説明

真空乾燥方法

【目的】 水洗い脱水処理後の皮革製品を、収縮や硬化を発生させることなく、短時間で強制的に乾燥することが可能な真空乾燥方法を提供する。
【構成】 チャンバ1の収容空間10に皮革衣料3を収容し、遠赤外線パネルヒータ5の駆動とエアー供給用ダクト6からの除塵除湿加熱された管理エアーの供給と撹拌用ファン7の駆動によって収容空間を温度Tcまで加熱する加熱手順と、管理エアーの供給を停止させて遠赤外線パネルヒータ5を制御して温度Tcと上限温度Tmの間に保つ蒸らし手順と、真空ポンプ44で収容空間10内のエアーを排出させる減圧排気手順を繰り返し実行する。上限温度Tmは皮革衣料3に収縮や硬化が発生しない範囲で定められており、各サイクルの蒸らし手順で収容空間10内に充満した水蒸気は減圧排気手順で過飽和状態になって外部へ排出される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は真空乾燥方法に係り、通常の洗濯物の乾燥だけでなく、特に皮革製品を水洗い脱水処理した後の乾燥工程に適用され、乾燥時間の飛躍的な短縮を図ると共に、乾燥後の皮革製品に収縮や硬化等が発生しない、自然な仕上げを行うことが可能な乾燥方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から、クリーニング業界では各種の洗濯乾燥方式が採用されているが、大別すると、洗濯については通常の水洗いによる場合とパークロールエチレンや石油系溶剤を用いる場合があり、また乾燥に関しては熱風乾燥させる場合と自然乾燥による場合がある。そして、クリーニング工場では、依頼を受けた衣料をその繊維材料や形態や縫製態様等の属性に応じて区分し、その区分された各衣料を経験的判断に基づいて多種多様に用意されている洗濯乾燥工程の内の最適な処理工程へ廻す。
【0003】ところで、近年では、革の特徴(柔軟性強靱性耐久性通気性保温性心地よい感触等)を生かした皮革製の防寒衣料やファッション衣料が多く利用されるようになり、それら衣料の利用シーズンの前後になると極めて多くの皮革衣料がクリーニングに集中的に出される傾向があるが、クリーニング工場では、次のような理由から皮革衣料の洗濯乾燥方式に関して特別な取扱いを余儀なくされている。
【0004】皮革衣料の製革原料には、牛羊等の哺乳類、鰐や蛇等の爬虫類、サメ等の魚類のように様々な種類があるが、一般的に、■ 熱に弱く、高熱を受けると収縮硬化する(例えば、牛豚の皮の熱変形温度は59℃、サメ皮は49℃と低温であり、また収縮率に関しても、部位によって異なるが5〜25%と非常に大きい。)、■ 染色堅牢度が弱く、洗浄することにより減色し易い、■ 皮質が一定でなく、一体の皮革でも部位によって組織が異なるために、均一な乾燥が難しい、■ 皮革は表皮と銀面層と網様層とからなるが、銀面層と網様層に水分が残留し易く、それが原因となってカビが発生するというような特殊性を有している。従って、皮革衣料の洗濯工程については、染色堅牢度の問題を考慮する必要がある場合には脱色作用の影響が少ない水を用い、乾燥時の温度を考慮する場合には揮発温度が低いパークロールエチレンや石油系溶剤等を用いるようにしており、乾燥工程に関しては、皮革衣料が熱に極めてデリケートであることから通常の熱風乾燥方式を採用できず、殆どは自然乾燥によっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記から明らかなように、皮革衣料の洗濯乾燥においては、水洗いと自然乾燥という一般的な方式が製品の特性に対して最も安全で良好な仕上がり結果が得られる方式であるといえる。また、洗濯工程で石油系溶剤等を用いた場合には、その蒸気が環境汚染を発生させるために常に冷却用熱交換器等で液化回収しなければならず、その観点からも洗濯方式は水洗いによることが望ましい。
【0006】ところで、水洗いと自然乾燥による場合には、水洗い後の皮革衣料をある程度脱水処理して室内に吊り下げておき、自然の温度湿度風量状態で乾燥させることになるが、次のような問題点が指摘されている。
