクター(単数または複数)および不死化タンパク質複合体(単数または複数)のポリヌクレオチド(単数または複数)を搭載したハイブリッドベクター、ハイブリッドベクター(単数または複数)で形質転換された細胞(単数または複数)、不死化タンパク質複合体(単数または複数)を発現する細胞(単数または複数)、不死化タンパク質複合体(単数または複数)を有する組成物、ならびに不死化タンパク質複合体(単数または複数)および/またはタンパク質複合体(単数または複数)をコードするポリヌクレオチド(単数または複数)および/またはポリヌクレオチド(単数または複数)を搭載したハイブリッド発現ベクター(単数または複数)、および細胞を不死化させる方法を実施するためのその(それらの)使用説明書を含む細胞不死化キットである。
【0006】
また、本発明の他の側面は、不死化細胞を産生するまたは初代細胞の寿命を延長させる方法であって、
タンパク質複合体(単数または複数)が内部移行して形質転換ポリペプチドを放出するのに有効な条件下および時間で、本発明の不死化タンパク質複合体(単数または複数)を標的細胞(単数または複数)に接触させること;および
形質転換ポリペプチド(単数または複数)に、細胞(単数または複数)の寿命を延長させることおよび/または細胞成長の停止を克服させることおよび/または細胞老化を克服させることおよび/または細胞分化を防止させることを含む方法に関する。好ましい実施において、本方法は、不死化タンパク質複合体を細胞培養培地から除去し、不死化効果を覆し、完全な分化をする能力がある正常な表現型を有する細胞を得ることを含む。
【0007】
本発明はまた、上記の方法によって処置された細胞(単数または複数)および組織に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の一態様による、E6融合タンパク質複合体の誘導時の発現についてのドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を示す。レーンMは、低分子量マーカーを含有し、レーン1は、37℃で8時間インキュベートしたIPTG誘導無しの試料を含有し、レーン2は、37℃で4時間0.5mMのIPTGでにより誘導した試料を含有する。
【0009】
【図2】図2は、本発明の同じ態様による、E6融合タンパク質複合体のSDS−PAGEおよびウエスタンブロットを示す。レーン1は、クーマシーブルーで染色したE6融合タンパク質複合体を示し、レーン2は、抗E6抗体を用いる融合タンパク質複合体のウエスタンブロットを示し、レーンMは、低分子量マーカーを示す。
【0010】
【図3】図3は、本発明の他の態様による、誘導E7融合タンパク質複合体のSDS−PAGEを示す。レーンMは、低分子量マーカーを示し、レーン1は、37℃で4時間0.5mMのIPTGにより誘導した上清を含み、レーン2は、0.5mMのIPTGで25℃で5時間誘導した上清を示し、レーン3は、37℃で4時間のIPTG誘導無しの上清を含む。
【0011】
【図4】図4は、本発明の同じ態様による、Ni−IDAカラムからの溶出後のE7融合タンパク質複合体を示す。レーン1は、溶出画分を示し、レーンMは、タンパク質マーカーを示す。
【0012】
【図5】図5は、本発明の同じ態様による、NiレジンによるE7のタグからの分離を示す。レーンMは、MWマーカーを含み、レーン1は、カラムの洗浄画分を示し、レーン2は、HPV16 E7特異抗体を用いた後のウエスタンブロットを示す。
【0013】
【図6】図6は、本発明の他の態様による、E6およびE7融合タンパク質複合体におけるHPV16に対するケラチノサイトの反応を示す。(a)0.75μg/mlのE6FP+0.25μg/mlのE7FP、(b)1μg/mlのE6FP+0.33μg/mlのE7FP、(c)0.67〜2μg/mlのE7FP、(d)>2μg/mlのE7FP、(e)2〜6μg/mlのE6FP、(f)>6μg/mlのE6FP、(g)対照。
【0014】
本発明の他の目的、利点および特徴は、以下の考察により当業者に明らかになるだろう。
【0015】
発明の詳細な説明
本発明は、発明者らの、生物医学研究のための初代細胞および悪性および形質転換細胞株の使用を伴う従来技術を改善することへの願望によって生まれた。彼ら独自の研究において、発明者らは、真新しい死体から新たに得なければならず、培養液中で維持するのが困難な、死に至る初代細胞の使用に関連する問題に直面した。発明者らは、実験室での悪性および形質転換細胞株を用いることの欠陥、すなわちそれらの分化能力の欠落や、遺伝子突然変異および異常代謝が生じやすく、多くの場合、細胞外物質への異常反応を示すことにもまたよく精通していた。
【0016】
上述の欠陥を打開するための試行において、発明者らは、細胞の不死化プロセスのためにタンパク質を用いることを見い出し、所望の特性を有する細胞を、大量および反復的に産生することが可能となった。
【0017】
本方法は、in vivoおよびex vivoの両方ならびにin situでの用途において有用である。例示的な使用には、培養液中の長寿命化細胞の産生、幹細胞および前駆細胞の培養物およびインプラントの拡張、皮膚または他の上皮細胞の培養物および細胞片の拡張、間葉系細胞の培養物および細胞片の拡大、軟骨細胞および骨細胞の培養物および細胞片の拡大が含まれるが、これらに限定されない。本発明の方法により長寿命化された例示的な幹細胞および前駆細胞には、神経細胞、造血細胞、上皮細胞、膵臓細胞、肝細胞、軟骨および骨幹細胞ならびに前駆細胞のほか、数多くのものが含まれる。本方法は、外傷および火傷の治癒、より一般的には、組織修復用途においてならびに美容的使用にもまた適用可能である。本発明は、一般的に研究目的で使用される正常細胞または組織の培養物の生存期間を延ばすことに、および一側面において、治療的なおよび他の商業上重要なタンパク質および産物の分泌において用いられる正常細胞にもまた適用可能である。
