説明

真空ポンプ

【課題】磁極位置を正しく検出し、センシング部材の回転軸に対する位相調整を容易とする。
【解決手段】真空ポンプ1は、回転翼14が形成されたロータ13の回転により吸排気を行う真空ポンプにおいて、ロータを回転支持する回転軸16と、回転軸を回転駆動するモータ20と、モータの磁極位置を検出するためのセンシング部材2を有し、回転軸とセンシング部材とを軸方向で結合する結合部材3を備える。結合部材3は、その一端に回転軸の端部を固定し、他端にセンシング部材2を回転軸の回転方向の位相位置を調整自在とする。これによって、結合部材3とセンシング部材2との間の位相調整を行い、センシング部材2が備える検出部位とモータの磁極位相との位置合わせを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプに関し、特に、真空ポンプを駆動するモータの磁極位置を検出する機構に関する。
【背景技術】
【0002】
真空装置では、ターボ分子ポンプ等の吸引機構によって真空容器内等を吸引することによって真空状態を形成している。一般に、ターボ分子ポンプはステータとロータとを有するポンプユニットを備え、モータの電源駆動によってロータを回転させ、真空容器内を吸引・排気している。
【0003】
多くのターボ分子ポンプ等の真空ポンプでは、回転軸は磁気軸受によって支持され、磁気軸受のための位置センサ及び電磁石がケーシングと回転軸との間に設置される。回転軸のラジアル方向には、回転軸を挟んで位置センサが対向して配置される。ラジアル軸受電磁石は位置センサで検出した位置情報に基づいて制御され、ロータをラジアル方向で非接触により回転支持している。
【0004】
また、回転軸のスラスト方向には、回転軸の下端にネジ部によってスラストターゲットが設置され、このスラストターゲットと対向して位置センサが配置される。また、スラストターゲットにはネジ止めによってロータディスクが固定され、このロータディスクをスラスト方向に挟んでスラスト軸受電磁石が設置される。ラジアル軸受電磁石は位置センサで検出したスラスト方向の位置情報に基づいて制御され、ロータをスラスト方向で非接触により回転支持している。
【0005】
また、ロータを回転駆動するモータとして、DCブラシレスモータが知られている。DCブラシレスモータでは、ロータの磁極を検知することによってロータの回転位置を検出し、この回転位置にモータステータコイルを励磁する際の励磁パターンを形成し、この励磁パターンによってモータの駆動を制御している。
【0006】
ターボ分子ポンプは様々な装置に取り付けられ、加速器のように放射線に曝される環境や、ポンプ自体を高温にして生成物対策を行う環境等の厳しい状況で用いられる場合もある。位置センサとしてホール素子を用いるものが知られているが、上記したような放射線や高熱の環境下では、ホール素子のような半導体素子では耐放射線、耐熱の点で課題がある。
【0007】
そこで、この磁極位置を検知するために、複数のホール素子から得られる検出信号から回転位置情報を抽出する構成に代えて、ロータの磁極位置と一致させたスラストターゲットに切り欠き部を設け、この切り欠き部をインダクタンス式センサで検出することによって、ロータの磁極情報を取り出することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
図8,9は、従来のスラストターゲットによる回転位置を検出するための構成を説明するための図である。図8は横方向からの図であり、回転軸16とロータディスク42とスラストターゲット100のみを示している。
【0009】
図8(a)は、回転軸16とスラストターゲット100とが離れた状態を示し、図8(b)、(c)は回転軸16にスラストターゲット100を取り付けた状態を示している。回転軸16にはスラストターゲット100が固定され、スラスト軸受電磁石(図示していない)と共にスラスト軸受けを構成している。この固定は、例えば、回転軸16側に形成した雄ネジのネジ溝16aとスラストターゲット100側に形成した雌ネジのネジ溝100aによって螺着させて行うことができる。
【0010】
