説明

真空シール用の接続構造およびこの接続構造を備えた真空装置

【課題】真空装置を構成する部品間の真空シール、電気絶縁および間隔固定が同時に行われ、組立性および製造コストが従来例よりも改善できる真空シール用の接続構造を提供する。
【解決手段】真空シール用の接続構造100Bは、真空装置を構成する導電性の部品20、21と、部品20、21間の気密性を確保できる環状のシール部12と部品20、21間の間隔を固定できる環状のスペーサ部11と、が一体に設けられた絶縁性のシール部材10と、を備える。そして、シール部12とスペーサ部11との間において、環状の第1溝13が、シール部材10の主面に形成されている。更に、第1溝13に連通する第2溝14が、スペーサ部11をスペーサ部11の幅方向に貫通するよう、上記主面に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空シール用の接続構造およびこの接続構造を備えた真空装置に関する。特に、本発明は、真空装置を構成する部品間の気密性を確保できるシール部と、これらの部品間の間隔を固定できるスペーサ部と、が一体に設けられたシール部材の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性材料からなるシールと総称される部品や素材(以下、「シール部材」という)が、流体機械や真空装置の気密性の確保に幅広く使用されている。
【0003】
このようなシール部材は、流体機械や真空装置の性能維持に重要な役割を果たすので、シール部材に関する様々な改良が従来から提案されている。
【0004】
例えば、サニタリー配管用の中空円板状のガスケット(シール部材の一種)の両面において、シール部材の環状の凸部(シール部)が記載された従来例がある(特許文献1)。同様に、核融合装置の真空容器の絶縁シール用のFRPガスケットの両面において、シール部材の環状の凸部(シール部)と、シール部材の板状の部分(スペーサ部)と、を一体化した構造を示した従来例がある(特許文献2)。
【0005】
以上の特許文献1、2では、凸部が当たるフランジ部に凹部が形成されることが示されており、これにより、凸部での適切なシールが行われるとされている。
【0006】
また、エンジンのシリンダヘッド用のガスケットにおいて、電子線照射による電子線架橋が行われ、ガスケットの硬度を変化できる技術を記載する従来例がある(特許文献3)。
【0007】
また、2ピース式スリットバルブドアにおいて、シール部材の凸部(シール部)が押圧された場合の、凸部の弾性変形が行われる溝状の逃げ部が記載された従来例がある(特許文献4)。
【0008】
ところで、蒸着装置やスパッタリング装置などの真空装置では、真空装置を構成する部品(例えば、電極および真空容器のフランジなど)間の真空シール、電気絶縁および間隔固定を同時に行えると便利な場合がある。
【0009】
そこで、図6に、このような従来の接続構造を例示している。
【0010】
図6(a)の真空装置200では、絶縁フランジ201を用いるタイプの接続構造200Aが示されている。
【0011】
図6(a)に示すように、導電性の電極202と導電性の真空容器のフランジ203との間には環状の絶縁フランジ201が挿入されている。これらの電極202および絶縁フランジ201が共に、ボルト204、および、ボルト204への通電防止用の絶縁カラー205を用いて真空容器のフランジ203の端面に締結されている。これにより、電極202と真空容器のフランジ203との間が、硬質の絶縁フランジ201によって好適な間隔を保って固定され、かつ、両者間の絶縁が行われる。
【0012】
また、電極202の表面および真空容器のフランジ203の端面のそれぞれには、環状の溝加工が施されている。そして、Oリング206をこれらの環状溝に配することによって、接続構造200Aの真空シールが行われる。
【0013】
一方、図6(b)の真空装置300では、絶縁スペーサ301と甲丸リング306とを組み合わせたタイプの接続構造300Aが示されている。
【0014】
図6(b)に示すように、導電性の電極302と導電性の真空容器のフランジ303との間には環状の絶縁スペーサ301が挿入されている。これらの電極302および絶縁スペーサ301が共に、ボルト304、および、ボルト304への通電防止用の絶縁カラー305を用いて真空容器のフランジ303の端面に締結されている。これにより、電極302と真空容器のフランジ303との間が、硬質の絶縁スペーサ301によって好適な間隔を保って固定され、かつ、両者間の絶縁が行われる。
【0015】
