説明

真空容器におけるフランジ部のシール構造及びシール方法

【課題】高いシール性を発揮し,加速器の導波管の連結に使用した場合であっても優れた電気的特性を発揮する真空容器におけるフランジ部のシール構造を得る。
【解決手段】
フランジ10,20及びこのフランジ10,20間に挟持するメタルガスケット30を物性が近似乃至は一致する同材質または異種の金属によって形成し,フランジ10とメタルガスケット30間に生じた被封止間隙δ1,及びメタルガスケット30とフランジ20間に生じた被封止間隙δ2を封止するために,前記メタルガスケット30よりフランジ10,20に対してそれぞれ突出した,断面において先鋭な凸条41,42を設ける。前記2つのフランジ10,20をボルト60とナット61の締め付けによって緊締し,凸条41,42の先端部をフランジ10,20に当接させて変形させて潰すことにより,被封止間隙δ1,δ2をシールする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空容器におけるフランジ部のシール構造及びシール方法に関し,より詳細には真空容器の接合部に設けられたフランジ間でリークが生じることを防止して,真空容器に気密性を与えるフランジ部のシール構造であって,特に加速器の導波管等のように高真空,超高真空で使用される真空容器のシールに適した真空容器におけるフランジ部のシール構造及びシール方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空容器に対する蓋の取り付けや,加速器における導波管の連結は,一例として連結部のそれぞれにフランジを設け,このフランジを重ね合わせると共に,重ね合わせたフランジをボルトとナットで共締めすることにより行われる。
【0003】
そして,このようなフランジの緊締に際しては,2つのフランジ間にガスケットを挟持することで,両フランジ間の間隙を封止して,真空容器の気密性を得ることができるようにしている。
【0004】
このようなガスケットとしてはエラストマー製のガスケット(Oリング)が使用されることもあるが,脱ガスのための加熱処理として所謂「ベーキング」が行われる真空容器にあっては,エラストマー製のシールとして使用される例えばフッ素ゴムの高温限界温度以上に迄温度を上昇させることから,エラストマーシールを使用する場合には耐熱性に問題がある。
【0005】
また,このようなエラストマー製のガスケット(Oリング)では,高真空になるとガス分子が透過してしまい,10-8torr/secよりも高真空の条件において使用することができない。
【0006】
そこで,このようなベーキングを行う真空容器や高真空で使用される真空容器にあっては,耐熱性等を考慮してフランジ間に金属製のガスケット(メタルガスケット)を挟持することで,気密性を保持する,所謂「メタルシールフランジ」と呼ばれるシール機構が採用されている。
【0007】
このようなメタルシールフランジとして現在使用されているものとしては,図7に示すように金属製のOリング(メタルOリング)130や断面C字状のリング(ヘリコフレックス:図示せず)を2つのフランジ110,120間で挟持することによりシールする「メタルOリングシール」,図8(A),(B)に示すように凸条が形成されたオスのフランジ110と,この凸条を受け入れる段部が形成されたメスのフランジ120の噛合部に生じたL字状のコーナ部で,金線〔金(Au)製のOリング〕131を挟持すると共に押圧変形させてシールをする「金線ガスケット」, 図9(A),(B)に示すように,ナイフエッジ141,142が形成されたフランジ110,120によって間に挟んだメタルガスケット132を押し潰し,メタルガスケット132の材料内にコールドフローを喚起してシールする「ナイフエッジ型メタルシールフランジ」(ICFフランジ)等がある(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】特許庁ホームページ「標準技術集」「半導体製造装置関連真空・クリーン化技術」「2−9−4 メタルOリング」,「2−9−5 金線ガスケット」,「2−9−7 ナイフエッジ型メタルシールフランジ(1)」(http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu.htm)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上で説明したように,真空容器のフランジ部を封止するシール構造として各種の方法が提案されているが,このうち,「ナイフエッジ型メタルシールフランジ」では,図9(B)に示すようにフランジ110,120に形成したナイフエッジ141,142が,矢印A方向にメタルガスケット132を押し潰すと,ナイフエッジ141,142の傾斜面がメタルガスケット132の材料を矢印B方向に押し出してコールドフローを生じさせ,このコールドフローによりメタルガスケット132の外径面がフランジ110,120の内壁に高い圧力で押しつけられるものとなっている。その結果,この方法によればシール面やメタルガスケット132表面の欠陥を無くし,他の方法に比較してより信頼性の高いシールが可能となっている。
【0010】
しかし,このようにしてメタルガスケット132を押し潰して封止する前述のナイフエッジ型メタルシールフランジの場合,20〜25mmピッチでボルトを配置して,80kgf・cm〜150kgf・cm(約785N・cm〜1471N・cm)の締付けトルクでボルトを締め込む必要があり,多大な作業労力が必要になると共に,図9(A),(B)に示すようにフランジの一方110が,真空容器の端部を閉塞する蓋板等として使用されるブランクフランジである場合には,このボルトの締め込み圧力によってブランクフランジの中央部が凸面状に隆起してしまう,所謂「中高」の状態となり,このブランクフランジに例えば電子銃等を取り付けた場合,この電子銃の取付位置が隆起分ずれるために,正確なビーム照射を行うことができなくなる。
【0011】
しかも,図9に示す構成のナイフエッジ型メタルシールフランジでは,ナイフエッジ141を形成するためには,ナイフエッジ141の内周側においてこのブランクフランジ110を切削して窪み113を形成する必要があり,ブランクフランジ110を単純な円形の板等として形成する場合に比較して加工労力が大幅に増大する。
