説明

真空紫外線用蛍光体、蛍光体ペースト組成物及びプラズマディスプレイパネル

【課題】 真空紫外線励起発光素子の照射を受けた際の放電によるイオン衝撃を抑制し、かつ、蛍光膜の成膜工程における熱劣化による発光輝度の低下の少ない真空紫外線用蛍光体、蛍光体ペースト組成物及びこれを用いたプラズマディスプレイを提供しようとするものである。
【解決手段】 (Axy)2SiO4で表されるMn付活珪酸塩蛍光体等の蛍光体と、M23で表される金属酸化物と酸化珪素(SiO2)とからなり、かつ、前記M23で表される酸化物及び前記酸化珪素(SiO2)はそれぞれ前記蛍光体表面の少なくとも一部に被覆されるか、または、前記蛍光体と混合されてなることを特徴とする真空紫外線用蛍光体。
(ただし、MはY、La及びAlの中の少なくとも1種の金属元素を表し、AはZn及びMgの中の少なくとも1種を、BはMnをそれぞれ表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)、希ガス放電ランプ等に使用される、真空紫外線で励起されて発光する真空紫外線用蛍光体(以下、VUV用蛍光体という)、その蛍光体を含有する蛍光体ペースト組成物及びその蛍光体を含む蛍光膜を備えたPDPに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Ar、Xe、He、Ne、Xe−Ne等の希ガスをガラスなどの真空外囲器に封入し、その希ガスの放電によって放射される真空紫外線で、外囲器内部の蛍光膜を励起して発光させる真空紫外線励起発光素子(以下、VUV励起発光素子という)が実用化されている。なかでも、PDPはこれらVUV励起発光素子を適用したカラー表示用デバイスとして活発な開発及び改良がなされている。
【0003】
VUV励起発光素子で使用されている蛍光体としては、赤色発光蛍光体としては例えば(Y,Gd)BO3:Eu、緑色発光蛍光体としては例えばLaPO4:Ce,Tbや(Zn,Mn)SiO4、青色発光蛍光体としては例えばBaMgAl1017:Eu、(Ba,Sr)MgAl1017:Eu,Mnなどが挙げられる。
カラーPDPの場合、真空紫外線励起により赤、青、緑に発光する各蛍光体をマトリックス状に塗り分けることにより、フルカラーの表示を行うことができるが、上記蛍光体の中でもカラーPDPにおいては、赤色発光蛍光体には(Y,Gd)BO3:Euが、緑色発光蛍光体にはZn2SiO4:Mnが、また青色発光蛍光体にはBaMgAl1017:Eu等がそれぞれ主として使用されている。
【0004】
ところで、VUV用蛍光体は比較的エネルギーの強い紫外線により励起されるので、紫外線照射や放電により発生する残留ガスイオンなどのイオン衝撃等により蛍光体が劣化すると言われている。特に、蛍光体の表面がマイナスに帯電しているZn2SiO4:Mn等は、放電により発生したプラスイオンが蛍光体表面に吸着することにより化学反応が進行して蛍光体が劣化し、その発光輝度が低下し易いと言われている。そこで、蛍光体の表面を希土類酸化物やアルミナで被覆したり(特許文献1)、希土類硼酸塩で被覆したり(特許文献2)することによって予め蛍光体粒子の表面を放電イオンと同じプラスに帯電させておき、帯電の極性反発によって蛍光体へのプラス放電イオンの影響を抑制し、蛍光体の劣化を抑制する方法が提案されている。
【0005】
また、VUV用蛍光体は、上記のPDP等として使用される時(真空紫外線で照射された際)の劣化による発光輝度の低下以外に、PDPを製造する過程、特に蛍光体ペースト組成物を塗布し、乾燥し、焼成する工程(ベーキング工程)で蛍光体の劣化が発生し、発光輝度が低下するという問題があった。そのため、これら焼成工程における発光輝度の低下を抑制する方法として、例えば蛍光体に対して特定珪酸塩のコートを施すとか、特定珪酸塩を該蛍光体と混合することにより熱劣化を改善する方法(特許文献3)や、また、蛍光体の加熱による輝度低下の抑制を意図したものではないが、蛍光体表面へ水の拡散や吸着を抑え蛍光体の輝度劣化を防止するために、青色発光蛍光体であるBAM蛍光体及び赤色蛍光体であるY23:Euの表面に特定の有機の珪酸塩をコートし、緻密な被膜を設けることによって蛍光体表面へ水の拡散や吸着を抑え、蛍光体の輝度劣化を防止しようとするとの提案もなされている(特許文献4)。