【0018】
タンパク質ベースの細胞不死化法
発明者らは、彼らの実験作業によって生じた外部のおよび内在する剤についての生物学的研究および実験のために適した細胞株の製造方法を提供する。本発明のプロセスにおいて、遺伝子を、組換え法を使って融合タンパク質として発現させてもよい。そうして得られた融合タンパク質は、タンパク質複合体の形態で存在し、不死化または形質転換ポリペプチド、内部移行または転位ポリペプチド、およびエンドソーム放出シグナル(単数または複数)を含む。タンパク質複合体への任意の付加には、細胞によるタンパク質複合体の内部移行を補助する細胞表面受容体結合ドメインがある。タンパク質複合体を、融合タンパク質としてもまた産生してもよい。融合タンパク質は、例えば、不死化タンパク質へのエンドソーム放出シグナルの化学的付加、および受容体結合ドメインの任意の付加によって、転写後に生成してもよい。得られると、タンパク質複合体または融合タンパク質を、自発的な方法によって、任意に受容体エンドサイトーシス経路を介して細胞表面受容体に結合することによって、細胞内へと内部移行させる。内部移行はまた、任意にエンドソームに媒介される。細胞の内側に入ると、タンパク質複合体または融合タンパク質がエンドソームへ入り、ここで不死化ポリペプチドが残りのタンパク質から分離するか、またはタンパク質に結合し続ける。エンドソーム放出シグナルがエンドソームを崩壊させ、不死化タンパク質を放出し、そしてそれは宿主細胞上でその不死化または成長促進作用を自由に発揮する。
【0019】
本発明は、培養液中またはin vivoの細胞を不死化させるまたはその生存期間を延ばすために不死化遺伝子をコードするDNAまたはRNAではなく、タンパク質またはタンパク質複合体を用いた、細胞(単数または複数)の寿命を延長させるためのおよび不死化細胞株(単数または複数)を得るための有効なプロセスである。特定の例が提供されているところ、本明細書中で提供される方法は、他の不死化ポリペプチドおよび他の細胞型との使用にもまた好適である。新規な方法を使って発生する細胞株の利益は明確である。本発明の不死化細胞は、永久的な遺伝子変異を含まないので、オリジナルの初代細胞に最も類似する。タンパク質複合体は、外因性因子として細胞に付加するために用いられ、培養液中またはin vivoに関わらず、細胞の生存期間を長期間または無限に延長する。細胞培養培地からタンパク質複合体の除去の際には、不死化効果を覆してもよいことに留意すべきである。これが終わると、細胞はそれらの正常な表現型へと戻り、完全な分化をしてもよい。本発明の方法を用いて増殖した細胞は、複合体中で提供されるエンドソーム放出因子を有しない不死化/転位タンパク質での刺激により得られる標準の細胞株より、はるかに優れた代替物である。さらに、細胞がGMP環境で増殖されると、それらは人間の細胞治療および移植用途に好適である。この能力によって本技術は、代謝疾患、自己免疫疾患、先天性疾患、神経および筋変性疾患、血液障害、慢性創傷ならびに潰瘍のほか、数多くのものの処置のために、非常に重要である。本発明の細胞で治療してもよい疾患の例としては、糖尿病、自閉症、ループス、アルツハイマー病、ハンチントン病、血友病、白血病、リンパ腫、火傷および慢性創傷のほか、数多くのものがある。
【0020】
本発明は、1つまたは2つ以上の例を参照することにより記載されるが、全面的に多くの標的細胞および好適な不死化、形質転換または内部移行ポリペプチドまたはタンパク質へと適用可能である。HPV16 E6およびE7癌遺伝子が、タンパク質ベースのケラチノサイトの不死化またはケラチノサイトの長寿命化における形質転換タンパク質の例として用いられている。ヒト乳頭腫ウイルス、SV40 T抗原、アデノウイルスE1a、ならびにヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、ras、mycおよび組み合わせた他のものなどの様々な成長促進/不死化遺伝子の様々なサブタイプのE6/E7癌遺伝子の遺伝子産物もまた、本発明の方法と共に使用して類似した結果を得るのに適している。融合タンパク質の形成において、本発明は、細胞内部移行ポリペプチド、例えば、EGF受容体認識ドメインをもまた用いる。他の適切な受容体認識ドメインは、他の細胞の不死化または長寿命化のために用いられるだろう。受容体および細胞の組合せの例は、内皮細胞および平滑筋細胞に好適であろうVEGF受容体認識ドメイン;心筋細胞および骨格筋細胞に適するであろうIGFIおよびIGFII受容体認識ドメイン;造血幹細胞のためのc−kit受容体認識ドメイン;ならびに神経細胞および星状膠細胞のためのNFG受容体認識ドメインのほか、当該技術分野で知られている数多くのものがある。本発明の融合タンパク質はまた、エンドソーム放出シグナルのドメイン、例えば、インフルエンザウイルスのヘムアグルチニンペプチド、ウイルスキャプシドタンパク質全体またはウイルス全体までをも含む。
【0021】
