説明

真空紫外線励起蛍光体及びそれを用いた真空紫外線励起発光装置

【課題】本発明の目的は、発光輝度、ペーストベーキング輝度維持率及びガス放電による輝度維持率が良好な真空紫外線励起蛍光体及びそれを用いた真空紫外線励起発光装置を提供することであり、さらには、塗布特性が良く、放電開始電圧の調整が可能な真空紫外線励起蛍光体及びそれを用いた真空紫外線励起発光装置を提供することである。
【解決手段】Eu、Mnのうちの少なくとも一種の付活剤により付活されたアルカリ土類アルミン酸塩蛍光体の粒子表面に、タングステン酸又はタングステン酸塩が被覆されていることを特徴とする真空紫外線励起蛍光体は、発光輝度、ペーストベーキング輝度維持率及びガス放電による輝度維持率が良好であり、なおかつ、塗布特性が良く、放電開始電圧の調整が可能な真空紫外線励起蛍光体であって、この蛍光体を用いることによって、発光特性、寿命特性及び塗布特性の優れた真空紫外線励起発光装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空紫外線励起蛍光体及びそれを用いた真空紫外線励起発光装置に係り、特に、ペーストベーキング輝度維持率及びガス放電による輝度維持率が良好な真空紫外線励起蛍光体及びそれを用いた真空紫外線励起発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ土類アルミン酸塩蛍光体などの真空紫外線励起蛍光体は、プラズマディスプレイ(以下PDPとする)、希ガス放電ランプ等の発光デバイス(真空紫外線励起発光装置)、185nm水銀共鳴線を含む蛍光ランプなどに用いられている。PDPは、図1及び図2に示すように、2枚のガラス板に挟まれた密閉ガス空間を隔壁で区切り、表示セル(放電セル)と呼ばれる微小な放電空間をマトリックス状に配置したものであり、各表示セルには赤、青、緑に発光する蛍光体が塗布されており、放電で発生する真空紫外線で励起され発光する。
【0003】
PDPは、各種の平面ディスプレイと比較して、最も大型化しやすいことや、高速応答、広い視野角、色再現性などの特長から、ハイビジョン用壁掛けテレビの最有力候補として広く開発が進められている。このPDPに使用される蛍光体には、希ガスの放電で得られる波長が200nm以下の真空紫外線(VUV)の励起に対して高効率、短残光であることや、3原色として十分な彩度と色相を有していることに加えて、寿命特性や温度特性などの特性が要求される。特に、BaMgAl1017:Eu、BaMgAl1017:Eu,Mn等のアルカリ土類アルミン酸塩蛍光体は、真空紫外線及びイオン衝撃に対して劣化が大きく、寿命特性に問題があった。
【0004】
また、PDPは放電空間の近傍に蛍光体層を有しており、蛍光体と有機バインダーを混合した塗布組成物を調製し、所定の部位にスラリー法、印刷法等により塗布し乾燥した後、有機バインダーを揮散させるために空気中、400℃〜600℃の温度でベーキングすることにより形成されるが、上記アルカリ土類アルミン酸塩蛍光体は、このベーキング工程において発光輝度の低下が大きいという問題があった。
【0005】
このようなPDPなどの発光デバイスに用いられる蛍光体について、特開2000−303065号公報等に燐酸塩や硼酸塩を被覆することが開示されているが、発光輝度、ペーストベーキング輝度維持率及びガス放電による輝度維持率が十分でなく改良が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−303065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した問題に加えて、PDPにおいて蛍光体層を形成する際に、蛍光体と有機バインダーを混合した塗布組成物の粘度が高いと塗布特性が悪く、微細な放電セル構造に対応した薄く緻密な蛍光面の形成が難しいという問題があった。さらに、PDPに用いられる赤、青、緑の各発光色の蛍光体は、放電開始電圧がそれぞれ異なるため、各蛍光体の放電開始電圧を調整する必要があった。