また、真空容器のフランジ303の端面には、環状の溝加工が施されている。そして、甲丸リング306をこの環状溝に配することによって、接続構造300Aの真空シールが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平5−99343号公報
【特許文献2】実開昭61−38592号公報
【特許文献3】特開2003−28306号公報
【特許文献4】特表2001−512897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、従来例の接続構造200Aでは、Oリング206用の2つの環状溝加工、および、絶縁フランジ201の配設が必要となるので、接続構造200Aの組立性やコスト面において不都合があると考えられる。
【0018】
また、従来例の接続構造300Aでも、甲丸リング306用の環状溝加工、および、絶縁スペーサ301の配設が必要となるので、接続構造300Aの組立性やコスト面において不都合があると考えられる。
【0019】
そこで、部品間の気密性を確保できるシール部(例えば、図6(a)ではOリング206、および、図6(b)では甲丸リング306が相当)と、これらの部品間の間隔を固定できるスペーサ部(例えば、図6(a)では絶縁フランジ201、および、図6(b)では絶縁カラー301が相当)と、を一体に構成できると、部品点数の削減によって従来例の接続構造200A、300Aに比較して接続構造の組立性やコスト面において有利となる可能性が高いので好都合である。
【0020】
一方、上述のとおり、ガスケットのシール部およびスペーサ部が一体化された構造は、特許文献2においてすでに開示されている。しかし、この特許文献2に記載の接続構造では、ガスケットのシール部(環状の凸部)を嵌める溝(凹部)が、フランジに加工されているので、コスト面において未だ改善の余地がある。
【0021】
また、仮にこのような凹部を加工しなくても、シールを行うことができるが、この場合、シール部以外の板状の部分が適切にフランジに当接できずに、両者間の隙間が生じて締結される。すると、ボルトの締め付け具合によってフランジの取り付け角度や取り付け位置が変わるという接続構造の組立性の問題が生じる。
【0022】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、真空装置を構成する部品間の真空シール、電気絶縁および間隔固定が同時に行われ、組立性および製造コストが従来例よりも改善できる真空シール用の接続構造を提供することを目的とする。また、本発明は、このような接続構造を備えた真空装置を提供することも目的とする
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するため、本発明は、真空装置を構成する導電性の部品と、
前記部品間の気密性を確保できる環状のシール部と、前記部品間の間隔を固定できる環状のスペーサ部と、が一体に設けられた絶縁性のシール部材と、を備え、
前記シール部と前記スペーサ部との間において、環状の第1溝が、前記シール部材の主面に形成され、かつ、前記第1溝に連通する第2溝が、前記スペーサ部を前記スペーサ部の幅方向に貫通するよう、前記主面に形成されている真空シール用の接続構造を提供する。
【0024】
以上の構成により、真空装置を構成する部品間の真空シール、電気絶縁および間隔固定が同時に行われ、接続構造の組立性および製造コストが従来例よりも改善できる。
【0025】
また、本発明の真空シール用の接続構造では、前記シール部の潰し代部が、前記スペーサ部の主面を基準にして、前記シール部の厚み方向に突出してもよく、前記部品によって前記潰し代部が、その厚み方向に押圧された場合に、前記潰し代部の幅方向の弾性変形を前記第1溝において行ってもよい。
【0026】
これにより、第1溝は、シール潰し代部を潰す際の逃げ部として機能できる。このため、本発明の真空シール用の接続構造では、スペーサ部の主面に上記部品を適切に当接でき(部品がスペーサ部の主面から浮き上がることを防止でき)、スペーサ部の主面と部品との間に隙間が生じ難い。よって、固定手段の締め付け具合によって部品の取り付け角度や取り付け位置が変わるという接続構造の組立性の問題が生じ難い。
【0027】
また、本発明の真空シール用の接続構造では、前記潰し代部の幅方向の弾性変形によって前記第1溝内から押し出される空気を、前記第2溝を用いて抜いてもよい。
【0028】
これにより、シール潰し代部の弾性変形が第1溝において行われても、第1溝内から押し出される空気を、第2溝を通して外部(大気空間)にスムーズに抜くことができ、第1溝内の空気圧縮を防止できる。このように、第2溝は、第1溝の内圧上昇を抑制する圧抜き溝として機能できる。
【0029】