簡潔には、HPV E6タンパク質は、p53腫瘍抑制遺伝子に結合することが知られ、ユビキチン経路を介してその急速な分解を生じさせる。そのように処置された細胞は、p53タンパク質不在のため、長期間無限に成長する。他方で、HPV E7タンパク質は、pRB腫瘍抑制遺伝子を結合し、それがE2F成長促進因子を隔離不能にする。遊離するE2F成長促進因子は、細胞成長を促進し、老化を防ぐ。E6およびE7腫瘍性タンパク質の影響下において、細胞は自発的にテロメラーゼ活性を得る。様々なHPVサブタイプのE6およびE7腫瘍性タンパク質が、p53およびpRbそれぞれに結合する能力を有することに留意することが重要である。しかしながら、HPV16およびHPV18のE6およびE7腫瘍性タンパク質は、それらのそれぞれの腫瘍抑制遺伝子に、残りのものより高い親和性を伴って結合するので、これらのタンパク質は、J Dermatol. 2000 Feb; 27(2):73-86で記載されるように、培養液においてより高い不死化または長寿命化能力を有する。同様に、SV40 T抗原およびアデノウイルスE1a抗原もまた、p53およびpRB経路にそれぞれ干渉することによって、それらの標的細胞を不死化させるのに非常に有効である。
【0022】
ここで本発明を、特許請求の範囲に関連して記載する。第一の側面において、本発明は、任意にタンパク質またはポリペプチドの形態の、内部移行分子;作動可能に相互に連結して、任意で融合タンパク質の形態で相互に連結する、形質転換ポリペプチドおよびエンドソーム放出ポリペプチド分子を含む不死化タンパク質複合体を提供する。別の好ましい態様において、タンパク質複合体は、核内部移行分子およびテロメア伸長分子をさらに含む。
【0023】
本発明の一態様において、内部移行分子は、タンパク質複合体を標的細胞(単数または複数)へと移動または内部移行させるのを補助する。1つの好ましい態様において、内部移行分子は、エンドソームに媒介され、さらに別の好ましい態様において、エンドソームに媒介される内部移行分子は、受容体に媒介される。別の好ましい態様において、内部移行分子(単数または複数)は、細胞表面受容体結合分子(単数または複数)、細胞表面内部移行分子(単数または複数)、および/またはウイルス結合受容体分子(単数または複数)を含む。特に好ましい態様において、内部移行分子(単数または複数)は、EGF受容体認識分子またはリガンド、IGF受容体認識分子またはリガンド、VEGF受容体認識分子またはリガンド、FGF受容体認識分子またはリガンド、PDGF受容体認識分子またはリガンド、インシュリン受容体認識分子またはリガンド、成長ホルモン受容体認識分子またはリガンド、肝細胞成長因子受容体認識分子またはリガンド、ケモカイン受容体認識分子またはリガンド、エリスロポエチン受容体認識分子またはリガンド、サイトカイン受容体認識分子またはリガンド、cKitポリペプチド、HSVウイルスタンパク質VP22、および/またはリポソームをさらに含む。
【0024】
本発明の別の態様において、形質転換ポリペプチドは、細胞分化および/または細胞周期の停止および/または細胞老化を克服する能力がある。好ましい態様において、形質転換ポリペプチドは、1つまたは2つ以上の癌遺伝子(単数または複数)の発現産物および/または1つまたは2つ以上のテロメア伸長分子を含む。特に好ましい態様において、用いる癌遺伝子(単数または複数)の発現産物(単数または複数)は、HPV E6、HPV E7、SV40 T抗原(単数または複数)、アデノウイルスE1aおよびアデノウイルスE1b、エプスタイン・バーウイルス、EBNA2タンパク質およびLMP−1タンパク質のうち1つまたは2つ以上を含むウイルス癌遺伝子発現産物(単数または複数)ならびに/あるいはras、mycおよびsrc癌遺伝子発現産物(単数または複数)のうち1つまたは2つ以上を含む細胞癌遺伝子発現産物(単数または複数)であり得る。別の好ましい態様において、テロメア伸長分子は、hTERTのほか、当該技術分野で知られる数多くのものを含む。
【0025】
本発明のさらに別の態様において、エンドソーム放出ポリペプチドは、形質転換または不死化ポリペプチドのエンドソームからの放出を促進および/または容易にする。好ましい態様において、エンドソーム放出分子(単数または複数)は、エンドソーム放出シグナルポリペプチド(単数または複数)を含む。特に好ましい態様において、エンドソーム放出分子の例には、インフルエンザウイルスエンベロープHA20、アデノウイルスキャプシド、アデノ関連ウイルスのウイルスキャプシド、レトロウイルスキャプシド、ならびに他のウイルスおよび合成エンドソーム放出分子が含まれる。
【0026】
本発明のさらに別の好ましい態様において、核内部移行分子は、核受容体結合分子(単数または複数)および/または核受容体分子(単数または複数)を含む。好ましい態様において、核内部移行分子の例には、ステロイド(単数または複数)、脂溶性部分(単数または複数)、レチオニン酸、ビタミンD、ステロイド受容体スーパーファミリーのメンバー、レチノイド受容体、およびビタミンD受容体、またはそれらの組合せ(単数または複数)が含まれる。
【0027】
本発明の別の態様において、テロメア伸長分子(単数または複数)は、hTERTを含む。別の態様において、テロメア伸長分子は、hTERTテロメラーゼサブユニットを含み、ここでhTRおよびhTAP−1の他の2つのサブユニットは、通常全ての細胞型で発現する。他方で、hTRおよびhTAP−1が発現されない細胞型については、これらの2つのサブユニットを細胞に追加で導入することができる。1つの好ましい態様において、テロメラーゼ伸長分子(単数または複数)は、テロメラーゼ触媒サブユニット(単数または複数)、hTERT、hTR、hTR、hTP−A、またはヒト由来のTERTもしくは他の哺乳類動物の相同体を含む。
【0028】
本発明の特定の不死化タンパク質複合体は、融合タンパク質を形成するために、各ポリペプチド/分子が少なくとも1つの他のポリペプチド/分子に融合してもよい。
【0029】
