説明

真空断熱材用芯材、真空断熱材、および、これらの製造方法

【課題】従来の断熱性能の改善限界を超えることが可能で、優れた断熱性能を有し、かつ、工業的に大量生産が可能な真空断熱材用芯材、その芯材を備えた真空断熱材、および、これらの製造方法を提供する。
【解決手段】真空断熱材用芯材100は、複数の不織布110を積層することにより構成された真空断熱材用芯材である。不織布110は、連続フィラメント法によって製造された複数のガラス繊維111、112を少なくとも含む。不織布110においては、複数のガラス繊維のうち大半のガラス繊維111、112が不織布110の表面とほぼ平行な方向に延在している。不織布110の表層部には相対的に多量の液状バインダー成分が存在し、不織布110の内部には相対的に少量の液状バインダー成分が存在する。液状バインダー成分の含有量が不織布に対して0.1質量%以上1.5質量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、真空断熱材用芯材、真空断熱材、および、これらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種食品を加温、冷却、保温することを目的として使用される冷蔵庫、保冷箱、保温箱等には、従来から、種々の構造や性能を有する断熱材が使用されている。断熱材の中でも真空断熱材は断熱性能に優れているため、断熱を必要とする家庭用冷蔵庫等の機器に広く使用されている。真空断熱材は、一般的に、無機材料からなる芯材を外包材に充填した後、外包材を密閉し、外包材の内部を減圧状態に保持することによって得られる。このような真空断熱材の芯材は、無機材料の中でも、火炎法または遠心法によって製造されたガラス繊維からなるグラスウールを用いて形成される。
【0003】
たとえば、特開2005−265038号公報(特許文献1)に記載の真空断熱材は、無機繊維としてのガラス繊維からなるグラスウールを湿式抄造した無機繊維シートを複数枚積層したものを芯材として用いて構成され、無機繊維中の粒子径30μm以上のショット含有率が0.1質量%以下であり、無機繊維中の平均繊維径が0.2〜6μmであり、無機繊維がシート面に対して水平方向に配列されている。
【0004】
また、特開2006−17169号公報(特許文献2)に記載の真空断熱材では、無機繊維積層材料としてのガラス繊維からなるグラスウールで構成されている芯材が外被材内に減圧密封されており、真空断熱材中の芯材の密度が200〜270kg/m3であり、外被材を開包した後の芯材が繊維長100μm以上のガラス繊維を75%以上含有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−265038号公報
【特許文献2】特開2006−17169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図8は、従来から真空断熱材の芯材として用いられてきたグラスウールにおけるガラス繊維の分布状態を模式的に示す平面図である。図9は従来から真空断熱材の芯材として用いられてきたグラスウールにおけるガラス繊維の圧縮される前の分布状態を示す平面の電子顕微鏡写真(倍率100倍)、図10は同様の分布状態を示す断面の電子顕微鏡写真(倍率100倍)である。
【0007】
図8に示すように、グラスウール500においては、種々の繊維長の多数本のガラス繊維510が様々な方向に延びてランダムに分布していることがわかる。また、図8と図9に示すように、火炎法または遠心法によって製造されたグラスウールにおいては、主体となる繊維に対して、繊維長が1mm以下の短い繊維や、繊維径が1μm以下の微細な繊維が混入された状態である。このような短い繊維や微細な繊維は、主体となる繊維の間を充填したり、主体となる繊維の間に絡みついたりして、繊維間に熱伝導が発生し、芯材の厚み方向に沿って熱伝導を引き起こすことによって、断熱性能を低下させているものと考えられる。また、このようなグラスウールにおいては、主体となる繊維も、折れ曲がったり、捩れたりした多数の繊維を含むことがわかる。
【0008】
このようにグラスウールは構成されているので、特開2005−265038号公報(特許文献1)に記載されているように、湿式抄造によってシートを形成する際にガラス繊維をシート面に対して水平方向に配列させようとしても、大半のガラス繊維を整列させることは非常に困難である。
【0009】
また、特開2006−17169号公報(特許文献2)に記載されているように、繊維長100μm以上のガラス繊維を75%以上含有する芯材を、芯材の密度が200〜270kg/m3になるようにグラスウールを押圧しても、大半のガラス繊維を整列させることは非常に困難である。
【0010】
したがって、上記のいずれの公報に記載の真空断熱材の芯材においても、繊維間の熱伝導の発生による断熱性能の低下を防止することは困難である。このため、得られた真空断熱材の熱伝導率は2mW/m・K程度であり、従来の改善手法では真空断熱材の断熱性能の向上には限界があった。
【0011】
そこで、この発明の目的は、従来の断熱性能の改善限界を超えることが可能で、優れた断熱性能を有し、かつ、工業的に大量生産が可能な真空断熱材用芯材、その芯材を備えた真空断熱材、および、これらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、従来の真空断熱材に用いられてきた芯材の問題点を解決するために鋭意検討を重ねた結果、真空断熱材用芯材を構成する繊維に、連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維を少なくとも含ませることにより、上記の目的を達成できることを見出した。ここで、連続フィラメント法とは、溶融ガラスを、ブッシングノズルを通して、連続的に、流下、引伸し、繊維化する操作によって、連続したフィラメントを生成する繊維製法である。この知見に基づいて、本発明に従った真空断熱材用芯材は、次のような特徴を備えている。
【0013】
この発明に従った真空断熱材用芯材は、複数の不織布を積層することにより構成された真空断熱材用芯材である。不織布は、連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維を少なくとも含む。不織布においては、複数の無機繊維のうち大半の無機繊維が不織布の表面とほぼ平行な方向に延在している。
【0014】
連続フィラメント法によれば、繊維径のばらつきが極めて小さい多数本の繊維を大量生産することができる。また、連続フィラメント法によって製造された無機繊維は、各繊維の真直度が極めて高い。このため、連続フィラメント法によって製造された多数本の無機繊維をほぼ一定の長さに切断することによって、繊維径のばらつきが極めて小さい、ほぼ同じ長さの多数本の無機繊維を、真直度が極めて高い状態で得ることができる。
【0015】