(1) 室内の温度と湿度と気圧は必ずしも一定ではなく、乾燥効率を上げるべく室内の湿度を低下させるには空気の流通が不可欠であるが、強制通風を行うと皮革の表面部分だけで水分の蒸発が促進され、湿潤状態にある内部の成層との関係でバランスがとれず、乾燥後の製品に収縮や硬化(こわみ)が発生する。
(2) 自然乾燥による場合は季節や天候に大きく左右されるため、通常は2〜3日経過した時点で手の感触によって乾き具合いをみて経験的に乾燥が完了したか否かを判断しているが、皮革製品には多種多様なものがあり経験的判断が必ずしも正確であるとは限らず、網様層等に水分が残留していると後にカビが発生する原因となる。
(3) 上記のように、皮革製衣料は利用シーズンに集中的してクリーニングに出される傾向があり、また自然乾燥の進行は極めて緩慢であるために、皮革衣料の乾燥だけのための専用スペースを大きく確保しておかねばならず、クリーニング工場内での設備面積を非常に大きくとり、スペースの利用効率が悪くなる。
【0007】そこで、本発明は、皮革製品等を水洗い脱水処理した後の乾燥時間を飛躍的に短縮させ、乾燥後の製品に収縮や硬化等を発生させずに自然な仕上がりを得ることができる真空乾燥方法を提供し、それによって前記の各問題点を解消させることを目的として創作された。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、真空乾燥方法において、乾燥対象物の収容空間を有したチャンバの内部に、輻射面を乾燥対象物の収容部側へ向けた赤外線ヒータと、エアー撹拌用ファンと、管理エアー供給部と、収容空間の温度を検出する温度センサを装備せしめると共に、前記チャンバの収容空間と外部を通気状態と非通気状態に切換えるバルブと、前記管理エアー供給部に温度と湿度を管理したエアーを供給するエアー供給手段と、前記収容空間のエアーを外部へ強制的に排出してその収容空間の気圧を減圧させる減圧手段を設け、乾燥対象物を収容空間へ収容させて前記チャンバを密閉した後、前記バルブを通気状態にして前記の赤外線ヒータとエアー撹拌用ファンとエアー供給手段を起動させて前記収容空間を乾燥対象物の属性に基づいて決定される上限温度以下の所定温度まで加熱する加熱手順と、前記温度センサが前記所定温度を検出した時点で前記バルブを非通気状態に切換えると共に前記エアー供給手段の駆動を停止させ、前記赤外線ヒータを制御して収容空間の温度を前記上限温度以下の範囲で一定時間保持させる蒸らし手順と、前記蒸らし手順での一定時間が経過した後に、前記赤外線ヒータの駆動を停止させると共に前記減圧手段を起動させ、前記収容空間のエアーを外部へ排出する減圧排気手順を第1サイクルとして実行し、以降、前記バルブを非通気状態に保持して前記と同様の手順からなるサイクルを繰り返し実行することを特徴とした真空乾燥方法に係る。
【0009】
【作用】本発明の真空乾燥方法では、チャンバ内に収容された乾燥対象物に対して、加熱手順→蒸らし手順→減圧排気手順を繰り返し、乾燥対象物から段階的に湿分を除去してゆく。加熱手順においては、チャンバの収容空間への管理エアーの供給と赤外線の輻射熱によって加熱を行い、また全体の温度と湿度を均一化するために撹拌用ファンで撹拌を行う。乾燥対象物の湿分はこの段階から徐々に蒸発を開始するが、この加熱は収容空間が乾燥対象物の属性に基づいて決定される上限温度以下の所定温度になるまで行われる。ここに、温度と湿度が管理されたエアーを供給するのは、赤外線の輻射熱だけでは収容空間の温度を初期状態(第1サイクル)又は減圧排気後の低温状態(第2サイクル以降)から効率的に上昇させることができないためであり、また相対湿度を小さくしておくことで乾燥対象物から蒸発する蒸気量を大きくできるからである。尚、第2サイクル以降では減圧状態にある収容空間を管理エアーで充填することになる。