本発明の別の側面は、上述するタンパク質複合体をコードする不死化ポリヌクレオチドである。本明細書においてまた、ハイブリッドベクターの形態で提供されるのは、前記のポリヌクレオチドが作動可能に連結した発現ベクターである。発明者らによってまた提供されるものは、ハイブリッドベクターによって形質転換細胞である。
【0030】
さらに別の側面において、本発明は、不死化タンパク質複合体を発現する細胞を提供する。
【0031】
さらなる側面において、前述の産物は、細胞不死化キットの形態で包装してもよく、代替的にあるいは包含的に、適当な不死化タンパク質複合体または融合タンパク質をその意図する適用のためにおよび/またはタンパク質複合体の各ドメインをコードするDNAもしくはRNAセグメントおよび/または全タンパク質複合体をコードするポリヌクレオチドおよび/またはそれぞれが1つのポリペプチドをコードする核酸セグメントを搭載したハイブリッド発現ベクターおよび/またはポリヌクレオチドを搭載したハイブリッド発現ベクターを、ならびにそれの細胞を不死化させるための使用説明書を含む。
【0032】
他の側面において、本発明はまた、本発明の不死化タンパク質複合体または融合タンパク質を含む組成物を提供し、ここで異なるポリペプチドは、異なるドメインのそれぞれのために置き換えられてもよい。
【0033】
本発明が開示およびクレームする本発明のさらに別の側面は、不死化させる方法または不死化細胞を産生する方法または初代細胞の寿命を延長させる方法であり、ここでプロセスは、タンパク質複合体が内部移行して形質転換ポリペプチドを放出するのに有効な条件下および時間で、本発明の不死化タンパク質複合体を標的細胞に接触させること;ならびに不死化または形質転換ポリペプチドに、細胞の寿命を延長させること、および/または細胞成長の停止を克服させること、および/または細胞老化を克服させることおよび/または細胞分化を防止させることを含む。好ましい実施において、本方法は、2つの別々の不死化タンパク質複合体(1つは少なくとも1つのエンドソーム放出分子に作動可能に連結するHPV E6を含み、もう1つは少なくとも1つのエンドソーム放出分子に作動可能に連結するHPV E7を含む)を得ること、および2つのタンパク質複合体が内部移行するのに有効な条件下および時間で、両方の複合体を標的細胞に組み込むことを含んでもよく、これにより不死化または形質転換ポリペプチドHPV E6およびHPV E7を標的細胞へと放出してもよく、細胞の寿命を延長させるおよび/または細胞停止を克服もしくは阻止するおよび/または細胞老化を克服するおよび/または細胞分化を阻止する。
【0034】
さらに別の実施において、本方法は、不死化タンパク質複合体を細胞培養培地から除去し、不死化効果を覆し、完全な分化をする能力がある正常な表現型を有する細胞を得ることをさらに含む。
【0035】
不死化のための標的細胞は、多くの異なる型であり得、本発明の方法は、数多くの細胞の寿命を延ばすことに有効であり、標的細胞として任意のおよび全ての初代細胞の処置のために用いてもよい。1つの実施において、細胞型は、膵島細胞、肝細胞、ケラチノサイト、内皮細胞、平滑筋細胞、骨格筋および心筋細胞、神経細胞、星状膠細胞、ならびに成人および臍帯血造血細胞を含む。しかしながら、他の多くもまた、本発明の方法による処置のために適している。別の好ましい実施において、不死化タンパク質複合体は、リポソームまたは多くのほかの公知のカプセル様実体(encapsulating entities)のうちのいずれか1つの形態で提供される。
【0036】
本発明が開示する方法の1つの実施において、不死化タンパク質複合体の構成要素のうちのいずれか1つまたはいずれかの組合せの融合タンパク質またはポリペプチドセグメント(単数または複数)は、不死化タンパク質複合体または不死化もしくは形質転換ポリペプチドのうちのいずれか1つを発現するハイブリッドベクター(単数または複数)を搭載したフィーダー細胞を成長させたのち、ハイブリッドベクター(単数または複数)を標的細胞に接触させることによって得ることができる。代替的な実施において、不死化タンパク質複合体は、分泌シグナルを有するようにさらに操作されているので、それらはフィーダー細胞から成長培地へと分泌され、タンパク質複合体が、様々なタンパク質内部移行手法を介して、標的細胞へ入ることを可能にする。当該技術分野で知られるように、フィーダー細胞は標的細胞から別に維持してもよいので、フィーダー細胞を培地から除去してもよい。用いるフィーダー細胞の例には、3T3、または間質細胞が含まれる。ある環境の下において、フィーダー細胞自体を標的細胞と同じ培地に配置してもよいので(これら2つの細胞型の共培養など)、フィーダー細胞の培地からの除去は必要であり得る。他方で、不死化タンパク質複合体はまた、標的細胞がそれらの正常な表現型へ戻る際、標的細胞から分離して培地から除去することが必要となり得る。
【0037】
したがって、1つの実施において、フィーダー細胞を、標的細胞と共培養してもよい。他には、フィーダー細胞を、標的細胞とは別に維持するので、フィーダー細胞を培地から除去してもよい。本方法の好ましい実施において、不死化タンパク質(単数または複数)の標的細胞(単数または複数)への内部移行を、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、形質転換、および/またはナノ粒子照射、および/または当該技術分野で知られるほかの技術によって補助してもよい。特に、ナノ粒子照射において、ナノ粒子を、不死化タンパク質複合体の必要成分で予め被覆または接合する。そして、BioRadにより製造されたHelio gunなどの機械力を使って、ナノ粒子を細胞内に照射する。
