説明

真空計

【課題】1つの真空計で測定が不連続になること無く、広い範囲の圧力を測定可能な真空計を提供する。
【解決手段】振動体と、振動体を静電力により駆動する加振電極部と、振動体を加振する駆動信号を生成する駆動信号生成部とを有し、駆動信号を加振電極部に印加して振動体を共振状態に保持し、振動体の振動特性から雰囲気の圧力を測定する圧力測定部を備えてなり、前記振動体を共通の雰囲気内に複数個備え、各振動体により測定可能な圧力範囲をそれぞれ異ならせ,かつ,前記圧力範囲を一部オーバーラップさせて構成し、各振動体に対応させて前記圧力測定部を複数個設け、各圧力測定部の圧力測定信号同士を組合せて演算する演算部を有する演算処理ユニットを備え、常時各圧力測定部による各圧力測定を行なうとともに、演算部による組合せ演算値に基づく演算処理ユニットの出力信号を真空計の圧力測定信号とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動体を利用した真空計に関し、特に、広い範囲の気体の圧力を測定することができるようにした真空計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、音叉型振動体を利用して雰囲気の圧力を測定する真空計(真空センサ)が知られている(特許文献1参照)。音叉型振動体を利用して雰囲気の圧力を測定する原理は、振動子を振動させ、その振動特性から雰囲気の真空圧力を特定するものである。
【0003】
また、従来、振動体を2方向に振動させて、振動体の振動特性から気体の圧力を測定する真空計(圧力センサ)も知られている(特許文献2参照)。
また、従来、面積が異なる複数の振動体を利用して、測定可能な圧力範囲を広げた真空計(真空センサ)も知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−137533号公報
【特許文献2】特開平08−338776号号公報(図5,0059段落)
【特許文献3】特開2008−093801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(イ)振動体を利用した真空計における測定可能圧力範囲の制限:
振動体を利用した真空計において、一般に、振動体のQ値(振動体の振動特性の一つ)は、気体の圧力Pに反比例する。そして、振動体のQ値は、気体の圧力Pとの関係において、ωRを振動体の共振角周波数[rad/s]、mを振動体の質量[kg]、Sを並進方向の面積[m2]、Rを気体定数[8.314J/k・mol]、Tを温度[K]、Mを気体分子の質量[kg/mol]、E:ヤング率[Pa]、I:断面2次モーメント[m4]、l:有効梁長[m](=梁長+錘1辺/2)とすると、以下の式(1)のように表すことができる。
【0006】
【数1】

【0007】
なお、上記式(1)は振動体が片持ち梁である場合に成り立つものである。これにより、振動体のQ値を測定することで気体の圧力を間接的に評価することができる。しかし、振動体を利用した真空計のQ値の実用測定範囲は概ね100から100,000程度であり、そのため、測定することが可能な圧力範囲が3桁程度で制限されるという課題がある。
(ロ)上述の特許文献1〜3の真空計における問題点:
(a)特許文献1の真空計は、1つの音叉型振動子を形成する一対の平行平板状の振動体をその平板面に垂直な方向に振動させ、その振動特性から雰囲気の真空圧力を特定するものであるため、1台の真空計で測定可能な圧力範囲が狭いという問題が有る。
【0008】
(b)特許文献2の真空計は、振動体を2方向に振動させることができるようにして、1台の真空計で測定可能な圧力範囲を広げているが、次のような問題が有る。
(b1)特許文献2の真空計では、測定する気体の圧力に応じて振動体の振動方向を切り替える構成を採用しているため、振動体の振動方向を切り替えるときに測定が不連続になる。
【0009】
(b2)特許文献2の真空計では、振動体を2方向に振動させるための電極を別々に2つ有するとともに測定する気体の圧力に応じて振動体の振動方向を切り替える構成を採用しているため、回路構成が複雑になる。
【0010】
(c)特許文献3の真空計は、面積が異なる複数の振動体を利用して1台の真空計で測定可能な圧力範囲を広げているが、次のような問題が有る。
(c1)特許文献3の真空計では、測定する気体の圧力に応じて使用する振動体を選択する構成を採用しているため、使用する振動体を切り替えるときに測定が不連続になる。
【0011】
(c2)特許文献3の真空計では、測定する気体の圧力に応じて使用する振動体を選択する構成を採用しているため、回路構成が複雑になる。
(c3)特許文献3の真空計では、面積を広くすることで振動体の質量も増加するため、面積を広くしたことによる効果が相殺されてしまう。この点をさらに説明する。
【0012】
図31は上記特許文献3に示された真空計の構成例に倣って設計された真空計の設計値の一例(設計Iおよび設計IIにおいて振動体の面積比4:1)を示すものであり、図32は図31に示した設計値における気体の圧力Pと振動体のQ値の関係を示す図である。図32に示されるように振動体の錘の面積を広くすることによる効果は小さい。また、面積を広くすると振動体の反りの影響により振動体と振動検出電極とが接触する可能性があるため、振動体の面積を一定値以上広くすることはできない。
(ハ)上記した課題を解決するため、本発明は、1つの真空計で測定が不連続になること無く,広い範囲の気体の圧力を測定できるとともに、回路構成が簡素化された真空計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の真空計は、共振状態に保持された振動体の振動特性から雰囲気の圧力を測定する圧力測定部を複数設け、前記各圧力測定部により共通の雰囲気の圧力を測定する真空計において、各圧力測定部により測定することができる圧力範囲をそれぞれ異ならせ,かつ,前記圧力範囲を一部オーバーラップさせて構成し、各圧力測定部の出力信号同士を組合せて演算する演算部を有する演算処理ユニットを備え、常時各圧力測定部による各圧力測定を行なうとともに、前記演算部による組合せ演算値に基づく前記演算処理ユニットの出力信号を前記真空計の圧力測定信号としてなることを特徴とする(請求項1の発明)。
【0014】
上記請求項1の発明によれば、共通の雰囲気の圧力を測定する圧力測定部を複数設け、各圧力測定部により測定することができる圧力範囲をそれぞれ異ならせ,かつ,前記圧力範囲を一部オーバーラップさせて構成したことにより、1つの真空計でより広い範囲の気体の圧力を測定することができるようになる。
【0015】
また、上記請求項1の発明によれば、常時各圧力測定部による各圧力測定を行なっている状態で、各圧力測定部の出力信号同士を組合せて演算した組合せ演算値に基づく演算処理ユニットの出力信号を真空計の圧力測定信号とすることにより、1つの真空計で測定が不連続となること無く、広い範囲の気体の圧力を測定することができるようになる。
【0016】
また、上記請求項1の発明によれば、各圧力測定部の出力信号同士を組合せて演算する演算部を有する演算処理ユニットだけを備えればよく、測定する気体の圧力に応じて圧力測定部を選択するための構成は不要となるので、真空計の回路構成がより簡素化されたものになる。
【0017】
上記請求項1に記載の真空計において、前記演算部は、加算器、乗算器もしくは除算器である構成とする(請求項2の発明)。
上記請求項1または2に記載の真空計において、前記演算処理ユニットは、前記演算部による組合せ演算値と圧力値との関係の特性データに基づいて,実測定時における組合せ演算値から圧力値への変換を行う圧力変換部を有し、この圧力変換部により得られた圧力値に基づく信号を前記演算処理ユニットの出力信号としてなる構成とする(請求項3)。
【0018】
上記請求項3の発明によれば、上記圧力変換部により得られた圧力値に基づく信号を演算処理ユニットの出力信号とすることにより、各圧力測定部により測定することができる圧力範囲同士がオーバーラップする圧力領域の近傍での非線形性などを補正し、真空計の圧力測定範囲の全領域にわたって一様な線形性を備えた圧力測定信号を得ることができる。
【0019】
上記請求項3に記載の真空計において、前記圧力変換部は、前記特性データのデータテーブルを格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における組合せ演算値から圧力値への変換を行う構成とする(請求項4)。
【0020】
上記請求項3に記載の真空計において、前記圧力変換部は、前記特性データの曲線から近似的に求められた関係式を格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における組合せ演算値から圧力値への変換を行う構成とする(請求項5)。
【0021】
上記請求項1ないし5のいずれか1項に記載の真空計において、振動体と、該振動体を静電力により駆動する加振電極部と、前記振動体を加振する駆動信号を生成する駆動信号生成部とを有し、前記駆動信号を前記加振電極部に印加して前記振動体を共振状態に保持して、前記振動体の振動特性から雰囲気の圧力を測定する圧力測定部を備えた真空計であって、前記振動体を前記真空計における共通の雰囲気内に複数個備えるとともに、前記各振動体により測定することができる圧力範囲をそれぞれ異ならせ,かつ,前記圧力範囲を一部オーバーラップさせて構成し、前記各振動体に対応させて前記圧力測定部を複数個設け、前記各振動体に対応する各圧力測定部の出力信号同士を組合せて演算する演算部を有する演算処理ユニットを備え、常時各振動体を振動させて各圧力測定部による各圧力測定を行なうとともに、前記演算部による組合せ演算値に基づく前記演算処理ユニットの出力信号を前記真空計の圧力測定信号としてなる構成とする(請求項6の発明)。
【0022】
上記請求項6の発明によれば、真空計における共通の雰囲気内に測定することができる圧力範囲の異なる振動体を複数個備え,かつ,前記圧力範囲を一部オーバーラップさせて構成したことにより、1つの真空計でより広い範囲の気体の圧力を測定することができるようになる。
【0023】
また、上記請求項6の発明によれば、複数個の振動体を同時に振動させた状態で、各振動体に対応する各圧力測定部の出力信号同士を組合せて演算した組合せ演算値に基づく演算処理ユニットの出力信号を真空計の圧力測定信号とすることにより、1つの真空計で測定が不連続となること無く、広い範囲の気体の圧力を測定できるようになる。
【0024】
また、上記請求項6の発明によれば、各圧力測定部の出力信号同士を組合せて演算する演算部を有する演算処理ユニットだけを備えればよく、測定する気体の圧力に応じて使用する振動体を選択するための構成は不要となるので、真空計の回路構成がより簡素化されたものになる。
【0025】
上記請求項6に記載の真空計において、前記各振動体は、厚さ、梁の長さ、材質もしくは面積の少なくとも1つが異なることにより測定できる圧力範囲が異なる構成とする(請求項7の発明)。
【0026】
上記請求項6または7に記載の真空計において、前記圧力測定部は、前記振動体の振動を検出する振動検出部を有するものであり、前記駆動信号生成部は、前記振動検出部の検出信号に基づき、この検出信号の位相を変えて増幅することにより前記振動体を加振する駆動信号を生成するものである構成とする(請求項8の発明)