【0010】蒸らし手順では、管理エアーの供給を停止すると共にバルブを非通気状態とし、撹拌を続行しながら赤外線の輻射を制御することにより、収容空間の温度を乾燥対象物の属性によって定まる上限温度以下の範囲に一定時間保持させる。乾燥対象物からの湿分の蒸発は前記の加熱手順から継続しているが、乾燥対象物の温度は表面と内部や表層と内層で異なり、加熱手順を前記の上限温度を超えて実行すると表面や表層のみが過乾燥状態になり、乾燥対象物が熱にデリケートなものである場合には復元不能な収縮硬化が発生してしまう。この蒸らし手順では、収容空間の温度を上限温度に近い一定範囲に保って蒸らし状態とし、高湿度のエアーによって熱の移動効率を大きくして乾燥対象物全体の温度を均一化すると共に表層と内層との間での湿分の移動を促進する。従って、部分的な過乾燥を防止しながら乾燥対象物全体からの湿分の均一な蒸発を促進させることが可能になる。また、この蒸らし手順では、バルブが非通気状態とされるために収容空間の圧力が上昇し、相対湿度が低下して液分の蒸発効率は高くなる。
【0011】減圧排気手順では、赤外線の輻射を停止させると共に収容空間のエアーを外部へ強制排出させるが、温度の低下と減圧によって収容空間のエアーは飽和蒸気圧状態となり、霧状に結露して外部へ放出される。尚、エアー撹拌用ファンはエアーが減圧排気されるとその実行性がなくなるため、この手順では停止させるようにしてもよい。
【0012】
【実施例】以下、本発明の真空乾燥方法の実施例を図面を用いて詳細に説明する。尚、この実施例では、皮革衣料を水洗い脱水処理した後に強制乾燥を行う場合について説明する。先ず、図1は本発明の方法が適用される真空乾燥装置におけるチャンバの断面図及びその収容空間の温度圧力の制御系を示し、また図2と図3はそれぞれチャンバの正面図と図1におけるY-Y矢視断面図を示す。各図において、1はチャンバ、2は多数の皮革衣料(乾燥対象物)3がハンガーを用いて横架棒2aに吊り下げられように構成した台車であり、その台車2はチャンバ1の下側に設けられたガイドテーブル4の上を滑動し、チャンバ1の前扉1aを開放した状態で出し入れできるようになっている。また、前扉1aには透明樹脂板で封止された窓1bが構成されており、外部からチャンバ1の内部を確認できるようになっている。そして、チャンバ1の両側壁の内側には、スチーム加熱方式の遠赤外線パネルヒータ5がその輻射面を内部に向けて設置されており、その下側に多数のノズルが形成されているエアー供給用ダクト6が両側壁に沿って横架されており、更にその下側に相当するガイドテーブル4の両側に撹拌用ファン7が設置されている。尚、図1において、8は温度センサ、9は湿度センサを示し、それぞれチャンバ1内の収納空間10の適所に配置されており、また11は圧力メータであり、収納空間10の内圧が異常な高圧又は低圧になったときに自動的にチェック弁(図示せず)が作動して許容圧へ戻すようになっている。
【0013】チャンバ1の壁部には、前記の遠赤外線パネルヒータ5へ連結されたスチームパイプ21a,21bと、エアー供給用ダクト6へ連結されたエアーパイプ22と、減圧排気用のエアーパイプ23と、調整排気のためのエアーパイプ24とがそれぞれ適所に貫設されており、各パイプ21a,22,23,24はそれぞれ電磁弁31,32,33,34に接続されている。尚、図1では便宜上チャンバ1の背面の壁部に貫設されているように表現されているが、各パイプ21a,21b,22,23,24は配管や排気効率上の問題を考慮して最適位置に貫設されている。また、各電磁弁31,32,33,34を介した供給系や排出系は、次のように構成されている。
■ 遠赤外線パネルヒータ5に係る供給/排出系については、スチーム供給源(図示せず)からのスチームが電磁弁31からスチームパイプ21aを介して遠赤外線パネルヒータ5へ入力され、遠赤外線パネルヒータ5を通じたスチームはスチームパイプ21bを介してドレン側へ排出される。
■ 管理エアー供給系については、供給されたエアーを除塵フィルタ41を介して除湿器42へ送り、ラインヒータ43で所定温度に加熱した後、電磁弁32からエアーパイプ22を介してエアー供給用ダクト6へ送られる。尚、ラインヒータ43の加熱源にもスチームを用いており、そのスチームは電磁弁43aを介してラインヒータ43のラジエータ部へ送られ、使用後のスチームはドレン側へ排出される。
■ 減圧排気系については、エアーパイプ23に接続された電磁弁33が真空ポンプ44に接続されており、真空ポンプ44が吸引したエアーをドレン側へ排気させるだけである。
■ 調整排気系については、エアーパイプ24に接続された電磁弁34を介して収容空間10内のエアーをドレン側へ排気させるだけである。