また、本発明の真空シール用の接続構造では、前記第2溝を前記スペーサ部の中心を通る中心線上において対をなして形成してもよく、前記第2溝の対の一方を用いて、前記第1溝内にリークチェックガスを送り、前記第2溝の対の他方を用いて、前記第1溝内のリークチェックガスを放出するように構成してもよい。
【0030】
これにより、リークチェックガスを第1溝内のほぼ全域に亘ってスムーズに流せるので都合がよい。そして、シール部にリーク部位(例えば、糸くずの挟み込みなどによるリーク部位)が存在すると、リークチェックガスは、リーク部位を介して第1溝内から接続構造内の減圧空間に漏れる。このため、リークガスデテクターを接続構造の適所に配置することにより、シール部のリークチェックを簡易かつ適切に行うことができる。
【0031】
以上のとおり、本発明の真空シール用の接続構造では、第2溝を用いて、第1溝の内圧上昇の抑制とともに、シール部のリークをチェックできるので、シール部のリーク問題に適切に対応できる。
【0032】
また、本発明の真空シール用の接続構造では、前記スペーサ部の硬度が、前記シール部の硬度よりも高くてもよい。
【0033】
これにより、上記部品とシール部材との間の締結時のスペーサ部の弾性変形が適切に抑制され、その結果、真空装置を構成する部品間の精密な位置決めを行えるよう、当該部品間を好適な間隔に保つことができる。
【0034】
また、本発明の真空シール用の接続構造では、前記シール部から前記シール部の内側に突出する突起を更に備えてもよい。
【0035】
これにより、接続構造の部品間の沿面距離は、以上の突起の存在により、突起を有しない接続構造のそれよりも長めになる。このため、本発明の真空シール用の接続構造では、突起を有しない接続構造に比べて、部品間の絶縁破壊の抑制の点で有利であると考えられる。
【0036】
また、本発明は、以上のいずれかに記載の接続構造が組み込まれており、
前記接続構造の前記シール部材が、前記部品間の真空シール、電気絶縁および間隔固定に用いられている真空装置も提供する。
【0037】
これにより、以上の接続構造を用いて、真空装置を構成する部品間の真空シール、電気絶縁および間隔固定が同時に行われ、接続構造の組立性および製造コストが従来例よりも改善できる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、真空装置を構成する部品間の真空シール、電気絶縁および間隔固定が同時に行われ、組立性および製造コストが従来例よりも改善できる真空シール用の接続構造が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施形態による真空装置を構成する部品間の接続構造の一構成例を示した断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態の真空シール用の接続構造に用いるシール部材の一構成例を示した図である。
【図3】図2のシール部材を用いた接続構造の使用形態の一例を模式的に示した図である。
【図4】本発明の第2実施形態の真空シール用の接続構造に用いるシール部材の一構成例を示した図である。
【図5】図4のシール部材を用いた接続構造の使用形態の一例を模式的に示した図である。
【図6】真空装置を構成する部品間の従来の接続構造の一例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の第1実施形態および第2実施形態について、図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による真空装置を構成する部品間の接続構造の一構成例を示した断面図である。
【0041】
このような真空装置100の具体例として、例えば、真空容器内においてスパッタリングや蒸着などが行われる真空成膜装置を例示できるが、本実施形態の接続構造100A以外の真空成膜装置の構成は公知である。よって、このような公知の構成説明は、ここでは省略する。
【0042】
本実施形態の接続構造100Aでは、図1に示すように、導電性の電極102と導電性の真空容器のフランジ103との間に、板状かつ円環状のシール部材10(詳細は後述)が挿入されている。
【0043】
この電極102が、シール部材10のスペーサ部11において、ボルト104、および、ボルト104への通電防止用の絶縁カラー105を用いて真空容器のフランジ103の端面に締結されている。これにより、電極102と真空容器のフランジ103との間が、硬質のスペーサ部11によって好適な間隔を保って固定され、かつ、両者間の絶縁が行われる。
【0044】
また、電極102および真空容器のフランジ103の間の真空シールは、シール部材10の軟質のシール部12によってなされている。
