説明

真空濾過装置の洗浄方法および真空濾過装置

【課題】 濾布やグリッド板に滞積付着している結晶を適切なタイミングで円滑に除去することができ、目詰まりや濾液流れ空間の閉塞を確実に防止する。
【解決手段】 真空濾過装置の洗浄方法であって、真空トレイ16A〜16Eにおける真空ライン20の真空圧に基づいて、真空トレイ内にトレイ洗浄液を供給して、この真空トレイ内を浸漬させ真空トレイを洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、略水平に走行可能とされた濾布上に供給されたスラリーを、この濾布の下に設けられた真空トレイによって真空吸引して濾過する構成とされた真空濾過装置の洗浄方法および真空濾過装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
濾過操作により、スラリーから母液を分離し結晶成分を取り出したり結晶成分を純化させる精製操作が行われている。例えば、溶剤に溶けた有機物の結晶成分を母液から分離して結晶として取り出す場合、従来、遠心分離機、連続式濾過機または水平式トレイフィルタ等により行われている。その際、結晶成分を含む液は飽和溶液であり、また操作開始時において、濾布およびこれと接触する真空トレイの上面部(グリッド板)は、一般に操作温度より低い常温状態にあり、かつスラリーの熱的条件を左右する大きな熱容量を有するものからなる等の理由によって、前記液がケーキ層や濾布に接触およびそれを通過する過程で冷却され、結晶の析出が起こり、特に濾布の開孔目や前記グリッド板の開孔目や脚部に結晶が付着し、目詰まりや濾液流れ空間の閉塞が生じる。このような現象は回分式でも連続式でも生じることであり、濾過能力が著しく低下し、結果的に、純度の低い結晶しか得られず、しかも収率が低下する。そこで、濾布やグリッド板の洗浄を定期的に行う必要が生じ、その結果、稼動率の低下を招く。そして、このような問題は、共晶系のスラリーや固溶体の結晶の精製に際して、上述した機械的濾過操作を行う場合にも現出する。
【0003】
また、溶剤に溶けた有機物の結晶の溶解温度と結晶析出温度との温度差が10℃以内と小さい場合、または溶解温度が30℃以下の結晶成分を母液から分離して結晶として取り出す場合においては、例えば下記特許文献1に示されるような、特殊濾材構造により前記問題を解決することができるが、上記以外の温度条件での結晶成分については、装置がより複雑化し、設備費が嵩むという問題がある。
【0004】
以上のような問題を解決するための手段として、例えば下記特許文献2に示されるような、濾布の背面部に設置された真空トレイにより結晶成分を含む液を前記濾布を介して結晶成分と母液とにより分離する構成とされた真空濾過装置の洗浄方法において、一部の真空トレイにおいては前記濾布の背面部にトレイ洗浄液を供給して充満させ、この濾布の背面部に滞積付着している結晶を溶解させて回収するとともに、他の真空トレイはケーキ形成用、ケーキ洗浄用、脱液用として操作し、各真空トレイごとに同様の操作を行うことにより洗浄を行う方法が開示されている。
【特許文献1】特開平2−126902号公報
【特許文献2】特許第3497206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述のように、溶剤に溶けた有機物の結晶成分を母液から分離して結晶として取り出す場合などには、前記真空濾過装置は、前記複数の真空トレイ全体が密閉室内に収納されて外部から遮断された構成とされることが多く、このような場合には、前記密閉室により前記グリッド板および濾布における前記結晶の滞積付着状況を的確に把握することが困難であった。このため、前記濾布の背面部にトレイ洗浄液を供給するタイミングを、予め定められた使用期間が経過したときとせざるを得なかった。ところがこの場合、例えば真空濾過装置の運転状況等の変動により、同一のタイミングであっても前記滞積付着の状況が異なり、濾布およびグリッド板が未だ洗浄を要さない状態にあっても洗浄を実施することや、逆に、洗浄を要する状態にあるにもかかわらず、未だ洗浄を実施しない場合があり、適切なタイミングで前記洗浄を実施することが困難であるという問題があった。なお、洗浄のタイミングが遅れると、真空濾過装置の濾過能力が低下して洗浄不良や脱液不良が生じ、製品品質が低下する虞がある一方、洗浄のタイミングが早いと、洗浄液を浪費することになる。
【0006】
