説明

真空蒸着装置および薄膜形成方法

【課題】物理蒸着成膜における方向余弦の冪指数依存性を蒸着装置に反映させ、成膜材料ごとに最適な成膜膜厚均一性を容易に実現できる装置を提供する。
【解決手段】蒸発源400と、基板ホルダ21と、第1の膜厚モニターと、第2の膜厚モニターと、前記第1の膜厚モニターと前記第2の膜厚モニターの膜厚測定結果から膜厚分布をモデル化するための演算手段と、前記演算手段の結果により前記蒸着源と基板との空間配置を制御する制御手段と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置に係り、特には、蒸着速度の蒸着方向の角度依存性を測定するモニターを具備する物理蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物理蒸着では物理蒸着源から放射される蒸着物質は方向余弦の冪数、即ち放射角θ(鉛直軸と角度θをなす方向)においては、(cosθ)nに比例するとされている(例えば、非特許文献1など)。そして、方向余弦の巾指数nは、物理蒸着物質により異なっている。
【0003】
しかしながら、従来、物理蒸着装置ではこの巾指数nを考慮して基板に蒸着を行う設計とはなっていない。例えば、従来、蒸着物質の測定には、蒸発源ひとつに対してひとつの水晶振動子を配置することにより、膜厚をモニターすることが行われている(特許文献1、2など)。特許文献1では、蒸着効率はcosAに比例するものとして、膜厚を測定している。
また、特許文献2では、粒子線の方向による密度は、鉛直軸と角度θをなす方向には、cosθのn乗に比例するとしているものの、予めnの値を設定している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ジークフリート・シラー、ウルリッヒ・ハイジッヒ著 、真空蒸着、1979年アグネ社出版、ISBN3057-04093−0030、第3章 P25〜29
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−09727号公報
【特許文献2】特開平11−061384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の蒸着装置では、水晶振動子などが使われる膜厚モニターは、蒸着源の上方にひとつ配置される。このような膜厚モニター配置の装置では、蒸着源の鉛直方向から例えばθ異なった方向へ飛び出す蒸着物質の蒸着速度は、その方向余弦cosθに依存すると仮定し、基板上への蒸着速度が計算される。しかしながら、蒸着物質は、前述の非特許文献1に記載のごとく方向余弦cosθのn乗に比例する。蒸着源によって、この巾指数nは1〜4の広範囲にわたる値をとることが報告されている。従って、巾指数nが1以外の値をとる蒸着材料に対応した基板ホルダ配置設計とはならない。一方、特許文献2の装置においては、モニター位置での成膜速度をモニターするだけで、蒸着速度の方向余弦巾指数を解析することが出来ないため、予めnの値を設定しておくことが必要があった。
【0007】
そこで、本発明は、物理蒸着成膜における方向余弦の冪指数依存性を真空蒸着装置に反映させ、成膜材料による成膜膜厚不均一性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の真空蒸着装置は、蒸発源と、基板を保持する基板ホルダと、第1の膜厚モニターと、第2の膜厚モニターと、第1の膜厚モニターと第2の膜厚モニターの膜厚測定結果から膜厚分布をモデル化するための演算手段と、演算手段の結果により蒸着源と基板との空間配置を制御する制御手段と、を有することを特徴とする。
また、本発明の成膜方法は、上記真空蒸着装置を用いて基板に薄膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、蒸着物質の蒸着減からの放射角方向余弦の巾指数値を、蒸着時にin−situで求めることが出来る。従って、基板上の物理蒸着膜厚から逆算して巾指数を求めるという煩雑な方法と異なり、本発明によれば極めて迅速な方法を提供可能である。また、このモニター結果を成膜装置に自動的に反映させる機能をもたせることで、従来装置に比べ成膜材料ごとに最適な成膜膜厚均一性を容易に実現できる装置の提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係わる膜厚モニターの原理を説明する図である。
【図2】本発明の蒸着装置の概略構成図の断面図である。
【図3】図2の蒸着装置を上面から見た平面図である。
【図4】基板ホルダ角θhの定義を示すための図である。
