説明

真空蒸着用加熱装置

【課題】 蒸着材の取り扱いやすさを向上させ、更にはフィラメントと蒸着材との接触状況を改善してより好適な蒸着ができるようにした新規な真空蒸着用加熱装置を案出することを技術課題とした。
【解決手段】 真空蒸着用フィラメント1は、溶融作用部22の上方に長手方向に連続するように蒸着材Wの載置部23を設けて成るものであり、且つこの載置部23は上方からの蒸着材Wの導入形状を有するものであり、一方、前記蒸着材Wは載置部23において真空蒸着用フィラメント1に対し緩係合状態に載置されるような屈曲形状を有するものであることを特徴として成るものであり、真空蒸着用フィラメント1に対する蒸着材Wのセットを容易に行うことができるとともに、溶融作用部23から蒸着材Wへの熱伝導を効率的に行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着により樹脂製品、金属製品等に対し、アルミメッキ等を施すための真空蒸着用加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空チャンバの中に、被加工材と蒸着材たるアルミ片等とを収め、蒸着材を加熱蒸発させて被加工材にアルミ被覆を形成する真空蒸着の手法が広く行われている。このような過程においては、蒸着材のロスを少なく且つ高能率で被加工材へのメッキ等の薄膜形成ができるように種々の改良が試みられている。例えば従来アルミ等の蒸着材と、加熱用のフィラメントとの相互の形状を工夫して、効率的に蒸着材の溶解、蒸発が行われるようにしたものが知られている(例えば特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2001−220662
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明もこのような技術改良の一環としてなされたものであって、蒸着材の取り扱いやすさを向上させ、更にはフィラメントと蒸着材との接触状況を改善してより好適な蒸着ができるようにした新規な真空蒸着用加熱装置を案出することを技術課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち請求項1記載の真空蒸着用加熱装置は、通電により加熱を受けるフィラメントに対して蒸着材を保持させ、この蒸着材を加熱蒸発させて被加工材に蒸着皮膜を形成する装置において、前記フィラメントは、溶融作用部の上方に長手方向に連続するように蒸着材の載置部を設けて成るものであり、且つこの載置部は上方からの蒸着材の導入形状を有するものであり、一方、前記蒸着材は載置部においてフィラメントに対し緩係合状態に載置されるような屈曲形状を有するものであることを特徴として成るものである。
この発明によれば、フィラメントに対する蒸着材のセットを容易に行うことができるとともに、溶融作用部から蒸着材への熱伝導を効率的に行うことが可能となる。
【0005】
また請求項2記載の真空蒸着用加熱装置は、前記要件に加え、前記フィラメントは、線材を複数本縒り合わせて構成されたものであることを特徴として成るものである。
この発明によれば、溶融した蒸発材を溶融作用部全域に行き渡らせることができ、蒸着材の蒸発を好適に行うことができる。
【0006】
更にまた請求項3記載の真空蒸着用加熱装置は、前記要件に加え、前記フィラメントには、巻付線が装着されていることを特徴として成るものである。
この発明によれば、溶融した蒸着材をより円滑に溶融作用部全域に行き渡らせることができる。
【0007】
更にまた請求項4記載の真空蒸着用加熱装置は、前記要件に加え、前記蒸着材は、螺旋形状であることを特徴として成るものである。
この発明によれば、溶融作用部と蒸発材との緩係合を確実に行わせることができる。
【0008】
更にまた請求項5記載の真空蒸着用加熱装置は、前記要件に加え、前記蒸着材は、線材を複数本縒り合わせて構成されたものであることを特徴として成るものである。
この発明によれば、蒸発材全体への熱伝導を促進して溶融を円滑に行うことができる。
そしてこれら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、蒸着材の取り扱いやすさを向上させ、更にはフィラメントと蒸着材との接触状況を改善してより好適な蒸着が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図示の実施例に基づいて説明する。なお以下の実施例に対して本発明の技術的思想の範囲内において適宜変更を加えることも可能である。
【実施例】
【0011】