【0006】
ここで形成されるSiOxや、珪酸塩は、前記の放電プラスイオンによる劣化を考えた場合は、BAMやY23:Eu蛍光体は表面がプラス帯電しており、マイナスイオン化材である珪酸塩や酸化珪素をある程度被覆することは許容できるが多く付着させることは好ましくない。一方、マイナス帯電している緑色発光蛍光体のZnSiO4蛍光体に適用すると逆にSiOxのイオン特性上マイナスイオン化が加速され逆効果となる。前述のようにこれまでの技術はプラス帯電材であるアルミナ等と珪酸塩コートを併用すると、各々の役割はあるにもかかわらず電荷的に相反し、また、使用される蛍光体自体の電荷特性にも影響されるためにそれぞれのコート材のもつ機能がうまく活用できず、蛍光体の市場ニーズに応じた劣化防止のレベル向上をはかることが出来なかった。
【0007】
【特許文献1】特開2003−183650号公報
【特許文献2】特開2003−336047号公報
【特許文献3】特開2000− 34478号公報
【特許文献4】特開2003−82342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、VUV用蛍光体の持つ上記問題点を解消し、VUV励起発光素子の蛍光膜の成膜工程の熱劣化による発光輝度の低下が少なく、しかも真空紫外線の照射を受けた際の放電によるイオン衝撃やプラスイオンの吸着をも抑制することで、従来の蛍光体よりも発光輝度の劣化の少ないVUV用蛍光体、蛍光膜の成膜工程での熱劣化による発光輝度の低下が少ない蛍光体ペースト組成物及びこれを用いたPDPを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために、真空紫外線励起により発光する蛍光体の表面を被覆する種々の物質について、該物質を被覆したことによる真空紫外線照射後、及びその蛍光体をペースト化してベーキング処理したことによる発光輝度劣化の防止効果に関して鋭意検討した結果、蛍光体の表面に希土類酸化物及び酸化アルミニウムのうち少なくとも1種からなる金属酸化物と、酸化珪素、特に特定粒径で球状の酸化珪素とを蛍光体粒子表面被覆するか、これらの酸化物を蛍光体と混合することによって蛍光体粒子間に立体障害的な形で介在させることで、蛍光体の表面を酸化珪素又は珪酸塩の緻密な被膜で被覆うことにより熱劣化は改善されるものの、放電劣化に影響を与えるマイナス帯電が加速するという従来の蛍光体の欠点を補うことができ、その結果プラス帯電材としての前記金属酸化物との組合わせにより、使用時の放電のプラスイオン衝撃による劣化を抑えることができ、しかも製造過程での熱劣化をも抑制され、上記課題が解決されることを見出した本発明に至った。
本発明のVUV用蛍光体、蛍光体ペースト組成物及びPDP次の構成からなる。
【0010】
(1)蛍光体と、M23で表される金属酸化物と酸化珪素とからなり、かつ、前記M23で表される酸化物及び前記酸化珪素はそれぞれ前記蛍光体表面の少なくとも一部に被覆されるか、または、前記蛍光体と混合されてなることを特徴とする真空紫外線用蛍光体。
(ただし、MはY、La及びAlの中の少なくとも1種の金属元素を表す。)
(2)前記酸化珪素が球状粒子であることを特徴とする前記(1)に記載の真空紫外線用蛍光体。
(3)前記酸化珪素の平均粒子径が10〜200nmの範囲にあることを特徴とする前記(1)または前記(2)に記載の真空紫外線用蛍光体。
【0011】
(4)前記酸化珪素の含有量が前記蛍光体重量に対して、0.01〜10wt%の範囲であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の真空紫外線用蛍光体。
(5)前記M23で表される金属酸化物の総含有量が前記蛍光体重量に対して、0.01〜10wt%の範囲であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の真空紫外線用蛍光体。
(6)前記蛍光体が(Axy)2SiO4で表されるMn付活珪酸塩蛍光体であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の真空紫外線用蛍光体。