【0045】
なお、以上のシール部12やスペーサ部11の硬度の調整は、例えば、上述の電子線架橋技術(特許文献3参照)を用いてシール部材10の適所が適宜の剛性となるよう、設定するとよい。よって、シール部12およびスペーサ部11の硬度調整の詳細は、ここでは省略する。
【0046】
次に、本発明の第1実施形態の特徴部であるシール部材10の構成について、図面を参照しながら詳しく述べる。
【0047】
図2は、本発明の第1実施形態の真空シール用の接続構造に用いるシール部材の一構成例を示した図である。
【0048】
図2(a)には、板状かつ円環状のシール部材10の平面図が図示されている。
【0049】
図2(b)には、シール部材10のIIb−IIbの部分の断面図が図示されている。
【0050】
図2(c)には、シール部材10のIIc−IIcの部分の断面図が図示されている。
【0051】
上述のシール部材10は、絶縁性の弾性材料(例えば、合成ゴムや合成樹脂)からなる。そして、このシール部材10では、図2に示すように、真空装置100を構成する導電性の部品間の気密性を確保できる円環状の軟質のシール部12と、このような部品間の間隔を固定できる円環状の硬質のスペーサ部11と、が一体に設けられている。
【0052】
図2(a)に示すように、シール部材10の外周側の円周部分が、スペーサ部11によって構成され、シール部材10の内周側の円周部分が、シール部12によって構成されている。そして、このようなシール部材10の表面および裏面(以下、「主面」という)には、シール部12およびスペーサ部11の間を、シール部12およびスペーサ部11に沿って周方向に延びる円環溝13(第1溝)が形成されている。
【0053】
また、シール部材10の主面には、スペーサ部11の幅方向において、スペーサ部11の動径方向に直線状に延びる直線溝14(第2溝)が、スペーサ部11を貫通するよう、シール部材10の主面に形成されている。つまり、直線溝14の長さは、スペーサ部11の幅寸法Wとほぼ等しい。そして、これらの直線溝14と円環溝13と、が互いに直交するように連通している。図2(b)に示すように、直線溝14の深さは、円環溝13の深さとほぼ同一となっている。
【0054】
以上のシール部材10では、図2(a)に示すように、直線溝14は、スペーサ部11の中心Sを通る仮想の中心線50上において対をなしている。また、直線溝14は、図2(b)に示すように、スペーサ部11の厚み方向においても対をなしている。
【0055】
以上により、シール部材10には、合計4個の直線溝14が設けられている。
【0056】
また、図2(c)に示すように、スペーサ部11の厚みTが、真空装置を構成する部品間の好適な間隔となるように設定されており、シール部12の厚みが、スペーサ部11の厚みTよりも厚くなっている。
【0057】
詳しくは、シール部12のシール潰し代部Pが、スペーサ部11の主面を基準にして、シール部12の厚み方向に突出している。
【0058】
更に、図2(a)および図2(c)に示すように、スペーサ部11の周方向に適宜の間隔を隔てて配された複数(ここでは、6個)の貫通孔15が、スペーサ部11の厚み方向にスペーサ部11を貫通しており、これにより、貫通孔15にボルトなどの固定手段(図示せず)を通すことができる。
【0059】
以上のシール部材10を用いて、図3に例示する如く、真空装置の真空シール用の接続構造100Bを構成すると、接続構造100Bは、以下の様々な効果を奏する。
【0060】
図3は、図2のシール部材を用いた接続構造の使用形態の一例を模式的に示した図である。
【0061】
但し、図3では、図示を簡略化する趣旨から、真空装置100を構成する部品の一例として、導電性の一対のフランジ20、21を例示しており、これらのフランジ20、21の固定に用いるボルトなどの固定手段の図示を省略している。
【0062】
図3(a)には、図2のシール部材10のIIb−IIbの部分が、ボルトなどの固定手段を用いてフランジ20、21によって押圧される前の状態が図示されている。
【0063】
図3(b)には、図2のシール部材10のIIb−IIbの部分が、フランジ20、21によって押圧された後(つまり、挟持された後)の状態が図示されている。
【0064】
図3(c)には、図2のシール部材10のIIc−IIcの部分が、フランジ20、21によって押圧される前の状態が図示されている。
【0065】
図3(d)には、図2のシール部材10のIIc−IIcの部分が、フランジ20、21によって押圧された後の状態が図示されている。
【0066】