図中、符号1で示すものが真空蒸着用フィラメントであって、このものはタングステン等の線材を用いたフィラメント本体2と、その外側に巻き付けられる金属細線等を適用した巻付材3とを主要部材として構成される。この真空蒸着用フィラメント1は、図1に骨格的に示すような蒸着装置5内において真空蒸着用加熱装置の構成要素となるものである。そして真空蒸着用フィラメント1は真空環境下において通電加熱され、この真空蒸着用フィラメント1に保持された蒸着材Mが溶融・蒸発させられて、蒸着装置5内に配された被加工材Wの表面に蒸着することにより金属薄膜(メッキ)が形成されるものである。
【0012】
まず真空蒸着用フィラメント1の具体的な説明に先立ち、蒸着装置5の概略を説明する。この蒸着装置5は図1に示すように、ドラム状のチャンバ本体50の内部を加工室50Aとし、そのほぼ中央に電極ロッド51が立ち上がるように形成されている。そしてこの電極ロッド51から上下に多数枝分かれするように一対のフィラメントホルダ52を突出させ、そのフィラメントホルダ52の先端に固定ネジ53により真空蒸着用フィラメント1を固定することにより真空蒸着用加熱装置が構成される。
更にこのような多数取り付けられた真空蒸着用フィラメント1を囲むようにワークスタンド55が複数組その周辺に設けられる。このワークスタンド55は、詳細な説明は省略するが一例としてその基部はターンテーブル状の部材に支持され、真空蒸着用フィラメント1の周辺を回りながら、且つ遊星運動をするように構成される。このような動きによりワークスタンド55に支持された被加工材Wは、真空蒸着用フィラメント1により溶解・蒸発させられた蒸着材Mを満遍なく受け入れることとなる。
なおチャンバ本体50は、その外殻部材が単独で上昇したり、一部が分割・展開されることにより加工室50A内に位置する真空蒸着用フィラメント1及びワークスタンド55が曝されるような構成が採られるものであり、これら真空蒸着用フィラメント1及びワークスタンド55が適宜スライド自在に構成されることにより、蒸着材M及び被加工材Wのセットが行い易いように構成されている。
【0013】
続いて前記真空蒸着用フィラメント1について更に具体的に説明する。前記フィラメント本体2は、一例としてタングステン単線を複数本縒り合わせて構成されるものであって、その両端に例えばほぼ直線状の通電端21が形成される。そしてこの通電端21の間を三次元方向に展開させた溶融作用部22とするものであって、一例として図2、3、4に示すように上方からの蒸発材Mの導入を許容するような導入形状を有するように形成される。
具体的には図6(a)に示すように、フィラメント本体2を形成する線材を、側面視でV字状になり、且つ全体が図4に示すように平面視でサインカーブ様になるように展開するように曲げ加工して溶融作用部22を形成するものである。そして溶融作用部22の上方空間を蒸着材Mの載置部23とする。
なお前記フィラメント本体2そのものは縒り線を適用することに限定されず、金属単線によって構成してもよい。
更に前記溶融作用部22にはコイル状の巻付材3(コイル状の巻付材3については特にこのものを示すときには符号31で示す)を巻き付けるようにする。
なお溶融作用部22と蒸着材Mとの接触状況を良好なものとするために、前記両通電端21は図3(a)の側面図に示すように高さレベルを同じにして横に張り出すように構成されるものであり、且つ通電端21の高さレベルが溶融作用部22の下端部に位置するようになっていることが好ましい。
【0014】
このような形状の真空蒸着用フィラメント1に対しては図2(b)、図3(b)、図4(b)に示すように、アルミ線等を一例として螺旋状に形成して構成された蒸着材Mが、載置部23に緩係合状態に設置される。
この際、溶融作用部22は上方からの蒸発材Mの導入を許容するような導入形状を有するように形成されているため、図6(a)に示すように側面視V字状に展開した溶融作用部22の上面何れの部位に蒸発材Mが投入された場合であっても最下部に到達し、左右両側の溶融作用部22と絡み合うように緩係合するため、確実に多大な接触面積が確保されることとなる。
このため、蒸発材Mの投入装置には、極端に高い精度は要求されない。また手作業で行う場合も過度の技量は必要とされない。
【0015】
なお蒸発材Mは、細めの線材を複数本縒り合わせたものを螺旋形状に曲げ加工することにより各線材への熱伝導性を高め、蒸発材M全体への熱伝導を促進するようにしたが、蒸発材Mを単線を曲げ加工して形成するようにしてもよい。
また蒸発材Mの螺旋ピッチについては、図4(b)に示すように溶融作用部22のピッチの二倍 (整数倍)とすることにより、蒸発材Mと溶融作用部22とが絡み合うように緩係合してこれらの接触面積をより広くすることができるが、図3(a)に示す蒸発材M1のように、異なったピッチとすることも可能である。
更にまた蒸発材Mの形状は、載置部23においてフィラメント本体2に対し緩係合状態に載置されるような屈曲形状を有するものであればよいので、図5に示すように蒸発材Mの両端部を螺旋状とし、その間の部分を直線状としてもよく、更には螺旋ではなく同一面内で波型形状に屈曲したとしてもよい。
【0016】