(ただし、AはZn及びMgのうちの少なくとも一種であり、BはMnであり、x+yは1.5〜2.5の範囲の数を表す)
【0012】
(7)蛍光体をバインダー樹脂中に分散させてなる蛍光体ペースト組成物において、前記蛍光体が前記(1)〜(6)のいずれかに記載の真空紫外線用蛍光体からなることを特徴とする蛍光体ペースト組成物。
【0013】
(8)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の真空紫外線用蛍光体を含む蛍光膜を有することを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、上記の構成を採用することにより、蛍光体がより帯電量の多いプラス側に帯電し、真空紫外線照射によるイオン衝撃やガス吸着を抑制し輝度劣化の低下による発光効率の低減が抑制されるとともに、蛍光膜を形成する際の焼成工程における熱劣化による輝度低下が抑制され、発光効率の高いVUV用蛍光体、蛍光体ペースト及び発光効率の改善されたPDPの提供を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のVUV線用蛍光体は、真空紫外線励起により発光する蛍光体、一般式M23で表される金属酸化物(但し、MはY、La及びAlの中の少なくとも1種を表す。以下、この金属酸化物を単にM23という)及び酸化珪素からなり、前記M23及び酸化珪素は前記蛍光体粒子の表面の少なくとも1部に被覆されているか、前記蛍光体と単に混合されてなることを特徴とする。
【0016】
本発明のVUV用蛍光体を製造するには、蛍光体を水などの溶媒に分散させた蛍光体スラリーを調製し、その蛍光体スラリー中に所定量のM23と酸化珪素とを添加して十分に攪拌、混合した後、溶媒を除去し、乾燥させることにより製造することができる。その際、酸化珪素源としてコロイダルシリカなどのスラリー状の酸化珪素原料を用いる場合は、蛍光体スラリー中にさらに硝酸亜鉛などの水溶性金属塩の溶液を添加することによって、蛍光体表面へのM23や酸化珪素の付着力を高めることが出来るのでより好ましい。
【0017】
また、蛍光体と所定量の粉体状のM23と酸化珪素とをボールミル等でミリングして機械的に混合することによっても製造することが出来る。しかしながら、蛍光膜形成における焼成工程での輝度劣化の抑制をより確実にする点では、前記の蛍光体スラリー中でM23や酸化珪素を直接蛍光体の表面の少なくとも1部分に付着もしくは被覆させる方法の方がより好ましい。
【0018】
本発明のVUV用蛍光体の主構成成分である、蛍光体としては、一般式(Axy)2SiO4で表される珪酸塩蛍光体(ただし、AはZn及びMgのうちの少なくとも一種であり、BはMnであり、x+yは1.5〜2.5の範囲の数を表す)、一般式(M1 1-x Eux )O・a(M2 1-y ,Mny )O・(5.5−0.5a)Al2 3 蛍光体(式中、M1 はBa,Sr及びCaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を表し、M2 はMg及び/又はZnを表し、aは、0<a≦2の実数を表し、x及びyはそれぞれ0<x<1,0≦y<1の実数を表す)で表されるEu2+やMn2+で付活されたアルミン酸塩蛍光体、BaAl1219:Mn蛍光体、BaMgAl1017:Eu蛍光体、(Ba,Sr)MgAl1017:Eu,Mn蛍光体、LaPO4 :Ce,Tb蛍光体をはじめとする、真空紫外線照射を受けて発光し得る蛍光体であればいずれも使用することができるが、これらの蛍光体の中でも通常マイナス帯電を有している一般式(Axy)2SiO4で表される珪酸塩蛍光体を用いた場合、特に耐イオン衝撃性を高め得る点で特に有効である。
【0019】
本発明のVUV用蛍光体の1構成成分である、M23としては、Y、La及びAlの酸化物であればその種類に関して特に制限はない。
【0020】
本発明のVUV用蛍光体の別の構成成分である酸化珪素に関しては、M23と共に蛍光体に添加する酸化珪素源としては固体状の酸化珪素であっても、コロイダルシリカなどのゾル状酸化珪素であってもよいが、最終的に得られたVUV用蛍光体中では、球状もしくはほぼ球状の粒子(これらを総称して球状粒子という)の酸化珪素として蛍光体表面に被覆、または蛍光体と混合されていることが好ましい。