上記請求項8に記載の真空計において、前記圧力測定部は、振動体の両側に振動方向に沿って設置された1組の加振電極からなる加振電極部を備えるとともに、振動検出部の検出信号の位相を変化させる位相シフト回路と、該位相シフト回路の出力信号を増幅させる増幅器と、該増幅器の出力信号の位相を反転させる反転回路とからなる駆動信号生成部を備え、振動検出部の検出信号に基づく逆相の駆動信号として、前記反転回路および前記増幅器の各出力信号を前記1組の加振電極にそれぞれ印加することで振動体の共振状態を保持する構成とする(請求項9の発明)。
【0027】
上記請求項1ないし5のいずれか1項に記載の真空計において、第1の振動方向と該第1の振動方向に直交する第2の振動方向とに振動することができるように形成された振動体と、該振動体を静電力により駆動する加振電極部と、前記振動体の振動を検出する振動検出部と、該振動検出部の検出信号に基づき、この検出信号の位相を変えて増幅することにより前記振動体を加振する駆動信号を生成する駆動信号生成部とを有し、前記駆動信号を前記加振電極部に印加して前記振動体を共振状態に保持して、前記振動体の振動特性から雰囲気の圧力を測定する真空計であって、前記加振電極部として、前記振動体を第1および第2の振動方向にそれぞれ振動させるための第1および第2の加振電極部を備え、前記振動検出部として、前記振動体の第1および第2の振動方向の振動をそれぞれ検出する第1および第2の振動検出部を備え、第1の振動検出部の検出信号に基づく駆動信号を第1の加振電極部に印加することにより、前記振動体を第1の振動方向に振動させて圧力を測定する第1の圧力測定部と、第2の振動検出部の検出信号に基づく駆動信号を第2の加振電極部に印加することにより、前記振動体を第2の振動方向に振動させて圧力を測定する第2の圧力測定部とを備え、前記第1および第2の圧力測定部により前記振動体を第1および第2の振動方向に同時に振動させて各振動方向での各圧力測定を同時に行うようにし、前記第1および第2の圧力測定部により測定することができる圧力範囲を異ならせ,かつ,前記圧力範囲を一部オーバーラップさせて構成し、前記第1および第2の圧力測定部の出力信号同士を組合せて演算する演算部を有する演算処理ユニットを備え、前記演算部による組合せ演算値に基づく前記演算処理ユニットの出力信号を前記真空計の圧力測定信号としてなる構成とする(請求項10の発明)。
【0028】
上記請求項10の発明によれば、振動体を測定可能な圧力範囲が異なる第1および第2の振動方向の両方で振動させて圧力を測定するとともに、前記圧力範囲を一部オーバーラップさせて構成したことにより、1つの真空計で測定可能な圧力範囲を広げることが可能である。
【0029】
また、上記請求項10の発明によれば、振動体を第1および第2の振動方向に同時に振動させて各振動方向での各圧力測定を同時に行うことにより、気体の圧力によって振動方向を切り替える場合におけるような切り替えの際の測定不能な時間の発生を無くすことが可能となり、広範囲の圧力を連続的に測定することができるようになる。
【0030】
また、上記請求項10の発明によれば、振動体の振動方向を切り替える回路が必要ないため、回路を簡略化することが可能である。
また、上記請求項10の発明によれば、第1および第2の圧力測定部により振動体を第1および第2の振動方向に同時に振動させて各振動方向での各圧力測定を同時に行なっている状態で、各圧力測定部の出力信号同士を組合せて演算した組合せ演算値に基づく演算処理ユニットの出力信号を真空計の圧力測定信号とすることにより、1つの真空計で測定が不連続となること無く、広い範囲の気体の圧力を測定できるようになる。
【0031】
また、上記請求項10の発明によれば、各圧力測定部の出力信号同士を組合せて演算する演算部を有する演算処理ユニットだけを備えればよく、測定する気体の圧力に応じて圧力測定部を選択するための構成は不要となるので、真空計の回路構成がより簡素化されたものになる。
【0032】
上記請求項10に記載の真空計において、前記第1の加振電極部として、前記振動体の両側に第1の振動方向に沿って設置された第1および第2の加振電極から成る1組の加振電極を備えるとともに、前記第2の加振電極部として、前記振動体の両側に第2の振動方向に沿って設置された第3および第4の加振電極から成る1組の加振電極を備え、前記駆動信号生成部は、前記第1および第2の振動検出部の各検出信号の位相をそれぞれ変化させる第1および第2の位相シフト回路と、該第1および第2の位相シフト回路の各出力信号をそれぞれ増幅する第1および第2の増幅器と、該第1および第2の増幅器の各出力信号の位相をそれぞれ反転させる第1および第2の反転回路と、を有し、第1の振動検出部の検出信号に基づく逆相の駆動信号として、前記第1の反転回路および前記第1の増幅器の各出力信号を前記第1および第2の加振電極にそれぞれ印加することで、前記振動体の第1の振動方向における共振状態を保持するとともに、第2の振動検出部の検出信号に基づく逆相の駆動信号として、前記第2の反転回路および前記第2の増幅器の各出力信号を前記第3および第4の加振電極にそれぞれ印加することで、前記振動体の第2の振動方向における共振状態を保持する構成とする(請求項11の発明)。
【0033】
上記請求項8ないし11のいずれか1項に記載の真空計において、前記駆動信号生成部は、前記駆動信号の電圧が一定となるように、前記振動検出部の検出信号の位相を変えた信号に対する増幅のゲインを調整するものであり、前記圧力測定部は、前記振動検出部の検出信号の大きさに基づいて圧力を測定する構成とする(請求項12の発明)。
【0034】
上記請求項8ないし11のいずれか1項に記載の真空計において、前記駆動信号生成部は、前記振動検出部の検出信号の大きさが一定となるように、前記振動検出部の検出信号の位相を変えた信号に対する増幅のゲインを調整するものであり、前記圧力測定部は、前記駆動信号の電圧に基づいて圧力を測定する構成とする(請求項13の発明)。
【0035】
上記請求項8ないし13のいずれか1項に記載の真空計において、前記振動体の固有周波数に対応した周波数の初期励振信号を出力する初期励振用信号源を備え、振動体の初期駆動時には、振動検出部の検出信号に基づく駆動信号の代わりに、前記初期励振信号に基づく初期駆動信号を前記加振電極部に印加する構成とする(請求項14の発明)。
【0036】
上記請求項8ないし14のいずれか1項に記載の真空計において、前記振動検出部は、前記振動体と検出電極との間の静電容量を検知することにより前記振動体の振動を検出するものである構成とする(請求項15の発明)。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、1つの真空計で測定が不連続になること無く,広い範囲の気体の圧力を測定できるとともに、回路構成が簡素化された真空計を提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施形態に係る真空計の機構部分を成す構造体の構成例を示す平面図である。
【図2】図1に示す構造体の側面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る振動体の設計値の一例を示す図である。
【図4】図3に示した振動体の設計値におけるQ値と気体の圧力Pとの関係を示す図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る真空計の回路構成例を示すブロック図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る振動体の設計値の異なる一例を示す図である。
【図7】図6に示した設計値の振動体において駆動電圧が一定となるように増幅器ゲインを調整した場合の振動体の振幅と気体の圧力Pとの関係を示す図である。
【図8】図6に示した設計値の振動体において振動体の振幅が一定となるように増幅器ゲインを調整した場合の駆動電圧と気体の圧力Pとの関係を示す図である。
【図9】本発明の第1実施形態における振動体の振幅と雰囲気の圧力との関係を例示する図である。
【図10】本発明の第1実施形態における容量電圧変換回路の出力電圧と雰囲気の圧力との関係を例示する図である。
【図11】本発明の実施例1における(加算器からなる)演算部の出力値と雰囲気の圧力との関係を例示する図である。
【図12】本発明の実施例2における(乗算器からなる)演算部の出力値と雰囲気の圧力との関係を例示する図である。
【図13】本発明の実施例3における(除算器からなる)演算部の出力値と雰囲気の圧力との関係を例示する図である。
【図14】本発明の第1実施形態に係る真空計の機構部分を成す構造体の異なる構成例を示す平面図である。
【図15】図14に示す構造体の側面図である。
【図16】本発明の第1実施形態に係る真空計の異なる回路構成例を示すブロック図である。
【図17】本発明の第1実施形態に係る真空計のさらに異なる回路構成例を示すブロック図である。
【図18】本発明の第1実施形態に係る振動体の設計値のさらに異なる例を示す図である。
【図19】図18に示した振動体の設計値の具体例1における気体の圧力Pと振動体のQ値との関係を示す図である。
【図20】図18に示した振動体の設計値の具体例2における気体の圧力Pと振動体のQ値との関係を示す図である。
【図21】図18に示した振動体の設計値の具体例3における気体の圧力Pと振動体のQ値との関係を示す図である。
【図22】図18に示した振動体の設計値の具体例4における気体の圧力Pと振動体のQ値との関係を示す図である。
【図23】図18に示した振動体の設計値の具体例5における気体の圧力Pと振動体のQ値との関係を示す図である。
【図24】本発明の第2実施形態に係る真空計の機構部分を成す構造体の構成例を示す平面図である。
【図25】図24に示す構造体の側面図である
【図26】本発明の第2実施形態に係る振動体の設計値の一例を示す図である。
【図27】図26に示した振動体の設計値における気体の圧力Pと振動体のQ値との関係を示す図である。
【図28】本発明の第2実施形態に係る真空計の回路構成例を示すブロック図である。
【図29】図26に示した設計値の振動体の第1の振動方向において駆動電圧が一定となるように増幅ゲインを調整した場合の振動体の振幅と気体の圧力Pとの関係を示す図である。
【図30】図26に示した設計値の振動体の第1の振動方向において振動体の振幅が一定となるように増幅ゲインを調整した場合の駆動電圧と気体の圧力Pとの関係を示す図である。
【図31】特許文献3に示された真空計の構成例に倣って設計された真空センサの設計値の一例を示す図である。
【図32】図31に示した設計値における気体の圧力Pと振動体のQ値の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。同一の構成要素については、同一の符号を付け、重複する説明は省略する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る真空計は、測定可能圧力範囲が異なるとともに一部オーバーラップしてなる複数の振動体を常時振動させ、各振動体に対応する各圧力測定部の出力信号同士を演算部で組合せ演算し、この組合せ演算値に基づく演算処理ユニットの出力信号を真空計の圧力測定信号とする構成を基本としたものである。
(イ)真空計の機構部分を成す構造体の構成:
図1は、本発明の第1実施形態に係る真空計の機構部分を成す構造体の構成例を示す平面図であり、図2は、図1に示す構造体の側面図である。図1および図2において真空計の機構部分を成す構造体は、錘1、梁2および振動体固定部3からなる振動体4、振動体4を加振するための加振電極5、振動体4の振動を検出するための振動検出電極6から構成される。
(ロ)振動体の形状、振動体のQ値および気体の圧力Pとの関係:
次に、振動体4の形状、振動体4のQ値および気体の圧力Pとの関係について説明する。振動体4は気体分子の衝突により、抵抗力を受ける。分子流領域においては、気体分子による抵抗力は気体の圧力Pに正比例する。気体の圧力が低くなるに従い、振動体4が気体分子から受ける抵抗力が低下するため、振動体のQ値(共振の鋭さ)は高くなる。ただし、振動体4は固有のQ値QEを持っており、固有のQ値QE以上になることはない。すなわち、振動体4が測定することが可能な気体の圧力の下限は、固有のQ値QEによって制限されることを意味する。
【0040】
振動体4のQ値と気体の圧力Pとの関係については、frを振動体4の固有周波数、mを錘の質量、Sを気体の抵抗力を受ける面積、Rを気体定数、Tを温度、Mを気体分子1molあたりの質量とすると、振動体4のQ値を以下の式(2)のように、
【0041】
【数2】

【0042】
と表すことができる。なお、上記式(2)は、f=ω/2πという関係にあることから上述した式(1)と実質的に同じ内容である。
(ハ)振動体の設計値の一例:
図3は、本発明の第1実施形態に係る振動体の設計値の一例を示す図であり、図4は、図3に示した振動体の設計値におけるQ値と気体の圧力Pとの関係を示す図である。図3の下部に示す表には、設計例として設計(a)と設計(b)とが示されている。図4に示すように、設計(a)の場合に測定することができる気体の圧力(測定可能圧力範囲)は約0.1Paから約100Pa(図4の「設計(a)の評価範囲」)であり、また設計(b)の場合に測定することができる気体の圧力(測定可能圧力範囲)は約3Paから約3000Pa(図4の「設計(b)の評価範囲」)である。そして、図4における「約3Paから約100Paまで」の圧力領域が、設計(a)の振動体の測定可能範囲と設計(b)の振動体の測定可能範囲とがオーバーラップするオーバーラップ圧力領域となっている。
【0043】
このように、振動体の形状によって測定することができる気体の圧力範囲(測定可能圧力範囲)を任意に設計することができるとともに、オーバーラップ圧力領域も任意に設計することができる。なお、図3に示される設計(a)および設計(b)の各振動体の固有周波数は、例えば、各振動体の材質をシリコンとした場合、それぞれ、約320Hzおよび約16.5kHzとなる。
(ニ)真空計の回路構成:
次に、本発明の第1実施形態に係る真空計の回路構成について説明する。図5は、本発明の第1実施形態に係る真空計の回路構成例を示すブロック図であり、1つの真空計内に2つの振動体を含む構成であるため、図を上下に分けて示している。
【0044】
図5の回路構成例は、図1〜2に示した構成例の構造体に対応したものであり、錘21、梁22および振動体固定部23からなる振動体24、錘25、梁26および振動体固定部27からなる振動体28、加振電極29および30、振動体24および28の振動を検出する振動検出電極31および32、錘21と振動検出電極31との間の静電容量の変化に応じた電圧VAを出力する容量電圧変換回路33、錘25と振動検出電極32との間の静電容量の変化に応じた電圧VBを出力する容量電圧変換回路34、容量電圧変換回路33および34から出力された各信号VAおよびVBの位相を変化させる位相シフト回路35および36、位相シフト回路35および36の出力を増幅する増幅器37および38、振動体24および28の振幅に応じて接続を切り替える駆動信号切替用スイッチ回路39および40、振動体24および28の初期加振用信号源41および42、容量電圧変換回路33および34の各出力信号VAおよびVBを演算部91により組合せて演算し,その組合せ演算値(演算信号VPO)を圧力変換部92により圧力値に変換して真空計の圧力測定信号VPとして出力する演算処理ユニット93からなる。
【0045】
なお、図5に示されるように、振動体24、加振電極29、振動検出電極31、容量電圧変換回路33、位相シフト回路35、増幅器37、駆動信号切替用スイッチ回路39、初期加振用信号源41により圧力測定部81Aが構成されており、容量電圧変換回路33の出力信号VAが圧力測定部81Aとしての出力信号となっている。また、振動体28、加振電極30、振動検出電極32、容量電圧変換回路34、位相シフト回路36、増幅器38、駆動信号切替用スイッチ回路40、初期加振用信号源42により圧力測定部81Bが構成されており、容量電圧変換回路34の出力信号VBが圧力測定部81Bとしての出力信号となっている。
【0046】
また、演算処理ユニット93の演算部91による上記の組合せ演算は、常時各振動体24,28を振動させ各圧力測定部81A,81Bを動作させている状態で、真空計の圧力測定範囲の全領域において行われるものである。なお、演算部91として、より具体的には例えは後述の実施例1〜3で説明する、加算器からなる演算部91a、乗算器からなる演算部91m、除算器からなる演算部91dなどを適用することができる。
【0047】
また、演算処理ユニット93の圧力変換部92は、演算部91による組合せ演算値(演算信号VPO)と圧力値との関係の特性データに基づいて,実測定時における組合せ演算値(演算信号VPO)から圧力値への変換を行なうものである。
【0048】
なお、図5では、演算処理ユニット93において演算部91の出力側に圧力変換部92を備え、この圧力変換部92により得られた圧力値に基づく信号を真空計の圧力測定信号VPとして出力する構成を示しているが、本発明は上記構成に限定されるものではない。すなわち、本発明では、基本的には、低圧領域用圧力測定部の測定可能圧力範囲の下限側から高圧領域用圧力測定部の測定可能圧力範囲の上限側にわたる広い圧力範囲(真空計の圧力測定範囲の全範囲)において、圧力に応じて連続的に変化するとともに圧力に対し1対1の関係をもつ測定信号が得られ、この測定信号に基づき雰囲気の圧力を広い圧力範囲(真空計の圧力測定範囲の全範囲)にわたって連続的に測定することができればよい。このため、本発明では、真空計の圧力測定信号として求められる信号形態などにもよるが、例えば演算処理ユニット93において圧力変換部92は備えず、演算部91からの演算信号VPOを真空計の圧力測定信号として出力する構成とすることもできる。
(ホ)真空計における圧力測定部の動作:
(a)次に、本発明の第1実施形態に係る真空計における各圧力測定部の動作を図5の回路構成例について説明する。図5において、振動体24および28を初期加振する場合、駆動信号切替用スイッチ回路39および40はそれぞれAとB、DとEが接続された状態にされており、初期加振用信号源41および42から出力された振動体24および28の固有振動数に対応した周波数の信号が加振電極29および30に印加され、振動体24および28が加振される。初期加振用信号源41および42は初期駆動するときのみ使用され、振動体24および28が振動し始めた後は駆動信号切替用スイッチ回路39および40が切り替えられ、それぞれAとC、DとFが接続される。容量電圧変換回路33,34から出力された信号の位相を位相シフト回路35,36でシフトし、増幅器37,38を経て、加振電極29,30に印加され、共振状態を保つ。なお、駆動信号切替用スイッチ回路39および40は、上述のように、それぞれ振動体24および28の振幅に応じて接続を切り替えるように動作するものであり、例えば、振動体24および28の振幅、すなわち、振動体24および28の変位に応じて出力される容量電圧変換回路33および34の出力信号VA,VBの各大きさが予め設定した値に到達したことを図示されないスイッチ回路用制御部で検出し、その検出タイミングで前記スイッチ回路用制御部から駆動信号切替用スイッチ回路39および40にB側からC側への切替信号およびE側からF側への切替信号をそれぞれ与えることにより行うことができる。
【0049】
(b)各圧力測定部81A,81Bの圧力測定動作方式を、加振電極29,30に印加する駆動信号の電圧が一定となるように増幅器37,38のゲインをそれぞれ調整する構成(以下「駆動電圧一定方式」とも称する)とした場合、振動体24,28の各Q値に対応して振動体24,28の振幅、つまり、容量電圧変換回路33,34から出力される各信号VA,VBの大きさが変化する。したがって、容量電圧変換回路33,34から出力される各信号VA,VBを圧力測定部81A,81Bとしての各出力信号とすることができる。
【0050】
なお、各信号VA,VBをそれぞれ各Q値に変換し、さらにそれぞれ気体の圧力Pに変換すれば、圧力測定部81A,81Bの各測定可能圧力範囲での圧力測定をそれぞれ行なうことができる。例えば振動体24および28に図3に示した設計例である設計(a)および(b)を使用した場合、0.1Paから100Paの領域では容量電圧変換回路33の出力(圧力測定部81Aの出力信号VA)の大きさから、3Paから3000Paの領域では容量電圧変換回路34の出力(圧力測定部81Bの出力信号VB)の大きさから、それぞれ気体の圧力を測定することで、0.1Paから3000Paの広い範囲の気体の圧力を測定することが可能となる。また、容量電圧変換回路33および34の各出力信号(振動体の振幅)から各圧力値への変換は、Q値を介さないで直接的に変換することもできる。
【0051】
また、図5の構成例における振動体28が例えば図6に示される設計値であって材質がシリコンの振動体である場合、錘1の幅広面に沿った振動方向においては、加振電極30に印加する駆動信号の電圧が一定となるように増幅器38のゲインを調整するときの、容量電圧変換回路34の出力信号VBの大きさ(振動体の振幅)と圧力値との関係は、図7に示されるような、(約10Pa程度以上の)高圧領域では振幅が圧力にほぼ反比例するとともに低圧側では振幅がその最大限界値に向かって飽和していく特性となる。ここで、図6は、本発明の第1実施形態に係る振動体の設計値の異なる一例を示すものである。
【0052】
なお、上述のように本発明は、各圧力測定部81A, 81Bの出力信号VA,VB同士を演算部91で組合せ演算し、この組合せ演算値に基づく演算処理ユニット93の出力信号を真空計の圧力測定信号とする構成を基本としているが、上記駆動電圧一定方式における各容量電圧変換回路の出力信号(振動体の振幅)に基づく各圧力測定信号も真空計として出力する場合には、各容量電圧変換回路の出力信号から各圧力値への変換は例えば次のようにして行なうことができる。すなわち、容量電圧変換回路33,34の各出力信号VA,VBの大きさ(振動体の振幅)と各圧力値との関係の特性データを取得しておく。そして、上記特性データのデータテーブルを格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における上記各出力信号VA,VB(振動体の振幅)から各圧力値PA,PBへの変換を行う構成とすることもでき、また、上記特性データの曲線から近似的に求められた関係式を格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における上記各出力信号VA,VB(振動体の振幅)から各圧力値PA,PBへの変換を行う構成とすることもできる。
【0053】