この発明の芯材を構成する不織布は、連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維を少なくとも含むので、このような複数の無機繊維を用いて、不織布を形成する際に各無機繊維を不織布の表面に対して平行な方向に配列させようとすると、大半の無機繊維が不織布の表面とほぼ平行な方向に延在するように複数の無機繊維を容易に整列させることができる。このとき、大半の複数の無機繊維は、不織布の表面とほぼ平行な方向に延在するが、互いに密着して平行な方向には整列せず、不織布の表面を形成する平面内でランダムな方向を向いて分散するように整列する。これにより、芯材を構成する複数の無機繊維の間を充填するような無機繊維の存在を極力なくすことができ、また複数の無機繊維の間に絡みつくような無機繊維の存在を極力なくすことができるので、無機繊維間に熱伝導が発生するのを防止することができる。このため、芯材の厚み方向に沿って熱伝導が生じるのを防止することによって、芯材の熱伝導率を低下させることができ、従来の断熱性能の改善限界を超えることが可能となり、優れた断熱性能を有する真空断熱材用芯材を得ることができる。
【0016】
ところで、上述のように構成された真空断熱材用芯材として用いられる、たとえば、ガラス繊維からなる不織布には、繊維同士の結合力が存在しない。このため、不織布の製造工程におけるガラス繊維の脱落を防止するとともに、後工程の加工工程における型くずれを防止するために、抄紙工程においてバインダーを使用する必要がある。
【0017】
液状のバインダーは、表面張力によって、複数のガラス繊維が交差する箇所の周辺に集まりやすい。このため、隣り合うガラス繊維同士が点で接触している状態であっても、その接触部の周りをバインダーが覆う可能性がある。これにより、バインダーを介した熱伝導が発生するものと予想されるので、液状のバインダーは好ましくないと考えられる。そこで、粒状または繊維状のバインダーを使用することが考えられる。
【0018】
バインダーとして粒状バインダーや繊維状バインダーを使用し、ガラスチョップドストランドに、これらのバインダーを分散混合して湿式抄紙法によって不織布を製造した場合、バインダーの多くは繊維の接触点以外で繊維間をバインダーによって橋渡しすることが考えられる。このような橋渡しは極めて繊細であり、熱伝導を発生させる可能性が極めて少ないことが予想される。しかし、断熱性能を限界まで高めるためには、このようなバインダーによる熱伝導を抑制する必要がある。
【0019】
そこで、バインダーの橋渡しによる僅かな熱伝導を防止し、断熱性能を限界まで高めるために、真空密封前に芯材中のバインダーを、熱分解などの方法で除去または低減することにより、さらに断熱性能を向上させることが考えられる。
【0020】
すなわち、芯材を外包材に封入する前に、バインダーの熱分解温度より高く、かつ、無機繊維の一例として用いられるガラス繊維の融点より低い温度で処理することにより、バインダーのみを熱分解により除去することが考えられる。また、バインダーとして、たとえば、ポリビニルアルコール(PVA)等の水溶性樹脂バインダーを用いた場合は、上記の方法のほかに、温水等で洗浄することによりバインダーを除去または低減することが考えられる。
【0021】
しかし、上記の方法を用いて芯材中のバインダーを除去するためには、長時間の加熱工程または洗浄工程が必要となる上、バインダーを除去した後の芯材は強度が非常に弱いため、外包材に封入する作業にも時間を要する。そのため、非常に断熱性能の優れた真空断熱材が得られるものの、従来の真空断熱材の製造設備では工業的に大量生産することが困難になるという新たな問題が生じる。
【0022】
そこで、本発明者らは、上記の問題点を解決するために鋭意検討を重ねた結果、真空断熱材用芯材を構成する繊維に、連続フィラメント法によって製造された複数の繊維を少なくとも含ませた真空断熱材用芯材において、バインダーとして、ごく少量の液状バインダーを使用することにより、上記の新たな問題を解消することができることを見出した。ここで、液状バインダーとは、バインダー成分を溶解して液状にしたもの、または、バインダー成分をエマルジョン化して液状にしたものをいう。
【0023】
粒状または繊維状バインダーを使用した場合、バインダー成分による熱伝導を抑制するために、不織布中のバインダー成分の含有量を限界まで減らしてゆくと、バインダー成分が不織布内に均一に存在するため、強度が低下するばかりでなく、不織布の表面において繊維が脱落しやすくなり、不織布製造工程において乾燥設備に脱落した繊維が大量に付着し、連続生産が困難になる等の不具合が発生する。
【0024】
一方、液状バインダーを使用した場合、不織布中のバインダー成分の含有量を極端に少なくしても、粒状または繊維状バインダーを使用した場合と比較して、連続生産を行うのに十分な強度が得られるだけでなく、断熱性能も優れることが本発明者らによって見出された。この理由は、以下の通りと推定される。
【0025】
液状バインダーは、不織布製造時の加熱乾燥工程において、不織布ウエブ内部の水分が蒸発する際にバインダーもいっしょに移動するため、不織布の両表面にバインダーが集まり、不織布の内部のバインダーが少なくなる傾向が発生する。
【0026】
また、液状バインダーは、表面張力によって複数の繊維が交差する箇所の周辺に集まりやすい。これは、熱伝導の観点からは好ましくないが、強度の観点からは好ましい。そのため、液状バインダーを使用した場合、粒状または繊維状バインダーを使用した場合と比較して、不織布中のバインダー成分の含有量を極端に減少させても、不織布の両表面に集中したバインダーが繊維間を比較的強固に結合させるため、全体の強度は高まり、不織布製造工程や真空断熱材製造工程において必要な強度が得られる。
【0027】
さらに、不織布の内部においては、バインダー成分の含有量が不織布の表面よりもさらに少なくなるため、バインダーを介した熱伝導が非常に少なくなる。
【0028】
これらの理由により、ごく少量の液状バインダーを使用した場合には、不織布の表面付近の繊維間を効果的に接着するので、本発明の真空断熱材用芯材は、工業的に大量生産する上で十分な強度を発現する一方、不織布の内部においてはバインダーの量を極端に少なくすることが可能である。
【0029】
なお、粒状または繊維状バインダーを使用した場合には、液状バインダーのように加熱乾燥工程において不織布内でバインダーが移動するというような現象がほとんど発生しない。
【0030】
以上の発明者らの知見に基づいて、本発明に従った真空断熱材用芯材は、次のような特徴をさらに備えている。
【0031】
この発明に従った真空断熱材用芯材は、複数の不織布を積層することにより構成された真空断熱材用芯材である。不織布は、連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維を少なくとも含む。不織布においては、複数の無機繊維のうち大半の無機繊維が不織布の表面とほぼ平行な方向に延在している。このような構成を備えた真空断熱材用芯材において、不織布の表層部には相対的に多量の液状バインダー成分が存在し、不織布の内部には相対的に少量の液状バインダー成分が存在することをさらに特徴としている。
【0032】
この発明の真空断熱材用芯材において、バインダー成分の含有量は、不織布に対して0.1質量%以上1.5質量%以下である
【0033】