【0014】一方、温度圧力の制御系はコントローラ51を中心に構成されており、コントローラ51は温度センサ8と湿度センサ9の検出信号と内蔵タイマのカウント値を参照しながら、予め格納されているプログラムに基づいて各電磁弁31,32,33,34及び43aを開/閉制御する。
【0015】次に、以上の構成を有した本実施例の真空乾燥装置の動作状態を、図4に示す動作フローチャート及び図5に示す収容空間10の温度変化グラフと前記■〜■の各系の作動タイミングの対応図を参照しながら説明する。先ず、水洗いがなされて所定の脱水処理が施された皮革衣料3が搬入されると、チャンバ1の前扉1aを開放して台車2を引き出し、各皮革衣料3をハンガーに掛けた状態で台車2の横架棒2aに吊り下げ、台車2をチャンバ1内に戻して前扉1aを封鎖する。そして、皮革衣料3の皮革の種類や形態等の属性及びその個数や含水重量等を考慮してコントローラ51にプログラムの選択入力を行った後、乾燥開始の指示を行う。
【0016】前記の開始指示があると、コントローラ51は先ず電磁弁34を開設定して収容空間10と外部を通気状態にし、その状態で電磁弁32と電磁弁31を開設定すると共に撹拌用ファン7を起動させる(S1〜S4)。これにより、前記の管理エアー供給系で除塵、除湿、加熱されたエアーがエアー供給用ダクト6のノズルを通じて収容空間10内に供給され、また遠赤外線パネルヒータ5にスチームが通気されて収容空間10内に遠赤外線が輻射され、収容空間10内のエアーは撹拌されつつ上昇する。
【0017】従って、湿潤した皮革衣料3は加熱された管理エアーから熱量の供給を受けると共に遠赤外線の輻射熱で加熱されて水分を蒸発するようになるが、コントローラ51は温度センサ8の出力で収容空間10の温度を監視しており、選択されたプログラムで予め設定されている所定温度Tcに達した状態で加熱手順を完了させ、電磁弁34と電磁弁32を閉設定にして収容空間10を外部と完全に遮断すると共に、管理エアーの投入も停止させる(S5〜S7)。この場合、皮革衣料の属性によって乾燥時に皮革が収縮や硬化が発生しない上限温度Tmが経験的に知られているが、前記の所定温度Tcはそれよりも低い温度であり、且つ上限温度Tmを超えない範囲で温度制御が可能な温度値に設定される。具体的には、皮革の場合、前記の上限温度Tmは一般的に35℃乃至60℃であるが、例えば、本実施例での皮革衣料3に係る皮革のTmが55℃で温度制御が±5℃の範囲で可能であれば、Tcは50℃に設定される。
【0018】次に、加熱手順が完了して電磁弁34と電磁弁32を閉設定した状態で、コントローラ51は温度センサ8から検出される温度を参照しながら電磁弁31を開/閉制御し、遠赤外線パネルヒータ5からの輻射熱量を制御して収容空間10内の温度を一定時間CtだけTmとTcの間に保つ(S8)。即ち、一定時間Ctだけ蒸らし手順を実行させる。この蒸らし手順の実効性は次のように説明できる。前記の加熱手順では温度をTcまで上昇させているが、撹拌用ファン7による加熱エアーの撹拌を行っていても、遠赤外線の輻射条件が異なる皮革衣料3の外側と内側や皮革の表層と内層、更には含水量が異なる縫製部分と非縫製部分とでは温度差が発生しており、それぞれの部分や局所で水分蒸発の進行度合いが異なっている。この手順では、密閉した収容空間10内の温度を前記の範囲に保ちながら、更に水分の蒸発が進行し蒸気を多く含んでいる撹拌エアーによって熱の移動効率を大きくし、部分的又は局部的な過乾燥を防止しながら皮革衣料3全体の温度を均一に上昇させて水分の蒸発を促進させる。また、副次的ではあるが、収容空間10が密閉されるために内圧が上昇して相対湿度が低下するため、その意味でも水分の蒸発が促進されることになる。尚、蒸らし手順の実行時間Ctは、皮革衣料3の属性や皮革衣料3全体の当初の含水量やサイクルの実行回数等を考慮して経験的に決定されており、前記のプログラムに制御データとして設定されている。