蛍光体に被覆または混合される酸化珪素はその粒子径がおよそ10nmより小さいとマイナス帯電を加速させ、蛍光体の耐イオン衝撃性の低下による劣化が起こり易くなり、また、逆に200nmより大きくてもイオン衝撃による劣化抑制効果が低下し、蛍光体へ付着しにくくなる。従って、本発明において使用される酸化珪素の粒子径はおよそ10〜200nmの範囲にあるものを用いるのが好ましい。
【0021】
本発明のVUV用蛍光体中のM23及び酸化珪素の含有量が蛍光体に対してそれぞれ0.01重量%より少ないと、真空紫外線照射による輝度劣化の抑制効果及び成膜工程での焼成による熱劣化の防止効果が少なく、逆に10重量%より多すぎると、蛍光体への励起光の浸透及び蛍光体からの発光の取り出しが阻害され、蛍光体の発光効率が低下するので好ましくない。したがって、本発明のVUV用蛍光体中のM23及び酸化珪素の含有量は蛍光体に対してそれぞれ0.01〜10重量%とするのが好ましい。
また、蛍光体に含有させるM23と酸化珪素との含有比はおよそ1:5〜5:1の範囲とするのが好ましく、特に1:2〜2:1の範囲とするのがより好ましい。
【0022】
本発明の蛍光体ペースト組成物は、蛍光体粉末として前記の本発明のVUV用蛍光体を用いる以外は従来の蛍光体ペースト組成物と同様にして製造される。すなわち、前記本発明のVUV蛍光体とバインダー樹脂が溶解された溶媒とをそれぞれ所定量加えて十分に撹拌・混練して溶媒中に該蛍光体を分散させるとともに、溶媒の量を適宜加減することによって使用目的にかなった粘度に調整することにより得ることができる。
【0023】
バインダー樹脂としては、得られる蛍光体ペースト組成物の使用目的に応じてエチルセルロース、ニトロセルロース、アクリル樹脂、ポリスチレンオキサイドなどの樹脂を用い、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール、酢酸ブチル、酢酸エチル、メチルエチルケトンなどの溶剤とともに均一に混合して分散させる。蛍光体ペースト組成物中の蛍光体の配合量は、5〜80重量%、好ましくは20〜60重量%の範囲が適当である。また、バインダー樹脂の配合量は、4〜50重量%、好ましくは8〜50重量%の範囲が適当である。さらに、溶剤の添加量は、10〜90重量%、好ましくは40〜80重量%の範囲が適当である。
【0024】
また、本発明のPDPは、カラーPDPの場合、例えばガラス板等の背面板に内部電極を形成し、ストライプ状もしくはマトリックス状の隔壁を設けて複数の放電セルを構成し、赤、緑、青の各色毎に放電セルを構成する各隔壁の底部並びに内壁にスクリーン印刷法等の方法によりそれぞれ赤、緑、青のVUV用蛍光体からなる発光色の異なる3種類の本発明の蛍光体ペースト組成物を塗布し、これを乾燥しベーキングして各放電セル内に発光色の異なる3種類の蛍光膜を形成すると共に、背面板と一定間隔を隔てて内部電極が形成されたガラス板等からなる前面板を対向配置し前面板と背面板との周囲を封じて、内部を排気してから希ガスを封入して本発明のPDPとする。
【0025】
なお、本発明の蛍光体ペースト組成物はまた、スキャナーの読取り用光源等に使用される希ガスランプの蛍光膜形成のためにも使用することができる。希ガスランプは、例えば4〜12mmの内径を有する透明なガラス細管の一端から、管内に流動可能な程度にまでその粘度が調節された蛍光体ペースト組成物を流し塗りし、100〜200℃で乾燥した後、400〜800℃で5〜30分間焼成してガラス管壁に蛍光膜を形成し、ガラス管の内部を排気してから該管内に少量のNe98%−Xe2%の混合ガス、He98%−Xe2%の混合ガスなどの希ガスを封入し、管の両端を封じた後、ガラス細管の両端もしくはガラス管の内部と外部、もしくはガラス管の外部の対向した両面に電極を取り付けることによって製造される。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
〔実施例1〕