【0012】
また,前述したナイフエッジ型メタルシールフランジでは,メタルガスケットを変形させると共にコールドフローを生じさせるために,一例として,ステンレス鋼(例えばSUS304)製のフランジと無酸素銅製のガスケットの組合せ,高硬度のAl合金(例えばA2219)と純アルミニウム製のガスケットの組合せ等が使用される等,メタルガスケット132の材質をフランジ110,120の材質に対して軟質の材料にしなければならず,フランジ110,120とメタルガスケット132を同一材質で形成することができない。
【0013】
しかし,フランジ110,120による接合部を有する真空容器が一例として加速器の導波管等である場合には,この真空容器において求められる性能は,単に高真空を安定的に保持できるというだけではなく,荷電粒子ビームに伴うパルス状の高電流(壁電流)を伝達する必要性から,フランジとメタルガスケットとを同材質によって形成し,両者の電気的な特性を近似乃至は一致させることが望まれる。
【0014】
しかも,前述したように,フランジとメタルガスケットとを,それぞれ異なる材質で形成する場合には,ベーキングの後,真空容器の温度が低下すると両材質間の熱膨張率の相違によって隙間が生じ,リークが発生するおそれがある。
【0015】
なお,真空容器が加速器の導波管である場合,前述したように荷電粒子ビームに伴うパルス状の高電流(壁電流)に対応した電気的接触を確保する必要があるが,前述した従来のシール方法では,フランジ110,120間がナイフエッジ及びメタルガスケット132を介して点接触するために,フランジ110,120間を面接触する場合に比較して電気的な接触という点で劣り,また,連結部における導波管の内面であって,メタルガスケット132とフランジ110,120との間に凹溝148が生じるため,ビームに起因する高周波が励起する。
【0016】
そのため,導波管の内面を平滑にすると共に,導電性を向上するために,前述したナイフエッジ型メタルシールフランジによって連結された導波管では,図9(B)に示すように,「RFコンタクト」と呼ばれる断面コ字状の嵌合部材150を取り付けてこの凹溝148を覆うことにより,導波管の内面を平滑に仕上げている。
【0017】
しかし,このようなRFコンタクト150を取り付ける作業は繁雑であり,これを省略することができれば導波管の組み立て労力を大幅に軽減することができる。
【0018】
しかも,このRFコンタクト150はリン青銅やベリリウム銅に純金メッキを施す等,非常に高価な材料によって製造されていると共に,導波管の断面形状は円形のみならず角形やレーストラック型等多種多様であり,これらの形状やサイズに対応してRFコンタクト150製造用のプレス金型を製作する必要があることから,RFコンタクト150は高価であるだけでなく,製作期間に長期を有するために,RFコンタクトの取り付けを行うことなく内周面を平坦に形成して高周波の励起等を防止することができれば,導波管の製造コストを下げることができると共に,納期を短縮することができる。
【0019】
そこで,本発明は,上記従来技術における欠点を解消するためになされたものであり,フランジとメタルガスケットを,電気的性質,熱膨張率及び硬度などの物性が近似乃至は一致する同材質または異種の金属によって形成することにより,接合部の気密性を安定して確保することができ,しかも,ボルトによるフランジの締め付け労力を軽減することができる真空容器のフランジ部のシール構造及びシール方法を提供することを目的とする。
【0020】
また,本発明の別の目的は,上記目的に加え,前述したRFコンタクトを使用することなく,フランジによる連結部における真空容器の内面を平滑に形成することで,高周波の励起等を好適に防止することができる真空容器のフランジ部におけるシール構造,及びシール方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本願発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0022】
上記目的を達成するために,本発明の真空容器1のフランジ部におけるシール構造は,
一対のフランジ10,20を重ね合わせて緊締することにより連結される連結部を備えた真空容器1のフランジ間をシールするシール機構において,
前記フランジ10,20間に生じる被封止間隙〔図1〜3の例ではδ1,δ2,図4(A)〜(D)の例ではδ1〕を構成する各部材〔図1の例ではフランジ10,20及びメタルガスケット30,図4(A)〜(D)の例ではフランジ10,20〕の材質をいずれも物性が近似乃至は一致する同材質または異種の金属によって形成し,
前記被封止間隙δ1,δ2を構成する二部材の一方(図1の例ではメタルガスケット30)から他方(図1の例ではフランジ10,20)に向かって環状に突出する,断面において楔型を成す凸条41,42を形成したことを特徴とする(請求項1)。
【0023】
前記構成のシール構造において,前記一対のフランジ10,20の少なくとも一方(図示の例では双方)と電気的性質,熱膨張率及び硬度などの物性が近似乃至は一致する同材質または異種の材質で,且つ,前記一対のフランジ10,20間に挟持される環状のメタルガスケット30を前記フランジ10,20とは別に設け,一方のフランジ(図示の例では双方のフランジ10,20)との間に形成された間隙を,前記被封止間隙δ1,δ2とすることができる(請求項2,図1〜3,5,6)。前記両部材の硬度については,メタルガスケット30の硬度が前記フランジ10,20と同等又は,小さいものとすることが好ましい。
【0024】
この場合,前記フランジ10,20の一方又は双方に,前記メタルガスケット30を嵌合可能なフランジ溝(図1の例ではフランジ溝11,図2,3の例ではフランジ溝11及び21)を形成すると共に,前記凸条41,42の先端が所定量潰れて変形した際,前記フランジ溝21(図1)又は11,21(図2,3)内に前記メタルガスケットが完全に嵌合して,前記メタルガスケット30の内周側における前記フランジ10,20の平坦面12,22が重なり合う深さに前記フランジ溝11(又は11,21)を形成した構成とすることができる(請求項3;図1〜3)。