【0019】前記の蒸らし手順が時間Ctだけ実行されると、コントローラ51は直ちに電磁弁31を閉設定すると共に撹拌用ファン7を停止させ、湿度センサ9からその段階における収容空間10内の湿度Huを検出した後、電磁弁33を開設定することにより真空ポンプ44側に収容空間10内のエアーを排気させ、同空間10内を減圧状態にする(S9〜S13)。この時、加熱蒸らし手順を通じて収容空間10内は高湿度状態になっており、電磁弁31の閉設定に基づく赤外線輻射量の減衰による温度の低下、及び電磁弁33の開設定による気圧の低下に伴って一挙に飽和蒸気圧状態へ移行し、収容空間10内のエアーに含まれている蒸気は霧状に結露して外部へ放出される。また、この時の排気完了の目安については温度センサ8から検出される温度によって管理しており、蒸らし手順で加熱状態にあった高湿度のエアーが放出されることによって収容空間10の温度は徐々に低下し、所定の管理温度Toになった時点で減圧排気手順が完了する(S13,S14)。尚、この減圧排気手順では、収容空間10の容積やその手順の実行時間にもよるが、例えば、収容空間10の容積が5m3で実行時間を約9分としても収容空間10内の減圧度を約720〜730torr程度の低真空状態にするだけで十分であり、収容空間10内の結露した水分の殆どを排出させることができる。
【0020】上記の第1サイクルが完了した後、コントローラ51は前記の加熱手順と蒸らし手順と減圧排気手順を繰り返して実行させる(S16→S2〜S16)。但し、その第2サイクル以降の繰り返しにおいては、電磁弁34を閉設定にしたまま実行し、ステップS6については不要とされる。即ち、各サイクルの減圧排気手順が完了した時点では収容空間10内が低真空状態になっているが、次のサイクルの開始時点で電磁弁32を開設定にすると、管理エアー供給系から除塵除湿加熱されたエアーがエアー供給用ダクト6のノズルを通じて収容空間10内へ自動的に吸引供給されて充満する。
【0021】そして、第2サイクル以降における各手順の実行段階でも同様の作用によって皮革衣料3に含まれている水分を除去してゆくため、当然に1サイクル毎に皮革衣料3の含水量は減少し、減圧排気手順へ移行する前のステップS12で検出される収容空間10内の湿度データHuは徐々に低下してゆくことになるが、一定回数のサイクルが実行されると皮革衣料3の乾燥が完了したと推定される湿度閾値Ha以下になる。そこで、本実施例ではコントローラ51が各サイクル毎にステップS12で得られた湿度データHuと温度閾値データHaとを比較し、Ha≧Huとなったサイクルの減圧排気手順の完了時点で繰り返しを停止させ、電磁弁32を開設定して前記の管理エアーを減圧状態になっている収容空間10内へ投入し、内圧を外気と同等に戻して乾燥工程を終了する(S16→S17)。尚、最終的に投入される管理エアーは加熱手順におけるような加熱エアーである必要はなく、コントローラ51は電磁弁43aを閉設定することによりほぼ常温レベルに近いエアーにして収容空間10内へ投入する(S17)。
【0022】以上のようにして、本実施例に係る真空乾燥装置は、皮革衣料3を収縮や硬化が発生しない条件で均一に乾燥させて自然な仕上がりが得られるるようにしているが、皮革衣料3の含水量や分厚さや縫製態様、含水量が多い時と乾燥が進行した時の皮革の温度に対する性質等を考慮すると、単に一律のTmやTcで管理するだけでなく、各サイクル内における各手順の時間比率や乾燥の進行に伴って各サイクルの所要時間や各サイクルでの最高温度等を変化させた方が適切な場合がある。
【0023】具体的には、皮革衣料3の乾燥に係る従来からの経験や実験に基づいて、皮革衣料3の各種条件に応じて次のような制御がなされることが望ましい。
(1) 上記の図5のグラフに示した制御は、皮革衣料3が分厚く、初期含水量も多い場合に適用される。この場合、加熱手順と蒸らし手順の時間帯を減圧排気手順の時間帯より相対的に長く設定しており、特に蒸らし手順で熱を皮革衣料3の内部まで深く浸透させるようにし、各サイクル毎により多くの水分を除去できるようにして乾燥時間全体の短縮を図っている。
(2) 図6に示される制御は、皮革衣料3の初期含水量はそれほど多くないが、形態や縫製が複雑であり、長時間の加熱や蒸らしが収縮や硬化を発生させてしまうような場合に適用される。この場合、図5の場合とは逆に加熱手順と蒸らし手順の時間帯を減圧排気手順の時間帯より相対的に短く設定しており、加熱状態での皮革素材への影響をできるだけ小さくし、減圧排気手順を緩やかに長時間かけて行うことで除湿効率は確保させるようにしている。
