説明

真空ポンプの運転方法および分子真空ポンプ

【課題】真空ポンプ特にターボ分子真空ポンプにおいてロータの回転により振動が発生され、振動は、真空ポンプがそれに固定されている室に伝達される。固定回転速度の場合、これは、回転速度と整数比の関係にある室の固有振動数が著しく励振されることを意味する。この問題を回避するために、従来技術においては、真空ポンプと室との間に追加の部品が組み込まれている。本発明の課題は、追加部品の必要性を低減させる真空ポンプおよび真空ポンプの運転方法を提供する。
【解決手段】ロータと、ロータの回転をある回転速度で行わせる駆動装置を備えた真空ポンプの運転方法であって、真空ポンプによる励振の発生をより小さくするために、変化過程36を含み、前記変化過程内において、前記ロータの回転速度を第1の回転速度値38および第2の回転速度値39の間で周期的に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の真空ポンプの運転方法および請求項5に記載の分子真空ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空ポンプ特にターボ分子真空ポンプは、典型的には、固定回転速度で運転される。固定回転速度は真空ポンプおよびその駆動装置により特定された定格回転速度であってもよいが、任意の他の設定可能な回転速度であってもよい。回転速度は、通常、例えば達成される最終圧力のような真空技術的データを、回転速度により選択された作業点において変化させないために、種々の制御装置によりできるだけ一定に保持される。
【0003】
ロータの回転により振動が発生され、振動は、真空ポンプがそれに固定されている室に伝達される。固定回転速度の場合、これは、回転速度と整数比の関係にある室の固有振動数が著しく励振されることを意味する。この問題を回避するために、従来技術においては、真空ポンプと室との間に追加の部品が組み込まれている。これは追加コストを意味し、および追加のコンダクタンスに基づいて室の真空化のために有効に利用可能な真空技術的データを低下させることを意味する。このように設計された装置の例をドイツ特許公開第102007018292号およびドイツ特許公開第102005019054号が示している。
【0004】
電気的および機械的損失に基づいてポンプ装置および駆動装置の種々の部分が加熱される。発生損失および許容加熱に基づいて、例えばファンまたは循環冷媒により冷却が行われる。コスト上昇のほかに、例えばファンまたは冷却装置の好ましくない振動または電力消費により適用を困難にさせることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ特許公開第102007018292号
【特許文献2】ドイツ特許公開第102005019054号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、追加部品の必要性を低減させる真空ポンプおよび真空ポンプの運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1の特徴を有する方法および請求項5の特徴を有する真空ポンプにより解決される。従属請求項は本発明の有利な変更形態を与える。
真空ポンプが固定回転速度で運転された場合、真空ポンプと結合された、この回転速度と整数比の関係にある装置の固有周波数は著しく励振される。これに対して、ロータの回転速度が第1の回転速度値および第2の回転速度値の間で周期的に変化される変化過程を含む真空ポンプの運転は、確かにロータによって多数の周波数が励振されるが、1つの周波数に留まっている時間はより短いことを意味する。これは、要するに、より小さい多数の励振が観察されるという利点を導く。他の利点として、変化過程内においてモータ・コイル内により少ない駆動出力が供給され、これにより熱に変換される損失出力が低減されたとき、真空ポンプの温度バランスが改善される。この利点は、達成圧力および排気速度のような真空データへの影響が用途と協調し続け、特にこれらの真空データの小さな変動が発生するにすぎないように第1および第2の回転速度値が決定されているときにもまた達成される。
【0008】
一変更態様は、変化過程内において、回転速度の変化を、駆動装置のモータ・コイルへの通電を遮断することによって行うことである。変調電流が通電されたモータ・コイルはある程度電気振動を機械振動に変換し、この機械振動が真空ポンプに伝達されることになる。このタイプの励振は通電を遮断することによって阻止されるので、全体として励振は低下する。熱バランスに関する利点は、この変更態様において特に顕著に現われる。
【0009】
他の変更態様は、より高い回転速度へロータを加速するために使用される出力を低下するように設計されている。これにより、加速過程における出力ジャンプが回避される。
さらに他の変更態様は、変化過程内において圧力測定を実行し、且つ真空データ特に真空にされるべき室内の圧力への影響が小さく保持される形態となるように設計され、これにより、室内で進行するプロセスの障害が発生することはない。
【0010】
実施例により本発明およびその変更態様を詳細に説明し且つその利点を掘り下げることとする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、室および真空ポンプを含む装置の図を示す。
