説明

真空吸着盤

【課題】種々の寸法・形状を有する多品種の被吸着物について加工および搬送が効率的に実施できる真空吸着盤を提供すること。
【解決手段】真空引きにより吸着面に被吸着物を固定する真空吸着盤であって、被吸着物が吸着する吸着面を構成し、かつ多数の吸着穴が設けられた吸着面部材と、前記吸着面部材の吸着面と平行な面に接合し、かつ前記吸着穴と連通し、前記吸着穴の直径より小さい直径を有する多数の小径真空吸着穴が設けられた小径真空吸着穴部材と、前記小径真空吸着穴部材と接合し、真空経路形成のための通気路及び吸引路が設けられた支持部材とを含み、前記小径真空吸着穴部材の厚みが、前記吸着面部材の厚みより厚く、5mm〜25mmであり、前記小径真空吸着穴の直径が、0.064mm〜0.25mmであり、前記吸着穴の総面積が、前記吸着面の面積に対して、30%〜70%であることを特徴とする前記真空吸着盤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削、研磨、切断などを行う時の被加工物を保持するための真空吸着盤、又は、搬送する時被搬送物を保持するための真空吸着盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁力により固定が不可能な非金属部材や磁性を嫌う部材については、真空吸着で固定する真空吸着盤が使用されている。これらの部材は、真空吸着盤により固定され、研削、研磨、又は切断等の処理がなされ、更にその他の加工が施されて製品として市場に流通する。また、非金属部材又は磁性を嫌う部材を搬送する際にも真空吸着で固定する真空吸着盤が使用されている。
【0003】
従来の典型的な真空吸着盤の構造を図1−1に示す。真空吸着盤は、セラミック多孔質体で形成される吸着部材(101)と、吸着部材(101)に接合して固定する支持部材(102)とから構成され、支持部材(102)に設けられた空洞(103)を通じて吸引穴(104)から図中の矢印(106)で示す流れ方向に真空ポンプにより吸引して被吸着物(105)を吸着部材(101)上に吸着する。このとき、被吸着物(105)は吸着部材(101)を完全に覆う。このような構造をもつ真空吸着盤は、例えば、特開平6−8086号公報(特許文献1)に開示されている。
【0004】
最近のものづくりにおいては少量多品種の製品を取扱う場合が多く、寸法・形状が異なったものを多種類生産することが求められている。それら多様な製品の製造工程において研削、研磨、切断等の加工および搬送を行う時に、上記の従来の構造をもつ真空吸着盤を使用すると、図1−2に示すように、被吸着物の寸法・形状によっては吸着部材の吸着面に被吸着物が吸着されない箇所が発生する場合がある。この場合、被吸着物(101)の寸法が吸着部材(101)の吸着面より小さいために被吸着物が吸着されない箇所が発生し、支持部材(102)に設けられた空洞(103)を通じて吸引穴(104)から図中の矢印(106)で示す流れ方向に真空ポンプにより吸引しても被吸着物(107)で覆われていない吸着部材(101)の部分から矢印(108)の方向に空気が流れてリークするため、被吸着物(107)は適正に固定されない。このように従来の真空吸着盤の構造では多様な寸法・形状をもつ被吸着物に対して汎用性に乏しい。
【0005】
そこで、特開2008−187098号公報(特許文献2)には、吸着部材の吸着面に複数の吸着用の通気孔を形成した真空吸着盤において、被吸着物の面積が吸着面の面積より小さい場合に、被吸着物が載置されていない吸着面の非載置領域に対応する吸着部材の裏面(内部)を目張り部材で被覆し、空気のリークを防止する技術が公開されている。
【0006】
また、実開平4−125537号公報(特許文献3)には、吸着面に多数の吸引孔を設けた吸着部材と真空室との間に、各吸引穴に対応する位置に孔を持つゴム板とこの孔からずれた位置に透孔を持つ弁座板とを、それらの間に肉薄のスペーサを介在して配置したことを特徴とする真空吸着盤が開示されている。真空吸着時には、空気吸引圧力によりゴム板の孔部分が弁座板にくっつき空気の流れを遮断し、被吸着物が吸着していない吸着面の非吸着部からの空気のリークを防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−8086号公報
【特許文献2】特開2008−187098号公報