【図5】基板ホルダの自転回転を止めた場合の基板上の膜厚分布と基板ホルダ角の関係を等高線で示したものである。
【図6】方向余弦判定モニター結果から、基板上の成膜分布を自動的に制御する方法を説明するフローチャートである。
【図7】図6のフローチャートを適用する本発明の蒸着装置の一態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明を説明する。
【0012】
まず、図1を参照して本発明の蒸着装置に用いる膜厚モニターの原理を説明する。図1は、二つの所定位置に夫々自動計測可能な膜厚モニターを配置した場合、二つの膜厚モニターで測定された膜厚比から求めるべき方向余弦の冪指数を算出する原理を説明する図である。
【0013】
図1で、膜厚モニター1は、蒸着源3からd1の距離に配置されており、膜厚モニター2は、蒸着源3からd2の距離に配置されている。蒸着源中心上の鉛直線cとモニター1のなす角をθ1、線直線cとモニター2となす角をθ2とする。膜厚モニター1、2としては、例えば水晶振動子膜厚モニターを使用する。蒸着源の蒸着には抵抗加熱、あるいは電子ビーム蒸着などが使われる。蒸着源のサイズが数センチメートル以内で、それに対し蒸着源とモニターとの距離が1メートル程度であれば、蒸着源は実質、点源とみなして良い。
【0014】
このとき、蒸着源表面から鉛直方向に飛び出す粒子の速度(蒸着速度)をA(m/秒)
とすると、膜厚モニター1に堆積する蒸着膜厚T1(m)と膜厚モニター2に堆積する蒸着膜厚T2(m)は、各々次の式(1)、(2)のようになる。
T1=t・A・(cosθ1/(d1) (1)
T2=t・A・(cosθ2/(d2) (2)
式(1)と式(2)の比をとる冪指数nは、式(3)から求められる。
n=〔log(d12×T1/d12×T2)〕/〔log(cosθ1/cosθ2)〕 (3)
この計算は、水晶振動子からの自動膜測定結果と連動させるパーソナル・コンピュータなどにより瞬時に計算可能である。
【0015】
図2と図3を用いて、本発明の真空蒸着装置を説明する。図2は、本発明の一例の真空蒸着装置101の概略断面図であり、図3は図2の真空蒸着装置101を上面から見た平面図である。
【0016】
蒸着装置101としては、坩堝40と坩堝加熱ユニット30を持つヒーター加熱方式の蒸着装置を例示した。真空容器10内に坩堝40が配置されている。坩堝40には蒸着源400が入れられている。基板回転ユニット20は基板ホルダ21、基板ホルダ自転用モーター22、基板ホルダ公転用モーター23などからなる。シリコン基板などの基板200が基板ホルダ21にセットされている。基板ホルダ駆動ユニット20は、基板ホルダを公転回転させるモーター23、自転回転させるモーター22の他、基板ホルダ角を変更するモーター24を有する。基板ホルダ角は、図4で説明するが基板ホルダの垂直方向と基板ホルダ中心と蒸着源を結ぶ角の差として定義される。図2には、基板ホルダ角がO°の場合が示されている。
【0017】
真空容器10内に、膜厚モニター1と膜厚モニター2が配置されている。図3に示すように、膜厚モニター1と膜厚モニター2のいずれも、基板ホルダ駆動ユニット20が
膜厚測定を邪魔しない位置に配置されている。なお、膜厚モニターは測定に使用されない場合に膜付着を防止するためのシャッター機構(不図示)をもつ。
【0018】
次に、膜厚モニター1、2で測定した膜厚の結果からnを求める例を説明する。本例において、膜厚モニター1の蒸着源400からの距離d1と,膜厚モニター2の蒸着源400からの距離d2は同一で、約1.3mである。また、蒸着源400上の鉛直線方向cと膜厚モニター1がなす角度θ1は5°で、鉛直線方向cと膜厚モニター2がなす角度θ2は45°である。
【0019】
膜厚モニター1、2と蒸着源の距離は2つのモニターで同一なので、上述した方向余弦巾指数を算出する式(3)から、
n≒6.85×〔log(T1/T2)〕 (4)
として求められる。即ち、膜厚モニター1と膜厚モニター2で測定した膜厚T1とT2から、方向余弦巾指数nを求めることができる。
【0020】
次に、図4と図5を用いて、基板ホルダ角θhを変化させた場合に基板に堆積する蒸着膜厚分布がどのように変化するかを説明する。
【0021】
図4は基板ホルダ角θhの定義を示すための図である。基板ホルダ角θhは基板ホルダ中心と蒸着源中心を結ぶ直線scと、基板ホルダに垂直な方向に伸ばした直線hcが作る角として定義される。なお、θhは反時計方向を回転の正方向とする。
【0022】