本発明は、このような背景の下になされたもので、濾布やグリッド板に滞積付着している結晶を適切なタイミングで円滑に除去することができ、目詰まりや濾液流れ空間の閉塞を確実に防止することができる真空濾過装置の洗浄方法および真空濾過装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の真空濾過装置の洗浄方法は、装置本体に略水平に走行可能に設けられた濾布の下に、真空ラインを介して真空吸引装置に連結された真空トレイが設けられ、この濾布上に供給されたスラリーを前記真空トレイによって前記濾布を介して真空吸引することにより濾過する構成とされた真空濾過装置の洗浄方法であって、前記真空ラインの真空圧に基づいて、前記真空トレイ内にトレイ洗浄液を供給して、該真空トレイ内にトレイ洗浄液を浸漬させ、この真空トレイを洗浄することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の真空濾過装置は、装置本体に略水平に走行可能に設けられた濾布の下に、真空ラインを介して真空吸引装置に連結された真空トレイが前記濾布の走行方向に複数設けられ、この濾布上に供給されたスラリーを前記真空トレイによって前記濾布を介して真空吸引することにより濾過する構成とされた真空濾過装置であって、前記複数の真空トレイのうち少なくとも一の真空トレイにおける前記真空ラインには、該真空ライン内の真空圧を測定する真空圧測定手段が備えられるとともに、当該真空トレイに、トレイ洗浄液を供給する洗浄液供給手段が備えられ、前記真空圧測定手段により測定された真空圧に基づいて、前記洗浄液供給手段により前記真空トレイにトレイ洗浄液を供給して、該真空トレイ内にトレイ洗浄液を浸漬させ、この真空トレイを洗浄することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
これらの発明によれば、真空トレイに洗浄液を供給するタイミングが、前記真空ラインの真空圧に基づいて決定されるので、真空濾過装置の運転状況等の変動にかかわらず、真空トレイのグリッド板等にスラリーの結晶成分が滞積した付着状況を的確に把握することが可能になり、このグリッド板等の洗浄を適切なタイミングで実施することができる。すなわち、前記グリッド板等への結晶成分の付着量が多いと前記真空圧が高くなり、前記付着量が少ないと前記真空圧が低くなるので、前記真空圧が所定値、例えば−40kPaGを超えたときに前記洗浄を行うようにすることができる。これにより、洗浄不良や脱液不良の発生による製品品質の低下や、洗浄液の浪費を防止することができる。
【0010】
ここで、前記真空トレイは前記濾布の走行方向に複数設けられ、該複数の真空トレイのうち少なくとも一の真空トレイにおける前記真空ラインの真空圧に基づいて当該真空トレイを洗浄することが望ましい。また、複数の前記真空トレイにおける前記真空ラインそれぞれについての真空圧を測定し、該真空圧が所定値を超えた前記真空トレイのみを洗浄することが望ましい。
これらの場合、洗浄を要する真空トレイに限定して洗浄を行うことが可能になり、洗浄液の浪費を防止することができるとともに、高効率な洗浄を実現することができる。
さらに、前記トレイ洗浄液を前記真空トレイ内に供給して、該真空トレイからこの真空トレイに隣接する他の真空トレイに溢れ出させながら、洗浄を行うのが望ましい。
すなわち、トレイ洗浄液が真空トレイから溢れ出ないで、該真空トレイ内で所定の高さの液面を有して保持された状態となると、この液面に位置するトレイ洗浄液は、前記洗浄の過程で冷却されて温度低下を生じる虞があり、このため、前記液面に位置するトレイ洗浄液中の溶解した結晶成分が、この液面と接触している真空トレイの壁面に再析出する場合がある。
【0011】
しかしながら、前述のように、前記真空トレイからトレイ洗浄液を溢れ出させると、前記液面が形成されることはなく、真空トレイの前記壁面に、トレイ洗浄液中に含まれる溶解した結晶成分が再析出することを防止することができるとともに、真空トレイ内に位置されるトレイ洗浄液の温度低下を抑制することが可能になり、前記グリッド板等に滞積付着している結晶成分のトレイ洗浄液中への溶解を促進させることができ、洗浄不足を防止することができる。
しかも、真空トレイからトレイ洗浄液が溢れ出る高さを前記濾布の下面近くに位置させることにより、前記グリッド板のみならず濾布の下面をもトレイ洗浄液に浸漬させることが可能になり、前記濾布の下面に滞積付着した前記スラリーの結晶成分をも洗浄、除去することができる。
また、前記トレイ洗浄液の温度を、前記結晶成分の再結晶化が行われる温度以上に保持することが望ましい。
【0012】