【特許文献3】実開平4−125537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最近、被加工物の寸法・形状が小型化されたものもあり、これらの加工を効率的に取扱うことができる真空吸着盤が求められている。
しかし、特開平6−8086号公報(特許文献1)に開示された技術では、被吸着物の面積が吸着面の面積より小さい場合、非吸着部から空気がリークして吸着できないという問題がある。
【0009】
また、特開2008−187098号公報(特許文献2)に開示された技術は、非吸着部に目張り部材で被覆するものであるが、種々の寸法・形状を有する多品種の被吸着物を取り扱う場合、それぞれの被吸着物の寸法・形状に適合した目張り部材が必要となり、その作成および取り付けには手間がかかる。特に、目張り部材は真空吸着盤内部に装着する必要があるのでなおのこと手間がかかる。そのようにしても、位置がずれると空気のリークが発生し吸着できなくなるために、被吸着物と目張り部材との位置合わせを精密に行う必要がある。また、被吸着物と目張り部材との境界部はどうしても空隙が存在し、空気のリークが発生してしまう。
【0010】
また、実開平4−125537号公報(特許文献3)に開示された技術は、ゴムの動きで空気のリークを防止するものであるが、空気の流れが弱いと、ゴム板の孔部分が弁座板にくっつかない場合もある。また、ゴム材の劣化により同様なことが起こる場合もある。企図される動作を実現するためには吸着面に設ける多数の孔の径をある程度大きくする必要があり、そうすると吸着面積の小さい、または特殊・複雑な形状をもった被吸着物の場合、被吸着物が吸着できなくなる場合もある。
【0011】
一般的に、研削、研磨、切断用の真空吸着盤に使用される真空ポンプの出力は0.2〜1.5kw(0.26〜2.0馬力)である。一方、搬送用に使用される真空ポンプの出力は、一般的に0.1kw以下(0.13馬力以下)である。研削、研磨、切断作業においては、被吸着物を例えば砥石などで研削、研磨、切断の作業を行うので被吸着物に外力が加わる。その際、真空ポンプの出力が不足すると吸引力が不足し被吸着物の固定ができなくなるため、研削、研磨、切断時には、搬送時より高い真空ポンプの出力が要求される。本願発明においては、搬送用は勿論、研削、研磨、切断作業においても被吸着物を十分に固定し、研削、研磨、切断作業が支障なく行えるようにしなければならない。
【0012】
したがって、本発明の課題は、これらの従来技術の欠点を克服し、種々の寸法・形状を有する多品種の被吸着物について加工および搬送が効率的に実施できる真空吸着盤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、真空引きにより吸着面に被吸着物を固定する真空吸着盤であって、
被吸着物が吸着する吸着面を構成し、かつ多数の吸着穴が設けられた吸着面部材と、
前記吸着面部材の吸着面と平行な面に接合し、かつ前記吸着穴と連通し、前記吸着穴の直径より小さい直径を有する多数の小径真空吸着穴が設けられた小径真空吸着穴部材と、
前記小径真空吸着穴部材と接合し、真空経路形成のための通気路及び吸引路が設けられた支持部材とを含み、
前記小径真空吸着穴部材の厚みが、前記吸着面部材の厚みより厚く、5mm〜25mmであり、
前記小径真空吸着穴の直径が、0.064mm〜0.25mmであり、
前記吸着穴の総面積が、前記吸着面の面積に対して、30%〜70%である
ことを特徴とする前記真空吸着盤を提供する。
【0014】
本発明の真空吸着盤は、一実施形態において、内径が0.064mm〜0.25mmで、長さが5mm〜25mmであるチューブ体を小径真空吸着穴部材に挿入して、小径真空吸着穴が形成されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の真空吸着盤は、一実施形態において、吸着穴に多孔質体を挿入したことを特徴とする。
また、本発明の真空吸着盤は、一実施形態において、小径真空吸着穴にピアノ線を挿入したことを特徴とする。
【0016】
更に、本発明の真空吸着盤は、一実施形態において、被吸着物の吸着力が20N以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、種々の寸法・形状を有する多品種の被吸着物について、研削、研磨、切断作業が支障なく行うことができ、また、加えて搬送が効率的に実施できる真空吸着盤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1−1】図1−1は、従来の真空吸着盤を示す断面図である。