バインダー成分の含有量が0.1質量%よりも少ないと、不織布製造工程と真空断熱材製造工程において強度が不足し、また不織布の表面において繊維が脱落したり、飛散したりする現象が非常に多く起こるため、工業的に大量生産することが困難になる。また、バインダー成分の含有量が1.5質量%を超えると、粒状または繊維状バインダーを使用した場合と比較して、真空断熱材用芯材断熱性能が同等以下となり、液状バインダーを使用する効果が得られなくなる。
【0034】
この発明の真空断熱材用芯材において、無機繊維の平均繊維径が3μm以上15μm以下、無機繊維の平均繊維長が3mm以上15mm以下であることが好ましい。この場合、芯材の熱伝導率を最も低下させることができ、最も優れた断熱性能を有する真空断熱材用芯材を得ることができる。
【0035】
この発明の真空断熱材用芯材において、無機繊維はガラス繊維であることが好ましい。この場合、ガラス繊維は、他の無機繊維、たとえば、セラミック繊維よりも熱伝導率が小さいので、素材自体の熱伝導率を低下させることにより、芯材の断熱性能をより向上させることができる。
【0036】
この発明に従った真空断熱材は、外包材と、外包材の内部に収容される芯材とを備える。外包材は、内部を減圧状態に保つことが可能であるように構成されている。芯材が、上述のいずれかの特徴を有する真空断熱材用芯材を少なくとも1枚以上含む。
【0037】
この発明に従った真空断熱材用芯材の製造方法は、連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維と、液状バインダーとを少なくとも用いて、湿式抄紙法によって不織布を製造するステップを備え、このステップにおいて、製造された不織布の表面とほぼ平行な方向に、複数の無機繊維のうち大半の無機繊維を延在させ、さらに、複数の不織布を積層するステップを備える。
【0038】
この発明の真空断熱材用芯材の製造方法では、連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維と、液状バインダーとを少なくとも用いる。このような複数の無機繊維を用いて、湿式抄紙法によって不織布を製造する際に各無機繊維を不織布の表面に対して平行な方向に配列させようとすると、大半の無機繊維が不織布の表面とほぼ平行な方向に延在するように複数の無機繊維を容易に整列させることができる。
【0039】
このとき、大半の複数の無機繊維は、不織布の表面とほぼ平行な方向に延在するが、互いに密着して平行な方向には整列せず、不織布の表面を形成する平面内でランダムな方向を向いて分散して整列する。これにより、芯材を構成するために複数の不織布を積層しても、複数の無機繊維の間を充填するような無機繊維を極力なくすことができ、また複数の無機繊維の間に絡みつくような無機繊維を極力なくすことができるので、不織布の表面とほぼ平行な方向に配列された無機繊維間に熱伝導が発生するのを防止することができる。
【0040】
また、不織布製造時の乾燥工程において、不織布の内部の水または溶媒が蒸発する際に不織布の表面に移動するのに伴い、液状バインダーは不織布の両表面層に集中する。そのため、不織布に含まれるバインダーがごく少量であっても、不織布の表面の強度は高くなるので、不織布の表面における繊維の飛散が抑制され、不織布製造工程と真空断熱材製造工程において必要な強度は得られるだけでなく、不織布の内部のバインダー含有量はさらに少なくなるので、バインダーを介した熱伝導も非常に小さくなる。
【0041】
このため、芯材の厚み方向に沿って熱伝導が生じるのを極力防止することによって、芯材の熱伝導率を低下させることができ、かつ、従来の断熱性能の改善限界を超えることが可能となり、優れた断熱性能を有する真空断熱材用芯材を得ることができる。
【0042】
また、不織布に含まれるバインダーがごく少量であっても、不織布製造工程と真空断熱材製造工程において必要な強度を有し、不織布の表面からの繊維の飛散や脱落も少ないため、真空断熱材を工業的に大量生産することが可能な中間材料としての真空断熱材用芯材を得ることができる。
【0043】
この発明に従った真空断熱材の製造方法は、連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維と、液状バインダーとを少なくとも用いて、湿式抄紙法によって不織布を製造するステップを備え、このステップにおいて、製造された不織布の表面とほぼ平行な方向に、複数の無機繊維のうち大半の無機繊維を延在させ、さらに、複数の不織布を積層するステップと、積層された複数の不織布を外包材の内部に収容し、外包材の内部を減圧状態に保つステップとを備える。
【0044】
この発明の真空断熱材の製造方法では、連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維と、液状バインダーとを少なくとも用いる。このような複数の無機繊維を用いて、湿式抄紙法によって不織布を製造する際に各無機繊維を不織布の表面に対して平行な方向に配列させようとすると、大半の無機繊維が不織布の表面とほぼ平行な方向に延在するように複数の無機繊維を容易に整列させることができる。このとき、大半の複数の無機繊維は、不織布の表面とほぼ平行な方向に延在するが、互いに密着して平行な方向には整列せず、不織布の表面を形成する平面内でランダムな方向を向いて分散するように整列する。これにより、芯材を構成するために複数の不織布を積層しても、複数の無機繊維の間を充填するような無機繊維の存在を極力なくすことができ、また複数の無機繊維の間に絡みつくような無機繊維の存在を極力なくすことができるので、無機繊維間に熱伝導が発生するのを防止することができる。そして、積層された複数の不織布を外包材の内部に収容し、外包材の内部を減圧状態に保つことにより、真空断熱材を製造することができる。
【0045】
さらに、不織布の内部のバインダー成分の含有量は非常に少量であるため、複数の無機繊維の交差する場所にバインダー成分が付着する確率も非常に少ない。そのため、バインダーを介した熱伝導がごく僅かである。
【0046】
このようにして、芯材の厚み方向に沿って熱伝導が生じるのを防止することができる。このため、芯材の熱伝導率を低下させることができる。これにより、従来の断熱性能の改善限界を超えることが可能となり、優れた断熱性能を有する真空断熱材を得ることができる。
【0047】
さらに、少量のバインダーが不織布の表面の繊維間を効果的に接着する。このため、不織布製造工程と真空断熱材製造工程において必要な強度を不織布において確保することができる。これにより、真空断熱材を工業的に大量生産することが可能になる。
【発明の効果】
【0048】
以上のように、この発明によれば、連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維と液状バインダーとを少なくとも用いることによって、芯材の熱伝導率を低下させることができ、従来の断熱性能の改善限界を超えることが可能となり、優れた断熱性能を有する真空断熱材用芯材と、その芯材を備えた真空断熱材を得ることができる。
【0049】