さらに、前記複数の真空トレイは、ケーキ形成用、ケーキ洗浄用、および脱液用として用いられるとともに、前記真空圧測定手段および前記洗浄液供給手段は、少なくとも前記脱液用の真空トレイの前記真空ラインに備えられていることが望ましい。
この場合、脱液用の真空トレイにおいては、スラリー自体に含まれる母液の量が少なく、吸引されるガス量が多いため濾液の温度が低下し、前記グリッド板等に結晶成分が特に析出し易いが、この析出が生じ易い真空トレイに真空圧測定手段および洗浄液供給手段が備えられているので、真空濾過装置に析出した結晶成分を効果的に溶解除去することができる。
【0013】
特に、この脱液用の真空トレイをさらに複数の真空トレイによって構成して、これらの脱液用の真空トレイの真空ラインに前記真空圧測定手段および前記洗浄液供給手段を備えることにより、例えばその一の真空トレイについて前記洗浄を行っている間に、他の真空トレイで脱液を継続して行うことができて、真空濾過装置による濾液の吸引濾過を停止することなく前記洗浄を行うことが可能になり、高効率な洗浄を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図1から図3に基づいて本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の真空濾過装置では、図1に示すように、装置本体10と真空ライン20と真空吸引装置30と室温制御ライン50とを備える概略構成とされている。以下、これら10、20、30、50の詳細について説明する。
まず、装置本体10では、図2に示すように、無端ベルト状の濾布11が複数のロール12の間に巻き掛けられ、この濾布11の上側部分は水平方向に延びるように配置された濾過部11Aとされている。そして、この濾過部11Aの一端側(図1および図2において右側)において濾布11が巻き掛けられるロール12Aは図示しない駆動装置に連結されていて、この駆動装置によって前記ロール12Aが図中時計回り方向に回転駆動されることにより、濾布11もロール12間を連続的に周回駆動され、これに伴い濾布11の濾過部11Aは図中に矢線Fで示す走行方向に連続的に走行させられる。
【0015】
濾過部11Aの下には、真空吸引装置30に連結された真空トレイ16が、後述するスラリー供給装置13の略直下から前記濾過部11Aの走行方向Fに向けて複数(図示の例では5つ)設けられている。これらの真空トレイ16のうち、前記走行方向Fの後端に配置され、かつスラリー供給装置13の略直下に位置する真空トレイ16Aはケーキ形成用として用いられ(以下、ケーキ形成用トレイ16Aという)、また、ケーキ形成用トレイ16Aに隣接し、かつ後述するケーキ洗浄装置21の略直下に位置する真空トレイ16Bはケーキ洗浄用として用いられ(以下、ケーキ洗浄用トレイ16Bという)、さらに、ケーキ洗浄用トレイ16Bに隣接し、かつ前記走行方向Fに向けて複数設けれた真空トレイ16C、16D、16Eは、脱液用として用いられる(以下、前記走行方向Fの後方から前方に向けて順次設けられた真空トレイ16C〜16Eをそれぞれ、第1脱液用トレイ16C、第2脱液用トレイ16D、第3脱液用トレイ16Eという)。
【0016】
また、複数の真空トレイ16は、前記走行方向Fに隣接するもの同士が互いに連結されており、このうち走行方向Fの後端に位置する真空トレイ16、つまりケーキ形成用トレイ16Aには、図2に示すように、装置本体10のフレーム10Aに取り付けられて前記走行方向Fに向けて伸縮可能とされたエアシリンダー等の駆動シリンダー18に連結されていて、これにより全ての真空トレイ16は前記走行方向Fに所定のストロークで一体に往復移動可能とされ、すなわちこの走行方向Fに進退可能とされている。
【0017】
なお、装置本体10には、図2に示すように、複数の真空トレイ16に幅方向両端下部に前記走行方向Fに延びるように設けられた一対のレール22にその下方から接して真空トレイ16を支持する回転自在な複数の支持車輪19が、濾布11の前記幅方向に間隔をあけて備えられており、真空トレイ16は自在に回転するこれらの支持車輪19上を進退可能とされ、逆に支持車輪19は前記駆動シリンダー18によるこの真空トレイ16の進退に伴って従動的に回転させられることとなる。ここで、これらの支持車輪19は、それぞれ装置本体10のフレーム10Aに上向きに設けられたブラケット等を介して前記幅方向に延びる水平な回転軸回りに回転自在に取り付けられた互いに同形同大のものであって、この回転軸を中心とした外形肉厚の円板状もしくは軸長さの短い円柱状をなし、真空トレイ16の前記下面部の幅方向における両側縁部に沿って前記走行方向Fに延びる互いに平行な2つの列をなすように配列されており、各列における支持車輪19同士は前記走行方向Fに等間隔に配設されるとともに、両列間において支持車輪19は幅方向に対をなして、これら対をなす支持車輪19、19同士が互いに上下方向に等しい高さで、かつ走行方向Fにも等しい位置に配設されている。