まず、本実施形態の接続構造100Bでは、スペーサ部11と、シール部12とを一体に構成しているので、部品点数の削減や溝加工費の削減によって従来例の接続構造200A、300Aに比較して組立性やコスト面において有利になる。
【0067】
また、貫通孔15および一対のフランジ20、21の鍔部20A、21Aの貫通孔に、ボルトなどの固定手段を通すと、図3(d)に示すように、このような固定手段の締結力(例えば、ボルトとナットによる締結力)を用いて、シール部材10のシール部12を、フランジ20、21の鍔部20A、21Aによって押圧できる。すると、シール部12に比べて硬質の(つまり、シール部12よりも硬度が高い)スペーサ部11の両側の主面のそれぞれに、フランジ20、21の鍔部20A、21Aのそれぞれの端面が当接する。
【0068】
これにより、フランジ20、21とシール部材10との間の締結時のスペーサ部11の弾性変形が適切に抑制され、その結果、フランジ20、21間の精密な位置決めを行えるよう、フランジ20、21間を好適な間隔に保つことができる。
【0069】
また、固定手段の締結力を用いて、フランジ20、21の鍔部20A、21Aによって、シール潰し代部Pがその厚み方向に押圧された場合、図3(b)および図3(d)に示すように、スペーサ部11に比べて軟質の(つまり、スペーサ部11よりも硬度が低い)シール潰し代部Pを適切に潰すことができる。すると、フランジ20とシール部材10との間の真空シール、および、フランジ21とシール部材10との間の真空シールが適切に行われ、ひいては、フランジ20、21間の気密性を確保できる。
【0070】
また、本実施形態の真空シール用の接続構造100Bでは、シール部12とスペーサ部11と、が、一体に構成されているので、フランジ20、21とシール部材10との間の締結において、シール部12は、スペーサ部11を介して固定手段に固定されている。よって、この場合、フランジ20、21にシール部12を嵌める溝を設けなくても、シール部12の移動が起こらず、シール部材10のシール性能の低下を招かない。
【0071】
また、本実施形態の接続構造100Bでは、上述のとおり、シール部12とスペーサ部11との間に円環溝13が形成されている。よって、フランジ20、21の鍔部20A、21Aの押圧に基づいた、シール潰し代部Pのその幅方向の弾性変形が、図3(b)および図3(d)に示すように、円環溝13において適切に行われる。
【0072】
つまり、シール潰し代部Pの体積は、シール潰し代部Pの弾性変形の前後でほぼ一定となるので、円環溝13は、シール潰し代部Pを潰す際の逃げ部として機能する。このため、本実施形態の真空シール用の接続構造100Bでは、図3(d)に示すように、スペーサ部11の主面にフランジ20、21の鍔部20A、21Aを適切に当接でき(鍔部20A、21Aがスペーサ部11の主面から浮き上がることを防止でき)、スペーサ部11の主面と鍔部20A、21Aとの間に隙間が生じ難い。よって、固定手段の締め付け具合によってフランジ20、21の取り付け角度や取り付け位置が変わるという接続構造の組立性の問題が生じ難い。
【0073】
また、本実施形態の接続構造100Bでは、上述のとおり、円環溝13に連通する直線溝14が、スペーサ部11をスペーサ部11の幅方向に貫通している。このため、シール潰し代部Pがその厚み方向に押圧された場合でも、図3(b)に示すように、円環溝13内は密閉されずに、円環溝13内とその外部(大気空間)と、が、直線溝14を介して互いに連通している。よって、シール潰し代部Pの弾性変形が円環溝13において行われても、円環溝13内から押し出される空気を、直線溝14を通して外部(大気空間)にスムーズに抜くことができ、円環溝13内の空気圧縮を防止できる。このように、直線溝14は、円環溝13の内圧上昇を抑制する圧抜き溝として機能する。
【0074】
また、本実施形態の接続構造100Bでは、上述の直線溝14を用いて、シール部12のリークをチェックできる。
【0075】
例えば、中心線50(図2(a)参照)上における直線溝14の対の一方からリークチェックガス(例えば、ヘリウムガス)を円環溝13の内部に送り、直線溝14の対の他方からリークチェックガスを放出させると、リークチェックガスを円環溝13内のほぼ全域に亘ってスムーズに流せるので都合がよい。
【0076】
そして、シール部12にリーク部位が存在すると、リークチェックガスは、リーク部位を介して円環溝13内から接続構造100B内の減圧空間16に漏れる。このため、リークガスデテクター(例えば、ヘリウムガスデテクター;図示せず)を接続構造100Bの適所に配置することにより、シール部12のリークチェックを簡易かつ適切に行うことができる。
【0077】
