説明

真空蒸着装置

【課題】ハースからの浮きを防いでハースライナーの冷却効果を保つことができる真空蒸着装置を得る。
【解決手段】ハース14に設けられた窪み24に、ハースライナー12が装着される。ハースライナー12の側面に凸部26が設けられている。ハース14の窪み24の側面に、ハースライナー12の凸部26が入る凹部28が設けられている。凹部28は、窪み24の開口から下方に延びた第1の凹部28aと、第1の凹部28aの下端から横方向に延びた第2の凹部28bとを有する。ハースライナー12の凸部26がハース14の第2の凹部28bに入った状態で、ハースライナー12の底面とハース14の窪み24の底面の間隔が所定の値より小さくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハースの窪みにハースライナーを装着した真空蒸着装置に関し、特にハースからの浮きを防いでハースライナーの冷却効果を保つことができる真空蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機物や金属などの蒸着材料からなる蒸着層を基板上に形成するために真空蒸着装置が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−209126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図12は、従来の真空蒸着装置の要部を拡大した断面図である。ハースライナー12には蒸着材料22が入れられる。ハース14に設けられた窪み24に、ハースライナー12が装着される。
【0004】
従来の真空蒸着装置の動作について説明する。図13に示すように、ハースライナー12内の蒸着材料22に電子ビームを照射して加熱し、蒸着材料22の溶かし込みを行う。蒸着可能状態になった時点でシャッター18を開くと、蒸発した蒸着材料22が基板(不図示)に向かって飛散して基板上に蒸着する。この際にハースライナー12が高温となるため、ハース14にハースライナー12を接触させることでハースライナー12を冷却している。
【0005】
蒸着を行うと、図14に示すように、ハース14の窪み24の上部側面に蒸着物100が付着する。蒸着が終わった後に、ハース14からハースライナー12を取り外し、蒸着物100を除去(清掃)する。その後、ハースライナー12に蒸着材料22を入れ、ハース14の窪み24にハースライナー12を装着して、次回の蒸着を行う。
【0006】
蒸着物100を除去する際に、図15に示すように、ハース14の窪み24内に除去物(異物200)が落ちる場合がある。このままハースライナー12を装着すると、ハースライナー12がハース14から浮いて、ハースライナー12の冷却効果が低下する。この状態で蒸着を開始すると、ハースライナー12の溶解や蒸着材料22の破裂が起こり、蒸着装置へのダメージが大きく、かつ蒸着膜の品質にも悪影響を及ぼすという問題があった。
【0007】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、ハースからの浮きを防いでハースライナーの冷却効果を保つことができる真空蒸着装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、蒸着材料が入れられるハースライナーと、前記ハースライナーが装着される窪みが設けられたハースと、前記ハースライナー内の前記蒸着材料に電子ビームを照射して加熱する電子銃とを備え、前記ハースライナーの側面に凸部が設けられ、前記ハースの前記窪みの側面に、前記ハースライナーの前記凸部が入る凹部が設けられ、前記凹部は、前記窪みの開口から下方に延びた第1の凹部と、前記第1の凹部の下端から横方向に延びた第2の凹部とを有し、前記ハースライナーの前記凸部が前記ハースの前記第2の凹部に入った状態で、前記ハースライナーの底面と前記ハースの前記窪みの底面の間隔が所定の値より小さくなることを特徴とする真空蒸着装置である。
【0009】
第2の発明は、蒸着材料が入れられるハースライナーと、前記ハースライナーが装着される窪みが設けられたハースと、前記ハースライナー内の前記蒸着材料に電子ビームを照射して加熱する電子銃とを備え、前記ハースライナーの上面に、前記ハースライナーの外側横方向に延びる第1の凸部が設けられ、前記ハースの前記窪みの開口に、前記ハースライナーの前記第1の凸部が入る切り欠きが設けられ、前記ハースの前記切り欠きの上部に、前記窪みの内側横方向に延びる第2の凸部が設けられ、前記ハースライナーの前記第1の凸部が前記ハースの前記第2の凸部の下側に位置した状態で、前記ハースライナーの底面と前記ハースの前記窪みの底面の間隔が所定の値より小さくなることを特徴とする真空蒸着装置である。
【0010】
第3の発明は、蒸着材料が入れられるハースライナーと、前記ハースライナーが装着される窪みが設けられたハースと、前記ハースライナー内の前記蒸着材料に電子ビームを照射して加熱する電子銃とを備え、前記ハースライナーの底面に凹部が設けられ、前記ハースの前記窪みの底面に、前記ハースライナーの前記凹部に嵌合する凸部が設けられていることを特徴とする真空蒸着装置である。
【0011】
第4の発明は、蒸着材料が入れられるハースライナーと、前記ハースライナーが装着される窪みが設けられたハースと、前記ハースライナー内の前記蒸着材料に電子ビームを照射して加熱する電子銃とを備え、前記ハースライナーの側面にOKラインとNGラインが設けられ、前記ハースライナーの底面と前記ハースの前記窪みの底面が接触した状態で、前記ハースの前記窪みの上端と前記ハースライナーの前記OKラインが重なり、前記NGラインは、前記OKラインより所定の間隔を開けて下側に設けられていることを特徴とする真空蒸着装置である。
【0012】