【0008】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものである。本発明の目的は、発光輝度、ペーストベーキング輝度維持率及びガス放電による輝度維持率が良好な真空紫外線励起蛍光体及びそれを用いた真空紫外線励起発光装置を提供することであり、さらには、塗布特性が良く、放電開始電圧の調整が可能な真空紫外線励起蛍光体及びそれを用いた真空紫外線励起発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上述した問題を解決するために鋭意検討した結果、タングステン酸又はタングステン酸塩が被覆された真空紫外線励起蛍光体により、上記課題を解決することができることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0010】
(1)本発明の真空紫外線励起蛍光体は、Eu、Mnのうちの少なくとも一種の付活剤により付活されたアルカリ土類アルミン酸塩蛍光体の粒子表面に、タングステン酸又はタングステン酸塩が被覆されていることを特徴とする。
【0011】
(2)本発明の真空紫外線励起蛍光体は、(1)に記載の真空紫外線励起蛍光体であって、前記タングステン酸塩は、希土類タングステン酸塩又はアルカリ土類タングステン酸塩であることを特徴とする。
【0012】
(3)本発明の真空紫外線励起蛍光体は、(1)又は(2)に記載の真空紫外線励起蛍光体であって、前記タングステン酸の被覆量は蛍光体に対しW元素の量に換算して0.05〜0.8mol%の範囲であり、前記タングステン酸塩の被覆量は蛍光体に対しW元素の量に換算して0.05〜8mol%の範囲であることを特徴とする。
【0013】
(4)本発明の真空紫外線励起発光装置は、(1)乃至(3)に記載の真空紫外線励起蛍光体を具備することを特徴とする。
【0014】
(5)本発明のプラズマディスプレイ表示装置は、所定距離離間して略平行に位置する前面基板及び背面基板と、前記前面基板及び背面基板により放電空間を形成する複数個の隔壁と、該隔壁間に形成されるアドレス電極と、該アドレス電極と対向し交差する複数の表示電極と、前記アドレス電極と前記表示電極の交差点に形成される複数個の放電セルと、該放電セル内面の少なくとも一部に形成される蛍光体層と、前記前面基板と背面基板間の放電空間に密封されてなる放電気体とを含むプラズマディスプレイパネルと、該プラズマディスプレイパネルを駆動する駆動回路とを備えたプラズマディスプレイ表示装置であって、前記蛍光体層は(1)乃至(3)に記載の真空紫外線励起蛍光体を有する蛍光体層であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の蛍光体は、発光輝度、ペーストベーキング輝度維持率及びガス放電による輝度維持率が良好であり、なおかつ、塗布特性が良く、放電開始電圧の調整が可能な真空紫外線励起蛍光体であって、本発明の蛍光体を用いることによって、発光特性、寿命特性及び塗布特性の優れた真空紫外線励起発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】PDPの模式図である。
【図2】PDPの断面図である。
【図3】本発明の蛍光体のペーストベーキング輝度維持率(%)とタングステン酸の被覆量(W換算)(mol%)との関係を示す図である。
【図4】本発明の蛍光体のガス放電による輝度維持率(%)とタングステン酸の被覆量(W換算)(mol%)との関係を示す図である。
【図5】本発明の蛍光体のペースト粘度(Pa・s)とタングステン酸の被覆量(W換算)(mol%)との関係を示す図である。
【図6】本発明の蛍光体の帯電量(μC/g)とタングステン酸の被覆量(W換算)(mol%)との関係を示す図である。
【図7】本発明の蛍光体のペーストベーキング輝度維持率(%)とタングステン酸バリウムの被覆量(W換算)(mol%)との関係を示す図である。
【図8】本発明の蛍光体のガス放電による輝度維持率(%)とタングステン酸バリウムの被覆量(W換算)(mol%)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る真空紫外線励起蛍光体及びそれを用いた真空紫外線励起発光装置について実施の形態及び実施例を用いて説明する。但し本発明はこれら実施の形態及び実施例に限定されるものではない。
【0018】