スラストターゲット100の端面には、回転軸16に設けられたモータを構成する磁極21の位置を検出するための凹凸パターン(図8には示していない)が形成され、この凹凸パターンと対向する外周位置に回転検出センサ23が設けられている。この回転検出センサ23は、例えば対象物との間の距離を検出するインダクタンス式のギャップセンサとすることができ、凹凸パターンとの距離を検出することによって、回転軸16の回転位置を検出することによってモータの磁極位置を検出し、モータの駆動制御を行う。
【0011】
また、スラストターゲット100の端面には、スラストターゲット100の中央部分に対向する位置にスラストセンサ40が設けられ、回転軸16のスラスト方向の位置を検出し、検出した位置に基づいてスラスト軸受のコイルに供給する電流を制御している。
【0012】
図9は、スラストターゲット100に形成される凹凸パターンの一例を示している。図では、中央部分100bを凸部とし、その両側の半円形部分100cを凹部としている。この凹凸パターンは、スラストターゲット100を回転軸16に取り付ける際に、回転軸16に設けられた磁極21(N極及びS極)と位置を合わせておく。この位置合わせにより、回転検出センサ23で検出した凹凸パターンの検出信号から、磁極位置を検出することができる。図9(a),(b)は、スラストターゲット100と回転軸16の磁極21とが正しく位置合わせされた場合を示し、図9(b)は図9(a)の位置から矢印方向に回転した状態を示している。回転検出センサ23の検出信号は、凹凸パターンに応じた信号強度を出力する。
【特許文献1】特開2001−231238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記したスラストターゲットに形成した凹凸パターンをインダクタンス式センサによって磁極位置を検出するには、磁極位置と凹凸パターンの位相とを正しく位置合わせする必要がある。
【0014】
しかしながら、上記したように、スラストターゲット100は回転軸16にネジ溝を用いて螺着させる構成であるため、磁極位置と凹凸パターンの位相とをあわせるには、シム調整などを行う必要があり、スラストターゲット100の回転軸16に対するねじ込み量を調整する必要がある。
【0015】
図8(c)及び図9(c),(d)は、スラストターゲット100の凹凸パターンの位相(図中の矢印N,Sで示す)と回転軸16の磁極21とが位置ずれしている場合を示している。
【0016】
図9(c)において、スラストターゲット100の中央部分100bが破線で示す矢印の方向に位置ずれしている場合には、位置センサ23の検出信号は位置誤差を含むことになり、正しく駆動制御を行うことができない。図9(a)と図9(c)、及び図9(b)と図9(d)は、それぞれ同じ回転位置における状態を示しているが、スラストターゲットと回転軸との位置ずれによって、位置センサ23は異なる位置信号を出力することになる。
【0017】
そこで、本発明は上記課題を解決して、磁極位置を正しく検出することを目的とするものであり、センシング部材の回転軸に対する位相調整を容易とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の真空ポンプは、従来のスラストターゲットを、センシング部材と結合部材とに分割し、回転軸に対して結合部材を介してセンシング部材を取り付けると共に、センシング部材を結合部材に対して位置調整自在とすることによって、センシング部材の回転軸に対する位相調整を容易とし、磁極位置を正しく検出する。
【0019】
本発明の真空ポンプは、回転翼が形成されたロータの回転により吸排気を行う真空ポンプであり、ロータを回転支持する回転軸と、回転軸を回転駆動するモータと、モータの磁極位置を検出するためのセンシング部材を有し、回転軸とセンシング部材とを軸方向で結合する結合部材を備える。
【0020】
本発明が備える結合部材は、その一端に回転軸の端部を固定し、他端にセンシング部材を回転軸の回転方向の位相位置を調整自在とする。これによって、結合部材とセンシング部材との間の位相調整を行うことができ、センシング部材が備える検出部位とモータの磁極位相との位置合わせを可能とする。
【0021】
本発明のセンシング部材の第1の形態は、結合部材と対向する端面と反対側の端面に、回転位相に呼応して形成された段差部を有する。