(c)また、各圧力測定部81A,81Bの圧力測定動作方式を、振動体24,28の振幅、すなわち、振動体24,28の変位に応じて出力される容量電圧変換回路33,34の出力信号VA,VBの大きさ(振動体の振幅)が一定となるように増幅器37,38のゲインをそれぞれ調整する構成(以下「振幅一定方式」とも称する)とすることもできる。この場合、振動体24,28の各Q値に対応して増幅器37,38から加振電極29,30に印加される各駆動信号の電圧が変化するので、この各駆動信号の電圧を圧力測定部81A,81Bとしての各出力信号とすることができる。
【0054】
なお、上記各駆動信号の電圧をそれぞれ各Q値に変換し、さらにそれぞれ気体の圧力Pに変換すれば、圧力測定部81A,81Bの各測定可能圧力範囲での圧力測定をそれぞれ行なうことができる。また、各駆動信号の電圧から各圧力P値への変換は、Q値を介さないで直接的に変換することもできる。
【0055】
また、図5の構成例における振動体28が例えば図6に示される設計値であって材質がシリコンの振動体である場合、錘1の幅広面に沿った振動方向においては、容量電圧変換回路34の出力信号VBの大きさ(振動体の振幅)が一定となるように増幅器38のゲインを調整するときの、駆動信号の大きさ(駆動電圧)と圧力値との関係は、図8に示されるような、(約10Pa程度以上の)高圧領域では駆動電圧が圧力にほぼ比例するとともに低圧側では駆動電圧がその最小限界値に向かって飽和するように減少していく特性となる。
【0056】
なお、上述のように本発明は、各圧力測定部81A,81Bの出力信号VA,VB同士を演算部91で組合せ演算し、この組合せ演算値に基づく演算処理ユニット93の出力信号を真空計の圧力測定信号とする構成を基本としているが、上記振幅一定方式における各駆動信号の電圧に基づく各圧力測定信号も真空計として出力する場合には、各駆動信号の電圧から各圧力値への変換は例えば次のようにして行なうことができる。すなわち、各駆動信号の電圧と各圧力値との関係の特性データを取得しておく。そして、上記特性データのデータテーブルを格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における各駆動信号の電圧から各圧力値への変換を行う構成とすることもでき、また、上記特性データの曲線から近似的に求められた関係式を格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における各駆動信号の電圧から各圧力値への変換を行う構成とすることもできる。
【0057】
(d)ここで、図5の回路構成例では、上記駆動電圧一定方式に対応して、演算器91に入力される圧力測定部81A,81Bの各出力信号VA,VBが容量電圧変換回路33,34の各出力信号(振動体の振幅)である構成を示しているが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、上記振幅一定方式に対応して、演算器91に入力される圧力測定部81A,81Bの各出力信号VA,VBが各駆動信号の電圧に基づく信号である構成とすることもできる。
【0058】
(e)なお、図5の回路構成例は、気体の圧力に関わらず常時全ての振動体を振動させる圧力測定方式に対応するものである。
また、上記した圧力測定部の動作の説明では、図3の表に示すように、振動体の厚さ又は梁の長さ若しくは振動体の材質又は面積の少なくとも1つが異なる2つの振動体を利用した場合の例を示したが、同じく、振動体の厚さ又は梁の長さ若しくは振動体の材質又は面積の少なくとも1つが異なる3つ以上の振動体を利用することでさらに広い領域の気体の圧力を測定することが可能となる。
(ヘ)真空計における演算部の構成および動作:
測定可能な圧力範囲の異なる2つの振動体24,28に対応する2つの圧力測定部81A,81Bの圧力測定特性の例を図9〜10に示す。
【0059】
図9は、本発明の第1実施形態における振動体の振幅と雰囲気の圧力との関係を例示する図であり、振動体24,28の各振幅−圧力特性を例示している。
図10は、本発明の第1実施形態における容量電圧変換回路の出力電圧と雰囲気の圧力との関係を例示する図であり、図9における振動体24,28に対応する容量電圧変換回路33,34(すなわち圧力測定部81A,81B)の各出力電圧−圧力特性を例示している。
【0060】
ここで、図9〜10に示されるように、各容量電圧変換回路の出力値は対応する各振動体の振幅に概ね比例している。なお、図9〜10に示される特性例において、空気の粘性の影響により、高圧側では約1000Paが測定限界となっている。
【0061】
図9〜10に例示した圧力測定特性を有する2つの圧力測定部81A,81B(容量電圧変換回路33,34)の各出力信号VA,VBを組合せて演算して,その演算結果の信号VPOを出力する演算部91の構成および動作を実施例1〜3により説明する。
【実施例1】
【0062】
(a)実施例1は、図5の回路構成における演算部91として加算器からなる演算部91aを適用したものであり、圧力測定部81Aにおける容量電圧変換回路33の出力信号VAと圧力測定部81Bにおける容量電圧変換回路34の出力信号VBとを加算した下記(3)式に示される信号VPO(ad)を出力するようにした構成(加算方式の構成)である。
【0063】
[数3]
VPO(ad)=αAVA+αBVB (3)
ここで、αA、αBはそれぞれ係数である。
【0064】
(b)図11は、実施例1における演算部91aの出力値VPO(ad)と雰囲気の圧力Pとの関係の一例を示す図であり、上記式(3)における係数αAを1とし、係数αBを2とした場合を例示するものである。なお、図11の縦軸(出力値)は線形表示としている。
【0065】
図11に示されるように、圧力測定部81Aの測定可能圧力範囲の下限側から圧力測定部81Bの測定可能圧力範囲の上限側にわたる広い圧力範囲において、演算部91aの出力信号VPO(ad)と圧力Pとが1対1の関係となっているため、演算部91aの出力信号VPO(ad)に基づき雰囲気の圧力Pを広い圧力範囲にわたって連続的に測定することが可能となっている。
【実施例2】
【0066】
(a)実施例2は、図5の回路構成における演算部91として乗算器からなる演算部91mを適用したものであり、圧力測定部81Aにおける容量電圧変換回路33の出力信号VAと圧力測定部81Bにおける容量電圧変換回路34の出力信号VBとを乗算した下記(4)式で示される信号VPO(ml)を出力するようにした構成(乗算方式の構成)である。
【0067】
[数4]
VPO(ml)=βVA×VB (4)
ここで、βは係数である。
【0068】
(b)図12は、実施例2における演算部91mの出力値VPO(ml)と雰囲気の圧力Pとの関係の一例を示す図であり、上記式(4)における係数βを1とした場合を例示するものである。なお、図12の縦軸(出力値)は対数表示としている。
【0069】
図12に示されるように、圧力測定部81Aの測定可能圧力範囲の下限側から圧力測定部81Bの測定可能圧力範囲の上限側にわたる広い圧力範囲において、演算部91mの出力信号VPO(ml)と圧力Pとが1対1の関係となっているため、演算部91mの出力信号VPO(ml)に基づき雰囲気の圧力Pを広い圧力範囲にわたって連続的に測定することが可能となっている。
【0070】
また、乗算方式の実施例2では、加算方式の実施例1に比べて、演算部の出力信号の変化率がより大きいため、圧力Pをより高い分解能で求めることが可能である。
【実施例3】
【0071】
(a)実施例3は、図5の回路構成における演算部91として除算器からなる演算部91dを適用したものであり、圧力測定部81Aにおける容量電圧変換回路33の出力信号VAを圧力測定部81Bにおける容量電圧変換回路34の出力信号VBで除算した下記(5)式で示される信号VPO(di)を出力するようにした構成(除算方式の構成)である。
【0072】
[数5]
VPO(di)=γVA÷VB (5)
ここで、γは係数である。
(b)図13は、実施例3における演算部91dの出力値VPO(di)と雰囲気の圧力Pとの関係の一例を示す図であり、上記式(5)における係数γを1とした場合を例示するものである。なお、図13の縦軸(出力値)は対数表示としている。
【0073】
図13に示されるように、圧力測定部81Aの測定可能圧力範囲の下限側から圧力測定部81Bの測定可能圧力範囲の上限側にわたる広い圧力範囲において、演算部91dの出力信号VPO(di)と圧力Pとが1対1の関係となっているため、演算部91dの出力信号VPO(di)に基づき雰囲気の圧力Pを広い圧力範囲にわたって連続的に測定することが可能となっている。
【0074】
また、除算方式の実施例3では、加算方式の実施例1に比べて、演算部の出力信号の変化率がより大きいため、圧力Pをより高い分解能で求めることが可能である。
なお、上述の実施例1〜3は、上記駆動電圧一定方式に対応した、演算器91に入力される圧力測定部81A,81Bの各出力信号VA,VBが容量電圧変換回路33,34の各出力信号(振動体の振幅)である構成に基づいた実施例である。しかしながら、本発明は上記構成に限定されるものではなく、圧力測定部81A,81Bの各出力信号VA,VBを演算部91で組合せて演算する構成を、上記振幅一定方式に対応した、演算器91に入力される圧力測定部81A,81Bの各出力信号VA,VBが各駆動信号の電圧に基づく信号である構成に適用することもできる。
【0075】
また、演算部91の出力信号VPOとして、図11〜13ではアナログ電圧信号を出力する例を示しているが、ディジタル化した信号を出力するようにしてもよい。
また、上述の実施例1〜3では、測定可能な圧力範囲の異なる2つの圧力測定部(振動体)を用いた真空計における構成例を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、測定可能な圧力範囲の異なる3つ以上の圧力測定部(振動体)を用いた真空計にも適用することができる。そして、例えば、測定可能な圧力範囲の異なる3つの圧力測定部(振動体)を用いた真空計に上記実施例1〜3と同様な方式を適用して次のような構成とすることができる。
(加算方式の構成例)3つの圧力測定部(振動体)を全て同時に動作させ、3つの圧力測定部の各出力信号VA,VB,VCを組合せて「VPO(ad)=αAVA+αBVB+αCVC」のような演算を行なう。ここで、αA、αB、αCはそれぞれ係数である。
(乗算方式の構成例)3つの圧力測定部(振動体)を全て同時に動作させ、3つの圧力測定部の各出力信号VA,VB,VCを組合せて「VPO(ml)=βVA×VB×VC」のような演算を行なう。ここで、βは係数である。
(除算方式の構成例)3つの圧力測定部(振動体)を全て同時に動作させ、3つの圧力測定部の各出力信号VA,VB,VCを組合せて「VPO(di)=γVA÷VB÷VC」のような演算を行なう。ここで、γは係数である。なお、測定可能な圧力範囲の異なる3つ以上の圧力測定部(振動体)を用いた構成では、除算方式の場合、より高圧側に対応する圧力測定部の出力信号から順にVA,VB,VCとする。
(ト)圧力変換回路の構成および動作:
また、演算処理ユニット93における圧力変換部92は、上述のように、演算部91による組合せ演算値(演算信号VPO)と圧力値との関係の特性データに基づいて,実測定時における組合せ演算値(演算信号VPO)から圧力値への変換を行なうものである。なお、上記特性データとしては予め取得しておいたデータを用いる。