【0025】
または,前記フランジ10,20双方の対向位置にそれぞれフランジ溝11,21を形成すると共に,
前記メタルガスケット30に,前記フランジ溝11,21の形成位置において前記フランジ10,20間に挟持される第1部分31と,前記フランジ溝11,21の形成位置に対し真空容器1の内周側において前記フランジ10,20間に挟持される第2部分32を設け,
前記第2部分32の内周縁33が,前記真空容器1の内周面1aと同位置となるよう前記メタルガスケット30を形成すると共に,
前記フランジ10,20の緊締によって前記メタルガスケット30の前記第2部分32が前記フランジ10,20間に圧接挟持されたとき〔図5(B)参照〕,前記凸条41,42の所定量の変形が得られるよう,前記フランジ溝11,21の総深さ,前記メタルガスケット30の第2部分32の厚み,及び前記凸条41,42の突出高さhを設定した構成としても良い(請求項4:図5,6)。
【0026】
更に,前述したメタルガスケット30を備えた構成にあっては,前記一対のフランジ10,20に対し前記メタルガスケット30を位置決めするガイドピン50を前記フランジ10,20又は前記メタルガスケット30のいずれか(図1においてフランジ20)に設けると共に,残りの部材に前記ガイドピン50を受け入れる開孔や切欠等のガイドピン嵌合部(図1の例ではメタルガスケット30に設けた開孔34,フランジ10に設けた開孔13)を設けるものとしても良い(請求項5:図1参照)。
【0027】
また,前記凸条41,42を,いずれも前記メタルガスケット30に設けるものとすることが好ましい(請求項6:図1,図5)。
【0028】
更に前記メタルガスケット30を,ベーキングによっても容器の真空性を維持し得る,耐ベーキング性を有する材質とする(請求項7)。
【0029】
なお,前記凸条41,42の断面における先端部の角度θ〔図1(A)参照〕は,90〜30°,好ましくは60°である(請求項8)。
【0030】
更に,前記被封止間隙δ1,δ2を構成する二部材の前記他方(凸条41,42が形成されていない側:図1の例ではフランジ10,20)の表面に,前記二部材間の癒着を防止する表面処理,例えば無電解ニッケルメッキやイオンプレーティング等の方法で前記二部材の材質とは異なる金属の被膜を形成する等の表面処理を施すこともできる(請求項9)。
【0031】
なお,本発明の真空容器1におけるフランジ部のシール方法は,前述したいずれかのフランジ部のシール構造を備えた真空容器1の前記一対のフランジ10,20を重ね合わせて緊締することにより,前記凸条41,42の先端部を所定量変形させて潰すことにより前記被封止間隙δ1,δ2をシールすることを特徴とするものである(請求項10)。
【発明の効果】
【0032】
以上説明した本発明の構成により,本発明の真空容器におけるフランジ部のシール構造,及び該シール構造を使用したシール方法によれば,以下のような顕著な効果を得ることができた。
【0033】
前記被封止間隙δ1,δ2を形成する各部材の材質をいずれも物性が近似する材質の金属によって形成し,各被封止間隙δ1,δ2を構成する二部材のうちの一方の面から他方に向かって環状に突出する断面鋭角な楔型の凸条41,42を形成したことにより,前記一対のフランジ10,20を緊締すると,この凸条41,42の先端部を,前記他方の部材(図1の例ではフランジ10,20)に圧接して所定量変形させて潰すことができた。
【0034】
その結果,凸条41,42が高い圧力によって圧接されていることと,変形による他方の部材表面に対する形状的な追従によって,両部材間の間隙δ1,δ2が完全に塞がれて信頼性の高いシールを実現できた。
【0035】
しかも,前述のように先鋭に形成された楔状の凸条41,42を他方の部材の表面に押圧することで,凸条41,42の先端部に圧力が集中して先端部の変形が生じ易くなっていることから,凸条41,42を備えた一方の部材(図1ではメタルガスケット30)と他方の部材(図1の例ではフランジ10,20)を同材質で形成した場合であっても,比較的容易に凸条41,42を変形させることができた。
【0036】
その結果,フランジ10,20の緊締時におけるボルト60及びナット61の締め付けトルクを大幅に低減することができ,締め付け作業が容易になると共に,ボルト60の配置間隔を広く取った場合でも安定的なシールが可能であり,フランジ10,20を緊締する際の労力を大幅に軽減することができた。
【0037】
加えて,このようなボルトの締め付けトルクを大幅に減少させることができたことにより,フランジの一方をブランクフランジとした場合であっても,フランジの中央部が凸面状に隆起して所謂「中高」となることを防止でき,その結果,このブランクフランジに例えば図2に示すように電子銃70等を取り付けた場合であっても,電子銃70の配置位置がブランクフランジの中央部が隆起することによってずれることがなく正確な配置とすることができた。
【0038】
また,上記のように各被封止間隙δ1,δ2を構成する各部材(図1の例では,2つのフランジ10,20とメタルガスケット30)の材質を電気的性質,熱膨張率及び硬度などの物性が近似乃至は一致する同材質または異種の材質とすることができ,連結部の各部材(フランジ10,20とメタルガスケット30)の物性(電気的性質や膨張率など)を同一乃至は近似していることにより,このシール構造を例えば加速器の導波管の接続に使用した場合にあっては,荷電粒子ビームに伴うパルス状の高電流(壁電流)を好適に通電させることができると共に,膨張率の差等の物性の違いが存在しないことから,ベーキング後の冷却によっても,膨張率の違いによってリークが生じる危険が解消された。
【0039】
また,フランジ10,20の一方(図示の例では紙面上側のフランジ10)が蓋板等として使用されるブランクのフランジである場合であっても,ブランクフランジ10を図4(A)に示すように平板として形成し,又は図2,図3,図4(B)〜(D)に示すようにフランジ溝11を形成して使用する等,図9を参照して説明したナイフエッジ型メタルシールフランジの場合のように,ナイフエッジ141,142の内周全体を切削により彫り込んで窪み113を形成する必要がないため,ブランクフランジの切削加工量を大幅に低減して加工を容易とすることができた。