【図1−2】図1−2は、従来の真空吸着盤の使用形態を示す図である。
【図2】図2は、本発明の真空吸着盤の一実施形態を示す上面図である
【図3−1】図3−1は、本発明の真空吸着盤の一実施形態を示す断面図である。
【図3−2】図3−2は、本発明の真空吸着盤の一実施形態を示す断面図である。
【図4】図4は、本発明の真空吸着盤の一実施形態を示す上面図である。
【図5】図5は、本発明の真空吸着盤の一実施形態を示す拡大図である。
【図6−1】図6−1は、本発明の真空吸着盤の別の実施形態を示す断面図である。
【図6−2】図6−2は、本発明の真空吸着盤の別の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 吸着面
2 吸着穴
3 吸着面部材
4 多孔質部材
5 小径真空吸着穴
6 小径真空吸着穴部材
7 通気路
8 吸引路
9 支持部材
10 被吸着物
11−1 空気の流れ(大気圧)
11−2 吸着穴2を通過し小径真空吸着穴5に流入する空気の流れ(圧力は大気圧より減少)
11−3 小径真空吸着穴5を通過する空気の流れ(圧力は更に減少する)
12 チューブ体
101 吸着部材
102 支持部材
103 空洞
104 吸引穴
105 被吸着物
106 吸引穴における空気の流れ(真空ポンプにつながる)
107 被吸着物(吸着部より面積が小さい)
108 吸着部材上部における空気の流れ
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の真空吸着盤を以下に図を参照しながら説明する。
図2は、本発明の真空吸着盤の一実施形態を示す上面図である。
本発明の真空吸着盤には、被吸着物が吸着する吸着面1に多数の吸着穴2が設けられている。吸着穴2は、種々の寸法・形状を有する多品種の被吸着物の加工および輸送が効率的に実施できるよう、その径を小さくする必要がある。本発明の一実施形態として具体的には、吸着穴2の最大直径はφ16mm以下であり、作製コストの観点と本発明の効果をより発揮させるためには、吸着穴2の最小直径はφ3mmである。吸着穴2の直径がφ16mmを越えると、種々の寸法・形状を有する多品種の被吸着物、特に吸着面積が小さい被吸着物の加工および搬送を効率的に実施することができず、吸着穴2の直径がφ3mmより小さいと、製作コストが増大し経済的に好ましくない。望ましくは、吸着穴2の直径は、φ3mm〜φ14mm、好ましくはφ3mm〜φ12mm、より好ましくはφ3mm〜φ10mm、更により好ましくはφ4mm〜φ10mm、最も好ましくはφ4mm〜φ8mmである。
【0021】
吸着穴2の直径は、必ずしも単一である必要はなく、上述の範囲であれば複数の吸着穴で異なる直径を有していてもよい。
吸着穴2の総面積は、吸着面の面積に対して、30%〜70%であることができる。
【0022】
30%より少ないと種々の寸法・形状を有する多品種の被吸着物の加工に対応することができない。70%より多いと空気のリークが多くなり、被吸着物の吸着力が低下するからである。
【0023】
他の実施形態として、吸着穴2の総面積は、吸着面の面積に対して、30%〜70%の範囲内であることを条件に、多数の吸着穴2の一部において直径がφ16mmを越えてもよい。その場合他の吸着穴2の直径はφ16mm以下で調整することが望ましい。
【0024】
本発明の真空吸着盤において、吸着面1の形状は、四角形状または円形状であることができ、また他の形状、例えば多角形状であってもよい。吸着面の寸法は、四角形状においては一辺の長さが最小50mm、最大350mmであることができ、円形状においては直径が最小φ50mm、最大350mmであることができる。
【0025】
図3−1は、本発明の真空吸着盤の一実施形態を示す断面図である。
本発明の真空吸着盤は、被吸着物が吸着する吸着面1を構成し、かつ多数の吸着穴2が設けられた吸着面部材3と、吸着面部材3の吸着面1と平行な面に接合し、かつ吸着穴2と連通し、吸着穴2の直径より小さい直径を有する多数の小径真空吸着穴5が設けられた小径真空吸着穴部材6と、小径真空吸着穴部材6と接合し、真空経路形成のための通気路7及び吸引路8が設けられた支持部材9とから構成される。