【0076】
例えば、演算部91として乗算器からなる演算部91mを適用した実施例2の場合、図12に示されるような演算部91mの出力値VPO(ml)と圧力Pとの関係の特性データを取得しておく。そして、圧力変換部92は、上記特性データのデータテーブルを格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における組合せ演算値(出力値VPO(ml))から圧力値への変換を行う構成とすることができ、また、上記特性データの曲線から近似的に求められた関係式を格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における組合せ演算値(出力値VPO(ml))から圧力値への変換を行う構成とすることもできる。演算処理ユニット93において上記のような構成の圧力変換部92を設け、圧力変換部92の出力信号VPを真空計の圧力測定信号とすることにより、圧力測定部81A,81Bの各測定可能圧力範囲同士がオーバーラップするオーバーラップ圧力領域の近傍での非線形性などを補正し、真空計の圧力測定範囲の全領域にわたって一様な線形性を備えたものとすることができる。
【0077】
なお、圧力変換部92の出力信号VPとしては、その信号レベル(信号の大きさ)と圧力値との関係において、例えば、真空計の圧力測定範囲の全領域にわたって一様な比例係数で圧力値に比例する信号を出力するようにしてもよく、また、圧力値を対数化した値に比例する信号を出力するようにしてもよい。また、圧力変換部92の出力信号VPは、例えばアナログ電圧信号であってもよく、また、ディジタル化された信号であってもよい。
(チ)真空計の機構部分を成す構造体の異なる構成例
図14は、本発明の第1実施形態に係る真空計の機構部分を成す構造体の異なる構成例を示す平面図であり、図15は、図14に示す構造体の側面図である。図14および図15において、真空計の機構部分を成す構造体は、錘1、梁2および振動体固定部3からなる振動体4、振動体4を加振するための加振電極5,7、振動体4の振動を検出するための振動検出電極6,8から構成されており、このような構造体を備えた真空計にも本発明は適用することができる。
(リ)真空計の異なる回路構成例:
(a)また、本発明の第1実施形態に係る真空計の回路構成は、次のような構成とすることもできる。図16は、本発明の第1実施形態に係る真空計の異なる回路構成例を示すブロック図である。なお、図16では、1つの真空計内に振動体の厚さ又は梁の長さ若しくは振動体の材質又は面積の少なくとも1つが異なる複数(例えば2つ)の振動体を含む構成について、1つの振動体に対応する圧力測定部82Aの回路構成だけを示しているが、他の振動体に対応する圧力測定装置82Bの回路構成も同様である。
【0078】
(b)回路構成:
図16の回路構成例は、図14〜15に示した構成例の構造体に対応したものであり、1つの振動体4に対応する圧力測定部82Aが、振動体4、加振電極5,7、振動検出電極6,8、振動体4と振動検出電極6,8との間の静電容量の変化に応じた電圧を出力する容量電圧変換回路53,52、容量電圧変換回路53と52との出力の差分を出力する差分回路55、差分回路55の出力の位相を変化させる位相シフト回路57、位相シフト回路57の出力を増幅する増幅器59、入力された信号の位相を180度反転させる反転回路61、振動体4を所定の振動方向に初期加振するための初期加振用信号源63、加振電極5および7に印加される信号を選択する駆動信号切替用スイッチ回路65から構成されている。そして、上記圧力測定部82Aの出力信号VAと詳細回路が図示されない圧力測定部82Bの出力信号VBとを演算部91により組合せて演算し,その組合せ演算値(演算信号VPO)を圧力変換部92により圧力値に変換して真空計の圧力測定信号VPとして出力する演算処理ユニット93が設けられている。
【0079】
なお、演算処理ユニット93の構成は上述の図5の回路構成例と同様である。
(c)圧力測定部の動作:
(c1)次に、図16の回路構成例における圧力測定部の動作を説明する。図16において、振動体4が初期加振される場合、駆動信号切替用スイッチ回路65はAとBが接続された状態である。初期駆動用信号源63から振動体4の所定の振動方向の固有振動数に対応した周波数の信号が出力され、その位相が反転回路61で反転され、反転回路61の出力および初期駆動用信号源63の出力が加振電極7および加振電極5にそれぞれ印加される。初期加振用信号源63は初期駆動するときのみ使用され、振動体4が振動し始めた後は駆動信号切替用スイッチ回路65が切り替えられ、AとCが接続された状態となる。なお、駆動信号切替用スイッチ回路65の切替制御は、例えば、振動体4の振幅、すなわち、振動体4の変位に応じて出力される差分回路55の出力信号の大きさが予め設定した値に到達したことを図示されないスイッチ回路用制御部で検出し、その検出タイミングで前記スイッチ回路用制御部から駆動信号切替用スイッチ回路65にB側からC側への切替信号を与えることにより行うことができる。
【0080】
そして、駆動信号切替用スイッチ回路65でAとCとが接続された状態において、差分回路55の出力信号の位相を位相シフト回路57でシフトし、増幅器59で増幅し、さらに増幅器59の出力の位相を反転回路61で反転させる。反転回路61の出力および増幅器59の出力が加振電極7および加振電極5にそれぞれ印加され、振動体4の所定の振動方向の共振状態を保持する。
【0081】
(c2)圧力測定部82Aの圧力測定動作方式を、加振電極7および5に印加する駆動信号の電圧が一定となるように増幅器59のゲインを調節する構成(駆動電圧一定方式)とした場合、振動体4の所定の振動方向におけるQ値に対応して振動体4の所定の振動方向における振幅、すなわち、振動体の変位量に応じて差分回路55から出力される信号の大きさが変化する。したがって、差分回路55の出力信号VAを圧力測定部82Aとしての出力信号とすることができる。
【0082】
なお、上記信号VAの大きさを所定の振動方向におけるQ値に変換し、さらに気体の圧力Pに変換すれば、この圧力測定部82Aの測定可能圧力範囲での圧力測定を行なうことができる。また、差分回路55の出力信号(振動体の振幅)から圧力値への変換は、Q値を介さないで直接的に変換することもできる。
【0083】
(c3)また、圧力測定部82Aの圧力測定動作方式を、振動体4の所定の振動方向における振幅、すなわち、振動体4の変位に応じて出力される差分回路55の出力信号の大きさ(振動体の振幅)が一定となるように増幅器59のゲインを調整する構成(振幅一定方式)とすることもできる。この場合、振動体4の所定の振動方向におけるQ値に対応して増幅器59から加振電極7および5に印加される駆動信号の電圧が変化するので、この駆動信号の電圧を圧力測定部82Aとしての出力信号とすることができる。
【0084】
なお、上記駆動信号の電圧を所定の振動方向におけるQ値に変換し、さらに気体の圧力Pに変換すれば、この圧力測定部82Aの測定可能圧力範囲での圧力測定を行なうことができる。また、駆動信号の電圧から圧力P値への変換は、Q値を介さないで直接的に変換することもできる。
【0085】
(c4)このように図16の回路構成例では、1つの真空計内に振動体の厚さ又は梁の長さ若しくは振動体の材質又は面積の少なくとも1つが異なる複数の振動体を含む構成において、各振動体に対応するそれぞれの圧力測定系が、振動体と、振動体の両側に振動方向に沿って設置された1組の加振電極からなる加振電極部と、振動体の振動を検出する振動検出部とを有し、振動検出部の検出信号の位相を変化させる位相シフト回路と、該位相シフト回路の出力信号を増幅させる増幅器と、該増幅器の出力信号の位相を反転させる反転回路とからなる駆動信号生成部を備え、振動検出部の検出信号に基づく逆相の駆動信号として、反転回路および増幅器の各出力信号を1組の加振電極にそれぞれ印加することで振動体の共振状態を保持するように構成されている。
【0086】
(d)演算部の構成および動作:
次に、図16の回路構成例において、2つの圧力測定部82A,82Bの各出力信号VA,VBを組合せて演算し、演算結果を信号VPOとして出力する演算部91の構成および動作は、図5の回路構成例を用いて上述の実施例1〜3で説明した構成および動作と同様である。
【0087】
(e)圧力変換部の構成および動作:
また、図16の回路構成における圧力変換部92の構成および動作も、図5の回路構成例で説明したのと同様である。
【0088】
(f)また、図16の回路構成例についても、上述の図5の回路構成例と同様に、振動体の厚さ又は梁の長さ若しくは振動体の材質又は面積の少なくとも1つが異なる2つの振動体を利用した場合の例を示したが、同じく、振動体の厚さ又は梁の長さ若しくは振動体の材質又は面積の少なくとも1つが異なる3つ以上の振動体を利用することでさらに広い領域の気体の圧力を測定することが可能となる。
(ヌ)真空計のさらに異なる回路構成例:
(a)また、本発明の第1実施形態に係る真空計の回路構成は、さらに次のような構成とすることもできる。図17は本発明の第1実施形態に係る真空計のさらに異なる回路構成例を示すブロック図である。図17は、1つの真空計内に振動体の厚さ又は梁の長さ若しくは振動体の材質又は面積の少なくとも1つが異なる複数(例えば2つ)の振動体を含む構成について、1つの振動体に対応する圧力測定部83Aの回路構成だけを示しているが、他の振動体に対応する圧力測定装置83Bの回路構成も同様である。
【0089】
(b)回路構成:
図17の回路構成例は、図16の回路構成例と同様に図14〜15に示した構成例の構造体に対応したものであり、図16の回路構成例と比較して、駆動信号生成部の構成が異なっているが、それ以外の点では、図16の構成と同様である。
【0090】
図17において、1つの振動体に対応する圧力測定部83Aが、振動体4、加振電極5,7、振動検出電極6,8、振動体4と振動検出電極6,8との間の静電容量の変化に応じた電圧を出力する容量電圧変換回路53,52、容量電圧変換回路53と52との出力の差分を出力する差分回路55、駆動用信号源73、駆動用信号源73の出力を増幅する増幅器59、入力された信号の位相を180度反転させる反転回路61から構成されている。そして、上記圧力測定部83Aの出力信号VAと詳細回路が図示されない圧力測定部83Bの出力信号VBとを演算部91により組合せて演算し,その組合せ演算値(演算信号VPO)を圧力変換部92により圧力値に変換して真空計の圧力測定信号VPとして出力する演算処理ユニット93が設けられている。
【0091】
図17の回路構成例は、図16の回路構成例におけるような位相シフト回路57、初期加振用信号源63、駆動信号切替用スイッチ回路65を備えておらず、代わりに、振動体4の初期駆動だけでなく定常的な圧力測定状態での駆動にも用いられる駆動用信号源73を備えている。
【0092】
なお、演算処理ユニット93の構成は上述の図5の回路構成例と同様である。
(c)圧力測定部の動作:
(c1)次に、図17の回路構成例における圧力測定部の動作を説明する。図17において、駆動用信号源73から出力された信号は増幅器59によって増幅され、さらに、増幅器73の出力の位相は反転回路61で反転される。反転回路61の出力および増幅器59の出力がそれぞれ加振電極5および7に印加されることで、振動体4が所定の振動方向に加振される。振動体4が所定の振動方向に振動することで振動体4と振動検出電極6および8との間の静電容量が変化するので、この静電容量の変化を容量電圧変換回路53および52で静電容量の変化、すなわち、振動体4の所定の振動方向における振幅に応じた電圧に変換する。容量電圧変換回路52および53の出力電圧は逆位相であるので、差分回路55で出力電圧の差分をとることで振動体4の所定の振動方向に振幅に応じた最終的な出力電圧を得る。
【0093】
(c2)圧力測定部83Aの圧力測定動作方式を、加振電極5および7に印加する駆動信号の電圧が一定となるように増幅器59のゲインを調節する構成(駆動電圧一定方式)とした場合、振動体4の所定の振動方向におけるQ値に対応して振動体4の所定の振動方向における振幅、すなわち、振動体4の変位量に応じて差分回路55から出力される信号の大きさが変化する。したがって、差分回路55の出力信号VAを圧力測定部83Aとしての出力信号とすることができる。
【0094】
なお、上記信号VAの大きさを所定の振動方向におけるQ値に変換し、さらに気体の圧力Pに変換すれば、この圧力測定部83Aの測定可能圧力範囲での圧力測定を行なうことができる。また、差分回路55の出力信号(振動体の振幅)から圧力値への変換は、Q値を介さないで直接的に変換することもできる。
【0095】
(c3)また、圧力測定部83Aの圧力測定動作方式を、振動体4の所定の振動方向における振幅、すなわち、振動体4の変位に応じて出力される差分回路55の出力信号の大きさ(振動体の振幅)が一定となるように増幅器59のゲインを調整する構成(振幅一定方式)とすることもできる。この場合、振動体4の所定の振動方向におけるQ値に対応して増幅器59から加振電極5および7に印加される駆動信号の電圧が変化するので、この駆動信号の電圧を圧力測定部83Aとしての出力信号とすることができる。
【0096】
なお、上記駆動信号の電圧を所定の振動方向におけるQ値に変換し、さらに気体の圧力Pに変換すれば、この圧力測定部83Aの測定可能圧力範囲での圧力測定を行なうことができる。また、駆動信号の電圧から圧力値への変換は、Q値を介さないで直接的に変換することもできる。
【0097】
(d)演算部の構成および動作:
次に、図17の回路構成例において、2つの圧力測定部83A,83Bの各出力信号VA,VBを組合せて演算し、演算結果を信号VPOとして出力する演算部91の構成および動作は、図5の回路構成例を用いて上述の実施例1〜3で説明した構成および動作と同様である。
【0098】
(e)圧力変換部の構成および動作:
また、図17の回路構成における圧力変換部92の構成および動作も、図5の回路構成例で説明したのと同様である。
【0099】
(f)また、図17の回路構成例についても、上述の図5の回路構成例と同様に、振動体の厚さ又は梁の長さ若しくは振動体の材質又は面積の少なくとも1つが異なる2つの振動体を利用した場合の例を示したが、同じく、振動体の厚さ又は梁の長さ若しくは振動体の材質又は面積の少なくとも1つが異なる3つ以上の振動体を利用することでさらに広い領域の気体の圧力を測定することが可能となる。
(振動体の設計値のさらに異なる例)
次に、本発明の第1実施形態に係る振動体の設計値のさらに異なる例に基づいて気体の圧力Pと振動体のQ値との関係を説明する。図18は、本発明の第1実施形態に係る振動体の設計値のさらに異なる例を示す図であり、測定可能な圧力範囲の異なる2つの振動体の設計値として具体例1〜5を示している。
[具体例1]
図18の設計(I)および設計(II)は具体例1における振動体4の設計値の一例であり、設計(I)と設計(II)とでは振動体の厚さ(=梁厚)(C値)が異なる。図19は図18に示した振動体の設計値の具体例1における気体の圧力Pと振動体のQ値との関係である。ただし、振動体固有のQ値を100000、温度Tを300K、評価対象の気体を空気とした場合であり、以下の具体例についても同様である。図19より、振動体の厚さが異なる2つの振動体を利用することで、1つの振動体の場合と比較して約1桁測定可能な圧力範囲を広くすることが可能であることがわかる。
[具体例2]
図18の設計(III)および設計(IV)は具体例2における振動体4の設計値の一例であり、設計(III)と設計(IV)とでは振動体の梁の長さ(D値)が異なる。図20は振動体の設計値の具体例2における気体の圧力Pと振動体のQ値との関係である。図20より、梁の長さが異なる2つの振動体を利用することで、1つの振動体の場合と比較して0.5桁程度測定可能な圧力範囲を広くすることが可能であることがわかる。
[具体例3]
図18の設計(V)および設計(VI)は具体例3における振動体4の設計値の一例であり、設計(V)と設計(VI)とでは振動体の材質(ヤング率)が異なる(シリコン:130Gpa、アルミニウム:70GPa)。図21は振動体の設計値の具体例3おける気体の圧力Pと振動体のQ値との関係である。図21より、振動体の材質が異なる2つの振動体を利用することで、1つの振動体の場合と比較して若干測定可能な圧力範囲を広くすることが可能であることがわかる。
[具体例4]
図18の設計(VII)および設計(VIII)は具体例4における振動体4の設計値の一例であり、設計(VII)と設計(VIII)とでは振動体の錘の面積(A×B値)が異なる。図22は振動体の設計値の具体例4における気体の圧力Pと振動体のQ値との関係である。図22より、錘の面積が異なる2つの振動体を利用することで、1つの振動体の場合と比較して1桁弱測定可能な圧力範囲を広くすることが可能であることがわかる。
[具体例5]
上記した式(1)より、1/Pの係数部分aは、以下の式(6)のように表される。
【0100】
【数6】


【0101】
この式(6)から分かることは、係数が大きく異なる、すなわち差が大きい2つの振動体を使用することで、測定することが可能な測定範囲を大きく変化させることが可能であることがわかった。
【0102】
図18の設計(IX)および設計(X)は具体例5における振動体4の設計値の一例であり、設計(IX)と設計(X)とでは振動体の梁の長さ(D値)、面積(A×B値)および梁厚(C値)が異なる。図23は振動体の設計値の具体例5における気体の圧力Pと振動体のQ値との関係である。図23より、上記した式(6)の係数が大きく異なる2つの振動体を利用することで、1つの振動体の場合と比較して3桁程度測定可能な圧力範囲を広くすることが可能であることがわかる。
【0103】
そして、本発明の第1実施形態によれば、例えば上述の具体例1〜5で示した設計値で設計された2つの振動体に対応する2つの圧力測定部からの出力信号同士を組合せて演算する演算部を設けた構成とすることにより、1つの真空計で測定が不連続になること無く,広い範囲の気体の圧力を測定できるとともに、回路構成が簡素化された真空計を実現することができる。
【0104】
なお、上述した全ての具体例について2つの振動体を利用する場合を説明したが、本発明の第1実施形態では3つ以上の振動体を利用することも可能である。
(ル)上述のような本発明の第1実施形態によれば、測定可能圧力範囲が異なるとともに一部オーバーラップしてなる複数の振動体を常時振動させ、各振動体に対応する各圧力測定部の出力信号同士を演算部で組合せ演算し、この組合せ演算値に基づく演算処理ユニットの出力信号を真空計の圧力測定信号とする構成としたことにより、1つの真空計で測定が不連続になること無く,広い範囲の気体の圧力を測定できるとともに、回路構成が簡素化された真空計を実現することができる。
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る真空計は、振動体を測定可能圧力範囲が異なるとともに一部オーバーラップしてなる2つの振動方向に同時に振動させ、各振動方向に対応する各圧力測定部の出力信号同士を演算部で組合せ演算し、この組合せ演算値に基づく演算処理ユニットの出力信号を真空計の圧力測定信号とする構成を基本としたものである。
(イ)真空計の機構部分を成す構造体の構成:
図24は、本発明の第2実施形態に係る真空計の機構部分を成す構造体の平面図であり、図25は、図24に示す構造体の側面図である。図24および図25において真空計の機構部分を成す構造体は、錘101、梁102および振動体固定部103からなる振動体104、振動体104を第1の振動方向に加振する加振電極105および106、振動体104を第2の振動方向に加振する加振電極107および108、振動体104の第1の振動方向の振動を検出するための振動検出電極109および110、振動体104の第2の振動方向の振動を検出するための振動検出電極111および112から構成される。
(ロ)振動体の形状、振動体のQ値および気体の圧力Pとの関係:
次に、振動体104の形状、振動体104のQ値および気体の圧力Pとの関係は、上述の第1実施形態の(ロ)項で振動体4について述べたのと同様であり、振動体104のQ値と気体の圧力Pとの関係については、frを振動体104の固有周波数、mを錘の質量、Sを気体の抵抗力を受ける面積、Rを気体定数、Tを温度、Mを気体分子1molあたりの質量とすると、振動体104のQ値を上述の式(2)のように表すことができる。
(ハ)振動体の設計値の一例:
図26は、本発明の第2実施形態に係る振動体の設計値の一例を示す図であり、図27は、図26に示した振動体の設計値における気体の圧力P と振動体のQ値との関係を示す図である。図27に示すように、第1の振動方向に振動させた場合に測定することができる気体の圧力は約10Paから約10000Pa、第2の振動方向に振動させた場合に測定することができる気体の圧力は約0.1Paから約100Paである。すなわち、振動方向によって測定することができる気体の圧力を変えることができる。なお、図26に示される振動体の第1および第2の振動方向における各固有周波数は、例えば、振動体の材質をシリコンとした場合、それぞれ、約1680Hzおよび約560Hzとなる。
(ニ)真空計の回路構成:
次に、本発明の第2実施形態に係る真空計の回路構成について説明する。図28は、本発明の第2実施形態に係る真空計の回路構成例を示すブロック図であり、振動体104と振動検出電極109、110、111および112の静電容量の変化に応じた電圧を出力する容量電圧変換回路120、121、122および123、容量電圧変換回路120と121との出力の差分を出力する差分回路124、容量電圧変換回路122と123との出力の差分を出力する差分回路125、差分回路124の出力の位相を変化させる位相シフト回路126、位相シフト回路126の出力を増幅する増幅器128、入力された信号の位相を180度反転させる反転回路130、振動体104を第1の振動方向に初期加振するための初期加振用信号源132、加振電極105および106に印加される信号を選択するスイッチ回路134、差分回路125の出力の位相を変化させる位相シフト回路127、位相シフト回路127の出力を増幅する増幅器129、入力された信号の位相を180度反転させる反転回路131、振動体104を第2の振動方向に初期加振するための初期加振用信号源133、加振電極107および108に印加される信号を選択するスイッチ回路135、差分回路124および125の各出力信号VAおよびVBを演算部191により組合せて演算し,その組合せ演算値(演算信号VPO)を圧力変換部192により圧力値に変換して真空計の圧力測定信号VPとして出力する演算処理ユニット193から構成される。
【0105】