【0022】
また、本発明のセンシング部材の第2の形態は、結合部材と対向する端面と反対側の端面に、回転位相に呼応して透磁率を異にする磁性部を有する。
【0023】
本発明は、センシング部材を検出するインダクタンス式センサを備える。インダクタンス式センサは、センシング部材が有する段差部に応じた信号を出力する。段差部は回転軸の磁極位置に対応付けられているため、段差部の検出信号から磁極位置を求めることができる。また、インダクタンス式センサは、センシング部材が有する透磁率に応じた信号を出力する。透磁率は回転軸の磁極位置に対応付けられているため、異なる透磁率による検出信号から磁極位置を求めることができる。
【0024】
また、本発明の結合部材は、回転軸の端部と対向する面に螺旋溝部を備える。この結合部材の螺旋溝部を、回転軸が備える螺旋溝部に螺合させることによって、回転軸の端部に螺着により取り付けることができる。なお、結合部材と回転軸との結合は、螺着に限らず嵌合など他の結合によることもできる。
【0025】
センシング部材と回転軸との位置合わせは、センシング部材と結合部材との間で行うため、結合部材と回転軸との位置合わせを考慮することなく、結合部材を回転軸に取り付けることができる。
【0026】
本発明の結合部材は、センシング部材との結合において複数の形態とすることができる。
【0027】
本発明の結合部材の第1の形態は、センシング部材の端面と対向する面に、センシング部材の凸部又は凹部と対応する凹部又は凸部を備える。この結合部材の凹部又は凸部とセンシング部材の凸部又は凹部とをそれぞれ嵌合させることによって、結合部材とセンシング部材とを結合させる。ここで、嵌合による結合は嵌合面でスライドさせることができるため、センシング部材は、結合部材に対して自在に位相を調整することができる。
【0028】
また、本発明の結合部材の第2の形態は、センシング部材の端面と対向する面にネジ穴を備える。一方、センシング部材は、円周方向に長穴を備える。センシング部材は、ネジ穴内に通すネジの長穴内での位置を調整することにより、自在に位相を調整することができる。
【0029】
結合部材の第2の形態において、円周方向の長穴は、センシング部材に代えて結合部材に設ける形態としてもよい。この形態においても、ネジ穴内に通すネジの長穴内での位置を調整することにより、自在に位相を調整することができる。
【0030】
また、本発明のセンシング部材は、回転軸のスラスト方向位置を検出するスラストターゲットと兼用することができる。
【0031】
更に、本発明の結合部材とセンシング部材とは同一素材で構成する。これにより、熱膨張による歪みや、遠心力による緩みの発生を防ぐことができ、センシング部材と結合部材との締結を確実なものとして、センシング部材が結合部材から外れることを防止することができる。
【0032】
本発明によれば、耐放射線、耐熱の効果を維持しつつ、従来のスラストターゲットの回転軸へのねじ込み量を制御することによる、磁極の位相合わせのための調整工程を不要とすることができる。
【0033】
センシング部材と結合部材とを同じ素材とすることにより、熱膨張による歪みや遠心力による緩みを低減して、センシングターゲットの信頼性を高めることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、センシング部材の回転軸に対する位相調整を容易とすることができ、磁極位置を正しく検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。
【0036】
図1は本発明の真空ポンプの概要を説明するための図である。なお、図1では、本発明の構成に関連する部分のみを示し、その他の構成については省略している。
【0037】
真空ポンプ1は、ケーシング10内にモータ駆動されるロータ13を備える。ロータ13は回転翼14を備え、ケーシング10側に設けた固定翼15に対してモータ20によって高速回転させることによって、吸気口11から吸引し排気口12から排気することによって、吸気口11に接続される真空容器(図示していない)内の気体分子の排気を行う。
【0038】