【0026】
吸着面部材3の材質は、ピンホール等による空気リークが起こらないこと及び作業中の外力で破壊しない強度を有することを条件として、有機質材料、金属材料、無機質材料等を使用することができる。
【0027】
吸着面部材3の吸着穴2と小径真空吸着穴部材6の小径真空吸着穴5とは、それぞれ支持部材9の通気路7と連通するような位置に配置される。これにより、支持部材9の吸引路8から真空ポンプで吸引することにより、吸引路8、通気路7、小径真空吸着穴5、吸着穴2を通して空気流動が可能である。
【0028】
小径真空吸着穴部材6の材質は、吸着面部材3と同様に、ピンホール等による空気リークが起こらないこと及び作業中の外力で破壊しない強度を有することを条件として、有機質材料、金属材料、無機質材料等を使用することができる。
【0029】
吸着穴2の内部には、図3−1に示すように、任意の構成要素として多孔質部材4が設置されていてもよい。この多孔質部材4は、厚みが薄い平板状の被吸着物に対して本発明の真空吸着盤を使用する場合に、吸着面1と接する被吸着物の接触面に、真空吸着の圧力で吸着穴2による変形を生じることを防止するために役立つ。そのような心配がない被吸着物の場合は多孔質部材4を設置する必要はない。
【0030】
多孔質部材4の材質は、特に限定されないが、有機系、無機系、金属系の材料等を使用することができる。多孔質部材4の材質は、経時的な劣化、吸着時の変形、通気性部材吸着面部材3からの材料の転写による被吸着物の品質低下などがなく、製造しやすいという理由から、好ましくは無機材料であり、より好ましくは多孔質のセラミック材料である。セラミックとしては、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素、窒化珪素などの種々のセラミックが挙げられる。これらのセラミックを多孔質とするには、さまざまな方法があるが、本発明において用いるためには、空気が流通できるように各々の気孔を連通させる必要がある。そのためには、例えば、セラミックを所定の大きさの粒子状にし、この粒子をガラスなどで固めて焼成すればよい。そのようなセラミック多孔質体としては、例えば、粒度F220〜♯800(JIS R6001による。F220は表4の最小粒度、#800は表7及び表8による。)のアルミナ粉末又は炭化珪素粉末を主成分とし連続気孔を形成したセラミック多孔質体で、その気孔径が2μm〜50μmで、気孔体積率が30%〜50%の周知の材料を使用することができる。具体的には、ビトリファイドの研削砥石を流用することができる。この方法によれば、確実に各々の気孔を連通させられるとともに、粒子径を調整することで、容易に気孔径を調整することができる。
最終的に空気の流動が阻害されることがなければよい。
【0031】
多孔質部材4は、少なくともその表面が吸着面部材3の吸着面1と同一平面を形成するように配置すればよく、吸着穴2の深さ方向に対する制限はない。したがって、多孔質部材4は、一の態様においては、図3−1に示すように吸着穴2の深さ全体を充填するように配置することができ、別の態様においては、図3−2に示すように吸着穴2の深さ方向の一部を充填するように配置することができる。
【0032】
図4は、本発明の真空吸着盤の一実施形態を示す上面図であり、図5は、本発明の真空吸着盤の一実施形態を示す拡大図である。
図4及び図5において、被吸着物10は吸着面部材3に吸着されており、被吸着物10の面積は吸着面部材3の吸着面1の面積より小さい。
【0033】
図5において、被吸着物10により覆われた吸着穴2においては、吸着作業時に空気の流れ11−1(大気圧)が負荷されるが、被吸着物10により空気の流れが遮断され、真空吸着盤内部の真空度と大気圧の圧力差により被吸着物10が吸着面部材3の吸着面上に保持される。
【0034】
一方、被吸着物10により覆われていない吸着穴2においては、吸着作業時に空気の流れ11−1(大気圧)により空気が吸着穴2に流入する。そして、空気は吸着穴2を通過し、小径真空吸着穴5に流入するが、このとき空気の流れ11−2の圧力は大気圧より減少し、空気流入量も減少する。そして、小径真空吸着穴5を通過する間に、空気の流れ11−3の圧力は更に減少し、空気流入量も減少する。
【0035】