【0018】
濾布11の濾過部11Aの他端側(図1および図2において左側)、すなわち前記走行方向Fに対する後方側の上方には、濾布11上にスラリーSを供給するスラリー供給装置13が設けられ、この供給装置13から濾布11上に供給されたスラリーSが、濾過部11Aの走行とともに前記走行方向Fに移動させられるうちに各真空トレイ16によって濾布11を介して真空吸引されて濾過されるようになっている。そして、濾過部11Aのスラリー供給装置13より前記走行方向F側の上方には、濾布11に向けてケーキ洗浄液Lを供給するケーキ洗浄装置21が設けられ、スラリーSが前記吸引濾過されてなるケーキ層にケーキ洗浄液Lを供給するようになっている。また、濾布11を駆動する前記ロール12Aには、濾過されて脱液が終了した脱液ケーキを濾布11から掻き落として剥離させるためのナイフ14が設けられている。さらに、濾布11の濾過部11Aの一端側(図1において右側)、すなわち前記走行方向Fに対する前方側の下方には、このナイフ14によってスラリーSが掻き落とされた後の濾布11を洗浄する濾布洗浄装置15が設けられている。
【0019】
本実施形態では、以上の、装置本体10とスラリー供給装置13とケーキ洗浄装置21とが、図1に示すように、密閉室R内に収納されて外部から遮断された構成となっている。
なお、前記複数の真空トレイ16はそれぞれ、図3に示すように、濾過部11Aの表面に沿って延びるとともに、上面が濾過部11Aの下面に密着する平面部16Fと、平面部16Fの幅方向両端部から、上方に向かうに従い前記幅方向の両外側に向けてそれぞれ広がるように延在した壁部16G、16Gとを備えている。平面部16Fは、板状体16Hと、表面に多数の貫通孔16Jが形成されたグリッド板16Iとがこの順に積層された積層体とされている。
そして、グリッド板16Iの表面側に濾過部11Aの下面が密着する一方、裏面側に前記真空吸引装置30と連通された真空ライン20が連結された構成となっている。
【0020】
真空吸引装置30は、図1に示すように、各真空トレイ16から得られた濾液を回収して該濾液を気液分離する気液分離槽31〜33と、該気液分離槽31〜33に連通されて、これら31〜33を介して濾過部11A上のスラリーSに真空吸引力を作用させる真空ポンプ34と、気液分離槽31〜33と真空ポンプ34との間に配設されて、各気液分離槽31〜33から排出されたガスが、真空ポンプ34を通過する前に冷却される構成とされた冷却器35とを備えている。
【0021】
気液分離槽31〜33は、ケーキ形成用トレイ16Aに連通された第1気液分離槽31と、ケーキ洗浄用トレイ16Bに連通された第2気液分離槽32と、第1〜第3脱液用トレイ16C、16Dおよび16Eに連通された第3気液分離槽33とを備えている。そして、各気液分離槽31〜33にはそれぞれ、該分離槽31〜33に回収された濾液の量を測定する液位測定器36〜38と、該濾液を気液分離槽31〜33から排出させる濾液ポンプ39〜41と、液位測定器36〜38の測定結果に基づいて、気液分離槽31〜33における濾液の排出口を開閉する自動弁SV1〜SV3とが備えられている。
また、気液分離槽31〜33と冷却器35との間には、前記ガスの温度が測定可能とされた第1温度測定器42が備えられ、第1温度測定器42の測定結果に基づき、制御弁CV1の開度が操作されて冷却器35が制御され、これにより前記ガスの温度が制御できるようになっている。
【0022】
さらに、本実施形態の真空濾過装置は、真空ポンプ34と連通されるとともに、冷却器35により冷却された前記ガスが供給されて、該ガスの温度を制御した後に、これを前記密閉室R内へ供給することにより、該密閉室R内の温度が制御可能とされた室温制御ライン50を備えている。この室温制御ライン50は、真空ポンプ34から供給された前記ガスを加熱する第1加熱器51と、前記密閉室R内の温度を測定する第2温度測定器52と、第1加熱器51により加熱された前記ガスの前記密閉室R内への流量を測定する流量測定器53とを備えている。さらに、第2温度測定器52の測定結果に基づいて、第1加熱器51を調整する制御弁CV2と、流量測定器53の測定結果に基づいて、前記密閉室R内へ供給する前記ガスの流量を調整する制御弁CV3とを備えている。そして、以上により温度および流量が調整された前記ガスは、自動弁SV4を介して前記密閉室R内へ流入されるようになっている。