ロータ13は、ロータ13と同軸に固定された回転軸16をDCモータ等の駆動モータ20によって回転駆動される。駆動モータ20は、回転軸16に設けられた磁極21とケーシング10側に設けたコイル22によって構成される。また、回転軸16はラジアル軸受及びスラスト軸受によって非接触支持される。
【0039】
ラジアル軸受は、回転軸16を挟んで対向して配置されたラジアル軸受電磁石31と回転軸16のラジアル方向に変位を検出するラジアル位置センサ30を有し、ラジアル位置センサ30で検出した位置変位に基づいてラジアル軸受電磁石31に供給する電流を制御することによって、回転軸16がラジアル方向で所定位置となるように位置制御する。なお、図1では、ラジアル軸受は駆動モータ20を挟んで上下に2組備えている。
【0040】
また、スラスト軸受は、回転軸16の同軸の設けたロータディスク42と、このロータディスク42を挟んで上下に設けたスラスト軸受電磁石41と、回転軸16のスラスト方向の変位を検出するスラスト位置センサ40を有し、スラスト位置センサ40で検出した位置変位に基づいてスラスト軸受電磁石41に供給する電流を制御することによって、回転軸16がスラスト方向で所定位置となるように位置制御する。なお、図1では、回転軸16の下端側にセンシング部材2を設け、このセンシング部材2の端面の中央部分に対向させてスラスト位置センサ40を設置する構成を示している。
【0041】
また、このセンシング部材2の端面の外周側には、回転検出センサ23が対向して設けられる。この回転検出センサ23は、センシング部材2に設けたパターンを検出することによって、回転軸16に設けられた磁極21の位相位置を検出する。この位相位置は、駆動モータ20の駆動制御に用いられる。
【0042】
本発明の真空ポンプでは、このセンシング部材2の回転軸1への取り付けを結合部材3を介して行い、結合部材3に対するセンシング部材2の取り付け位相を調整自在とすることによって、回転軸16の磁極とセンシング部材2の磁極検出用のパターンとの位置合わせを容易とする。
【0043】
以下、本発明の結合部材について図2〜図4を用いて説明する。
【0044】
図2は本発明の真空ポンプが備える結合部材の第1の態様を説明するための図であり、図2(a)は結合部材及びセンシング部材が回転軸に未装着である状態を示し、図2(b)は結合部材及びセンシング部材が回転軸に装着された状態を示している。
【0045】
第1の態様は、結合部材とセンシング部材とを嵌合によって取り付け、位相調整を容易とする態様である。
【0046】
図2(a)において、回転軸16には、ネジ溝16aによってロータディスク42が同軸に取り付けられ、さらに、ネジ溝16aによって結合部材3が同軸に取り付けられる。このとき、結合部材3の面3Aは、螺着によってロータディスク42に密着される。
【0047】
結合部材3のロータディスク42側(図中の面3A)は、中心軸部分に軸方向に形成された開口を有し、その開口の内壁には雌ネジのネジ溝3aが形成される。結合部材3は、このネジ溝3aに回転軸16の外周面に形成された雄ネジのネジ溝16aを螺合させることによって、回転軸16に固定することができる。
【0048】
また、結合部材3のセンシング部材2側(図中の面3B)は、中心軸部分に軸方向に形成された凹部3bを有する。その凹部3bの内壁にはネジ溝は形成されず平滑面としている。
【0049】
センシング部材2の結合部材3側(図中の面2A)は、中心軸部分に軸方向に環状に突出した凸部2aが形成され、この凸部2aの環状の外壁面の外径は、結合部材3に形成された凹部3bの内壁面の内径とほぼ同径とし、凸部2aが凹部3b内に嵌め込んで嵌合可能となるように形成される。
【0050】
この嵌合による結合は、センシング部材2を結合部材3に対して回転自在とする。回転軸16の磁極21に合わせてセンシング部材2の位相位置を合わせた後は、焼きばめ等によって固定する。これによって、センシング部材2を結合部材3に対して、回転軸16を軸中心として回転させ、取り付ける位相位置を調整することができる。また、センシング部材2を結合部材3に取り付けた後は、回転軸16の回転によって外れたり、位相位置がずれることなく保持される。
【0051】