また、この発明によれば、不織布の表層部には相対的に多量のバインダー成分が存在し、不織布の内部には相対的に少量のバインダー成分が存在するので、バインダーが不織布の両表面を効果的に接着するため、バインダーによる熱伝導が非常に少ないにもかかわらず、不織布製造工程と真空断熱材製造工程において必要な強度を不織布において確保することができるので、真空断熱材を工業的に大量生産することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】この発明の一つの実施の形態として、芯材と外包材の配置(A)と、外包材の内部を減圧したときの真空断熱材の内部の様子(B)を模式的に示す断面図である。
【図2】この発明の一つの実施の形態として、芯材と外包材の配置(A)と、外包材の内部を減圧したときの真空断熱材の内部の様子(B)を模式的に示す斜視図である。
【図3】本発明の一つの実施の形態として真空断熱材の芯材に用いられる不織布を構成するガラス繊維の分布状態を模式的に示す平面図である。
【図4】本発明の一つの実施の形態として真空断熱材の芯材に用いられる不織布を構成するガラス繊維の圧縮される前の分布状態を示す平面の電子顕微鏡写真(倍率100倍)である。
【図5】本発明の一つの実施の形態として真空断熱材の芯材に用いられる不織布を構成するガラス繊維の圧縮される前の分布状態を示す断面の電子顕微鏡写真(倍率100倍)である。
【図6】本発明の一つの比較の形態として真空断熱材の芯材に用いられる不織布における粒状または繊維状のバインダーの分布状態を不織布の厚み方向において模式的に示す断面図である。
【図7】本発明の一つの実施の形態として真空断熱材の芯材に用いられる不織布における液状のバインダーの分布状態を不織布の厚み方向において模式的に示す断面図である。
【図8】従来から真空断熱材の芯材として用いられてきたグラスウールにおけるガラス繊維の分布状態を模式的に示す平面図である。
【図9】従来から真空断熱材の芯材として用いられてきたグラスウールにおけるガラス繊維の圧縮される前の分布状態を示す平面の電子顕微鏡写真(倍率100倍)である。
【図10】従来から真空断熱材の芯材として用いられてきたグラスウールにおけるガラス繊維の圧縮される前の分布状態を示す断面の電子顕微鏡写真(倍率100倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0052】
図1は、この発明の一つの実施の形態として、真空断熱材の構成を模式的に示す断面図である。図1の(A)は、外包材の内部を減圧する前の状態、図1の(B)は、外包材の内部が減圧されている場合の状態を示す図である。
【0053】
図1に示すように、真空断熱材1においては、袋状に形成されたガスバリヤ性の外包材200の内部に芯材100が収容されている。
【0054】
図1の(A)に示すように、芯材100は、複数の不織布110が積層されて構成されている。それぞれの不織布110は、無機繊維の一例であるガラス繊維と、少量のバインダーを用いて、抄紙法によって作製されている。
【0055】
図1の(B)に示すように、外包材200の内部が減圧されると、外包材200の外部の大気圧によって芯材100が圧縮されて、芯材100を構成する不織布110同士が押し付けられるように接触する。外包材200の内部を減圧した状態での芯材100の密度は、100〜400kg/m3の範囲内に含まれる。
【0056】
以上のように不織布を構成し、不織布を積層して芯材を構成し、芯材を外包材の内部に配置して減圧して真空断熱材を構成する。
【0057】
図2は、この発明の一つの実施の形態として、芯材と外包材の配置(A)と、外包材の内部を減圧したときの真空断熱材の内部の様子(B)を模式的に示す斜視図である。各不織布、芯材、外包材は、それぞれ、一部のみが示されている。
【0058】
図2の(A)に示すように、不織布110を複数枚積層して、芯材100を形成する。芯材100は、外包材200に覆われている。外包材200はガスバリヤ性で、袋状に形成されており、芯材100の全体を覆う。
【0059】
図2の(B)に示すように、袋状の外包材200の内部を減圧すると、芯材100が圧縮される。芯材100が圧縮されると、不織布110同士が互いに押し付けられるようにして接触する。
【0060】
本発明者らは、上述のようにして構成される真空断熱材1の断熱性能を向上させるために、鋭意検討を行った結果、特定条件の無機繊維とバインダーを含むように構成される不織布110を芯材100として使用することによって、真空断熱材1の断熱性能が著しく向上することを見出し、本発明に到達した。
【0061】
そこで、図1に示すように本発明の真空断熱材1に用いられる芯材100を構成する不織布110が、連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維と、液状バインダーを少なくとも含むように構成される。
【0062】
また、図1に示すように、本発明の真空断熱材1は、外包材200と、外包材200の内部に収容される芯材100とを備え、外包材200は、内部を減圧状態に保つことが可能であるように構成され、芯材100が不織布110を積層することにより構成される。不織布110は、連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維と、液状バインダーを少なくとも含む。
【0063】
無機繊維としてはガラス繊維、セラミック繊維、ロックウール繊維等が挙げられるが、本発明の芯材を構成するために必要な細径の繊維が大量生産により比較的低価格で流通している点、素材自体の熱伝導率が小さい点から、無機繊維としてガラス繊維を使用するのが好ましい。
【0064】
本発明の一つの実施の形態では、一定の長さに切断したガラス繊維を用いて、湿式抄紙法によって製造した不織布110を真空断熱材の芯材100として使用する。ここで、一定の長さに切断したガラス繊維とは、連続フィラメント法によって溶融ガラスを多数のノズルから引き出すことによって成形された、太さが均一な糸状の連続フィラメントであるガラス繊維を数百〜数千本束ねて巻き取ってストランドとし、このストランドをギロチンカッター等により所定の長さに定寸切断したものをいう。このようにしてガラス繊維のストランドを定寸切断したものを、ガラスチョップドストランドという。
【0065】
このようにして得られたガラス繊維は、連続フィラメントを一定の寸法で切断して所定の長さにしたものであるので、真直度が極めて高く、剛性が高い繊維であって、ほぼ均一な繊維径を有し、ほぼ円形の断面を有する。すなわち、連続フィラメント法によれば、繊維径のばらつきが極めて小さい多数本の繊維を大量生産することができる。また、連続フィラメント法によって製造された無機繊維は、各繊維の真直度が極めて高い。このため、連続フィラメント法によって製造された多数本の無機繊維をほぼ一定の長さに切断することによって、繊維径のばらつきが極めて小さい、ほぼ同じ長さの多数本の無機繊維を、真直度が極めて高い状態で得ることができる。
【0066】
このため、このガラス繊維を用いて湿式抄紙法によって不織布110を製造した場合、繊維が不織布110の表面とほぼ平行な方向に延在するが、不織布110の表面を形成する平面内でランダムな方向を向いて分散するように整列された不織布110を得ることができる。
【0067】