【図2】図2は、変化過程の間におけるロータ回転速度の時間線図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は真空ポンプを含む装置を示す。真空ポンプ1はポンプ・フランジ4を有し、ポンプ・フランジは室2の室フランジ3と着脱可能に結合されている。この結合は固定手段5、例えばねじ、クランプまたはブラケットによって確実に行われる。ガスはポンプ・フランジ内に設けられた開口を通過して吸い込まれ、真空ポンプ内において圧縮され、およびポンプ出口6を通過して図示されていないポンプに伝達され、このポンプが次にさらに圧縮を行う。ポンプ能動要素として、真空ポンプは羽根が設けられたロータ8を有している。羽根は軸方向に間隔をなす複数のロータ・ディスク10に配置されている。平面間に同様に羽根が設けられたステータ・ディスク7が配置されている。
【0013】
ロータは軸9を含み、軸は下部軸受12および上部軸受11によって回転可能に支持される。軸上にモータ磁石27が配置され、モータ磁石はステータ側のモータ・コイル14と協働する。駆動装置13はモータ・コイル14および制御装置15から形成される。制御装置は駆動装置導線19によりモータ・コイルと結合され、駆動装置導線を介してモータ・コイルの通電が行われる。駆動装置導線は一般に着脱可能に形成され、このために、真空ポンプおよび制御装置への移行部にプラグおよびソケットを有している。一変更態様においては、制御装置がポンプに直接フランジ結合されていてもよい。このとき、駆動装置導線19は制御装置および真空ポンプの内部のみを通過する。モータ・コイルの通電は、特に25000−100000rpmの範囲内の高速回転を形成する。
【0014】
図示の装置は測定装置25を含み、測定装置は室に存在する測定フランジ24に配置されている。測定装置は測定導線26により制御装置と結合されている。
制御装置15は複数の電子部品を有している。制御装置は制御ユニット16を含み、制御ユニットは整流信号を発生し、これによりモータ・コイルの通電形態を決定する。制御ユニットは最終段制御結線18により最終段17と作用結合され、最終段はモータ・コイルに対して電流および電圧を発生し且つ出力部分を示す。切換ユニット20はモータ・コイルの通電を遮断するように働き且つ遮断結線21を介して制御ユニットにより操作される。
【0015】
真空ポンプ内に配置された回転速度センサ30は回転速度をモニタリングするように働き且つこのために制御装置と結合されている。
測定導線26は測定ユニット22と結合されている。測定ユニットは測定結線23を介して値を制御ユニットに伝送する。制御装置は操作要素28を有し、操作要素を介して機能がユーザにより選択され且つモニタリング可能である。このために、操作要素はスイッチ29を有し、代替態様または追加態様として、他のスイッチ、タッチ・スクリーン、データ・インタフェース等が存在していてもよい。
【0016】
図2に示された回転速度線図37により、以下に、本方法および上記の装置の要素の協働を説明する。
制御装置15はモータ・コイル14の通電電流を発生し、モータ・コイルによりロータ8は定格回転速度38に保持される。定格回転速度は、一般に、真空データに関してロータの寿命および安全性を考慮して選択される。軽いガスに対しては排気速度は回転速度の上昇と共に改善される一方で、ロータの運動エネルギーおよび材料の荷重は増大する。
【0017】
第1の遮断時点41において変化過程36が開始する。この時点において制御ユニット16は遮断結線21および切換ユニット20を介してモータ・コイル14の通電を遮断する。それに続いて、第1の減速過程42内において回転速度が低下する。軸受11および12内の摩擦およびポンピングされるガスとの摩擦は制動作用を与える。制御装置は減速過程の間回転速度をモニタリングする。ロータの回転速度が低下回転速度39まで低下されたときに第1の投入時点43が到達される。この時点において切換ユニット20は再び制御ユニットにより切り換えられ、これによりモータ・コイルが通電される。通電により、第1の加速過程44内においてロータの加速即ちその回転速度の上昇が行われる。定格回転速度に到達したことにより、加速過程および第1の周期40が終了する。
【0018】
第2の周期50が第1の周期と同様に行われる。第2の周期は第2の遮断時点51と共に開始し、第2の遮断時点においてモータ・コイルの通電が遮断される。第2の減速過程52の間に、ガス摩擦および軸受摩擦がロータの回転速度を低下させる。第2の投入時点53において通電が再び投入され且つロータの回転速度は第2の加速過程54内において定格回転速度まで上昇する。
【0019】
変化過程は、例えばスイッチ29を介して、または室内において行われているプロセスを制御する装置制御から制御装置に伝送された命令を介して、変化過程が遮断されるまで継続するか、または例えば時間範囲の終了または所定の周期数への到達のような他の基準が発生するまで継続される。
【0020】
変化過程内において通電を一時的に遮断することにより、共振条件が短時間の間のみ達成されるにすぎないので、ロータ回転速度は多数の周波数を短時間の間のみ励振するにすぎないことが達成される。これにより、装置全体のきわめて振動の少ない運転が得られる。振動に敏感な用途において、例えば電子顕微鏡および電子ビーム・リソグラフィーにおいては特に有利である。通電の遮断は、さらに、モータ・コイルにより少ない電力が供給されるように働き、これにより、熱に変換される損失出力が低下する。したがって、真空ポンプは比較的低い温度のままである。
【0021】
種々の変更態様は他の利点をもたらすことが可能である。
低下回転速度39はユーザによって設定可能であってもよい。これにより、ユーザは、回転速度変化の範囲をいかなる大きさにするかを決定可能である。これは、例えば、真空データにおける大きな公差が許容されているとき、有利なことがある。
【0022】
加速過程の終了に対する基準として、定格回転速度38の代わりにより低い回転速度が使用されてもよい。低下回転速度の選択可能性と組み合わせて、これにより、室の励振に関して好ましい回転速度範囲内において回転速度を変化させることが可能である。
【0023】