したがって、結合部材3を回転軸16に固定した後、センシング部材2を結合部材3に嵌合させる際に、センシング部材2を結合部材3に対して回転軸16を軸中心として回動させることによって、センシング部材2が備える磁極形成のためのパターンと回転軸16が備える磁極21との位相合わせを容易行うことができる。なお、図2では、センシング部材2が備えるパターンは図示していないが、パターンの位相を矢印(Nの矢印及びSの矢印)で表している。
【0052】
図2(b)は、センシング部材2を結合部材3によって回転軸16に取り付けた状態を示している。センシング部材2は結合部材3に対して嵌合によって取り付けられているため、センシング部材2を結合部材3に対して回転軸16を軸中心として回動させることができる(図中の矢印A)。センシング部材2を矢印Aの方向に回動させることによって、センシング部材2が備えるパターンと回転軸16が備える磁極21との位相を合わせることができる。この位相合わせでは、従来のようにネジによる螺着ではなく嵌合によって行っているため、位相調整が容易となる。
【0053】
センシング部材2の端部面2Bと対向して、回転軸の中心付近にはスラストセンサ40が設けられ、回転軸の中心から外側に外れた位置には回転検出センサ23が設けられる。スラストセンサ40は、センシング部材結合部材2との間の距離を検出して回転軸16のスラスト方向の位置を検出する。また、回転検出センサ23は、センシング部材2が備える磁極検出用のパターンを検出して回転軸16の回転位置を検出する。
【0054】
図3は本発明の真空ポンプが備える結合部材の第2の態様を説明するための図であり、図3(a)は結合部材及びセンシング部材が回転軸に未装着である状態を示し、図3(b)は結合部材及びセンシング部材が回転軸に装着された状態を示している。
【0055】
第2の態様は、結合部材とセンシング部材とを長穴を用いたネジ止めによって取り付け、長穴に対するネジ位置を調整することによって、位相調整を容易とする態様である。
【0056】
図3(a)において、回転軸16には、第1の態様と同様に、ネジ溝16aによってロータディスク42が同軸に取り付けられ、さらに、ネジ溝16aによって結合部材3が同軸に取り付けられる。
【0057】
このとき、結合部材3の面3Aは、螺着によってロータディスク42に密着される。また、結合部材3のロータディスク42側(図中の面3A)には、第1の態様と同様に、中心軸部分に軸方向に形成された開口を有し、その開口の内壁には雌ネジのネジ溝3aが形成される。結合部材3は、このネジ溝3aに回転軸16の外周面に形成された雄ネジのネジ溝16aを螺合させることによって、回転軸16に固定することができる。
【0058】
第2の態様では、結合部材3のセンシング部材2側(図中の面3B)には、センシング部材2を取り付けるための複数のネジ穴3cを有する。ネジ穴3cは、結合部材3の円周方向に所定角度間隔で複数設けられる。図3(c)は、複数のネジ穴3cの一例を示している。
【0059】
センシング部材2は、結合部材3と対向する面(図中の面2A)に、円周の一部からなる長穴2dが形成される。この長穴2dのセンシング部材2の中心位置からの距離は、ネジ穴3cの結合部材3の中心位置からの距離と同距離とする。これによって、センシング部材2を結合部材3の軸中心を合わせた際に、何れかのネジ穴3cと長穴2dの穴位置を合わせることができる。
【0060】
センシング部材2の長穴2dと結合部材3のネジ穴3cを合わせた状態で、センシング部材2の面2B側からネジ4を挿入してネジ止めを行う。
【0061】
ネジ4は長穴2内において長穴2の長さ分だけ移動可能であり、また、複数のネジ穴3cから使用するネジ穴を選択することで取り付け位相を調整することができるため、センシング部材2を結合部材3に対して、回転軸16を軸中心として回転させ、取り付ける位相位置を調整することができる。また、ネジ止めすることによって、センシング部材2を結合部材3に取り付けた後は、回転軸16の回転によって外れたり、位相位置がずれる異無く保持される。
【0062】
したがって、回転軸16に結合部材3を固定した後、センシング部材2を結合部材3に嵌合させる際に、センシング部材2を結合部材3に対して回転軸16を軸中心として回動させることによって、センシング部材2が備える磁極形成のためのパターンと回転軸16が備える磁極21との位相を合わせることができる。なお、図2では、センシング部材2が備えるパターンは図示していないが、パターンの位相を矢印(Nの矢印及びSの矢印)で表している。