以上のとおり、本実施形態の接続構造100Bでは、直線溝14を用いて、円環溝13の内圧上昇の抑制とともに、シール部12のリークをチェックできるので、シール部12のリーク問題に適切に対応できる。
【0078】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態の真空シール用の接続構造に用いるシール部材の一構成例を示した図である。
【0079】
図4(a)には、板状かつ円環状のシール部材30の平面図が図示されている。
【0080】
図4(b)には、シール部材30のIVb−IVbの部分の断面図が図示されている。
【0081】
図4(c)には、シール部材30のIVc−IVcの部分の断面図が図示されている。
【0082】
また、図5は、図4のシール部材を用いた接続構造の使用形態の一例を模式的に示した図である。
【0083】
図5(a)には、図4のシール部材30のIVb−IVbの部分が、ボルトなどの固定手段を用いてフランジ20、21によって押圧される前の状態が図示されている。
【0084】
図5(b)には、図4のシール部材30のIVb−IVbの部分が、フランジ20、21によって押圧された後(つまり、挟持された後)の状態が図示されている。
【0085】
図5(c)には、図4のシール部材30のIVc−IVcの部分が、フランジ20、21によって押圧される前の状態が図示されている。
【0086】
図5(d)には、図4のシール部材30のIVc−IVcの部分が、フランジ20、21によって押圧された後の状態が図示されている。
【0087】
但し、図5では、図示を簡略化する趣旨から、真空装置100を構成する部品の一例として、導電性の一対のフランジ20、21を例示しており、これらのフランジ20、21の固定に用いるボルトなどの固定手段の図示を省略している。また、図4および図5のシール部材30については、シール部12から突出する突起31が形成されている以外は、図2(第1実施形態)のシール部材10の構成と同じである。よって、図面中の図示および以下の説明では、両者に共通する構成要素には、同一の符号で表し、第1実施形態で述べたシール部材10の内容と重複する記載について省略する場合がある。
【0088】
本実施形態の接続構造100Cに用いるシール部材30では、図4に示すように、突起31が、シール部12の厚み方向の略中央から鍔状に、シール部12の内側に向かって突出するように形成されている。この突起31は、シール部12と一体に形成されている。
【0089】
本実施形態の真空シール用の接続構造100Cでは、フランジ20、21の鍔部20A、21Aの押圧に基づいたシール潰し代部Pのその幅方向の弾性変形が、図5(b)および図5(d)に示すように、円環溝13、および、突起31の上方および下方において適切に行われる。
【0090】
ところで、真空中の電極間の放電では、絶縁物の表面に沿って起こる絶縁破壊(沿面放電)が、装置の高電圧特性を決定する場合が多いと考えられている。また、電極間距離(沿面距離)を長くすれば、絶縁破壊電圧を上げることができるという報告がある(例えば、R.Hawley: Vacuum, 18 (1968) 383 参照)。
【0091】
そこで、図5(b)および図5(d)の接続構造100Cと、図3(b)および図3(d)の接続構造100Bとの比較から容易に理解できるとおり、接続構造100Cのフランジ20、21間(正確には鍔部20A、21A間)の沿面距離は、以上の突起31の存在により、接続構造100Bのそれよりも長めになる。
【0092】
よって、本実施形態の真空シール用の接続構造100Cでは、第1実施形態の接続構造100Bに比べて、フランジ20、21間の絶縁破壊の抑制の点で有利であると考えられる。
【0093】
なお、第1実施形態で述べた接続構造100Bによる様々な効果は、本実施形態の接続構造100Cでも奏することができる。但し、各効果の詳細な説明は、ここでは省略する。
【0094】
(第1変形例)
第1実施形態の接続構造100Bおよび第2実施形態の接続構造100Cでは、接続構造100B、100C内を減圧状態とし、接続構造100B、100Cの外部を大気状態とする例を述べたが、このような状態が逆であってもよい。つまり、接続構造内を大気状態とし、接続構造の外部を減圧状態としてもよい。
【0095】
但し、この場合、シール部材の外周側の円周部分をシール部によって構成し、シール部材の内周側の円周部分をスペーサ部によって構成する方が好ましい。
【0096】
これにより、第1実施形態の接続構造100Bおよび第2実施形態の接続構造100Cと同様に、スペーサ部11の主面に形成された直線溝が、シール部のリークチェック用の溝として機能するので都合がよい。
【0097】
(第2変形例)