ここで、本発明の一実施の形態に係る真空紫外線励起蛍光体の製造方法について詳細に説明する。先ず、通常の方法に従いアルカリ土類アルミン酸塩蛍光体を作製する。次に、この蛍光体を純水、エタノール水溶液等の分散媒に分散して蛍光体懸濁液を得る。この蛍光体懸濁液を酸でpH1〜7に調整した後、水溶性のタングステン酸塩の水溶液を添加してタングステン酸を蛍光体表面に析出させる。或いは、前記蛍光体懸濁液に水溶性のタングステン酸塩の水溶液と希土類元素又はアルカリ土類元素の水溶性化合物の水溶液とを添加し、希土類タングステン酸塩又はアルカリ土類タングステン酸塩を蛍光体表面に析出させる。その後、処理済の蛍光体と分散媒を分離し、乾燥して、タングステン酸で、或いは希土類タングステン酸塩又はアルカリ土類タングステン酸塩で、被覆された本発明の蛍光体を得る。
【0019】
表面処理する蛍光体は真空紫外線励起で発光するアルカリ土類アルミン酸塩蛍光体が使用できる。例えば、一般式(Ba,M)Al1017:Eu(但しMはSr,Ca,及びMgからなる群より選ばれた少なくとも一種以上の元素)で表される2価のユーロピウム付活アルカリ土類アルミン酸塩蛍光体、一般式(Ba,M)Al1017:Eu,Mn(但しMはSr,Ca,及びMgからなる群より選ばれた少なくとも一種以上の元素)で表される2価のユーロピウム及び2価のマンガン共付活アルカリ土類アルミン酸塩蛍光体等が挙げられる。
【0020】
水溶性のタングステン酸塩として、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム等が使用できる。希土類元素の水溶性化合物として、Eu、La、Y及びGdからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の希土類元素の水溶性化合物が好ましく、これらの希土類元素のハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩等が使用できる。例えば、塩化ユーロピウム、硫酸ユーロピウム、硝酸ユーロピウム等が好ましく使用できる。アルカリ土類元素の水溶性化合物として、Mg,Ca、Sr及びBaからなる群より選ばれた少なくとも1種以上のアルカリ土類元素の水溶性化合物が好ましく、これらのアルカリ土類元素のハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩等が使用できる。例えば、塩化バリウム、硫酸バリウム、硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム等が好ましく使用できる。また、pH調整に用いる酸として、塩酸、硫酸、硝酸等が使用できる。
【0021】
タングステン酸を蛍光体表面に析出させる場合、pH調整は酸性側のpH1〜7の範囲に調整するのが好ましく、pH1〜5の範囲がより好ましく、pH1〜3の範囲がさらに好ましい。pHが1より低くても、またpHが7より高くても、タングステン酸の析出量が少なくなって表面処理効果が減少する。
【0022】
希土類タングステン酸塩又はアルカリ土類タングステン酸塩を蛍光体表面に析出させる場合、水溶性のタングステン酸塩の水溶液と希土類元素又はアルカリ土類元素の水溶性化合物の水溶液とを添加し、反応させて希土類タングステン酸塩又はアルカリ土類タングステン酸塩を析出させる。
【0023】
蛍光体表面にはタングステン酸(HWO)、希土類タングステン酸塩としてタングステン酸ユウロピウム(Eu(WO)、タングステン酸ランタン(La(WO)、タングステン酸イットリウム(Y(WO)、タングステン酸ガドリニウム(Gd(WO)、アルカリ土類タングステン酸塩としてタングステン酸マグネシウム(MgWO)、タングステン酸カルシウム(CaWO)、タングステン酸ストロンチウム(SrWO)、タングステン酸バリウム(BaWO)が析出する。
【0024】
タングステン酸の被覆量は、蛍光体に対しW元素の量に換算して0.05〜0.8mol%の範囲が好ましく、0.1〜0.6mol%の範囲がより好ましい。被覆量が0.05mol%より少なくても0.8mol%より多くても、ペーストベーキング輝度維持率及びガス放電による輝度維持率が低下する。
【0025】