(Zn,Mn)2SiO4蛍光体100gをイオン交換水400mlに投入し十分に攪拌することによって蛍光体スラリーを調製し、この蛍光体スラリー中に平均粒径33nmの酸化イットリウム水分散液(濃度10w/v)を1.5ml添加して30分間攪拌した後、粒径20nmのコロイダルシリカ(商品名;スノーテックス20L、日産化学製)の分散液を6.6ml添加して10分間攪拌した後、さらにこの蛍光体スラリー中にZnを0.15g含有するZn(NO32の水溶液を滴下し30分間攪拌した後、攪拌を止めた。次いでこれを脱水し、120℃で12時間乾燥することで、(Zn,Mn)2SiO4蛍光体の表面に0.15%のY23と、0.15%の酸化珪素とを被覆した実施例1のVUV用蛍光体を得た。
【0027】
〔実施例2〕
(Zn,Mn)2SiO4蛍光体の水スラリーに酸化イットリウム水分散液とコロイダルシリカの分散液を順次添加した蛍光体の水スラリーを10分間攪拌した後、Zn(NO32の水溶液を添加しないで攪拌しながら加熱、蒸発させて液量を減らし、最後に蒸発乾固させ、酸化珪素のみを被覆した蛍光体を得た後、該酸化珪素を被覆した蛍光体に0.15重量%のY23を混合して表面に酸化珪素を付着させた上にさらにY23が混合された実施例2のVUV用蛍光体を得た。
【0028】
〔実施例3〕
実施例1において酸化イットリウムの水分散液の代わりに粒径33nmの酸化ランタン水分散液を1.5ml添加した以外は実施例1と同様にして(Zn,Mn)2SiO4蛍光体の表面に0.15%のLa23と、0.15%の酸化珪素とを被覆した実施例3のVUV用蛍光体を得た。
【0029】
〔実施例4〕
実施例1において酸化イットリウムの水分散液の代わりに、粒子の大きさが100nm×10nmの市販のアルミナゾルの分散液(濃度10w/v)を1.5ml添加した以外は実施例1と同様にして(Zn,Mn)2SiO4蛍光体の表面に0.15%のAl23と、0.15%の酸化珪素とを被覆した実施例4のVUV用蛍光体を得た。
【0030】
〔実施例5〕
実施例1において酸化イットリウム分散液の投入量を1.5mlではなく6.0mlとした以外は実施例1と同様にして(Zn,Mn)2SiO4蛍光体の表面に0.6%の酸化イットリウムと0.15%の酸化珪素とを付着させた実施例5のVUV用蛍光体を得た。
【0031】
〔実施例6〕
実施例1においてコロイダルシリカ分散液の投入量を6.6mlから26.4mlに変更し、Znを0.15gではなく0.60g含有する含有するZn(NO32の水溶液を滴下した以外は実施例1と同様にして(Zn,Mn)2SiO4蛍光体の表面に0.15%の酸化イットリウムと0.6%の酸化珪素とを前記蛍光体に付着させた実施例6のVUV用蛍光体を得た。
【0032】
〔実施例7〕
実施例1において酸化イットリウム分散液の投入量を1.5mlではなく60mlに変更した以外は実施例1と同様にして(Zn,Mn)2SiO4蛍光体の表面に0.6%の酸化イットリウムと0.15%の酸化珪素とを前記蛍光体に付着させた実施例5のVUV用蛍光体を得た。
【0033】
〔実施例8〕
実施例1において、蛍光体として(Zn,Mn)2SiO4蛍光体の代わりに(Ba,Eu)MgAl1017蛍光体を用いた以外は実施例1と同様にして(Ba,Eu)MgAl1017蛍光体の表面に0.15%のY23と、0.15%の酸化珪素とを被覆した
実施例8のVUV用蛍光体を得た。
【0034】
〔比較例1〕
23も酸化珪素も被覆または混合されていない、実施例1〜7で用いた(Zn,Mn)2SiO4蛍光体を比較例1のVUV用蛍光体とした。
【0035】
〔比較例2〕
実施例1において、調製された蛍光体スラリーに粒径33nmの酸化イットリウム水分散液(濃度10w/v)のみを1.5ml添加し、コロイダルシリカ及びZn(NO32の水溶液を添加しなかった以外は実施例1と同様にして、(Zn,Mn)2SiO4蛍光体の表面に0.15%のY23のみを被覆した比較例1のVUV用蛍光体を得た。
【0036】
〔比較例3〕
実施例1において、調製された蛍光体スラリーに粒径20nmのコロイダルシリカ(商品名;スノーテックス20L、日産化学製)の分散液6.6mlとZnを0.15g含有するZn(NO32の水溶液とを順次添加し、酸化イットリウム水分散液を添加しなかった以外は実施例1と同様にして、(Zn,Mn)2SiO4蛍光体の表面に0.15%の酸化珪素のみを被覆した比較例3のVUV用蛍光体を得た。