第5の発明は、蒸着材料が入れられるハースライナーと、前記ハースライナーが装着される窪みが設けられたハースと、前記ハースライナー内の前記蒸着材料に電子ビームを照射して加熱する電子銃とを備え、前記ハースライナーの側面と前記ハースの前記窪みの側面は、互いに嵌合するネジ状に形成されていることを特徴とする真空蒸着装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ハースからの浮きを防いでハースライナーの冷却効果を保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る真空蒸着装置を示す図である。真空槽10内に、ハースライナー12と、ハース14と、電子銃16と、シャッター18が設けられている。蒸着が行われる基板20も真空槽10内に配置される。ハースライナー12には蒸着材料22が入れられる。電子銃16は、ハースライナー12内の蒸着材料22に電子ビームを照射して加熱する。シャッター18は、基板20とハースライナー12との間に設けられている。
【0015】
図2は、本発明の実施の形態1に係る真空蒸着装置の要部を拡大した断面図であり、図3は斜視図である。ハース14に設けられた窪み24に、ハースライナー12が装着される。ハースライナー12の側面に凸部26が設けられている。ハース14の窪み24の側面に、ハースライナー12の凸部26が入る凹部28が設けられている。
【0016】
凹部28は、窪み24の開口から下方に延びた第1の凹部28aと、第1の凹部28aの下端から横方向に延びた第2の凹部28bとを有するL字形状である。ハースライナー12の凸部26がハース14の第2の凹部28bに入った状態で、ハースライナー12の底面とハース14の窪み24の底面の間隔が所定の値(例えば直径0.1mm)より小さくなる。
【0017】
また、ハースライナー12の上面に溝30が設けられている。そして、この溝30に専用の回転治具を挿入することで、ハースライナー12をハース14に装着する際にハースライナー12を回転しやすくなる。
【0018】
また、ハースライナー12の上面とハース14の窪み24には、両者のはめ込みが完了した状態において重なる位置に三角マーク32a,32bがそれぞれ設けられている。この三角マーク32a,32bが重なっているかどうかを見れば、はめ込みの完了を確認することができる。
【0019】
以上説明したようにハースライナー12とハース14の装着方式は「はめ込み式」である。これにより、ハースライナー12とハース14の間に異物(例えば直径0.2mm)が噛んだ場合はハースライナー12がハース14へはまらないため、異物検出が可能である。従って、ハース14からの浮きを防いでハースライナー12の冷却効果を保つことができる。
【0020】
実施の形態2.
図4は、本発明の実施の形態2に係る真空蒸着装置の要部を拡大した断面図であり、図5は斜視図である。ハースライナー12とハース14以外の構成は実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0021】
ハースライナー12の上面に、ハースライナー12の外側横方向に延びる第1の凸部34が設けられている。ハース14の窪み24の開口に、ハースライナー12の第1の凸部34が入る切り欠き36が設けられている。ハース14の切り欠き36の上部に、窪み24の内側横方向に延びる第2の凸部38が設けられている。ハースライナー12の第1の凸部34がハース14の第2の凸部38の下側に位置した状態で、ハースライナー12の底面とハース14の窪み24の底面の間隔が所定の値(例えば直径0.1mm)より小さくなる。
【0022】
このようにハースライナー12とハース14の装着方式は実施の形態1と同様に「はめ込み式」である。これにより実施の形態1と同様の効果を得ることができる。そして、実施の形態1と異なり、専用の回転治具を必要としない。
【0023】
実施の形態3.
図6は、本発明の実施の形態3に係る真空蒸着装置の要部を拡大した断面図であり、図7は斜視図である。ハースライナー12とハース14以外の構成は実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0024】
ハースライナー12の底面に凹部40が設けられている。ハース14の窪み24の底面に、ハースライナー12の凹部40に嵌合する凸部42が設けられている。凹部40の深さと凸部42の高さはそれぞれ0.1mmより小さい。
【0025】
このようにハースライナー12とハース14の装着方式は「はめ込み式」である。これにより、ハースライナー12とハース14の間に異物(例えば直径0.2mm)が噛んだ場合はハースライナー12がハース14へはまらず、ハースライナー12が固定されずに回転するため、異物検出が可能である。従って、ハース14からの浮きを防いでハースライナー12の冷却効果を保つことができる。
【0026】
実施の形態4.
図8は、本発明の実施の形態4に係る真空蒸着装置の要部を拡大した斜視図である。ハースライナー12とハース14以外の構成は実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0027】
ハースライナー12の側面にOKライン44とNGライン46が設けられている。NGライン46は、OKライン44より所定の間隔(例えば0.1mm)を開けて下側に設けられている。
【0028】
図9に示すように、ハースライナー12の底面とハース14の窪み24の底面が接触した状態で、ハース14の窪み24の上端とハースライナー12のOKライン44が重なる。
【0029】
一方、ハースライナー12とハース14の間に異物(例えば直径0.2mm)が噛んだ場合は、図10に示すように、ハース14の窪み24の上端からハースライナー12のNGライン46が出るため、目視により容易に異物検出が可能である。従って、ハース14からの浮きを防いでハースライナー12の冷却効果を保つことができる。
【0030】
実施の形態5.