【0040】
前記一対のフランジ10,20間に挟持される,前記フランジとは別に設けられた環状のメタルガスケット30を設けると共に,このメタルガスケット30と各フランジ10,20間の間隙をそれぞれ前記被封止間隙δ1,δ2とした構成にあっては,更に以下の構成の採用により下記の顕著な効果を得ることかできた。
【0041】
すなわち,前記フランジ10,20の一方又は双方に,前記メタルガスケット30を嵌合可能なフランジ溝(図1の例ではフランジ溝11,図2,3の例ではフランジ溝11,21)を形成すると共に,メタルガスケット30の硬度が前記フランジ10,20と同等又は,小さいものであれば,前記凸条の先端が所定量潰れて変形した際,前記フランジ溝11(図1)又は11,21(図2,3)内に前記メタルガスケットが完全に嵌合して前記フランジ10,20の平坦面12,22が重なり合う深さに前記フランジ溝11(又は11,21)を形成したことにより,フランジ10,20の平坦面12,22が重なり合う迄,ボルト60とナット61の締付を行えば凸条41,42に必要量の変形を生じさせることができ,好適にシールすることができるだけでなく,この構造を例えば加速器の導波管の連結部に使用する場合には,導波管の連結部内周面に,図9を参照して説明したような凹溝148が形成されることがなく,従ってこの凹溝148を塞ぐためにRFコンタクト150を取り付けることなく,真空容器1の内周面を平坦に形成することができ,ビームに起因する高周波の発生等を好適に防止することができた。
【0042】
更に,前記フランジ10,20双方の対称位置にフランジ溝11,21を形成すると共に,前記メタルガスケット30に,前記フランジ溝11,21の形成位置において前記フランジ10,20間に挟持される第1部分31と,前記フランジ溝11,21の形成位置に対し真空容器の内周側において前記フランジ10,20間に挟持される第2部分32を設け,前記第2部分32の内周縁33が,前記真空容器1の内周面1aと同位置となるよう前記メタルガスケット30を形成すると共に,前記フランジ10,20の緊締によって前記メタルガスケット30の前記第2部分32が前記フランジ間に圧接挟持されたとき〔図5(B)参照〕,前記凸条41,42の所定量の変形が得られるよう,前記フランジ溝11,21の総深さ,前記メタルガスケット30の第2部分32の厚み,及び前記凸条41,42の突出高さを設定した構成にあっても,メタルガスケット30の第2部分32がフランジ溝11,21の被形成部においてフランジ10,20間に挟持される迄,ボルト60を締め込むことにより凸条41,42の必要な変形が得られると共に,この構造を例えば導波管の連結部に使用する場合には,導波管の連結部における内周面が,RFコンタクト等を別途設けることなく同一材質の部材によって平坦に形成され,これにより高周波の励起等を好適に防止することができた。
【0043】
前記一対のフランジ10,20に対し前記メタルガスケット30を位置決めするガイドピン50を前記フランジ10,20又は前記メタルガスケット30のいずれかに設けると共に,残りの部材に前記ガイドピン50を案内する開孔34,13等のガイドピン嵌合部を設けた構成を採用した場合には,一旦,フランジ10,20の緊締によって凸条41,42を変形させてシールを行った後,フランジ10,20間を分離してメタルガスケット30を取り外した場合であっても,このガイドピン50とガイドピン嵌合部34,13によってメタルガスケット30を元の取付位置に取り付けることで,メタルガスケット30を交換することなく,繰り返し封止を行うことができた。
【0044】
更に,本発明のシール構造にあっては,前記凸条41,42を先鋭に形成して変形させ易くしたことから,凸条41,42が形成されていない他方の部材の平面に対しては,フランジ10,20の緊締後においても0.01mm以下の凹みしか形成されず,繰り返しの使用が可能であった。
【0045】
従って,前述した凸条41,42をいずれもメタルガスケット30に形成した構成とすることにより,一旦使用したフランジ10,20であっても,メタルガスケット30を交換することで再度の使用を可能とすることができた。
【0046】
なお,断面における凸条41,42の先端部の角度は90°を越えると他方の部材の平面に対して形成される凹みが大きくなり再使用に制約が生じる一方,30°以下では損傷し易くリークが生じるおそれがあることから,90〜30°,好ましくは60°とすることにより,適度な変形性と,変形後の圧接を得ることができ,信頼性の高いシールを行うことができた。
【0047】
また,前記被封止間隙δ1,δ2を構成する二部材がいずれも同一(例えばCuとCu),あるいは,物性が近似する異種(例えば,SUS304とAl050(アルミ合金)であることにより,両部材の接合部には経時により癒着が生じるおそれがあるが,前述したように前記二部材の前記他方(凸条41,42が形成されていない側)の表面に,例えば前記二部材を構成する材質とは異なる金属の被膜を形成する等,癒着を回避し得る表面処理を施すことにより,長期間に亘り二部材間が押圧された状態となっても二部材間に癒着が生じることを防止できた。この表面処理が前述のような被膜の形成である場合,例えば無電解ニッケルメッキやイオンプレーティング等の方法によりポーラス(空孔)の無い被膜を形成することで,高真空下での使用にも耐え得るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のシール構造を備えた圧力容器の要部断面図であり,(A)はフランジ緊締前,(B)はフランジ緊締後の状態を示す。
【図2】本発明のシール構造を備えた圧力容器の要部断面図(変形例)。
【図3】本発明のシール構造を備えた圧力容器の要部断面図(変形例)。
【図4】メタルガスケットを備えない本発明のシール構造を備えた圧力容器の要部断面図であり,(B)〜(D)はそれぞれ変形例を示す。
【図5】本発明のシール構造を備えた圧力容器(変形例)の要部断面図であり,(A)はフランジ緊締前,(B)はフランジ緊締後の状態を示す。