【0038】
上述した方法によって得た細胞は、臨床試験の代わりとしての実験研究のため、新たに得た初代細胞の拡大のため、または細胞および組織治療のためであるかに関わらず、多くの用途に好適である。細胞を、それ自体またはデバイスもしくはインプラントによって、細胞単離および無菌性を保持するために用いてもよい。本発明の1つの側面は、所望の器官または機能特異性標的細胞(単数または複数)を得;本発明の器官または機能特異性細胞を不死化させ;そうして不死化させた細胞を成長および増大させ;および不死化タンパク質複合体または融合タンパク質を培地から取り除くことによって、増大した細胞を再死化させることによって、器官または機能特異性細胞を再生する方法にある。
【0039】
1つの実施において、器官または機能特異性細胞は多能性幹細胞であってもよい。別の実施において、器官または機能特異性細胞は、骨髄間葉系間質細胞、心筋細胞、ランゲルハンス島細胞、肝細胞、脳細胞、筋細胞、皮膚細胞、腎細胞、骨細胞、幹細胞、造血細胞、膵臓細胞、甲状腺細胞、聴覚関連細胞、視覚関連細胞、嗅覚細胞、および他の細胞を含んでもよい。さらに別の実施において、標的細胞は、分裂中または休止中の細胞、最終分化した開始器官細胞を含んでも、あるいは、標的細胞は、不死化される際に形質転換してもよい。器官または機能特異性細胞は、自家または同種細胞をもまた含んでもよい。
【0040】
本発明の別の側面はまた、細胞不死化の最終ステップの際、または不死化細胞の更なる増幅の際、または増幅された細胞の再死化の際に停止するかに関わらず、本発明の方法によって得た細胞(単数または複数)を提供する。
【0041】
本発明はまた一側面において、本発明によって得られる正常な、機能器官または機能特異性細胞(単数または複数)を、継続成長に有効な条件下で対象の器官部位へ移植すること;および細胞を成長させて器官を再生することを含む、器官再生のための細胞移植法を提供する。
【0042】
別の側面において、本明細書が提供するのは、器官または機能特異性細胞異常に関連する疾患または病状を処置するための方法である。かかる方法は、特定の器官または機能由来の標的正常細胞(単数または複数)を得ること、それ(それら)を、適当な不死化タンパク質ドメインを用いる本発明の方法によって不死化させること、および上述のように事前の再死化を伴ってまたは伴わずに細胞を移植すること含んでもよい。本発明の方法を、多くの疾患または病状の処置において実施してもよい。1つの実施における例としては、代謝疾患、例えば糖尿病、心臓病、火傷、創傷、失明、聴覚障害のいくつかのタイプ、肝疾患、自己免疫疾患、血友病および腫瘍含む血液障害のほか、数多くあるものを含むまたはそれらに関連する疾患または病状である。
【0043】
本発明は別の側面において、本発明のプロセスによって得られた細胞を含む移植細胞組織を提供する。組織細胞は、上述のとおり、異なる標的細胞型から由来してもよい。
【0044】
これに関連して、当業者は本特許において、多くの特定の用途に好適な細胞および細胞(単数または複数)を含む移植組織を得るための単純で総合的な案内を見出すだろう。本発明のさらに別の側面において、上述の方法によって得られた正常な、機能器官または機能特異性細胞(単数または複数)または細胞組織を、継続成長に有効な条件下で対象の器官部位へ移植して器官を再生すること;ならびに細胞を成長および再生させ、または機能器官を生成することを含む、器官再生のための細胞移植法を提供する。
【0045】
実施例で用いた融合タンパク質
1.E6融合タンパク質
アミノ酸配列(配列ID NO.1)
【化1】

2.E7融合タンパク質
アミノ酸配列(配列ID NO.2)
【化2】

引用文献
Mol Cells. 2002;13(3):351-61。
J. Dermatol. 2000; 27(2):73-86。
Guらの米国特許第6,339,139号。
Wu らの米国特許第5,635,383号。
PCT公報第WO 00/031238号。
米国特許出願第 2005/0244969号。
J. Biol. Chem. (1988) 15:263(29) 14621-4。
【0046】
本発明を一般的に説明したが、同発明は、説明のみの目的のために本明細書中に含まれ、特筆のない限り本発明をいかなる態様に限定するものではない特定の実施例の引用により、より良く理解されるだろう。
【0047】
実施例
例1: E6融合遺伝子のpET15bベクターへのサブクローニング
EGF受容体認識ドメインを含むポリペプチドをコードするDNAセグメント、HPV16 E6癌遺伝子、およびエンドソーム放出シグナルポリペプチドをコードするDNAを5’−から3’−末端の間に含むE6融合ポリヌクレオチド(配列ID NO.1)を合成し、pET15bベクター(Novagen、Cat. No.: 70755)のNcoIおよびXhoI部位にクローン化した。融合ポリヌクレオチドの5’末端に、his-tagを付与した。
そうして得たE6融合ポリヌクレオチドを搭載したハイブリッドpET15bを、その配列を検証するために、DNAシークエンシングの対象とした。
【0048】
例2: 大腸菌BL21の形質転換
5ナノグラムのE6融合ポリヌクレオチドを搭載したハイブリッドプラスミドpET15bを、大腸菌BL21に導入して、成長させた。その後、1つのコロニーを選択し、4mLのLB培地(100ug/ml Amp)で培養して、0.5mmol/LのIPTGを用いて発現を誘導した。発現産物を、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動、すなわち、15%SDS−PAGEによって検出した。結果を、本願に添付の図1に示す。