なお、図28に示されるように、振動体104、加振電極105,106、振動検出電極109,110、容量電圧変換回路120,121、差分回路124、位相シフト回路126、増幅器128、反転回路130、初期加振用信号源132、スイッチ回路134により圧力測定部181Aが構成されており、差分回路124の出力信号VAが圧力測定部181Aとしての出力信号となっている。また、振動体104、加振電極107,108、振動検出電極111,112、容量電圧変換回路122,123、差分回路125、位相シフト回路127、増幅器129、反転回路131、初期加振用信号源133、スイッチ回路135により圧力測定部181Bが構成されており、差分回路125の出力信号VBが圧力測定部181Bとしての出力信号となっている。
【0106】
また、演算処理ユニット193の演算部191による上記の組合せ演算は、振動体104を2つの振動方向に同時に振動させ各圧力測定部181A,181Bを動作させている状態で、真空計の圧力測定範囲の全領域において行われるものである。なお、演算部191としては、上述の第1実施形態と同様に、加算器からなる演算部191a、乗算器からなる演算部191m、除算器からなる演算部191dなどを適用することができる。
【0107】
また、演算処理ユニット193における圧力変換部192は、演算部191による組合せ演算値(演算信号VPO)と圧力値との関係の特性データに基づいて,実測定時における組合せ演算値(演算信号VPO)から圧力値への変換を行なうものである。
【0108】
なお、図28では、演算処理ユニット193において演算部191の出力側に圧力変換部192を備え、この圧力変換部192により得られた圧力値に基づく信号を真空計の圧力測定信号VPとして出力する構成を示しているが、本発明は上記構成に限定されるものではない。すなわち、本発明では、基本的には、低圧領域用圧力測定部の測定可能圧力範囲の下限側から高圧領域用圧力測定部の測定可能圧力範囲の上限側にわたる広い圧力範囲(真空計の圧力測定範囲の全範囲)において、圧力に応じて連続的に変化するとともに圧力に対し1対1の関係をもつ測定信号が得られ、この測定信号に基づき雰囲気の圧力を広い圧力範囲(真空計の圧力測定範囲の全範囲)にわたって連続的に測定することができればよい。このため、本発明では、真空計の圧力測定信号として求められる信号形態などにもよるが、例えば演算処理ユニット193において圧力変換部192は備えず、演算部191からの演算信号VPOを真空計の圧力測定信号として出力する構成とすることもできる。
(ホ)真空計における圧力測定部の動作:
(a)次に、図26に示した振動体を利用した本発明の第2実施形態に係る真空計における圧力測定部の動作について説明する。図28において、振動体104が初期加振される場合、スイッチ回路134および135はそれぞれAとB、DとEが接続された状態である。初期駆動用信号源132から振動体104の第1の振動方向の固有振動数に対応した周波数の信号が出力され、反転回路130を経て加振電極105に印加されるとともに加振電極106にも印加される。一方、初期駆動用信号源133から振動体104の第2の振動方向の固有振動数に対応した周波数の信号が出力され、反転回路131を経て加振電極107に印加されるとともに加振電極108にも印加される。初期加振用信号源132および133は初期駆動するときのみ使用され、振動体104が振動し始めた後はスイッチ回路134および135が切り替えられ、それぞれAとC、DとFが接続された状態となる。なお、スイッチ回路134および135の切替制御は、例えば、振動体104の振幅、すなわち、振動体104の変位に応じて出力される差分回路124および125の出力信号の各大きさが予め設定した値に到達したことを図示されないスイッチ回路用制御部で検出し、その検出タイミングで前記スイッチ回路用制御部からスイッチ回路134および135にB側からC側への切替信号およびE側からF側への切替信号をそれぞれ与えることにより行うことができる。
【0109】
そして、スイッチ回路134および135でAとCとが接続されるとともにDとFとが接続された状態において、差分回路124の出力信号の位相を位相シフト回路126でシフトし、増幅器128で増幅し、さらに増幅器128の出力の位相を反転回路130で反転させる。反転回路130の出力および増幅器128の出力が加振電極105および加振電極106にそれぞれ印加され、振動体104の第1の振動方向の共振状態を保持する。一方、差分回路125の出力信号の位相を位相シフト回路127でシフトし、増幅器129で増幅し、さらに増幅器129の出力の位相を反転回路131で反転させる。反転回路131の出力および増幅器129の出力が加振電極107および加振電極108にそれぞれ印加され、振動体104の第2の振動方向の共振状態を保持する。
【0110】
(b)各圧力測定部181A,181Bの圧力測定動作方式を、加振電極105および106に印加する駆動信号の電圧が一定となるように増幅器128のゲインを、また加振電極107および108に印加する駆動信号の電圧が一定となるように増幅器129のゲインをそれぞれ調節する構成(駆動電圧一定方式)とした場合、振動体104の第1および第2の振動方向における各Q値に対応して振動体104の第1および第2の振動方向における各振幅、すなわち、振動体の変位量に応じて差分回路124および125から出力される信号の大きさが変化する。したがって、差分回路124,125から出力される各信号VA,VBを圧力測定部181A,181Bとしての各出力信号とすることができる。
【0111】
なお、差分回路124,125の各出力信号の大きさを第1,第2の振動方向における各Q値に変換し、さらにそれぞれ気体の圧力Pに変換すれば、圧力測定部181A,181Bの各測定可能圧力範囲での圧力測定をそれぞれ行なうことができる。また、差分回路124,125の各出力信号(振動体の振幅)から各圧力値への変換は、Q値を介さないで直接的に変換することもできる。
【0112】
ここで、図26に示される設計値であって材質がシリコンである振動体の場合、例えば第1の振動方向においては、加振電極105および106に印加する駆動信号の電圧が一定となるように増幅器128のゲインを調整するときの、差分回路124の出力信号の大きさ(振動体の振幅)と圧力P値との関係は、図29に示されるような、(約10Pa程度以上の)高圧領域では振幅が圧力にほぼ反比例するとともに低圧側では振幅がその最大限界値に向かって飽和していく特性となる。ここで、図29の縦軸「振幅(m)」における「1.00E−07」〜「1.00E−04」との目盛数値の記載は、それぞれ「1.00×10−7」〜「1.00×10−4」を示すものである。
【0113】
なお、上述のように本発明は、各圧力測定部181A,181Bの出力信号同士を演算部191で組合せ演算し、この組合せ演算値に基づく演算処理ユニット193の出力信号を真空計の圧力測定信号とする構成を基本としているが、上記駆動電圧一定方式における各差分回路の出力信号に基づく各圧力測定信号も真空計として出力する場合には、各差分回路の出力信号から各圧力値への変換は例えば次のようにして行なうことができる。すなわち、差分回路124および125の各出力信号の大きさ(振動体の振幅)と各圧力値との関係の特性データを取得しておく。そして、上記特性データのデータテーブルを格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における上記各出力信号(振動体の振幅)から各圧力値への変換を行う構成とすることもでき、また、上記特性データの曲線から近似的に求められた関係式を格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における上記各出力信号(振動体の振幅)から各圧力値への変換を行う構成とすることもできる。
【0114】
(c)また、各圧力測定部181A,181Bの圧力測定動作方式を、振動体104の振幅、すなわち、振動体104の変位に応じて出力される差分回路124,125の各出力信号の大きさが一定となるように増幅器128,129の各ゲインをそれぞれ調整する構成(振幅一定方式)とすることもできる。この場合、振動体104の第1および第2の振動方向における各Q値に対応して増幅器128および129から加振電極105,106および107,108側に印加される各駆動信号の電圧が変化するので、この各駆動信号の電圧を圧力測定部181A,181Bとしての各出力信号とすることができる。
【0115】
なお、上記各駆動信号の電圧を第1および第2の振動方向における各Q値に変換し、さらにそれぞれ気体の圧力Pに変換すれば、圧力測定部181A,181Bの各測定可能圧力範囲での圧力測定をそれぞれ行なうことができる。また、各駆動信号の電圧から各圧力値への変換は、Q値を介さないで直接的に変換することもできる。
【0116】
ここで、図26に示される設計値であって材質がシリコンである振動体の場合、例えば第1の振動方向においては、差分回路124の出力信号の大きさ(振動体の振幅)が一定となるように増幅器128のゲインを調整するときの、駆動信号の大きさ(駆動電圧)と圧力値との関係は、図30に示されるような、(約10Pa程度以上の)高圧領域では駆動電圧が圧力にほぼ比例するとともに低圧側では駆動電圧がその最小限界値に向かって飽和するように減少していく特性となる。ここで、図30の縦軸「駆動電圧(Vpeak)」における「1.00E−01」〜「1.00E+02」との目盛数値の記載は、それぞれ「1.00×10−1」〜「1.00×10+2」を示すものである。
【0117】
なお、上述のように本発明は、各圧力測定部181A,181Bの出力信号同士を演算部191で組合せ演算し、この組合せ演算値に基づく演算処理ユニット193の出力信号を真空計の圧力測定信号とする構成を基本としているが、上記振幅一定方式における各駆動信号に基づく各圧力測定信号も真空計として出力する場合には、各駆動信号から各圧力値への変換は例えば次のようにして行なうことができる。すなわち、そして、例えば、各駆動信号の電圧(の大きさ)と各圧力値との関係の特性データを取得しておく。そして、上記特性データのデータテーブルを格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における各駆動信号の電圧から各圧力値への変換を行う構成とすることもでき、また、上記特性データの曲線から近似的に求められた関係式を格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における各駆動信号の電圧から各圧力値への変換を行う構成とすることもできる。
【0118】
(d)ここで、図28の回路構成例では、上記駆動電圧一定方式に対応して、演算器191に入力される圧力測定部181A,181Bの各出力信号VA,VBが差分回路124,125の各出力信号(振動体の振幅)である構成を示しているが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、上記振幅一定方式に対応して、演算器191に入力される圧力測定部181A,181Bの各出力信号VA,VBが各駆動信号の電圧(の大きさ)に基づく信号である構成とすることもできる。
【0119】