【図6】本発明のシール構造を備えた圧力容器の要部断面図(図5の変形例)。
【図7】従来のシール構造(メタルOリング)の説明図。
【図8】従来のシール構造(金線ガスケット)の説明図。
【図9】従来のシール構造(ナイフエッジ型メタルシールフランジ)の説明図であり(A)は前シール構造を備えた真空容器の要部断面図,(B)は動作説明図。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下,図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0050】
本発明のシール構造によってシールするフランジ部は,図2〜4に示すように真空容器1の端部を被蓋する場合のように,一方のフランジが蓋状の構造であるブランクフランジ10であっても良く,又は図1,5,6に示すように加速器の導波管の接続部のように,真空容器1の中間連結位置に設けられたフランジ10,20間のシールのいずれをも対象とするものであり,このフランジ10,20間に生じた被封止間隙δ1,δ2をシールするシール構造に関する。
【0051】
図1に示す実施形態では,一対のフランジ10,20間に環状のメタルガスケット30を挟持することで,前記メタルガスケット30と前記フランジ10,20のそれぞれとの間が前述した被封止間隙δ1,δ2となる。
【0052】
この構成において,一対のフランジ10,20と,前記メタルガスケット30は,いずれも電気的性質,熱膨張率及び硬度などの物性が近似乃至は一致する同材質または異種の金属によって形成されており,例えば,この真空容器1が加速器の導波管である場合には,フランジ10,20及びメタルガスケットをいずれも導電性及び放熱性に優れた銅や銅合金,アルミニウム合金,他にステンレス合金例えばSUS304等によって形成するものとしても良い。
【0053】
フランジ10,20と,前記メタルガスケット30を,それぞれ,ステンレス合金例えばSUS304とアルミ合金例えばAl050の組み合わせとする実施形態においては,熱膨張率を考慮してベーキング温度を比較的低温の100℃程度とする。
【0054】
前述の被封止間隙δ1,δ2を構成する二部材の一方の部材(図1に示す例では,被封止間隙δ1を構成するフランジ10とメタルガスケット30の一方であるメタルガスケット30,及び被封止間隙δ2を構成するフランジ20とメタルガスケット30の一方であるメタルガスケット30)には,この一方の部材(メタルガスケット30)と一体的に形成された凸条41,42が環状に突出形成されている。
【0055】
この凸条41,42は,被封止間隙δ1,δ2を構成する他方の部材(被封止間隙δ1についてフランジ10,被封止間隙δ2についてフランジ20)に向かって突出する,断面において先鋭と成す楔型に形成されている。
【0056】
なお,図1に示す実施形態にあっては,この凸条41,42をメタルガスケット30の両面に形成すると共に,フランジ10,20の前記凸条41,42と当接する部分を平坦に形成しているが,この構成に代え,例えば図3及び図6に示すように,メタルガスケット30側を平坦に形成し,このメタルガスケット30と接触する部分のフランジ10,20に凸条41,42を設けるものとしても良く,又は,図2に示すように,一方の被封止間隙δ1の封止用に設ける凸条41についてはフランジ10側(又はメタルガスケット側30)に,他方の被封止間隙δ2の封止用の凸条42についてはメタルガスケット30側(又はフランジ20側)に設ける等,前述した凸条41,42の形成位置を組み合わせた構成を採用するものとしても良い。
【0057】
なお,図2に示す構成にあっては,例えばメタルガスケット30とフランジ20間の間隔δ2のみを,本発明における被封止間隔としても良く,この場合,フランジ10をメタルガスケット30に対して硬質の材料によって形成し,フランジ10に形成された凸条41が従来技術として説明したナイフエッジと同様,メタルガスケット30に食い込むようにしても良い。
【0058】
従って,被封止間隔を構成する2部材の硬度を異なるものとする場合には,少なくとも凸条41,42の硬度を,この凸条41,42が押圧される平面の硬度に対して低硬度に形成し,凸条41,42に前述した変形による潰れを生じ易くすることが好ましい。
【0059】
この凸条41,42は,断面における先端部の角度θ〔図1(A)の拡大図参照〕を90〜30°,好ましくは60°とし,後述するようにフランジ10,20をボルト60とナット61で緊締した際に,他方の面(平面)に押圧接触して比較的容易に変形して潰れるように形成すると共に,変形によって潰れた後,他方の面(平面)に対して必要な押圧力で接触できるように形成する。
【0060】
この凸条41,42のサイズは,封止する真空容器1のサイズ,及び該真空容器で扱う真空度によって変更可能であり,凸条41,42の高さh〔図1(A)中の拡大図参照〕は任意であるが,ボルトの締め付けによって好ましくは頂部から0.1〜0.5mmの範囲が変形して潰れるように形成する。
【0061】
この凸条41,42が押圧される他方の部材(フランジ10,20)の平坦面には,メタルガスケットとの癒着を防止するために表面処理を行い,長時間の押圧によっても両部材間に癒着が生じないようにすることが好ましい。
【0062】
このような表面処理としては,接合される2つの部材の材質とは異なる材質の金属被膜,例えばフランジ10,20とメタルガスケット30をいずれも銅(Cu),無酸素銅C1020で形成した本実施形態にあってはニッケルの被膜を形成することにより,前述した癒着を防止することができた。
【0063】
なお,前述のような表面処理が被膜の形成である場合,形成される被膜はポーラス(空孔)の無いものである必要があり,本実施形態にあっては無電解ニッケルメッキによってこのような被膜を形成したが,同様にポーラスの無い被膜を形成することができるものであればイオンプレーティング,その他の方法により被膜を形成するものとしても良い。
【0064】
なお,図1〜3に示す実施形態において,図1における符号21,図2,3における符号11,21はいずれもフランジ溝であり,フランジ10,20を緊締して凸条41,42が変形すると,このフランジ溝11,21内に前述したメタルガスケット30が完全に嵌合できるように構成している。