【0049】
例3: タンパク質の発現
大腸菌BL21株の試料を10LのLB培地で4時間培養してから、0.5mmol/LのIPTGで4時間誘導した。遠心分離によって細胞を回収して、得られた細胞ペーストを1000mlの溶解緩衝液中で再懸濁してから、氷上で音波処理をして、細胞溶解物を得た。
【0050】
例4: タンパク質の精製
音波処理の後、溶解物を高速で10分間遠心分離して、沈殿物を収集した。沈殿物を、それを15%SDS−PAGEゲル上の5×SDS負荷緩衝液で負荷するゲル電気泳動によって分離してから、ゲルを陰性染色した。標的バンドを、本願に添付の図2に示すように切断し、電気的に溶出した。バンドのアイデンティティーをウエスタンブロットで検証した。図2も参照のこと。
【0051】
最終溶液で用いた緩衝液は、20mMのTris−HCl(pH8.0)であり、標的タンパク質濃度は0.633mg/mlであることが分かった。溶解物の総容量は100mLだった。
【0052】
例5: E7融合ポリヌクレオチドのpET32aプラズミドへのサブクローニング
E7融合ポリヌクレオチド(配列ID NO.2)(5’−EGF受容体認識ドメイン−E7癌遺伝子−エンドソーム放出シグナル−3’)を合成し、pET32aプラズミド(Novagen、Cat. No.: 69015)へ、Kpn1およびNot1酵素認識部位を用いてクローン化した。得られたハイブリッドpET32a−E7融合プラズミドの配列を、DNAシークエンシングで検証した。
【0053】
例6: 大腸菌BL21の形質転換
5ナノグラムのハイブリッドpET32a−E7融合ポリヌクレオチドプラズミドを、大腸菌BL21細胞に導入した。1つのコロニーを選択し、4mLのLB培地(100ug/ml Amp)で培養して、0.5mmol/LのIPTGで誘導した。発現結果を、15%SDS−PAGE上のゲル電気泳動による分離の後、観察した。本特許で提供する図3を参照のこと。
【0054】
例7: タンパク質の発現
大腸菌BL21株の試料を、10LのLB培地で4時間培養してから、0.5mmol/LのIPTGで4時間誘導した。遠心分離によって細胞を回収して、そのようにして生じた細胞ペーストを1000mlの溶解緩衝液中で再懸濁してから、氷上で音波処理をした。
【0055】
例8: タンパク質の精製
音波処理した溶解物を高速で10分間遠心分離して上清を収集し、精製のためにNi−IDAカラムに取り込んだ。溶出画分の試料を、15%SDS−PAGE上のゲル電気泳動の対象とした。図4を参照のこと。標的タンパク質を含む画分を収集して、20mMのTris−HCl(pH8.0)に対して透析した。
【0056】
例9: タンパク質の分解および分離
200mgのタンパク質を、6000単位のEKで10時間分解してから、Ni−IDAカラムによって分離し、通過液を収集してから、カラムを洗浄用緩衝液で洗浄し、溶出緩衝液で溶出した。洗浄用緩衝液中に見られた標的タンパク質を、ウエスタンブロットで検証した。本願の図5を参照のこと。最終タンパク質濃度は約1mg/ml(pH8.0である20mMのTris中)であり、最終容量は50mlであった。
【0057】
例10: 不死化細胞の培養
正常なヒトケラチノサイトをGibco(Gaithersburg, USA, Cat # 12568-010)より購入した。細胞を、新生男児の包皮のプールより単離した。細胞を、ペニシリン−ストレプトマイシンの1:100の希釈剤(Gibco, Gaithersburg, USA, Cat # 15140-122)を補充した完全ケラチノサイトSFM培地(Gibco, Gaithersburg, USA, Cat # 17005-042)で増殖した。
【0058】
凍結細胞を急速解凍して、25cm培養ベントフラスコ中で成長させた。ケラチノサイトが80%の集密度になるまで成長したら、温和なトリプシン−EDTA分解を使って継代させた。簡潔には、細胞単層を4mlのHBSS(Gibco, Gaithersburg, USA, Cat # 14170-112)で洗浄し、Versene(Gibco, Gaithersburg, USA, Cat # 15040-066)で1:10の比率で希釈した4mlのトリプシン−EDTA(Gibco, Gaithersburg, USA, Cat # 25300-054)で、室温でインキュベートした。
【0059】
細胞をフラスコから取り出してすぐに、10%の仔ウシ血清(Gibco, Gaithersburg, USA, Cat # 26170-035)を含む2mlのHBSSで中和して、10×gで10分間遠心分離した。上清を捨て、細胞ペレットを、完全成長培地で1:4のスプリット比で再懸濁した。平均すると、細胞は約10日で80%の集密度に再度到達し、およそ5日で細胞が倍増した。
【0060】
例11: E6融合タンパク質を用いた細胞培養の結果
細胞を、20%の集密度で播種して、25cm培養フラスコ中の5mlのケラチノサイトSFM培地で37℃で培養した。2ヶ月の培養後、ケラチノサイト上の各融合タンパク質について、用量反応曲線を行った。驚くべきことに、高濃度のE6融合タンパク質は、細胞にとって致死的であることが分かった。仮説にすぎないが、この効果は、EGF受容体に結合しようとする、EGFと競合する細胞によるものであり得る。
【0061】
E6融合タンパク質の濃度が約6μg/mlまたはそれ以上であると、細胞死が翌日にすぐ観察された。より低濃度、例えば約2μg/ml〜約6μg/mlにおいて、細胞死はおよそ5日後にのみ発生することが観察された。E6融合タンパク質の濃度が約1.5μg/ml以下の場合は、細胞を4ヶ月以上の期間観察しても、細胞死が観察されなかった。