タングステン酸塩の被覆量は、蛍光体に対しW元素の量に換算して0.05〜8mol%の範囲が好ましく、0.1〜6mol%の範囲がより好ましい。被覆量が0.05mol%より少なくても8mol%より多くても、ペーストベーキング輝度維持率及びガス放電による輝度維持率が低下する。
【0026】
このようにして、アルカリ土類アルミン酸塩蛍光体の粒子表面に、タングステン酸又はタングステン酸塩を被覆することで、発光輝度、ペーストベーキング輝度維持率及びガス放電による輝度維持率が良好な真空紫外線励起蛍光体を得ることができる。
【0027】
本発明の蛍光体の平均粒径は1.0〜4.0μmの範囲が好ましく、1.0〜3.0μmの範囲がより好ましい。平均粒径が1.0μmより小さくても、逆に、4.0μmより大きくても、真空紫外線励起発光装置に用いた場合、発光特性が低下する。平均粒径が1.0μmより小さいと蛍光体の発光効率が低く、4.0μmより大きいと蛍光体粒子の表面積が小さくなって真空紫外線励起による発光輝度が低下することによる。真空紫外線が到達するのは粒子表面から浅く、ほとんど粒子表面で励起され発光するため、平均粒径が4.0μmより大きくなって蛍光体粒子の表面積が小さくなると発光輝度が低下してしまう。また、平均粒径が4.0μmより大きいと、塗布特性も低下する。中央粒径は1.5〜6.0μmの範囲が好ましく、1.5〜4.0μmの範囲がより好ましい。中央粒径が6.0μmより大きいと、塗布特性が悪くなる。ここで、平均粒径は空気透過法によるフィッシャー・サブ・シーブ・サイザー(F.S.S.S)を用いて測定し、中央粒径は電気抵抗法のコールターマルチサイザーII(コールター社製)を用いて測定される積算分布の50%値である。
【0028】
次に、本発明の真空紫外線励起蛍光体を用いて真空紫外線励起発光装置として面放電型PDPを作製する。先ず、背面基板にストライプ状の電極を形成し、この電極群に直交する方向にストライプ状の電極を形成し、この上に絶縁膜とMgOを形成する。さらに、対向基板上に本発明のアルミン酸塩蛍光体を形成する。この2枚の基板は約100μmのギャップを持たせて組み合わせる。このギャップ内に、放電によって真空紫外線を放射するHeとXeの混合ガスやNeとXeの混合ガスなどを670hPa程度封入して、面放電型PDPを得る。
【0029】
次に、本発明の真空紫外線励起蛍光体の特性について図を用いて説明する。
【0030】
<ペーストベーキング輝度維持率とタングステン酸の被覆量との関係>
図3は、実施例1と同様な方法でタングステン酸を被覆したBaMgAl1017:Eu蛍光体について、ペーストベーキング輝度維持率(%)とタングステン酸の被覆量(W換算)(mol%)との関係をプロットしたものである。ここで、ペーストベーキング輝度維持率(%)は次のように測定する。1)重量比がエチルセルロース:2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール:テルピネオール=8:14:78の割合で混合し、ビヒクルを作製する。2)蛍光体とビヒクルを重量比が蛍光体:ビヒクル=1:2で混合してペーストを作製する。3)このペーストを170℃で1時間乾燥後、500℃で1時間ベーキングする。4)ベーキング前後の蛍光体について146nm真空紫外線励起時の発光輝度を測定する。そして、ベーキング後の測定値をベーキング前の測定値で除した値の百分率を求め、これをペーストベーキング輝度維持率(%)とする。この図から、ペーストベーキング輝度維持率は、タングステン酸の被覆量(W換算)が0.05〜0.8mol%の範囲で高く、0.1〜0.6mol%の範囲でより高くなっていることがわかる。
【0031】
<ガス放電による輝度維持率とタングステン酸の被覆量との関係>