【0065】
このように,フランジ溝11,21内にメタルガスケット30を完全に嵌合することができるようにするために,前述のフランジ溝11,21の総深さ(図1に示すようにフランジ溝21が片方のフランジ20にのみ形成されている場合にはこのフランジ溝21の深さ,図2及び図3に示すように2つのフランジ10,20にそれぞれフランジ溝11,21が形成されている場合には,2つのフランジ溝11,21の深さの和)を,メタルガスケットの厚みや凸条41,42の変形量等に対応して調整する。
【0066】
このようにして凸条41,42の変形によってメタルガスケット30がフランジ溝11,21内に完全に嵌合することにより,このようなシール構造を加速器の導波管の連結等に使用した場合には,図1(B)に示すようにフランジ10,20の連結部において真空容器1の内周面1aを凹溝等を有しない平坦な形状に形成することができることから,RFコンタクトの取付等を行うことなしに高周波の励起を好適に防止することができるものとなっている。
【0067】
なお,図1〜3を参照した実施形態では,2つのフランジ10,20間に,これらのフランジ10,20とは別に設けられた,前記フランジ10,20と物性が近似する同一又は異種材質のメタルガスケット30を挟持し,このメタルガスケット30とフランジ10,20間に生じる被封止間隙δ1,δ2を封止するために前述の凸条41,42を形成するものとして説明したが,例えば図4(A)〜(D)に示すように,前述したメタルガスケット30をフランジ10,20と別に設けることなく,一対のフランジ10,20間の間隙を被封止間隙δ1とし,この被封止間隙δ1を封止するための凸条41をフランジ10,20の一方から他方に向かって突出形成するものとしても良い。
【0068】
この場合,図4(A)に示すようにフランジ10,20の一方(図示の例ではフランジ20)に直接,凸条41を設け,他方のフランジ(図示の例ではフランジ10)を全体的に平坦な形状として形成するものとしても良いが,例えば図4(B)に示すように,他方のフランジ(図示の例ではフランジ10)に変形後の凸条41を受け入れ得るフランジ溝11を形成しても良く,このように形成することで,両フランジ10,20の平坦面12,22を接合させることができ,これによりこのようなシール構造を加速器の導波管の連結部に使用した場合には,RFコンタクトの取付等を行うことなしにフランジ10,20の接合部における真空容器1の内周面1aを平坦な形状とすることができる。
【0069】
また,図4(C),(D)に示すように,一方のフランジ(図示の例ではフランジ20)に前述したメタルガスケットに対応する凸部23を設けると共に,この凸部23を受け入れるフランジ溝11を他方のフランジ(図示の例ではフランジ10)に形成し,前記凸部23上に楔状の凸条41を設けるか〔図4(C)〕,又は前記フランジ溝11に前記凸条41を設けることにより,両フランジ10,20をボルト60及びナット61で緊締した際,フランジ溝11に対する凸部23の受け入れと,凸条41の変形により,被封止間隙δ1をより確実に封止することができると共に,凸部23及び凸条41の突出高さとフランジ溝11の高さの調整によりフランジ10,20の緊締時,一方のフランジ20の平坦面22と,他方のフランジ10の平坦面12が重なり合うように構成することで,この構成を加速器の導波管等の連結部に採用した場合には,RFコンタクト等を取り付けることなしに真空容器1の内周面1aを平坦なものとして高周波の励起を防止することが可能となる。
【0070】
なお,以上で説明したように凸条41,42は,これをフランジ10,20に直接形成することも可能であるが,エラストマー等を使用したシールとは異なり,変形して潰れた凸条41,42は元の形状に復元しないため,フランジ10,20間の連結,着脱を繰り返すとシール性能が低下するため,この場合には凸条41,42を設けたフランジ自体の交換が必要となる。
【0071】
一方,凸条41,42を前述した先鋭な形状に形成すると共に,この凸条41,42が圧接される平坦面を構成する部材と物性が近似する同一又は異種材質にて形成したことにより,フランジ10,20の緊締によって凸条41,42には変形が生じるものの,この凸条41,42が押圧される平坦面側の変形は,0.01mm以下であり,継続して使用するに問題ない。
【0072】
よって,フランジ部の着脱が行われる用途では,前述したようにフランジ10,20間にメタルガスケット30を介在させると共に,凸条41,42のいずれ共にこのメタルガスケット30側に設けた構成とすることが好ましい。
【0073】
このように構成することで,着脱を行った際,メタルガスケット30のみを交換すれば,フランジ10,20については継続して使用することが可能である。
【0074】
なお,前述したように2つのフランジ10,20間にメタルガスケット30を挟持する構成にあっては,更に図1に示すように,フランジ10,20に対するメタルガスケット30の取付位置を規制するガイドピン50を,例えば一方のフランジ(図示の形ではフランジ20)に形成すると共に,このガイドピン50の取付位置に対応する位置のメタルガスケット30にこのガイドピン50を嵌合する切欠や開孔34等のガイドピン係合部を設け,他方のフランジ(図示の例ではフランジ10)に,前記ガイドピン50が挿入される開孔13を設ける等して,3者を正確に位置決めできるようにしても良い。
【0075】
このように構成することにより,フランジ10,20間の連結の際に変形した凸条41,42であっても,フランジ間の連結を解除した後,再度,連結する際に,同じフランジ10,20とメタルガスケット30を組み合わせて使用することで,各部材間における接触位置を完全に一致させることができる結果,潰れた凸条41,42を備えた部材を交換せずに使用した場合であっても,良好なシール性を発揮させることができるものとなっている。
【0076】