【0062】
例12: E7融合タンパク質を用いた細胞培養の結果
細胞を、20%の集密度で播種して、25cm培養フラスコ中の5mlのケラチノサイトSFM培地で37℃で培養した。2ヶ月の培養後、ケラチノサイト上の融合タンパク質について、用量反応曲線を行った。驚くべきことに、高濃度のE7融合タンパク質もまた、細胞にとって致死的であることが分かった。既に上述したとおり、これは、EGF受容体に結合しようとする、EGFと競合する細胞によるものであり得る。
【0063】
E7融合タンパク質が約2μg/mlであるとき、E7融合タンパク質の急性細胞毒性がみられた。E7融合タンパク質の濃度が約0.6μg/mlから約2μg/ml未満の場合は、中間毒性がみられた。E7融合タンパク質の濃度が約0.67μg/ml以下の場合は、細胞を4ヶ月以上の期間観察しても、細胞毒性に全く遭遇しなかった。
【0064】
例13: E6融合タンパク質を用いた長期細胞培養の結果
融合タンパク質を以下の濃度で、長期実験において試験した:0.33ug/mlおよび0.25ug/mlのE7融合タンパク質をそれぞれ組み合わせた、1ug/mlおよび0.75ug/mlのE6融合タンパク質。本特許に添付の図6に、結果をまとめた。
【0065】
要約すると、処置無しのケラチノサイトは4ヶ月後に老化しはじめる一方、HPV16 E6およびE7の非致死用量を伴う処置したケラチノサイトは、最大7ヶ月増殖を続けた。7ヶ月後には、その成長は著しく減速し;倍増時間が15日またはそれ以上に伸びたものの、細胞は生存したままだったが、実験を終了した。
【0066】
例14: 脂溶性核内部移行分子
本発明の別の側面において、不死化ポリペプチドを、脂溶性核受容体リガンドまたは脂溶性部分に連結または接合するように適合させる。核受容体リガンドを、その対応する核受容体の、標的細胞における発現に基づいて選択する。
【0067】
本願において、脂溶性核受容体リガンドまたは脂溶性部分は、細胞表面膜を拡散により透過して、不死化ポリペプチドを標的細胞の細胞質内へと運ぶ。具体的には、核受容体リガンドを用いると、それは細胞質内の対応する核受容体に結合し、二量体化して細胞核内に移動する。または、脂溶性部分を使うと、それは、拡散によって核膜を通過して細胞質から核へ入るので、不死化ポリペプチドも共に核内へとついて行く。
【0068】
本発明およびそのいくつかの好ましい態様および実施例が完全に記載された今、本明細書に記載の発明の精神または範囲から逸脱することなく、それらに多くの変更や改善を施すことができることは、当業者にとって明白である。上述の記載は特定の態様に言及しているが、本発明を、これら特定の詳細を変えて実施してもよいことは、当業者にとって明らかである。したがって、本発明は、本明細書中の態様に限定して解釈すべきではない。
【0069】
例えば、複数の分子をHPV E6およびHPV E7ポリペプチドの場合のように、形質転換ポリペプチドとして同時に使用してもよい。そうすると、複数の発現ベクターを、不死化タンパク質複合体を生成するための形質転換ポリペプチドを別々に発現させるのに用いてもよいことは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの内部移行分子、
少なくとも1つの形質転換ポリペプチド、
少なくとも1つのエンドソーム放出分子、
を含む不死化タンパク質複合体であって、
ここで、前記少なくとも1つの分子またはポリペプチドは、少なくとも1つの前記分子またはポリペプチドに作動可能に連結する、前記不死化タンパク質複合体。
【請求項2】
少なくとも1つの核内部移行分子および少なくとも1つのテロメア伸長分子をさらに含む、請求項1に記載の不死化タンパク質複合体。
【請求項3】
形質転換ポリペプチドが細胞老化を克服する能力があり、および/または
エンドソーム放出分子が形質転換ポリペプチドのエンドソームからの放出を促進し、および/または
内部移行分子が不死化タンパク質複合体の標的細胞(単数または複数)への導入を補助する、
請求項1または2に記載の不死化タンパク質複合体。
【請求項4】
内部移行分子がエンドソームに媒介される、請求項1または2に記載の不死化タンパク質複合体。
【請求項5】
内部移行分子が受容体に媒介される、請求項4に記載の不死化タンパク質複合体。
【請求項6】
内部移行分子が、細胞表面受容体結合分子(単数または複数)、細胞表面内部移行分子(単数または複数)および/またはウイルス結合受容体分子(単数または複数)を含む、請求項5に記載の不死化タンパク質複合体。
【請求項7】
内部移行分子が、EGF受容体認識分子(単数または複数)またはリガンド(単数または複数)、IGF受容体認識分子(単数または複数)またはリガンド(単数または複数)、VEGF受容体認識分子(単数または複数)またはリガンド(単数または複数)、FGF受容体認識分子(単数または複数)またはリガンド(単数または複数)、PDGF受容体認識分子(単数または複数)またはリガンド(単数または複数)、インシュリン受容体認識分子(単数または複数)またはリガンド(単数または複数)、成長ホルモン受容体認識分子(単数または複数)またはリガンド(単数または複数)、肝細胞成長因子受容体認識分子(単数または複数)またはリガンド(単数または複数)、ケモカイン受容体認識分子(単数または複数)またはリガンド(単数または複数)、エリスロポエチン受容体認識分子(単数または複数)またはリガンド(単数または複数)、サイトカイン受容体認識分子(単数または複数)またはリガンド(単数または複数)、c−kitポリペプチド、HSVウイルスタンパク質VP22および/あるいはリポソーム(単数または複数)を含む、請求項6に記載の不死化タンパク質複合体。