図4は、タングステン酸が被覆された上記BaMgAl1017:Eu蛍光体について、ガス放電による輝度維持率(%)とタングステン酸の被覆量(W換算)(mol%)との関係をプロットしたものである。ガス放電による輝度維持率(%)の測定方法を次に説明する。1)前記同様に蛍光体とビヒクルを混合したペーストを500℃で1時間ベーキングし、蛍光体測定試料を作製する。2)真空紫外線分光光度計を用いて蛍光体測定試料を147nmの波長の真空紫外線で励起し発光輝度を測定する。3)同試料をNe:Xe=95%:5%の混合ガスを圧力100Paで封入したガラス管にセットし、照射電力350W、照射時間1時間でアーク放電し、蛍光体粒子表面を強制劣化させる。4)強制劣化させた試料を147nmの波長の真空紫外線で励起し発光輝度を測定する。そして、4)で得た測定値を2)で得た測定値で除した値の百分率を求め、これをガス放電による輝度維持率(%)とする。この図から、ガス放電による輝度維持率(%)は、タングステン酸の被覆量(W換算)が0.05〜0.8mol%の範囲で高く、0.1〜0.6mol%の範囲でより高くなっていることがわかる。
【0032】
<ペースト粘度とタングステン酸の被覆量との関係>
図5は、タングステン酸が被覆された上記BaMgAl1017:Eu蛍光体について、ペースト粘度(Pa・s)とタングステン酸の被覆量(W換算)(mol%)との関係をプロットしたものである。ペースト粘度(Pa・s)の測定方法を次に説明する。1)重量比がエチルセルロース:2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール:テルピネオール=8:14:78の割合で混合し、ビヒクルを作製する。2)蛍光体5gとビヒクル10gを混合してペーストを作製する。3)測定粘度計(東機産業製TVE−33H)を用いて、ローター回転数12rpm、測定温度25℃でペースト粘度を測定する。この図から、タングステン酸を被覆しない蛍光体のペースト粘度は24.0Pa・sであるが、タングステン酸の被覆量が増加するに従い、ペースト粘度は減少することがわかる。
【0033】
本発明の蛍光体の分散性については、タングステン酸が被覆されても差は見られなかったが、蛍光体と有機バインダーを混合した塗布組成物の粘度については、図のようにタングステン酸が被覆されると減少し、塗布特性が向上するため、PDP等の微細な放電セル構造に対応した薄く緻密な蛍光面の形成が可能となる。
【0034】
<帯電量とタングステン酸の被覆量との関係>
図6は、タングステン酸が被覆された上記BaMgAl1017:Eu蛍光体について、帯電量(μC/g)とタングステン酸の被覆量(W換算)(mol%)との関係をプロットしたものである。東芝ケミカル製ブローオフ粉体帯電量測定装置を用いて次のように帯電量(μC/g)を測定する。蛍光体200mgを両端に網を張った円筒容器中に入れ、一端から高圧ガスを吹き込んで蛍光体を分離し、網の目開きから蛍光体をブローオフ(吹き飛ばし)して帯電量を求める。この図から、タングステン酸を被覆しない蛍光体の帯電量は2.4μC/gであるが、タングステン酸の被覆量が増加するに従い、帯電量はマイナス側にシフトすることがわかる。蛍光体の帯電量がマイナス側にシフトすると、PDPに用いた場合に放電開始電圧が高くなるため、各発光色の蛍光体の放電開始電圧を調整する際に効果的に用いることができる。なお、蛍光体の帯電量は2.1μC/g以下が好ましい。
【0035】
<ペーストベーキング輝度維持率とタングステン酸塩の被覆量との関係>
図7は、実施例4と同様な方法でタングステン酸バリウムを被覆したBaMgAl1017:Eu蛍光体について、ペーストベーキング輝度維持率(%)とタングステン酸バリウムの被覆量(W換算)(mol%)との関係をプロットしたものである。なお、ペーストベーキング輝度維持率(%)は上述した方法と同様に測定する。この図から、ペーストベーキング輝度維持率は、タングステン酸バリウムの被覆量(W換算)が0.05〜8mol%の範囲で高く、0.1〜6mol%の範囲でより高くなっていることがわかる。
【0036】
<ガス放電による輝度維持率とタングステン酸塩の被覆量との関係>
図8は、タングステン酸バリウムが被覆された上記BaMgAl1017:Eu蛍光体について、ガス放電による輝度維持率(%)とタングステン酸バリウムの被覆量(W換算)(mol%)との関係をプロットしたものである。なお、ガス放電による輝度維持率(%)は上述した方法と同様に測定する。この図から、ガス放電による輝度維持率(%)は、タングステン酸バリウムの被覆量(W換算)が0.05〜8mol%の範囲で高く、0.1〜6mol%の範囲でより高くなっていることがわかる。
【0037】