図3は、本発明の一つの実施の形態として真空断熱材の芯材に用いられる不織布を構成するガラス繊維の分布状態を模式的に示す平面図である。図3では、2層のガラス繊維層からなる不織布が示されている。図4は本発明の一つの実施の形態として真空断熱材の芯材に用いられる不織布を構成するガラス繊維の圧縮される前の分布状態を示す平面の電子顕微鏡写真(倍率100倍)、図5は同様の分布状態を示す断面の電子顕微鏡写真(倍率100倍)である。
【0068】
図3に示すように、上層を形成する複数のガラス繊維111と下層を形成するガラス繊維112は、不織布110の表面とほぼ平行な方向に延在するが、互いに密着して平行な方向には整列せず、不織布110の表面を形成する平面内でランダムな方向を向いて分散するように整列している。また、図4と図5に示すように、各繊維の真直度が極めて高いことがわかる。また、大半の繊維が不織布110の表面とほぼ平行な方向に延在するが、不織布110の表面を形成する平面内でランダムな方向を向いて分散するように整列していることがわかる。
【0069】
このように本発明の芯材100を構成する不織布110は、連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維の一例であるガラス繊維111、112を少なくとも含むので、このような複数のガラス繊維111、112を用いて、不織布110を形成する際に各ガラス繊維111、112を不織布110の表面に対して平行な方向に配列させようとすると、大半のガラス繊維111、112が不織布110の表面とほぼ平行な方向に延在するように複数のガラス繊維111、112を容易に整列させることができる。このとき、大半の複数のガラス繊維111、112は、不織布110の表面とほぼ平行な方向に延在するが、互いに密着して平行な方向には整列せず、不織布110の表面を形成する平面内でランダムな方向を向いて分散するように整列する。これにより、芯材100を構成する複数のガラス繊維111、112の間を充填するようなガラス繊維の存在を極力なくすことができ、また複数のガラス繊維111、112の間に絡みつくようなガラス繊維の存在を極力なくすことができるので、ガラス繊維111、112間に熱伝導が発生するのを防止することができる。このため、芯材100の厚み方向に沿って熱伝導が生じるのを防止することによって、芯材100の熱伝導率を低下させることができ、従来の断熱性能の改善限界を超えることが可能となり、優れた断熱性能を有する真空断熱材用芯材100とその芯材100を備えた真空断熱材1を得ることができる。
【0070】
ガラス繊維111、112の組成としては特に限定せず、Cガラス、Dガラス、Eガラス等が使用できるが、入手の容易さからEガラス(アルミノホウケイ酸ガラス)を採用するのが好ましい。
【0071】
上述したように、本発明の芯材として不織布110を形成する無機繊維は、連続フィラメントを定寸切断して所定の長さとしたガラス繊維111、112であり、真直度が極めて高く、かつ、ほぼ円形の断面を有している。このため、ランダムな方向を向いて分散した複数のガラス繊維111、112が平行に整列して並ばない限り、ガラス繊維111、112同士は点で接触するので、ガラス繊維111、112間の熱伝導が著しく抑制される。
【0072】
ガラス繊維111、112の代わりに他の素材を用いることも考えられるが、一般に、アルミナ繊維を使用したアルミナチョップドストランド等の無機繊維材は、ガラス繊維111、112よりも高価であり、かつ熱伝導率が高いために好ましくない。
【0073】
また、有機材料は、一般に無機材料よりも熱伝導率は低いが、剛性を有しない。このため、有機繊維材は、繊維が交差する箇所で外圧によって繊維が変形し、繊維同士の面接触や真空空間比率の減少を引き起こす。その結果、有機繊維を芯材に用いた真空断熱材は、熱伝導率が高くなるので、好ましくない。
【0074】
本発明の真空断熱材用芯材100として用いられるガラス繊維111、112からなる不織布110には、繊維同士の結合力が存在しない。このため、不織布110の製造工程におけるガラス繊維111、112の脱落を防止するとともに、後工程の加工工程における型くずれを防止するために、抄紙工程においてバインダーを使用する必要がある。しかし、不織布110は最終的に真空断熱材1の芯材100として外包材200に内包されるため、バインダーの使用量は最低限にとどめる必要がある。
【0075】
本発明で使用されるバインダーは、以下の本発明者らの知見により、粒状または繊維状バインダーではなく、液状バインダーである。
【0076】
液状バインダーを使用した場合、不織布110中のバインダー成分の含有量を極端に少なくしても、粒状または繊維状バインダーを使用した場合と比較して、連続生産を行うのに十分な強度が得られるだけでなく、断熱性能も優れることが本発明者らによって見出された。この理由は、以下の通りと推定される。
【0077】
液状バインダーは、不織布110の製造時の加熱乾燥工程において、不織布110ウエブ内部の水分が蒸発する際にバインダーもいっしょに移動するため、不織布110の両表面にバインダーが集まり、不織布110の内部のバインダーが少なくなる傾向が発生する。
【0078】
また、液状バインダーは、表面張力によって複数のガラス繊維111、112が交差する箇所の周辺に集まりやすい。これは、熱伝導の観点からは好ましくないが、強度の観点からは好ましい。そのため、液状バインダーを使用した場合、粒状または繊維状バインダーを使用した場合と比較して、不織布110中のバインダー成分の含有量を極端に減少させても、不織布110の両表面に集中したバインダーがガラス繊維111、112間を比較的強固に結合させるため、全体の強度は高まり、不織布110の製造工程や真空断熱材1の製造工程において必要な強度が得られる。
【0079】
さらに、不織布110の内部においては、バインダー成分の含有量が不織布110の表面よりもさらに少なくなるため、バインダーを介した熱伝導が非常に少なくなる。
【0080】
これらの理由により、ごく少量の液状バインダーを使用した場合には、不織布110の表面付近のガラス繊維111、112間を効果的に接着するので、本発明の真空断熱材用芯材100は、工業的に大量生産する上で十分な強度を発現する一方、不織布110の内部においてはバインダーの量を極端に少なくすることが可能である。
【0081】
図6は、本発明の一つの比較の形態として真空断熱材の芯材に用いられる不織布における粒状または繊維状のバインダーの分布状態を不織布の厚み方向において模式的に示す断面図である。図7は、本発明の一つの実施の形態として真空断熱材の芯材に用いられる不織布における液状のバインダーの分布状態を不織布の厚み方向において模式的に示す断面図である。なお、図6では、ドットで示された部分がバインダーの分布状態を表している。図7では、黒の濃淡がバインダーの分布状態を表している。
【0082】