本発明では、被吸着物10の面積が吸着面部材3の吸着面1の面積より小さい場合、非吸着部の吸着穴2より空気が流入するが、上記の作用により空気流入量は最小限にとどめられる結果、被吸着物10の吸着面1上への固定が維持される。理論に縛られることを意図するものではないが、これは以下の機構により達成されるものと考える。
【0036】
まず、形状による損失がある。形状の損失には、流入口の形状、管内径の変化、急激な曲がり、弁類、流入出口の形状などによる損失があり、本発明の真空吸着盤においては、径の大きい吸着穴2から径の小さい小径真空吸着穴5に流入する管内径の変化により空気の流入量が減少する(図5の11−2)。吸着穴2と小径真空吸着穴5のそれぞれの径の差が大きいほど効果的である。
【0037】
更に、管路摩擦がある。管路摩擦は、管路内面の粗さや流体の粘性などにより生じる。径の小さい小径真空吸着穴5を空気が通過するとき、小径真空吸着穴5の管路内面の粗さなどによる管路摩擦により空気流入量が減少する(図5の11−3)。管路摩擦による空気流入量の減少は小径真空吸着穴5の空気の流れ方向における寸法が長いほど、言い換えれば小径真空吸着穴部材6の厚みが厚いほど効果的である。
【0038】
その結果、図5の11−2と11−3に示す空気流入量減少の相乗作用により、真空吸着盤内への空気の流入が抑制され、被吸着物10が吸着面部材の3の吸着面1上に保持されるに十分な真空度が確保でき、被吸着物の加工および搬送が効率的に実施でき本発明の効果を達成することができる。
【0039】
小径真空吸着穴部材6の小径真空吸着穴5の直径は、φ0.25mm〜φ0.064mmであることができる。最大直径がφ0.25mmを超えると、空気の流量が多くなるため本発明の効果を発揮することができず、最小直径がφ0.064mmより小さい場合、製作コストが増大し経済的に好ましくない。また場合によれば被吸着物を固定する力が不足する場合がある。
【0040】
本発明実施品が使用される機械・設備等において本発明実施品のスペースはある程度の制限があることを考慮し、かつ、本発明の効果を十分に発揮させるために、本発明の真空吸着盤は、吸着面部材3より小径真空吸着穴部材6の厚みを厚くする必要がある。
【0041】
小径真空吸着穴部材6の厚みは、すなわち、小径真空吸着穴5の厚み(空気の流れ方向の寸法)であり、本発明の効果を発揮させるために重要な要素である。小径真空吸着穴部材6(小径真空吸着穴5)の最小厚みは5mmであり、最大厚みは25mmである。本発明の効果を発揮するためには、小径真空吸着穴部材6(小径真空吸着穴5)の厚みは少なくとも5mm必要である。小径真空吸着穴部材6(小径真空吸着穴5)の厚みが25mmより厚くなると、設置機械・設備への負担が増大し、場合によっては設置スペースが確保できなくなる可能性がある。
【0042】
吸着面部材3の最小厚みは1mmであり、最大厚みは5mmであるが、小径真空吸着穴部材6の厚みより厚くなることはない。吸着面部材3の厚みが5mmを超えると、設置機械・設備への負担が増大し、場合によっては設置スペースが確保できなくなる可能性がある。本発明の作用・効果に影響を与える小径真空吸着穴部材6の十分な厚みを確保するため、吸着面部材3の厚みは最大5mmまでである。
【0043】
図6−1及び図6−2は、本発明の真空吸着盤の別の実施形態を示す断面図である。
図6−1及び図6−2に示すように、小径真空吸着穴5は、内径がφ0.25mm〜φ0.064mmであるチューブ体12を小径真空吸着穴部材6に挿入することにより、所定の穴径とすることができる。図6−1は、図3−1に示す態様と同様に吸着穴の深さ全体を充填するように多孔質部材4を配置したものであり、図6−2は、図3−2に示す態様と同様に吸着穴の深さ方向の一部を充填するように多孔質部材4を配置したものである。
【0044】
チューブ体とチューブ体を挿入する穴との間には、リークを防止するために、例えば、接着剤で固定するか、あるいは、ゴム製のOリングを挟み込むことが好ましい。
図6−1及び図6−2に示すチューブ体により小径真空吸着穴を形成する利点は、小径真空吸着穴部材6に所望の正確な径を有する多数の穴を開けることは手間がかかり、製作費用が増大する点にある。一方、チューブ体を使用すれば、挿入に支障ない穴を開ければよいので手間も省け製作費用も増大しない。
【0045】