第1実施形態の接続構造100Bおよび第2実施形態の接続構造100Cでは、スペーサ部11の硬度が、シール部12の硬度よりも高い例を述べたが、必ずしもこれに限らず、スペーサ部11の硬度が、シール部12の硬度を同じであってもよい。この場合、真空装置を構成する部品間の間隔固定は、必要な固定位置精度に基づいて、スペーサ部の形状の見直し(例えば、スペーサ部11の幅寸法Wの見直し)や固定手段の締結力の制御などによって行うとよい。
【0098】
(第3変形例)
第1実施形態の接続構造100Bおよび第2実施形態の接続構造100Cでは、電子線架橋技術を用いて、同一の弾性材料からなるスペーサ部11とシール部12とを、互いの硬度が異なるようにして一体に設ける例を述べたが、これに限らない。
【0099】
例えば、硬質の弾性材料からなるスペーサ部と軟質の弾性材料からなるシール部とをそれぞれ、別個に準備して、これらの部材を適宜の接合手段(例えば、接着剤)によって接合すると、両者を一体に構成できる。また、軟質の弾性材料からなるシール潰し代部を2個、別個に準備して、このシール潰し代部をシール部に、適宜の接合手段(例えば、接着剤)を用いて貼り付けると、スペーサ部とシール部とを一体に構成できる。
【0100】
以上の構成により、電子線架橋技術によるシール部材の硬度調整の必要性が無くなり、接続構造のシール部材の簡易な製造において有益な場合がある。
【0101】
(第4変形例)
第1実施形態の接続構造100Bおよび第2実施形態の接続構造100Cでは、板状かつ円環状のシール部材10(シール部12およびスペーサ部11も円環状)を例示したが、これに限らない。
【0102】
以上のシール部材(シール部およびスペーサ部も同じ)は、円環状の他、例えば、矩形の環状(額縁状)であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によれば、真空装置を構成する部品間の真空シール、電気絶縁および間隔固定が同時に行われ、組立性および製造コストが従来例よりも改善できる真空シール用の接続構造が得られる。よって、本発明は、絶縁状態で部品間の真空シールが行われる真空装置に利用できる。
【符号の説明】
【0104】
10、30 シール部材
11 スペーサ部
12 シール部
13 円環溝
14 直線溝
15 貫通孔
16 減圧空間
20、21 フランジ
20A、21A フランジの鍔部
31 突起
50 中心線
100 真空装置
100A、100B、100C 接続構造
P シール潰し代部
S 中心
T スペーサの厚み
W スペーサの幅寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空装置を構成する導電性の部品と、
前記部品間の気密性を確保できる環状のシール部と、前記部品間の間隔を固定できる環状のスペーサ部と、が一体に設けられた絶縁性のシール部材と、
を備え、
前記シール部と前記スペーサ部との間において、環状の第1溝が、前記シール部材の主面に形成され、かつ、前記第1溝に連通する第2溝が、前記スペーサ部を前記スペーサ部の幅方向に貫通するよう、前記主面に形成されている真空シール用の接続構造。
【請求項2】
前記シール部の潰し代部が、前記スペーサ部の主面を基準にして、前記シール部の厚み方向に突出しており、
前記部品によって前記潰し代部が、その厚み方向に押圧された場合に、前記潰し代部の幅方向の弾性変形が、前記第1溝において行われる請求項1に記載の接続構造。
【請求項3】
前記潰し代部の幅方向の弾性変形によって前記第1溝内から押し出される空気を、前記第2溝を用いて抜くことができる請求項2に記載の接続構造。
【請求項4】
前記第2溝は、前記スペーサ部の中心を通る中心線上において対をなして形成されており、
前記第2溝の対の一方を用いて、前記第1溝内にリークチェックガスを送り、前記第2溝の対の他方を用いて、前記第1溝内のリークチェックガスを放出している請求項1に記載の接続構造。
【請求項5】
前記スペーサ部の硬度が、前記シール部の硬度よりも高い請求項1に記載の接続構造。
【請求項6】
前記シール部から前記シール部の内側に突出する突起を更に備える請求項1に記載の接続構造。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の接続構造が組み込まれており、
前記接続構造の前記シール部材が、前記部品間の真空シール、電気絶縁および間隔固定に用いられている真空装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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