本発明の真空蒸着用加熱装置は一例として上述したように構成されるものであり、蒸着を行うにあたっては、まずチャンバ本体50を上昇させ、加工室50A内に位置する真空蒸着用フィラメント1及びワークスタンド55をスライドさせて蒸着材M及び被加工材Wのセットを行う。
次いで真空蒸着用フィラメント1及びワークスタンド55並びにチャンバ本体50を元の位置に戻すこととなるが、この際、蒸着材Mは載置部23において真空蒸着用フィラメント1に対し緩係合状態に載置されているため、移動時の振動等によって蒸着材Mが脱落してしまうことはない。
因みに図6(b)に示すように蒸着材Mと真空蒸着用フィラメント1とが緩係合状態となっていない場合には、移動時の振動等によって蒸着材Mが脱落してしまうことがあった。
【0017】
そして蒸着作用時においては、フィラメントホルダ52からの通電を受けてフィラメント本体2が発熱し、載置部23上に支持された蒸着材Mが効率的に溶融され、更に蒸発させられる。この際、溶融した蒸着材Mはフィラメント本体2に巻き付けられた巻付材3の毛細管現象により下方から上方に向かって余すところなく、流れるように展開する。そして最終的にはフィラメント本体2の溶融作用部22に満遍なく広がり、そこからアルミ分子が蒸発し、被加工材Wの表面に蒸着して薄膜形成(メッキ)が成されることとなる。
因みに図6(b)に示すように蒸着材Mを単に棒状のものとした場合には、溶融作用部22との接触面積が僅かなものとなってしまうため、溶融作用部22における発熱ロスが過剰なものとなってしまう。更には接触部のみが溶融して中間部分が溶融することなく脱落してしまうこともあった。
【0018】
なお前記溶融作用部22には巻付材3を装着しないようにしてもよく、この場合には、真空蒸着用フィラメント2に支持される蒸着材Mは直接フィラメント本体2から熱伝導を受け、迅速な溶融がなされることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の真空蒸着用加熱装置を構成要素とする真空蒸着装置の骨格的縦断面図(a)、真空蒸着用加熱装置を示す斜視図(b)である。
【図2】真空蒸着用フィラメント及び蒸着材を示す斜視図(a)並びに真空蒸着用フィラメントに蒸着材を保持させた状態を一部拡大して示す斜視図(b)である。
【図3】真空蒸着用フィラメント及び蒸着材を示す側面図(a)並びに真空蒸着用フィラメントに蒸着材を保持させた状態を示す側面図(b)である。
【図4】真空蒸着用フィラメントを示す平面図(a)並びに真空蒸着用フィラメントに蒸着材を保持させた状態を示す平面図(b)である。
【図5】蒸着材の他の形状例を示す側面図である。
【図6】本発明の真空蒸着用加熱装置を構成する真空蒸着用フィラメントに蒸着材を保持させた状態を示す正面図(a)並びに棒状の蒸着材を保持させた状態を示す正面図(b)である。
【符号の説明】
【0020】
1 真空蒸着用フィラメント
2 フィラメント本体
3 巻付材
5 蒸着装置
21 通電端
22 溶融作用部
23 載置部
31 巻付材(コイル状)
50 チャンバ本体
50A 加工室
51 電極ロッド
52 フィラメントホルダ
53 固定ネジ
55 ワークスタンド
M 蒸着材
W 被加工材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により加熱を受けるフィラメントに対して蒸着材を保持させ、この蒸着材を加熱蒸発させて被加工材に蒸着皮膜を形成する装置において、前記フィラメントは、溶融作用部の上方に長手方向に連続するように蒸着材の載置部を設けて成るものであり、且つこの載置部は上方からの蒸着材の導入形状を有するものであり、一方、前記蒸着材は載置部においてフィラメントに対し緩係合状態に載置されるような屈曲形状を有するものであることを特徴とする真空蒸着用加熱装置。
【請求項2】
前記フィラメントは、線材を複数本縒り合わせて構成されたものであることを特徴とする請求項1記載の真空蒸着用加熱装置。
【請求項3】
前記フィラメントには、巻付線が装着されていることを特徴とする請求項1または2記載の真空蒸着用加熱装置。
【請求項4】
前記蒸着材は、螺旋形状であることを特徴とする請求項1、2または3記載の真空蒸着用加熱装置。
【請求項5】
前記蒸着材は、線材を複数本縒り合わせて構成されたものであることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の真空蒸着用加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−240023(P2008−240023A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79088(P2007−79088)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(507097073)COSMO・A株式会社 (1)
【Fターム(参考)】