(3) 図7(A)に示される制御は、皮革衣料3の初期含水量が多く、且つその皮革が熱に対して終始デリケートな性質を有している場合に適用される。この場合、各サイクルの所要時間を繰り返し回数に対応させて徐々に短くしてゆき、前半のサイクルでは皮革衣料3の内部まで熱を確実に浸透させて水分の除去率を大きくするが、乾燥が進行するに伴って加熱状態での皮革素材の影響を少なくしながら細部の乾燥を穏やかに行うようにしている。
(4) 図7(B)に示される制御は、皮革衣料3が薄手のもので初期含水量はそれほど多くないが、皮革衣料3の造りが複雑であったり、部分的にデリケートな場合や、含水時に熱に弱い皮革が用いられている場合に適用される。この場合、図7(A)の場合とは逆に各サイクルの所要時間を繰り返し回数に対応させて徐々に長くしてゆき、前半のサイクルでは表面から少しずつ水分を除去して皮革内での水分の移動を促してゆき、乾燥がある程度進行した段階で全体を均一に乾燥させるようにしている。
(5) 図8(A)に示される制御は、皮革衣料3の皮革が含水量の多い状態では熱に対してそれほどデリケートでないが、乾燥が進行した状態でデリケートになるような場合に適用される。この場合、サイクルの繰り返し回数に対応させてTmとTcを徐々に低下させてゆき、前半のサイクルでは皮革衣料3の内部まで熱を確実に浸透させて水分の除去率を大きくし、乾燥が進行した段階では低い温度での加熱と蒸らしを行うようにし、乾燥時間全体の短縮を図りながら皮革衣料3に収縮や硬化が発生しない自然な仕上がりを実現する。
(6) 図8(B)に示される制御は、皮革衣料3の皮革が含水量の多い状態で熱に対してデリケートであり、乾燥が進行した状態ではそれほどデリケートでないような場合に適用される。この場合、図8(A)の場合とは逆にサイクルの繰り返し回数に対応させてTmとTcを徐々に上昇させてゆき、前半のサイクルでは低い温度での加熱と蒸らしを行うようにして緩やかに水分を除去するようにし、乾燥が進行した段階で皮革衣料3の内部まで熱を確実に浸透させて、加熱による影響が発生しないようにしながら乾燥時間全体の短縮を実現する。
(7) 図9に示される制御は、図8(A)に示される制御において皮革衣料3の乾燥完了時の温度を考慮したものであり、この場合にはサイクルの繰り返し回数に対応させてToを徐々に常温Tnへ近付けるようにし、仕上がり時に余熱の低下を待たずに直ちに皮革衣料3をチャンバ1から取り出して包装できるようにする。
尚、以上の各制御は、コントローラ51にそれぞれの具体的条件に対応した手順制御プログラムを用意しておき、乾燥動作の開始前にそれらのプログラムの一つを選択する指示を与え、コントローラ51が選択されたプログラムに基づいて各サイクルを実行することで実現できる。
【0024】ところで、図5から図9の何れの制御を行う場合においても、多量の皮革衣料3を乾燥させようとした場合には、加熱手順や蒸らし手順において皮革衣料3からの水分の蒸発度合いを正確に制御することは困難であり、収容空間10が過飽和状態になることがある。そして、そのような過飽和状態では、高湿度のエアーが熱伝導媒体として皮革衣料3に過剰に熱量を与え、熱にデリケートな皮革衣料3は収縮や硬化を発生してしまう。そこで、予期しない過飽和状態が温度センサ8と湿度センサ9の検出データから確認された時点でコントローラ51が通常の制御状態に割込みをかけ、電磁弁34を断続的に開設定して収容空間10内の湿度を低下させるようにする。そのように、通常の制御プログラムによる不完全さを補完することで、常に安全な乾燥が図れ、安定した仕上がり結果が得られる。
