説明

真空ダクト

【課題】短い工数で安価に製造可能でかつ形状、寸法精度の高い構造の荷電粒子加速器の変動磁場近傍に設置される薄肉構造の直線状の真空ダクトあるいは偏向角を備えた偏向ダクトの提供を目的とする。
【解決手段】複数の直管状のユニット真空ダクト75を直線状に接合して所定の長さの真空ダクト70となるよう形成されており、前記ユニット真空ダクト75の端部には、弾性変形可能なユニット真空ダクト75の外側に向かって形成された円弧状端部74が設けられ、この円弧状端部74が互いにつき合わされて接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、物理研究や癌などの悪性腫瘍の治療、診断等に用いられている荷電粒子加速器の真空ダクトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のシンクロトロンの真空容器として、薄肉金属管からなる容器本体の軸線方向に、補強フィンが所定間隔で配置されており、容器本体の一部を内面側からバルジ加工によって加圧したフィン固定部において、全周にわたって密着状態が保たれ、ろう付けによって容器本体に接合されるとともに、容器本体に第1の成形凸部と第2の成形凸部が設けられており、ひだ状の第1の成形凸部は、容器本体の全周にわたって連続し、容器本体の剛性を高め、第2の成形凸部は容器本体の断面の長軸に沿う平坦な部分に設けられ、この部分の剛性を高める技術が示されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開平05−326191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に示された真空容器は、薄肉構造の容器本体の剛性を高めるために、フィン固定部や第1、第2の成形凸部がバルジ加工によって形成されている。このフィン固定部や第1、第2の凸部の成形加工に複数の専用金型と多大な加工時間を要し、結果として高コスト化するという問題点がある。
また、偏向電磁石のビーム軌道半径に応じた曲率で真空容器を湾曲させることが示されているが、その塑性変形加工のためには成型用の専用治具が新たに必要とするとともに、この塑性加工は形状、寸法精度を確保する上で、困難作業を伴うという問題点もある。
【0005】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたものであって、真空ダクト成型用の専用治具の数を減らしてユニット真空ダクトを作成し、このユニット真空ダクトを接合して所定の形状に成形する際に形状、寸法精度を確保しやすい構造の真空ダクトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る真空ダクトは、加速器の荷電粒子ビームを輸送する非磁性薄肉金属材よりなり、この真空ダクトは、複数の直管状のユニット真空ダクトを荷電粒子ビームを直線上に輸送する方向に接合して所定の長さを備えるよう形成されており、ユニット真空ダクトの端部には、このユニット真空ダクトを複数個接合時の形状、寸法精度を弾性変形によって補正を可能とするようユニット真空ダクトの外側に向かって形成された円弧状端部が設けられるとともに、この円弧状端部が互いにつき合わされ接合されているものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明は前記のような構成を備えているので、非磁性薄肉金属材をユニット真空ダクトに成型加工が簡単化、低コスト化されるとともに、ユニット真空ダクト接合時に円弧状の端部が弾性変形することにより真空ダクトの形状、寸法精度を確保することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1を図に基づいて説明する。
図1はこの発明の真空ダクトを備えた粒子線照射医療システム500を示す図である。粒子線照射医療システム500は、図1に示すように、入射系50、荷電粒子ビーム加速器200、ビーム輸送系300、照射系400により構成されている。この実施の形態1による真空ダクトは荷電粒子ビーム加速器200の偏向電磁石34の間の直線部分に設けられた真空ダクト70を例として説明し、後述する実施の形態2で、偏向電磁石34内に設置された偏向角を有する偏向ダクト(真空ダクト)を説明する。
真空ダクト70内部は真空に保持され、加速されるビームの通路を確保する。荷電粒子ビーム加速器200の偏向電磁石34内やその近辺に設置され、偏向電磁石34の生成する時間的に変動する磁場によって、真空ダクト表面は誘起される渦電流により偏向電磁石34による磁場が遮蔽されることがないようにするために、薄肉構造とする必要がある。
真空ダクト70の断面形状は、通過するビームのサイズと、真空ダクト70の外側に配置される電磁石のギャップの高さより、例えば扁平なレーストラック形状となり、
それを図2に示す。図2(a)は上面図、図2(b)は側面図である。図2(c)は接合部73を拡大して示す図である。図2(a)において、真空ダクト70は直管状のユニット真空ダクト75を接合部73で接合して所定の長さとなるよう形成されている。ユニット真空ダクト75は筐体71の外部に補強リブ72を一体的に設けている。また長手軸方向両端面には円弧状端部74が設けられ、図2(c)に示すように相隣り合うユニット真空ダクト75を接合部73の溶接接合部74aでもって接合している。補強リブ72は真空ダクト70の内部を真空状態にした場合、外圧がかかり薄肉構造では大気圧に耐えられないため、機械強度を上げるために設けたものである。一方、変動磁場内では補強リブ72にも渦電流が流れ誤差磁場が発生し、ビーム加速を不安定にする可能性があるため、その厚さと枚数材質については充分な検討が必要である。
【0009】
真空ダクト70の筐体71は非磁性金属の例えばステンレス鋼とし、その厚さは0.3mm程度である。薄肉の筐体71の強度を支えるため、筐体外に補強リブ72を10〜30mmの間隔で取り付ける。材質は非磁性金属とし、厚さは例えば容器本体の10倍程度としている。