【0023】
ここで、前記真空ライン20は、図1に示すように、ケーキ形成用トレイ16Aの下面と第1気液分離槽31とを連結する第1真空ライン20Aと、ケーキ洗浄用トレイ16Bの下面と第2気液分離槽32とを連結する第2真空ライン20Bと、第1〜第3脱液用トレイ16C、16Dおよび16Eと第3気液分離槽33とを連結する第3真空ライン20Cとを備えている。そして、第1〜第3真空ライン20A、20Bおよび20Cには各々、第1〜第3ヘッダー管22〜24が備えられている。第1〜第3脱液用トレイ16C〜16Eと連結された第3ヘッダー管24の内部は、2つの仕切り板25により略3等分に仕切られており、これらの仕切られた各空間に第1〜第3脱液用トレイ16C〜16Eが各別に連通された構成となっている。
なお、以下説明の便宜のため、第3ヘッダー管24において、前記仕切られた各空間のうち、第1脱液用トレイ16Cと連通された部分を「第3ヘッダー管24A」といい、第2脱液用トレイ16Dと連通された部分を「第3ヘッダー管24B」といい、また、第3脱液用トレイ16Eと連通された部分を「第3ヘッダー管24C」という。
【0024】
ところで、本実施形態では、第1〜第3脱液用トレイ16C〜16Eと、前記仕切られた第3ヘッダー管24A〜24Cとの間にそれぞれ、これらのトレイ16C〜16Eに、スラリーSの結晶成分を溶解できるトレイ洗浄液を供給するトレイ洗浄液供給手段26が備えられている。さらに、トレイ洗浄液供給手段26と、第3ヘッダー管24A〜24Cとの間には、自動弁SV5〜SV7が備えられている。また、前記仕切られた第3ヘッダー管24A〜24Cにはそれぞれ、第1〜第3脱液用トレイ16C〜16Eの上面と対向する前記濾過部11Aの下面と真空吸引装置30との間の真空圧を測定する第1〜第3真空圧測定手段27A〜27Cが備えられている。
【0025】
トレイ洗浄液供給手段26は、図1に示すように、第1〜第3脱液用トレイ16C〜16Eに連通された自動弁SV8、SV9、SV10と、第1〜第3脱液用トレイ16C〜16Eに供給される前のトレイ洗浄液の温度を測定する第3温度測定器26Aと、トレイ洗浄液を加熱する第2加熱器26Bと、第3温度測定器26Aの測定結果に基づいて、第2加熱器26Bへ供給する熱媒の流量を調整する制御弁CV4と、トレイ洗浄液を自動弁SV8〜SV10を介して第1〜第3脱液用トレイ16C〜16Eに供給する図示しないポンプとを備えている。この構成により、前記各自動弁SV8〜SV10を介して第1〜第3脱液用トレイ16C〜16Eに供給されるトレイ洗浄液の温度は制御され、母液の結晶化が行われる温度より5〜10℃程度高くなるように制御される。
【0026】
ここで、本実施形態では、図示しない制御部が備えられており、該制御部に、真空圧測定手段27A〜27Cと、自動弁SV5〜SV7およびSV8〜SV10と、トレイ洗浄液供給手段26の前記ポンプとが接続されており、真空圧測定手段27A〜27Cの出力信号が、前記制御部を介して、前記ポンプと、自動弁SV5〜SV7およびSV8〜SV10とに送信されるようになっている。すなわち、真空圧測定手段27A〜27Cにより測定された真空圧が所定値(例えば−40kPaG)より小さいときには、自動弁SV8〜SV10を閉じるとともに、自動弁SV5〜SV7を開いておき、トレイ洗浄液を第1〜第3脱液用トレイ16C〜16Eに供給しないで、前記濾過部11Aを介してスラリーSから回収された濾液を第3ヘッダー管24へ供給する一方、前記真空圧が所定値を超えたときには、自動弁SV8〜SV10を開くとともに、自動弁SV5〜SV7を閉じておき、前記濾液の第3ヘッダー管24への供給を停止して、トレイ洗浄液を第1〜第3脱液用トレイ16C〜16Eに供給するようになっている。
なお、各々の真空圧測定手段27A〜27Cの測定結果に基づいて、自動弁SV5〜SV7およびSV8〜SV10が各別に開閉され、第1〜第3脱液用トレイ16C〜16Eそれぞれが各別に洗浄されるようになっている。すなわち、第1真空圧測定手段28Aの測定結果に基づいて自動弁SV5およびSV8が開閉され、第2真空圧測定手段28Bの測定結果に基づいて自動弁SV6およびSV9が開閉され、また、第3真空圧測定手段28Cの測定結果に基づいて自動弁SV7およびSV10が開閉されるようになっている。
【0027】
次に、以上のように構成された真空濾過装置の使用方法について説明する。