【0025】尚、本実施例では、遠赤外線パネルヒータ5やラインヒータ43でのエアーの加熱にスチームを用いているが、これはクリーニング工場ではスチームを多目的に利用していることが多く、それを熱源として流用すれば電力消費を節減できるためであり、スチームがない場合にはそれらのヒータ5,43は電気加熱方式のものであってもよい。また、本実施例では、水洗い後の皮革衣料3を対象とした乾燥方法について説明したが、洗濯工程で石油系溶剤等を用いた場合についても適用でき、その場合にはTmやTcを水洗いの場合よりも低い温度に設定できると共に、全体の乾燥所要時間も短くできる。更に、最近では、大きな縫いぐるみ製品のクリーニングが依頼される場合があるが、本実施例の乾燥方法はそのような製品の乾燥にも極めて有効であり、従来では何日も自然乾燥させねばならなかった製品も数時間程度で強制乾燥させることが可能であり、仕上がり具合も皮革衣料3の場合と同様に元の自然な状態に保持することができる。
【0026】
【発明の効果】本発明の真空乾燥方法は、以上の構成を有していることにより、次のような効果を奏する。請求項1の発明は、乾燥対象物をその属性によって定まる上限温度以下の温度で極めて効率良く均一に強制乾燥させることができ、乾燥対象物の自然さを損なうことなく乾燥時間の大幅な短縮を可能にする。特に、皮革製品を水洗いした後の乾燥工程に適用され、従来の自然乾燥方式と比較して遥かに短時間で均一に乾燥させると共に、収縮や硬化が発生せず、銀面層や網様層に残留した水分によってカビが発生するようなことのない仕上がり結果を得ることが可能になる。請求項2の発明は、乾燥完了状態の明確な確認を可能にする。請求項3の発明は、遠赤外線の波長帯域が液分に吸収されやすい性質を利用し、輻射熱による効率的な加熱を実現する。請求項4の発明は、クリーニング工場等の既存のスチーム供給設備を利用して省エネルギ化を実現する。請求項5の発明は、管理エアーを除塵して供給するため、仕上がり製品の汚れが防止できる。請求項6の発明は、減圧排気手順ではエアー撹拌用ファンの実効性がなくなるため、それを停止させて電力消費を低減化する。請求項7の発明は、皮革製品の収縮や硬化が35℃乃至60℃より高温で発生するという一般的な経験則に基づき、加熱蒸らし手順での温度をそれ以下に設定することで皮革製品についての良好な乾燥仕上がり結果が得られるようにする。請求項8乃至請求項10の発明は、乾燥対象物の湿潤度合いや形態や素材特性等に応じて、1サイクル内での各手順の実行時間比率や各サイクルの実行時間や蒸らし手順での最高温度を変化させることにより、更に良好な乾燥仕上がり結果を得ることを可能にする。請求項11の発明は、加熱手順又は蒸らし手順で収容空間が過飽和状態になって乾燥対象物に過剰な熱供給がなされることを適応的に防止し、常に安定した乾燥仕上がり結果を得ることを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の真空乾燥方法の実施例に係る真空乾燥装置のチャンバの断面図及びその内部の温度圧力の制御系を示す図である。
【図2】真空乾燥装置の正面図である。
【図3】図1におけるY-Y矢視断面図である。
【図4】真空乾燥装置の動作状態を示すフローチャートである。
【図5】真空乾燥装置における収容空間の温度変化を示すグラフ(皮革衣料の初期含水量が多い場合)と、管理エアー供給と遠赤外線輻射と撹拌用ファンと真空ポンプの作動タイミングの対応図である。
【図6】皮革衣料の初期含水量はそれほど多くないが、形態や縫製が複雑である場合に適用される制御に基づく収容空間の温度変化を示すグラフである。
【図7】皮革衣料の初期含水量が多く、且つその皮革が熱に対して終始デリケートな性質を有している場合に適用される制御(A)、及び皮革衣料が薄手のもので初期含水量はそれほど多くないが、皮革衣料の造りが複雑であったり部分的にデリケートな場合や、含水時に熱に弱い皮革が用いられている場合に適用される制御(B)に基づく収容空間の温度変化を示すグラフである。
【図8】皮革衣料の皮革が含水量の多い状態では熱に対してそれほどデリケートでないが、乾燥が進行した状態でデリケートになるような場合に適用される制御(A)、及び皮革衣料の皮革が含水量の多い状態で熱に対してデリケートであり、乾燥が進行した状態ではそれほどデリケートでないような場合に適用される制御(B)に基づく収容空間の温度変化を示すグラフである。