図11は、本発明の実施の形態5に係る真空蒸着装置の要部を拡大した断面図である。ハースライナー12とハース14以外の構成は実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0031】
ハースライナー12の側面とハース14の窪み24の側面は、互いに嵌合するネジ状に形成されている。従って、ハースライナー12は雄ネジ、ハース14は雌ネジであり、両者の装着方式は「ネジ込み式」である。
【0032】
以上の構成により、ハースライナー12とハース14の間に異物が噛んだ場合でも両者を強制的に接触させることができるため、ハース14からの浮きを防いでハースライナー12の冷却効果を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態1に係る真空蒸着装置を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る真空蒸着装置の要部を拡大した断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る真空蒸着装置の要部を拡大した斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係る真空蒸着装置の要部を拡大した断面図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係る真空蒸着装置の要部を拡大した斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態3に係る真空蒸着装置の要部を拡大した断面図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係る真空蒸着装置の要部を拡大した斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態4に係る真空蒸着装置の要部を拡大した斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態4に係る真空蒸着装置の要部を拡大した斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態4に係る真空蒸着装置の要部を拡大した斜視図である。
【図11】本発明の実施の形態5に係る真空蒸着装置の要部を拡大した断面図である。
【図12】従来の真空蒸着装置の要部を拡大した断面図である。
【図13】従来の真空蒸着装置の要部を拡大した断面図である。
【図14】従来の真空蒸着装置の要部を拡大した断面図である。
【図15】従来の真空蒸着装置の要部を拡大した断面図である。
【符号の説明】
【0034】
12 ハースライナー
14 ハース
16 電子銃
22 蒸着材料
24 窪み
26 凸部
28 凹部
28a 第1の凹部
28b 第2の凹部
34 第1の凸部
36 切り欠き
38 第2の凸部
40 凹部
42 凸部
44 OKライン
46 NGライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料が入れられるハースライナーと、
前記ハースライナーが装着される窪みが設けられたハースと、
前記ハースライナー内の前記蒸着材料に電子ビームを照射して加熱する電子銃とを備え、
前記ハースライナーの側面に凸部が設けられ、
前記ハースの前記窪みの側面に、前記ハースライナーの前記凸部が入る凹部が設けられ、
前記凹部は、前記窪みの開口から下方に延びた第1の凹部と、前記第1の凹部の下端から横方向に延びた第2の凹部とを有し、
前記ハースライナーの前記凸部が前記ハースの前記第2の凹部に入った状態で、前記ハースライナーの底面と前記ハースの前記窪みの底面の間隔が所定の値より小さくなることを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
蒸着材料が入れられるハースライナーと、
前記ハースライナーが装着される窪みが設けられたハースと、
前記ハースライナー内の前記蒸着材料に電子ビームを照射して加熱する電子銃とを備え、
前記ハースライナーの上面に、前記ハースライナーの外側横方向に延びる第1の凸部が設けられ、
前記ハースの前記窪みの開口に、前記ハースライナーの前記第1の凸部が入る切り欠きが設けられ、
前記ハースの前記切り欠きの上部に、前記窪みの内側横方向に延びる第2の凸部が設けられ、
前記ハースライナーの前記第1の凸部が前記ハースの前記第2の凸部の下側に位置した状態で、前記ハースライナーの底面と前記ハースの前記窪みの底面の間隔が所定の値より小さくなることを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項3】
蒸着材料が入れられるハースライナーと、
前記ハースライナーが装着される窪みが設けられたハースと、
前記ハースライナー内の前記蒸着材料に電子ビームを照射して加熱する電子銃とを備え、
前記ハースライナーの底面に凹部が設けられ、
前記ハースの前記窪みの底面に、前記ハースライナーの前記凹部に嵌合する凸部が設けられていることを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項4】
蒸着材料が入れられるハースライナーと、
前記ハースライナーが装着される窪みが設けられたハースと、
前記ハースライナー内の前記蒸着材料に電子ビームを照射して加熱する電子銃とを備え、
前記ハースライナーの側面にOKラインとNGラインが設けられ、
前記ハースライナーの底面と前記ハースの前記窪みの底面が接触した状態で、前記ハースの前記窪みの上端と前記ハースライナーの前記OKラインが重なり、
前記NGラインは、前記OKラインより所定の間隔を開けて下側に設けられていることを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項5】
蒸着材料が入れられるハースライナーと、
前記ハースライナーが装着される窪みが設けられたハースと、
前記ハースライナー内の前記蒸着材料に電子ビームを照射して加熱する電子銃とを備え、
前記ハースライナーの側面と前記ハースの前記窪みの側面は、互いに嵌合するネジ状に形成されていることを特徴とする真空蒸着装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2009−293093(P2009−293093A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149262(P2008−149262)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】