まず、通常運転時には、従来同様、スラリー供給手段13によって、ケーキ形成用トレイ16A上に位置する濾過部11AにスラリーSを供給し、該トレイ16Aに作用される真空圧によりスラリーSの濾液を吸引濾過してケーキ層を形成する。その後、該ケーキ層は濾過部11Aにより洗浄用トレイ16B上に位置されて、ケーキ洗浄装置21によりケーキ洗浄液Lが供給され、これにより前記ケーキ層は洗浄される。さらに、このケーキ層は濾過部11Aにより第1〜第3脱液用トレイ16C〜16Eに順次位置されることにより、脱液される。この際に各真空トレイ16において回収された濾液は、それぞれ、ヘッダー管22〜24を通過した後に、気液分離槽31〜33に各別に導かれて気液分離される。
【0028】
そして、前記各気液分離槽31〜33内における濾液の液面位置が、液位測定器36〜38によって連続的に測定され、該測定結果に基づいて、気液分離槽31〜33内の濾液は、濾液ポンプ39〜41および自動弁SV1〜SV3を介して、任意の工程に向けて送り出される。その一方、前記各気液分離槽31〜33から排出されたガスは、多少の溶液が混入しているため、冷却器35を通すことにより、熱凝集化して前記溶液を除去した後に、第2気液分離槽32内に戻す。これにより、真空ポンプ34が吸引する前記ガスは乾燥状態とされた後に、室温制御ライン50を通って前記密閉室R内に戻される。この際、前記ガスの温度を母液の結晶析出温度以上に保持する必要があるため、前記密閉室R内の温度を第2温度測定器52によって常に検出しておき、この温度測定器52の出力に応じて、第1加熱器51および制御弁CV2によって前記ガスの温度を母液の結晶化が行われる温度より5〜20℃高くなるように制御する。これにより、前記密封室R内が所定の温度に保持された恒温状態に維持される。
【0029】
なお、前記ケーキ洗浄液Lについても、その温度を図示しない第4温度測定器によって常に検出し、かつこの温度計測器の出力に応じて、図示しない第3加熱器によってケーキ洗浄液Lの温度を母液の結晶化が行われる温度より5〜10℃高くなるように制御する。これにより、母液及び濾液の温度を結晶化温度以上に保持することができ、結晶の析出を阻止して長時間安定した運転を行うことができる。
【0030】
ところが、上述のような結晶の析出を阻止する手段を講じながら運転を続けていったとしても、濾過部11Aの下面、および第1〜第3脱液用トレイ16C〜16Eの前記グリッド板16IにスラリーSの結晶成分が滞積付着する虞がある。
以下、第1脱液用トレイ16Cに結晶成分が滞積付着した場合について説明する。この場合、第1脱液用トレイ16Cに位置する濾過部11Aの下面と、真空吸引装置30との間の真空圧が高くなる。そして、この真空圧が所定値を超えたことを第3ヘッダー管24Aに設けられた第1真空圧測定手段27Aが検出した際、該真空圧測定手段27Aからの出力信号が、前記制御部を介して自動弁SV8、SV5および前記ポンプに送信される。これにより、自動弁SV8が開くとともに、自動弁SV5が閉じられ、この第1脱液用トレイ16Cによる吸引濾過が停止された状態で、該トレイ16Cに、トレイ洗浄液供給手段26により流量および温度が制御されたトレイ洗浄液が供給される。なお、この場合にあっても、他の真空トレイ16(16A、16B、16D、および16E)による前記濾過吸引は継続して実施される。
【0031】
このようにして第1脱液用トレイ16Cに導かれたトレイ洗浄液は、前記グリッド板16Iが浸漬され、かつ濾過部11Aの下面と接触するように、このトレイ16Cから溢れ出させた状態で、所定時間濾過運転を継続する。この際、前記トレイ洗浄液は、各真空トレイ16の往復移動に伴い、機械的に揺すられるため、効果的に洗浄が行われる。特に、トレイ洗浄液を第1脱液用トレイ16Cから少量溢れ出させておくので、前記結晶成分を含有するトレイ洗浄液が、該トレイ16Cの壁面に接触した状態で冷却されることがないため、該壁面に前記結晶成分が再析出することが防止される。そして、所定時間経過後、自動弁SV8を閉じてトレイ洗浄液の供給を停止するとともに、自動弁SV5を開いて前記トレイ洗浄液を濾液として回収する。
【0032】
なお、第2脱液用トレイ16Dにおける洗浄を行う場合には、自動弁SV6を閉じるとともに、自動弁SV9を開き、また、第3脱液用トレイ16Eにおける洗浄を行う場合には、自動弁7を閉じるとともに、自動弁10を開くことにより、上述と同様に洗浄を行うことができる。
【0033】