【0037】
〔比較例4〕
実施例8において、M23も酸化珪素も被覆または混合されていない、実施例8で用いた(Ba,Eu)MgAl1017蛍光体を比較例4のVUV用蛍光体とした。
【0038】
[熱処理による蛍光体粉体の輝度劣化の評価]
各実施例及び比較例の蛍光体粉体について、熱処理後における発光輝度の輝度維持率1を測定し、各蛍光体の熱処理による輝度劣化の程度を評価する指標とした。得られた実施例1〜8及び比較例1〜4の各蛍光体の輝度維持率1を表1に示す。
なお、表1における維持率1は熱処理を行う前の蛍光体粉体の発光輝度[Br1]と該熱処理を行った後での蛍光体粉体の発光輝度[Br2]との比の百分率{[Br2]/[Br1])×100}で求めた値であり、蛍光体の熱処理は550℃の温度で1時間行った。また、蛍光体の発光輝度は各蛍光体に対して146nmの真空紫外線を照射した時の発光輝度である。
【0039】
【表1】

【0040】
表1において、実施例1〜7の各VUV用蛍光体の発光輝度[Br1]は、表面に何も被覆されていない比較例1の(Zn,Mn)2SiO4蛍光体の熱処理前における発光輝度[Br1]を100としたときの相対値であり、実施例8のVUV用蛍光体の発光輝度[Br1]は表面に何も被覆されていない比較例4の(Ba,Eu)MgAl1017蛍光体の熱処理前における発光輝度[Br1]を100としたときの相対値で表した。
【0041】
[蛍光体粉体の帯電量評価]
実施例1〜8および比較例1〜4のVUV用蛍光体について、それぞれの帯電量を測定した。帯電量は、各蛍光体1gをPVA(ポリビニルアルコール)粉末10gとともにガラス製サンプル瓶に入れ、振とう機で30分間十分に混合したのち、その0.1gを計り取り東芝製ブローオフ帯電量測定装置で測定し、得られた各蛍光体のブローオフ帯電量を各蛍光体の帯電量の指標として表1に併記した。
【0042】
〔実施例9〜16〕
実施例1〜8のVUV用蛍光体をそれぞれ3g秤取し、それぞれの蛍光体にエチルセルロースの樹脂を2.5gとブチルカルビトール1g及びブチルカルビトールアセテート5.3gを加えて混練してそれぞれ実施例9〜16の蛍光体ペーストを得た。
〔比較例5〜8〕
実施例9において、実施例1のVUV用蛍光体に代えて比較例1〜4のVUV用蛍光体をそれぞれ用いた以外は実施例9の蛍光体ペーストと同様にしてそれぞれ比較例5〜8の蛍光体ペーストを得た。
【0043】
[蛍光膜形成工程での蛍光体ペーストの輝度劣化の評価]
実施例9〜16及び比較例5〜8の各蛍光体ペースト組成物をそれぞれガラス板上に0.5mmの厚さに塗布し、120℃で30分間乾燥した後、450℃で30分間焼成処理して蛍光体塗布膜を作製して各蛍光体ペースト組成物の評価サンプル(蛍光膜)とした。
次に、作製された各評価サンプル(蛍光膜)について、146nmの真空紫外線を照射した時のそれぞれの発光輝度[Br3]を測定し、各蛍光体ペースト組成物の輝度維持率2を求め、蛍光膜形成時における熱処理による各蛍光体ペースト組成物の輝度劣化の程度を評価する指標とした。実施例9〜16及び比較例5〜8の各蛍光体の輝度維持率2を表2に示す。
【0044】
【表2】

表2における輝度維持率2はそれぞれの蛍光体ペースト組成物の調製に用いた、熱処理を行う前の蛍光体粉体の発光輝度[Br1]に対する、各評価サンプル(蛍光膜)の発光輝度[Br3]の比の百分率{([Br3]/[Br1])×100}により求めた値である。
なお、表2において実施例9〜15及び比較例5〜7の各蛍光体ペースト組成物を使用して作製された各評価サンプル(蛍光膜)の発光輝度[Br3]は比較例1のVUV用蛍光体粉体の発光輝度[Br1]を100とした時の相対値で示してあり、また、実施例16及び比較例8の各蛍光体ペースト組成物を使用して作製された各評価サンプル(蛍光膜)の発光輝度[Br3]は比較例8のVUV用蛍光体粉体の発光輝度[Br1]を100とした時の相対値で示してある。
【0045】
表1の結果から明らかなように実施例1〜7のVUV用蛍光体は表面に被覆処理を施していない比較例1の蛍光体に比べて維持率1の値がいずれも大きく、蛍光体の熱劣化に対する輝度劣化の程度が大幅に改善されていると共に帯電量がプラスになっており、同様に、表面になんら被覆処理が施されていない比較例4の蛍光体に比べて、表面にY23及び酸化珪素が被覆された実施例8のVUV用蛍光体は輝度維持率1の値も帯電量も大きくなっている。