以上のように構成されたシール構造において,図1〜3を参照して説明した構成のものにあってはフランジ10,20間にメタルガスケット30を挟持した後,図4(A)〜(D)を参照して説明したものにあっては,このようなメタルガスケット30を介在させることなく2つのフランジ10,20を直接重ね合わせた後,2つのフランジ10,20を図示せざるクランプにより緊締し,又は,図示の例に示すようにボルト60とナット61によって締め付けて緊締する。
【0077】
ボルト60とナット61による締め付けにより,2つのフランジ10,20間の間隔が徐々に狭まって,前述した被封止間隙δ1,δ2を構成する一方の部材に形成された凸条41,42の先端が,他方の部材の平坦部に押し当てられる。
【0078】
この状態から更にボルト60及びナット61を締め込んでいくと,フランジ10,20間の間隔が更に狭まり,凸条41,42の先端は他方の部材の平坦面に押圧されて変形して,図1(B)中の拡大図に示すように断面台形状に潰れ,この変形による潰れによって平坦面の表面に追従した形状となって強く押圧される結果,表面の僅かな凹凸等に伴う欠陥が無くなり,信頼性の高いシール性を発揮できるものとなっている。
【0079】
しかも,凸条41,42の先端が,好ましくは90〜30°,本実施形態にあっては60°に形成されていることにより,被封止間隙δ1,δ2を構成する一方の部材に形成した凸条41,42と,他方の部材の材質を同じ材質の金属とした場合であっても,凸条41,42を比較的容易に変形させることができ,その結果,ボルト60及びナット61の締め付けトルクを大幅に低減することができただけでなく,かつ,ボルト60の配置間隔を広げた場合であっても好適に締め付けを行うことができるものであった。
【0080】
このようなボルト60とナット61の締め付けにより,フランジ10,20間の間隔を更に狭め,図1〜3,及び図4(B)〜(D)に示した構成にあっては,2つのフランジ10,20の平坦面12,22が重なり合うと,ボルト60を締める際の抵抗が急に大きくなるので,この時点でボルト60の締め付けを終了すると,凸条41,42を必要量変形させた状態での締め付けが完了する。
【0081】
なお,図4(A)に示す構成にあっては,凸条41の変形が先端側から裾側に及ぶに従ってボルト60の締め付けトルクが上昇することから,例えばトルクレンチ等を使用した締め付けによって,締め付けトルクが規定値となったときに締め付けを完了するものとすれば良い。
【0082】
以上のようにして,フランジ10,20の緊締が終了した後のシール部は,リーク量1.3×10−11Pa・m/sec以下の封止が可能であり,超高真空での使用に耐え得るものであった。
【0083】
しかも,前述したように被封止間隙δ1,δ2を構成する各部材が同一材質の金属によって構成されていることから,ベーキングの後に真空容器の温度が低下した場合であっても,膨張率の相違によって被封止間隙に隙間が生じてリークが生じる等の問題が生じることも回避できた。
【0084】
また,前述した締め付けにより,凸条の先端部は変形するものの,この凸条が押圧される平坦部に生じる凹みは0.01mm以下であり,図1に示すように凸条41,42のいずれ共にメタルガスケット30側に構成した例にあっては,メタルガスケット30の交換によってフランジ10,20は繰り返しの使用が可能であった。
【0085】
なお,図1〜3,図4(B)〜(D)に示したように,フランジ10,20の緊締によってフランジ10,20の平坦面12,22が接触する構成にあっては,このようなシール構造を加速器の導波管の連結に使用することで,導波管の接続部内周に,図9を参照して説明した従来技術のような凹溝148が形成されずに平坦な形状とすることができると共に,接続部における導波管内壁に異種材質の金属が介在することが無くなる。
【0086】
その結果,前記構成のシール構造を加速器の導波管の接続に使用する場合には,信頼性の高いシール性が得られるだけでなく,高価なRFコンタクト等の取り付け無しに,荷電粒子ビームに伴うパルス状の高電流(壁電流)を確実に導通させることができると共に,ビームに起因する高次高周波の励起を防止することができた。
【0087】
なお,図1〜3を参照して説明した実施形態にあっては前述したメタルガスケット30を,フランジ10,20に設けたフランジ溝11,21内に嵌合することにより,2つのフランジ10,20の平坦面12,22を接合することで,接合部における圧力容器1の内壁に凹溝148を形成することなく,平坦な形状に形成するものとして説明したが,図5及び図6に示す実施形態にあっては,一対のフランジ10,20の対向位置にフランジ溝11,21を形成すると共に,前述したメタルガスケット30に,前記フランジ溝11,21の形成位置間で前記フランジ10,20に挟持される第1部分31と,前記フランジ溝11,21の形成位置に対して圧力容器1の内周側に形成された平坦面12,22間で前記フランジ10,20間に挟持される第2部分32を設けた構成としている。
【0088】
そして,前記メタルガスケット30の第1部分31と,前記フランジ溝11,21の溝底間の間隙を被封止間隙δ1,δ2とし,この被封止間隙δ1,δ2を構成する一方の部材から他方の部材に向かって突出する凸条41,42を設けている。
【0089】
この凸条41,42は,図5に示すようにメタルガスケット30側からフランジ溝11,21の底部側に向かって突出するように設けても良く,又は,図6に示すようにフランジ溝11,21の底部からメタルガスケット30側に向かって突出形成しても良く,更には図示は省略するがこれらを組み合わせた構成としても良いが,前述したようにメタルガスケット30側に凸条41,42を設ける構成とすれば,フランジ10,20を交換することなく,メタルガスケット30のみの交換により繰り返し使用できる点で有利である。
【0090】
この構成において,前記フランジ10,20の緊締によって前記メタルガスケット30の前記第2部分32が前記フランジ間に圧接挟持されたとき〔図5(B)参照〕,前記凸条41,42の所定量の変形が得られるよう,前記フランジ溝11,21の総深さ,前記メタルガスケット30の第1部分32の厚み,及び前記凸条41,42の突出高さを設定している。
【0091】
これにより,フランジ10,20をボルト60及びナット61によって緊締していくと,凸条41,42の先端部が所定量変形して潰れたとき,フランジ10,20の平坦面12,22がメタルガスケット30の第2部分32に挟持されて,フランジ10,20の緊締が終了する。