【0063】
図3(b)は、センシング部材2を結合部材3によって回転軸16に取り付けた状態を示している。センシング部材2は結合部材3に対して、長穴により位置調整自在に取り付けられているため、センシング部材2を結合部材3に対して回転軸16を軸中心として回動させることができる(図中の矢印A)。センシング部材2を矢印Aの方向に回動させることによって、センシング部材2が備えるパターンと回転軸16が備える磁極21との位相を合わせることができる。この位相合わせでは、従来のようにネジによる螺着ではなく、長穴とネジ止めの組み合わせによって行っているため、位相調整が容易となる。
【0064】
なお、真空ポンプの部品交換やメンテナンスの際には、ロータディスク42及び結合部材3及びセンシング部材2を回転軸16から外して行う場合があり、このような場合には、センシング部材2が備える磁極検出用のパターンと回転軸16の磁極との位相を再度合わせる必要が生じる。上記した本発明の構成によれば、このような場合に、位相合わせを容易に行うことができる。
【0065】
図3(c)はセンシング部材2の下面(図2(a)に示す面2B)を示している。この面は、スラストセンサ40や回転検出センサ23と対向する面であり、回転検出センサ23によって磁極の位相を検出するためのパターンが設けられる。この磁極の位相を検出するためのパターンは、種々の形態とすることができる。
【0066】
図3(c)のセンシング部材2が備えるパターンは段差部によって形成される形態例である。図3(c)において、面2Bは凸部を形成する第1面2bと凹部を形成する第2面2cとを備え、この凸部と凹部による段差部によって磁極の位相を検出するためのパターンを形成する。なお、ここで、第1面2bを中心軸を通る一文字で形成し、第2面2cを第1面2bの両側において一段低く(回転軸16側に)形成している。
【0067】
また、センシング部材2の面2Bには、結合部材3に対して任意の位相で取り付けができるように、長穴2dが形成される。この長穴2dは、センシング部材2の面2B上の外周に、例えば瓦型の形状のざぐり穴によって形成することができる。
【0068】
なお、図3(c)において、破線で示す穴は結合部材3側に設けたネジ穴3cを示し、ネジを通すネジ穴3cの選択と、選択したネジ穴3cに対して長穴2dの位置を調整することによって、センシング部材2を任意の位相で取り付けることができる。
【0069】
図4は、センシング部材の取り付け位置の調整を説明するための図である。図4(a)〜図4(f)は、センシング部材2を図中で矢印方向に回転させて位置調整した状態を示している。図中の黒丸はネジ4を示している。
【0070】
各位相位置において、例えば、図4(a)では、第1面2bが図中で横方向の位置の位相位置にセンシング部材を取り付ける場合を示し、長穴2d内にあるネジ穴を用いてネジ4によりネジ止めする。図4(b),(c)は、図4(a)の位相位置から図面中の矢印方向に回動させた位相位置にセンシング部材2を取り付ける場合を示している。図4(b),(c)では、図4(a)の位相位置と同じネジ穴を用い、単に長穴2dにおける位置をずらせることによって取り付け位置を調整することができる。
【0071】
また、図4(d)〜図4(f)は、図4(d)の位相位置から図面中の矢印方向にさらに順に回動させた位相位置にセンシング部材2を取り付ける場合を示し、それぞれ、異なるネジ穴を用いると共に、そのネジ穴において長穴2dにおける位置をずらせることによって取り付け位置を調整している。
【0072】
次に、本発明のセンシング部材に形成するパターン例について図5〜図7を用いて説明する。このパターン例は磁極の位相を合わせるためであり、例えば、インダクタンス式センサで検出するように形成される。
【0073】
図5は、図3,4で示したセンシング部材が備えるパターン例であり、段差部によって磁極の位相を検出するものである。なお、図5に示すセンシング部材2は、回転軸側(図中の2A)を下方とし、回転位置センサ側(図中の2B)を上方として示している。