筐体71の断面はレーストラック形状に加工し、また補強リブ72の中央部も同形状に穴加工する。薄肉の筐体71を補強リブ72の加工穴に挿入し、補強リブ72を所定の間隔で取付け、ロウ付け加工を行う。筐体71の端部は、例えばスピニングやプレス加工で弾性変形可能な円弧状端部74を設ける。このようにしてユニット真空ダクト75を製作した後、各々のユニット真空ダクト75の円弧状端部74を突合せて溶接接合部74aで溶接接合する。このように相隣り合うユニット真空ダクト75の筐体71の円弧状端部74を接合部73でビーム軸方向に接合し一連の真空ダクト70を形成する。
【0010】
このようにユニット真空ダクト75の弾性変形可能な円弧状端部74を溶接にすることで、製作精度の補正、真空ダクト70の軸方向の寸法補正が可能となり、また強度確保が可能となる。
従って、真空ダクト70の精度を確保するため、特別な成形を追加する必要がなく、製作が容易で作業時間、製作費用を低く抑えることができる。
なお、真空ダクト70形状はレーストラック型に限る事はなく、円形、楕円形、角型であってもよい。筐体71及び補強リブ72の板厚及び取付間隔Pも、必要に応じて設定可能であり、材質もインコネルやアルミニウムなど非磁性材料の選定が可能である。
また、端部の成形加工した円弧状端部74の加工も弾性変形可能な機能を持つ形状であればよく、筐体71に別部品を溶接加工で取付けてもよい。
またさらに、図2(c)に示すように、補強リブ72の高さHと円弧状端部高さhを、H>hとしたが、溶接接合部74aにおける接合作業性や、補強リブ72との間隔とのかね合いで、円弧状端部高さhと補強リブ高さHはほぼ同じとするか、あるいは、h>Hとしてもよい。また、接合を溶接接合としたがろう付けであってもよい。
【0011】
実施の形態2.
次に実施の形態2を図に基づいて説明する。
この実施の形態2による真空ダクト70aは図1に示した荷電粒子ビーム加速器200の偏向電磁石34の磁極ギャップ間に設置された偏向ダクトであり、その構造を図3に示す。図3(a)は、所定の偏向角θをビーム軌道半径Rにて形成された真空ダクト70aの上面図を示し、図3(b)はその部分拡大図である。
前記実施の形態1による直管状のユニット真空ダクト75を作成後に、治具を使用してビーム軌道半径Rに沿って湾曲するよう円弧状端部74を弾性変形させた状態で、湾曲化したユニットダクト75とし、相隣り合う湾曲化したユニット真空ダクト75を接合部73の溶接接合部74aにて接合する。
このような接合を複数の直管状のユニット真空ダクト75を基にして施工することにより所定の偏向角θとビーム軌道半径Rを備えた真空ダクト70aが作成される。なお、各湾曲化したユニット真空ダクト75の偏向角度は、ビーム軌道半径Rや補強リブ72の取り付けピッチPや、溶接接合部74aでの作業性等の兼ね合いで決定されるが、例えば約5度程度である。このような実施の形態2による真空ダクト70aも前記実施の形態1と同様の効果を奏する。
【0012】
なお、実施の形態2の真空ダクト70aは、図1で示した粒子線照射医療システム500の荷電粒子ビーム加速器200の偏向電磁石34に設ける例を示したが、時間的に磁場が変化する照射系の照射路偏向電磁石43等、ビームを所定の角度偏向させる部位の真空ダクトに適用してもよい。
このような実施の形態2による真空ダクト70aが設置された荷電粒子加速器200や粒子線照射医療システム500は、より低コスト化がはかれるという効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0013】
この発明は、物理研究用の荷電粒子加速器や、癌などの悪性腫瘍の治療、診断に利用される粒子線照射医療システムの真空ダクトに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態1の粒子線照射医療システムを示す図である。
【図2】実施の形態1の真空ダクトを示す図である。
【図3】実施の形態2の真空ダクトを示す図である。
【符号の説明】
【0015】
70,70a 真空ダクト、72 補強リブ、73 接合部、74 円弧状端部、
75 ユニット真空ダクト、200 荷電粒子ビーム加速器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速器の荷電粒子ビームを輸送する非磁性薄肉金属材よりなる真空ダクトにおいて、前記真空ダクトは、複数の直管状のユニット真空ダクトを前記荷電粒子ビームを直線状に輸送する方向に接合して所定の長さを備えるよう形成されており、前記ユニット真空ダクトの端部には、このユニット真空ダクトを複数個接合時の形状、寸法精度を弾性変形によって補正を可能とするようユニット真空ダクトの外側に向かって形成された円弧状端部が設けられるとともに、この円弧状端部が互いにつき合わされ接合されていることを特徴とする真空ダクト。
【請求項2】
前記真空ダクトは、複数の直管状のユニット真空ダクトを、前記荷電粒子ビームを偏向して輸送する方向に弾性変形させて接合し、所定の偏向角度を備えるよう形成されていることを特徴とする請求項1に記載の真空ダクト。
【請求項3】
前記ユニット真空ダクトの外周には所定の高さを有する複数の補強リブが設けられているとともに、この補強リブの高さが前記円弧状端部の高さとほぼ同等かあるいは円弧状端部の高さが補強リブ高さより高いことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の真空ダクト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−80062(P2010−80062A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243481(P2008−243481)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(597138508)明昌機工株式会社 (11)
【Fターム(参考)】