チューブ体12の挿入においては、小径真空吸着穴部材6が例えば5mmより薄いと挿入に手間がかかり実用的でない。この点からも小径真空吸着穴部材6の厚みは、少なくとも5mmは必要である。
【0046】
その他、小径真空吸着穴5の径を調整する方法として、所望の断面積をもった線材(例えばピアノ線)を小径真空吸着穴5又はチューブ体12の内径部に挿入して空間を充填することにより、小径真空吸着穴を所望の内径としてもよい。これにより、内径がφ0.25mm〜φ0.064mmの小径真空吸着穴5を配置したのと同様な効果を得ることができる。加えて、線材(例えば、ピアノ線)を挿入することにより壁抵抗が増し、本発明の更なる効果を発揮することが見込まれる。
【0047】
本発明の真空吸着盤に関して使用される機械・設備を考慮し、支持部材9の厚みは、少なくとも10mm必要である。吸着面部材3、小径真空吸着穴部材6、及び支持部材9の合計厚みが40mm以上となると、製作コストが増大し、更に重量が重くなることによる設置機械・設備への負担が増大する。場合によっては設置スペースが確保できなくなる可能性がある。前述の吸着面部材及び小径真空吸着穴部材の厚みは、このような制約と本発明の効果発現を考慮して定められた。
【0048】
被吸着物10の面積が吸着面の面積より小さい時、吸着穴2は被吸着物10に覆われることがない箇所が発生するが、本発明の真空吸着盤は、吸着面積が20%以上であることが必要である。ここで、吸着面積は、吸着穴2の合計の面積に対して、被吸着物10により覆われる吸着穴2の割合をいうものとする。
【0049】
前述のように、本発明の真空吸着盤においては、構造上、被吸着物10に覆われない吸着穴2から真空吸引により空気が侵入するが、その空気侵入を最小限に留めることが重要である。吸着面積が20%より小さい、すなわち、被吸着物10に覆われない吸着穴2が吸着穴全体の80%を超えると、空気の侵入が多くなり、吸着盤内の真空度が減少し、被吸着物10を十分に吸着できない。
【0050】
尚、吸着面積が20%より小さい場合は、特開2008−187098号公報(特許文献2)に記載された方法でも吸着できない可能性が高いと考えられる。そもそも吸着面積が小さいので被吸着物の吸着力が相対的に小さいからである。
【0051】
吸着面積は、望ましくは、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上である。
【0052】
吸着面積が100%の場合は、本発明の真空吸着盤はもちろんのこと、従来の真空吸着盤も使用することができる。しかし、その場合、本発明の真空吸着盤を使用すると、吸着面積100%の被吸着物10での作業を行った後(前でもよい)、それより吸着面積の小さい(20%以上)被吸着物10を用いて作業を行う際に、機械設備の変更、真空吸着盤の取替えを行う必要がなく、作業が効率化する点で有利である。
【0053】
本発明の真空吸着盤の効果は吸着力により特徴付けることができる。吸着力が20Nより小さい場合は、被吸着物を吸着する力は不足し、研削中被吸着物の固定ができない。
吸着力が20N以上の場合の真空吸着盤内部の気圧は、大気圧101.325×10kPaに対し、63.8×10〜5.3×10kPaとなり、被吸着物10が固定され被吸着物10の加工および搬送が支障なく実施できる。
【0054】
更に、本発明の真空吸着盤において、真空吸着盤内部への空気流入量は、最小0.8L/minから最大102L/minである。空気流入量が最大値より高い場合、または最小値未満の場合は被吸着物10が固定できない。
【実施例】
【0055】
試験例1 吸引力テスト
本試験例においては、本発明にしたがった真空吸着盤を作成し、その吸着力を測定した。
【0056】
真空吸着盤の吸着面は四角形状とし、吸着面の寸法は110mm角とした。
吸着穴の間隔は1mmとし、吸着穴の直径は16mm又は5mmとし、φ16mmでは穴数36個、φ5mmでは穴数256個とした。吸着穴の総面積は、吸着面の面積に対して、φ16mmで約60%、φ5mmで約42%である。吸着穴には、その直径と同径で同体積のセラミック製の多孔質部材を配置した。そして吸着面とセラミック製多孔質部材は同一平面において平坦になるよう加工した。
【0057】