以上説明したように本実施形態による真空濾過装置によれば、真空トレイ16にトレイ洗浄液を供給するタイミングが、真空ライン20の真空圧に基づいて決定されるので、真空濾過装置の運転状況等の変動にかかわらず、前記グリッド板16I等への前記結晶成分の付着状況を的確に把握することが可能になり、このグリッド板16I等の洗浄を適切なタイミングで実施することができる。すなわち、前記グリッド板16I等への結晶成分の付着量が多いと前記真空圧が高くなり、前記付着量が少ないと前記真空圧が低くなるので、前記真空圧が所定値、例えば−40kPaGを超えたときに前記洗浄を行うようにすることができる。これにより、洗浄不良や脱液不良の発生による製品品質の低下や、洗浄液の浪費を防止することができる。
【0034】
また、複数の脱液用トレイ16C〜16Eにおける前記真空ライン20それぞれについて真空圧を測定し、該真空圧が所定値を超えたトレイのみを洗浄するので、洗浄液の浪費を防止することができるとともに、高効率な洗浄を実現することができる。
また、第1脱液用トレイ16Cについて前記洗浄を行っている間に、他の真空トレイ16D、16Eでは脱液を継続して行うようにすることにより、真空濾過装置による濾液の吸引濾過を停止することなく前記洗浄を行うことが可能になり、高効率な洗浄を実現することができる。さらに、前記グリッド板16Iをトレイ洗浄液に浸漬させた状態で、真空濾過装置による前記吸引濾過を継続して行うので、この際に、トレイ洗浄液が機械的に揺すられて前記洗浄を効果的に実施することができる。
【0035】
さらに、トレイ洗浄液を真空トレイ16内に供給して該トレイ16から溢れ出させるので、前記グリッド板16Iのみならず濾過部11Aの下面をもトレイ洗浄液中に浸漬することが可能になり、これら16Iおよび11Aに滞積付着した前記結晶成分を双方ともに良好に溶解除去することができる。
【0036】
すなわち、トレイ洗浄液が真空トレイ16から溢れ出ないで、該真空トレイ16内で所定の高さの液面を有して保持された状態となると、この液面に位置するトレイ洗浄液は、前記洗浄の過程で冷却されて温度低下を生じる虞があり、このため、前記液面に位置するトレイ洗浄液中の溶解した結晶成分が、この液面と接触している真空トレイ16の壁面に再析出する場合がある。
しかしながら、本実施形態のように、真空トレイ16からトレイ洗浄液を溢れ出させると、前記液面が形成されることはなく、真空トレイ16の前記壁面に、トレイ洗浄液中に含まれる溶解した結晶成分が再析出することを防止することができるとともに、真空トレイ16内に位置されるトレイ洗浄液の温度低下を抑制することが可能になり、前記グリッド板16I等に滞積付着している結晶成分のトレイ洗浄液中への溶解を促進させることができ、洗浄不足を防止することができる。
しかも、真空トレイ16からトレイ洗浄液が溢れ出る高さを前記濾過部11Aの下面近くに位置させることにより、グリッド板16Iのみならず濾過部11Aの下面をもトレイ洗浄液に浸漬させることが可能になり、濾過部11Aの下面に滞積付着したスラリーSの結晶成分をも洗浄、除去することができる。特に、本実施形態では、トレイ洗浄液の温度を、前記結晶成分の再結晶化が行われる温度以上に保持するので、前記結晶のトレイ洗浄液中への溶解をさらに促進することが可能になる。
【0037】
さらに、第1〜第3脱液用トレイ16C〜16Eにおいては、スラリーS自体に含まれる母液の量が少なく、吸引されるガス量が多いため濾液の温度が低下し、前記グリッド板16I等に結晶成分が特に析出し易いが、この析出が生じ易い真空トレイに真空圧測定手段27A〜27Cおよび洗浄液供給手段26が備えられているので、真空濾過装置に析出した結晶成分を効果的に溶解除去することができる。また、本実施形態では、複数ある脱液用トレイ16C〜16Eのうち一つが前記洗浄された場合でも、残りの脱液用の真空トレイは脱液用として継続して操作しているので、高効率な洗浄を確実に実現することができる。
【0038】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、前記実施形態では、第1〜第3脱液用トレイ16C〜16Eそれぞれについての真空ライン20Cに、真空圧測定手段26および洗浄液供給手段27A〜27Bが各別に備えられた構成を示したが、これに限られるものではなく、前記複数の真空トレイ16のうち、少なくとも一の真空トレイについて、当該真空トレイと真空吸引装置30とを連結する真空ライン20に、洗浄液供給手段26および真空圧測定手段27を配設したものであればよい。すなわち、例えば第1真空ライン20A、第2真空ライン20B、または第3真空ライン20Cのいずれか一つのみに、洗浄液供給手段26および真空圧測定手段27を配設してもよく、あるいは第1〜第3真空ライン20A、20Bおよび20Cの全てに配設してもよい。