(e)なお、本発明の第2実施形態では、振動体104を測定可能圧力範囲が異なるとともに一部オーバーラップしてなる第1の振動方向と第2の振動方向とに同時に振動させ、それぞれの振動方向で気体の圧力を同時に測定するため、気体の圧力によって振動方向を切り替える場合と異なり連続的に気体の圧力を測定することが可能である。また、気体の圧力によって振動方向を切り替える必要がないため、制御回路などが簡単になる。
(ヘ)真空計における演算部の構成および動作:
次に、本発明の第2実施形態における図28の回路構成例において、2つの圧力測定部181A,181Bの各出力信号VA,VBを組合せて演算し、演算結果を信号VPOとして出力する演算部191の構成および動作は、図5の回路構成例を用いて上述の実施例1〜3で説明した演算部91の構成および動作と同様である。
(ト)圧力変換部の構成および動作:
また、図28の回路構成における圧力変換部192の構成および動作も、図5の回路構成例で圧力変換部92について説明したのと同様である。
(チ)上述のような本発明の第2実施形態によれば、振動体を測定可能圧力範囲が異なるとともに一部オーバーラップしてなる2つの振動方向に同時に振動させ、各振動方向に対応する各圧力測定部の出力信号同士を演算部で組合せ演算し、この組合せ演算値に基づく演算処理ユニットの出力信号を真空計の圧力測定信号とする構成としたことにより、1つの真空計で測定が不連続になること無く,広い範囲の気体の圧力を測定できるとともに、回路構成が簡素化された真空計を実現することができる。
【符号の説明】
【0120】
1,21,25,101・・・錘
2,22,26,102・・・梁
3,23,27,103・・・振動体固定部
4,24,28,104・・・振動体
5,7,29,30,105〜108・・・加振電極
6,8,31,32,109〜112・・・振動検出電極
33,34,52,53,120〜123・・・容量電圧変換回路
35,36,57,126,127・・・位相シフト回路
37,38,59,128,129・・・増幅器
39,40,65,134,135・・・駆動信号切替用スイッチ回路
41,42,63,132,133・・・初期駆動用信号源
55,124,125・・・差分回路
61,130,131・・・反転回路
73・・・駆動用信号源
81A,81B,82A,82B,83A,83B,181A,181B・・・圧力測定部
91,191・・・演算部
92,192・・・圧力変換部
93,193・・・演算処理ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振状態に保持された振動体の振動特性から雰囲気の圧力を測定する圧力測定部を複数設け、前記各圧力測定部により共通の雰囲気の圧力を測定する真空計において、
各圧力測定部により測定することができる圧力範囲をそれぞれ異ならせ,かつ,前記圧力範囲を一部オーバーラップさせて構成し、
各圧力測定部の出力信号同士を組合せて演算する演算部を有する演算処理ユニットを備え、
常時各圧力測定部による各圧力測定を行なうとともに、前記演算部による組合せ演算値に基づく前記演算処理ユニットの出力信号を前記真空計の圧力測定信号としてなる
ことを特徴とする真空計。
【請求項2】
請求項1に記載の真空計において、
前記演算部は、加算器、乗算器もしくは除算器であることを特徴とする真空計。
【請求項3】
請求項1または2に記載の真空計において、
前記演算処理ユニットは、前記演算部による組合せ演算値と圧力値との関係の特性データに基づいて,実測定時における組合せ演算値から圧力値への変換を行う圧力変換部を有し、この圧力変換部により得られた圧力値に基づく信号を前記演算処理ユニットの出力信号としてなることを特徴とする真空計。
【請求項4】
請求項3に記載の真空計において、
前記圧力変換部は、前記特性データのデータテーブルを格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における組合せ演算値から圧力値への変換を行うことを特徴とする真空計。
【請求項5】
請求項3に記載の真空計において、
前記圧力変換部は、前記特性データの曲線から近似的に求められた関係式を格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における組合せ演算値から圧力値への変換を行うことを特徴とする真空計。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の真空計において、
振動体と、該振動体を静電力により駆動する加振電極部と、前記振動体を加振する駆動信号を生成する駆動信号生成部とを有し、前記駆動信号を前記加振電極部に印加して前記振動体を共振状態に保持して、前記振動体の振動特性から雰囲気の圧力を測定する圧力測定部を備えた真空計であって、
前記振動体を前記真空計における共通の雰囲気内に複数個備えるとともに、前記各振動体により測定することができる圧力範囲をそれぞれ異ならせ,かつ,前記圧力範囲を一部オーバーラップさせて構成し、
前記各振動体に対応させて前記圧力測定部を複数個設け、
前記各振動体に対応する各圧力測定部の出力信号同士を組合せて演算する演算部を有する演算処理ユニットを備え、
常時各振動体を振動させて各圧力測定部による各圧力測定を行なうとともに、前記演算部による組合せ演算値に基づく前記演算処理ユニットの出力信号を前記真空計の圧力測定信号としてなる
ことを特徴とする真空計。
【請求項7】
請求項6に記載の真空計において、
前記各振動体は、厚さ、梁の長さ、材質もしくは面積の少なくとも1つが異なることにより測定できる圧力範囲が異なることを特徴とする真空計。
【請求項8】
請求項6または7に記載の真空計において、
前記圧力測定部は、前記振動体の振動を検出する振動検出部を有するものであり、
前記駆動信号生成部は、前記振動検出部の検出信号に基づき、この検出信号の位相を変えて増幅することにより前記振動体を加振する駆動信号を生成するものであることを特徴とする真空計。
【請求項9】
請求項8に記載の真空計において、
前記圧力測定部は、振動体の両側に振動方向に沿って設置された1組の加振電極からなる加振電極部を備えるとともに、振動検出部の検出信号の位相を変化させる位相シフト回路と、該位相シフト回路の出力信号を増幅させる増幅器と、該増幅器の出力信号の位相を反転させる反転回路とからなる駆動信号生成部を備え、振動検出部の検出信号に基づく逆相の駆動信号として、前記反転回路および前記増幅器の各出力信号を前記1組の加振電極にそれぞれ印加することで振動体の共振状態を保持することを特徴とする真空計。
【請求項10】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の真空計において、
第1の振動方向と該第1の振動方向に直交する第2の振動方向とに振動することができるように形成された振動体と、該振動体を静電力により駆動する加振電極部と、前記振動体の振動を検出する振動検出部と、該振動検出部の検出信号に基づき、この検出信号の位相を変えて増幅することにより前記振動体を加振する駆動信号を生成する駆動信号生成部とを有し、前記駆動信号を前記加振電極部に印加して前記振動体を共振状態に保持して、前記振動体の振動特性から雰囲気の圧力を測定する真空計であって、
前記加振電極部として、前記振動体を第1および第2の振動方向にそれぞれ振動させるための第1および第2の加振電極部を備え、
前記振動検出部として、前記振動体の第1および第2の振動方向の振動をそれぞれ検出する第1および第2の振動検出部を備え、
第1の振動検出部の検出信号に基づく駆動信号を第1の加振電極部に印加することにより、前記振動体を第1の振動方向に振動させて圧力を測定する第1の圧力測定部と、
第2の振動検出部の検出信号に基づく駆動信号を第2の加振電極部に印加することにより、前記振動体を第2の振動方向に振動させて圧力を測定する第2の圧力測定部とを備え、
前記第1および第2の圧力測定部により前記振動体を第1および第2の振動方向に同時に振動させて各振動方向での各圧力測定を同時に行うようにし、
前記第1および第2の圧力測定部により測定することができる圧力範囲を異ならせ,かつ,前記圧力範囲を一部オーバーラップさせて構成し、
前記第1および第2の圧力測定部の出力信号同士を組合せて演算する演算部を有する演算処理ユニットを備え、
前記演算部による組合せ演算値に基づく前記演算処理ユニットの出力信号を前記真空計の圧力測定信号としてなる
ことを特徴とする真空計。
【請求項11】
請求項10に記載の真空計において、
前記第1の加振電極部として、前記振動体の両側に第1の振動方向に沿って設置された第1および第2の加振電極から成る1組の加振電極を備えるとともに、前記第2の加振電極部として、前記振動体の両側に第2の振動方向に沿って設置された第3および第4の加振電極から成る1組の加振電極を備え、
前記駆動信号生成部は、前記第1および第2の振動検出部の各検出信号の位相をそれぞれ変化させる第1および第2の位相シフト回路と、該第1および第2の位相シフト回路の各出力信号をそれぞれ増幅する第1および第2の増幅器と、該第1および第2の増幅器の各出力信号の位相をそれぞれ反転させる第1および第2の反転回路と、を有し、
第1の振動検出部の検出信号に基づく逆相の駆動信号として、前記第1の反転回路および前記第1の増幅器の各出力信号を前記第1および第2の加振電極にそれぞれ印加することで、前記振動体の第1の振動方向における共振状態を保持するとともに、
第2の振動検出部の検出信号に基づく逆相の駆動信号として、前記第2の反転回路および前記第2の増幅器の各出力信号を前記第3および第4の加振電極にそれぞれ印加することで、前記振動体の第2の振動方向における共振状態を保持することを特徴とする真空計。
【請求項12】
請求項8ないし11のいずれか1項に記載の真空計において、
前記駆動信号生成部は、前記駆動信号の電圧が一定となるように、前記振動検出部の検出信号の位相を変えた信号に対する増幅のゲインを調整するものであり、
前記圧力測定部は、前記振動検出部の検出信号の大きさに基づいて圧力を測定することを特徴とする真空計。
【請求項13】
請求項8ないし11のいずれか1項に記載の真空計において、
前記駆動信号生成部は、前記振動検出部の検出信号の大きさが一定となるように、前記振動検出部の検出信号の位相を変えた信号に対する増幅のゲインを調整するものであり、
前記圧力測定部は、前記駆動信号の電圧に基づいて圧力を測定することを特徴とする真空計。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれか1項に記載の真空計において、
前記振動体の固有周波数に対応した周波数の初期励振信号を出力する初期励振用信号源を備え、
振動体の初期駆動時には、振動検出部の検出信号に基づく駆動信号の代わりに、前記初期励振信号に基づく初期駆動信号を前記加振電極部に印加することを特徴とする真空計。
【請求項15】
請求項8ないし14のいずれか1項に記載の真空計において、
前記振動検出部は、前記振動体と検出電極との間の静電容量を検知することにより前記振動体の振動を検出するものであることを特徴とする真空計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2011−242335(P2011−242335A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116562(P2010−116562)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】