【図9】図8(A)に示される制御において皮革衣料の乾燥完了時の温度を考慮した場合の制御に基づく収容空間の温度変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1…チャンバ、1a…前扉、1b…窓、2…台車、2a…横架棒、3…皮革衣料、4…ガイドテーブル、5…遠赤外線パネルヒータ、6…エアー供給用ダクト、7…撹拌用ファン、8…温度センサ、9…湿度センサ、10…収容空間、11…圧力メータ、21a,21b…スチームパイプ、22,23,24…エアーパイプ、31,32,33,34,43a…電磁弁、41…除塵フィルタ、42…除湿器、43…ラインヒータ、44…真空ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 真空乾燥方法において、乾燥対象物の収容空間を有したチャンバの内部に、輻射面を乾燥対象物の収容部側へ向けた赤外線ヒータと、エアー撹拌用ファンと、管理エアー供給部と、収容空間の温度を検出する温度センサを装備せしめると共に、前記チャンバの収容空間と外部を通気状態と非通気状態に切換えるバルブと、前記管理エアー供給部に温度と湿度を管理したエアーを供給するエアー供給手段と、前記収容空間のエアーを外部へ強制的に排出してその収容空間の気圧を減圧させる減圧手段を設け、乾燥対象物を収容空間へ収容させて前記チャンバを密閉した後、前記バルブを通気状態にして前記の赤外線ヒータとエアー撹拌用ファンとエアー供給手段を起動させて前記収容空間を乾燥対象物の属性に基づいて決定される上限温度以下の所定温度まで加熱する加熱手順と、前記温度センサが前記所定温度を検出した時点で前記バルブを非通気状態に切換えると共に前記エアー供給手段の駆動を停止させ、前記赤外線ヒータを制御して収容空間の温度を前記上限温度以下の範囲で一定時間保持させる蒸らし手順と、前記蒸らし手順での一定時間が経過した後に、前記赤外線ヒータの駆動を停止させると共に前記減圧手段を起動させ、前記収容空間のエアーを外部へ排出する減圧排気手順を第1サイクルとして実行し、以降、前記バルブを非通気状態に保持して前記と同様の手順からなるサイクルを繰り返し実行することを特徴とした真空乾燥方法。
【請求項2】 チャンバの収容空間に湿度センサを設けておき、前記湿度センサの指示値から乾燥対象物の乾燥度合いを確認することとした請求項1の真空乾燥方法。
【請求項3】 赤外線ヒータが遠赤外線輻射パネルによるものである請求項1又は2の真空乾燥方法。
【請求項4】 遠赤外線ヒータ又は/及びエアー供給手段がスチームを加熱源としたものである請求項1、2又は3の真空乾燥方法。
【請求項5】 エアー供給手段が除塵フィルタを有し、除塵された管理エアーを供給するものである請求項1、2、3又は4の真空乾燥方法。
【請求項6】 減圧排気手順において、エアー撹拌用ファンを停止させることとした請求項1、2、3、4又は5の真空乾燥方法。
【請求項7】 乾燥対象物が皮革製品である場合に、蒸らし手順での上限温度を35℃乃至60℃とした請求項1、2、3、4、5又は6の真空乾燥方法。
【請求項8】 加熱手順と蒸らし手順と減圧排気手順の各実行時間の比率を、乾燥対象物の湿潤度合い又は/及び乾燥対象物の形態に応じて変更設定することとした請求項1、2、3、4、5、6又は7の真空乾燥方法。
【請求項9】 各サイクルの所要時間を、乾燥対象物の湿潤度合い、その素材特性又は/及びその形態に応じて時系列的に変化させることとした請求項1、2、3、4、5、6、7又は8の真空乾燥方法。
【請求項10】 各サイクルにおける蒸らし手順での最高温度を、乾燥対象物における湿潤度状態と素材の温度特性に応じて時系列的に変化させることとした請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9の真空乾燥方法。
【請求項11】 加熱手順又は蒸らし手順において、温度センサと湿度センサの指示値に基づいてチャンバの収容空間が蒸気の過飽和状態であることが確認された場合に、バルブを適宜通気状態へ切換えることとした請求項2、3、4、5、6、7、8、9又は10の真空乾燥方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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