小径真空吸着穴は所定の位置にΦ3mmの穴を開けた。所望の内径を持つエスエイエス社製の品番JR−T−6001(内径Φ0.25mm)、JR−T−5999(内径Φ0.13mm)、JR−TP−5998(内径Φ0.064mm)(外径は全てΦ1.59mm)の商品名ピークチューブを所定長さに加工して、小径真空吸着穴に挿入し、その隙間はNOK社製のOリング(ゴム製部材)、型式03387−A00及びAS568−002Aを2つ挟みリークを防止した。
【0058】
吸着面部材の厚みは4.5mmとし、小径真空吸着穴部材の厚みは各比較例及び実施例において適宜変更した。
更に、通気路7及び吸引路8を形成した支持部材9を設置して、真空吸着盤を組み立てた。
【0059】
得られた真空吸着盤について、ULVAC社製:型式DA−121D、出力0.4kw(0.53馬力)の真空ポンプにより真空吸引を行った。被吸着物として厚み1mm、直径3インチのシリコンウエハーを真空吸着盤の吸着面に載せた。吸着面積(吸着穴の合計の面積に対して被吸着物により覆われる吸着穴の割合)は約40〜45%である。
【0060】
真空度は、KEYENCE社製:型式CU−21Aにより測定し、空気吸引量は、山武(azbil)社製:型式CMS0020の圧力測定器を真空吸着盤と真空ポンプの間の管に装着して測定した。
【0061】
吸着力は、AIKOH ENGINEERING社製デジタルゲージ:型式RX−20で被吸着物の側面を押付け、その押付け力を測定した。
結果を次の表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
試験例2 研削テスト
本試験例においては、本発明の真空吸着盤を用いて研削テストを行った場合、正常に研削作業ができるかどうかを確認した。
【0064】
各条件は以下のとおりである。
研削条件
1)砥石
仕様: SD400F100VD7(クレトイシ株式会社製)
寸法: φ350×20×φ152.4mm
2)被削材
4インチ アルミナ
3)研削液
なし
4)研削盤
種類: ワシノ製ロータリー平面研削盤
形式: SS−501N
5)真空ユニット
種類: Fuji Engineering社製 バキューム ユニット マークIII
型式: Type-D(旧V5)
6)ドレス条件
ドレッサ: GC100G8V(φ355×30×φ76mm)
ドレッサ回転数: 80rev/min
ドレスリード: 2mm/rev
ドレス切込み: φ2μm/pass
ドレス回数: 100回
7)研削条件
研削方式: 乾式トラバース研削
砥石周速度: 23m/s
被削材周速度: 1.5m/s
周速度比: 15.3
研削切込: 粗研削 2μm/pass 7回
仕上げ研削: 1μm/pass 6回
取り代: 0.02mm
スパークアウト: 1回
試験例1で作成した比較例1、比較例4、実施例1、実施例5、実施例6、実施例9、実施例10の構成の真空吸着盤を使用して研削テストを行った。
【0065】
結果
比較例1、比較例4の真空吸着盤では、研削初期に被吸着物の位置ズレが発生したため、それ以降の研削テストを中止した。この場合、小径真空吸着穴径が大きいため真空吸着盤内に流入する空気流量が多くなる。そのため被吸着物を吸着するに必要な真空度(Pa)を確保することができず吸着力が小さい値となった。
【0066】
一方、実施例1、実施例5、実施例6、実施例9、実施例10の真空吸着盤では、被吸着物の位置ズレは発生せず良好に固定され研削テストを完了した。
実施例1の真空吸着盤の吸着力は21.8Nであった。一方、比較例4の吸着力は18.9Nであった。したがって、吸着力20Nが研削可能かどうかの境目であることが判明した。
【0067】
その時、真空度の範囲は1.3kPaから58.3kPaの範囲であった。空気流量は1.0L/min以上71.6L/min以下の範囲であった。
試験例1を考慮すると、小径真空吸着穴径が0.064mm〜0.25mmで、小径真空吸着穴径の厚みが5mm〜25mmの範囲において本発明の効果が発揮された。小径真空吸着穴径φ0.064mm、小径真空吸着穴厚み5mmと9mmは、被吸着物の位置ズレが発生せず研削を行うことができ、良好であるが、小径真空吸着穴厚みが厚くなると吸着力が下がる傾向となった。小径真空吸着穴径が小さくなり、且つ小径真空吸着穴厚みが厚くなると真空吸着盤内へ流入する空気流量が少なくなる傾向にある。その場合、吸着力が低下する不具合が発生する可能性がある。
【0068】