【0046】
また、表2の結果から明らかなように、実施例9〜15の蛍光体ペースト組成物を用いて形成された蛍光膜は、表面になんら被覆処理を施していないか、M23及び酸化珪素のいずれかが被覆されていない比較例1〜3の蛍光体からなる比較例5〜7の蛍光体ペースト組成物を用いて形成された蛍光膜に比べて維持率2の値が何れも大となっていおり、同様に表面にY23及び酸化珪素が被覆された実施例8のVUV用蛍光体からなる実施例16の蛍光体ペースト組成物を用いた蛍光膜は、表面になんら被覆処理を施していない比較例4の蛍光体ペースト組成物からなる比較例8の蛍光体ペースト組成物を用いた蛍光膜よりも輝度維持率2の値が大となる。
【0047】
このように、本発明のVUV用蛍光体は熱劣化による輝度劣化の程度が大幅に改善されるとともに、帯電量の値がプラス側に大きくなり、本発明のVUV用蛍光体からなる蛍光体ペースト組成物を用いて形成された蛍光膜をPDPに適用することにより、予想される放電によるイオン衝撃やプラスイオンの吸着による輝度劣化が抑制された非常に優れた特性を有するPDPとなる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のVUV用蛍光体及びこれを用いた蛍光体ペースト組成物は真空紫外線照射によるイオン衝撃を抑制して輝度劣化、並びに蛍光膜形成の際の焼成工程での熱劣化による輝度低下が低減されるため、発光効率の高いPDPや希ガスランプなどに好適に利用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体とM23で表される金属酸化物と酸化珪素とからなり、かつ、前記M23で表される金属酸化物及び前記酸化珪素はそれぞれ前記蛍光体表面の少なくとも一部に被覆されるか、または、前記蛍光体と混合されてなることを特徴とする真空紫外線用蛍光体。
(ただし、MはY、La及びAlの中の少なくとも1種の金属元素を表す。)
【請求項2】
前記酸化珪素が球状粒子であることを特徴とする請求項1に記載の真空紫外線用蛍光体。
【請求項3】
前記酸化珪素の平均粒子径が10〜200nmの範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載の真空紫外線用蛍光体。
【請求項4】
前記酸化珪素の含有量が前記蛍光体重量に対して、0.01〜10wt%の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の真空紫外線用蛍光体。
【請求項5】
前記M23で表される金属酸化物の総含有量が前記蛍光体重量に対して、0.01〜10wt%の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の真空紫外線用蛍光体。
【請求項6】
前記蛍光体が(Axy)2SiO4で表されるMn付活珪酸塩蛍光体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の真空紫外線用蛍光体。
(ただし、AはZn及びMgのうちの少なくとも一種であり、BはMnであり、x+yは1.5〜2.5の範囲の数を表す)
【請求項7】
蛍光体をバインダー樹脂中に分散させてなる蛍光体ペースト組成物において、前記蛍光体が請求項1〜6のいずれか1項に記載の真空紫外線用蛍光体からなることを特徴とする蛍光体ペースト組成物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の真空紫外線用蛍光体を含む蛍光膜を有することを特徴とするプラズマディスプレイパネル。



【公開番号】特開2006−206641(P2006−206641A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17000(P2005−17000)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(390019976)化成オプトニクス株式会社 (19)
【Fターム(参考)】