図6に示すように、粒状または繊維状バインダーを使用した場合、ドット状に示されるバインダー成分は、不織布の厚み方向において均一に分散している。これに対して、図7に示すように、本発明では液状のバインダーを使用した場合、不織布の厚み方向においては、相対的に多量のバインダー成分が不織布の表層部に存在し、相対的に少量のバインダー成分が不織布の内部に存在している。液状バインダーの含有量は、不織布に対して0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲内であるのが好ましい。
【0083】
なお、液状バインダーについては無機バインダーを使用することも可能であるが、無機バインダーを用いると、繊維集合体、すなわち、不織布の折り曲げの柔軟性が劣ること、また製品として使用する場合のコストが有機バインダーを用いる場合に比べ高価となるため、有機バインダーを使用することが好ましい。
【0084】
本発明における液状バインダーは、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、スチレン樹脂、あるいはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル樹脂等のエマルジョン、あるいはこれらを溶剤に溶解したもの、あるいはポリビニールアルコール(PVA)、でんぷんなどの水溶性バインダーの水溶液など、液状のものであれば特に限定されるものではないが、強度・コストの関係から、アクリル樹脂エマルジョン、若しくはポリビニールアルコール水溶液等が好適である。
【0085】
本発明の真空断熱材用芯材100の製造方法の一つの実施の形態では、まず、連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維の一例であるガラス繊維111、112と、液状バインダーを少なくとも用いて、湿式抄紙法によって不織布110を製造する。これにより、製造された不織布110の表面とほぼ平行な方向に、複数のガラス繊維のうち大半のガラス繊維111、112を延在させる。さらに、複数の不織布110を積層する。
【0086】
また、本発明の真空断熱材1の製造方法の一つの実施の形態では、まず、連続フィラメント法によって製造された複数のガラス繊維111、112と、液状バインダーを少なくとも用いて、湿式抄紙法によって不織布110を製造する。これにより、製造された不織布110の表面とほぼ平行な方向に、複数のガラス繊維のうち大半のガラス繊維111、112を延在させる。さらに、複数の不織布110を積層する。その後、積層された複数の不織布110を外包材200の内部に収容し、外包材200の内部を減圧状態に保つ。
【0087】
なお、本発明の真空断熱材用芯材100または真空断熱材1の製造方法の一つの実施の形態では、上記の樹脂のエマルジョン、上記の樹脂の水溶液等の液状バインダーを使用し、この液状バインダーをスプレー等によりガラス繊維111、112に噴霧する等の方法でガラス繊維111、112に液状バインダーを付着させる方法を採用するのが好ましい。
【0088】
この発明の真空断熱材の製造方法の一つの実施の形態では、連続フィラメント法によって製造された複数のガラス繊維111、112と、液状バインダーを少なくとも用いる。このような複数のガラス繊維111、112を用いて、湿式抄紙法によって不織布110を製造する際に各ガラス繊維を不織布110の表面に対して平行な方向に配列させようとすると、大半のガラス繊維111、112が不織布110の表面とほぼ平行な方向に延在するように複数のガラス繊維を容易に整列させることができる。このとき、大半の複数のガラス繊維111、112は、不織布110の表面とほぼ平行な方向に延在するが、互いに密着して平行な方向には整列せず、不織布110の表面を形成する平面内でランダムな方向を向いて分散するように整列する。これにより、芯材100を構成するために複数の不織布110を積層しても、複数のガラス繊維の間を充填するようなガラス繊維の存在を極力なくすことができ、また複数のガラス繊維の間に絡みつくようなガラス繊維の存在を極力なくすことができるので、ガラス繊維間に熱伝導が発生するのを防止することができる。そして、積層された複数の不織布110を外包材200の内部に収容し、外包材200の内部を減圧状態に保つことにより、真空断熱材1を製造することができる。このようにして、芯材100の厚み方向に沿って熱伝導が生じるのを防止することによって、芯材100の熱伝導率を低下させることができ、従来の断熱性能の改善限界を超えることが可能となり、優れた断熱性能を有する芯材100とその芯材100を備えた真空断熱材1を得ることができる。
【0089】
本発明に用いられるガラス繊維111、112からなる不織布110は、湿式抄紙法によって製造される。湿式抄紙法では、適切な分散剤を添加することによって、ガラス繊維を一定の長さに切断したガラスチョップドストランドがモノフィラメント化して層状に分散配置され、結束の非常に少ないガラス繊維111、112からなる不織布110を得ることができる。このため、平行して並んだガラス繊維111、112の数が非常に少なく、大半のガラス繊維111、112は隣り合う繊維の間では点で接触する。このようにして、厚み方向において、高い圧縮強度を有しながら熱伝導率が極めて低い不織布110を製造することができるので、このような不織布110は真空断熱材1の芯材100として好適である。
【0090】
本発明の製造方法で採用される湿式抄紙法による不織布110の抄造は、長網抄紙機、短網抄紙機、傾斜ワイヤー型抄紙機等、既知の抄紙機を用いることによって可能である。
【0091】
通常、ガラス繊維からなる不織布は、耐熱性を有する断熱材、耐火性を有する断熱材、または、電気絶縁体として用いられる。このため、不織布には引き裂きや突き破りなどに耐える布強度が求められ、繊維同士の絡み合いが必要とされることが多い。このような用途に使用されるガラス繊維からなる不織布は、長網抄紙機、短網抄紙機を使用した抄紙法によって製造されることが多い。
【0092】
これに対して、本発明に用いられるガラス繊維111、112からなる不織布110は、芯材100として外包材200内に収容されるので、布としての強度はさほど要求されない。また、繊維方向が揃いやすい抄紙法は、繊維同士の接触面積を増加させるので、本発明に用いられるガラス繊維111、112からなる不織布110を製造するには好ましくない。一方、厚み方向の断熱性能を高めるためには、ガラス繊維111、112同士の絡み合いは少ない方が望ましい。
【0093】
そのため、本発明に用いられるガラス繊維111、112からなる不織布110を抄造する抄紙機としては、低いインレット濃度で抄紙することができる傾斜ワイヤー型抄紙機が適しているが、これに限定されるものではない。
【0094】
本発明に用いられる無機繊維の一例であるガラスチョップドストランドは、繊維径3〜15μm、繊維長3〜15mmのガラス繊維111、112の構成比率が99%以上であることが好ましい。
【0095】
繊維径が3μm未満または繊維長が3mm未満のガラスチョップドストランドは、以下に述べるように、本発明の真空断熱材用芯材100を構成する不織布110に使用するのには適さないと予測される。
【0096】
繊維径が3μm未満のガラス繊維111、112は、繊維の剛性が低いため、湿式抄紙法によって不織布110を製造する際に、繊維が湾曲して、繊維同士の絡み合いが発生し、繊維同士の接触面積が増加する。これにより、熱伝導が大きくなり、芯材100の断熱性能を劣化させることから、繊維径が3μm未満のガラス繊維111、112は好ましくない。