これに関しては、電気掃除機の吸引力を表す目安として利用されている吸引仕事率を示す。小径真空吸着穴径0.013mmより小さくかつ0.064mmつまり本発明では小径真空吸着穴径が小さいときに適用される。
【0069】
吸引仕事率(W)=0.01666×真空度(Pa)×空気流量(m/min)
この数値が大きいほど、吸引力が優れることになる。
本発明においては、小径真空吸着穴径が0.064mmで小径真空吸着穴厚みが厚くなるにしたがって本真空吸着盤内への空気の流量が急激に少なくなる(表1)。
【0070】
上記式によると空気流量(m/min)が急激に少なくなるので吸引仕事率(W)が低下するという結果となる。
小径真空吸着穴径が0.064mmで小径真空吸着穴厚み25mmとなると吸着力が20Nより少し大きい値であるので被吸着物が吸着される限界値下限付近である。
【0071】
真空吸着盤への空気流量と吸着力の関係は小径真空吸着穴径が小さくなり、且つ小径真空吸着穴厚みが厚くなるとき吸引仕事率が低下する。具体的には空気流量が1〜1.3リットル/minを境に急激に吸引仕事率が低下し、結果吸着力が低下するものと考えられる。
【0072】
このことより小径真空吸着穴径が小さくなるに従って真空吸着盤内への空気の流量が少ないと吸着力が下がる傾向にあり、小径真空吸着穴の直径がφ0.064mmより小さいと本発明の効果が発揮されないと考えられる。
【0073】
試験例3 研削テスト
試験例2において被吸着物(被削材)を直径2インチのシリコンウエハー(寸法:約50.8mm(直径)×0.5mm(厚み))に変更し、実施例1と実施例10の構成の真空吸着盤を使用して、湿式平面トラバース研削を行った。吸着面積は約20%である。研削液は、クレカットNS201(2%)を使用した。
【0074】
結果
被吸着物の位置ズレは発生せず良好に固定され研削テストが完了した。
これらの条件で試験例1と同様に吸着テストを行った結果を以下に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
上表から、試験例1及び試験例2の結果は矛盾しないことが確認された。しかし、吸着力、真空度、及び空気流量から見ると、正常に研削作業ができる境目なので、吸着面積が20%より下回れば被吸着物の位置ズレが発生すると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空引きにより吸着面に被吸着物を固定する真空吸着盤であって、
被吸着物が吸着する吸着面を構成し、かつ多数の吸着穴が設けられた吸着面部材と、
前記吸着面部材の吸着面と平行な面に接合し、かつ前記吸着穴と連通し、前記吸着穴の直径より小さい直径を有する多数の小径真空吸着穴が設けられた小径真空吸着穴部材と、
前記小径真空吸着穴部材と接合し、真空経路形成のための通気路及び吸引路が設けられた支持部材とを含み、
前記小径真空吸着穴部材の厚みが、前記吸着面部材の厚みより厚く、5mm〜25mmであり、
前記小径真空吸着穴の直径が、0.064mm〜0.25mmであり、
前記吸着穴の総面積が、前記吸着面の面積に対して、30%〜70%である
ことを特徴とする前記真空吸着盤。
【請求項2】
内径が0.064mm〜0.25mmで、長さが5mm〜25mmであるチューブ体を小径真空吸着穴部材に挿入して、小径真空吸着穴が形成されることを特徴とする、請求項1記載の真空吸着盤。
【請求項3】
吸着穴に多孔質体を挿入したことを特徴とする、請求項1又は2記載の真空吸着盤。
【請求項4】
小径真空吸着穴にピアノ線を挿入したことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の真空吸着盤。
【請求項5】
被吸着物の吸着力が20N以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の真空吸着盤。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【公開番号】特開2012−45644(P2012−45644A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187846(P2010−187846)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(390030351)クレトイシ株式会社 (6)
【Fターム(参考)】