【0092】
前述のメタルガスケット30の第2部分32の内周縁33は,取付時,真空容器1の内壁と同位置となるように,例えば真空容器1が円筒である場合には真空容器1の内周面1aとメタルガスケット30の内周縁とを同径に形成しており,そのためフランジ10,20の緊締が完了すると,真空容器1の内壁側においてフランジ10とフランジ20との間にはメタルガスケット30の第2部分32が配置されることにより,接合部における真空容器1の内面が平坦となる。
【0093】
従って,この構成のメタルガスケット30にあっては,フランジ10,20の平坦面12,22間に挟持される第2部分32が,図9を参照して説明した従来技術におけるRFコンタクト150と同様の機能を発揮する。
【0094】
そして,2つのフランジ10,20と前述のメタルガスケット30は,いずれも同一材質の金属によって形成されたものであるから,高価なRFコンタクト等を取り付けることなしに,前述した壁電流を確実に導通させることができると共に,高次高周波の励起を好適に防止することができるものとなっている。
【0095】
なお,図5及び図6中,符号14,24は支持脚であり,2つのフランジ10,20が平行となるようフランジ10,20の外周側における位置を規制する。
【符号の説明】
【0096】
1 真空容器
1a 内周面(真空容器の)
10 フランジ
11 フランジ溝
12 平坦面
13 開孔
14 支持脚
20 フランジ
21 フランジ溝
22 平坦面
23 凸部
24 支持脚
30 メタルガスケット
31 第1部分
32 第2部分
33 内周縁
34 開孔
41,42 凸条
50 ガイドピン
60 ボルト
61 ナット
70 電子銃
δ1,δ2 被封止間隙
110,120 フランジ
130 メタルOリング
131 金線
132 メタルガスケット(軟質金属)
141,142 ナイフエッジ
148 凹溝
150 RFコンタクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のフランジを重ね合わせて緊締することにより連結される連結部を備えた真空容器のフランジ間をシールするシール機構において,
前記フランジ間に生じる被封止間隙を構成する各部材の材質を物性が近似乃至は一致する同材質または異種の金属によって形成し,
前記被封止間隙を構成する二部材の一方から他方に向かって環状に突出する,断面において楔型を成す凸条を形成したことを特徴とする真空容器におけるフランジ部のシール構造。
【請求項2】
前記一対のフランジの少なくとも一方と同一材質で,且つ,前記一対のフランジ間に挟持される環状のメタルガスケットを前記フランジとは別に設け,前記メタルガスケットと少なくとも一方のフランジとの間に形成された間隙を,前記被封止間隙としたことを特徴とする請求項1記載の真空容器におけるフランジ部のシール構造。
【請求項3】
前記フランジの一方又は双方に,前記メタルガスケットを嵌合可能なフランジ溝を形成すると共に,前記凸条の先端が所定量潰れて変形した際,前記フランジ溝内に前記メタルガスケットが完全に嵌合して,前記メタルガスケットの内周側における前記フランジの平坦面が重なり合う深さに前記フランジ溝を形成したことを特徴とする請求項2記載の真空容器におけるフランジ部のシール構造。
【請求項4】
前記フランジ双方の対向位置にそれぞれフランジ溝を形成すると共に,
前記メタルガスケットに,前記フランジ溝の形成位置において前記フランジ間に挟持される第1部分と,前記フランジ溝の形成位置に対し真空容器の内周側において前記フランジ間に挟持される第2部分を設け,
前記第2部分の内周縁が,前記真空容器の内周面と同位置となるよう前記メタルガスケットを形成すると共に,
前記フランジの緊締によって前記メタルガスケットの前記第2部分が前記フランジ間に圧接挟持されたとき,前記凸条の所定量の変形が得られるよう,前記フランジ溝の総深さ,前記メタルガスケットの第2部分の厚み,及び前記凸条の突出高さを設定したことを特徴とする請求項2記載の真空容器におけるフランジ部のシール構造。
【請求項5】
前記一対のフランジに対し前記メタルガスケットを位置決めするガイドピンを前記フランジ又は前記メタルガスケットのいずれかに設けると共に,残りの部材に前記ガイドピンを受け入れるガイドピン嵌合部を設けたことを特徴とする請求項2〜4いずれか1項記載の真空容器におけるフランジ部のシール構造。
【請求項6】
前記凸条を,いずれも前記メタルガスケットに設けたことを特徴とする請求項2〜5いずれか1項記載の真空容器におけるフランジ部のシール構造。
【請求項7】
前記メタルガスケットを,耐ベーキング性を有する材質としたことを特徴とする請求項2〜6いずれか1項記載の真空容器におけるフランジ部のシール構造。
【請求項8】
前記凸条の断面における先端部の角度θ〔図1(A)参照〕が,90〜30°であることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載の真空容器におけるフランジ部のシール構造。
【請求項9】
前記被封止間隙を構成する二部材の前記他方の表面に,前記二部材間の癒着を防止する表面処理を施したことを特徴とする請求項1〜8いずれか1項記載の真空容器におけるフランジ部のシール構造。
【請求項10】
請求項1〜7いずれか1項記載のフランジ部のシール構造を備えた真空容器の前記一対のフランジを重ね合わせて緊締することにより,前記凸条の先端部を所定量変形させて潰すことにより前記被封止間隙をシールすることを特徴とする真空容器におけるフランジ部のシール方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−82891(P2012−82891A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229012(P2010−229012)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(593076769)株式会社ムサシノエンジニアリング (9)
【Fターム(参考)】