【0097】
繊維長が3mm未満のガラス繊維111、112は、湿式抄紙法によって不織布110を製造する際に、既に分散している下層に位置する繊維の上に上層に位置する繊維を分散させたとき、上層の繊維が下層の繊維を橋渡しすることができず、上層の繊維が下層の繊維の上で一点で支持される可能性が高くなり、たとえば、上層の繊維の一端が下層に垂下して、他方が厚み方向に突出するような形態で位置づけられることが予想される。このように、ある繊維が複数の繊維の間で厚み方向に橋渡しをするような形態になった場合、繊維の長さ方向への熱伝導が発生し、繊維同士の接触面積が増加する。これにより、熱伝導が大きくなり、芯材100の断熱性能を劣化させることから、繊維長が3mm未満のガラス繊維は好ましくない。
【0098】
繊維径が15μm以上のガラス繊維111、112を用いて、不織布110を構成し、複数の不織布110を積層して芯材100を形成すると、芯材100の厚み方向の繊維層の数が減少し、厚み方向の熱伝達経路が短くなり、かつ、不織布110の形成時に空孔径が大きくなる。これにより、気体の熱伝導率による影響を受け、芯材100の断熱性能を低下させることから、繊維径が15μm以上のガラス繊維は好ましくない。
【0099】
繊維長が15mm以上のガラス繊維111、112を用いると、繊維径に対して繊維長が大きくなることから、繊維の剛性が低下して撓みやすくなり、繊維同士の絡み合いが発生し、繊維同士の接触面積が増加する。これにより、熱伝導が大きくなり、芯材100の断熱性能を劣化させることから、繊維長が15mm以上のガラス繊維は好ましくない。
【0100】
本発明の真空断熱材用芯材100として用いられるガラス繊維111、112からなる不織布110の米坪は30〜600g/m2であることが好ましい。不織布110の米坪が30g/m2未満では、不織布110内に存在する空隙の径が大きくなることによって気体の熱伝導率の影響が大きくなる。これにより、芯材100の断熱性能が低下し、また、芯材100の強度が弱くなるため、不織布110の米坪が30g/m2未満では好ましくない。一方、不織布110の米坪が600g/m2を超えると、ガラス繊維111、112から不織布110を製造する際の乾燥効率が低下し、生産性が低下するので、好ましくない。
【0101】
ここで、米坪とは、一般に、紙の厚みの計量単位であって、平方メートルあたりの紙の質量を表し、メートル坪量ともいう。ここでは、湿式抄紙法で製造したガラス繊維111、112からなる不織布110の厚みを計量する単位として米坪を使用している。
【0102】
ところで、たとえば、特開2006−17169号公報(特許文献2)には、真空断熱材の芯材を構成するグラスウール等の無機繊維の平均径は1〜5μmであることが好ましいと記載されている。そして、その無機繊維の平均径が5μmを超えると、最終的に得られる真空断熱材自体の断熱性能が低下すると記載されている。確かに真空断熱材の断熱性能は、芯材を構成する無機繊維の径が小さい方が高まる。一方、細い無機繊維は、価格が高く、また、湿式抄紙法によって不織布を製造する際には脱水効率を低下させ、生産性を低下させるという欠点を有する。これに対して、本発明では、無機繊維の繊維径、繊維長などの繊維パラメータおよび繊維間の接着状況について、断熱性能を向上させるための最適条件を選定することによって、無機繊維の一例として、比較的繊維径の大きいガラスチョップドストランドを使用しても、従来の真空断熱材よりもはるかに高い断熱性能が得られる真空断熱材1を実現することができる。
【0103】
また、繊維径が6μmより細いガラスチョップドストランドを使用しても、最終的に得られる真空断熱材の断熱性能の向上幅は、繊維径が10μmのガラスチョップドストランドを使用した場合に比べて、ほとんど無視可能な程度である。従って、生産性・価格・性能の面を考慮するならば、好適なガラスチョップドストランドの繊維径は6〜15μmである。この範囲のガラス繊維111、112を使用した場合には、従来の真空断熱材よりも高い断熱性能を有する真空断熱材1を、適切な製造コストで得ることができる。
【0104】
本発明の真空断熱材1は、上述した特徴を備えた芯材100を用いて、既知の方法にて製造することができる。代表的な方法として、図1に示される真空断熱材1の構成において、袋状に形成されたガスバリヤ性の外包材200の内部に芯材100を収容する。芯材100を減圧状態で格納する外包材200としては、高いガスバリヤ性を有するとともに、熱融着層、キズ等に対する保護層を有し、長期にわたり外包材200内を減圧状態に保つことが可能なものを使用する。また、このような特性を持つフィルムを複数枚積層して、外包材200としてもよい。
【0105】
具体的な外包材200の構成の例としては、最外層をポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂とし、中間層にはアルミニウム蒸着層を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂を用い、最内層に高密度ポリエチレン樹脂を用いるガスバリヤフィルムや、最外層にナイロンを用い、中間層にアルミニウム蒸着PET樹脂とアルミニウム箔の2層を用い、最内層に高密度ポリエチレン樹脂を用いるガスバリヤフィルム等が挙げられる。
【0106】
また、真空断熱材1の初期断熱性能及び経時断熱性能を保持するために、真空断熱材1内にガス吸着剤、水分吸着剤等のゲッター剤を使用することが好ましい。
【実施例】
【0107】
以下、本発明のいくつかの実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0108】
(実施例1〜5、比較例1)
平均繊維径が10μm、平均繊維長が10mmであるガラスチョップドストランド(オーウェンス・コーニング社(Owens Corning Corporation)製)をその濃度が0.5質量%となるように水中に投入し、分散剤としてエマノーン(登録商標)3199(花王株式会社製)をガラスチョップドストランド100質量部に対して1質量部となるように添加して、攪拌することにより、ガラスチョップドストランドスラリーを作製した。
【0109】
得られたガラスチョップドストランドスラリーを用いて湿式抄紙法にて抄造し、ウエブを作製した。得られたウエブに対して、表1に示すバインダー種の液状バインダーを適宜希釈して含浸させ、不織布に対して表1に示すバインダー含有量になるように水分を吸引して調整した。その後、ウエブを乾燥させることによって、真空断熱材用芯材100に用いられる不織布110を作製した。得られた不織布110の米坪とバインダー含有量は表1に示すとおりであった。
【0110】
なお、表1中のバインダー種の記載において、液状アクリルは、アクリルエマルジョン(大日本インキ化学工業株式会社製 GM−4)であり、液状PVAは、PVA水溶液(クラレ製 PVA117を温水に溶解したもの)である。
【0111】
(比較例2〜4)