図5は、基板ホルダ21の自転回転を止めた場合の基板上の膜厚分布と基板ホルダ角の関係を等高線で示したものである。図5(a)は、D(θh=0°)はホルダ角が0°の場合で、等高線は基板中心CSを中心とした同心円状の分布となる。図5(b)は、D(θh=+α)は、α>0で基板ホルダ角が正値の場合の基板上膜厚分布である。基板上の膜厚分布は基板中心CSより上側では上にいくほど等高線間隔は広くなり、下側では下に行くほど等高線間隔は狭くなる。図5(c)は、D(θh=−α)は基板ホルダ角が負値の場合で、D(θh=+α)の膜厚分布の上下を反対にした分布となる。
【0023】
膜厚分布の等高線間隔が広いほど膜厚均一性は良好であることを示す。
真空蒸着装置101には基板中心を中心に自転する機構が設けられているので、θがαの場合、得られる膜厚分布は、図5(b)のD=(θh=+α)と、図5(c)のD=(θh=―α)を平均したような分布となる。実際の成膜では通常基板中心付近の分布が基板周辺付近の分布より均一性が良いので、基板ホルダ角を変化させることでD(θh=0°)の場合の分布より基板周辺の均一性が改善された分布が得られる。
【0024】
次に、二つの膜厚モニターを使って求めた方向余弦の巾指数を成膜に反映させる一例について、図6および図7を用いて説明する。
【0025】
図6は図1で説明した方向余弦巾指数を成膜分布均一性改善に用いる方法を説明する図である。図7は、図6のフローチャートで示した本発明の蒸着装置の一例を示したものである。図7の蒸着装置の構成は、基本的には図1の蒸着装置100と同じであるが、方向余弦算出ならびに基板ホルダ角変更機構24への制御命令は図7のパーソナル・コンピュータ(PC)60により行なわれる。なお、このパーソナル・コンピュータ60は蒸着源ユニット50の坩堝加熱ユニット30のヒーター設定制御などにも使用される。
【0026】
膜厚モニター1と膜厚モニター2で得られた膜厚測定結果は、パーソナル・コンピュータ(PC)60に送信される。膜厚測定結果から、パーソナル・コンピュータ60にあらかじめ準備されたプログラムソフトにより方向余弦巾指数nが算出される。方向余弦巾指数nの算出は、式(3)に基づいて行われる。
【0027】
パーソナル・コンピュータ60は蒸着源材料のn値に関するデーターベースから良好な膜厚均一性の得られる基板ホルダ角を選択し、図1あるいは図7の基板ホルダ角変更機構24に基板ホルダ角設定の制御命令をだす。パーソナル・コンピュータ60は、パイロット基板上の膜厚均一性測定結果がOKであれば本番成膜を実行し、NGであれば許容される膜厚均一性になるよう基板ホルダ角を微調整する制御命令を出す。
【0028】
蒸着源を2個以上持つ蒸着装置では、蒸着材料毎に基板ホルダ角を変更させればよい。従って異なる方向余弦巾指数をもつ蒸着材料を積層させる場合でも、良好な膜厚均一性をもつ積層膜成膜が可能となる。
【0029】
上記においては、真空蒸着装置を例として説明したが、本発明は、PVD成膜装置であるスパッタ装置への応用も可能なことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0030】
1 膜厚モニター1
2 膜厚モニター2
10 真空容器
20 基板ホルダ駆動ユニット
21 基板ホルダ
22 基板ホルダ自転モーター
23 基板ホルダ公転モーター
24 基板ホルダ角変更機構
30 坩堝加熱ユニット
40 坩堝
60 パーソナル・コンピュータ(PC)
101 真空蒸着装置
400 蒸着源
d1 蒸着源と膜厚モニター1との距離
D2 蒸着源と膜厚モニター2との距離
C 鉛直方向
Sc 基板中心と蒸着源中心を結ぶ直線
hc 基板ホルダに垂直な方向
CS 基板中心


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発源と、基板を保持する基板ホルダと、第1の膜厚モニターと、第2の膜厚モニターと、前記第1の膜厚モニターと前記第2の膜厚モニターの膜厚測定結果から膜厚分布をモデル化するための演算手段と、前記演算手段の結果により前記蒸着源と基板との空間配置を制御する制御手段と、を有することを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記膜厚測定結果から得られた膜厚分布モデルに基づき、前記蒸着源と基板ホルダの空間配置相対角度、ならびに蒸着源と基板ホルダ間距離を、基板上の成膜分布が最適化されるように自動的に制御することを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
基板に薄膜を形成する方法において、請求項1に記載の真空蒸着装置を用いて基板に薄膜を形成することを特徴とする薄膜形成方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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