このようにBaMgAl1017:Eu蛍光体にタングステン酸バリウムを被覆した場合、被覆量(W換算)と蛍光体の各特性は図7〜図8に示した関係を示すが、他のアルカリ土類タングステン酸塩や希土類タングステン酸塩を被覆した場合も、同様な関係を示す。
【0038】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は具体的実施例のみに限定されるものではないことは言うまでもない。
【実施例】
【0039】
[実施例1]
一般式が(Ba0.9Eu0.1)MgAl1017で表される蛍光体(以下BAM蛍光体と称す)50gを純水250mlに入れ懸濁する。3.6wt%の塩酸水溶液を滴下してpH2.0に調整する。7タングステン酸6アンモニウム4水和物(昭和化学製、粉末一級、純度99%)を使用して2.0wt%に調整したタングステン酸アンモニウム水溶液を1.25ml添加した後、10分間撹拌する。その後、十分に洗浄、脱液、乾燥、篩を行い、タングステン酸で被覆されたBAM蛍光体を得る。
【0040】
[実施例2]
2.0wt%タングステン酸アンモニウム水溶液を2.50ml添加する以外は実施例2と同様の方法で作製し、タングステン酸で被覆されたBAM蛍光体を得る。
【0041】
[実施例3]
2.0wt%タングステン酸アンモニウム水溶液を12.5ml添加する以外は実施例2と同様の方法で作製し、タングステン酸で被覆されたBAM蛍光体を得る。
【0042】
[実施例4]
BAM蛍光体100gを純水500mlに入れ懸濁する。2.97wt%硝酸バリウム水溶液を2.52ml添加した後、撹拌しながら2.0wt%タングステン酸アンモニウム水溶液を5.0ml添加し、さらに10分間撹拌する。その後、十分に洗浄、脱液、乾燥、篩を行い、タングステン酸バリウムで被覆されたBAM蛍光体を得る。
【0043】
[実施例5]
2.97wt%硝酸バリウム水溶液を12.58ml、2.0wt%タングステン酸アンモニウム水溶液を25.0ml添加する以外は実施例4と同様の方法で作製し、タングステン酸バリウムで被覆されたBAM蛍光体を得る。
【0044】
[実施例6]
2.97wt%硝酸バリウム水溶液を37.73ml、2.0wt%タングステン酸アンモニウム水溶液を75.0ml添加する以外は実施例4と同様の方法で作製し、タングステン酸バリウムで被覆されたBAM蛍光体を得る。
【0045】
[実施例7]
BAM蛍光体100gを純水500mlに入れ懸濁する。2.0wt%硝酸カルシウム水溶液を1.09ml添加した後、撹拌しながら2.0wt%タングステン酸アンモニウム水溶液を5.0ml添加し、さらに10分間撹拌する。その後、十分に洗浄、脱液、乾燥、篩を行い、タングステン酸カルシウムで被覆されたBAM蛍光体を得る。
【0046】
[実施例8]
2.0wt%硝酸カルシウム水溶液を5.45ml、2.0wt%タングステン酸アンモニウム水溶液を25.0ml添加する以外は実施例7と同様の方法で作製し、タングステン酸カルシウムで被覆されたBAM蛍光体を得る。
【0047】
[実施例9]
BAM蛍光体100gを純水500mlに入れ懸濁する。2.0wt%硝酸ユウロピウム水溶液を4.13ml添加した後、撹拌しながら2.0wt%タングステン酸アンモニウム水溶液を5.0ml添加し、さらに10分間撹拌する。その後、十分に洗浄、脱液、乾燥、篩を行い、タングステン酸ユウロピウムで被覆されたBAM蛍光体を得る。
【0048】
[実施例10]
2.0wt%硝酸ユウロピウム水溶液を20.66ml、2.0wt%タングステン酸アンモニウム水溶液を25.0ml添加する以外は実施例9と同様の方法で作製し、タングステン酸ユウロピウムで被覆されたBAM蛍光体を得る。
【0049】
[実施例11]
BAM蛍光体100gを純水500mlに入れ懸濁する。1.96wt%硝酸ストロンチウム水溶液を2.43ml添加した後、撹拌しながら2.0wt%タングステン酸アンモニウム水溶液を5.0ml添加し、さらに10分間撹拌する。その後、十分に洗浄、脱液、乾燥、篩を行い、タングステン酸ストロンチウムで被覆されたBAM蛍光体を得る。
【0050】
[実施例12]