【0074】
センシング部材2は、第1面2bを中心軸を通る一文字で一段高く形成し、第2面2cを第1面2bの両側において一段低く形成される。回転位置センサ(図示していない)は、センシング部材2の中心から外側の位置に配置されるため、センシング部材2の回転に応じて、第1面2b及び第2面2cと回転位置センサとの距離が変化する。回転位置センサはこの段差部に応じた検出信号を出力する。検出信号は回転軸に取り付けた磁極の位相と対応しているため、検出信号から磁極の位相を検出することができる。
【0075】
また、図6は、図5の例と同様に、段差部によって磁極の位相を検出するパターン例である。なお、図6に示すセンシング部材2についても、回転軸側(図中の2A)を下方とし、回転位置センサ側(図中の2B)を上方として示している。
【0076】
センシング部材2は、第1面2bを一段高い半円形状で形成し、第2面2cを一段低く半円形状で形成される。回転位置センサ(図示していない)は、センシング部材2の中心から外側の位置に配置されるため、センシング部材2の回転に応じて、第1面2b及び第2面2cと回転位置センサとの距離が変化する。回転位置センサはこの段差部に応じた検出信号を出力する。検出信号は回転軸に取り付けた磁極の位相と対応しているため、検出信号から磁極の位相を検出することができる。
【0077】
なお、センシング部材2の中心位置に対応する位置にスラストセンサを配置し、回転軸のスラスト方向の位置を検出するため、中心位置において第1面2bの高さが変動しないように、何れかの高さに設定する。
【0078】
図6(a)は、第1面2bの中心位置部分を半円形状に低くして第2面2cと同じ高さとする例を示し、図6(b)は、第1面2bの中心位置部分を円形に形成する例を示し、ている。なお、図6では、中心位置の高さを第1面2bあるいは第2面2cの何れかの高さに設定しているが、センシング部材の回転に因らず回転軸のスラスト方向の位置ずれのみに因ればよいため、第1面2bあるいは第2面2c以外の一定の高さに設定してもよい。
【0079】
前記した図5,6の例は、センシング部材に段差部を設ける例であるが、回転位置センサとしてインダクタンス式センサを用いる場合には、回転によってインダクタンスが変化するパターンであれば、段差に限らず他の構成としてもよい。図7は、透磁率を異ならせることによって磁極の位相を検出するパターン例である。なお、図7に示すセンシング部材2についても、回転軸側(図中の2A)を下方とし、回転位置センサ側(図中の2B)を上方として示している。
【0080】
センシング部材2は、第1面2bと第2面2cの透磁率を異ならせることで磁極の位相を検出するパターンを形成することができる。図7では、第1面2bと第2面2cをそれぞれ半円形状に形成している。
【0081】
回転位置センサ(図示していない)は、センシング部材2の中心から外側の位置に配置されるため、センシング部材2の回転に応じて、第1面2b及び第2面2cの透磁率に応じた検出信号を出力する。検出信号は回転軸に取り付けた磁極の位相と対応しているため、検出信号から磁極の位相を検出することができる。
【0082】
上記した、結合部材とセンシング部材とは、同一の素材で形成することができる。このように、同一の素材で形成した場合には、結合部材とセンシング部材の熱膨張率を一致させることができるため、熱膨張による歪や、この歪みによって結合部材とセンシング部材の間に生じる緩みを防ぐことができ、高速回転することで生じる遠心力による影響を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の真空ポンプの概要を説明するための図である。
【図2】本発明の真空ポンプが備える結合部材の第1の態様を説明するための図である。
【図3】本発明の真空ポンプが備える結合部材の第2の態様を説明するための図である。
【図4】本発明のセンシング部材の取り付け位置の調整を説明するための図である。
【図5】本発明のセンシング部材が備える段差部によるパターン例を説明するための図である。
【図6】本発明のセンシング部材が備える段差部による他のパターン例を説明するための図である。
【図7】本発明の異なる透磁率による磁極の位相を検出するパターン例を説明するための図である。