回転速度範囲をより急速に通過可能にし、これにより励振時間をさらに短縮可能にするために、軸受内摩擦およびガスの摩擦による制動の代わりに能動的制動が使用されてもよい。これは、ブレーキ抵抗の使用により達成可能である。
【0024】
回転速度の変化は所定の関数線図に従って行われてもよい。この場合、これは、能動的制動および加速により、ないしは正弦波形線図により表わされる。これにより、励振はさらに低減可能である。
【0025】
切換ユニット20による遮断によって通電を遮断する代わりに、減速過程内においてトルク・フリー運転が行われてもよい。トルク・フリー運転においては、磁界はロータ回転速度でロータに追従するが、モータ・コイルは、トルクを発生しないように通電される。これにより、回転速度センサ30は省略可能である。したがって、励振に関する利点はより大きくなる。しかしながら、温度に関する利点はそれほど大きく現われない。
【0026】
加速過程の開始前の投入においてモータ磁石によってモータ・コイル内に誘導された逆起電力の0通過がモニタリングされ、これから回転速度が決定されるとき、基本的に回転速度センサの省略が可能である。これは、例えば、それに対応して適合された制御ユニットによって実行されてもよい。このとき、制御ユニットは、モータ・コイルまたはそのリード線の電流および電圧を測定するための手段を有している。温度管理および振動に関する利点は保持されたままであり、さらに、一方で故障しやすく且つ他方で例えば放射線に対するその感受性のために真空ポンプの設置場所を制限するような部品が使用されないですむという利点が達成される。
【0027】
制御装置15は、上記の方法を実行可能にするように適合されている。図示の例においては、この適合は特に切換ユニット20を含む。さらに、制御ユニット16は、回転速度を設定値と比較するための手段を備えている。
【0028】
さらに、制御ユニットは、加速過程においてロータが最大出力よりも低い出力で加速されるように、出力低減を可能にしてもよい。このようにして、出力ジャンプが回避される。
【0029】
一変更態様は、図1に示された圧力測定のための可能性を有している。室の測定フランジ24に配置されている測定装置25は、室内の圧力に対応する信号を発生する。圧力値それ自身を提供する測定装置が存在する。信号は測定ユニット22に伝送され、測定ユニットは制御ユニットと結合されている。制御ユニットは、圧力値を利用することにより、変動が小さく保持されるように変化過程を適合させることが可能であり、これにより、室内のプロセスが妨害されることはない。変化過程の適合は、周期長さ、定格回転速度の値または曲線形状に関するものであってもよい。
【0030】
図1に示した装置の代わりに、測定装置は真空ポンプ内に配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 分子真空ポンプ
2 室
3 室フランジ
4 ポンプ・フランジ
5 固定手段
6 ポンプ出口
7 ステータ・ディスク
8 ロータ
9 軸
10 ロータ・ディスク
11 上部軸受
12 下部軸受
13 駆動装置
14 モータ・コイル
15 制御装置
16 制御ユニット
17 最終段
18 最終段制御結線
19 駆動装置導線
20 切換ユニット
21 遮断結線
22 測定ユニット
23 測定結線
24 測定フランジ
25 測定装置
26 測定導線
27 モータ磁石
28 操作要素
29 スイッチ
30 回転速度センサ
36 変化過程
37 回転速度線図
38 第1の回転速度値(定格回転速度)
39 第2の回転速度値(低下回転速度)
40 第1の周期
41 第1の遮断時点
42 第1の減速過程
43 第1の投入時点
44 第1の加速過程
50 第2の周期
51 第2の遮断時点
52 第2の減速過程
53 第2の投入時点
54 第2の加速過程
f 回転速度
t 時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ(8)と、および前記ロータの回転をある回転速度で行わせる駆動装置(13)と、を備えた真空ポンプ(1)の運転方法において、
前記方法が変化過程(36)を含み、前記変化過程内において、前記ロータの回転速度が第1の回転速度値(38)および第2の回転速度値(39)の間で周期的に変化されることを特徴とする真空ポンプの運転方法。
【請求項2】
前記方法が、前記駆動装置(13)のモータ・コイル(14)への通電を遮断することによって行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記変化過程(36)内において、前記ロータ(8)の加速のために消費される出力が最大出力より低い値に制限されていることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記変化過程(36)内において圧力測定が実行されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
高速回転ロータ(8)と、制御装置(15)を有する駆動装置(13)特に同期電動機と、を備えた分子真空ポンプ(1)特にターボ分子ポンプにおいて、
前記制御装置が、前記ロータを、第1の値および第2の値の間で周期的に変化する回転速度で運転させるように適合されていることを特徴とする分子真空ポンプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−47399(P2011−47399A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183601(P2010−183601)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(391043675)プファイファー・ヴァキューム・ゲーエムベーハー (44)
【Fターム(参考)】