実施例1〜5、比較例1で使用したガラスチョップドストランドを用いて、実施例1〜5、比較例1と同様の方法でガラスチョップドストランドスラリーを作製した。
【0112】
粒状PVA(ユニチカ株式会社製 OV−N)を、濃度が10%となるように水に添加して、攪拌し、粒状バインダースラリーを作製した。
【0113】
不織布に対して表1に示すバインダー含有量になるように、得られたガラスチョップドストランドスラリーに粒状のバインダースラリーを添加し、攪拌混合することによって得られたスラリーを用いて湿式抄紙法にて抄造し、ウエブを作製した。その後、得られたウエブを乾燥させることによって、真空断熱材用芯材100に用いられる不織布110を作製した。得られた不織布110の米坪とバインダー含有量は表1に示すとおりであった。
【0114】
(従来例)
従来の真空断熱材に用いる芯材として、表1に示す平均繊維径を有するグラスウールからなるシート状繊維集合体としての不織布を準備した。
【0115】
なお、表1に示すバインダー含有量は、真空断熱材用芯材100に用いられる不織布110を温度600℃で30分間加熱することによって有機成分を除去し、加熱前後の質量差から下式によって求めた。
【0116】
バインダー含有量(質量%)=[{(加熱前の質量)−(加熱後の質量)}/(加熱前の質量)]×100
【0117】
以上の実施例1〜5、比較例1〜4によって製造された不織布110を、10枚積層させて芯材100とした。得られた積層体からなる各芯材100の上下面に、それぞれスペーサを介して、厚み方向に1kgf/cm2(約98kPa)の圧縮力を加えた状態で、真空度が0.01Torr(約1.3Pa)の真空状態を保持した。この保持された真空の定常状態の各芯材100において、積層体からなる各芯材100の上下面部の温度と、各芯材100を流れる熱流とを測定することによって、熱伝導率を算出した。得られた熱伝導率の測定結果を表1の「熱伝導率」の欄に示す。なお、従来例については、従来のグラスウールからなる不織布の熱伝導率を表1の「熱伝導率」の欄に示す。
【0118】
【表1】

【0119】
表1に示す結果から、本発明の実施例1〜5による真空断熱材1は、熱伝導率が0.85mW/m・K以下であり、かつ、工業的に安定した生産が可能であった。
【0120】
これに対して、比較例1と2による真空断熱材1は、工業的に安定した生産が可能であったが、熱伝導率は、それぞれ、1.50mW/m・K、0.90mW/m・Kであった。また、比較例3では、熱伝導率が0.80mW/m・Kである真空断熱材が得られたが、不織布製造工程と真空断熱材1の外包材200に合わせた寸法に不織布110を裁断する工程において、不織布110の表面からガラス繊維111、112の脱落が多量に発生し、また、ロール間の受け渡しの際に断紙が発生したため、安定した製造が困難であった。比較例4では、熱伝導率が0.60mW/m・Kである真空断熱材1が得られたが、バインダーを除去する工程に長時間を要し、また真空断熱材1の外包材200に不織布110からなる芯材100を封入する工程において、不織布110が型くずれしやすいため、工業的に大量生産することが困難であった。なお、従来の真空断熱材の熱伝導率は、1.70mW/m・Kであった。
【0121】
したがって、本発明による真空断熱材を使用することによって、断熱性能の優れた真空断熱材を工業的に安定して生産することが可能であり、省エネルギーに優れた冷蔵庫等の機器を提供することが可能になる。
【0122】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものである。
【符号の説明】
【0123】
1:真空断熱材、100:芯材、200:外包材、110:不織布、111,112:ガラス繊維。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の不織布を積層することにより構成された真空断熱材用芯材であって、
前記不織布は、連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維を少なくとも含み
前記不織布においては、前記複数の無機繊維のうち大半の無機繊維が前記不織布の表面とほぼ平行な方向に延在しており、
前記不織布の表層部には相対的に多量の液状バインダー成分が存在し、前記不織布の内部には相対的に少量の液状バインダー成分が存在し、
前記液状バインダー成分の含有量が前記不織布に対して0.1質量%以上1.5質量%以下である、真空断熱材用芯材。
【請求項2】
前記無機繊維の平均繊維径が3μm以上15μm以下、前記無機繊維の平均繊維長が3mm以上15mm以下である、請求項1に記載の真空断熱材用芯材。
【請求項3】
前記無機繊維はガラス繊維である、請求項1または請求項2に記載の真空断熱材用芯材。
【請求項4】
外包材と、
前記外包材の内部に収容される芯材とを備え、
前記外包材は、内部を減圧状態に保つことが可能であるように構成され、
前記芯材が、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の真空断熱材用芯材を少なくとも1枚以上含む、真空断熱材。
【請求項5】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の真空断熱材用芯材の製造方法であって、
連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維と、液状バインダーとを少なくとも用いて、湿式抄紙法によって不織布を製造するステップを備え、このステップにおいて、製造された前記不織布の表面とほぼ平行な方向に、前記複数の無機繊維のうち大半の無機繊維を延在させ、さらに、
複数の前記不織布を積層するステップを備えた、真空断熱材用芯材の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の真空断熱材の製造方法であって、
連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維と、液状バインダーとを少なくとも用いて、湿式抄紙法によって不織布を製造するステップを備え、このステップにおいて、製造された前記不織布の表面とほぼ平行な方向に、前記複数の無機繊維のうち大半の無機繊維を延在させ、さらに、
複数の前記不織布を積層するステップと、
積層された複数の前記不織布を外包材の内部に収容し、前記外包材の内部を減圧状態に保つステップとを備えた、真空断熱材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−122727(P2011−122727A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13950(P2011−13950)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【分割の表示】特願2009−78086(P2009−78086)の分割
【原出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(000191320)王子特殊紙株式会社 (79)
【Fターム(参考)】