また、前記実施形態では、自動でトレイ洗浄液を真空トレイ16に供給する構成を示したが、真空圧測定手段27A〜27Cを前記密閉室Rの外部に配設し、前記真空圧を目視可能とし、オペレーターにより手動でトレイ洗浄液供給手段26等を作動させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
濾布やグリッド板に滞積付着している結晶を適切なタイミングで円滑に除去することができ、目詰まりや濾液流れ空間の閉塞を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施例を示す概略構成図である。
【図2】図1の装置本体を示す側面図である。
【図3】図2の真空トレイを示す一部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0041】
10 装置本体
11 濾布
16 真空トレイ
16I グリッド板
20 真空ライン
26 洗浄液供給手段
27A〜27C 真空圧測定手段
30 真空吸引装置
F 走行方向
S スラリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置本体に略水平に走行可能に設けられた濾布の下に、真空ラインを介して真空吸引装置に連結された真空トレイが設けられ、この濾布上に供給されたスラリーを前記真空トレイによって前記濾布を介して真空吸引することにより濾過する構成とされた真空濾過装置の洗浄方法であって、
前記真空ラインの真空圧に基づいて、前記真空トレイ内にトレイ洗浄液を供給して、該真空トレイ内にトレイ洗浄液を浸漬させ、この真空トレイを洗浄することを特徴とする真空濾過装置の洗浄方法。
【請求項2】
請求項1記載の真空濾過装置の洗浄方法において、
前記真空トレイは前記濾布の走行方向に複数設けられ、該複数の真空トレイのうち少なくとも一の真空トレイにおける前記真空ラインの真空圧に基づいて当該真空トレイを洗浄することを特徴とする真空濾過装置の洗浄方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の真空濾過装置の洗浄方法において、
複数の前記真空トレイにおける前記真空ラインそれぞれについての真空圧を測定し、該真空圧が所定値を超えた前記真空トレイのみを洗浄することを特徴とする真空濾過装置の洗浄方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の真空濾過装置の洗浄方法において、
前記トレイ洗浄液を前記真空トレイ内に供給して、該真空トレイからこの真空トレイに隣接する他の真空トレイに溢れ出させながら、洗浄を行うことを特徴とする真空濾過装置の洗浄方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の真空濾過装置の洗浄方法において、
前記トレイ洗浄液の温度を、前記結晶成分の再結晶化が行われる温度以上に保持することを特徴とする真空濾過装置の洗浄方法。
【請求項6】
装置本体に略水平に走行可能に設けられた濾布の下に、真空ラインを介して真空吸引装置に連結された真空トレイが前記濾布の走行方向に複数設けられ、この濾布上に供給されたスラリーを前記真空トレイによって前記濾布を介して真空吸引することにより濾過する構成とされた真空濾過装置であって、
前記複数の真空トレイのうち少なくとも一の真空トレイにおける前記真空ラインには、該真空ライン内の真空圧を測定する真空圧測定手段が備えられるとともに、当該真空トレイに、トレイ洗浄液を供給する洗浄液供給手段が備えられ、
前記真空圧測定手段により測定された真空圧に基づいて、前記洗浄液供給手段により前記真空トレイにトレイ洗浄液を供給して、該真空トレイ内にトレイ洗浄液を浸漬させ、この真空トレイを洗浄することを特徴とする真空濾過装置。
【請求項7】
請求項6記載の真空濾過装置において、
前記複数の真空トレイは、ケーキ形成用、ケーキ洗浄用、および脱液用として用いられるとともに、前記真空圧測定手段および前記洗浄液供給手段は、少なくとも前記脱液用の真空トレイの前記真空ラインに備えられていることを特徴とする真空濾過装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−88024(P2006−88024A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−275815(P2004−275815)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000165273)月島機械株式会社 (253)
【Fターム(参考)】