1.96wt%硝酸ストロンチウム水溶液を12.16ml、2.0wt%タングステン酸アンモニウム水溶液を25.0ml添加する以外は実施例11と同様の方法で作製し、タングステン酸ストロンチウムで被覆されたBAM蛍光体を得る。
【0051】
[比較例1]
表面処理物質が被覆されていないBAM蛍光体を用意する。
【0052】
実施例1〜12及び比較例1で得られるBAM蛍光体について、表面処理物質とその被覆量(W換算)(mol%)を表1に、発光輝度、ペーストベーキング輝度維持率及びガス放電による輝度維持率を測定した結果を表2に、平均粒径、中央粒径、ペースト粘度及び帯電量を測定した結果を表3に、それぞれ示す。これらの表から、本発明の実施例1〜12の蛍光体は、発光輝度が比較例1の蛍光体とほぼ同等であり、比較例1の蛍光体に比べてペーストベーキング輝度維持率及びガス放電による輝度維持率が高いことがわかる。また、本発明の実施例1〜12の蛍光体は、平均粒径が1.0〜4.0μmの範囲、中央粒径が1.5〜6.0μmの範囲にあること、比較例1の蛍光体に比べてペースト粘度が低く、塗布特性が優れていること、そして、帯電量が比較例1の蛍光体よりマイナス側にあって、2.1μC/g以下であることがわかる。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0056】
以上に述べたように、本発明の真空紫外線励起蛍光体は、発光輝度、ペーストベーキング輝度維持率及びガス放電による輝度維持率が良好であり、なおかつ、塗布特性が良く、放電開始電圧の調整が可能な蛍光体であって、この真空紫外線励起蛍光体をPDP等の発光デバイスに用いることによって、発光特性、寿命特性及び塗布特性の優れた真空紫外線励起発光装置の提供が可能となる。
【符号の説明】
【0057】
11:前面ガラス基板
12:背面ガラス基板
13:表示電極
14:アドレス電極
15:誘電体層
16:保護層
17:誘電体層
18:隔壁
19:蛍光体層
20:放電空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Eu、Mnのうちの少なくとも一種の付活剤により付活されたアルカリ土類アルミン酸塩蛍光体の粒子表面に、タングステン酸又はタングステン酸塩が被覆されていることを特徴とする真空紫外線励起蛍光体。
【請求項2】
前記タングステン酸塩は、希土類タングステン酸塩又はアルカリ土類タングステン酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の真空紫外線励起蛍光体。
【請求項3】
前記タングステン酸の被覆量は蛍光体に対しW元素の量に換算して0.05〜0.8mol%の範囲であり、前記タングステン酸塩の被覆量は蛍光体に対しW元素の量に換算して0.05〜8mol%の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の真空紫外線励起蛍光体。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の真空紫外線励起蛍光体を具備することを特徴とする真空紫外線励起発光装置。
【請求項5】
所定距離離間して略平行に位置する前面基板及び背面基板と、前記前面基板及び背面基板により放電空間を形成する複数個の隔壁と、該隔壁間に形成されるアドレス電極と、該アドレス電極と対向し交差する複数の表示電極と、前記アドレス電極と前記表示電極の交差点に形成される複数個の放電セルと、該放電セル内面の少なくとも一部に形成される蛍光体層と、前記前面基板と背面基板間の放電空間に密封されてなる放電気体とを含むプラズマディスプレイパネルと、該プラズマディスプレイパネルを駆動する駆動回路とを備えたプラズマディスプレイ表示装置であって、前記蛍光体層は請求項1乃至3に記載の真空紫外線励起蛍光体を有する蛍光体層であることを特徴とするプラズマディスプレイ表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−1507(P2011−1507A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147465(P2009−147465)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】