【図8】従来のスラストターゲットによる回転位置を検出するための構成を説明するための図である。
【図9】従来のスラストターゲットに形成される凹凸パターンの一例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0084】
1…真空ポンプ、2…センシング部材、2a…凸部、2b…第1面、2c…第2面、2d…長穴、磁性3…結合部材、3a…ネジ溝、3b…凹部、3c…ネジ穴、4…ネジ、10…ケーシング、11…吸気口、12…排気口、13…ロータ、14…回転翼、15…固定翼、16…回転軸、16a…ネジ溝、20…モータ、21…磁極、22…コイル、23…回転検出センサ、30…ラジアル位置センサ、31…ラジアル軸受電磁石、40…スラストセンサ、41…スラスト軸受電磁石、42…ロータディスク、100…スラストターゲット、100a…ネジ溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転翼が形成されたロータの回転により吸排気を行う真空ポンプにおいて、
前記ロータを回転支持する回転軸と、
前記回転軸を回転駆動するモータと、
前記モータの磁極位置を検出するためのセンシング部材と、
前記回転軸と前記センシング部材とを軸方向で結合する結合部材とを備え、
前記結合部材は、その一端に回転軸の端部を固定し、他端にセンシング部材を回転軸の回転方向の位相位置を調整自在とし、
前記結合部材とセンシング部材との間の位相調整によって、センシング部材が備える検出部位とモータの磁極位相との位置合わせを可能とすることを特徴とする、真空ポンプ。
【請求項2】
センシング部材は、前記結合部材と対向する端面と反対側の端面に、回転位相に呼応して形成された段差部を有することを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
センシング部材は、前記結合部材と対向する端面と反対側の端面に、回転位相に呼応して透磁率を異にする磁性部を有することを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記センシング部材を検出するインダクタンス式センサを備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記結合部材は、前記回転軸の端部と対向する面に螺旋溝部を備え、
前記回転軸は、前記結合部材の螺旋溝部と対応する螺旋溝部を備え、
前記結合部材は回転軸の端部に螺着により取り付けられることを特徴とする、請求項1乃至4の何れか一つに記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記結合部材は、前記センシング部材の端面と対向する面に凹部又は凸部を備え、
前記センシング部材は、前記結合部材の凹部又は凸部と対応する凸部又は凹部を備え、 前記センシング部材は、結合部材の端部と前記凹部及び凸部の嵌合により位相調整自在とすることを特徴とする、請求項1乃至5の何れか一つに記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記結合部材は、前記センシング部材の端面と対向する面にネジ穴を備え、
前記センシング部材は、円周方向に長穴を備え、
前記センシング部材は、前記ネジ穴内に通すネジの長穴内での位置により位相調整自在とすることを特徴とする、請求項1乃至5の何れか一つに記載の真空ポンプ。
【請求項8】
前記センシング部材は、回転軸のスラスト方向位置を検出するスラストターゲットであることを特徴とする、請求項1乃至7の何れか一つに記載の真空ポンプ。
【請求項9】
前記結合部材及び前記センシング部材を同一素材で構成したことを特徴とする、請求項1乃至8の何れか一つに記載の真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−132265(P2007−132265A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325881(P2005−325881)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】