【請求項8】
形質転換ポリペプチドが、1つまたは2つ以上の癌遺伝子(単数または複数)の発現産物(単数または複数)および/あるいは1つまたは2つ以上のヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)を含む、請求項1または2に記載の不死化タンパク質複合体。
【請求項9】
癌遺伝子(単数または複数)の発現産物(単数または複数)が、
HPV E6、HPV E7、SV40 T抗原(単数または複数)、アデノウイルスE1a、アデノウイルスE1B、エプスタイン・バーウイルス、EBNA2タンパク質およびLMP−1タンパク質のうち1つまたは2つ以上を含むウイルス癌遺伝子発現産物(単数または複数);ならびに/あるいは
ras、mycおよびsrc癌遺伝子発現産物(単数または複数)のうち1つまたは2つ以上を含む細胞癌遺伝子発現産物(単数または複数)
を含む、請求項8に記載の不死化タンパク質複合体。
【請求項10】
エンドソーム放出分子が、エンドソーム放出シグナルポリペプチド(単数または複数)を含む、請求項1または2に記載の不死化タンパク質複合体。
【請求項11】
エンドソーム放出分子が、ウイルスまたは合成エンドソーム放出分子(単数または複数)を含む、請求項10に記載の不死化タンパク質複合体。
【請求項12】
核内部移行分子が、核受容体結合分子(単数または複数)および/または核受容体分子(単数または複数)を含む、請求項1または2に記載の不死化タンパク質複合体。
【請求項13】
核内部移行分子が、ステロイド(単数または複数)、脂溶性分子(単数または複数)、レチオニン酸、ビタミンD、ステロイド受容体スーパーファミリーのメンバー、レチノイド受容体ファミリーのメンバーおよびビタミンD受容体またはそれらの組み合わせ(単数または複数)をさらに含む、請求項12に記載の不死化タンパク質複合体。
【請求項14】
テロメア伸長分子がhTERTを含む、請求項1または2に記載の不死化タンパク質複合体。
【請求項15】
テロメア伸長分子が、テロメラーゼ触媒サブユニット(単数または複数)であるhTERT、またはhTR、hTP−A、ヒト由来のTERTもしくは他の哺乳類動物の相同体をさらに含む、請求項14に記載の不死化タンパク質複合体。
【請求項16】
細胞を不死化させる方法であって、
不死化タンパク質複合体が内部移行して形質転換ポリペプチドを放出するのに有効な条件下および時間で、請求項1または2に記載の不死化タンパク質複合体を標的細胞に接触させること;および
形質転換ポリペプチドに、細胞の寿命を延長させることおよび/または細胞成長の停止を克服させること、および/または細胞老化を克服させることおよび/または細胞分化を防止させること
を含む、前記方法。
【請求項17】
不死化タンパク質複合体を細胞培養培地から除去し、不死化効果を覆し、完全な分化をすることができる正常な表現型を有する細胞を得ることをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
標的細胞が、ケラチノサイト、肝細胞、膵島細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、神経細胞および星状膠細胞を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
不死化タンパク質複合体が標的細胞(単数または複数)にリポソームの形態で接触する、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
器官または機能特異性細胞を再生する方法であって、
所望の器官または機能特異性標的細胞(単数または複数)を得ること;
請求項16に記載の方法によって器官または機能特異性細胞を不死化させること;
そうして不死化させた細胞を成長および増大させること;および
不死化タンパク質複合体を培地から取り除くことによって、増大した細胞を再死化させること
を含む、前記方法。
【請求項21】
器官再生または生成のために細胞(単数または複数)または細胞組織を移植する方法であって、
請求項20に記載の方法によって得られる正常な、機能器官または機能特異性細胞(単数または複数)を、その(それらの)継続成長に有効な条件下で対象へ移植すること;および
細胞(単数または複数)を成長させて器官を再生または生成すること
を含む、前記方法。
【請求項22】
請求項20に記載の方法によって得られる細胞(単数または複数)を、それを必要としている対象へ移植することを含む、器官または機能特異性細胞(単数または複数)異常に関連する疾患または病状を処置するための方法。
【請求項23】
請求項20に記載の方法によって得られる細胞(単数または複数)を含む移植組織。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−528347(P2011−528347A)
【公表日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−518051(P2011−518051)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【国際出願番号】PCT/IB2009/053112
【国際公開番号】WO2010/007593
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(511014839)
【Fターム(参考)】